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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118034
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】下水処理施設及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/04 20060101AFI20240823BHJP
   C10L 3/08 20060101ALI20240823BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240823BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240823BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240823BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALI20240823BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20240823BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20240823BHJP
   C07C 29/00 20060101ALN20240823BHJP
   C07C 31/08 20060101ALN20240823BHJP
   C07C 51/00 20060101ALN20240823BHJP
   C07C 53/02 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
C02F11/04 A ZAB
C10L3/08
C25B9/00 A
C25B1/04
H01M8/04 Z
H01M8/0612
H01M8/04537
H01M8/0438
C07C29/00
C07C31/08
C07C51/00
C07C53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024203
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】矢出 乃大
【テーマコード(参考)】
4D059
4H006
4K021
5H127
【Fターム(参考)】
4D059AA01
4D059AA03
4D059AA07
4D059BA12
4D059CA01
4D059CA14
4D059EA01
4D059EA20
4D059EB20
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC46
4H006BS10
4H006FE11
4K021AA01
4K021BA02
4K021DC01
4K021DC03
5H127AB03
5H127AB04
5H127AB27
5H127AC04
5H127BA02
5H127BA03
5H127BA05
5H127BA06
5H127BA14
5H127BB02
5H127DB02
5H127DB69
5H127FF20
(57)【要約】
【課題】嫌気性消化処理にて発生するバイオガスを有効活用して、カーボン排出量を削減することができる下水処理施設及びその運転方法を提供する。
【解決手段】バイオガス原料を消化処理してバイオガスを生成させる消化槽10と、消化槽から発生するバイオガスを精製してメタンガスを得る精製装置20と、メタンガスの少なくとも一部から電力を発生させる発電設備30と、メタンガスの残部をメタンガスのまま貯蔵するメタンガス貯蔵部42、もしくはメタノール又は蟻酸に変換して貯蔵するメタノール貯蔵部44と、発電設備からの電力を利用する電力利用設備50と、消化槽からのメタンガスに由来する電力供給量と、電力利用設備における電力需要量を比較して、発電設備に供給するメタンガスの量を決定する運転支援システム60と、を具備する下水処理施設。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備及び電力利用設備を併設する下水処理施設の運転方法であって、
下水処理施設の消化槽から発生するバイオガスを精製してメタンガスを得る工程と、
当該メタンガスの少なくとも一部を発電設備に供給して、電力を発生させる工程と、
当該メタンガスの残部をメタンガスのまま、もしくはメタンガスをメタノール又は蟻酸に変換して貯蔵する工程と、
を備え、
消化槽からのメタンガスに由来する電力供給量と、電力利用設備における電力需要量を比較して、発電設備に供給するメタンガスの量を決定する工程を含む運転方法。
【請求項2】
前記下水処理施設は、炭酸ガス利用設備をさらに併設し、
前記バイオガスを精製してメタンガスを得る工程において、発生する炭酸ガスを炭酸ガス利用設備に供給する工程をさらに備える、請求項1に記載の運転方法。
【請求項3】
前記下水処理施設は、水素利用設備及び酸素利用設備をさらに併設し、
前記電力利用設備が水の電気分解装置を含み、
前記発電装置からの電力を利用して、水を水素と酸素に分解し、
水素を水素利用設備に供給し、
酸素を酸素利用設備に供給する、請求項1または2に記載の運転方法。
【請求項4】
前記下水処理設備が燃料電池設備をさらに併設し、
前記メタンガスを貯蔵する工程からのメタンガスを当該燃料電池に直接供給するか、もしくは前記メタノール又は蟻酸に変換して貯蔵する工程からのメタノールを当該燃料電池に供給して、電力に変換する工程を含む、請求項1または2に記載の運転方法。
【請求項5】
前記下水処理設備が再生可能エネルギー発電装置または蓄電装置をさらに併設し、
前記電力利用設備における電力需要量が、前記電力供給量を上回る場合に、当該再生可能エネルギー発電装置または蓄電装置から不足電力を供給する、請求項1または2に記載の運転方法。
【請求項6】
前記消化槽からのメタンガスに由来する電力供給量と、電力利用設備における電力需要量を比較して、発電設備に供給するメタンガスの量を決定する工程は、
消化槽に供給されるバイオマス原料のCODCr量を記憶する第1記憶部と、
消化槽から発生するバイオガス中のメタンガスの含有量を記憶する第2記憶部と、
発電設備へ供給されるメタンガスの量を記憶する第3記憶部と、
発電装置からの電力発生量を記憶する第4記憶部と、
電力利用設備における電力需要量を記憶する第5記憶部と、
当該第1記憶部~第4記憶部のデータに基づいて電力供給量を予測する電力供給予測部と、
当該第5記憶部のデータに基づいて電力需要量を予測する電力需要予測部と、
当該電力供給予測部と当該電力需要予測部とのデータに基づいて、発電設備に供給するメタンガスの量を決定する需給調整司令部と、
を具備する運転支援システムにより行われる請求項1又は2に記載の運転方法。
【請求項7】
下水処理施設であって、
消化槽と、
消化槽から発生するバイオガスを精製してメタンガスを得る精製装置と、
メタンガスの少なくとも一部から電力を発生させる発電設備と、
メタンガスの残部をメタンガスのまま、もしくはメタノール又は蟻酸に変換して貯蔵する貯蔵部と、
当該発電設備からの電力を利用する電力利用設備と、
当該消化槽からのメタンガスに由来する電力供給量と、当該電力利用設備における電力需要量を比較して、当該発電設備に供給するメタンガスの量を決定する運転支援システムと、を具備する下水処理施設。
【請求項8】
前記下水処理設備が再生可能エネルギー発電装置または蓄電装置をさらに併設し、
前記電力利用設備における電力需要量が、前記電力供給量を上回る場合に、当該再生可能エネルギー発電装置または蓄電装置から不足電力を供給する、請求項7に記載の下水処理施設。
【請求項9】
前記運転支援システムは、
消化槽に供給されるバイオマス原料のCODCr量を記憶する第1記憶部と、
前記消化槽から発生するバイオガス中のメタンガスの含有量を記憶する第2記憶部と、
前記発電設備へ供給されるメタンガスの量を記憶する第3記憶部と、
前記発電装置からの電力発生量を記憶する第4記憶部と、
前記電力利用設備における電力需要量を記憶する第5記憶部と、
当該第1記憶部~第4記憶部のデータに基づいて電力供給量を予測する電力供給予測部と、
当該第5記憶部のデータに基づいて電力需要量を予測する電力需要予測部と、
当該供給予測部と当該需要予測部とのデータに基づいて、前記発電設備に供給するメタンガスの量を決定する需給調整司令部と、
を具備する請求項7又は8に記載の下水処理施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電設備及び電力利用設備を併設する下水処理施設及び当該下水処理施設の運転方法に関し、特に消化槽にて発生するメタンガスを利用して発生させた電力の供給量と電力利用設備における電力の需要量とを予測して、発電設備に供給するメタンガスの量を調節可能な下水処理施設及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
資源・エネルギーの需給の逼迫が懸念され、下水処理場から発生する下水汚泥や下水処理場の周辺地域から搬入される地域バイオマス、下水を処理して得られる処理水、その処理水をろ過やオゾン処理などの高度処理をして得られる再生水、水力発電用の処理水、汚泥や焼却灰に含まれるリンなどの資源、下水処理場に流入する下水や処理水が有する下水熱などのエネルギーを活用・再生する循環型システムへの転換が検討されている。
【0003】
嫌気性消化槽(以下、単に「消化槽」ともいう。)やメタン発酵槽での嫌気性処理及び可溶化処理により、バイオマスの有機物に起因してメタン及び炭酸ガスを主成分とするバイオガスが発生する。バイオガスは、硫化水素除去のための脱硫やシロキサン除去のための活性炭吸着などで処理した後に、ガスエンジンでの発電や、天然ガス自動車の燃料として利用されたり、消化槽を加温する加温水を得るためにボイラ燃料に利用されたりしている。下水処理場から産生される汚泥を炭化した汚泥燃料は、石炭代替燃料として火力発電所で利用されている。
【0004】
下水処理水は、放流落差を利用して小水力発電に利用されている。下水処理の生物処理で得られる処理水は、ろ過後に場内の雑用水に利用されたり、更に膜処理やオゾン処理などの高度処理をして冷却水や中水(再生水)、修景用水などに利用されたりしている。流入下水や処理水の熱(下水熱)は、熱交換器で取り出して、暖房や冷房に利用されている。
【0005】
生物処理の余剰汚泥や消化汚泥に含まれるリンは、リン酸マグネシウムアンモニウム(以下、「MAP」ともいう。)やリン酸カルシウム(以下、「HAP」ともいう。)として回収して、肥料等に再利用されている。
【0006】
しかし、それぞれの資源は一つの再利用目的のみに供され、他の用途での再利用はなされていなかった。例えば、バイオガスは発電やボイラ燃料のみに利用され、下水処理場の余剰設備(余剰のインフラ)で、移動可能なインフラや装置を同類の施設に移設して、その余剰設備を有効活用するシステム(特開2021-157268号公報)や、異なる業種の施設間で電力の需給を調整するシステム(特開2018-110500号公報)や、下水処理場の汚泥処理設備からのメタンガスを熱源にして、汚泥処理設備内で汚泥乾燥等に有効利用するためのバイオガスの需給調整システム(特開2015-51417号公報)、バイオガスと、そのバイオガスを発電だけに利用するバイオガス発電システム(特願2022-046029号)がある。
【0007】
特開2021-157268号公報には、水処理設備が有する水処理ユニットについて将来に発生し得る過不足を事前に見込んだ更新計画の策定を支援でき、将来における複数の水処理設備間での水処理ユニットの移設を考慮した更新計画の策定を支援することが可能である水処理設備の更新支援システム及び更新支援方法を提供することを目的として、それぞれが個別に移設可能な1台以上の水処理ユニットを含む水処理設備が有するそれぞれの前記水処理ユニットの種類、台数及び処理能力に関する第1データを記憶する第1記憶部と、前記水処理設備の将来における処理水量の予測に関する第2データを記憶する第2記憶部と、前記水処理設備の処理対象となる原水の水質に関する第3データを記憶する第3記憶部と、前記第1記憶部に記憶された前記第1データ、前記第2記憶部に記憶された前記第2データ及び前記第3記憶部に記憶された前記第3データに基づいて、前記水処理設備において将来に過剰となる又は不足する前記水処理ユニットの種類及び台数を予測する予測部と、前記予測部の予測結果を出力する出力部と、を備える水処理設備の更新支援システム、及び水処理設備の将来の予想更新時期を定める時期設定ステップと、前記水処理設備が有する移設可能な水処理ユニットの種類、台数及び処理能力と、前記水処理設備の将来の予測処理水量又は給水地域の予測人口と、前記水処理設備の処理対象となる原水の水質とに基づいて、将来に必要な処理能力と現時点での処理能力との差から将来に過剰又は不足する前記水処理ユニットの種類及び台数を予測する予測ステップと、を備え、前記時期設定ステップで定めた前記予想更新時期と前記予測ステップの予測結果とから将来に発生し得る過不足を事前に見込んだ更新計画を策定し、策定した更新計画により複数の水処理設備の間での水処理ユニットの移設を可能とする更新支援方法が開示されている。本公報に開示されている発明は、水処理設備が有する水処理ユニットについて将来に発生し得る過不足を事前に見込んだ更新計画の策定を支援するもので、水処理ユニットの過不足がないように、水処理ユニットを移動して調整するものであり、水処理ユニットを移動させずに、下水処理場で発生するバイオマスからのメタンガスを利用するメタンガス発電で得られる電力の需給調整は開示されていない。
【0008】
特開2018-110500号公報には、複数のインフラにおける需給バランスを調整することができる需給調整装置、需給調整方法、および需給調整プログラムを提供することを目的として、複数のインフラにおける需要量であって異なる単位で表される場合がある需要量の総量と、複数のインフラにおける供給量であって異なる単位で表される場合がある供給量の総量とに基づいて、対象地域の需給バランスを導出する導出部と、前記導出部により導出された需給バランスに基づいて、複数のインフラ間において相互利用可能な電力の割り当てを行うことにより前記需給バランスを調整する調整部と、を備える需給調整装置、及び需給調整装置が、複数のインフラにおける需要量であって異なる単位で表される場合がある需要量の総量と、複数のインフラにおける供給量であって異なる単位で表される場合がある供給量の総量とに基づいて、対象地域の需給バランスを導出し、導出された需給バランスに基づいて、複数のインフラ間において相互利用可能な電力の割り当てを行うことにより前記需給バランスを調整する需給調整方法が開示されている。本公報に開示されている発明は、複数のインフラ間で相互利用可能な電力の割り当てを行なって需給調整を行うものであり、外部へのメタンガスや電力の供給には新たな設備投資や外部の需要量の影響を強く受ける。下水処理場内部でメタンガスを発電に利用し、得られる電力を当該下水処理場内部で利用するいわゆる地産地消タイプのメタンガスと電力の需給調整は開示されていない。
【0009】
特開2015-51417号公報には、システム内全体で用いられる補助燃料の量を低減でき、設備の小型化が可能でCO2排出量の低減が可能な汚泥処理システム及び汚泥処理方法を提供することを目的として、TS濃度4~12wt%の汚泥を導入し、前記汚泥を嫌気性消化することにより、メタンガスを含む消化ガスと消化汚泥とを発生させる消化槽と、前記消化汚泥を脱水して脱水ケーキを得る脱水機と、前記脱水ケーキを乾燥させて乾燥汚泥を得る乾燥機と、前記消化ガスを用いて前記消化槽を加温する加温装置と、前記消化ガスを用いて前記乾燥機に熱を供給する熱供給装置と、前記消化槽で発生した消化ガスを前記加温装置及び前記熱供給装置へ供給可能な消化ガス供給ラインとを備える汚泥処理システムであって、前記消化槽から発生する前記消化ガスにより生成可能な1日当たりの熱量が、前記消化槽の加温に必要な1日当たりの必要加温熱量と前記乾燥機による前記脱水ケーキの乾燥に必要な1日当たりの必要乾燥熱量との和よりも大きいことを特徴とする汚泥処理システム、及び消化槽内にTS濃度4~12wt%の汚泥を導入し、前記汚泥を嫌気性消化することにより、メタンガスを含む消化ガスと消化汚泥とを発生させることと、脱水機により前記消化汚泥を脱水して脱水ケーキを生成させることと、炭化設備により前記脱水ケーキを炭化させて炭化汚泥を生成させることと、加温装置により前記消化ガスを用いて前記消化槽を加温することと、熱供給装置により前記消化ガスを用いて前記炭化設備に熱を供給することと、前記消化槽で発生した消化ガスを、消化ガス供給ラインを通じて前記加温装置及び前記熱供給装置へ供給することとを含む汚泥処理方法であって、 前記消化槽から発生する前記消化ガスにより生成可能な1日当たりの熱量が、前記消化槽の加温に必要な1日当たりの必要加温熱量と前記炭化設備による前記脱水ケーキの炭化に必要な1日当たりの必要炭化熱量との和よりも大きいことを特徴とする汚泥処理方法が開示されている。
【0010】
特願2022-046029号明細書には、バイオガス発生施設から発生するバイオガスの発生量を予測し、ガス発生量予測値に基づいて発電機のガス消費量目標値を算出し、更に発電機のガス消費量目標値に基づいて、発電機の稼働台数を制御する方法が開示されている。
【0011】
しかし、バイオガスやバイオガスを精製して得られるメタンガスを燃料以外に有効活用するための需給調整システムはなく、バイオガスの発電で得られた電気は売電するか、所内の動力に利用するだけであり、メタンガスの燃料以外の利用や、ガス発電で得られる電気を所内動力以外、電力を使った水素製造などの高度な利用はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2021-157268号公報
【特許文献2】特開2018-110500号公報
【特許文献3】特開2015-51417号公報
【特許文献4】特願2022-046029号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、嫌気性消化処理にて発生するバイオガスを有効活用して、カーボン排出量とカーボン消費量との差である施設全体からのカーボン排出量(二酸化炭素排出量)の総量を削減することができる下水処理施設及びその運転方法を提供することを目的とする。
【0014】
従来の下水処理施設から発生するバイオガスの有効活用方法は図1に示すように、バイオガスからメタンガスを精製して、加温用ボイラ及びガス発電に利用し、ガス発電からの余剰電力を売電若しくは設備内で利用するだけであった。また、ガス発電などのバイオガス活用設備を有しない下水処理施設では、加温用ボイラで使いきれなかった余剰のバイオガスは専用の余剰ガス燃焼装置で処分するだけで余剰バイオガスは有効活用されなかった。本発明は、図2に示すように、下水処理施設にて発生するバイオガスを当該下水処理施設内で有効活用してカーボン排出量を削減する方法及びバイオガス活用設備を具備する下水処理施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、以下の発電設備及び電力利用設備を併設する下水処理施設の運転方法、及び下水処理施設が提供される。
[1]発電設備及び電力利用設備を併設する下水処理施設の運転方法であって、
下水処理施設の消化槽から発生するバイオガスを精製してメタンガスを得る工程と、
当該メタンガスの少なくとも一部を発電設備に供給して、電力を発生させる工程と、
当該メタンガスの残部をメタンガスのまま、もしくはメタンガスをメタノール又は蟻酸に変換して貯蔵する工程と、
を備え、
消化槽からのメタンガスに由来する電力供給量と、電力利用設備における電力需要量を比較して、発電設備に供給するメタンガスの量を決定する工程を含む運転方法。
[2]前記下水処理施設は、炭酸ガス利用設備をさらに併設し、
前記バイオガスを精製してメタンガスを得る工程において、発生する炭酸ガスを炭酸ガス利用設備に供給する工程をさらに備える、上記[1]に記載の運転方法。
[3]前記下水処理施設は、水素利用設備及び酸素利用設備をさらに併設し、
前記電力利用設備が水の電気分解装置を含み、
前記発電装置からの電力を利用して、水を水素と酸素に分解し、
水素を水素利用設備に供給し、
酸素を酸素利用設備に供給する、上記[1]または[2]に記載の運転方法。
[4]前記下水処理設備が燃料電池設備をさらに併設し、
前記メタンガスを貯蔵する工程からのメタンガスを当該燃料電池に直接供給するか、もしくは前記メタノール又は蟻酸に変換して貯蔵する工程からのメタノールを当該燃料電池に供給して、電力に変換する工程を含む、上記[1]~[3]のいずれか1に記載の運転方法。
[5]前記下水処理設備が再生可能エネルギー発電装置または蓄電装置をさらに併設し、
前記電力利用設備における電力需要量が、前記電力供給量を上回る場合に、当該再生可能エネルギー発電装置または蓄電装置から不足電力を供給する、上記[1]~[4]のいずれか1に記載の運転方法。
[6]前記消化槽からのメタンガスに由来する電力供給量と、電力利用設備における電力需要量を比較して、発電設備に供給するメタンガスの量を決定する工程は、
消化槽に供給されるバイオマス原料のCODCr量を記憶する第1記憶部と、
消化槽から発生するバイオガス中のメタンガスの含有量を記憶する第2記憶部と、
発電設備へ供給されるメタンガスの量を記憶する第3記憶部と、
発電装置からの電力発生量を記憶する第4記憶部と、
電力利用設備における電力需要量を記憶する第5記憶部と、
当該第1記憶部~第4記憶部のデータに基づいて電力供給量を予測する電力供給予測部と、
当該第5記憶部のデータに基づいて電力需要量を予測する電力需要予測部と、
当該電力供給予測部と当該電力需要予測部とのデータに基づいて、発電設備に供給するメタンガスの量を決定する需給調整司令部と、
を具備する運転支援システムにより行われる上記[1]~[5]のいずれか1に記載の運転方法。
[7]下水処理施設であって、
消化槽と、
消化槽から発生するバイオガスを精製してメタンガスを得る精製装置と、
メタンガスの少なくとも一部から電力を発生させる発電設備と、
メタンガスの残部をメタンガスのまま、もしくはメタノール又は蟻酸に変換して貯蔵する貯蔵部と、
当該発電設備からの電力を利用する電力利用設備と、
当該消化槽からのメタンガスに由来する電力供給量と、当該電力利用設備における電力需要量を比較して、当該発電設備に供給するメタンガスの量を決定する運転支援システムと、を具備する下水処理施設。
[8]前記下水処理設備が再生可能エネルギー発電装置または蓄電装置をさらに併設し、
前記電力利用設備における電力需要量が、前記電力供給量を上回る場合に、当該再生可能エネルギー発電装置または蓄電装置から不足電力を供給する、上記[7]に記載の下水処理施設。
[9]前記運転支援システムは、
消化槽に供給されるバイオマス原料のCODCr量を記憶する第1記憶部と、
前記消化槽から発生するバイオガス中のメタンガスの含有量を記憶する第2記憶部と、
前記発電設備へ供給されるメタンガスの量を記憶する第3記憶部と、
前記発電装置からの電力発生量を記憶する第4記憶部と、
前記電力利用設備における電力需要量を記憶する第5記憶部と、
当該第1記憶部~第4記憶部のデータに基づいて電力供給量を予測する電力供給予測部と、
当該第5記憶部のデータに基づいて電力需要量を予測する電力需要予測部と、
当該供給予測部と当該需要予測部とのデータに基づいて、前記発電設備に供給するメタンガスの量を決定する需給調整司令部と、
を具備する上記[7]又は[8]に記載の下水処理施設。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、外部からの電力購入量削減や、外部との連携が必要ない地産地消タイプで、バイオマスで得られるメタンガスと電力の需給調整を容易に行い、下水処理場の域内で有効活用でき、脱炭素にも貢献できる。また、地産地消タイプで外部依存がないため、メタンガスと電力の供給は外部の需要量や供給量に影響されない。
【0017】
メタンガスの直接利用以外に、電力に変換し、更にその電力で水の電気分解を行うことで水素ガス(以下「水素」という。)及び酸素ガス(以下「酸素」という。)を製造し、水素を燃料電池に利用して電力を貯蔵し、水素を燃料として利用することができる。更にメタンガスよりも貯蔵性や汎用性の高い液体のメタノール又は蟻酸に変換して貯蔵することができる。
【0018】
メタンガスを電気や水素に代えて利用または貯蔵することでメタンガスの利用範囲が広がり、需給バランスに貢献できる。現在は下水処理施設内で必要な電力を外部から調達しているが、外部から調達する電力を再生可能エネルギーに替え、下水処理施設で発生するメタンガスを電気、メタノール、蟻酸、水素又は酸素に変換して貯蔵することにより、電力需給バランスがとりやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来のバイオガスの有効活用ルートを示すフローチャート。
図2】本発明のバイオガスの有効活用ルートを示すフローチャート。
図3】本発明の下水処理施設の主要構成及びバイオガスの有効活用ルートを示す概略説明図。
図4】本発明の第一の実施形態に係る下水処理施設の主要構成及びバイオガスの有効活用ルートを示す概略説明図。
図5】本発明の第二の実施形態に係る下水処理施設の主要構成及びバイオガスの有効活用ルートを示す概略説明図。
図6】本発明の第三の実施形態に係る下水処理施設の主要構成及びバイオガスの有効活用ルートを示す概略説明図。
図7】本発明の第四の実施形態に係る下水処理施設の主要構成及びバイオガスの有効活用ルートを示す概略説明図。
図8】運転支援システムによる下水処理施設のネットワーク図
図9】運転支援システムの概略説明図
図10】運転支援システム一実施形態を示す概略説明図
図11】運転支援システムによるメタンガス需給調整のフローチャート
【好ましい実施形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
図2に本発明のバイオガスの下水処理施設内での有効活用ルートを示すフローチャートを示す。本発明は、下水処理施設内で、バイオマス原料を消化槽で変換させたメタンガスと、メタンガスの一部又は全部をガス発電で発電させた電気を有効利用して、メタンガスと電力の需給を調整する。
【0022】
バイオマス原料は、生ごみ等の食品廃棄物、下水汚泥、家畜の糞尿、農業残渣、木質系廃棄物などである。本発明では、下水処理場の地域にあるバイオマス(以下「地域バイオマス」ともいう。)を下水汚泥と一緒に、消化槽で嫌気性処理する。消化槽は下水汚泥等のバイオマスを嫌気性処理で可溶化、減量する設備で、嫌気性処理される過程で、バイオマスの有機物に起因するメタンガスと炭酸ガスが主成分のバイオガスが発生する。バイオガスは主成分がメタンと炭酸ガスであるが、そのほかに硫化水素やシロキサンが含まれるので、脱硫して、バイオガスから硫化水素やシロキサンを除去して、更に硫化水素やシロキサンを除去したバイオガスを精製して、メタンガスや炭酸ガスを取り出す。
【0023】
消化槽は35℃の中温消化が一般的で、そのためにバイオガスの温度も35℃で消化槽から排出されるので、メタンガスを除去した炭酸ガスが主成分のバイオガスを植物工場などに供給することでバイオガスの炭酸ガスを利用するばかりでなく熱利用もできる。
【0024】
メタンガスは、ガスエンジンによる発電(以下「ガス発電」という。)の燃料として利用できる。ガス発電により得られる電力は、下水処理場のポンプや曝気ブロワや脱臭用送風機などの動力用電源として、下水処理施設内に設けた水の電気分解装置、飼料原料や花卉、薬草などの植物栽培工場、飼料原料となる魚養殖設備や養殖用餌の原料製造設備、バイオ燃料製造用の藻養殖設備などで使用する電気の供給源として利用できる。また、下水処理場内や下水処理場周辺の特定範囲での走行を考慮した電気自動車(以下「EV」ともいう。)の車両基地として、その基地内のEV車への電力供給源としても利用できる。さらに、下水処理の効率化で余剰敷地や余剰設備を別用途に転用することで、例えばデータセンターのような電力消費型の新たな産業を誘致する誘致事業用の電力の供給源としても利用できる。
【0025】
水の電気分解により発生する水素と酸素もまた下水処理施設内で利用できる。水素は、水素利用設備で燃料電池、燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle、以下「FCV」ともいう。)用燃料やメタン合成原料に利用できる。下水処理場内や下水処理場周辺の特定範囲での走行を考慮したFCV車両基地として、その基地内のFCV車への燃料供給源としても利用できる。酸素は、下水処理場の好気性生物処理用の酸素として、反応タンク下部に配備される散気装置に直接供給するか、あるいは曝気用ブロワの出口部やその配管に供給するなどして利用できる。水の電気分解で生成する酸素を、単独または空気と混合して反応タンクの散気装置に供給することで曝気用動力が削減でき、その電力使用量が削減できる。さらに、魚養殖設備や養殖用餌の原料製造設備、バイオ燃料製造用の藻養殖設備で使用する酸素の供給源としても利用できる。
【0026】
ガス発電の過程で発生する燃焼熱を水との熱交換により熱回収して、加温水として消化槽や植物工場などの加温に利用できる。
【0027】
メタンガスは、加温用ボイラや燃料自動車の燃料としても利用できる。さらに、メタンガスを利用するガス発電からの加温水を再利用することで、加温用ボイラの燃料としての消費量を節約することができる。この場合、加温用ボイラの燃料としてのメタンガスの消費量を削減することができ、余ったメタンガスをさらに有効活用することができる。また、メタンガスは、FCV用燃料、メタノール又はギ酸を合成する原料として利用することもできる。
【0028】
炭酸ガスは、植物工場での植物の発育促進にも利用できる。電気分解で得られた水素と、バイオガスを精製する際に得られる炭酸ガスとを反応させてメタンガスを発生させるメタネーションやメタノール合成に利用できる。
【0029】
図3に本発明の下水処理施設の主要構成要素及び当該下水処理施設においてバイオガスを有効活用する運転方法を示す。本発明によれば、下水処理施設内で、バイオマス原料設備、嫌気性消化設備、バイオガス精製設備、ガス発電設備、所内電力利用設備、電気分解設備、水素ガス利用設備、酸素ガス利用設備、炭酸ガス利用設備、及びメタンガス利用設備、並びに場合によっては再生可能エネルギー発電設備、蓄電設備等の電力供給設備の間にネットワークを構築し、これらの設備を運転支援システムにて制御し、下水処理施設内の電力の供給情報と需要情報に基づいて電力需給バランスを調整し、発生するメタンガス及び炭酸ガスを自家消費し、下水処理施設からのカーボン排出量を減少させることができる。
【0030】
図3に示す下水処理施設は、バイオガス原料を消化処理してバイオガスを生成させる消化槽10と、
消化槽から発生するバイオガスを精製してメタンガスを得る精製装置20と、
メタンガスの少なくとも一部から電力を発生させる発電設備30と、
メタンガスの残部をメタンガスのまま貯蔵するメタンガス貯蔵部42、及びメタノール又は蟻酸に変換して貯蔵するメタノール又は蟻酸の貯蔵部44と、
発電設備からの電力を利用する電力利用設備50と、
消化槽からのメタンガスに由来する電力供給量と、電力利用設備における電力需要量を比較して、発電設備に供給するメタンガスの量を決定する運転支援システム60と、を具備することを特徴とする。
【0031】
図3に示す本発明の発電設備及び電力利用設備を併設する下水処理施設の運転方法は、
下水処理施設の消化槽から発生するバイオガスを精製してメタンガスを得る工程と、
当該メタンガスの少なくとも一部を発電設備に供給して、電力を発生させる工程と、
当該メタンガスの残部をメタンガスのまま、もしくはメタノール又は蟻酸に変換して貯蔵する工程と、
を備え、
消化槽からのメタンガスに由来する電力供給量と、電力利用設備における電力需要量を比較して、発電設備に供給するメタンガスの量を決定する工程を含む。
【0032】
運転支援システム60は、各設備及び各工程からの情報を記憶し、各設備及び各工程からの電力供給量と、電力利用設備における電力需要量とを比較し、発電設備へのメタンガス供給量を決定する。以下、各設備及び各工程からの電力供給量を算出するために運転支援システムに入力する各種情報データを説明する。
【0033】
図示してはいないが、バイオガス原料はバイオマス受入貯蔵設備にて貯蔵され、バイオマス投入設備から消化槽へ投入される。バイオマス原料からの情報は、バイオマス受入貯蔵設備におけるバイオマスの受入量、バイオマス原料排出元の業種(下水汚泥や食品廃棄物などの種類)、含水率、固形物濃度、油脂含有率、CODCr、BOD及び有機酸量等の物性等、並びに消化槽へのバイオマス原料の投入量、温度、含水率、固形物濃度、油脂含有率、CODCr、BOD及び有機酸量等の物性等である。
【0034】
消化槽10からの情報は、バイオマス投入重量と成分濃度から求めることができるCODCr負荷量、CODCr負荷、BOD負荷量及びBOD負荷、消化槽内の消化汚泥の温度、有機酸濃度、pH、M-アルカリ度等の水質データ、及び消化槽から排出されるバイオガス量、メタンガス濃度及び炭酸ガス濃度である。
【0035】
消化槽10からのバイオガスは精製装置20に導入され、メタンガスが精製される。精製装置20は、脱硫装置、シロキサン除去装置、活性炭吸着装置、及び精製ガス貯蔵設備等で構成される。
【0036】
精製装置20からの情報は、バイオガス流入量、バイオガス中のメタン濃度、不純物としての炭酸ガス濃度、硫化水素濃度、シロキサン濃度及び水分濃度である。精製装置から排出されるバイオガスのメタンガス濃度、炭酸ガスなどの不純物濃度をモニターして、利用先でのメタンガス濃度基準値や不純物濃度基準値を満足するように制御することが好ましい。
【0037】
精製装置20からメタンガスだけを抽出する場合には、精製装置の最終段に膜分離、炭酸ガス除去装置等のメタンガス分離装置を設けることが好ましい。メタンガス分離装置からの情報は、メタンガス温度、メタンガス量、メタン濃度、炭酸ガス濃度、不純物濃度及び水分量である。
【0038】
精製装置20からのメタンガスは、ガス発電設備30に導入され、電力を発生させるために利用される。また、精製装置20の脱硫装置で脱硫されたバイオガスをガス発電設備30のガスエンジンによる発電装置に導入してもよい。
【0039】
ガス発電設備30は、バイオガス供給装置、ガスエンジン、発電機、マイクロガスタービン、燃料電池、排ガス処理装置、水冷のエンジン冷却装置等で構成される。ガス発電設備30からの情報は、バイオガス供給量、燃料温度、発電量、冷却装置の冷却水の出入温度と冷却水量、排ガス温度等である。
【0040】
ガス発電設備30からの電力は、下水処理施設内の電力利用設備50にて利用される。電力利用設備50は、たとえば照明設備、換気装置、脱臭装置、曝気装置、水や汚泥の移送用ポンプ等で構成される。電力利用設備50からの情報は、照明設備、換気用ファン動力、脱臭用ファン動力、曝気動力、水や汚泥の移送用ポンプ動力等の電力需要量である。
【0041】
精製装置20からのメタンガスは、メタンガス貯蔵部42又はメタノール又は蟻酸の貯蔵部44に導入され、貯蔵されてもよい。特に、メタノールやギ酸は液状なのでメタンガスより貯蔵や取り扱いが容易で化学品の合成原料として利用できる。更には、下水処理施設から化学品製造所に化学品原料を輸送するにあたってもメタンガスより貯蔵や取り扱いが容易なメタノールやギ酸は好適である。
【0042】
メタンガス貯蔵部42は、メタンガス貯蔵タンク、メタンガス供給装置等で構成される。メタンガス貯蔵部42からの情報は、メタンガス貯蔵タンクにおけるメタンガス貯蔵量及び圧力、並びにメタンガス供給装置におけるメタンガス供給量及び圧力である。
【0043】
メタノール又は蟻酸の貯蔵部44は、メタノール及び蟻酸の製造装置、メタノール貯蔵タンク、蟻酸貯蔵タンク、メタノール供給装置及び蟻酸供給装置などで構成される。メタノール又は蟻酸の貯蔵部44からの情報は、メタノール及び蟻酸の製造装置におけるメタノール生産量、メタノール濃度、蟻酸生成量及び蟻酸濃度、メタノール貯蔵タンクにおけるメタノール貯蔵量及びメタノール濃度、蟻酸貯蔵タンクにおける蟻酸貯蔵量及び蟻酸濃度、並びにメタノール供給装置におけるメタノール供給量及びメタノール濃度である。
【0044】
運転支援システム60は、バイオマス原料、消化槽10、精製装置20、ガス発電設備30からの情報に基づいて電力供給量を算出し、電力利用設備50からの電力需要量と比較して、電力供給量が電力需要量を上回る場合には、精製装置20からのメタンガスをメタンガス貯蔵部42もしくはメタノール又は蟻酸の貯蔵部44に導入して、メタンガスもしくはメタノール又は蟻酸として貯蔵し、電力供給量が電力需要量を下回る場合には、電力利用設備50における電力消費量を減らすか、又はメタンガス貯蔵部42からガス発電設備30へメタンガスを導入して電力供給量を増やして、電力の需給を調整する。
【0045】
図4は、図3の下水処理施設において、ガス発電設備30からの電力供給量が、電力利用設備50における電力需要量を下回る場合に、不足分を補うために再生可能エネルギー発電設備又は蓄電設備70からの電力を利用する実施態様を示す。本実施態様においては、運転支援システム60により、電力供給量が電力需要量を下回る場合には、電力利用設備50における電力消費量を減らすか、又はメタンガス貯蔵部42からガス発電設備30へメタンガスを導入して電力供給量を増やすか、あるいは再生可能エネルギー発電設備又は蓄電設備70からの電力を利用して電力供給量を増やして、電力の需給を調整することができる。
【0046】
再生可能エネルギー発電設備は、たとえば小水力発電、バイオガス利用のガス発電、燃料電池による発電、敷地や建屋を利用する太陽光発電、風力発電、余剰水槽を利用する揚水発電等で構成される。再生可能エネルギー発電設備からの情報は、小水力発電における水量、落差及び発電量、バイオガス利用のガス発電におけるバイオガス供給量及び発電量、燃料電池による発電におけるメタンガス供給量、水素供給量及び発電量、敷地や建屋を利用する太陽光発電における日照時間、気温及び発電量、風力発電における風速及び発電量、余剰水槽を利用する揚水発電における揚水貯留水量、水位及び発電量である。
【0047】
蓄電設備は、たとえば蓄電池等で構成される。蓄電設備からの情報は、蓄電池(二次電池)における充放電サイクル(回)、蓄電容量(kWh)、充電電源電圧、出力電圧、及び出力電流である。
【0048】
図5は、図3の下水処理施設において、メタノールの製造・貯蔵装置44aにてメタンガスから製造されるメタノールを燃料電池80の燃料として利用して電気を発生させる態様を示す。燃料電池80にて得られる電気は電力利用設備50に供給されて、下水処理施設内で利用される。燃料電池からの情報は、発電におけるメタノール供給量、水素供給量及び発電量である。
【0049】
図6は、図5に示す本発明の下水処理施設における電力利用設備50を具体的に説明する。ガス発電設備にて発生させた電気は、所内電力、EV用電源、誘致事業や植物栽培工場等51、水の電気分解設備52の電源として直接利用することができる。水の電気分解装置の電源として利用し、発生する水素及び酸素をさらに利用することもできる。
【0050】
電気分解設備52は、たとえば水道水貯水槽、雨水貯水槽、雨水ろ過装置、水道水の脱塩素装置、活性炭吸着装置、脱塩装置、脱塩水貯槽、水の電気分解装置、酸素貯蔵タンク、水素貯蔵タンク等で構成される。電気分解設備に関する情報は、水道水貯水槽からの貯水量、雨水貯水槽からの貯水量、SS、TOC及び電気伝導度などの雨水の水質、雨水ろ過装置からのろ過水量、LV及びろ過水質(濁度やSSやTOCや電気伝導度など)、水道水の脱塩素装置からの処理水量、SV(空間速度)及び脱塩素水の水質(濁度やSSやTOCや電気伝導度など)、電気分解前処理の活性炭吸着装置からの処理水量、SV及び活性炭処理水の水質(濁度やSSやTOCや電気伝導度など)、脱塩装置からの処理水量、SV及び活性炭処理水の水質(濁度やSSやTOCや電気伝導度など)、脱塩水貯槽からの貯水量及び脱塩水の水質(濁度やSSやTOCや電気伝導度など)、水の電気分解装置からの用水供給量、温度、電力消費量、酸素ガス発生量及び水素ガス発生量、酸素貯蔵タンクからの貯蔵量、温度及び圧力、水素貯蔵タンクからの貯蔵量、温度及び圧力である。
【0051】
水素ガス利用設備53は、たとえばFCV用水素ステーション、発電用燃料電池用水素ステーション、メタノール合成装置等で構成される。水素ガス利用設備に関する情報は、FCV用水素ステーションからの水素貯蔵量、水素使用量、水素圧力、FCV利用台数及びFCV走行距離等、発電用燃料電池用水素ステーションからの水素貯蔵量、水素使用量、水素圧力及び発電量等、メタノール合成装置からの水素使用量、二酸化炭素使用量、二酸化炭素濃度、合成温度、合成圧力及びメタノール合成量である。
【0052】
酸素ガス利用設備54は、たとえば酸素ガス貯蔵タンク、酸素ガス供給装置、養殖場、曝気槽等で構成される。酸素ガス利用設備に関する情報は、酸素ガス貯蔵タンクからの酸素ガス貯蔵量及び圧力など、酸素ガス供給装置からの酸素ガス供給量など、養殖場からのDO濃度、アンモニア性窒素濃度、pH、硝酸イオン濃度、亜硝酸イオン濃度及び水温など、曝気槽からのDO濃度、アンモニア性窒素濃度、pH、硝酸イオン濃度、亜硝酸イオン濃度及び水温である。
【0053】
図7は、図3に示す下水処理施設において、精製装置20にて抽出される炭酸ガス及びメタガスをさらに利用する態様を示す。炭酸ガスは、炭酸ガス利用設備、植物工場、メタネーション、メタノール合成などに利用することができる。メタンガスは、たとえばメタンガス利用設備、燃料電池用燃料、FCV用燃料、ボイラ燃料、メタノール又はギ酸の合成などに利用することができる。
【0054】
炭酸ガス利用設備90は、たとえば炭酸ガス貯蔵タンク、炭酸ガス供給装置等で構成される。炭酸ガス利用設備に関する情報は、炭酸ガス貯蔵タンクからの貯蔵量及び圧力など、炭酸ガス供給装置からの炭酸ガス供給量及び圧力など、植物工場内の炭酸ガス濃度及び温度などである。
【0055】
メタンガス利用設備100は、たとえばメタンガス貯蔵タンク、メタンガス供給装置などで構成される。メタンガス利用設備に関する情報は、メタンガス貯蔵タンクからの貯蔵量及び圧力など、メタンガス供給装置からのメタンガス供給量及び圧力などである。
【0056】
図示していないが、メタンガス利用設備100のメタノール合成等は、メタノールまたは蟻酸の製造装置、メタノールまたは蟻酸の貯蔵タンク、メタノールまたは蟻酸の供給装置などで構成されるメタノールまたは蟻酸の製造・貯蔵部で行うことができる。メタノールまたは蟻酸の貯蔵部からの情報は、メタノールまたは蟻酸の製造装置におけるメタノールまたは蟻酸の生産量、メタノールまたは蟻酸の濃度、メタノール貯蔵タンクにおけるメタノールまたは蟻酸の貯蔵量、メタノールまたは蟻酸の濃度、及びメタノールまたは蟻酸の供給装置におけるメタノールまたは蟻酸の供給量、メタノールまたは蟻酸の濃度及び比重である。
【0057】
図8に、下水処理施設内の各種設備からの情報を運転支援システム60に送り、運転支援システム60により各種設備の運転を制御するネットワーク図を示す。
【0058】
運転支援システム60は、図9に示すように、各種設備のうち供給に関する情報を記憶する供給情報記憶部61と、需要に関する情報を記憶する需要情報記憶部62と、供給情報記憶部61からの情報に基づいて供給量を予測する供給予測部63と、需要情報記憶部62からの情報に基づいて需要量を予測する需要予測部64と、供給量予測部63と需要量予測部64からの需給量を比較して需給を調整する需給調整司令部65と、需給調整司令部65の指令を出力する出力部66と、指令を表示する表示部67と、指令を各種設備に送る通信部68と、を有する。供給情報記憶部61は、消化槽に供給されるバイオマス原料のCODCr量を記憶する第1記憶部61Aと、消化槽から発生するバイオガス中のメタンガスの含有量を記憶する第2記憶部61Bと、発電設備へ供給されるメタンガスの量を記憶する第3記憶部61Cと、発電装置からの電力発生量を記憶する第4記憶部61Dと、を少なくとも備える。需要情報記憶部62は、電力利用設備における電力需要量を記憶する第5記憶部62Aを少なくとも備える。電力供給予測部63は、第1記憶部~第4記憶部のデータに基づいて電力供給量を予測し、電力需要予測部64は第5記憶部のデータに基づいて電力需要量を予測する。需給調整司令部65は、電力供給予測部63と電力需要予測部64とのデータに基づいて、発電設備に供給するメタンガスの量を決定する。
【0059】
供給情報記憶部61及び需要情報記憶部62は、図10に示すように、さらに多くの情報記憶部を有する構成とすることもできる。図9に示す第1記憶部61Aは、バイオマス供給情報記憶部61aに含まれ、同第2記憶部61Bはバイオガス供給情報記憶部61bに含まれ、同第3記憶部61Cはメタンガス供給情報記憶部61cに含まれ、同第4記憶部61Dはガス発電電力供給情報記憶部61dに含まれ、同第5記憶部62Aは電力需要情報記憶部62aに含まれる。図10に示すシステムでは、供給情報記憶部として、再生可能エネルギー電力供給情報記憶部61e、蓄電情報記憶部61f、水素供給情報記憶部61gなどをさらに有し、需要情報記憶部として、バイオマス需要情報記憶部62b、バイオガス需要情報記憶部62c、メタンガス需要情報記憶部62d、水素需要情報記憶部62eなどをさらに有する。通信部68は、下水処理施設内に、たとえば5Gなどの専用回線によるローカルネットワークを構築することが好ましい。下水処理施設内に専用回線のローカルネットワークを設けることにより、たとえば災害や通信障害などの場合に外部環境に左右されずに安定した通信が可能となる。また、運転支援システムの遠隔監視制御や、需給予測、運用の検証のためのAI活用の基盤にもなる。
【0060】
運転支援システム60の供給予測部63は供給情報記憶部61のデータに基づいてメタンガスの発生量を予測し、需要予測部64は需要情報記憶部62のデータに基づいてメタンガス又は電力の需要量を予測する。発生量及び需要量の予測は、統計解析やシミュレーションを行い、現在又は将来の所定の期間における予測値を算出する。たとえばメタンガスの発生量及び需要量の予測値は過去のデータベースを参照し、過去の所定の期間のガス発生量実測値の平均値を用いてもよいし、解析ソフトなどを用いてシミュレーションを行って求めてもよい。予測値は、機械学習を利用することにより、予測精度を向上させることができる。機械学習を利用することで発生量及び需要量を時系列的に解析できる。機械学習アルゴリズムとしては、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク(ANN、RNN)等を用いた公知の解析ルーツ、たとえばLSTM、GRUなどから適宜選択して利用できる。
【0061】
図11に、メタンガスの需給調整を例にして、運転支援システム60による需給調整のフローチャートを示す。まず、バイオマスの消化により発生するメタンガスの需要量を取得するステップS1、次いで、メタンガスの供給量を取得するステップS2、メタンガスの需給バランスを算出するステップS3を実行し、メタンガスの需要量と供給量とを比較し、需要量と供給量が一致すればスタートに戻り、ステップS1~S3を繰り返す。
【0062】
需要量が供給量を上回る場合には、消化槽設備又はガス貯留設備から余剰メタンガスの放出量を決定するステップS4、メタンガスが不足する設備と各設備へのメタンガスの供給量を決定するステップS5、その後、メタンガスが不足する設備に対してメタンガスを供給するように指示するステップS6を実行する。ステップS4の前に、消化槽のバイオガス生成の増産を指示するステップS4aを実行してもよい。ただし、消化槽でのバイオガス生成は生物処理であるため、急激な需要には対応が難しいので、蓄積された実績情報や現状の運転状況等に基づいて生物処理として対応可能な指示が実行されるように設定すると良い。
【0063】
メタンガスを利用するガス発電だけで電力需要を賄うことが難しい場合には、再生可能エネルギー発電や蓄電設備からの電力供給を指示するステップS10を実行する。
【0064】
需要量が供給量を下回る場合には、消化槽設備のメタンガス供給過剰量を決定するステップS7、メタンガス貯蔵設備にメタンガス過剰量を貯蔵するか又はメタノール又は蟻酸の製造・貯蔵設備にメタンガスを供給してメタノール又は蟻酸の生成及び貯蔵を指示するステップS8、電力利用設備を含むメタンガス消費設備に電力利用の増量又はメタンガス消費の増量を指示するステップS9を実行する。
【0065】
本発明によれば、下水処理施設内で発生するメタンガスなどのバイオガスを下水処理施設内で有効活用して、下水処理施設からのカーボン排出量を大幅に削減することができる。下水処理施設内で発生するメタンガスなどのバイオガスのみでの発電量が不足する場合には、外部から必要最低限の電力を調達しても良いが、不足する分の電力は、下水処理施設内に設けた再生可能エネルギー発電や蓄電設備からの電力を優先的に供給することにより、結果的に下水処理施設からのカーボン排出量を大幅に削減することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11