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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118037
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】フェロコークス用成型物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 53/08 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
C10B53/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024207
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永山 幹也
(72)【発明者】
【氏名】今西 大輔
【テーマコード(参考)】
4H012
【Fターム(参考)】
4H012KA01
4H012KA03
4H012KA04
(57)【要約】
【課題】ロールカップへの原料付着の発生を抑止することで、成型物強度を確保しながら、成型物歩留まりを向上させる手段として、より簡便かつ制御容易なフェロコークス用成型物の製造方法を提案する。
【解決手段】石炭、鉄鉱石を粉砕や乾燥などの事前調製を行った後、混合し、混練し、成型して得られる成型物を乾留してフェロコークスを製造する方法における成型物の製造方法であって、事前調製後の石炭と鉄鉱石に対しバインダーを加えて混練し、その混練した原料を、ダブルロール成型機を用いて成型するに際し、成型機に親水性液体を連続して散布する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭、鉄鉱石を粉砕や乾燥などの事前調製を行った後、混合し、混練し、成型して得られる成型物を乾留してフェロコークスを製造する方法における成型物の製造方法であって、事前調製後の石炭と鉄鉱石に対しバインダーを加えて混練し、その混練した原料を、ダブルロール成型機を用いて成型するに際し、成型機に親水性液体を連続して散布することを特徴とする、フェロコークス用成型物の製造方法。
【請求項2】
前記親水性液体が水であることを特徴とする、請求項1に記載のフェロコークス用成型物の製造方法。
【請求項3】
前記親水性液体の散布量は、以下の式(1)に示すαの値が15~580であることを特徴とする、請求項1または2に記載のフェロコークス用成型物の製造方法:
W/L=α・T/V ・・・(1)
ここで、W:散布量(mL/min)、L:ロール幅(m)、T:ロール温度(℃)、V:ロール回転速度(m/min)、α:定数(mL/℃/min)、である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭と鉄鉱石との混合物を乾留することによって得られるフェロコークスの製造方法において、混合物を成型して成型物を得るフェロコークス用成型物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉操業を効率よく行うために、石炭をコークス炉で乾留して製造したコークスが高炉に装入されている。高炉内に装入されたコークスには、高炉内の通気をよくするためのスペーサーとして役割、還元材としての役割、熱源としての役割がある。近年、コークスの反応性を向上させるという観点から、フェロコークスを使用する技術が開発されている。
【0003】
フェロコークスは、主原料となる石炭、鉄原料が予め粉砕、乾燥され、数質量%のバインダーとともに混練機内で撹拌、混練後、ダブルロールの成型機にて成型物とされ、この成型物を竪型炉で乾留されて製造される。成型機にて成型される際には、高い圧力にて圧縮されることで高密度の成型物となるが、製造時の操業の状況次第ではロールカップ内に割れた原料が付着したままとなることがある。ロールカップへの付着が増加すると、その部分は原料が入り込まないため、成型時に板状の成型物が製造される。板状の成型物は、通常の丸みを持つ成型物と比較して、乾留して得られた後のフェロコークスは粉化しやすく、高炉原料としては適さない。そのため、ロールカップに付着した分、成型物の歩留りは低下する。また、上記のような板状のフェロコークスを高炉装入前に全て取り除くことは現実的ではなく、フェロコークス全体としてみた場合にその品質を低下させる原因となる。
【0004】
ロールカップに付着する原因は種々考えられるが、フェロコークスは、約160℃程度と高温で成型されるため、軟ピッチを始めとするバインダーが軟化した状態にあり、かつ、連続して成型を続けることで成型ロール自体が熱を持ち始める。そのため、圧縮成型時に原料が冷却されなくなり、バインダーがロールカップに付着することで成型物が割れ、カップ内に残存してしまうことで原料付着が発生していると推察される。
【0005】
成型機ロールカップの離型性の改善については、成型機の表面に離型性の良好な薄膜を形成する方法や(特許文献1)、ワックスのような潤滑剤を塗布する方法(特許文献2)が提案されている。また、フェロコークスの成型物のように原料付着の原因が成型時の温度である場合は、ロールに連続して冷風を吹き付けて冷却する方法等が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-259787号公報
【特許文献2】特開2010-82650号公報
【特許文献3】特許第6151169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フェロコークスの成型物は高圧成型により成型され、加えて摩耗性の高い鉄鉱石を使用することから、特許文献1のような成型機の表面をコーティングする方法では表面の摩耗により短時間で離型性の向上効果が損なわれてしまう。特許文献2のように潤滑油を用いる場合は、特殊な薬剤を使用するためコストの上昇が懸念される。また、軟ピッチ等使用されるバインダーが親油性であることから潤滑油との濡れがよく上手く離形しないばかりか、バインダー内に潤滑油が溶解しフェロコークスの品質に影響することが考えられる。特許文献3のような冷媒による冷却では、最適な温度範囲が70~80℃と非常に狭く制御が困難である。また、成型機の大型化に伴い必要な冷媒の量も増大し、表面のみしか冷却できないため冷却効率が低下することから、温度制御が困難になるといった問題が考えられる。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、成型用原料をダブルロール成型機によって成型物に成型するに際して、ロールカップへの原料付着の発生を抑止することを目的とする。そして、ロールカップへの原料付着の発生を抑止することで、成型物強度を確保しながら、成型物歩留まりを向上させる手段として、より簡便かつ制御容易なフェロコークス用成型物の製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフェロコークス用成型物の製造方法は、上述した課題を解決するために、石炭、鉄鉱石を粉砕や乾燥などの事前調製を行った後、混合し、混練し、成型して得られる成型物を乾留してフェロコークスを製造する方法における成型物の製造方法であって、事前調製後の石炭と鉄鉱石に対しバインダーを加えて混練し、その混練した原料を、ダブルロール成型機を用いて成型するに際し、成型機に親水性液体を連続して散布することを特徴とする、フェロコークス用成型物の製造方法である。
【0010】
なお、前記のように構成される本発明に係るフェロコークス用成型物の製造方法においては、
(1)前記親水性液体が水であること、
(2)前記親水性液体の散布量は、以下の式(1)に示すαの値が15~580であること:
W/L=α・T/V ・・・(1)
ここで、W:散布量(mL/min)、L:ロール幅(m)、T:ロール温度(℃)、V:ロール回転速度(m/min)、α:定数(mL/℃/min)、である、
がより好ましい解決手段となるものと考えられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフェロコークス用成型物の製造方法によれば、成型ロールへの成型用原料の付着が抑制され、成型物の欠損品の量を減少させることができるので、フェロコークス用成型物およびフェロコークスの製造コストの削減が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明で用いる成型機の模式図である。
図2】本発明で用いる成型ロールの模式図である。
図3】本発明で用いる成型ロール散水設備の配置を模式的に示す図である。
図4】本発明で用いる散水設備の一例の概略図である。
図5】成型ロールへの親水性液体の散布有無と成型ロールへの付着量との関係を示すグラフである。
図6】成型ロール散水及び空冷の有無と成型物良品歩留りとの関係を示すグラフである。
図7】成型ロール散水及び空冷の有無と成型ロール冷却量との関係を示すグラフである。
図8】成型ロール散水量と成型物の歩留向上率との関係を示すグラフである。
図9】定数αと成型物の歩留向上率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
図1に、本発明で用いるダブルロール成型機の概略図を示す。ダブルロール成型機1は、互いに反対方向に回転する一対の成型ロール2を有しており、原料3を上方より供給し成型する。図2に示すように、成型ロール2の外周面には複数のロールカップ4が形成されており、ここに原料3が入り込んだうえ、一対の成型ロール2により加圧されることで成型物5となる。この際に、原料3の離型性が悪いとロールカップ4内で成型物5が割れ、圧縮された原料3が残存したままとなる。原料3が離型しないまま成型を継続すると板状の成型物5が製造され、成型物5の歩留りを低下させることから、原料3の離型性の向上による付着除去が必要となる。
【0015】
発明者らは、フェロコークス用成型物5の成型ロール2からの離型剤として、親水性液体、特に水の利用を考えた。水は親水性であるので、疎水性であるバインダーとは濡れが悪いため、成型ロール2の表面に親水性液体としての水を散布(散水)することで、成型物5の離型性が向上することが期待できる。また、特許文献3の最適範囲内までの冷却は困難だとしても、水の蒸発および水への熱伝導によりバインダーの粘性を上昇させ、離型性を向上させる副次的効果も期待できる。
【0016】
図3に、散水設備11を成型ロール2のそれぞれに設けたダブルロール成型機の模式図を示す。散水設備11は、成型ロール2に散水可能な位置であればどの位置にも設置できるが、図3に示すように、他方の成型ロール2と対向しない側に設置することが好ましい。他方の成型ロール2と対向する側は成型ロール2の設置がそもそも難しい上、成型前の原料3に直接水がかかると、原料水分が上昇し成型性を悪化させ、成型物5の品質を低下させることが懸念される。
【0017】
成型ロール2は散水設備11の部分で散水され、その後、成型ロール2のロールカップ4内は水を保持したまま、原料3の加圧成型を行う。加圧後、成型された原料3(成型物5)はロールカップ4より離れてダブルロール成型機1の下流に落下する。この際、ロールカップ4が水を保持しているとバインダーとの濡れが悪くなり、離型し易くなり、その結果、成型物5の品質および歩留まりの向上が期待される。
【0018】
多量の水を使用すると原料3の水分が上昇し、成型性が悪化する可能性が高いため、散水量(親水性液体としての水の散布量)は、離型性を向上させるための必要最低限の量とすることが望ましい。したがって、散水量は幅方向に均一にすべきであり、図3に示すように、複数個のミスト散水ノズル12を一列に配置してなるパイプ13を用いて散水することが好ましい。この場合、隣接するミスト散水ノズル12同士の距離Lは、ミスト散水ノズル12の噴霧角および成型ロール2とミスト散水ノズル12との距離から推定される散水範囲により決定されることが好ましい。散水用のミスト散水ノズル12としては、水滴の大きい1流体ノズルよりも、水滴が小さくなる水と空気を組み合わせた2流体のミスト散水ノズル12の方が、最低限の水量で離型剤効果を得ることができることから好ましい。
【0019】
さらに、散水量は成型ロール2の温度と成型ロール2の回転速度に応じて制御されることが好ましい。成型ロール2の温度により原料3に到達するまでの水の蒸発量が変化し、一方で、成型ロール2の回転速度により散水される時間が変わるため、散水量の決定にはこの2条件を考慮に入れる必要があり、以下の式(1)を用いて制御することが好ましい。なお、散水量W(親水性液体の散布量W)は、以下の式(1)に示すαの値が15~580となるよう調整することが望ましい:
W/L=α・T/V ・・・(1)
ここで、W:散水量(mL/min)、L:ロール幅(m)、T:ロール温度(℃)、V:ロール回転速度(m/min)、α:定数(mL/℃/min)、である。
【実施例0020】
この実施例では、成型時の成型ロールへの親水性液体の散布の有無と成型ロールのロールカップへの原料付着の関係を求めた。また、成型物歩留りへの影響を評価するため、下記の要領で混練した原料の、成型時の成型ロールへの原料の付着の程度と、成型後の成型物の良品歩留りの測定を実施した。
【0021】
まず、石炭2銘柄よりなる配合炭と鉄鉱石との混合物に対し、バインダーを添加し、混練および成型を実施した。石炭の粒度は2mm以下、鉄鉱石の粒度は全量3mm以下とした。石炭、鉄鉱石の比率はそれぞれ80.0mass%、20mass%とした。また、バインダーとして、軟ピッチ(SOP)、アスファルトピッチ(ASP)を原料重量に対しそれぞれ5mass%、3.5mass%となるよう添加した。混練機である高速攪拌ミキサーにて160℃まで昇温しながら混練した。混練した原料をダブルロール型成型機にて成型物を製造した。成型機には、成型ロールの成型面に対向しない側に親水性液体と空気の2流体散水ノズル及び圧空配管を設置し、条件によって散水および空冷を行った。親水性液体には水もしくはエタノールを用いた。成型ロールサイズは650mmφ×104mmとし、回転数3.5rpm、線圧は2t/cmで成型し、成型中に原料が付着したロールカップの個数を数え、散水の有無の影響を評価した。また、成型後の成型物の良品(割れ、欠け等ないもの)の比率を測定し、親水性液体の散布の影響を調査した。
【0022】
図5に、成型ロールへの親水性液体散布および空冷なしの場合の付着個数を1とした場合の、成型ロールの付着量を表している。成型ロールに親水性液体を散布することで、付着量が大幅に低下することが確認された。特に、親水性液体として水を散布した際の付着量が大幅に低減している。これは、水がエタノールと比べてより親水性であり、成型物のバインダーであるピッチ等との親和性が低いため、より付着を抑制できたと考えられる。なお、成型時の成型ロール温度は、親水性液体散布なしで最大88℃、水を散布した場合で最大82℃であり、散水により温度は低下するものの、特許文献3の範囲より高温の範囲でも散水による付着低減効果が得られることが確認された。
【0023】
図6に、成型物の歩留り測定結果を示す。散水および空冷なしの場合、散水のみの場合、空冷のみの場合、散水+空冷の場合の4パターンで、良品歩留の測定を実施した。また、成型ロールへの散水、空冷により、低下した温度をロール冷却量ΔTと定義し、上記4パターンの各条件でのロール冷却量ΔTの測定結果を図7に示す。図7のように、冷却効果は空冷と散水両方を実施した条件が最も高かったものの、良品の歩留りは散水のみの条件が最も高かった。この結果からも、成型ロールへの散水における付着除去効果は、冷却よりも離型剤としての効果が高いことがわかる。これは、散水に空冷を組み合わせることで冷却能は上昇するものの、空冷によりカップ内に残存した水滴が吹き飛ばされてしまうため、離型剤としての効果が減少した結果、歩留り向上効果が低減したものと推察される。
【0024】
続いて、散水の最適量についての調査を行った。以下の表1の実施例1~3の試験条件について、散水量を変更して歩留りへの影響を評価した結果を図8に示す。実施例1と2を比較すると、成型ロールの回転数の上昇により最も歩留りが上昇する散水量が減少していることが分かる。一方、実施例2と3を比較すると、成型ロール温度の上昇に伴い、最も歩留りが上昇する散水量が増加していることが分かる。以上の結果から、散水量の最適値は成型ロールの温度と回転数の影響を受けることが示された。また、実施例1~3の歩留り測定結果を式(1)の定数αで評価した結果を図9に示す。歩留りの向上効果はαの値と相関があり、αの値を15~580の間とすることで、歩留り向上効果を得ることができることが確認された。
【0025】
【表1】
【0026】
以上の結果より、成型中に成型ロールに水を散水することで冷却能力以上の付着防止効果が得られることが明らかとなり、その散水量を成型ロールの温度と回転数にて制御することで、歩留り向上効果を最大限享受することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のフェロコークス用成型物の製造方法では、成型機に親水性液体を連続して散布することで、成型ロールへの成型用原料の付着が抑制される。その結果、成型物の欠損品の量を減少させることができるので、フェロコークス用成型物およびフェロコークスの製造コストの削減が実現でき、産業上有用である。
【符号の説明】
【0028】
1 ダブルロール成型機
2 成型ロール
3 原料
4 ロールカップ
5 成型物
11 散水設備
12 ミスト散水ノズル
13 パイプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9