(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118042
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】筒状素材のフランジ部の成形方法
(51)【国際特許分類】
B21J 5/06 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
B21J5/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024213
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石黒 敬康
(72)【発明者】
【氏名】野津 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】小池 佳史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智司
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA02
4E087AA04
4E087BA18
4E087CA27
4E087EC17
4E087EC42
4E087HB03
(57)【要約】
【課題】マンドレルの分割を必要とすること無く且つフランジ部の内周面におけるメタルフローの切断を招くこと無くフランジ部の内周面におけるまくれこみを発生させずに筒状素材の中間部にフランジ部を一体的に形成することができる成形方法を提供する。
【解決手段】マンドレルのフランジ部に対向する部位に曲面からなる環状の凹みを設けておき、側方押出加工により筒状素材の中間部にフランジ部を形成する際に筒状素材を構成する材料の一部を流入させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状素材と前記筒状素材の中空部に挿入されたマンドレルとの組の少なくとも一部を閉塞型の内部に形成された円柱状の空間である第1空間に挿入し前記筒状素材を少なくとも軸方向において圧縮して前記第1空間から径方向における外側に向かって延在する環状の空間である第2空間へと前記筒状素材を構成する材料を流動させる側方押出加工により前記筒状素材の軸方向における途中の部位である中間部にフランジ部を一体的に形成する、筒状素材のフランジ部の成形方法であって、
前記側方押出加工において、前記マンドレルの前記中間部に対向する部位に形成され且つ曲面からなる環状の凹みである凹部の内部へと前記筒状素材を構成する材料の一部を流入させる工程である第1工程、及び
前記筒状素材の前記中空部から前記マンドレルを引き抜くことにより前記凹部の内部へ流動していた前記材料を前記フランジ部の内周面へと押し戻して前記フランジ部の前記内周面を平滑化させる工程である第2工程、
を含む、
筒状素材のフランジ部の成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載された、筒状素材のフランジ部の成形方法であって、
前記凹部は前記マンドレルの軸と同軸状に形成された溝である環状溝であり、
前記マンドレルの前記軸を含む平面による断面において、前記環状溝は、前記マンドレルの径方向における内側に向かって凸状の曲線である凹み曲線及び前記マンドレルの前記凹部以外の部分の面である一般面に対応する線分と前記凹み曲線とを連続的に接続する線である繋ぎ曲線によって構成されている、
筒状素材のフランジ部の成形方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された、筒状素材のフランジ部の成形方法であって、
前記マンドレルの前記軸を含む平面による断面において、径方向における外側に進むにつれて前記第1工程において前記筒状素材が圧縮される方向である圧縮方向における下流側に近付くように前記第2空間が傾斜している、
筒状素材のフランジ部の成形方法。
【請求項4】
請求項3に記載された、筒状素材のフランジ部の成形方法であって、
前記マンドレルの前記軸を含む平面による断面において、前記第2空間の基端側の端面の傾斜角が前記第2空間の先端側の端面の傾斜角よりも大きい、
筒状素材のフランジ部の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状素材のフランジ部の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば肉厚パイプ等の筒状素材の中間部にフランジ部(鍔部)を一体的に形成する方法としては、マンドレルが挿入された筒状素材を型のキャビティ内へ押し込んでキャビティ内に設けられたフランジ状空間へ筒状素材の中間部を構成する材料(肉)を流動させることによりフランジ部を形成する方法(所謂「側方押出加工」)が多用される。
【0003】
側方押出加工においては、筒状素材のフランジ状空間の上下に位置する部分の肉がフランジ状空間へと流れ込む。この際、筒状素材の内周側(マンドレル側)の肉が外周側へと引っ張られて、フランジ部の内周面にメタルフロー(鍛流線)の座屈(所謂「まくれこみ」)が発生する場合がある。
図7は、従来技術に係る側方押出加工によって筒状素材の中間部に形成されたフランジ部の内周面に発生したまくれこみを例示する写真である(白抜きの矢印によって指し示す部分を参照)。このようなまくれこみが例えば回転シャフト等の強度部材に存在する場合、まくれこみに応力が集中し易いことから、当該部材の変形の起点となる虞がある。
【0004】
そこで、特許文献1(特許第4775017号公報)においては、筒状素材に挿入するマンドレルをフランジ状空間に対向する位置を境に2分割すると共に、分割面の外周側に薄い環状空間を設ける製造方法が提案されている。当該方法によれば、側方押出加工の際に筒状素材を構成する材料の一部を当該環状空間へ流し込ませることにより、フランジ部の内周面におけるまくれこみの発生を回避することができるとされている。
【0005】
しかしながら、流し込まれた材料は、求心方向へ延びるドーナツ盤状(中心部が空いている円盤状)のバリとなり、製品とするにはバリの除去が必要となるが、中空部の奥にあるバリの除去は困難なので、このようなバリの形成は避けたい。また、成形されたフランジ部の内周面におけるメタルフローがバリの除去により切断されるため、筒状素材の強度(例えば、引張応力に対する強度等)を維持する観点から、バリの除去は好ましくない。更に、マンドレルを成形後に引き抜くためには上述したようにマンドレルを2分割するしか無く、分割されたマンドレル同士を成形加工中に強く押し付け合う必要があり、マンドレルを押し付けるための設備及びエネルギー並びに成形設備の強化が余分に必要となる。
【0006】
以上のように、当該技術分野においては、マンドレルの分割を必要とすること無く且つフランジ部の内周面におけるメタルフローの切断を招くこと無くフランジ部の内周面におけるまくれこみを発生させずに筒状素材の中間部にフランジ部を一体的に形成することができる成形方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、当該技術分野においては、マンドレルの分割を必要とすること無く且つフランジ部の内周面におけるメタルフローの切断を招くこと無くフランジ部の内周面におけるまくれこみを発生させずに筒状素材の中間部にフランジ部を一体的に形成することができる成形方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、マンドレルのフランジ部に対向する部位に曲面からなる環状の凹みを設けておき、側方押出加工により筒状素材の中間部にフランジ部を形成する際に筒状素材を構成する材料の一部を流入させることにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0010】
具体的には、本発明に係る筒状素材のフランジ部の成形方法(以降、「本発明方法」と称呼される場合がある。)は、側方押出加工により筒状素材の軸方向における途中の部位である中間部にフランジ部を一体的に形成する筒状素材のフランジ部の成形方法である。上記側方押出加工においては、筒状素材と筒状素材の中空部に挿入されたマンドレルとの組の少なくとも一部を閉塞型の内部に形成された円柱状の空間である第1空間に挿入し筒状素材を少なくとも軸方向において圧縮して第1空間から径方向における外側に向かって延在する環状の空間である第2空間へと筒状素材を構成する材料を流動させる。
【0011】
本発明方法は、以下に列挙する第1工程及び第2工程を含む。
第1工程は、上記側方押出加工において、マンドレルの中間部に対向する部位に形成され且つ曲面からなる環状の凹みである凹部の内部へと筒状素材を構成する材料の一部を流入させる工程である。
第2工程は、筒状素材の中空部からマンドレルを引き抜くことにより凹部の内部へ流動していた材料をフランジ部の内周面へと押し戻してフランジ部の内周面を平滑化させる工程である。
【発明の効果】
【0012】
上記のように、本発明方法においては、第1工程において側方押出加工によりフランジ部を形成する際に、マンドレルの中間部に対向する部位に形成された環状の凹みである凹部の内部へと筒状素材を構成する材料の一部を流入させる。これにより、フランジ部の内周面におけるまくれこみの発生を抑制することができる。また、上記凹部は曲面からなるので、当該凹部の内部空間に対応する曲面からなる環状の膨らみである凸部が筒状素材のフランジ部の内周面に形成される。従って、第2工程においては、フランジ部の内周面におけるメタルフローの切断を招くこと無く筒状素材の中空部からマンドレルを引き抜くことができ、上記凸部がマンドレルの外周面によって扱かれてフランジ部の内周面へと押し戻される。その結果、フランジ部の内周面を平滑化させることができる。
【0013】
即ち、本発明方法によれば、マンドレルの分割を必要とすること無く且つフランジ部の内周面におけるメタルフローの切断を招くこと無くフランジ部の内周面におけるまくれこみを発生させずに筒状素材の中間部にフランジ部を一体的に形成することができる。
【0014】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の各実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施態様に係る筒状素材のフランジ部の成形方法(第1方法)の実行に伴う筒状素材の形状の変化並びにマンドレル、閉塞型及びパンチの位置関係の変化の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】第1方法に含まれる第1工程が完了した時点における筒状素材の断面形状を例示する写真である。
【
図3】第1方法に含まれる第2工程が完了した時点における筒状素材の断面形状を例示する写真である。
【
図4】
図3において太い破線によって囲まれている部分の拡大写真である。
【
図5】第1方法に含まれる第1工程の前後における筒状素材の形状並びに第1工程において形成されるフランジ部、閉塞型に設けられる第2空間及びマンドレルに設けられる凹部の形状等を例示する模式的な断面図である。
【
図6】本発明の第2実施態様に係る筒状素材のフランジ部の成形方法(第2方法)において使用されるマンドレルの軸を含む平面による断面におけるマンドレルに形成された凹部の形状の一例を示す模式的な断面図である。
【
図7】従来技術に係る側方押出によって筒状素材の中間部に形成されたフランジ部の内周面に発生したまくれこみを例示する写真である
【発明を実施するための形態】
【0016】
《第1実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第1実施形態に係る筒状素材のフランジ部の成形方法(以降、「第1方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0017】
〈構成〉
第1方法は、側方押出加工により筒状素材の軸方向における途中の部位である中間部にフランジ部を一体的に形成する筒状素材のフランジ部の成形方法である。筒状素材を構成する材料は、側方押出加工における塑性変形により所望の形状を有するフランジ部を一体的に形成することが可能である限り、特に限定されない。典型的には、筒状素材を構成する材料は、例えば、鉛、スズ、アルミニウム、銅、ジルコニウム、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、及び鋼等を始めとする金属である。
【0018】
上記側方押出加工においては、筒状素材と筒状素材の中空部に挿入されたマンドレルとの組の少なくとも一部を閉塞型の内部に形成された円柱状の空間である第1空間に挿入し筒状素材を少なくとも軸方向において圧縮する。当該「軸方向における圧縮」は、筒状素材の軸方向における一端が固定された状態において筒状素材の軸方向における他端を押圧することによって実行してもよく、或いは、筒状素材の軸方向における両端を同時に押圧することによって実行してもよい。筒状素材の端部を押圧するための機構としては、例えばマンドレルと閉塞型との間の空間に軸方向において摺動可能に配設され且つ例えば油圧プレス等の駆動装置によって駆動されるパンチ等を備える機構等を挙げることができる。
【0019】
上記により、第1空間から径方向における外側に向かって延在する環状の空間である第2空間へと筒状素材を構成する材料を流動させて、筒状素材の中間部にフランジ部を一体的に形成することができる。
【0020】
しかしながら、本明細書の冒頭において
図7を参照しながら説明したように、従来技術に係る側方押出加工においては、筒状素材の第2空間(フランジ状空間)の上下に位置する部分の材料が第2空間へと流れ込む際に、筒状素材の内周側(マンドレル側)の材料が外周側へと引っ張られて、フランジ部の内周面にまくれこみが発生しがちであった。
【0021】
そこで、第1方法は、以下に列挙する第1工程及び第2工程を含む。
【0022】
第1工程は、上記側方押出加工において、マンドレルの中間部に対向する部位に形成され且つ曲面からなる環状の凹みである凹部の内部へと筒状素材を構成する材料の一部を流入させる工程である。上述したように「中間部」は筒状素材の軸方向における途中の部位であり、当該部位にフランジ部が一体的に形成される。従って、「マンドレルの中間部に対向する部位」とは、上記側方押出加工においてフランジ部が形成される空間である第2空間と筒状素材の内周面を挟んで対向する領域でもある。
【0023】
但し、筒状素材の内周面への垂直投影図(マンドレルの軸に直交する方向(即ち、径方向)への投影図)における凹部の位置及び形状は必ずしも中間部及び/又は第2空間の位置及び形状と完全に一致していることを要しない。換言すれば、上記側方押出加工において筒状素材を構成する材料の一部が凹部の内部へと流入することが可能である限り、筒状素材の内周面への垂直投影図における凹部の位置及び形状と中間部及び/又は第2空間の位置及び形状とがずれていてもよい。
【0024】
上記のように上記側方押出加工において筒状素材を構成する材料の一部をマンドレルの凹部の内部へと流入させることにより、本明細書の冒頭において述べたようなフランジ部の内周面におけるメタルフロー(鍛流線)の座屈(まくれこみ)の発生を抑制することができる。
【0025】
尚、上述した側方押出加工によって中間部にフランジ部が一体的に形成された筒状素材のフランジ部の内周面には、凹部の内部空間に対応する曲面からなる環状の膨らみである凸部が形成される。即ち、当該凸部は、本明細書の冒頭において引用した特許文献1(特許第4775017号公報)に記載された製造方法においてマンドレルの分割面の外周側に設けられた薄い環状空間に流し込まれた材料によって形成されるドーナツ盤状のバリとは異なり、なだらかな環状の膨らみとして形成される。
【0026】
次に、第2工程においては、筒状素材の中空部からマンドレルを引き抜くことにより凹部の内部へ流動して(上記凸部を形成して)いた材料をフランジ部の内周面へと押し戻してフランジ部の内周面を平滑化させる。
【0027】
上述したように、第1工程においては、側方押出加工によって中間部にフランジ部が一体的に形成された筒状素材のフランジ部の内周面に、凹部の内部空間に対応する曲面からなるなだらかな環状の膨らみである凸部が形成される。従って、第2工程において筒状素材の中空部からマンドレルを引き抜く際には、例えば特許文献1に記載された製造方法において形成されるバリを除去する場合とは異なり、フランジ部の内周面におけるメタルフロー(鍛流線)の切断を伴わずに、凸部を形成していた材料をフランジ部の内周面へと押し戻してフランジ部の内周面を平滑化させることができる。
【0028】
図1は、第1方法の実行に伴う筒状素材の形状の変化並びにマンドレル、閉塞型及びパンチの位置関係の変化の一例を示す模式的な断面図である。
図1は、筒状素材、マンドレル、閉塞型及びパンチの全容を示すものではなく、マンドレル20の軸AXを含む平面による断面図における片側(軸AXの右側)の第2空間S2(フランジ状空間)の近傍のみを示す。
【0029】
図1の(a)は、筒状素材10と筒状素材10の中空部に挿入されたマンドレル20との組が閉塞型30の内部に形成された円柱状の空間である第1空間S1に挿入された状態を例示する。閉塞型30は、上型31と下型32とに分割されており、上型31と下型32との分割面の径方向における内側(第1空間S1側)に第2空間S2(フランジ状空間)が形成されている。即ち、第2空間S2は、第1空間S1から径方向における外側に向かって延在する環状の空間である。また、マンドレル20の第2空間S2に対向する部位には、曲面からなる環状の凹みである凹部Rが形成されている。
【0030】
図1の(b)は、黒塗りの矢印によって示すように、図示しない駆動装置によって駆動される筒状の部材であるパンチ40によって第1空間S1に挿入された筒状素材10の基端側(図面に向かって上側)の端部を先端側(図面に向かって下側)に向かって押圧することにより、筒状素材10を軸方向(マンドレル20の軸AXに平行な方向)に圧縮した状態を例示する。この圧縮過程においては、マンドレル20の位置は固定されており、マンドレル20による筒状素材10の押圧等は行われない。上記により、
図1の(b)に例示するように、筒状素材10を構成する材料を第1空間S1から第2空間S2へと流動させて筒状素材10の中間部にフランジ部11を一体的に形成する側方押出加工を実行することができる。
【0031】
前述したように、上記側方押出加工においては、上記のように筒状素材10を構成する材料が、第1空間S1から第2空間S2へと流動するのみならず、マンドレル20に形成された凹部Rの内部へも流入する。即ち、前述した第1工程が実行される。
図2は、第1方法に含まれる第1工程が完了した時点における筒状素材の断面形状を例示する写真である。
図1の(b)及び
図2に例示するように、筒状素材10のフランジ部11が形成された部位である中間部の内周面には、マンドレル20に形成された凹部Rの内部空間に対応する曲面からなる環状の膨らみである凸部12が形成される。
【0032】
上記のようにして形成される凸部12は、特許文献1に記載された製造方法においてマンドレルの分割面の外周側に設けられた薄い環状空間に流し込まれた材料によって形成されるドーナツ盤状のバリとは異なり、なだらかな環状の膨らみとして形成される。従って、
図1の(c)において白抜きの矢印によって示すように、筒状素材10の中空部からマンドレル20を引き抜くことができる。即ち、前述した第2工程を実行することができる。
図1の(c)に例示するように、凹部Rの内部に流動して凸部12を形成していた材料をフランジ部11の内周面へと押し戻して、フランジ部11の内周面を平滑化させることができる。
【0033】
尚、
図1の(c)に示す例においてはマンドレル20が基端側に向かって引き抜かれているが、第2工程においてマンドレルを引き抜く方向は基端側に限定されるものではない。例えば第1方法によって成形される成形品の形状に応じて、マンドレルを引き抜くことが可能な方向にマンドレルを引き抜けばよい。
【0034】
図3は、第1方法に含まれる第2工程が完了した時点における筒状素材の断面形状を例示する写真である。第2工程の実行により凹部の内部に流動して凸部を形成していた材料がフランジ部の内周面へと押し戻されてフランジ部の内周面が平滑化されていることが判る。また、
図4は、
図3において太い破線によって囲まれている部分の拡大写真である。
図3及び
図4に例示するように、第1方法によって形成されたフランジ部の内周面においては、まくれこみ及びメタルフローの切断の何れも生じていない。更に、
図4に示した例においては、一般的な冷間鍛造肌と同等の表面粗さ(例えば、数nmのRa)が達成されている。
【0035】
ところで、第1方法により、マンドレルの分割を必要とすること無く且つフランジ部の内周面におけるメタルフローの切断を招くこと無くフランジ部の内周面におけるまくれこみを発生させずに筒状素材の中間部にフランジ部を一体的に形成するためには、例えば、筒状素材の径及び肉厚の大きさ並びに筒状素材を構成する材料の塑性流動のし易さ、第1方法を実行するための成形装置の構成等、様々な要因に応じて凹部の形状及び大きさを適切に設計する必要がある。
【0036】
図5は、第1方法に含まれる第1工程の前後における筒状素材の形状並びに第1工程において形成されるフランジ部、閉塞型に設けられる第2空間及びマンドレルに設けられる凹部の形状等を例示する模式的な断面図である。より詳しくは、
図5は、図示しない駆動装置によって駆動される図示しないパンチによって筒状素材10の基端側の端部を位置P0から位置P1まで圧縮した場合における筒状素材10の形状並びに第1工程において形成されるフランジ部、閉塞型に設けられる第2空間S2及びマンドレル20に設けられる凹部Rの形状等を例示する模式的な断面図である。
【0037】
成形しようとするフランジ部の体積Vfに対して凹部Rの容積Vrが小さくなるほどフランジ部の形成に伴ってまくれこみが発生する虞が高まる。従って、まくれこみの発生を十分に抑制するためには、成形しようとするフランジ部の体積Vfが大きくなるほど凹部Rの容積Vrを大きくする必要がある。一方、凹部Rの容積Vrが大きくなるほど引き抜き時においてマンドレル20に作用する負荷が大きくなり、マンドレル20の焼付き及び/又は破断等の問題が発生する虞が高まるが、許容可能な凹部Rの容積Vrの上限値はマンドレル20の外径の大きさ(即ち、筒状素材10の内径の大きさ)によっても変化する。更に、引き抜き時においてマンドレル20に作用する負荷の大きさは凹部Rの形状(例えば、凹部Rの深さDr及び軸方向における高さHr等)によっても左右される。加えて、筒状素材10の径及び肉厚によっては、第1方法によるフランジ部の形成時において筒状素材10の座屈が生ずる場合もある。
【0038】
以上のような種々の要件を考慮して筒状素材及びフランジ部の形状に応じて凹部の形状を適切に設計することにより、第1方法によって所期の効果を達成することができる。斯かる要件を満たす凹部の具体的な形状は、例えば、事前に行われる予備実験及び/又はコンピュータによるシミュレーション等によって適宜定めることができる。例えば、炭素鋼によって構成される筒状素材10の内径が数十mmであり且つ肉厚が数mm程度である場合、凹部Rの容積Vrはフランジ部の体積Vfの2割程度、凹部Rの高さHrはフランジ部の肉厚Tfの1.5倍程度、及び凹部Rの深さDrは凹部Rの高さHrの10~15%程度とすることが望ましい。更に、詳しくは後述するが、凹部Rの内部空間を画定する曲面の形状もまた、引き抜き時においてマンドレル20に作用する負荷並びにマンドレル20の焼付き及び/又は破断等の問題に少なからぬ影響を与える。
【0039】
〈効果〉
以上のように、第1方法においては、第1工程において側方押出加工によりフランジ部を形成する際に、マンドレルの中間部に対向する部位に形成された環状の凹みである凹部の内部へと筒状素材を構成する材料の一部を流入させる。これにより、フランジ部の内周面におけるまくれこみの発生を抑制することができる。また、上記凹部は曲面からなるので、当該凹部の内部空間に対応する曲面からなる環状の膨らみである凸部が筒状素材のフランジ部の内周面に形成される。従って、第2工程においては、フランジ部の内周面におけるメタルフローの切断を招くこと無く筒状素材の中空部からマンドレルを引き抜くことができ、上記凸部がマンドレルの外周面によって扱かれてフランジ部の内周面へと押し戻される。その結果、フランジ部の内周面を平滑化させることができる。
【0040】
即ち、第1方法によれば、マンドレルの分割を必要とすること無く且つフランジ部の内周面におけるメタルフローの切断を招くこと無くフランジ部の内周面におけるまくれこみを発生させずに筒状素材の中間部にフランジ部を一体的に形成することができる。
【0041】
《第2実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第2実施形態に係る筒状素材のフランジ部の成形方法(以降、「第2方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0042】
〈構成〉
第2方法は、上述した第1方法であって、マンドレルの中間部に対向する部位に形成される凹部はマンドレルの軸と同軸状に形成された溝である環状溝であり、マンドレルの軸を含む平面による断面において当該環状溝は凹み曲線及び繋ぎ曲線によって構成されている、筒状素材のフランジ部の成形方法である。凹み曲線はマンドレルの径方向における内側に向かって凸状の曲線であり、繋ぎ曲線はマンドレルの凹部以外の部分の面である一般面に対応する線分と凹み曲線とを連続的に接続する曲線である。
【0043】
図6は、第2方法において使用されるマンドレルの軸を含む平面による断面におけるマンドレルに形成された凹部の形状の一例を示す模式的な断面図である。
図6に例示する凹部Rは、マンドレル20の中間部に対向する部位にマンドレル20の軸(図示せず)と同軸状の溝として形成された環状溝である。また、
図6に例示するマンドレル20の軸を含む平面において、断面におけるマンドレル20に形成された凹部Rとしての環状溝は凹み曲線Cr及び繋ぎ曲線Ccによって構成されている。
図6に例示するように、凹み曲線Cr(斜線が施された曲線)はマンドレル20の径方向における内側に向かって凸状の曲線であり、繋ぎ曲線Cc(白抜きの曲線)はマンドレル20の凹部以外の部分の面である一般面に対応する線分(太い黒塗りの直線)と凹み曲線Crとを連続的に接続する曲線である。
【0044】
〈効果〉
上記のように、第2方法においては、マンドレルの軸と同軸状に形成された溝である環状溝として凹部が形成されている。更に、当該環状溝は、マンドレルの軸を含む平面による断面において、マンドレルの径方向における内側に向かって凸状の曲線である凹み曲線及びマンドレルの凹部以外の部分の面である一般面に対応する線分と凹み曲線とを連続的に接続する線である繋ぎ曲線によって構成されている。
【0045】
上記のような構成を有する凹部をマンドレルに形成することにより、第2方法に含まれる第2工程において筒状素材の中空部からマンドレルを引き抜く際にマンドレルに作用する負荷を低減することができる。その結果、マンドレルの焼付き及び/又は破断等の問題を低減することができる。加えて、フランジ部の内周面におけるメタルフローの切断を招くこと無く凹部の内部へ流動していた材料をフランジ部の内周面へと押し戻してフランジ部の内周面を平滑化するという効果をより確実に達成することができる。
【0046】
《第3実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第3実施形態に係る筒状素材のフランジ部の成形方法(以降、「第3方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0047】
例えば、前述した第1方法に関する説明において参照した
図1の(b)においては、黒塗りの矢印によって示したように、図示しない駆動装置によって駆動される筒状の部材であるパンチ40によって第1空間S1に挿入された筒状素材10の基端側(図面に向かって上側)の端部を先端側(図面に向かって下側)に向かって押圧することにより、筒状素材10を軸方向(マンドレル20の軸AXに平行な方向)に圧縮した。その結果、
図2及び
図3において観察されるメタルフロー(鍛流線)からも判るように、上記押圧により第2空間S2に流れ込んでフランジ部11を形成した筒状素材10の材料は、主として上記押圧の前には第2空間S2よりも基端側に存在していた材料である。
【0048】
従って、より大きいフランジ部11をより円滑に形成するためには、上記押圧の前に第2空間S2よりも基端側に存在していた筒状素材10の材料が上記押圧により第2空間S2の内部へと流れ込み易くすることが望ましいと考えることができる。
【0049】
〈構成〉
そこで、第3方法は、上述した第1方法または第2方法であって、マンドレルの軸を含む平面による断面において、径方向における外側に進むにつれて圧縮方向における下流側に近付くように第2空間が傾斜している、筒状素材のフランジ部の成形方法である。圧縮方向とは、第1工程において筒状素材が圧縮される方向である。
【0050】
ここで、前述した第1方法に関する説明において参照した
図5を再び参照する。
図5に例示したように、マンドレルの軸を含む平面による断面において、径方向における外側に進むにつれて圧縮方向における下流側(図面に向かって下側)に近付くように第2空間S2が傾斜している。このように第2空間S2を構成することにより、第1工程において押圧されて軸方向に圧縮される前に第2空間S2よりも基端側(図面に向かって上側)に存在していた筒状素材10の材料が上記押圧による圧縮に伴って第2空間S2の内部へと流れ込み易くなる。その結果、より大きいフランジ部をより円滑に形成することができる。
【0051】
より好ましくは、マンドレルの軸を含む平面による断面において、第2空間の基端側の端面の傾斜角が第2空間の先端側の端面の傾斜角よりも大きい。これにより、径方向における外側に進むにつれて(フランジ部の肉厚に対応する)軸方向における寸法が小さくなるように第2空間が形成される。その結果、第1工程の実行により形成されるフランジ部の形状を第2空間の形状により正確に合致したものとすることができるので、フランジ部の寸歩精度を高めることができる。
【0052】
ところで、上述したように、圧縮方向とは、第1工程において筒状素材が圧縮される方向である。一方、第1方法に関する説明において述べたように、第1工程において筒状素材を軸方向に圧縮するための具体的な手法は、
図1及び
図5に示した例に限定されるものではない。具体的には、当該「軸方向における圧縮」は、筒状素材の軸方向における一端が固定された状態において筒状素材の軸方向における他端を押圧することによって実行してもよく、或いは、筒状素材の軸方向における両端を同時に押圧することによって実行してもよい。
【0053】
前者の場合、パンチ等によって押圧される側の筒状素材の端部(他端)から軸方向における変位が固定された側の筒状素材の端部(一端)へと向かう方向が「圧縮方向」となる。一方、後者の場合は、押圧による圧縮に伴う軸方向における変位がより大きい側の筒状素材の端部から押圧による圧縮に伴う軸方向における変位がより小さい側の筒状素材の端部へと向かう方向が「圧縮方向」となる。
【0054】
尚、筒状素材の軸方向における両端を同時に押圧することによって「軸方向における圧縮」が実行される後者の場合において、押圧による圧縮に伴う軸方向における変位がより大きい側の筒状素材の端部から押圧による圧縮に伴う軸方向における筒状素材の変位が等しい場合は上述した定義による「圧縮方向」なるものが存在しない。従って、このような場合においては、第2空間を傾斜させなくてもよい。但し、押圧の前に第2空間の基端側及び先端側に存在していた筒状素材の材料が押圧により第2空間へと流れ込み易くする観点からは、径方向における外側に進むにつれて(フランジ部の肉厚に対応する)軸方向における寸法が小さくなるように、第2空間が形成されていることが望ましい。
【0055】
〈効果〉
以上のように、第3方法において使用される閉塞型に形成される第2空間は、マンドレルの軸を含む平面による断面において、径方向における外側に進むにつれて第1工程において筒状素材が圧縮される方向である圧縮方向における下流側に近付くように傾斜している。その結果、第3方法によれば、例えばパンチ等による押圧の前に第2空間よりも基端側に存在していた筒状素材の材料が押圧によって第2空間へと流れ込み易くなるので、より大きいフランジ部をより円滑に形成することができる。
【0056】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態につき、添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0057】
10…筒状素材
11…フランジ部
12…凸部
20…マンドレル
30…閉塞型
31…上型
32…下型
40…パンチ
AX…マンドレルの軸
S1…第1空間
S2…第2空間
R…凹部
Vf…フランジ部の体積
Tf…フランジ部の肉厚
Vr…凹部の容積
Dr…凹部の深さ
Hr…凹部の軸方向における高さ