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特開2024-11808高周波磁界センサ及び盗難防止システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011808
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】高周波磁界センサ及び盗難防止システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20240118BHJP
   G01V 3/12 20060101ALI20240118BHJP
   G08B 13/24 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
G01R33/02 D
G01V3/12 A
G08B13/24
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114072
(22)【出願日】2022-07-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.掲載年月日:令和4年1月18日 掲載アドレス: https://www.bookpark.ne.jp/cm/ieej/detail/IEEJ-20220121A00901-011-PDF/ 2.開催日:令和4年1月21日 集会名:一般社団法人電気学会2022年1月21日マグネティックス研究会 3.掲載年月日:令和4年5月30日 掲載アドレス: https://www.bookpark.ne.jp/cm/ieej/detail/IEEJ-20220602X01401-008-PDF/ 4.開催日:令和4年6月2日 集会名:一般社団法人電気学会2022年6月2日-2022年6月3日マグネティックス/リニアドライブ合同研究会
(71)【出願人】
【識別番号】517205767
【氏名又は名称】笹田磁気計測研究所株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513006036
【氏名又は名称】アイアンドティテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】笹田 一郎
(72)【発明者】
【氏名】石野 連信郎
【テーマコード(参考)】
2G017
2G105
5C084
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AC01
2G017AC09
2G017AD04
2G017AD05
2G017BA03
2G017BA05
2G105AA01
2G105BB12
2G105DD02
2G105EE01
2G105FF13
2G105GG03
2G105HH01
2G105JJ03
5C084AA03
5C084AA09
5C084AA13
5C084BB32
5C084CC11
5C084CC33
5C084CC34
5C084DD21
5C084DD25
5C084DD26
5C084EE07
5C084GG07
5C084GG09
5C084GG21
5C084GG38
5C084GG71
(57)【要約】
【課題】高周波磁界を高感度で検出することができる高周波磁界センサ、及び、これを用いた盗難防止システムを提供する。
【解決手段】ピックアップコイル1が、高周波磁界に基づく信号を受信する。入力コイル4が、ピックアップコイル1に対し、抵抗3を介して電気的に接続されている。センサヘッド5が、励磁電流が流れる細長い磁性体51、及び、磁性体51の外側に巻回された検出コイル52を含み、入力コイル4の内側に配置されている。同期検波器8が、検出コイル52に誘起される誘起電圧に含まれる前記高周波磁界の周波数f成分と励磁周波数f成分とを用いた掛算処理により、前記誘起電圧を同期検波し、低周波成分である|f-f|成分として抽出する。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波磁界を検出するための高周波磁界センサであって、
前記高周波磁界に基づく信号を受信するピックアップコイルと、
前記ピックアップコイルに対し、抵抗を介して電気的に接続された入力コイルと、
励磁電流が流れる細長い磁性体、及び、前記磁性体の外側に巻回された検出コイルを含み、前記入力コイルの内側に配置されたセンサヘッドと、
前記検出コイルに誘起される誘起電圧に含まれる前記高周波磁界の周波数f成分と励磁周波数fとを用いた掛算処理により、前記誘起電圧を同期検波し、低周波成分である|f-f|成分を抽出する同期検波器とを備える、高周波磁界センサ。
【請求項2】
前記励磁電流には、直流成分及び交流成分が含まれる、請求項1に記載の高周波磁界センサ。
【請求項3】
前記直流成分により発生する直流磁界は、前記交流成分により発生する交流磁界の振幅よりも大きい、請求項2に記載の高周波磁界センサ。
【請求項4】
前記励磁電流には、交流成分が含まれ、直流成分は含まれない、請求項1に記載の高周波磁界センサ。
【請求項5】
前記励磁電流には、直流成分が含まれ、交流成分は含まれない、請求項1に記載の高周波磁界センサ。
【請求項6】
前記励磁周波数fは、|f-f|≦f/10を満たし、
前記同期検波器は、通過周波数がf/10以下である低域通過フィルタを備える、請求項1に記載の高周波磁界センサ。
【請求項7】
前記入力コイル及び前記センサヘッドの外側を覆う磁気シールドをさらに備える、請求項1に記載の高周波磁界センサ。
【請求項8】
前記ピックアップコイルと前記入力コイルとの間に設けられ、通電をオン状態又はオフ状態に切り替えるスイッチをさらに備える、請求項1に記載の高周波磁界センサ。
【請求項9】
前記高周波磁界に基づく信号を発生させるためのバースト信号の送信中は前記スイッチをオフ状態とし、その後に前記スイッチをオン状態に切り替えることにより、前記ピックアップコイルで受信するリンギングダウン信号に基づいて、前記高周波磁界を検出する、請求項8に記載の高周波磁界センサ。
【請求項10】
前記磁性体は、磁性ワイヤからなる磁性体である、請求項1に記載の高周波磁界センサ。
【請求項11】
前記磁性体は、無磁歪組成のアモルファス磁性体である、請求項1に記載の高周波磁界センサ。
【請求項12】
前記ピックアップコイルで受信するリンギングダウン信号の波形と、予め定められた波形との相関関係に基づいて、前記高周波磁界を検出する、請求項1に記載の高周波磁界センサ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の高周波磁界センサと、
バースト信号送信部と、
前記バースト信号送信部により前記高周波磁界を発生する共振タグとを備える、盗難防止システム。
【請求項14】
床及び/又は天井の複数のエリアに前記高周波磁界センサが設けられ、
前記高周波磁界センサからの検出信号に基づいて、前記高周波磁界が検出された前記エリアを特定する、請求項13に記載の盗難防止システム。
【請求項15】
前記共振タグは、アモルファス薄帯又はフェライトコアを用いたタグである、請求項13に記載の盗難防止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波磁界を検出するための高周波磁界センサ、及び、これを用いた盗難防止システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
盗難防止システムの一例として、音響磁気(AM:Acousto-Magnetic)方式の電子商品監視(EAS:Electronic Article Surveillance)を行うセキュリティシステムが知られている。このシステムで使用されるタグ(AMアモルファスラベルタグ)は、例えば下記特許文献1に開示されるようなアモルファス金属製の薄板が複数枚平行に並べられた構造で、58kHzの電波に共振するように作られている。
【0003】
当該セキュリティシステムは、送信アンテナ及び受信アンテナを備える。具体的には、送信アンテナからの高周波磁界を非常に短い間隔でON又はOFFに切り替えてバースト波として送信し、この送信アンテナからのバースト波を受けたタグが共振し、タグ自ら微弱高周波磁界を出す。タグからの微弱高周波磁界は、指数関数的に減衰するリンギングダウン高周波磁界であり、このリンギングダウン高周波磁界を受信アンテナで検出する。受信アンテナの磁界センサでは、検出するリンギングダウン高周波磁界の時間的な間隔、周波数及び減衰具合に基づいて、タグであるか否かを判断する。また、このシステムで使用されるタグは58kHzで共振するタグであればよいので、フェライトコアにコイルを巻き、キャパシタンスをつけて、LC共振周波数を58kHzに調整したタグ(AMフェライトハードタグ)も使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5982282号明細書
【特許文献2】米国特許第8125338号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなAM方式の盗難防止システムでは、下記の課題があった。まず、タグからの信号が極めて微弱であり、その信号を大きくするためにアンテナ送信出力を大きくする必要があった。しかし、送信出力を大きくすると周りの電子機器への影響が大きくなるため、アンテナの送信出力をできるだけ小さくすることが求められていた。
【0006】
一方、受信回路はタグからの微弱信号を受けるために、タグからの微弱なリンギングダウン信号を高感度で受信する仕組みが必要であった。しかし、現在のAM方式の受信アンテナは面積が大きく、ターン数の大きな受信コイルが必要であり、小型化が困難であった。また、受信回路の増幅率を大きくする必要もあった。
【0007】
共振タグからの微弱な共振信号そのものを大きくするアプローチとして、フェライトコアを使用し、58kHzの共振回路を構成したタグ(フェライトハードタグ)で出力を大きくするというアプローチも実用化されている。また、アモルファスタグの出力を大きくするアプローチとして、アモルファス薄帯の枚数を増やすようなアプローチも実現している(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高周波磁界を高感度で検出することができる高周波磁界センサ、及び、これを用いた盗難防止システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る高周波磁界センサは、高周波磁界を検出するための高周波磁界センサであって、ピックアップコイルと、入力コイルと、センサヘッドと、同期検波器とを備える。前記ピックアップコイルは、前記高周波磁界に基づく信号を受信する。前記入力コイルは、前記ピックアップコイルに対し、抵抗を介して電気的に接続されている。前記センサヘッドは、励磁電流が流れる細長い磁性体、及び、前記磁性体の外側に巻回された検出コイルを含み、前記入力コイルの内側に配置されている。前記同期検波器は、前記検出コイルに誘起される誘起電圧に含まれる前記高周波磁界の周波数f成分と励磁周波数fとを用いた掛算処理により、前記誘起電圧を同期検波し、低周波成分である|f-f|成分を抽出する。
【0010】
このような構成によれば、励磁周波数fと高周波磁界の周波数fとの間に周波数混合を生じさせ、低周波成分である|f-f|成分を抽出することにより、当該低周波成分を用いて高周波磁界を高感度で検出することができる。
【0011】
(2)前記励磁電流には、直流成分及び交流成分が含まれていてもよい。
【0012】
このような構成によれば、基本周波型直交フラックスゲートを用いたセンサヘッドにより、高周波磁界を高感度で検出することができる。
【0013】
(3)前記直流成分により発生する直流磁界は、前記交流成分により発生する交流磁界の振幅よりも大きいことが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、低雑音化を向上することができる。
【0015】
(4)前記励磁電流には、交流成分が含まれ、直流成分は含まれなくてもよい。
【0016】
このような構成によれば、倍周波直交フラックスゲートを用いたセンサヘッドにより、高周波磁界を高感度で検出することができる。
【0017】
(5)前記励磁電流には、直流成分が含まれ、交流成分は含まれなくてもよい。
【0018】
このような構成によれば、入力コイルが磁性体の保磁力を越えるような磁界を与え、磁性体内に磁壁移動が生じ、検出コイルに磁気雑音を引き起こす恐れがある場合に、磁気雑音を抑制することができる。
【0019】
(6)前記励磁周波数fは、|f-f|≦f/10を満たし、前記同期検波器は、通過周波数がf/10以下である低域通過フィルタを備えることが好ましい。
【0020】
このような構成によれば、|f-f|周波数の低周波成分を3次ないし5次のローパスフィルタを用いて容易に抽出することができる。
【0021】
(7)前記高周波磁界センサは、前記入力コイル及び前記センサヘッドの外側を覆う磁気シールドをさらに備えていてもよい。
【0022】
このような構成によれば、検出対象となる高周波磁界以外の不要な磁界入力に対して高周波磁界センサが作動することを防止できる。
【0023】
前記高周波磁界センサは、前記ピックアップコイルと前記抵抗の間に、入力インピーダンスが大きく、出力インピーダンスが小さい1以上の電圧増幅率を持つ雑音の小さな増幅器を備えても良い。このようにすれば、ピックアプコイルに電流を流すことなく誘起電圧を検知し、その誘起電圧に比例する電流を抵抗を介して入力コイルに通電することができる。
【0024】
(8)前記高周波磁界センサは、スイッチをさらに備えていてもよい。前記スイッチは、前記ピックアップコイルと前記入力コイルとの間に設けられ、通電をオン状態又はオフ状態に切り替える。
【0025】
このような構成によれば、必要に応じてスイッチをオン状態からオフ状態に切り替えることにより、センサヘッドに大きな磁界入力が加わり高周波磁界センサが飽和することを回避できる。
【0026】
(9)前記高周波磁界センサは、前記高周波磁界に基づく信号を発生させるためのバースト信号の送信中は前記スイッチをオフ状態とし、その後に前記スイッチをオン状態に切り替えることにより、前記ピックアップコイルで受信するリンギングダウン信号に基づいて、前記高周波磁界を検出してもよい。
【0027】
このような構成によれば、バースト信号の送信中にセンサヘッドに大きな磁界入力が加わり高周波磁界センサが飽和することを回避しつつ、高周波磁界を高感度で検出することができる。
【0028】
(10)前記磁性体は、磁性ワイヤからなる磁性体であってもよい。
【0029】
このような構成によれば、簡単な構成により高周波磁界を高感度で検出することができる。
【0030】
(11)前記磁性体は、無磁歪組成のアモルファス磁性体であってもよい。
【0031】
このような構成によれば、高周波磁界をより高感度で検出することができる。
【0032】
(12)前記高周波磁界センサは、前記ピックアップコイルで受信するリンギングダウン信号の波形と、予め定められた波形との相関関係に基づいて、前記高周波磁界を検出してもよい。
【0033】
このような構成によれば、リンギングダウン信号の波形に基づいて、高周波磁界をより高感度で検出することができる。
【0034】
(13)本発明に係る盗難防止システムは、前記高周波磁界センサと、バースト信号送信部と、前記バースト信号送信部により前記高周波磁界を発生する共振タグとを備える。
【0035】
このような構成によれば、共振タグから発生する高周波磁界を高周波磁界センサにより高感度で検出し、共振タグが取り付けられた商品の盗難を防止することができる。
【0036】
(14)床及び/又は天井の複数のエリアに前記高周波磁界センサが設けられ、前記高周波磁界センサからの検出信号に基づいて、前記高周波磁界が検出された前記エリアを特定してもよい。
【0037】
このような構成によれば、共振タグから発生する高周波磁界が検出されたエリアを特定することができるため、共振タグが取り付けられた商品の盗難を効果的に防止することができる。
【0038】
(15)前記共振タグは、アモルファス薄帯又はフェライトコアを用いたタグであってもよい。
【0039】
このような構成によれば、アモルファス薄帯又はフェライトコアを用いた共振タグから、高周波磁界を高周波磁界センサにより高感度で検出し、当該共振タグが取り付けられた商品の盗難を防止することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、高周波磁界を高感度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】倍周波型平行フラックスゲートの基本構造を示す図である。
図2】倍周波直交フラックスゲート及び基本周波型直交フラックスゲートの基本構造を示す図である。
図3】回転磁化モデルを示した図である。
図4】基本周波型直交フラックスゲートの励磁磁界の時間波形を示す図である。
図5】入力磁界の増加に対する鎖交磁束の時間波形変化を示す図である。
図6】軸方向透磁率の大きさと励磁磁界との関係を表す図である。
図7】高周波磁界センサの実施例を示す概略図である。
図8】掛算処理について説明するための図である。
図9】掛算処理について説明するための図である。
図10】掛算処理について説明するための図である。
図11】掛算処理について説明するための図である。
図12】棒状コアからなる磁性体を用いた高周波磁界センサを示す概略図である。
図13】スイッチを用いた高周波磁界センサを示す概略図である。
図14】LC共振マーカーを52.6kHzのバースト磁界中に置き、共振の確立とバースト磁界遮断後の減衰振動を非接触で観察したときの波形を示す図である。
図15】高周波磁界センサを用いた盗難防止システムの一例を示す概略図である。
図16図15の送信アンテナコイルに52.6kHzのバースト電流を印加した結果を示す図である。
図17】タグとピックアップコイルの距離が2.3mの時の実験波形を示す図である。
図18】バースト電流波形の一例を示す図である。
図19】励磁コイルの向きを90度回転して検出コイルとの直接的カップリングを排除した場合の波形を示す図である。
図20】タグとピックアップコイルの距離が2mの時の実験波形を示す図である。
図21】相互相関のテンプレートとして利用した理論的減衰振動応答のバースト信号終了後1msの波形を示す図である。
図22】アモルファス共振タグと検出コイル間の距離2mの場合の相互相関処理の結果を示す図である。
図23】アモルファス共振タグと検出コイル間の距離2.3mの場合の相互相関処理の結果を示す図である。
図24】AM方式EASアンテナの動作説明図である。
図25】AM方式EASアンテナのバースト送信波形とAMフェライトタグの反応信号波形を示す図である。
図26】FM-OFGによるAMアモルファスタグの受信信号を2.3mの位置で観測した波形を示す図である。
図27】AMフェライトタグから3mの位置にピックアップコイルを置いた場合の受信信号波形を示す図である。
図28】縦型アンテナを用いた盗難防止システムの構成例を示す概略図である。
図29】天井アンテナを用いた盗難防止システムの構成例を示す概略図である。
図30】狭い間口の床アンテナを用いた盗難防止システムの構成例を示す概略図である。
図31】巾広間口の床アンテナを用いた盗難防止システムの構成例を示す概略図である。
図32】巾広間口の床アンテナ及び天井アンテナを用いた盗難防止システムの構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
1.従来技術からの改良点
本実施形態に係る高周波磁界センサの送信部分は、AM方式のセキュリティシステム(盗難防止システム)の現状において、送信出力信号を電波法基準より十分小さくして周りの電子機器への影響を小さくした状態での運用を実現するものである。この技術は、米国特許第10049547号明細書(出願人:アイアンドティテック株式会社)にも開示されている通りであり、電界強度は、電波法の基準である送信コイルからλ/2π離れた地点での電界強度15μV/mに対して、3μV/m程度(基準の約1/5程度)の十分低い電界強度で動作するものである。
【0043】
送信出力が小さいAM送信コイルで、AMアモルファスラベルタグやAMフェライトハードタグなどの受動タグを励磁して観測されるリンギングダウン信号(減衰振動波形の信号)は非常に小さく、これらのタグから受信装置までの距離を大きくすることは困難であった。本実施形態の大きな特徴は、受信回路の改良に関するものである。
【0044】
従来、微弱な磁界強度の計測にはフラックスゲート技術が使われているが、計測できる周波数範囲はDC~1kHz程度であり、通常AM方式のセキュリティシステムで用いられている58kHz帯では使用できなかった。そこで、本実施形態では、フラックスゲート技術の改良として下記改良を施した。
(1)AM送信バースト波は58kHzで、この58kHzに共振したAMタグからの58kHz帯の比較的高周波の磁界は、ピックアップコイルとその受信信号を受ける増幅器で電流へ変換する。
(2)電流に変換された受信信号は細長いセンサヘッド周囲に巻き回された入力コイルを用いてフラックスゲート磁界センサへ磁界入力として与える。
(3)フラックスゲート磁界センサの励磁周波数fを58kHzに数kHz差まで接近させれば、58kHzの高周波磁界と励磁周波数fとの間に周波数混合を生じさせることによって、入力された磁界信号の包絡線特性を保持しつつ、周波数が58kHzとfとの差周波数へダウンコンバートされた磁界信号として検出できることを利用する。
【0045】
このように、フラックスゲートの高感度低雑音性をAM共振タグ信号のAM受信系に組み込むことによって、その受信範囲を大幅に拡大できるようにしたものである。具体的には、従来は1m程度の受信範囲(共振タグと受信アンテナ間の距離)を例えば3m程度に拡大することができる。この場合、フラックスゲートは他の磁界入力に対しても作動するので、センサヘッドは高性能磁気シールドによって磁気遮蔽する必要がある。本実施形態では、ピックアップコイルとして、例えば、直径4cmでターン数が80程度の小型のコイルを用いることができる。ピックアップコイルは、空芯コイルであってもよいし、内側に磁性体が配置されていてもよい。
【0046】
後の説明のために、フラックスゲートを用いた上述の検出方式を「周波数混合型フラックスゲート技術」と呼称する。従来の技術では、例えば、30cm幅の送信と受信を一本で機能させるAM送受信アンテナでは、AMアモルファスラベルタグからなるタグからアンテナまでの距離は80~90cm、AMフェライトハードタグからなるタグからアンテナまでの距離は1.0m~1.1mというのが一般的である。しかし、本実施形態の技術を使用すれば、従来より小さな受信コイルでタグからの受信距離を2倍以上拡大することができる。
【0047】
ただし、検出対象となる高周波磁界は、58kHzに限らず、例えば30kHzなどの他の周波数帯で使用されるAMタグ以外の方式のセキュリティ(バースト波セキュリティ)にも本発明を適用可能である。
【0048】
2.周波数混合型フラックスゲート技術
本実施形態では、フラックスゲート技術の中でも基本波型直交フラックスゲートを用いるものを詳述するので、一般的なフラックスゲートに対比させながら基本波型直交フラックスゲートの動作を説明し、その後、周波数混合動作について説明する。以降、フラックスゲートを「FG」(FluxGate)、基本波型直交フラックスゲートを「FM-OFG」(Fundamental Mode Otrhogonal FluxGate)と略記する。
【0049】
(2-1)倍周波型FGと基本波型直交FG
図1は、倍周波型平行フラックスゲートの基本構造を示す図である。この基本形は、1936年にAschenbrennerとGoubauによって発表された(H. Aschenbrenner and G. Goubau, Hochfrequenrtecnik und Elektroakustik, Band 47, Heft 6, pp.177-181 (1936))。外部検出磁界の大きさは、コアの交流励磁周波数をfとした場合、2倍周波数2fで同期検波した出力で得られるが、磁気コアを磁化反転させるのでバルクハウゼン雑音が発生するという問題があった。この図1から分かるように、励磁コイルと検出コイルの2つが必要であり、構造は次に説明する直交型に比べ複雑化する。
【0050】
次にPalmerの発表(T. M. Palmer, Proc. IEE (London), Vol.100, pt.B, pp.545-550 (1953))による倍周波直交フラックスゲート(倍周波直交FG)がある。また笹田(特許第4565072号)による基本周波型直交フラックスゲート(FM-OFG)がある。これらを図2に示す。図2は、倍周波直交フラックスゲート及び基本周波型直交フラックスゲートの基本構造を示す図である。図2において、波形iは励磁電流波形、波形vは誘起電圧波形、fは励磁周波数を示す。
【0051】
図2Aに示す倍周波直交フラックスゲート、及び、図2Bに示す基本周波型直交フラックスゲートは、いずれも磁性ワイヤコアと検出コイルの2つの構成要素からなり、図1の平行フラックスゲートより構造が簡単である。図2の2つのフラックスゲートの違いは、図2Aの倍周波直交フラックスゲートでは励磁電流の極性が交番するが、図2Bの基本周波型直交フラックスゲートでは励磁電流は単極性(図では常に正極性)である。この違いによって、基本周波型直交フラックスゲートではワイヤコアからのバルクハウゼン雑音が抑制され、倍周波直交フラックスゲートではバルクハウゼン雑音が発生する。
【0052】
図2Aの倍周波直交フラックスゲートでは、励磁電流に交流成分が含まれ、直流成分は含まれない。一方、図2Bの基本周波型直交フラックスゲートでは、励磁電流に直流成分及び交流成分が含まれ、直流成分により発生する直流磁界は、交流成分により発生する交流磁界の振幅よりも大きい。図2Bの基本周波型直交フラックスゲートでは、交流励磁電流に、その振幅よりも大きな直流電流を重畳することによって基本波モードが現れ、しかも格段に低雑音化できる。
【0053】
(2-2)FM-OFGにおける周波数混合動作
基本波型直交フラックスゲートのセンサヘッドには、直流バイアスされた交流励磁電流を流すが、これによってセンサヘッドのコアの軸方向透磁率は励磁周波数の周期で変化する。説明のため、以下では細長いコアの長手方向をz軸としている。検出コイルへの誘起電圧は、入力される磁界Hと軸方向透磁率μの積である軸方向磁束密度Bzに、コイル巻き回数nNとセンサヘッドのコアの実行断面積Sをかけて得られる鎖交磁束φz(=nSμH)を時間微分したものである。入力磁界が直流ないし低周波であれば、誘起電圧は透磁率の周期的変化によって発生するのが主であるが、入力磁界そのものが励磁周波数に近い高周波であれば、透磁率の定数成分による磁束成分からも大きな誘起電圧が発生する。この2番目の誘起電圧が励磁に同期して検波されるとき、励磁周波数(fHzとする)と入力された高周波磁界の周波数(fHzとする)との間に周波数混合が起き、(f+f)周波数成分と|f-f|周波数成分とが生成される。この低周波側の成分|f-f|は、基本波型直交フラックスゲートの検出周波数帯より上にある高周波磁界を高感度に検出する手段として利用することができる。この場合の動作を周波数軸で説明すれば次のようになる。
【0054】
励磁周波数f、基本波型直交フラックスゲートの本来の検出周波数帯を0~Δfとすれば、f±Δfの周波数軸上に存在する高周波磁界を0~Δfへ周波数変換(ダウンコンバート)して検出する。この点で普通のインダクションコイル型センサとは大きく異なるが、AM共振タグのリンギングダウン信号の受信装置に使用することができる。基本波型直交フラックスゲートにおいてどのようにして周波数混合が起きるのかについては、これまであまり研究者の興味を引かず、ビート現象の1つとして考えられていた。周波数混合において重要なのは、FM-OFGのセンサヘッドのコアの軸方向透磁率(感度軸方向の透磁率)の定数成分であるが、励磁電流によって周期的に変化する透磁率からどのようにして導かれるのかについて詳述し、周波数混合を利用する高周波磁界検出系の構成法と実験結果について述べる。
【0055】
(2-2-1)基本波型直交フラックスゲートコアの長手方向透磁率[μ
基本波型直交フラックスゲート(FM-OFG)では、細長い金属磁性薄帯あるいは磁性ワイヤからなる磁性体がセンサヘッドのコア(細長い磁性体)に用いられ、コアに直流バイアスされた交流励磁電流が通電される。コアには、その外側を取り囲むように、コアの長さ全体あるいはそれより短い範囲に検出コイルが巻回され、その検出コイルには入力磁界に対する応答磁束が鎖交する。このように、センサヘッドは、励磁電流が流れる磁性体、及び、磁性体の外側に巻回された検出コイルを含む。
【0056】
コアのスキンデプスより外側にある表層部における磁化の振る舞いがフラックスゲートの動作を決定づけるが、それに関係する諸量は、コアの飽和磁化Js、コアの表層部に存在する磁気異方性K、入力磁界(検出対象磁界)H、および励磁磁界Hexである。これらの諸量によって記述される図3の回転磁化モデルによってフラックスゲートの動作は説明される。
【0057】
図3は、回転磁化モデルを示した図である。この図3で、コアの長手方向をz軸として、入力磁界Hはz軸方向に入力され、コアに通電される直流バイアスされた交流励磁電流が作る磁界Hex(=Hdc+Hac)はコアの周方向にある。磁気異方性は、一軸磁気異方性で表現されている。磁気異方性定数の大きさKと円周方向からのなす角α、および飽和磁化Jsは、コアの磁性体の性質に起因する。Hは計測する未知の量で、励磁磁界Hexは時間の関数である。図3の角θは、下記式(1)で表される磁気エネルギーEを最小化する方向として決定されるので、θによる式(1)の導関数=0とした方程式(2)からθを求めることができる。
【0058】
【数1】
図4は、基本周波型直交フラックスゲートの励磁磁界の時間波形を示す図である。図4のように励磁磁界Hex=Hdc+Hac・sinωt(Hac≦Hdc)が時間変化するので、時間の有限サンプル点でHexの時系列を算出し、その各値を式(2)に代入してθの時系列を計算する。
【0059】
一般に、磁束密度Bは真空の透磁率μ(μ=4π×10-7)を用いてB=J+μHと表されるが,J>>μHが成り立つ場合はB≒Jと見なして良い。特にHが微弱な入力磁界(例えばH<1A/m)であるとして議論する場合はJz>>μHを仮定しても問題なく、Bz≒Jz=Js・sinθと見なして良い。
【0060】
図5は、入力磁界の増加に対する鎖交磁束の時間波形変化を示す図である。図5では、励磁磁界によって周期的に時間変化している正規化磁化(Jz/Js)が入力磁界Hによってどのように変化するのかについて、HをΔHステップで数段階変化させて計算した結果を示している。この数値計算では、物性値としてJs=0.7T、K=7Joule/m、α=10°とし、Hdcは直径120μmのワイヤに40mAの直流電流を流した時、Hacは振幅が30mAの交流電流を流した時のワイヤ表面での値とし(Hdc≒106A/m、Hac≒80A/m)、そしてΔH=0.1A/mとしている。
【0061】
図5の曲線群間隔から軸方向(増分)透磁率ΔBz/ΔHの振る舞いを知ることができる。図5で隣接する曲線間隔が大きいのは、一周期間で正規化した時間で見ると0.75の付近で、逆に間隔が小さい所は0.25の付近である。これを励磁磁界との関係で見ると、Hex/Hdcが小さい所でΔBz/ΔHが大きく、Hex/Hdcが大きいところでΔBz/ΔHが小さいことが分かる。図5で各時間に対して曲線群の間隔の大きさを読み取り、図4で同様に励磁磁界の大きさを読み取って、媒介変数である時間tを消去すれば、軸方向透磁率と励磁磁界との関係を求めることができる。
【0062】
図6は、軸方向透磁率の大きさと励磁磁界との関係を表す図である。図6の曲線は下に凸でかつ単調である。細線は曲線の両端点をつないだ補助線で、曲線の曲がり具合が目視できるようにしている。曲線の変化は単調であるので2次までの項で近似できる。これを実際に計算すると(増分)透磁率の近似式は以下の式(3)ようになる。
【数2】
【0063】
Hex/Hdc=(1+Hac/Hdc・sinωt)と元に戻してsinωtの次数ごとに整理し、定数項をk、sinωtの1次の項の係数をk、同2次の項の係数をkとすると、以下の式(4)のように一般化した形にできる。
【数3】
【0064】
図6の場合について各係数の大きさを示すと、以下の式(5)のようになる。kとkは正で、kは負になるが、その絶対値に桁違いの大きさの差は無い。
【数4】
【0065】
(2-2-2)周波数混合と検出コイル誘起電圧
検出コイル誘起電圧は、検出コイルへの鎖交磁束φzを求め、それを時間微分することで計算することができる。入力磁界Hが基本波型直交フラックスゲート(FM-OFG)の作用で検出コイルへ鎖交する磁束を表現する関係式は、コアの実行断面積S、コイル巻き回数nとすれば、式(4)の透磁率にH・n・Sの積を乗じたものとなる。式(4)を更に調波成分で表現すれば、下記式(6)が得られる。
【数5】
【0066】
式(6)のφzの他にも、検出コイルへ鎖交する磁束がある。図5のHin=0に対応するJzの成分(太い実線で表示)は、入力磁界が無くても検出コイルに鎖交する磁束を生成することを意味しており、検出においてはオフセットの原因となる。H=0の場合に現れる鎖交磁束は、式(6)で与えられる磁束に時間波形は相似であるので、この影響を入力磁界Hに定数磁界Hoffとして加算して表現することができる。オフセットまで考えた鎖交磁束の式は下記式(7)のようになる。
【数6】
【0067】
入力磁界をH=h・sinωt、励磁角周波数をωとして、式(7)の鎖交磁束を具体的に表せば、下記式(8)のようになる。
【数7】
【0068】
これを時間で微分すると、下記式(9)のように検出コイルに誘起する電圧が得られる。
【数8】
【0069】
通常動作の基本波型直交フラックスゲートではω<<ωの関係にあり、式(9)は、ωを係数に持つ項を落として次の式(10)ように近似できる。
【数9】
【0070】
(2-2-3)周波数混合と同期検波操作
同期検波は、変調波に振幅1のキャリア波cosωtを乗じて得られる低周波成分を抽出する操作である。FM-OFGでは、式(9)ないし式(10)の誘起電圧を更に増幅して同期検波を行い磁界信号を得るが、増幅操作は電圧を相似拡大するだけである。同期検波によってどのような周波数成分が抽出されるのかについては、増幅操作は何の影響も及ぼさないので、ここでは増幅操作を無視する。式(10)の第1括弧内の第一項は、キャリア波cosωtの包絡線がh・sinωtで変化するように変調を受けた波形(変調波)である。この変調波にcosωtを掛ければ、以下の式(10-1)の右辺第一項で示す様に、低周波成分sinωtを分離できるので、ローパスフィルタを用いてこれを取り出すことができる。
【数10】
【0071】
左辺のキャリア波形がcos(ωt+ψ)のように位相ψを持つ場合は、これに合わせて同期検波でもψの位相調整をしたcos(ωt+ψ)を乗じる。掛け算の後に配置されるローパスフィルタの遮断角周波数は、通常ωの1/10以下である。式(10)の第一括弧内の第二項の誘起電圧波形は、同第一項と同じ包絡線を持つが、角周波数ωcでの同期検波によって低周波成分は出現しないので除去される。このように、ω<<ωの関係にある通常動作での基本波型直交フラックスゲートでは、式(9)の第二括弧の第二項がその出力を決定する。透磁率について言えば、式(4)の第二項が決定的役割を果たす。
【0072】
offを係数に持つオフセット項にcosωtを掛けると、
(オフセット項)cosωt→定数項,sinωt,cos2ωt,sin3ω
となるが、直流オフセットを表す定数項以外はローパスフィルタで除去される。
【0073】
一方、例えば|ω-ω|≦ω/10となる程度にωがωに接近している場合は、ωsを係数に持つ項を落とした式(10)のような近似はできない。式(9)の誘起電圧に同期検波操作を行うために、キャリア波であるcosωtを掛ける。これによって式(9)の各項からどのような周波数成分が出てくるかを以下に示す。
(第一項)cosωt→cos(ω-ω)t,cos(ω+ω)t
(第二項)cosωt→sinωt,sin(2ω-ω)t,sin(2ω+ω)t
(第三項)cosωt→cos(ω-ω)t,cos(ω+ω)t,cos(3ω-ω)t,cos(3ω+ω)t
第四項はオフセット項で式(10)で議論した上述のとおりである。
【0074】
上記において、第一項と第三項から取り出せる(ω-ω)の周波数成分は、ローパスフィルタの遮断角周波数をω/10程度に設定しておけば、十分に同期検波によって検出できる周波数である。式(9)の誘起電圧を同期検波して得られる(ω-ω)の角周波数成分の総和について計算した結果を下記式(11)に示す。
【数11】
【0075】
実測によって式(11)の出力の角周波数ωが得られて、それからωを逆算する場合、ω>ωであるかω<ωであるかに注意しなければならない。実際にはω=ω-ωであるか、ω=ω-ωである。これを識別するために、ωを可変にできるようにしておく必要がある。ωを大きくして出力波形の角周波数が小さくなれば、ω=ω-ωの場合であり、逆に出力波形の角周波数が大きくなれば、ω=ω-ωの場合である。
【0076】
(2-2-4)高周波磁界の検出器の実施例
高周波磁界検出用FM-OFGは、低周波磁界検出用の通常の直交フラックスゲートの構成法において、必要に応じて励磁周波数を可変にできる励磁回路方式を用いる。検出したい周波数があらかじめ判明している場合は、固定周波の励磁回路を用いることもできる。また、高周波磁界を検出対象とするので、ピックアップコイルを用いてあらかじめ磁束から電圧への変換を行い、この電圧を増幅し、抵抗を用いて電圧から電流へ変換して、FM-OFGのセンサヘッドの周囲に巻き回した入力コイルにこれを供給して磁界入力とすることができる。この場合、センサヘッド周りは環境磁界から遮蔽することが好ましい。
【0077】
図7は、高周波磁界センサ100の実施例を示す概略図である。この高周波磁界センサ100は、高周波磁界を検出するためのセンサであって、ピックアップコイル1、増幅器2、抵抗3、入力コイル4、センサヘッド5、磁気シールド6、前置増幅器7及び同期検波器8などを備えている。
【0078】
ピックアップコイル1は、共振タグなどから発生する高周波磁界に基づく信号を受信する。当該信号は、例えば減衰振動信号(周波数f)である。ピックアップコイル1には、増幅器2及び抵抗3を介して、入力コイル4が電気的に接続されている。増幅器2は、ピックアップコイル1で受信した微弱な減衰振動信号(周波数f)を増幅する。この増幅器2は、大きな入力インピーダンス及び小さな出力インピーダンスを有する。増幅器2により増幅された電圧は、抵抗3により電流に変換される。ただし、ピックアップコイル1が大きい場合には、増幅器2を省略することも可能である。この場合は、ピックアップコイル1側から見て高インピーダンス、入力コイル4側から見て低インピーダンスとなるようインピーダンス変換回路を設けることが好ましい。
【0079】
センサヘッド5は、磁性体51及び検出コイル52を含む。磁性体51は、磁束を効率よく導入できるよう(反磁界効果が小さくなるよう)細長い形状を有しており、その外側に検出コイル52が巻回されている。磁性体51に励磁電流を流すことにより、検出コイル52に誘起電圧が誘起される。センサヘッド5は、入力コイル4の内側に配置され、これにより、入力コイル4及び検出コイル52が磁性体51を中心とする同軸上に配置されている。ピックアップコイル1で受信した減衰振動信号(周波数f)は、磁性体51の長さ方向に受信信号に相似な減衰振動磁界を発生するよう入力コイル4に与えられる。磁気シールド6は、入力コイル4及びセンサヘッド5の外側を覆うケース状の部材であり、センサヘッド5を外部の外乱磁場から遮蔽する。ただし、磁気シールド6は省略されてもよい。
【0080】
検出コイル52には、前置増幅器7を介して、同期検波器8が電気的に接続されている。これにより、検出コイル52に誘起される誘起電圧が、前置増幅器7により増幅されて同期検波器8に入力される。前置増幅器7は、同期検波器8の手前に設けられ、同期検波する前に信号を増幅するが、この構成に限らず、同期検波後の低周波に変換された信号に対して増幅器を設けても良い。ただし、前置増幅器7は、感度を向上するために有効であるが、省略することも可能である。
【0081】
同期検波器8は、検出コイル52から前置増幅器7を介して入力される電圧を同期検波するための回路であり、掛算器81及びローパスフィルタ(低域通過フィルタ)82を含む。掛算器81では、検出コイル52に誘起される共振タグなどの検出対象の高周波磁界に基づく減衰振動信号の周波数fと励磁周波数fを用いた掛算処理により、誘起電圧の同期検波が行われる。ローパスフィルタ82は、掛算器81による掛算処理に基づいて、低周波成分である|f-f|成分を抽出し、高周波磁界センサ100の出力信号として出力する。掛算器81は、例えばアナログスイッチを含み、同期検波器8への入力電圧をViとすれば、周波数fの半周期はViを出力し、他の半周期では-Viを出力する。このように、励磁周波数fの半サイクルで+1倍したものを取り、残りの半サイクルで-1倍したものを取る。このように掛算器81のもう1つの入力は励磁周波数fの制御信号(例えば±1の矩形波)である。
【0082】
以下、高周波磁界センサ100の構成について、さらに具体的に説明する。センサヘッド5は、通常のFM-OFGのものと同様に、磁性体51としての磁性ワイヤコアをUの字型(実際にはわずかに隙間のあるヘアピンのような形状)に曲げ、その周囲に検出コイル52が巻き回されている。検出コイル52のターン数をn1とする。更にその外側には検出コイル52と同軸上に入力コイル4が巻き回されている。入力コイル4のターン数をn2とする。図7では、2つのコイル(入力コイル4及び検出コイル52)は断面によって表示している。Uの字型のワイヤコアには直接励磁電流が供給される。
【0083】
基本周波型直交フラックスゲートを用いたセンサヘッド5では、励磁電流は直流成分と交流成分を含み、idc+iac・sin(ωt+ψ)で表される。直流成分idcは交流成分の振幅値iacより大きく設定される。交流成分は、必要に応じて位相調整される。ピックアップコイル1と増幅器2を用いることによって、検出感度を高くすることができる。センサヘッド5に磁界を入力する入力コイル4が、検出コイル52への誘起電圧を短絡することが無いように、入力コイル4に電流を供給する回路は十分大きな抵抗を持つことが好ましい。
【0084】
検出コイル52から見た入力コイル4側の抵抗はR(n1/n2)になるが、100kΩ以上あれば十分である。例えばn1=1000、n2=20とすれば、R>40Ωとすれば良い。また、ピックアップコイル1の電圧を増幅する回路の帯域は、必要以上に広くするよりも、ω/(2π)±10kHzあれば良い。センサヘッド5の周囲には、環境磁界を遮蔽する磁気シールド6を配置する。センサヘッド5の外径を8mm程度に製作し、入力コイル4の外径を10mm程度にすることは容易であるので、磁気シールド6は多層円筒型とすることができる。この場合、最内層の直径を11mmとすれば、高透磁率の磁性薄帯を用いて3層構造にして、円筒軸方向のシールド比が4000程度の円筒型磁気シールドは容易に製作することができる。
【0085】
以上の入力磁界の周波数とFM-OFGの励磁磁界周波数との間で周波数混合が生じるプロセスの本質は、磁性体51の透磁率の定数項と励磁周波数fの2次の項をとおして、周波数fの信号磁界が検出コイル52に鎖交磁束を発生し、その時間微分として現れる周波数fの電圧を、周波数fに同期した同期検波器で検波することによって、sin[2πft]とsin[2πft]との間で乗算が引き起こされるものである。そして、本発明では、乗算の結果発生する和(f+f)と差|f-f|の周波数成分のうち、低周波成分|f-f|のみを抽出する。励磁周波数fは、|f-f|≦f/10を満たすように設定されることが好ましい。この場合、ローパスフィルタ82の通過周波数は、f/10以下である。乗算操作は同期検波の本質であるので、入力される高周波磁界を電圧に変えて適宜増幅し、同期検波し、低周波成分のみをローパスフィルタ82で抽出すれば、上述した発明を実装することができる。
【0086】
上記の演算(掛算処理)について、図8図11を用いてさらに詳細に説明する。図8図11は、掛算処理について説明するための図である。図8に示すような矩形波は、奇数高調波の正弦波の集まりであり(Fourier級数理論)、第2n-1高調波の振幅を1/(2n-1)とした総和で表される。ここにn=1,2,3・・・である。これを5つの波形について図9に例示する。
【0087】
図9に示す波形は、振幅の一番大きいものから順に、図9Aの基本波(振幅1/1)、図9Bの3倍波(振幅1/3)、図9Cの5倍波(振幅1/5)、図9Dの7倍波(振幅1/7)、図9Eの9倍波(振幅1/9)である。これらの波形を加算すれば、図10に示すように、矩形波に漸近する。図11は、49次までの総和を示しており、さらに矩形波に漸近していることが分かる。
【0088】
図7に示す掛算器81で矩形波を掛けて、ローパスフィルタ82で低周波成分のみを抽出することにより、矩形波の基本波であるsin[2πft]を掛けたものだけを取り出したことになる。つまり、矩形波を信号波に掛ければ、実質的にsin[2πft]×sin[2πft]が行われる。この結果をローパスすれば、sin[2π|f-f|t]の成分が出力される。
【0089】
重要となるのは、入力高周波磁界をできるだけ雑音を排して電圧に変換する手段である。FM-OFGを用いる場合は、センサヘッド5の磁性体51の透磁率の定数項と励磁周波数の2次の項がこのために作用したが、定数項のみを用いることにすれば、FM-OFGのセンサヘッド部分を棒状のコア(磁性体51)とそれに巻き回した検出コイル52としてのソレノイドコイル(インダクションコイルと呼称する)に置き換えることができる。微弱な高周波磁界を検出することを目的とする場合、検出コイル52によって高周波電圧に変換され、適宜増幅器やさらに直列に接続される抵抗によって電流に変換されるが、それもまた微弱である。微弱な電流が磁性体51の周りに巻き回された入力コイル4に通電されるが、それによって生じる磁界もまた微少である。引き起こされた磁界が磁性体51の保磁力よりも十分小さければ、磁性体内部では磁壁移動は起きず、ピンニングされた点から遠い磁壁部分の振動によって磁束変化が可逆的に生じ、バルクハウゼン雑音は抑制される。インダクションコイルには雑音の少ない高周波の誘起電圧が現れ、これをfで同期検波すれば、式(11)でk=0とした成分が得られる。
【0090】
図12は、棒状コアからなる磁性体51を用いた高周波磁界センサ100を示す概略図である。この例では、図7の構造において、FM-OFGのセンサヘッド5を棒状コアからなる磁性体51で置換したものとなっている。仮に検出したい高周波磁界が想定より大きく、入力コイル4が作る磁界が棒状コアからなる磁性体51の保磁力を越える位に大きくなる場合は、磁気雑音を発生することになるが、時間波形としての入力磁界の情報、つまり周波数(この場合は差周波数)や振幅値等の情報の抽出は、大きな信号出力が対象となるので問題無く可能である。
【0091】
図13は、スイッチ9を用いた高周波磁界センサ100を示す概略図である。ピックアップコイル1と入力コイル4との間の配線の一部には、通電をオン状態又はオフ状態に切り替えるスイッチ9が設けられている。この例では、増幅器2と抵抗3との間にスイッチ9が設けられているが、これに限らず、例えば抵抗3と入力コイル4との間にスイッチ9が設けられていてもよい。共振素子を含む共振タグからの減衰振動磁界を検出する場合は、バースト磁界によるセンサ系の飽和を回避するために、図13に示すスイッチ9をオン状態からオフ状態に切り替えることにより、入力を遮断することができる。
【0092】
入力コイル4が磁性体51の保磁力を越えるような磁界を与え、磁性体51内に磁壁移動が生じ、インダクションコイル(検出コイル52)に磁気雑音を引き起こす恐れがある場合、図3のHdcのみを与えて磁気雑音を抑制することができる。すなわち、磁性体51に、直流成分及び交流成分を含む励磁電流を流すのではなく、直流成分のみ(idc)が含まれ、交流成分は含まれない励磁電流を流せばよい。この場合の電流は機能的には励磁電流と言うよりバイアス電流あるいは直流磁化電流と言うべきである。この場合、Hacは存在しないが、Hdcが磁性体51の表層部を磁化飽和させる程度に十分大きければ、磁化のプロセスは磁化回転になる。つまり磁壁の移動が発生しないので、磁気雑音を抑制することができる。あるいは、磁性体51に電流を流さない構成であってもよい。
【0093】
AM(音響磁気)方式EAS(電子商品監視)セキュリティシステムのように、エネルギー蓄積素子からなるタグの有無を検出しようとする場合は、タグの励磁に比較的大きな磁界を必要とする。この場合、ピックアップコイル1を通してセンサヘッド5に大きな磁界入力が加わるのでFM-OFGセンサは飽和する危険性がある。このため、短期間のタグ励磁(通常バースト波形)を加えている期間は入力コイル4をピックアップコイル1及び増幅器2から切り離し、タグ励磁終了後にスイッチ9を閉じてエネルギー蓄積素子からの減衰振動磁界を検出するようにする方法が望ましい。
【0094】
<52.6kHz共振マーカーの例>
スイッチ9の開閉は、例えば励磁バースト波の印加期間HまたはLのロジックレベルのタイミングパルスを用い、アナログスイッチにて行うことができる。以下、検証実験を行った。
【0095】
ピックアップコイル1には直径4cm、ターン数80のコイルを用い、増幅率100の増幅器2及び抵抗R=47Ωを用いて、入力コイル4は23ターンとした。タグの模擬として、以下のように製作したLC共振マーカーを用いた。厚さが20μm程度のMetglas2714aアモルファス磁性薄帯の3mm幅のものを、長さを20mm程度に切り揃え、それらを36枚重ねてコアとした。コイル巻き枠は3Dプリンターで作製し、0.3mm径の銅線を施した。銅線の両端に47nFのコンデンサを接続し、52.6kHzで共振するマーカーを製作した。共振回路の損失をrとすると,共振のQと共振角周波数ω及びインダクタンスLを用いてr=ωL/Qと表せる。これらのパラメータを用いて、減衰振動は下記式(12)及び式(13)で表される。
【数12】
【0096】
図14は、LC共振マーカーを52.6kHzのバースト磁界中に置き、共振の確立とバースト磁界遮断後の減衰振動を非接触で観察したときの波形を示す図である。バースト磁界はt=0の時点で遮断され、直後からエネルギー放出に伴う減衰振動磁界が観測される。このマーカーを用いて図15のような配置で回路の動作実験を行った。
【0097】
図15は、高周波磁界センサ100を用いた盗難防止システムの一例を示す概略図である。この盗難防止システムには、高周波磁界センサ100の他に、高周波磁界を発生するタグ(マーカー)200と、タグ200をタグ励磁するためのバースト信号送信部300とが含まれる。バースト信号送信部300は、互いに直列接続された正弦波発生器301、励磁コイル302及び励磁コイル302の誘導負荷を補償するキャパシタンス303を備えている。励磁コイル302は内径11cm、巻き数56ターンのコイルで、これに52.6kHzのバースト電流を印加した。
【0098】
図16は、図15の送信アンテナコイルに52.6kHzのバースト電流を印加した結果を示す図である。図16Aがダウンコンバートされた出力波形、図16Bがスイッチコントロールパルス(Hレベルでスイッチオープン)、図16C図15のスイッチ9の右端の電圧波形、図16Dがバースト電流波形を示している。この図16には、バースト電流が作る大きな磁界が検出コイル52へ誘起する電圧によって引き起こされる大きい電流がインプットコイルに供給されるのを防ぐために、バースト期間はスイッチ9を開き(オフ状態)、そして、バースト電流終了後速やかにスイッチ9を閉じることで(オン状態)、タグ200による減衰振動磁界を差周波数に変換(ダウンコンバート)して検出できていることが示されている。
【0099】
<58kHzフェライトハードタグの例(タグとピックアップコイル間の距離=2.3m)>
次に、58kHzの共振周波数を持つ実際に使用されているフェライトコアを用いたAMフェライトハードタグ(LC共振タグ)に対する実験結果を示す。励磁コイル302は、内径11cm、巻き数56ターンのコイルで、タグ200は励磁コイル302の中心に置き、励磁コイル302の軸方向にタグ200の長手方向を合わせ、その延長線上にピックアップコイル1をその軸も平行となるように配置した。
【0100】
図17は、タグ200とピックアップコイル1の距離が2.3mの時の実験波形を示す図である。図17aが本実施形態に係る高周波磁界センサの出力波形で、2.3m離れた所でも大きな信号として検出できている。また,図17bはスイッチコントロールパルス、図17cは励磁コイル302に流れる電流である。タグ励磁によってタグ200のフェライトコアの磁束振幅が大きくなるにつれて、励磁コイル302に逆起電力を発生するので、電流は流れにくくなる。逆に、バースト期間が終了すると、タグ200からの磁束鎖交により位相が反転した電流が現れ、指数関数的に減衰する。この様子を図18に示す。
【0101】
図18は、バースト電流波形の一例を示す図である。バースト波は58kHz正弦波電流の27サイクルからなり、t≒-50μs付近で終了し逆位相電流が導通し始める。この逆位相電流は、レンツの法則よりタグ200からの磁束変化を打ち消す方向の磁束を誘起するが、タグ200と励磁コイル302の幾何学的サイズの違いにより、遠方で励磁コイル302に誘起された電流からの磁界が残存し、偽の信号を発生していないか念のために簡単な実験で確認した。その方法は、励磁コイル302の向きを90度回転し、検出コイル52の軸に垂直になるよう配置しつつ、タグ200は励磁コイル302の中心から当該励磁コイル302の半径の距離だけ離し、かつ励磁コイル302の円周部に近接させ、その向きは検出コイル52の感度方向に平行となるように向けた。その結果を図19に示す。
【0102】
図19は、励磁コイル302の向きを90度回転して検出コイル52との直接的カップリングを排除した場合の波形を示す図である。この図19において、t>0区間のバースト電流後に現れる逆位相に誘起される電流波形が小さいことからも、タグ200の磁束振幅は図17に比べ小さいことがわかるが、それでもタグ200からの減衰振動波形は明瞭に検出されている。
【0103】
<58kHzアモルファス共振タグの例(タグとピックアップコイル間の距離=2m)>
次に、フェライトコアを用いるタグ200に比べて断面積が小さいアモルファス薄帯を用いたアモルファス共振タグについても同様に検出実験を行った。この場合、タグ200から検出コイル52までの距離は2mとした。その結果を図20に示す。
【0104】
図20は、タグ200とピックアップコイル1の距離が2mの時の実験波形を示す図である。図20において、t>0での減衰振動波形は明瞭に観察できる。また、アモルファス共振タグの共振はフェライトハードタグに比べて損失が小さく、減衰振動の持続時間は長い。
【0105】
図17図19及び図20の検出出力波形を比べると、図19の背景雑音波形が他に比べ少し周波数が高くかつ振幅が大きいのがわかるが、これは実験値である福岡で観測される60kHzの電波時計の標準電波の磁界成分の影響の差である。60kHzの標準電波の振幅は、ディジタル符号に応じて100%出力と10%出力の間で切り替えられ、時間的に変化している。f=ω/2π=54.1kHzであるので、タグ200からの減衰振動磁界の周波数はほぼ58kHz-54.1kHz=3.9kHzであるが、電波時計の標準電波の周波数は60kHzであるので、その影響は60kHz-54.1kHz=5.9kHzに現れることによる。
【0106】
3.信号処理法
本実施形態におけるタグ検出能力を高めるための信号処理法について説明する。高周波磁界センサの出力波形に、理論式で予測される減衰振動の形に類似の波形が含まれていれば、タグ200が応答したということであり、タグありと判断でき、逆に類似の波形が含まれていなければ、タグ無しと判断できる。この識別をするための方法の1つが、応答波形と理論的な減衰振動波形の間の相互相関である。すなわち、高周波磁界センサの出力波形と、予め定められた波形との相関関係に基づいて、高周波磁界を検出することができる。
【0107】
周波数混合を通して観測される減衰振動の理想的な場合は、下記式(14)で与えられる。
【数13】
【0108】
これは、他の系との相互誘導が無視できる場合である。この式(14)で、減衰特性は指数関数によって規定され、振動波形は周波数混合によって差周波の振動数を持つsin関数で表される。例えばタグ200をタグ励磁する励磁コイル302とタグ200が接近していて、両者の磁気結合が強い場合は、タグ200の共振周波数とタグ200の共振のQは影響を受けて変化する場合がある。相互相関計算の実施にあたっては、Qとωのうち、ωが計算への影響が大きいので、その調整をする必要が出てくる。
【0109】
アモルファス共振タグの場合、周囲に存在するコイルとの相互誘導が無い場合は58kHzで共振するが、例えば内径11cm、56ターンの励磁コイル302が58kHz近傍の周波数でインダクタンスを補償するキャパシタンスが直列接続されている場合、タグ200と励磁コイル302の両方とも共振周波数が接近しており、両者の結合が強い場合は共振周波数が周波数軸上58kHzの上下2ヶ所に分離する(例えば、コロナ社,原田他著,基礎電子回路7.4 節「複合同調増幅器」昭和61年10月発行)。アモルファス共振タグを、その長手方向を磁界方向に平行配置し、内径11cm、56ターンの励磁コイル302の内側2cm程度に接近させた場合、高い方の周波数は58.8kHzとなった。そこで、ω=2π×58.800とし、Q=200として減衰振動のテンプレートを式(14)により作成した。
【0110】
図20のアモルファス共振タグの応答波形のうち、同図中段のインプットコイルを切り離すパルス波形の立ち下がりタイミングから0.16m秒~1.36msの応答波形を切り出し、図21のテンプレートで相互相関関数値の最大値を抽出する。図21は、理論的減衰振動応答からバースト信号終了後1msを切り取って相互相関のテンプレートとした波形を示す図である。アモルファス共振タグが無い場合の応答波形に対しても同様の操作を行う。
【0111】
波形の抽出数19個に対して、アモルファス共振タグと検出コイル間の距離2mおよび2.3mに対し実験を行ったところ、それぞれ図22図23に示す様な結果を得た。図22は、アモルファス共振タグと検出コイル間の距離2mの場合の相互相関処理の結果を示す図である。図23は、アモルファス共振タグと検出コイル間の距離2.3mの場合の相互相関処理の結果を示す図である。この2つから、タグあり、タグ無し信号を分離できることが分かる。
【0112】
今回の実験で距離2mの場合は、タグありタグ無しの場合に対する信号強度に明瞭な差があり、分離は容易であるが、距離2.3mの場合はかろうじて分離ができる程度となった。しかし、この結果が分離検出法の可能性を否定するものでは無く検出コイルの最適化、励磁方法の最適化を実施することによって改善することは容易である。
【0113】
距離2mの場合の信号強度と距離2.3mの場合の信号強度の比は、(2/2.3)の3乗(≒0.65)程度に減衰するが、図22図23はこの関係に沿う値になっている。一方、NoTagとして示されている破線の結果(環境雑音を含むシステム雑音)は両者でほぼ同一レベルである。
【0114】
4.周波数混合型フラックスゲート技術のAM方式EASセキュリティアンテナへの応用
ここでは、周波数混合型フラックスゲート技術のAM方式EASセキュリティシステムへの応用、AMラベルタグおよびAMフェライトハードタグの出力リンギングダウン信号の検出について述べる。
【0115】
(4-1)AMアンテナの基本動作
58kHz前後の共振周波数を持つ小さな棒状フェライト磁心をコアとするAMフェライトハードタグや、58kHzの共振周波数をもつAMアモルファスタグを用いるセキュリティシステムがAM方式EASシステムとして実用化されている。
【0116】
図24は、AM方式EASアンテナの動作説明図である。本実施形態では、高周波磁界に基づく信号を発生させるためのバースト信号の送信中はスイッチ9をオフ状態とし、その後にスイッチ9をオン状態に切り替えることにより、ピックアップコイル1で受信するリンギングダウン信号に基づいて、高周波磁界を検出する。すなわち、本実施形態の基本構成は図15にあるように送信ウインドの間、送信アンテナコイルとしての励磁コイル302からバースト信号を送信し、その間タグ信号の受信系ではスイッチ9をオフ状態として、受信ウインドの間、スイッチ9をオン状態に切り替える。この場合、図15のようにバースト信号を送信する励磁コイル302とリンギングダウン信号を受信するピックアップコイル1を別々に設ける構成に限らず、バースト信号を送信する送信アンテナコイルとしての励磁コイル302と、受信アンテナコイルとしてのピックアップコイル1を1つの同一のコイルとする構成であってもよい。
【0117】
図24では、AC電源(60Hzもしくは50Hz)の一定位相のところで58kHzのバースト信号を送信する。バースト信号は、バースト送信ウインド(約1.6ms)の間送信し、その後に受信ウインドを一定時間開いて、タグ200からの反応信号があるか否かを検出する。
【0118】
図25は、AM方式EASアンテナのバースト送信波形とAMフェライトタグの反応信号波形を示す図である。図25Aは応答信号の波形、図25Bはバースト信号の波形を示している。図25に示す通り、バースト終了時点からAMフェライトタグにリンギングダウン波形が見られる。
【0119】
AMアモルファスラベルタグやAMフェライトハードタグのAM共振タグは、エネルギー蓄積素子であり、タグ励磁期間にエネルギーを充電し、タグ励磁を取り去ると短時間で減衰振動とともにエネルギーを放電する。放電時の減衰振動磁界に着目し、FM-OFG技術を使用すれば、共振タグからの磁界は時間選択的に検出可能であり、しかも高感度でダイナミックレンジの小さいAMアンテナの磁界検出センサとして利用できる。
【0120】
テストでは、フェライトをコアとする58kHz共振AMハードタグおよびAMアモルファスラベルタグと、直径3.9cm、80ターンのピックアップコイル、負帰還を利用しない基本波型直交フラックスゲート(FM-OFG)を用いた。
【0121】
(4-2)検出コイルに多巻線ピックアップコイルを使用した例
タグ200と検出コイル52は、一直線上に配置される。検出用のピックアップコイル1への励磁磁界の直接カップリングをブランキングするために、スイッチ9を使用することにより励磁周波数付近の信号に特化した小さなダイナミックレンジの受信回路を構成した。
【0122】
(4-2-1)アモルファスAMラベルの検出(タグとピックアップ間の距離=2.3m)
図26は、FM-OFGによるAMアモルファスタグの受信信号を2.3mの位置で観測した波形を示す図である。図26Aがダウンコンバートされた出力波形、図26Bがスイッチコントロールパルス(Hレベルでスイッチオープン)、図26C図15のスイッチ9の右端の電圧波形、図26Dがバースト電流波形を示している。タグ200は、励磁コイル302の中心に配置されている。
【0123】
図26では、バースト波を印加している区間でスイッチ9がHレベル(オフ状態)となり、このとき同時に高周波磁界センサへの信号入力が遮断される。コイル電流は、タグ200との相互作用により指数関数的になっているが、バーストを0にしても相互作用の結果減衰振動電流が誘起されていることが分かる。
【0124】
(4-2-2)フェライトAMハードタグの検出(タグとピックアップコイル間の距離=3m)
図27は、AMフェライトタグから3mの位置にピックアップコイル1を置いた場合の受信信号波形を示す図である。図27Aがダウンコンバートされた出力波形、図27Bがスイッチコントロールパルス(Hレベルでスイッチオープン)、図27Cがバースト電流波形を示している。励磁コイル302は直径11cmの巻き枠に56ターン、平均で77mArms(58kHz)を流している。この励磁コイル302の中心にタグ200が配置されている。
【0125】
図27においても、バースト波を印加している区間でスイッチ9がHレベル(オフ状態)となり、このとき同時に高周波磁界センサへの信号入力が遮断される。コイル電流は、タグ200との相互作用により指数関数的になっているが、バーストを0にしても相互作用の結果減衰振動電流が誘起されていることが分かる。
【0126】
5.各種アンテナへの応用
(5-1)縦型アンテナへの応用例
床に起立するように設置される縦型アンテナを用いて、タグ200から発生する高周波磁界を検出する盗難防止システムにおいて、従来の縦型アンテナは、大きな送信アンテナと大きな受信アンテナを備えている。従来のアンテナは、共振タグの微弱信号を受ける必要があるため大きな受信アンテナを必要とし、そのコイル面積とターン数を大きくする必要があった。しかし、本発明によれば、小さな受信アンテナ部で共振タグの信号を受信できるため、縦型アンテナのサイズを大幅に小型にすることができる。
【0127】
図28は、縦型アンテナ400を用いた盗難防止システムの構成例を示す概略図である。図28では、片方のアンテナが送受信アンテナ、他方が送受信アンテナもしくは受信アンテナを構成し、それぞれのアンテナコイルは0の字状の0ループアンテナコイルもしくは8の字状の8ループアンテナコイルであってよい。これらの1対の縦型アンテナ400間においてタグ200を検出する場合が示されている。
【0128】
図28の縦型アンテナ400では、送信ウインドの時、送信アンテナからタグ200にバースト信号を送信し、受信ウインドの時、タグ200からのリンギングダウン信号を受信アンテナで受信する。この際、受信部に本発明を利用することにより、受信アンテナ部を大幅に小さくすることができるので、送信アンテナを含めてアンテナ全体を大幅に小さくできる。また、小さな受信アンテナ部であるが、検出感度が高いので、アンテナからタグ200までの受信距離を従来の2倍以上に広げることができる。受信アンテナ部は、本発明のピックアップコイル1として作用させることができる。
【0129】
(5-2)天井アンテナへの応用例
図29は、天井アンテナ500を用いた盗難防止システムの構成例を示す概略図である。図29では、天井アンテナ500が天井に間隔を隔てて複数配置され、これらの天井アンテナ500の下方においてタグ200を検出する場合が示されている。
【0130】
天井に設置される複数の天井アンテナ500の間隔は、例えば約3mである。天井アンテナ500のコイルは、バースト信号送信時(送信ウインド期間)は送信アンテナ(励磁コイル302)として機能し、タグ共振信号受信時(受信ウインド期間)は受信アンテナ(ピックアップコイル1)として機能する。
【0131】
ただし、天井アンテナ500が送信アンテナ及び受信アンテナの両方として機能するような構成に限らず、送信アンテナを別途設けてもよい。この場合、送信アンテナは受信アンテナと同数である必要はなく、例えば1つの送信アンテナに対して複数の受信アンテナが対応付けられた構成であってもよい。
【0132】
(5-3)床アンテナへの応用例
図30は、狭い間口の床アンテナ600を用いた盗難防止システムの構成例を示す概略図である。図30では、1つの床アンテナ600が床に配置され、この床アンテナ600の上方においてタグ200を検出する場合が示されている。
【0133】
約2~3m以内の狭い間口であれば、図30のように1つの床アンテナ600を用いてタグ200を検出することができる。床アンテナ600は、バースト波送信ウインドの時、送信アンテナ(励磁コイル302)として機能し、受信ウインドの時、受信アンテナ(ピックアップコイル1)として機能する。床アンテナ600としては、フラットケーブルアンテナなどのワンターンアンテナを用いてもよい。
【0134】
ただし、床アンテナ600は、受信アンテナとして機能する際のタグ200からの信号の受信感度を上げるために、複数ターンのピックアップコイルが用いられてもよい。すなわち、図30ではワンターンアンテナの例を示しているが、複数ターンアンテナが用いられてもよい。また、床アンテナ600が送信アンテナ及び受信アンテナの両方として機能するような構成に限らず、送信アンテナを別途設けてもよい。
【0135】
図31は、巾広間口の床アンテナ600を用いた盗難防止システムの構成例を示す概略図である。図31では、複数の床アンテナ600が床に配置され、これらの床アンテナ600の上方においてタグ200を検出する場合が示されている。床アンテナ600では、送信アンテナ(励磁コイル302)としてワンターンアンテナを設置できる。
【0136】
ワンターンアンテナでは、約10~20mのような巾広間口であっても、送信ウインド時、バースト信号を送信できるが、受信ウインド時、受信系のピックアップアンテナとして使用すると、共振タグを巾広間口のどの位置で検出したのかを分からないことが起こる。このため、受信系のピックアップアンテナ1だけは、天井または床に約3m間隔で設置する必要がある。この場合、ピックアップコイル1はワンターンであってもよいし、複数ターンであってもよい。
【0137】
具体的には、床の複数のエリアRに、床アンテナ600を含む高周波磁界センサが設けられ、各床アンテナ600を介して得られる検出信号に基づいて、タグ200が検出されたエリアRを特定することができる。
【0138】
ただし、床アンテナ600が送信アンテナ及び受信アンテナの両方として機能するような構成に限らず、送信アンテナを別途設けてもよい。この場合、送信アンテナは受信アンテナと同数である必要はなく、例えば1つの送信アンテナに対して複数の受信アンテナが対応付けられた構成であってもよい。
【0139】
図32は、巾広間口の床アンテナ600及び天井アンテナ500を用いた盗難防止システムの構成例を示す概略図である。図32では、巾広のワンターンもしくは複数ターンの床送信アンテナ600、もしくは複数の床送信アンテナ600が床に配置されるとともに、複数の天井受信アンテナ500が天井に配置され、これらの天井アンテナ500の下方においてタグ200を検出する場合が示されている。
【0140】
約10~20mのような巾広間口であっても、送信ウインド時、床に設置した床アンテナ600(励磁コイル302としてのワンターンアンテナ)でバースト信号を送信し、受信ウインドの時、天井に設置した天井アンテナ500(受信系のピックアップコイル1)でタグ200からのリンギングダウン信号を受信する。
【0141】
上記実施形態では、周波数混合技術を使ったFM-OFG技術の応用として、AM方式盗難防止アンテナへの応用について述べたが、この技術は、AM方式盗難防止アンテナの周波数以外の共振タグを使用するセキュリティシステム、及び、セキュリティ分野以外の定常高周波信号の受信や共振減衰信号の受信に使えることは言うまでもないことである。
【符号の説明】
【0142】
1 ピックアップコイル
2 増幅器
3 抵抗
4 入力コイル
5 センサヘッド
6 磁気シールド
7 前置増幅器
8 同期検波器
9 スイッチ
51 磁性体
52 検出コイル
81 掛算器
82 ローパスフィルタ
100 高周波磁界センサ
200 タグ
300 バースト信号送信部
301 正弦波発生器
302 励磁コイル
303 キャパシタンス
400 縦型アンテナ
500 天井アンテナ
600 床アンテナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
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