IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-回転電機 図1
  • 特開-回転電機 図2
  • 特開-回転電機 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118089
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/128 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
H02K5/128
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024283
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】福井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼村 剛
【テーマコード(参考)】
5H605
【Fターム(参考)】
5H605AA01
5H605AA02
5H605BB01
5H605BB02
5H605BB17
5H605CC02
5H605CC03
5H605CC10
5H605DD13
5H605DD16
5H605DD32
5H605DD37
5H605EA06
(57)【要約】
【課題】ステータのスロットからロータの外周面への冷却液の漏出を簡単な構成によって抑制することができる回転電機を提供する。
【解決手段】回転電機は、ステータ10と、ロータ11と、第1側部ケース19と、第2側部ケース20と、を備える。ステータコア14は、内周部にティースとスロットが交互に設けられる。コイル15は、スロットを通して各ティースに巻回される。第1側部ケース19は第1液室21を形成する。第2側部ケース20は第2液室22を形成する。第1液室21に導入された冷却液は複数のスロットを通して第2液室22に流入する。第1側部ケース19の第1液室21に臨む第1内側周壁32の外周面と第2側部ケース20の第2液室22に臨む第2内側周壁35の外周面には環状隔壁37が架設される。環状隔壁37はステータコア14の内周面とロータ11の外周面の間を仕切る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周部に複数のティースと複数のスロットが交互に設けられた筒状のステータコア、及び前記スロットを通して前記各ティースに巻回される複数のコイルを有するステータと、
前記ステータの径方向内側に回転可能に配置されるロータと、
前記ステータコアの軸方向の一方の端面とともに環状の第1液室を形成する第1側部ケースと、
前記ステータコアの軸方向の他方の端面とともに環状の第2液室を形成する第2側部ケースと、を備え、
前記第1液室に導入された冷却液が複数の前記スロットを通して前記第2液室に流入する回転電機であって、
前記第1側部ケースの前記第1液室に臨む第1内側周壁の外周面と、前記第2側部ケースの前記第2液室に臨む第2内側周壁の外周面とに、前記ステータコアの内周面と前記ロータの外周面の間を仕切る環状隔壁が架設されていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記環状隔壁は、前記ステータコアに当接状態で係止されることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記環状隔壁には、前記ステータコアの前記第1液室に臨む側の軸方向の端面に当接する当接座が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記環状隔壁と前記第1内側周壁の間と、前記環状隔壁と前記第2内側周壁の間には、夫々環状のシール部材が介装されていることを特徴とする請求項3に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動モータや発電機等の回転電機として、円環状のステータの径方向内側にロータが回転可能に配置されたものがある。ステータは、ステータコアと、ステータコアに巻回されるコイルと、を備えている。ステータコアは、例えば円筒状のバックヨークと、バックヨークから径方向内側に突出する複数のティースが一体に形成されている。周方向で隣り合う複数のティースの間には、それぞれスロットが形成されている。コイルは、ティースの両側に配置されるスロットを通して各ティースに巻回されている。
【0003】
この種の回転電機では、使用時にコイルが高温になるため、コイルを効率良く冷却することが望まれている。回転電機のコイルを効率良く冷却するための手法として、ステータを収容する回転電機ケースの内部に冷却液を連続的に流すものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/032238号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の回転電機において、回転電機ケース内に冷却液を流す場合、ステータコアの軸方向の一端側と他端側に夫々液室を設け、ステータコアのスロットを、一方の液室から他方の液室に冷却液を流すための通路とすることがある。この場合、冷却液はスロット内を流れるときに、スロット内のコイルの周域を効率良く冷却することができる。
【0006】
しかし、スロットを冷却液の流れる通路とすると、スロットから径方向内側に漏出した冷却液がロータとステータの間のエアギャップに入り込み、ロータのスムーズな回転が妨げられてしまう。このため、スロットを冷却液の流れる通路とする場合には、各スロットに冷却液の漏れ防止のための複雑なシール構造を設ける必要がある。
この手法の場合、ステータの製造が煩雑になり、回転電機の生産の効率化の妨げとなり易い。
【0007】
そこで本発明は、ステータのスロットからロータの外周面への冷却液の漏出を簡単な構成によって抑制することができ、延いてはエネルギーの効率化に寄与することができる回転電機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る回転電機は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
即ち、本発明に係る回転電機は、内周部に複数のティース(例えば、実施形態のティース28)と複数のスロット(例えば、実施形態のスロット31)が交互に設けられた筒状のステータコア(例えば、実施形態のステータコア14)、及び前記スロットを通して前記各ティースに巻回される複数のコイル(例えば、実施形態のコイル15)を有するステータ(例えば、実施形態のステータ10)と、前記ステータの径方向内側に回転可能に配置されるロータ(例えば、実施形態のロータ11)と、前記ステータコアの軸方向の一方の端面とともに環状の第1液室(例えば、実施形態の第1液室21)を形成する第1側部ケース(例えば、実施形態の第1側部ケース19)と、前記ステータコアの軸方向の他方の端面とともに環状の第2液室(例えば、実施形態の第2液室22)を形成する第2側部ケース(例えば、実施形態の第2側部ケース20)と、を備え、前記第1液室に導入された冷却液が複数の前記スロットを通して前記第2液室に流入する回転電機であって、前記第1側部ケースの前記第1液室に臨む第1内側周壁(例えば、実施形態の第1内側周壁32)の外周面と、前記第2側部ケースの前記第2液室に臨む第2内側周壁(例えば、実施形態の第2内側周壁35)の外周面とに、前記ステータコアの内周面と前記ロータの外周面の間を仕切る環状隔壁(例えば、実施形態の環状隔壁37)が架設されていることを特徴とする。
【0009】
上記の構成により、第1内側周壁と第2内側周壁に架設された環状隔壁によってステータコアの内周面とロータの間が仕切られる。このため、複数のスロット内を流れる冷却液がステータコアの径方向内側に漏出することがあっても、その冷却液はロータの外周面には流れ込むことがない。また、本発明に係る回転電機は、簡単な構成の環状隔壁がステータの軸方向の両側の第1内側周壁と第2内側周壁に架設される構造であるため、製造の容易化を図ることができる。
【0010】
前記環状隔壁は、前記ステータコアに当接状態で係止されるようにしても良い。
【0011】
この場合、環状隔壁がステータコアに当接状態で係止されるため、環状隔壁とステータコアとが同位相で振動するようになる。このため、環状隔壁の外周面をステータコアの内周面に近接させても、環状隔壁とステータコアの間にガタ付きや接触による擦れが生じにくくなる。したがって、本構成を採用した場合には、異音の発生や擦れによる部材劣化を招くことなく、ステータコアとロータの間のエアギャップを充電に狭め、回転電機の磁気的性能を高めることができる。
【0012】
前記環状隔壁には、前記ステータコアの前記第1液室に臨む側の軸方向の端面に当接する当接座(例えば、実施形態の当接座41)が設けられるようにしても良い。
【0013】
この場合、複数のスロットを通して第1液室から第2液室に冷却液が流れるときには、第1液室内の液圧が第2液室内の液圧よりも高くなる。このため、環状隔壁は第1液室内と第2液室内の冷却液の圧力差により、第2液室の方向に押し付けられる。このとき、環状隔壁の当接座がステータコアの軸方向の端面に当接し、環状隔壁がステータコアに係止されるようになる。したがって、本構成を採用した場合には、環状隔壁をステータコアに係止させるためのスペースが狭小であっても、環状隔壁をステータコアに確実に係止させることができる。また、本構成では、環状隔壁をステータコアに係止させるために締結部材等の別部品を要しないため、回転電機の製造時における組み付け作業も容易になる。
【0014】
前記環状隔壁と前記第1内側周壁の間と、前記環状隔壁と前記第2内側周壁の間には、夫々環状のシール部材(例えば、実施形態のシール部材39f,39s)が介装されるようにしても良い。
【0015】
この場合、環状隔壁と第1内側周壁の間の係合部や、環状隔壁と第2内側周壁の間の係合部を通して冷却液がロータ側に漏出するのをシール部材によって確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る回転電機は、第1内側周壁と第2内側周壁に架設された環状隔壁によってステータコアの内周面とロータの間が仕切られている。したがって、本発明に係る回転電機を採用した場合には、ステータのスロットからロータの外周面への冷却液の漏出を簡単な構成によって抑制することができ、延いてはエネルギーの効率化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態の回転電機の縦断面図。
図2】実施形態の回転電機の図1のII部相当部をスロットの存在しない部分で断面にした縦断面図。
図3】実施形態の回転電機の図2のIII-III線に沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の回転電機1の縦断面図である。
本実施形態の回転電機1は、ステータ10とロータ11とを備えている。ステータ10とロータ11は、回転電機ケース12の内部に収容されている。ステータ10は、回転電機ケース12の内部にボルト13による締結等によって固定されている。ステータ10は、円筒状のステータコア14と、ステータコア14に巻回される複数のコイル15と、を備えている。ロータ11は、ステータコア14(ステータ10)の径方向内側に回転可能に配置されている。
【0019】
ロータ11は、外周面の近傍に図示しない永久磁石が取り付けられている。また、ロータ11は、スリーブ16を介して回転軸17に一体回転可能に支持されている。回転軸17は、回転電機1がモータとして用いられるときには出力軸となり、回転電機1が発電機として用いられる場合には動力入力軸となる。回転軸17とスリーブ16は、軸受18を介して回転電機ケース12に回転可能に支持されている。
以下の説明では、ロータ11の回転軸線Cと平行な方向を軸方向と称し、ロータ11の回転方向を周方向と称し、軸方向及び周方向と直交するロータ11の径方向を径方向と称する。
【0020】
ステータコア14の軸方向の一端側と他端側には、円環状の第1側部ケース19と第2側部ケース20が配置されている。第1側部ケース19と第2側部ケース20の主要部は、回転電機ケース12によって形成されている。
【0021】
第1側部ケース19は、ステータコア14の軸方向の一方の端面と、その端面から突出したコイル15の露出部分を外側から覆っている。第1側部ケース19は、ステータコア14の軸方向の一方の端面とともに円環状の第1液室21を形成している。第1側部ケース19には、第1液室21に冷却液23を導入するための導入ポート24が形成されている。導入ポート24は、冷却液23の循環回路25に接続されている。第1液室21に導入された冷却液23は、ステータコア14の一方の端面から突出したコイル15の露出部分を冷却した後に、ステータコア14の内部を通過してステータコア14の軸方向の他端側に流れ込む。
【0022】
第2側部ケース20は、ステータコア14の軸方向の他方の端面と、その端面から突出したコイル15の露出部分を外側から覆っている。第2側部ケース20は、ステータコア14の軸方向の他方の端面とともに円環状の第2液室22を形成している。第2液室22には、第1液室21に導入された冷却液23がステータコア14の内部を通って流入する。第2液室22に導入された冷却液23は、ステータコア14の他方の端面から突出したコイル15の露出部分を冷却する。第2側部ケース20には、第2液室22内の冷却液23を外部に排出するための排出ポート26が形成されている。排出ポート26は、冷却液23の循環回路25に接続されている。第2液室22内でコイル15を冷却した冷却液23は、排出ポート26から循環回路25に戻される。
【0023】
循環回路25は、回路途中に送給ポンプPが接続されている。循環回路25のうちの送給ポンプPの上流側には、外気との熱交換によって冷却液23を冷却する熱交換器OCが接続されている。送給ポンプPの下流側は導入ポート24に接続されている。また、循環回路25のうちの熱交換器OCの上流側は排出ポート26に接続されている。
【0024】
図2は、回転電機1の図1のII部相当部を後述するスロット31の存在しない部分で断面にした縦断面図である。図3は、回転電機1の図2のIII-III線に沿う断面図である。
ステータコア14は、例えば複数の電磁鋼板を軸方向に積層することにより形成されている。ステータコア14は、図3に示すように、円筒状のバックヨーク27と、バックヨーク27の内周部から径方向内側に突出する複数のティース28と、が一体成形されている。バックヨーク27は、円筒中心が回転軸線Cと合致するように形成されている。
【0025】
図3に示すように、ティース28は、周方向に間隔(例えば、等間隔)を空けて配置されている。ティース28は、軸方向からみてT字状に形成されている。即ち、ティース28は、バックヨーク27の内周部から径方向内側に突出するティース本体29と、ティース本体29における径方向の内側端から周方向両側に張り出す鍔部30と、が一体成形されている。
【0026】
周方向で隣り合うティース28の間には、径方向内側が開口したスロット31が形成されている。スロット31は、隣り合うティース28の相互に対向する側壁と、バックヨーク27の内周壁とに囲まれて形成されている。各ティース28の側壁は、ティース本体29の側部と鍔部30の側部によって形成されている。スロット31のうちの、左右のティース本体29の側部によって形成される部分は略一定幅とされている。また、スロット31のうちの、左右の鍔部30の側部によって形成される部分の幅は、左右のティース本体29の側部によって形成される部分の幅よりも狭まっている。
【0027】
コイル15は、例えばU相、V相、W相の3相構造である。コイル15は、例えば複数のセグメントコイルが互いに連結されて構成されている。セグメントコイルは、芯線が絶縁被膜によって覆われている。セグメントコイルは、例えば平角線である。即ち、各セグメントコイルにおける径方向に沿う断面形状は、長方形状に形成されている。
【0028】
セグメントコイルは、ステータコア14上の隣接するスロット31に挿通される二つのスロット挿通部(セグメント導体)がステータコア14の軸方向の他端側で一体に連結されたコイル素子である。スロット31からステータコア14の軸方向の一端側に突出した各スロット挿通部(セグメント導体)の端部は、他のセグメントコイルのスロット挿通部の端部にTIG溶接やレーザ溶接等によって接合されている。複数のセグメントコイルは、これによって連続した長尺なコイルを構成している。
【0029】
図3に示すように、同一のスロット31に挿通される複数のコイル15のスロット挿通部は、径方向に沿って一列に配列されている。本実施形態では、同一のスロット31に、例えば5本のコイル15が挿通される。しかしながら、同一のスロット31に挿通されるコイル15の本数はこれに限定されるものではなく、任意に設定することができる。
【0030】
複数のコイル15が配列された各スロット31の内部には、ステータコア14の軸方向の一端側と他端側に連通する隙間dが確保されている。隙間dは、例えば、スロット31の内周面と、複数のコイル15の間に形成される。この隙間dは、図1に示す第1液室21と第2液室22を導通させる隙間であり、第1液室21内に導入された冷却液23を第2液室22側に流すように機能する。スロット31内を流れる冷却液23は各コイル15のスロット挿通部の熱を吸熱する。
【0031】
ここで、ステータコア14の軸方向の一端側の第1側部ケース19は、図1図2に示すように、第1液室21に臨む第1内側周壁32を備えている。第1内側周壁32は、第1液室21の軸方向の外側端に位置される第1側部ケース19の端部側壁33の径方向内側の端部から、ロータ11の軸方向の一方の端面に向かって円筒状に突出している。本実施形態の場合、第1内側周壁32は、回転電機ケース12(端部側壁33)と一体に形成された周壁本体部12aと、周壁本体部12aの延出端側の外周面に取り付けられた別体の筒状部材34によって構成されている。周壁本体部12aと筒状部材34の間は環状のシール部材60によって密閉されている。
ただし、第1内側周壁32は、全体が回転電機ケース12(端部側壁33)と一体に形成されるようにしても良い。
【0032】
また、ステータコア14の軸方向の他端側の第2側部ケース20は、第2液室22に臨む第2内側周壁35を備えている。第2内側周壁35は、第2液室22の軸方向の外側端に位置される第2側部ケース20の端部側壁36の径方向内側の端部から、ロータ11の軸方向の他方の端面に向かって円筒状に突出している。本実施形態の場合、第2内側周壁35は、回転電機ケース12(端部側壁36)と一体に形成されている。
ただし、第2内側周壁35は、第1内側周壁32と同様に回転電機ケース12(端部側壁36)と一体の周壁本体部と、別体の筒状部材によって構成されるようにしても良い。
【0033】
第1側部ケース19の第1内側周壁32の外周面と、第2側部ケース20の第2内側周壁35の外周面には、円筒状の環状隔壁37が架設されている。環状隔壁37は、例えば、樹脂材によって形成することがでる。ただし、環状隔壁37は、金属材等の他の素材によって形成することも可能である。環状隔壁37は、第1液室21内に臨む第1端部37fと、第2液室22内に臨む第2端部37sと、第1端部37fと第2端部37sの間にあってステータコア14の内周面に対峙する隔壁本体部37bと、を有する。第1端部37fは、隔壁本体部37bと同内径に形成されている。第2端部37sは、延出方向の中途部が隔壁本体部37bに対して段差状に縮径している。
【0034】
第1端部37fの内周面は、第1内側周壁32の筒状部材34の外周面に摺動可能に嵌合されている。筒状部材34の外周面には環状溝38fが形成され、その環状溝38fにOリング等の環状のシール部材39fが装着されている。筒状部材34(第1内側周壁32)と第1端部37f(環状隔壁37)の間は、シール部材39fによって液密に密閉されている。
【0035】
第2端部37sの縮径部の内周面は、第2内側周壁35の外周面に摺動可能に嵌合されている。第2内側周壁35の外周面には環状溝38sが形成され、その環状溝38rにOリング等の環状のシール部材39sが装着されている。第2内側周壁35と第2端部37s(環状隔壁37)の間は、シール部材39sによって液密に密閉されている。
【0036】
環状隔壁37は、上述のように第1端部37fが第1側部ケース19の第1内側周壁32に液密に嵌合され、第2端部37sが第2側部ケース20の第2内側周壁35に液密に嵌合されている。環状隔壁37は、回転電機ケース12の内部に取り付けられたステータコア14の径方向内側領域をロータ11の外周面に対して仕切っている。このため、ステータコア14のスロット31から径方向内側に冷却液23が漏出することがあっても、その冷却液23がロータ11の外周面に流れ込むのを阻止することができる。
【0037】
また、環状隔壁37の第1端部37fの外周面には、図2に示すように、隔壁本体部37bの外周面よりも径方向外側に膨出の膨出部40が形成されている。膨出部40のステータコア14側の端部は段差状に径方向外側に向かって起立している。この起立した端面は、ステータコア14の軸方向の一端側の端面に当接する当接座41とされている。環状隔壁37は、第1端部37fに作用する第1液室21内の冷却液23の圧力と、第2端部37sに作用する第2液室22内の冷却液23の圧力の差によって全体が軸方向の他端側に押圧される。このとき、当接座41がステータコア14の軸方向の一方側の端面に押し付けられる。この結果、環状隔壁37は、ステータコア14に当接状態で係止される。
【0038】
上述のように第1側部ケース19と第2側部ケース20に架設された環状隔壁37は、図3に示すように、ステータコア14の内周面に対して当接、若しくは、充分に近接させた状態に維持されている。また、環状隔壁37の隔壁本体部37bの内周面は、ロータ11の外周面と非接触となるように、ロータ11の外周面に対して微少な隙間を挟んで対峙している。
【0039】
以上の構成の回転電機1は、作動時にコイル15に連続的に電流が流れると、コイル15が発熱して高温になる。
このとき、回転電機1の第1液室21には、導入ポート24を通して循環回路25から冷却液23が導入される。第1液室21に導入された冷却液23は、第1液室21内を流動することにより、ステータコア14の軸方向の一端側から外部に露出したコイル15の一端部側領域を冷却する。また、その冷却液23は、ステータコア14の複数のスロット31を軸方向の一端側から他端側に向かって流れ、第2液室22内に流入する。スロット31内を流れる冷却液は、スロット31内に挿通されているコイル15を冷却する。また、第2液室22内に流入した冷却液23は、ステータコア14の軸方向の他端側から外部に露出したコイル15の他端部側領域を冷却し、その後に排出ポート26を通して循環回路25に戻される。
【0040】
回転電機1は、上記のようにステータ10が常に回転電機ケース12内で冷却液23に没し、その状態で回転電機ケース12内の冷却液23が循環回路25を通して入れ替わる。このため、ステータ10のコイル15は冷却液23によって効率良く冷却されることになる。
【0041】
以上のように、本実施形態の回転電機1は、第1内側周壁32と第2内側周壁35に架設された環状隔壁37によってステータコア14の内周面とロータ11の間が仕切られている。このため、複数のスロット31内を流れる冷却液23がステータコア14の径方向内側に漏出することがあっても、その冷却液23はロータ11の外周面には流れ込むことがない。また、本実施形態の回転電機1は、簡単な構成の環状隔壁37がステータ10の軸方向の両側の第1内側周壁32と第2内側周壁35に架設される構造であるため、製造の容易化を図ることができる。
よって、本実施形態の回転電機1を採用した場合には、ステータ10のスロット31からロータ11の外周面への冷却液23の漏出を簡単な構成によって抑制することができ、延いてはエネルギーの効率化に寄与することができる。
【0042】
また、本実施形態の回転電機1は、環状隔壁37がステータコア14に当接状態で係止される構造とされている。このため、ステータコア14(ステータ10)が振動する際には、環状隔壁37がステータコア14(ステータ10)と同位相で振動するようになる。したがって、環状隔壁37の隔壁本体部37bをステータコア14の内周面に近接させても、環状隔壁37とステータコア14の間にガタ付きや接触による擦れが生じにくくなる。なお、環状隔壁37の隔壁本体部37bはステータコア14の内周面に当接させても良い。
よって、本実施形態の回転電機1を採用した場合には、異音の発生や擦れによる部材劣化を招くことなく、ステータコア14とロータ11の間のエアギャップを充電に狭め、回転電機1の磁気的性能を高めることができる。
【0043】
さらに、本実施形態の回転電機1は、環状隔壁37に、ステータコア14の第1液室21に臨む軸方向の端面に当接する当接座41が設けられている。複数のスロット31を通して第1液室21から第2液室22に冷却液23が流れるときには、第1液室21内の液圧が第2液室22内の液圧よりも高くなる。このため、環状隔壁37は、第1液室21内と第2液室22内の冷却液23の圧力差によって第2液室22の方向に押し付けられる。本実施形態の回転電機1は、このとき環状隔壁37の当接座41がステータコア14の軸方向の端面に当接し、環状隔壁37がステータコア14に係止される。
したがって、本実施形態の回転電機1を採用した場合には、環状隔壁37をステータコア14に係止させるためのスペースが狭小であっても、環状隔壁37をステータコア14に確実に係止させることができる。さらに、この場合、環状隔壁37をステータコア14に係止させるために締結部材等の別部品を要しないため、回転電機1の製造時における組み付け作業も容易になる。
【0044】
また、本実施形態の回転電機1は、環状隔壁37の第1端部37fと第1内側周壁32の間と、環状隔壁37の第2端部37sと第2内側周壁35の間に夫々環状のシール部材39f,39sが介装されている。このため、環状隔壁37の第1端部37fと第1内側周壁32の間の係合部や、環状隔壁37の第2端部37sと第2内側周壁35の間の係合部を通して冷却液23がロータ11側に漏出するのをシール部材39f,39sによって確実に防止することができる。
【0045】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、コイル15として平角線を採用しているが、コイル15は平角線に限定されない。コイル15は丸線であっても良い。
また、上記の実施形態では、環状隔壁37が冷却液23の圧力を受けて、当接座41がステータコア14に押し当てられているが、環状隔壁37はボルト締結等の他の手段によってステータコア14に当接状態で係止させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0046】
1…回転電機
10…ステータ
11…ロータ
14…ステータコア
15…コイル
19…第1側部ケース
20…第2側部ケース
21…第1液室
22…第2液室
28…ティース
31…スロット
32…第1内側周壁
35…第2内側周壁
37…環状隔壁
39f,39s…シール部材
41…当接座
図1
図2
図3