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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118097
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】把持装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20240823BHJP
   B25J 15/10 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B25J15/08 M
B25J15/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024301
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110003801
【氏名又は名称】KEY弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】榮 淳
(72)【発明者】
【氏名】上坂 彰朗
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 宏貴
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707ES05
3C707ES13
3C707ET10
3C707HS27
3C707LV10
(57)【要約】
【課題】従来の把持装置よりも、精密に把持力を調整または制御することが可能となる把持装置を提供する。
【解決手段】把持装置10は、ベース部20と、回転体30と、回転体の回転軸線Nの周囲に配された回動軸線Mを中心に回動自在にベース部に支持された複数の回動アーム41と、正方向および逆方向の回転動力を出力可能な回転動力出力部60と、回転動力を調整して回転体に出力する磁気粘性流体装置70と、を備える。複数の回動アームは、回転体がベース部に対して回転する際に回動するように回転体に連結されている。そして、磁気粘性流体装置は、回転動力出力部から入力される回転動力によって回転される入力側回転部7と、回転体と一体に回転する出力側回転部8と、入力側回転部と出力側回転部との間に介在する磁気粘性流体14と、磁気粘性流体に磁場を印加する磁場印加部9と、を有する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部と、
前記ベース部に対して回転自在に設けられた回転体と、
前記回転体の回転軸線の周囲に配された回動軸線を中心に回動自在に、前記ベース部に支持された複数の回動アームと、
正方向および逆方向の回転動力を出力可能な回転動力出力部と、
前記回転動力出力部から入力される回転動力を調整して前記回転体に出力する磁気粘性流体装置と、
を備え、
複数の前記回動アームは、前記回転体が前記ベース部に対して回転する際に回動するように前記回転体に連結されており、
前記磁気粘性流体装置は、
前記回転動力出力部から入力される回転動力によって回転される入力側回転部と、
前記回転体と一体に回転する出力側回転部と、
前記入力側回転部と前記出力側回転部との間に介在する磁気粘性流体と、
前記磁気粘性流体に磁場を印加する磁場印加部と、
を有する、
ことを特徴とする把持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の把持装置であって、
前記回動アームおよび前記回転体の一方に滑子が形成され、前記回動アームおよび前記回転体の他方に前記滑子がスライド自在に連結された滑子案内部が形成されている、ことを特徴とする把持装置。
【請求項3】
請求項1に記載の把持装置であって、
複数の前記回動アームの回動軸線は、前記回転軸線方向から視て、前記回転体の回転軸線を中心とする円周上に存在する、ことを特徴とする把持装置。
【請求項4】
請求項1に記載の把持装置であって、
複数の前記回動アームは、それらが何れの回動位置にあっても、前記回転体の回転軸線と該回転軸線から最も離れた部分との距離が、互いに略同値となるように構成されている、ことを特徴とする把持装置。
【請求項5】
請求項1に記載の把持装置であって、
複数の前記回動アームは、互いに周方向に均等に離れて配置されている、ことを特徴とする把持装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の把持装置であって、
前記回転体の回転位置を検知する回転位置検知部と、
前記回転位置検知部から入力された回転位置の情報に基づいて、前記磁気粘性流体装置の磁場印加部に供給する電流値を制御する制御部と、を更に備える、
ことを特徴とする把持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把持対象物を把持する把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、円筒状の被把持物(9)を把持する把持装置が開示されている。同文献の把持装置は、複数の把持爪(2,2a~2c)と、エアシリンダ(5,5a~5c)と、を備えている。複数の把持爪(2,2a~2c)は、被把持物(9)の内側の空間に挿入され、先端部が径方向に拡がるように移動することによって被把持物(9)を内側から把持する。エアシリンダ(5,5a~5c)は、複数の把持爪(2,2a~2c)の基端側を径方向に押圧することによって、複数の把持爪(2,2a~2c)の先端側を径方向に移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2872383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の把持装置では、圧縮性流体である気体を用いるエアシリンダを把持爪の駆動源として用いるので、把持力を精密に調整または制御することが難しいという問題があった。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みて創案されたものであり、従来の把持装置よりも、精密に把持力を調整または制御することが可能な把持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る把持装置は、ベース部と、前記ベース部に対して回転自在に設けられた回転体と、前記回転体の回転軸線の周囲に配された回動軸線を中心に回動自在に、前記ベース部に支持された複数の回動アームと、正方向および逆方向の回転動力を出力可能な回転動力出力部と、前記回転動力出力部から入力される回転動力を調整して前記回転体に出力する磁気粘性流体装置と、を備える。複数の前記回動アームは、前記回転体が前記ベース部に対して回転する際に回動するように前記回転体に連結されている。前記磁気粘性流体装置は、前記回転動力出力部から入力される回転動力によって回転される入力側回転部と、前記回転体と一体に回転する出力側回転部と、前記入力側回転部と前記出力側回転部との間に介在する磁気粘性流体と、前記磁気粘性流体に磁場を印加する磁場印加部と、を有する。
【0007】
かかる構成を備える把持装置によれば、回転動力出力部から磁気粘性流体装置に入力された回転動力は、磁気粘性流体装置によって調整されて、回転体に出力される。磁気粘性流体装置は、供給される電流の電流値に応じて、その伝達トルクを精密に変化させることができるため、回転体の回転とともに回動する回動アームの回動力を精密に調整することができる。したがって、本発明の第1の態様に係る把持装置によれば、従来の把持装置よりも、精密に把持力を調整または制御することが可能となる。
【0008】
本発明の第2の態様に係る把持装置は、第1の態様に係る把持装置であって、前記回動アームおよび前記回転体の一方に滑子が形成され、前記回動アームおよび前記回転体の他方に前記滑子がスライド自在に連結された滑子案内部が形成されている。
【0009】
本発明の第3の態様に係る把持装置は、第1または第2の態様に係る把持装置であって、複数の前記回動アームの回動軸線は、前記回転軸線方向から視て、前記回転体の回転軸線を中心とする円周上に存在する。
【0010】
本発明の第4の態様に係る把持装置は、第1乃至第3の何れか1の態様に係る把持装置であって、複数の前記回動アームは、それらが何れの回動位置にあっても、前記回転体の回転軸線と該回転軸線から最も離れた部分との距離が、互いに略同値となるように構成されている。
【0011】
本発明の第5の態様に係る把持装置は、第1乃至第4の何れか1の態様に係る把持装置であって、複数の前記回動アームは、互いに周方向に均等に離れて配置されている。
【0012】
本発明の第6の態様に係る把持装置は、第1乃至第5の何れか1の態様に係る把持装置であって、前記回転体の回転位置を検知する回転位置検知部と、前記回転位置検知部から入力された回転位置の情報に基づいて、前記磁気粘性流体装置の磁場印加部に供給する電流値を制御する制御部と、を更に備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の把持装置よりも、精密に把持力を調整または制御することが可能となる把持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る把持装置を示す平面図である。
図2図1のA-A線断面図である。但し、回転動力出力部および磁気粘性流体装置は断面化せずに図示している。
図3】磁気粘性流体装置の一例を示す断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る把持装置が把持対象物に対して把持動作を開始する前の状態を示す平面図である。
図5】本発明の実施形態に係る把持装置が複数の回動アームで把持対象物を把持した状態を示す平面図である。
図6】本発明の実施形態に係る把持装置が複数の回動アームで把持対象物を把持した後、複数の回動アームがさらに回動した状態を示す平面図である。
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る把持装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
本実施形態に係る把持装置10は、内側に空間を有する把持対象物W(図4参照)を内側から把持することができる。把持装置10は、例えば産業用ロボットの腕部(不図示)の先端に取り付けられて用いられる。把持装置10は、図1および図2に示すように、ベース部B、回転体30、4つの回動アーム41、回転動力出力部60、磁気粘性流体装置70、回転位置検知部100、制御部110等により構成されている。なお、本実施形態では、把持対象物Wとして可撓性を有するOリングを用いるが、把持対象物Wは、可撓性を有するか否かにかかわらず、内側に回動アーム41が入る空間を有するものであればよく、Oリングに限定されない。
【0017】
ベース部Bは、互いに固定された第1ベース部20と第2ベース部50とを備えている。先ず、第1ベース部20およびその周囲の構成について説明し、第2ベース部50については、他の構成の説明をした後に説明する。
【0018】
第1ベース部20は、回転体30の回転軸線N(以下、回転体30の回転軸線を単に「回転軸線N」ともいう。)を中心とする円筒状の第1ベース部本体20aと、4つの軸部21と、を有する。4つの軸部21は、それぞれ、第1ベース部本体20aから、回転軸線N方向における4つの回動アーム41側に向かって延出している。4つの軸部21はそれぞれ、回転軸線Nを中心として、周方向に互いに90度ずつ離れて配置されている。4つの軸部21はそれぞれ、4つの回動アーム41を第1ベース部本体20a上で回動可能に支持している。各軸部21の中心を通る、回動アーム41の回動軸線Mは、回転軸線Nと平行であり、かつ、回転軸線Nの方向から視て回転軸線Nを中心とする円周上にある。
【0019】
回転体30は、第1ベース部本体20aの径方向内側において、回転軸線Nを中心として、第1ベース部20に対して回転自在に設けられている。回転体30は、略円柱状の回転体本体30aと、4つの突出部からなる滑子31と、を有する。
【0020】
回転体本体30aの径方向外側には、図2に示すように、回転軸線Nを中心とする環状の溝が形成されており、この環状溝に環状の軸受B1が嵌め込まれている。これにより、回転体30は、第1ベース部本体20aの内側に軸受B1を介して回転自在に支持されている。回転体本体30aの回動アーム41側と反対側には、凹部が形成されている。この凹部には、磁気粘性流体装置70の出力側回転部8が回転一体に嵌合される。また、回転体本体30aの回動アーム41側と反対側の周囲には、回転軸線Nを中心とする環状の磁石90が取り付けられている。磁石90は、後述する回転位置検知部100に回転体30の回転位置を検知させるための磁束を発生する。
【0021】
4つの回動アーム41は、把持装置10において、内側に空間を有する把持対象物Wを内側から直接把持する部分である。4つの回動アーム41は、回転体30の回転軸線Nの周囲に配された回動軸線Mを中心として回動自在に第1ベース部20に支持されている。
【0022】
回動アーム41は、把持対象物Wを把持できればよく、その形状が特定の形状に限定される訳ではないが、本実施形態では、各回動アーム41は、略棒状に形成されている。各回動アーム41は、基端部41kと、先端部41sと、被支持部41hと、滑子案内部41gと、を有する。基端部41kは、回転軸線N方向から視て回動アーム41の径方向内側に位置する。先端部41sは、回転軸線N方向から視て回動アーム41の径方向外側に位置する。被支持部41hは、先端部41sと基端部41kとの中途位置に形成された軸穴である。滑子案内部41gは、本実施形態では長孔によって形成されており、被支持部41hと基端部41kとの間に位置し回動アーム41の延在方向に平行に形成されている。
【0023】
被支持部41hには第1ベース部20の軸部21が嵌入しており、これによって、回動アーム41は、回動自在に第1ベース部20に支持されている。すなわち、回動アーム41は、軸部21を通る回動軸線Mを中心として回動可能となっている。なお、本実施形態では、被支持部41hは、すべり軸受を介して軸部21に支持されている。
【0024】
滑子案内部41gは、回動アーム41における所定の経路に沿って滑子31をスライド自在に案内する。本実施形態では、回動アーム41における所定の経路は、回動軸線Mよりも回転軸線N側の部分に回動アーム41の長手方向に沿って形成された長孔によって形成されている。本実施形態では、回転体30に形成された突出部からなる滑子31は、長孔からなる滑子案内部41gに挿入されることで、滑子案内部41gに対してスライド自在に連結されている。そして、回転体30の回転に伴い滑子31が回転軸線N回りに回転すると、その回転動力が滑子案内部41gを介して、回動アーム41の回動力に変換され、回動アーム41は、回転体30の回転と連動して、回動軸線M回りに回動する。
【0025】
4つの回動アーム41は、本実施形態では、図4乃至図6に示すように、回転体30の回転に伴って、それぞれ回動軸線Mを中心として同じ方向に回動する。4つの回動アーム41は、それらが何れの回動位置にあっても、回転体30の回転軸線Nと回転軸線Nから最も離れた部分との距離が、互いに略同値となるように形成されている。
【0026】
第2ベース部50は、図2に示すように、第1ベース部20の回動アーム41側と反対側に位置し、第1ベース部20に固定されている。第2ベース部50は、中心線が回転軸線Nと一致する中空円柱形状であって両端に開口が形成された形状を有する。第2ベース部50の回転体30側と反対側は、回転動力出力部60を支持するモータ側支持部50bを形成している。回転動力出力部60の出力軸61は、回転軸線N上に配され、第2ベース部50に形成された開口を通じて第2ベース部50内に挿入されている。第2ベース部50の回転体30側の開口50cには、磁気粘性流体装置70が軸受B2を介して支持されている。磁気粘性流体装置70のシャフト6は、回転軸線N上に配され、第2ベース部50の内部に挿入されて、軸継手80を介して回転動力出力部60の出力軸61と回転一体に連結されている。
【0027】
回転動力出力部60は、磁気粘性流体装置70に対して回転動力を出力する。回転動力出力部60は、本実施形態では電動モータである。回転動力出力部60は、制御部110に電気的に接続されている。回転動力出力部60は、本実施形態では、把持装置10の使用時において、制御部110からの入力に基づいて、正方向(図1では反時計回り)または逆方向(図1では時計回り)の回転動力を常時出力する。回転動力出力部60は、第2ベース部50に支持された回転動力出力部本体60aと、回転動力出力部本体60aから回転軸線N方向における回動アーム41側方向に延びる出力軸61と、を有する。
【0028】
磁気粘性流体装置70は、回転動力出力部60から入力される回転動力を調整して回転体30に出力する。磁気粘性流体装置70は、内部に封入された磁気粘性流体14に印加する磁場の強さを変えることで磁気粘性流体14の粘性を変えて、入力される回転動力を調整して出力する。この磁気粘性流体装置70の一例を図3に示す。なお、磁気粘性流体装置70は、図3の態様に限定されない。
【0029】
図3に示す磁気粘性流体装置70は、入力側回転部7、出力側回転部8、磁場印加部9、磁気粘性流体14等で構成されている。
【0030】
入力側回転部7は、回転動力出力部60から入力される回転動力によって回転される。入力側回転部7は、シャフト6と、中心にシャフト6の基端部が固定された円板12とを備えている。シャフト6は、回転動力出力部60の出力軸61に回転一体に連結されている。シャフト6は、出力側回転部8に形成された軸穴に回転自在に支持されている。入力側回転部7は、回転動力出力部60から入力された回転動力によって、正方向または逆方向に回転する。
【0031】
出力側回転部8は、磁気粘性流体装置70のケーシングとして機能し、円板12を回転自在に収容している。出力側回転部8内には、円板12よりも径方向外側において、シャフト6と同心状に巻かれた磁場印加部9を構成するコイル91が設けられている。なお、出力側回転部8は磁性体で構成され、コイル91とともに磁場印加部9を構成するヨークとしても機能する。
【0032】
図2に示すように、磁気粘性流体装置70の出力側回転部8は、軸受B2を介して第2ベース部50に回転自在に支持されるとともに、回転体本体30aに形成された凹部に嵌合して、回転体30と回転一体に連結されている。これにより、出力側回転部8から出力された回転動力は、回転体30に入力される。
【0033】
磁場印加部9は、図3に示すように、磁気粘性流体14に磁場を印加する。磁気粘性流体装置70の磁場印加部9はそれぞれ、ボビンとコイル91とヨークとを含んで構成され、電線13を介してコイル91に制御部110から電流値制御可能に電流が供給される。磁場印加部9のコイル91に電流が印加されると、図3の矢印Pが示す方向に沿って、出力側回転部8、円板12およびこれらの隙間に介在する磁気粘性流体14上に磁路が形成される。
【0034】
磁気粘性流体14は、出力側回転部8内の封入空間11に封入されている。図3では、灰色に塗り潰した領域が封入空間11を表す。すなわち、磁気粘性流体14は、入力側回転部7と出力側回転部8との間に介在する。具体的には、磁気粘性流体14は、円板12と出力側回転部8との隙間に介在し、円板12と出力側回転部8との間で、印加される磁場の強さに応じたトルク伝達を行う。これにより、磁気粘性流体装置70は、当該磁場の強さに応じて、出力する回転動力を大きくする。本実施形態では、円板12(入力側回転部7)が回転動力出力部60から一定の回転動力を受けて常時、正方向または逆方向に回転するので、入力側回転部7から出力側回転部8に伝達されて出力側回転部8が出力する回転動力の大きさは、それらの間に介在する磁気粘性流体14に印加される磁場の大きさに応じて決まる。なお、磁気粘性流体14に印加される磁場が0の場合であっても、磁気粘性流体14が一定の粘性を有していること、およびシャフト6とシール部との間に摺動抵抗があることから、入力側回転部7から出力側回転部8に一定の回転動力が伝達される。以下では、印加される磁場が0の場合に入力側回転部7から出力側回転部8に伝達される回転動力を、「基底トルク」と称する。
【0035】
磁気粘性流体14は、磁性粒子を分散媒に分散させてなる液体である。磁性粒子として、例えば、ナノサイズの金属粒子(金属ナノ粒子)を使用することができる。磁性粒子は磁化可能な金属材料からなり、金属材料に特に制限はないが軟磁性材料が好ましい。軟磁性材料としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル及びパーマロイ等の合金が挙げられる。分散媒は、特に限定されるものではなく、一般的に磁気粘性流体に用いられる周知の分散媒を用いることができる。
【0036】
回転位置検知部100は、回転体30の回転位置を検知する。回転位置検知部100は、図2に示すように、回転体30に取り付けられた環状の磁石90に径方向に対向する位置に設けられている。回転位置検知部100は、本実施形態では、磁気回転角センサであり、磁石90が生ずる磁束を検知することにより、回転体30の回転位置を検知する。回転位置検知部100は、検知した回転体30の回転位置の情報を制御部110に入力する。
【0037】
制御部110は、回転動力出力部60および磁気粘性流体装置70に供給する電流の電流値を制御する。制御部110の具体的な制御内容については、後述する。なお、制御部110は、把持装置10の内部に格納されていてもよいし、把持装置10に有線接続された外部端末に格納されていてもよい。
【0038】
次に、4つの回動アーム41の回動動作について説明する。本実施形態では、4つの回動アーム41は、その長手方向と、回転軸線Nを中心とする半径方向との成す角度が何れの回動アーム41に関しても同じ角度になっている。そうなるように、各回動アーム41に形成された被支持部41hおよび滑子案内部41gと、回転体30に形成された各滑子31と、第1ベース部20に形成された各軸部21との位置関係が定まっている。
【0039】
図1において、回転体30の裏に隠れた回転動力出力部60が回転し、磁気粘性流体装置70のコイル91に電流が印加されると、回転動力出力部60の回転動力が磁気粘性流体装置70において調整された上で回転体30に伝達される。
【0040】
回転体30に回転動力が伝達されると、回転体30に設けられた滑子31が回転体30とともに回転軸線N回りに回転し、滑子31は、回動アーム41を各回動軸線M回りに回動させる。例えば、回転動力出力部60が図1において反時計回りに回転する場合、回動アーム41は、回動軸線Mを中心として時計回りに回動し、回転動力出力部60が時計回りに回転する場合、回動アーム41は、回動軸線Mを中心として反時計回りに回動する。なお、磁気粘性流体装置70は、コイル91に電流を供給されなくても入力側回転部7と出力側回転部8との間で基底トルクが伝達されるので、磁気粘性流体装置70のコイル91に電流を印加しなくても、回転動力出力部60の回転動力は、僅かながら、回転体30に伝達され、回動アーム41は低速で回動する可能性がある。
【0041】
次に、把持装置10が把持対象物Wを把持する際の動作を説明する。
【0042】
初めに、図示されていない産業用ロボットによって、図4に示すように、初期状態にある把持装置10が把持対象物Wの内側の空間に配置される。初期状態では、全ての回動アーム41が把持対象物Wの内側の空間に収まるように、各回動アーム41は、その先端部41sと回転軸線Nとの距離が比較的小さくなる回動位置に配されている。
【0043】
制御部110は、上記初期状態から、回動アーム41の先端部41sと回転軸線Nとの距離が次第に大きくなる方向に、回転動力出力部60の出力軸61を回転させる。同時に、制御部110は、磁気粘性流体装置70の磁場印加部9に、予め把持対象物Wに応じて定められた電流値の電流を供給する。そうすることで、回転体30が回転するとともに、4つの回動アーム41の先端部41sが徐々に回転軸線Nを中心とする半径方向外方に移動して、図5または図6に示すように、把持対象物Wを内側から把持するようになる。図5は、磁気粘性流体装置70の磁場印加部9に供給する電流の電流値を比較的小さくした場合の把持状態を示している。この場合、4つの回動アーム41は比較的弱い力で把持対象物Wを把持する。図6は、磁気粘性流体装置70の磁場印加部9に供給する電流の電流値を比較的高く設定した場合の把持状態を示している。この場合、4つの回動アーム41は比較的強い力で把持対象物Wを把持し、把持対象物Wが可撓性のものであれば、同図に示すように、把持対象物Wが少し変形した状態で把持する。
【0044】
産業用ロボットは、把持装置10により把持された把持対象物Wを所定の位置に移動した後、把持装置10の制御部110は、磁気粘性流体装置70に電流を供給しながら、回動アーム41の先端部41sと回転軸線Nとの距離が小さくなる方向に、回転動力出力部60の出力軸61を回転させて、把持対象物Wを解放する。好ましくは、把持対象物Wを把持する時の出力軸61の回転方向と逆の方向に出力軸61を回転させて、把持対象物Wを解放する。
【0045】
なお、本実施形態に係る制御部110は、回転位置検知部100から入力される回転体30の回転位置の情報に基づいて、磁気粘性流体装置70の磁場印加部9に供給する電流値を制御することができる。このため、回転体30の回転位置、すなわち4つの回動アーム41の回動位置に応じて、4つの回動アーム41の把持力を調整することができる。例えば、制御部110は、回転体30の回転位置が所定の位置にあるとき、磁場印加部9に電流を供給しないように制御し、又は磁場印加部9に供給する電流の電流値を低下させるように制御する。あるいは、制御部110は、回転体30の回転位置が所定の位置にあるとき、回転動力出力部60の出力を停止する。上記回転体30の回転位置の所定の位置は、例えば、回動アーム41の先端部41sと回転軸線Nとの距離が所定値以上になるような回転体30の回転位置である。このような制御を実施することで、把持対象物Wを把持中に予期せず把持対象物Wに力が掛かりすぎてしまい、把持対象物Wを損傷してしまうことを防止することができる。
【0046】
<作用効果>
以上に説明した本実施形態に係る把持装置10によれば、回転動力出力部60から磁気粘性流体装置70に入力された回転動力は、磁気粘性流体装置70によって調整されて、回転体30に出力される。磁気粘性流体装置70は、制御部110から供給される電流の電流値に応じて、その伝達トルクを精密に変化させることができる。このため、回転体30の回転に伴って回動する回動アーム41の回動力を精密に調整したり精密に制御したりすることができ、従来の把持装置よりも、精密に把持力を調整または制御することが可能となる。
【0047】
さらに、把持装置10によれば、回転体30が第1ベース部20に対して回転する動作と連動して、第1ベース部20に支持された回動アーム41を回動させるための機構が、回転体30に形成された滑子31と、回動アーム41に形成された滑子案内部41gとにより構成されている。このため、当該機構が簡単かつ信頼性の高い構造によって実現される。
【0048】
さらに、把持装置10によれば、4つの回動軸線Mは、その軸線方向から視て、回転体30の回転軸線Nを中心とする円周上に存在するので、回転軸線Nを中心として配置された把持対象物Wに対して、4つの回動アーム41が均等な把持力を及ぼすことができる。
【0049】
さらに、把持装置10によれば、4つの回動アーム41は、それらが何れの回動位置にあっても、回転体30の回転軸線Nと回転軸線Nから最も離れた部分との距離が、互いに略同値となるように構成されているので、回転軸線Nを中心として配置された円環状の把持対象物Wに対して、均等な把持力を及ぼすことができる。
【0050】
さらに、把持装置10によれば、4つの回動アーム41は、互いに周方向に均等に離れて配置されているので、回転軸線Nを中心として配置された把持対象物Wに対して、均等な把持力を及ぼすことができる。
【0051】
さらに、把持装置10によれば、回転体30の回転位置を検知する回転位置検知部100と、回転位置検知部100から入力された回転位置の情報に基づいて、磁気粘性流体装置70の磁場印加部9に供給する電流値を制御する制御部110と、を備えるので、回転体30の回転位置すなわち4つの回動アーム41の回動位置に応じて、4つの回動アーム41の把持力を調整することができる。
【0052】
<変形例>
次に、上記の実施形態に係る把持装置10の変形例を説明する。変形例については、図示せず説明する。
【0053】
上記の実施形態では、把持装置10における回動アームの個数は4つであったが、少なくとも2つ以上あればよく、好ましくは3つ以上あればよい。
【0054】
また、上記の実施形態では、回転体30に滑子が形成され、回動アーム41に滑子がスライド自在に連結される滑子案内部が形成されていたが、回動アーム41に滑子が形成され、回転体30に滑子がスライド自在に連結される滑子案内部が形成されていてもよい。こうした場合も、上記実施形態と同様に回転体30の回転に伴って回動アーム41を回動させることができる。この場合、例えば、回動アーム41に形成される滑子として、回動アーム41から下方に突出する円柱状の突出部を形成し、回転体30に形成される滑子案内部として、回転体30に半径方向に沿った所定長さの長溝を形成することができる。
【0055】
また、上記の実施形態では、回転動力出力部60は、電動モータを用いて構成されていたが、回転動力出力部60は、正方向および逆方向の回転動力を切り替えて出力することができるものであればよく、例えば油圧モータであってもよい。
【0056】
また、把持装置10は、回動アーム41の先端に圧力センサが設けられており、当該圧力センサにより把持対象物Wを把持する把持力を測定するように構成されてもよい。この把持装置10によれば、測定された把持力が所定値以上の場合に磁場印加部9に供給する電流の電流値を低下させるように制御部110が制御することにより、把持対象物Wの損傷を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、例えば、把持対象物を把持する把持装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 把持装置
20 第1ベース部
30 回転体
31 滑子
41 回動アーム
41g 滑子案内部
60 回転動力出力部
70 磁気粘性流体装置
7 入力側回転部
8 出力側回転部
9 磁場印加部
14 磁気粘性流体
100 回転位置検知部
110 制御部
N 回転軸線
M 回動軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6