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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118104
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】機能性デバイス及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/01 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
G06F3/01 560
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024341
(22)【出願日】2023-02-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「革新的情報通信技術研究開発委託研究/Beyond 5G網におけるホログラフィ通信のための高効率 圧縮伝送技術の研究開発 研究開発項目2 高度マルチモーダル情報の伝送技術の研究開発 研究開発項目2-c)マルチモーダル情報伝送の実証に関する研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】徳田 雄嵩
【テーマコード(参考)】
5E555
【Fターム(参考)】
5E555AA08
5E555BA02
5E555BB02
5E555BC04
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】弾性や硬さなどの物理的特性を局所的かつ動的に制御可能な機能性デバイス及びその制御方法を提供する。
【解決手段】触感提示デバイスシステムは、触感提示デバイス1、触感提示デバイス1に提示させる触感として硬さや弾性に関するデータを記憶する硬さデータ記憶部2及び触感提示デバイス1に提示させる触感を前記硬さデータに基づいて局所的かつ動的に制御する制御回路3を主要な構成としている。触感提示デバイス1は、静的ユニット11及び動的ユニット12を複合してモジュール構造とした複合体ユニット10の複数を、一次元、二次元又は三次元に配列かつ相互に接続して構成される。触感提示デバイス1の触感提示面13に手指等が接触すると、制御回路3は接触位置と対応付けられた硬さデータを硬さデータ記憶部2から取得し、当該硬さデータに基づく硬さや弾性を各複合体ユニット10の露出面に生じさせることで触感を局所的かつ動的に提示する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの静的ユニット及び動的ユニットを少なくとも一の方向へ直列に複合して構成した複合体ユニットの複数を相互に接続して構成される機能性デバイスにおいて、
前記静的ユニットは物理的特性が実質的に一定であり、
前記動的ユニットは付勢又は消勢されることで物理的特性が変化し、
前記各複合体ユニットは、前記動的ユニットが付勢されるか消勢されるかに応じて前記一の方向に異なる物理的特性を発揮することを特徴とする機能性デバイス。
【請求項2】
前記各複合体ユニットは、一つの静的ユニット及び動的ユニットを前記一の方向に複合して構成されたことを特徴とする請求項1に記載の機能性デバイス。
【請求項3】
前記各複合体ユニットは、複数の静的ユニット及び動的ユニットを前記一の方向に交互に複合して構成されたことを特徴とする請求項1に記載の機能性デバイス。
【請求項4】
前記各複合体ユニットは、少なくとも一つの静的ユニット及び動的ユニットを一の方向に直列に複合して構成された複合体ユニット要素の複数を前記一の方向と直行する方向に並列に複合して構成されたことを特徴とする請求項1に記載の機能性デバイス。
【請求項5】
前記複数の複合体ユニットが一次元的に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の機能性デバイス。
【請求項6】
前記複数の複合体ユニットが二次元的に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の機能性デバイス。
【請求項7】
前記複数の複合体ユニットが三次元的に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の機能性デバイス。
【請求項8】
前記物理的特性が弾性であり、
前記複合体ユニットでは、前記動的ユニットが付勢及び消勢の一方によりその弾性が相対的に高い状態では静的ユニットの弾性が支配的となり、前記付勢及び消勢の他方によりその弾性が相対的に低い状態では当該動的ユニットの弾性が支配的となることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の機能性デバイス。
【請求項9】
前記静的ユニットの弾性率が、前記動的ユニットの弾性率が相対的に高い状態のときの弾性率よりも低く、前記動的ユニットの弾性率が相対的に低い状態のときの弾性率よりも高いことを特徴とする請求項8に記載の機能性デバイス。
【請求項10】
前記動的ユニットは、弾性が実質的に一定の弾性一定部材と、可撓性が温度により変化する弾性可変支柱部材とを組み合わせて構成され、
前記弾性可変支柱部材は、付勢されて温度が上昇することで撓み易くなる一方、消勢されて温度が低下することで撓み難くなり、
前記動的ユニットでは、弾性可変支柱部材が付勢されると当該弾性可変支柱部材の弾性が支配的となり、弾性可変支柱部材が消勢されると弾性一定部材の弾性が支配的となり、
動的ユニット全体として形状記憶性を有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の機能性デバイス。
【請求項11】
前記弾性可変支柱部材が更に形状記憶性を備えたことを特徴とする請求項10に記載の機能性デバイス。
【請求項12】
前記動的ユニットが、導電性発熱体を内部に組み込んだ相変化材料及び熱可塑性樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の機能性デバイス。
【請求項13】
前記複数の複合体ユニットが、機械的接合インタフェース、磁性接合インタフェース、感熱性接着インタフェース、自己修復接合インタフェースの少なくとも一つにより相互に接続されたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の機能性デバイス。
【請求項14】
静的ユニットの物理的特性が異なる複数の複合体ユニットで構成されたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の機能性デバイス。
【請求項15】
少なくとも一つの静的ユニット及び動的ユニットを少なくとも一の方向に直列に複合して構成した複合体ユニットの複数を相互に接続して構成される機能性デバイスの制御方法において、
前記静的ユニットは物理的特性が実質的に一定であり、
前記動的ユニットは付勢及び消勢されることで物理的特性が変化し、
前記複合体ユニットは、付勢されているか消勢されているかに応じて前記一の方向に異なる物理的特性を発揮し、
前記複合体ユニットの各動的ユニットを選択的に付勢又は消勢することを特徴とする機能性デバイスの制御方法。
【請求項16】
前記各複合体ユニットが複数の動的ユニットを含み、
別途に与えられる硬さデータに基づいて、付勢又は消勢する動的ユニットの組み合わせを切り替えることを特徴とする請求項15に記載の機能性デバイスの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性デバイス及びその制御方法に係り、特に、硬さや弾性等の物理的特性を局所的かつ動的に制御可能な機能性デバイス及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ソフトロボティクス(柔らかい素材を使ったロボット)、触感ディスプレイ、触感インタフェースなどへの応用を想定して、物体(マテリアル)の硬さや弾性等の物理的特性を動的かつ可逆的に制御する技術の研究開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、カーボンナノチューブで被覆されたナイロン繊維や、モータ、アクチュエータ、加熱要素に包まれたポリカプロラクトン棒、ESFデバイス、USFデバイスなど、物理的特性を変化可能なマテリアルを用いた触感インタフェース技術が開示されている。
【0004】
非特許文献1には、磁力によって硬さや弾性を制御可能な物理的特性制御可能ユニット(動的ユニット)を格子状に配置し、電磁石と組み合わせることで、硬さや弾性を電気的にリアルタイム制御可能な機能性デバイスに関する技術が開示されている。
【0005】
非特許文献2には、異なる弾性を有する2種類のユニットを格子状に市松模様(チェッカーパターン)状に配置し、接続するユニットを柔軟に設計可能なアタッチメントデバイスと組み合わせることで、硬さや弾性を局所的に制御可能な機能性デバイスに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-126767号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Haghpanah, B et al. "Programmable Elastic Metamaterials," Adv. Eng. Mater., 2016. https://doi.org/10.1002/adem.201500295
【非特許文献2】Willa Yunqi Yang et al. "Reconfigurable Elastic Metamaterials," in Proc. of UIST, 2022. https://doi.org/10.1145/3526113.3545649
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のいずれの先行技術においても、デバイスの硬さや弾性等の物理的特性を局所的かつ動的に制御することができないという問題点があった。例えば、特許文献1に記載の触感インタフェース技術は、デバイス全体を加熱する事によって硬さや質感の制御が可能な技術になっており、デバイスの物理的特性の局所的な制御ができない。
【0009】
非特許文献1に記載の機能性デバイスに関する技術も、複数の電磁石による動的接着ユニットを支柱に用いたトラス構造を用いる事でデバイス全体の弾性を高速かつ柔軟に制御が可能であるものの、局所的な範囲での制御や小型化が困難であり、特許文献1と同様に、デバイスの物理的特性の局所的な制御はできない。
【0010】
非特許文献2に記載の機能性デバイスに関する技術は、デバイスの局所的な物理的特性の制御が可能であるものの、物理的特性の制御にはアタッチメントデバイスの物理的な交換作業が必要なため、デバイスの物理的特性の動的な制御ができない。
【0011】
本発明の目的は、上記の技術課題を解決し、様々な硬さや弾性等の物理的特性を有する静的ユニットと個別に硬さを制御可能な動的ユニットとを直列または並列に組み合わせた複合体ユニットを複数組み合わせることで、デバイスの硬さや弾性等の物理的特性を局所的かつ動的に制御可能な機能性デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は、静的ユニット及び動的ユニットを一の方向へ直列に複合して構成した複合体ユニットの複数を相互に接続して構成される機能性デバイスにおいて、静的ユニットは物理的特性が実質的に一定であり、動的ユニットは付勢又は消勢されることで物理的特性が変化し、各複合体ユニットは動的ユニットが付勢されるか消勢されるかに応じて一の方向に異なる物理的特性を発揮するようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
1. 本発明の機能性デバイスをソフトロボティクス、触感ディスプレイあるいは触感インタフェースに適用すれば、その触感や硬さを局所的かつ動的に制御できるようになる。
2. 各複合体ユニットを複数の動的ユニットで構成し、各動的ユニットを個別に制御すれば、バイナリデータによる簡単な制御で触感を多段的かつ高精度に制御できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明を適用した機能性デバイスシステムの構成を示したブロック図である。
図2】多数の複合体ユニットを接続した触感提示デバイスの例を示した図である。
図3】静的ユニットとしてコイルバネを用いる例を示した図である。
図4】動的ユニットの構成及びその動作原理を模式的に示した図である。
図5】動的ユニットの他の構成及びその動作原理を模式的に示した図である。
図6】複合体ユニットの第1実施形態を模式的に示した図である。
図7】複合体ユニットの第2実施形態を模式的に示した図である。
図8】複合体ユニットの第3実施形態を模式的に示した図である。
図9】複合体ユニットの第4実施形態を模式的に示した図である。
図10】第4実施形態の制御方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は本発明を適用した機能性デバイスシステムの主要部の構成を示した図であり、ここでは物理的特性として硬さや弾性を局所的かつ動的に制御することで触感を提示する触感提示デバイスシステムを例にして説明する。
【0016】
触感提示デバイスシステムは、機能性デバイスとしての触感提示デバイス1、触感提示デバイス1に提示させる触感として硬さや弾性に関するデータを記憶する硬さデータ記憶部2及び触感提示デバイス1に提示させる触感を前記硬さデータに基づいて局所的かつ動的に制御する制御回路3を主要な構成としている。
【0017】
触感提示デバイス1は、静的ユニット11及び動的ユニット12を複合してモジュール構造とした複合体ユニット10の複数を、図2に示すように一次元[同図(a)]、二次元[同図(b)]又は三次元[同図(c)]に配列かつ相互に接続して構成される。
【0018】
触感提示デバイス1の触感提示面13に手指等が接触すると、制御回路3は接触位置と対応付けられた硬さデータを硬さデータ記憶部2から取得し、当該硬さデータに基づく硬さや弾性を各複合体ユニット10の触感提示面13に生じさせることで触感を局所的かつ動的に提示する。
【0019】
複合体ユニット10同士の接続は、例えばスナップフィットのように材料の弾性を利用して嵌め込む機械的接合インタフェース、磁石を用いた磁性接合インタフェース、インテリマーテープ(登録商標)やホットメルトのような温度によって粘着力が動的に変化する機能性テープや感温性樹脂などを用いた感熱性接着インタフェース、又はWizard Gel(登録商標)のような自己修復性ポリマーゲルを用いた自己修復接合インタフェースを、各複合体ユニット10の構造表面に組み込むことで実現できる。
【0020】
なお、接続する複合体ユニット10の種類は同一である必要が無く、全体として所望の物理的特性を実現できるように、物理的特性の異なる多種類の複合体ユニット10を組み合わせることも可能である。
【0021】
複数の複合体ユニット10を図2(a)のように一次元的に配列すれば、押し込む硬さを自在に変えられるペン型デバイス、建築物の構造部位にかかる荷重や振動特性に応じて硬さを自由に調整できるフレームなどの機能性構造材料・制振デバイス、あるいはボタンやジョイスティックの弾性を自由に変えられる機能性ばねや棒状のハプティクスデバイスを提供できる。
【0022】
複数の複合体ユニット10を図2(b)のように二次元的に配列すれば、曲げ強度を局所的に自由に変える事ができる機能性シートやフレーム構造、XY平面で局所的に触感を変える事ができる触覚ディスプレイやスマートキーボードデバイス、弾性を動的に制御可能な卓球等のスマートラケット、靴や椅子、あるいはソファなどの機能性クッション材料を提供できる。
【0023】
複数の複合体ユニット10を図2(c)のように三次元的に配列して硬さや弾性を局所的に制御すれば、アクチュエータの応力を非線形的に伝達する事で柔軟に形状を立体的に変形可能なソフトロボット、フレキシブルマニピュレータ、形状変化型ディスプレイ、人工筋肉などの身体拡張ウェアラブルデバイス、振動を局所的に制御可能な音響デバイスや振動ハプティクスデバイス、あるいは食感を制御可能な食感拡張インタフェースを提供できる。
【0024】
前記静的ユニット11は、特定の硬さや弾性等の物理的特性を有する素材または幾何学的構造で設計されて一定の硬さを持つ構造体ユニットである。このような静的ユニット11としては、特定の硬さ及び弾性ヒステリシスを有し、大きな歪みを加えても元の形状に回復する頑健性をもったコイルバネ、板バネ、高弾性材料(例えば、スポンジ・ポリエチレンフォーム・ウレタンフォームなどの気泡構造体、ゴム・ゲル・エラストマ樹脂、グミ・コンニャク・寒天等の弾性食材)、形状記憶材料(形状記憶合金、樹脂)、格子構造(メタマテリアル)を有するハニカム構造セル(Kelvin cell,body-centered cubic,Simple Cubic)あるいはそれらを合成した複合構造体を採用できる。
【0025】
静的ユニット11としてコイルバネを用いる場合、図3に示すように、ばねの線径、中心径、巻数、ばね材料またはそれらの組み合わせにより、硬さや弾性について多種の物理的特性を表すことができる。
【0026】
静的ユニット11の形状に特段の限定は無いが、動的ユニット12との複合を容易にする観点からは立方体型や直方体型等のモジュール構造であることが望ましい。また、製造の容易さの観点から、3Dプリンタ・レーザーカッタ・CNCマシンなどの工作機械によって成型できる構造形状を有することも望ましい。
【0027】
動的ユニット12は、外部からのエネルギ供給及びその遮断により付勢又は消勢されて硬さや弾性等の物理的特性を個別に動的制御可能な構造体である。
【0028】
図4は、動的ユニット12の構造及びその動作原理の一例を模式的に示した図であり、弾性一定フレーム121と弾性可変支柱122とを組み合わせて構成される。弾性一定フレーム121は外折れ式のパンタグラフ構造であり、高温耐性の弾性を有し、無荷重で元の形状に復元する形状可逆性を有する。
【0029】
弾性可変支柱122は、動的ユニット12の応力が集中する部分に設けられ、電力等のエネルギ供給により付勢されて硬さや弾性率が変化することで可変の可撓性を発揮する。前記弾性可変支柱122は、弾性率が温度の上昇に伴って低下(軟化)する一方、温度の低下に伴って上昇(硬化)する可逆性を備え、感温性材料と導電発熱体とを組み合わせた複合材料で構成される。
【0030】
なお、前記弾性可変支柱122が可逆性のみならず形状記憶性をも備えれば、前記弾性一定フレーム121の形状可逆性を弾性可変支柱122の形状記憶性で補助することができるので、動的ユニット12全体の形状回復速度を向上させることができる。
【0031】
弾性可変支柱122は、温度上昇により軟化すると小さな荷重に対しても容易に撓むので動的ユニット12全体の硬さ・弾性率を低下させる。荷重(応力)が無くなると、撓んだ支柱が弾性一定フレーム121の弾性素材や幾何学的弾性構造の形状記憶機能によって元に戻り、給電を遮断して自然冷却または冷却ファンやペルチェ素子などを用いて強制冷却することで動的ユニット12を元の硬さに可逆的に復元できる。
【0032】
前記弾性可変支柱122が軟化した状態での動的ユニット12の弾性率は静的ユニット11の弾性率よりも十分に低く、硬化した状態での弾性率は静的ユニット11の弾性率よりも十分に高い。したがって、弾性可変支柱122を軟化させて動的ユニット12の弾性率を劇的に下げると、荷重に対して静的ユニット11は歪まずに動的ユニット12のみが歪む。このため、動的ユニット12が完全に圧縮されて軟性が失われるまでの間、複合体ユニット10では動的ユニット12の弾性率が支配的となり、静的ユニット11の硬さを無効化できる。すなわち動的ユニット12による相対的に柔らかい触感のみを提供できる。
【0033】
これに対して、弾性可変支柱122を硬化させて動的ユニット12の弾性率を静的ユニット11の弾性率よりも劇的に上げると、荷重によって動的ユニット12は歪まなくなり、静的ユニット11のみが歪むため、複合体ユニット10では静的ユニット11の弾性率に基づく触感のみを提供できる。
【0034】
前記弾性可変支柱122としては、炭素を原料とする導電性発熱塗料でコーティングされた蝋や液体金属などの低い温度領域で固体と液体に容易に相変化する感温性材料を用いることができる。あるいは発熱塗料でコーティングされたガラス転移温度が100度以内の感温性3Dプリントフィラメントやホットメルト接着剤として用いられている熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂エラストマー又はそれらの複合材料を用いることも望ましい。
【0035】
前記弾性可変支柱122は、支柱内部に導電性発熱塗料、液体金属、柔らかい電熱線(例えば、エナメル線、カンタル線、導電繊維・柔軟な導電性フィラメント)等の導電性発熱体を含めた構造であっても良い。支柱をコーティングまたは内部に埋め込んだ導電性発熱体を電圧制御回路と導線により繋ぎ、発熱量(電力量)を制御することで支柱の温度を外部および内部から動的に制御しても良い。
【0036】
図5は、動的ユニット12における弾性一定フレーム121及び弾性可変支柱122の他の組み合わせ例を示した図であり、同図(a)では弾性一定フレーム121が2つの環状弾性部材をその径方向が荷重方向と一致するように直列に連結して構成され、弾性可変支柱122は前記2つの環状弾性部の連結方向に撓むことで弾性を発揮するように構成されている。
【0037】
同図(b)は、内折れ式パンタグラフ構造の弾性一定フレーム121と弾性可変支柱122とを組み合わせた例を示している。同図(c)は、コイルバネ状の弾性一定フレーム121と弾性可変支柱122とを組み合わせた例を示している。同図(d)は、弾性一定フレーム121及び弾性可変支柱122を環状の弾性部材で構成して一体化した例を示している。なお、特に前記図5(b)の構成によれば、弾性一定フレーム121が荷重により変形する際でも外側へ膨張しないので、隣接する他の動的ユニット12の弾性一定フレーム121との干渉を防止できる。
【0038】
図6は、前記複合体ユニット10の第1実施形態の構成を模式的に示した側面図である。本実施形態では、複合体ユニット10が静的ユニット11及び動的ユニット12を接触荷重が作用する方向に直列に複合して構成され、静的ユニット11の主面が触覚提供面となっている。
【0039】
図7は、前記複合体ユニット10の第2実施形態の構成を模式的に示した側面図である。本実施形態では、複合体ユニット10が一つの動的ユニット12を二つの静的ユニット11(A,B)で接触荷重の方向に挟み込むように直列に複合して構成され、一方の静的ユニット11Aの主面が触覚提供面となっている。
【0040】
図8は、複合体ユニット10の第3実施形態の構成を模式的に示した側面図である。本実施形態では、複合体ユニット10がn個の動的ユニットをn+1個の静的ユニットで交互に挟み込むように接触荷重の方向に直列に複合して構成され、一方側に露出する静的ユニット11の主面が触覚提供面となっている。
【0041】
図6のように、同一体積で弾性率をそれぞれE1、E2とする2つのユニットを直列に接続した場合、複合体ユニット10としての積層方向の弾性率は複合則により次式(1)で表されることが知られている。
【0042】
積層方向の弾性率=(2E1E2)/(E1+E2)・・・(1)
【0043】
複合体ユニット10としての弾性率をEc、静的ユニット11の弾性率をEf、動的ユニット12の弾性率をEd(Ed1<Ed<Ed2の範囲で制御可能)とする。この場合、Ed1がEfよりも十分に小さく(Ed1<<Ef)かつEd2がEfよりも十分に大きければ(Ef<<Ed2)、動的ユニット12の弾性率が最小の場合にEc=略0(動的ユニット12が圧縮しきらない歪み範囲において)、最大の場合にEc=略2Ef(静的ユニット11が圧縮しきらない歪み範囲において)となる。すなわち、複合体ユニット10の弾性率を0<Ec<2Efの範囲で制御可能となる。
【0044】
図7のように、2つの静的ユニット11の間に動的ユニット12を挟み込んだ複合体ユニット10では、各静的ユニット11の弾性率をそれぞれEA、EBとすると、複合体ユニット10としての弾性率Ecは、0<Ec<(3EAEB)/(EA+EB)の範囲で制御可能となる(各ユニット11,12が圧縮しきらない歪み範囲において)。
【0045】
したがって、例えば複合体ユニット10を図2(c)のように三次元に配列してロボットを構築する場合でも、複合する静的ユニット11の組み合わせを部位に応じて変えることで、硬さデータが"0","1"のバイナリデータである簡単な制御でも弾性率の制御範囲を部位ごとに異ならせることができる。
【0046】
なお、静的ユニット11及び動的ユニット12の配置は上記の各実施形態に限定されるものではなく、複数の静的ユニット11及び動的ユニット12を接触荷重が作用する方向に直列又は並列に配置して構成できれば、その形態は限定されない。
【0047】
図9は、本発明を適用した触感提示デバイスシステムの他の構成を示した図であり、触感提示デバイス1において、前記第1ないし第3実施形態で説明した複合体ユニット10と同様の構成の複数の複合体ユニットを並列(二次元)に配置した点に特徴がある。
【0048】
以下では説明を分かり易くするために、複数個を二次元に配置して一つの複合体ユニット10を構成する際の各複合体ユニット10を複合体ユニット要素14と表現して両者を区別するものとし、ここでは複合体ユニット10を2つの複合体ユニット要素14A,14Bで構成する場合を例にして説明する。
【0049】
なお、複合体ユニット要素14A,14Bの主面には接触荷重を各ユニット要素14A,14Bへ分散させるための荷重分散板(図示せず)が設けられており、接触荷重は各ユニット要素14A,14Bへ均等に分散される。
【0050】
以下、図9の触感提示デバイス1において各複合体ユニット要素14A,14Bの動的ユニット12A,12Bを選択的に付勢/消勢することで触感を多段的に制御する例について説明する。
【0051】
一般に、同一体積で弾性率をそれぞれE1、E2とする2つのユニットを並列に複合させた場合、全体の弾性率は次式(2)で表されることが知られている。
【0052】
全体の弾性率=(E1+E2)/2・・・(2)
【0053】
図9の実施形態において、一方の複合体ユニット要素14Aを構成する静的ユニット11Aの弾性率をEfA、他方の複合体ユニット要素14Bを構成する静的ユニット11Bの弾性率をEfB、各動的ユニット12A,12Bの弾性率をEd(Ed1<Ed<Ed2の範囲で制御可能)とし、Ed1≪EfA≪Ed2かつEd1≪EfB≪Ed2とすると、硬さデータの入力、各複合体ユニット要素14A,14Bの弾性率及び複合体ユニット10全体の弾性率の関係は図10のようになる。
【0054】
すなわち、複合体モジュール要素14A,14Bの動的ユニット12A,12Bをいずれも付勢しなければ、各複合体ユニット要素14A,14Bでは静的ユニット11A,11Bの弾性率が支配的となる。したがって、各ユニットを積層した複合体ユニット要素14A,14Bの弾性率は、上式(1)によりそれぞれ2EfA,2EfBとなり、各ユニット要素を並列配置した複合体モジュール1全体の弾性率は、上式(2)によりEfA+EfBとなる。
【0055】
これに対して、複合体モジュール要素14Bの動的ユニット12Bのみを付勢すると、当該複合体モジュール要素14Bでは軟化した動的ユニット12Bの弾性率が支配的となる一方、複合体モジュール要素14Aでは静的ユニット11Aの弾性率が支配的となる。したがって、各ユニットを積層した複合体ユニット要素14A,14Bの弾性率は、上式(1)によりそれぞれ2EfA,2Ed1となり、各ユニット要素を並列配置した複合体モジュール1全体の弾性率は、上式(2)によりEfAとなる。
【0056】
同様に、複合体モジュール要素14Aの動的ユニット12Aのみを付勢すると、当該複合体モジュール要素14Aでは軟化した動的ユニット12Aの弾性率が支配的となる一方、複合体モジュール要素14Bでは静的ユニット11Bの弾性率が支配的となる。したがって、各ユニットを積層した複合体ユニット要素14A,14Bの弾性率は、上式(1)によりそれぞれ2Ed1,2EfBとなり、各ユニット要素を並列配置した複合体モジュール1全体の弾性率は、上式(2)によりEfBとなる。
【0057】
更に、複合体モジュール要素14A,14Bの動的ユニット12A,12Bをいずれも付勢すれば、各複合体ユニット要素14A,14Bでは軟化した動的ユニット12Aの弾性率が支配的となる。したがって、各ユニットを積層した複合体ユニット要素14A,14Bの弾性率は、上式(1)によりいずれも2Ed1となり、各ユニット要素を並列配置した複合体モジュール1全体の弾性率も、上式(2)により2Ed1となる。
【0058】
このように、複合体モジュール1を複数の複合体モジュール要素14を組み合わせて構成し、各モジュール要素を構成する静的ユニット11A,11Bの弾性率を異ならせれば、動的ユニット12を制御する硬さデータが0(消勢)または1(付勢)の2値のデジタル入力であっても触感を多段的に制御できるようになり、硬さや弾性等の物理的特性の制御可能範囲を拡張することができる。
【0059】
なお、上記の実施形態のように、複数の複合体ユニット要素14を二次元配列すると共に各ユニット要素14を構成する静的ユニット11の弾性率を異ならせることで多段的な触感制御を実現するのであれば、静的ユニット11としてメカニカルメタマテリアル等の格子構造セルを採用し、複合体ユニット要素14毎に幾何学的構造を異ならせれば良い。
【0060】
そして、上記の実施形態によれば、機能性デバイスの物理的特性を簡単な構成で細かく制御できるので、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標11「都市を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1…触感提示デバイス,2…硬さデータ記憶部,3…制御回路,10…複合体ユニット,11…静的ユニット,12…動的ユニット,14(14A,14B)…複合体ユニット要素,121…弾性一定フレーム,122…弾性可変支柱
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