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特開2024-11811電子顕微鏡データ解析システム、及び電子顕微鏡データ解析方法
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  • 特開-電子顕微鏡データ解析システム、及び電子顕微鏡データ解析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011811
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】電子顕微鏡データ解析システム、及び電子顕微鏡データ解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20240118BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
G01N23/04 310
G06T1/00 500A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114077
(22)【出願日】2022-07-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 証明書1(資料1-1~1-2) 集会名 計算を中心としたバイオ分野の筑波大-KEK連携セミナー 開催日 令和3年8月6日 証明書2(資料2-1) 発行者名 CBI学会2021年大会 刊行物名 予稿集PDF版(分冊) 掲載年月日 令和3年10月24日 掲載アドレス https://cbi-society.org/taikai/taikai21/index.html 証明書3(資料3-1~3-4) 集会名 CBI学会2021年大会 開催日 令和3年10月27日 証明書4(資料4-1~4-2) 集会名 2021年度生理学研究所研究会 開催日 令和3年11月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29~令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業」「創薬等ライフサイエンス研究のための相関構造解析プラットフォームによる支援と高度化」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】守屋 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 悠介
【テーマコード(参考)】
2G001
5B057
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA11
2G001CA03
2G001HA07
2G001HA13
2G001JA16
2G001KA08
2G001LA01
2G001RA03
5B057CB13
5B057CE09
5B057DA07
5B057DA12
(57)【要約】
【課題】電子顕微鏡によって得られた撮像データに基づく解析をオンプレミスの解析装置とサーバとによって実行する場合に、データ転送及び解析の効率を向上させることができること。
【解決手段】電子顕微鏡データ解析システムは、複数の電子顕微鏡と、サーバと、を備えるシステムであって、複数の電子顕微鏡の少なくとも1つから当該電子顕微鏡によって解析対象が撮像された撮像データを取得する撮像データ取得部と、撮像データに対して前処理を行う前処理部と、前処理を行うことによって生成されたデータを解析データとしてサーバに送信する送信部と、を備え、サーバは、送信部によって送信された解析データの解析を実行し、前処理には、フレーム間動き補正処理と、CTFパラメータ推定処理と、ピッキング処理とが含まれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電子顕微鏡と、
サーバと、
を備えるシステムであって、
前記複数の電子顕微鏡の少なくとも1つから当該電子顕微鏡によって解析対象が撮像された撮像データを取得する撮像データ取得部と、
前記撮像データ取得部によって取得された前記撮像データに対して前処理を行う前処理部と、
前記前処理部が前記前処理を行うことによって生成されたデータを解析データとして前記サーバに送信する送信部と、
を備え、
前記サーバは、前記送信部によって送信された前記解析データの解析を実行し、
前記前処理には、
複数のフレーム間での解析対象の動きに応じて当該複数のフレームを重ねることによって1枚の静止画像を生成する処理であるフレーム間動き補正処理と、
コントラスト伝達関数のパラメータ値を推定する処理であるCTFパラメータ推定処理と、
前記静止画像に撮像されている前記解析対象を切り出すことによって1枚あたり当該解析対象の像が1つ含まれる複数の解析対象画像を前記静止画像毎に生成する処理であるピッキング処理と、
が含まれる
電子顕微鏡データ解析システム。
【請求項2】
前記前処理には、
前記複数の解析対象画像を前記解析対象の姿勢に基づいて分類することによって得られるクラスに含まれる前記解析対象画像を平均化して2次元平均解析対象画像を生成する処理である2次元平均化処理と、
前記2次元平均解析対象画像に基づいて選択された前記解析対象画像から前記解析対象の姿勢に基づいて3次元構造が再構築された3次元画像である初期3次元参照マップを生成する処理である初期3次元構造再構築処理と、
前記初期3次元参照マップを用いて3次元構造に基づいて前記解析対象画像を分類することによって得られるクラスに含まれる前記解析対象画像から3次元構造が再構築された3次元画像である3次元クラスマップを生成し、生成した前記3次元クラスマップに基づいて前記解析対象画像を選別する処理である3次元構造クラス分け処理と、
前記3次元構造クラス分け処理において選別された前記解析対象画像から前記3次元クラスマップを用いて3次元構造が再構築された3次元画像である3次元マップを生成する処理である3次元精密化処理と、
が含まれる
請求項1に記載の電子顕微鏡データ解析システム。
【請求項3】
前記前処理には、前記2次元平均化処理と、前記初期3次元構造再構築処理と、前記3次元構造クラス分け処理と、前記3次元精密化処理とを前記3次元マップの分解能が所望の分解能以上となるまで繰り返し実行する処理が含まれる
請求項2に記載の電子顕微鏡データ解析システム。
【請求項4】
前記前処理部は前記前処理を自動的に実行し、
前記サーバは前記解析データの解析を自動的に実行する
請求項1に記載の電子顕微鏡データ解析システム。
【請求項5】
前記サーバはクラウドサーバである
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電子顕微鏡データ解析システム。
【請求項6】
複数の電子顕微鏡とサーバとを備えるシステムにおける電子顕微鏡データ解析方法であって、
前記複数の電子顕微鏡の少なくとも1つから当該電子顕微鏡によって解析対象が撮像された撮像データを取得する撮像データ取得ステップと、
前記撮像データ取得ステップによって取得された前記撮像データに対して前処理を行う前処理ステップと、
前記前処理ステップが前記前処理を行うことによって生成されたデータを解析データとして前記サーバに送信する送信ステップと、
前記サーバが、前記送信ステップによって送信された前記解析データの解析を実行する解析ステップと、
を有し、
前記前処理ステップには、
複数のフレーム間での解析対象の動きに応じて当該複数のフレームを重ねることによって1枚の静止画像を生成する処理であるフレーム間動き補正処理を行うステップと、
コントラスト伝達関数のパラメータ値を推定する処理であるCTFパラメータ推定処理を行うステップと、
前記静止画像に撮像されている前記解析対象を切り出すことによって1枚あたり当該解析対象の像が1つ含まれる複数の解析対象画像を前記静止画像毎に生成する処理であるピッキング処理を行うステップと、
が含まれる
電子顕微鏡データ解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡データ解析システム、及び電子顕微鏡データ解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡によって得られた撮像データをサーバに送信し、サーバによって撮像データに基づく解析を行うシステムが知られている。例えば、電子顕微鏡等の分析機器を用いた特定検査を支援する支援システムが知られている(特許文献1)。特許文献1に記載のシステムでは、電子顕微鏡等の分析機器と接続された検査端末装置を用いて画像データの作成が行われる。特許文献1に記載のシステムでは、複数の検査端末装置がネットワークを介してサーバと接続されている。特許文献1に記載のシステムでは、検査端末装置から画像データがサーバに送信され、当該サーバにおいて定性、定量分析が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-60741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子顕微鏡によって得られた撮像データに基づく解析は、複数の処理から構成される。特許文献1に記載のシステムでは、電子顕微鏡によって得られた撮像データに基づく解析を構成する複数の処理のうちいずれを、オンプレミスの解析装置(検査端末装置)によって実行させ、サーバによって実行させるかが考慮されていない。そのため、特許文献1に記載のシステムでは、撮像データの量、及び処理内容によっては解析の効率が低くなる場合がある。例えば、オンプレミスの解析装置からサーバへ送信されるデータ量が大きくなり通信負荷が大きくなってしまう場合がある。また、解析によるサーバの処理負荷が大きくなってしまう場合がある。
【0005】
つまり、特許文献1に記載のシステムでは、電子顕微鏡によって得られた撮像データに基づく解析をオンプレミスの解析装置とサーバとによって実行する場合に、データの転送及び解析の効率が考慮されていない。電子顕微鏡によって得られた撮像データに基づく解析をオンプレミスの解析装置とサーバとによって実行する場合に、データの転送及び解析の効率を向上させることが求められている。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、電子顕微鏡によって得られた撮像データに基づく解析をオンプレミスの解析装置とサーバとによって実行する場合に、データの転送及び解析の効率を向上させることができる電子顕微鏡データ解析システム、及び電子顕微鏡データ解析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、複数の電子顕微鏡と、サーバと、を備えるシステムであって、前記複数の電子顕微鏡の少なくとも1つから当該電子顕微鏡によって解析対象が撮像された撮像データを取得する撮像データ取得部と、前記撮像データ取得部によって取得された前記撮像データに対して前処理を行う前処理部と、前記前処理部が前記前処理を行うことによって生成されたデータを解析データとして前記サーバに送信する送信部と、を備え、前記サーバは、前記送信部によって送信された前記解析データの解析を実行し、前記前処理には、複数のフレーム間での解析対象の動きに応じて当該複数のフレームを重ねることによって1枚の静止画像を生成する処理であるフレーム間動き補正処理と、コントラスト伝達関数のパラメータ値を推定する処理であるCTFパラメータ推定処理と、前記静止画像に撮像されている前記解析対象を切り出すことによって1枚あたり当該解析対象の像が1つ含まれる複数の解析対象画像を前記静止画像毎に生成する処理であるピッキング処理と、が含まれる電子顕微鏡データ解析システム。
【0008】
また、本発明の一態様は、上記の電子顕微鏡データ解析システムにおいて、前記前処理には、前記複数の解析対象画像を前記解析対象の姿勢に基づいて分類することによって得られるクラスに含まれる前記解析対象画像を平均化して2次元平均解析対象画像を生成する処理である2次元平均化処理と、前記2次元平均解析対象画像に基づいて選択された前記解析対象画像から前記解析対象の姿勢に基づいて3次元構造が再構築された3次元画像である初期3次元参照マップを生成する処理である初期3次元構造再構築処理と、前記初期3次元参照マップを用いて3次元構造に基づいて前記解析対象画像を分類することによって得られるクラスに含まれる前記解析対象画像から3次元構造が再構築された3次元画像である3次元クラスマップを生成し、生成した前記3次元クラスマップに基づいて前記解析対象画像を選別する処理である3次元構造クラス分け処理と、前記3次元構造クラス分け処理において選別された前記解析対象画像から前記3次元クラスマップを用いて3次元構造が再構築された3次元画像である3次元マップを生成する処理である3次元精密化処理と、が含まれる。
【0009】
また、本発明の一態様は、上記の電子顕微鏡データ解析システムにおいて、前記前処理には、前記2次元平均化処理と、前記初期3次元構造再構築処理と、前記3次元構造クラス分け処理と、前記3次元精密化処理とを前記3次元マップの分解能が所望の分解能以上となるまで繰り返し実行する処理が含まれる。
【0010】
また、本発明の一態様は、上記の電子顕微鏡データ解析システムにおいて、前記前処理部は前記前処理を自動的に実行し、前記サーバは前記解析データの解析を自動的に実行する。
【0011】
また、本発明の一態様は、上記の電子顕微鏡データ解析システムにおいて、前記サーバはクラウドサーバである。
【0012】
また、本発明の一態様は、複数の電子顕微鏡とサーバとを備えるシステムにおける電子顕微鏡データ解析方法であって、前記複数の電子顕微鏡の少なくとも1つから当該電子顕微鏡によって解析対象が撮像された撮像データを取得する撮像データ取得ステップと、前記撮像データ取得ステップによって取得された前記撮像データに対して前処理を行う前処理ステップと、前記前処理ステップが前記前処理を行うことによって生成されたデータを解析データとして前記サーバに送信する送信ステップと、前記サーバが、前記送信ステップによって送信された前記解析データの解析を実行する解析ステップと、を有し、前記前処理ステップには、複数のフレーム間での解析対象の動きに応じて当該複数のフレームを重ねることによって1枚の静止画像を生成する処理であるフレーム間動き補正処理を行うステップと、コントラスト伝達関数のパラメータ値を推定する処理であるCTFパラメータ推定処理を行うステップと、前記静止画像に撮像されている前記解析対象を切り出すことによって1枚あたり当該解析対象の像が1つ含まれる複数の解析対象画像を前記静止画像毎に生成する処理であるピッキング処理を行うステップと、が含まれる電子顕微鏡データ解析方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電子顕微鏡によって得られた撮像データに基づく解析をオンプレミスの解析装置とサーバとによって実行する場合に、データの転送及び解析の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る電子顕微鏡データ解析システムの構成の一例を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る解析装置の機能構成の一例を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る単粒子解析の処理の流れ一例を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る単粒子解析の処理の詳細の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
[電子顕微鏡データ解析システム1の構成]
図1は、本実施形態に係る電子顕微鏡データ解析システム1の構成の一例を示す図である。電子顕微鏡データ解析システム1は、少なくとも1以上の解析設備と、サーバ5とを備える。図1では一例として、少なくとも1以上の解析設備のうち解析設備61と、解析設備62とが示されている。
【0016】
電子顕微鏡データ解析システム1では、複数の解析設備それぞれと、サーバ5とがネットワークによって接続されている。複数の解析設備それぞれから、電子顕微鏡によって撮像されたデータに基づく解析データがサーバ5に送信される。サーバ5は、当該解析データを解析する。
【0017】
複数の解析設備はそれぞれ、例えば、研究機関、または企業などに備えられる。複数の解析設備の構成について解析設備61を例にとって説明する。解析設備61は、クライオ電子顕微鏡21と、解析装置31と、ファイルサーバ41とを備える。
【0018】
クライオ電子顕微鏡21は、解析対象の動画像を撮像する。クライオ電子顕微鏡21は、撮像した動画像を撮像データA1として解析装置31に出力(送信、または転送ともいう)する。撮像データA1は、解析対象が撮像された複数の静止画像(フレーム)からなる動画像のデータである。クライオ電子顕微鏡21と解析装置31とは、ネットワークによって接続されている。クライオ電子顕微鏡21は、解析対象の動画像を撮像すると、当該動画像を撮像データA1として即時に解析装置31に転送する。撮像データA1は、ユーザの操作を介さずに、クライオ電子顕微鏡21から解析装置31に自動で転送される。
【0019】
解析対象は、タンパク質などの高分子または高分子複合体である。本実施形態では、解析対象は、一例として、タンパク質である。電子顕微鏡データ解析システム1では、一例として、タンパク質の3次元構造(立体構造ともいう)を単粒子解析によって解析する。以下の説明では、解析対象を、タンパク質粒子、または粒子などという場合がある。
【0020】
なお、クライオ電子顕微鏡21と解析装置31とを接続するネットワークは、例えば、解析設備61のLocal Area Network(LAN)である。当該ネットワークは、無線ネットワークであってもよいし、有線ネットワークであってもよい。
【0021】
解析装置31は、クライオ電子顕微鏡21から転送された撮像データA1に対して前処理を行う。解析装置31は、撮像データA1に対して前処理を行ったデータを解析データB1としてサーバ5に送信する。解析装置31による前処理の詳細は後述する。解析装置31とサーバ5とはネットワークによって接続されている。当該ネットワークは、例えば、専用回線を用いた通信ネットワーク、またはインターネットなどである。専用回線を用いた通信ネットワークとは、例えば、学術情報ネットワーク(Science Information NETwork:SINET)である。
【0022】
また、解析装置31は、撮像データA1をファイルサーバ41に自動的に転送する。解析装置31は、撮像データA1に対してデータ圧縮の処理を行った後に、ファイルサーバ41に転送することが好ましい。
【0023】
解析装置31は、一例として、クライオ電子顕微鏡21に備えられるGPUボックス、コンピュータ・クラスター、またはワークステーションなどのコンピュータである。解析装置31を、オンプレミスの解析装置ともいう。本実施形態では、クライオ電子顕微鏡21と解析装置31とが別体である場合について説明するが、クライオ電子顕微鏡21と解析装置31とは一体の装置であってもよい。例えば、解析装置31は、クライオ電子顕微鏡21の装置の一部として備えられてもよい。
【0024】
ファイルサーバ41は、解析装置31から転送される撮像データA1を記憶する。ファイルサーバ41は、撮像データA1をバックアップデータとして記憶する。ファイルサーバ41には、例えば、分散ファイルシステムが好適に用いられる。なお、ファイルサーバ41とともに、またはファイルサーバ41に代えて、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)、またはソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)などの外部記憶装置が備えられてもよい。HDD、またはSSDなどの外部記憶装置は、例えば、ファイルサーバ41とUSB接続される。
【0025】
複数の解析設備のうち解析設備61以外の解析設備62などの解析設備の構成は、解析設備61と同様である。例えば、解析設備62は、クライオ電子顕微鏡22と、解析装置32と、ファイルサーバ42とを備える。クライオ電子顕微鏡の装置構成は、複数の解析設備相互間において異なっていてもよいし、同じであってもよい。例えば、クライオ電子顕微鏡21と、クライオ電子顕微鏡22とは同じ装置構成のクライオ電子顕微鏡であってもよいし、異なる装置構成のクライオ電子顕微鏡であってもよい。クライオ電子顕微鏡の装置構成は、例えば、製造メーカー、加速電圧を含む製品タイプ、及び、検出器を含む追加オプションの構成に応じて異なる。クライオ電子顕微鏡が生成する撮像データのフォーマットは、クライオ電子顕微鏡に装備された検出器のメーカーとその機種に応じて一般には異なる。
【0026】
なお、1つの解析設備に複数のクライオ電子顕微鏡が含まれていてもよい。その場合、複数のクライオ電子顕微鏡それぞれから撮像データは1つの解析装置に転送される。ファイルサーバについては、例えば、1台のファイルサーバが複数のクライオ電子顕微鏡によって共用される。または、複数のクライオ電子顕微鏡と同じ数のファイルサーバが備えられて、複数のクライオ電子顕微鏡それぞれから自身に対応づけられたファイルサーバに撮像データが転送されてもよい。
【0027】
サーバ5は、複数の解析装置それぞれから送信される解析データの解析を実行する。例えば、サーバ5は、解析装置31から送信される解析データB1の解析を実行する。サーバ5による解析(サーバ側処理という)の詳細は後述する。
サーバ5は、一例として、クラウドサーバである。つまり、サーバ5は、インターネットを経由して利用される仮想サーバである。なお、サーバ5は、解析装置31よりも処理能力が高い。サーバ5は、例えば、スーパーコンピュータである。
【0028】
ここでクライオ電子顕微鏡21による撮像では、氷包埋法を用いて試料が作成される。氷包埋法では、単離精製されたタンパク質などの試料溶液を急速凍結することで薄い氷膜内に包埋する。クライオ電子顕微鏡21では、固定または染色等をせずに急速凍結された試料が撮像される。急速凍結による氷薄膜の形成には、小さな穴の孔の開いたカーボン薄膜が支持膜として貼り付けてあるマイクログリッドが用いられる。
【0029】
電子顕微鏡データ解析システム1によって行われる解析である単粒子解析とは、単離精製されたタンパク質などの高分子または高分子複合体を電子顕微鏡で直接観察し、3次元再構築によって3次元構造の解析を行う手法である。
【0030】
[解析装置31の機能構成]
解析装置の機能構成を、解析装置31を例にとって説明する。図2は、本実施形態に係る解析装置31の機能構成の一例を示す図である。解析装置31は、制御部310と、通信インターフェース部314と、記憶部315とを備える。
【0031】
制御部310は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはFPGA(field-programmable gate array)などを備えており、種々の演算や情報の授受を行う。制御部310が備える各機能部は、CPUなどがROM(Read Only Memory)からプログラムを読み込んで処理を実行することにより実現される。
【0032】
制御部310は、撮像データ取得部311と、前処理部312と、送信部313とを備える。
撮像データ取得部311は、クライオ電子顕微鏡21から撮像データA1を取得する。
前処理部312は、撮像データ取得部311によって取得された撮像データA1に対して前処理を行う。
送信部313は、前処理部312が前処理を行うことによって生成されたデータを解析データB1としてサーバ5に送信する。
【0033】
通信インターフェース部314は、ネットワークを介して、各種の情報の送信及び受信を行う。通信インターフェース部314は、当該ネットワークを介して通信を行うための通信インターフェース(I/F)を含む。当該ネットワークは、無線ネットワークであってもよいし、有線ネットワークであってもよい。
【0034】
記憶部315は、各種の情報を記憶する。記憶部315は、磁気ハードディスク装置、または半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。
【0035】
次に電子顕微鏡データ解析システム1による解析である単粒子解析の処理の流れの概要について説明する。図3は、本実施形態に係る単粒子解析の処理の流れの一例を示す図である。図3に示す処理は、電子顕微鏡データ解析システム1においてクライオ電子顕微鏡による撮影が開始されると、撮像データA1毎に繰り返し実行される。図3に示す処理のうちステップS10、ステップS20、及びステップS30の各処理は、複数の解析装置のうちいずれか1台以上によって並行して実行される。以下では、ステップS10、ステップS20、及びステップS30の各処理が解析装置31に備えられる制御部310によって実行される場合について説明する。
【0036】
ステップS10:撮像データ取得部311は、クライオ電子顕微鏡21から撮像データA1を取得する。撮像データA1は、クライオ電子顕微鏡21によって解析対象が撮像されると即時に、クライオ電子顕微鏡21から解析装置31に自動で転送される。その後、制御部310はステップS20の処理を実行する。
なお、撮像データA1は、ユーザの操作を介して、クライオ電子顕微鏡21から解析装置31に転送されてもよい。
【0037】
ステップS20:前処理部312は、撮像データ取得部311によって取得された撮像データA1に対して前処理を行う。前処理部312は、前処理を自動的に実行する。つまり、前処理部312が前処理を実行する過程において、ユーザによる操作は不要である。その後、制御部310はステップS30の処理を実行する。
【0038】
ステップS30:送信部313は、前処理部312が前処理を行うことによって生成されたデータを解析データB1としてサーバ5に送信する。送信部313は、通信インターフェース部314を介して解析データB1をサーバ5に送信する。ここで通信インターフェース部314は、インターネットを介して解析装置31とサーバ5との通信を行う。その後、サーバ5はステップS40の処理を実行する。
【0039】
ステップS40:サーバ5は、解析装置31から送信される解析データB1の解析を実行する。サーバ5は、解析データB1の解析を自動的に実行する。つまり、サーバ5による解析データB1の解析の過程において、ユーザによる操作は不要である。サーバ5による解析データB1の解析結果は、サーバ5によって記憶される。サーバ5に記憶された解析結果は、ユーザの端末装置によって取得、または参照される。なお、サーバ5による解析データB1の解析の過程において、ユーザによる操作が介在されてもよい。
以上で、電子顕微鏡データ解析システム1は、単粒子解析を終了する。
【0040】
ここで解析装置31によって実行される前処理、及びサーバ5によって実行されるサーバ側処理の詳細について説明する。図4は、本実施形態に係る単粒子解析の処理の詳細の一例を示す図である。図4に示すステップS210からステップS280までの各処理は、前処理の詳細であり、図3に示したステップS20の処理において解析装置31によって実行される。図4に示すステップS310からステップS430までの各処理は、サーバ側処理の詳細であり、図3に示したステップS40の処理においてサーバ5によって実行される。
【0041】
なお、前処理部312は、ステップS210の処理を開始する前に、撮像データA1のフォーマットを前処理部312が処理を行うための所定のフォーマットに変換する。これによって、クライオ電子顕微鏡の種類に応じて撮像データA1のフォーマットが異なる場合であっても、前処理部312は、共通のフォーマットに基づいて前処理を行うことができる。前処理部312は、所定のソフトウェアを用いて撮像データA1のフォーマットを所定のフォーマットに変換する。なお、撮像データA1のフォーマットを所定のフォーマットに変換する処理も前処理の一部である。
【0042】
ステップS210:前処理部312は、フレーム間動き補正処理を行う。フレーム間動き補正処理とは、複数のフレーム間での解析対象の動きに応じて当該複数のフレームを重ねることによって1枚の静止画像を生成する処理である。
【0043】
クライオ電子顕微鏡では、電子ビーム照射に応じて、氷薄膜に包埋されている試料であるタンパク質粒子はクライオ電子顕微鏡による撮像中に動いてしまう。そのため、フレーム間動き補正処理によって、動画のフレーム間ごとにタンパク質粒子の動きに合わせてそれぞれのフレームをずらして重ねていく。フレームをずらして重ねていくことは、タンパク質粒子の動きをフレーム間で補正してタンパク質粒子像を平均化することに相当する。フレーム間動き補正処理では、複数のフレーム(静止画像)から、タンパク質粒子の動きによって生じるボケがこの平均化処理によって補正された1枚の静止画像が生成される。
【0044】
前処理部312は、撮像データA1に含まれる複数のフレームに対してフレーム間動き補正処理を行う。前処理部312は、フレーム間動き補正処理によって、複数のフレームを含む1動画毎に1枚の静止画像を生成する。
その後、前処理部312は、ステップS220の処理を実行する。
【0045】
ステップS220:前処理部312は、CTFパラメータ推定処理(コントラスト伝達関数パラメータ推定処理ともいう)を行う。CTFパラメータ推定処理とは、コントラスト伝達関数(Contrast Transfer Function:CTF)のパラメータ値を推定する処理である。
【0046】
クライオ電子顕微鏡で画像を撮像すると、空間周波数情報が変調されてしまい、撮像対象の物体の本来の像とは少し異なる像が撮像される。コントラスト伝達関数は、撮像装置に固有の関数であって、当該撮像装置による撮像による空間周波数情報の変調を示す関数である。CTFパラメータ推定処理では、静止画像それぞれについてのコントラスト伝達関数のパラメータ値が推定される。
【0047】
前処理部312は、ステップS210のフレーム間動き補正処理によって生成された静止画像それぞれについてCTFパラメータ推定処理を行う。CTFパラメータ推定処理によって推定されたコントラスト伝達関数のパラメータ値は、前処理のうちステップS230以降の処理において、コントラスト伝達関数の効果を考慮した処理を行うために用いられる。
その後、前処理部312は、ステップS230の処理を実行する。
【0048】
ステップS230:前処理部312は、粒子ピッキング処理を行う。粒子ピッキング処理は、静止画像に撮像されているタンパク質粒子を切り出すことによって1枚あたり当該タンパク質粒子の像が1つ含まれる複数の解析対象画像を静止画像毎に生成する処理である。
【0049】
クライオ電子顕微鏡によって撮像された動画像では、1枚のフレーム(静止画像)には、数百個程度の解析対象であるタンパク質粒子が撮像されている。粒子ピッキング処理では、1枚の静止画像の中に写っている個別の粒子を認識して、当該粒子の位置を検出する。粒子ピッキング処理では、検出された位置の近辺の小さな領域を切り出すことで、1枚の画像に粒子が1つだけ写っている解析対象画像である粒子画像を生成する。
【0050】
ステップS210のフレーム間動き補正処理によって生成された静止画像の枚数は、例えば、数千枚である。前処理部312は、粒子ピッキング処理を全ての電顕静止画像に対して行うことによって粒子画像スタックを生成する。粒子画像スタックは、粒子画像を切り出し一つのデータとしてまとめた粒子画像の集まりである。粒子画像スタックには、例えば、数十万から数百万枚の粒子画像が含まれる。生成された粒子画像スタックは、前処理のうちステップS240以降の処理において用いられる。
その後、前処理部312は、ステップS240の処理を実行する。
【0051】
ステップS240:前処理部312は、粒子画像を切り出して縮小する。前処理部312は、例えば、粒子画像を4分の1の大きさに縮小する。
その後、前処理部312は、ステップS250の処理を実行する。
【0052】
ステップS250:前処理部312は、2次元平均化処理を行う。2次元平均化処理とは、複数の粒子画像を粒子の姿勢に基づいて分類することによって得られるクラスに含まれる粒子画像を平均化して2次元平均粒子画像を生成する処理である。なお、それぞれの2次元平均粒子画像は、特定の姿勢で撮像された粒子の画像を複数枚含む一つのクラスとして集め、これらを平均化した画像である。2次元平均粒子画像は、解析対象をタンパク質粒子とする場合の2次元平均解析対象画像の一例である。
【0053】
各粒子画像のノイズレベルは極端に高いため、粒子画像からは粒子の詳細な形状や特徴を判断することは困難である。そこで、粒子の姿勢ごとに粒子画像をクラス分け(分類)して、各クラス(グループ)の平均画像を生成する。クラス分けは、一例として、k平均法に基づいて行われる。粒子の姿勢は、クライオ電子顕微鏡の撮像方向に対する3次元角度(例えば、オイラー角など)によって示される。なお、クラス分けのアルゴリズムは、k平均法以外であってもよい。
【0054】
クラス分けを行うためには、各粒子画像相互間において回転および位置合わせを予め行う必要がある。2次元平均化処理には、各粒子画像相互間における回転および位置合わせの処理も含まれる。本実施形態では、例えば、100枚程度の粒子画像が平均化される。
【0055】
前処理部312は、2次元平均化処理において、回転および位置合わせ、クラス分け、及び平均画像の生成を所定の回数だけ繰り返し行う。所定の回数は、例えば、25回である。前処理部312は、2次元平均化処理によって、数十から数百枚の2次元平均粒子画像を生成する。
【0056】
生成された2次元平均粒子画像に基づいて、粒子の詳細な形状及び特徴が判定できる。そのため、生成された2次元平均粒子画像は、目的とするタンパク質粒子の画像の選別に用いられる。また、ゴミ画像の除外などもこの2次元平均粒子画像に基づいて行われる。ゴミ画像とは、目的のタンパク質粒子が撮像されている画像以外の画像である。ゴミ画像には、例えば表面についた氷結晶等が撮像されている。
その後、前処理部312は、ステップS260の処理を実行する。
【0057】
ステップS260:前処理部312は、初期3次元構造再構築処理を行う。初期3次元構造再構築処理とは、2次元平均粒子画像に基づいて選択された粒子画像からタンパク質粒子の姿勢に基づいて初期3次元参照マップを生成する処理である。初期3次元参照マップは、タンパク質粒子の3次元構造が再構築された3次元画像である。なお、初期3次元構造再構築処理によって生成される初期3次元参照マップの分解能は、後述する3次元精密化処理によって生成される3次元マップの分解能に比べて低い。
【0058】
コンピュータ断層撮影(Computed Tomography:CT)または核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)などで使われているトモグラフィー法とは違い、クライオ電子顕微鏡で撮像される粒子の姿勢はランダムである。そのため、3次元再構築のためには、各粒子像の姿勢(撮像方向に対する3次元角度)を推定する必要がある。そこで、初期3次元構造再構築処理によって、各粒子像の3次元角度を推定し、3次元再構築を行う。初期3次元構造再構築処理で得られる3次元画像は初期3次元参照マップとして、前処理のうちステップS270以降の処理において用いられる。
その後、前処理部312は、ステップS270の処理を実行する。
【0059】
ステップS270:前処理部312は、3次元構造クラス分け処理を行う。3次元構造クラス分け処理とは、初期3次元参照マップを用いて3次元構造に基づいて粒子画像を分類することによって得られるクラスに含まれる粒子画像から3次元クラスマップを生成し、生成した3次元クラスマップに基づいて粒子画像を選別する処理である。3次元クラスマップは、タンパク質粒子の3次元構造が再構築された3次元画像である。
【0060】
クライオ電子顕微鏡では、1つのデータセットから得られる3次元構造は不均一であることが普通である。不均一さの原因には、まず、タンパク質そのものが複数の3次元構造状態を有することがある。また、不均一さの原因には、撮像段階で起こるタンパク質へのダメージなどがある。さらに、不均一さの原因には、2次元平均化処理の後に行われる2次元平均粒子画像の選別において除外しきれなかったゴミ画像から成るゴミ構造が、タンパク質の3次元構造の画像に混ざってしまうことがある。
【0061】
そこで、3次元構造クラス分け処理において、データに含まれる3次元構造の不均一の程度を下げる。3次元構造クラス分け処理は、上述した2次元平均化処理に類似している。3次元構造クラス分け処理では、初期3次元参照マップを使って、各粒子画像の3次元的な回転および位置合わせを行い、3次元構造ごとにクラス分け(分類)を行う。さらに3次元構造クラス分け処理では、クラス(グループ)ごとに3次元再構築を行い、クラス毎に3次元クラスマップを生成する。前処理部312は、3次元的な回転および位置合わせ、クラス分け、及び3次元再構築を所定の回数だけ繰り返して行う。所定の回数は、例えば、25回である。
【0062】
3次元構造クラス分け処理によって、3次元構造に基づく選別、及びゴミ構造の除外等が行われる。これによって、データの3次元構造の均一度を向上させる。
その後、前処理部312は、ステップS280の処理を実行する。
【0063】
ステップS280:前処理部312は、3次元精密化処理を行う。3次元精密化処理とは、3次元構造クラス分け処理において選別された粒子画像から3次元クラスマップを用いて3次元マップを生成する処理である。3次元マップは、タンパク質粒子の3次元構造が再構築された3次元画像である。
【0064】
3次元精密化処理によって3次元構造の分解能を原子レベルまで向上させる。3次元精密化処理は、上述した3次元構造クラス分け処理に類似している。ただし、3次元精密化処理では、クラスは1個として処理する点が3次元構造クラス分け処理とは異なる。3次元精密化処理においても初期3次元参照マップを使い、各粒子画像の3次元的な回転および位置合わせを行い、3次元再構築によって3次元マップを生成する。前処理部312は、3次元的な回転および位置合わせ、及び3次元再構築を所定の条件が満たされるまで繰り返し行う。所定の条件は、例えば、3次元マップの分解能が収束する(上がらなくなる)ことである。ここでの3次元精密化処理によって、6オングストロームから15オングストローム程度の中低分解能の3次元構造が得られる。
【0065】
本実施形態では、前処理部312は、ステップS240からステップS280までの各処理を、3次元マップの分解能が所望の分解能以上となるまでこの順に繰り返す。つまり、前処理には、2次元平均化処理と、初期3次元構造再構築処理と、3次元構造クラス分け処理と、3次元精密化処理とを3次元マップの分解能が所望の分解能以上となるまで繰り返し実行する処理が含まれる。
なお、前処理部312は、ステップS240からステップS280までの処理を、繰り返さずに1回だけ行ってもよい。
以上で、前処理部312は、前処理を終了する。
【0066】
前処理部312による前処理が終了すると、送信部313は、前処理部312が前処理を行うことによって生成されたデータを解析データB1としてサーバ5に送信する。サーバ5は、解析装置31から送信される解析データB1に基づいてサーバ側処理を行う。
【0067】
なお、解析装置31からサーバ5へ解析データB1とともに動画像である撮像データA1が送信されてもよい。動画像は製薬の研究では不要であるが、化学の研究では必要とされる場合がある。製薬の研究で必要な分解能は3オングストロームであり、その場合、動画像は以降のサーバ側処理において不要である。一方、研究によっては、分解能は2オングストロームあった方が好ましい場合があるが、その場合には以降のサーバ側処理において動画像は必要とされる。したがって、解析装置31は、所望の分解能に応じて、解析データB1とともに撮像データA1をサーバ5に送信するか否かを判定してもよい。また、動画像が必要となる処理は後段であるため(ステップS340)、リアルタイムでの動画像の送信は必ずしも必要なく、遅延して送信してもよい。
【0068】
なお、前処理において生成された3次元マップの分解能に基づいて、単粒子解析において現在処理の対象としている解析データB1について、前処理以降の処理(サーバ側処理)を行うか否かが判定されてもよい。つまり、前処理において生成された3次元マップの分解能に基づいて、現在処理の対象としている解析データB1を解析装置31からサーバ5へ送信するか否かが判定されてもよい。
【0069】
例えば、前処理において生成された3次元マップの分解能が、所望の分解能より高い場合(例えば、8オングストロームより高い場合)、解析装置31は解析データB1をサーバ5に送信する。前処理において生成された3次元マップの分解能が、所望の分解能より低い場合(例えば、8オングストロームより低い場合)、解析装置31は解析データB1をサーバ5に送信しない。現在処理の対象としている解析データB1を解析装置31からサーバ5へ送信するか否かについての判定は、前処理部312によって行われてもよいし、解析装置31のユーザによって行われてもよい。
【0070】
なお、電子顕微鏡データ解析システム1は、撮像終了条件のフィードバック機能を備えていてもよい。撮像終了条件は、クライオ電子顕微鏡21が解析対象の撮像を終了するための条件である。撮像終了条件のフィードバック機能は、解析装置31とサーバ5とのうち、単粒子解析の早い段階でフィードバックできる解析装置31に備えられることが好ましい。
【0071】
撮像終了条件は、例えば、撮像枚数、または分解能などに基づく条件である。撮像終了条件は、例えば、3次元マップが所定の撮像枚数だけで再構築されることである。別の一例では、撮像終了条件は、撮像データA1の撮像枚数が3次元マップの分解能が所望の分解能以上となるために必要な枚数以上取得されることである。3次元マップの分解能が所望の分解能以上となるために必要な撮像枚数は、現在までに取得された動画枚数と、再構築された3次元マップの分解能との関係から、B-Factor(温度因子)に基づく線形近似などに基づいて予測される。
【0072】
以下、サーバ側処理について説明する。
ステップS310:サーバ5は、粒子画像を切り出して縮小する。前処理部312は、例えば、粒子画像を1.25分の1(元サイズの80パーセント)の大きさに縮小する。
その後、サーバ5は、ステップS320の処理を実行する。
【0073】
ステップS320:サーバ5は、3次元精密化処理を行う。
その後、サーバ5は、ステップS330の処理を実行する。
【0074】
ステップS330:サーバ5は、CTFパラメータ精密化処理を行う。CTFパラメータ精密化処理とは、粒子画像スタックに対してコントラスト伝達関数のパラメータ値の推定を行う処理である。
【0075】
上述した前処理において行われるCTFパラメータ推定処理では、コントラスト伝達関数のパラメータ値は静止画像毎に推定されるが、その際に当該コントラスト伝達関数のパラメータ値は静止画像全体に基づいて推定される。静止画像全体に基づいて推定されるコントラスト伝達関数のパラメータ値は、静止画像全体についての平均的なパラメータの値に相当する。しかし、実際にはクライオ電子顕微鏡によって撮像された1枚の静止画像に撮像されている数百の粒子の画像はそれぞれ異なるコントラスト伝達関数のパラメータ値をもつ。そこで、CTFパラメータ精密化処理では、前処理において行われるCTFパラメータ推定処理が対象とする静止画像に比べてより精密な(実際に近い)粒子画像を単位としたコントラスト伝達関数のパラメータ値の推定を行う。CTFパラメータ精密化処理には、3次元参照マップが必要である。そのため、CTFパラメータ精密化処理は、単粒子解析の後段(前処理よりも後)で行われる。さらにCTFパラメータ精密化処理では、より近似誤差が少なくなるように高次の収差を含むコントラスト伝達関数のパラメータ値の推定等も行われる。
その後、サーバ5は、ステップS340の処理を実行する。
【0076】
ステップS340:サーバ5は、ベイジアンポリッシングを行う。ベイジアンポリッシングとは、粒子画像スタックに対してフレーム間動き補正処理を行う処理である。
【0077】
上述した前処理において行われるフレーム間動き補正処理では、クライオ電子顕微鏡によって撮像された動画像毎で画像全体でのフレーム間動き補正を行う。つまり、前処理において行われるフレーム間動き補正処理では、画像全体での平均的な動きに基づいて補正が行わる。しかし、実際にはクライオ電子顕微鏡によって撮像された1枚の静止画像に撮像されている数百の粒子の動きはそれぞれ異なる。また、粒子の動きは、静止画像内の粒子の場所によっても異なり得る。そこで、ベイジアンポリッシングでは、前処理において行われるCTFパラメータ推定処理が対象とする動画に比べてより精密な(実際に近い)粒子画像を単位としたフレーム間動き補正処理を行う。ベイジアンポリッシングには、3次元参照マップが必要である。そのため、ベイジアンポリッシングは、単粒子解析の後段で行われる。また、ベイジアンポリッシングは、電顕動画像を用いる処理であるため、莫大なメモリ量と計算量を必要とする。ベイジアンポリッシングの処理負荷は非常に大きい。
【0078】
ここでサーバ5は、ステップS340、及びステップS350の各処理をこの順に所定の回数だけ繰り返す。所定の回数は、例えば、3回である。
その後、サーバ5は、ステップS350の処理を実行する。
【0079】
ステップS350:サーバ5は、3次元構造クラス分け処理を行う。
その後、サーバ5は、ステップS360の処理を実行する。
【0080】
ステップS360:サーバ5は、3次元精密化処理を行う。
その後、サーバ5は、ステップS370の処理を実行する。
【0081】
ステップS370:サーバ5は、粒子画像を切り出す。なお、ステップS370では、切り出した粒子画像の縮小は行われない。
その後、サーバ5は、ステップS380の処理を実行する。
【0082】
ステップS380:サーバ5は、3次元精密化処理を行う。
その後、サーバ5は、ステップS390の処理を実行する。
【0083】
ステップS390:サーバ5は、CTFパラメータ精密化処理を行う。
その後、サーバ5は、ステップS400の処理を実行する。
【0084】
ステップS400:サーバ5は、ベイジアンポリッシングを行う。
その後、サーバ5は、ステップS410の処理を実行する。
【0085】
ここでサーバ5は、ステップS390、及びステップS400の各処理をこの順に所定の回数だけ繰り返す。所定の回数は、例えば、3回である。
その後、サーバ5は、ステップS410の処理を実行する。
【0086】
ステップS410:サーバ5は、3次元構造クラス分け処理を行う。
その後、サーバ5は、ステップS420の処理を実行する。
【0087】
ステップS420:サーバ5は、3次元精密化処理を行う。
その後、サーバ5は、ステップS430の処理を実行する。
【0088】
ステップS430:サーバ5は、局所分解能推定処理を行う。局所分解能推定処理とは、3次元マップの局所的な分解能を推定する処理である。
【0089】
単粒子解析で得られる3次元マップの分解能は3次元マップの位置全体で均一ではなく、マップ内の3次元位置に依存して局所的な分解能が異なる。3次元マップにおける分解能の不均一さは、主にタンパク質の3次元構造の柔軟性に起因する。タンパク質の3次元構造の柔軟性は、タンパク質の3次元構造の一部の領域が相対的に他の領域に対して揺らいでいることをいう。タンパク質の3次元構造の外側の領域は不安定で揺らぎやすい傾向があるため、外側の領域の局所的な分解能は内側の領域に比べ低くなることが一般的である。局所分解能推定処理では、この局所的な分解能を計算で推定する。
以上で、サーバ5は、サーバ側処理を終了する。
【0090】
なお、ステップS240からステップS280までの処理は、途中までが前処理として解析装置31によって実行され、残りがサーバ側処理としてサーバ5によって実行されてもよい。つまり、粒子画像を切り出して縮小する処理、2次元平均化処理、初期3次元構造再構築処理、3次元構造クラス分け処理、及び3次元精密化処理のうち、最初の幾つかの処理が前処理として解析装置31によって実行され、残りがサーバ側処理としてサーバ5によって実行されてもよい。その場合であっても、単粒子解析の全体において、ステップS240からステップS280までの処理が実行される順序は、図4に示した前処理において実行される順序と同じである。
【0091】
ただし、2次元平均化処理、初期3次元構造再構築処理、3次元構造クラス分け処理、及び3次元精密化処理は、本実施形態のように解析装置31によって前処理として実行された方が、サーバ5の処理負荷を軽減することができる。2次元平均化処理、初期3次元構造再構築処理、3次元構造クラス分け処理、及び3次元精密化処理はそれぞれ、図4に示したサーバ側処理に比べて処理負荷が軽い。そのため、サーバ5に比べて処理能力の低い解析装置31であってもそれらの処理を実行可能である。
【0092】
以上に説明したように、本実施形態に係る電子顕微鏡データ解析システム1は、複数の電子顕微鏡(本実施形態において、クライオ電子顕微鏡21、クライオ電子顕微鏡22など)と、サーバ5と、を備える。
電子顕微鏡データ解析システム1は、撮像データ取得部311と、前処理部312と、送信部313と、を備える。
撮像データ取得部311は、複数の電子顕微鏡の少なくとも1つ(本実施形態において、解析装置31など)から当該電子顕微鏡によって解析対象(本実施形態において、タンパク質粒子)が撮像された撮像データ(本実施形態において、撮像データA1、または撮像データA2など)を取得する。
前処理部312は、撮像データ取得部311によって取得された撮像データA1に対して前処理を行う。
送信部313は、前処理部312が前処理を行うことによって生成されたデータを解析データ(本実施形態において、解析データB1、または解析データB2)としてサーバ5に送信する。
サーバ5は、送信部313によって送信された解析データB1の解析を実行する。
前処理には、フレーム間動き補正処理と、CTFパラメータ推定処理と、ピッキング処理(本実施形態において、粒子ピッキング処理)と、が含まれる。フレーム間動き補正処理とは、複数のフレーム間での解析対象の動きに応じて当該複数のフレームを重ねることによって1枚の静止画像を生成する処理である。CTFパラメータ推定処理とは、コントラスト伝達関数のパラメータ値を推定する処理である。ピッキング処理とは、静止画像に撮像されている解析対象を切り出すことによって1枚あたり当該解析対象の像が1つ含まれる複数の解析対象画像(本実施形態において、粒子画像スタック)を静止画像毎に生成する処理である。
【0093】
この構成により、本実施形態に係る電子顕微鏡データ解析システム1では、サーバ5に送信される解析データB1のデータ量を削減できるため、電子顕微鏡によって得られた撮像データに基づく解析をオンプレミスの解析装置とサーバとによって実行する場合に、データ転送及び解析の効率を向上させることができる。ここでフレーム間動き補正処理と、CTFパラメータ推定処理と、ピッキング処理とは、データ量の削減に寄与する処理である。
【0094】
本実施形態に係る電子顕微鏡データ解析システム1では、複数の電子顕微鏡がそれぞれインターネットに接続され、複数の電子顕微鏡それぞれによって撮像された撮像データA1は前処理を経た後、解析データB1として高性能のサーバ5によって解析される。電子顕微鏡が備えられる解析設備に、処理能力があまり高くない解析装置しか備えられていない場合であっても、高性能のサーバ5を利用して解析を行うことができる。換言すれば、電子顕微鏡データ解析システム1は、複数の電子顕微鏡に対してモノのインターネット(Internet of Things:IoT)を適用し、高度なデータ解析を可能にする。
【0095】
なお、本実施形態では、電子顕微鏡がクライオ電子顕微鏡である場合の一例について説明したが、これに限られない。電子顕微鏡は、クライオ電子顕微鏡以外の電子顕微鏡であってもよい。この場合、解析の目的または用途に応じて、図2に示した解析装置の機能の構成、もしくは図3および図4に示した解析の流れまたは解析ステップの一部を省略したり、順番を入れ替えたりすることができる。
【0096】
なお、本実施形態では、サーバ5がクラウドサーバである場合の一例について説明したが、これに限られない。サーバ5は、クラウドサーバ以外のサーバであってもよいが、その場合であってもサーバ5はスーパーコンピュータ程度の性能を有することが好ましい。
【0097】
なお、本実施形態では、撮像データ取得部311、前処理部312、及び送信部313が解析装置31に備えられる場合の一例について説明したが、これに限られない。撮像データ取得部311、前処理部312、及び送信部313は、クライオ電子顕微鏡21に備えられてもよい。
【0098】
なお、上述した実施形態における解析装置31またはサーバ5の一部、例えば、撮像データ取得部311、前処理部312、及び送信部313をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、解析装置31またはサーバ5に内蔵されたコンピュータシステムであって、オペレーティングシステム(Operating system:OS)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
また、上述した実施形態における解析装置31またはサーバ5の一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。解析装置31またはサーバ5の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【0099】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0100】
1…電子顕微鏡データ解析システム、21、22…クライオ電子顕微鏡、31、32…解析装置、5…サーバ、311…撮像データ取得部、312…前処理部、313…送信部、A1、A2…撮像データ、B1、B2…解析データ
図1
図2
図3
図4