(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118128
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】イソプレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 5/333 20060101AFI20240823BHJP
C07C 11/18 20060101ALI20240823BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
C07C5/333
C07C11/18
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024387
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福原 長寿
(72)【発明者】
【氏名】渡部 綾
(72)【発明者】
【氏名】宮城 裕一
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC12
4H006BA19
4H006BA30
4H006BA55
4H006BC10
4H006BC31
4H039CA29
4H039CC20
(57)【要約】
【解決課題】メチルブタンを原料に用いて、脱水素を行なうことにより、イソプレンの収率が高く且つ原料メチルブタンの分解率が低いイソプレンの製造方法を提供すること。
【解決手段】メチルブテンを含有する回収処理物と原料メチルブタンを混合し、メチルブテン及びメチルブタンに対するメチルブテンのモル割合が30.0モル%以上100.0モル%未満であるメチルブテン及びメチルブタンを含有する原料を得る原料混合工程と、該メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料と、遷移金属から選択される少なくとも1種の金属を含む脱水素触媒と、の接触を、硫化水素の存在下で行うことにより、該メチルブテン及びメチルブタンの脱水素反応を行い、脱水素反応物を得るイソプレン合成工程と、分離工程と、を有し、該分離工程を行い得られる該メチルブテンを含有する回収処理物を、該原料混合工程における該メチルブテンを含有する回収処理物として用いるイソプレンの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルブテンを含有する回収処理物と原料メチルブタンを混合し、メチルブテン及びメチルブタンに対するメチルブテンのモル割合((メチルブテン/(メチルブテン+メチルブタン))×100)が30.0モル%以上100.0モル%未満であるメチルブテン及びメチルブタンを含有する原料を得る原料混合工程と、
該メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料と、遷移金属から選択される少なくとも1種の金属を含む脱水素触媒と、の接触を、硫化水素の存在下で行うことにより、該メチルブテン及びメチルブタンの脱水素反応を行い、脱水素反応物を得るイソプレン合成工程と、
該脱水素反応物から、メチルブテンを含有する回収処理物を分離し、メチルブテンを含有する回収処理物を得る分離工程と、
を有し、
該分離工程を行い得られる該メチルブテンを含有する回収処理物を、該原料混合工程における該メチルブテンを含有する回収処理物として用いること、
を有することを特徴とするイソプレンの製造方法。
【請求項2】
前記メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料に対する前記硫化水素の体積比(硫化水素/メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料)が、0.1~3.0であることを特徴とする請求項1記載のイソプレンの製造方法。
【請求項3】
前記脱水素反応の反応温度が500~700℃であることを特徴とする請求項1記載のイソプレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素数が5の飽和炭化水素を原料として用い、該原料を脱水素することにより、イソプレンを製造するイソプレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素数5の飽和炭化水素は、石油精製プロセスにおいては、燃料油中に含まれる成分であり、ある程度の燃料油の需要が見込めるうちは、炭素数5の飽和炭化水素の余剰の問題は起こらない。
【0003】
しかし、今後、燃料油の需要減少が見込まれるため、それに伴って、将来的に、炭素数5の飽和炭化水素が余剰物となることが推測される。そのため、炭素数5の飽和炭化水素は、燃料油原料から他の原料へとシフトさせることが必要となってくる。
【0004】
その1つの対策としては、炭素数5の飽和炭化水素を脱水素することにより、炭素数5のオレフィンに変換して、石油化学原料に用いることが挙げられる。そして、工業的に用いられている炭素数5の炭化水素としては、イソプレンがある。
【0005】
炭素数5の飽和炭化水素を脱水素することにより、イソプレンを製造する方法としては、例えば、引用文献1には、炭素数が5の飽和炭化水素として2-メチルブタンを用い、2-メチルブタンと、遷移金属から選択される少なくとも1種の金属を含む脱水素触媒と、の接触を、硫化水素の存在下で行うことにより、該2-メチルブタンの脱水素反応を行うことにより、イソプレンを製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2022/075304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特許文献1では、イソプレンが得られているものの、イソプレン収率が15モル%程度と、低収率でしかイソプレンが得られない。
【0008】
また、上記特許文献1では、2-メチルブタンの脱水素反応を行なうと、脱水素反応以外に、分解反応が起こっている。よりイソプレン収率を高めるためには、分解生成物が少ない方が好ましい。
【0009】
従って、本発明の目的は、メチルブタンを原料に用いて、脱水素を行なうことにより、イソプレンの収率が高く且つ原料メチルブタンの分解率が低いイソプレンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の本発明により解決される。
すなわち、本発明(1)は、メチルブテンを含有する回収処理物と原料メチルブタンを混合し、メチルブテン及びメチルブタンに対するメチルブテンのモル割合((メチルブテン/(メチルブテン+メチルブタン))×100)が30.0モル%以上100.0モル%未満であるメチルブテン及びメチルブタンを含有する原料を得る原料混合工程と、
該メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料と、遷移金属から選択される少なくとも1種の金属を含む脱水素触媒と、の接触を、硫化水素の存在下で行うことにより、該メチルブテン及びメチルブタンの脱水素反応を行い、脱水素反応物を得るイソプレン合成工程と、
該脱水素反応物から、メチルブテンを含有する回収処理物を分離し、メチルブテンを含有する回収処理物を得る分離工程と、
を有し、
該分離工程を行い得られる該メチルブテンを含有する回収処理物を、該原料混合工程における該メチルブテンを含有する回収処理物として用いること、
を有することを特徴とするイソプレンの製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明(2)は、前記メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料に対する前記硫化水素の体積比(硫化水素/メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料)が、0.1~3.0であることを特徴とする(1)のイソプレンの製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明(3)は、前記脱水素反応の反応温度が500~700℃であることを特徴とする(1)のイソプレンの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、メチルブタンを原料に用いて、脱水素を行なうことにより、イソプレンの収率が高く且つ原料メチルブタンの分解率が低いイソプレンの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のイソプレンの製造方法の形態例の模式的なフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のイソプレンの製造方法は、メチルブテンを含有する回収処理物と原料メチルブタンを混合し、メチルブテン及びメチルブタンに対するメチルブテンのモル割合((メチルブテン/(メチルブテン+メチルブタン))×100)が30.0モル%以上100.0モル%未満であるメチルブテン及びメチルブタンを含有する原料を得る原料混合工程と、
該メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料と、遷移金属から選択される少なくとも1種の金属を含む脱水素触媒と、の接触を、硫化水素の存在下で行うことにより、該メチルブテン及びメチルブタンの脱水素反応を行い、脱水素反応物を得るイソプレン合成工程と、
該脱水素反応物から、メチルブテンを含有する回収処理物を分離し、メチルブテンを含有する回収処理物を得る分離工程と、
を有し、
該分離工程を行い得られる該メチルブテンを含有する回収処理物を、該原料混合工程における該メチルブテンを含有する回収処理物として用いること、
を有することを特徴とするイソプレンの製造方法である。
【0016】
本発明のイソプレンの製造方法に係る原料混合工程は、後述する分離工程を行い得られるメチルブテンを含有する回収処理物と原料メチルブタンを混合し、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料を得る工程である。メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料は、イソプレン合成工程において、脱水素反応の原料であり、硫化水素の存在下で、脱水素触媒と接触させる原料である。
【0017】
原料混合工程に係るメチルブテンを含有する回収処理物は、原料混合工程を行ない得られるメチルブテン及びメチルブタンを含有する原料を用いて、イソプレン合成工程を行い得られる脱水素処理物から、分離工程で分離することにより回収した回収物である。メチルブテンを含有する回収処理物中のメチルブテンは、イソプレン合成工程で、脱水素触媒と接触される原料の1つとなり、脱水素化反応により、脱水素される対象である。
【0018】
メチルブテンを含有する回収処理物は、主として、メチルブテンを含有する。メチルブテンを含有する原料に含有されるメチルブテンは、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテンである。メチルブテンを含有する回収処理物は、メチルブタンを含有してもよい。
【0019】
メチルブテンを含有する回収処理物には、本発明の効果を損なわないのであれば、メチルブテン及びメチルブタン以外の化合物が含まれていてもよい。メチルブテンを含有する回収処理物に含まれるメチルブテン及びメチルブタン以外の化合物としては、ブタン、ブテン、プロパン、プロピレンなどのC4以下の軽質炭化水素、メチルチオフェン、3-メチルチオフェンなどの硫黄化合物等が挙げられる。
【0020】
メチルブテンを含有する回収処理物中のメチルブテンの含有量は、好ましくは70.0質量%以上、より好ましくは95.0質量%以上、特に好ましくは100.0質量%である。なお、上記メチルブテンを含有する回収処理物中のメチルブテンの含有量は、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテンの合計含有量である。また、メチルブテンを含有する回収処理物は、メチルブタンを含有してもよく、メチルブテンを含有する回収処理物中のメチルブタンの含有量は、好ましくは0.0~20.0質量%、より好ましくは0.0~10.0質量%である。
【0021】
原料混合工程に係る原料メチルブタンは、主として、メチルブタン(2-メチルブタン)を含有する。メチルブタンは、イソプレン合成工程で、脱水素触媒と接触される原料であり、脱水素化反応により、脱水素される対象である。
【0022】
原料メチルブタンには、本発明の効果を損なわないのであれば、メチルブタン以外の化合物が含まれていてもよい。原料メチルブタンに含まれるメチルブタン以外の化合物としては、C1~C9の軽質炭化水素等が挙げられる。
【0023】
原料メチルブタンの純度は、特に制限されないが、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0024】
原料混合工程では、メチルブテン及びメチルブタンに対するメチルブテンのモル割合((メチルブテン/(メチルブテン+メチルブタン))×100)が、30.0モル%以上、好ましくは40.0モル%以上、より好ましくは60.0モル%以上、さらに好ましくは80.0モル%以上、且つ、100.0モル%未満、好ましくは99.0モル%以下、より好ましくは98.0モル%以下、より好ましくは97.0モル%以下、より好ましくは96.0モル%以下、より好ましくは95.0モル%以下となるように、メチルブテンを含有する回収処理物と原料メチルブタンを混合し、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料を得る。メチルブテン及びメチルブタンに対するメチルブテンのモル割合を、下限値以上とすることにより、イソプレン合成工程でのイソプレンの収率が高く且つ原料メチルブタンの分解率が低くなる。一方、メチルブテン及びメチルブタンに対するメチルブテンのモル割合が、上限値を超えると、原料メチルブタンの使用量が少なくなり過ぎるため、メチルブタンの反応効率が低くなる。なお、イソプレンと共にイソブテンも製造したい場合にはあえて上記比率を低めにとっても良い。なお、原料メチルブタンが、メチルブタン以外のものを含んでいる場合、原料メチルブタン中のメチルブタンの含有割合については、例えば、ガスクロマトグラフィー分析で原料メチルブタン中のメチルブタンの質量割合を測定しモル換算すること等により求めることができる。メチルブテンを含有する回収処理物が、メチルブテン以外のものを含んでいる場合、メチルブテンを含有する回収処理物中のメチルブテンの含有割合については、例えば、ガスクロマトグラフィー分析でメチルブテンを含有する回収処理物中のメチルブテンの質量割合を測定しモル換算すること等により求めることができる。そして、得られた原料メチルブタン中のメチルブタンの含有割合及びメチルブテンを含有する回収処理物中のメチルブテンの含有割合の値を用いて、上記メチルブテン及びメチルブタンに対するメチルブテンのモル割合を計算する。
【0025】
本発明のイソプレンの製造方法に係るイソプレン合成工程は、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料を用いて、脱水素反応を行なうことにより、脱水素反応物を得る工程である。
【0026】
イソプレン合成工程に係るメチルブテン及びメチルブタンを含有する原料は、主として、メチルブテン及びメチルブタンを含有する。
【0027】
イソプレン合成工程に係る脱水素触媒は、遷移金属から選択される少なくとも1種の金属を含む脱水素触媒である。脱水素触媒に含有される遷移金属としては、Fe、Co、Ni、Mn、Cu、Mo、Cr、V、Ti、Ru、Pd等が挙げられ、これらのうち、触媒寿命が高くなる点で、Fe、Ni、Co、が好ましく、Feが特に好ましい。
【0028】
脱水素触媒に含有されている遷移金属は、通常、担体に担持されている。そのような遷移金属の担体としては、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、セリア(CeO2)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO2)およびこれらの酸化物と硫化水素との複合硫化物等が挙げられ、これらのうち、安定性が高く、生成物の選択性が高くなる点で、シリカ、アルミナが好ましい。
【0029】
脱水素触媒中の遷移金属の担持量は、脱水素触媒全質量に対し、原子換算で、好ましくは0.5~70質量%、特に好ましくは3~20質量%である。脱水素触媒中の遷移金属の担持量が上記範囲にあることにより、遷移金属の活性種が形成され易くなる。なお、脱水素触媒全質量に対する脱水素触媒中の遷移金属の酸化物換算の担持量(%)は、「(脱水素触媒中に存在する遷移金属を酸化物換算した質量/脱水素触媒全質量)×100」の式により算出される値である。
【0030】
そして、イソプレン合成工程では、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料と、脱水素触媒と、の接触を、硫化水素の存在下で行うことにより、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料中のメチルブテン及びメチルブタンの脱水素反応を行い、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)を得る。イソプレン合成工程において、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料と、脱水素触媒と、の接触を、硫化水素の存在下で行うことにより、イソプレンの収率が高くなり、また、触媒の寿命を長くすることができる。一方、イソプレン合成工程において、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料と、脱水素触媒と、の接触の際に、硫化水素が存在しないと、反応が十分に進まず、イソプレン収率が著しく低下する。
【0031】
イソプレン合成工程において、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料と、脱水素触媒と、の接触を、硫化水素の存在下で行う方法としては、特に制限されず、例えば、(i)連続流通式の反応塔に脱水素触媒を充填しておき、反応塔の一端側に、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料をキャリアーと共に供給しつつ、同時に硫化水素を供給し、反応塔内の一端側で、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料と硫化水素を混合し、混合物を脱水素触媒に接触させ、反応塔の他端側から反応物を排出する方法、(ii)連続流通式の反応塔に脱水素触媒を充填しておき、反応塔の一端側に、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料の供給ラインを繋ぎ、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料の供給ラインで、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料をキャリアーと共に供給しつつ、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料の供給ラインの途中に硫化水素を供給して、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料の供給ライン内でメチルブテン及びメチルブタンを含有する原料と硫化水素を混合し、混合物を反応塔の一端側に供給して、混合物を脱水素触媒に接触させ、反応塔の他端側から反応物を排出する方法が挙げられる。
【0032】
イソプレン合成工程において、メチルブテン及びメチルブタンに対する硫化水素の体積比(硫化水素/(メチルブテン+メチルブタン))は、好ましくは0.1~3.0、より好ましくは0.2~3.0、さらに好ましくは0.6~3.0、特に好ましくは0.8~3.0である。メチルブテン及びメチルブタンに対する硫化水素の体積比が上記範囲にあることにより、イソプレン収率を高めることが可能となる。なお、メチルブテンの体積は、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテンの合計体積である。
【0033】
イソプレン合成工程において、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料の供給速度は、好ましくは0.1~50mL/分、特に好ましくは1~10mL/分である。
【0034】
イソプレン合成工程において、脱水素反応の反応温度は、イソプレンの平衡収率の点で、好ましくは500℃~700℃、特に好ましくは500℃~650℃である。
【0035】
本発明のイソプレンの製造方法では、イソプレン合成工程において、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料中のメチルブテン及びメチルブタンの脱水素反応により、脱水素反応物を得る。また、イソプレン合成工程では、目的生成物であるイソプレンが生成すると共に、メチルブタンの脱水素によりメチルブテンが生成し、また、メチルブテンの二重結合の位置が転移した異性化物が生成し、更に、分解生成物である炭素数が1~4の炭化水素と、メチルチオフェン、3-メチルチオフェン等の重質物と、が副生する。そのため、イソプレン合成工程を行い得られる脱水素反応物は、イソプレンと、メチルブタンと、メチルブテンと、炭素数が1~4の炭化水素である分解生成物と、メチルチオフェン、3-メチルチオフェン等の重質物と、を含有する。
【0036】
脱水素反応物中、イソプレンの含有量は、好ましくは10.0~70.0質量%、より好ましくは15.0~50.0質量%、特に好ましくは15.0~40.0質量%である。また、脱水素反応物中、メチルブテンの含有量は、好ましくは5.0~70.0質量%、より好ましくは10.0~50.0質量%、特に好ましくは10.0~45.0質量%である。また、脱水素反応物中、メチルブタンの含有量は、好ましくは0.0~50.0質量%、より好ましくは0.0~30.0質量%、特に好ましくは0.0~10.0質量%である。また、脱水素反応物中、炭素数1~4の分解生成物の合計含有量は、好ましくは0.0~30.0質量%、より好ましくは0.0~20.0質量%、特に好ましくは0.0~10.0質量%である。また、脱水素反応物中、沸点50℃以上の重質物の合計含有量は、好ましくは0.0~10.0質量%、より好ましくは0.0~5.0質量%、特に好ましくは0.0~2.0質量%である。
【0037】
本発明のイソプレンの製造方法に係る分離工程は、脱水素反応物から、メチルブテンを含有する回収処理物を分離し、メチルブテンを含有する回収処理物を得る工程である。
【0038】
分離工程では、脱水素反応物に含まれているイソプレンと、分解生成物である炭素数が1~4の炭化水素と、沸点50℃以上の重質物と、を、脱水素反応物から取り出し、メチルブテンを含有する回収処理物を分離する。また、分離工程では、必要に応じて、メチルブタンを、脱水素反応物から取り出す。脱水素反応物からメチルブテンを含有する回収処理物を分離する方法としては、特に制限されず、例えば、公知の方法、例えば、蒸留、抽出、膜分離等が挙げられる。
【0039】
分離工程を行なうことにより、メチルブテンを含有する回収処理物を得る。メチルブテンを含有する回収処理物は、主として、メチルブテンを含有する。メチルブテンを含有する原料に含有されるメチルブテンは、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテンである。メチルブテンを含有する回収処理物には、本発明の効果を損なわないのであれば、メチルブテン以外の化合物が含まれていてもよい。メチルブテンを含有する回収処理物に含まれるメチルブテン以外の化合物としては、2-メチル-ブタン、ペンタンなどのC5軽質炭化水素等が挙げられる。メチルブテンを含有する回収処理物中のメチルブテンの含有量は、好ましくは70.0質量%以上、より好ましくは95.0質量%以上、特に好ましくは100.0質量%である。なお、上記メチルブテンを含有する回収処理物中のメチルブテンの含有量は、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテンの合計含有量である。また、メチルブテンを含有する回収処理物中のメチルブタンの含有量は、好ましくは0.0~30.0質量%、より好ましくは0.0~10.0質量%である。
【0040】
また、分離工程を行うことにより、脱水素反応物から分離したイソプレンを、目的生成物として得る。
【0041】
そして、本発明のイソプレンの製造方法では、分離工程を行い得られるメチルブテンを含有する回収処理物を、原料混合工程において、原料メチルブタンと混合するメチルブテンを含有する回収処理物として用いる。
【0042】
つまり、本発明の形態のイソプレンの製造方法では、メチルブタンを原料に用いて、イソプレン合成工程を行ったときに、イソプレンまでは脱水素しなかったメチルブテンを分離し、あるいは、メチルブテンと共にメチルブタンを分離し、イソプレン合成工程の原料として用いて、原料メチルブタンと共に、脱水素反応の原料とする。そのため、メチルブタンを原料に用いて、ワンスルーでイソプレンを合成する場合に比べ、原料のロスが少なくなる。
【0043】
更に、本発明のイソプレンの製造方法では、メチルブテンに所定の割合で回収したメチルブテンを混合することにより、イソプレン合成工程での分解率を低くすることができる。そのため、本発明のイソプレンの製造方法は、原料のロスを少なくすることができる。
【0044】
本発明のイソプレンの製造方法では、イソプレン合成工程で脱水素反応を行うときのメチルブテン及びメチルブタンを含有する原料のメチルブテン及びメチルブタンに対するメチルブテンのモル割合は、常に、一定であってもよいし、30.0モル%以上、好ましくは40.0モル%以上、より好ましくは60.0モル%以上、さらに好ましくは80.0モル%以上、且つ、100.0モル%未満、好ましくは99.0モル%以下、より好ましくは98.0モル%以下、より好ましくは97.0モル%以下、より好ましくは96.0モル%以下、より好ましくは95.0モル%以下の範囲内で、変動させてもよい。
【0045】
本発明のイソプレンの製造方法の形態例を、
図1に示す。
図1は、本発明のイソプレンの製造方法の形態例の模式的なフロー図である。
図1中、イソプレン製造システム10は、脱水素反応装置11と、分離処理システム12と、を有する。イソプレン製造システム10では、先ず、原料メチルブタン1に、分離処理システム12から返送されてくるメチルブテンを含有する回収処理液7を混合し、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料8を得る。次いで、脱水反応装置11に、得られたメチルブテン及びメチルブタンを含有する原料8と硫化水素9を供給して、脱水反応装置11内で、硫化水素9の存在下、メチルブテン及びメチルブタンを含有する原料8と、脱水素触媒と、の接触を行い、メチルブテン及びメチルブタンの脱水素反応を行い、脱水素反応物2を得る。次いで、脱水素反応物2を、分離システム12に供給して、脱水素反応物2から、分解生成物である軽質分4と、重質分5と、イソプレン6と、取り出し、メチルブテンを含有する回収処理液7を分離する。次いで、得られたメチルブテンを含有する回収処理液7を返送し、原料メチルブタン1に混合する。イソプレン製造システム10では、メチルブタン1の脱水素反応によって、イソプレンまでは還元されなかったメチルブテンを、分離システム12で分離して、原料として用いるので、イソプレン製造システム10は、全体としては、メチルブタン1を原料に、イソプレン6を製造する製造システムである。
【0046】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【実施例0047】
<脱水素触媒の調製>
触媒担体であるシリカ2.0gを蒸留水30.0mLで浸漬させ、室温下にて12時間真空脱気した。その後、当該脱水素触媒全重量に対し、10質量%にあたる硝酸鉄(III)水溶液(蒸留水10.0mLに、硝酸鉄1.6236gを溶解させた水溶液)を加えて、さらに2時間攪拌した。得られた懸濁液を80℃、攪拌下にて水分を蒸発し、流通式焼成炉にて500℃で1時間の焼成処理を行なった。得られた触媒を、圧縮成型器でペレット状に加工した後に粉砕し、粒径が250~500μmとなるように整粒して脱水素触媒Aを得た。
【0048】
(実施例1)
内径8mm×長さ300mmのリアクターに、上記で得た脱水素触媒A(触媒量:500mg)を充填した。
次いで、リアクターに、キャリアーガス(ヘリウムガス)を供給し、600℃で加熱した。その後、水素/硫化水素/ヘリウムの体積比を2.5/2.5/45.0とし、合計供給量50mL/分で30分供給し、硫化処理を施した。
次いで、リアクターに、混合原料、硫化水素及びキャリアーガス(ヘリウムガス)を、10.0/20.0/70.0の体積比で、合計供給量が50mL/分となるように供給し、リアクターから反応液を排出し、反応温度550℃で脱水素反応を行った。混合原料は、メチル-ブタン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテンを53.0/21.0/26.0のモル比で調整したものを使用した。なお、硫化水素/混合原料(Feed)体積比で2.0となる割合で、合計供給量が50mL/分となるように、硫化水素とキャリアーガスを流量調整した。
次いで、得られた反応液をガスクロマトグラフ(カラム:VZ-7(ジーエルサイエンス)、分析条件:GC-FID、INJ 35℃、COL 35℃、DET50℃、流量25mL/分)で分析し、生成物の収率及び選択率を表1に示す。
【0049】
(実施例2)
混合原料として、メチル-ブタン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテンを18.0/26.0/56.0のモル比で調整したものを使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【0050】
(参考例1)
混合原料として、メチル-ブタン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテンを0.0/34.0/66.0のモル比で調整したものを使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【0051】
(比較例1)
混合原料として、メチル-ブタン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテンを100.0/0.0/0.0のモル比で調整したものを使用した以外は、実施例1と同様に行った。
つまり、比較例1では、ブテン類を混合せずに、脱水素反応を行なった。
【0052】
【0053】
実施例1、実施例2で得られた生成物の収率及び選択率からは、0.88~2.65mLのメチルブタンと2.35~4.12mLのメチルブテンを用いて得られる脱水素処理物から、分離工程を行なうことにより、イソプレンの取得可能量が0.75~1.14mLであり、メチルブテンの回収可能量が1.22~1.59mLであり、メチルブタンの回収可能量が0.25~0.66mLであることがわかった。
脱水素処理物から、メチルブテン及びメチルブタンを回収して、メチルブタンを含有する回収処理液を得れば、それを原料メチルブタンと混合すれば、イソプレン合成工程の原料とすることができることがわかった。