(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118136
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】織物および繊維製品
(51)【国際特許分類】
D03D 15/50 20210101AFI20240823BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20240823BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20240823BHJP
D03D 15/217 20210101ALI20240823BHJP
D03D 27/00 20060101ALI20240823BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20240823BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
D03D15/50
D03D15/47
D03D15/283
D03D15/217
D03D27/00 Z
D03D15/20 100
D02G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024397
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100187584
【弁理士】
【氏名又は名称】村石 桂一
(72)【発明者】
【氏名】宅見 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】海老名 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】辻 雅之
【テーマコード(参考)】
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L036MA05
4L036MA09
4L036MA33
4L036MA39
4L036PA21
4L036UA25
4L048AA08
4L048AA20
4L048AA34
4L048AA42
4L048AA46
4L048AA56
4L048AB11
4L048AB12
4L048AB16
4L048BA02
4L048BA23
4L048BA30
4L048CA00
4L048CA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低密度な繊維製品に対して適切な圧電特性が得られる織物および繊維製品を提供する。
【解決手段】本開示の織物Wは、緯糸Y1および経糸Y2の少なくともどちらか一方に圧電繊維を含み、圧電繊維を含む糸の拡張率が600%未満であり、かつ、緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率の両方が10%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸および緯糸の少なくともどちらか一方に圧電繊維を含み、
圧電繊維を含む糸の拡張率が600%未満であり、かつ、緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率の両方が10%以上である、織物。
【請求項2】
前記圧電繊維を含む糸は、撚られて成る、請求項1に記載の織物。
【請求項3】
前記圧電繊維を含む糸は、前記圧電繊維と非圧電繊維とが合撚されて成る、請求項1に記載の織物。
【請求項4】
前記非圧電繊維は、綿である、請求項3に記載の織物。
【請求項5】
前記緯糸および経糸のいずれか一方は圧電繊維を含んでおり、他方は圧電繊維を含まない非圧電繊維を含む糸である、請求項1に記載の織物。
【請求項6】
前記非圧電繊維は、綿またはポリエステル繊維である、請求項5に記載の織物。
【請求項7】
前記空隙率は、以下の式より算出される値である、請求項1に記載の織物。
空隙率=[{1インチ-(繊維幅×A)}/1インチ]×100%
A:1インチ当たりの繊維の本数
【請求項8】
前記拡張率は、以下の式より算出される値である、請求項1に記載の織物。
拡張率=(圧電繊維を含む糸の幅寸法の実測値)/(圧電繊維を含む糸の直径理論値)
圧電繊維を含む糸の直径理論値=(4B/π)1/2、B=繊度/比重
【請求項9】
前記圧電繊維に含まれる圧電性材料は、ポリ乳酸を含んでいる、請求項1に記載の織物。
【請求項10】
前記圧電材料は、結晶化度が20%以上である、請求項9に記載の織物。
【請求項11】
前記圧電材料は、添加剤を含有していない、請求項9に記載の織物。
【請求項12】
前記圧電材料は、加水分解防止剤を含有する、請求項9に記載の織物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の織物を備えた、繊維製品。
【請求項14】
前記経糸と前記緯糸とで区画された空間にパイル糸が挿入された、請求項13に記載の繊維製品。
【請求項15】
前記パイル糸の先端部分が平らに切り揃えられている、請求項14に記載の繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、織物および繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、長尺状の芯材と、芯材に対して一方向に螺旋状に巻回された長尺状の第1の圧電体と、を備えた圧電基材が、経糸または緯糸の少なくとも一方に備えられた圧電織物が開示されている(特許文献1の請求項1および請求項15)。
【0003】
特許文献2には、外部からのエネルギーにより電荷を発生する機能性高分子からなる圧電繊維を旋回して撚られたカバリング糸を備え、カバリング糸は、軸線方向に対して旋回するように巻き付けられた圧電糸が開示されている(特許文献2の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6818023号公報
【特許文献2】特許第6669317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に記載の圧電織物または圧電糸は、圧電繊維を巻き付けることによって繊維が束になるため、繊維密度が高くなっている。そして、これら繊維密度の高い繊維は、高密度な生地または繊維製品に用いることが可能である。
【0006】
一方で、一例としてタオル等の柔らかい質感等を得るために、低密度な生地または繊維製品も存在する。このような低密度な繊維製品に対して、特許文献1および2に記載の圧電織物または圧電糸を用いることは困難であった。さらに、低密度な繊維製品に用いられることを前提とし、圧電特性を得ることを主たる目的とする開示は実質的に存在していなかった。
【0007】
そこで、本開示は、低密度な繊維製品に対して適切な圧電特性が得られる織物および繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の織物は、
緯糸および経糸の少なくともどちらか一方に圧電繊維を含み、
圧電繊維を含む糸の拡張率が600%未満であり、かつ、緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率の両方が10%以上である。
【0009】
本開示の繊維製品は、上述の織物を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、低密度な繊維製品に対して適切な圧電特性が得られる。具体的には、圧電繊維を含む糸の拡張率が600%未満であり、かつ、緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率の両方が10%以上である織物に対し、緯糸および経糸の少なくともどちらか一方に圧電繊維を含むため、適切な圧電特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の織物の一例を模式的に示した図である。
【
図5A】
図5Aは、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電位方向と、電位形成フィラメントの変形との関係を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電位方向と、電位形成フィラメントの変形との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、電位形成フィラメントの周りに誘電体を備える糸の断面を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、本開示の繊維製品の一例を模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の織物および繊維製品について説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本開示の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。なお、本明細書で言及する各種の数値範囲は、特に明記しない限り、下限および/または上限の数値そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈され得る。また、各種数値に“約”または“程度”が付されている場合もあるが、この“約”および“程度”といった用語は、数パーセント、例えば±10パーセント、±5パーセント、±3パーセント、±2パーセント、および/または、±1パーセントの変動を含み得ることを意味する。
【0013】
-本開示の織物の説明-
本開示の織物Wは、緯糸Y1および経糸Y2の少なくともどちらか一方に圧電繊維を含んでいる。そして、当該緯糸Y1および経糸Y2を用いることにより、低密度な繊維製品を実現することができる。本開示の織物の一例を模式的に示した
図1では、緯糸Y1に圧電繊維を含む圧電糸1を備えている態様を示している。
【0014】
なお、本開示の織物Wにおいて、織物組織は特に限定されない。例えば、織物組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、完全二重織、たてビロードなどが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。以下、本開示の織物に用いられる緯糸Y1および経糸Y2について、説明する。
【0015】
<緯糸>
本開示の織物Wにおいて、緯糸Y1には、圧電繊維が含まれている。詳述すると、緯糸Y1は、圧電繊維を含む圧電糸1と非圧電繊維を含む糸2とが合撚されることにより構成されてよい。圧電繊維を含む圧電糸1が非圧電繊維を含む糸2と合撚されていると、圧電繊維を含む圧電糸1のみの場合と比較して繊維束が拡散することを低減することができる。つまり、本開示の緯糸Y1は、繊維密度が低い状態を保ちつつ、繊維束の拡散を防止することにより、低密度な繊維製品に対して適切な圧電特性を得ることができる。以下、本開示の緯糸Y1に用いられる圧電繊維および非圧電繊維について詳述する。なお、緯糸は、非圧電繊維を含まずに、圧電繊維のみを撚った糸としてもよい。
【0016】
・圧電繊維
本開示において、「圧電繊維」とは、「外部からのエネルギー(例えば、張力および/または応力等)により電荷を発生して電位(具体的には、表面電位)および/または電場を形成することができる繊維(フィラメント)」を意味する(以下、「電位形成繊維」、「電位発生フィラメント」、「電場形成繊維」、「電荷発生繊維」または「電荷発生フィラメント」と称する場合もある)。「圧電繊維」としては、例えば、特許第6428979号公報に記載の電荷発生繊維などを使用してよい。
【0017】
「外部からのエネルギー」として、例えば、外部からの力(以下、「外力」と称する場合もある)、具体的には、圧電繊維10または圧電繊維10が束ねられた圧電糸1(
図4または
図6参照)に変形もしくは歪みを生じさせるような力および/または圧電糸1もしくは圧電繊維10の軸方向にかかる力、より具体的には、張力(例えば圧電糸1もしくは圧電繊維10の軸方向の引張力)および/または応力もしくは歪力(圧電糸1もしくは圧電繊維10にかかる引張応力もしくは引張歪み)および/または圧電糸1もしくは圧電繊維10の横断方向にかかる力などの外力が挙げられる。
【0018】
圧電糸1または圧電繊維10において、外力の適用により発生する表面電位は、例えば0.5Vより大きい、好ましくは1.0V以上であってよい(正負いずれの電位も発生させることができる)。表面電位が0.5Vより大きい電位を発生させると、本開示の織物Wにおいて、菌の増殖を抑制することができる。ここで、表面電位の測定方法に特に制限はなく、例えば走査型プローブ顕微鏡などを用いて測定することができる。また、表面電位により、直接的な殺菌・殺ウイルス作用を有していてもよく、細菌や真菌などの菌やウイルスが有する電位とは反対の電位を発生させることで菌やウイルスを寄せ付けないことに起因する作用であってもよい。
【0019】
圧電繊維10の寸法(長さ、太さ(径)など)や、形状(断面形状など)に特に制限はない。このような圧電繊維10を有して成る圧電糸1は、太さの異なる複数の圧電繊維10を含んでよい。従って、圧電糸1は、長さ方向において、径が一定であっても、一定でなくてもよい。
【0020】
圧電繊維10は、長繊維であっても、短繊維であってもよい。圧電繊維10は、例えば0.01mm以上の長さ(寸法)を有してよい。長さは、所望の用途に応じて、適宜、選択すればよい。
【0021】
圧電繊維10の太さ(径)に特に制限はなく、圧電繊維10の長さに沿って、同一(一定)であっても、同一でなくてもよい。圧電繊維10は、例えば0.001μm(1nm)~1mmの太さを有してよい。太さは、所望の用途に応じて、適宜、選択すればよい。
【0022】
圧電繊維10を束ねた圧電糸1の繊維強度は、1~10cN/dtexであることが好ましい。これにより、圧電糸1は、高い電位を発生するためにより大きな変形が生じたとしても、破断することなく耐えることができる。繊維強度は、1~7cN/dtexがより好ましく、1~5cN/dtexが最も好ましい。同様の趣旨により、圧電糸1の伸長率は、5%より大きく50%以下であることが好ましい。
【0023】
圧電糸1を構成する圧電繊維10は、例えば、2本以上、2~500本、好ましくは10~350本、より好ましくは20~200本程度含まれていてよい。
【0024】
圧電繊維10の形状、特に断面形状に特に制限はないが、例えば円形、楕円形、矩形、異形の断面を有していてよい。円形の断面形状を有することが好ましい。
【0025】
圧電繊維10は、例えば、圧電効果(外力による分極現象)または圧電性(機械的ひずみを与えたときに電圧を発生する、あるいは逆に電圧を加えると機械的ひずみを発生する性質)を有する材料(以下、「圧電材料」又は「圧電体」と称する場合もある)を含んで成ることが好ましい。なかでも、圧電材料を含んで成る繊維を使用することが特に好ましい。圧電繊維10は、圧電気により電場を形成することができるため、電源が不要であるし、感電のおそれもない。なお、圧電繊維に含まれる圧電材料の寿命は、例えば、薬剤等による抗菌効果よりも長く持続する。また、このような圧電繊維では、アレルギー反応を引き起こす可能性も低い。
【0026】
「圧電材料」は、圧電効果または圧電性を有する材料であれば特に制限なく使用することができ、圧電セラミックスなどの無機材料であっても、ポリマーなどの有機材料であってもよい。
【0027】
「圧電材料」(又は「圧電繊維」)は、「圧電性ポリマー」を含んで成ることが好ましい。「圧電性ポリマー」として、「焦電性を有する圧電性ポリマー」や、「焦電性を有していない圧電性ポリマー」などが挙げられる。
【0028】
「焦電性を有する圧電性ポリマー」とは、概して、焦電性を有し、温度変化を与えるだけで、その表面に電荷(又は電位)を発生させることもできるポリマー材料から成る圧電材料を意味する。このような圧電性ポリマーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。特に、人体の熱エネルギーによって、その表面に電荷(又は電位)を発生させることができるものが好ましい。
【0029】
「焦電性を有していない圧電性ポリマー」とは、概して、ポリマー材料から成り、上記の「焦電性を有する圧電性ポリマー」を除く圧電性ポリマーを意味する。このような圧電性ポリマーとして、例えば、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。ポリ乳酸としては、L体モノマーが重合したポリ-L-乳酸(PLLA)や、D体モノマーが重合したポリ-D-乳酸(PDLA)などが知られている。
【0030】
なお、圧電糸1は、圧電繊維10として、芯糸に導電体を用いて、当該導電体に絶縁体を巻き(カバリング)、該導電体に電圧を加えて電荷を発生させる構成を有するものであってもよい。
【0031】
圧電糸1は、複数の圧電繊維10を単に引き揃えただけの糸(引き揃え糸または無撚糸)であってよく、撚りをかけた糸(撚り合わせ糸または撚糸)であってもよく、捲縮をかけた糸(捲縮加工糸または仮撚糸)であってもよく、紡いだ糸(紡績糸)であってもよい。なお、糸の撚り合わせ方法、捲縮方法、紡績方法に特に制限はなく、従来公知の方法を使用することができる。
【0032】
例えば、
図4Aに示すとおり、圧電糸1sは、複数の圧電繊維10を撚り合わせることによって構成することもできる。
図4Aに示す態様では、圧電糸1sは、圧電繊維10を左旋回して撚られた左旋回糸(以下、「S糸」と称する)であるが、圧電繊維10を右旋回して撚られた右旋回糸(以下、「Z糸」と称する)であってもよい(例えば、
図6Aの圧電糸1zを参照のこと)。このように、圧電糸1は、撚り合わせ糸の場合、「S糸」、「Z糸」のいずれであってもよい。
【0033】
圧電糸1において、圧電繊維10の間隔は、約0μm~約10μm、一般的には5μm程度である。なお、電位形成フィラメント10の間隔が0μmである場合、電場形成フィラメント同士が互いに接触していることを意味する。このような圧電繊維間隔とすることにより、低密度の織物を実現することができる。
【0034】
以下、圧電糸1を詳述するために、圧電繊維10として圧電材料を含んで成り、かかる圧電材料が「ポリ乳酸」である態様を一例として挙げて、
図4A~
図6Cを参照しながら、圧電糸1の例をより詳しく説明する。
【0035】
圧電材料として使用することができるポリ乳酸(PLA)は、キラル高分子であり、主鎖が螺旋構造を有する。ポリ乳酸は、一軸延伸されて分子が配向すると、圧電性を発現することができる。さらに熱処理を加えて結晶化度を高めると圧電定数が高くなる。このように結晶化度を高めることで表面電位の値を向上させることができる。
【0036】
ポリ乳酸(PLA)の光学純度(エナンチオマー過剰量(e.e.))は、下記式にて算出することができる。
光学純度(%)={|L体量-D体量|/(L体量+D体量)}×100
例えば、D体およびL体のいずれにおいても、光学純度は、90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上100重量%以下、さらにより好ましくは99.0重量%以上100重量%以下、特に好ましくは99.0重量%以上99.8重量%以下である。ポリ乳酸(PLA)のL体量とD体量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いることができる。
【0037】
図4Aに示すとおり、一軸延伸されたポリ乳酸を含んで成る圧電繊維10は、厚み方向を第1軸、延伸方向900を第3軸、第1軸および第3軸の両方に直交する方向を第2軸と定義したとき、圧電歪み定数としてd14およびd25のテンソル成分を有する。
【0038】
したがって、ポリ乳酸は、一軸延伸された方向に対して45度の方向に歪みが生じた場合に最も効率よく電荷(又は電位)を発生することができる。
【0039】
ポリ乳酸の数平均分子量(Mn)は、例えば6.2×104であり、重量平均分子量(Mw)は、例えば1.5×105である。なお、分子量は、これらの値に限定されるものではない。
【0040】
図5Aおよび
図5Bは、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、電位形成フィラメント10および/または圧電糸1を含む繊維の変形との関係を示す図である。
【0041】
図5Aに示すように、圧電繊維10は、第1対角線910Aの方向に縮み、第1対角線910Aに直交する第2対角線910Bの方向に伸びると、紙面の裏側から表側に向く方向に電場を生じさせることができる。すなわち、圧電繊維10は、紙面表側では、負の電荷を発生させることができる。圧電繊維10は、
図5Bに示すように、第1対角線910Aの方向に伸び、第2対角線910Bの方向に縮む場合も電荷(又は電位)を発生することができるが、極性が逆になり、紙面の表面から裏側に向く方向に電場を生じさせることができる。すなわち、圧電繊維10は、紙面表側では、正の電荷を発生させることができる。
【0042】
ポリ乳酸は、延伸による分子の配向処理で圧電性が生じ得るため、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の他の圧電性ポリマーまたは圧電セラミックスのように、ポーリング処理を行う必要がない。一軸延伸されたポリ乳酸の圧電定数は、5~30pC/N程度であり、ポリマーの中では非常に高い圧電定数を有する。さらに、ポリ乳酸の圧電定数は経時的に変動することがなく、極めて安定している。
【0043】
圧電繊維10は、断面が円形状の繊維であることが好ましい。圧電繊維10は、例えば、圧電性ポリマーを押し出し成型して繊維化する手法、圧電性ポリマーを溶融紡糸して繊維化する手法(例えば、紡糸工程と延伸工程とを分けて行う紡糸・延伸法、紡糸工程と延伸工程とを連結した直延伸法、仮撚り工程も同時に行うことのできるPOY-DTY法、または高速化を図った超高速紡糸法などを含む)、圧電性ポリマーを乾式あるいは湿式紡糸(例えば、溶媒に原料となるポリマーを溶解してノズルから押し出して繊維化するような相分離法もしくは乾湿紡糸法、溶媒を含んだままゲル状に均一に繊維化するようなゲル紡糸法、または液晶溶液もしくは融体を用いて繊維化する液晶紡糸法などを含む)により繊維化する手法、または圧電性ポリマーを静電紡糸により繊維化する手法等により製造され得る。なお、圧電繊維10の断面形状は、円形に限るものではない。
【0044】
例えば
図4Aに示す圧電糸1sは、このようなポリ乳酸を含んで成る圧電繊維10を複数本で撚ってなる糸(マルチフィラメント糸)(S糸)であってよい(撚り方に特に制限はない)。各圧電繊維10の延伸方向900は、それぞれの圧電繊維10の軸方向に一致している。したがって、圧電繊維10の延伸方向900は、圧電糸1sの軸方向に対して、左に傾いた状態となる。なお、その角度は、撚り回数に依存する。
【0045】
このようなS糸である圧電糸1sに「外力」として例えば張力(好ましくは軸方向の張力)または応力(好ましくは軸方向の引張応力)をかけた場合、圧電糸1の表面には負(-)の電荷(又は電位)が発生し、その内側には正(+)の電荷(又は電位)を発生させることができる。
【0046】
圧電糸1は、この電荷により生じ得る電位差によって電場を形成することができる。この電場は近傍の空間にも漏れて他の部分と結合電場を形成することができる。また、圧電糸1に生じる電位は、近接する所定の電位、例えば人体等の所定の電位(グランド電位を含む)を有する物体に近接した場合に、圧電糸1と該物体との間に電場を生じさせることもできる。
【0047】
次に、
図6Aを参照すると、圧電糸1zは、Z糸であるため、電位形成フィラメント(又は圧電繊維)10の延伸方向900は、圧電糸1zの軸方向に対して、右に傾いた状態となる。なお、その角度は、糸の撚り回数に依存する。
【0048】
このようなZ糸である圧電糸1zに「外力」として例えば張力(好ましくは軸方向の張力)または応力(好ましくは軸方向の引張応力)をかけた場合、圧電糸1zの表面には正(+)の電荷(又は電位)が発生し、その内側には負(-)の電荷(又は電位)を発生させることができる。
【0049】
圧電糸1zも、この電荷により生じ得る電位差によって電場を形成することができる。この電場は近傍の空間にも漏れて他の部分と結合電場を形成することができる。また、圧電糸1zに生じる電位は、近接する所定の電位、例えば人体等の所定の電位(グランド電位を含む)を有する物体に近接した場合に、圧電糸1zと該物体との間に電場を生じさせることもできる。
【0050】
さらに、S糸である圧電糸1sと、Z糸である圧電糸1zとを近接させた場合には、圧電糸1sと圧電糸1zとの間に電場を生じさせることもできる。
【0051】
圧電糸1sと圧電糸1zとで生じる電荷(又は電位)の極性は互いに異なる。各所の電位差は、繊維同士が複雑に絡み合うことにより形成され得る電場結合回路、または水分等で糸の中に偶発的に形成され得る電流パスで形成され得る回路により定義され得る。
【0052】
圧電糸1s、圧電糸1zについては、特許第6428979号公報を読むとより深く理解することができる。また、特許第6428979号公報は、本明細書中に参照することで組み込まれる。
【0053】
圧電糸1において、圧電繊維10がポリ乳酸(PLA)から構成されることが好ましい。圧電繊維10がポリ乳酸などの圧電材料を含むことで表面電位をより適切に制御することができる。また、ポリ乳酸は疎水性であることから、さらりとした肌触りを提供することができ、快適性を付与することもできる。また、ポリ乳酸は、生分解性プラスチックとして知られているため、最終的にCO2と水に分解することができ、環境に対する負荷を低減することができる。
【0054】
「ポリ乳酸」の結晶化度は、例えば20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらにより好ましくは、50%以上、特に好ましくは55%以上であることが好ましい。結晶化度は、例えば、示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimetry)、X線回折法(XRD:X-ray diffraction)、広角X線回折測定(WAXD:Wide Angle X-ray Diffraction)などの測定方法により決定することができる。このような範囲内であると、ポリ乳酸結晶に由来する圧電性が高くなり、ポリ乳酸の圧電性による分極をより効果的に生じさせることができる。なお、本開示において、WAXDを用いて測定された結晶化度の測定値と、DSCを用いて測定された結晶化度の測定値は、約1.5倍異なる知見(DSC測定値/WAXD測定値≒1.5)が得られている。
【0055】
圧電糸1において、可塑剤や滑剤等の添加剤は入っていない。一般的に、圧電糸1において添加剤が含有されていると、表面電位が発生し難い傾向にあることが分かっている。そこで、適切に表面電位を発生させるため、圧電糸1には添加剤を含有させないことが好ましい。本開示でいう「可塑剤」とは、圧電糸1に柔軟性を与えるための材料であり、「滑剤」とは、圧電糸1の分子の滑りを向上させる材料である。具体的には、ポリエチレングリコール、ヒマシ油系脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ステアリン酸アマイド、グリセリン脂肪酸エステル等を意図している。これらの材料が本開示の圧電糸1に含有されていない。
【0056】
圧電糸1において、加水分解防止剤を含有してよい。特に、ポリ乳酸(PLA)に対する加水分解防止剤を含有してよい。加水分解防止剤の一例として、カルボジイミドを含有してよい。より好ましくは環状カルボジイミドを含有してよい。より具体的には、特許5475377号に記載の環状カルボジイミドとしてもよい。このような環状カルボジイミドによれば、高分子化合物の酸性基を有効に封止することができる。なお、環状カルボジイミド化合物に対し、高分子の酸性基を有効に封止できる程度にカルボキシル基封止剤を併用してもよい。かかるカルボキシル基封止剤としては、特開2005-2174号公報記載の剤、例えば、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物および/またはオキサジン化合物、などが例示される。
【0057】
以下、加水分解防止剤の役割について説明する。従来から一般的に知られたPLAを含有する繊維(表面電位を発生させない繊維)は、PLAの加水分解によって酸が発生し、当該酸が菌に作用することによって抗菌効果を奏していた。そのため、PLAに加水分解が起きると繊維の劣化が生じていた。しかしながら、本開示の圧電繊維は、抗菌メカニズムが従来と異なり、上述したとおり表面電位を発生させることによって抗菌効果を奏するため、加水分解を起こす必要はない。さらに、本開示の圧電繊維は加水分解防止剤を含有するため、繊維に加水分解が起きることを防止して繊維の劣化を抑えることが可能となる。
【0058】
圧電糸1は、上記の態様、特にポリ乳酸から構成され得る糸に限定して解釈されるべきではない。また、圧電糸1の製造方法についても特に制限はなく、上記の製造方法に限定されるものではない。
【0059】
・圧電繊維を含む圧電糸の他の態様
さらに、圧電糸1は、圧電繊維10の周りに「誘電体」が設けられてよい。例えば、
図7の断面図で模式的に示すとおり、圧電繊維10の周りには誘電体100を設けることができる。
【0060】
本開示において「誘電体」とは、「誘電性」(電場により電気的に正負に分極(又は誘電分極又は電気分極)する性質)を有する材料または物質を含んで成るものを意味し、その表面には電荷を溜めることができる。
【0061】
誘電体100は、圧電繊維10の長手軸方向および周方向に存在してよく、圧電繊維を完全に被覆していても、部分的に被覆していてもよい。なお、誘電体100が圧電繊維10を部分的に被覆する場合、被覆されていない部分は、圧電繊維10自体がそのまま露出していてよい。
【0062】
従って、誘電体100は、圧電繊維10の長手軸方向において、全体的に設けられていても、部分的に設けられていてよい。また、誘電体100は、圧電繊維10の周方向において、全体的に設けられていても、部分的に設けられていてもよい。また、誘電体100は、その厚みが均一であっても、不均一であってもよい。
【0063】
誘電体100は、複数の圧電繊維10の間に存在していてもよく、この場合、複数の圧電繊維10の間に誘電体100が存在しない部分があってもよい。また、誘電体100の中に気泡や空洞が存在していてもよい。
【0064】
誘電体100は、誘電性を有する材料または物質を含む限り特に制限はない。誘電体100として、主に繊維産業において表面処理剤(又は繊維処理剤)として使用できることが知られている誘電性の材料(例えば、油剤、帯電防止剤など)を用いてもよい。
【0065】
圧電糸1において、誘電体100は、油剤を含んで成ることが好ましい。油剤として、圧電繊維10の製造で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられる油剤(製糸油剤)などを使用することができる(例えば、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の界面活性剤など)。また、製布(たとえば製編、製織など)の工程で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられる油剤(例えば、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の界面活性剤など)や、仕上工程で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられる油剤(例えば、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の界面活性剤など)も使用することができる。ここでは代表例として、フィラメント製造工程、製布工程、仕上げ工程などを挙げたが、これらの工程に限定されるものではない。油剤として、特に圧電繊維10の摩擦を低減するために用いられる油剤などを使用することが好ましい。
【0066】
油剤として、例えば、竹本油脂株式会社製デリオン・シリーズ、松本油脂製薬株式会社製マーポゾール・シリーズ、マーポサイズ・シリーズ、丸菱油化工業株式会社製パラテックス・シリーズなどが挙げられる。
【0067】
油剤は、圧電繊維10に沿って、全体的に存在していても、少なくとも一部に存在していてもよい。また、圧電繊維10を圧電糸1に加工した後、洗濯によって油剤の少なくとも一部または全部が圧電繊維10から脱落していてもよい。
【0068】
また、圧電繊維10の摩擦を低減するために用いられる誘電体100は、洗濯時に使用される洗剤や柔軟剤などの界面活性剤であってもよい。
【0069】
洗剤として、例えば、花王株式会社製アタック(登録商標)・シリーズ、ライオン株式会社製トップ(登録商標)・シリーズ、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社製アリエール(登録商標)・シリーズなどが挙げられる。
【0070】
柔軟剤として、例えば、花王株式会社製ハミング(登録商標)・シリーズ、ライオン株式会社製ソフラン(登録商標)・シリーズ、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社製レノア(登録商標)・シリーズなどが挙げられる。
【0071】
誘電体100は、導電性(電気を通す性質)を有していてよく、その場合、誘電体100は、帯電防止剤を含んで成ることが好ましい。帯電防止剤として、圧電繊維10の製造で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられる帯電防止剤などを使用することができる。帯電防止剤として、特に圧電繊維10のほぐれを低減するために用いられる帯電防止剤を使用することが好ましい。
【0072】
帯電防止剤として、例えば、株式会社日新化学研究所製カプロン・シリーズ、日華化学株式会社製ナイスポール・シリーズ、デートロン・シリーズなどが挙げられる。
【0073】
帯電防止剤は、圧電繊維10に沿って、全体的に存在していても、少なくとも一部に存在していてもよい。また、圧電繊維10を圧電糸1に加工した後、洗濯によって帯電防止剤の少なくとも一部または全部が圧電繊維10から脱落していてもよい。
【0074】
また、上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などは、圧電繊維10の周りに存在していなくてもよい。すなわち、圧電繊維10または圧電糸1は、上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などを含まない場合もある。その場合、圧電繊維10の間に存在する空気(又は空気層)が誘電体として機能し得る。従って、この場合、誘電体は空気を含んで成る。
【0075】
例えば、圧電繊維10の周りに上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などが付着した糸を洗濯や溶剤浸漬によって処理することで上述の表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などを含まない圧電糸1を使用してもよい。その場合、無垢の圧電繊維10が露出することになる。あるいは、本開示において、無垢の圧電繊維10のみを含んで成る圧電糸1を使用してもよい。
【0076】
また、本開示では、例えば洗濯や溶剤浸漬などの処理によって、上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などが部分的に除去されて無垢の圧電繊維10が部分的に露出した糸を使用してもよい。
【0077】
誘電体100の厚み(又は圧電繊維10の間隔)は、約0μm~約10μm、好ましくは約0.5μm~約10μm、より好ましくは約2.0μm~約10μm、一般的には5μm程度である。
【0078】
・非圧電繊維
本開示において、非圧電繊維を含む糸2(
図1参照)における「非圧電繊維」とは、上述した圧電繊維と異なり、「外部からのエネルギーにより電荷が発生せずに電位および電場を形成しない繊維(フィラメント)」を意味する。一例として、天然繊維または圧電特性を示さない化学繊維が挙げられる。
【0079】
本開示における非圧電繊維としての天然繊維の一例として、綿が挙げられる。綿を用いることにより、後述する繊維製品として経糸と緯糸とで区画された空間にパイル糸を挿入した場合に、パイル糸との滑りを低減することができ、パイル糸の抜けを防止することができる。また、化学繊維と比較し吸水性を高めることができる。
【0080】
また、非圧電繊維としての化学繊維の一例として、ポリエステル繊維が挙げられる。ポリエステル繊維を用いることにより、天然繊維と比較して強度を高めることができる。
【0081】
非圧電繊維は、緯糸全体基準でどの程度含有されていてもよいが、好ましい含有量として、圧電繊維を含む糸と非圧電繊維を含む糸との繊度比(圧電繊維を含む糸の繊度/非圧電繊維を含む糸の繊度)が、0.5以上3以下であることが好ましい。このような繊度比となるように緯糸を構成することにより、低密度な繊維製品に対して適切な圧電特性が得られる。詳細は実施例にて詳述する。なお、本開示の緯糸において、後述する空隙率および拡張率を実現することが可能であれば、非圧電繊維を用いなくてもよい。
【0082】
<経糸>
本開示の織物Wにおいて、経糸Y2の繊維は、低密度な繊維製品を実現することができれば、どのような繊維を用いてもよい。つまり、本開示の織物Wの経糸Y2には、上述した圧電繊維を用いてもよいし、非圧電繊維を用いてもよい。一例を示す
図1の織物Wにおいて、経糸Y2には、非圧電繊維が用いられている。例えば、非圧電繊維として、綿またはポリエステル繊維が挙げられる。
【0083】
経糸Y2の繊度としては、経糸Y2と緯糸Y1との繊度比(経糸Y2の繊度/緯糸Y1の繊度)が0.5以上3以下であることが好ましい。このような繊度比となるように経糸Y2を構成することにより、低密度な繊維製品に対して適切な圧電特性が得られる。
【0084】
<本開示における低密度の定義>
次に、上述した緯糸Y1および経糸Y2を用いた織物Wにおいて、本開示の織物Wの前提となる「低密度」の定義について以下、詳述する。
【0085】
本開示における「低密度」とは、「圧電繊維を含む糸の拡張率」が600%未満であり、かつ、「緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率の両方」が10%以上であることを意図している。
【0086】
なお、後述する実施例にて詳述するが、圧電繊維を含む圧電糸1の拡張率が600%以上となると、圧電繊維の拡散が大きくなり圧電による機能性が発揮されづらくなる。また、「緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率の両方」が10%未満であると、適切な圧電特性を得ることができるものの、本開示で意図するタオル等の柔らかい質感等を得ることができない。
【0087】
ここで、本開示における「圧電繊維を含む糸の拡張率」とは、織物を平面視した際の圧電繊維を含む糸の直径理論値と、圧電繊維10を含む糸の幅寸法の実測値L(
図1~3参照)との比率を意図している。具体的には、以下の式より算出される値である。
拡張率=(圧電繊維を含む糸の幅寸法の実測値)/(圧電繊維を含む糸の直径理論値)×100%
圧電繊維を含む糸の直径理論値=(4B/π)
1/2、B=繊度/比重
【0088】
また、本開示における「空隙率」とは、織物を平面視した際の1インチあたりの空隙の比率を意図している。具体的には、以下の式より算出される値である。
空隙率=[{1インチ-(繊維幅×A)}/1インチ]×100%
A:1インチ当たりの繊維の本数
【0089】
以上のように定義された「低密度」を前提とした本開示の織物は、上述したとおり緯糸Y1および経糸Y2の少なくともどちらか一方に圧電繊維10を含むため、実施例にて詳述する適切な圧電特性が得られる。
【0090】
-本開示の繊維製品の説明-
本開示の繊維製品Cは、上述した本開示の織物を備えている。繊維製品としては、衣料品、寝装寝具、敷物、カーテン、屋内壁布、タオル、布巾等の製品が挙げられる。
【0091】
また、好適な繊維製品の態様として、
図8に示すとおり、経糸Y2と緯糸Y1とで区画された空間にパイル糸Y3が挿入されていてよい。このようにパイル糸Y3を設けることにより、平面的な織物と比較して立体的となり、表面積を大きくすることができるため、吸水性を高めることができる。また、パイル糸Y3によって形成されるループ部分が肌に触れた際にふわりとした弾力を生み出し、優れた肌触りを得ることができる。なお、繊維製品表面への意匠性付与のため、パイル糸Y3は先端部分を平らに切りそろえる「シャーリング加工」を施してもよい。シャーリング加工を表面のみに行うことで、裏面はループ状のパイル生地のままの状態とすることができ、優れた肌触りを維持することができる。
【実施例0092】
次に、本開示の織物として以下に示す実施例1~5および比較例1~3の織物を製造し、実証試験を行った。実施例1~5および比較例1~3の織物は、以下のとおりである。なお、本実施例の製造条件は、室温(1~30℃)、大気圧および大気圧雰囲気下である。
【0093】
-実施例1-
実施例1の織物は、以下の構成を備えている。
緯糸(圧電繊維を含む糸):PLA DTY167T144
緯糸(非圧電繊維を含む糸):綿(295dtex)
緯糸の繊度比(圧電繊維を含む糸の繊度/非圧電繊維を含む糸の繊度):1/1.8
緯糸における圧電繊維を含む糸と非圧電繊維を含む糸との間の撚り数:300T/m
経糸:綿(295dtex)
なお、上述した「PLA DTY167T144」との記載は、144本のポリ乳酸を含有する圧電繊維に対し、仮撚り加工(DTY)することにより、繊度167dtexとなる糸を意図している。
【0094】
上述の実施例1の織物に対し、「圧電繊維を含む糸の拡張率」および「緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率」を以下のように算出する。
【0095】
・圧電繊維を含む糸の拡張率
上述したとおり、圧電繊維を含む糸の拡張率は、以下の式を用いて算出される。
拡張率=(圧電繊維を含む糸の幅寸法Lの実測値)/(圧電繊維を含む糸の直径理論値)×100%
圧電繊維を含む糸の直径理論値=(4B/π)1/2、B=繊度/比重
【0096】
最初に、B=繊度/比重を求める。実施例1の織物の場合、緯糸に用いられる圧電糸の繊度は167dtex、圧電糸の比重は1.27(g/cm3)であることが予め分かっているため、Bは、1.315×10―4(cm2)と算出される。そして、Bが算出されることにより、圧電繊維を含む糸の直径理論値は、101.6(μm)と算出される。
【0097】
次に、緯糸に用いられる圧電繊維を含む糸の幅寸法Lを実測する。幅寸法の測定には、光学顕微鏡を使用する。繊維幅の測定手法としては、顕微鏡画像上での測長が挙げられる。当該測定によれば、実施例1の圧電繊維を含む糸の幅寸法Lの実測値は528.8(μm)と算出される。
【0098】
以上により算出された圧電繊維を含む糸の直径理論値101.6(μm)、および、圧電繊維を含む圧電糸の幅寸法Lの実測値528.8(μm)から、実施例1の圧電繊維を含む糸の拡張率は、520%と算出される。
【0099】
・「緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率」
上述したとおり、空隙率は、以下の式を用いて算出される。
空隙率=[{1インチ-(糸を構成する繊維の幅寸法の実測値×A)}/1インチ]×100%
A:1インチ当たりの繊維の本数
【0100】
最初に、光学顕微鏡を用いて織物の平面画像を取得する。取得された画像から糸を構成する繊維の幅寸法の実測値およびA(1インチ当たりの繊維の本数)を実測する。実測手法としては、顕微鏡画像上での測長が挙げられる。実施例1では、緯糸を構成する繊維の幅寸法の実測値528.8(μm)、緯糸に対するA:30(本)であり、経糸を構成する繊維の幅寸法の実測値351.0(μm)、経糸に対するA:37(本)である。
【0101】
次に、緯糸方向空隙率を算出する。算出には、測定によって得られた緯糸を構成する繊維の幅寸法の実測値528.8(μm)および緯糸に対するA:30(本)を上述した空隙率を求めるための計算式に代入する。そうすると、実施例1の緯糸方向空隙率は、38%と算出される。
【0102】
同様にして、経糸方向空隙率を算出する。算出には、測定によって得られた経糸を構成する繊維の幅寸法の実測値351.0(μm)および経糸に対するA:37(本)を上述した空隙率を求めるための計算式に代入する。そうすると、実施例1の経糸方向空隙率は、49%と算出される。
【0103】
以上により、実施例1の拡張率、緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率は、以下のとおり算出される。
圧電糸の拡張率:520%
緯糸方向空隙率:38%
経糸方向空隙率:49%
【0104】
-実施例2-
実施例2の織物は、以下の構成を備えている。
緯糸(圧電繊維を含む糸):PLA DTY167T144
緯糸(非圧電繊維を含む糸):綿(295dtex)
緯糸の繊度比(圧電繊維を含む糸の繊度/非圧電繊維を含む糸の繊度):1/1.8
緯糸における圧電繊維を含む糸と非圧電繊維を含む糸との間の撚り数:500T/m
経糸:綿(295dtex)
なお、実施例2の織物は、緯糸の撚り数が500T/mとなっており、実施例1の織物と比較して多く撚られている。
【0105】
上述の実施例2の織物に対し、上述したとおり「圧電繊維を含む糸の拡張率」および「緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率」を算出すると、以下の結果が得られた。
圧電糸の拡張率:500%
緯糸方向空隙率:40%
経糸方向空隙率:45%
【0106】
-実施例3-
実施例3の織物は、以下の構成を備えている。
緯糸(圧電繊維を含む糸):PLA84T72 S500T/m
経糸:PET84T72 S1000T/m
なお、上述した「PLA84T72 S500T/m」との記載は、72本のポリ乳酸を含有する圧電繊維を含む糸に対し、撚り数500T/mで撚って、繊度が84dtexとなる糸が得られたことを意図している。また、「PET84T72 S1000T/m」との記載は、72本のポリエステル繊維を含む糸に対し、撚り数1000T/mで撚って、繊度が84dtexとなる糸が得られたことを意図している。なお、実施例3の織物は、非圧電繊維を含まない実施例である。
【0107】
上述の実施例3の織物に対し、上述したとおり「圧電繊維を含む糸の拡張率」および「緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率」を算出すると、以下の結果が得られた。
圧電糸の拡張率:227%
緯糸方向空隙率:35%
経糸方向空隙率:11%
【0108】
-実施例4-
実施例4の織物は、以下の構成を備えている。
緯糸(圧電繊維を含む糸):PLA DTY167T144
緯糸(非圧電繊維を含む糸):綿(74dtex)
緯糸の繊度比(圧電繊維を含む糸の繊度/非圧電繊維を含む糸の繊度):2/1
緯糸における圧電繊維を含む糸と非圧電繊維を含む糸との間の撚り数:300回
経糸:綿(295dtex)
なお、実施例4の織物は、繊度比が2/1となっており、実施例1の織物と比較して圧電繊維を含む糸の繊度の割合を多くしている。
【0109】
上述の実施例4の織物に対し、上述したとおり「圧電繊維を含む糸の拡張率」および「緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率」を算出すると、以下の結果が得られた。
圧電糸の拡張率:520%
緯糸方向空隙率:50%
経糸方向空隙率:50%
【0110】
-実施例5-
実施例5の織物は、以下の構成を備えている。
緯糸(圧電繊維を含む糸):PLA DTY167T144
緯糸(非圧電繊維を含む糸):PET DTY167T144
緯糸の繊度比(圧電繊維を含む糸の繊度/非圧電繊維を含む糸の繊度):1/1
緯糸における圧電繊維を含む糸と非圧電繊維を含む糸との間の撚り数:300回
経糸:PET167T144
【0111】
上述の実施例5の織物に対し、上述したとおり「圧電繊維を含む糸の拡張率」および「緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率」を算出すると、以下の結果が得られた。
圧電糸の拡張率:500%
緯糸方向空隙率:35%
経糸方向空隙率:50%
【0112】
-比較例1-
比較例1の織物は、以下の構成を備えている。なお、
図3に比較例1の織物の平面画像を示す。
緯糸(圧電繊維を含む糸):DTY167T144
経糸:綿(295dtex)
【0113】
上述の比較例1の織物に対し、上述したとおり「圧電繊維を含む糸の拡張率」および「緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率」を算出すると、以下の結果が得られた。
圧電糸の拡張率:699%
緯糸方向空隙率:16%
経糸方向空隙率:39%
【0114】
-比較例2-
比較例2の織物は、以下の構成を備えている。
緯糸(圧電繊維を含む糸):DTY167T144
緯糸(非圧電繊維を含む糸):綿(295dtex)
緯糸の繊度比(圧電繊維を含む糸の繊度/非圧電繊維を含む糸の繊度):2/1
経糸:綿(295dtex)
なお、比較例2の緯糸は、圧電繊維を含む糸と非圧電繊維を含む糸を撚り合わせずに、各繊維を引き揃えた糸となっている。
【0115】
上述の比較例2の織物に対し、上述したとおり「圧電繊維を含む糸の拡張率」および「緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率」を算出すると、以下の結果が得られた。
圧電糸の拡張率:650%
緯糸方向空隙率:20%
経糸方向空隙率:20%
【0116】
-比較例3-
比較例3の織物は、以下の構成を備えている。
緯糸(圧電繊維を含む糸):DTY167T144
緯糸(非圧電繊維を含む糸):PET DTY167T144
緯糸の繊度比(圧電繊維を含む糸の繊度/非圧電繊維を含む糸の繊度):2/1
経糸:綿(295dtex)
なお、比較例3の緯糸は、圧電繊維を含む糸と非圧電繊維を含む糸を撚り合わせずに、各繊維を引き揃えた糸となっている。
【0117】
上述の比較例3の織物に対し、上述したとおり「圧電繊維を含む糸の拡張率」および「緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率」を算出すると、以下の結果が得られた。
圧電糸の拡張率:700%
緯糸方向空隙率:15%
経糸方向空隙率:30%
【0118】
上記実施例1~5および比較例1~3に対し、表面電位評価および抗菌評価を行った。具体的な評価内容を以下、記載する。
【0119】
(表面電位評価)
実施例および比較例の製品について、静電気力顕微鏡(Electric Force Microscope (EFM))(トレック社製、Model 1100TN)を用いて布の表面電位を測定した。なお、表面電位の評価は、接地電極としての導電性ブロック上に配置した実施例および比較例の製品を少なくとも1方向に引っ張ることが可能な引張機構を備えた電位測定装置(特願2021-065673号参照)を用いた手法を採用した。
【0120】
(抗菌評価)
抗菌試験の内容は、以下のとおりである。
(1)初期状態の比較例および実施例の製品について、生菌数を測定する。
(2)比較例および実施例の製品の18時間静置後の生菌数を測定する。
(3)18時間静置した比較例および実施例の製品に対し、18時間連続して製品を伸縮させて表面電位を発生させた後の生菌数を測定する。
つまり、本開示の「抗菌活性値」とは、以下より算出される値を意図している。
抗菌活性値=生菌数A-生菌数B
生菌数A:18時間静置後の生菌数
生菌数B:18時間連続して製品を伸縮させて表面電位を発生させた後の生菌数
なお、生菌数の評価は、特許6922546号公報および特許6292368号公報に記載されているように、JIS L1902の手法に基づいて行った。なお、生菌数の数値は、Colony Forming Unit(コロニーフォーミングユニット)の対数値(1gあたりのコロニーの対数値)を示すものである。
【0121】
上記表面電位評価および抗菌評価の結果を以下の表に示す。
【0122】
【0123】
表1の結果によれば、実施例1~5の織物は、表面電位が1V以上発生した。また、抗菌活性値が1より大きいため、抗菌性が良好である結果が得られた。一方で、比較例1~3の織物は、表面電位および抗菌活性値が実施例1~5の繊維製品よりも悪い結果が得られた。
【0124】
本開示の織物および繊維製品は、以下の態様を包含する。
<1>経糸および緯糸の少なくともどちらか一方に圧電繊維を含み、
圧電繊維を含む糸の拡張率が600%未満であり、かつ、緯糸方向空隙率および経糸方向空隙率の両方が10%以上である、織物。
<2>前記圧電繊維を含む糸は、撚られて成る、<1>に記載の織物。
<3>前記圧電繊維を含む糸は、前記圧電繊維と非圧電繊維とが合撚されて成る、<1>または<2>に記載の織物。
<4>前記非圧電繊維は、綿である、<3>に記載の織物。
<5>前記緯糸および経糸のいずれか一方は圧電繊維を含んでおり、他方は圧電繊維を含まない非圧電繊維を含む糸である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の織物。
<6>前記非圧電繊維は、綿またはポリエステル繊維である、<5>に記載の織物。
<7>前記空隙率は、以下の式より算出される値である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の織物。
空隙率=[{1インチ-(糸の繊維幅×A)}/1インチ]×100%
A:1インチ当たりの繊維の本数
<8>前記拡張率は、以下の式より算出される値である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の織物。
拡張率=(圧電繊維を含む糸の幅寸法の実測値)/(圧電繊維を含む糸の直径理論値)
圧電繊維を含む糸の直径理論値=(4B/π)1/2、B=繊度/比重
<9>前記圧電繊維に含まれる圧電性材料は、ポリ乳酸を含んでいる、<1>~<8>のいずれか1つに記載の織物。
<10>前記圧電材料は、結晶化度が20%以上である、<9>に記載の織物。
<11>前記圧電材料は、添加剤を含有していない、<9>または<10>に記載の織物。
<12>前記圧電材料は、加水分解防止剤を含有する、<9>~<11>のいずれか1つに記載の織物。
<13><1>~<12>のいずれか1つに記載の織物を備えた、繊維製品。
<14>前記経糸と前記緯糸とで区画された空間にパイル糸が挿入された、<13>に記載の繊維製品。
<15>前記パイル糸の先端部分が平らに切り揃えられている、<14>に記載の繊維製品。
【0125】
なお、今回開示した実施態様は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本開示の技術的範囲は、上記した実施態様のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本開示の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。