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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118137
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】偏向電磁石
(51)【国際特許分類】
   G21K 1/093 20060101AFI20240823BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20240823BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20240823BHJP
   H01F 7/06 20060101ALI20240823BHJP
   H01F 7/20 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
G21K1/093 D
A61N5/10 H
G21K5/04 A
H01F7/06 K
H01F7/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024398
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 渓太
(72)【発明者】
【氏名】高山 茂貴
【テーマコード(参考)】
4C082
5E048
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AE01
4C082AG12
5E048AB10
5E048CB07
(57)【要約】
【課題】荷電粒子ビームを偏向するために必要な条件を満たしつつ、線材の使用量を低減する偏向電磁石を提供する。
【解決手段】偏向電磁石に設けられる立体コイル11は、磁場の印加方向Y、荷電粒子ビームの軌道方向Zで座標系を定義した場合、磁場で偏向された荷電粒子ビームの円弧軌道の半径方向Xと印加方向Yが成すX-Y断面座標において、励磁電流が同方向のコイル線材12(12a,12b)が、半径方向Xと成す角度が-30°<θ<+30°の範囲において、他の範囲より相対的に占積率が低く巻回されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場の印加方向Y、荷電粒子ビームの軌道方向Zで座標系を定義した場合、
前記磁場で偏向された前記荷電粒子ビームの円弧軌道の半径方向Xと前記印加方向Yが成すX-Y断面座標において、
励磁電流が同方向のコイル線材が、前記半径方向Xと成す角度が-30°<θ<+30°の範囲において、他の範囲より相対的に占積率が低く巻回された立体コイルを備える偏向電磁石。
【請求項2】
請求項1の偏向電磁石において、前記立体コイルは、
前記磁場の印加方向Yを一方において貫通させるよう形成した開口領域を中心に前記コイル線材が巻回され、
巻回した前記コイル線材のうち前記軌道方向Zに沿う両側の端部が間隔を空けて互いに向かい合い、前記印加方向Yを他方において貫通させる間隔領域を形成し、
巻回した前記コイル線材のうち前記軌道方向Zと直交する両側の端部がそれぞれ前記荷電粒子ビームを通過させる通過口を形成する偏向電磁石。
【請求項3】
請求項2に記載の偏向電磁石において、
複数の前記立体コイルが、前記開口領域と前記間隔領域が交互となるように同心状に積層させれている偏向電磁石。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の偏向電磁石において、
前記立体コイルの外側に同心状に積層され、前記-30°<θ<+30°の範囲において、前記立体コイルよりも占積率が高く巻回された外環コイルを備える偏向電磁石。
【請求項5】
請求項2又は請求項3に記載の偏向電磁石において、
前記立体コイルの外側に同心状に配置され、前記磁場をさらに誘導させる強磁性のヨーク材を備える偏向電磁石。
【請求項6】
請求項2又は請求項3に記載の偏向電磁石において、
前記コイル線材は超電導性を示し、粒子線の照射装置の回転ガントリーに実装される偏向電磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、荷電粒子ビームを偏向する偏向電磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
偏向電磁石は、荷電粒子ビームを偏向するために、必要とされる強度の磁場を通過領域全体にわたって均一に形成することが求められている。そして、荷電粒子ビームを偏向する必要条件を満たす線材配置が、理論計算によって求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-206635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、必要な磁場強度を維持したうえでさらに均一性を向上させようとすると、線材の使用量が増加し、偏向電磁石が高重量及び高コストになる課題があった。
【0005】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、荷電粒子ビームを偏向するために必要な条件を満たしつつ、線材の使用量を低減する偏向電磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る偏向電磁石において、磁場の印加方向Y、荷電粒子ビームの軌道方向Zで座標系を定義した場合、前記磁場で偏向された前記荷電粒子ビームの円弧軌道の半径方向Xと前記印加方向Yが成すX-Y断面座標において、励磁電流が同方向のコイル線材が、前記半径方向Xと成す角度が-30°<θ<+30°の範囲において、他の範囲より相対的に占積率が低く巻回された立体コイルを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、荷電粒子ビームを偏向するために必要な条件を満たしつつ、線材の使用量が低減する偏向電磁石が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る偏向電磁石に適用される立体コイルを示す斜視図。
図2】荷電粒子ビームの軌道方向Zに直交する立体コイルのX-Y断面座標。
図3】立体コイルの円周方向の角度θにおけるコイル線材の占積率を示すグラフ。
図4】(A)立体コイルを円周方向の角度θ-ビーム軌道方向Zによる平面座標系で展開した平面展開図、(B)立体コイルを円周方向の角度θによる直線座標系で展開した断面図。
図5】(A)励磁したコイルが発生する磁場の2極成分の強度を示す図、(B)同・4極成分の強度を示す図、(C)同・6極成分の強度を示す図。
図6】第2実施形態に係る偏向電磁石に適用される立体コイルの断面図。
図7】第3実施形態に係る偏向電磁石に適用される立体コイル及び外環コイルの断面図。
図8】実施形態に係る偏向電磁石の断面図。
図9】実施形態に係る偏向電磁石が実装されたガントリ式の照射装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る偏向電磁石10A(10)に適用される立体コイル11を示す斜視図である。図2は荷電粒子ビームの軌道方向Zに直交する立体コイル11のX-Y断面座標である。図1に示すように立体コイル11は、その中心軸が荷電粒子ビームの軌道方向Zに一致するように、湾曲形状を有している。そして立体コイル11の少なくとも内側全体は、荷電粒子ビームが通過する真空の磁場空間13が形成されている。
【0010】
このように偏向電磁石10に設けられる立体コイル11は、磁場の印加方向Y、荷電粒子ビームの軌道方向Zで座標系を定義した場合、磁場で偏向された荷電粒子ビームの円弧軌道の半径方向Xと印加方向Yが成すX-Y断面座標において、励磁電流が同方向のコイル線材12(12a,12b)が、半径方向Xと成す角度が-30°<θ<+30°の範囲において、他の範囲より相対的に占積率が低く巻回されている。
【0011】
螺旋状に巻回したコイル線材12(12a,12b)に励磁電流を流すと、アンペールの法則により、巻回軸(Y軸)に沿って磁場が印加される。立体コイル11の巻回軸(Y軸)の両端に形成される磁場は歪んでいるが、立体コイル11の断面中央部では、均一な磁場が形成される。
【0012】
磁場の印加方向(Y軸)と直交する方向(Z軸)を通過する荷電粒子ビームは、Y軸及びZ軸と直交するX軸に沿う方向にローレンツ力を受ける。そして、荷電粒子ビームは、ローレンツ力を向心力として偏向され円弧軌道を描く。コイル線材12(12a,12b)に流す励磁電流は、荷電粒子ビームの円弧軌道が偏向電磁石10の中心軸に一致するように、調整される。
【0013】
図3は立体コイル11の円周方向の角度θにおけるコイル線材12の占積率を示すグラフである。図3においては、0°<θ<+10°の範囲においてコイル線材12が巻回されていない状態(占積率=0)を示している。そして+10°<θを超えたところで占積率が急激に増加し、+20°<θを超えたところで一定値になる(グラフはこの一定値における占積率=1としている)。さらに開口領域15になる+70°<θでにおいて、占積率=0になる。
【0014】
占積率は、巻回するコイル線材12の巻線間隔を変更することで調整できる。なお、螺旋状に巻回したコイル線材12は、半径方向Xと成す角度が、-15°<θ<+15°の範囲が望ましく、さらには-30°<θ<+30°の範囲において、他の範囲より占積率を相対的に低く巻回することができる。なお、上述した説明は、X-Y座標系の第1象限について行っているが、その他の第2~第4象限においても、コイル線材12の配線が対称形であるため、同様に当てはまる。
【0015】
図4(A)は立体コイル11を円周方向の角度θ-ビーム軌道方向Zによる平面座標系で展開した平面展開図である。図4(B)は立体コイル11を円周方向の角度θによる直線座標系で展開した断面図である。なお、図4(A)の平面展開するにあたって、荷電粒子ビームの軌道方向Zが直線になるように、立体コイル11を部分的に伸縮させて表示している。
【0016】
このように、立体コイル11は、磁場の印加方向Yを一方において貫通させるよう形成した開口領域15を中心にコイル線材12が巻回され、巻回したコイル線材12のうち軌道方向Zに沿う両側の端部17a,17bが間隔を空けて互いに向かい合い(図1参照)、印加方向Yを他方において貫通させる間隔領域16を形成し、巻回したコイル線材12のうち軌道方向Zと直交する両側の端部19a,19bがそれぞれ荷電粒子ビームを通過させる通過口18a,18bを形成している。
【0017】
このように立体コイル11が形成されることで、一本の連続したコイル線材12から、対向するように二つのコイルを組み合わせることができる。これにより、立体コイル11の円周方向の角度θにおけるコイル線材12の占積率の設定自由度を向上させることができる。さらにコイル線材12の使用量を低減し偏向電磁石10の重量を削減することができる。
【0018】
図5は、円周方向の全ての角度θにおいてコイル線材の占積率が一定であるコイル(比較例)の線材に電流を流した場合に発生する磁場の多極成分を示している。図5(A)は励磁したコイルが発生する磁場の2極成分の強度を示す図である。図5(B)は励磁したコイルが発生する磁場の4極成分の強度を示す図である。図5(C)は励磁したコイルが発生する磁場の6極成分の強度を示す図である。
【0019】
このように立体コイルで発生させた磁場は多極成分(2極成分,4極成分,6極成分,…2n極成分)に分解することができる。ここで2極成分は、荷電粒子ビームが円弧軌道を描くのに必要な向心力の発生に寄与し、その他(4極成分,6極成分,…)は向心力の発生に寄与する磁場の均一性を低下させる不要な成分である。
【0020】
このため荷電粒子ビームに理想的な円弧軌道を描かせるためには、発生させる磁場の2極成分を一定以上保ちかつ4極、6極成分の合計が0に近づくように、コイル線材12を配置することが求められる。
【0021】
磁場の2極、4極、6極成分は、いずれも円周方向の角度θ=0°付近では正の成分が強い。このため、比較例のコイルは、2極成分が効率よく発生するが、4極成分及び6極成分も大きいため、円弧軌道の向心力に寄与する磁場の均一性が悪化する。
【0022】
その一方で、2極成分は角度θ=0°からθ=90°まで正の成分が放出されているのに対し、4極成分の正の成分は角度θ=0°からθ=45°までであり、6極成分の正の成分は角度θ=0°からθ=30°までである。これにより、-30°<θ<+30°の範囲における占積率を他の範囲より相対的に低くすることで、Y方向磁場の均一性悪化を解消することができる。また-30°<θ<+30°の範囲の占積率を低くしたことで低下した2極成分の強度は、他の範囲の占積率を高くすることで補填できる。
【0023】
(第2実施形態)
次に図6を参照して本発明における第2実施形態について説明する。図6は第2実施形態に係る偏向電磁石10B(10)に適用される立体コイル11(11a,11b)の断面図である。第2実施形態の10Bは、複数(図示は二つ)の立体コイル11(11a,11b)が、開口領域15(15a,15b)と間隔領域16(16a,16b)が交互となるように同心状に積層させた構成をとる。なお、図6において図2と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0024】
このようにして、偏向電磁石10を複数の立体コイル11で多層化することで、Y方向磁場の不均一性に寄与する4極成分,6極成分,…を抑制したまま、Y方向磁場に寄与する2極成分の強度を向上させることができる。
【0025】
(第3実施形態)
次に図7を参照して本発明における第3実施形態について説明する。図7は第3実施形態に係る偏向電磁石10C(10)に適用される立体コイル11(11a,11b)及び外環コイル21(21a,21b)の断面図である。第3実施形態の10Cは、上述した第1実施形態(図2)又は第2実施形態(図6)の構成に対し、外環コイル21(21a,21b)が、立体コイル11(11a,11b)の外側に同心状に積層されている。
【0026】
そして、この外環コイル21(21a,21b)は、-30°<θ<+30°の範囲において、立体コイル11(11a,11b)よりも占積率が高く巻回されている。なお、図7において図2と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0027】
このようにして、偏向電磁石10を立体コイル11と外環コイル21で多層化することで、Y方向磁場の不均一性に寄与する4極成分,6極成分,…に対し、Y方向磁場に寄与する2極成分の強度を相対的に向上させることができる。
【0028】
図8は実施形態に係る偏向電磁石10の断面図である。このように偏向電磁石10は、立体コイル11の外側に同心状に配置され磁場をさらに誘導させる強磁性のヨーク材25を備えている。強磁性のヨーク材25としては鉄製のものが挙げられる。これら立体コイル11及び強磁性のヨーク材25は、同様の湾曲形状を持つ真空ダクト26の内部に、それぞれの中心軸をZ軸に一致させて収容され、磁場空間13と共に真空空間に保持されている。
【0029】
そして偏向電磁石10に巻回されるコイル線材12には、超電導性を示すものが用いられている。コイル線材12を超電導状態にする冷却方式としては、液体ヘリウム等の冷媒に立体コイル11をドブ漬けする方式の他に、極低温冷凍機を用いる熱伝導冷却方式が挙げられる。
【0030】
図9は実施形態に係る偏向電磁石10が実装されたガントリ式の照射装置30の断面図である。この照射装置30は、数百MeVの高エネルギーまで加速された陽子や炭素イオンなどの粒子線ビーム33を、患者35に照射して癌等を治療するものである。
【0031】
このガントリ式の照射装置30は、内部に治療スペース38を有し回転駆動部(図示略)により回転軸31を中心に回転変位するガントリ32と、このガントリ32に固定されるとともにビーム輸送系(図示略)の末端に継手39を介して回転自在に設けられる偏向電磁石10と、この偏向電磁石10により輸送された粒子線ビーム33をガントリ32の半径方向から治療スペース38に照射する照射ノズル34と、患者35を載置したベッド36を移動させ治療スペース38における位置及び方向を設定する移動制御部37と、を備えている。
【0032】
このように照射装置30が構成されることにより、ガントリ32の回転軸31に沿って入力した粒子線ビーム33の軌道を90°曲げて、この回転軸31に直交する任意の方向から、患者35に粒子線ビーム33を照射することが可能になる。そして、各実施形態の偏向電磁石10が照射装置30に採用されることで、回転変位するガントリ32への積載重量を低減させ粒子線ビーム33の照射精度を向上させることができる。
【0033】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の偏向電磁石によれば、コイル線材の占積率を-30°<θ<+30°の範囲において、他の範囲より相対的に低く立体コイルが巻回されることにより、荷電粒子ビームを偏向するために必要な条件を満たしつつ、線材の使用量を低減することが可能となる。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0035】
10(10A,10B,10C)…偏向電磁石、11…立体コイル、12…コイル線材、13…磁場空間、15…開口領域、16…間隔領域、17a,17b…間隔領域の端部、18a,18b…通過口、19a,19b…通過口の端部、21…外環コイル、25…ヨーク材、26…真空ダクト、30…照射装置、31…回転軸、32…ガントリ、33…粒子線ビーム、34…照射ノズル、35…患者、36…ベッド、37…移動制御部、38…治療スペース、39…継手。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9