(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118141
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】盛土造成構造
(51)【国際特許分類】
E02D 17/18 20060101AFI20240823BHJP
E02D 3/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
E02D17/18 Z
E02D3/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024404
(22)【出願日】2023-02-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】597104053
【氏名又は名称】日本建設技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】原 裕
【テーマコード(参考)】
2D043
2D044
【Fターム(参考)】
2D043DA04
2D043DA10
2D043DD15
2D043DD20
2D044CA00
2D044CA08
2D044EA03
(57)【要約】
【課題】盛土荷重に長期間耐えることが可能な盛土造成構造の提供。
【解決手段】地山1の表層部2に形成された排水層3と、排水層3上に形成された盛土造成部4と、盛土造成部4に埋設され、排水層3に接続された排水管5と、地山1の支持地盤1Aに密着させて設置された重力式擁壁6と、重力式擁壁6の山側に比重0.3~0.5の独立間隙を有する多孔質構造の発砲ガラス材により形成された裏込め部7であり、排水層3に接続された裏込め部7とを含む盛土造成構造である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山の表層部に形成された排水層と、
前記排水層上に形成された盛土造成部と、
前記盛土造成部に埋設され、前記排水層に接続された排水管と、
前記地山の支持地盤に密着させて設置された突起物と、
前記突起物の山側に比重0.3~0.5の独立間隙を有する多孔質構造の発泡ガラス材により形成された裏込め部であり、前記排水層に接続された裏込め部と
を含む盛土造成構造。
【請求項2】
前記突起物は、前記地山の支持地盤に設置された重力式擁壁またはL型擁壁である請求項1記載の盛土造成構造。
【請求項3】
前記突起物は、前記地山の支持地盤に設置された地すべり防止杭と、前記地すべり防止杭上に連結された擁壁とから構成される請求項1記載の盛土造成構造。
【請求項4】
前記排水層は、比重0.3~0.5の独立間隙または連続間隙を有する多孔質構造の発泡ガラス材である請求項1から3のいずれか1項に記載の盛土造成構造。
【請求項5】
前記排水管は、不透水性パイプと、前記不透水性パイプ内に充填された独立間隙または連続間隙を有する多孔質構造の発泡ガラス材とからなる請求項1から3のいずれか1項に記載の盛土造成構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山合の谷部に造成される盛土造成構造に関する。
【背景技術】
【0002】
山合の谷部を盛土造成した宅地や残土処分場は、年月が経つにつれて盛土材が粘性土へと風化が進む。また、降雨による雨水は、旧谷部に沿って浸透し、低地へと流下し、水みちを再形成していく。近年、線状降水帯や前線の停滞による非常に発達した積乱雲や雨雲が形成され、広範囲にわたって集中豪雨が頻繁に発生するようになっており、水みちが再形成されることで、地すべりや斜面崩壊が誘発される可能性がある。したがって、盛土造成地においては、排水性の改良が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ガラス製発泡体を通気・通水性を有する生分解性の袋内に充填した通気・通水性改良材が開示されている。この通気・通水性改良材では、空気や水は袋を通過することができるので、地盤や土壌に適用したときから直ちに袋を介してガラス製発泡体の優れた通気・通水作用を発揮せしめるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、発泡性ポリスチレンを、直径40~200mmでほぼ球形に成形してなる発泡成形充填材を、透水性を有する袋状体に充填してなる直径が300~1000mm、長さが400~3000mmの円筒形状である土木用軽量埋込材が開示されている。この埋込材を用いた盛土中の水は埋込材を通して速やかに排水されるので、盛土中に雨水等が溜まって崩れたりするといったことがないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】登録実用新案第3096492号公報
【特許文献2】特許第3736650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1,2に記載の改良材・埋込材は、いずれも透水性の袋内に充填材を充填したものであり、周囲の水を袋内に集水して排水するものである。したがって、盛土中の水は速やかに排出できるものの、改良材・埋込材は長期間に渡って上部盛土の荷重に耐えうる構造ではない。
【0007】
そこで、本発明においては、盛土荷重に長期間耐えることが可能な盛土造成構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の盛土造成構造は、地山の表層部に形成された排水層と、排水層上に形成された盛土造成部と、盛土造成部に埋設され、排水層に接続された排水管と、地山の支持地盤に密着させて設置された突起物と、突起物の山側に比重0.3~0.5の独立間隙を有する多孔質構造の発泡ガラス材により形成された裏込め部であり、排水層に接続された裏込め部とを含むものである。
【0009】
本発明の盛土造成構造によれば、突起物の山側には比重0.3~0.5の独立間隙を有する多孔質構造の発泡ガラス材により裏込め部が形成されており、この独立間隙を有する多孔質構造の発泡ガラス材は吸水しないため裏込め部の重量が増すことがなく、突起物への土圧が軽減され、盛土造成部の滑りを突起物により抑制することができる。また、突起物の山側に浸透した雨水は裏込め部の吸水しない独立間隙を有する多孔質構造の発泡ガラス材の間隙を通じて地山の表層部に形成された排水層に浸透し、盛土造成部から地山の表層部に形成された排水層へ浸透した雨水とともに、この排水層に接続された排水管によって外部へ排水される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の盛土造成構造によれば、盛土造成部の滑りを突起物により抑制することができ、高盛土部の脆弱化によるすべりに対応することが可能となる。また、裏込め部を通じて地山の表層部に形成された排水層に浸透した雨水は盛土造成部から地山の表層部に形成された排水層へ浸透した雨水とともに、この排水層に接続された排水管によって外部へ排水されるので、雨水による水みちの再形成を防止することができ、地すべりや斜面崩壊の誘発を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態における盛土造成構造の模式図である。
【
図4】本発明の盛土造成構造の別の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の実施の形態における盛土造成構造の模式図、
図2は
図1の排水管の斜視図である。
図1に示すように、本発明の実施の形態における盛土造成構造は、地山1の表層部2に形成された排水層3と、排水層3上に形成された盛土造成部4とを有する。排水層3には、盛土造成部4に埋設された排水管5が接続されている。また、本実施形態における盛土造成構造では、地山1の支持地盤1Aに密着させた突起物としての擁壁として重力式擁壁6が設置されている。
【0013】
排水層3は、比重0.3~0.5の発泡ガラス材により形成されている。この発泡ガラス材としては、例えば空き瓶などのガラス廃材を再利用したリサイクル製品(発泡廃ガラス材)を使用することができる。排水層3は、粒径10mm~50mmの発泡ガラス材により厚さ5.0cm~30.0cmに形成したものである。この発泡ガラス材は独立間隙あるいは連続間隙を有する多孔質構造である。このような発泡ガラス材により形成された排水層3は盛土造成部4等を浸透してきた雨水を外部へ導く。
【0014】
排水管5は、不透水性パイプ50内に発泡ガラス材51が充填されたものである。不透水性パイプ50は、少なくともパイプの外面に、パイプの延びる方向に対して直角に波付けを施した鋼板製の波付管である。波付管としては例えばシースを使用することができる。シースは、軽量で強度が高いという特徴がある。排水管5は、例えば内径が50~150mm(好ましくは80~120mm)のステンレス鋼製のシースからなる不透水性パイプ50内に発泡ガラス材51を充填したものである。
【0015】
発泡ガラス材51としては、例えば空き瓶などのガラス廃材を再利用したリサイクル製品(発泡廃ガラス材)を使用することができる。発泡ガラス材51は、独立間隙あるいは連続間隙を有する多孔質構造であって、その比重は0.3~0.5、粒径は10mm~50mmである。なお、排水管5内に充填する発泡ガラス材51は、吸水しないように独立間隙を有する多孔質構造であることが好ましい。不透水性パイプ50の端部は、充填された発泡ガラス材51が外に出ないように、例えば鉄鋼製の網などにより形成された透水性蓋52で覆われている。
【0016】
排水管5は、一端部が排水層3に接続された状態で盛土造成部4に埋設される。複数の排水管5を連結する際には、熱収縮チューブを使用して連結する。排水層3に導かれた雨水は、不透水性パイプ50内に充填された発泡ガラス材51の間隙を通ることにより、排水管5を通じて盛土造成部4の外まで導かれ、排水される。また、排水管5は、不透水性パイプ50内に充填された発泡ガラス材51が不透水性パイプ50の変形を防止するため、排水管5上の盛土荷重に長期間耐えることができる。
【0017】
重力式擁壁6の山側(背面側)には、比重0.3~0.5の独立間隙を有する多孔質構造の発泡ガラス材により形成された裏込め部7が設けられている。裏込め部7を構成する発泡ガラス材としては、例えば空き瓶などのガラス廃材を再利用したリサイクル製品(発泡廃ガラス材)を使用することができる。この発泡ガラス材の粒径は10mm~50mmである。裏込め部7は排水層3上に直接配置されることにより、排水層3に接続されている。
【0018】
なお、上記発泡ガラス材は、例えば次の製造工程によって製造することができる。
まず、回収された廃ガラス瓶を、金属分離、粗粉砕した後、さらに微粉砕してパウダー状とし、炭酸カルシウム、炭化珪素、ドロマイト、重炭酸ソーダ、ソーダ灰や合成土灰などの添加剤と混合する。次いで、この混合物をベルトコンベア上に一定の厚さに敷き詰め、700~1000℃の特殊反応炉に供給して焼成することにより、溶融、発泡させて、板状発泡ガラス材とした後、急冷する。板状発泡ガラス材は急冷するときに生じるクラックによって自然破砕し、粒径10mm~50mmの発泡廃ガラス材が得られる。
【0019】
なお、発泡ガラス材の比重は、添加剤量、微粉砕ガラスの粒度、ベルトコンベア上に敷き詰める混合物の厚さ、焼成温度や時間等の製造条件により調整することができる。また、発泡ガラス材が独立間隙あるいは連続間隙を有する多孔質構造となるようにするため、発泡剤の種類と添加量を調整する。発泡ガラス材は、素材がガラスであるため、熱、薬品や油脂類などに対して強く、化学的に安定である。また、腐食することもなく、重金属等の有害物質の溶出もないため、周辺の地盤へ与える影響がない。
【0020】
上記構成の盛土造成構造によれば、重力式擁壁6の山側には比重0.3~0.5の独立間隙を有する多孔質構造の発泡ガラス材により裏込め部7が形成されており、この独立間隙を有する多孔質構造の発泡ガラス材は吸水しないため裏込め部7の重量が増すことがない。したがって、重力式擁壁6への土圧が軽減され、盛土造成部4の滑りを重力式擁壁6により抑制することができる。
【0021】
また、重力式擁壁6の山側に浸透した雨水は裏込め部7の吸水しない独立間隙を有する多孔質構造の発泡ガラス材の間隙を通じて地山1の表層部2に形成された排水層3に浸透し、盛土造成部4から地山1の表層部2に形成された排水層3へ浸透した雨水とともに、この排水層3に接続された排水管5によって外部へ排水される。したがって、雨水による水みちの再形成を防止することができ、地すべりや斜面崩壊の誘発を防止することができる。
【0022】
上記盛土造成構造は、特に(1)大規模盛土造成地、(2)盛土面積が3000m2以上、(3)地山線の傾斜角度が20度以上、盛土高(のり肩とのり尻の高低差(盛土のり高))が5m以上、(4)支持地盤1Aが比較的浅い場合に有用である。このような場合、盛土造成部4はN値5~10であり、支持地盤にはならないが、上記構成の盛土造成構造により盛土造成部4の滑りが抑制され、盛土造成部4の脆弱化に対応することができる。
【0023】
また、上記盛土造成構造は、突起物として重力式擁壁6を採用した例について説明したが、
図3(A),(B)に示すように、支持地盤1Aの状態によっては、突起物としての擁壁としてL型擁壁6A,6B等を採用することも可能である。L型擁壁6A,6Bは、支持地盤1A上に密着させて設置される。また、L型擁壁6A,6Bの山側(背面側)には、前述と同様の裏込め部7が設けられる。裏込め部7は排水層3に接続されている。
【0024】
次に、本発明の盛土造成構造の別の実施形態について、
図4を参照して説明する。
図4は本発明の盛土造成構造の別の実施形態を示す模式図である。
【0025】
図4に示す盛土造成構造では、重力式擁壁6に代えて、地山1の支持地盤1Aに設置された地すべり防止杭8Aと、地すべり防止杭8A上に連結された突起物としての擁壁8Bとから構成される突起物8を採用している。地すべり防止杭8Aは鋼管やH形鋼等からなる。擁壁8Bは鉄筋コンクリート(RC)版やコンクリート壁等からなる。地すべり防止杭8Aは支持地盤1Aに設置されており、擁壁8Bを支持する。擁壁8Bの山側(背面側)には、前述と同様の裏込め部7が設けられる。
【0026】
上記盛土造成構造は、特に(1)大規模盛土造成地、(2)支持地盤1Aが深い場合に有用である。このような場合、盛土造成部4はN値5~10であり、支持地盤にはならないが、上記構成の盛土造成構造により盛土造成部4の滑りが抑制され、盛土造成部4の脆弱化に対応することができる。
【0027】
なお、
図1、
図3および
図4においては、排水管5によって排水層3から盛土造成部4の外まで直接排水する構成について説明しているが、排水管5によって排水層3から裏込め部7まで水を導き、裏込め部7を通じて排水する構成とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、盛土荷重に長期間耐えることが可能な盛土造成構造として有用である。
【符号の説明】
【0029】
1 地山
1A 支持地盤
2 表層部
3 排水層
4 盛土造成部
5 排水管
6 重力式擁壁
7 裏込め部
8 突起物
8A 地すべり防止杭
8B 擁壁
50 不透水性パイプ
51 発泡ガラス材
52 透水性蓋