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  • 特開-モノフィラメント 図1
  • 特開-モノフィラメント 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118156
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】モノフィラメント
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/04 20060101AFI20240823BHJP
   D01F 8/12 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
D01F8/04 Z
D01F8/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024427
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雄俊
(72)【発明者】
【氏名】金築 亮
(72)【発明者】
【氏名】西井 義尚
【テーマコード(参考)】
4L041
【Fターム(参考)】
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA09
4L041BA11
4L041BC06
4L041BD20
4L041CA21
4L041CB05
4L041CB22
4L041CB25
4L041DD01
4L041DD22
4L041DD24
(57)【要約】
【課題】 暗所での捩れ視認性を改善し、繰り返しの使用においても視認性が持続するモノフィラメントを提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂により構成される複合型モノフィラメントであり、複合型モノフィラメントは、A成分とB成分とから構成され、A成分およびB成分とはフィラメント軸方向に並列して配され、ともに繊維表面に露出してなる複合形態であり、A成分は光発光色材を含有し、B成分はA成分に含まれる光発光色材とは異なる発光色の光発光色材を含有するか、あるいは、光発光色材を含まない。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂により構成される複合型モノフィラメントであり、
複合型モノフィラメントは、A成分とB成分とから構成され、A成分およびB成分とはフィラメント軸方向に並列して配されてなり、A成分およびB成分はともに繊維表面に露出してなる複合形態であって、
A成分は、光発光色材を含有し、
B成分は、A成分に含まれる光発光色材とは異なる発光色の光発光色材を含有するか、あるいは、光発光色材を含まないことを特徴とするモノフィラメント。
【請求項2】
B成分は、B成分を構成する熱可塑性樹脂100質量部に対して、前記熱可塑性樹脂と非相溶性の非相溶成分を0.5質量部以上含むことを特徴とする請求項1記載のモノフィラメント。
【請求項3】
A成分およびB成分とがフィラメント軸方向に並列して配されてなる複合形態が、サイドバイサイド型複合断面、積層型複合断面、放射型複合断面のいずれかであることを特徴とする請求項1記載のモノフィラメント。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載のモノフィラメントからなることを特徴とする釣り糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捩れが視認しやすいモノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、釣り糸、ストリング、ロープ、織編物など幅広い用途でモノフィラメントが用いられている。素材としてはポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン、フッ素樹脂、アクリル樹脂などがあり、用途や要求特性に応じて使い分けられている。モノフィラメントを結び合わせる、張設するなどの作業時、モノフィラメントに捩れがある状態の場合、作業性の低下や、絡まりが生じての性能低下、外観が悪化などの不具合が生じる。しかしながら、一般的なモノフィラメントには、特に外周に模様などが存在しないため、捩れが視認しにくく、また、特に、夜間の屋外や照度が不十分な作業現場など、暗所で捩れを視認することは難しい。このような状況下、捩れの視認性を改善する方法として、特許文献1には、糸長手軸に沿って、糸表面から着色して、糸表面を2種の色で色分けした釣り糸が提案されている。この技術によれば、捩れによる糸の絡まり防止効果が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-178677
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した特許文献1の技術では、後加工による着色で糸表面に色付けをしていることから、着色工程にて、糸に捩れが加わった状態で着色する恐れがあり、また、着色した糸は、使用時に着色層が剥落する恐れがある。また、この技術では、暗所での捩れ視認性の観点での配慮はなされていない。
【0005】
本発明の課題は、暗所での捩れ視認性を改善し、繰り返しの使用においても視認性が持続するモノフィラメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記した課題を達成するものであって、熱可塑性樹脂により構成される複合型モノフィラメントであり、
複合型モノフィラメントは、A成分とB成分とから構成され、A成分およびB成分とはフィラメント軸方向に並列して配されてなり、A成分およびB成分はともに繊維表面に露出してなる複合形態であって、
A成分は、光発光色材を含有し、
B成分は、A成分に含まれる光発光色材とは異なる発光色の光発光色材を含有するか、あるいは、光発光色材を含まないことを特徴とするモノフィラメントを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、モノフィラメントの側面(繊維表面)において、フィラメント軸方向に一部が光発光性を有する成分が配されているため、可視光や紫外線の照射下でモノフィラメントの捩れを視認することができる。よって、明所だけでなく、暗所でも可視光や紫外線の光源を用いることで捩れによる絡まりが生じにくく取り扱いやすいモノフィラメントを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のモノフィラメントは、熱可塑性樹脂により構成される複合型モノフィラメントであり、A成分とB成分とから構成され、A成分とB成分とはともに繊維表面に露出してなる複合形態である。
【0009】
A成分およびB成分を構成する熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂などが挙げられ、これらを単独でまたは混合してもよく、機械的物性、経済性などの観点でポリエステル、ポリアミドが好ましく用いられる。なお、A成分とB成分との界面で、界面剥離が生じないためには、同系統の熱可塑性樹脂を採用することが好ましい。
【0010】
本発明で用いられるポリエステルとしては、分子内にエステル結合を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、芳香族ポリエステルでは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等が挙げられ、また、脂肪族ポリエステルでは、例えばポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
【0011】
また、前記したポリエステルに、本発明の目的が達成される範囲において、他のジカルボン酸成分、ジオール成分あるいはオキシカルボン酸成分等を共重合してもよく、あるいはこれらポリエステルをブレンドして用いてもよい。共重合できる他の成分としては、ジカルボン酸では、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸、ε-カプロラクトン等が挙げられ、ジオール成分では、エタンジオール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサングリコール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0012】
本発明に用いられるポリアミドとしては、分子内にアミド基を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えばポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド69、ポリアミド46,ポリアミド56、ポリアミド510、ポリアミド610,ポリアミド1010、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリメタキシレンアジパミドやこれら各成分を共重合したものやブレンドしたもの等が挙げられる。
【0013】
本発明において、A成分は光発光色材を含有し、B成分はA成分に含まれる光発光色材とは異なる発光色の光発光色材を含有するか、光発光色材を含まない。本発明において用いられる光発光色材としては、紫外線に応答する蛍光色材や燐光色材、可視光に応答する集光性蛍光色材などが挙げられる。蛍光色材や燐光色材としては公知のものを用いればよく、蛍光増白剤や、標識類・各種ディスプレイの発光素子などに使用される有機材料や無機材料、また、量子ドットやCNTなどのナノ材料であっても発光色材として用いることができる。有機材料としては、低分子のものとしては、フルオレセイン類、ローダミン類、クマリン類、ピレン類、シアニン類等が挙げられ、高分子のものとしては、ポリ(1,4-フェニレンビニレン)類、ポリチオフェニン類、ポリフルオレン類等が挙げられる。また、無機材料としては、アルミン酸塩類、シリケート類、ハロリン類、酸窒化物類等が挙げられる。また、抹茶やターメリックなど蛍光特性を有する天然材料の粉体を光発光色材として用いてもよい。集光性蛍光色材とは、自然光又は人工光の直射光及び拡散光を成形物(造形材料や造形物)表面で集光し、それを蛍光に変え、その蛍光は長波長で再放出され、成形物内でその大部分が全反射の法則に従って成形物内部を進行し成形物端面へ誘導され、そこで濃密化された状態で放出されるという特性を持つ光発光色材である。具体的には、ペリレン系、ナフタルイミド系の染料などが挙げられる。用いる発光色材は、1種であっても、2種以上を併用してもよい。複数種用いる場合は、発光の励起波長や発光波長が重複するものであっても、異なるものであってもよい。
【0014】
光発光色材の粒径としては、A成分および成分を構成する熱可塑性樹脂中に良好に含有でき、溶融紡糸可能な程度であればよく、最大径は10μm以下が好ましい。最大径を10μm以下とすることにより、溶融紡糸の際に、ノズルパックに目詰まりが生じにくく、良好に溶融紡糸を行うことができる。このような理由から、より好ましくは1μm以下である。下限は、取り扱い性から、0.01μmがよい。なお、溶融紡糸時に光発光色材が熱溶融して、A成分またはB成分を構成する熱可塑性樹脂中へ分散される場合は粒径には拘らずに使用することができる。
【0015】
光発光色材には、熱可塑性合成樹脂との混練性や分散性、耐熱性を調整するための加工や表面処理(例えば、コーティング、マイクロカプセル化、プラズマ処理、マスターバッチ化)などを施してもよい。
【0016】
A成分およびB成分に含ませる光発光色材の量は、光発光色材の比重、熱可塑性樹脂との相性、含有させる際の混練方法、光発光色材の粒径によって適宜設計すればよいが、A成分およびB成分を構成するそれぞれの熱可塑性樹脂100質量部に対して光発光色材は0.001~10質量部がよく、より好ましくは0.005~1質量部である。
【0017】
B成分は、B成分を構成する熱可塑性樹脂100質量部に対して、前記熱可塑性樹脂と非相溶性の非相溶成分を0.5質量部以上含むことが好ましい。B成分中に非相溶成分を含むことにより、光を照射した際に、少なくとも色を発するA成分の色をより視認しやすくなる。すなわち、B成分において、B成分を構成する熱可塑性樹脂と非相溶性の非相溶性分を含むことにより、熱可塑性樹脂(マトリクス樹脂)中に、非相溶成分が分散した状態で混合され、マトリクス樹脂と界面を作り、光が照射された際に乱反射して、光が透過しにくくなり、この光を透過しにくいB成分と複合してなるA成分の色相が明瞭に引き立たせ、視認しやすくなるのである。なお、非相溶成分を含有させる場合の上限は、10質量部程度がよい。10質量部を超えると、モノフィラメントの機械的物性や耐久性が低下する傾向となる。
【0018】
また、A成分にも、同様に、A成分を構成する熱可塑性樹脂100質量部に対して、前記熱可塑性樹脂と非相溶性の非相溶成分を0.5質量部以上含むことも好ましい。A成分およびB成分のいずれにも非相溶成分が含まれる場合には、モノフィラメントは、全体的にマットな色合いを呈するものとなる。A成分に含有させる非相溶成分は、B成分に含有させる非相溶成分と同一のものでもよく、異種のものでもよい。光発光色材を含むA成分中に非相溶成分を含ませることにより、光発光時の外観や視認性を調整することができる。ただし、非相溶成分が多すぎると光発光の強度が阻害される傾向となるため、光発光の視認性が十分に得られる範囲で、A成分中への配合量を適宜設定することが肝要であり、上限は7質量部程度がよい。
【0019】
非相溶成分としては、熱可塑性樹脂(マトリクス樹脂)と界面を作り、光を乱反射するような機能を発揮する成分であればよいが、中でも、釣糸としての物性を低下させないものが好ましく用いられ、マトリクス樹脂と非相溶性の異種の熱可塑性樹脂(例えばマトリクス樹脂がポリアミドの場合、ポリエチレン、ポリエステル、フッ素系樹脂など)、無機充填剤(酸化チタン、シリカ、マイカ、タルク、カオリンなど)、シリコーン、ポリエチレングリコール、熱可塑性エラストマー等を非相溶成分として用いことができる。なお、上記した非相溶成分を併用して用いてもよい。
【0020】
非相溶成分として、無機充填剤を用いる場合の粒径としては、マトリクス樹脂中に良好に含有でき、溶融紡糸可能な程度であればよいが、最大径は10μm以下が好ましい。最大径を10μm以下とすることにより、溶融紡糸の際に、ノズルパックに目詰まりが生じにくく、良好に溶融紡糸を行うことができる。このような理由から、より好ましくは1μm以下である。下限は、取り扱い性から、0.01μmがよい。なお、溶融紡糸時に光発光色材が熱溶融してマトリクス樹脂へ分散される場合は粒径には拘らずに使用することができる。
【0021】
非相溶成分には、熱可塑性樹脂との混練性や分散性、耐熱性を調整するための加工や表面処理(例えば、コーティング、マイクロカプセル化、プラズマ処理、マスターバッチ化)などを施してもよい。
【0022】
本発明のモノフィラメントにおいて、本発明の目的を達成する範囲であれば、A成分および/またはB成分に、少量の他の熱可塑性樹脂を添加してもよい。他の熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド、ポリエステル、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、シリコーン樹脂またはポリウレタン樹脂が挙げられ、これらを単独でまたは混合して添加してもよい。少量の他の熱可塑性樹脂を添加する具体例としては、A成分および/またはB成分を構成する熱可塑性樹脂と相溶性を有する他の熱可塑性樹脂を少量ブレンドすることにより、A成分および/またはB成分の透明度合いは維持した状態で、物性や機能性を改善することができる。より具体的には、例えば、A成分がポリアミド6により構成される場合に、他の熱可塑性樹脂として共重合ポリアミドを少量添加することにより、柔軟性を付与することができる。
【0023】
また、本発明のモノフィラメントを構成するA成分および/またはB成分には、本発明の目的を達成する範囲であれば、種々の添加剤を含有させてもよい。たとえば、染料、顔料、分散剤、相溶化剤、展着剤、可塑剤、粘度調整剤、難燃剤、滑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収材料、マイクロ波吸収材料、光安定剤、酸化防止剤、pH調整剤、抗菌剤、防腐剤、充填剤、耐熱剤、帯電防止剤、導電材、熱伝導性材料、結晶核剤等を添加することができる。
【0024】
複合型モノフィラメントは、上記したA成分とB成分とから構成され、A成分およびB成分とはフィラメント軸方向に並列して配されてなり、A成分およびB成分はともに繊維表面に露出してなる複合形態である。このように特定の構成からなるA成分とB成分とが、フィラメント軸方向に並列して配され、ともに繊維表面に露出した複合形態であることによって、フィラメントに捩れが生じている場合に、目視により容易に捩れを確認でき、事前に絡まりを防止することができ、作業性が向上する。フィラメント軸方向に並列して配され、両成分がともに繊維表面に露出してなる複合形態としては、サイドバイサイド型複合断面が挙げられ、好ましく適用できる。また、サイドバイサイド型以外には、図1に示すように、両成分が互いに分断して積層された積層型複合断面、図2に示すように、両成分が放射状に配された放射型複合断面が挙げられる。
【0025】
A成分とB成分の複合比(体積比)は特に限定されないが、視認性を確保するためにモノフィラメントの横断面の外周において、成分Aおよび成分Bともに10%以上を占めることが好ましい。また、成分A/成分Bの複合比は1/0.1~10であることが好ましい。
【0026】
モノフィラメントの横断面の形状(外形)は、円形、楕円形、多角形など特に限定されないが、得られる機械的物性や汎用性から円形断面が好ましい。
【0027】
本発明のモノフィラメントの糸径は特に限定されないが、0.05~5mmであることが好ましい。糸径が0.05mm未満では、目視で各樹脂層の発光色の差異を確認しづらくなる。また5mm超の場合、モノフィラメントとしての取扱いが悪くなる。
【0028】
本発明のモノフィラメントは、A成分およびB成分が、ともにモノフィラメント表面に露出した複合形態であるが、さらにモノフィラメント表面に露出しない1つ以上の他成分の層を複合した3成分以上の複合形態であってもよい。具体的には、他成分を芯部に配し、その芯部の周りをA成分とB成分とが囲うように貼り合わされたサイドバイサイド型の形態で存在する3層複合形態が挙げられる。中心に配された他成分からなる芯部が機械的物性を担い、A成分とB成分とからなる鞘部にて発色し、本発明の効果を奏することができる。
【0029】
次に、本発明のモノフィラメントの製造方法についての一例を説明する。A成分を構成する熱塑性樹脂(例えば、ポリアミド)と光発光性色材(例えば、無機系蛍光色材)とからなる樹脂チップを準備し、B成分を構成する熱可塑性樹脂(例えば、ポリアミド)と非相溶成分(例えば、酸化チタン)とからなる樹脂チップを準備し、これらを別々のエクストルーダーへ投入する。紡糸温度240~290℃程度とし、サイドバイサイド型の紡糸口金よりA成分とB成分を複合させた状態で同時に溶融紡出し、紡出糸条を10~60℃程度の温水浴中で冷却して未延伸糸を得る。この未延伸糸を60~90℃程度の水浴中で第一段階目の延伸(延伸倍率2.5~4.5倍程度)を行い、次いで100~300℃の熱風雰囲気下で第二段階目の延伸(延伸倍率1.1~2.5倍程度)を行う。引き続いて約150~300℃の熱風雰囲気下で2.5~30%程度の弛緩熱処理を行い、A成分とB成分がサイドバイサイド型に複合された断面を有するモノフィラメントを得ることができる。取扱い性や表面性状を調整するために、延伸前後にオンラインで繊維用油剤などを塗布してもよく、後工程でコーティングやディッピングで塗膜を付与してもよい。また、水との親和性や工程通過性などを調整するためにプラズマ処理などの後加工を施してもよい。
【0030】
また、前記した方法以外には、A成分からなるモノフィラメントと、B成分からなるモノフィラメントを準備し、両者を引き揃え、熱融着もしくは化学接着により一体化させて、1本の複合モノフィラメントとして、本発明のモノフィラメントを得ることもできる。
【0031】
本発明のモノフィラメントは、釣り糸、ラケットや弦楽器用のストリング、工業用織編物、ネットなど各種用途で作業性や意匠性を向上することができ、好適に使用できる。特に釣り糸用途では、夜釣りの際に白色光やUVライトの照射下で釣り糸を結び合わせる場合に捩れや絡まりの視認性が向上し、作業性が改善されるため好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明のモノフィラメントの横断面形状の一例であって、A成分とB成分が互いに分断して積層された積層型の断面模式図である。
図2】本発明のモノフィラメントの横断面形状の一例であって、A成分とB成分が放射状に配された放射型の断面模式図である。
【実施例0033】
実施例1
A成分を構成する原料として、ポリアミド(ポリアミド6、相対粘度3.5)100質量部と光発光色材(発光色:緑の蛍光顔料)0.02質量部を、事前に混練したコンパウンドペレットを準備した。B成分を構成する原料として、ポリアミド(ポリアミド6、相対粘度3.5)100質量部と非相溶成分(酸化チタン)5質量部を、事前に混練したコンパウンドペレットを準備した。
【0034】
次いで、通常のエクストルーダー型溶融紡糸装置を使用し、A成分とB成分の体積比が5/5となるように計量して、サイドバイサイド複合型のモノフィラメントを得るべく、270℃の温度で溶融紡糸した。紡出した線材を20℃の水浴中で冷却して未延伸糸を得た。この未延伸糸を巻き取ることなく、80℃の温水浴中で延伸倍率3.6倍で第1段延伸し、次いで全延伸倍率が5.0倍となるように、160℃の加熱ゾーンを通過させながら第2段延伸し(延伸倍率1.4倍)、さらに160℃の加熱ゾーンを通過させて7%の弛緩熱処理を行い、サイドバイサイド複合型のモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントは、直径0.28mmであり、横断面におけるA成分/B成分の面積比は5/5であった。糸の外観は室内照明下ではほぼ一様に白色であり、暗所でブラックライト照射したところ、緑色に発光する層と発光しない層が繊維長手方向に連続して存在することが容易に視認できた。
【0035】
実施例2
実施例1において、B成分の原料として、さらに光発光色材(発光色:赤の蛍光顔料)0.1質量部を配合したこと以外は、実施例1と同様にして、モノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントは、直径0.28mmであり、横断面におけるA成分/B成分の面積比は5/5であった。糸の外観は室内照明下では赤と白が繊維長手方向に連続して存在することが視認できた。また暗所でブラックライト照射したところ、緑色に発光する層と赤色に発光する層が繊維長手方向に連続して存在することが容易に視認できた。
【0036】
実施例3
実施例2において、A成分の原料として、さらに非相溶成分(酸化チタン)5質量部を配合したこと以外は、実施例2と同様にしてモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントは、直径0.28mmであり、横断面におけるA成分/B成分の面積比は5/5であった。糸の外観は室内照明下では赤と白が繊維長手方向に連続して存在することが視認でき、赤を呈する層と白を呈する層の境界は実施例2のモノフィラメントより明確であった。また暗所でブラックライト照射したところ、緑色に発光する層と赤色に発光する層が繊維長手方向に連続して存在することが容易に視認でき、緑色に発光する層と赤色に発光する層と境界は、実施例2のモノフィラメントより明確であった。
【0037】
比較例1
原料としてポリアミド(ポリアミド6、相対粘度3.5)ペレットのみを用いて、通常のエクストルーダー型溶融紡糸装置を使用し、270℃の温度で溶融紡糸した。紡出した線材を20℃の温水浴中で冷却して未延伸糸を得た。この未延伸糸を巻き取ることなく、80℃の温水浴中で延伸倍率3.0倍で第1段延伸し、次いで全延伸倍率が5.0倍となるように、160℃の加熱ゾーンを通過させながら第2段延伸し(延伸倍率1.4倍)、さらに160℃の加熱ゾーンを通過させて7%の弛緩熱処理を行い、ポリアミドのみからなる単相のモノフィラメントを得た。得られたモノフィラメントは、直径0.28mmであった。糸の外観は室内照明下ではほぼ無色透明であった。また暗所でブラックライト照射した場合は発光せず、モノフィラメントの存在自体を視認しづらいものであった。
【0038】
得られた実施例1~3の本発明のモノフィラメントは、暗所でブラックライトを照射した際に、発光する層と発光しない層との境界、または発光色の異なる層間の区別ができ、またその各々の層が繊維軸方向に連続して直線状に存在しているため、暗所であっても、捩れや絡まりを容易に視認でき、取り扱いやすいことを確認した。
図1
図2