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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118161
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】紙製品
(51)【国際特許分類】
   A47K 10/16 20060101AFI20240823BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
A47K10/16 Z
D21H27/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024434
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】592002776
【氏名又は名称】河野製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】谷口 健二
(72)【発明者】
【氏名】反保 裕太
【テーマコード(参考)】
2D135
4L055
【Fターム(参考)】
2D135AA07
2D135AA15
2D135AB02
2D135AB03
2D135AB06
2D135BA02
2D135BA08
2D135BA11
2D135CA01
2D135CA02
2D135CA03
2D135DA00
2D135DA02
2D135DA11
4L055AA03
4L055AG34
4L055AH50
4L055AJ06
4L055BE10
4L055EA04
4L055EA06
4L055EA07
4L055EA08
4L055EA09
4L055EA14
4L055EA32
4L055FA16
4L055GA29
(57)【要約】
【課題】布のような外観(良好なドレープ感)と布のような肌触り(良好な、柔らかさ、滑らかさ、肌に沿うような触感及びしっとり感)を有する紙製品を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る紙製品は、木材繊維を含む原紙に薬液が含浸されたものであって、前記薬液が、保湿成分と、水と、を含有し、ドレープ係数が76%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材繊維を含む原紙に薬液が含浸された紙製品であって、
前記薬液が、保湿成分と、水と、を含有し、
ドレープ係数が76%以下である、紙製品。
【請求項2】
前記薬液の含浸量は、前記原紙の総質量に対して10~40質量%である、請求項1に記載の紙製品。
【請求項3】
前記木材繊維が、広葉樹パルプを含み、
前記広葉樹パルプの含有量が、前記木材繊維の総質量に対して40質量%以上である、請求項1または請求項2に記載の紙製品。
【請求項4】
前記薬液が、さらに油性成分を含有する、請求項1または請求項2に記載の紙製品。
【請求項5】
前記保湿成分が、グリセリンを含み、
前記グリセリンの含有量は、前記原紙の総質量に対して5質量%以上である、請求項1または請求項2に記載の紙製品。
【請求項6】
前記原紙のプライ数が2~3である、請求項1または請求項2に記載の紙製品。
【請求項7】
前記紙製品の表面における抄紙方向のKES法による摩擦係数の平均偏差(MMD)が0.0075以下である、請求項1または請求項2に記載の紙製品。
【請求項8】
前記紙製品の表面における抄紙方向のKES法による平均摩擦係数(MIU)と、前記紙製品の表面における抄紙方向のKES法による摩擦係数の平均偏差(MMD)との比MIU/MMDが25以上である、請求項1または請求項2に記載の紙製品。
【請求項9】
前記紙製品の乾燥時における抄紙方向の引張強さが1.8N以上であり、
前記紙製品の乾燥時における抄紙方向と垂直方向の引張強さが0.6N以上である、請求項1または請求項2に記載の紙製品。
【請求項10】
KES法による圧縮試験で測定した圧力0.5gf/cmにおける厚みT0と、KES法による圧縮試験で測定した圧力50.0gf/cmにおける厚みTMにおいて、T0-TMが0.100mm以上である、請求項1または請求項2に記載の紙製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティシュペーパー、トイレットペーパー、タオルペーパー、テーブルクロスペーパー等の衛生用途・家庭用途に用いられる紙製品に関する。
【背景技術】
【0002】
紙製品、特にティシュペーパーやトイレットペーパーなどにおいては、外箱や包装などの収納容器に趣向を凝らした様々なデザインのものがある。また、紙自身にも絵や図形がプリントされていたり色鮮やかな着色がされていたりする紙製品があり、紙としての機能だけでなくインテリアとしての需要もある。このように紙製品には、様々なデザイン性のものが存在する。
【0003】
他方、織物・編物・不織布のような布製品は、多くの曲面やひだによって美しく複雑な模様を形成する。このような布の風合いを評価する方法の1つにドレープ性試験がある。ドレープとは布が自重によって垂れ下がる変形現象のことであり、ドレープ性試験においてドレープ係数の数値が小さいほど布は垂れ下がりやすく、また柔らかく上品な印象を与える。
【0004】
このように、織物・編物・不織布などの布製品においてはドレープ係数による風合いの評価が従来行われてきたが、ティシュペーパー、トイレットペーパー、タオルペーパー、テーブルクロスペーパー等の衛生用途・家庭用途に用いられる紙製品においては一般的ではなかった。
【0005】
例えば、特許文献1には、不織布製品のドレープ性について記載されている。
【0006】
特許文献2には、スパンレース不織布からなる不織布製ドライシートを、ポップアップ方式でボックスティシュのように取り出せることを特徴とする衛生用品が記載されている。スパンレース不織布などの不織布は、強度が高くて柔らかく風合いもよいので、ドレープ性が良く幅広い場面で使用可能であることも記載されている。
【0007】
特許文献3には、ティシュペーパー等の繊維ウェブ製品におけるドレープ性について記載されているが、ドレープ性試験により測定されるドレープ係数については開示されていない。また特許文献3におけるドレープ性とは、厚み感とやわらかさのバランスに関するものであって、ドレープ性が紙製品の外観に与える影響については何ら記載されていない。
【0008】
特許文献4には、保湿成分、水分、油性成分、植物性粉体を含むクレープ紙について開示されているが、ドレープ性などの評価や知見は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-270364号公報
【特許文献2】特開2022-65416号公報
【特許文献3】特開2011-74518号公報
【特許文献4】特許第7036307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
紙製品においては、肌触りやふき取り性などの機能に優れた製品はあっても、布のような外観や触感についての評価はされていなかった。したがって、紙製品のドレープ性の測定方法を確立し、布のような外観(良好なドレープ感)と布のような肌触り(良好な、柔らかさ、滑らかさ、肌に沿うような触感及びしっとり感)を有する紙製品を提供することが要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る紙製品の一態様は、
木材繊維を含む原紙に薬液が含浸された紙製品であって、
前記薬液が、保湿成分と、水と、を含有し、
ドレープ係数が76%以下である。
【0012】
上記紙製品の一態様において、
前記薬液の含浸量は、前記原紙の総質量に対して10~40質量%であってもよい。
【0013】
上記紙製品のいずれかの態様において、
前記木材繊維が、広葉樹パルプを含み、
前記広葉樹パルプの含有量が、前記木材繊維の総質量に対して40質量%以上であってもよい。
【0014】
上記紙製品のいずれかの態様において、
前記薬液が、さらに油性成分を含有していてもよい。
【0015】
上記紙製品のいずれかの態様において、
前記保湿成分が、グリセリンを含み、
前記グリセリンの含有量は、前記原紙の総質量に対して5質量%以上であってもよい。
【0016】
上記紙製品のいずれかの態様において、
前記原紙のプライ数が2~3であってもよい。
【0017】
上記紙製品のいずれかの態様において、
前記紙製品の表面における抄紙方向のKES法による摩擦係数の平均偏差(MMD)が0.0075以下であってもよい。
【0018】
上記紙製品のいずれかの態様において、
前記紙製品の表面における抄紙方向のKES法による平均摩擦係数(MIU)と、前記紙製品の表面における抄紙方向のKES法による摩擦係数の平均偏差(MMD)との比MIU/MMDが25以上であってもよい。
【0019】
上記紙製品のいずれかの態様において、
前記紙製品の乾燥時における抄紙方向の引張強さが1.8N以上であり、
前記紙製品の乾燥時における抄紙方向と垂直方向の引張強さが0.6N以上であってもよい。
【0020】
上記紙製品のいずれかの態様において、
KES法による圧縮試験で測定した圧力0.5gf/cmにおける厚みT0と、KES法による圧縮試験で測定した圧力50.0gf/cmにおける厚みTMにおいて、T0-TMが0.100mm以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る紙製品のドレープ係数を測定するための装置の側面図。
図2】本発明の一実施形態に係る紙製品のドレープ係数を測定するための装置の試料台周辺の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0023】
1.紙製品
本発明の一実施形態に係る紙製品は、木材繊維を含む原紙に薬液が含浸された紙製品であって、薬液が、保湿成分と、水と、を含有し、ドレープ係数が76%以下である。
【0024】
従来、ドレープ性試験としてJIS L1096 G法が一般的に用いられており、試料台は直径12.7cmの円形の台で、試料片は直径25.4cmの円形のサイズで測定が行われる。しかしながら、ティシュペーパーなどの紙製品をこの方法で測定しようとすると、皺や折り目のないサンプルとすることや、サンプルの採取自体が困難であった。また、紙製品は布製品より単位面積当たりの重さが軽いため測定に誤差が出やすかった。そのため、紙製品においては、肌触りやふき取り性などの機能に優れた製品はあっても、布のような外観や触感についての評価はされていなかった。
【0025】
ドレープ性は紙製品の剛軟度や自重の影響を受けるため、例えば、布のような肌触りに影響を与える薬液成分や薬液量が変化することによってもドレープ性は変化し得る。それゆえ、紙製品のドレープ性試験が確立されていない従来にあっては、布のような外観と布のような肌触りを両立させることは困難であった。
【0026】
今般、本発明者らは、紙製品においてもドレープ性試験を満足に行うことが可能な方法を開発した。この方法によれば、紙製品のドレープ性を直接評価することができ、正確なドレープ係数を算出することができる。したがって、本発明によれば、特定の成分を有し、かつ、新たに開発された方法に基づき測定されるドレープ係数が特定値以下であるとき、布のような外観(良好なドレープ感)と布のような肌触り(良好な、柔らかさ、滑らかさ、肌に沿うような触感及びしっとり感)を有する紙製品を提供することが可能になった。
【0027】
1.1 紙製品の物性値
物性値の測定は紙製品のそれぞれのプライ数で行った。例えば紙製品が2枚重ね合わせた製品であれば2枚で、3枚重ね合わせた製品であれば3枚で行った。
1.1.1 ドレープ係数
本実施形態に係る紙製品は、ドレープ係数が76%以下である。
【0028】
今般、本発明者らは、紙製品においてもドレープ性試験を満足に行うことが可能な方法を開発した。図1は本発明の一実施形態に係る紙製品のドレープ係数を測定するための装置1の側面図であり、図2は本発明の一実施形態に係る紙製品のドレープ係数を測定するための装置1の試料台2周辺の平面図である。図1に示すように、装置1は、試料台2と、おもり22と、モーター23と、カメラ3と、スタンド31とを備える。
【0029】
測定手順としては、後述の実施例に記載のとおりに行うことができる。
【0030】
本実施形態に係る紙製品のドレープ係数は、76%以下であるが、73%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、67%以下であることがさらに好ましく、64%以下であることが特に好ましい。ドレープ係数が上記範囲内であると、より良好なドレープ感が得られ、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0031】
1.1.2 摩擦特性
本実施形態に係る紙製品は、紙製品の表面における抄紙方向のKES法による摩擦係数の平均偏差(MMD)が0.0075以下であることが好ましく、0.0065以下であることがより好ましく、0.0060以下であることがさらに好ましく、0.0055以下であることが特に好ましい。摩擦係数の平均偏差(MMD)が上記範囲内であると、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。なお、摩擦係数の平均偏差(MMD)は、試料表面の滑らかさを表し、値が小さい程滑らかであることを示す。
【0032】
本明細書において「抄紙方向」とは、抄紙時における紙の流れ方向を意味する。また、抄紙方向を縦方向、抄紙方向と垂直方向を横方向ということもある。
【0033】
「KES法」とは、「KAWABATA EVALUATION SYSTEM」の略であり、風合いを計測し、客観的に評価するための方法の一つである。また、本明細書のKES法に基づく各力学的測定に関しては、「風合い評価の標準化と解析」第2版(社団法人日本繊維機械学会、風合い計量と規格化研究委員会 昭和55年7月10日発行)に詳細が説明されている。
【0034】
本実施形態に係る紙製品は、紙製品の表面における抄紙方向のKES法による平均摩擦係数(MIU)と、紙製品の表面における抄紙方向のKES法による摩擦係数の平均偏差(MMD)との比MIU/MMDが25以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、35以上であることがさらに好ましい。MIU/MMDが上記範囲内であると、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。なお、平均摩擦係数(MIU)は、試料表面のすべりやすさを表し、値が大きくなる程すべりにくいことを示す。また、MIU/MMDは、数値が大きいほど表面が滑らかであるがすべりにくいことを示す。
【0035】
摩擦係数の平均偏差(MMD)や平均摩擦係数(MIU)は、例えば、摩擦感テスター「KES-SE4」(カトーテック社製)を用いて測定することができる。具体的には、後述の実施例に記載のとおりに行うことができる。
【0036】
1.1.3 引張特性
本実施形態に係る紙製品は、紙製品の乾燥時における抄紙方向の引張強さが1.8N以上であり、紙製品の乾燥時における抄紙方向と垂直方向の引張強さが0.6N以上であることが好ましい。引張強さが上記範囲内であると、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0037】
紙製品の乾燥時における抄紙方向の引張強さは、1.9N以上がより好ましく、2.0N以上がさらに好ましい。また、かかる引張強さの上限は、3.0N以下が好ましく、2.7N以下がより好ましく、2.4N以下がさらに好ましい。引張強さが上記範囲内であると、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0038】
紙製品の乾燥時における抄紙方向と垂直方向の引張強さは、0.7N以上がより好ましく、0.8N以上がさらに好ましい。また、かかる引張強さの上限は、1.5N以下が好
ましく、1.3N以下がより好ましい。引張強さが上記範囲内であると、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0039】
本発明における引張強さは、後述の実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0040】
1.1.4 圧縮特性
本実施形態に係る紙製品は、KES法による圧縮試験で測定した圧力0.5gf/cmにおける厚みT0と、KES法による圧縮試験で測定した圧力50.0gf/cmにおける厚みTMにおいて、T0-TMが0.100mm以上であることが好ましく、0.120mm以上であることがより好ましい。T0-TMが上記範囲であると、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0041】
本発明における圧力0.5gf/cmにおける厚みT0と、圧力50.0gf/cmにおける厚みTMは、例えば、圧縮試験機「KES-FB3」(カトーテック社製)を用いて測定することができる。具体的には、後述の実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0042】
以上のように、布様の垂れ下がった外観を評価するドレープ係数、引張強さ、表面の滑らかさを評価する摩擦係数の平均偏差(MMD)、肌に沿うような触感を評価する(MIU/MMD)の値、ふっくらした触感を表すT0-TMの値を特定範囲とすることが好ましい。これにより布様の外観と滑らかさや柔らかさなどの布様の肌触り性に優れ、十分な強さを持つ紙製品を得ることができる傾向にある。
【0043】
以下、本実施形態に係る紙製品を構成する各成分について説明する。
【0044】
1.2 原紙
本実施形態に係る紙製品は、木材繊維を含むドライクレープ紙を原紙として使用する。
【0045】
原紙の繊維成分としては、木材繊維を少なくとも含んでいればよいが、非木材植物繊維等を含んでいてもよい。繊維成分は、水分によって可塑化されるものであることが好ましい。木材繊維としては、例えば、広葉樹パルプや針葉樹パルプが挙げられる。非木材植物繊維としては、例えば、麻、靱皮繊維、木綿、ケナフ等の植物繊維、シルク、ウール等の動物繊維などの木材以外の天然繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、アクリル、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン等の合成繊維などの化学繊維が挙げられる。
【0046】
原紙に含まれる木材繊維として広葉樹パルプまたは針葉樹パルプ、またはその両方を原紙の総質量に対して合計で80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、99質量%以上含むことが特に好ましい。
【0047】
本実施形態に係る紙製品は、木材繊維が広葉樹パルプを含み、広葉樹パルプの含有量が、木材繊維の総質量に対して40質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。広葉樹パルプは針葉樹パルプに比べて繊維が短く細いため、木材繊維が広葉樹パルプを上記範囲で含む場合には、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0048】
本実施形態に係る紙製品は、木材繊維が針葉樹パルプを含み、針葉樹パルプの含有量が、木材繊維の総質量に対して60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であ
ることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。針葉樹パルプの含有量の下限は、特に限定されないが、木材繊維の総質量に対して3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。木材繊維が針葉樹パルプを上記範囲で含む場合には、適度な強度を得ることができ、ひいては、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0049】
原紙は、湿潤紙力剤などの添加剤を含んでいてもよい。湿潤紙力剤としては、例えば、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂、ポリアミンエピクロロヒドリン樹脂などが挙げられる。湿潤紙力剤は、市販品を用いてもよく、例えば、WS4020、WS4030、WS4027、WS4011(以上、星光PCM株式会社製商品名)などが挙げられる。添加剤の含有量は、繊維成分の総質量に対して0.01~0.5質量%が好ましく、0.05~0.4質量%がより好ましく、0.1~0.3質量%がさらに好ましい。
【0050】
原紙の形態としては、特に限定されないが、抄紙時に抄紙機のドライヤー上でドクターブレードによりクレープが形成されたドライクレープ紙を用いることが好ましい。
【0051】
原紙のプライ数は、1~4が好ましく、2~3がより好ましい。原紙のプライ数が上記範囲内にあると、良好なドレープ感が得られ、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。なお、「プライ数」とは、原紙の重ね枚数をいう。
【0052】
原紙の坪量は、10~20g/mが好ましく、13~17g/mがより好ましく、14~16g/mがさらに好ましい。原紙の坪量が上記範囲内にあると、良好なドレープ感が得られ、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0053】
1.3 薬液
本実施形態に係る紙製品は、上述の原紙に薬液が含浸されたものである。薬液は、保湿成分と、水と、を少なくとも含有する。
【0054】
薬液の含浸量は、原紙の総質量に対して10~40質量%が好ましく、15~35質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。薬液の含浸量が上記範囲内であると、ドレープ感と肌触りがより良好となり、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0055】
一方、本発明の効果をより享受できる観点から、本発明の薬液の含浸量は、原紙の総質量に対して10~23質量%が好ましく、12~21質量%がより好ましく、15~20質量%がさらに好ましい。本実施形態に係る紙製品は、ドレープ係数を所定値以下にする点に特徴を有する。本発明においては、ドレープ係数を調整することにより含浸される薬液が比較的少ない場合であっても、良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができることを新たに見出した。
【0056】
以下、本実施形態に係る紙製品に用いる薬液に含まれる各成分について説明する。
【0057】
1.3.1 保湿成分
本実施形態に係る紙製品に用いる薬液は、保湿成分を含有する。保湿成分は大気中から水分を取り込み、繊維成分における水分率を高めて可塑化を促し、柔軟にする作用を有する。
【0058】
保湿成分としては、例えば、多価アルコール類、糖アルコール類、糖質、アミノ酸、有
機酸などが挙げられる。保湿成分は、多価アルコール類、糖アルコール類、糖質、アミノ酸及び有機酸から選ばれる1種以上が好ましく、多価アルコール類及び糖アルコール類から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0059】
多価アルコール類としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール(平均分子量200以上1000未満)、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。多価アルコール類の中でも、吸湿性により優れる観点から、グリセリンが好ましい。
【0060】
糖アルコール類としては、例えば、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、オリゴ糖アルコール、マルチトール、還元澱粉加水分解物等が挙げられる。糖アルコール類の中でも、水分の保持性により優れる観点から、ソルビトールが好ましい。
【0061】
糖質としては、例えば、果糖やブドウ糖等の単糖類、トレハロース等の二糖類やマルトトリオース等の三糖類などを含むオリゴ糖などが挙げられる。
【0062】
アミノ酸としては、例えば、グリシンベタイン及びその塩などが挙げられる。
【0063】
有機酸としては、例えば、ピロリドンカルボン酸、乳酸、及びこれらのナトリウム等の塩などが挙げられる。
【0064】
保湿成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
これらの保湿成分の中でも、グリセリン及びソルビトールを含むことが好ましい。グリセリンは吸湿性が高いため保湿成分として好適であり、また、ソルビトールは水分の保持性に優れているので、グリセリンと併用することで周囲環境の変化に対する水分含有量の安定性が高まる。これにより、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0066】
本実施形態に係る紙製品は、保湿成分が、グリセリンを含み、グリセリンの含有量は、原紙の総質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。かかる保湿成分の含有量が上記範囲であると、保湿性により優れ、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0067】
本実施形態に係る紙製品は、保湿成分が、ソルビトールを含み、ソルビトールの含有量は、グリセリンに対してソルビトール1:グリセリン1~10であることが好ましく、ソルビトール1:グリセリン5~9であることがより好ましい。かかる保湿成分の含有量が上記範囲であると、周囲環境の変化に対する水分含有量の安定性により優れ、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0068】
保湿成分の含有量は、原紙の総質量に対して10質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることがより好ましく、14質量%以上であることがさらに好ましく、16質量%以上であることが特に好ましく、18質量%以上であることがより特に好ましい。保湿成分の含有量の上限は、原紙の総質量に対して35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましい。保湿成分の含有量が上記範囲であると、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0069】
1.3.2 水
本実施形態に係る紙製品に用いる薬液に水を含有させることが出来る。
紙製品中の水分は紙製品が使用される環境の大気中の水分を保湿成分が吸湿することによって保持される。そのため大気中から吸湿される水分を予め薬液中に保湿成分とともに配合しておくことが好ましく、イオン交換水や蒸留水等の純水が好適に用いられる。
【0070】
紙製品中の水の含有量は保湿成分によって変化するため、標準条件(温度23±1℃、相対湿度50±2%)での保湿水分による増加量が原紙の総質量に対して1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、4質量%以上が特に好ましく、5質量%以上がより特に好ましい。水の含有量が上記範囲であると、より良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0071】
1.3.3 油性成分
本実施形態に係る紙製品に用いる薬液は、油性成分を含有してもよい。油性成分は、原紙表面を滑らかにすると共に、肌に転移して滑らかな触感を与える機能を有する。薬液が油性成分を含有する場合には、より布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0072】
油性成分としては、例えば、炭化水素類、植物油類、脂肪酸類、ロウ類、高級アルコール類、エステル類等が挙げられる。油性成分は、これらの中でも、炭化水素類及び植物油類が好ましく、酸化作用を受けにくい飽和炭化水素類がより好ましく、23℃で液状を呈する炭化水素類がさらに好ましい。
【0073】
炭化水素類としては、例えば、流動パラフィン、固形パラフィン、スクワラン等が挙げられ、流動パラフィンがより好ましい。また、炭化水素類における流動点は、0℃以下が好ましく、-5℃以下がより好ましく、-10℃以下がさらに好ましい。ここで、本明細書における流動点とは、JIS K2269に規定される流動点を意味する。
【0074】
植物油類としては、例えば、オリーブ油、ツバキ油、ヒマシ油、大豆油等が挙げられる。
【0075】
脂肪酸類としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸等が挙げられる。
【0076】
ロウ類としては、例えば、ミツロウ、カルナウバロウ、ラノリン等が挙げられる。
【0077】
高級アルコール類としては、例えば、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。
【0078】
エステル類としては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル等が挙げられる。
【0079】
油性成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
油性成分を含有する場合の含有量は、原紙の総質量に対して0.5質量%以上が好ましく、0.7質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、1.2質量%以上が特に好ましい。また、油性成分の含有量の上限は、特に限定されないが、原紙の総質量に対して5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。油性成分の含有量が上記範囲であると、より良好な布のような肌触りを得ることができる傾向にある。
【0081】
1.3.4 界面活性剤
上述の油性成分は、薬液中に微粒子状に分散したエマルジョンとして配合させることが好ましい。エマルジョンは界面活性剤を用いて安定化させることが好ましい。
【0082】
界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤;脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン系界面活性剤;等が好適に用いられる。界面活性剤は、非イオン系界面活性剤がより好ましく、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルを用いることがさらに好ましい。
【0083】
1.3.5 粉体
本実施形態に係る紙製品に用いる薬液は、粉体を含有してもよい。粉体は、紙製品の柔らかさ、滑らかさ、肌に沿うような触感等の布のような肌触りをより向上できる作用を有する。粉体としては、特に制限されないが、水分に対する親和性の高い植物性粉体が好ましい。
【0084】
植物性粉体としては、木粉、竹粉、植物繊維粉、セルロース粉、澱粉類などが挙げられる。これらの植物性粉体の形状は球状または多面体状であることが好ましく、特に、澱粉類は入手しやすさや安全性においても好ましい。この澱粉類としては、トウモロコシ澱粉、ジャガイモ澱粉、米粉、小麦粉等が好ましく、トウモロコシ澱粉が特に好ましい。
【0085】
植物性粉体の体積平均粒子径は、布のような肌触りをさらに向上できる観点から、2~50μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましく、10~20μmであることがさらに好ましい。なお、体積平均粒子径は、レーザー回折散乱法を利用した粒度分布測定装置によって測定される粒子径である。
【0086】
粉体を含有する場合の含有量は、原紙の総質量に対して0.5~3.0質量%が好ましく、0.7~2.5質量%がより好ましく、1.0~2.0質量%がさらに好ましい。
【0087】
一方、本発明の効果をより享受できる観点から、本実施形態に係る紙製品に用いる薬液には、粉体が含まれないことが好ましく、植物性粉体が含まれないことがより好ましく、澱粉類が含まれないことがさらに好ましい。本実施形態に係る紙製品は、ドレープ係数を所定値以下にする点に特徴を有する。本発明においては、ドレープ係数を調整することにより薬液に粉体(より好ましくは植物性粉体であり、さらに好ましくは澱粉類である)が含まれない場合であっても、良好な布のような外観と布のような肌触りを得ることができることを新たに見出した。
【0088】
2.紙製品の製造方法
本発明の一実施形態に係る紙製品の製造方法は、上述の紙製品を製造する方法であって、保湿成分と、水と、を含有する上述の薬液を調製する薬液調合工程と、薬液を木材繊維を含む上述の原紙に含浸させる薬液含浸工程と、を備えるものである。
【0089】
本実施形態に係る製造方法によれば、布のような外観(良好なドレープ感)と布のような肌触り(良好な、柔らかさ、滑らかさ、肌に沿うような触感及びしっとり感)を有する紙製品を提供することができる。
【0090】
2.1 薬液調合工程
本実施形態に係る製造方法は、保湿成分と、水と、を含有する上述の薬液を調製する薬
液調合工程を備える。
【0091】
薬液の調合は、前述した各成分を任意の順序で混合して得られる。各成分の混合方法としては、撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。なお、油性成分を加える場合は必要に応じて界面活性剤を加え液体と乳化させることが好ましい。また、粉体を加える場合は薬液中に分散させることが好ましい。
【0092】
2.2 薬液含浸工程
本実施形態に係る製造方法は、上述の薬液を木材繊維を含む上述の原紙に含浸させる薬液含浸工程を備える。
【0093】
薬液の含浸方法としては、例えば、スプレーによる噴霧、ロールによる塗工等が挙げられる。このとき薬液の噴霧、塗工は、原紙が抄紙される時に抄紙機のドライヤーの金属表面に接した面であることが好ましい。この面は原紙の表面側と称され反対の裏面側より平滑な表面を有する。
【0094】
3.実施例
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。
【0095】
3.1 紙製品の作製
未叩解のNBKP(針葉樹クラフト法漂白パルプ:重さ加重平均繊維長2.4~2.6[mm]、繊維粗度0.148[mg/m])のパルプスラリーを、カナダ標準濾水度のダウン幅が40~60[ml]になるように叩解した。また、LBKP(広葉樹クラフト法漂白パルプ:重さ加重平均繊維長0.60~0.72[mm]、繊維粗度0.057[mg/m])のパルプスラリーを、カナダ標準濾水度のダウン幅が30~40[ml]になるように叩解した。
【0096】
次いで、下表1及び表2に示す繊維成分(パルプ)配合率になるようにパルプを混合し、湿潤紙力剤をパルプ当たり固形分換算で0.2[質量%]添加した。その後、常法により抄紙機を用いてドライクレープ紙を抄紙した。得られたクレープ紙は坪量15[g/m]、クレープ率24[%]であり、このクレープ紙をロール状に巻き取った。
【0097】
次に、下表1及び表2に示す各成分を調合して得た薬液を、下表1及び表2に示す薬液含浸率になるように、規定のプライ数に重ねあわされた原紙の両側から連続的にスプレー噴霧して再度ロール状に巻き取った。その後、ロール状のクレープ紙を室温で24時間以上静置し、薬液を原紙全体に均一に含浸させた。
【0098】
次いで、クレープ紙のドライヤー面が紙製品のオモテになるように原紙をたて(抄紙方向)200[mm]、よこ(抄紙幅方向)225[mm]の大きさに切り取って多数の試料を作製した。そして、各試料を温度23±1[℃]、湿度50±2[%]の環境で24時間以上静置し各実施例及び各比較例に係る紙製品を得た。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
3.2 評価方法
上記で得られた各実施例及び各比較例に係る紙製品について、以下の官能試験および物性試験を行って評価した。
【0102】
3.2.1 官能試験
〈ドレープ感〉
モニター10名が各試料の自重による垂れ下がりを目視で観察し、以下の基準に従って評価した。
「布の様なドレープ感がある」を2点、「ややドレープ感がある」を1点、「ドレープ感がない」を0点としてモニター10名が付与した点数を合計して以下のランク付けをした。◎が最も優れ、×が最も劣り、△を許容できるものとした。
(評価基準)
「16~20点」:◎
「11~15点」:〇
「 6~10点」:△
「 0~ 5点」:×
【0103】
〈肌ざわり性〉
モニター10名が各試料を手で触り、それぞれの触感(柔らかさ、滑らかさ、肌に沿うような触感、しっとり感)を以下の基準に従って評価した。なお、「肌に沿うような触感」とは表面が滑らかであり、かつ、すべりに対して抵抗のある、手に纏わりつくような感覚である。
「大変に優れている」を3点、「優れている」を2点、「やや優れている」を1点、「優れていない」を0点とし、モニター10名が付与した点数を合計して以下のランク付けをした。◎が最も優れ、×が最も劣り、△を許容できるものとした。
(評価基準)
「26~30点」:◎
「16~25点」:〇
「 6~15点」:△
「 0~ 5点」:×
【0104】
3.2.2 物性試験
〈ドレープ試験〉
図1の試験装置を用いて以下の条件で測定した。図2に示すように、測定面を上にしてサンプル21(円形、直径90mm)の中心を試料台2(円形、直径35mm)の中心に合わせて上に置き、おもり22(円形、直径35mm、100g)によって固定した。その後、試料台2を、モーター23により100rpmの回転数で1分間回転させ、回転を止めてから1分間静置させた。そして、スタンド31により試料台2から垂直上方向に1m離れた位置に設置したカメラ3により、サンプル21を真上から撮影し画像を取得し、その画像データからサンプル21の垂直投影面積を算出し、以下の式(1)によりドレープ係数を求めた。なお、測定はサンプルの表裏でそれぞれ5回行い、平均値を算出した。
【0105】
=[(A-S)/(S-S)]×100 ・・・(1)
(Dはドレープ係数[%]を表し、Aはサンプル21の垂直投影面積(ドレープ形状面積)[mm]を表し、Sは試料台2の面積[mm]を表し、Sはサンプル21の面積[mm]を表す。)
【0106】
〈引張強度試験〉
JIS S 3104:1992年に規定されるティシュペーパーの引張強さ試験に準じて、試料の縦方向(抄紙時における紙の流れ方向)と横方向について乾燥時引張強度(N)を測定した。試験片は試料のプライ数に合わせて2枚もしくは3枚を幅25.0±0.1(mm)に切り取り、つかみ間隔を100±2(mm)として測定した。測定は10回測定を行い、その平均値を求めた。
【0107】
〈摩擦試験〉
摩擦感テスター「KES-SE4」(カトーテック社製)を用いて測定を行った。クレ
ープ紙の表面側が試料の表面になるように、プライ数に合わせて重ね合わされた試料の表面を摩擦子によってなぞり、摩擦係数(MIU)及び摩擦係数の変動量(MMD)を求めた。試験は、試料の縦方向(抄紙時における紙の流れ方向)について試料を替えて10回行い、その平均値を求めた。なお、MIUは数値が小さいほどすべりやすいことを示し、MMDは数値が小さいほど滑らかであることを示し、MIU/MMDは数値が大きいほど表面が滑らかであるがすべりにくいことを示す。
【0108】
〈圧縮試験〉
圧縮試験機「KES-FB3」(カトーテック社製)を用いて測定を行った。2cm円形の加圧板と受圧板間に試料をセットし、150sec/mmの速さで加圧板を下降させ、その際に変化する圧力と試料の厚みを測定した。0.5gf/cmの荷重の際の試料の厚みT0と、50.0gf/cmの荷重の際の試料の厚みTMを測定し、試料の厚みの変化量(T0-TM)を求めた。
【0109】
3.3 評価結果
評価結果を、上表1及び表2に示す。上記の各試験の結果から、以下のような評価ができる。
【0110】
〈実施例1~3、比較例3,4〉
上表1における実施例1~3および上表2における比較例3,4は、パルプ配合のみを変え、薬液成分および薬液含浸率は同じである。
実施例1~3、および比較例3,4によれば、広葉樹パルプの割合を増加させることよって、ドレープ係数が減少してドレープ性が上がり、MMDの数値が減少し、MIU/MMDの値は増加している。官能試験についても実施例1~3は比較例3,4と比べてドレープ感、柔らかさ、滑らかさ、肌に沿う触感の評価が高い。
広葉樹パルプの配合率が多いほど強度が低く柔らかくなるため、自重による垂れ下がりも大きくなって、ドレープ係数の値が低くなると考えられる。
滑らかさは、広葉樹のパルプの割合を増やすことで短く細いパルプ繊維が多くなり平滑な紙になるので、紙表面上の滑らかさが向上したためだと考えられる。
【0111】
〈実施例4~6〉
実施例4~6は、パルプ配合率と薬液成分は同じで、薬液含浸率を変えたものである。
薬液含浸率を増加させることによってドレープ係数、MMDの値が減少し、MIU/MMDの値は増加している。また官能試験についてもドレープ感、柔らかさ、滑らかさ、肌に沿う触感、しっとり感の評価が高くなる傾向にある。
これは、薬液の量が多ければ多いほど保湿成分が相対的に増えるので、パルプ繊維が保有する水分が多くなり、パルプ繊維が可塑化することによるものである。
さらに薬液中に含まれる油性成分はパルプ繊維の表面を滑らかにし、かつ肌に転移することで滑らかな触感を与える。
【0112】
〈実施例7,8,9,10〉
実施例7,8は、パルプ配合率と薬液成分は同じで、薬液含浸率を変えたものである。
薬液含浸率を増加させることによってドレープ係数、MMDの値が減少し、MIU/MMDの値は増加している。
実施例9,10はプライ数を3枚にし、それぞれパルプ配合率と薬液含浸率を変えたものである。
パルプ配合率は実施例9が広葉樹パルプ80%、針葉樹パルプ20%、実施例10が広葉樹パルプ90%、針葉樹パルプ10%である。
実施例8と実施例9ではプライ数のみが異なるが実施例9の方がドレープ性の評価が高い。
3プライにした試料の方が2プライの試料より単位面積当たりの重さが重くなるのでドレープ性が高くなり、ドレープ係数も63%以下で官能試験の評価も高い。
【0113】
〈比較例1,2〉
上表2における比較例1および2は、保湿剤を塗布していないクレープ紙である。
比較例1のように広葉樹パルプを90%含む試料であっても、保湿成分を含有しないとドレープ係数が大きくなり、ドレープ感などの官能評価が低くなる。
圧縮特性では比較例2はT0-TMが0.100mm以下で試料が硬いとドレープ係数も高く官能評価が低い。
【0114】
〈まとめ〉
ドレープ係数はドレープ感と柔らかさに大きく影響し、ドレープ係数の値が小さいほどドレープ感に優れた柔らかい製品となる。ドレープ係数は76%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下がさらに好ましい。
【0115】
摩擦特性では、MMDの値が小さいほど滑らかな触感が感じられ、0.0075以下であることが好ましく、0.0065以下であることがより好ましく、0.0060以下であることがさらに好ましく、0.0055以下であることが特に好ましい。
【0116】
すべりやすさの係数であるMIUを滑らかさの係数であるMMDで除したMIU/MMDの値は滑らかですべりにくいことを表しており、肌に沿うような触感の指標となる。MIU/MMDの値は25以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、35以上であることがさらに好ましい。
【0117】
引張強さ乾燥時(横)は0.6N以上が好ましく、0.7N以上がより好ましく、0.8N以上がさらに好ましい。引張強さ乾燥時(縦)は1.8N以上が好ましく、1.9N以上がより好ましく、2.0N以上がさらに好ましい。
【0118】
圧縮特性T0-TMが0.100mm以上であることが好ましく、0.120mmであることがより好ましい。
【0119】
広葉樹パルプの割合が多いほどドレープ係数が減少し、滑らかさや柔らかさのなどの官能評価が高くなる。原紙に対して、広葉樹パルプを40%以上含むことが好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、90%以上が最も好ましい。
【0120】
プライ数は2~3にすることが好ましい。
【0121】
試料は保湿剤を塗布した保湿クレープ紙であることが好ましい。保湿成分としてグリセリンを5%以上含むことが好ましく、10%以上含むことがより好ましく、15%以上含むことがさらに好ましい。
【0122】
薬液には保湿成分以外に、水分、油性成分を含ませることが好ましい。
【0123】
各実施例は紙製品として必要十分な強度を備えており、布様の外観と触感を有する製品とすることが出来る。
【0124】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成、を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実
施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0125】
1…装置、2…試料台、21…サンプル、22…おもり、23…モーター、3…カメラ、31…スタンド
図1
図2