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特開2024-118177熱可塑性エラストマー組成物及びエアバッグ収納カバー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118177
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物及びエアバッグ収納カバー
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20240823BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20240823BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20240823BHJP
   B60R 21/215 20110101ALI20240823BHJP
【FI】
C08L23/10
C08L23/08
C08L53/02
B60R21/215
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024460
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】松本 誠司
【テーマコード(参考)】
3D054
4J002
【Fターム(参考)】
3D054BB22
3D054FF16
4J002BB05X
4J002BB12W
4J002BB14W
4J002BP01Y
4J002BP02W
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】低温耐衝撃性と離型性に優れ、さらに少なくとも耐熱性、耐黄変性の何れかを解決する熱可塑性エラストマー組成物と、この熱可塑性エラストマー組成物よりなるエアバッグ収納カバーを提供する。
【解決手段】下記成分(A)~(C)を含み、かつ、成分(A)100質量部に対して成分(B)を5~200質量部含有し、成分(C)を5~100質量部含有する熱可塑性エラストマー組成物。下記成分(A)~(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物からなるエアバッグ収納カバー。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(C)を含み、かつ、成分(A)100質量部に対して成分(B)を5~200質量部含有し、成分(C)を5~100質量部含有する熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体
【請求項2】
前記成分(C)の重量平均分子量(Mw)が150,000~500,000である、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体の結晶溶融ピークが110~125℃に存在する、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記結晶溶融ピークの結晶融解熱量が20~60J/gである、請求項3に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記成分(B)のα-オレフィンの炭素数が4~8である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記成分(B)のα-オレフィンの炭素数が4~8である、請求項3に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記成分(B)のα-オレフィンの炭素数が4~8である、請求項4に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
前記成分(B)のα-オレフィンが1-オクテンである、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
前記成分(B)がエチレン・1-オクテンブロック共重合体である、請求項8に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
前記成分(A)が、プロピレン系ブロック共重合体である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項11】
下記成分(A)~(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物からなるエアバッグ収納カバー。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体
【請求項12】
前記成分(C)の重量平均分子量(Mw)が150,000~500,000である、請求項11に記載のエアバッグ収納カバー。
【請求項13】
前記熱可塑性エラストマー組成物が以下の特性(i)を満足する、請求項11又は12に記載のエアバッグ収納カバー。
特性(i):ISO 180を参照し、前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ4mm、幅10mm、長さ80mmのノッチ付きIZOD衝撃強度測定用の試験片を用いて-45℃雰囲気下にて測定したアイゾット衝撃強度が60kJ/m以上である。
【請求項14】
前記熱可塑性エラストマー組成物が以下の特性(ii)を満足する、請求項11又は12に記載のエアバッグ収納カバー。
特性(ii):ISO 180を参照し、前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ4mm、幅10mm、長さ80mmのノッチ付きIZOD衝撃強度測定用の試験片を110℃で1000時間の条件で加熱した後に、-45℃雰囲気下にて測定したアイゾット衝撃強度が60kJ/m以上である。
【請求項15】
前記熱可塑性エラストマー組成物が以下の特性(iii)を満足する、請求項14に記載のエアバッグ収納カバー。
特性(iii):前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ2mm、幅120mm、長さ80mmの試験片を用いてISO 2813に従って測定した入射角60゜の光沢度が60%以下である。
【請求項16】
前記熱可塑性エラストマー組成物が以下の特性(iii)と特性(iv)を満足する、請求項11に記載のエアバッグ収納カバー。
特性(iii):前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ2mm、幅120mm、長さ80mmの試験片を用いてISO 2813に従って測定した入射角60゜の光沢度が60%以下である。
特性(iv):前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ2mm、幅120mm、長さ80mmの試験片の表面をASTM D1925を参照して測定したYI値と、前記試験片を110℃で1000時間の条件で加熱した後に該試験片の表面をASTM D1925を参照して測定したYI値との差ΔYIが40以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物に関する。本発明はまた、この熱可塑性エラストマー組成物からなるエアバッグ収納カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エアバッグシステムは自動車等の衝突の際に運転手や搭乗者を保護するシステムであり、衝突の際の衝撃を感知する装置とエアバッグ装置とからなる。このエアバッグ装置は、ステアリングホイール、助手席前方のインストルメントパネル、運転席及び助手席のシート、フロント及びサイドピラー等に設置される。
【0003】
エアバッグ装置におけるエアバッグ収納カバーについては、エアバッグ膨張時に設計通り開裂するように、その構造や材質に於いて種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、低温衝撃性、高温強度、離型性、射出成形性に優れる熱可塑性エラストマー組成物として、スチレン・共役ジエンブロック共重合体としてスチレン・ブタジエンブロック共重合体の水素添加物(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体(SEBS))、プロピレン系重合体及びエチレン・α-オレフィン共重合体を含むものが提案されている。
特許文献2には、高温強度、低温耐衝撃性、離型性、射出成形性等に優れるエアバッグ収納カバー向けの熱可塑性エラストマーとして、スチレン・共役ジエンブロック共重合体としてスチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、プロピレン系重合体及びエチレン・α-オレフィン共重合体を含むものが提案されている。
特許文献3には、低温耐衝撃性と耐熱性に優れるエアバッグ収納カバー向け熱可塑性エラストマーとして、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の部分水素添加物としてスチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレンブロック共重合体、プロピレン系重合体及びエチレン・α-オレフィン共重合体からなるものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-193821号公報
【特許文献2】特開2019-38925号公報
【特許文献3】特開2022-109650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、エアバッグ展開出力向上に対応した安全性の強化、設計の自由度の観点から、特に低温耐衝撃性がより改善された材料の開発が望まれている。
しかしながら、本発明者の詳細な検討によれば、前記特許文献1に記載されているエアバッグ収納カバー向け熱可塑性エラストマー組成物では低温耐衝撃性が不十分であることが見出された。また、前記特許文献2に記載されているエアバッグ収納カバー向け熱可塑性エラストマー組成物は、低温衝撃性に優れるが、耐熱試験後の低温耐衝撃性が不十分であり、また耐熱試験後の黄変色の問題があることが見出された。また、前記特許文献3に記載されているエアバッグ収納カバー向け熱可塑性エラストマー組成物は、成形品の表面光沢が高く、エアバッグ収納カバー等の成形工程における離型性が劣るという問題が見出された。
【0007】
本発明は上記のような従来技術の問題を鑑みてなされたものである。
すなわち、本発明の課題は、低温耐衝撃性と離型性に優れ、さらに少なくとも耐熱性、耐黄変性の何れかを解決する熱可塑性エラストマー組成物と、この熱可塑性エラストマー組成物よりなるエアバッグ収納カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、プロピレン系重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、好ましくはエチレンからなる重合体ブロックとエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックとを含むエチレン・α-オレフィン共重合体、及びスチレン・共役ジエンブロック共重合体としてスチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体を含む熱可塑性エラストマー組成物が、低温耐衝撃性、耐熱性、耐黄変性を維持しながら離型性に優れエアバッグ収納カバーに好適に用いることができることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0009】
[1] 下記成分(A)~(C)を含み、かつ、成分(A)100質量部に対して成分(B)を5~200質量部含有し、成分(C)を5~100質量部含有する熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体
【0010】
[2] 前記成分(C)の重量平均分子量(Mw)が150,000~500,000である、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0011】
[3] 前記成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体の結晶溶融ピークが110~125℃に存在する、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0012】
[4] 前記結晶溶融ピークの結晶融解熱量が20~60J/gである、[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0013】
[5] 前記成分(B)のα-オレフィンの炭素数が4~8である、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
[6] 前記成分(B)のα-オレフィンが1-オクテンである、[5]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
[7] 前記成分(B)がエチレン・1-オクテンブロック共重合体である、[6]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
[8] 前記成分(A)が、プロピレン系ブロック共重合体である、[1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0017】
[9] 下記成分(A)~(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物からなるエアバッグ収納カバー。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体
【0018】
[10] 前記成分(C)の重量平均分子量(Mw)が150,000~500,000である、[9]に記載のエアバッグ収納カバー。
【0019】
[11] 前記熱可塑性エラストマー組成物が以下の特性(i)を満足する、[9]又は[10]に記載のエアバッグ収納カバー。
特性(i):ISO 180を参照し、前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ4mm、幅10mm、長さ80mmのノッチ付きIZOD衝撃強度測定用の試験片を用いて-45℃雰囲気下にて測定したアイゾット衝撃強度が60kJ/m以上である。
【0020】
[12] 前記熱可塑性エラストマー組成物が以下の特性(ii)を満足する、[9]~[11]のいずれかに記載のエアバッグ収納カバー。
特性(ii):ISO 180を参照し、前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ4mm、幅10mm、長さ80mmのノッチ付きIZOD衝撃強度測定用の試験片を110℃で1000時間の条件で加熱した後に、-45℃雰囲気下にて測定したアイゾット衝撃強度が60kJ/m以上である。
【0021】
[13] 前記熱可塑性エラストマー組成物が以下の特性(iii)を満足する、[12]に記載のエアバッグ収納カバー。
特性(iii):前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ2mm、幅120mm、長さ80mmの試験片を用いてISO 2813に従って測定した入射角60°の光沢度が60%以下である。
【0022】
[14] 前記熱可塑性エラストマー組成物が以下の特性(iii)と特性(iv)を満足する、[9]~[13]のいずれかに記載のエアバッグ収納カバー。
特性(iii):前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ2mm、幅120mm、長さ80mmの試験片を用いてISO 2813に従って測定した入射角60゜の光沢度が60%以下である。
特性(iv):前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ2mm、幅120mm、長さ80mmの試験片の表面をASTM D1925を参照して測定したYI値と、前記試験片を110℃で1000時間の条件で加熱した後に該試験片の表面をASTM D1925を参照して測定したYI値との差ΔYIが40以下である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、低温耐衝撃性と離型性に優れ、さらに少なくとも耐熱性、耐黄変性の何れかを解決するものである。このため、本発明の熱可塑性エラストマー組成物或いは本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体はエアバッグ収納カバーに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0025】
本発明において「エアバッグ収納カバー」とは、エアバッグを収納する容器全般を意味するものであり、例えば、エアバッグが収納されている容器において、エアバッグが展開する際の開口部、又はこの開口部と一体となっている容器全体である。
【0026】
〔熱可塑性エラストマー組成物〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(A)~(C)を含み、かつ、成分(A)100質量部に対して成分(B)を5~200質量部含有し、成分(C)を5~100質量部含有する熱可塑性エラストマー組成物である。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体
[メカニズム]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、低温耐衝撃性、耐熱性、耐黄変性を維持しながら離型性に優れ、例えばエアバッグ収納カバーとしての射出成形時の離型性にも優れるという効果を奏する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がこのような効果を奏するメカニズムの詳細は定かではないが、以下のように推察される。
【0027】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物では、成分(A)により耐熱性を得ると共に、成分(B)及び成分(C)により優れた低温衝撃性と耐熱性が得られ、さらに成分(C)により離型性を得ることができる。
また、成分(C)のスチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体は、前記特許文献1で用いられているスチレン・ブタジエンブロック共重合体の水素添加物(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体(SEBS))と比較して結晶化せず柔軟な特性があり、さらに成分(C)のミッドブロック部のエチレン・プロピレン部が、よりガラス転移温度が低い成分(B)との相溶性が高いことから、より優れた低温衝撃性が得られると推察される。
【0028】
[成分(A):プロピレン系重合体]
成分(A)のプロピレン系重合体とは、全単量体単位に対するプロピレン単位の含有率が50質量%よりも多い重合体である。即ち、成分(A)は、プロピレン単位の含有率が50質量%を超え100質量%以下であるポリプロピレン系樹脂である。
【0029】
成分(A)のプロピレン系重合体としては、その種類は特に制限されず、プロピレン単独重合体であってもよく、プロピレン単位に加え、プロピレン以外のα-オレフィン単位(ただし、ここでいう「α-オレフィン」には、エチレンも含むものとする。)やα-オレフィン以外の単量体単位を含有するプロピレン系共重合体であってもよい。プロピレン系共重合体は、プロピレン系ランダム共重合体、プロピレン系ブロック共重合体等のいずれも使用することができる。
成分(A)において、プロピレン系重合体成分は剛性、耐熱性に寄与する。
【0030】
プロピレン系共重合体に含まれるプロピレン以外のα-オレフィン単位としては、エチレン及び炭素数4~20のα-オレフィン単位を挙げることができる。炭素数4~20のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ヘキセン、2,2,4-トリメチル-1-ペンテン等が挙げられる。プロピレン以外のα-オレフィンとしては、好ましくは、エチレン及び炭素数4~10のα-オレフィンであり、より好ましくは、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンである。
【0031】
成分(A)のプロピレン系重合体としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-ヘキセン共重合体、プロピレン・1-オクテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ヘキセン共重合体、プロピレン・エチレン・1-オクテン共重合体等を例示することができる。好ましくは、プロピレン単独重合体、エチレン及び炭素数4~10のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種の単量体とプロピレンとの共重合体である。
【0032】
低温耐衝撃性及び高温強度の観点から特に好ましい成分(A)は、第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でエチレン・プロピレン共重合体を重合して得られるポリプロピレン系ブロック共重合体である。
【0033】
成分(A)のプロピレン単位の含有率は、成分(A)全体に対し、50質量%を超え100質量%以下であり、好ましくは70~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%である。成分(A)のプロピレン単位の含有率が前記下限値以上であることにより、耐熱性及び剛性が良好となる傾向にある。なお、成分(A)中のプロピレン単位やエチレン等のα-オレフィン単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0034】
成分(A)のメルトフローレートは、得られる成形体の外観の観点から、好ましくは1g/10分以上であり、より好ましくは5g/10分以上であり、更に好ましくは10g/10分以上、特に好ましくは20g/10分以上である。また、成分(A)のメルトフローレートは、通常150g/10分以下であり、引張強度の観点から、好ましくは130g/10分以下であり、より好ましくは100g/10分以下である。成分(A)のメルトフローレート(MFR)は、ISO 1133に従って、測定温度230℃、測定荷重21.18Nの条件で測定される。
【0035】
成分(A)が異なるMFRを有するプロピレン系重合体のブレンド物の場合、成分(A)のMFRは、以下の式(I)によって計算することができる。
log(MFRブレンド)=w1log(MFR1)+w2log(MFR2)+…
……+wilog(MFRi)+…+wnlog(MFRn) …(I)
【0036】
式(I)中、wiは構成成分iの質量分画、MFRiは構成成分iのMFR、nはブレンド中の構成成分の総数である。w1+w2+…+wi+…wn=1である。
【0037】
成分(A)のプロピレン系重合体の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた多段重合法を挙げることができる。該多段重合法には、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等を用いることができ、これらを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0038】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる成分(A)は市販の該当品を用いることも可能である。成分(A)におけるプロピレン系重合体としては下記に挙げる製造者等から調達可能であり、適宜選択することができる。入手可能な市販品としては、プライムポリマー社のPrimPolypro(登録商標)、住友化学社の住友ノーブレン(登録商標、サンアロマー社のポリプロピレンブロックコポリマー、日本ポリプロ社のノバテック(登録商標)PP、LyondellBasell社のMoplen(登録商標)、HifaxX(登録商標)、ExxonMobil社のExxonMobilPP、FormosaPlastics社のFormolene(登録商標)、Borealis社のBorealisPP、LGChemical社のSEETECPP、A.Schulman社のASIPOLYPROPYLENE、INEOSOlefins&Polymers社のINEOSPP、Braskem社のBraskemPP、SAMSUNGTOTALPETROCHEMICALS社のSumsungTotal、Sabic社のSabic(登録商標)PP、TOTALPETROCHEMICALS社のTOTALPETROCHEMICALSPolypropylene、SK社のYUPLENE(登録商標)等がある。
【0039】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)の1種のみを含んでいてもよく、単量体単位組成や物性等の異なるものの2種以上を含んでもよい。
【0040】
[成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体]
エチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレン単位を主成分とし、α-オレフィン単位を含有する共重合体である。成分(B)のエチレン単位の含有率は、成分(B)のブロッキングによる融着防止のためには多い方が好ましく、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形したときの低温耐衝撃性の観点では少ない方が好ましい。エチレン・α-オレフィン共重合体におけるエチレン単位の含有率は50質量%を超え、より好ましくは55質量%以上であり、更に好ましくは60質量%以上である。一方、成分(B)のエチレン単位の含有率の上限は、80質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下である。よって、成分(B)のα-オレフィン単位の含有率は20質量%以上50質量%未満であることが好ましい。エチレン単位の含有率が上記範囲内であると、他の成分との親和性が良好となって熱可塑性エラストマー組成物の微分散性が向上する傾向にある。
なお、成分(B)におけるエチレン単位の含有率及びα-オレフィン単位の含有率は、それぞれ赤外分光法により求めることができる。
【0041】
エチレン・α-オレフィン共重合体を構成するα-オレフィンは限定されないが、具体的には、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセンが挙げられる。これらのα-オレフィン単位は、成分(B)中に1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。これらの中でも、α-オレフィンとしては炭素数が4~8であるものが好ましく、1-オクテンがより好ましい。エチレン・α-オレフィン共重合体がα-オレフィン単位として1-オクテン単位を含むことで引張強さが良好となる。
【0042】
エチレン・α-オレフィン共重合体としては、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体、エチレン・α-オレフィンブロック共重合体等が挙げられ、これらの中でもエチレン・α-オレフィンブロック共重合体、特にエチレンからなる重合体ブロックとエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックとを含むエチレン・α-オレフィンブロック共重合体が好ましい。
【0043】
本発明で用いる成分(B)のエチレン・α-オレフィン共重合体は、110~125℃に結晶溶融ピークを有し、かつその結晶融解熱量が20~60J/gであることが好ましい。ここで、成分(B)において、110~125℃に結晶融解ピークを有し、その結晶融解熱量が20~60J/gであることは、成分(B)が、結晶性のエチレンからなる重合体ブロックを有することを示す指標である。成分(B)の結晶融解熱量は、高温強度の観点から好ましくは20J/g以上であり、より好ましくは30J/g以上である。また、成分(B)の結晶融解熱量は、低温耐衝撃性の観点から好ましくは60J/g以下であり、より好ましくは50J/g以下である。
【0044】
成分(B)は、結晶性を有するエチレンからなる重合体ブロックを有することに加え、エチレン・α-オレフィン共重合体ブロックによる非晶性を有することが好ましい。この非晶性はガラス転移温度により表すことができ、成分(B)のDSC法によるガラス転移温度は好ましくは-80℃以上であり、より好ましくは-75℃以上であり、一方、好ましくは-50℃以下であり、より好ましくは-60℃以下である。成分(B)がこのような構造を有することにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に高温強度及び低温耐衝撃性の効果が付与される。
【0045】
成分(B)の結晶融解ピーク、結晶融解熱量、及びガラス転移温度のそれぞれの値は示差走査熱量測定法(DSC)によって得られる。結晶融解ピークは、示差走査熱量計により得られる融解ピークのトップ温度である。結晶融解熱量は、示差走査熱量計により得られる融解ピークの面積から求めることができる。また、ガラス転移温度は、示差走査熱量計によって得られるベースラインと変曲点での接線の交点である。
これらの値を求める際の具体的な測定条件は次の通りである。
即ち、サンプル量10mgを採り、DSCを用い、25℃から200℃まで100℃/分の昇温速度で融解させ、200℃で1分間保持した後、-130℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、-130℃で10分間保持した後、10℃/分の昇温速度で200℃まで測定して求める。
【0046】
成分(B)におけるエチレンからなる重合体ブロックは、エチレン単位を主体とするものであるが、エチレン単位に加え他の単量体単位を有していてもよい。ここで「主体とする」とは、全体の50質量%以上、特に60~100質量%を占めることをさす。他の単量体としては、1-プロピレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-へキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンを例示することができる。好ましくは、1-プロピレン、1-ブテン、1-へキセン、1-オクテンである。成分(B)におけるエチレンからなる重合体ブロックがこれらの末端の炭素原子に炭素間二重結合を有する炭素数3~8のα-オレフィン単位を含む場合、α-オレフィンの1種のみがエチレンと共重合したものであっても、2種以上がエチレンと共重合したものであってもよい。
【0047】
成分(B)におけるエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックのα-オレフィンとしては、1-プロピレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-へキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンを例示することができる。好ましくは、1-プロピレン、1-ブテン、1-へキセン、1-オクテンである。
成分(B)におけるエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックは、エチレン単位及びα-オレフィン単位に加え、非共役ジエンに基づく単量体単位(非共役ジエン単位)等の他の単量体単位を有していてもよい。該非共役ジエンとしては、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエンのような鎖状非共役ジエン;シクロへキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネンのような環状非共役ジエン等が挙げられる。好ましくは、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエンである。
【0048】
また、成分(B)が非共役ジエン単位等の他の単量体単位を有する場合、その含有率は成分(B)全体に対して、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。非共役ジエン単位の含有率についても、赤外分光法により求めることができる。
【0049】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる成分(B)として具体的には、エチレンからなる重合体ブロックと、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、エチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・プロピレン・1-オクテン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックとを含むエチレン系ブロック共重合体を例示することができる。
成分(B)中に、これらのエチレン・α-オレフィン共重合体ブロックは1種で用いられてもよく、2種以上組み合わせ用いられてもよい。これらの中でも、成分(B)は、エチレンからなる重合体ブロックとエチレン・1-オクテン共重合体ブロックとを含むエチレン系ブロック共重合体であることが最も好ましい。
【0050】
成分(B)のメルトフローレートは限定されないが、通常、10g/10分以下であり、強度の観点から、好ましくは8.0g/10分以下、より好ましくは5.0g/10分以下、更に好ましくは3.0g/10分以下である。また、成分(B)のメルトフローレートは、通常0.01g/10分以上であり、流動性の観点から、好ましくは0.05g/10分以上、より好ましくは0.10g/10分以上である。成分(B)のメルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238に従い、測定温度190℃、測定荷重21.18Nの条件で測定される。
【0051】
成分(B)の密度は低温耐衝撃性の観点から、好ましくは0.880g/cm以下であり、より好ましくは0.875g/cm以下である。一方、その下限については特に制限されないが、通常0.850g/cm以上である。成分(B)の密度は、ISO 1183-A法に従って測定温度23℃で測定される。
【0052】
成分(B)は、特表2007-529617号公報、特表2008-537563号公報、特表2008-543978号公報に開示された方法に従って合成することができる。例えば、第1のオレフィン重合触媒と、同等の重合条件下で第1のオレフィン重合触媒によって調製されるポリマーとは化学的性質又は物理的性質が異なるポリマーを調製可能な第2のオレフィン重合触媒と、鎖シャトリング剤とを組み合わせて得られる混合物又は反応生成物を含む組成物を準備し、上記エチレンとα-オレフィンとを、付加重合条件下で、該組成物と接触させる工程を経て製造することができる。
【0053】
成分(B)の重合には、好ましくは連続溶液重合法が適用される。連続溶液重合法は、触媒成分、鎖シャトリング剤、モノマー類、並びに場合により溶媒、補助剤、捕捉剤および重合助剤が反応ゾーンに連続的に供給され、ポリマー生成物はそこから連続的に取り出される。また、ブロックの長さは、前記触媒の比率および種類、鎖シャトリング剤の比率および種類、重合温度等を制御することによって変化させることができる。
【0054】
なお、成分(B)のオレフィン系ブロック共重合体の合成方法において、その他の条件は特表2007-529617号公報、特表2008-537563号公報、特表2008-543978号公報に開示されている。
【0055】
また、成分(B)は市販の該当品を用いることもでき、例えばダウ・ケミカル社製Engage(登録商標)-XLTシリーズやINFUSE(登録商標)シリーズが挙げられる。なお、成分(B)のうち、エチレン・オクテン共重合体ブロックを有するものについては、INFUSE(登録商標)シリーズが2007年に、Engage(登録商標)-XLTシリーズが2011年に、それぞれダウ・ケミカル社において商業的に生産開始されるまで、製品として入手することができなかったものである。
【0056】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(B)の1種のみを含んでいてもよく、単量体単位組成や物性等の異なるものの2種以上を含んでいてもよい。
【0057】
[成分(C):スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる成分(C)は、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の共役ジエンがイソプレンであるスチレン・イソプレンブロック共重合体の水素添加物であるスチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)である。
【0058】
成分(C)のスチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体のスチレン単位含有率は特に制限されないが、強度と耐熱性の観点から、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。また、スチレン単位含有率は、柔軟性と耐衝撃性の観点から、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0059】
成分(C)におけるイソプレンブロック中の1,2-結合および3,4-結合由来の二重結合の水素添加率は、85%以上、好ましくは90%以上である。1,2-結合および3,4-結合由来の二重結合の水素添加率が85%以上であれば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の耐候性および耐熱性が良好となる傾向がある。
【0060】
成分(C)のスチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、離型性の観点から、好ましくは150,000以上であり、より好ましくは180,000以上、更に好ましくは200,000以上である。また、Mwは流動性の観点から、500,000以下が好ましく、より好ましくは450,000以下、更に好ましくは400,000以下、特に好ましくは350,000以下である。
【0061】
成分(C)のMwはゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法(GPC法)により測定されるものであり、例えば、下記条件により測定することができる。
機器:東ソー株式会社製「HLC-8220GPC(R)」
カラム:東ソー株式会社製「TSKgelSuperHM-M(6.0mmI.D×15cm×2+G)」
検出器:示差屈折率検出器(RI/内蔵)
溶媒:クロロホルム
温度:40℃
流速:0.25mL/分
注入量:0.1質量%×20μL
較正試料:単分散ポリスチレン
較正法:ポリスチレン換算
較正曲線近似式:3次式(双曲線)
排除限界設定時間:12分
【0062】
成分(C)の密度は成形性の観点から、好ましくは1.00g/cm以下であり、より好ましくは0.95g/cm以下である。一方、その下限については特に制限されないが、通常0.85g/cm以上である。成分(C)の密度は、ASTM D792に従って測定温度23℃で測定される。
【0063】
成分(C)の製造方法としては、例えば、特公昭40-23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒を用いて不活性溶媒中でスチレン・イソプレンブロック共重合体を合成し、次いで、例えば、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特開昭59-133203号公報、特開昭60-79005号公報に記載された方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下に水素添加する方法を挙げることができる。
【0064】
成分(C)のスチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体の市販品としては、例えば、株式会社クラレ製「セプトン(登録商標)」、クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G」が挙げられる。
【0065】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(C)の1種のみを含んでいてもよく、単量体単位組成や物性等の異なるものの2種以上を含んでいてもよい。
【0066】
[含有割合]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(B)の含有量は、得られる成形体の低温特性、耐熱性の観点から、成分(A)100質量部に対して通常5質量部以上であり、好ましくは8質量部以上、より好ましくは14質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。また、成分(B)の含有量は、得られる成形体の耐熱性の観点から、成分(A)100質量部に対して通常200質量部以下であり、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは85質量部以下である。
【0067】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(C)の含有量は、得られる成形体の低温耐衝撃性と耐熱性、低光沢性の観点から、成分(A)100質量部に対して通常5質量部以上であり、好ましくは8質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上である。また、成分(C)の含有量は、得られる成形体の剛性の観点から、成分(A)100質量部に対して通常100質量部以下であり、好ましくは95質量部以下、より好ましくは90質量部以下、更に好ましくは85質量部以下である。
【0068】
[その他の成分]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、上記の成分以外に本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、各種目的に応じて以下の添加剤、無機フィラー、有機フィラーや成分(A)~(C)以外の樹脂(以下、「その他の樹脂」と称する。)等の任意成分を配合することができる。
【0069】
添加剤としては、着色剤、酸化防止剤、耐候助剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、難燃剤、分散剤、帯電防止剤、導電性付与剤、金属不活性剤、分子量調整剤、防菌剤、蛍光増白剤等の各種添加物を挙げることができる。これらの添加剤は通常、成分(A)~(C)の合計100質量部に対し、それぞれの添加剤を0.01~2質量部の範囲で配合して用いることができる。
【0070】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が含有し得るその他の樹脂としては、ポリエステルエラストマー、ウレタンエラストマー、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、スチレン樹脂(ただし、成分(C)に該当するものを除く。)、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂(ただし、成分(A),(B)に該当するものを除く。)、前記以外の各種エラストマー等が挙げられる。上記で挙げたその他の樹脂は1種のみを含有しても2種以上を含有してもよい。
【0071】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成形性を向上させる観点から更に炭化水素系ゴム用軟化剤を含有してもよい。
【0072】
炭化水素系ゴム用軟化剤(以下「成分(G)」と記載する場合がある。)の重量平均分子量(Mw)は、成形体のべたつき防止の観点から、好ましくは300以上、より好ましくは500以上である。また、成分(G)の重量平均分子量(Mw)は成形性の観点から、好ましくは2,000以下、より好ましくは1,500以下である。ここで、成分(G)の重量平均分子量(Mw)は成分(C)におけると同様にゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法(GPC法)により測定される。
【0073】
成分(G)は、一般に、芳香族環を有する化合物、ナフテン環を有する化合物及びパラフィン環を有する化合物の混合物であって、パラフィン鎖炭素数が全炭素中の50%以上を占めるものがパラフィン系オイルと呼ばれ、ナフテン環炭素数が30~45%のものがナフテン系オイルと呼ばれ、芳香族炭素数が30%より多いものが芳香族オイルと呼ばれて区分されている。これらの中では耐候性の点からパラフィン系オイルを用いることが好ましい。
【0074】
パラフィン系オイルとしては、40℃における動粘度が20~800cSt(センチストークス)であることが好ましく、50~600cStであることがより好ましい。また、パラフィン系オイルの流動点は通常0~-40℃、好ましくは0~-30℃である。また、パラフィン系オイルの引火点(COC)は通常200~400℃であり、好ましくは250~350℃である。
【0075】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(G)の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
【0076】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が成分(G)を含む場合、成分(G)の含有量は、成形性の観点から、成分(C)100質量部に対し、好ましくは1質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上であり、更に好ましくは10質量部以上である。また、成分(G)の含有量は、得られる成形体の高温強度、剛性の観点から、成分(C)100質量部に対し、好ましくは200質量部以下であり、より好ましくは125質量部以下であり、更に好ましくは110質量部以下である。
【0077】
[熱可塑性エラストマー組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)~(C)やその他の成分を通常の押出機やバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブラベンダー等を用いて常法で混練して製造することができる。これらの製造方法の中でも、押出機、特に二軸押出機を用いることが好ましい。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を押出機等で混練して製造する際には通常160~240℃、好ましくは180~220℃に加熱した状態で溶融混練することによって製造することができる。更に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に、下記の架橋剤や架橋助剤を配合して動的に熱処理することにより、部分的に架橋させてもよい。
【0078】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を部分的に架橋させるための架橋剤としては、有機過酸化物を用いることが好ましく、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(パーオキシベンゾイル)-3-ヘキシン、ジクミルパーオキサイド等を挙げることができる。
【0079】
これらの有機過酸化物により部分的に架橋させる際に用いられる架橋助剤としては、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、トルイレンビスマレイミド、P-キノンジオキシム、p-ジニトロソベンゼン、1,3-ジフェニルグアニジン、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等のラジカル重合性の炭素間二重結合を有する化合物と、成分(B)の炭素直鎖の部分と反応する官能基をもった化合物を挙げることができる。
【0080】
[熱可塑性エラストマー組成物及び成形品の物性]
<低温耐衝撃性>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、低温耐衝撃性として、以下の特性(i)を満足することが好ましい。
特性(i):ISO 180を参照し、前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ4mm、幅10mm、長さ80mmのノッチ付きIZOD衝撃強度測定用の試験片を用いて-45℃雰囲気下にて測定したアイゾット衝撃強度(以下、「ノッチ付きIZOD衝撃強度」と称す場合がある。)が60kJ/m以上である。
なお、上記試験片の具体的な製造方法及び試験方法は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
特性(i)のノッチ付きIZOD衝撃強度は、60kJ/m以上であることが好ましく、65kJ/m以上であることがより好ましく、70kJ/m以上であることが更に好ましく、75kJ/m以上であることが特に好ましい。一方、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のノッチ付きIZOD衝撃強度の上限は特に制限されないが、通常150kJ/m以下である。
【0081】
<耐熱試験後の低温耐衝撃性>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、耐熱性の指標となる耐熱試験後の低温耐衝撃性として、以下の特性(ii)を満足することが好ましい。
特性(ii):ISO 180を参照し、前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ4mm、幅10mm、長さ80mmのノッチ付きIZOD衝撃強度測定用の試験片を110℃で1000時間の条件で加熱した後に、-45℃雰囲気下にて測定したアイゾット衝撃強度(耐熱試験後のノッチ付きIZOD衝撃強度)が60kJ/m以上である。
なお、上記試験片の具体的な製造方法及び試験方法は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
特性(ii)の耐熱試験後のノッチ付きIZOD衝撃強度は、60kJ/m以上であることが好ましく、61kJ/m以上であることがより好ましく、62kJ/m以上であることが更に好ましく、63kJ/m以上であることが特に好ましい。一方、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の耐熱試験後のノッチ付きIZOD衝撃強度の上限は特に制限されないが、通常150kJ/m以下である。
【0082】
<表面光沢度>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、離型性の指標としての表面光沢度が、以下の特性(iii)を満足することが好ましい。
特性(iii):前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ2mm、幅120mm、長さ80mmの試験片を用いてISO 2813に従って測定した入射角60°の光沢度が60%以下である。
なお、上記試験片の具体的な製造方法及び試験方法は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
特性(iii)の表面光沢度は、60%以下であることが好ましく、60%未満であることがより好ましく、55%以下であることが更に好ましく、50%以下であることが特に好ましい。光沢度が上記上限値以下であると、離型性に優れる傾向にある。
【0083】
<耐熱試験後の耐黄変性>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、耐熱試験後の耐黄変性として、以下の特性(iv)を満足することが好ましい。
特性(iv):前記熱可塑性エラストマー組成物を、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて射出成形して得られる、厚さ2mm、幅120mm、長さ80mmの試験片の表面をASTM D1925を参照して測定したYI値と、前記試験片を110℃で1000時間の条件で加熱した後に該試験片の表面をASTM D1925を参照して測定したYI値との差ΔYIが40以下である。
なお、上記試験片の具体的な製造方法及び試験方法は、後掲の実施例の項に記載される通りである。
耐熱試験後の耐黄変性の指標としての特性(iv)のΔYIは40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましい。
【0084】
〔成形体〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を通常の射出成形法、又は、必要に応じて、ガスインジェクション成形法、射出圧縮成形法、ショートショット発泡成形法等の各種成形法を用いて成形体とすることができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、特にエアバッグ収納カバー用熱可塑性エラストマー組成物として好適である。
【0085】
〔エアバッグ収納カバー〕
本発明のエアバッグ収納カバーは、下記成分(A)~(C)を含む熱可塑性エラストマー組成物よりなるものである。
成分(A):プロピレン系重合体
成分(B):エチレン・α-オレフィン共重合体
成分(C):スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体
【0086】
本発明のエアバッグ収納カバーを構成する熱可塑性エラストマー組成物としては、上述の本発明の熱可塑性エラストマー組成物が好ましい。
【0087】
前記熱可塑性エラストマー組成物を、通常の射出成形法、又は、必要に応じて、ガスインジェクション成形法、射出圧縮成形法、ショートショット発泡成形法等の各種成形法を用いて成形することで、本発明のエアバッグ収納カバーを製造することができる。
特に、本発明のエアバッグ収納カバーは射出成形により製造することが好ましく、射出成形を行う際の成形条件は以下の通りである。
エアバッグ収納カバーを射出成形する際の成形温度は一般に150~300℃であり、好ましくは160~280℃である。射出圧力は通常、5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。また、金型温度は通常0~80℃であり、好ましくは20~60℃である。
【0088】
このようにして得られたエアバッグ収納カバーは、自動車等の高速移動体が衝突事故等の際に、その衝撃や変形を感知することにより作動し、膨張展開するエアバッグシステムのエアバッグ収納カバーとして好適に用いられる。
本発明のエアバッグ収納カバーは、運転席用エアバッグ収納カバー、助手席用エアバッグ収納カバー、歩行者用エアバッグ収納カバー、ニー・エアバッグ収納カバー、サイド・エアバッグ収納カバー、カーテン・エアバッグ収納カバー等のいずれにも好適に用いることができる。
【実施例0089】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0090】
<原料>
[成分(A)]
(A-1):プロピレン系ブロック共重合体(第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でエチレン・プロピレン共重合体を重合して得られたもの)
MFR(ISO 1133):65g/10分(測定条件:230℃、荷重21.18N(2.16kgf))
プロピレン単独重合体成分の含有率:92質量%
エチレン・プロピレン共重合体成分の含有率:8質量%
エチレン・プロピレン共重合体成分中のエチレン単位の含有率:43質量%
(A-2):プロピレン系ブロック共重合体(第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でエチレン・プロピレン共重合体を重合して得られたもの)
MFR(ISO 1133):10g/10分(測定条件:230℃、荷重21.18N(2.16kgf))
プロピレン単独重合体成分の含有率:84質量%
エチレン・プロピレン共重合体成分の含有率:16質量%
エチレン・プロピレン共重合体成分中のエチレン単位の含有率:56質量%
(A-3):プロピレン系ブロック共重合体(第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でエチレン・プロピレン共重合体を重合して得られたもの)
LyondellBasell社製Adflex(登録商標)Q300F
MFR(ISO 1133):0.65g/10分(測定条件:230℃、荷重21.18N(2.16kgf))
プロピレン単独重合体成分の含有率:39質量%
エチレン・プロピレン共重合体成分の含有率:61質量%、
エチレン・プロピレン共重合体成分中のエチレン単位の含有率:58質量%
(A-4):プロピレン系ブロック共重合体(第1工程でプロピレン単独重合体を重合し、続いて第2工程でエチレン・プロピレン共重合体を重合して得られたもの)
LyondellBasell社製Hifax(登録商標)1956A
MFR(ISO 1133):1.1g/10分(測定条件:230℃、荷重21.18N(2.16kgf))
プロピレン単独重合体成分の含有率:70質量%
エチレン・プロピレン共重合体成分の含有率:30質量%、
エチレン・プロピレン共重合体成分中のエチレン単位の含有率:65質量%
【0091】
[成分(B)]
(B-1):エチレン・1-オクテンブロック共重合体(エチレンからなる重合体ブロックとエチレン・1-オクテン共重合体のブロックとを有するブロック共重合体)
ダウ・ケミカル社製Engage(登録商標)XLT8677
結晶融解ピーク温度:119℃
結晶融解熱量:37J/g
ガラス転移温度(DSC法):-67℃
MFR(ASTM D1238):0.5g/10分
(測定条件:190℃、荷重21.18N(2.16kgf))(カタログ値)
密度(ISO 1183-A法):0.872g/cm(測定温度:23℃)
(B-2):エチレン・1-オクテンランダム共重合体
ダウ・ケミカル社製Engage(登録商標)8150
結晶融解ピーク温度:110~125℃にピーク無し
結晶融解熱量:0J/g
MFR(ASTM D1238):0.5g/10分
(測定条件:190℃、荷重21.18N(2.16kgf))(カタログ値)
密度(ISO 1183-A法):0.868g/cm(測定温度:23℃)
(B-3):エチレン・1-オクテンランダム共重合体
ダウ・ケミカル社製Engage(登録商標)8180
結晶融解ピーク温度:110~125℃にピーク無し
結晶融解熱量:0J/g
MFR(ASTM D1238):0.5g/10分
(測定条件:190℃、荷重21.18N(2.16kgf))(カタログ値)
密度(ISO 1183-A法):0.863g/cm(測定温度:23℃)
【0092】
[成分(C)]
(C-1):スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体
株式会社クラレ社製セプトン(登録商標)2005
スチレン単位含有率:20質量%(カタログ値)
重量平均分子量(Mw):295,000
(C-2):スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体
株式会社クラレ社製セプトン(登録商標)2006
スチレン単位含有率:35質量%(カタログ値)
重量平均分子量(Mw):276,000
【0093】
[成分(D)]
(D-1):スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体
TSRC社製TAIPOL(登録商標)6151
スチレン単位含有率:30質量%(カタログ値)
重量平均分子量(Mw):260,000
【0094】
[成分(E)]
(E-1):スチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレンブロック共重合体
旭化成社製タフテック(商標登録)P1083
スチレン単位含有率:20質量%(カタログ値)
重量平均分子量(Mw):95,000
【0095】
[成分(F)]
(F-1):スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体
LCY社製Globalprene(商標登録)3411
スチレン単位含有率:30質量%(カタログ値)
重量平均分子量(Mw):240,000
【0096】
[成分(G)]
(G-1):パラフィン系オイル
出光興産社製プロセスオイルPW90
重量平均分子量(Mw):770
40℃の動粘度:95.54cSt
流動点:-15℃
引火点:272℃
【0097】
<評価方法>
1) 低温耐衝撃性(ノッチ付きIZOD衝撃強度)
得られた熱可塑性エラストマー組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友電装社製「SE180」)により、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて、IZOD衝撃強度測定用の試験片として、厚さ4mm×幅10mm×長さ80mmに成形し、試験片を得た。その後、ダンベルにノッチを入れ(ノッチの寸法と評価方法はISO 180(2013年)を参照)、温度-45℃でIZOD衝撃強度を測定した。IZOD衝撃値が大きいものほど、低温耐衝撃性に優れるものと評価される。
【0098】
2) 耐熱性(耐熱試験後のIZOD衝撃強度)
上記1)で得られたノッチ付き試験片をオーブン(エスペック社製「パーフェクトオーブン」)に入れ、110℃で1000時間静置した後、試験片を取り出し、常温環境下に静置する耐熱試験を行って耐熱試験用試験片とし、この試験片について、上記1)と同様にして温度-45℃でIZOD衝撃強度を測定した。耐熱試験後のIZOD衝撃値が大きいものほど、耐熱性に優れるものと評価される。
【0099】
3) 耐熱性(耐黄変色)
得られた熱可塑性エラストマー組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友電装社製「SE180」)により、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて、成形外観確認用試験片(厚さ2mm×幅120mm×長さ80mmのシート)を成形した後、日本電色工業株式会社製の色彩色差計(ZE7700)を用い、ASTM D1925を参照し、初期シートと、上記2)におけると同様に耐熱試験を行った後の耐熱シートの黄変色の差(ΔYI=(耐熱試験後の耐熱シートのYI値)-(初期サンプルのYI値))を測定した。ΔYI値が低いほど、耐熱性に優れるものと評価される。
【0100】
4) 離型性(表面光沢度)
得られた熱可塑性エラストマー組成物を用いて、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友電装社製「SE180」)により、射出圧力100MPa、射出速度27mm/s、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃にて、成形外観確認用の試験片(厚さ2mm×幅120mm×長さ80mmのシート)を成形した後、日本電色工業株式会社製の光沢計(VG2000)を用いシート表面の光沢を測定した。シート表面への入射角、反射角を共に60゜としたときの光沢度が低いものほど離型性に優れるものと評価される。
【0101】
<実施例/比較例>
[実施例1]
(A-1)75質量部、(A-4)25質量部、(B-1)82質量部、(C-2)11質量部、成分(A)~(G)の合計100質量部に対して酸化防止剤0.2質量部(内訳(BASFジャパン社製商品名イルガノックス(登録商標)1010)0.1質量部と(BASFジャパン社製商品名イルガフォス(登録商標)168)0.1質量部)、耐候助剤(BASFジャパン社製商品名チヌビン(登録商標)XT855FF)0.2質量部及び着色剤(黒色顔料、カーボン濃度40質量%品)1.5質量部をヘンシェルミキサーにて1分間ブレンドし、同方向2軸押出機(神戸製鋼製「TEX30α」、L/D=45、シリンダブロック数:13)へ20kg/hrの速度で投入し、180~210℃の範囲で昇温させ、溶融混練を行い、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて、前記1)、2)、4)の評価を行った。それらの評価結果を表-1に示す。
【0102】
[実施例2~10及び比較例1~6]
表-1及び表-2に示す配合にした以外は実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た(ただし、酸化防止剤、耐候助剤及び着色剤の配合量の記載については表-1においては省略した。)。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて、実施例1と同様に評価した。評価結果を表-1及び表-2に示す。
【0103】
[実施例11及び比較例7]
表-3に示す配合にした以外は実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー組成のペレットを得た(ただし、着色剤(黒色顔料、カーボン濃度40質量%品)は使用せず、酸化防止剤、耐候助剤及び着色剤の配合量の記載については表-2においては省略した。)。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて、前記3)~4)の評価を行った。評価結果を表-3に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
[評価結果の考察]
表-1に示す通り、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に該当する実施例1~10の熱可塑性エラストマー組成物は、低温耐衝撃性、耐熱性、離型性のいずれも優れる結果であった。
【0108】
表-2に示す通り、比較例1、5、6は、成分(C)の代わりに成分(D)、又は成分(F)を使用した例であり、耐熱性が劣る結果であった。
比較例2、3、4は成分(C)の代りに、成分(E)を使用した例であり、光沢度が高く、離型性に劣る結果であった。これらの中でも、成分(E)の配合割合が多い比較例4は低温耐衝撃性にも劣る結果であった。
【0109】
表-3に示す通り、本発明の熱可塑性エラストマー組成物に該当する実施例11の熱可塑性エラストマー組成物は、離型性と耐熱性に優れる結果であった。
比較例7は成分(C)の代わりに成分(F)を使用した例であり、耐熱性に劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、低温耐衝撃性、耐熱性及び離型性に優れ、各種用途に好適に用いることができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は例えば、エアバッグ収納カバー、インストルメントパネル、センターパネル、センターコンソールボックス、ドアトリム、ピラー、アシストグリップ、ハンドル等の自動車内装部品、マッドガード・クロメット等の自動車外装部品、家電部品、建材、家具等として有用である。これらの中でも本発明の熱可塑性エアストマー組成物はエアバッグ収納カバーとして特に有用であり、このエアバッグ収納カバーの中でも、例えば、自動車等の高速移動体が衝突事故等の際に、その衝撃や変形を感知することにより作動し、膨張展開によって乗員を保護するエアバッグシステムのエアバッグ収納カバーとして好適である。