IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118184
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】モールドパウダー
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20240823BHJP
   C21C 7/076 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B22D11/108 F
C21C7/076 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024468
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】三島 和晃
(72)【発明者】
【氏名】田島 恭平
【テーマコード(参考)】
4E004
4K013
【Fターム(参考)】
4E004MB14
4K013AA09
4K013EA01
4K013FA06
(57)【要約】
【課題】γ単相凝固となる組成の鋼種に対して高い潤滑性と緩冷却能とを安定的に両立させたモールドパウダーを提供する。
【解決手段】質量%で、MgO:8~13%、Na2O:15~20%、Li2O:3%以下、ZrO2:2.5~5.0%、を含有し、塩基度(T.CaO/SiO2)が0.45以上0.65以下であり、1300℃における粘度が0.2Pa・s以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
MgO:8~13%、
Na2O:15~20%、
Li2O:3%以下、
ZrO2:2.5~5.0%、
を含有し、
塩基度(T.CaO/SiO2)が0.45以上0.65以下であり、
1300℃における粘度が0.2Pa・s以下であることを特徴とするモールドパウダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い潤滑性と緩冷却能とを両立させたモールドパウダーに関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属の連続鋳造において、鋳型内の溶融金属表面を被覆するように連続鋳造用モールドパウダーが供給される。以下、このような連続鋳造用モールドパウダーを単に「モールドパウダー」と呼ぶ。鋳型内に供給されたモールドパウダーは、溶融金属からの加熱によって溶融金属表面に溶融層を形成し、溶融したモールドパウダーは溶鋼のメニスカス部から鋳型内壁に沿って鋳型と凝固シェルとの間隙へ流入し、フィルムを形成する。
【0003】
モールドパウダーは、溶融金属の連続鋳造において以下のような特性を具備することが要求される。
まず、第1に、溶鋼湯面上にてモールドパウダーが溶融して形成された溶融モールドパウダー層およびその上の未溶融のモールドパウダー層が溶鋼湯面を被覆することにより、空気との接触を遮断するため、溶鋼の再酸化を防止して保温する効果が得られる。
第2に、溶融したモールドパウダーは、鋳型と凝固シェルとの間に流入して潤滑剤として働く必要があるため、モールドパウダーが常に適当量供給され、モールドパウダーの消費速度に合わせて、適正量の溶融モールドパウダープール厚となる溶融速度を有していることが要求される。
第3に、溶融モールドパウダー層が溶鋼中を浮上してきた非金属介在物を吸収し、非金属介在物を吸収することによって溶融モールドパウダーの物性(粘度、溶融温度、凝固温度など)の変化が小さいことが要求される。
第4に、溶融したモールドパウダーが鋳型と凝固シェルとの間に流れ込み、均一なパウダーフィルムを形成して、パウダーフィルムが鋳型と凝固シェルとの間で潤滑作用を有するとともに、鋳造する鋼の特性によっては凝固シェルの緩冷却能が要求されることもある。
第5に、溶融したモールドパウダーが適度な粘度、界面張力を持ち、溶融したモールドパウダーが溶鋼中へ巻き込まれないことが必要である。
【0004】
一方で、モールドパウダーを設計する際に、上述したこれらの特性は、互いに相反するトレードオフの関係になることがある。例えば、緩冷却能を高めるためには、パウダーフィルム中で結晶を晶出または析出(以下、晶析出)させることが有効であるが、結晶が晶析出し過ぎた場合には、潤滑性が損なわれることがある。
【0005】
そこで、モールドパウダーの緩冷却能と潤滑性を高める方法として、様々な技術が提案されている。特許文献1には、カスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO2・CaF2)結晶を晶析出させることで、中炭素鋼等の鋼の縦割れを抑制する技術が開示されている。特許文献2には、アケルマナイト(Akermanite:2CaO・MgO・2SiO2)結晶を晶析出させることで、モールドパウダーの塩基度やF含有率を高めることなく、粘度を適正に調整しながら緩冷却能を維持する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、コンベイト(Combeite:Na2O・2CaO・3SiO2)結晶を晶析出させることで、緩冷却能、潤滑性、およびFによる連続鋳造機の腐食抑制を実現する技術が開示されている。特許文献4には、MgOを含む結晶とFを含む結晶との2種を晶析出させることで、抜熱速度を制御するとともに、パウダーフィルムの剥離性を向上させ、さらに二次冷却帯での冷却速度を向上させ、下工程でのパウダーフィルムによる欠陥を低減させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-320058号公報
【特許文献2】特開2003-326342号公報
【特許文献3】特開2012-218042号公報
【特許文献4】特開2010-5657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、凝固の際にδ相を経由してγ相に変態する組成の鋼種の場合には、δ相からγ相に変態する際に収縮が起こり、モールドパウダーが流入しやすくなる。しかしながら、炭素濃度が0.5質量%以上2.0質量%以下の高炭素鋼などγ単相凝固の組成の鋼種では、δ相を経由しないことからこのような収縮が起こらず、パウダー流入量が低位になりやすい。したがって、単相凝固の組成の鋼種では、高い潤滑性と緩冷却能とを両立させることがより困難となる。
【0009】
特許文献1に記載の方法は、カスピダインが過剰に晶析出してしまうことで液相が少なくなり、より高い潤滑性が求められる高炭素鋼等の鋼種に対しては、鋳型と凝固シェルとの間隙へモールドパウダーが流入しづらくなり、潤滑性が不足する。また、過度な結晶化の抑制について考慮されておらず、潤滑性と緩冷却能との両立という観点から不十分である。また、特許文献2に記載の方法も同様に液相が不足するため、高炭素鋼等の鋼種に対しては、潤滑性と緩冷却能との両立においては不十分である。
【0010】
また、通常のモールドパウダー中に晶析出する結晶の融点が1400-1550℃程度であるのに対し、特許文献3に記載の方法の場合は、コンベイト結晶の融点が約1280℃と低い値であることから、十分な量の結晶を安定的に晶析出させることが困難である。このため、相応の改善効果が認められるものの、高炭素鋼等の鋼種に必要な緩冷却能を安定的に得ることが困難である。さらに、特許文献4に記載の方法は、複数の結晶が晶析出するため、緩冷却能を安定して得ることが困難である。また、塩基度が高すぎるため、高炭素鋼等の鋼種に対しては潤滑性も不十分である。
【0011】
本発明は前述の問題点を鑑み、γ単相凝固となる組成の鋼種に対して高い潤滑性と緩冷却能とを安定的に両立させたモールドパウダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、まず、高炭素鋼等の鋼種では、より高い潤滑性が求められることから、塩基度及び粘度を低下させ、鋳型と凝固シェルとの間隙への流入を容易にして高い潤滑性を確保する必要があると考えた。一方で、緩冷却能を高めるために十分な量の結晶を安定的に晶析出させる必要がある。多くの結晶は塩基度が高い場合に晶析出しやすく、塩基度が低くなると結晶が晶析出しにくくなることから、本発明者らは、高い潤滑性を確保しつつ安定的に晶析出させる方法について鋭意検討を行った。
【0013】
そこで本発明者らは、モンチセライト(Monticellite:CaO・MgO・SiO2)という結晶に着目し、高炭素鋼等の低い鋳造温度に対応する、モールドパウダーの低い凝固温度の領域(凝固温度1000℃近辺)でモンチセライトを晶析出させ、ガラス相および液相とともに共存させれば、潤滑性と緩冷却能との両立が可能となることを新たに見出した。
【0014】
また、当該方法によれば、炭素濃度が0.5質量%未満であって、凝固の際にδ相を経由してγ相に変態する組成の鋼種の鋳造においても、潤滑性と緩冷却能を担保できることも見いたした。従って、凝固の際にδ相を経由してγ相に変態する組成の鋼種とγ単相凝固となる組成の鋼種、すなわち異鋼種を連続して連続鋳造すること(連連鋳造)が可能となり、異鋼種の継ぎ目部においてモールドパウダー種の変更が必須ではなくなる。
【0015】
本発明は以下のとおりである。
(1)
質量%で、
MgO:8~13%、
Na2O:15~20%、
Li2O:3%以下、
ZrO2:2.5~5.0%、
を含有し、
塩基度(T.CaO/SiO2)が0.45以上0.65以下であり、
1300℃における粘度が0.2Pa・s以下であることを特徴とするモールドパウダー。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、γ単相凝固となる組成の鋼種に対して高い潤滑性と緩冷却能とを安定的に両立させたモールドパウダーを提供することができる。
また凝固の際にδ相を経由してγ相に変態する組成の鋼種とγ単相凝固となる組成の鋼種のような異鋼種を連続して連続鋳造(連連鋳造)する際にモールドパウダーを変更する必要が無く、パウダー種の変更作業の省略が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態においては、γ単相凝固となる組成の鋼種として、高炭素鋼(C濃度が0.5~2.0質量%)を例に説明するが、同様にγ単相凝固になる鋼種として、高Mn鋼(Mn濃度が2~15質量%)、高Ni鋼(Ni濃度が2~40質量%)等が挙げられる。
【0018】
δ相を経由して凝固する組成の場合は、δ相からγ相に変態する段階で鋳型内において収縮が起こり、その隙間にモールドパウダーが流入して潤滑性が確保されるが、高炭素鋼などγ単相凝固となる組成では鋳型内でこのような収縮が起こらないため、より高い潤滑性がモールドパウダーに要求される。そこで、潤滑性を高めるためには、まず塩基度(T.CaO/SiO2)を低位とし、SiO2を主成分とするガラス相および液相を形成させる必要がある。また、モールドパウダーの粘度を低下させることも重要である。なお、T.CaOとは、モールドパウダー中に含まれるCaの含有量(質量%)をCaOに換算した値を指す。
【0019】
一方で、緩冷却能を確保するためには、結晶を晶析出させる必要があり、本実施形態では、主たる結晶としてモンチセライトを晶析出させる。但し、低塩基度の領域では結晶が晶析出しにくいことから、安定的に晶析出させる方法としてモールドパウダー中の成分を適切な範囲に制御する。
【0020】
具体的には、ガラス相および液相の中の一部に、モンチセライト結晶を安定的に晶析出させる方法として、まず、塩基度(T.CaO/SiO2)を低位にすることで、液相およびガラス相を構成するSiO2の割合を高めた上で、MgOを適量含有させることで、安定的な緩冷却能を担保するモンチセライトを構成するために必要な成分条件を満たすようにする。また、Na2Oを多量に含有させることで、モンチセライトの晶析出に対して過剰であるSiO2の活量を低下させ、さらにNa2Oにより粘度を低下させて物質移動を高めることで、モンチセライト結晶の晶析出を促進する。また、ZrO2を適量含有させることによって、モールドパウダー中で高融点のZrO2が少量の結晶核となり、これにより物質移動が遅いSi,Ca,Mgを構成成分とし、初晶として晶析出させることが通常困難であるモンチセライトの晶析出を選択的に促進するようにする。
【0021】
次に、本実施形態に係るモールドパウダーの条件およびその理由について説明する。なお、以下の説明では、特に断りがない限り「%」は「質量%」を指すものとする。
【0022】
[塩基度(T.CaO/SiO2)]
潤滑性を確保しつつ、モンチセライトの晶析出量が過不足なく安定するために、塩基度(T.CaO/SiO2)は、0.45以上0.65以下とする。塩基度が0.45未満では、モンチセライトが晶析出しにくくなり、緩冷却能が低下する。一方、塩基度が0.65を超えると、他の結晶が晶析出してガラス相および液相が不足し、潤滑性を確保できなくなる。好ましくは塩基度が0.55以上0.60以下である。なお、T.CaOとSiO2の合計は特に限定しないが、いずれもモンチセライトを構成する成分であり、通常では50%以上の場合が多い。
【0023】
[MgO]
MgOはモンチセライトを構成する成分であることから、MgOは8~13%とする。MgOが8%未満では、CaO、SiO2に対してMgOが不足することからモンチセライトが晶析出しにくくなり、緩冷却能が低下する。一方、MgOが13%を超えると、モンチセライトの晶析出量が過剰となり、相対的にガラス相および液相の割合が低下することによって潤滑性が低下してしまう。好ましくはMgOが9~12%である。
【0024】
[Al23
Al23は通常は原料由来でモールドパウダー中に1%以上混入する場合が多いが、それよりも少なくてもよい。また、Al23は粘度を上げる成分であることから、1300℃における粘度調整に用い、Al23は5%以下とすることが好ましい。但し、後述するように1300℃における粘度が0.2Pa・s以下となるのであれば、Al23は5%を超えて含まれていてもよい。
【0025】
[Na2O]
Na2Oはモンチセライトの晶析出に対して過剰であるSiO2の活量を低下させ、モンチセライトを晶析出させやすくする。また、Na2Oは粘度を低下させる成分でもあり、粘度を下げて物質移動を促進することによって、モンチセライトの晶析出を促進する。したがって、Na2Oは15~20%とする。Na2Oが15%未満では、モンチセライトが晶析出しにくくなり、緩冷却能が低下する。一方、Na2Oが20%を超えると、含Na結晶(例えば、コンベイト)が晶析出し、相対的にガラス相および液相の割合が低下することによって潤滑性が低下してしまう。好ましくはNa2Oが16~19%である。
【0026】
[Li2O]
Li2OはSiO2の活量を低下させる成分であるが、結晶化を抑制する成分でもある。Li2Oが3%を超えて含まれていると、モンチセライトが晶析出しにくくなり、緩冷却能が低下することから、Li2Oは3%以下とする。なお、同じアルカリ金属酸化物のNa2Oと異なり、SiO2の活量を低下させる効果が限定的であり、モンチセライトの晶析出促進には寄与しにくい。したがって、Li2Oは0%であってもよい。
【0027】
[F]
Fは一般に粘度を低下させる成分であり、高粘度化防止および流動性確保を目的に所定量含むようにしてもよい。なお、後述するように1300℃における粘度が0.2Pa・s以下となるのであれば、Fの含有量は特に限定されない。なお、一般的にモールドパウダーを製造する場合には、通常は4~6%程度含まれている場合が多い。
【0028】
[ZrO2
ZrO2は結晶核として結晶の晶析出を促進させるために重要な成分である。したがって、ZrO2は2.5~5.0%とする。ZrO2が2.5%未満では、結晶核が不足することからモンチセライトが晶析出しにくくなり、緩冷却能が低下する。一方、ZrO2が5.0%を超えると高融点のZrO2までもが多量に晶析出し、相対的にガラス相および液相の割合が低下することによって潤滑性が低下してしまう。好ましくはZrO2が3.0~4.5%である。
【0029】
[1300℃における粘度(Pa・s)]
1300℃における粘度は低い方が結晶化および流入が促進され、潤滑性が向上する。また、1300℃における粘度が低いと、流入したモールドパウダー中の物質移動(拡散)も促進し、速度論的な観点でモンチセライトの形成が進み、緩冷却能も向上する。したがって、1300℃における粘度は0.20Pa・s以下とする。一方で、1300℃における粘度の下限は特に限定しないが、モールドパウダーの流入均一性を考慮し、0.07Pa・s以上とすることが好ましい。
【0030】
[その他]
モールドパウダー粒子の形状は、保温および熱供給の観点で、粉末状よりは顆粒状の方が好ましい。なお、モールドパウダーを顆粒状とする場合には、保温性の観点から平均粒径を50μm以上、均一溶融させる観点からは平均粒径を1000μm以下とすることがより好ましい。また、本実施形態では、主たる結晶としてモンチセライトを晶析出させるものとするが、結晶相がモンチセライト単独であり、その他はガラス相および液相であることがより好ましい。
【0031】
また、本実施形態に係るモールドパウダーを、γ単相凝固になる鋼種で用いることを前提に説明したが、当然ながら、凝固の際にδ相を経由してγ相に変態する組成の鋼種で用いることもできる。この場合、δ相からγ相に変態する際に収縮が起こることから、緩冷却能を有しつつ、より高い潤滑性を確保することができる。
【実施例0032】
本発明の実施例について説明する。実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0033】
(第1の実施例)
質量%でC濃度が0.8%の溶鋼を50~70ton用意し、その溶鋼を400mm×300mmサイズの鋳型へ流し込み、表1に示す組成および粘度のモールドパウダーを添加した。その後、2次冷却を経て鋳片を製造した。
【0034】
実施例及び比較例で用いたモールドパウダーについては、以下のように測定した。モールドパウダーの1300℃での粘度および凝固温度に関しては、特開2022-54733号公報に記載された方法により測定した。具体的には、粘度は、回転円筒法を用いて測定した。手順としては、測定対象のモールドパウダーを坩堝に挿入して1400℃にて10~15分間予備溶解した後に、縦型管状炉(発熱体はSiC)に入れ、円すい-平板形回転粘度計のローターを溶融パウダー中に浸漬し、1300℃で30分間安定させた後、ローターを回転させ粘性抵抗によるトルクを測定し粘度を求めた。なお粘度計は事前に標準粘度液にて校正しておくことが重要である。また、モールドパウダーの凝固温度は、回転粘度計にてモールドパウダーを溶融した後の冷却過程で、5℃おきに粘度を測定し、粘度が大きく上昇した温度を凝固温度とした。
【0035】
表1の実施例および比較例において、潤滑性はモールドパウダーの消費量(kg/t)によって評価した。モールドパウダーの消費量は{モールドパウダーの使用量(kg)}/{鋳造した鋼の量(ton)}により計算し、モールドパウダーの消費量が0.3kg/t以上であった場合を◎、0.25kg/t以上0.3kg/t未満であった場合を○、0.25kg/t未満であった場合を×と評価した。
【0036】
また、緩冷却能は、スラブ表面での縦割れの有無によって評価した。まず、鋳片表面の全体を目視観察することにより縦割れの有無を判定し、縦割れが発見された場合は、その後鋳片を切断し、縦割れの深さを測定した。緩冷却能の評価基準としては、深さ1mm以上の縦割れが見つからなかった場合を◎、深さ2mm以上の縦割れが見つからなかった場合を○、深さ2mm以上の縦割れが見つかった場合を×とした。
【0037】
晶析出した結晶種は、以下の方法により同定した。まず、モールドパウダーを1400℃以上で溶融させたのち、5℃/minの冷却速度で800℃以下まで冷却した。そして、冷却した試料を、振動ディスクミルを用いて最大粒径が20μm以下になるまで全量粉砕し、室温でX線回析に供した。そして、観測された最大ピークをもつ結晶相を主たる結晶相とし、表1に示した。なお、最大ピーク高さの1/3超のピークが観測された場合は、第2の結晶相として表1に併せて示すが、他の結晶相のピーク高さがいずれも最大ピーク高さの1/3以下であった場合は記載を省略した。また、いずれの結晶も十分に晶析出せず、ピーク高さから晶析出した結晶を特定することが困難であった場合は、表1において「-」と表記した。
【0038】
【表1】
【0039】
表中の下線は、本発明の条件から外れた条件を示している。また、表中の鋳造結果の中の「結晶」において2つの結晶が記載されている場合、最初に記載されている結晶が主たる結晶相であり、2番目に記載されている結晶が第2の結晶相である。
【0040】
実施例1~19では、モールドパウダーの組成、塩基度、粘度がいずれも本発明の条件を満たしていたため、潤滑性及び緩冷却能の両方において高い水準であった。
【0041】
一方、比較例1及び2は、組成においてモンチセライトが晶析出しにくい条件であったことから、モンチセライト以外の結晶が晶析出した例である。カスピダインもしくはアケルマナイトが晶析出したことから緩冷却能は良好であったが、塩基度が高すぎたため、潤滑性が劣っていた。
比較例3は、組成においてモンチセライトが晶析出しにくい条件であったことから、モンチセライト以外の結晶が晶析出した例である。低融点のコンベイトが晶析出したが、融点の低い結晶であるため十分な量の結晶が晶析出されず、緩冷却能が劣っていた。
【0042】
比較例4は、塩基度が低すぎた例である。CaOとSiO2との間で含有量に偏りが生じたことからモンチセライトを十分に晶析出させることができなかった。このため、緩冷却能が劣っていた。
比較例5は、塩基度が高すぎた例である。組成は充足していたことからモンチセライトが晶析出したものの、塩基度が高すぎたためカスピダインも晶析出し、これによりガラス相および液相の割合が低下したことから、潤滑性が劣っていた。
【0043】
比較例6は、Na2Oが不足していた例である。Na2Oの不足により過剰なSiO2の活量を十分に下げることができなかったことから、モンチセライトを十分に晶析出させることができなかった。そのため、緩冷却能が劣っていた。
比較例7は、Na2Oが過剰であった例である。モンチセライトは晶析出したものの、Na2Oを含む結晶としてコンベイトも晶析出してしまったため、ガラス相および液相の割合が低下し、潤滑性が劣っていた。
【0044】
比較例8は、MgOが不足していた例である。CaOおよびSiO2に比べてMgOが不足していたことから、モンチセライトを十分に晶析出させることができなかった。そのため、緩冷却能が劣っていた。
比較例9は、MgOが過剰であった例である。モンチセライト以外の結晶は晶析出しなかったが、モンチセライトの晶析出量が過剰となったことから、ガラス相および液相の割合が低下し、潤滑性が劣っていた。
【0045】
比較例10は、ZrO2が不足していた例である。結晶核が不足していたことから、モンチセライトを十分に晶析出させることができなかった。そのため、緩冷却能が劣っていた。
比較例11は、ZrO2が過剰であった例である。モンチセライトは晶析出したものの、ZrO2も多量に晶析出してしまったことから、ガラス相および液相の割合が低下し、潤滑性が劣っていた。
【0046】
比較例12は、Li2Oが過剰であった例である。Li2Oを多量に含むことで結晶化が抑制されてしまったことから、モンチセライトを十分に晶析出させることができなかった。そのため、緩冷却能が劣っていた。
【0047】
比較例13および14はいずれも組成は充足しているものの、1300℃での粘度が高すぎた例である。いずれも粘度が高過ぎたためパウダー流入量が低位となり、潤滑性が劣っていた。また、モールドパウダー中の物質移動が低位となり、結晶化が抑制されたことからモンチセライトを十分に晶析出させることができなかった。このため、緩冷却能も劣っていた。
【0048】
(第2の実施例)
質量%でC濃度が0.06%の鋼種(割れは発生しにくい鋼種)において、第1の実施例と同じ条件で実施例1のモールドパウダーを使用して実験を行った。その結果、モールドパウダーの消費量は◎評価でかつ縦割れも◎評価であった。この実験から、凝固の際にδ相を経由してγ相に変態する組成の鋼種であっても鋳造可能であることが確認できた。