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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118203
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240823BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20240823BHJP
   F01N 3/18 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
F02D45/00 368F
F01N3/20 C
F01N3/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024503
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南口 昌弘
【テーマコード(参考)】
3G091
3G384
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA17
3G091AB03
3G091BA33
3G091CB02
3G091FA05
3G091FB09
3G091HA36
3G091HA37
3G384AA01
3G384BA14
3G384DA14
3G384DA43
3G384FA13Z
3G384FA42Z
(57)【要約】
【課題】効率および精度よく、酸素吸蔵放出機能の低下を判定できるエンジンシステムを提供すること。
【解決手段】エンジンシステム1は、ガソリンエンジン2と排気管3と三元触媒4とフロント酸素センサ5とリア酸素センサ6とエンジン制御ユニット7と判定する劣化判定ユニット8とを備える。劣化判定ユニット8は、燃料カットモードが開始されてからリア酸素センサにおいて酸素濃度の増加が検出されるまでの時間が所定の基準値未満である場合に、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第1判定する。次いで、劣化判定ユニット8は、劣化している可能性があると第1判定された酸素吸蔵放出材に対してのみ、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度に基づいて、酸素吸蔵放出材の劣化を第2判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガソリンエンジンと、
前記ガソリンエンジンの排ガスを通過させる排気管と、
酸素吸蔵放出材を含み、前記排気管に介在される三元触媒と、
前記三元触媒のガス流方向上流側に配置され、排ガスの酸素濃度を検知するフロント酸素センサと、
前記三元触媒のガス流方向下流側に配置され、排ガスの酸素濃度を検知するリア酸素センサと、
前記ガソリンエンジンに接続され、前記ガソリンエンジンの運転モードを制御するエンジン制御ユニットと、
前記エンジン制御ユニット、前記フロント酸素センサおよび前記リア酸素センサに接続され、前記ガソリンエンジンの運転モードと、排ガスの酸素濃度とに基づいて前記酸素吸蔵放出材の劣化を判定する劣化判定ユニットと、
を備え、
前記エンジン制御ユニットは、
前記ガソリンエンジンの運転モードを、燃料カットモード、リッチ検査モード、および、リーン検査モードのいずれかに択一的に切替可能であり、
前記劣化判定ユニットは、
まず、
(1)前記エンジン制御ユニットを介して、前記燃料カットモードで前記ガソリンエンジンを作動させ、前記燃料カットモードが開始されてから前記リア酸素センサにおいて酸素濃度の増加が検出されるまでの時間が所定の基準値未満である場合に、前記酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第1判定し、
次いで、
劣化している可能性があると第1判定された前記酸素吸蔵放出材に対してのみ、
(2)前記エンジン制御ユニットを介して、前記リッチ検査モードと前記リーン検査モードとが繰り返されるように前記ガソリンエンジンを作動させ、前記リア酸素センサにおいて検知される酸素濃度に基づいて、前記酸素吸蔵放出材の劣化を第2判定する、エンジンシステム。
【請求項2】
前記第2判定では、前記劣化判定ユニットは、
(2a)前記エンジン制御ユニットを介して、前記リッチ検査モードと前記リーン検査モードとが繰り返されるように前記ガソリンエンジンを作動させ、前記リア酸素センサにおいて検知される酸素濃度の変動量が所定の基準値を超過している場合、前記酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第2a判定し、
その後、
劣化している可能性があると第2a判定された前記酸素吸蔵放出材に対してのみ、
(2b)前記エンジン制御ユニットを介して、前記リッチ検査モードと前記リーン検査モードとが繰り返されるように前記ガソリンエンジンを作動させ、前記リア酸素センサにおいて検知される酸素濃度の変動のタイミングと、前記フロント酸素センサにおいて検知される酸素濃度の変動のタイミングとの差が、所定の基準値未満である場合、前記酸素吸蔵放出材が劣化していると第2b判定する、請求項1に記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンシステム、詳しくは、ガソリンエンジンおよび三元触媒を備えるエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンの排ガスは、有害成分を含んでいる。有害成分としては、例えば、炭化水素(THC)、一酸化炭素(CO)および窒素酸化物(NOx)が挙げられる。有害成分は、通常、三元触媒(排ガス浄化触媒)により浄化される。
【0003】
三元触媒は、例えば、活性成分として、貴金属を含んでいる。三元触媒の浄化活性は、排ガスの酸素濃度に依存する。より具体的には、三元触媒の浄化活性は、ガソリンエンジンの空燃比が理論空燃比(ストイキオメトリー)である場合の、所定の酸素濃度の排ガス中において、最大限に発揮される。
【0004】
一方、ガソリンエンジンの要求出力は、種々変更される。そのため、ガソリンエンジンの作動中、理論空燃比(ストイキオメトリー)を維持することは困難である。そこで、ガソリンエンジンの作動中には、理論空燃比(ストイキオメトリー)を跨ぐように、リーン運転モードの空燃比(燃料希薄)と、リッチ運転モードの空燃比(燃料過濃)とが、適宜切り替えられている。
【0005】
このような場合、ガソリンエンジンの空燃比が理論空燃比(ストイキオメトリー)ではないため、排ガスの酸素濃度が過剰または不足し、三元触媒の浄化活性が、最大限に発揮されない。そこで、三元触媒は、排ガスの酸素濃度を調整するために、酸素吸蔵放出機能(OSC機能:Oxygen Storage Capasity)を有する材料、すなわち、酸素吸蔵放出材(OSC材)を含んでいる。
【0006】
酸素吸蔵放出材は、例えば、ガソリンエンジンがリーン運転モード(燃料希薄)であり、排ガス中の酸素が過剰である場合に、排ガス中の酸素を吸蔵する。また、酸素吸蔵放出材は、例えば、ガソリンエンジンがリッチ運転モード(燃料過濃)であり、排ガス中の酸素が不足する場合に、吸蔵した酸素を放出する。これにより、酸素吸蔵放出材は、排ガスの酸素濃度を調整し、三元触媒4の浄化活性を向上させる。
【0007】
一方、酸素吸蔵放出材の酸素吸蔵放出機能は、使用に伴って、低下する場合がある。このような場合には、三元触媒の浄化活性が低下する。そのため、酸素吸蔵放出機能の低下を判定し、必要に応じて、酸素吸蔵放出材を再生または交換することが、要求されている。
【0008】
酸素吸蔵放出機能の低下を判定する装置として、例えば、以下の触媒劣化判定装置が、提案されている。この触媒劣化判定装置は、エンジンの排気管に配設されたフロント酸素センサおよびリア酸素センサを備える。フロント酸素センサおよびリア酸素センサの各出力信号の振幅のほぼ半分の電圧値が、共通の基準値とされる。そして、エンジンの燃料カット(フューエルカット)が行われた場合に、フロント酸素センサの出力が基準値よりも小さくなってから、リア酸素センサの出力が基準値よりも小さくなるまでの時間を、応答遅れ時間差とする。応答遅れ時間差と、所定の劣化判定値との比較により、触媒劣化が判定される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7-269330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、上記のように、エンジンの燃料カット(フューエルカット)が行われた場合の、リア酸素センサの応答遅れ時間差のみによって触媒劣化を判定すると、十分な判定精度が得られない。
【0011】
より具体的には、例えば、上記の方法では、劣化判定値の設定によっては、実際に劣化している触媒に対して、その劣化を確実に判定できるが、実際には劣化していない触媒に対しても、劣化していると判定する場合がある。
【0012】
本発明は、効率および精度よく、酸素吸蔵放出機能の低下を判定できるエンジンシステムである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明[1]は、ガソリンエンジンと、前記ガソリンエンジンの排ガスを通過させる排気管と、酸素吸蔵放出材を含み、前記排気管に介在される三元触媒と、前記三元触媒のガス流方向上流側に配置され、排ガスの酸素濃度を検知するフロント酸素センサと、前記三元触媒のガス流方向下流側に配置され、排ガスの酸素濃度を検知するリア酸素センサと、前記ガソリンエンジンに接続され、前記ガソリンエンジンの運転モードを制御するエンジン制御ユニットと、前記エンジン制御ユニット、前記フロント酸素センサおよび前記リア酸素センサに接続され、前記ガソリンエンジンの運転モードと、排ガスの酸素濃度とに基づいて前記酸素吸蔵放出材の劣化を判定する劣化判定ユニットと、を備え、前記エンジン制御ユニットは、前記ガソリンエンジンの運転モードを、燃料カットモード、リッチ検査モード、および、リーン検査モードのいずれかに択一的に切替可能であり、前記劣化判定ユニットは、まず、(1)前記エンジン制御ユニットを介して、前記燃料カットモードで前記ガソリンエンジンを作動させ、前記燃料カットモードが開始されてから前記リア酸素センサにおいて酸素濃度の増加が検出されるまでの時間が所定の基準値未満である場合に、前記酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第1判定し、次いで、劣化している可能性があると第1判定された前記酸素吸蔵放出材に対してのみ、(2)前記エンジン制御ユニットを介して、前記リッチ検査モードと前記リーン検査モードとが繰り返されるように前記ガソリンエンジンを作動させ、前記リア酸素センサにおいて検知される酸素濃度に基づいて、前記酸素吸蔵放出材の劣化を第2判定する、エンジンシステムを、含んでいる。
【0014】
上記のエンジンシステムでは、劣化判定ユニットは、まず、燃料カットモードでガソリンエンジンを作動させる。また、劣化判定ユニットは、燃料カットモードが開始されてからリア酸素センサにおいて酸素濃度の増加が検出されるまでの時間に基づいて、酸素吸蔵放出材の劣化を第1判定する。
【0015】
ここで、酸素吸蔵放出材が劣化していないと第1判定された場合、判定処理を終了する。一方、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第1判定された場合のみ、酸素吸蔵放出材は、第2判定に供される。
【0016】
第2判定では、劣化判定ユニットは、リッチ検査モードとリーン検査モードとが繰り返されるようにガソリンエンジンを作動させる。また、劣化判定ユニットは、リア酸素センサにおいて検知される酸素濃度に基づいて、酸素吸蔵放出材の劣化を第2判定する。
【0017】
そのため、上記のエンジンシステムでは、酸素吸蔵放出材が、所定の場合に、第1判定に加えて第2判定にも供される。その結果、酸素吸蔵放出材が、第1判定のみに供される場合に比べて、酸素吸蔵放出機能の劣化が、より精度よく判定される。
【0018】
また、上記のエンジンシステムでは、第1判定において、酸素吸蔵放出材が劣化していないと判定される場合には、判定処理が終了される。そのため、酸素吸蔵放出材が、常に第1判定および第2判定に供される場合に比べて、酸素吸蔵放出機能の未劣化が、より効率よく判定される。
【0019】
さらに、第2判定では、リッチ検査モードとリーン検査モードとを繰り返すため、燃料効率および排ガス浄化効率が低下する場合がある。これに対して、第1判定で酸素吸蔵放出材が劣化していないと判定される場合に、判定処理が終了されていれば、第2判定が実行されず、燃料効率および排ガス浄化効率の低下を抑制できる。
【0020】
本発明[2]は、前記第2判定では、前記劣化判定ユニットは、(2a)前記エンジン制御ユニットを介して、前記リッチ検査モードと前記リーン検査モードとが繰り返されるように前記ガソリンエンジンを作動させ、前記リア酸素センサにおいて検知される酸素濃度の変動量が所定の基準値を超過している場合、前記酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第2a判定し、その後、劣化している可能性があると第2a判定された前記酸素吸蔵放出材に対してのみ、(2b)前記エンジン制御ユニットを介して、前記リッチ検査モードと前記リーン検査モードとが繰り返されるように前記ガソリンエンジンを作動させ、前記リア酸素センサにおいて検知される酸素濃度の変動のタイミングと、前記フロント酸素センサにおいて検知される酸素濃度の変動のタイミングとの差が、所定の基準値未満である場合、前記酸素吸蔵放出材が劣化していると第2b判定する、上記[1]に記載のエンジンシステムを、含んでいる。
【0021】
上記のエンジンシステムでは、劣化判定ユニットは、第2a判定において、リッチ検査モードとリーン検査モードとが繰り返されるようにガソリンエンジンを作動させる。また、劣化判定ユニットは、リア酸素センサにおいて検知される酸素濃度の変動量が所定の基準値を超過している場合、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第2a判定する。その後、上記エンジンシステムでは、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第2a判定された場合のみ、劣化判定ユニットは、第2b判定において、リッチ検査モードとリーン検査モードとが繰り返されるようにガソリンエンジンを作動させる。また、劣化判定ユニットは、リア酸素センサにおいて検知される酸素濃度の変動のタイミングと、フロント酸素センサにおいて検知される酸素濃度の変動のタイミングとの差が、所定の基準値未満である場合、酸素吸蔵放出材が劣化していると第2b判定する。
【0022】
そのため、上記のエンジンシステムでは、酸素吸蔵放出材が、第2a判定に加えて第2b判定にも供されるため、酸素吸蔵放出材が、第2a判定または第2b判定のいずれか一方のみに供される場合に比べて、酸素吸蔵放出機能の劣化が、より精度よく判定される。
【0023】
また、上記のエンジンシステムでは、第2a判定において、酸素吸蔵放出材が劣化していないと判定される場合には、判定処理が終了される。そのため、酸素吸蔵放出材が、常に第2a判定および第2b判定に供される場合に比べて、酸素吸蔵放出機能の未劣化が、より効率よく判定される。
【0024】
さらに、上記のエンジンシステムでは、酸素吸蔵放出材は、第2a判定の後に、第2b判定される。そして、第2a判定における燃料効率および排ガス浄化効率の低下の度合いは、第2b判定における燃料効率および排ガス浄化効率の低下の度合いよりも、軽度である。そのため、上記のエンジンシステムでは、酸素吸蔵放出材は、第2b判定の後に、第2a判定される場合に比べて、燃料効率および排ガス浄化効率の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のエンジンシステムによれば、効率および精度よく、酸素吸蔵放出材の酸素吸蔵放出機能の低下を、検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明のエンジンシステムの一実施形態を示す概略図である。
図2図2は、図1に示すエンジンシステムにおいて、酸素吸蔵放出材の劣化を判定するためのフローを示すフロー図である。
図3図3Aは、酸素吸蔵放出材が劣化していない場合の、燃料カットモードが開始されてから、リア酸素センサにおいて酸素濃度の増加が検出されるまでの時間を示す概略図である。図3Bは、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性がある場合の、燃料カットモードが開始されてから、リア酸素センサにおいて酸素濃度の増加が検出されるまでの時間を示す概略図である。
図4図4Aは、酸素吸蔵放出材が劣化していない場合の、リア酸素センサで検知される排ガスの酸素濃度の変化を示す概略図である。図3Bは、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性がある場合の、リア酸素センサで検知される排ガスの酸素濃度の変化を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.エンジンシステムの全体構成
図1において、エンジンシステム1は、例えば、自動車に搭載される動力発生装置である。エンジンシステム1は、ガソリンエンジン2と、排気管3と、三元触媒4と、フロント酸素センサ5と、リア酸素センサ6と、エンジン制御ユニット7と、劣化判定ユニット8とを備えている。
【0028】
ガソリンエンジン2は、公知の内燃機関である。ガソリンエンジン2は、ガソリンおよび空気の混合気を燃料として、作動する。混合気において、空気の質量をガソリンの質量で割った値が、空燃比(A/F)である。ガソリンエンジン2としては、例えば、単気筒型ガソリンエンジンおよび多気筒型ガソリンエンジンが挙げられる。ガソリンエンジン2は、公知の構成を有している。より具体的には、ガソリンエンジン2は、燃料の燃焼室としての気筒と、気筒内で昇降運動するピストンと、気筒内に混合気を供給する混合気供給システムと、混合気に点火する点火装置とを備えている。ガソリンエンジン2は、混合気を気筒内で圧縮および燃焼させることにより、エネルギーおよび排ガスを発生させる。
【0029】
排気管3は、ガソリンエンジン2の排ガスを通過させる管である。排気管3は、例えば、エキゾーストマニホールド、エキゾーストパイプおよびマフラーを備えている。排気管3の一方側端部は、ガソリンエンジン2(気筒)に接続されている。排気管3の他方側端部は、大気開放されている。排気管3は、気筒で生じた排ガスを、大気に開放可能としている。より具体的には、排気管3の流れ方向途中には、触媒収容室31が形成されている。触媒収容室31には、三元触媒4が収容されている。
【0030】
三元触媒4は、ガソリンエンジン2の排ガスに含まれる有害成分を浄化する触媒である。有害成分としては、例えば、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)および一酸化炭素(CO)が挙げられる。
【0031】
三元触媒4は、例えば、貴金属と、耐熱性酸化物と、酸素吸蔵放出材とを含んでいる。貴金属は、排ガスに含まれる有害成分を浄化する金属である。貴金属としては、例えば、白金(Pt)、ロジウム(Rh)およびパラジウム(Pd)が挙げられる。耐熱性酸化物は、貴金属を担持する担体(金属担体)である。耐熱性酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、および、これらの複合酸化物が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用される。酸素吸蔵放出材は、酸素吸蔵放出機能(OSC機能:Oxygen Storage Capasity)を有する材料(OSC材)である。酸素吸蔵放出材は、排ガスの酸素濃度を調整するために、三元触媒4に含まれている。酸素吸蔵放出材としては、例えば、セリア-ジルコニア複合酸化物およびマグネシウム-アルミニウム複合酸化物が挙げられる。また、酸素吸蔵放出材は、結晶構造によっても分類される。酸素吸蔵放出材としては、例えば、ペロブスカイト型複合酸化物、および、スピネル型複合酸化物が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用される。耐熱性酸化物および酸素吸蔵放出材は、例えば、兼用されていてもよい。すなわち、耐熱性酸化物が、酸素吸蔵放出材として使用されていてもよい。また、酸素吸蔵放出材が、耐熱性酸化物として使用されていてもよい。
【0032】
三元触媒4は、排気管3に介在される。より具体的には、三元触媒4は、例えば、触媒担体上に固定され、排気管3の触媒収容室31に収容される。触媒担体としては、例えば、ハニカム構造を有するセラミック担体が挙げられる。
【0033】
フロント酸素センサ5は、三元触媒4のガス流方向上流側において、排ガスの酸素濃度を検知する酸素センサである。フロント酸素センサ5は、ガソリンエンジン2のガス流方向下流側、かつ、三元触媒4のガス流方向上流側に配置されている。フロント酸素センサ5としては、例えば、ジルコニア型酸素センサが挙げられる。フロント酸素センサ5は、例えば、排ガスの酸素濃度を、電圧として検出する。フロント酸素センサ5は、エンジン制御ユニット7および劣化判定ユニット8に電気的に接続されている。これにより、三元触媒4のガス流方向上流側における排ガスの酸素濃度が、電気信号としてエンジン制御ユニット7および劣化判定ユニット8に入力される(図1破線矢印参照。)。
【0034】
リア酸素センサ6は、三元触媒4のガス流方向下流側において、排ガスの酸素濃度を検知する酸素センサである。リア酸素センサ6は、三元触媒4のガス流方向下流側、かつ、排気管3の下流側端部よりもガス流方向上流側に、配置されている。リア酸素センサ6としては、例えば、ジルコニア型酸素センサが挙げられる。リア酸素センサ6として、好ましくは、フロント酸素センサ5と同一タイプの酸素センサが挙げられる。リア酸素センサ6は、例えば、排ガスの酸素濃度を、電圧として検出する。リア酸素センサ6は、劣化判定ユニット8に電気的に接続されている。これにより、三元触媒4のガス流方向下流側における排ガスの酸素濃度が、電気信号として劣化判定ユニット8に入力される(図1破線矢印参照。)。
【0035】
エンジン制御ユニット7は、エンジンシステム1の電気的な制御を実行するコンピュータユニット(例えば、ECU:Electronic Control Unit)である。エンジン制御ユニット7は、例えば、演算部およびメモリ部を備えている。
【0036】
エンジン制御ユニット7は、ガソリンエンジン2およびフロント酸素センサ5に電気的に接続されている。エンジン制御ユニット7は、フロント酸素センサ5で検知される酸素濃度に基づいて、ガソリンエンジン2の運転モードを制御可能としている。
【0037】
より具体的には、エンジン制御ユニット7のメモリ部は、エンジン制御プログラムPを備えている。エンジン制御プログラムPは、ガソリンエンジン2の運転モードを、択一的に切替可能としている。例えば、エンジン制御プログラムPは、フロント酸素センサ5で検知される酸素濃度に基づいて、リーン運転モードとリッチ運転モードとを切替可能としている。
【0038】
なお、リッチ運転モードは、空燃比(A/F)が理論空燃比(ストイキオメトリー)よりも低い燃料過濃状態で、混合気を燃焼させるモードである。リーン運転モードは、空燃比(A/F)が理論空燃比(ストイキオメトリー)よりも高い燃料希薄状態で、混合気を燃焼させるモードである。
【0039】
エンジン制御プログラムPは、ガソリンエンジン2の運転モードを、リーン運転モードとリッチ運転モードとに切替えることによって、ガソリンエンジン2の空燃比を、理論空燃比(ストイキオメトリー)の近傍に制御可能としている。
【0040】
また、詳しくは後述するが、エンジン制御プログラムPは、ガソリンエンジン2の運転モードを、上記のリッチ運転モードおよびリーン運転モードとは別途、燃料カットモード、リッチ検査モード、および、リーン検査モードのいずれかに択一的に切替可能としている。
【0041】
劣化判定ユニット8は、エンジンシステム1の電気的な制御を実行するコンピュータユニット(例えば、ECU:Electronic Control Unit)である。劣化判定ユニット8は、例えば、演算部およびメモリ部を備えている。
【0042】
劣化判定ユニット8は、エンジン制御ユニット7、フロント酸素センサ5およびリア酸素センサ6に電気的に接続されている。劣化判定ユニット8は、フロント酸素センサ5およびリア酸素センサ6で検知される酸素濃度に基づいて、エンジン制御ユニット7を介して、ガソリンエンジン2の運転モードを制御可能としている。
【0043】
より具体的には、劣化判定ユニット8のメモリ部は、劣化判定プログラムPを備えている。劣化判定プログラムPは、エンジン制御ユニット7(エンジン制御プログラムP)を介して、ガソリンエンジン2の運転モードを、燃料カットモード、リッチ検査モード、および、リーン検査モードのいずれかに択一的に切替可能としている。
【0044】
なお、燃料カットモードは、ガソリンエンジン2に対する混合気の供給を停止するモードである。リッチ検査モードは、上記リッチ運転モードと同様に、空燃比(A/F)が理論空燃比(ストイキオメトリー)よりも低い燃料過濃状態で、混合気を燃焼させるモードである。ただし、リッチ検査モードは、通常、上記のリッチ運転モードに比べて、長時間維持される。リーン検査モードは、上記リーン運転モードと同様に、空燃比(A/F)が理論空燃比(ストイキオメトリー)よりも高い燃料希薄状態で、混合気を燃焼させるモードである。ただし、リーン検査モードは、通常、上記のリーン運転モードに比べて、長時間維持される。
【0045】
そして、劣化判定プログラムPは、詳しくは後述するように、ガソリンエンジン2の運転モードと、排ガスの酸素濃度とに基づいて、三元触媒4に含まれる酸素吸蔵放出材の劣化を、検知可能としている。
【0046】
また、図示しないが、劣化判定ユニット8は、任意の報知デバイス(図示せず)を備えている。報知デバイス(図示せず)は、例えば、酸素吸蔵放出材が劣化しているか否かを、周囲に報知するためのデバイスである。報知デバイス(図示せず)としては、例えば、警告音発生デバイスおよび警告画像表示デバイスが挙げられる。
【0047】
2.エンジンシステムの定常運転
エンジンシステム1では、ガソリンエンジン2の作動により、混合気が燃焼され、エネルギーおよび排ガスが発生する。また、ガソリンエンジン2の作動は、エンジン制御システム7(エンジン制御プログラムP)によって、制御される。
【0048】
より具体的には、エンジンシステム1が作動すると、まず、エンジン制御ユニット7(エンジン制御プログラムP)の制御によって、ガソリンおよび空気の混合気が、気筒内に供給される。混合気は、気筒内でピストンにより圧縮され、点火装置により点火される。これにより、ガソリンエンジン2は、エネルギーおよび排ガスを発生させる。エネルギーは、例えば、ガソリンエンジン2が搭載される自動車を動作させる。一方、排ガスは、ガソリンエンジン2から排気管3に排出され、フロント酸素センサ5、三元触媒4およびリア酸素センサ6を順次通過して、排気管3の下流側端部から、大気開放される。
【0049】
そして、エンジン制御ユニット7は、排ガスの酸素濃度に基づいて、ガソリンエンジン2における混合気の空燃比(A/F)を、制御する。
【0050】
より具体的には、エンジンシステム1において、排ガスは、まず、三元触媒4のガス流方向上流側において、フロント酸素センサ5に接触する。フロント酸素センサ5は、三元触媒4と接触する前の排ガスの酸素濃度を、検知する。排ガスの酸素濃度は、例えば、電圧値として測定される。そして、排ガスの酸素濃度が、電気信号として、エンジン制御ユニット7(エンジン制御プログラムP)に入力される(図1破線矢印参照。)。
【0051】
エンジン制御ユニット7(エンジン制御プログラムP)に、排ガスの酸素濃度が入力されると、エンジン制御ユニット7(エンジン制御プログラムP)では、排ガスの酸素濃度に基づいて、この排ガスの発生に使用された混合気の空燃比(A/F)を、算出する。そして、エンジン制御ユニット7(エンジン制御プログラムP)は、排ガスの発生に使用された混合気の空燃比(A/F)が、高いか低いかを判断し、その判断に基づいて、燃料の供給量および空気の供給量を調整する。
【0052】
より具体的には、排ガスの発生に使用された混合気の空燃比(A/F)が、所望の空燃比(例えば、理論空燃比(A/F=14.7))に対して、高い場合(例えば、A/F>14.7)には、エンジン制御ユニット7(エンジン制御プログラムP)は、混合気における燃料の割合を増加させ、空燃比を低下させる。
【0053】
また、例えば、排ガスの発生に使用された混合気の空燃比(A/F)が、所望の空燃比(例えば、理論空燃比(A/F=14.7))に対して、低い場合(例えば、A/F<14.7)には、エンジン制御ユニット7(エンジン制御プログラムP)は、混合気における燃料の割合を減少させ、空燃比を上昇させる。
【0054】
このようにして、エンジン制御ユニット7(エンジン制御プログラムP)は、フロント酸素センサ5で検知される排ガスの酸素濃度に基づいて、混合気の空燃比(A/F)をフィードバック制御する。
【0055】
フロント酸素センサ5において酸素濃度を検知された排ガスは、その後、触媒収容室31に供給され、三元触媒4に接触する。三元触媒4は、排ガス中の有害成分を、浄化(除去)する。
【0056】
有害成分を浄化された排ガスは、触媒収容室31から排出され、三元触媒4のガス流方向下流側において、リア酸素センサ6に接触する。リア酸素センサ6は、三元触媒4と接触した後の排ガスの酸素濃度を、検知する。排ガスの酸素濃度は、例えば、電圧値として測定される。そして、排ガスの酸素濃度が、電気信号として、劣化判定ユニット8(劣化判定プログラムP)に入力される(図1破線矢印参照。)。なお、排ガスは、排気管3の下流側端部から、大気開放される。
【0057】
そして、劣化判定ユニット8(劣化判定プログラムP)は、以下に詳述するように、三元触媒4に含まれる酸素吸蔵放出材の劣化を、判定する。
【0058】
3.劣化判定フロー
図2を参照して、劣化判定ユニット8(劣化判定プログラムP)において実行される酸素吸蔵放出材の劣化判定フローを説明する。
【0059】
劣化判定フローは、例えば、ガソリンエンジン2の作動後、所定の条件が満たされた場合(例えば、ガソリンエンジン2の作動の継続時間が所定値を超えた場合)に、開始される(スタート)。
【0060】
劣化判定フローでは、以下に示すように、(1)第1判定処理が実行される(ステップS1~ステップS6)。その後、第1判定処理において、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると判断された場合のみ、(2)第2判定処理が実行される(ステップS7~ステップS20)。
【0061】
(1)第1判定処理
第1判定処理(ステップS1)が実行されると、まず、劣化判定ユニット8(劣化判定プログラムP)は、エンジン制御ユニット7を介してガソリンエンジン2を制御し、ガソリンエンジン2を燃料カットモードで作動させる(ステップS2)。
【0062】
より具体的には、劣化判定ユニット8は、例えば、エンジン制御ユニット7を介して、任意のタイミングで、ガソリンエンジン2の運転モードを燃料カットモードに切り替えてもよい。また、例えば、劣化判定ユニット8は、ガソリンエンジン2の通常の作動においてエンジン制御ユニット7が運転モードを燃料カットモードに切り替えるタイミングを、待機してもよい。
【0063】
そして、第1判定処理では、劣化判定ユニット8は、燃料カットモードが開始されてから、リア酸素センサ6において酸素濃度の増加が検出されるまでの時間(酸素増加の所要時間)を、測定する(ステップS3)。
【0064】
すなわち、ガソリンエンジン2が燃料カットモードで作動すると、ガソリンエンジン2に対する混合気の供給が、停止される。つまり、ガソリンエンジン2内における混合気の燃焼が、停止する。そのため、燃焼による酸素の消費が、停止する。その結果、排ガスは、酸素を比較的多く含んだ状態で、ガソリンエンジン2から排出される。このような場合、フロント酸素センサ5は、燃料カットモードの開始による酸素濃度の増加を検出する。その後、排ガスは、触媒収容室31に供給される。
【0065】
触媒収容室31において、排ガスは、三元触媒4と接触する。そして、燃料カットモードが開始されてから暫くの間は、排ガス中の酸素が、三元触媒4の酸素吸蔵放出材に吸蔵される。この間、リア酸素センサ6では、酸素濃度の増加が検出されない。そして、燃料カットモードが継続し、酸素の供給量が酸素吸蔵放出材における酸素の吸蔵キャパシティを超過すると、酸素吸蔵放出材による酸素の吸蔵が停止され、酸素が触媒収容室31から排出される。その結果、リア酸素センサ6において、酸素濃度の増加が検出される。
【0066】
このような場合において、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していなければ、酸素吸蔵放出材における酸素の吸蔵キャパシティが、比較的大きい。そのため、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していなければ、図3Aが参照されるように、燃料カットモードが開始されてから、リア酸素センサ6において酸素濃度の増加が検出されるまでの時間が、比較的長い(T参照)。
【0067】
一方、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していると、酸素吸蔵放出材における酸素の吸蔵キャパシティが、比較的小さい。そのため、図3Bが参照されるように、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していると、燃料カットモードが開始されてから、リア酸素センサ6において酸素濃度の増加が検出されるまでの時間が、比較的短い(T参照)。
【0068】
そこで、第1判定処理では、劣化判定ユニット8(劣化判定プログラムP)は、燃料カットモードが開始されてからリア酸素センサ6において酸素濃度の増加が検出されるまでの時間が所定の基準値未満であるか否かを、判定する(ステップS4)。
【0069】
第1判定処理における所定の基準値(酸素濃度の増加が検出されるまでの時間)は、酸素吸蔵放出材の種類などに応じて異なる。好ましくは、酸素吸蔵放出材の初回使用時において、燃料カットモードが開始されてから酸素濃度の増加が検出されるまでの時間(図3AのT参照)と、第1判定処理における基準値とが、略同一である。
【0070】
そして、リア酸素センサ6において酸素濃度の増加が検出されるまでの時間(酸素増加の所要時間)が、所定の基準値以上である場合(ステップS4;NO)に、劣化判定ユニット8は、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性がない(つまり、触媒未劣化)と第1判定する(ステップS5)。
【0071】
なお、第1判定において、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性がない状態とは、酸素吸蔵放出材が、ほぼ確実に劣化していないと判断できる状態である。このような場合、劣化判定ユニット8は、劣化判定フローを停止する(エンド)。
【0072】
一方、リア酸素センサ6において酸素濃度の増加が検出されるまでの時間(酸素増加の所要時間)が、所定の基準値未満である場合(ステップS4;YES)には、劣化判定ユニット8は、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第1判定する(ステップS6)。
【0073】
なお、第1判定において、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性がある状態とは、酸素吸蔵放出材が劣化しているか、酸素吸蔵放出材が劣化していないかを、その時点では判断できない状態である。
【0074】
このような場合、劣化判定ユニット8(劣化判定プログラムP)は、劣化している可能性があると第1判定された酸素吸蔵放出材に対してのみ、第2判定処理を実行する(ステップS7)。
【0075】
(2)第2判定処理
第2判定処理では、劣化判定ユニット8(劣化判定プログラムP)は、エンジン制御ユニット7を介してガソリンエンジン2を制御し、ガソリンエンジン2を、リッチ運転モードおよびリーン運転モードで作動させる。すなわち、リッチ検査モードとリーン検査モードとが所定の周期で繰り返されるように、劣化判定ユニット8(劣化判定プログラムP)はガソリンエンジン2を作動させる。そして、劣化判定ユニット8は、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度に基づいて、酸素吸蔵放出材の劣化を第2判定する。
【0076】
より具体的には、第2判定処理では、以下に示すように、(2a)第2a判定処理が実行される(ステップS8~ステップS13)。その後、第2a判定処理において、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると判断された場合のみ、(2b)第2b判定処理が実行される(ステップS14~ステップS19)。
【0077】
(2a)第2a判定処理
第2a判定処理では、劣化判定ユニット8は、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動量(酸素濃度の変動グラフにおける波形の高さ)に基づいて、酸素吸蔵放出材の劣化の有無を判定する。
【0078】
より具体的には、第2a判定処理が実行されると(ステップS8)、まず、劣化判定ユニット8は、エンジン制御ユニット7を介して、リッチ検査モードとリーン検査モードとが所定の周期で繰り返されるようにガソリンエンジン2を作動させる(ステップS9)。
【0079】
そして、第2a判定処理では、劣化判定ユニット8は、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動グラフを、取得する(ステップS10)。
【0080】
すなわち、リッチ検査モードとリーン検査モードとが繰り返されるようにガソリンエンジン2を作動させると、フロント酸素センサ5で検知される排ガスの酸素濃度は、運転モードの切替に応じて、変動する。
【0081】
例えば、ガソリンエンジン2が、リッチ検査モード(燃料過濃)で運転される場合、混合気の燃焼に比較的多量の酸素が消費されるため、排ガスに含まれる酸素が比較的少なくなる。一方、ガソリンエンジン2が、リーン検査モード(燃料希薄)で運転される場合、混合気の燃焼に消費される酸素が比較的少なくなるため、排ガスに含まれる酸素が比較的多くなる。つまり、フロント酸素センサ5で検知される排ガスの酸素濃度は、運転モードの切替に応じて、変動する。
【0082】
このような場合、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していなければ、比較的多くの酸素が、酸素吸蔵放出材に吸蔵および放出される。つまり、ガソリンエンジン2が、リーン検査モード(燃料希薄)で運転される場合、排ガスに比較的多くの酸素が含まれるが、酸素吸蔵放出材が、これら酸素を吸蔵する。また、ガソリンエンジン2が、リッチ検査モード(燃料過濃)で運転される場合、排ガスに含まれる酸素が少なくなるため、酸素吸蔵放出材が、吸蔵した酸素を放出する。
【0083】
そのため、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していなければ、触媒収容室31内において、排ガスの酸素濃度が均される。その結果、リア酸素センサ6で検知される排ガスの酸素濃度は、運転モードの切替に応じて、大きく変動しない。つまり、図4Aが参照されるように、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していない場合には、リア酸素センサ6で検知される排ガスの酸素濃度の変動量は、比較的小さい(H参照)か、または、リア酸素センサ6で検知される排ガスの酸素濃度は、略一定である(破線参照)。
【0084】
一方、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していると、酸素吸蔵放出材における酸素量および放出量が、比較的少なくなる。つまり、ガソリンエンジン2が、リーン検査モード(燃料希薄)で運転される場合、排ガスに含まれる酸素が比較的多くなるが、酸素吸蔵放出材は、酸素を十分に吸蔵できない。また、ガソリンエンジン2が、リッチ検査モード(燃料過濃)で運転される場合、排ガスに含まれる酸素が比較的少なくなるが、酸素吸蔵放出材は、酸素を十分に放出できない。そのため、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していると、触媒収容室31内において、排ガスの酸素濃度が、十分に均されない。その結果、リア酸素センサ6で検知される排ガスの酸素濃度は、運転モードの切替に応じて、大きく変動する。つまり、図4Bが参照されるように、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化している場合には、リア酸素センサ6で検知される排ガスの酸素濃度の変動量は、比較的大きい(H参照)。
【0085】
そこで、第2a判定処理では、酸素濃度の変動グラフを参照し、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動量が所定の基準値を超過しているか否かを判定する(ステップS11)。
【0086】
第2a判定処理における所定の基準値(リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動量)は、酸素吸蔵放出材の種類などに応じて異なる。好ましくは、酸素吸蔵放出材の初回使用時において、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動量(図4AのH参照)と、第2a判定処理における基準値とが、略同一である。
【0087】
そして、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動量が、所定の基準値以下である場合(ステップS11;NO)に、劣化判定ユニット8は、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性がない(つまり、触媒未劣化)と第2a判定する(ステップS12)。
【0088】
なお、第2a判定において、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性がない状態とは、酸素吸蔵放出材が、ほぼ確実に劣化していないと判断できる状態である。このような場合、劣化判定ユニット8は、劣化判定フローを停止する(エンド)。
【0089】
一方、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動量が、所定の基準値を超過している場合(ステップS11;YES)には、劣化判定ユニット8は、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第2a判定する(ステップS13)。
【0090】
なお、第2a判定において、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性がある状態とは、酸素吸蔵放出材が劣化しているか、酸素吸蔵放出材が劣化していないかを、その時点では判断できない状態である。
【0091】
このような場合、劣化判定ユニット8は、劣化している可能性があると第2a判定された酸素吸蔵放出材に対してのみ、第2b判定処理を実行する(ステップS14)。
【0092】
(2b)第2b判定処理
第2b判定処理では、劣化判定ユニット8は、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動のタイミング(酸素濃度の変動グラフにおける波形の位相)に基づいて、酸素吸蔵放出材の劣化の有無を判定する。
【0093】
より具体的には、第2b判定処理が実行されると(ステップS14)、まず、劣化判定ユニット8は、エンジン制御ユニット7を介して、リッチ検査モードとリーン検査モードとが所定の周期で繰り返されるようにガソリンエンジン2を作動させる(ステップS15)。
【0094】
好ましくは、酸素濃度の変動グラフにおける波形の位相をより明確に観察するために、第2b判定処理におけるリッチ検査モードとリーン検査モードとの繰り返し周期は、第2a判定処理におけるリッチ検査モードとリーン検査モードとの繰り返し周期よりも、大きく設定される。つまり、第2b判定処理におけるリッチ検査モードの長さは、第2a判定処理におけるにおけるリッチ検査モードの長さよりも、長く設定される。第2b判定処理におけるリーン検査モードの長さは、第2a判定処理におけるにおけるリーン検査モードの長さよりも、長く設定される。
【0095】
そして、第2b判定処理では、劣化判定ユニット8は、フロント酸素センサ5において検知される酸素濃度の変動グラフと、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動グラフとを、それぞれ取得する(ステップS16)。
【0096】
すなわち、上記したように、リッチ検査モードとリーン検査モードとが繰り返されるようにガソリンエンジン2を作動させると、フロント酸素センサ5で検知される排ガスの酸素濃度は、運転モードの切替に応じて、変動する。
【0097】
また、図4Aおよび図4Bが参照されるように、ガソリンエンジン2が、リッチ検査モードとリーン検査モードとを繰り返されるように作動すると、リア酸素センサ6で検知される排ガスの酸素濃度も、運転モードの切替に応じて、変動する場合がある。
【0098】
このような場合、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していなければ、フロント酸素センサ5において検知される酸素濃度の変動のタイミングと、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動のタイミングとは、大きく異なる。つまり、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していなければ、排ガスに含まれる酸素が比較的多い場合と、排ガスに含まれる酸素が比較的少ない場合とに応じて、酸素吸蔵放出材が、十分に酸素を吸蔵および放出する。そのため、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していなければ、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動のタイミングは、フロント酸素センサ5において検知される酸素濃度の変動のタイミングから、大きく遅れる。
【0099】
一方、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していると、排ガスに含まれる酸素が比較的多い場合であっても、排ガスに含まれる酸素が比較的少ない場合であっても、酸素吸蔵放出材は、十分に酸素を吸蔵および放出しない。そのため、三元触媒4の酸素吸蔵放出材が劣化していると、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動のタイミングは、フロント酸素センサ5において検知される酸素濃度の変動のタイミングとは、大きく異ならない。例えば、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動のタイミングは、フロント酸素センサ5において検知される酸素濃度の変動のタイミングとは、排ガスが触媒収容室31の通過に要する時間を除いて、略同期する。
【0100】
そこで、第2b判定処理では、フロント酸素センサ5において検知される酸素濃度の変動グラフと、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動グラフとを参照し、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動のタイミングと、フロント酸素センサ5において検知される酸素濃度の変動のタイミングとの差が、所定の基準値未満であるか否かを判定する(ステップS17)。
【0101】
第2b判定処理における所定の基準値(リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動のタイミングと、フロント酸素センサ5において検知される酸素濃度の変動のタイミングとの差)は、酸素吸蔵放出材の種類などに応じて異なる。好ましくは、酸素吸蔵放出材の初回使用時において、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動のタイミングと、フロント酸素センサ5において検知される酸素濃度の変動のタイミングとの差と、第2b判定処理における基準値とが、略同一である。
【0102】
そして、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動のタイミングと、フロント酸素センサ5において検知される酸素濃度の変動のタイミングとの差が、所定の基準値以上である場合(ステップS17;NO)に、劣化判定ユニット8は、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性がない(つまり、触媒未劣化)と第2b判定する(ステップS18)。
【0103】
なお、第2b判定において、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性がない状態とは、酸素吸蔵放出材が、ほぼ確実に劣化していないと判断できる状態である。このような場合、劣化判定ユニット8は、劣化判定フローを停止する(エンド)。
【0104】
一方、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動のタイミングと、フロント酸素センサ5において検知される酸素濃度の変動のタイミングとの差が、所定の基準値未満である場合(ステップS17;YES)には、酸素吸蔵放出材が劣化していると第2b判定する(ステップS19)。
【0105】
なお、第2b判定において、酸素吸蔵放出材が劣化している状態とは、酸素吸蔵放出材が、ほぼ確実に劣化していると判断できる状態である。
【0106】
そして、酸素吸蔵放出材が劣化していると判定された場合、劣化判定ユニット8は、報知デバイス(図示せず)により、酸素吸蔵放出材が劣化していることを報知する(ステップS20)。
【0107】
また、劣化判定ユニット8は、劣化判定フローを停止する(エンド)。その後、例えば、ガソリンエンジン2が停止され、再度、ガソリンエンジン2の作動したときに、劣化判定フローは、所定の条件に従って、開始される(スタート)。
【0108】
4.作用効果
上記のエンジンシステム1では、劣化判定ユニット8は、まず、燃料カットモードでガソリンエンジン2を作動させる。また、劣化判定ユニット8は、燃料カットモードが開始されてからリア酸素センサ6において酸素濃度の増加が検出されるまでの時間に基づいて、酸素吸蔵放出材の劣化を第1判定する。
【0109】
ここで、酸素吸蔵放出材が劣化していないと第1判定された場合、判定処理を終了する。一方、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第1判定された場合のみ、酸素吸蔵放出材は、第2判定に供される。
【0110】
第2判定では、劣化判定ユニット8は、リッチ検査モードとリーン検査モードとが繰り返されるようにガソリンエンジン2を作動させる。また、劣化判定ユニット8は、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度に基づいて、酸素吸蔵放出材の劣化を第2判定する。
【0111】
そのため、上記のエンジンシステム1では、酸素吸蔵放出材が、所定の場合に、第1判定に加えて第2判定にも供される。その結果、酸素吸蔵放出材が、第1判定のみに供される場合に比べて、酸素吸蔵放出機能の劣化が、より精度よく判定される。
【0112】
また、上記のエンジンシステム1では、第1判定において、酸素吸蔵放出材が劣化していないと判定される場合には、判定処理が終了される。そのため、酸素吸蔵放出材が、常に第1判定および第2判定に供される場合に比べて、酸素吸蔵放出機能の未劣化が、より効率よく判定される。
【0113】
さらに、第2判定では、リッチ検査モードとリーン検査モードとを繰り返すため、燃料効率および排ガス浄化効率が低下する場合がある。これに対して、第1判定で酸素吸蔵放出材が劣化していないと判定される場合に、判定処理が終了されていれば、第2判定が実行されず、燃料効率および排ガス浄化効率の低下を抑制できる。
【0114】
とりわけ、上記のエンジンシステム1では、劣化判定ユニット8は、第2a判定において、リッチ検査モードとリーン検査モードとが繰り返されるようにガソリンエンジン2を作動させる。また、劣化判定ユニット8は、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動量が所定の基準値を超過している場合、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第2a判定する。その後、上記エンジンシステム1では、酸素吸蔵放出材が劣化している可能性があると第2a判定された場合のみ、劣化判定ユニット8は、第2b判定において、リッチ検査モードとリーン検査モードとが繰り返されるようにガソリンエンジン2を作動させる。また、劣化判定ユニット8は、リア酸素センサ6において検知される酸素濃度の変動のタイミングと、フロント酸素センサ5において検知される酸素濃度の変動のタイミングとの差が、所定の基準値未満である場合、酸素吸蔵放出材が劣化していると第2b判定する。
【0115】
そのため、上記のエンジンシステム1では、酸素吸蔵放出材が、第2a判定に加えて第2b判定にも供されるため、酸素吸蔵放出材が、第2a判定または第2b判定のいずれか一方のみに供される場合に比べて、酸素吸蔵放出機能の劣化が、より精度よく判定される。
【0116】
また、上記のエンジンシステム1では、第2a判定において、酸素吸蔵放出材が劣化していないと判定される場合には、判定処理が終了される。そのため、酸素吸蔵放出材が、常に第2a判定および第2b判定に供される場合に比べて、酸素吸蔵放出機能の未劣化が、より効率よく判定される。
【0117】
加えて、上記のエンジンシステム1では、酸素濃度の変動グラフにおける波形の位相をより明確に観察するために、第2b判定処理におけるリッチ検査モードとリーン検査モードとの繰り返し周期は、第2a判定処理におけるリッチ検査モードとリーン検査モードとの繰り返し周期よりも、大きく設定されている。
【0118】
そのため、第2b判定における燃料効率および排ガス浄化効率の低下の度合いは、第2a判定における燃料効率および排ガス浄化効率の低下の度合いよりも、重度である。言い換えると、第2a判定における燃料効率および排ガス浄化効率の低下の度合いは、第2b判定における燃料効率および排ガス浄化効率の低下の度合いよりも、軽度である。
【0119】
そこで、上記のエンジンシステム1では、酸素吸蔵放出材は、先に第2a判定され、必要に応じて、第2a判定の後に、第2b判定される。そのため、上記のエンジンシステム1では、酸素吸蔵放出材が第2b判定の後に、第2a判定される場合に比べて、燃料効率および排ガス浄化効率の低下を抑制できる。
【0120】
5.変形例
なお、上記の説明では、第2判定処理において、まず、第2a判処理定を実行し、その後、第2b判定処理を実行しているが、例えば、まず、第2b判定処理を実行し、その後、第2a判定処理を実行することもできる。また、例えば、第2a判定処理のみを実行し、第2b判定処理を実行しなくともよい。また、例えば、第2b判定処理のみを実行し、第2a判定処理を実行しなくともよい。
【0121】
また、上記の説明では、劣化判定ユニット8は、エンジン制御ユニット7とは別体のコンピュータユニットとして記載されているが、劣化判定ユニット8は、エンジン制御ユニット7と、共用されていてもよい。つまり、1つのコンピュータユニットが、エンジン制御ユニット7として使用されるとともに、劣化判定ユニット8として使用されていてもよい。
【符号の説明】
【0122】
1 エンジンシステム
2 ガソリンエンジン
3 排気管
4 三元触媒
5 フロント酸素センサ
6 リア酸素センサ
7 エンジン制御ユニット
8 劣化判定ユニット
図1
図2
図3
図4