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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118208
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】鉛筆芯
(51)【国際特許分類】
   C09D 13/00 20060101AFI20240823BHJP
   B43K 19/02 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
C09D13/00
B43K19/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024516
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】新井 啓之
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB12
4J039AD05
4J039AE02
4J039AE11
4J039BA03
4J039BC19
4J039BC20
4J039BE01
4J039EA36
4J039EA42
4J039GA30
(57)【要約】
【課題】 摩耗量、耐擦過性、消去性、書き味に優れ、筆記描線の濃度向上と、定着性の向上とを高度に両立でき、筆記している手などに汚れも付きにくい鉛筆芯を提供する。
【解決手段】 焼成芯体又は非焼成芯体の気孔中に、官能基当量500(g/mol)以上で、かつ、粘度50(mPa・s)以上のシリコーンオイルを、下記式1で表される含浸率で5.0~25.0%含浸してなることを特徴とする鉛筆芯。
(式1):
含浸率=〔(含浸後芯重量/含浸前芯重量)-1〕×(1/含浸物比重)×100
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成芯体又は非焼成芯体の気孔中に、官能基当量500(g/mol)以上で、かつ、粘度50(mPa・s)以上のシリコーンオイルを、下記式で表される含浸率で5.0~25.0%含浸してなることを特徴とする鉛筆芯。
(式1):
含浸率=〔(含浸後芯重量/含浸前芯重量)-1〕×(1/含浸物比重)×100
【請求項2】
前記シリコーンオイルが、官能基当量6000(g/mol)以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉛筆芯。
【請求項3】
前記シリコーンオイルが、粘度4000(mPa・s)以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉛筆芯。
【請求項4】
前記シリコーンオイルの官能基当量/粘度の数値が1.50~40.00であることを特徴とする請求項1に記載の鉛筆芯。
【請求項5】
前記シリコーンオイルの粘度/官能基当量の数値が0.01~1.00であることを特徴とする請求項1に記載の鉛筆芯。
【請求項6】
前記シリコーンオイルが変性シリコーンオイルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉛筆芯。
【請求項7】
更にテルペンフェノール樹脂を含浸することを特徴とする請求項1又は2に記載の鉛筆芯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記描線の濃度向上と、定着性の向上とを高度に両立できる鉛筆芯に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の焼成鉛筆芯は、色材として黒鉛を使用するので、筆跡は黒鉛のa-b面が紙面を覆う形となり、そのa-b面が光を反射し、筆跡が黒く見え辛いという欠点を持っていた。そのため、鉛筆芯の筆跡の濃度向上のために様々な工夫がなされてきている。
筆跡の濃度向上を図った場合、色材としての黒鉛を多量に筆記面に移すことになるため、相対する性能として、定着性(描線を擦ったときの汚れにくさ)が挙げられる。即ち、筆跡の濃度向上を目指せば定着性が劣り、逆に定着性を良好にすれば筆跡の濃度に難が出てくると言える。
【0003】
そこで、鉛筆芯の分野においては、これらの性能を両立させるべく鋭意研究がなされてきている。
例えば、焼成芯体の気孔中に油状物を含浸してなる鉛筆芯において、前記油状物が、常温で固体状のシリコーンオイル等の油状物と、この固体状の油状物と非相溶性の常温で液状の油状物とを、焼成鉛筆芯の細孔内に含浸させ、描線の反射濃度と、描線の定着性について検討を行っている焼成鉛筆芯が知られている(例えば、特許文献1参照)。ここでの「定着性良好」とは、擦過による汚れが推定20%超であるところを10%台に抑制させるものであり充分とはいえなかった。
【0004】
また、焼成により得られる多孔に、含浸成分を含浸させてなる鉛筆芯において、前記含浸成分が、シリコーンオイル等と、炭素数14~50(C14~C50)の極性基を有する有機物とを、焼成鉛筆芯の細孔内に含浸させ、濃い筆跡と、描線の定着性とを両立させようとしている鉛筆芯が知られている(例えば、特許文献2参照)。この場合も「定着性良好」とは、更に悪く擦過による汚れが推定20%超であるところを20%程度に抑制させるものであり、更に充分といえなかった。
【0005】
更に、窒化硼素と、炭素より成る焼結体と、該焼結体の気孔中に充填されている粘着物とから構成され、その粘着物と筆記される製図用フイルムとの、はく離強さが50g/2.5cm以上であって、焼成芯の細孔内に粘着物(粘着性ワックス、ワックスと樹脂の混合物)を配合し、高強度で、濃度も高く、製図用フィルムに対する定着性に優れた「鉛芯」が開示されている(例えば、特許文献3参照)。この「鉛芯」は、製図用フィルムに対する定着性に優れるものであり、紙面に対しては粘着性が強すぎると考えられるものである。
【0006】
また、黒鉛を分散含有する焼成芯体とこの焼成芯体の気孔中に含浸された油状物とよりなる鉛筆芯において、前記油状物の少なくとも一部として、ワックスならびにロジン系樹脂及び/又は石油樹脂との相溶物を含浸させ、紙面に対する濃度向上と定着性向上を両立させた鉛筆芯が開示されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、ここで言う「定着性向上」は擦過による汚れを推定で10%程度に抑制するものであり、不十分なものであると思われる。
更に本出願人より、変性シリコーン油を焼成芯に含浸させ、筆跡濃度を高める効果を更に高め、運筆を更に滑らかにする鉛筆芯が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
この鉛筆芯は、従来よりも、筆跡濃度を高める効果を更に高め、運筆を更に滑らかにするものであるが、筆跡の定着性、耐擦過性などを更に改善することが切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-271604号公報(発明の詳細な説明、実施例等)
【特許文献2】特開2005-314620号公報(特許請求の範囲、発明の詳細な説明等)
【特許文献3】特開昭60-105598号公報(発明の詳細な説明、実施例等)
【特許文献4】特開平3-31377号公報(特許請求の範囲、発明の詳細な説明等)
【特許文献5】特開平9-316384号公報(特許請求の範囲、発明の詳細な説明等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の課題等に鑑み、これを解消しようとするものであり、筆記描線の濃度向上と、定着性の向上とを高度に両立できる鉛筆芯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、これを解消しようとするものであり、少なくとも焼成芯体の気孔中に特定の油成分を含浸することにより、上記目的の鉛筆芯が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
すなわち、本発明の鉛筆芯は、少なくとも、焼成芯体又は非焼成芯体の気孔中に、官能基当量500(g/mol)以上で、かつ、粘度50(mPa・s)以上のシリコーンオイルを、下記式で表される含浸率で5.0~25.0%含浸してなることを特徴とする。
(式1):
含浸率=〔(含浸後芯重量/含浸前芯重量)-1〕×(1/含浸物比重)×100
前記シリコーンオイルは、官能基当量6000(g/mol)以下であることが好ましい。
前記シリコーンオイルが、粘度4000(mPa・s)以下であることが好ましい。
前記シリコーンオイルの官能基当量粘度/粘度の数値が1.50~40.00であることが好ましい。
前記シリコーンオイルの粘度/官能基当量の数値が0.01~1.00であることが好ましい。
前記シリコーンオイルが変性シリコーンオイルであることが好ましい。
更にテルペンフェノール樹脂を含浸することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、筆記描線の濃度向上と、定着性の向上とを高度に両立できる鉛筆芯が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述するそれぞれの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0013】
本発明の鉛筆芯は、少なくとも焼成芯体の気孔中に官能基当量500(g/mol)以上で、かつ、粘度50(mPa・s)以上のシリコーンオイルを、下記式で表される含浸率で5.0~25.0%含浸してなることを特徴とするものである。
(式1):
含浸率=〔(含浸後芯重量/含浸前芯重量)-1〕×(1/含浸物比重)×100
【0014】
本発明において、用いることができる焼成芯体としては、例えば、少なくとも黒鉛を含み黒色の多孔質焼成芯体、窒化ホウ素等を含み白色の芯体に更に着色を施した多孔質焼成芯体などが挙げられる。また、いわゆる焼成工程を経ておらず、乾燥工程による収縮で気孔が開いた多孔質の非焼成芯体も挙げることができる。
これらの焼成芯体は、従来から用いられている配合材料及び製造方法などにより得ることができ、少なくとも黒鉛を含み黒色の多孔質焼成芯体や窒化ホウ素等を含み白色の芯体に更に着色を施した多孔質焼成芯体であれば、その配合材料種、製造方法は特に限定されるものではない。
例えば、少なくとも黒鉛を含み黒色の多孔質焼成芯体から構成される鉛筆芯がシャープペンシル用では、配合材料として、黒鉛を少なくとも含有するものであり、また、シャープペンシル以外の黒色の多孔質焼成芯体では、少なくとも黒鉛と、体質材とセラミック結合材などとを含有することが好ましい。
また、シャープペンシル用多孔質焼成芯体では、その他の成分として、結合材としてポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、ピッチ、セルロース、ポリアクリロニトリル、ナノ粒子として、平均粒径100nm以下の金属ナノ粒子、ダイヤモンドナノ粒子、これらのナノ粒子等からなる母材に対してアモルファスカーボン、黒鉛、ダイヤモンド及びセラミック材料などを被覆した被覆ナノ粒子、フラーレンなどのカーボン粒子、安定剤として、ステアリン酸Ca-Zn、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、可塑剤としてジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、フタル酸ジイソブチル、焼成鉛筆芯では、その他の成分として、色材、潤滑剤、バインダー成分、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、セルロイド及びその他の熱可塑性樹脂、有機溶剤等を用いることができる。
【0015】
用いることができる黒鉛としては、鱗片状天然黒鉛などの天然黒鉛、人造黒鉛、キッシュ黒鉛、膨張黒鉛、膨張化黒鉛などが挙げられ、セラミック結合材としては、結晶質又は非晶質のSiO、Si、Al、ZrO、MgO、窒化ホウ素、B、AlNなどが挙げられ、これらは各単独又は2種以上(以下、単に「少なくとも1種」という)を用いてもよいものである。
なお、本発明(後述する実施例等を含む)における平均粒径は、レーザー回折・散乱法における測定結果から体積で重みづけされた体積平均径(mv値)をいい、例えば、ナノ粒子では、ナノトラック〔日機装社製、UPA-EX150(内部プローブ型)〕を用いて測定することができる。
【0016】
体質材としては、従来の鉛筆芯に使用されているものであれば、特に限定されるものではなく、いずれも使用することができる。例えば、窒化ホウ素、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム等の白色系体質材や、鉛筆芯の色相によっては、有色系の体質材も使用することができ、当然これら数種類の混合物も使用できる。特に、好ましくは、その物性、形状から窒化ホウ素、カオリン、タルクが挙げられる。
【0017】
バインダー成分としては、従来の鉛筆芯に使用されているものであれば、特に限定されるものではなく、いずれも使用することができる。例えば、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース類、ポリビニルピロニドン等のポリビニル類、ポリオキシエチレン等のポリエーテル類、ポリアクリル酸等のアクリル酸類、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)縮合体等の無機高分子、モンモリロナイト等の粘土、セラミックガラス等の少なくとも1種が挙げられる。
【0018】
また、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩素化塩化ビニル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトンなどの少なくとも1種などを挙げられる。
用いる有機溶剤は、上記熱可塑性樹脂を溶解し得る可塑剤となるものが好ましく、具体的には、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、トリクレジルホスフェート、ジオクチルアジペート、ジアリルイソフタレート、プロピレンカーボネート、アルコール類、ケトン類、エステル類などの少なくとも1種を用いることができる。
【0019】
本発明において、焼成芯体は、各鉛筆芯種、例えば、シャープペンシル用焼成鉛筆芯やシャープペンシル以外の焼成鉛筆芯に用いる各成分(黒鉛、カーボンブラック、ナノ粒子、体質材、界面活性剤、香料、熱可塑性樹脂、有機溶剤など)を混練、成型、乾燥及び非酸化性雰囲気下で焼成処理して得ることができる。
例えば、鉛筆芯がシャープペンシル用の製造では、好ましくは、強度、濃度、書き味の点から、鉛筆芯配合組成物全量に対して、(a)上記黒鉛やカーボンブラック30~70質量%、(b)ナノ粒子0.01~1質量%を用いて、その他の成分である(c)熱可塑性合成樹脂30~60%、(d)該熱可塑性合成樹脂を溶解し得る有機溶剤0~30%を、ヘンシェルミキサーで分散混合し、加圧ニーダー、二本ロールで混練し、押出成型機により成型した後、電気炉で110~250℃で乾燥して、焼成前の鉛筆芯形成用の芯体を成形し、窒素などの不活性ガス雰囲気下で800~1400℃、20~40時間で焼成することにより鉛筆芯体を製造することができる。
また、本発明において、シャープペンシル用非焼成鉛筆芯やシャープペンシル以外の非焼成鉛筆芯に用いる各成分(黒鉛、カーボンブラックなどの色材、ナノ粒子、体質材、界面活性剤、香料、熱可塑性樹脂、有機溶剤など)を混練、成型、乾燥(非焼成処理、例えば50~120℃で低温乾燥)して得ることができる。
【0020】
本発明では、上述に如く、従来から用いられている配合材料及び製造方法などにより得られる、少なくとも焼成芯体又は非焼成芯体の気孔中に、官能基当量500(g/mol)以上で、かつ、粘度50(mPa・s)以上のシリコーンオイルを、下記式で表される含浸率で5.0~25.0%含浸することにより、目的の鉛筆芯を得ることができる。
(式1):
含浸率=〔(含浸後芯重量/含浸前芯重量)-1〕×(1/含浸物比重)×100
ここで、本明細書(後述する実施例等を含む)において、「官能基当量」は、下記式により算出される値である。下記式中、水酸基価は、JIS K 0070:1992(中和滴定法)に準じて測定される値である。
官能基当量(g/mol)=56,000/水酸基価(mgKOH/g)
また、「粘度」は、コーンプレートタイプ粘度計TVE-20、標準コーン(1°34′×R24)ずり速度3.83~383.00s-1で測定した、25℃における粘度(mPa・s)である。
【0021】
本発明に用いるシリコーンオイルは、官能基当量500(g/mol)以上で、かつ、粘度50(mPa・s)以上のものを用いることができ、市販品があれば、それらを使用することができる。なお、官能基当量が500(g/mol)未満、または,粘度50(mPa・s)未満のものでは、本発明の効果を発揮できないものとなる。
好ましくは、定着性の点、運筆性の点から、用いるシリコーンオイルの官能基当量は500(g/mol)以上6000(g/mol)以下であるものが望ましく、また、粘度は50(mPa・s)以上4000(mPa・s)以下のものが望ましい。
本発明の効果を更に発揮せしめる点等から、好ましくは、前記シリコーンオイルの官能基当量/粘度の数値が1.50~40.00、更に好ましくは、1.50~25.00となるものが望ましく、また、好ましくは、前記シリコーンオイルの粘度/官能基当量の数値が0.01~1.00、更に好ましくは、0.03~0.80となるものが望ましい。
【0022】
用いることができるシリコーンオイルは、上記官能基当量500(g/mol)以上で、かつ、粘度50(mPa・s)以上を充足するものであれば、特に限定されず、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、環状ジメチルシリコーンオイルなど、また、変性シリコーンオイルでは、アミノ変性(モノアミン、ジアミン、アミノ・ポリエーテル)シリコーンオイル、エポキシ(エポキシ、脂環式エポキシ、エポキシ・ポリエーテル、エポキシアラルキル)変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、シラノール変性シリコーンオイル、アクリル変性シリコーンオイル、カルボン酸無水物変性シリコーンオイルなどが挙げられ、これらの変性部位が側鎖型、両末端型、片末端型、側鎖両末端型の反応性、非反応性の変性シリコーンオイルの少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、描線の定着性の点、品質の安定性の点から変性シリコーンが望ましく、特に好ましくは、上記各種の反応性の変性シリコーンが望ましい。
【0023】
具体的には、市販品では、信越化学工業社製のアミノ変性シリコーンオイル(側鎖型、変性タイプ:ジアミン、商品名:KF-8021等)、エポキシ変性シリコーンオイル(側鎖型、変性タイプ:エポキシ、商品名:KF-101等)、カルボキシル変性シリコーンオイル(側鎖型、変性タイプ:カルボキシル、商品名:X-22-3701E等)、カルビノール変性シリコーンオイル(両末端型、変性タイプ:カルビノール、商品名:KF-6000等)、メタクリル変性シリコーンオイル(両末端型、変性タイプ:メタクリル、商品名:X-22―164等)、ポリエーテル変性シリコーンオイル(両末端型、変性タイプ:ポリエーテル、商品名:X-22-4952等)、カルボン酸無水物変性シリコーンオイル(両末端型、変性タイプ:カルボン酸無水物、商品名:X-22-168AS等)、カルビノール変性シリコーンオイル(両末端型、変性タイプ:カルビノール、商品名:KF-6003等)、ジオール変性シリコーンオイル(片末端型、変性タイプ:ジオール、商品名:X-22-176DX等)、また、ダウ・東レ株式会社製のアミド・ポリエーテル変性シリコーンオイル(側鎖型、変性タイプ:アミド・ポリエーテルタイプ、商品名:DOWSIL(登録商標)BY16-891等)、アミノ・ポリエーテル変性シリコーンオイル((AB)n型、変性タイプ:アミノ・ポリエーテル、商品名:DOWSIL(登録商標)FZ-3789等)の少なくとも1種が挙げられる。
【0024】
これらの官能基当量500(g/mol)以上で、かつ、粘度50(mPa・s)以上のシリコーンオイルは、焼成芯体の気孔中に、下記式で表される含浸率で,5.0~25.0%含浸してなることが必要であり、更に好ましくは、10.0~18.0%が望ましい。
(式1):
含浸率=〔(含浸後芯重量/含浸前芯重量)-1〕×(1/含浸物比重)×100
上記含浸率が5.0%未満であると、描線濃度が低くなり、運筆も重く、黒鉛の定着性も悪くなり、一方、25.0%超過では、焼成芯体又は非焼成芯体内の含浸成分が多くなり、筆記線が消えにくくなったり、含浸成分が紙面に浸透し、筆記線の裏移りが発生しやすく、好ましくない。
この含浸率5.0~25.0%に調整するために、上記特性のシリコーンオイル種及び量、焼成芯体又は非焼成芯体の気孔率等により好適に調整することができる。
【0025】
本発明では、本発明の効果の更なる向上の点、特に定着性向上の点等から、前記特性のシリコーンオイルに加え、テルペンフェノール樹脂を併用することが望ましい。
用いることができるテルペンフェノール樹脂は、テルペン化合物とフェノール類を、フリーデル・クラフツ触媒のもとでカチオン重合により共重合したものである。
上記テルペン化合物は、一般に、イソプレン(C)の重合体で、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)等に分類され、これらを基本骨格とする化合物である。これらの中で、本発明では、モノテルペン、セスキテルペン、ジテルペンが好ましく、セスキテルペン、モノテルペンがより好ましく用いられる。
これらテルペン化合物としては、例えば、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-ピ
ネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-
テルピネン、テルピノレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオ
ール、β-テルピネオール、γ-テルピネオール、カンフェン、トリシクレン、サビネン
、パラメンタジエン類、カレン類が挙げられる。
これらの中では、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、α-
テルピネンが好ましい。
【0026】
フェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、プロピルフ
ェノール、ノリルフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、メトキシフェノール、ブロ
モフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFが挙げられる。
これらの中では、フェノール、クレゾールが好ましい。
テルペンフェノール樹脂は、いわゆるタッキファイヤー(粘着性付与樹脂)の一種であり、通常分子量が数百~数千までの無定形オリゴマーであるとされている。テルペンフェノール樹脂の他のテルペン系樹脂には、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂ならびに水素化テルペン樹脂が存在する。本発明では、テルペンフェノール樹脂を水素添加処理して得られた水添テルペンフェノール樹脂であってもよい。
本発明では、テルペンフェノール樹脂の市販品があれば、それらを使用することができ、例えば、ヤスハラケミカル社製のポリスターシリーズやマイティーエースシリーズの商品名で市販されており容易に入手できる。具体的には、YSポリスターT30、YSポリスターT80、YSポリスターT160(以上、ヤスハラケミカル社製)などが挙げられる。
【0027】
本発明では、焼成芯体又は非焼成芯体の気孔中、例えば、少なくとも黒鉛を含み黒色の多孔質焼成芯体の気孔中に含浸成分として、上述の官能基当量500(g/mol)以上で、かつ、粘度50(mPa・s)以上のシリコーンオイルを、式1で表される含浸率で5.0~25.0%とすることにより目的の鉛筆芯を得ることができ、更に、上述の官能基当量500(g/mol)以上で、かつ、粘度50(mPa・s)以上のシリコーンオイルを、式1で表される含浸率で5.0~25%に加え、テルペンフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種を含浸成分として式1で表される含浸率で5.0~25.0%加えることにより、摩耗量、耐擦過性、消去性、書き味に更に優れ、筆記描線の濃度向上と、定着性の向上とを更に高度に両立させ、しかも、筆記している手などに汚れも付きにくい鉛筆芯が得られることとなる。
【0028】
本発明において、上記構成の焼成芯体又は非焼成芯体の気孔中に含浸処理する方法としては、特に限定されないが、例えば、上記焼成芯体又は非焼成芯体の気孔中に、官能基当量500(g/mol)以上で、かつ、粘度50(mPa・s)以上のシリコーンオイルを、80~200℃の範囲に加熱し含浸処理することにより、及び/又は、加圧含浸により含浸処理させた後、遠心工程を経て、上述の式1で表される含浸率で5.0~25.0%に調整することができ、また、テルペンフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種を、カルビノール変性シリコーンオイル等と共に、または、これらをエチレングリコール、エタノール、2-エチルヘキサノール、ブチルセルソルブ、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、イソプロパノール、プロピレングリコールなどの溶剤で希釈した溶液中に、焼成芯体を浸漬、必要に応じて、加熱浸漬、また、減圧、加圧を用いて十分に含浸させた後、溶剤を除去(乾燥)させることで上記含浸率範囲となるテルペンフェノール樹脂を含浸させることができる。
【0029】
このように構成される本発明では、少なくとも黒鉛を含み黒色の多孔質焼成芯体又は非焼成芯体の気孔中に、上記特性のシリコーンオイルの含浸率、または、この特性のシリコーンオイルに加え、テルペンフェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種を上記含浸率で含浸させることにより含有すると、芯が摩耗する際に浸透して崩れやすく、摩耗粉は紙面へ定着しやすくなることにより、平滑な紙面等に濃く筆記可能となること、並びに、運筆が滑らかとなり、摩耗紛同士も凝集しやすくなることにより、摩耗量、耐擦過性、消去性、書き味に筆記描線の濃度向上と、定着性の向上とを高度に両立でき、従来よりも定着性に優れるので、筆記している手などに汚れも付きにくい鉛筆芯が得られることとなる。
【実施例0030】
次に、実施例及び比較例により、本発明を更に詳述するが、本発明は下記実施例等により限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
用いる焼成芯体として、下記方法により、少なくとも黒鉛を含み黒色の多孔質焼成芯体(焼成鉛筆芯体)を作製した。
鱗片状天然黒鉛 40質量部
ナノ粒子:ダイヤモンドナノ粒子(粒径:mv値50nm) 0.4質量部
ポリ塩化ビニル 40質量部
ステアリン酸ナトリウム 1質量部
ジオクチルフタレート 15質量部
上記ナノ粒子とジオクチルフタレートをビーズミルで180分間分散させ、他の上記材料をヘンシェルミキサーで混合分散(混合分散時間20分、以下同様)し、加圧ニーダー、ロールで混練し、成形後、ジオクチルフタレートを乾燥後、窒素(N)雰囲気中にて1000℃、10時間で焼成処理することによって、直径0.565mm、長さ60mmの焼成鉛筆芯体を製造した。
次いで、この焼成鉛筆芯体を、下記表1に示す配合組成の含浸液A、含浸液Bを用いて、3MPaで加圧して浸漬し、150℃-24時間含浸処理し、鉛筆芯を製造した。なお、シリコーンオイルの含浸率は、上記式(1)により算出した。シリコーンオイルの官能基当量/粘度、粘度/官能基当量の各値は、下記表1中に示す。
【0032】
(実施例2~7及び比較例1~4)
上記実施例1で得た焼成鉛筆芯体を、下記表1に示す配合組成の含浸液Aまたは、含浸液B中に浸漬し、150℃-24時間含浸処理し、鉛筆芯を製造した。なお、含浸率は、上記式(1)により算出した。
【0033】
上記実施例1~7及び比較例1~4で得られた各鉛筆芯について、下記各評価方法により、摩耗量、耐擦過性、消去性、書き味について、評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0034】
(摩耗量の評価方法)
三菱鉛筆社製のシャープペンシル(M5-450 1P)に装填し、JIS S 6005:2007に規定されている濃度試験で筆記した鉛筆芯の描線を濃度計(コニカミノルタ社製 DENSITOMETER PDA65)で測定し、下記評価基準(平均値、n=10)で評価した。
評価基準:
◎:6mの筆記長で摩耗量が2mm未満
○:6mの筆記長で摩耗量が2mm~2.5mm
△:6mの筆記長で摩耗量が2.5mm超~3mm
×:6mの筆記長で摩耗量が3mm超
【0035】
(耐擦過性の評価方法)
三菱鉛筆社製のシャープペンシル(M5-450 1P)に装填し、JIS S 6005:2007に規定されている濃度試験で筆記した鉛筆芯の描線を濃度計(コニカミノルタ社製 DENSITOMETER PDA65)で測定し、下記評価基準(平均値、n=10)で評価した。
評価基準:
◎:フェルト棒を用い300gfの加重で5往復し、この擦過により生じた部分の濃度が0.1未満
○:フェルト棒を用い300gfの加重で5往復し、この擦過により生じた部分の濃度が0.1~0.2未満
△:フェルト棒を用い300gfの加重で5往復し、この擦過により生じた部分の濃度が0.2~0.5
×:フェルト棒を用い300gfの加重で5往復し、この擦過により生じた部分の濃度が0.5超
【0036】
(消去性の評価方法)
三菱鉛筆社製のシャープペンシル(M5-450 1P)に装填し、JIS S 6005:2007に規定されている濃度試験で筆記した鉛筆芯の描線を濃度計(コニカミノルタ社製 DENSITOMETER PDA65)で測定し、得られた値を消去前描線濃度(D)とした。次に、この描線の上を、消しゴム片によって11.76N(1,200g重)の荷重をかけて4往復擦過した後に、前記濃度計で測定し得られた値を消去後描線濃度(D)とした。そして、下記式にて消しゴム消去率(E)を求め、下記評価基準(平均値、n=10)で評価した。
(%)=(D-D)/D×100
評価基準:
◎:Eが95%超
○:Eが90%~95%
△:Eが85%~90%未満
×:Eが85%未満
【0037】
(書き味の評価方法)
三菱鉛筆社製のシャープペンシル(M5-450 1P)に装填し、400字詰め原稿用紙を1枚「三菱鉛筆」と繰り返し筆記し、出願人既存品(三菱鉛筆社製、「ナノダイヤ」0.5mm-HB)と比較し、下記評価基準(平均値、n=10)で評価した。
評価基準:
◎:非常に良い
○:既存品より良い
△:既存品と同等
×:既存品より悪い
【0038】
【表1】
【0039】
上記表1中の*1~*11は、下記のとおりである。また、*1~*9は、信越化学工業社製の製品であり、*1~*6は反応性変性シリコーンオイルである。粘度は、25℃における粘度値(mPa・s)である。
*1:両末端型、粘度:35mPa・s、官能基当量:467(g/mol)
*2:側鎖型、粘度:1500mPa・s、官能基当量:1500(g/mol)
*3:側鎖型、粘度:1500mPa・s、官能基当量:55000(g/mol)
*4:両末端型、粘度:160mPa・s、官能基当量:500(g/mol)
*5:両末端型、粘度:100mPa・s、官能基当量:1120(g/mol)
*6:側鎖型、粘度:2000mPa・s、官能基当量:4000(g/mol)
*7:粘度:30mPa・s、一般用
*8:粘度:4mPa・s、デカメチルシクロペンタシロキサン
*9:固形、山桂産業株式会社製
*10:軟化点160℃、ヤスハラケミカル社製
*11:融点69℃、日本精蝋社製
【0040】
上記表1の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1~7の鉛筆芯は、本発明の範囲外となる比較例1~4に較べて、摩耗量、耐擦過性、消去性、書き味に優れ、筆記描線の濃度向上と、定着性の向上とを高度に両立でき、筆記している手などに汚れも付きにくい鉛筆芯となることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の鉛筆芯は、木軸鉛筆芯、シャープペンシル用などに好適に用いることができる。