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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118215
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】多孔質酸化スズ粒子
(51)【国際特許分類】
   C01G 19/02 20060101AFI20240823BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240823BHJP
   C25B 11/04 20210101ALI20240823BHJP
   C25B 11/057 20210101ALI20240823BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240823BHJP
【FI】
C01G19/02 B
H01M4/86 B
C25B11/04
C25B11/057
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024528
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 正哲
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
(72)【発明者】
【氏名】信川 健
【テーマコード(参考)】
4K011
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA20
4K011DA01
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018EE12
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH04
5H018HH05
5H018HH06
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】NbドープSnO2からなり、かつ、相対的に高い導電率を有する多孔質酸化スズ粒子を提供すること。
【解決手段】多孔質酸化スズ粒子は、NbドープSnO2からなる結晶子の集合体からなる多孔質の一次粒子が連結した連珠構造を備え、導電率比が68.4未満である。但し、「導電率比」とは、多孔質酸化スズ粒子の全体の導電率(σtotal)に対する、多孔質酸化スズ粒子の内部の導電率(σbulk)の比(=σbulk/σtotal)をいう。多孔質酸化スズ粒子は、Nbの濃度比が2.6未満であるものが好ましい。但し、「Nbの濃度比」とは、ICPで求めた多孔質酸化スズ粒子の平均のNb濃度(CICP)に対する、XPSで求めた多孔質酸化スズの表面のNb濃度(CXPS)の比(=CXPS/CICP)をいう。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NbドープSnO2からなる結晶子の集合体からなる多孔質の一次粒子が連結した連珠構造を備え、
導電率比が68.4未満である
多孔質酸化スズ粒子。
但し、前記「導電率比」とは、前記多孔質酸化スズ粒子の全体の導電率(σtotal)に対する、前記多孔質酸化スズ粒子の内部の導電率(σbulk)の比(=σbulk/σtotal)をいう。
【請求項2】
Nbの濃度比が2.6未満である請求項1に記載の多孔質酸化スズ粒子。
但し、前記「Nbの濃度比」とは、ICPで求めた前記多孔質酸化スズ粒子の平均のNb濃度(CICP)に対する、XPSで求めた前記多孔質酸化スズの表面のNb濃度(CXPS)の比(=CXPS/CICP)をいう。
【請求項3】
IPCで求めた前記多孔質酸化スズ粒子の平均のNb濃度(CICP)が0.1at%以上である請求項1に記載の多孔質酸化スズ粒子。
【請求項4】
前記σtotalが5×10-5S/cm以上である請求項1に記載の多孔質酸化スズ粒子。
【請求項5】
比表面積が50m2/g以上である請求項1に記載の多孔質酸化スズ粒子。
【請求項6】
細孔径が2nm以上20nm以下である請求項1に記載の多孔質酸化スズ粒子。
【請求項7】
平均一次粒子径が0.05μm以上2.0μm以下である請求項1に記載の多孔質酸化スズ粒子。
【請求項8】
細孔容量が0.1mL/g以上である請求項1に記載の多孔質酸化スズ粒子。
【請求項9】
平均結晶子径が2nm以上40nm以下である請求項1に記載の多孔質酸化スズ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質酸化スズ粒子に関し、さらに詳しくは、Nbがドープされた酸化スズからなり、かつ、相対的に高い導電率を有する多孔質酸化スズ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜の両面に触媒層が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。触媒層の外側には、通常、ガス拡散層が配置される。さらに、ガス拡散層の外側には、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。PEFCは、通常、このようなMEA、ガス拡散層及び集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
PEFCにおいて、触媒層は、一般に、担体表面に白金などの触媒金属微粒子を担持させた電極触媒と、触媒層アイオノマとの混合物からなる。触媒担体には、従来、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの炭素材料が主に用いられてきた。特に、近年、メソ孔を有するカーボン担体が注目されている(非特許文献1)。粒径と細孔径とが適切に制御された多孔質カーボン粒子を担体に用いると、アイオノマのスルホン酸基による触媒被毒の低減と、担体細孔内のクヌーセン拡散抵抗の低減とを両立でき、低負荷性能と高負荷性能との背反のないセル性能が得られることが分かっている(特許文献1)。
【0004】
しかし、カーボン担体は高電位に曝されると酸化腐食し、担体上に担持された触媒金属微粒子が脱落すること、及びこれによって電極性能が低下することが知られている。セルの初期性能と耐久性とを両立させるためには、カーボンに代わる高電位で安定な材料を用いて多孔質担体を作製する必要がある。そのため、カーボンの代替材料として、高電位で安定な導電性金属酸化物を担体材料として用いることが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献2には、酸化物半導体からなる結晶子の集合体からなる多孔質の一次粒子が連結した連珠構造を備え、比表面積が60m2/g以上である多孔質酸化物半導体粒子が開示されている。
同文献には、このような多孔質酸化物半導体粒子を固体高分子形燃料電池の触媒担体として用いると、担体の酸化腐食による触媒金属微粒子の脱落が抑制され、触媒層内における物質移動が促進され、あるいは、触媒被毒による活性低下が抑制される点が記載されている。
【0006】
非特許文献2には、SbドープSnO2(ATO)からなる担体にPtを担持させた酸素還元触媒が開示されている。
同文献には、このような酸素還元触媒を0.3V以下の電位に曝すと、ATOからSbが溶出する点が記載されている。
【0007】
非特許文献3には、NbドープSnO2エアロゲル又はSbドープSnO2エアロゲルからなる固体高分子形燃料電池用触媒担体が開示されている。また、同文献では、エアロゲルの直流抵抗測定と電気化学インピーダンス測定とから、エアロゲル全体の導電率σglobalと、粒子界面の抵抗を除いたバルク部分の導電率σbulkとを求めている。
【0008】
同文献には、
(A)SbドープSnO2エアロゲルは、σglobalとσbulkがほぼ同等である(すなわち、粒子界面の抵抗がほとんど存在しない)点、及び、
(B)NbドープSnO2エアロゲルは、σglobalがσbulkよりも1桁又は2桁低い(すなわち、粒子界面の抵抗が存在する)点
が記載されている。
【0009】
非特許文献4には、NbドープSnO2からなる担体にPtが担持された固体高分子形燃料電池用触媒が開示されている。
同文献には、粒子界面の抵抗の起源に関し、
SnO2粒子表面から供給される電子によって酸素や水が還元され、
酸素種(O2-、O-、O2 -)や水酸化物(OH-)がSnO2粒子表面に化学吸着し、
この際にSnO2粒子界面近傍に電子の欠乏層が形成される
と説明されている。
【0010】
SbドープSnO2は、NbドープSnO2よりも高い導電率を示す。しかしながら、SbドープSnO2は、低電位に晒されるような使い方をした場合、ドープしたSbが溶出する場合がある。Sbが溶出すると、SbドープSnO2の導電率が低下する場合がある。また、溶出したSbがPt表面に吸着し、あるいは、電解質膜のスルホン酸基のプロトンと置換することで、セルの性能に悪影響を及ぼすことが懸念される。
【0011】
一方、NbドープSnO2は、0.3V以下の低電位環境下における安定性が高い。しかしながら、従来のNbドープSnO2は、SbドープSnO2に比べて導電率が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2021-084852号公報
【特許文献2】特開2022-077821号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】S. Ott et al., Nature Mater., 2019, 19, 77
【非特許文献2】D. Jalalpoor et al., J. Electrochem. Soc., 2021, 168, 024502
【非特許文献3】G. Ozouf et al., J. Mater. Sci., 2016, 51, 5305
【非特許文献4】K. Kakinuma et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 2019, 11, 34957
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、NbドープSnO2からなり、かつ、相対的に高い導電率を有する多孔質酸化スズ粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る多孔質酸化スズ粒子は、
NbドープSnO2からなる結晶子の集合体からなる多孔質の一次粒子が連結した連珠構造を備え、
導電率比が68.4未満である。
但し、前記「導電率比」とは、前記多孔質酸化スズ粒子の全体の導電率(σtotal)に対する、前記多孔質酸化スズ粒子の内部の導電率(σbulk)の比(=σbulk/σtotal)をいう。
【発明の効果】
【0016】
多孔質酸化スズ粒子を製造する方法として、Sn源及びNb源を溶解させた細孔容量分の溶液をメソポーラスカーボンの細孔内に充填する方法(充填法)を用いると、導電率比が小さい多孔質酸化スズ粒子が得られる。これは、充填法を用いると、細孔内にSn源とNb源が均一に充填され、粒子表面にNbの偏在層(高抵抗層)が形成されにくくなるためと考えられる。その結果、多孔質酸化スズ粒子の粒子界面の電子抵抗が低減され、粒子の全体の導電率σtotalが粒子の内部の導電率σbulkに近づくと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子の製造方法の模式図である。
図2】実施例1~3及び比較例1で得られた連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子のσbulk及びσtotalである。
図3】実施例1~3及び比較例1で得られた連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子のCXPS及びCICPである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 多孔質酸化スズ粒子]
本発明に係る多孔質酸化スズ粒子は、以下の構成を備えている。
【0019】
[構成1]
NbドープSnO2からなる結晶子の集合体からなる多孔質の一次粒子が連結した連珠構造を備え、
導電率比が68.4未満である
多孔質酸化スズ粒子。
但し、前記「導電率比」とは、前記多孔質酸化スズ粒子の全体の導電率(σtotal)に対する、前記多孔質酸化スズ粒子の内部の導電率(σbulk)の比(=σbulk/σtotal)をいう。
【0020】
[構成2]
Nbの濃度比が2.6未満である構成1に記載の多孔質酸化スズ粒子。
但し、前記「Nbの濃度比」とは、ICPで求めた前記多孔質酸化スズ粒子の平均のNb濃度(CICP)に対する、XPSで求めた前記多孔質酸化スズの表面のNb濃度(CXPS)の比(=CXPS/CICP)をいう。
【0021】
[構成3]
IPCで求めた前記多孔質酸化スズ粒子の平均のNb濃度(CICP)が0.1at%以上である構成1又は2に記載の多孔質酸化スズ粒子。
【0022】
[構成4]
前記σtotalが5×10-5S/cm以上である構成1から3までのいずれか1つに記載の多孔質酸化スズ粒子。
【0023】
[構成5]
比表面積が50m2/g以上である構成1から4までのいずれか1つに記載の多孔質酸化スズ粒子。
【0024】
[構成6]
細孔径が2nm以上20nm以下である構成1から5までのいずれか1つに記載の多孔質酸化スズ粒子。
【0025】
[構成7]
平均一次粒子径が0.05μm以上2.0μm以下である構成1から6までのいずれか1つに記載の多孔質酸化スズ粒子。
【0026】
[構成8]
細孔容量が0.1mL/g以上である構成1から7までのいずれか1つに記載の多孔質酸化スズ粒子。
【0027】
[構成9]
平均結晶子径が2nm以上40nm以下である構成1から8までのいずれか1つに記載の多孔質酸化スズ粒子。
【0028】
[1.1. 一次粒子]
本発明に係る多孔質酸化スズ粒子は、NbドープSnO2からなる結晶子の集合体からなる多孔質の一次粒子が連結した連珠構造を備えている。
本発明において、「一次粒子」とは、5価のニオブがドープされた酸化スズ(以下、「Nb-SnO2」ともいう)からなる結晶子の集合体からなる多孔質の粒子をいう。
「多孔質」とは、結晶子の隙間にメソ孔があることをいう。
「メソ孔」とは、一般に、直径が2~50nmの細孔をいうが、本発明において「メソ孔」というときは、直径が2nm未満の細孔(いわゆる、「マイクロ孔」)も含まれる。
【0029】
[1.1.1. Nb-SnO2
一次粒子を構成する結晶子は、Nb-SnO2からなる。Nb-SnO2は、燃料電池環境下における耐久性(特に、低電位環境下における耐久性)が高いので、結晶子を構成する酸化物半導体として好適である。
【0030】
[1.1.2. 平均のNb濃度]
「平均のNb濃度(CICP)」とは、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法(以下、単に「ICP」ともいう)により測定された、粒子全体の平均的なNb濃度をいう。
【0031】
一般に、CICPが高くなるほど、多孔質酸化スズ粒子の導電率が高くなる。高い導電率を得るためには、CICPは、0.1at%以上が好ましい。CICPは、さらに好ましくは、0.5at%以上、1.0at%以上、あるいは、1.5at%以上である。
一方、CICPが高くなりすぎると、キャリア移動度が低下し、導電率が低下する場合がある。従って、CICPは、15.0at%以下が好ましい。CICPは、さらに好ましくは、12.5at%以下、あるいは、10.0at%以下である。
【0032】
[1.1.3. Nbの濃度比]
「Nbの濃度比」とは、多孔質酸化スズ粒子の平均のNb濃度(CICP)に対する、多孔質酸化スズの表面のNb濃度(CXPS)の比(=CXPS/CICP)をいう。
「表面のNb濃度(CXPS)」とは、X線光電子分光法(以下、単に「XPS」ともいう)により測定された、粒子表面のNb濃度をいう。
【0033】
多孔質カーボンを鋳型に用いてNb-SnO2からなる多孔質酸化スズ粒子を製造する場合において、製造条件が不適切であるときには、粒子表面にNbが偏在しやすくなる。その結果、Nbの濃度比が高くなる。粒子表面にNbが偏在すると、偏在したNbの一部がSnO2結晶格子中のSnと置換せず、NbOxなどとして存在する。このようなNbの偏在層は、多孔質酸化スズ粒子の導電率を低下させる原因となる。
これに対し、後述する方法を用いると、粒子表面におけるNbの偏在を抑制することができる。製造条件を最適化すると、Nbの濃度比は、2.6未満となる。製造条件をさらに最適化すると、Nbの濃度比は、2.4以下、あるいは、2.0以下となる。
【0034】
[1.1.4. 平均一次粒子径]
「平均一次粒子径」とは、一次粒子の最大寸法(=直径)の平均値をいう。
平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定することができる。
【0035】
一般に、平均一次粒子径が小さくなりすぎると、触媒粒子を担持することが困難となる。従って、平均一次粒子径は、0.05μm以上が好ましい。平均一次粒子径は、さらに好ましくは、0.06μm以上、あるいは、0.07μm以上である。
一方、本発明に係る多孔質酸化スズ粒子を触媒担体に用いて、燃料電池用の触媒層を製造する場合において、平均一次粒子径が大きくなりすぎると、触媒層の厚さが厚くなり、触媒層中のイオン抵抗及び電子抵抗が大きくなる場合がある。従って、平均一次粒子径は、2.0μm以下が好ましい。平均一次粒子径は、さらに好ましくは、1.0μm以下、あるいは、0.5μm以下である。
【0036】
[1.1.5. 平均結晶子径]
「平均結晶子径」とは、結晶子の最大寸法(=直径)の平均値をいう。
平均結晶子径は、X線回折ピークの線幅とシェラーの式とから求めることができる。
【0037】
平均結晶子径が小さくなりすぎると、細孔径が小さくなりすぎる。従って、平均結晶子径は、2nm以上が好ましい。平均結晶子径は、さらに好ましくは、3nm以上、あるいは、4nm以上である。
一方、平均結晶子径が大きくなりすぎると、細孔径が大きくなりすぎる。従って、平均結晶子径は、40nm以下が好ましい。平均結晶子径は、さらに好ましくは、20nm以下、あるいは、10nm以下である。
【0038】
[1.1.6. 一次粒子の形状]
本発明において、一次粒子の形状は、特に限定されない。後述する方法を用いて多孔質酸化スズ粒子を作製した場合、一次粒子は、通常、完全な球状とはならず、アスペクト比が1.1~3程度のいびつな形状を持つ。
【0039】
[1.2. 二次粒子]
本発明に係る多孔質酸化スズ粒子は、連珠構造を備えた二次粒子である。
ここで、「連珠構造」とは、一次粒子が数珠状に連結している構造をいう。連珠構造を備えた二次粒子は、一次粒子が互いに粗に連結しているため、一次粒子の間には相対的に粗大な空隙がある。また、一次粒子は微細な結晶子の集合体からなるため、一次粒子の内部には相対的に微細な空隙(メソ孔)がある。
【0040】
後述するように、本発明に係る多孔質酸化スズ粒子は、メソポーラスカーボンを鋳型に用いて製造される。また、メソポーラスカーボンは、メソポーラスシリカを鋳型に用いて製造される。メソポーラスシリカは、通常、シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、シリカ源を縮重合させることにより合成されている。
【0041】
この時、反応溶液中の界面活性剤の濃度及びシリカ源の濃度をそれぞれある特定の範囲に限定すると、連珠構造を備えており、かつ、平均一次粒子径、細孔径、細孔容量、タップ密度等が特定の範囲にあるメソポーラスシリカが得られる。
このような連珠構造を備えたメソポーラスシリカを第1鋳型に用いると、連珠構造を備えたメソポーラスカーボンが得られる。さらに、連珠構造を備えたメソポーラスカーボンを第2鋳型に用いると、連珠構造を備えた多孔質酸化スズ粒子が得られる。
【0042】
[1.3. 特性]
[1.3.1. 導電率比]
「導電率比」とは、多孔質酸化スズ粒子の全体の導電率(σtotal)に対する、多孔質酸化スズ粒子の内部の導電率(σbulk)の比(=σbulk/σtotal)をいう。
【0043】
「全体の導電率(σtotal)」とは、
(a)2枚のステンレス鋼製円盤と、円筒状の穴が開いたプラスチック製治具とを用いて多孔質酸化スズ粒子を成形し、
(b)得られた圧粉体に2.4MPaの圧力をかけた状態で、一定の電流を流しながら電圧を測定する
ことにより得られる導電率をいう。
【0044】
「内部の導電率(σbulk)」とは、
(a)2枚のステンレス鋼製円盤と、円筒状の穴が開いたプラスチック製治具とを用いて多孔質酸化スズ粒子を成形し、
(b)得られた圧粉体に2.4MPaの圧力をかけた状態で、電気化学インピーダンス測定(保持電圧:0.2V、振幅:0.1V、周波数:10Hz~5MHz)を行い、
(c)得られたナイキストプロットの高周波側の実軸との切片の値を求める
ことにより得られる導電率をいう。
【0045】
多孔質カーボンを鋳型に用いて多孔質酸化スズ粒子を製造する場合において、製造条件が不適切であるときには、粒子表面にNbが偏在しやすくなる。Nbの偏在層は高抵抗層であるため、粒子表面に存在するNbの偏在層はσtotalを低下させる原因となる。
一方、粒子内部ではNbが偏在しておらず、SnO2に適量のNbがドープされた状態であるため、σbulkは相対的に小さいままである。そのため、製造条件が不適切であるときには、導電率比は大きくなる。
【0046】
これに対し、製造条件を最適化すると、粒子表面におけるNbの偏在を抑制することができる。その結果、多孔質酸化スズ粒子の導電率比は、相対的に小さくなる。製造条件を最適化すると、導電率比は、68.4未満となる。製造条件をさらに最適化すると、導電率比は、60.0以下、50.0以下、40.0以下、30.0以下、20.0以下、あるいは、10.0以下となる。
【0047】
[1.3.2. 全体の導電率]
全体の導電率(σtotal)は、Nbのドープ量と、粒子表面におけるNbの偏在の程度に依存する。製造条件を最適化すると、σtotalは、5×10-5S/cm以上となる。製造条件をさらに最適化すると、σtotalは、7.5×10-5S/cm以上、あるいは、1.0×10-4S/cm以上となる。
【0048】
[1.3.3. 比表面積]
本発明に係る多孔質酸化スズ粒子をPEFCの触媒担体に用いる場合において、多孔質酸化スズ粒子の比表面積が小さくなりすぎると、触媒の活性種を微粒で高分散に担持できなくなり、触媒の有効面積が小さくなる。従って、多孔質酸化スズ粒子の比表面積は、大きいほどよい。
【0049】
本発明に係る多孔質酸化スズ粒子は、連珠構造を備え、かつ、一次粒子内にメソ孔があるため、従来の材料に比べて比表面積が大きい。製造条件を最適化すると、比表面積は、50m2/g以上となる。製造条件をさらに最適化すると、比表面積は、60m2/g以上、70m2/g以上、あるいは、80m2/g以上となる。
後述する方法を用いると、比表面積が200m2/g程度である多孔質酸化スズ粒子であっても、合成することができる。
【0050】
[1.3.4. 細孔径]
「細孔径」とは、一次粒子に含まれるメソ孔の直径の平均値をいい、一次粒子間にある空隙の大きさは含まれない。
細孔径は、多孔質酸化スズ粒子の窒素吸着等温線の吸着側データをBJH法で解析し、細孔容量が最大となるときの細孔径(最頻出ピーク値、又はモード細孔径)を求めることにより得られる。
【0051】
一次粒子は、微細な結晶子の集合体であるため、その内部にメソ孔を持つ。本発明に係る多孔質酸化スズ粒子をPEFC用の触媒担体として用いる場合において、メソ孔内に触媒粒子を担持させると、触媒層アイオノマによる被毒を抑制することができる。一般に、一次粒子の細孔径が小さくなりすぎると、細孔内に担持された触媒に反応ガスやプロトンが供給されにくくなり、あるいは、反応により生じた水が排出されにくくなる。従って、細孔径は、2nm以上が好ましい。細孔径は、さらに好ましくは、3nm以上、あるいは、4nm以上である。
一方、細孔径が大きくなりすぎると、細孔内に触媒層アイオノマが侵入しやすくなり、触媒被毒が起きやすくなる。従って、細孔径は、20nm以下が好ましい。細孔径は、さらに好ましくは、10nm以下、あるいは、7nm以下である。
【0052】
[1.3.5. 細孔容量]
「細孔容量」とは、一次粒子に含まれるメソ孔の容積をいい、一次粒子間にある空隙の容積は含まれない。
細孔容量は、多孔質酸化スズ粒子の窒素吸着等温線の吸着データをBJH法で解析し、P/P0=0.03~0.99の値で算出することにより得られる。
【0053】
本発明に係る多孔質酸化スズ粒子をPEFC用の触媒担体に用いる場合において、細孔容量が小さくなりすぎると、細孔内に担持される触媒粒子の割合が小さくなる。従って、細孔容量は、0.1mL/g以上が好ましい。細孔容量は、さらに好ましくは、0.15mL/g以上、あるいは、0.2mL/g以上である。
一方、細孔容量が大きくなりすぎると、Nb-SnO2からなる細孔壁の割合が小さくなり、電子伝導性が低下する場合がある。また、アイオノマ侵入量が多くなり、触媒被毒により活性が低下する場合がある。従って、細孔容量は、1.0mL/g以下が好ましい。細孔容量は、さらに好ましくは、0.7mL/g以下、あるいは、0.5mL/g以下である。
【0054】
[1.3.6. タップ密度]
「タップ密度」とは、JIS Z 2512に準拠して測定される値をいう。
本発明に係る多孔質酸化スズ粒子をPEFCの触媒層に用いる場合において、多孔質酸化スズ粒子のタップ密度が小さくなりすぎると、得られた触媒層の厚みが厚くなりすぎ、プロトン伝導性が低下する。従って、タップ密度は、0.005g/cm3以上が好ましい。タップ密度は、さらに好ましくは、0.01g/cm3以上、あるいは、0.05g/cm3以上である。
一方、タップ密度が大きくなりすぎると、これを用いて触媒層を作製した時に、触媒層内にフラッディングを抑制可能な空隙を確保するのが困難となる。従って、タップ密度は、1.0g/cm3以下が好ましい。タップ密度は、さらに好ましくは、0.75g/cm3以下である。
【0055】
[1.4. 用途]
本発明に係る多孔質酸化スズ粒子は、PEFCの触媒担体、固体高分子形水電解セル(PEEC)の触媒担体などに用いることができる。本発明に係る多孔質酸化スズ粒子は、メソ孔を有し、比表面積が大きく、導電率が高く、かつ、酸化腐食しにくいので、PEFC用の触媒担体として特に好適である。
【0056】
[2. メソポーラスシリカ(第1鋳型)の製造方法]
本発明に係る多孔質酸化スズ粒子を製造するためには、まず、連珠構造を備えたメソポーラスシリカ(第1鋳型)を製造する必要がある。このようなメソポーラスシリカは、
(a)シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させて前駆体粒子を作製し、
(b)前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させ、
(c)必要に応じて、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行い、
(d)前記前駆体粒子を焼成する
ことにより得られる。
【0057】
[2.1. 縮重合工程]
まず、シリカ源、界面活性剤及び触媒を含む反応溶液中において、前記シリカ源を縮重合させ、前駆体粒子を得る(縮重合工程)。
【0058】
[2.1.1. シリカ源]
本発明において、シリカ源の種類は、特に限定されない。シリカ源としては、例えば、
(a)テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、テトラエチレングリコキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、
(b)3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、
などがある。シリカ源には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0059】
[2.1.2. 界面活性剤]
シリカ源を反応溶液中で縮重合させる場合において、反応溶液に界面活性剤を添加すると、反応溶液中において界面活性剤がミセルを形成する。ミセルの周囲には親水基が集合しているため、ミセルの表面にはシリカ源が吸着する。さらに、シリカ源が吸着しているミセルが反応溶液中において自己組織化し、シリカ源が縮重合する。その結果、一次粒子内部には、ミセルに起因するメソ孔が形成される。メソ孔の大きさは、主として、界面活性剤の分子長により制御(1~50nmまで)することができる。
【0060】
本発明において、界面活性剤には、アルキル4級アンモニウム塩を用いる。アルキル4級アンモニウム塩とは、次の(a)式で表される化合物をいう。
CH3-(CH2)n-N+(R1)(R2)(R3)X- ・・・(a)
【0061】
(a)式中、R1、R2、R3は、それぞれ、炭素数が1~3のアルキル基を表す。R1、R2、及び、R3は、互いに同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。アルキル4級アンモニウム塩同士の凝集(ミセルの形成)を容易化するためには、R1、R2、及び、R3は、すべて同一であることが好ましい。さらに、R1、R2、及び、R3の少なくとも1つは、メチル基が好ましく、すべてがメチル基であることが好ましい。
(a)式中、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子の種類は特に限定されないが、入手の容易さからXは、Cl又はBrが好ましい。
【0062】
(a)式中、nは7~21の整数を表す。一般に、nが小さくなるほど、メソ孔の中心細孔径が小さい球状のメソ多孔体が得られる。一方、nが大きくなるほど、中心細孔径は大きくなるが、nが大きくなりすぎると、アルキル4級アンモニウム塩の疎水性相互作用が過剰となる。その結果、層状の化合物が生成し、メソ多孔体が得られない。nは、好ましくは、9~17、さらに好ましくは、13~17である。
【0063】
(a)式で表されるものの中でも、アルキルトリメチルアンモニウムハライドが好ましい。アルキルトリメチルアンモニウムハライドとしては、例えば、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムハライド、ノニルトリメチルアンモニウムハライド、デシルトリメチルアンモニウムハライド、ウンデシルトリメチルアンモニウムハライド、ドデシルトリメチルアンモニウムハライド等がある。
これらの中でも、特に、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はアルキルトリメチルアンモニウムクロリドが好ましい。
【0064】
メソポーラスシリカを合成する場合において、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。しかしながら、アルキル4級アンモニウム塩は、一次粒子内にメソ孔を形成するためのテンプレートとなるので、その種類は、メソ孔の形状に大きな影響を与える。より均一なメソ孔を有するシリカ粒子を合成するためには、1種類のアルキル4級アンモニウム塩を用いるのが好ましい。
【0065】
[2.1.3. 触媒]
シリカ源を縮重合させる場合、通常、反応溶液中に触媒を加える。粒子状のメソポーラスシリカを合成する場合、触媒には、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のアルカリを用いても良く、あるいは、塩酸等の酸を用いても良い。
【0066】
[2.1.4. 溶媒]
溶媒には、水、アルコールなどの有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒などを用いる。
アルコールは、
(1)メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコール、
(2)エチレングリコール等の2価のアルコール、
(3)グリセリン等の3価のアルコール、
のいずれでも良い。
水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、混合溶媒中の有機溶媒の含有量は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、溶媒中に適量の有機溶媒を添加すると、粒径や粒度分布の制御が容易化する。
【0067】
[2.1.5. 反応溶液の組成]
反応溶液中の組成は、合成されるメソポーラスシリカの外形や細孔構造に影響を与える。特に、反応溶液中の界面活性剤の濃度、及びシリカ源の濃度は、メソポーラスシリカ粒子の平均一次粒子径、細孔径、細孔容量、及びタップ密度に与える影響が大きい。
【0068】
[A. 界面活性剤の濃度]
界面活性剤の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなり、一次粒子が連結している構造体は得られない。従って、界面活性剤の濃度は、0.03mol/L以上である必要がある。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.035mol/L以上、さらに好ましくは、0.04mol/L以上である。
【0069】
一方、界面活性剤の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなりすぎ、一次粒子径が容易に300nmを超える。従って、界面活性剤の濃度は、1.0mol/L以下である必要がある。界面活性剤の濃度は、好ましくは、0.95mol/L以下、さらに好ましくは、0.90mol/L以下である。
【0070】
[B. シリカ源の濃度]
シリカ源の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなり、一次粒子が連結している構造体は得られない。あるいは、界面活性剤が過剰となり、均一なメソ孔が得られない場合がある。従って、シリカ源の濃度は、0.05mol/L以上である必要がある。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.06mol/L以上、さらに好ましくは、0.07mol/L以上である。
【0071】
一方、シリカ源の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなりすぎ、一次粒子径が過度に大きくなる場合がある。あるいは、球状粒子ではなく、シート状の粒子が得られる場合がある。従って、シリカ源の濃度は、1.0mol/L以下である必要がある。シリカ源の濃度は、好ましくは、0.95mol/L以下、さらに好ましくは、0.9mol/L以下である。
【0072】
[C. 触媒の濃度]
本発明において、触媒の濃度は、特に限定されない。一般に、触媒の濃度が低すぎると、粒子の析出速度が遅くなる。一方、触媒の濃度が高すぎると、粒子の析出速度が速くなる。最適な触媒の濃度は、シリカ源の種類、界面活性剤の種類、目標とする物性値などに応じて最適な濃度を選択するのが好ましい。
【0073】
[2.1.6 反応条件]
所定量の界面活性剤を含む溶媒中に、シリカ源を加え、加水分解及び重縮合を行う。これにより、界面活性剤がテンプレートとして機能し、シリカ及び界面活性剤を含む前駆体粒子が得られる。
反応条件は、シリカ源の種類、前駆体粒子の粒径等に応じて、最適な条件を選択する。一般に、反応温度は、-20~100℃が好ましい。反応温度は、さらに好ましくは、0~90℃、さらに好ましくは、10~80℃である。
【0074】
[2.2. 乾燥工程]
次に、前記反応溶液から前記前駆体粒子を分離し、乾燥させる(乾燥工程)。
乾燥は、前駆体粒子内に残存している溶媒を除去するために行う。乾燥条件は、溶媒の除去が可能な限りにおいて、特に限定されるものではない。
【0075】
[2.3. 拡径処理]
次に、必要に応じて、乾燥させた前駆体粒子に対して拡径処理を行っても良い(拡径工程)。「拡径処理」とは、一次粒子内のメソ孔の直径を拡大させる処理をいう。
拡径処理は、具体的には、合成された前駆体粒子(界面活性剤の未除去のもの)を、拡径剤を含む溶液中で水熱処理することにより行う。この処理によって前駆体粒子の細孔径を拡大させることができる。
【0076】
拡径剤としては、例えば、
(a)トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン、トリイソプロピルベンゼン、ナフタレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどの炭化水素、
(b)塩酸、硫酸、硝酸などの酸、
などがある。
【0077】
炭化水素共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、拡径剤が溶媒から、より疎水性の高い前駆体粒子の細孔内に導入される際に、シリカの再配列が起こるためと考えられる。
また、塩酸などの酸共存下で水熱処理することにより細孔径が拡大するのは、一次粒子内部においてシリカの溶解・再析出が進行するためと考えられる。製造条件を最適化すると、シリカ内部に放射状細孔が形成される。これを酸共存下で水熱処理すると、シリカの溶解・再析出が起こり、放射状細孔が連通細孔に変換される。
【0078】
拡径処理の条件は、目的とする細孔径が得られる限りにおいて、特に限定されない。通常、反応溶液に対して、0.05mol/L~10mol/L程度の拡径剤を添加し、60~150℃で水熱処理するのが好ましい。
【0079】
[2.4. 焼成工程]
次に、必要に応じて拡径処理を行った後、前記前駆体粒子を焼成する(焼成工程)。これにより、連珠構造を備えたメソポーラスシリカ粒子が得られる。
焼成は、OH基が残留している前駆体粒子を脱水・結晶化させるため、及び、メソ孔内に残存している界面活性剤を熱分解させるために行われる。焼成条件は、脱水・結晶化、及び界面活性剤の熱分解が可能な限りにおいて、特に限定されない。焼成は、通常、大気中において、400℃~700℃で1時間~10時間加熱することにより行われる。
【0080】
[3. メソポーラスカーボン(第2鋳型)の製造方法]
次に、連珠構造を備えたメソポーラスシリカを鋳型に用いて、連珠構造を備えたメソポーラスカーボン(第2鋳型)を製造する。このようなメソポーラスカーボンは、
(a)第1鋳型となるメソポーラスシリカを準備し、
(b)前記メソポーラスシリカのメソ孔内にカーボンを析出させ、シリカ/カーボン複合体を作製し、
(c)前記複合体からシリカを除去する
ことにより得られる。
また、得られたメソポーラスカーボンの黒鉛化を促進させるために、シリカを除去した後に、メソポーラスカーボンを1500℃より高い温度で熱処理しても良い。
【0081】
[3.1. 第1鋳型準備工程]
まず、第1鋳型となるメソポーラスシリカを準備する(第1鋳型準備工程)。メソポーラスシリカの製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0082】
[3.2. カーボン析出工程]
次に、メソポーラスシリカのメソ孔内にカーボンを析出させ、シリカ/カーボン複合体を作製する(カーボン析出工程)。
メソ孔内へのカーボンの析出は、具体的には、
(a)メソ孔内にカーボン前駆体を導入し、
(b)メソ孔内において、カーボン前駆体を重合及び炭化させる
ことにより行われる。
【0083】
[3.2.1. カーボン前駆体の導入]
「カーボン前駆体」とは、熱分解によって炭素を生成可能なものをいう。このようなカーボン前駆体としては、具体的には、
(1)常温で液体であり、かつ、熱重合性のポリマー前駆体(例えば、フルフリルアルコール、アニリン等)、
(2)炭水化物の水溶液と酸の混合物(例えば、スクロース(ショ糖)、キシロース(木糖)、グルコース(ブドウ糖)などの単糖類、あるいは、二糖類、多糖類と、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの酸との混合物)、
(3)2液硬化型のポリマー前駆体の混合物(例えば、フェノールとホルマリン等)、
などがある。
これらの中でも、ポリマー前駆体は、溶媒で希釈することなくメソ孔内に含浸させることができるので、相対的に少数回の含浸回数で、相対的に多量の炭素をメソ孔内に生成させることができる。また、重合開始剤が不要であり、取り扱いも容易であるという利点がある。
【0084】
液体又は溶液のカーボン前駆体を用いる場合、1回当たりの液体又は溶液の吸着量は、多いほど良く、メソ孔全体が液体又は溶液で満たされる量が好ましい。
また、カーボン前駆体として炭水化物の水溶液と酸の混合物を用いる場合、酸の量は、有機物を重合させることが可能な最小量とするのが好ましい。
さらに、カーボン前駆体として、2液硬化型のポリマー前駆体の混合物を用いる場合、その比率は、ポリマー前駆体の種類に応じて、最適な比率を選択する。
【0085】
[3.2.2. カーボン前駆体の重合及び炭化]
次に、重合させたカーボン前駆体をメソ孔内において炭化させる。
カーボン前駆体の炭化は、非酸化雰囲気中(例えば、不活性雰囲気中、真空中など)において、カーボン前駆体を含むメソポーラスシリカを所定温度に加熱することにより行う。加熱温度は、具体的には、500℃以上1200℃以下が好ましい。加熱温度が500℃未満であると、カーボン前駆体の炭化が不十分となる。一方、加熱温度が1200℃を超えると、シリカと炭素が反応するので好ましくない。加熱時間は、加熱温度に応じて、最適な時間を選択する。
【0086】
なお、メソ孔内に生成させる炭素量は、メソポーラスシリカを除去した時に、カーボン粒子が形状を維持できる量以上であればよい。従って、1回の充填、重合及び炭化で生成する炭素量が相対的に少ない場合には、これらの工程を複数回繰り返すのが好ましい。この場合、繰り返される各工程の条件は、それぞれ、同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
また、充填、重合及び炭化の各工程を複数回繰り返す場合、各炭化工程は、相対的に低温で炭化処理を行い、最後の炭化処理が終了した後、さらにこれより高い温度で、再度、炭化処理を行っても良い。最後の炭化処理を、それ以前の炭化処理より高い温度で行うと、複数回に分けて細孔内に導入されたカーボンが一体化しやすくなる。
【0087】
[3.3. 第1鋳型除去工程]
次に、複合体から第1鋳型であるメソポーラスシリカを除去する(第1鋳型除去工程)。これにより、連珠構造を備えたメソポーラスカーボン(第2鋳型)が得られる。
メソポーラスシリカの除去方法としては、具体的には、
(1) 複合体を水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液中で加熱する方法、
(2) 複合体をフッ化水素酸水溶液でエッチングする方法、
などがある。
【0088】
[3.4. 黒鉛化処理工程]
次に、必要に応じて、メソポーラスカーボンを1500℃より高い温度で熱処理する(黒鉛化工程)。メソポーラスシリカのメソ孔内において炭素源を炭化させる場合において、シリカと炭素の反応を抑制するためには、熱処理温度を低くせざるを得ない。そのため、炭化処理後のカーボンの黒鉛化度は低い。高い黒鉛化度を得るためには、第1鋳型を除去した後、メソポーラスカーボンを高温で熱処理するのが好ましい。
【0089】
熱処理温度が低すぎると、黒鉛化が不十分となる。従って、熱処理温度は、1500℃超が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、1700℃以上、さらに好ましくは、1800℃以上である。
一方、熱処理温度を必要以上に高くしても、効果に差がなく、実益がない。従って、熱処理温度は、2300℃以下が好ましい。熱処理温度は、好ましくは、2200℃以下である。
【0090】
[4. 多孔質酸化スズ粒子の製造方法]
本発明に係る多孔質酸化スズ粒子の製造方法は、
連珠構造を備えたメソポーラスカーボンを準備する第1工程と、
メソポーラスカーボンのメソ孔内にNb-SnO2を析出させ、Nb-SnO2/カーボン複合体を得る第2工程と、
Nb-SnO2/カーボン複合体からカーボンを除去する第3工程と
を備えている。
【0091】
[4.1. 第1工程]
まず、連珠構造を備えたメソポーラスカーボンを準備する(第1工程)。メソポーラスカーボンの製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0092】
[4.2. 第2工程]
次に、メソポーラスカーボンのメソ孔内にNb-SnO2を析出させる(第2工程)。これにより、Nb-SnO2/カーボン複合体が得られる。
メソ孔内へのNb-SnO2の析出は、具体的には、メソ孔内にSn源及びNb源(以下、これらを総称して「前駆体」ともいう)を導入し、前駆体をNb-SnO2に変換することにより行う。
【0093】
[4.2.1. 細孔への前駆体の導入方法]
細孔内への前駆体の導入方法としては、
(a)Sn源及びNb源を含む多量の水溶液中にメソポーラスカーボンを分散させ、細孔内にSn源及びNb源を析出させる方法(析出法)、
(b)Sn源及びNb源を含む細孔容量分の溶液をメソポーラスカーボンの細孔内に充填する方法(充填法)
などがある。
【0094】
本発明において、細孔内への前駆体の導入方法には充填法が用いられる。充填法を用いて製造された多孔質酸化スズ粒子は、析出法を用いて製造されたそれに比べて導電率比が小さくなる。これは、析出法を用いた場合、Nb源が優先的に細孔内に析出し、粒子表面にNbの偏在層(高抵抗層)が形成されるのに対し、充填法を用いた場合にはこのようなNbの偏在層が形成されにくいためと考えられる。
【0095】
[4.2.2. 前駆体]
Nb-SnO2を製造するための前駆体は、
(a)Sn又はNbを含み、
(b)常温で液体であり、又は、常温の溶媒に可溶であり、かつ、
(c)熱分解あるいは加水分解により酸化物を形成することが可能である
化合物が好ましい。
【0096】
Sn源としては、例えば、
(a)SnCl4、SnCl2などの塩化物、
(b)Sn(OC25)2、Sn(OC(CH3)3)4などのアルコキシド、
(c)スズアセチルアセトナート(Sn(CH3COCHCOCH3)2)などのアセチルアセトナート塩、
(d)Sn(CH3COO)2などの酢酸塩
などがある。
【0097】
Nb源としては、例えば、
(a)NbCl5などの塩化物、
(b)Nb(OC25)5、Nb(OC49)5などのアルコキシド、
(c)ニオブアセチルアセトナート(Nb(CH3COCHCOCH3)5)などのアセチルアセトナート塩、
(d)Nb(CH3COO)3などの酢酸塩
などがある。
【0098】
前駆体を溶解させる溶媒は、前駆体を溶解させることができ、かつ、メソポーラスカーボンの細孔内への溶液の充填が可能である限りにおいて、特に限定されない。溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトニトリル、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどがある。
溶液中のSn源又はNb源の濃度は、メソポーラスカーボンの細孔内への溶液の充填が可能である限りにおいて、特に限定されない。少ない充填回数で、細孔内に必要量のNb-SnO2を析出させるには、溶液中のSn源又はNb源の濃度は高いほど良い。
【0099】
[4.2.3. 前駆体の酸化物への変換]
前駆体を含む溶液をメソポーラスカーボンの細孔内に充填した後、メソポーラスカーボンを所定の温度に加熱すると、前駆体の熱分解又は加水分解が起こり、細孔内にNb-SnO2が生成する。加熱条件は、細孔内にNb-SnO2を形成可能なものである限りにおいて、特に限定されない。
【0100】
一般に、加熱温度が高くなるほど、Nb-SnO2が形成されやすくなる。一方、加熱温度が高くなりすぎると、結晶子径が大きくなり、細孔径が大きくなるため、メソ孔を有するNb-SnO2を得るのが困難となる場合がある。従って、加熱温度は、300℃~800℃が好ましい。
なお、1回の前駆体の充填及び酸化物への変換により、細孔内に十分な量のNb-SnO2を形成することができないときは、充填のみを複数回繰り返したり、あるいは、充填及び変換を複数回繰り返しても良い。
【0101】
[4.3. 第3工程]
次に、Nb-SnO2/カーボン複合体からカーボンを除去する(第3工程)。これにより、本発明に係る多孔質酸化スズ粒子が得られる。
カーボンの除去方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。カーボンの除去方法としては、例えば、
(1)Nb-SnO2/カーボン複合体を酸化雰囲気下で加熱する方法、
(2)複合体を酸素プラズマエッチングする方法、
などがある。
【0102】
加熱温度、加熱時間などの除去条件は、少なくとも、Nb-SnO2の結晶子を粗大化させることなく、カーボンが完全に除去される条件であれば良い。
【0103】
[5. 作用]
多孔質酸化スズ粒子は、メソポーラスカーボンの細孔内にSn源及びNb源を導入し、細孔内においてNbドープSnO2を生成させ、メソポーラスカーボンを除去することにより製造することができる。
【0104】
この場合、細孔内にSn源及びNb源を導入する方法としては、
(a)Sn源及びNb源を含む多量の水溶液中にメソポーラスカーボンを分散させ、細孔内にSn源及びNb源を析出させる方法(析出法)、
(b)Sn源及びNb源を含む細孔容量分の溶液をメソポーラスカーボンの細孔内に充填する方法(充填法)
などがある。
【0105】
しかしながら、多孔質酸化スズ粒子を製造する方法として析出法を用いると、多孔質酸化スズ粒子の導電率比が大きくなる。これは、析出法を用いると、細孔内にNb源が優先的に析出するためと考えられる。粒子表面に偏在したNbの一部はSnO2結晶格子中のSnと置換せず、NbOxなどの高抵抗層として存在し、これが多孔質酸化スズ粒子の電子伝導を妨げていると考えられる。
【0106】
これに対し、多孔質酸化スズ粒子を製造する方法として充填法を用いると、導電率比が小さい多孔質酸化スズ粒子が得られる。これは、充填法を用いると、細孔内にSn源とNb源が均一に充填され、粒子表面にNbの偏在層(高抵抗層)が形成されにくくなるためと考えられる。その結果、多孔質酸化スズ粒子の粒子界面の電子抵抗が低減され、粒子の全体の導電率σtotalが粒子の内部の導電率σbulkに近づくと考えられる。
【実施例0107】
(実施例1~3、比較例1)
[1. 試料の作製]
図1に、連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子の製造方法の模式図を示す。図1に示す手順に従い、連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子を作製した。
【0108】
[1.1. 連珠状スターバーストシリカの作製]
メタノール(MeOH):4.6g、及びエチレングリコール(EG):4.6gの混合溶媒に、30mass%塩化セチルトリメチルアンモニウム水溶液:56.3gを加え、室温で攪拌した。これに1M NaOH:8.8gを加え、50℃に加温した。以下、これを「第1溶液」という。
次に、MeOH:6.5g、及びEG:6.5gの混合溶媒にテトラエトキシシラン(TEOS):12.3gを溶解させた。以下、これを「第2溶液」という。
【0109】
50℃に加温された第1溶液に第2溶液を加えた。混合液が白濁した後、加温を停止し、さらに4時間以上攪拌した。ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した後、45℃で乾燥させた。さらに、乾燥粉を大気中、550℃×6h焼成し、放射状細孔を備えた連珠状メソポーラスシリカ(以下、これを「連珠状スターバーストシリカ(Connected Starburst Silica)(CSS)」ともいう)を得た。
【0110】
[1.2. 連珠状スターバーストカーボンの作製]
PFA製容器にCSS:0.5gを入れ、フルフリルアルコール(FA)をCSSの細孔容量分だけ加えて、CSSの細孔内に浸透させた。これを150℃×24h熱処理することにより、FAを重合させた。さらに、これを窒素雰囲気中で500℃×6h熱処理し、FAの炭化を進めた。これを2回繰り返した後、さらに窒素雰囲気中で900℃×6h熱処理して、CSS/カーボン複合体を得た。
【0111】
この複合体を12%HF溶液に4h浸漬し、シリカ成分を溶解した。溶解後、ろ過、洗浄を繰り返し、さらに45℃で乾燥して、放射状細孔を備えた連珠状メソポーラスカーボン(以下、これを「連珠状スターバーストカーボン(Connected Starburst Carbon)(CSC)」ともいう)を得た。得られた多孔体は、BET比表面積:2122m2/g、細孔容量:1.3mL/g、細孔径:2.2nmであった。
【0112】
[1.3. 連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子の作製]
[1.3.1. 実施例1(充填法)]
NbCl5:19.7mgと、SnCl2・2H2O:0.8gとをエタノール:0.3mLに溶解し、前駆体溶液を得た。この前駆体溶液:0.2mLをCSC:219mgに加え、振とうした。前駆体溶液が充填されたCSCを80℃で4時間真空乾燥した後、このCSCにさらに前駆体溶液:0.08mLを加えて振とうした。これを空気雰囲気中で700℃×3hr処理し、連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子を得た。
【0113】
[1.3.2. 実施例2(充填法)]
NbCl5:40.0mgと、SnCl2・2H2O:0.8gとをエタノール:0.3mLに溶解し、前駆体溶液を得た。以下、実施例1と同様にして、連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子を得た。
【0114】
[1.3.3. 実施例3(充填法)]
NbCl5:83.7mgと、SnCl2・2H2O:0.8gとをエタノール:0.3mLに溶解し、前駆体溶液を得た。以下、実施例1と同様にして、連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子を得た。
【0115】
[1.3.4. 比較例1(析出法)]
精製水:250mL、濃塩酸(35mass%):4mL、SnCl2:5.0g、及び、NbCl5:0.074gを混合し、混合液を得た。この混合液にCSC:0.1gを加えて分散させた。この分散液を空気中、室温で4h攪拌した後、ろ過と精製水への再分散とを2回繰り返した。その後、45℃で乾燥させ、連珠状Nb-SnO2/カーボン複合体を得た。
この連珠状Nb-SnO2/カーボン複合体を、空気雰囲気中で320℃×24h処理し、さらに空気雰囲気中で700℃×3h処理することで、連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子を得た。
【0116】
[2. 試験方法]
[2.1. N2吸着測定]
得られた連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子のN2吸着等温線を測定した。得られたN2吸着等温線から、BJH法により細孔径分布を求め、モード細孔径(細孔径の最頻値)をその試料の細孔径とした。また、N2吸着等温線から細孔容量、及びBET比表面積を求めた。
【0117】
[2.2. 導電率]
連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子の圧粉体を作製した。これに2.4MPaの圧力をかけながら直流電流を流し、そのときの電圧値を測定することで、粒子の全体の導電率σtotalを求めた。
また、同じ圧粉体に対して、2.4MPaの圧力をかけながら電気化学インピーダンス測定(保持電圧:0.2V、振幅:0.1V、周波数:10Hz~5MHz)を行った。得られたナイキストプロットの高周波側の実軸との切片の値から、粒子の内部の導電率(粒子界面部分の抵抗を除いた導電率)σbulkを求めた。
【0118】
[2.3. Nb濃度]
連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子をアルカリ融解により溶液化した。これを検液として、ICP発光分光分析装置(ICP-OES)により連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子に含まれるNb濃度(CICP)を定量した。
さらに、XPS測定により、連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子の表面近傍に含まれるNb濃度(CXPS)を定量した。
なお、「Nb濃度(at%)」とは、NbとSnの総原子数に対するNbの原子数の割合(=Nb×100/(Nb+Sn))をいう。
【0119】
[3. 結果]
[3.1. BET比表面積、細孔径、細孔容量]
表1に、充填法及び析出法で作製した連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子のBET比表面積、細孔径、及び細孔容量を示す。いずれの方法で作製した場合も、これらの物性値は概ね同じ値となっており、焼成温度が同じであれば作製法によらず同じような構造の粒子が得られることが分かった。
【0120】
【表1】
【0121】
[3.2. 導電率]
図2に、実施例1~3及び比較例1で得られた連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子のσbulk及びσtotalを示す。比較例1(析出法で作製した粒子)のσtotalは1.9×10-5S/cmであった。これに対し、実施例1~3(充填法で作製した粒子)のσtotalは1.8×10-4~2.8×10-4S/cmであり、比較例1よりも1桁程度高くなった。
【0122】
他方、比較例1のσbulkは1.3×10-3S/cmであるのに対し、実施例1~3のσbulkは7.7×10-4~1.2×10-3S/cmであり、明確な差が見られなかった。
これらの結果は、充填法で作製した粒子は、析出法で作製したものよりも粒子界面部分の抵抗が低いことを示している。
【0123】
[3.3. Nb濃度]
図3に、実施例1~3及び比較例1で得られた連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子のCXPS及びCICPを示す。XPS測定では粒子表面から深さ数nmまでの情報が得られることから、CXPSは粒子の表面のNb濃度を表す。一方、ICP分析では粒子全体を溶解処理して分析していることから、CICPは粒子全体の平均のNb濃度を表す。
【0124】
比較例1(析出法で得られた連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子)の場合、CXPSはCICPの2.6倍であった。一方、実施例1~3(充填法で得られた連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子)の場合、CXPSはCICPの1.2~1.8倍であった。
また、比較例1のCXPSは24.7at%であるのに対し、実施例1~3のCXPSは3.3~13.0at%であった。
【0125】
このことから、充填法で作製された連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子は、析出法で作製されたものよりも粒子表面へのNbの偏在が抑制されていることが分かった。この結果として、充填法で作製された連珠状メソポーラスNb-SnO2粒子は、析出法で作製されたものよりも粒子界面の電子抵抗が低くなり、粒子の全体の導電率σtotalが1桁程度向上したと考えられる。
【0126】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明に係る多孔質酸化スズ粒子は、固体高分子形燃料電池の空気極触媒層の触媒担体、あるいは、燃料極触媒層の触媒担体として用いることができる。
図1
図2
図3