(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118230
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】電子機器用フロート
(51)【国際特許分類】
B63B 35/44 20060101AFI20240823BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20240823BHJP
B63B 35/38 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B63B35/44 Z
B63B35/00 Z
B63B35/38 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024559
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】512144265
【氏名又は名称】テクサジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127166
【弁理士】
【氏名又は名称】本間 政憲
(74)【代理人】
【識別番号】100187399
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 敏文
(72)【発明者】
【氏名】坂口 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】坂口 慶介
(57)【要約】
【課題】本発明は、簡単な構造で、かつ電子機器を載置するフロートに着脱することが可能で、水面の状況に応じて制動部材を選択することができ、湖沼やため池において、十分な制動能力を発揮する電子機器用フロートを提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するため、本発明の電子機器用フロートは、電子機器を載置して湖沼又はため池の水面に浮かばせるフロートにおいて、水面近傍で水平方向の対称位置に着脱交換が可能な移動抑制部を備え、移動抑制部は、通常時の波の強弱状況に応じて選択された、長さを有する性質の異なる制動部材を備えること、を特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器を載置して湖沼又はため池の水面に浮かばせるフロートにおいて、
水面近傍で水平方向の対称位置に着脱交換が可能な移動抑制部を備え、
移動抑制部は、
通常時の波の強弱状況に応じて選択された、長さを有する性質の異なる制動部材を備えること、
を特徴とする電子機器用フロート。
【請求項2】
前記移動抑制部が、
金属を素材とする柔軟性を有する制動鋼材を備えること、
を特徴とする請求項1に記載する電子機器用フロート。
【請求項3】
前記移動抑制部が、
剛性を備える棒状体の一部分に緩衝部を有する制動緩衝材を備えること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載する電子機器用フロート。
【請求項4】
前記移動抑制部が、
前記制動緩衝材の先端に浮体を備えたこと、
を特徴とする請求項3に記載する電子機器用フロート。
【請求項5】
前記浮体は、
長球形状で短軸位置に前記制動緩衝材の先端が固着されること、
を特徴とする請求項4に記載する電子機器用フロート。
【請求項6】
水面に当接した下面の中央に水中鉛直方向に向けて棒状の均衡部を備えたこと、
を特徴とする請求項1又は請求項4に記載する電子機器用フロート。
【請求項7】
熱伝導棒状体が、
電子機器の下面から架台を貫通して水中にまで到達していること、
を特徴とする請求項1に記載する電子機器用フロート。
【請求項8】
前記架台下面に防水部が設けられたこと、
を特徴とする請求項7に記載する電子機器用フロート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湖沼やため池において水面に電子機器を浮かべる際に使用する電子機器用フロートに関する。
【背景技術】
【0002】
電源のない湖沼や、ため池の水面で自然環境の計測等を行う際には、水面に設置した計測機器に陸上の送電網から有線で電力を送電するか、独立電源を備えた計測機器を水上に浮かべるか、いずれかの方法を用いられている。しかし、湖沼や、ため池などの水面では、送電線が風や波によって断線することがあり、近年では、IoTの計測機器とともに独立電源をフロートに載置する場合が増加してきている。
【0003】
独立電源及びIoT機器を載置したフロートは、地面に繋留されておらず波風によって容易に移動するため、計測精度に影響を及ぼすことが懸念される。
【0004】
台風などによって波浪や高潮が発生する海面向けのフロートについては、フロートの移動を制御する先行技術が開発され開示されている。
【0005】
特許文献1では、波浪等の影響を受けにくく、安定した姿勢を維持して所定水深の海洋データを収集、送信できるブイ及びこのブイを用いた海洋環境モニタシステムが開示されている。当該ブイでは、周囲に放射状にロープでつないで浮かべた複数の繋留フロートでブイを繋留し、最外周の繋留フロートから更に水底のアンカーにつないで、ブイを確実に繋留する構造を備える。特許文献1では、海洋に生じるうねりなどを含む大きな波である波浪を想定しているため、ロープで繋留フロートをつないで、さらにその最外周を水底のアンカーにつなぐ大掛かりな構造によってブイの制動を図っている。
【0006】
特許文献2では、上端に発光部を設置し、下端にバランサーを設置したポールの中途にフロート取付部を配備し、このフロート取付部に複数のフロートを取付けて成るソーラーブイが開示されている。フロート取付部は、アームである場合や円板である場合が想定されている。また、垂直のポールの下端にはバランサーが設けられ、ブイに適度な重量を付与して姿勢の安定状態を保持させている。ブイの中間部に四方に張り出させたポールに浮体を取り付け、ブイの下端にバランサーを設置した簡素化した構造で波高によるブイの傾斜を小さくし姿勢の安定化を図っている。
【0007】
また、湖沼やため池の水面に電子機器を設置する場合に生じる問題は、風や波による姿勢の変動や位置の移動のみではなく、直射日光を受けやすいことから、電子機器を内蔵する計測機器が加熱や蓄熱によって故障する場合が生じる。そのため、水面に設置した設備を冷却する先行技術が開発され開示されている。
【0008】
特許文献3では、蓄熱等を合理的に除去でき、また、環境の美化にも適する水上フロート式太陽光発電装置が開示されている。水面に浮かべるフロートテーブルの中央部に凹穴を設け、フロートテーブルの上には太陽電池パネルを搭載し、水面下の水を吸引して太陽電池パネルの上に流下させるように凹穴には噴水を設けている。噴水の水により、夏期の太陽熱の蓄熱による太陽電池パネルの過熱の防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-253888号公報
【特許文献2】実開平1-81194号公報
【特許文献3】特開2011-238890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
比較的水面が静かな湖沼やため池では、風や波を受けてフロート又はフロートに載置した電子機器やアンテナが小刻みに揺れて生じる姿勢の傾きや、大幅ではないものの位置が移動することが問題となる。
【0011】
特許文献1では、海洋の波浪を想定しており、姿勢の安定のためには大掛かりな構造となっているため、ブイを設置するためには、潜水などによる大きな労力と高額な費用が掛かる。湖沼やため池においては、海洋ほどの波浪は発生せず、特許文献1のような大掛かりな構造の制動装置は必要としない。
【0012】
特許文献2では、海洋用ではあるが構造が簡素化されている。剛性が高いポールや円板を周囲に張り出すことで、波によって一方のフロートが上がりブイが傾き、他方のフロートは水中に下がろうとする際に働く浮力でブイの姿勢を保とうとするものである。しかし、海洋では、続く波による浮力が反動として働き、フロートは水上に跳ね上がり、減衰するのに時間が掛かるため、振動が長続きする問題がある。
【0013】
また、太陽熱による加熱や蓄熱に対して解決を図った特許文献3の噴水の水による太陽電池パネルの冷却方法は、環境計測機器を載置した小型のフロートに対しては構造が大掛かりであり、高額な費用が掛かりすぎることが問題となる。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で、かつ電子機器を載置するフロートに着脱することが可能で、水面の状況に応じて制動部材を選択することができ、湖沼やため池において、十分な制動能力を発揮する電子機器用フロートを提供することを目的とする。さらに、本発明の電子機器用フロートは、直射日光により加熱する電子機器の冷却を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の電子機器用フロートは、電子機器を載置して湖沼又はため池の水面に浮かばせるフロートにおいて、水面近傍で水平方向の対称位置に着脱交換が可能な移動抑制部を備え、移動抑制部は、通常時の波の強弱状況に応じて選択された、長さを有する性質の異なる制動部材を備えること、を特徴とする。
【0016】
また、本発明の電子機器用フロートは、前記移動抑制部が、金属を素材とする柔軟性を有する制動鋼材を備えること、を特徴とする。
【0017】
また、本発明の電子機器用フロートは、前記移動抑制部が、剛性を備える棒状体の一部分に緩衝部を有する制動緩衝材を備えること、を特徴とする。
【0018】
また、本発明の電子機器用フロートは、前記移動抑制部が、前記制動緩衝材の先端に浮体を備えたこと、を特徴とする。
【0019】
また、本発明の電子機器用フロートは、前記浮体は、長球形状で短軸位置に前記制動緩衝材の先端が固着されること、を特徴とする。
【0020】
また、本発明の電子機器用フロートは、水面に当接した下面の中央に水中鉛直方向に向けて棒状の均衡部を備えたこと、を特徴とする。
【0021】
また、本発明の電子機器用フロートは、熱伝導棒状体が、電子機器の下面から架台を貫通して水中にまで到達していること、を特徴とする。
【0022】
また、本発明の電子機器用フロートは、前記架台下面に防水部が設けられたこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の電子機器用フロートによれば、比較的静かな水面である湖沼やため池で環境計測のために電子機器類をフロートに載置して水面に浮かべる場合において、水底にアンカーで固定するなど大掛かりな構造を必要とせず、簡素な構造を備え、電子機器が振動によって故障する可能性を大幅に減少させることができる効果を奏する。また、電子機器が計測機器である場合には、振動や位置の移動による計測精度の低下を軽減することができる効果を奏する。
【0024】
金属を素材とする柔軟性を有する制動部材を移動抑制部に用いることにより、移動抑制部は水底に固定されていないが、対称に配置された制動部材が均衡を保持するよう作用してフロートの移動を抑制し、フロートの位置が安定する。
【0025】
剛性を有する棒状体の一部に緩衝弾性部材を備える制動部材を移動抑制部に用いて、水面方向に張り出すことによって増大する流動抵抗が、フロートの移動を抑制する効果を奏する。また、棒状体の一部に設けた緩衝部が、波によって一方の制動部材の先端側が上がりフロートが傾き、他方の制動部材が水中に沈もうとする水中向きの力を緩衝部のダンパーの働きによって吸収して、制動部材が水中に沈むことを軽減して、浮力の反動で水中に沈んだ制動部材が跳ねあがることを防止する。制動部材の先端に浮体を取り付けた際に、特に大きな効果を発揮し、振動を軽減する効果を奏する。
【0026】
水面に張り出した棒状の制動部材の先端に取り付けられた浮体は、流動抵抗をさらに増大させて、フロートの移動を制限することができる効果を発揮する。
【0027】
湖沼やため池での直射日光によるフロートに載置した電子機器の加熱は故障の原因となるが、熱伝導部材を用いて、電子機器に水温を伝導することによって、直射日光による昇温を抑制することができる効果を奏する。その際、熱伝導部材に沿って電子機器に到達する水分を防水部によって隔絶することで、電子機器の水濡れによる故障を防止して安定した動作を得ることができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】移動抑制部14に柔軟制動鋼材142を備えた本発明に係る電子機器用フロート10の側面図である。
【
図2】移動抑制部14に柔軟制動鋼材142を備えた本発明に係る電子機器用フロート10の底面図である。
【
図3】本発明に係る電子機器用フロート10を水面WSに浮かべた状態を示す側面図である。
【
図4】本発明に係る電子機器用フロート10の、水面WSでの移動抑制効果を検証する実験方法を示した図である。
【
図5】移動抑制部24として先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を備えた本発明に係る電子機器用フロート20の側面図である。
【
図6】移動抑制部24として先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を備えた本発明に係る電子機器用フロート20の底面図である。
【
図7】本発明に係る電子機器用フロート20を水面WSに浮かべた状態を示す側面図である。
【
図8】本発明に係る電子機器用フロート20の、水面WSでの移動抑制効果を検証する実験方法を示した図である。
【
図9】均衡部26を備えた本発明に係る電子機器用フロート20の側面図である。
【
図10】移動抑制部に柔軟制動鋼材142及び先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を併設した本発明に係る電子機器用フロート30の側面図である。
【
図11】熱伝導管42を備えた本発明に係る電子機器用フロート40の側面図である。
【
図12】熱電導管を備えた本発明に係る電子機器用フロート40の温度降下を検証する実験方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る電子機器用フロートを実施するための形態について、図を参照しつつ説明する。
図1は、移動抑制部14に柔軟制動鋼材142を備えた本発明に係る電子機器用フロート10の側面図である。
図2は、移動抑制部14に柔軟制動鋼材142を備えた本発明に係る電子機器用フロート10の底面図である。
【0030】
本発明に係る電子機器用フロートは、架台と、移動抑制部とから構成される。
【0031】
架台は、環境計測等を行わせる電子機器を載置して湖沼又はため池の水面に浮ぶ材質で形成される。したがって、樹脂で形成されることが軽量性および耐久性の観点から好適である。しかし、これに限定されるものではなく、腐食を抑制するための表面処理を施された木材であってもよい。また、比重の小さい耐食性に優れた金属であってもよい。
【0032】
架台11には、移動抑制部14として機能する柔軟制動鋼材142を結合するための取付部12を備える。
【0033】
柔軟制動鋼材142は、金属チェーンを四角形状の架台11底部17周縁において対称となる位置に四本を配置した。金属チェーンの総重量は、水面WSにおいて底部17の厚みの略1/2が沈む程度に調整を行うことが好ましい。湖沼又はため池では、水中深くなるほど水の移動が少ないため、柔軟制動鋼材142の長さは、長い方が好ましいが、電子機器用フロート10の総重量に依存することになる。
【0034】
図1では、柔軟制動鋼材142として、金属チェーンを例示したが、これに限定されるものではなく、柔軟性を有する鋼線であってもよい。金属製としているのは、自重により水中UWにおいて外的要因に起因する移動が少なく架台11の姿勢及び位置が安定するためである。また、柔軟制動鋼材142は、架台11の中心が重心となるように配置されていれば、数は限定されない。
【0035】
図1において、架台11は、底部17と側部18とを有する箱状体を例示したが、箱の内側に風が当たるため風力の影響を受けて架台11が移動しやすくなるので、蓋を備えている方が好適である。また、載置する電子機器の筐体自体が、IEC規格のいかなる方向からの水の直接噴流によっても有害な影響を受けないクラス程度の防水構造である場合には、側部18を備えない板状体であってもよい。底部17の形状は、円形又は角形状であってもよいが、点又は線対称であることが好ましい。
【0036】
取付部12は、柔軟制動鋼材142や後述する制動緩衝材242の支持ロッド2422と結合する形状を備える。
図2では、金属チェーンを嵌めて垂下させる穴を備え水平方向に張り出した突起の取付部12を示した。取付部12は、柔軟制動鋼材142が着脱可能なように、穴の外郭の一部が開閉可能な構造を備えていることが好ましい。電子機器用フロート10を浮かばせる水面WSや周囲の環境に合わせて、長さや重量の異なる柔軟制動鋼材142の交換を可能にするためである。また、後述する制動緩衝材242の支持ロッド2422を結合する場合には、水平支持ロッド2422の架台11側端部に設けられた挿通穴と、取付部12に設けられた取付穴との両方に、締結部材を挿通して着脱可能に固定する。また、リベットのように完全固定を行う部材であっても、リベットは比較的容易に破損させて取り外しが可能であるため、着脱可能な結合に利用することができる。
【0037】
図3は、本発明に係る電子機器用フロート10を水面WSに浮かべた状態を示す側面図である。金属チェーンは水中UWに垂下される。湖沼やため池では、水中深くなるほど水の移動は静かになるので、金属チェーンの先端が水中深く到達することができれば、架台11の移動に対して金属チェーンが移動の少ない水を捉えてアンカーを降ろした状況と近い状態が得られ、架台11の水平方向の移動は抑制される。また、複数の金属チェーンの重心は架台11の中心にあり、各々の金属チェーンの移動が相殺されることによっても、架台11の移動が抑制される。
【0038】
図4は、本発明に係る電子機器用フロート10の水面WSでの移動抑制効果を検証する実験方法を示した図である。電子機器用フロート10を浮かばせるプールPLは、水槽が樹脂製のシートで形成されたものを使用した。水槽のサイズは、W=4.5m、D=2.2m、H=0.84mで、水深は、h=0.76mとした。
【0039】
電子機器用フロート10は、実物を模した1/10程度に縮尺した小型模型で代用した。移動抑制部14には、柔軟制動鋼材142として同一の材質、重量及び長さを有する金属チェーンを4本採用し架台11の中心が重心となるよう装着した。プールPLには、上記のように縮尺して構成した電子機器用フロート10の小型模型を浮かべた。小型模型には、仮に電子機器の筐体のみを載置した。小型模型の内部に風が侵入することによって生じる影響を排除するために透明の樹脂シートを上蓋として取り付けた。
【0040】
小型模型の移動量の計測は、波高が5cmとなるように人工的に波を起こした際の小型模型が移動する20秒間の動画を、ビデオカメラを使用して記録し、Adobe社の画像解析プログラム「After Effects」を使用して、小型模型が0.5秒毎に移動するベクトル移動量を画像解析して、1回あたり40データを取得することによって行った。
【0041】
同様に、比較対象として、架台単体71の小型模型を同一プールPL内に浮かべて、移動抑制部14を有する電子機器用フロート10の小型模型の場合と同条件で移動量を取得する。電子機器用フロート10の小型模型及び架台単体71の小型模型のデータについて、t検定を行い、移動抑制部14を有する電子機器用フロート10の、移動抑制部を有さない架台単体71に対する有意性を判定する。
【0042】
上記の実験方法により取得されたデータについて、t検定を行った結果を表1に示す。P<0.05,n=40となり、移動抑制部14として柔軟制動鋼材142を有する電子機器用フロート10の移動量が、移動抑制部を有さない架台単体71の移動量に対して有意性が認められた。
【表1】
【0043】
次に、移動抑制部を有さない架台単体71と、移動抑制部14として金属チェーンを採用した電子機器用フロート10とに対して、プールPLの長手方向に風速3.5m/sの風を与え続けた場合に、最初に浮かべた位置からプールPLの長手方向に4.5m移動するまでの時間を計測した。
【0044】
小型模型の移動の要因となる風は、工場などで使用される業務用ファンFNによって発生させる。風速は1.6m/s以上、5.5m/s以下の範囲で設定できる。
【0045】
その結果を表2へ示す。金属チェーンを移動抑制部14として有する電子機器用フロート10の小型模型の移動時間は、移動抑制部を有さない架台単体71の移動時間に対して3倍以上の移動時間が掛かり、移動が抑制されていることが分かる。
【表2】
【0046】
図5は、移動抑制部24として先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を備えた本発明に係る電子機器用フロート20の側面図である。
図6は、移動抑制部24として先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を備えた本発明に係る電子機器用フロート20の底面図である。
【0047】
架台21には、前述したように移動抑制部24として機能する制動緩衝材242を結合するための取付部22を備える。
【0048】
制動緩衝材242は、剛性を有する棒状体の支持ロッド2422の中間部分に緩衝弾性部材2424を備え、四角形状の架台21底部27周縁において対称となる位置に四本を配置した。緩衝弾性部材2424は、バネなどの弾性部材で形成され、波により架台21が受ける上下方向の力を相殺し、架台21の姿勢を安定させるように働く。緩衝弾性部材2424を備えた支持ロッド2422が水面方向に張り出すことによって増大する流動抵抗が、架台21の移動を抑制する。さらに大きな流動抵抗を得るために支持ロッド2422の先端に浮体2426を備えることが好ましい。浮体2426は、直接波の大きな力を受けることがないように長球形状が好ましく、短軸位置に支持ロッド2422の先端が固着される。
【0049】
詳述すると、各制動緩衝材242は架台21を中心に均等に取り付けられており、支持ロッド2422に設けられた緩衝弾性部材2424は、一方の支持ロッド2422の先端が波によって上方に持上げられた際には、他方の浮体2426及び支持ロッド2422が、水面WSに保持されるように緩衝弾性部材2424のバネが変形する。これにより、傾斜した架台21が水平に戻ろうとする際に働く反動の力を弱めて、より早く振動を減衰させることができる。
【0050】
支持ロッド2422の先端に浮体2426を備える場合には、架台21底部27中央の水面側にも浮体211を備えることが好ましい。架台21には電子機器が内蔵した筐体が積載されるため架台21部分が沈みがちとなり姿勢が安定しないためである。
【0051】
支持ロッド2422及び緩衝弾性部材2424は、特に材質は限定されないが、対候性に優れていることが好ましい。支持ロッド2422は、剛性を備えた樹脂又は金属が用いられる。緩衝弾性部材2424は、バネやゴムなど周知の弾性部材が用いられる。また、架台21に装着した支持ロッド2422及び緩衝弾性部材2424の総重量は、架台21を水面WSに浮かせた際に底部27の厚みの略1/2が沈む重量であるのが好ましい。
【0052】
図5では、緩衝弾性部材2424は、支持ロッド2422の中央から架台21寄りに配置した。架台21に結合する支持ロッド2422は固定され架台21の動作に連動するため、当該支持ロッド2422が長くなると、架台21は大きな揺れとなり姿勢が安定しない。一方で、緩衝弾性部材2424より先端側の長さを長くすることによって、波の上下動により受ける力を相殺する能力が向上する。制動緩衝材242は、架台21の中心が重心となるように配置されていれば、数は限定されない。
【0053】
図5において、架台21は、底部27と側部28とを有する箱状体を例示したが、箱の内側に風が当たるため風力の影響を受けて架台21が移動しやすくなるので、蓋を備えている方が好適である。また、載置する電子機器の筐体自体が、IEC規格のいかなる方向からの水の直接噴流によっても有害な影響を受けないクラス程度の防水構造である場合には、側部28を備えない板状体であってもよい。底部27の形状は、円形又は角形状であってもよいが、点又は線対称であることが好ましい。
【0054】
取付部22は、制動緩衝材242の支持ロッド2422と結合する形状を備える。
図6では、支持ロッド2422の締結部材等の挿通穴が設けられた架台21側端部を結合させるために、支持ロッド2422端部の挿通穴に対応する取付穴を備え水平方向に張り出した突起の取付部22を示した。取付部22は、制動緩衝材242の支持ロッド2422が着脱可能なように、水平支持ロッド2422の架台21側端部に設けられた締結部材等の挿通穴と、取付部22に設けられた取付穴との両方に、締結部材を挿通して結合させる。また、リベットのように完全固定を行う部材であっても、リベットは比較的容易に破損させて取り外しが可能であるため、着脱可能な結合に利用することは可能である。
【0055】
図7は、本発明に係る電子機器用フロート20を水面WSに浮かべた状態を示す側面図である。制動緩衝材242は水面WSと同じレベルで水平に張り出される。支持ロッド2422の先端に浮体2426を備えることによって、水の流動抵抗が増大し、架台21の水平方向の移動は抑制される。また、複数の制動緩衝材242は架台21において対称に配設されるので、各方面からの波の動きが相殺されることによっても、架台21の移動が抑制される。
【0056】
図8は、本発明に係る電子機器用フロート20の水面WSでの移動抑制効果を検証する実験方法を示した図である。電子機器用フロート20を浮かばせるプールPLは、水槽が樹脂製のシートで形成されたものを使用した。水槽のサイズは、W=4.5m、D=2.2m、H=0.84mで、水深は、h=0.76mとした。
【0057】
電子機器用フロート20は、実物を模した1/10程度に縮尺した小型模型で代用した。移動抑制部24には先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を採用し架台21において対称となるよう4本装着した。また、架台21底部27水面側中央にも浮体211を装着した。プールPLには、上記のように縮尺して構成した電子機器用フロート20の小型模型を浮かべた。小型模型には、仮に電子機器の筐体のみを載置した。小型模型の内部に風が侵入することによって生じる影響を排除するために透明の樹脂シートを上蓋として取り付けた。
【0058】
小型模型の移動量の計測は、波高が5cmとなるように人工的に波を起こした際の小型模型が移動する20秒間の動画を、ビデオカメラを使用して記録し、Adobe社の画像解析プログラム「After Effects」を使用して、小型模型が0.5秒毎に移動するベクトル移動量を画像解析することによって、1回あたり40データを取得することによって行った。
【0059】
同様に、比較対象として、架台単体71の小型模型を同一プールPL内に浮かべて、移動抑制部24を有する電子機器用フロート20の小型模型の場合と同条件で移動量を取得する。電子機器用フロート20の小型模型及び架台単体71の小型模型のデータについて、t検定を行い、移動抑制部24を有する電子機器用フロート20の、移動抑制部を有さない架台単体71に対する有意性を判定する。
【0060】
上記の実験方法により取得されたデータについて、t検定を行った結果を表3に示す。P<0.05,n=40となり、移動抑制部24として先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を有する電子機器用フロート20の移動量が、移動抑制部を有さない架台単体71の移動量に対して有意性が認められた。
【表3】
【0061】
次に、移動抑制部を有さない架台単体71と、移動抑制部24として先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を採用した電子機器用フロート20に対して、プールPLの長手方向に風速3.5m/sの風を与え続けた場合に、最初に浮かべた位置からプールPLの長手方向に4.5m移動するまでの時間を計測した。
【0062】
小型模型の移動の要因となる風は、工場などで使用される業務用ファンFNによって発生させる。風速は1.6m/s以上、5.5m/s以下の範囲で設定できる。
【0063】
その結果を表4へ示す。先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を移動抑制部24として有する電子機器用フロート20の小型模型の移動時間は、移動抑制部を有さない架台単体71の移動時間に対して3倍以上の移動時間が掛かり、移動が抑制されていることが分かる。
【表4】
【実施例0064】
図9は均衡部26を備えた本発明に係る電子機器用フロート20の側面図である。移動抑制部24に先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を備え、さらに、均衡部26として、均衡ロッド262及び錘264で構成された棒状体を備えた。均衡部26は、架台21底部27の水面側中央から水中UWの鉛直方向に伸長させ、架台21の姿勢を安定するよう作用する。
【0065】
均衡ロッド262は、管状体又は棒状体のいずれであってもよい。また、材質は、樹脂又は金属のいずれであってもよいが、実施例3において後述する電子機器部60内部の蓄熱を降下させる熱伝導管42と同じ効果を得るためには熱伝導性が高い金属が好ましい。均衡ロッド262は、長尺であるほど架台21の姿勢を安定させる効果を発揮するが、重量が増大するため、後述の錘264及び移動制御部を含め架台21の底部27の厚み略1/2が沈むように調整が必要である。
【0066】
錘264は、比重が高い金属材料を用いて、架台21からのモーメントを大きくして架台21の姿勢を安定させる目的、又は比重が軽い樹脂を用いて水と接触する面積を大きくして流動抵抗を大きくする目的のいずれに設定するかによって、材質を変更する。
【0067】
図8で示した実験方法と同じ方法で、本発明に係る電子機器用フロート20の水面WSでの移動抑制効果の検証を行った。電子機器用フロート20を浮かばせるプールPLは、水槽が樹脂製のシートで形成されたものを使用した。水槽のサイズは、W=4.5m、D=2.2m、H=0.84mで、水深は、h=0.76mとした。
【0068】
電子機器用フロート20は、実物を模した1/10程度に縮尺した小型模型で代用した。移動抑制部24には先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を採用し、架台21において対称となるよう4本装着した。また、架台21底部27水面側中央にも浮体211を装着した。さらに、金属製の錘264を採用した均衡部26を設けた。プールPLには、以上のように縮尺して構成した電子機器用フロート20の小型模型を浮かべた。小型模型には、仮に電子機器の筐体のみを載置した。小型模型の内部に風が侵入することによって生じる影響を排除するために透明の樹脂シートを上蓋として取り付けた。
【0069】
小型模型の移動量の計測は、波高が5cmとなるように人工的に波を起こした際の小型模型が移動する20秒間の動画を、ビデオカメラを使用して記録し、Adobe社の画像解析プログラム「After Effects」を使用して、小型模型が0.5秒毎に移動するベクトル移動量を画像解析して、1回あたり40データを取得することによって行った。
【0070】
同様に、比較対象として、架台単体71の小型模型を同一プールPL内に浮かべて、移動抑制部24を有する電子機器用フロート20の小型模型の場合と同条件で移動量を取得する。電子機器用フロート20の小型模型及び架台単体71の小型模型のデータについて、t検定を行い、移動抑制部24を有し、さらに均衡部26を備えた電子機器用フロート20の、移動抑制部を有さない架台単体71に対する有意性を判定する。
【0071】
上記の実験方法により取得されたデータについて、t検定を行った結果を表5に示す。P<0.05,n=40となり、移動抑制部24として先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を有し、さらに均衡部26を備えた電子機器用フロート20の移動量が、移動抑制部を有さない架台単体71の移動量に対して有意性が認められた。
【表5】
【0072】
次に、移動抑制部を有さない架台単体71と、移動抑制部24として先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を採用し、さらに均衡部26を備えた電子機器用フロート20に対して、プールPLの長手方向に風速3.5m/sの風を与え続けた場合に、最初に浮かべた位置からプールPLの長手方向に4.5m移動するまでの時間を計測した。
【0073】
小型模型の移動の要因となる風は、工場などで使用される業務用ファンFNによって発生させる。風速は1.6m/s以上、5.5m/s以下の範囲で設定できる。
【0074】
その結果を表6へ示す。先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を移動抑制部24として有し、さらに均衡部26を備えた電子機器用フロート20の小型模型の移動時間は、移動抑制部を有さない架台単体71の移動時間に対して2倍以上の移動時間が掛かり、移動が抑制されていることが分かる。
【表6】
架台31の取付部に設けられた取付穴と、制動緩衝材242の支持ロッド2422の架台31側の端部に設けられた挿通穴とを、例えば、ボルト及びナットを用いて結合し固定する際に、ボルトを上方から制動緩衝材242の支持ロッド2422の端部に設けられた挿通穴に挿通し、次に取付部の取付穴に挿通した後、柔軟制動鋼材142を併設するための取付補助具32に設けられた穴を挿通したうえでナットにて締結を行って、取付補助具に設けられた柔軟制動鋼材142の取付穴に柔軟制動鋼材142を結合させて併設する場合を示した。上記に示した固定形態に限定されるものではなく、周知の固定方法でよく、取付補助具は固定の形態に適合するものであればよい。
移動抑制部に柔軟制動鋼材142及び先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242を併設することによって、柔軟制動鋼材142のアンカーとしての働きと、先端部に浮体2426を設けた制動緩衝材242の流動抵抗を増大させる働きとが相乗効果として得られ、いずれか一方のみを装備した場合と比較して、安定して同じ位置に止まることができる。