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特開2024-118237圧粉コア、インダクタ、および電子・電気機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118237
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】圧粉コア、インダクタ、および電子・電気機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20240823BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240823BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20240823BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240823BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240823BHJP
   B22F 1/07 20220101ALI20240823BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240823BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20240823BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20240823BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240823BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
H01F17/04 F
C22C38/00 303S
C22C45/02 A
B22F1/00 Y
B22F1/052
B22F1/07
B22F3/00 E
H01F30/10 M
H01F1/153 108
H01F27/255
C21D6/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024569
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】小島 章伸
(72)【発明者】
【氏名】澤入 弘也
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
4K018AA30
4K018AA31
4K018BA16
4K018BB04
4K018BB06
4K018GA04
4K018KA44
5E041AA11
5E041AA17
5E041AA19
5E041BB05
5E041BC01
5E041BD03
5E041BD12
5E041CA01
5E041CA03
5E041NN01
5E041NN06
5E070AA01
5E070AB03
5E070BA14
5E070BB01
(57)【要約】
【課題】磁気的に過酷な環境でも良好な磁気特性を有し小型化にも対応可能なインダクタの構成部材として好適な圧粉コアを提供する。
【解決手段】軟磁性金属粉末を含む圧粉コアであって、軟磁性金属粉末は、複数の結晶質粒子および複数の非晶質粒子を含み、複数の結晶質粒子のメジアン径D50cは、1.3μm以下であり、複数の非晶質粒子のメジアン径D50aは、2.0μm以上12.0μm以下であり、結晶質粒子はFeおよびNiを含む組成を有し、
軟磁性金属粉末のメジアン径D50は、下記式(1)から算出され、1.8μm以上7.0μm以下であることを特徴とする圧粉コア:
D50=(Rc×D50c+Ra×D50a)/100 (1)
ここで、Rcは、軟磁性金属粉末に対する複数の結晶質粒子の質量比(単位:質量%)であり、Raは、軟磁性金属粉末に対する複数の非晶質粒子の質量比(単位:質量%)である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性金属粉末を含む圧粉コアであって、
前記軟磁性金属粉末は、複数の結晶質粒子および複数の非晶質粒子を含み、
前記複数の結晶質粒子のメジアン径D50cは、1.3μm以下であり、
前記複数の非晶質粒子のメジアン径D50aは、2.0μm以上12.0μm以下であり、
前記結晶質粒子はFeおよびNiを含む組成を有し、
前記軟磁性金属粉末のメジアン径D50は、下記式(1)から算出され、1.8μm以上7.0μm以下であることを特徴とする圧粉コア:
D50=(Rc×D50c+Ra×D50a)/100 (1)
ここで、Rcは、前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の結晶質粒子の質量比(単位:質量%)であり、Raは、前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の非晶質粒子の質量比(単位:質量%)である。
【請求項2】
前記非晶質粒子の金属質部分は、非晶質相からなる、請求項1に記載の圧粉コア。
【請求項3】
前記複数の非晶質粒子のメジアン径D50aは、3.5μm以上9.0μm以下である、請求項1に記載の圧粉コア。
【請求項4】
前記複数の結晶質粒子のメジアン径D50cは、0.50μm以上1.3μm以下である、請求項1に記載の圧粉コア。
【請求項5】
前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の非晶質粒子の質量比Raは、10質量%以上90質量%以下である、請求項1に記載の圧粉コア。
【請求項6】
前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の非晶質粒子の質量比Raは、35質量%以上85質量%以下である、請求項5に記載の圧粉コア。
【請求項7】
前記複数の結晶質粒子は、10質量%以上90質量%以下のNiを含み、残部Feおよび不純物からなる組成を有する、請求項1に記載の圧粉コア。
【請求項8】
前記複数の非晶質粒子は、
P:5.0~13.0原子%
C:2.2~13.0原子%
Ni:0~10.0原子%
B:0~9.0原子%
Si:0~7.0原子%
Cr:0~6.0原子%
Sn:0~3.0原子%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる組成の金属質部分を有する、請求項1に記載の圧粉コア。
【請求項9】
前記複数の非晶質粒子は、金属質部分が非晶質相からなる第1の粒子と、シェラー径が50nm以下の結晶相と非晶質相とからなる金属質部分を有する第2の粒子とからなる、請求項1に記載の圧粉コア。
【請求項10】
前記複数の非晶質粒子に対する前記第2の粒子の質量比Ra2は、80質量%以下である、請求項9に記載の圧粉コア。
【請求項11】
前記複数の非晶質粒子に対する前記第2の粒子の質量比Ra2は、1質量%以上60質量%以下である、請求項10に記載の圧粉コア。
【請求項12】
前記第1の粒子のメジアン径D50a1は、3.5μm以上9.0μm以下である、請求項9または請求項10に記載の圧粉コア。
【請求項13】
前記第2の粒子のメジアン径D50a2は、2.0μm以上15μm以下である、請求項9または請求項10に記載の圧粉コア。
【請求項14】
前記複数の非晶質粒子のメジアン径D50aは、下記式(2)から算出され、3.0μm以上8.0μm以下である、請求項9または請求項10に記載の圧粉コア:
D50a=(Ra1×D50a1+Ra2×D50a2)/100 (2)
ここで、Ra1は、前記複数の非晶質粒子に対する前記第1の粒子の質量比(単位:質量%)であり、Ra2は、前記複数の非晶質粒子に対する前記第2の粒子の質量比(単位:質量%)である。
【請求項15】
前記複数の結晶質粒子のメジアン径D50cは、0.5μm以上1.3μm以下である、請求項9または請求項10に記載の圧粉コア。
【請求項16】
前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の非晶質粒子の質量比Raは、10質量%以上90質量%以下である、請求項9または請求項10に記載の圧粉コア。
【請求項17】
前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の非晶質粒子の質量比Raは、35質量%以上60質量%以下である、請求項16に記載の圧粉コア。
【請求項18】
前記複数の結晶質粒子は、10質量%以上90質量%以下のNiを含み、残部Feおよび不純物からなる組成の金属質部分を有する、請求項9または請求項10に記載の圧粉コア。
【請求項19】
前記複数の非晶質粒子は、
P:5.0~13.0原子%
C:2.2~13.0原子%
Ni:0~10.0原子%
B:0~9.0原子%
Si:0~7.0原子%
Cr:0~6.0原子%
Sn:0~3.0原子%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる組成の金属質部分を有する、請求項9または請求項10に記載の圧粉コア。
【請求項20】
前記第2の粒子は、
C、B、P、およびSiからなる群から選ばれる1種以上からなる元素X:5原子%以上20原子%以下、
Mo、Nb、Cu、Zr、Al、およびVからなる群から選ばれる1種以上からなる元素M:1原子%以上10原子%以下、
を含有し、残部Feおよび不純物からなる組成を有する、請求項9または請求項10に記載の圧粉コア。
【請求項21】
前記複数の非晶質粒子のD50aは、3.5μm以上9.0μm以下であり、
前記複数の結晶質粒子のD50cは、0.50μm以上1.3μm以下であり、
前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の非晶質粒子の質量比Raは、35質量%以上60質量%以下であり、
前記複数の非晶質粒子は、
P:5.0~13.0原子%
C:2.2~13.0原子%
Ni:0~10.0原子%
B:0~9.0原子%
Si:0~7.0原子%
Cr:0~6.0原子%
Sn:0~3.0原子%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる組成を有し、非晶質相からなる金属質部分を有する、請求項1に記載の圧粉コア。
【請求項22】
周波数を1MHz、実効最大磁束密度Bmを15mTとする条件で測定したときに、鉄損Pcvが70kW-13以下である、請求項1に記載の圧粉コア。
【請求項23】
軟磁性金属粉末を含む圧粉コアであって、
前記軟磁性金属粉末は、複数の結晶質粒子および複数の非晶質粒子を含み、
前記圧粉コアの断面を観察したときに、
前記複数の結晶質粒子の平均円相当径は、1.0μm以下であり、
前記複数の非晶質粒子の平均円相当径は、1.0μm以上8.0μm以下であり、
前記軟磁性金属粉末の観察視野における占有断面積に対する前記複数の非晶質粒子の前記観察視野における占有断面積の比は、30%以上70%以下であることを特徴とする圧粉コア。
【請求項24】
接続端子と、
前記接続端子に電気的に接続され、通電により誘導磁界を発生可能な導体と、
請求項1、請求項2および請求項9のいずれか1項に記載される圧粉コアと、
を備え、
前記圧粉コアは、前記導体からの前記誘導磁界の磁力線が通る位置に配置されること
を特徴とするインダクタ。
【請求項25】
請求項24に記載されるインダクタが実装された電子・電気機器であって、前記インダクタは前記接続端子にて基板に接続されている電子・電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉コア、かかる圧粉コアを備えるインダクタ、およびこのインダクタが実装された電子・電気機器に関する。本明細書において、「インダクタ」とは、圧粉コアを含む芯材およびコイルを備える受動素子を意味する。
【背景技術】
【0002】
電子機器では、小型化、軽量化、高性能化への要求が高まっている。こうした要求に応えるために、電子機器内のスイッチング電源回路は高い周波数に対応できることが必要となる。それゆえ、スイッチング電源回路に組み込まれるインダクタも、高周波で安定的に駆動できることが求められている。
【0003】
スマートフォン、タブレット端末、ノートパソコンなどの電子機器に組み込まれるスイッチング電源回路、特にDC-DCコンバータには、近年、小型化への要求が特に高まっている。この要求に応えた結果として、内部に組み込まれるインダクタには、小型でありながら大きな直流電流が流れるようになってきている。このため、インダクタを構成する磁性材料がおかれる磁気的環境は、この直流電流に起因する誘導磁界がバイアスとして印加された状態で、高周波でのスイッチングに基づく電流変動(リップル電流)に起因する変動磁場がさらに印加される環境となる。したがって、インダクタを構成する磁性部材は、このような磁気的には過酷な環境で、適切な磁気特性(例えば高い比透磁率、高い直流重畳定格電流かつ低い鉄損)を有することが求められてきている。ここで、比透磁率が高いことはインダクタンスを高めやすいことを意味し、直流重畳定格電流が高いことは小型化しやすいことを意味し、鉄損が低いことは電源効率を高くしやすいことを意味する。
【0004】
かかる要求に応えるべく、インダクタを構成する磁性部材の一種である圧粉コアには、複数種類の磁性粉末を混合してなるものが提案されている(特許文献1から特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-118486号公報
【特許文献2】国際公開第2020/090405号
【特許文献3】特開2020-72182号公報
【特許文献4】特開2022-37533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる現状を鑑み、磁気的に過酷な環境でも良好な磁気特性を有し小型化にも対応可能なインダクタの構成部材として好適な圧粉コアおよびかかる圧粉コアを備えるインダクタ、およびこのインダクタが実装された電子・電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために提供される本発明は、一態様において軟磁性金属粉末を含む圧粉コアであって、前記軟磁性金属粉末は、複数の結晶質粒子および複数の非晶質粒子を含み、前記複数の結晶質粒子のメジアン径D50cは、1.3μm以下であり、前記複数の非晶質粒子のメジアン径D50aは、2.0μm以上12.0μm以下であり、前記結晶質粒子はFeおよびNiを含む組成を有し、前記軟磁性金属粉末のメジアン径D50は、下記式(1)から算出され、1.8μm以上7.0μm以下であることを特徴とする圧粉コア:
D50=(Rc×D50c+Ra×D50a)/100 (1)
ここで、Rcは、前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の結晶質粒子の質量比(単位:質量%)であり、Raは、前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の非晶質粒子の質量比(単位:質量%)である。
上記の構成を有する圧粉コアは、インダクタの総合特性(μ2×Isat/Pcv)を高めることができる。なお、総合特性に関し、μは1MHzでの比初透磁率であり、Pcvは1MHzでの鉄損、およびIsatは直流重畳定格電流(直流重畳したときに自己インダクタンスLが30%低下する電流値)である。
【0008】
上記の圧粉コアにおいて、前記非晶質粒子の金属質部分は、非晶質相からなるものであってもよい。
【0009】
上記の圧粉コアにおいて、前記複数の非晶質粒子のメジアン径D50aは、3.5μm以上9.0μm以下であってもよい。前記複数の結晶質粒子のメジアン径D50cは、0.50μm以上1.3μm以下であってもよい。
【0010】
上記の圧粉コアにおいて、前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の非晶質粒子の質量比Raは、10質量%以上90質量%以下であってもよい。前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の非晶質粒子の質量比Raは、35質量%以上85質量%以下であってもよい。
【0011】
上記の圧粉コアにおいて、前記複数の結晶質粒子は、10質量%以上90質量%以下のNiを含み、残部Feおよび不純物からなる組成を有していてもよい。
【0012】
上記の圧粉コアにおいて、前記複数の非晶質粒子は、P:5.0~13.0原子%、C:2.2~13.0原子%、Ni:0~10.0原子%、B:0~9.0原子%、Si:0~7.0原子%、Cr:0~6.0原子%、およびSn:0~3.0原子%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる組成の金属質部分を有していてもよい。なお、上記の組成において、Ni、B、Si、CrおよびSnは任意添加元素である。
【0013】
上記の圧粉コアにおいて、前記複数の非晶質粒子は、金属質部分が非晶質相からなる第1の粒子と、シェラー径が50nm以下の結晶相と非晶質相とからなる金属質部分を有する第2の粒子とから構成されていてもよい。
【0014】
上記の第1の粒子および第2の粒子を備える圧粉コアにおいて、前記複数の非晶質粒子に対する前記第2の粒子の質量比Ra2は、80質量%以下であってもよいし、1質量%以上60質量%以下であってもよい。
【0015】
上記の第1の粒子および第2の粒子を備える圧粉コアにおいて、前記第1の粒子のメジアン径D50a1は、3.5μm以上9.0μm以下であってもよい。前記第2の粒子のメジアン径D50a2は、2.0μm以上15μm以下であってもよい。
【0016】
上記の第1の粒子および第2の粒子を備える圧粉コアにおいて、前記複数の非晶質粒子のメジアン径D50aは、下記式(2)から算出され、3.0μm以上8.0μm以下であってもよい。
D50a=(Ra1×D50a1+Ra2×D50a2)/100 (2)
ここで、上記のとおり、Ra1は、前記複数の非晶質粒子に対する前記第1の粒子の質量比(単位:質量%)であり、Ra2は、前記複数の非晶質粒子に対する前記第2の粒子の質量比(単位:質量%)である。
【0017】
上記の第1の粒子および第2の粒子を備える圧粉コアにおいて、前記複数の結晶質粒子のメジアン径D50cは、0.5μm以上1.3μm以下であってもよい。前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の非晶質粒子の質量比Raは、10質量%以上90質量%以下であってもよいし、35質量%以上60質量%以下であってもよい。
【0018】
上記の第1の粒子および第2の粒子を備える圧粉コアにおいて、前記複数の結晶質粒子は、10質量%以上90質量%以下のNiを含み、残部Feおよび不純物からなる組成の金属質部分を有していてもよい。
【0019】
上記の第1の粒子および第2の粒子を備える圧粉コアにおいて、前記複数の非晶質粒子は、P:5.0~13.0原子%、C:2.2~13.0原子%、Ni:0~10.0原子%、B:0~9.0原子%、Si:0~7.0原子%、Cr:0~6.0原子%、およびSn:0~3.0原子%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる組成の金属質部分を有していてもよい。なお、上記の組成において、Ni、B、Si、CrおよびSnは任意添加元素である。
【0020】
上記の第1の粒子および第2の粒子を備える圧粉コアにおいて、前記第2の粒子は、C、B、P、およびSiからなる群から選ばれる1種以上からなる元素X:5原子%以上20原子%以下、Mo、Nb、Cu、Zr、Al、およびVからなる群から選ばれる1種以上からなる元素M:1原子%以上10原子%以下、を含有し、残部Feおよび不純物からなる組成を有していてもよい。
【0021】
上記の圧粉コアにおいて、前記複数の非晶質粒子のD50aは、3.5μm以上9.0μm以下であり、前記複数の結晶質粒子のD50cは、0.50μm以上1.3μm以下であり、前記軟磁性金属粉末に対する前記複数の非晶質粒子の質量比Raは、35質量%以上60質量%以下であり、前記複数の非晶質粒子は、P:5.0~13.0原子%、C:2.2~13.0原子%、Ni:0~10.0原子%、B:0~9.0原子%、Si:0~7.0原子%、Cr:0~6.0原子%、およびSn:0~3.0原子%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる組成を有し、非晶質相からなる金属質部分を有していてもよい。なお、上記の組成において、Ni、B、Si、CrおよびSnは任意添加元素である。
【0022】
上記の圧粉コアは、周波数を1MHz、実効最大磁束密度Bmを15mTとする条件で測定したときに、鉄損Pcvが70kW-13以下であってもよい。本発明の他の一態様に係る圧粉コアは、軟磁性金属粉末を含み、前記軟磁性金属粉末は、複数の結晶質粒子および複数の非晶質粒子を含み、前記圧粉コアの断面を観察したときに、次の特徴を備えていてもよい:
前記複数の結晶質粒子の平均円相当径は、1.0μm以下、
前記複数の非晶質粒子の平均円相当径は、1.0μm以上8.0μm以下、かつ
前記軟磁性金属粉末の観察視野における占有断面積に対する前記複数の非晶質粒子の前記観察視野における占有断面積の比は、30%以上70%以下。
【0023】
本発明は別の一態様として、接続端子と、前記接続端子に電気的に接続され、通電により誘導磁界を発生可能な導体と、上記の圧粉コアと、を備えるインダクタを提供する。かかるインダクタにおいて、前記圧粉コアは、前記導体からの前記誘導磁界の磁力線が通る位置に配置されている。
【0024】
本発明は、また別の一態様として上記の本発明の一態様に係るインダクタが実装された電子・電気機器を提供する。当該電子・電気機器において、インダクタは接続端子にて基板に接続されている。上記の電子・電気機器におけるインダクタが組み込まれた回路は特に限定されないが、DC-DCコンバータなどのスイッチング電源回路に用いられた場合には、直流重畳特性に優れる上記のインダクタの利点を活かしやすい。また、電子・電気機器がスマートフォンなどの携帯型の機器である場合には、小型かつ低背に対応しやすい上記のインダクタの利点を活かしやすい。
【発明の効果】
【0025】
上記の発明によれば、磁気的に過酷な環境でも良好な磁気特性を有し小型化にも対応可能なインダクタの構成部材として好適な圧粉コアおよびかかる圧粉コアを備えるインダクタ、およびこのインダクタが実装された電子・電気機器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る圧粉コアの形状を概念的に示す斜視図である。
図2】造粒粉を製造する方法の一例において使用されるスプレードライヤー装置およびその動作を概念的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る圧粉コアを備えるインダクタの一種であるトロイダルコイルの形状を概念的に示す斜視図である。
図4】本発明の一実施形態に係る圧粉コアを備えるインダクタの一種であるコイル埋設型インダクタの形状を概念的に示す斜視図である。
図5】本発明の一実施形態に係る圧粉コアを備えるインダクタの特性を説明するグラフである。
図6】本発明の一実施形態に係る圧粉コアを備えるインダクタの特性とメジアン径D50との関係を説明する図である。
図7】実施例26から実施例29に示されるの結果を示すグラフである。
図8】実施例30から実施例33に示されるの結果を示すグラフである。
図9】実施例5-3に係る圧粉コアの断面の二次電子像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。
1.圧粉コア
(1)概要
図1に示す本発明の一実施形態に係る圧粉コア1は、その外観がリング状のトロイダルコアであって、軟磁性の金属粉末を含む。軟磁性の金属粉末は、複数種類、具体的には、複数の結晶質粒子および複数の非晶質粒子を含有する。これらの複数種類の金属粉末のそれぞれについて、レーザ回折・散乱法にて測定した体積基準の粒度分布において小粒径側からの積算粒径分布が50%となる粒径であるメジアン径(単位:μm)を求めると、複数の結晶質粒子のメジアン径D50cは、1.3μm以下であり、複数の非晶質粒子のメジアン径D50aは、2.0μm以上12.0μm以下である。これらの複数種類の粒子を含む軟磁性金属粉末のメジアン径D50は、下記式(1)から近似的に算出され、1.8μm以上7.0μm以下である:
D50=(Rc×D50c+Ra×D50a)/100 (1)
【0028】
ここで、Rcは、軟磁性金属粉末に対する複数の結晶質粒子の質量比(単位:質量%)であり、Raは、軟磁性金属粉末に対する複数の非晶質粒子の質量比(単位:質量%)である。
【0029】
本実施形態に係る圧粉コア1は、軟磁性金属粉末が上記の粒径に関する条件を満たし、さらに複数の結晶質粒子が後述する組成上の条件(FeおよびNiを含むこと)を満たすため、初透磁率(比初透磁率μ)が低く、鉄損Pcvが低く、直流重畳特性に優れる。本明細書において、直流重畳特性は、直流重畳定格電流Isat(直流重畳したときにインダクタの自己インダクタンスLが30%低下する電流値)により評価する。具体的には、直流重畳定格電流Isatは、外径20mm、内径12.7mm、高さ3.1mmのトロイダル形状のコアに34ターンの巻き線を施してなるインダクタに、電流を流すことにより測定された値である。本実施形態に係る圧粉コア1およびこれを備えるインダクタは、上記の特性が適切であることにより、優れた総合特性(μ2×Isat/Pcv)を有する。それゆえ、本実施形態に係る圧粉コア1を備えるインダクタは、大電流など磁気的に過酷な条件においても優れた特性を示し、かつ小型化可能である。
【0030】
(2)結晶質粒子
本実施形態に係る圧粉コア1は、軟磁性であって結晶相を含む複数の粒子(結晶質粒子)を含有する。本明細書において、「結晶質」とは、一般的なX線回折測定により、材料種類を特定できる程度に明確なピークを有する回折スペクトルが得られることを意味する。
【0031】
複数の結晶質粒子のメジアン径D50cは、上記のとおり1.3μm以下であり、このようにメジアン径D50cを小径化することにより、圧粉コア1の鉄損Pcvの低下および圧粉コア1を備えるインダクタの直流重畳特性の向上が実現される。複数の結晶質粒子のメジアン径D50cは、適切な取扱性、適切な入手容易性および磁気特性の向上の観点から、0.50μm以上1.0μm以下であることが好ましい場合がある。
【0032】
複数の結晶質粒子の粒径は、圧粉コア1の切断面を走査型電子顕微鏡で撮像して得られた画像(二次電子像)を解析することによっても得ることができる。この場合には、観察視野における複数の結晶質粒子の平均円相当径が、1.0μm以下であればよく、0.3μm以上0.7μm以下であることが好ましい。なお、実施例において説明するように、二次電子像から求めた粒子の平均円相当径は、レーザ回折・散乱法にて測定した粒度分布のメジアン径の60~70%程度(実施例では63%)の数値として得られる。
【0033】
軟磁性金属粉末に対する複数の結晶質粒子の質量比Rcは、10質量%以上90質量%以下であることが好ましい場合があり、10質量%以上50質量%未満であることがより好ましい場合がある。複数の結晶質粒子は、複数の非晶質粒子よりも軟質であり、圧粉コア1において複数の非晶質粒子の間を埋めるように変形するものであることから、質量比Rc<質量比Raであることにより、圧粉コア1を備えるインダクタにおいてコア密度を高くすることが可能であり、直流重畳特性が低下しにくい。
【0034】
複数の結晶質粒子の組成は、FeおよびNiを含み、好ましくは、FeおよびNiからなる。かかる組成を有する圧粉コア1では、複数の結晶質粒子の組成がNiに代えて他の元素、例えばSiやCrを含有する場合に比べて、鉄損Pcvが低く、圧粉コア1を備えるインダクタにおいて直流重畳特性が良好となりやすい。特に、複数の結晶質粒子の組成がFeおよびNiからなる場合には、圧粉コア1の製造過程においてアニール処理を行ったときに、アニール処理温度を低下させることにより鉄損Pcvを低下させることができる。組成がFe、SiおよびCrからなる場合には、このような傾向はみられず、むしろ逆の傾向(アニール温度の低下に伴い鉄損Pcvが上昇する)がみられる。
【0035】
複数の結晶質粒子の磁気特性を高める観点から、複数の結晶質粒子の組成は、10質量%以上90質量%以下のNiを含み、残部Feおよび不純物からなることがより好ましく、Niを40質量%以上60質量%以下含む組成を有することが特に好ましい。
【0036】
また、複数の結晶質粒子の金属質部分は、非晶相を実質的に含まないことが好ましい。この場合、示差熱分析により得られるDSCカーブが結晶化を示すピーク、すなわち、非晶相から結晶相への相変化に伴う発熱のピークを含まない。複数の結晶質粒子の組織は、結晶相からなってもよい。
【0037】
(3)非晶質粒子
本実施形態に係る圧粉コア1は、軟磁性であって非晶相を含む複数の粒子(非晶質粒子)を含有する。本明細書において、「非晶質」とは、(A)一般的なX線回折法によって得られる回折スペクトルがブロードなピークを含むことと、(B)示差熱分析により得られるDSCカーブが結晶化を示すピーク、すなわち、非晶相から結晶相への相変化に伴う発熱ピークを含むこととの少なくとも一方を満たすことを意味する。複数の非晶質粒子の金属質部分は、非晶相のみから構成されていてもよいし、非晶相と結晶相とを有していてもよい。
【0038】
複数の非晶質粒子のメジアン径D50aは、上記のとおり、2.0μm以上12.0μm以下である。メジアン径D50aがこの範囲にあることにより、圧粉コア1の鉄損Pcvの低下が実現される。メジアン径D50aは、適切な取扱性、適切な入手容易性および磁気特性の向上の観点から、3.5μm以上9.0μm以下であることが好ましい場合がある。
【0039】
複数の非晶質粒子の粒径は、圧粉コア1の切断面を走査型電子顕微鏡で撮像して得られた画像(二次電子像)を解析することによっても得ることができる。この場合には、観察視野における複数の非晶質粒子の平均円相当径が、1.0μm以上8.5μm以下であればよく、2.0μm以上6.5μm以下であることが好ましい。
【0040】
軟磁性金属粉末に対する複数の非晶質粒子の質量比Raは、鉄損Pcvをより安定的に低下させること、および圧粉コア1を備えるインダクタにおいて直流重畳特性がより安定的に高まることの観点から、10質量%以上90質量%以下であることが好ましく、30質量%以上85質量%未満であることがより好ましい場合がある。
【0041】
非晶質粒子の金属質部分が実質的に非晶相からなる場合(非晶質単相粒子・第1の粒子)における一例として、非晶質粒子の金属質部分がBやPを含む組成を有することが挙げられる。
【0042】
例えば、非晶質粒子の金属質部分がFe-P-C系合金から構成されることが挙げられる。Fe-P-C系合金の組成は、1.0~13.0原子%のPと、1.0~13.0原子%のCと、Fe及び不純物からなってもよい。このFe-P-C系合金は、任意元素として、Ni、Sn、Cr、B、Siからなる群から選択される1つ以上を含んでもよい。この場合、例えば、Niの量が0~10.0原子%、Snの量が0~3.0原子%、Crの量が0~6.0原子%、Bの量が0~9.0原子%、Siの量が0~7.0原子%であってもよい。Feの量は、65原子%以上であると好ましい。
【0043】
Fe-P-C系合金の具体例として、次の組成を有する場合が挙げられる:
P:5.0原子%以上13.0原子%以下
C:2.2原子%以上13.0原子%以下
Ni:10.0原子%以下
B:9.0原子%以下
Si:7.0原子%以下
Cr:6.0原子%以下
Sn:3.0原子%以下
を含有し、残部がFeおよび不純物。
上記の組成において、Ni、B、Si、CrおよびSnは任意元素である。そのため、これら任意元素の量の下限は、0原子%である。
【0044】
また、例えば、非晶質粒子の金属質部分がFe-B-C系合金から構成されることが挙げられる。このFe-B-C系合金の具体例として、次の組成を有する場合が挙げられる:
B:5.0原子%以上16.0原子%以下
C:2.0原子%以上10.0原子%以下
Si:12.0原子%以下
Ni:10.0原子%以下
Cr:6.0原子%以下
Sn:3.0原子%以下
を含有し、残部がFeおよび不純物。
上記の組成において、Ni、B、Si、CrおよびSnは任意元素である。そのため、これら任意元素の量の下限は、0原子%である。
この場合、Cの量が、5.0原子%以上であることが好ましい。
【0045】
複数の非晶質粒子が非晶相と結晶相とを有する場合の一例として、複数の非晶質粒子が、シェラー径が50nm以下の結晶相を含む金属質部分を有するナノ結晶粒子(第2の粒子)である場合が挙げられる。この金属質部分は、シェラー径が50nm以下の結晶相と当該結晶相を取り囲む非晶相とからなってもよい。
【0046】
限定されない例示として、第2の粒子は、C、B、P、およびSiからなる群から選ばれる1種以上からなる元素X:5原子%以上20原子%以下、Mo、Nb、Cu、Zr、Al、およびVからなる群から選ばれる1種以上からなる元素M:1原子%以上10原子%以下、を含有し、残部Feおよび不純物からなる組成を有してもよい。この場合には、シェラー径が50nm以下の結晶相が生成しやすい。
【0047】
第2の粒子の具体例として、その金属質部分がFe-Si-B-Nb-Cu系合金が構成される場合が挙げられる。Fe-Si-B-Nb-Cu系合金は、1.0~16.0原子%のSiと、1.0~15.0原子%のBと、0.50~8.0原子%のNbと、0.50~5.0原子%のCuと、Fe及び不純物からなる残部とからなってもよい。この場合、Feの量は、65原子%以上であると好ましい。
【0048】
また、複数の非晶質粒子が非晶相と結晶相とを有する場合の別の例として、複数の非晶質粒子が上述の第1の粒子と第2の粒子との混合粒子である場合が挙げられる。
【0049】
上記の混合粒子において、(a)複数の非晶質粒子に対する第2の粒子の質量比Ra2が80質量%以下であることと、(b)複数の非晶質粒子に対する第2の粒子の質量比Ra2が1質量%以上60質量%以下であることとの少なくとも一方を満たしてもよい。
【0050】
上記の混合粒子において、(c)第1の粒子のメジアン径D50a1は、3.5μm以上9.0μm以下であることと、(d)第2の粒子のメジアン径D50a2は、2.0μm以上15.0μm以下であることとの少なくとも一方を満たしてもよい。
【0051】
上記の混合粒子において、複数の非晶質粒子のメジアン径D50aは、下記式(2)から近似値として算出されてもよく、算出されたメジアン径D50aは3.0μm以上8.0μm以下であってもよい。
D50a=(Ra1×D50a1+Ra2×D50a2)/100 (2)
【0052】
なお、第1の粒子の金属質部分は、プロセス上不可避的に生じる結晶相を含んでもよい。
【0053】
(4)軟磁性粉末
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1が備える軟磁性金属粉末のメジアン径D50は、下記式(1)から近似的に算出され、1.8μm以上7.0μm以下である。
D50=(Rc×D50c+Ra×D50a)/100 (1)
【0054】
メジアン径D50がこの範囲にあることにより、優れた総合特性(μ2×Isat/Pcv)を有するインダクタを与えることができる。総合特性をより安定的に高める観点から、メジアン径D50は、2.0μm以上5.0μm以下であることが好ましい場合があり、2.5μm以上4.0μm以下であることがより好ましい場合がある。
【0055】
軟磁性粉末の粒径は、圧粉コア1の切断面を走査型電子顕微鏡で撮像して得られた画像(二次電子像)を解析することによっても得ることができる。この場合には、軟磁性金属粉末の観察視野における占有断面積に対する複数の非晶質粒子の観察視野における占有断面積の比は、30%以上70%以下であればよく、40%以上60%以下であることが好ましい。
【0056】
軟磁性粉末の形状は限定されない。軟磁性粉末は、球形であってもよいし、楕円形であってもよいし、鱗片状であってもよいし、不定形状を有していてもよい。これら形状を得るための製造方法も限定されない。
【0057】
軟磁性粉末は表面絶縁処理が施されていてもよい。軟磁性粉末に表面絶縁処理が施されている場合には、圧粉コア1の絶縁抵抗が向上する。軟磁性粉末に施す表面絶縁処理の種類は限定されない。リン酸処理、リン酸塩処理、酸化処理などが例示される。軟磁性粉末がその表面に絶縁被膜を有してもよい。この絶縁被膜は、Si、P、Bからなる群から選択される少なくとも1つと、O(酸素)とを含んでもよい。
【0058】
(5)その他の材料
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1は、軟磁性粉末に加えて、任意の副原料をさらに含んでもよい。任意の副原料は、例えば、結着材料や改質剤である。結着材料は、圧粉コア1に含有される磁性粉末等の粒子同士を結合する。この結着材料は、圧粉コア1に絶縁抵抗を付与するために、絶縁性の材料であると好ましい。
【0059】
結着材料は、有機材料であっても、無機材料であってもよい。有機材料は、樹脂材料であってもよい。樹脂材料として、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂などが例示される。無機材料は、水ガラスなどガラス系材料であってもよい。結着材料は、熱分解等の反応の生成物であってもよく、複数の材料の混合物であってもよい。
【0060】
改質剤は、例えば、粉体の流動性を向上させたり、結着材料の硬化速度を調整したりする。改質剤は、ガラス系材料であってもよい。
【0061】
(6)鉄損Pcv
本実施形態に係る圧粉コア1の鉄損Pcvは、周波数を1MHz、実効最大磁束密度Bmを15mTとする条件で測定したときに、70kW-13以下であることが好ましい。圧粉コア1の鉄損Pcvがこの範囲であることにより、圧粉コア1を備えるインダクタの総合特性が安定的に高まりやすくなる。インダクタの総合特性をより安定的に高める観点から、圧粉コア1の鉄損Pcvは、上記の条件で測定したときに、60kW-13以下であることが好ましく、55kW-13以下であることがより好ましい。
【0062】
2.圧粉コアの製造方法
上記の本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の製造方法は特に限定されないが、次に説明する製造方法を採用すれば、圧粉コア1をより効率的に製造することが実現される。
【0063】
本発明の一実施形態に係る圧粉コア1の製造方法は、次に説明する成形工程を備え、さらに熱処理工程を備えていてもよい。
【0064】
(1)成形工程
まず、磁性粉末、および圧粉コア1において結着成分を与える成分を含む混合物を用意する。結着成分を与える成分(本明細書において、「バインダー成分」ともいう。)とは、結着成分そのものである場合もあれば、結着成分と異なる材料である場合もある。後者の具体例として、バインダー成分が樹脂材料であって、結着成分がその熱分解残渣である場合が挙げられる。このような熱分解残渣は、後述するように、成形工程に引き続いて行われる熱処理工程によって形成されうる。
【0065】
この混合物の加圧成形を含む成形処理により成形製造物を得ることができる。加圧条件は限定されず、バインダー成分の組成などに基づき適宜設定される。例えば、バインダー成分が熱硬化性の樹脂からなる場合には、加圧とともに加熱して、金型内で樹脂の硬化反応を進行させることが好ましい。一方、加圧力が高い圧縮成形の場合には、加熱は必要条件とならず、短時間の加圧となる。圧縮成形の場合における加圧力は適宜設定される。限定されない例示を行えば、0.5GPa以上2GPa以下であり、1GPa以上2GPa以下とすることが好ましい場合がある。
【0066】
以下、混合物が造粒粉であって、圧縮成形を行う場合について、やや詳しく説明する。造粒粉は取り扱い性に優れるため、成形時間が短く生産性に優れる圧縮成形工程の作業性を向上させることができる。
【0067】
(1-1)造粒粉
造粒粉は、磁性粉末およびバインダー成分を含有する。造粒粉におけるバインダー成分の含有量は特に限定されない。かかる含有量が過度に低い場合には、バインダー成分が磁性粉末を保持しにくくなる。また、バインダー成分の含有量が過度に低い場合には、熱処理工程を経て得られた圧粉コア1中で、バインダー成分の熱分解残渣からなる結着成分が、複数の磁性粉末を互いに他から絶縁しにくくなる。一方、上記のバインダー成分の含有量が過度に高い場合には、熱処理工程を経て得られた圧粉コア1に含有される結着成分の含有量が高くなりやすい。圧粉コア1中の結着成分の含有量が高くなると、圧粉コア1の磁気特性が低下しやすくなる。それゆえ、造粒粉中のバインダー成分の含有量は、造粒粉全体に対して、0.5質量%以上5.0質量%以下となる量にすることが好ましい。圧粉コア1の磁気特性が低下する可能性をより安定的に低減させる観点から、造粒粉中のバインダー成分の含有量は、造粒粉全体に対して、1.0質量%以上3.5質量%以下となる量にすることが好ましく、1.2質量%以上3.0質量%以下となる量にすることがより好ましい。
【0068】
造粒粉は、上記の磁性粉末およびバインダー成分以外の材料を含有してもよい。そのような材料として、潤滑剤、シランカップリング剤、絶縁性のフィラーなどが例示される。潤滑剤を含有させる場合において、その種類は特に限定されない。有機系の潤滑剤であってもよいし、無機系の潤滑剤であってもよい。有機系の潤滑剤の具体例として、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウムなどの金属石鹸が挙げられる。こうした有機系の潤滑剤は、熱処理工程において気化し、圧粉コア1にはほとんど残留していないと考えられる。
【0069】
造粒粉の製造方法は特に限定されない。上記の造粒粉を与える成分をそのまま混錬し、得られた混練物を公知の方法で粉砕するなどして造粒粉を得てもよいし、上記の成分に分散媒(水が一例として挙げられる。)を添加してなるスラリーを調製し、このスラリーを乾燥させて粉砕することにより造粒粉を得てもよい。粉砕後にふるい分けや分級を行って、造粒粉の粒度分布を制御してもよい。
【0070】
上記のスラリーから造粒粉を得る方法の一例として、スプレードライヤーを用いる方法が挙げられる。図2に示されるように、スプレードライヤー装置200内には回転子201が設けられ、装置上部からスラリーSを回転子201に向けて注入する。回転子201は所定の回転数により回転しており、スプレードライヤー装置200内部のチャンバーにてスラリーSを遠心力により小滴状として噴霧する。さらにスプレードライヤー装置200内部のチャンバーに熱風を導入し、これにより小滴状のスラリーSに含有される分散媒(水)を、小滴形状を維持したまま揮発させる。その結果、スラリーSから造粒粉Pが形成される。この造粒粉Pをスプレードライヤー装置200の下部から回収する。回転子201の回転数、スプレードライヤー装置200内に導入する熱風温度、チャンバー下部の温度など各パラメータは適宜設定すればよい。これらのパラメータの設定範囲の具体例として、回転子201の回転数として4000~8000rpm、スプレードライヤー装置200内に導入する熱風温度として100~170℃、チャンバー下部の温度として80~90℃が挙げられる。またチャンバー内の雰囲気およびその圧力も適宜設定すればよい。一例として、チャンバー内をエアー(空気)雰囲気として、その圧力を大気圧との差圧で2mmH2O(約0.02kPa)とすることが挙げられる。得られた造粒粉Pの粒度分布をふるい分けなどによりさらに制御してもよい。
【0071】
(1-2)加圧条件
圧縮成形における加圧条件は特に限定されない。造粒粉の組成、成形品の形状などを考慮して適宜設定すればよい。造粒粉を圧縮成形する際の加圧力が過度に低い場合には、成形品の機械的強度が低下する。このため、成形品の取り扱い性が低下する、成形品から得られた圧粉コア1の機械的強度が低下する、といった問題が生じやすくなる。また、圧粉コア1の磁気特性が低下したり絶縁性が低下したりする場合もある。一方、造粒粉を圧縮成形する際の加圧力が過度に高い場合には、その圧力に耐えうる成形金型を作製するのが困難になってくる。圧縮加圧工程が圧粉コア1の機械特性や磁気特性に悪影響を与える可能性をより安定的に低減させ、工業的に大量生産を容易に行う観点から、造粒粉を圧縮成形する際の加圧力は、0.3GPa以上2GPa以下とすることが好ましく、0.5GPa以上2GPa以下とすることがより好ましく、0.8GPa以上2GPa以下とすることが特に好ましい。
【0072】
圧縮成形では、加熱しながら加圧を行ってもよいし、常温で加圧を行ってもよい。
【0073】
(2)熱処理工程
成形工程により得られた成形製造物が本実施形態に係る圧粉コア1であってもよいし、次に説明するように成形製造物に対して熱処理工程を実施して圧粉コア1を得てもよい。
【0074】
熱処理工程では、上記の成形工程により得られた成形製造物を加熱することにより、磁性粉末間の距離を修正することによる磁気特性の調整および成形工程において磁性粉末に付与された歪を緩和させて磁気特性の調整を行って、圧粉コア1を得る。
【0075】
熱処理工程は上記のように圧粉コア1の磁気特性の調整が目的であるから、熱処理温度などの熱処理条件は、圧粉コア1の磁気特性が最も良好となるように設定される。熱処理条件を設定する方法の一例として、成形製造物の加熱温度の最高値(アニール温度)を変化させ、昇温速度および加熱温度での保持時間など他の条件は一定とすることが挙げられる。
【0076】
熱処理条件を設定する際の圧粉コア1の磁気特性の評価基準は特に限定されない。評価項目の具体例として圧粉コア1の鉄損Pcvを挙げることができる。この場合には、圧粉コア1の鉄損Pcvが最低となるように成形製造物の加熱温度を設定すればよい。後述するように、本実施形態に係る圧粉コア1は、アニール温度が325℃から400℃の範囲では、アニール温度を低下させるほど鉄損Pcvが低くなる傾向を有する。
【0077】
熱処理の際の雰囲気は特に限定されない。酸化性雰囲気の場合には、バインダー成分の熱分解が過度に進行する可能性や、磁性粉末の酸化が進行する可能性が高まるため、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気や、水素などの還元性雰囲気で熱処理を行うことが好ましい。バインダー成分が樹脂材料で形成されている場合には、上記のような熱処理によってこのバインダー成分が熱分解残渣となる場合がある。上記のように歪を緩和させる際に、バインダー成分が熱分解残渣となっていることが考えられる。
【0078】
3.インダクタ、電子・電気機器
本発明の一実施形態に係るインダクタは、基板などに電気的に接続されるための接続端子と、接続端子に電気的に接続され、通電により誘導磁界を発生可能な導体と、上記の本発明の一実施形態に係る圧粉コア1と、を備える。インダクタにおいて、圧粉コア1は、導体からの誘導磁界の磁力線が通る位置に配置される。本発明の一実施形態に係るインダクタは、上記の本発明の一実施形態に係る圧粉コア1を備えるため、総合特性(μ2×Isat/Pcv)に優れる。
【0079】
本明細書において、総合特性は、1MHzでの比初透磁率μ、1MHzでの鉄損Pcv、および直流重畳定格電流Isatにより求められる。インダクタの製品特性として自己インダクタンスLと直流重畳定格電流Isatとをともに高くすることが求められる。自己インダクタンスLは比初透磁率μと比例関係にあるため、μ×Isatはインダクタの特性評価の指標の1つとなる。ここで、同一の組成でも比初透磁率μの値によってμ×Isatは変化するため、同じ比初透磁率μで比較したときにμ×Isatが高い方が、インダクタとしては優れた特性を有していることとなる。また、上記の観点とは別の指標として、圧粉コア1の鉄損Pcvが低いことが挙げられる。
【0080】
そこで、μ×Isatを縦軸、μ/Pcvを横軸としてインダクタ(およびこれを構成する圧粉コア1)の測定結果をプロットすると、得られたグラフにおいて右上に位置するほど、インダクタ(およびこれを構成する圧粉コア1)として優れていることになる。図5は、本発明の一実施形態に係る圧粉コア1を備えるインダクタの特性を説明するグラフであり、本発明の一実施形態に係る圧粉コア1を備えるインダクタ(発明例)および本発明の一実施形態に係る圧粉コア1以外の圧粉コアを備えるインダクタ(比較例)がプロットされている。図5において破線は、それぞれ、μ2×Isat/Pcv=380mA・kW-13およびμ2×Isat/Pcv=420mA・kW-13を示しており、概ねμ2×Isat/Pcvが400mA・kW-13程度に、発明例と比較例とを分ける境界領域が存在している。
【0081】
図6は、本発明の一実施形態に係る圧粉コアを備えるインダクタの特性とメジアン径D50との関係を説明する図である。図6は、図5のグラフのプロットに用いた結果を、縦軸として総合特性(μ2×Isat/Pcv)、横軸を圧粉コア1のメジアン径D50として示したものである。メジアン径D50が1.8μm以上7.0μm以下の範囲に発明例が位置することが確認される。
【0082】
インダクタの一例として、図3に示されるトロイダルコイル10が挙げられる。トロイダルコイル10は、リング状の圧粉コア(トロイダルコア)1に、被覆導電線2を巻回することによって形成されたコイル2aを備える。巻回された被覆導電線2からなるコイル2aと被覆導電線2の端部2b、2cとの間に位置する導電線の部分において、コイル2aの端部2d、2eを定義することができる。このように、本実施形態に係るインダクタは、コイルを構成する部材と接続端子を構成する部材とが同一の部材から構成されていてもよい。
【0083】
本発明の一実施形態に係るインダクタの他の一例として、図4に示されるコイル埋設型インダクタ20が挙げられる。コイル埋設型インダクタ20は、数mm角の小形のチップ状に形成することが可能であり、箱型の形状を有する圧粉コア21を備え、その内部に、被覆導電線22におけるコイル部22cが埋設されている。コイル部22cの導体は通電時に誘導磁界を発生させ、この誘導磁界の磁力線は圧粉コア21を通る。被覆導電線22の端部22a、22bは、圧粉コア21の表面に位置し、露出している。圧粉コア21の表面の一部は、互いに電気的に独立な接続端部23a、23bによって覆われている。接続端部23aは被覆導電線22の端部22aと電気的に接続され、接続端部23bは被覆導電線22の端部22bと電気的に接続されている。図4に示されるコイル埋設型インダクタ20では、被覆導電線22の端部22aは接続端部23aによって覆われ、被覆導電線22の端部22bは接続端部23bによって覆われている。
【0084】
被覆導電線22のコイル部22cの圧粉コア21内への埋設方法は限定されない。被覆導電線22を巻回した部材を金型内に配置し、さらに磁性粉末を含む混合物(造粒粉)を金型内に供給して、加圧成形を行ってもよい。あるいは、磁性粉末を含む混合物(造粒粉)をあらかじめ予備成形してなる複数の部材を用意し、これらの部材を組み合わせ、その際に形成される空隙部内に被覆導電線22を配置して組立体を得て、この組立体を加圧成形してもよい。コイル部22cを含む被覆導電線22の材質は限定されない。例えば、銅や銅合金とすることが挙げられる。コイル部22cはエッジワイズコイルであってもよい。接続端部23a、23bの材質も限定されない。生産性に優れる観点から、銀ペーストなどの導電ペーストから形成されたメタライズ層とこのメタライズ層上に形成されためっき層とを備えることが好ましい場合がある。このめっき層を形成する材料は限定されない。当該材料が含有する金属元素として、銅、アルミ、亜鉛、ニッケル、鉄、スズなどが例示される。
【0085】
本発明の一実施形態に係る電子・電気機器は、上記の本発明の一実施形態に係るインダクタが実装された電子・電気機器であって、インダクタがその接続端子にて基板に接続されているものである。かかるインダクタを備える回路の一例として、DC-DCコンバータのようなスイッチング電源回路が挙げられる。スイッチング電源回路は、電子・電気機器の小型化、軽量化、高機能化といった多様な要求に応えるために、スイッチング周波数が高くなり、回路を流れる電流量が増加する傾向がある。このため、回路の構成部品であるインダクタに流れる電流も、変動周波数が高くなり、平均電流量が増加する傾向がある。
【0086】
この点に関し、上記のとおり、本発明の一実施形態に係る圧粉コア1は直流重畳特性に優れるため、この圧粉コア1を備えるインダクタは、高磁場環境において適切に動作することが可能である。しかも、本発明の一実施形態に係るインダクタは圧粉コア1の鉄損Pcvが低いため、かかるインダクタを備えるスイッチング電源回路では効率の低下が抑制され、発熱の問題が生じにくい。このように、本発明の一実施形態に係るインダクタが実装された電子・電気機器は、小型化、軽量化に対応しつつ、高機能化を実現することが可能である。
【0087】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0088】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
(実施例1-1から実施例33)
【0089】
(1)磁性粉末の準備
Ni含有量が50質量%で残部Fe及び不純物のFe-Ni合金からなり金属質部分が結晶相からなるがメジアン径D50cが異なる3種類(0.3μm、0.6μm、0.92μm)の結晶質粒子を用意した(市販品)。この結晶質粒子へ絶縁表面処理は行っていない。
【0090】
Si含有量が3.5質量%かつCr含有量が4.5質量%で残部Fe及び不純物のFe-Si-Cr合金からなり金属質部分が結晶相からなる結晶質粒子(メジアン径D50c:2.0μm)を用意した(市販品)。この結晶質粒子へ絶縁表面処理は行っていない。
【0091】
元素としてFe、Ni、Cr、P、CおよびBを有し、所定の組成になるように原料を秤量してFe-P-C系合金を溶製し、得られたFe-P-C系合金に対して、水アトマイズ法などにより、いずれも金属質部分が非晶相からなるがメジアン径D50a1が異なる5種類(5.5μm、6.5μm、8.0μm、11.0μm、12.0μm)の粒子を第1の粒子として作製した。得られた第1の粒子の化学組成は、6原子%のNiと、2原子%のCrと、11原子%のPと、8原子%のCと、2原子%のBと、残部Fe及び不純物からなっていた。この第1の粒子へ絶縁表面処理は行っていない。
【0092】
元素としてFe、Si、B、Nb、Cuを有し、シェラー径が50nm以下の結晶相と非晶質相とからなる金属質部分を有する第2の粒子であってメジアン径D50a2が相違するもの(4種類:4.0μm、11μm、15μm、27μm)を用意した(市販品)。この第2の粒子においては、表面に絶縁コーティング処理を行っている。
【0093】
用意された結晶質粉末(結晶質粒子)、非晶質単相粉末(第1の粒子)、およびナノ結晶粉末(第2の粒子)の粒度分布を、レーザー回折・散乱法による粒度分布計(日機装社製「マイクロトラック粒度分布測定装置 MT3300EX」)を用いて体積分布で測定して、体積基準の粒度分布において小粒径側からの積算粒径分布が50%となる粒径(メジアン径、単位:μm)を求めた。
【0094】
(2)造粒粉の作製
表1から表4に示されるように、上記の第1の粒子、第2の粒子および結晶質粒子から2種または3種を選び出して、各表に示される所定の割合で混合して、磁性粉末として得て、メジアン径D50を求めた。メジアン径D50(単位:μm)の算出結果を表1から表4に示した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
得られた混合粉末100質量部に対し、アクリル樹脂およびフェノール樹脂からなる絶縁性結着材を2~3質量部、およびステアリン酸亜鉛からなる潤滑剤0~0.5質量部を混合し、さらに溶媒として水を使用してスラリーを得た。
【0100】
得られたスラリーを、図2に示されるスプレードライヤー装置200を用いて、上述した条件にて造粒し、造粒粉を得た。
【0101】
(3)圧縮成形
得られた造粒粉を金型に充填し、面圧980MPaで加圧成形して、外径20mm×内径12mm×厚さ3mmのリング形状を有する成形体を得た。
【0102】
(4)熱処理
得られた成形体を、窒素気流雰囲気の炉内に載置し、炉内温度を、室温(23℃)から昇温速度10℃/分で、表1から表4に示されるアニール温度まで加熱し、この温度にて1時間保持し、その後、炉内で室温まで冷却する熱処理を行い、圧粉コア1からなるトロイダルコアを得た。
【0103】
(試験例1)比初透磁率μの測定
実施例において作製したトロイダルコアに被覆銅線を20回巻いて得られたトロイダルコイルについて、インピーダンスアナライザー(HP社製「4192A」)を用いて、1MHzの条件で比初透磁率μを測定した。測定結果を表1から表4に示した。
【0104】
(試験例2)鉄損Pcvの測定
実施例において作製したトロイダルコアに被覆銅線をそれぞれ1次側15回、2次側10回巻いて得られたトロイダルコイルについて、BHアナライザー(岩崎通信機社製「SY-8217」)を用いて、実効最大磁束密度Bmを15mTとする条件で、測定周波数1MHzで鉄損Pcv(単位:kW/m3)を測定した。測定結果を表1から表4に示した。
【0105】
(試験例3)直流重畳定格電流Isat
実施例において作成したトロイダルコアに銅線を巻いてインダクタンス素子を作製した。このインダクタンス素子について、直流重畳したときに自己インダクタンスLが30%低下する電流値として直流重畳定格電流Isat(単位:mA)を求めた。ここで、Isatの算出は、外径20mm内径12.7mm高さ3.1mmのトロイダル形状のコアに34ターンの巻き線を施し、電流を流すことにより求めた。測定結果を表1から表5に示した。
【0106】
(評価例1)μ2×Isat/Pcv
試験例1から試験例3により測定された結果に基づき、総合特性としてμ2×Isat/Pcv(単位:mA・kW-13)を算出した。算出結果を表1および表5に示した。
【0107】
表1から表3に示されるように、結晶質粒子のメジアン径D50cが1.3μm以下であり、非晶質粒子のメジアン径D50aは、2.0μm以上12.0μm以下であり、軟磁性金属粉末のメジアン径D50が1.8μm以上7.0μm以下であることにより、総合特性(μ2×Isat/Pcv)が良好となることが確認された。特に、鉄損Pcvが70kW-13以下であることにより、総合特性(μ2×Isat/Pcv)が400mA・kW-13となることが実現されやすく、総合特性が400mA・kW-13となることをより安定的に実現させる観点から、鉄損Pcvは60kW-13以下であることが好ましく、55kW-13以下であることがより好ましいことが確認された。
【0108】
アニール温度と総合特性との関係について、表1から表3に示される結果を対比すると、結晶質粒子がFe-Ni合金を有する場合にはアニール温度が低下すると総合特性が高くなる傾向があるが、結晶質粒子がFe-Si-Cr合金を有する場合にはアニール温度が低下すると総合特性が逆に低くなる傾向があることが確認される。なお、結晶質粒子がFe-Si-Cr合金を有していても、総合特性に優れるインダクタが得られる場合もあった。具体的には実施例22がその場合に該当し、表3では参考例とした。しかしながら、結晶質粒子がFe-Si-Cr合金を有する場合には、良好な総合特性が得られる結晶質粒子のメジアン径D50cの範囲が限定的であった。したがって、結晶質粒子がFe-Ni合金を有する方が、結晶質粒子がFe-Si-Cr合金を有する場合よりも良好な総合特性が得られる結晶質粒子のメジアン径D50cの範囲が広く、それゆえ設計自由度の観点および品質管理の容易さの観点から優れている、と言える。
【0109】
図7は、実施例26から実施例29に示される結果をグラフ化したものであり、図8は、実施例30から実施例33に示される結果をグラフ化したものである。これらのグラフから理解されるように、発明例の範囲においても、磁性粉末のメジアン径D50を最適化することにより、総合特性(μ2×Isat/Pcv)をより高めることが可能である。具体的には、磁性粉末のメジアン径D50は、3μm以上5.5μm以下であることがより好ましく、3.5μm以上5μm以下であることが特に好ましい。
【0110】
(評価例2)粒子の平均円相当径
実施例5-3に係る圧粉コアについて、切断面を走査型電子顕微鏡で撮像して二次電子像を得た(図9)。図9に示されるように、二次電子像の視野内に位置する非晶質粒子を任意に32点選び、これらについて円相当径を求めた。図9には、計測対象として選択された非晶質粒子の番号を示してある。また、非晶質粒子の間に位置する結晶質粒子を任意に40点選び、これらについても円相当径を求めた。円相当径の求め方は、次のとおりとした。まず、選び出した粒子について、画像における粒子の横方向の長さL1(単位:μm)および縦方向の長さL2(単位:μm)を測定した。これらの測定結果に基づきL1×L2×π/4により粒子の断面積の概算値を求め、この概算値から円相当径を求めた。測定結果・計算結果を表5に示す。表5には、非晶質粒子、結晶質粒子のそれぞれについて、平均値、最大値および最小値、ならびにレーザー回折・散乱法による粒度分布測定に基づくメジアン径も示した。
【0111】
【表5】
【0112】
表5に示されるように、非晶質粒子では、メジアン径D50aが5.5μmであるのに対し、円相当粒径の平均値は3.47μmであり、メジアン径D50aの63%の数値となった。結晶質粒子では、メジアン径D50aが0.9μmであるのに対し、円相当粒径の平均値は0.57μmであり、メジアン径D50cの63%の数値となった。このように、円相当径はメジアン径の63%と算出された。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の圧粉コアを備えるインダクタは、DC-DCコンバータなどスイッチング電源回路の構成部品となるインダクタとして好適に使用されうる。
【符号の説明】
【0114】
1…圧粉コア(トロイダルコア)
10…トロイダルコイル
2…被覆導電線
2a…コイル
2b、2c…被覆導電線2の端部
2d、2e…コイル2aの端部
20…コイル埋設型インダクタ
21…圧粉コア
22…被覆導電線
22a、22b…端部
23a、23b…接続端部
22c…コイル部
200…スプレードライヤー装置
201…回転子
S…スラリー
P…造粒粉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9