(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118242
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】アミロイド触媒を用いるアミノ基の修飾方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/00 20060101AFI20240823BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
C07K1/00 ZNA
C07K7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024577
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】308038613
【氏名又は名称】公立大学法人和歌山県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】相馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】澤崎 鷹
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA20
4H045BA14
4H045EA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アミロイドを触媒として用い、有機分子の位置選択的な官能基変換を可能とする新規触媒系を提供することを課題とする。
【解決手段】アミロイドを触媒とするアミノ基の修飾方法であり、水中において、アミロイド触媒の存在下で、アミノ基を有する第1の化合物に、前記アミノ基との反応基を有する第2の化合物を添加する工程を含み、前記アミロイド触媒は、β-シート構造を有し、以下の配列を含むペプチドの凝集体であり、
X-Phe-Y-Ala-Ile-Leu
(ここで、Xは、Asn又はAlaであり;Yは、Gly又はAlaである。)、前記第1の化合物は、アミロイド結合モチーフを含み、前記アミノ基がスペーサーを介して前記アミロイド結合モチーフに連結している、方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロイドを触媒とするアミノ基の修飾方法であり、
水中において、アミロイド触媒の存在下で、アミノ基を有する第1の化合物に、前記アミノ基との反応基を有する第2の化合物を添加する工程を含み、
前記アミロイド触媒は、β-シート構造を有し、以下の配列を含むペプチドの凝集体であり、
X-Phe-Y-Ala-Ile-Leu
(ここで、Xは、Asn又はAlaであり;Yは、Gly又はAlaである。)
前記第1の化合物は、アミロイド結合モチーフを含み、前記アミノ基がスペーサーを介して前記アミロイド結合モチーフに連結している、
方法。
【請求項2】
前記アミノ基の修飾が、前記アミノ基のN原子へのアリールアシル基の付加、アリールアルキルの付加、アリール基の付加、又は、N原子を含むヘテロアリール化である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミロイド結合モチーフが、アゾベンゼン構造、ベンゾチアゾール構造、キサンテン構造、フェノチアジン構造、ホウ素ジピロメテン構造、クルクミン構造、及びポルフィリン構造よりなる群から選択される1以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ペプチドが、前記配列を含む7~40のアミノ酸よりなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の化合物が、前記反応基に連結したアリール構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の化合物における反応基が、ハロゲン原子、活性アシル基、又はカルボニル基から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アミロイド触媒が、チオフラビンT色素を用いたアッセイにより得られた蛍光強度の対数(API)が3以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
酸性条件下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
β-シート構造を有し、以下の配列を含むペプチドの凝集体であるアミロイド;
X-Phe-Y-Ala-Ile-Leu
(ここで、Xは、Asn又はAlaであり;Yは、Gly又はAlaである。)。
【請求項10】
請求項9に記載のアミロイドを含む、アミノ基修飾反応のための触媒組成物。
【請求項11】
アミノ基修飾反応における触媒としての、請求項9に記載のアミロイドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイド触媒を用いるアミノ基の修飾方法、及び当該アミロイド触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドは、ペプチドやタンパク質が積み重なった繊維状の構造体で、βシートが繊維軸に対して垂直に並んだクロスβシート構造を有する(例えば、非特許文献1)。生体内でのアミロイドの蓄積は、様々な機能障害を引き起こすことが知られており(このような疾患は「アミロイド病」と総称される)、35種類以上のタンパク質がアミロイド病の原因物質として同定されている。そのようなアミロイドとしては、例えば、タウ蛋白質、パーキンソン病のαシヌクレイン、糖尿病のアミリン、全身性アミロイド-シスのトランスサイレチン、ハンチントン病のハンチンチン等が知られている。
【0003】
一方、近年の研究では、短いペプチドから形成され、化学反応を触媒する活性を有する機能性アミロイドが明らかとなっている。例えば、金属塩を担持したアミロイドが酵素のエステラーゼ活性などを再現することが報告されている(非特許文献2)。しかしながら、このようなアミロイドの触媒活性は、アミロイドに組み込まれた金属塩や求核官能基などの高い反応性部分に依存する。したがって、既存のアミロイド触媒は、一般に、広範囲の基質に対して非選択的に反応し、同等の反応性部位を持つ基質に対する選択的変換は依然として難しい。さらに、アミロイド触媒を使用する化学反応の範囲は、主として、エステル加水分解、アルドール/レトロアルドール反応、および芳香環酸化などに限定されているという課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】F. Chiti and C. M. Dobson, Annu. Rev. Biochem., 2017, 86, 27-68.
【非特許文献2】Nat. Chem, 2014, 6, 303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術の問題点に鑑み、本発明は、アミロイドを触媒として用い、有機分子の官能基を基質選択的に変換可能な新規触媒系を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、金属塩などの既存の酵素が持つ活性中心を用いるのではなく、反応基質との結合(近接効果)を起点にし、アミロイド自身が触媒作用を生じさせる新規触媒系を開発した。より具体的には、特定の配列を有するペプチドが凝集して形成されるアミロイドを触媒として用いることで、水中反応場において、有機化合物である反応基質に存在するアミノ基を選択的に修飾可能であり、かつ広い反応に適用可能であることを見出した。これらの知見により、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は、一態様において、アミロイドを触媒とするアミノ基の修飾方法に関し、
<1>アミロイドを触媒とするアミノ基の修飾方法であり、水中において、アミロイド触媒の存在下で、アミノ基を有する第1の化合物に、前記アミノ基との反応基を有する第2の化合物を添加する工程を含み、前記アミロイド触媒は、β-シート構造を有し、以下の配列を含むペプチドの凝集体であり、
X-Phe-Y-Ala-Ile-Leu
(ここで、Xは、Asn又はAlaであり;Yは、Gly又はAlaである)
前記第1の化合物は、アミロイド結合モチーフを含み、前記アミノ基がスペーサーを介して前記アミロイド結合モチーフに連結している、方法;
<2>前記アミノ基の修飾が、前記アミノ基のN原子へのアリールアシル基の付加、アリールアルキルの付加、アリール基の付加、又は、N原子を含むヘテロアリール化である、上記<1>に記載の方法;
<3>前記アミロイド結合モチーフが、アゾベンゼン構造、ベンゾチアゾール構造、キサンテン構造、フェノチアジン構造、ホウ素ジピロメテン構造、クルクミン構造、及びポルフィリン構造よりなる群から選択される1以上である、上記<1>に記載の方法;
<4>前記ペプチドが、前記配列を含む7~40のアミノ酸よりなる、上記<1>に記載の方法;
<5>前記第2の化合物が、前記反応基に連結したアリール構造を有する、上記<1>に記載の方法;
<6>前記第2の化合物における反応基が、ハロゲン原子、活性アシル基、又はカルボニル基から選択される、上記<1>に記載の方法;
<7>前記アミロイド触媒が、チオフラビンT色素を用いたアッセイにより得られた蛍光強度の対数(API)が3以上である、上記<1>に記載の方法;及び
<8>酸性条件下で行われる、上記<1>に記載の方法
を提供するものである。
【0008】
また、別の態様において、本発明は、上記アミロイド触媒及びその使用にも関し、より詳細には、
<9>β-シート構造を有し、以下の配列を含むペプチドの凝集体であるアミロイド;
X-Phe-Y-Ala-Ile-Leu
(ここで、Xは、Asn又はAlaであり;Yは、Gly又はAla);
<10>上記<9>に記載のアミロイドを含む、アミノ基修飾反応のための触媒組成物;及び
<11>アミノ基修飾反応における触媒としての、上記<9>に記載のアミロイドの使用
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の配列を有するペプチドが凝集して形成されるアミロイドを触媒として用いることで、水中反応場において、有機化合物である反応基質に存在するアミノ基を基質選択的に修飾可能であり、かつ広い反応に適用可能である。かかる反応機構は、金属塩などの酵素が持つ活性中心を用いる既存のアミロイド触媒系とは根本的に異なる新規なものである。
【0010】
本発明によれば、物質生産プロセスにおいて有機分子の基質選択的な官能基変換に適用できる。また、細胞内・生体内においてアミロイド周辺での有機分子の変換を可能とする技術及びその適用(プロドラッグ、ドラッグデリバリーシステムなど)が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、酵素の反応機構(A)と本発明の反応機構(B)を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明のアミロイド触媒を形成させるためのペプチド配列、そのAPI値、及び反応収率を示す表である。
【
図3】
図3は、本発明の方法における基質(第1の化合物)の例である。
【
図4】
図4は、本発明の方法における基質(第1の化合物)の例である。
【
図5】
図5は、アミロイド触媒NL6に対する基質の親和性(IC
50)に対する反応収率 (%)をプロットしたグラフである。
【
図6】
図6は、第2の化合物を変更して、本発明の方法をベンゾイル化反応以外の反応に適用した例である。
【
図7】
図7は、アミロイド触媒の結晶構造を示す図である。
【
図8】
図8は、ペプチドのアミド基をエステルに置換した場合の構造とAPI値及び反応収率を示すものである。
【
図9】
図9は、混合反応系における結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0013】
1.定義
本明細書中において、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を意味する。
【0014】
本明細書中において、「アルキル又はアルキル基」は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせからなる脂肪族炭化水素基のいずれであってもよい。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、例えば、炭素数1~20個(C1~20)、炭素数1~15個(C1~15)、炭素数1~10個(C1~10)である。本明細書において、アルキル基は任意の置換基を1個以上有していてもよい。例えば、C1~8アルキルには、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、neo-ペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル等が含まれる。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれであってもよい)、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシルなどを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アルキル基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アルキル部分を含む他の置換基(例えばアルコシ基、アリールアルキル基など)のアルキル部分についても同様である。
【0015】
本明細書中において、「芳香環」とは、単環式又は縮合多環式の共役不飽和炭化水素環構造を意味し、環構成原子としてヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子など)を1個以上含んでいてもよい。
【0016】
本明細書中において、「アリール又はアリール基」とは、単環式又は縮合多環式の芳香族炭化水素基のいずれであってもよく、環構成原子としてヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子など)を1個以上含む芳香族複素環であってもよい。この場合、これを「ヘテロアリール基」または「ヘテロ芳香族基」と呼ぶ。アリールが単環および縮合環のいずれである場合も、すべての可能な位置で結合しうる。単環式のアリールの非限定的な例としては、フェニル基(Phe)、チエニル基(2-又は3-チエニル基)、ピリジル基、フリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピラゾリル基、2-ピラジニル基、ピリミジニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリダジニル基、3-イソチアゾリル基、3-イソオキサゾリル基、1,2,4-オキサジアゾール-5-イル基又は1,2,4-オキサジアゾール-3-イル基等が挙げられる。縮合多環式のアリールの非限定的な例としては、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-インデニル基、2-インデニル基、2,3-ジヒドロインデン-1-イル基、2,3-ジヒドロインデン-2-イル基、2-アンスリル基、インダゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、1,2-ジヒドロイソキノリル基、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、ベンゾフラニル基、2,3-ジヒドロベンゾフラン-1-イル基、2,3-ジヒドロベンゾフラン-2-イル基、ナフチリジニル、ジヒドロナフチリジニル、テトラヒドロナフチリジニル、イミダゾピリジニル、プテリジニル、プリニル、キノリジニル、インドリジニル、テトラヒドロキノリジニル、およびテトラヒドロインドリジニル、2,3-ジヒドロベンゾチオフェン-1-イル基、2,3-ジヒドロベンゾチオフェン-2-イル基、ベンゾチアゾリル基、ベンズイミダゾリル基、フルオレニル基又はチオキサンテニル基等が挙げられる。本明細書において、アリール基はその環上に任意の置換基を1個以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、モノ若しくはジ置換アミノ基、置換シリル基、又はアシルなどを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アリール基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。アリール部分を含む他の置換基(例えばアリールオキシ基やアリールアルキル基など)のアリール部分についても同様である。
などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。アリール基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0017】
本明細書中において、「アルキルアミノ」及び「アリールアミノ」は、-NH2基の水素原子が上記アルキル又はアリールの1又は2で置換されたアミノ基を意味する。例えば、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、エチルメチルアミノ、ベンジルアミノ等が挙げられる。
【0018】
本明細書中において、ある官能基について「置換されていてもよい」と定義されている場合には、置換基の種類、置換位置、及び置換基の個数は特に限定されず、2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、オキソ基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。これらの置換基にはさらに置換基が存在していてもよい。このような例として、例えば、ハロゲン化アルキル基などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0019】
2.本発明のアミノ基修飾方法
上述のように、本発明は、特定の配列を有するペプチドが凝集したβ-シート構造を有するアミロイド触媒の存在下で、水中において、アミノ基を有する第1の化合物に、前記アミノ基との反応基を有する第2の化合物を添加する工程を含む、アミノ基の修飾方法に関する。
【0020】
一般に、天然に存在する酵素は鍵と鍵穴のモデルに従って酵素-基質複合体を特異的に形成することにより、基質選択的に化学反応を触媒する(
図1A)。酵素の触媒反応は、基質が酵素活性部位に強力に結合することを介した近接効果に基づいて進行するものである。
【0021】
一方、本発明は、酵素の基質選択的な触媒作用の発現原理を利用し、アミロイド-基質複合体によって駆動される触媒作用(CASL)を用いるものである(
図1B)。ここで、上記第1の化合物が、基質に相当する。具体的には、アミロイドのクロスβシートに強力に結合する第1の化合物(基質)が、アミロイド触媒との複合体形成に基づく近接効果により選択的に活性化されることを利用し、アミノ基の選択的な修飾反応が可能であることを見出したものである。
【0022】
有機溶媒中におけるアミンの修飾反応は古典的なものであるが、水中でのかかる反応は容易ではない。中性からわずかに酸性のpH領域では、pKaが約10のアルキルアミンはカチオン化して求核性を有しない。また、そのpH領域では、塩基試薬もプロトン化され、脱プロトン化能に関して不活性である。一方、酵素は、水中、基質との結合を介して基質のアンモニウム塩を遊離アミンに脱プロトン化する。特に、本発明では、酵素の主鎖であるアミド基が基質のプロトンを受容する機構を、CASLによる水中でのアミン修飾反応に適用したものである。それにより、水中環境下では不活性な第1の化合物と第2の化合物の反応が、特定のアミロイド触媒を用いることで選択的に進行することを実証した。
【0023】
本発明の方法において触媒として用いられるアミロイドは、β-シート構造を有し、以下の式(I)の配列を含むペプチドの凝集体である。
X-Phe-Y-Ala-Ile-Leu (I)
【0024】
ここで、Xは、Asn又はAlaであり;Yは、Gly又はAlaである。
【0025】
上記ペプチドは、好ましくは、式(I)の配列を含む7~40のアミノ酸よりなる。例えば、式(I)における「X」の左側に1~20の任意のアミノ酸を有することできる。同様に、式(I)における「Leu」の右側に1~20の任意のアミノ酸を有することできる。かかるペプチドの具体例は、後述の実施例において挙げるペプチド群である。
【0026】
また、上記ペプチドのいずれか一方の末端は、-NH2で連結している。好ましくは、式(I)の「Leu」側の末端に、-NH2が連結している。
【0027】
上記β-シート構造は、好ましくは、βシートが繊維軸に対して垂直に並んだクロスβ-シート構造である。
【0028】
上記アミロイドは、凝集性が高くなるほど、その触媒能が高くなる。かかる凝集性は、例えば、チオフラビンT色素を用いたアッセイによる蛍光強度変化のよって評価することができる。さらにその蛍光強度の対数をAPI値として、アミロイド凝集性の指標として用いることができる。本発明におけるアミロイド触媒は、好ましくは、API値が3以上、より好ましくが、API値が6以上、特に好ましくは、API値が7以上の凝集性を有する。
【0029】
必ずしも理論に拘束されるものではないが、後述の実施例で示すように、本発明のアミロイド触媒におけるアミド結合のうちの少なくとも1つは、基質である第1の化合物におけるアミノ基のプロトンと結合してこれを活性化するために機能する。一方、その他のアミド結合は、β-シート構造の積み重なりのために主として使用されるものと考えられる。
【0030】
次に、本発明で用いられる第1の化合物は、基質としてアミロイド触媒と結合して活性化される化合物であり、分子内のアミノ基が修飾される対象となる化合物である。より具体的には、第1の化合物は、アミロイド結合モチーフを含み、前記アミノ基がスペーサーを介して前記アミロイド結合モチーフに連結している構造を有する。
【0031】
上記アミロイド結合モチーフとしては、当該技術分野において公知のモチーフを用いることができるが、例えば、アゾベンゼン構造、ベンゾチアゾール構造、キサンテン構造、フェノチアジン構造、ホウ素ジピロメテン構造、クルクミン構造、及びポルフィリン構造よりなる群から選択される1以上であることができる。ただし、これらに限定されるものではない。好ましくは、上記アミロイド結合モチーフは、アゾベンゼン構造である。第1の化合物は、かかるアミロイド結合モチーフを分子内に含む任意の誘導体であることができる。
【0032】
第1の化合物におけるスペーサーとしては、それぞれ置換されていてもよいアルキル鎖、エーテル鎖、これらの組合せであることができ、一部にアミド基、エステル基が導入されたものであってもよい。当該スペーサーは、好ましくは、1~20の炭素数、より好ましくは、1~10の炭素数を有することができる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0033】
第1の化合物におけるアミノ基は、溶媒である水中で、プロトン化してカチオンのアンモニウムイオン(-NH3
+、NH2R+、又はNHR2
+)となり得るものである。ここで、Rは、それぞれ独立にアルキル基等の任意の置換基であることができる。当該アミノ基は、好ましくは、アルキルアミノ基である。
【0034】
本発明における第2の化合物は、基質である第1の化合物のアミノ基と反応して、当該アミノ基を修飾するものである。したがって、第2の化合物は、第1の化合物のアミノ基と反応するための反応基を分子内に有する。かかる反応基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ハロゲン原子、活性アシル基、又はカルボニル基を挙げることができる。活性アシル基としては、チアゾリジンチオン基などを挙げることができる。
【0035】
また、第2の化合物は、好ましくは、前記反応基に連結したアリール構造を有する。ただし、後述のように、アミノ基の修飾反応の種類に応じて当該部位の構造を選択することができる。
【0036】
本発明の修飾方法における溶媒は、水である。上述のように、本発明では、水中環境下では進行しない化学反応を、アミロイド触媒を用いることで可能とする点が重要な特徴である。当該溶媒のpHは、当該技術分野において公知のバッファー(緩衝液)を用いて調整することができ、典型的には、pHが4~7、好ましくは、pHが5~6の範囲とすることができる。また、場合に応じて、水と有機溶媒との混合物を用いることができる。そのような有機溶媒としては、例えば、メタノールやエタノール等のプロトン性溶媒;DMSO等の非プロトン性極性溶媒を挙げることができる。
【0037】
本発明における「アミノ基の修飾」には、典型的には、アミノ基のN原子へのアリールアシル基の付加、アリールアルキルの付加、アリール基の付加;又は、N原子を含むヘテロアリール化などを挙げることができる。ただし、これらに限定されるものではない。当該修飾は、目的とする修飾反応に応じて、第2の化合物を選択することで適宜変更することが可能である。
【0038】
本発明における第1及び第2の化合物は、塩として存在する場合がある。そのような塩としては、塩基付加塩、酸付加塩、アミノ酸塩などを挙げることができる。塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩などの有機アミン塩を挙げることができ、酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、カルボン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩を挙げることができる。アミノ酸塩としてはグリシン塩などを例示することができる。もっとも、これらの塩に限定されることはない。
【0039】
本発明における第1及び第2の化合物は、置換基の種類に応じて1個または2個以上の不斉炭素を有する場合があり、光学異性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する場合がある。純粋な形態の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。
【0040】
また、本発明における第1及び第2の化合物又はそれらの塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もある。溶媒和物を形成する溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、水、エタノール、アセトン、イソプロパノールなどの溶媒を例示することができる。
【0041】
本明細書の実施例には、第1及び第2の化合物に包含される代表的化合物についての製造方法が具体的に示されているので、当業者は本明細書の開示を参照することにより、及び必要に応じて出発原料や試薬、反応条件などを適宜選択することにより、これらの化合物を容易に製造することができる。
【0042】
2.本発明のアミロイド触媒
別の態様において、本発明は、上記の修飾方法において触媒として機能するアミロイドにも関する。当該アミロイドは、上述のように、β-シート構造を有し、上述の式(I)の配列を含むペプチドの凝集体であり、その詳細は既に述べたとおりである。
【0043】
或いは、本発明は、上記アミロイドを含む、アミノ基修飾反応のための触媒組成物を提供するものである。別の観点からは、本発明は、アミノ基修飾反応における触媒としての、上記アミロイドの使用ということもできる。
【実施例0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0045】
1.ペプチドの合成
図2に記載のENTRY1~15のペプチドを合成した。ペプチドは、リンクアミド樹脂を使用し、C末端からN末端までCEM Libertyマイクロ波ペプチドシンセサイザーで標準のFmoc固相合成法により自動合成した。合成が完了するまで、脱保護-洗浄-カップリングを含むサイクルが自動的に実行される。詳細な手順は以下のとおりである。
【0046】
[N-アシル化ペプチドの合成]
樹脂上のペプチドを、一般的なSPPS手順に従って合成した。チューブ中の樹脂に、対応する無水酢酸またはピバリン酸無水物(5%v/v)およびピリジン(5%v/v)のDMF溶液(0.05M)を加えた。30分間振盪した後、樹脂を濾過により回収し、DMFで洗浄した。樹脂をTFA/トリイソプロピルシラン/H2O(95/2.5/2.5)で室温で1時間処理した。混合物を濾過して樹脂を除去し、濾液を減圧下で濃縮した。残留物にEt2Oを加えてペプチドを沈殿させ、混合物を濾過した。残渣をDMSOで抽出した。分取HPLC(方法C)および分画の凍結乾燥によって精製して、 N-アシル化ペプチドを得た。
【0047】
【0048】
上記スキーム中、R4は、公知の手法に従って合成した。反応容器中のR4に、 PseudoFG(0.2mmol)、HATU(0.2mmol)およびDIPEA(0.4mmol)の予備混合溶液を添加した。60分間攪拌した後、得られた混合物をDMFで洗浄した。膨潤後、樹脂に結合したN-FmocペプチドをDMF中の10%ピペリジンで3回脱保護し(2分×3)、ペプチドR5を得た。R5に、 Fmoc-Asn(Trt)-OH(0.5ミリモル)、HBTU(0.5ミリモル)およびDIPEA(1ミリモル)の予備混合溶液を加えた。30分間攪拌した後、得られた混合物をDMFで洗浄した。膨潤後、樹脂に結合したN-FmocペプチドをDMF中の10%ピペリジンで3回脱保護し(2分×3)、ペプチドR6を得た。R6をN-アシル化ペプチドとの合成と同様の手順により、FOを得た。
【0049】
【0050】
R7は、公知の手法に従って合成した。反応容器中のR7に、DMF(5mL)中のFmoc-Asn(Trt)-OH(8当量)、DIC(8当量)の予備混合溶液を添加した。5分間攪拌した後、DMF(1mL)中のDMAP(1当量)の溶液を添加した。30分間攪拌した後、得られた混合物をDMFで洗浄した。カップリングプロセスを3回繰り返した。膨潤後、樹脂に結合したN-FmocペプチドをDMF中の10%ピペリジンで3回脱保護し(2分×3)、ペプチドR8を得た。チューブ内の樹脂に、対応する無水酢酸 (5% (v/v)) とピリジン5% (v/v) の DMF (0.05 M) 溶液を加えた。30分間振とうした後、樹脂を濾過し、DMFで洗浄した。樹脂をTFA/トリイソプロピルシラン/H2O (95/2.5/2.5) で室温で1時間処理した。混合物を濾過して樹脂を除去し、濾液を減圧下で濃縮した。残留物にEt2Oを加えてペプチドを沈殿させ、混合物を濾過した。残留物をDMSOで抽出し、分取HPLC(方法C)により精製し、画分を凍結乾燥してNOを得た。
【0051】
得られた各ペプチドの同定は、それぞれ以下のとおりである。
Ac-NFGAF-NH2: LCMS (ESI): found m/z 596.3 calcd. 596.7 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 7.7 min (method H).
Ac-FYLLYY-NH2: LCMS (ESI): found m/z 922.4 calcd. 923.0 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 3.9 min (method G).
Ac-LIAGFN-NH2: found m/z 675.4 calcd. 675.7 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 8.6 min (method H).
Ac-NFGSVQFV-NH2: found m/z 938.5 calcd. 939.0 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 7.8 min (method H).
Ac-AIIGLM-NH2: LCMS (ESI): found m/z 658.4 calcd. 658.8 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 12.0 min (method H).
Ac-NFGAIL-NH2: LCMS (ESI): found m/z 675.4 calcd. 675.8 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 8.8 min. (method H).
Ac-NFGAILS-NH2: LCMS (ESI): found m/z 762.4 calcd. 762.9 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 8.5 min. (method H).
Ac-NNFGAIL-NH2: LCMS (ESI): found m/z 789.4 calcd. 789.9 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 8.1 min. (method H).
Ac-AFGAIL-NH2: LCMS (ESI): found m/z 632.5 calcd. 632.7 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 9.6min. (method H).
Ac-DFGAIL-NH2: LCMS (ESI): found m/z 676.4 calcd. 676.7 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 9.2 min. (method H).
Piv-NFGAIL-NH2: LCMS (ESI): found m/z 717.5 calcd. 717.8 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 7.3 min. (method H).
Ac-NAGAIL-NH2: LCMS (ESI): found m/z 599.4 calcd. 599.6 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 6.3 min. (method H).
Ac-NFAAIL-NH2: LCMS (ESI): found m/z 689.4 calcd. 689.8 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 9.6 min. (method H).
Ac-NFGAAL-NH2: LCMS (ESI): found m/z 633.4 calcd. 633.7 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 9.3 min. (method H).
Ac-NFGAIA-NH2: LCMS (ESI): found m/z 633.4 calcd. 633.7 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 6.7 min. (method H).
FO: LCMS (ESI): found m/z 676.8 calcd. 676.5 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 9.2 min. (method H).
NO: LCMS (ESI): found m/z 676.8 calcd. 676.5 ([M+H]+). Purity>95% (based on HPLC analysis at 220nm); tR = 9.5 min. (method H).
【0052】
得られた合成ペプチドのDMSO溶液を10 mM HCl水溶液で半分に希釈し、室温で30分間インキュベートした後、使用するまで-80℃で保存した。
【0053】
2.アミロイドの評価
[チオフラビンTアッセイ]
上記1.で合成したペプチドによりアミロイドを形成し、チオフラビンT(ThT)アッセイにより凝集度を評価した。
【0054】
PBS(pH7.4)中のThT(5μM)の溶液に、ペプチド(4mMストック溶液から12.5μL)を添加した。この溶液の蛍光強度を室温で励起波長440nm、発光波長480nmで測定した。相対強度 (I/I
0 )を、次の式に従い算出した。
【数1】
【0055】
【0056】
【0057】
[置換アッセイ]
PBS (pH7.4) 中の ThT (5 μM) の987.5μL 溶液に、ペプチド (4 mM) の12.5μL ストック溶液を加えて、1mL溶液を提供した。置換アッセイでは、溶液中のThTの蛍光スペクトルを最初に測定しました。蛍光強度を記録した後、基質 (1 mM、10 mM、または 100 mM ストック溶液から 0.1 μL) を添加し、混合物の蛍光強度を測定た。このプロセスを繰り返し、15のデータを得た。各強度は、初期強度に基づいて相対強度に変換した。比較として、DMSO (0.1 μL) を使用して、ベヒクルがこのアッセイに影響を与えないことを確認した。結果は、2つの独立した実験の平均である。
【0058】
3.第1の化合物(基質)の合成
以下の手順により、第1の化合物に相当する各基質分子を合成した。
【0059】
[化合物1の合成]
以下の合成スキームにより、化合物1を合成した。
【化3】
【0060】
【0061】
4-アミノ-1-ブタノール(1.86 mL, 20.0 mmol) の乾燥 THF (15 mL)混合物に、ジ-tert-ブチルジカーボネート (5.24g, 24.0 mmol) を0℃で加えた。その温度で1時間撹拌した後、混合物を室温に戻し、12時間撹拌を続けた。混合物を減圧下で濃縮した。残留物をEtOAcに溶解した。有機層を水およびブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc=1/1、Rf0.5)により精製して、化合物1-1を無色油として得た(2.54g、67%)。
【0062】
【0063】
化合物1-1(1.00g、5.29ミリモル)、DMAP(0.64mg、5.29 ミリモル) および EDCI (0.93 mL、5.29 ミリモル) の乾燥 DMF (15 mL) 中の混合物に、4-ジメチルアミノアゾベンゼン-4'-カルボン酸 (1.42g、5.29ミリモル)を室温で加えた。同温で18時間攪拌後、減圧濃縮した。残留物をEtOAcに溶解した。有機層を水および塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc=1/1、Rf0.5)により精製して、化合物1-2をオレンジ色の固体として得た(581.9mg、2.5 %)。
1H NMR (CDCl3): δ = 8.13 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.85-7.91 (m, 4H), 6.76 (d, J =8.8 Hz, 2H), 4.59 (br, 1H), 4.35 (t, J = 6.0 Hz, 2H), 3.21 (d, J = 6.0 Hz, 2H), 3.11 (s, 6H), 1.79-1.86 (m, 2H), 1.62-1.70 (m, 2H), 1.45 (s, 9H)
13C NMR (CDCl3): δ = 166.5, 156.2, 153.0, 153.0, 143.8, 130.7, 130.4, 125.7, 122.1, 111.6, 64.8, 40.4, 28.6, 27.0, 26.3
HRMS (ESI, m/z): found m/z 441.2490 calcd. 441.2502 ([M+H]+).
【0064】
【0065】
乾燥DCM(1mL)中の化合物1-2(220mg、5.29mmol)の混合物に、TFA(1mL)を室温で添加した。同温で0.5時間攪拌後、減圧濃縮した。残留物をEtOAcに溶解した。溶液を飽和NaHCO3溶液、および塩水で洗浄した。有機層をNa2SO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH/Et 3 N=9/1/0.1、Rf 0.4)によって精製して、化合物1をオレンジ色の固体として得た (17.0 mg)。
1H NMR (DMSO-d6): δ =7.41 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.13-7.18 (m, 4H), 6.16 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 3.65 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 2.39 (s, 6H), 2.11 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 1.83 (br, 2H), 0.93-1.01 (m, 2H), 1.05-1.13 (m, 2H)
13C NMR (CDCl3): δ = 165.9, 155.8, 153.6, 143.1, 130.9, 130.2, 125.9, 122.3, 112.1, 64.9, 49.1, 40.3, 25.8
HRMS (ESI, m/z): found m/z 341.1988 calcd. 341.1978 ([M+H]+).
【0066】
同様の手順により、アゾベンゼンとアミノ基を含むスペーサー鎖の結合部分を変更した化合物1a~1c(
図3);アミノ基を含むスペーサー鎖の結合位置を変更した化合物2a~2b(
図3);及び、種々のスペーサーに変更した化合物3a~3e(
図4)をそれぞれ合成した。
【0067】
[比較合成例1:化合物1-Bz-1及び1-Bz]
【化7】
【0068】
[化合物1-Bz-1]
4-アミノ-1-ブタノール(464.5 μL, 5.0 mmol)の混合物に、 N -(ベンゾイルオキシ)スクシンイミド (1096 mg, 5.0 mmol) を0℃ で加えた。この温度で2時間撹拌した後、混合物を水および塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(EtOAc=100%、Rf0.4)によって精製して、化合物1-Bz-1を白色固体として得た(396.7mg、41%)。
【0069】
[化合物1-Bz]
DMF(1mL) 中の 化合物1-Bz-1 (57.9 mg、0.30 mmol)、EDCI (57.5、0.30 mmol) および DMAP (24.4 mg、0.20 mmol) の混合物に、4-ジメチルアミノアゾベンゼン-4'-カルボン酸 (53.9 mg、 0.20ミリモル)を添加した。室温で2時間攪拌後、EtOAcを加えた。有機層を水および塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM/MeOH=19/1、Rf0.3)によって精製して、化合物1-Bzをオレンジ色の固体(69.1mg、78%)として得た。
1H NMR (CDCl3): δ =8.13 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.92-7.84 (m, 4H), 7.78-7.76 (m, 2H), 7.50-7.43 (m, 1H), 7.43-7.40 (m, 2H), 6.75 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 6.36 (br, 1H), 4.38 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 3.57-3.52 (m, 2H), 3.10 (s, 6H), 1.92-1.86 (m, 2H), 1.83-1.76 (m, 2H)
13C NMR (DMSO-d6): δ =165.9, 165.1, 155.0, 152.8, 142.4, 134.4, 130.8, 130.2, 129.6, 128.0, 126.9, 125.1, 121.6, 111.4, 64.4, 38.6, 25.6, 25.5, 25.0
HRMS (ESI, m/z): found m/z 445.2235 calcd. 445.2240 ([M+Na]+)
【0070】
【0071】
化合物1-Bz-1 (69.2 mg, 0.36 mmol)、DMAP (43.8 mg, 0.36 mmol) および EDCI (68.7 mg, 0.36 mmol) の混合物に、メチルレッド (96.5 mg, 0.36 mmol) を室温で加えた。同温度で8時間攪拌後、EtOAcを加えた。有機層を水および塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc=1/1、Rf0.6)によって精製して、化合物2b-Bzをオレンジ色の固体として得た (26.5mg、17%)。
1H NMR (CDCl3): δ =7.83 (d, J =8.8 Hz, 2H), 7.76-7.74 (m, 1H), 7.67-7.64 (m, 2H), 7.59-7.52 (m, 2H), 7.47-7.43 (m, 1H), 7.40-7.34 (m, 3H), 6.68 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 6.08 (br, 1H), 4.32 (t, J = 6.2 Hz, 2H),3.34 (q, J = 6.0 Hz, 2H), 3.00 (s, 6H), 1.75-1.70 (m, 2H), 1.64-1.57 (m, 2H)
13C NMR (CDCl3): δ = 168.6, 167.5, 152.8, 152.6, 143.6, 134.7, 131.8, 131.4, 129.6, 128.5, 128.4, 128.2, 126.9, 125.5, 119.4, 111.4, 65.0, 40.3, 39.7, 26.32, 26.29
HRMS (ESI, m/z): found m/z 445.2225 calcd. 445.2240 ([M+H]+).
【0072】
4.アミロイド触媒を用いたアミノ基修飾反応
上記で合成した基質(第1の化合物)について、アミロイド触媒を用いたアミノ基修飾反応を行った。
【0073】
[基質溶液の調製]
分取HPLCによって精製された基質化合物はTFA塩であり、DMSOに溶解してストック溶液を調製した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した化合物をTFAに溶解し、室温で10分間インキュベートした。溶液を減圧下で赤色固体に濃縮した。固体にDMSOを添加して、基質化合物の1mM溶液とした。
【0074】
[反応手順]
50mM 酢酸緩衝液 (pH6.0) 92.5μL、1mM ストック溶液からの基質2.5μL、および4mM ストック溶液からのアミロイド触媒5μLから調製した溶液をボルテックスし、5分間インキュベートした。そして、1.0μLの3-ベンゾイルチアゾリジン-2-チオン (10mM ストック溶液から) を加えた。37℃ で6時間インキュベートした後、100μLのDMSOを添加し、10μLを注入して分析用HPLC (475nm または350nm) で分析した。特に明記しない限り、収率は、合成生成物標準から生成された標準曲線を用いて決定した。
【0075】
[化合物1のベンゾイル化]
上記2.で合成した各種アミロイド(
図2)の存在化において、アミロイド結合モチーフであるアゾベンゼン誘導体である化合物1と、ベンゾイル供与体である3-ベンゾイルチアゾリジン-2-チオンを反応させ、化合物1のアミノ基のN-ベンゾイル化修飾を行った(
図3)。その結果、得られた収率を
図2の右欄に示す。
【0076】
ここで、各ペプチドのアミロイド凝集の傾向は、チオフラビン-T (ThT) 色素アッセイを使用して評価した。その蛍光強度は、クロス-βシートの程度に応じて増加する。さらに、アミロイド形成能の指標としてThT値の対数(API)を採用しました。各アミロイドのAPI値を
図2中に示す。
【0077】
まず、アミロイドが存在しない場合、アミンは、37℃の酸性緩衝液 (pH 6.0) においてベンゾイル (Bz) 供与体に対して不活性であった (Entry1)。次いで、ペンタからオクタペプチドで構成されるアミロイド触媒を用いて反応を行った。その結果、膵島アミロイドポリペプチド (IAPP)由来の「Ac-Asn-Phe-Gly-Ala-Ile-Leu-NH2」(NL6) によって形成されるアミロイド(API)の場合には、収率78%で、ベンゾイル化修飾が進行すること確認された(Entry7)。一方、TDP-43由来のEntry2のペプチドでは、収率を4%であった。さらに、 IAPP配列に従ってそれぞれNL6のN末端およびC末端でそれぞれ1残基ずつ伸長したEntry8及び9ヘプタペプチドでは、 NL6よりも低い収量であった。
【0078】
次に、アミロイド触媒NL6の各アミノ酸をアラニン残基に包括的に置換することにより、 NL6の側鎖が反応触媒作用に関与しているかどうかを検討した(Entry10~15)。その結果、アミロイド形成能力(API)が、ベンゾイル化の収率と相関していることが示唆された。特に、NL6のGlyをアラニン残基に置換したEntry12では、収率81%が得られた。
【0079】
しかしながら、一方で、興味深いことに、Entry2のペプチドでは、APIが比較的高いにもかかわらず収率が低い結果となっており、これは、ベンゾイル化反応の進行のためには、アミロイド形成能だけでは十分ではなく、NL6配列における「-Ile-Leu」側鎖部分が、反応を促進するために重要な役割を果たしていることを示している。
【0080】
さらに、ペプチド配列中の一級アミド (Asn) をカルボン酸 (Asp) に置換すると、アミロイド形成能と触媒活性の両方が失われることが分かった(Entry11)。
【0081】
これらの結果は、アミロイド生成能が触媒活性の必要条件ではあるが十分条件ではないことを示唆している。アミロイド触媒を添加する代わりにpHを塩基性にした緩衝条件下では、アミノ基のベンゾイル化は高収率で達成されなかったことは、本発明の優位性を示している。
【0082】
[種々の基質のベンゾイル化]
次に、基質として、化合物1に加えて、
図3に示す種々の構造を有する化合物について、同様にアミノ基修飾反応を行った。
図3に、その収率を示す。図中の「IC
50」は、これら基質化合物をNL6アミロイドに添加した場合に、ThT蛍光強度が半減する基質濃度を意味し、アミロイドに対する結合親和性の指標である。
【0083】
化合物1から4’-ジメチルアミノ置換基を削除した化合物1aは、アミロイドに対する親和性が低下(IC50 = 1.5μM)するとともに、収率が40%に低下した。アゾベンゼンとアルキルアミンの間の結合をエステルからアニリドに変更した化合物1bは親和性及び収率がほぼ維持された一方、エステルからアミドへ変更した化合物1cでは、親和性及び収率が低下した。
【0084】
これらの結果は、基質とアミロイド触媒との結合を駆動力として反応が進行するメカニズムを示唆している。対照として、 NL6アミロイドへの結合能力を持たないN-Fmoc-1,4-ブタンジアミン(IC 50 >1mM )を基質として用いた場合には、極微量のベンゾイル化生成物しか与えなかった。
【0085】
また、化合物1において、アルキルアミンの結合位置をアゾ基へのパラ位から、メタ位やオルト位に変更した化合物2a及び2bでは、アミロイドに対する親和性は維持されたにも関わらず、収率がそれぞれ35%及び24%に低下した。これらの結果は、アミロイド結合モチーフ部位からのアミン伸長の方向が、アミロイド触媒による活性化効率にとって重要であることを示唆している。
【0086】
次に、スペーサーの影響を検討するために、
図4に示す種々の基質化合物についても、ベンゾイル化反応の収率を求めた。その結果、エーテル鎖に変更したり(化合物3a)、長さを短くしても(化合物3b)、ほとんど収率に影響を与えないことが分かった。また、スペーサーの種類を変更しても(化合物3c~3e)、反応の進行においては許容されることが分かった。
【0087】
これらの結果について、NL6アミロイドに対する基質の親和性(IC
50)に対する反応収率 (%)をプロットした結果を
図5に示す。これら2つの因子が十分に相関していることが示された。
【0088】
[他の修飾の反応への展開]
次に、ベンゾイル化反応以外にも、他のアミノ基の修飾反応に適用可能であることを検証した。具体的には、NL6アミロイドの存在下で、化合物1と、
図6の(i)~(iii)の記載の化合物(第2の化合物に相当)との反応を行った。反応(i)は、2,4-ジニトロフルオロベンゼンを用いたアリール基の付加である。反応(ii)は、2-エチニルベンズアルデヒドを用いることで、イミン形成とそれに続く環化により、N-アルキル化イソキノリニウム塩が得られた。反応(iii)は、ベンズアルデヒドとシアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用した還元的アミノ化によるアルキル化である。
図6のグラフに示すように、いずれの場合も、アミロイドが存在しない場合は反応が進行しないのに対し、アミロイド触媒を用いることで、それぞれ56%、33%、68%の収率が得られた。
【0089】
5.反応機構の検証
本発明の反応機構を検証するアミロイド触媒の結晶学的解析を行った。X線結晶構造解析に適したNL6の結晶は得られなかったが、N末端のアセチル基の代わりに、かさ高いピバロイル基を導入した誘導体(pNL)では、ギ酸溶媒から細長く針状の結晶が得られた(
図7)。
【0090】
[Piv-NFGAIL-NH 2のX線結晶構造決定]
アミロイド形成性ペプチドPiv-NFGAIL-NH2をギ酸に溶解し、低速蒸発法により結晶を得た。結晶を、20%エチレングリコールを含むギ酸に浸漬して凍結保護し、液体窒素で瞬間凍結した。X線回折データから、初期構造は、膵島アミロイドポリペプチド(アミリン)のNNFGAILセグメントの結晶構造から最初のアスパラギン残基を除いたNFGAILの構造を検索モデルとして、Phaserで分子置換することにより得られた。最終構造の品質は MolProbity でアクセスしました。
【0091】
[フィブリル-基質1複合体の分子ドッキングシミュレーション]
結晶全体の最小部分である非対称単位は、Piv-NFGAIL-NH2分子と1つのギ酸分子で構成される。結晶内のPiv-NFGAIL-NH2分子の集合体を手動で抽出することにより、Coot6を使用して推定Piv-NFGAIL-NH2フィブリル構造を生成した。この構造は、3つのPiv-NFGAIL-NH2 分子によって形成されるフィブリル伸長軸に沿ったスタッキング ユニットで構築される。
【0092】
誘導体pNLは、アミロイド生成能(API=5)および触媒活性(収率29%)であった。pNLの結晶は、 X線結晶解析に適しており、原子分解能で構造が得られた(
図7B)。pNLの結晶構造は、 8つのアミド結合 (Asn側鎖を含む) のうち7つが、繊維軸に沿った水素結合の形成を通じてアミロイド構造の構築に関与していることを示している (
図7C及びD)。一方、PheとGlyの間のアミド結合は、カルボニル酸素原子は、ギ酸との水素結合を形成する繊維軸ではなく、溶媒にさらされた領域に向かって配向する。pNLの結晶構造への化合物1のドッキング解析は、反応部位としての化合物1のアミノ基がPhe-Glyアミドのカルボニル酸素の十分近くに位置し、水素結合の形成が可能であることを示している(
図7C及びD)。
【0093】
2種類のアミド結合の存在を確認するために、アミドとは異なりエステル結合が水素結合供与体を失う、アミドからエステルへの置換を行った。NL6の AsnとPheの間のアミド結合をエステル結合に置換した場合(NO)、 アミロイド形成はできなかった(
図8) 。この結果は、NL6のAsnとPheの間のアミド結合が、アミロイド形成に重要な水素結合を形成することを裏付けるものである。対照的に、PheとGlyの間のアミドをエステル結合に置換した場合(FO) 、NL6のアミロイド形成能を保持しており(API>6)、これはPhe-Glyアミド結合がアミロイド形成に関与していないという結晶構造からの解釈と一致する。
【0094】
しかし、FOでは、アミロイド形成能は維持されているにもかかわらず、 化合物1のN-ベンゾイル化の触媒活性はNL6と比較して著しく低下していた(収率 = 21% 、
図8)。 エステルのカルボニル酸素は、アミドよりも弱い水素結合受容体であると報告されている。したがって、FOの場合の低収率は、 NL6のPhe-Glyアミドのカルボニル酸素が、アミン修飾に必要な化合物1の脱プロトン化に重要な役割を果たしていることを裏付けるものである。NOでは、アミロイド形成能の欠如により触媒活性を失った。
【0095】
6.混合反応系での検証
混合反応系における選択性の結果を
図9に示す。本質的に同等のアミン官能基の反応性を有する化合物1および化合物2bの競合的ベンゾイル化を、アミロイド触媒存在化 (条件1)、高pH 緩衝液 (条件2、3)、および塩基と溶媒 (条件4,5) の各条件で行った。条件2~5では、ベンゾイル化生成物1-Bz と2b-Bzの比率は、ほぼ1:1だったが、アミロイド触媒存在化の条件1では、1-Bzの収率は2b-Bzの収率の5倍となった。