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特開2024-118244ゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118244
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20240823BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20240823BHJP
【FI】
A63B53/04 E
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024580
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】二村 良平
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA03
2C002CH02
2C002LL01
(57)【要約】
【課題】フェース部での高い反発性、ヘッドの重量化の抑制及び低重心化をバランス良く得られるようにしたゴルフクラブヘッドを提供する。
【解決手段】本発明のゴルフクラブヘッド10は、トップ部20,ソール部30,トウ部40,ヒール部50,ホーゼル部60、及び、フェース部70を鉄系の素材で一体形成したヘッド本体10Aを有する。ソール部30は、フェース部70の下端でソール幅が4mm以上のソール領域を備え、ソール領域の後端に、トウ・ヒール方向に延び比重が16以上の高比重材32を溶着し、ヘッド本体の高さHが52mm以上で、重心高さを17.0mm以下、低重心率を32%以下としたことを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トップ部、ソール部、トウ部、ヒール部、ホーゼル部、及び、フェース部を鉄系の素材で一体形成したヘッド本体を有するアイアン型のゴルフクラブヘッドであり、
前記ソール部は、前記フェース部の下端でソール幅が4mm以上のソール領域を備え、前記ソール領域の後端に、トウ・ヒール方向に延び比重が16以上の高比重材を溶着し、
前記ヘッド本体の高さが52mm以上で、重心高さを17.0mm以下、低重心率を32%以下としたことを特徴とするアイアン型のゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記フェース部の下端領域の肉厚は2.2mm以下であり、前記ソール領域は、フェース部の下端領域の肉厚以下で、フェース部と一体的に形成されてバック側に屈曲されていることを特徴とする請求項1に記載のアイアン型のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記高比重材は85g以上で、ヘッド高さの13.5%以下の部分に配置したことを特徴とする請求項2に記載のアイアン型のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記高比重材は、ソール側のトウ・ヒール方向の両端部から、それぞれトウ部、ヒール部の中間領域まで延びていることを特徴とする請求項3に記載のアイアン型のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記フェース部の裏面側はキャビティ構造となっており、
前記トップ部をバック側から見た際のトップ部のフレーム幅は、2.5mm~3.5mmに設定され、前記トウ部をバック側から見た際のフレーム幅は、2.5mm~5.0mmに設定され、前記ソール部のフレーム幅は、2.0mm~5.0mmに設定されていることを特徴とする請求項3に記載のアイアン型のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記ソール領域の後端側には、バックに移行するに連れて上昇する立上部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載のアイアン型のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記高比重材は、前記ソール領域の後端に直接溶着されており、ソール角は、-2°~6°に設定されていることを特徴とする請求項6に記載のアイアン型のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記フェース部の裏面の中間部に、トウ・ヒール方向に延出するリブが形成され、リブより下は厚肉、リブより上は薄肉に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアイアン型のゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
前記高比重材の上面に、本体部材よりも軽比重の飾り部材を止着したことを特徴とする請求項1に記載のアイアン型のゴルフクラブヘッド。
【請求項10】
上記の請求項1から9のいずれか1項のアイアン型のゴルフクラブヘッドを装着したことを特徴とするゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフクラブに関し、詳細には、アイアン型のゴルフクラブに適したゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アイアン型のゴルフクラブのヘッドは、打球がなされる部分をヘッド本体とは別体のフェース部材(フェースプレート)として構成し、これをヘッド本体に形成した開口部分の周囲に接着、溶着、カシメなどによって固定することが知られている。このようなヘッドは、軽量化を図るために、例えば、特許文献1から3に開示されているように、フェース部材をチタンやチタン合金、アルミニウム合金等、軽量金属で形成することが知られている。
また、これらの文献には、ヘッドの低重心化を図るために、ヘッド本体のソール部分に重量調整部材を装着することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-81642号
【特許文献2】特開2005-125090号
【特許文献3】実用新案登録第3152899号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記した軽量金属材によるフェースプレートでは、十分な反発性能が得られないため、飛距離の向上については限界がある。特に、フェースプレートの外周部分に、フェースプレートをヘッド本体に固定するための構造が必要となり、これが反発を阻害して飛距離性能が落ちてしまう。
【0005】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、フェース部での高い反発性、ヘッドの重量化の抑制及び低重心化をバランス良く得られるようにしたゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明は、トップ部、ソール部、トウ部、ヒール部、ホーゼル部、及び、フェース部を鉄系の素材で一体形成したヘッド本体を有するアイアン型のゴルフクラブヘッドであり、前記ソール部は、前記フェース部の下端でソール幅が4mm以上のソール領域を備え、前記ソール領域の後端に、トウ・ヒール方向に延び比重が16以上の高比重材を溶着し、前記ヘッド本体の高さが52mm以上で、重心高さを17.0mm以下、低重心率を32%以下としたことを特徴とする。
【0007】
上記した構成のヘッド本体は、トップ部、ソール部、トウ部、ヒール部、ホーゼル部、及び、フェース部を、高強度の鉄系の素材で一体形成しているため、チタン合金やアルミニウム合金と比較すると、薄肉厚化することが可能であり、フェース部に用いたことで反発性を高めることが可能となる。また、前記フェース部は、板状体(プレート)にしてヘッド本体に止着するのではなく、トップ部、ソール部、トウ部、ヒール部と共に一体化した断面L型の形状にしたことで、プレートを止着するための構造が不要となり、効率的に反発性を高めることが可能となる。この場合、フェース部を薄肉厚化したことでヘッド本体は軽量化されるものの、ソール部に、フェース部の下端でソール幅が4mm以上のソール領域を設け、このソール領域の後端に、トウ・ヒール方向に延び比重が16以上の高比重材を溶着している。これにより、ヘッド本体の高さが52mm以上で、重心高さを17.0mm以下、低重心率を32%以下に設定することが可能となり、高反発性が得られながらバランスよく低重心化して飛距離性能の向上が図れるようになる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フェース部で高い反発性が得られると共に、ヘッドの重量化を抑制しつつ低重心化をバランス良く図れるゴルフクラブヘッド及びゴルフクラブが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係るゴルフクラブヘッドの一実施形態を示す図であり、(a)は、ヘッドの正面図、(b)は、ヘッドをトウ側から見た図、(c)は、ヘッドをソール側から見た図。
図2図1に示すヘッドの裏面図。
図3図1に示すヘッドを上方のバック側から見た斜視図。
図4図1に示すヘッドを下方のバック側から見た斜視図。
図5図1に示すヘッドの底面図。
図6図1に示すヘッドの構成部品を分解した斜視図。
図7】高比重材及び銘板を外したフェース部を示す図であり、(a)は、上方のバック側から見た斜視図、(b)は、下方のバック側から見た斜視図。
図8】(a)は、図2に示すヘッドにおいて銘板を外した状態を示す図、(b)は、図(a)のA-A線に沿った断面図、(c)は、図(a)のスコアラインの中央に対応するB-B線に沿った断面図。
図9図8(a)のB-B線に沿った断面図であり、寸法関係を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1から図9を参照して、本発明に係るゴルフクラブヘッド(以下、ヘッドとも称する)の一実施形態について説明する。
【0011】
本実施形態に係るヘッド10が装着されるゴルフクラブ1はアイアン型であり、シャフト5の先端が、ヘッド本体10Aに一体形成されたホーゼル部60に嵌入、固定されることで構成されている。前記ヘッド10は、ゴルフクラブ1を基準水平面Pに対して構えた際、固定されるシャフト5の軸芯Xを含む垂直面P1と、ヘッド本体10Aのフェース部70のフェース面70aとの間が、番手に応じて所定のロフト角αとなるように設定されている(図9参照)。なお、シャフト5は、スチール製であっても良いし、繊維強化樹脂製(FRP製)であっても良い。
【0012】
前記ヘッド本体10Aは、トップ部20、ソール部30、トウ部40、ヒール部50、ホーゼル部60、及び、フェース部70を備え、これらを鉄系の素材で一体形成することで構成されている。前記鉄系の素材としては、純鉄ではない鉄系材料、例えば、高強度SUS(ステンレス系合金)、クロムリブデン鋼等の比重が大きい素材(具体的には、比重が7.6~7.9)が用いられ、本発明では、従来のようなチタン合金やアルミニウム合金のような比重が軽い材料を用いないことを特徴としている。
【0013】
上記したような鉄系の素材は、チタン合金やアルミニウム合金と比較すると、比重は大きいものの、高強度であり、強度が高いことから薄肉厚化して軽量化を図ることが可能である。特に、フェース部70が鉄系の素材で形成されていると、強度が高いため薄肉厚化することが可能となり、この薄肉厚化による軽量化と反発性の向上をバランス良く達成することが可能となる。また、本発明におけるフェース部70は、板状体(プレート)にしてヘッド本体に止着するのではなく、図8(c)、図9に示すように、トップ部20、ソール部30、トウ部40、ヒール部50と共に一体化した構成(断面L型の構成)にすることで、従来のように、プレートを止着するための構造が不要となり、効率的に反発性を高め、軽量化を図ることが可能となる。
【0014】
上記したような一体化されたヘッド本体10Aは、鋳造、鍛造等によって形成することが可能である。また、このように、ヘッド本体の各部を鉄系の素材で一体化することにより、キャビティ構造(ポケットキャビティ構造)にすることも可能となり、飛距離の向上に加え、方向性の安定化を図ることが可能となる。
【0015】
前記ヘッド本体10Aのトップ部20、ソール部30、トウ部40及びヒール部50はフェース部70の周縁に沿って後方に向けて延設されている。
本実施形態では、前記トップ部20は、バック側に延びる延出部20aと、その先端側が下方に垂下するように屈曲された屈曲部20bとを備えている。また、ソール部30は、バック側に延びるソール延出部(単に延出部とも称する)30aと、そのバック側の先端側が上方に立ち上がるように屈曲した立上部30bとを備えている。更に、前記トウ部40及びヒール部50についても、同様にバック側に延びる延出部40a,50aと、その先端側が内側に屈曲された屈曲部40bとを備えている。なお、ヒール側については、十分な剛性を有することから形成しない構成であっても良い(図8(b)参照)。
【0016】
上記した構成によれば、フェース部70の周囲にバック側に延びる延出部20a,30a,40a,50aが形成され、その先端側が中央に向けて屈曲された構造となっていることから、ヘッド本体10Aは、フェース部70の後側が開口したキャビティ構造となっている。このため、フェース部全体として、撓み性の向上が図れると共に、慣性モーメントを高くすることができ、飛距離の向上及び方向性を安定化することが可能となる。
【0017】
上記したキャビティ構造は、トップ部20、トウ部40、ヒール部50に、延出部20a,40a,50aをそれぞれ形成すると共に、ソール部30にもソール延出部(ソール領域)30aを形成し、更に延出部20a,40aに屈曲部20b,40bを形成することで構成されている。この場合、キャビティ構造を鉄系の素材によって構成する前記屈曲部20b,40b、及び、ソール部の立上部30bについては、打球衝撃に耐え得る剛性を確保すると共に、ヘッドとして重量化することが無いように、以下の範囲で形成することが好ましい。
【0018】
ここで、図8及び図9を参照して、キャビティ構造を形成するためのフレームの幅(屈曲部及び立上部の肉厚)の好ましい範囲を説明する。なお、ここでは、面取り部分を除いているが面取り部分を含んでいても良い。
前記トップ部20をバック側から見た際のトップ部20の屈曲部20bの幅(外周部であるフレーム幅)W1については、2.5mm~3.5mmに設定することが好ましい。また、延出部20aの長さL1については、5.5mm~8.0mmに設定することが好ましい。
前記トウ部40をバック側から見た際の屈曲部40bにおける左右方向の幅(外周部であるフレーム幅)W2は、2.5mm~5.0mmに設定することが好ましい。
さらに、前記ソール部30の上下方向の幅(外周部であるフレーム幅)W3については、2.0mm以上であれば良く、後述するような立上部30bを形成するのであれば、その上下方向の幅(フレーム幅)W3は、2.0mm~5.0mmに設定することが好ましい。
【0019】
前記ヘッド本体10Aは、図1に示すように、ヒール側からトウ側に移行するに従ってフェース部70の高さが高くなる形状を有しており、同様の形状を有するフェース部70のフェース面70aには、トウ・ヒール方向に沿ってスコアライン71が平行となるように複数本形成されている。図1に示すように、ヘッド本体10Aを正面視した際、スコアライン71が形成されている領域がフェース部70での実際の打球面70a´となる。なお、この打球面70a´は、各種の粗面化処理を施しておくことが好ましい。
【0020】
上記したフェース部70は、高強度の鉄系の素材で形成されているため、薄肉厚化することが可能であり、アルミニウム合金(比重が2.6~2.8)やチタン合金(比重が4.4~4.5)では強度的に十分でない厚さに形成することが可能である。具体的には、上記した軽量金属は強度を維持するためには、2.4mm程度の厚さが必要であるのに対し、本発明の鉄系の素材では、2.2mm以下、好ましくは、1.5mm~2.0mmの範囲内で薄肉厚化して高反発化することが可能となり、これに伴って全体の軽量化を図ることが可能となる。この場合、フェース部70の肉厚については、全面に亘って均一にしても良いが、低重心化及び撓み性等を考慮して、位置に応じて肉厚を変えても良い。
【0021】
本実施形態のフェース部70には、図8図9に示すように、高さ方向のトップ側の裏面に、トウ・ヒール方向に沿って部分的に厚肉化したリブ73が形成されている。この場合、フェース部70の肉厚は、前記リブ73よりも上側(トップ部側)の肉厚T1が、リブ73よりも下側(ソール部側)の肉厚T2よりも薄くなるように形成することが好ましい。具体的に本実施形態では、前記肉厚T1は、1.5mm±0.5mm、リブ73の肉厚は、2.4mm±0.5mm、前記肉厚T2は、2.0mm±0.5mmに設定されており、リブ73を境界にしてトップ側を薄肉厚に形成している。
【0022】
上記のように、フェース部70の裏面にトウ・ヒール方向に沿ったリブ73を設けることで、そのリブ73で撓みを抑制することができ、フェース部の上下方向における撓みの頂点を、リブが形成されていない構成と比較してソール側にシフトすることができる。すなわち、実際に打球がされる下方側の位置に、撓みの頂点を近付けることが可能となる。また、リブ73よりも下側を、上側よりも肉厚を厚くした(T2>T1)ことで、低重心化が図れるようになり、低重心化された位置(低重心化されたGからフェース部に下した垂線の位置;スイートスポットS付近)で打球がし易く、その打球位置での撓み性を向上することが可能となる。
【0023】
なお、前記フェース部70の後方側は、上記したようにキャビティ構造となっているため、フェース部全体としても撓み易い構造となって飛距離の向上が図れると共に、慣性モーメントも高まり、方向性の安定化が図れるようになる。
【0024】
前記フェース部70の裏面には、必要に応じて、品番、商品名、ブランド名等の情報や装飾等が記載された銘板80を被着しても良い。本実施形態では、例えば、アルミ合金や樹脂等で軽量な材料、またはニッケル薄膜等で一体形成された銘板80を被着するようにしている。前記銘板80は、フェース部70と略同一の形状を有する板状に形成された本体81と、本体81の露出面に形成され、凹凸等、意匠性のある装飾部82とを備えている。このように構成される銘板80は、フェース部70の裏面に、接着等によって一体的に止着することが可能である。
【0025】
前記ソール部30には、後方に向けて延びたソール領域(トップ部側の面が露出している領域であり、ソール延出部とも称する)30aが、フェース部70の下端からバック側に向けて屈曲形成されている。このソール領域30aは、短すぎると、フェース部での反発力が低下することから、4mm以上、好ましくは6mm以上のソール幅L2が確保されていれば良い。なお、ソール幅L2が長すぎるとソール全体幅が広くなり、プレーヤがクラブを構えたときにソールが張り出して見え、構えづらさを感じる、または地面に近い領域に高比重材を多量に配置できなくなるため、その上限値については、25mm以下に設定するのが好ましい。
【0026】
本実施形態では、前記ソール領域30aは、特にフェース部下側領域の反発性を向上させるため、図9に示す肉厚T3は、フェース部70の下端の肉厚以下に形成することが好ましく、1.0mm~2.5mmに設定されている。この場合、ソール領域30aの肉厚T3の上限値は、以下のように、その後端部30dに高比重材32が溶着されることから、ヘッド本体の軽量化が図れると共に、低重心化が図れ、重心深度が大きくなるように、フェース部70の下端の肉厚T2以下に設定してソール領域も軽量化を図ることが好ましい。
【0027】
上記のように、鉄系の素材で断面をL型にしたヘッド構造は、フェース部70での反発性を高められるものの、ソール部30に、前記ソール領域(空白領域)30aを形成したことで、重心Gが下がり難くなってしまう。このため、前記ソール領域30aの後端に、比重が16以上の高比重材32を溶着することで、ヘッド本体として効率的に低重心化を図るようにしている。本実施形態の高比重材32は、トウ・ヒール方向に延びると共にバック側に所定のソール幅を備えた本体32Aと、本体32Aの両サイドで上方に上昇するトウ側の上昇部32c、及び、ヒール側の上昇部32dを有している。
【0028】
ここで高比重材32の比重を16以上にしたのは、鉄系の素材であっても効率的にヘッド本体の軽量化を図りつつ、低重心化を図るためである。また、従来、ヘッドに用いられている低重心化を図るための重量体(例えば、比重が10未満のタングステン)と比較して、容量を増すことなく、効率的に重心高さを低くする(低重心率を小さくしてヘッド本体の低重心化を図る)ためである。なお、高比重材32の材料については、限定されることはないが、ソール領域30aの後端部30dに対して溶着が可能な比重が16以上のタングステン合金を用いることが可能である。
【0029】
本実施形態の高比重材32は、前記本体32Aの前面部がソール領域30aの後端部30dに溶着されて、ソール領域30aの下面と面一状となった湾曲状のソール面となるように構成されている(図4図5図8(c)、図9参照)。この場合、ソール領域30aの後端側にバックに移行するに連れて上昇する立上部30bを形成することが好ましい。このような立上部30bを形成することで、後端部30dでは、高比重材32の本体32Aの前面部との溶着領域を増やすことができ、溶着強度を高めることが可能となる。
【0030】
前記立上部30bの形状については、例えば、図8(c)及び図9に示すように、トウ・ヒール方向に延出し、バック側に向けて次第に上昇する傾斜面30eを有するように構成することが可能であるが、その形状については特に限定されることはい。例えば、後端部30dと高比重材32の本体32Aとの溶着部分において、溶着領域を増やすように、凹凸部を有する接合構造にする等、適宜、変形することが可能である。
【0031】
なお、本実施形態では、高比重材32の本体32Aの前方側にトウ・ヒール方向に延出する段部32aを形成しており、段部32aを形成する直角面のそれぞれを、前記立上部30bの上面部30fに載置すると共に、前記後端部30dと面接させることで溶着領域を確保している(上面部30fまで溶着を施さなくても良い)。
【0032】
前記高比重材32の形状については、特に限定されることはないが、溶着した状態で前記ソール領域30aの下面(露出面)と略面一状になり、バック側に向けて次第に上昇する湾曲形状にすることが好ましい(図8(c)、図9(c)参照)。
このように、高比重材32をヘッド本体(ソール領域30a)に、別の部材を介在させることなく直接、溶着することで、溶着工程が簡略化されると共に、低重心化するための高比重材の重量や高比重材の重心位置が安定する。また、ヘッドのソール面が湾曲状に面一化されることで、振り抜き易い構成にすることが可能となる。
【0033】
前記高比重材32については、その重さが85g以上あれば良く、ヘッド高さHの13.5%以下の部分に配置することが好ましい。また、本実施形態の高比重材32は、比重が約17のものが用いられている。
このように、比重が17以上の高比重材を85g以上とし、ヘッド高さHの13.5%以下の領域に配設することで、飛距離性能が求められるロフト角が40°以下のアイアンヘッドにおいて、重心高さを17.0mm以下、低重心率を32%以下にすることが可能となり、上記した従来の重量体(比重が10未満のタングステン)を装着した同一の構成と比較して、低重心化を達成し易くすることができる。なお、ヘッド高さHについては、52mm以上確保されていれば良く、高比重材32については、ヘッドが重くなり過ぎないように130g以下にすることが好ましい。
【0034】
本実施形態の高比重材32については、上述したように、ソール側のトウ・ヒール方向の両端部から上昇し、それぞれトウ部40及びヒール部50の高さ方向の中間領域まで上昇し、トウ部40及びヒール部50の表面と面一状になるように形成されている(図2から図4参照)。トウ部40側の上昇部32cは、次第に薄肉厚化して、トウ部40の裏面の凹所に一体的に止着された状態となっている。また、ヒール部50側の上昇部32dは、次第に薄肉厚化してヒール部50の裏面の凹所に一体的に止着された状態となっている。
【0035】
このように、高比重材32の両側に上昇部32c,32dを形成することで、ヘッド本体として慣性モーメントの向上が図れると共に、ヘッド本体に対する溶着強度を高めることが可能となる。
【0036】
また、本実施形態のヘッド本体には、前記高比重材32の上面32gに飾り部材85を止着している。このような飾り部材85を止着することで、前記銘板80の下側、特に、ソール領域30aの内面、立上部30bと高比重材32との溶着部分、キャビティの内部、更には、段差感を隠蔽することができ意匠性を高めることが可能となる。このため、飾り部材85は、表面にカラーを施したり、視認し易い部分を凹凸形状にする(例えば、隣接する凸部85a,85bを形成する)等、様々なデザインにすることが可能である。また、飾り部材85は、ヘッド10が高重心化しないように、本体部材の構成材料(鉄系の素材)よりも軽比重であることが好ましく、例えば、軽金属(アルミ合金等)、樹脂(ABS樹脂等)で構成することが好ましい。
【0037】
次に、上記したヘッドの具体的な構成例について検証した結果について説明する。
検証に際して準備したヘッドは、同一の鉄系の素材で構成されており、フェース部を異なるロフト角(20°,24°,31°)で、それ以外を同一形状となるように複数個作成した。そして、それぞれのヘッドの立上部30bに、比重が17の高比重材(タングステン合金)32を溶着した際、その重心高さと低重心率がどのようになるかを検証した。また、比較例として、フェース部のロフト角が25°の略同一のヘッド構造で、通常の重量体(比重が10未満のタングステン)を溶着したものを作成した。
【0038】
なお、各ヘッドの重心Gの位置は、ホーゼル部60を含んだヘッド本体10A、高比重材32、銘板80及び飾り部材85を含んだ状態で測定している。また、以下の表1に示す各ヘッドにおいて、重心高さH1は、ゴルフクラブをアドレス姿勢したときの地面から重心Gまでの高さを意味する(図8参照)。ここでのアドレス姿勢とは、トウ側から見たときに、ホーゼル部60の軸芯X(図9参照)が鉛直となり、かつ、正面から見たときにモデルごとに設定したライ角(スコアライン71が水平)に置いた状態を意味する。
また、低重心率は、重心高さH1/ヘッド高さHで算出される。ここでのヘッド高さHは、図1に示すアドレス姿勢において、地面である基準水平面Pからフェース部70の最高点(ホーゼル部は含まない)までの高さを意味する。このため、重心率が低い方が、低重心化が達成されていることを意味する。
【0039】
以下、その測定結果を示す。
【表1】
【0040】
ヘッド高さHについては、いずれのロフト角のヘッドも52mm以上を確保している。この場合、高比重材32を溶着し、ロフト角が31°以下のヘッドでは、重心高さH1を17.0mm以下、低重心率32%以下を達成することができたが、通常の重量体(比重が10未満のタングステン)を溶着したものは、ロフト角を25°に設定すると、重心高さ及び低重心率が、ロフト角を31°に設定した本発明の上記したヘッド構造よりも高くなってしまう。すなわち、従来の重量体を溶着する構成では、ロフト角を25°以上に設定すると、更に、重心高さ及び低重心率が高くなることが予測され、本発明のようなヘッド構造を採用しても、高い反発性と低重心設計ができなくなってしまう。
【0041】
この場合、本発明のような低重心設計を容易にするには、高比重材32を高い位置に配設することは好ましくはない。上記した3つのロフト角(20°,24°,31°)では、それぞれ溶着される高比重材32の重心高さ(アドレス姿勢にしたときの高比重材32単体での重心高さ)が、6.27mm、6.76mm、5.55mm(7.0mm以下)となる形状及び容積を確保している。このような高比重材は、ヘッドの重心高さH1が高くならないようにしている(従来の一般的なヘッドで重量体を装着する場合、重量体の重心高さについて考慮されておらず、7.5mm以上となっている)。
【0042】
また、本実施形態の高比重材32を溶着したヘッド本体10Aは、ソール角βが-2°~6°の範囲となるように構成している。
ここで、ソール角βは、図1に示すスコアライン71のトウ・ヒール方向の中央において、スコアラインと直交する中央線(SL)を含んで定義される面内において、有効ソール幅Waの中央Caでのソール面の接線Laと、基準水平面P(地面)との成す角で定義される。この場合、有効ソール幅Waは、ソール部30の中央で実際に地面に接触することを想定する領域であり、図1(b)(c)では、リーディングエッジPLからソール面のバック側の接触ポイントPtまでの幅で定義される。
【0043】
上記した重心高さH1を低くするのに一番有利なソール角βは0°である。
しかし、使用者ごとに適したソール角があり、通常は、+の角度(図1(b)のようなリーディングエッジPLが地面から離間する角度)となるのが一般的である。この場合、バック側に溶着される高比重材32によって低重心化を実現し、反発性を高めて飛距離の向上を図るのであれば、ソール角βを-2°~6°の範囲にすることが好ましい。すなわち、近距離でボールを止めるウエッジタイプのゴルフクラブのヘッドのソール角のように大きく設定する(6°~12°)必要はない。
【0044】
ただし、ソール角βが大きく設定し過ぎると、図1(b)のリーディングエッジPLが地面から離間してヘッド本体10Aが地面から離れ、ヘッド重心が高くなってしまうため、ソール角βは、上記のように6°以下にすることが好ましい。また、あまり小さく設定し過ぎると、図1(c)のPtが地面から離間するようになり、バック側に溶着される高比重材32の配置が地面から離れ、ヘッド重心が高くなってしまうため、ソール角βは、上記のように-2°以上にすることが好ましい。
【0045】
また、理想スイング(ダウンブローや水平ブローのようにクリーンに打球する状態)をする際には、上記した高比重材32の表面は、バック側に向けて上昇するように湾曲しており、かつ、ソール角βを6°以下に設定したことで、高比重材32が接地することを抑制することができ、高比重材32を直接、ソール領域の後端に溶着しても、地面からの衝撃が直接加わることはない。
【0046】
さらに、前記高比重材32は、の後端から見た幅(図8(c)に示す後端幅W4)は、3.0mm~5.0mmにすることが好ましい。このような範囲に設定するのは、3.0mmよりも薄くなると、通常のキャビティ構造アイアンの各面幅構成と著しく異なった印象を与えてしまい、使用者が不安感を抱くためである。また、5.0mmよりも厚くすると、厚さが増して必然的に上方に多くの高比重材が配されることとなってしまい、低重心化が難しくなるためである。
【0047】
上記したようなヘッド(ヘッド本体)を装着したゴルフクラブによれば、以下のような効果が得られる。
上記したように、鉄系の素材を、ホーゼル部60を含めてヘッド本体10Aに用い、全体として断面L字型に形成することで、衝撃に耐えることが可能な強度を保ったままフェース部70を薄肉厚化(1.5mm程度まで薄肉厚化が可能)することができ、この薄肉厚化に伴って反発性の向上(飛距離の向上)と、軽量化をバランス良く達成することが可能となる。また、比重が17以上の高比重材32をソール領域30aの後端部に溶着したことで、高反発性を維持しつつ低重心化を達成することが可能となる。
【0048】
上記したヘッド構造について、ボールの初速、打出角、スピン量、弾道の高さ、キャリーについて、ロボット試験機で検証をしたところ、以下の表2で示すような結果が得られた。
この検証では、鉄系の素材を用いてロフト角を25°にした同一のL型構造のヘッド本体に、それぞれ同一構造のシャフトを装着したゴルフクラブを2本準備した。そして、一方のゴルフクラブのヘッド本体には、比重が17のタングステンを溶着し(新構造と称する)、もう一方のゴルフクラブのヘッド本体には、従来技術のように、比重が9.3のタングステンを溶着した(比較構造と称する)。
【0049】
【表2】
【0050】
通常、ゴルフラブヘッドのフェース部は、肉厚が同じで反発係数が変わらなくても、低重心化できれば初速を上げることができる。新構造である本実施形態のヘッド本体10Aは、L型で低重心されることから、反発係数を上げなくても初速が上がるようになる。また、低重心化されたことで、打ち出し角度が上がり、高弾道の飛球が得られると共に、スピン量(バックスピン量)が減少する。すなわち、打球時にフェース部は、その衝撃でロフト角が小さくなる方向にヘッドが回転することから、ある程度のバックスピン量となるが、ヘッド本体の重心が下がることで、バックスピン量が減るようになり、ボールにロスすることなくエネルギーを伝えることが可能となる(飛距離が向上する)。
【0051】
以上、本発明に係るアイアン型のゴルフクラブ及びそのヘッドについて説明したが、本発明は、高強度の鉄系の素材を用いてヘッド本体を構成し、フェース部を従来の軽金属材料よりも薄肉厚化してソール部分の後端部に比重が17以上の高比重材を溶着した構成であれば、その構造や外観については、適宜変形することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 ゴルフクラブ
10 ヘッド(ゴルフクラブヘッド)
10A ヘッド本体
20 トップ部
30 ソール部
30a ソール領域
32 高比重材
40 トウ部
50 ヒール部
60 ホーゼル部
70 フェース部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9