(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118262
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】希土類永久磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 1/055 20060101AFI20240823BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240823BHJP
H01F 1/059 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
H01F1/055 170
C22C38/00 303D
H01F1/059 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024607
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤川 佳則
(72)【発明者】
【氏名】神宮 美香
【テーマコード(参考)】
5E040
【Fターム(参考)】
5E040AA03
5E040AA19
5E040CA01
5E040NN01
5E040NN06
(57)【要約】
【課題】高い保磁力および高い残留磁束密度を有する希土類永久磁石を提供すること。
【解決手段】RおよびTを含む磁石素体を有する希土類永久磁石である。Rが、Smを必須とする1種以上の希土類元素であり、Tが、FeおよびTiを必須とする2種以上の遷移金属元素である。磁石素体が、ThMn
12型結晶構造を有する主相と、主相の間に存在する副相を有し、副相が、単斜晶または正方晶の結晶系に属する第1副相を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RおよびTを含む磁石素体を有し、
Rが、Smを必須とする1種以上の希土類元素であり、Tが、FeおよびTiを必須とする2種以上の遷移金属元素であり、
前記磁石素体が、ThMn12型結晶構造を有する主相と、前記主相の間に存在する副相を有し、
前記副相が、単斜晶または正方晶の結晶系に属する第1副相を含む希土類永久磁石。
【請求項2】
前記第1副相が、Nd3(Fe,Ti)29型結晶構造を有する請求項1に記載の希土類永久磁石。
【請求項3】
前記第1副相が、CeMn6Ni5型結晶構造を有する請求項1に記載の希土類永久磁石。
【請求項4】
前記磁石素体の断面において、前記主相に対する前記副相の被覆率が、50%以上である請求項1~3のいずれかに記載の希土類永久磁石。
【請求項5】
前記主相の平均結晶粒径(D50)が、1.0μm以上である請求項1~3のいずれかに記載の希土類永久磁石。
【請求項6】
前記第1副相におけるTiの含有率が、前記主相におけるTiの含有率に対して、0.6倍超過3.0倍未満である請求項1~3のいずれかに記載の希土類永久磁石。
【請求項7】
前記磁石素体の相対密度が、92%以上である請求項1~3のいずれかに記載の希土類永久磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、希土類永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能永久磁石として代表的なNd-Fe-B系永久磁石は、その高磁気特性から、年々生産量を伸ばしており、各種モータ、各種アクチュエータ、MRI装置などの様々な用途に使用されている。しかし、Ndは希少な資源であり、Ndの消費量の増加に伴い、Nd価格の高騰、および、Nd資源の枯渇などが問題視されている。そのため、Nd含有率の少ない希土類永久磁石の開発が求められており、希土類元素の使用量が少なくて済む、ThMn12型結晶構造を有する化合物からなる希土類永久磁石が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、ThMn12型結晶構造を有する硬磁性相と、非磁性相とを含む永久磁石を、開示している。また、特許文献2は、ThMn12型結晶構造を有する相およびTh2Ni17型結晶構造を有する相の2相分離組織からなる永久磁石を、開示している。さらに、特許文献3は、ThMn12型結晶構造を有する相および略TbCu7型結晶構造を有する相の混合相を備える磁性材料を、開示している。
【0004】
ただし、特許文献1~3で開示されているようなThMn12型化合物を含む永久磁石では、Nd-Fe-B系永久磁石に匹敵する磁気特性が得られておらず、保磁力および残留磁束密度などの磁気特性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-189206号公報
【特許文献2】特開2000-114016号公報
【特許文献3】特開2022-37850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示における例示的な実施形態の目的は、高い保磁力および高い残留磁束密度を有する希土類永久磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本開示の希土類永久磁石は、
RおよびTを含む磁石素体を有し、
Rが、Smを必須とする1種以上の希土類元素であり、Tが、FeおよびTiを必須とする2種以上の遷移金属元素であり、
前記磁石素体が、ThMn12型結晶構造を有する主相と、前記主相の間に存在する副相を有し、
前記副相が、単斜晶または正方晶の結晶系に属する第1副相を含む。
【0008】
希土類永久磁石が、上記の特徴を有することで、高い保磁力(Hcj)と、高い残留磁束密度(Br)とを両立して得ることができる。
【0009】
好ましくは、前記第1副相が、Nd3(Fe,Ti)29型結晶構造を有する。
【0010】
好ましくは、前記第1副相が、CeMn6Ni5型結晶構造を有する。
【0011】
好ましくは、前記磁石素体の断面において、前記主相に対する前記副相の被覆率が、50%以上である。
【0012】
前記主相の平均結晶粒径(D50)が、1.0μm以上であってもよい。
【0013】
好ましくは、前記第1副相におけるTiの含有率が、前記主相におけるTiの含有率に対して、0.6倍超過3.0倍未満である。
【0014】
好ましくは、前記磁石素体の相対密度が、92%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る希土類永久磁石の断面を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施例に係る希土類永久磁石の断面SEM画像の一例である。
【
図3】
図3は、本開示の比較例に係る希土類永久磁石の断面SEM画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する本開示の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、実施形態に係る各構成要素、たとえば、数値、形状、材料、製造工程などは、技術的に問題が生じない範囲内で改変したり、変更したりしてもよい。
【0017】
本実施形態に係る希土類永久磁石は、任意の形状を有する焼結体からなる磁石素体を有し、磁石素体の表面を覆う酸化物層や保護層などの被覆層を有していてもよい。以下の説明では、被覆層を除く本体の「磁石素体」を指して、「希土類永久磁石2」と称することとする。希土類永久磁石2の形状および寸法は、特に限定されず、希土類永久磁石2の用途に応じて適宜決定すればよい。たとえば、希土類永久磁石2が、直方体、平板状、柱状、または、リング状などの形状を有していてもよい。
【0018】
希土類永久磁石2は、RおよびTを含む。Rは、1種以上の希土類元素であり、Smを必須として含む。Tは、希土類元素を除く、2種以上の遷移金属元素であり、FeおよびTiを必須として含む。
【0019】
また、希土類永久磁石2は、
図1に示すように、主相20と副相30とを含む。主相20とは、希土類永久磁石2の任意の断面において、最も面積比率が高い相を意味する。希土類永久磁石2の主相20は、ThMn
12型結晶構造(空間群I4/mmm)を有しており、希土類永久磁石2の任意の断面における主相20の面積比率は、60%以上であることが好ましく、70%以上90%以下であることがより好ましい。一方、副相30とは、主相20以外の相を意味し、副相30は、主相20とは異なる結晶構造を有する。
【0020】
ここで、本実施形態で示す「~型結晶構造」は、結晶構造の名称であって、「~型」に記載の元素が、対象の結晶相に必ずしも含まれているわけではない。たとえば、「ThMn12型結晶構造を有する」とは、Th元素およびMn元素からなる結晶相を意味するのではなく、希土類永久磁石2に含まれるRおよびTから選択される元素でThMn12型結晶構造(RT12型結晶構造)が構成されていることを意味する。本実施形態では、RXTY型結晶構造を有する相を、RXTY結晶相、または、X-Y相と表記する場合がある。たとえば、ThMn12型結晶構造を有する相(主相20)を、RT12結晶相、または、1-12相と表記する場合がある。
【0021】
RT12結晶相の化学量論比は、Tに対するRの比で表すと、1/12(≒0.0833)である。
【0022】
希土類永久磁石2は、RT12結晶相の主相20のみならず副相30を含むため、希土類永久磁石2の組成(平均組成)は、RT12結晶相の化学量論比から若干偏倚していてもよい。希土類永久磁石2におけるRの割合は、上記の化学量論比よりも少なくてもよいが、保磁力をより向上させる観点から、化学量論比よりも過剰であることが好ましい。具体的に、希土類永久磁石2におけるTに対するRの比(R/T)は、化学量論比(1/12)に対して、0.90倍以上1.35倍未満としてもよく、1.02倍以上1.20倍以下であることが好ましく、1.02倍以上1.08倍以下であることがより好ましい。
【0023】
希土類永久磁石2における希土類元素の含有率(すなわちRの含有率)は、7at%以上13at%以下であることが好ましく、8at%以上11at%以下であることがより好ましい。希土類元素の含有率を7at%以上13at%以下の範囲内に設定することで、α-Fe相の析出を抑制でき、十分な焼結性を確保することができる。加えて、RT12結晶相である主相20の面積比率を十分に確保することができ、保磁力および残留磁束密度が向上し易くなる。
【0024】
なお、希土類永久磁石2が、Rとして2種以上の希土類元素を含む場合は、上述した「希土類元素の含有率」は、2種以上の希土類元素の合計含有率を意味する。また、本実施形態において、「希土類永久磁石2における所定元素の含有率」とは、希土類永久磁石2に含まれる全元素の合計100at%に対する所定元素の比率を意味する。一方、「Rに占める所定の希土類元素の割合」とは、希土類永久磁石2に含まれる希土類元素の合計100at%に対する所定の希土類元素の比率を意味し、「Tに占める所定の遷移金属元素の割合」とは、希土類永久磁石2に含まれる遷移金属元素の合計100at%に対する所定の遷移金属元素の比率を意味する。
【0025】
Smは、主相20であるRT12結晶相において、Rサイトを占める主要元素である。希土類永久磁石2におけるSmの含有率は、7at%以上10at%未満であることが好ましく、7.3at%以上8.9at%以下であることがより好ましい。Smの含有率を上記の範囲内に設定することで、α-Fe相、RT3結晶相、および、R2T17結晶相などの軟磁性を有する結晶相(以下、軟磁性相と呼ぶ)の発生を抑制でき、保磁力および残留磁束密度が向上し易くなる。また、Smの含有率を上記の範囲内に設定することで、後述する第1副相31が生成され易くなる。
【0026】
なお、Rに占めるSmの割合は、60at%以上であることが好ましい。希土類永久磁石2のRはSmのみであってもよく、希土類永久磁石2が、Rとして、Sm以外の希土類元素を含んでいてもよい。Sm以外の希土類元素は、Y、Gd、Ce、Pr、および、Ndから選択される1種以上であることが好ましく、これらの希土類元素が、RT12結晶相において、RサイトのSmを置換していてもよい。また、Rに占めるSm以外の希土類元素の割合は、0at%以上40at%以下であることが好ましく、0at%以上20at%以下であることがより好ましい。
【0027】
Feは、主相20であるRT12結晶相において、Tサイトを占める主要元素である。希土類永久磁石2におけるFeの含有率は、「残部(bal.)」で表されるが、たとえば、50at%以上70at%以下であることが好ましく、58at%以上67at%以下であることがより好ましい。
【0028】
Tiは、RT12結晶相において、Fe元素の一部を置換し、RT12結晶相の安定性を高める効果をもたらす。また、希土類永久磁石2がTiを含むことで、所定の結晶系に属する第1副相31が生成される。希土類永久磁石2におけるTiの含有率は、0at%超過20at%以下であることが好ましく、3at%以上12at%以下であることがより好ましい。また、Tに占めるTiの割合は、0at%超過20at%以下であることが好ましく、4at%以上13at%以下であることがより好ましい。Tに占めるTiの割合を20at%以下に設定することで、飽和磁化(Ms)を向上させることができる。
【0029】
希土類永久磁石2は、遷移金属元素(T)として、FeおよびTiの他に、Coを含むことが好ましい。Coは、RT12結晶相において、Feサイトの一部を置換し、RT12結晶相の安定性を高める効果をもたらす。また、CoがFeサイトの一部を置換することで、主相20であるRT12結晶相のキュリー温度(Tc)を高めることができ、飽和磁化を増大させることができる。希土類永久磁石2におけるCoの含有率は、0at%以上40at%以下であることが好ましく、15at%以上25at%以下であることがより好ましい。また、Tに占めるCoの割合は、0at%以上40at%以下であることが好ましく、15at%以上28at%以下であることがより好ましい。
【0030】
また、希土類永久磁石2は、遷移金属元素として、Fe、Ti、およびCoの他に、V、Cr、Mo、W、Zr、Hf、Nb、Ta、Al、Si、Cu、Zn、GaおよびGeから選択される1種以上の元素Mを含んでいてもよく、元素Mが、主相20におけるTサイトの一部を置換していてもよい。Tに占める元素Mの割合は、特に限定されず、たとえば、0at%以上14at%以下としてもよく、6at%以下であることが好ましい。
【0031】
希土類永久磁石2は、上述したR、T、および、元素M以外の元素を実質的に含まないことが好ましい。R、T、および、元素M以外の元素を実質的に含まないとは、希土類永久磁石2における。R、T、および、元素M以外の元素の含有率が、3at%以下であることを意味する。その他の元素としては、たとえば、O、N、H、Be、P、および、Cなどが挙げられる。
【0032】
なお、希土類永久磁石2の組成は、たとえば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を用いて分析すればよい。また、必要に応じて、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法を併用してもよい。
【0033】
希土類永久磁石2に含まれる主相20および副相30などの結晶相は、エネルギー分散型X線分析(EDS)、波長分散型X線分析(WDS)、電子線マイクロアナライザ(EPMA)による分析、電子線回折、および、X線回折(XRD)などを用いて解析すればよい。
【0034】
たとえば、希土類永久磁石2の任意の断面を、鏡面研磨後に、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、EDSまたはEPMAを用いたマッピング分析を実施する。当該マッピング分析により、希土類永久磁石2の断面における各元素の分布状態を明らかにするとともに、解析視野に含まれる結晶粒を、各元素の分布状態に基づいて、複数のグループに分類する。分類した結晶粒のグループのうち、希土類永久磁石2の断面における面積比率が最も高いグループを、主相20と認定し、主相20以外のグループを副相30と認定すればよい。
【0035】
なお、上記の断面解析において、観察倍率は、各結晶相のサイズおよび分散状態に応じて適宜設定すればよく、たとえば、主相20が1視野中に200個程度含まれる倍率に設定することが好ましい。また、観察する断面は、希土類永久磁石2の配向軸に対して平行な面であってもよく、当該配向軸に直交する面であってもよく、当該配向軸と任意の角度で交差する面であってもよい。各結晶相の組成を解析する際には、分類した結晶粒のグループから、それぞれ、少なくとも20個の結晶粒を任意に選定して点分析を実施し、各結晶相の平均組成を算出することが好ましい。各結晶相の面積比率は、解析視野の合計面積に対する各グループに属する結晶粒の合計面積の比で表し、解析視野の合計面積は、少なくとも10000μm2に設定することが好ましい。
【0036】
主相20および副相30の結晶構造は、上記の方法で主相20と副相30とを分類した後、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた電子線回折により解析することが好ましい。TEM観察用試料は、集束イオンビーム(FIB)を用いたマイクロサンプリング法により作製すればよい。そして、分類した各結晶相から少なくとも1つの結晶粒を任意に選定し、選定した各結晶粒に対して電子線を照射し回折像を取得する。この電子線回折像を解析することで、各結晶相の結晶系、および、ブラベー格子を特定することができる。ただし、電子線回折では、ThMn12型などの詳細な結晶構造まで同定することが容易ではない。そのため、電子線回折だけでなく、TEMの格子像の解析、TEM-EDSによる結晶相の元素分析、および、XRDを併用することが好ましく、これらの解析によって特定した結晶系、ブラベー格子、空間群、結晶の原子配列、および、組成(特に結晶相におけるRに対するTの比)に基づいて、総合的に判断し、詳細な結晶構造を特定することが好ましい。
【0037】
主相20は、前述のとおり、ThMn12型結晶構造を有し、主相20の平均結晶粒径(D50)が、1.0μm以上であることが好ましく、2.0μm以上10.0μm以下であることがより好ましい。主相20の平均結晶粒径は、画像解析により算出すればよい。たとえば、SEMで撮影した反射電子像を画像解析ソフトに取り込み、当該反射電子像に含まれる各主相20の面積を測定する。そして、測定した面積から各主相20の円相当径を算出する。この際、少なくとも200個の主相20の円相当径を算出し、円相当径による粒度分布を取得することが好ましい。当該粒度分布において、面積基準の累積頻度が50%となる円相当径を、主相20の平均結晶粒径として特定すればよい。
【0038】
副相30は、
図1に示すように、希土類永久磁石2の断面において、主相20の間に存在する。希土類永久磁石2は、少なくとも1種の副相30を含み、結晶構造が異なる2種以上の副相30を含んでいてもよい。本実施形態では、希土類永久磁石2に含まれる副相30のうち、希土類永久磁石2の断面において最も面積比率が高い副相30を、「第1副相31」と称することとし、第1副相31以外の副相30を、「その他の副相32」と称することとする。希土類永久磁石2の断面における副相30の面積比率は、たとえば、10%以上40%以下であることが好ましく、希土類永久磁石2の断面における第1副相31の面積比率は、たとえば、8%以上38%以下であることが好ましい。
【0039】
本実施形態の希土類永久磁石2では、第1副相31の結晶系が、単斜晶または正方晶であり、好ましくは単斜晶である。
【0040】
単斜晶の第1副相31としては、たとえば、Nd3(Fe,Ti)29型結晶構造を有する結晶相、および、略Nd3(Fe,Ti)29型結晶構造を有する結晶相などが挙げられる。結晶系が単斜晶の場合、第1副相31がNd3(Fe,Ti)29型結晶構造を有することが好ましい。なお、「略Nd3(Fe,Ti)29型結晶構造」とは、Nd3(Fe,Ti)29型に類似しているものの、結晶格子の対称性が僅かに異なり、厳密にはNd3(Fe,Ti)29型と異なる結晶構造を意味する。具体的に、Nd3(Fe,Ti)29型結晶構造のブラベー格子は単純斜方格子であるのに対し、略Nd3(Fe,Ti)29型結晶構造のブラベー格子は底心斜方格子である。
【0041】
第1副相31の結晶系が正方晶の場合、第1副相31がCeMn6Ni5型結晶構造を有することが好ましい。CeMn6Ni5型結晶構造のブラベー格子は単純正方格子である。
【0042】
上記の結晶構造を有する第1副相31は、主相20の間に存在する粒界相である。主相20の粒界25は、隣接する2つの主相20の間に位置する二粒子粒界25aと、3つ以上の主相20に囲まれた粒界多重点25bとに分類できる。副相30は粒界多重点25bに形成され易いが、単斜晶または正方晶の第1副相31は、粒界多重点25bのみならず、二粒子粒界25aにも存在する。すなわち、第1副相31は、
図1に示すように、主相20の表面を被覆している。
【0043】
本実施形態の希土類永久磁石2では、単斜晶または正方晶の結晶系に属する第1副相31が、主相20の間に存在することで、高い保磁力と、高い残留磁束密度とを両立して得ることができる。磁気特性が向上する理由は、必ずしも明らかではないが、主相20に対する副相30の被覆構造に起因すると考えられる。
【0044】
Nd-Fe-B系永久磁石では、希土類元素の比率を主相の化学量論比よりも高くすることで、高温で液相が容易に生成される。そのため、Nd-Fe-B系永久磁石では、緻密化を促す液相焼結が容易である。そして、液相焼結で製造されたNd-Fe-B系永久磁石では、主相表面が希土類リッチ相で被覆された2相分離組織が得られ、この2相分離組織により優れた磁気特性が得られると考えられる。これに対して、ThMn12型結晶構造の主相を含む希土類永久磁石(以下、ThMn12系永久磁石と称する)では、状態図に基づくと、原則として液相が生じず、焼結体の緻密化や粒界相の組織制御が困難である。そのため、ThMn12系永久磁石では、Nd-Fe-B系永久磁石に匹敵する磁気特性を実現することが容易ではないと考えられる。
【0045】
従来、ThMn
12系永久磁石では、Th
2Ni
17型結晶構造を有する相(2-17相)またはTbCu
7型結晶構造を有する相(1-7相)の副相を含む混相組織が提案されてきた。しかしながら、本開示の発明者等の実験によれば、Th
2Ni
17型結晶構造を有する相やTbCu
7型結晶構造を有する相は粒界多重点に偏析し易く、従来の技法では二粒子粒界相を形成することが困難である。実際に、
図3に示すSEM画像が、比較例にあたる従来のThMn
12系永久磁石の一例である。
図3のSEM画像において、主相よりもコントラストが明るい領域が、1-7相からなる副相である。この副相は、主に粒界多重点に存在していることがわかり、
図3のSEM画像では、二粒子粒界にほとんど副相が形成されていない。
【0046】
これに対して、本実施形態の希土類永久磁石2は、単斜晶または正方晶の第1副相31を含み、当該第1副相31は、粒界多重点25bのみならず二粒子粒界25aにも形成させることができる。実際に、
図2のSEM画像が、本実施形態に係る希土類永久磁石2の一例であり、
図2のSEM画像において、主相20よりもコントラストが明るい薄いグレーの領域が第1副相31である。
図2では、第1副相31が二粒子粒界相を構成していることがわかり、主相20に対する第1副相31の被覆率が、
図3のSEM画像よりも高くなっていることがわかる。このような、主相20に対する第1副相31の被覆構造が、保磁力および残留磁束密度の向上に寄与していると考えられる。
【0047】
特に、第1副相31が単斜晶のNd3(Fe,Ti)29型結晶構造を有する場合、第1副相31が強磁性相に該当すると考えられ、主相20と第1副相31との界面に異方性磁界のギャップを形成させることができると考えられる。そして、異方性磁界のギャップにより磁壁の移動が抑制されることで、保磁力が向上すると考えられる。また、Nd3(Fe,Ti)29型の第1副相31が、主相20に類する量の強磁性を示す元素(Fe)を含有することから、残留磁束密度が向上すると考えられる。
【0048】
一方、第1副相31が正方晶のCeMn6Ni5型結晶構造を有する場合、当該第1副相31が非磁性相に該当すると考えられる。CeMn6Ni5型の第1副相31は、主相20の間に存在することで、主相20の間の磁気的な結合を遮断すると考えられ、その結果、保磁力および残留磁束密度が向上すると考えられる。
【0049】
希土類永久磁石2の断面において、主相20に対する副相30の被覆率は、35%以上であってもよく、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。副相30のうち第1副相31に着目した場合、主相20に対する第1副相31の被覆率は、30%以上であってもよく、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。副相30による被覆率を高くするほど、磁壁の移動を抑制する効果、もしくは、磁気的な結合を遮断する効果が高まると考えられ、保磁力をより向上させることができる。
【0050】
上記の被覆率は、画像解析により算出すればよい。たとえば、SEMで撮影した反射電子像を画像解析ソフトに取り込み、当該反射電子像に含まれる各主相20の輪郭を抽出し、各主相20の輪郭の長さL0を計測する。そして、計測した輪郭の長さL0のうち、副相30(もしくは第1副相31)と接する輪郭の長さL1を計測する。各主相20における副相30(もしくは第1副相31)の被覆率は、L1/L0で表すことができ、少なくとも100個の主相20のL1/L0を算出し、その平均値を算出することが好ましい。
【0051】
第1副相31におけるTiの含有率が、主相20におけるTiの含有率に対して、0.4倍以上であってもよく、0.6倍超過3.0倍未満であることが好ましく、0.6倍超過2.0倍以下であることがより好ましい。すなわち、主相20におけるTiの含有率(at%)を「C0」とし、第1副相31におけるTiの含有率(at%)を「C1」とすると、C1/C0が、0.4以上であってもよく、0.6超過3.0未満であることが好ましく、0.6超過2.0以下であることがより好ましい。C1/C0を0.6超過3.0未満の範囲に制御することで、第1副相31の安定性が向上する。加えて、α-Fe相、Sm2(Fe,Co,Ti)17相(所謂2-17相)、および、Fe2Ti相などの軟磁性相の生成を抑制でき、保磁力をより向上させることができる。
【0052】
なお、主相20におけるTiの含有率、および、第1副相31におけるTiの含有率は、いずれも、SEM-EDS、EPMA、もしくは、TEM-EDSを用いた元素分析により測定すればよい。この際、少なくとも50個の主相20を解析し、その平均値として、主相20におけるTiの含有率(C0)を算出することが好ましい。同様に、少なくとも50箇所で第1副相31の元素分析を実施し、その平均値として、第1副相31におけるTiの含有率(C1)を算出することが好ましい。
【0053】
二粒子粒界25aにおける第1副相31の平均厚みは、特に限定されないが、たとえば、0.05μm以上1μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.7μm以下であることがより好ましい。第1副相31の平均厚みは、二粒子粒界25aにおける第1副相31の厚みを、少なくとも20箇所で計測して算出することが好ましい。
【0054】
なお、希土類永久磁石2は、前述のとおり、第1副相31以外の副相30を含んでいてもよい。その他の副相32としては、たとえば、α-Fe相、RT2結晶相、RT3結晶相、R2T7結晶相、RT5結晶相、RT7結晶相、RT9結晶相、R2T17結晶相、立方晶のW型結晶構造を有する結晶相、六方晶のMgZn2型結晶構造を有する相、結晶構造のような長距離秩序を有していないアモルファス相、および、金属間化合物以外の相(たとえば、Rの酸化物層やTの酸化物層など)が挙げられる。希土類永久磁石2では、上記の相のなかでも、RT3結晶相、RT7結晶相、および、R2T17結晶相から選択される1種以上がその他の副相32として、形成され易い傾向がある。希土類永久磁石2の断面におけるその他の副相32の合計の面積比率は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
【0055】
希土類永久磁石2の相対密度が、85%以上であってもよく、92%以上であることが好ましい。相対密度を高くするほど、残留磁束密度がより向上する傾向となる。また、相対密度を92%以上に制御することで、希土類永久磁石2の表面で開口している細孔(オープンポア)を急減させることができると考えられ、耐食性を向上させることができる。なお、相対密度は、実測密度を理論密度で割る(実測密度/理論密度)ことで算出でき、実測密度は、希土類永久磁石2の重量を体積(寸法から算出した体積)で割ることで算出すればよい。
【0056】
以下、本実施形態に係る希土類永久磁石2の製造方法の一例について説明する。希土類永久磁石2は、粉末冶金法で製造することができる。具体的に、粉末冶金法では、原料合金を調製する準備工程、原料合金を粉砕する粉砕工程、粉砕工程で得られた原料微粉末を成形する成形工程、成形体を焼結する焼結工程、および、焼結体に時効処理を施す熱処理工程を経て、希土類永久磁石2を製造する。
【0057】
この粉末冶金法で希土類永久磁石2を製造する際には、二合金法ではなく、一合金法を採用することが好ましい。一合金法とは、1種類の原料合金を使用して焼結体を製造する方法であり、二合金法とは、2種類の原料合金(たとえば、主相用の原料合金と、副相用の原料合金)を使用して焼結体を製造する方法である。二合金法では、一合金法よりも、副相30の種類や含有率を制御することが容易であるものの、副相30が粒界多重点25bに偏析し易く、副相30を二粒子粒界25aに形成することが困難である。本実施形態では、主相20に対する第1副相31の被覆構造を形成するために、一合金法を採用したうえで、磁石組成、原料合金の製造条件、および、時効処理の条件などに基づいて、副相30の種類、生成位置、および、含有率を制御することが好ましい。以下、粉末冶金法の各工程について、詳述する。
【0058】
(準備工程)
原料合金を調製する方法としては、ストリップキャスト法(SC法)、超急冷凝固法、蒸着法、および、還元拡散法などが知られているが、希土類永久磁石2の内部組織を制御する観点から、SC法を採用することが好ましい。
【0059】
ここで、原料合金を製造するうえでの留意点について説明しておく。希土類永久磁石2において、α-Fe相などの軟磁性相の発生を抑制しつつ、目的の内部組織(
図1に示すような単斜晶または正方晶の第1副相31による被覆構造)を形成するためには、原料合金の段階から主相の組成と結晶状態とを適切に制御することが重要である。原料合金中のThMn
12結晶構造を準安定的に維持させることで、時効処理において、主相粒子中にR元素の濃度差が生じ、二粒子粒界25aを含む粒界25に単斜晶または正方晶の第1副相31が生成すると考えられるためである。
【0060】
ThMn12結晶構造を準安定的に維持させためには、原料合金の段階で主相粒子のR元素の濃度を1-12相の化学量論比よりも高めておくことが望ましいと考えられるが、単純に溶湯におけるR元素の含有量を増やしても、原料合金における主相粒子中のR元素濃度は増加し難い。原料合金の組織は、原料合金製造時の溶湯組成のみならず、溶湯温度および冷却速度にも依存すると考えられ、原料合金の製造時には、溶湯組成、溶湯温度および冷却速度などの条件を適切な範囲に制御することが好ましい。
【0061】
上記の留意点を踏まえて、SC法で原料合金を製造する方法について説明する。SC法は、溶湯(溶融金属)を回転するロールに注ぎ、急冷することで、合金薄帯を製造する鋳造法である。
【0062】
まず、原料金属を、所望の磁石組成が得られるように、秤量する。原料金属としては、たとえば、R元素を含む純金属または合金と、T元素を含む純金属または合金とを準備すればよい。原料金属を秤量する際には、磁石組成におけるRの割合が化学量論比よりも少なくなるように、Rの原料金属とTの原料金属との配合比を決定してもよいが、磁石組成におけるRの割合が化学量論比よりも過剰となるように原料金属の配合比を決定することがより好ましい。
【0063】
ここで、Rの必須元素であるSmは、蒸気圧が比較的高いため、溶解・鋳造時や焼結時などの製造過程で蒸発し易い。そのため、溶解前に秤量する原料金属の配合比や鋳造後の原料合金の組成は、製造過程におけるSmの蒸発を考慮して、狙いの磁石組成よりもSmが過剰となるように決定することが好ましい。たとえば、希土類永久磁石2におけるRの割合を、RT12で表される化学量論比よりも1.02倍~1.08倍程度とする場合は、原料合金におけるRの割合を、化学量論比に対して1.03倍~1.2倍程度に設定することが好ましく、溶解前の原料金属は、原料合金におけるRの割合よりもさらにSmが過剰となるように、秤量することが好ましい。
【0064】
次に、秤量した原料金属を、耐火物の坩堝内で、高周波誘導加熱などにより溶かし、溶湯を得る。この際、溶湯温度は、たとえば、放射温度計で測定し、高周波出力を調整することで制御すればよく、溶湯温度は1450℃以上1600℃以下の範囲に設定することが好ましい。
【0065】
次に、溶湯を、タンディッシュを介して、回転するロールの上に注ぐ。ロールの内部は水冷されており、タンディッシュから出湯された溶湯は、ロールの上で1000℃付近まで急冷され、凝固し、合金薄帯となる。SC法では、ロール上で溶湯を凝固させる過程を「1次冷却」と称する。1次冷却の速度は、溶湯温度、溶湯の供給量、および、ロールの回転速度などにより制御することができ、500℃/秒以上12000℃/秒以下の範囲内に設定すべきであり、1500℃/秒以上10000℃/秒以下であることが好ましく、1500℃/状以上7000℃/秒以下であることがより好ましい。
【0066】
1次冷却の速度を500℃未満に設定すると、α-Fe相や2-17相などの軟磁性相の発生割合が高くなり、単斜晶または正方晶の第1副相31を形成できない。1次冷却の速度を12000℃/秒超過に設定すると、RT12結晶相(主相20)の成長が不全になると共に、α-Fe相、1-2相、および1-3相などの軟磁性相の発生比率が高くなる。また、1次冷却の速度を12000℃/秒超過に設定すると、ナノ結晶や非晶質の集合体が生成し、粉砕後の原料微粉末が多結晶化し易くなる。原料粉末が多結晶化すると、磁場中成形後における主相20の配向度が低下し、残留磁束密度の低下を招く。1次冷却の速度を500℃/秒以上12000℃/秒以下の範囲内に設定することで、R元素の含有量が化学量論比よりも過剰な場合でも、ThMn12型結晶構造を準安定的に維持させることができると考えられる。
【0067】
なお、タンディッシュにおける溶湯温度をT1、ロールが出湯位置から60度回転した位置における合金薄帯の温度(すなわち凝固直後の合金薄帯の温度)をT2、ロールが60度回転するのに要する時間をt60°とし、1次冷却の速度は、(T1-T2)/t60°で表される。タンディッシュにおける溶湯温度T1は、たとえば、溶湯に浸漬させた熱電対で測定すればよく、60度回転位置での合金薄帯の温度T2は、たとえば、放射温度計で測定すればよい。
【0068】
凝固後の合金薄帯は、タンディッシュの反対側でロールから離脱させ、捕集コンテナで回収する。その後、回収した合金薄帯を、捕集コンテナ内でさらに冷却させることで、薄片形状の原料合金が得られる。合金薄帯を捕集コンテナ内で冷却する過程を「2次冷却」と称する。
【0069】
この2次冷却の速度が遅いと、R元素を1-12相において化学量論比よりも過剰に固溶させておくことが困難となり、代わりに、2-17相や1-9相などのR元素の比率が高い軟磁性相が生成し易くなる。主相粒子中のR元素濃度を、化学量論比よりも過剰な状態で維持させるためには、合金薄帯を600度まで冷却させる際の速度(2次冷却の速度)を、たとえば、10℃/分以上200℃/分以下の範囲に設定することが好ましく、20℃/分以上150℃/分以下の範囲に設定することがより好ましい。
【0070】
2次冷却の速度を制御する方法は、特に限定されない。たとえば、合金薄帯の厚みで2次冷却の速度を制御してもよく、合金薄帯を薄くするほど2次冷却を速くすることができる。また、捕集コンテナ内に冷却板を設置する場合には、冷却板を冷やすための冷却水の温度、水量、および、冷却板の配置間隔などに基づいて、2次冷却の速度を制御してもよい。もしくは、冷却用ガスを用いて2次冷却を実施してもよく、冷却用ガスを吹き付ける流速で2次冷却の速度を制御してもよい。
【0071】
上記のように、溶湯組成(磁石組成)および鋳造条件(溶湯温度および冷却速度など)を制御することで、概ねThMn12型結晶構造の単相からなる原料合金が得られる。
【0072】
なお、原料合金の製造後には、原料合金の内部組織を均質化するための熱処理(以下、均質化処理と称する)を実施する場合があるが、本実施形態では、この均質化処理を実施しないことが好ましい。原料合金の製造後に均質化処理を実施すると、原料合金の段階で副相30(特に、単斜晶または正方晶の第1副相31)が生成してしまう可能性がある。原料合金は後述する粉砕工程で微粉末に加工するため、原料合金中で生成した副相30は粒界多重点で偏析し易く、時効処理で主相の外縁から生成する副相30の割合が低下してしまう。そのため、副相30による被覆率を高める観点では、原料合金の製造後(すなわち粉砕工程の前)に均質化処理を実施しないことが好ましい。
【0073】
(粉砕工程)
粉砕工程では、薄片状の原料合金を粉砕して原料微粉末を得る。粉砕後の原料微粉末の平均粒径(D50)は、10μm以下であることが好ましく、1.0μm以上4.0μm以下であることがより好ましい。粉砕の方法は、必ずしも、限定されず、上記のような平均粒径を実現できる方法を採用すればよい。たとえば、粉砕工程では、後述する粗粉砕と微粉砕とを含む多段階方式を採用することが好ましい。
【0074】
粗粉砕の方法としては、スタンプミル、ジョーククラッシャ、または、ブラウンミルなどを用いる方法を採用してもよく、水素吸蔵粉砕を採用してもよい。本実施形態では、原料合金を、スタンプミル、ジョーククラッシャ、または、ブラウンミルなどを用いて、1mm以下になるまで事前に粉砕し(事前粉砕)、その後、水素吸蔵粉砕(粗粉砕)を実施し、粒径が数十~数百μm程度の粗粉末をえることが好ましい。スタンプミル等による事前粉砕は、酸化物相の過度な生成を抑制するために、酸素含有量を所定の範囲に制御した不活性雰囲気で実施することが好ましい。たとえば、不活性雰囲気中の酸素含有量を、1ppm以上500ppm以下に制御することが好ましく、5ppm以上100ppm以下に制御することがより好ましい。
【0075】
なお、水素吸蔵粉砕とは、不活性雰囲気で原料合金に水素を吸蔵させた後に、脱水素処理を施すことで、原料合金を粉砕する方法を意味する。原料合金への水素の吸蔵および放出により、原料合金に含まれる結晶相の体積膨張率が変化する。結晶相の体積膨張率の変化により、原料合金中にクラックを発生させ、原料合金を粉砕することができる。
【0076】
微粉砕では、ジェットミルなどを用いた乾式粉砕を採用してもよく、ビーズミルやボールミルなどを用いた湿式粉砕を採用してもよい。もしくは、乾式粉砕と湿式粉砕を併用し、乾式粉砕後に湿式粉砕を実施してもよい。
【0077】
なお、ジェットミルを用いて微粉砕を行う場合には、粉砕後の微粒子表面が非常に活性となるため、微粒子同士の再凝集や容器壁への付着が起こりやすくなる。そのため、ジェットミルによる微粉砕では、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸アミドなどの粉砕助剤を添加することが好ましい。粉砕助剤の添加量は、原料微粉末の粒径や粉砕助剤の種類によっても異なるが、原料合金100質量%に対して、0.05質量%以上0.5質量%以下に設定することが好ましい。粉砕助剤を添加することで粉砕工程における収率を向上させることができる。また、成形工程での磁場配向が容易になる。加えて、焼結体中の酸素量を粉砕助剤に基づいて好適な範囲に制御でき、磁石素体に希土類元素を含有する酸化物相を適量の割合で含ませることができる。
【0078】
また、ジェットミルでは、粉砕用ガスとして、一般的に窒素ガスが用いられるが、原料微粉末の窒化を避けるために、ヘリウムガス、および、アルゴンガスなどの希ガスを用いることが好ましく、製造コストの観点からアルゴンガスを用いることがより好ましい。
【0079】
微粉砕の後には、適宜、原料微粉末を分級し、原料微粉末の粒度を整えることが好ましい。たとえば、ジェットミルで微粉砕を実施する場合は、分級機付きのジェットミル装置を用いてもよい。原料微粉末を分級することで、焼結後の希土類永久磁石2における主相20の粒度分布を制御することができる。
【0080】
(成形工程)
成形工程では、原料微粉末を磁場中で成形し、任意の形状を有する圧粉体を製造する。具体的には、原料微粉末を電磁石中に配置された金型内に充填した後、電磁石により磁場を印加して、原料微粉末の結晶軸を配向させながら、原料微粉末を加圧する。この磁場中成形における磁場の大きさは、特に限定されず、たとえば、950~1600kA/mとしてもよい。また、印加する磁場は、静磁場に限定されず、パルス状磁場としてもよく、静磁場とパルス状磁場を併用してもよい。成形圧は、特に限定されず、たとえば、30MPa以上300MPa以下の範囲に設定してもよい。成型時の雰囲気は、不活性雰囲気とし、Ar雰囲気とすることが好ましい。
【0081】
なお、成形方法としては、上記のような乾式成形に限定されず、湿式成形を採用してもよい。湿式成形を採用する場合は、たとえば、原料微粉末を油等の溶媒に分散させ、得られたスラリーを成形すればよい。
【0082】
(焼結工程)
焼結工程では、圧粉体を焼結させて、焼結体を製造する。焼結は、大気圧の不活性雰囲気、減圧した不活性雰囲気、もしくは、0.1Pa以下の真空中で実施してもよい。希土類元素(特にSm)の蒸発を抑制する観点では、アルゴン雰囲気で焼結を実施することが好ましい。
【0083】
焼結時の保持温度は、特に限定されず、たとえば、1050℃以上1250℃以下に設定することが好ましく、1120℃以上1180℃以下であることがより好ましい。保持時間は、特に限定されず、たとえば、0.01時間以上5時間以下であることが好ましい。保持温度を上記の範囲内とし、さらに保持時間を上記のような短時間とすることで、ThMn12型結晶構造を有する主相20の粒成長を抑制でき、主相20の粒度のバラツキを低減できる。また、保持温度および保持時間を上記の範囲に設定することで、希土類元素の蒸発、および、主相20の分解を抑制でき、高い密度を有する焼結体を製造できる。なお、保持温度および保持時間は、圧粉体の組成、原料微粉末の粉砕方法、粒度等の諸条件の違いにより適宜調整することが好ましい。
【0084】
所定の保持時間が経過した後には、微細組織の均質化を図る観点、および、生産効率を向上させる観点から、焼結体を急冷することが好ましい。たとえば、焼結後の600℃までの冷却速度は、100℃/分以上400℃/分以下に設定することが好ましい。
【0085】
(熱処理工程)
熱処理工程では、焼結体を焼結時よりも低い所定の温度で保持することで、焼結体に対して時効処理を施す。この時効処理により、主相20の外縁部分から単斜晶または正方晶の第1副相31が生成し、第1副相31による被覆構造が形成される。ただし、希土類永久磁石2の内部における微細構造(主相20に対する第1副相31の被覆構造)は、時効処理の条件のみに依存するわけではなく、前述した準備工程の諸条件、原料微粉末の組成および粒度、および、焼結工程の諸条件なども影響する。従って、時効処理前の工程の条件を勘案しながら、時効処理の条件を設定することが好ましい。
【0086】
たとえば、時効処理の保持温度は、800℃以上1000℃以下に設定することが好ましく、900℃以上1000℃以下に設定することがより好ましい。また、保持時間は、10分以上10時間以下に設定することが好ましく、2時間以上8時間以下に設定することがより好ましい。時効処理は、アルゴンなどの不活性雰囲気で実施してもよく、0.1Pa以下の真空中で実施してもよい。さらに、保持温度から400℃までの降温過程における冷却速度は、50℃/分以上であることが好ましく、100℃/分以上であることがより好ましく、150℃/分以上であることがさらに好ましい。
【0087】
以上の工程を経て、本実施形態の希土類永久磁石2を製造することができる。なお、上述した製造方法はあくまでも一例であり、本開示における希土類永久磁石2の製造方法は、上記の工程に必ずしも限定されない。
【0088】
本実施形態の希土類永久磁石2は、高い磁気特性(特に高い保磁力および高い残留磁束密度)を有しており、モータ、アクチュエータ、および、MRI装置などの様々な用途に適用することができる。
【0089】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0090】
以下、本開示をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本開示はこれら実施例に限定されない。
【0091】
本実験では、表1に示す条件で、試料1~試料25に係る希土類永久磁石を製造した。以下、各試料における希土類永久磁石の製造方法について詳述する。
【0092】
まず、Sm、Fe、Ti、および、Coの単体もしくは合金からなる原料を準備し、これらの原料を、最終的に得られる希土類永久磁石が表1に示す組成となるように秤量し、耐火物の坩堝に投入した。そして、坩堝内の原料を、高周波誘導加熱により溶解し、溶湯を得た後、ストリップキャスティング法(SC法)により薄片状の原料合金を製造した。この際、1次冷却の速度は、表1に示す速度に設定した。また、2次冷却を行う捕集コンテナの内部には、冷却板を櫛状に配置し、原料合金を600℃まで冷却させる際の2次冷却の速度を、50℃/分に設定した。なお、薄片状の原料合金の厚みは、0.1mm~0.5mmの範囲内となるように制御した。
【0093】
試料16では、上記のSC法で得られた原料合金に対して、均質化処理を施し、その後、原料合金を粉砕した。均質化処理における保持温度は1000℃に設定し、保持時間を2時間に設定した。一方、試料1~試料15、および、試料17~試料25では、上記のような均質化処理を実施せずに、鋳造上がりの原料合金を粉砕した。
【0094】
粉砕工程では、まず、スタンプミルを用いて、原料合金を、1mm以下の粉末になるまで粉砕した。このスタンプミルでの粉砕は、酸素濃度を50ppm程度に制御したアルゴン雰囲気で実施した。その後、スタンプミルで粉砕した粉末を、水素ガス雰囲気において300℃で1時間加熱し、粉末に水素を吸蔵させた後、当該粉末をアルゴン雰囲気で室温まで冷却することで(水素吸蔵粉砕)、150μm以上1.0mm以下の平均粒径(D50)を有する粗粉末を得た。なお、上記の平均粒径などの粉砕工程で示す粒径は、「粉末」の粒径であり、「結晶粒径」とは異なる。
【0095】
次に、水素吸蔵粉砕後の粗粉末に、粉砕助剤として、オレイン酸アミドを0.1wt%添加した。そして、当該粗粉末を、アルゴン雰囲気において、ジェットミルを用いて微粉砕し、3.5μmの平均粒径(D50)を有する原料微粉末を得た。
【0096】
次に、上記の原料微粉末を、酸素濃度が10ppm以下のアルゴン雰囲気において、配向磁場1200kA/m、成形圧力120MPaの条件で、成形し、圧粉体を得た。その後、圧粉体を、0.01Pa以下まで真空引きした炉内に設置し、表1に示す焼結温度で、3時間保持することで、焼結させた。焼結後(所定の焼結温度で3時間経過後)、アルゴンガスを炉内に導入して、炉内を5気圧まで加圧し、焼結体を200℃/分以上の速度で室温まで急冷させた。
【0097】
次に、上記の焼結体に対して、アルゴン雰囲気で時効処理を施した。時効処理では、保持温度を表1に示す温度に設定し、保持時間を5時間に設定し、室温までの冷却速度を表1に示す速度に設定した。以上の工程を経て、各試料に係る希土類永久磁石を得た。
【0098】
なお、表1に示す条件以外の製造条件は、各試料で共通とした。また、表1の均質化処理の列に示す「-」は、原料合金の段階で均質化処理を実施していないことを意味し、表1の時効処理の列に示す「-」は、焼結後の希土類永久磁石に対して時効処理を実施していないことを意味する。
【0099】
【0100】
各試料の希土類永久磁石に対して、以下に示す評価を実施した。
【0101】
磁石組成の解析
希土類永久磁石に含まれる各元素の含有量を、ICP-MSを用いて測定した。その結果、各試料では、狙い通り表1に示す組成が得られたことが確認できた。なお、表1では、磁石組成を、希土類永久磁石に含まれるSm、Fe、Ti、およびCoの合計を100at%とした場合の各元素の比率で表しており、Feの列に示す「bal.」は、上記の合計100at%における「残部」を意味する。
【0102】
相対密度の測定
希土類永久磁石の寸法および重量を測定し、体積に対する重量の比で表される実測密度(g/cm3)を算出した。そして、この実測密度を理論密度(7.93g/cm3)で割ることで、相対密度(%)を算定した。
【0103】
希土類永久磁石の断面解析
希土類永久磁石の任意の断面を鏡面研磨し、研磨後の断面をSEMで観察した。SEM観察と同様の視野に対し、さらに、EPMAによるマッピング分析を実施し、観察断面に含まれている主相および副相を分類した。そして、画像解析ソフトを用いて、主相の平均結晶粒径(D50)、および、主相に対する副相の被覆率を、実施形態で述べた方法で測定した。
【0104】
結晶構造解析
希土類永久磁石に含まれる主相および副相の結晶構造は、XRD、SEM-EDSによる元素分析、EPMAによる元素分析、TEM-EDSによる元素分析、TEMの格子像の解析、および、TEMの電子線回折を併用して、実施形態で述べた方法により特定した。各試料の希土類永久磁石では、いずれも、主相がThMn12型結晶構造を有していることが確認できた。
【0105】
副相については、希土類永久磁石に含まれる副相のうち、最も面積比率が高い副相を第1副相とした。第1副相の結晶系およびブラベー格子は電子線回折で特定し、第1副相の詳細な結晶構造は、XRD、SEM-EDSによる元素分析、EPMAによる元素分析、TEM-EDSによる元素分析、TEMの格子像の解析、および、TEMの電子線回折の解析結果を総合的に判断することで特定した。
【0106】
また、TEM-EDSにより、主相におけるTiの含有率C0、および、第1副相におけるTiの含有率C1を、それぞれ、平均値として算出し、C0に対するC1の比(C1/C0)を算定した。
【0107】
磁気特性の評価
希土類永久磁石の保磁力Hcj(kOe)および残留磁束密度Br(kG)を、パルスB-Hトレーサーを用いて測定した。本実験では、5kOe≦Hcj、および、10kG≦Brを両方とも満たす試料の磁気特性を、「良好」と判断した。
【0108】
耐食性の評価
希土類永久磁石の耐食性を評価するために、飽和蒸気圧下においてプレッシャークッカー試験(PCT)を実施した。具体的に、試験前の希土類永久磁石の重量W0を測定した後、希土類永久磁石を、2気圧、相対湿度100%の環境下に1000時間暴露し、試験後の希土類永久磁石の重量W1を測定した。そして、試験後の重量変化量(W0-W1)を、希土類永久磁石の表面積SAで割ることで、表面積当たりの重量減少率((W0-W1)/SA)を算出した。
【0109】
本実験では、この表面積当たりの重量減少率に基づいて、希土類永久磁石の耐食性を評価した。具体的に、表面積あたりの重量減少率が5mg/cm2超過である試料の耐食性を「F(不合格)」と判定し、表面積当たりの重量減少率が5mg/cm2以下である試料の耐食性を「G(良好)」と判定した。
【0110】
【0111】
表2に示すように、単斜晶または正方晶の第1副相が形成された実施例では、三方晶、六方晶、もしくは立方晶の第1副相が形成された比較例よりも、磁気特性が向上し、高い保磁力と、高い残留磁束密度とを両立して得ることができた。この結果から、ThMn12型結晶構造を有する主相の間に、単斜晶または正方晶の第1副相を形成することで、保磁力および残留磁束密度が向上することがわかった。
【0112】
なお、表2に示す実施例では、いずれも、単斜晶または正方晶の第1副相が、粒界多重点のみならず二粒子粒界にも存在していることが確認できた。実際に、
図2が、実施例である試料1の希土類永久磁石の断面を撮影したSEM画像であり、
図3が、比較例である試料7の希土類永久磁石の断面を撮影したSEM画像である。
図3の試料7では、TbCu
7型結晶構造を有する第1副相が粒界多重点で偏析しているのに対して、
図2の試料1では、Nd
3(Fe,Ti)
29型結晶構造を有する第1副相が粒界多重点のみならず二粒子粒界にも存在しており、副相による主相の被覆率が
図3の比較例よりも遥かに高いことが確認できる。
【0113】
また、表2に示す実施例の評価結果から、主相表面に対する副相の被覆率を高くするほど、保磁力がより向上する傾向が確認でき、当該被覆率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましいことがわかった。
【0114】
また、表2に示す実施例の評価結果から、主相のTi含有率に対する第1副相のTi含有率の比(C1/C0)を3.0倍未満の範囲で高くするほど、保磁力がより向上する傾向が確認でき、C1/C0は、0.6倍超過であることが好ましく、0.6超過1.8倍以下であることがより好ましいことがわかった。
【0115】
加えて、表2の結果から、希土類永久磁石の相対密度を高くするほど、耐食性が向上し、相対密度は92%以上であることが好ましいことがわかった。
【0116】
以下、表1の製造条件と、表2の評価結果とを参照して、製造条件が希土類永久磁石の内部組織に及ぼす影響に関して考察する。
【0117】
表1に示すように、試料2~試料7では、SC法による鋳造時の1次冷却速度を変更している。1次冷却速度を他の試料よりも遅くした試料2(比較例)では、原料合金の内部組織が不均一となり、α-Fe相、および、2-17相などの軟磁性相の発生割合が高くなった。比較例である試料2では、2-17相が第1副相となり、単斜晶または正方晶の副相が生成しなかった。1次冷却速度を他の試料よりも速くした試料7(比較例)では、主相の結晶成長が不全となると共に、1-9相、1-2相、および1-3相などの軟磁性相の発生割合が高くなった。比較例である試料7では、1-7相が第1副相となり、単斜晶または正方晶の副相が生成しなかった。
【0118】
この結果から、単斜晶または正方晶の第1副相を形成するためには、SC法における1次冷却速度を適切な範囲に設定すべきであることがわかった。より具体的に、1次冷却速度は、実施例である試料3~試料6の結果から、500℃/秒以上11000℃/秒以下の範囲に設定することが好ましく、1500℃/秒以上7000℃/秒以下の範囲に設定することがより好ましいことがわかった。
【0119】
試料8~試料15では、表1に示すように、時効処理の条件を変更した。時効処理温度を低くした試料8(比較例)、および、時効処理温度を高くした試料11(比較例)では、いずれも、単斜晶または正方晶の副相が生成せずに、1-3相が粒界多重点に偏析したため、副相による主相の被覆率が悪化した。そのうえ、時効処理温度を高くした試料11では、主相の肥大化(粒成長)が進み、保磁力の低下を招いたと考えられる。この結果から、単斜晶または正方晶の第1副相を形成し、副相による被覆率を高めるためには、時効処理温度を適切な範囲に設定すべきであることがわかった。より具体的に、実施例である試料1,試料9および試料10の結果から、時効処理温度は、800℃以上1000℃以下に設定することが好ましく、900℃以上1000℃以下に設定することがより好ましいことがわかった。
【0120】
また、試料1および試料12~試料14の結果から、時効処理における冷却速度を速くするほど、副相による主相の被覆率がより高くなる傾向が確認でき、被覆率の上昇に伴って、保磁力がより向上した。この結果から、時効処理における冷却速度は、50℃/分以上であることが好ましく、100℃/分以上であることがより好ましく、150℃/分以上であることがさらに好ましいことがわかった。
【0121】
なお、時効処理を実施しなかった試料15(比較例)では、単斜晶または正方晶の副相が生成されず、1-3相が第1副相となった。そのうえ、試料15における1-3相は粒界多重点に偏析し、二粒子粒界相がほとんど形成されなかった。この結果から、単斜晶または正方晶の第1副相による被覆構造を形成するためには、時効処理が必須であることがわかった。
【0122】
原料合金に対して均質化処理を実施した試料16(実施例)では、単斜晶または正方晶の第1副相が形成されたものの、副相による主相の被覆率が他の実施例よりも低下した。被覆率を高くして保磁力をより向上させる観点では、原料合金段階での均質化処理を実施しないことが好ましいことがわかった。
【0123】
試料22は、焼結温度を他の実施例よりも高くした実施例であり、試料23は、焼結温度を他の実施例よりも低くした実施例である。試料22においても、単斜晶または正方晶の第1副相が生成し比較例よりも良好な磁気特性が得られているものの、主相の粒成長が進むことで、保磁力が他の実施例よりは低下する傾向となった。また、試料23では、単斜晶または正方晶の第1副相が生成し比較例よりも良好な磁気特性が得られたものの、相対密度が低下することで耐食性が他の実施例よりは劣る結果となった。主相の粒成長を抑制し、耐食性を向上させる観点では、焼結温度を、1120℃以上1180℃以下に設定することがより好ましいことがわかった。
【0124】
試料17~試料21、および、試料24~試料25では、磁石組成を変更した。Tiを添加しなかった試料17(比較例)では、α-Fe相および2-17相などの軟磁性相の発生割合が高くなり、単斜晶または正方晶の第1副相が生成しなかった。この試料17の結果から、単斜晶または正方晶の第1副相を形成するためには、Tiを添加することが必須であることがわかった。
【0125】
希土類永久磁石におけるTiの含有率を高くした試料24(実施例)では、他の実施例とは異なり、正方晶のCeMn6Ni5型結晶構造を有する第1副相が形成された。この正方晶の第1副相を有する試料24では、単斜晶の第1副相を有する他の実施例よりも、残留磁束密度が低くなったが、保磁力がより高くなった。この結果から、保磁力をより向上させる観点では、正方晶の第1副相を形成することが好ましいことがわかった。一方、保磁力および残留磁束密度をバランスよく向上させる観点では、単斜晶の第1副相を形成することが好ましいことがわかった。
【0126】
また、希土類永久磁石におけるTiの含有率を低くした試料25(実施例)では、単斜晶の第1副相が形成されたが、この第1副相は、ブラベー格子がNd3(Fe,Ti)29型結晶構造とは異なる「略」Nd3(Fe,Ti)29型結晶構造を有していた。略Nd3(Fe,Ti)29型の第1副相を含む試料25では、Nd3(Fe,Ti)29型の第1副相を含む他の実施例よりも保磁力が低下したものの、残留磁束密度がより高くなった。この結果から、残留磁束密度を特に高める観点では、低心斜方格子の略Nd3(Fe,Ti)29型結晶構造を有する第1副相を形成することが好ましいことがわかった。
【0127】
Smの含有率を高くした試料18(比較例)では、2-17相および1-3相などの軟磁性相が多く発生し、単斜晶または正方晶の第1副相が生成しなかった。また、Smの含有率を低くした試料21(比較例)では、α-Fe相などの軟磁性相の発生割合が高くなり、単斜晶または正方晶の第1副相が生成しなかった。この結果から、単斜晶または正方晶の第1副相を形成するためには、希土類永久磁石におけるSmの含有率を7at%以上10at%未満に設定することが好ましいことがわかった。