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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118311
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】空気ばねの高さの計算方法
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/10 20060101AFI20240823BHJP
   B61F 5/22 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B61F5/10 D
B61F5/22 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024668
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小坂田 潤
(57)【要約】
【課題】空気ばねの高さを正確に把握することのできる、空気ばね高さの計算方法を提供する。
【解決手段】鉄道車両(10)の空気ばねの高さの計算方法は、取得工程と、反復計算工程と、空気ばね高さ計算工程と、を備える。取得工程では、制御装置(50)が回転軸の回転角の情報を取得する。反復計算工程では、サンプリング周期毎に第1計算工程及び第2計算工程を3回以上交互に繰り返し行う。第1計算工程では、制御装置(50)が、車体(11)の傾斜角及び回転軸の回転角から2つの高さ調整装置(40a,40b)の高さを計算する。第2計算工程では、制御装置(50)が、第1計算工程で計算した2つの高さ調整装置(40a,40b)の高さから車体(11)の傾斜角を計算する。空気ばね高さ計算工程では、2つの高さ調整装置(40a,40b)の高さ、及び車体(11)の傾斜角を用いて、空気ばね(22a,22b)の高さを計算する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車と、車体と、前記台車と前記車体との間で左右に配置された2つの空気ばねと、前記2つの空気ばねに対応して配置された2つの高さ調整装置と、制御装置と、を備える鉄道車両の空気ばねの高さの計算方法であって、
前記2つの高さ調整装置はそれぞれ、前記鉄道車両の前後方向に延びる回転軸と、前記回転軸の一端に前記台車と前記車体との上下方向の相対変位に応じて回動可能に固定され、前記回転軸の半径方向に延びるレバーと、前記回転軸の他端に取り付けられ、前記回転軸の回転角を検出する回転角度センサと、を含み、
前記計算方法は、
前記制御装置が、所定のサンプリング周期毎に前記回転角度センサから前記回転軸の回転角の情報を取得する、取得工程と、
前記サンプリング周期毎に第1計算工程及び第2計算工程を3回以上交互に繰り返し行う反復計算工程であって、前記第1計算工程では、前記制御装置が、前記車体の傾斜角及び前記取得工程で取得した前記回転軸の回転角から前記2つの高さ調整装置の高さを計算し、前記第2計算工程では、前記制御装置が、前記第1計算工程で計算した前記2つの高さ調整装置の高さから前記車体の傾斜角を計算する、前記反復計算工程と、
前記反復計算工程の最後の前記第1計算工程で計算した前記2つの高さ調整装置の高さ、及び最後の前記第2計算工程で計算した前記車体の傾斜角を用いて、前記2つの空気ばねの高さを計算する、空気ばね高さ計算工程と、を備え、
前記反復計算工程において、前記サンプリング周期内での1回目の前記第1計算工程では、前記制御装置が、前記車体の傾斜角として任意の値を用い、n回目(ただし、nは2以上の整数である。)の前記第1計算工程では、前記制御装置が、前記車体の傾斜角として(n-1)回目の前記第2計算工程で計算した前記車体の傾斜角を用いる、計算方法。
【請求項2】
請求項1に記載の計算方法であって、
2回目以降の前記サンプリング周期での前記反復計算工程において、1回目の前記第1計算工程では、前記制御装置が、前記車体の傾斜角として以前の前記サンプリング周期で計算した前記車体の傾斜角を用いる、計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両の空気ばねの高さの計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、台車と、台車上に支持された車体とを備える。通常、鉄道車両の台車には、車体を支持するとともに車体の振動を緩和するため、左右にそれぞれ空気ばねが設けられている。空気ばねは、車体と台車の間に配置されている。車体が傾斜すると、それに応じて空気ばねの高さが変化する。空気ばねの高さは、高さ調整装置により、一定となるように制御されている。
【0003】
高さ調整装置は、左右の空気ばねに対応して、台車の左右にそれぞれ配置される。高さ調整装置は、高さ調整弁と、測定装置と、を備える。高さ調整弁は、典型的には車体に固定される。測定装置は、高さ調整弁と台車とを接続する。測定装置は、レバーと、回転軸と、回転角度センサと、連結棒と、を含む。レバーは、回転軸の一端に固定される。車体と台車との上下方向の相対変位に応じて回転軸が回転し、回転軸の回転に応じてレバーは回動可能に構成される。高さ調整弁には、貫通孔が形成されている。貫通孔は、例えば鉄道車両の前後方向に延びる。回転軸は貫通孔に挿通される。回転角度センサは、回転軸の他端に取り付けられ、回転軸の回転角を検出する。連結棒は、例えば上下方向に延び、レバーの回転軸とは反対側の端部と台車とを接続する。
【0004】
従来、回転角度センサで検出された回転軸の回転角から、空気ばねの高さを計算する技術が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、回転角度センサとしてアナログ式角度センサが用いられている。このアナログ式角度センサは、回動軸(回転軸)の回転角を検出する。特許文献1では、回転角から高さ検出装置(高さ調整装置)の高さを算出し、それを空気ばねの高さとしている。高さ検出装置の高さは、アナログ式角度センサで検出した回動軸の回転角及びレバーの長さから算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-104182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車体が傾斜したとき、空気ばね及び高さ調整装置は鉄道車両の左右方向中心からの距離に応じて上下方向に変位する。鉄道車両の左右方向において、空気ばねの位置は高さ調整装置の位置とずれている場合がある。そのため、得られる空気ばねの高さと実際の空気ばねの高さとの間に誤差が生じる。さらに、特許文献1に記載された高さ検出装置では、回動軸は鉄道車両の前後方向に延びる。このように、高さ調整装置の回転軸が前後方向に延びる場合、高さ調整装置の高さは、回転軸の回転角及びレバーの長さだけでなく、車体の傾斜角の影響を受ける。高さ調整装置は、車体に固定されているからである。一方、車体の傾斜角は、左右の高さ調整装置の高さから算出される。この場合、高さ調整装置の高さ及び車体の傾斜角は、計算によって一意に求めることができない。高さ調整装置の高さ及び車体の傾斜角が求まらないと、正確な空気ばねの高さを把握するのは困難である。
【0007】
本開示の目的は、高さ調整装置の回転軸が前後方向に延びる場合であっても、空気ばねの高さを正確に把握することのできる、空気ばね高さの計算方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る計算方法は、台車と、車体と、台車と車体との間で左右に配置された2つの空気ばねと、2つの空気ばねに対応して配置された2つの高さ調整装置と、制御装置と、を備える鉄道車両の空気ばねの高さの計算方法である。2つの高さ調整装置はそれぞれ、回転軸と、レバーと、回転角度センサと、を含む。回転軸は、鉄道車両の前後方向に延びる。レバーは、回転軸の一端に台車と車体との上下方向の相対変位に応じて回動可能に固定され、回転軸の半径方向に延びる。回転角度センサは、回転軸の他端に取り付けられ、回転軸の回転角を検出する。当該計算方法は、取得工程と、反復計算工程と、空気ばね高さ計算工程と、を備える。取得工程では、制御装置が、所定のサンプリング周期毎に回転角度センサから回転軸の回転角の情報を取得する。反復計算工程では、サンプリング周期毎に第1計算工程及び第2計算工程を3回以上交互に繰り返し行う。第1計算工程では、制御装置が、車体の傾斜角及び取得工程で取得した回転軸の回転角から2つの高さ調整装置の高さを計算する。第2計算工程では、制御装置が、第1計算工程で計算した2つの高さ調整装置の高さから車体の傾斜角を計算する。空気ばね高さ計算工程では、反復計算工程の最後の第1計算工程で計算した2つの高さ調整装置の高さ、及び最後の第2計算工程で計算した車体の傾斜角を用いて、2つの空気ばねの高さを計算する。反復計算工程において、サンプリング周期内での1回目の第1計算工程では、制御装置が、車体の傾斜角として任意の値を用い、n回目(ただし、nは2以上の整数である。)の第1計算工程では、制御装置が、車体の傾斜角として(n-1)回目の第2計算工程で計算した車体の傾斜角を用いる。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る空気ばね高さの計算方法によれば、高さ調整装置の回転軸が前後方向に延びる場合であっても、空気ばねの高さを正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、鉄道車両の概略構成を示す上面図である。
図2図2は、鉄道車両の概略構成を示す正面図である。
図3図3は、図2の部分拡大図である。
図4図4は、空気ばね及び高さ調整装置の正面図である。
図5図5は、図4の部分拡大図である。
図6図6は、実施形態に係る鉄道車両の空気ばねの高さの計算方法を示すフロー図である。
図7図7は、本実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、鉄道車両10の概略構成を示す上面図である。図1には、鉄道車両10のうち、台車及び高さ調整装置が模式的に示される。図2は、鉄道車両10の概略構成を示す正面図である。図2には、図1に示す鉄道車両10を進行方向前方から見たときの様子が示される。本明細書において、鉄道車両10の進行方向を前後方向と称し、鉄道車両10の幅方向を左右方向と称し、鉄道車両10の高さ方向を上下方向と称する場合がある。
【0012】
図1及び図2を参照して、鉄道車両10は、車体11と、第1の台車20と、第2の台車30と、高さ調整装置40a,40b,40c,40dと、制御装置50と、を備える。第1の台車20、第2の台車30、及び車体11を含む鉄道車両10は、レール上を走行する。図1に示す例では、鉄道車両10は下方向に進行する。要するに、第1の台車20は、鉄道車両10の進行方向前側に位置し、第2の台車30は、進行方向後側に位置する。
【0013】
第1の台車20は、台車枠21と、空気ばね22a,22bとを含む。空気ばね22a,22bは、第1の台車20の左右に配置される。第2の台車30は、台車枠31と、空気ばね32a,32bとを含む。空気ばね32a,32bは、第2の台車30の左右に配置される。
【0014】
第1の台車20において、高さ調整装置40a,40bは、それぞれ空気ばね22a,22bに対応して第1の台車20の左右に配置される。同様に、第2の台車30において、高さ調整装置40c,40dは、それぞれ空気ばね32a,32bに対応して第2の台車30の左右にそれぞれ配置される。
【0015】
第2の台車30は、前後方向において第1の台車20と実質的に対称な形状を有する。以下、図1及び図2を参照して第1の台車20の構成を詳しく説明するが、第2の台車30も同様の構成を有する。
【0016】
空気ばね22a,22bは、車体11と台車枠21との間に配置されて車体11を支持し、車体11の振動を緩和する。車体11が傾斜していないとき、空気ばね22a,22bの高さは、中立位置となっている。第1の台車20は、輪軸23をさらに含む。輪軸23は、台車枠21の前側と後側にそれぞれ配置される。輪軸23は、左右に一対の車輪231と、左右方向に延びる車軸232とを有する。左右の車輪231は、それぞれ車軸232の両端部に固定される。輪軸23の左右にそれぞれ軸箱25が配置されている。車軸232は、軸箱25内に設けられた軸受(図示略)によって回転可能に支持される。
【0017】
台車枠21は、左右に一対の側梁211と、横梁212とを含む。左右の側梁211は、それぞれ前後方向に延びる。横梁212は、左右方向に延び、左右の側梁211それぞれに接合される。左右の側梁211は、それぞれ、軸ばね24を介して軸箱25により支持されている。つまり、台車枠21は、前後の輪軸23によって支持されている。
【0018】
空気ばね22a,22bの高さは、高さ調整装置40a,40bによって一定になるように制御される。高さ調整装置40a,40bの各々は、高さ調整弁41a,41bと、測定装置42a,42bと、を備える。高さ調整弁41a,41bとして、LV(レベリングバルブ)を用いることができる。
【0019】
図3は、図2の部分拡大図である。図3には、高さ調整装置40aのみを拡大した図が示される。以下、図3を参照して高さ調整装置40aの構成について説明するが、高さ調整装置40bは、左右方向において高さ調整装置40aと実質的に対称な形状を有する。
【0020】
図2及び図3を参照して、高さ調整弁41aは、車体11に固定される。高さ調整弁41aには、貫通孔411aが形成されている。貫通孔411aは前後方向に延びる。
【0021】
高さ調整弁41aは、空気ばね22aに圧縮空気を供給し、あるいは空気ばね22a内の圧縮空気を排出させるための流路を有する。高さ調整弁41aは、空気ばね22aの上下方向の変位に応じて、空気ばね22aに圧縮空気を供給し、あるいは空気ばね22a内の圧縮空気を排出させる。具体的には、空気ばね22aが中立位置よりも下降した場合、高さ調整弁41aは空気ばね22aに圧縮空気を供給し、空気ばね22aの高さを中立位置に戻そうとする。また、空気ばね22aが中立位置よりも上昇した場合、高さ調整弁41aは、空気ばね22a内の圧縮空気を排出し、空気ばね22aの高さを中立位置に戻そうとする。
【0022】
測定装置42aは、高さ調整弁41aと第1の台車20とを接続する。測定装置42aは、レバー421aと、回転軸422aと、回転角度センサ423aと、連結棒424aと、を含む。回転軸422aは貫通孔411aに挿通される。挿通された回転軸422aは、貫通孔411aに沿って前後方向に延びる。レバー421aは、回転軸422aの一端(図3の紙面手前側)に固定される。レバー421aは、回転軸422aの回転に応じて回動可能に構成される。レバー421aは、回転軸422aの半径方向に延びる。回転角度センサ423aは、回転軸422aの他端(図3の紙面奥側)に取り付けられる。回転角度センサ423aは、典型的にはレゾルバである。連結棒424aは、上下方向に延び、レバー421aのうち回転軸422aとは反対側の端部と台車枠21とを接続する。レバー421aは、例えば回転軸425aによって連結棒424aに対して回動可能に構成される。
【0023】
回転軸422a及びレバー421aは、車体11と第1の台車20との上下方向の相対変位に応じて回転する。回転角度センサ423aは、回転軸422aの回転角を検出する。
【0024】
図2を参照して、制御装置50は、高さ調整装置40a,40bの各々に接続される。制御装置50は、例えば後述する各処理を実行するプログラムがインストールされたコンピュータを含む。具体的には、制御装置50は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、インターフェースとを含む。これらの構成は互いに通信可能に接続されている。制御装置50は、例えば、ロムをさらに含む。ロムには、プログラムが格納されている。プログラムがメモリにロードされ、CPUで実行させることにより、制御装置50による制御が実現する。インターフェースは、例えば表示器に接続されている。表示器には、CPUがプログラムを実行した結果が表示される。
【0025】
第1の台車20は、鉄道車両10の左右方向に対称な形状を有する。左右方向において、第1の台車20の空気ばね22a,22bの各々の位置は、対応する高さ調整装置40a,40bの位置とずれている。具体的には、空気ばね高さの検出感度を上げるために、高さ調整装置40a,40bの各々は、空気ばね22a,22bよりも外側に配置される。言い換えると、左右方向において、第1の台車20の中心Cから一方の高さ調整装置までの距離Lは、中心Cから一方の空気ばねまでの距離Lよりも大きい。
【0026】
高さ調整装置40a,40b,40c,40dの高さh,h,h,hは、それぞれ下記の式(1)~(4)のように表される。高さh,h,h,hが正の値の場合は、当該高さ調整装置の位置が基準よりも高いことを意味し、負の値の場合は、当該高さ調整装置の位置が基準よりも低いことを意味する。基準となる高さ(高さh,h,h,hが0の場合)は、車体11の傾斜がないときの高さ調整装置40a,40b,40c,40dそれぞれの高さである。下記の式(1)~(4)において、角度θ,θ,θ,θは、それぞれ高さ調整装置40a,40b,40c,40dの回転軸の回転角である。各高さ調整装置40a,40b,40c,40dを回転軸のレバー側から回転角度センサ側に向かって見たとき、回転軸の回転角が正の値の場合は反時計周りの回転を意味し、負の値の場合は時計回りの回転を意味する。また、角度φは鉄道車両10の前側(第1の台車20側)における車体11の傾斜角であり、角度φは鉄道車両10の後側(第2の台車30側)における車体11の傾斜角である。長さaは、高さ調整装置40a,40b,40c,40dそれぞれのレバーの長さである。
=a×sin(θ+φ)×(-1) (1)
=a×sin(θ+φ)×(+1) (2)
=a×sin(θ-φ)×(+1) (3)
=a×sin(θ-φ)×(-1) (4)
【0027】
以下、図4及び図5を参照して、上記の式(1)の詳細な導出方法について説明する。図4は、空気ばね22a,22b及び高さ調整装置40a,40bの正面図である。図5は、図4の部分拡大図である。図5には、高さ調整装置40aのみを拡大した図が示される。ただし、図4及び図5では、説明の便宜上、各構成の大きさが誇張して表されている場合がある。
【0028】
図4及び図5を参照して、車体11は、傾斜角φで左右方向に傾斜している。車体11は、空気ばね22a側が低く、空気ばね22b側が高くなるように傾斜している。傾斜角φは、前後方向から見て、傾斜がないときの車体11の下面に対応する面Pと、傾斜後の車体11の下面とのなす角度である。車体11が左右方向に傾斜しているとき、図4に示されるように、空気ばね22a,22bの高さは、高さ調整装置40a,40bの高さと異なる。
【0029】
図5を参照して、高さ調整装置40aの高さは、車体11が傾斜していないときと比較して低くなる。高さ調整装置40aにおいて、車体11の傾斜がないとき、回転軸422aの中心4221aの高さは、回転軸425aの中心4251aの高さと実質的に同じである。しかしながら、車体11が傾斜角φで傾斜したとき、回転軸422aの中心4221aの高さは、回転軸425aの中心4251aの高さよりも低くなる。回転軸425aの中心4251aの高さと回転軸422aの中心4221aの高さとの差は、高さ調整装置40aの上面が面Pからどの程度低下したかを示し、高さ調整装置40aの高さhに対応する。
【0030】
図5において、面Qは、面Pに平行で回転軸425aの中心4251aを通る面である。面Rは、傾斜後の車体11の下面に平行で、回転軸425aの中心4251aを通る面である。面Sは、回転軸422aの中心4221a及び回転軸425aの中心4251aを通る面である。図5を参照して、回転軸425aの中心4251aの高さと回転軸422aの中心4221aの高さとの差は、a×sin(θ+φ)と表される。上述した通り、aはレバー421aの長さである。レバー421aの長さとは、回転軸422aの中心4221aから回転軸425aの中心4251aまでの長さを意味する。高さ調整装置40aの高さは車体11の傾斜によって低下しているため、a×sin(θ+φ)に(-1)を乗じることにより、高さ調整装置40aの高さhが計算できる。これにより、上記の式(1)が導出される。他の式(2)~(4)も同様の手順で導出可能である。
【0031】
図4を参照して、第1の台車20において、高さ調整装置40a,40bの高さh,hを用いて、鉄道車両10の前側における車体11の傾斜角φは下記の式(5)のように表される。同様の手順により、第2の台車30(図1)において、高さ調整装置40c,40dの高さh,hを用いて、鉄道車両10の後側における車体11の傾斜角φは下記の式(6)のように表される。
φ=sin-1{(h-h)/2L} (5)
φ=sin-1{(h-h)/2L} (6)
【0032】
上記の式(1)~(6)を用いた計算を繰り返し行うことにより、高さh,h,h,h及び傾斜角φ,φを正確に計算することができる。以下、第1の台車20において、高さh,h及び傾斜角φを計算する場合について説明するが、第2の台車30(高さh,h及び傾斜角φ)についても同様に計算することができる。
【0033】
まず、高さ調整装置40aの回転軸422aの回転角θの情報を入手する。高さ調整装置40aの回転軸422aの回転角θは、回転角度センサ423aによって検出される。高さ調整装置40bについても同様に、回転軸の回転角θの情報を入手する。次に、入手した高さ調整装置40a,40bの回転軸の回転角θ,θを用いて、上記の式(1)及び(2)から、高さh,hを計算する。そして、得られた高さh,hを用いて、上記の式(5)から、傾斜角φを計算する。この傾斜角φを用いて上記の式(1)及び(2)を再び計算すると、より高精度な高さh,hが得られる。高精度な高さh,hを用いて上記の式(5)を再び計算すると、より高精度な傾斜角φが得られる。これを繰り返すことにより、正確な高さh,h及び傾斜角φを計算することができる。
【0034】
上述した通り、空気ばね22a,22bの高さは、高さ調整装置40a,40bの高さと異なる。空気ばね22a,22bの高さと高さ調整装置40a,40bの高さとの差は、(L-L)sinφと表される。(L-L)は、左右方向において、第1の台車20の中心Cから一方の高さ調整装置までの距離Lと、中心Cから一方の空気ばねまでの距離Lとの差である。このことから、空気ばね22a,22bの高さH,Hは、それぞれ下記の式(7)及び(8)のように表される。第2の台車30においても同様に、空気ばね32a,32bの高さH,Hは、それぞれ下記の式(9)及び(10)のように表される。
=h+(L-L)sinφ(7)
=h-(L-L)sinφ(8)
=h+(L-L)sinφ(9)
=h-(L-L)sinφ(10)
【0035】
このように、高さ調整装置40a,40b,40c,40dの高さh,h,h,h及び車体の傾斜角φ,φが得られれば、上記の式(7)~(10)を用いて空気ばねの高さを正確に計算することができる。そこで、本発明者は、高さh,h,h,h及び傾斜角φ,φを高精度に計算する方法を検討した。その結果、本発明者は、実施形態に係る計算方法を完成させた。
【0036】
実施形態に係る計算方法は、台車と、車体と、台車と車体との間で左右に配置された2つの空気ばねと、2つの空気ばねに対応して配置された2つの高さ調整装置と、制御装置と、を備える鉄道車両の空気ばねの高さの計算方法である。2つの高さ調整装置はそれぞれ、回転軸と、レバーと、回転角度センサと、を含む。回転軸は、鉄道車両の前後方向に延びる。レバーは、回転軸の一端に台車と車体との上下方向の相対変位に応じて回動可能に固定され、回転軸の半径方向に延びる。回転角度センサは、回転軸の他端に取り付けられ、回転軸の回転角を検出する。当該計算方法は、取得工程と、反復計算工程と、空気ばね高さ計算工程と、を備える。取得工程では、制御装置が、所定のサンプリング周期毎に回転角度センサから回転軸の回転角の情報を取得する。反復計算工程では、サンプリング周期毎に第1計算工程及び第2計算工程を3回以上交互に繰り返し行う。第1計算工程では、制御装置が、車体の傾斜角及び取得工程で取得した回転軸の回転角から2つの高さ調整装置の高さを計算する。第2計算工程では、制御装置が、第1計算工程で計算した2つの高さ調整装置の高さから車体の傾斜角を計算する。空気ばね高さ計算工程では、反復計算工程の最後の第1計算工程で計算した2つの高さ調整装置の高さ、及び最後の第2計算工程で計算した車体の傾斜角を用いて、2つの空気ばねの高さを計算する。反復計算工程において、サンプリング周期内での1回目の第1計算工程では、制御装置が、車体の傾斜角として任意の値を用い、n回目(ただし、nは2以上の整数である。)の第1計算工程では、制御装置が、車体の傾斜角として(n-1)回目の第2計算工程で計算した車体の傾斜角を用いる(第1の構成)。
【0037】
第1の構成に係る計算方法では、制御装置により、空気ばねの高さの計算が行われる。制御装置は、第1計算工程において、車体の傾斜角及び2つの高さ調整装置の回転軸の回転角から2つの高さ調整装置の高さを計算する。制御装置は、第2計算工程において、第1計算工程で計算した2つの高さ調整装置の高さから車体の傾斜角を計算する。制御装置は、反復計算工程において、第1計算工程及び第2計算工程を3回以上交互に繰り返し行う。これにより、高精度な2つの高さ調整装置の高さ及び車体の傾斜角が得られる。そして、空気ばね高さ計算工程では、制御装置により、空気ばねの高さを計算するのに2つの高さ調整装置の高さ及び車体の傾斜角が用いられる。この空気ばねの高さの計算において、2つの高さ調整装置の高さ及び車体の傾斜角として反復計算工程で得られた高精度な値が用いられる。これにより、空気ばねの高さを正確に把握することができる。
【0038】
第1の構成に係る計算方法は、下記の構成を備えてもよい。2回目以降のサンプリング周期での反復計算工程において、1回目の第1計算工程では、制御装置が、車体の傾斜角として以前のサンプリング周期で計算した車体の傾斜角を用いる(第2の構成)。第2の構成の計算方法では、1回目の第1計算工程で、以前のサンプリング周期で計算された車体の傾斜角が用いられる。そのため、そのサンプリング周期内での1回目の第1計算工程では、任意の値を車体の傾斜角として用いる場合と比較して、2つの高さ調整装置の高さを高精度に計算することができる。
【0039】
[計算方法]
図6は、本実施形態に係る鉄道車両10の空気ばねの高さの計算方法を示すフロー図である。図6を参照して、本実施形態に係る計算方法は、取得工程(#5)と、反復計算工程(#10)と、空気ばね高さ計算工程(#15)と、を備える。鉄道車両10の制御装置50は、取得工程(#5)と、反復計算工程(#10)と、空気ばね高さ計算工程(#15)とを実行するように構成される。以下、本実施形態に係る計算方法を用いて空気ばね22a,22bの高さH,Hを計算する方法を説明する。ただし、空気ばね32a,32bの高さH,Hについても同様に計算することができる。
【0040】
取得工程(#5)では、制御装置50が、所定のサンプリング周期毎に各高さ調整装置40a,40bから回転軸の回転角θ,θの情報を取得する。例えば、高さ調整装置40aに着目すると、制御装置50は、高さ調整装置40aの回転角度センサ423aで検出した回転軸422aの回転角θの情報を取得する。
【0041】
サンプリング周期は、制御装置50が各高さ調整装置40a,40bから回転軸の回転角θ,θの情報を取得する周期である。サンプリング周期は、特に限定されるものではないが、例えば50msecである。
【0042】
反復計算工程(#10)では、サンプリング周期毎に第1計算工程(#10A)及び第2計算工程(#10B)を交互に繰り返し行う。反復計算工程(#10)において、1回のサンプリング周期内で第1計算工程(#10A)及び第2計算工程(#10B)を繰り返し行う回数は、好ましくは3回以上であり、より好ましくは10回以上である。
【0043】
第1計算工程(#10A)では、制御装置50が、車体11の傾斜角φ及び取得工程(#5)で取得した回転軸の回転角θ,θから高さ調整装置40a,40bの高さh,hを計算する。具体的には、制御装置50は、上記の式(1)及び(2)を用いて、高さ調整装置40a,40bの高さh,hを計算する。
【0044】
1回目のサンプリング周期での反復計算工程(#10)において、そのサンプリング周期内で1回目の第1計算工程(#10A)を行う時点では、車体11の傾斜角φは不明である。その場合、任意の値を傾斜角φとして用いる。
【0045】
後述するように、反復計算工程(#10)では、サンプリング周期内において、車体11の傾斜角φが計算される。そのため、2回目以降のサンプリング周期での反復計算工程(#10)では、そのサンプリング周期内で1回目の第1計算工程(#10A)において、以前のサンプリング周期で計算された車体11の傾斜角φを用いてもよい。例えば、3回目以降のサンプリング周期での反復計算工程(#10)では、1つ前のサンプリング周期で計算された傾斜角φが用いられてもよいし、2つ以上前のサンプリング周期で計算された傾斜角φが用いられてもよい。この場合、任意の値を傾斜角φとして用いる場合と比較して、そのサンプリング周期内の1回目の第1計算工程(#10A)において高さ調整装置40a,40bの高さh,hを高精度に計算することができる。
【0046】
第2計算工程(#10B)では、制御装置50が、第1計算工程(#10A)で計算した高さ調整装置40a,40bの高さh,hから車体11の傾斜角φを計算する。具体的には、制御装置50は、上記の式(5)を用いて、車体11の傾斜角φを計算する。
【0047】
上述した通り、反復計算工程(#10)では、サンプリング周期毎に第1計算工程(#10A)及び第2計算工程(#10B)が交互に繰り返し行われる。サンプリング周期内で2回目の第1計算工程(#10A)では、1回目の第2計算工程(#10B)で計算した車体11の傾斜角φを用いて高さ調整装置40a,40bの高さh,hを計算する。すると、1回目の第1計算工程(#10A)と比較して、より高精度な高さh,hが得られる。さらに、2回目の第2計算工程(#10B)では、2回目の第1計算工程(#10A)で計算した高さ調整装置40a,40bの高さh,hを用いて車体11の傾斜角φを計算する。すると、1回目の第2計算工程(#10B)と比較して、より高精度な傾斜角φが得られる。
【0048】
反復計算工程(#10)では、サンプリング周期内でn回目(nは2以上の整数)の第1計算工程(#10A)では、制御装置50が、車体11の傾斜角φとして(n-1)回目の第2計算工程(#10B)で計算した傾斜角φを用いる。また、サンプリング周期内でn回目の第2計算工程(#10B)では、制御装置50が、高さ調整装置40a,40bの高さh,hとしてn回目の第1計算工程(#10A)で計算した高さ調整装置40a,40bの高さh,hを用いる。このように、反復計算工程(#10)において、第1計算工程(#10A)及び第2計算工程(#10B)を交互に繰り返し行うことにより、正確な高さh,h及び傾斜角φを計算することができる。
【0049】
空気ばね高さ計算工程(#15)では、高さ調整装置40a,40bの高さh,h及び車体11の傾斜角φを用いて、空気ばね22a,22bの高さH,Hを計算する。具体的には、制御装置50は、上記の式(7)及び(8)を用いて、空気ばね22a,22bの高さH,Hを計算する。空気ばね高さ計算工程(#15)では、高さ調整装置40a,40bの高さh,hとして、反復計算工程(#10)においてサンプリング周期内の最後に行われた第1計算工程(#10A)で計算した高さh,hが用いられる。また、空気ばね高さ計算工程(#15)では、車体11の傾斜角φとして、反復計算工程(#10)においてサンプリング周期内の最後に行われた第2計算工程(#10B)で計算した傾斜角φが用いられる。
【0050】
[効果]
実施形態に係る計算方法では、制御装置50により、空気ばね22a,22bの高さH,Hの計算が行われる。制御装置50は、第1計算工程(#10A)において、車体11の傾斜角φ及び高さ調整装置40a,40bの回転軸の回転角θ,θから高さ調整装置40a,40bの高さh,hを計算する。制御装置50は、第2計算工程(#10B)において、第1計算工程(#10A)で計算した高さh,hから車体11の傾斜角φを計算する。制御装置50は、反復計算工程(#10)において、第1計算工程(#10A)及び第2計算工程(#10B)を3回以上交互に繰り返し行う。これにより、高精度な高さh,h及び傾斜角φが得られる。そして、空気ばね高さ計算工程(#15a)では、制御装置50により、空気ばね22a,22bの高さH,Hを計算するのに高さh,h及び傾斜角φが用いられる。この空気ばね22a,22bの高さH,Hの計算において、高さh,h及び傾斜角φとして反復計算工程(#10)で得られた高精度な値が用いられる。これにより、空気ばね22a,22bの高さH,Hを正確に把握することができる。
【実施例0051】
以下、実施例によって本開示の計算方法をさらに詳しく説明する。本実施例では、鉄道車両に対して本開示に係る計算を適用し、計算で得られた空気ばねの高さと実際の空気ばねの高さとの誤差を調査した。
【0052】
本実施例では、2つの条件(本発明例1及び本発明例2)で空気ばねの高さの計算を行った。本発明例1では、反復計算工程(#10)において、サンプリング周期内で1回目の第1計算工程(#10A)では、1つ前のサンプリング周期で計算された車体の傾斜角を用いた。一方、本発明例2では、反復計算工程(#10)において、サンプリング周期内で1回目の第1計算工程(#10A)では、車体の傾斜角としてゼロを用いた。
【0053】
図7は、本実施例の結果を示すグラフである。図7において、縦軸は計算で得られた空気ばねの高さと実際の空気ばねの高さとの誤差(mm)を示し、横軸はあるサンプリング周期での第1計算工程(#10A)及び第2計算工程(#10B)を繰り返した回数を示す。
【0054】
図7を参照して、繰り返し回数が1回又は2回の時点では、本発明例2は本発明例1と比較して誤差が大きかった。これは、本発明例2では、サンプリング周期での計算結果を次のサンプリング周期での計算に反映させなかったからと考えられる。しかしながら、繰り返し回数が3回以上では、本発明例2での誤差は本発明例1での誤差と同程度であった。この結果から、サンプリング周期内で1回目の第1計算工程(#10A)において車体の傾斜角としてどのような値を用いても、サンプリング周期内での繰り返し回数を3回以上とすれば誤差を小さくできることが分かる。
【0055】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0056】
10:鉄道車両
11:車体
20:第1の台車
22a,22b:空気ばね
40a,40b:高さ調整装置
421a:レバー
422a:回転軸
423a:回転角度センサ
50:制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7