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特開2024-118316二酸化塩素ガスによる除染方法及び除染装置
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  • 特開-二酸化塩素ガスによる除染方法及び除染装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118316
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】二酸化塩素ガスによる除染方法及び除染装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/20 20060101AFI20240823BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240823BHJP
   B01D 53/28 20060101ALI20240823BHJP
   A61L 101/06 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
A61L2/20
A61L9/01 F
B01D53/28
A61L101:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024674
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】502131811
【氏名又は名称】株式会社新興精機
(71)【出願人】
【識別番号】523061180
【氏名又は名称】辻 武彦
(71)【出願人】
【識別番号】523060116
【氏名又は名称】株式会社エスクリエイト
(71)【出願人】
【識別番号】520280380
【氏名又は名称】株式会社トラステック愛知
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】辻 武彦
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
4D052
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058AA30
4C058BB07
4C058CC02
4C058CC05
4C058DD01
4C058DD07
4C058DD13
4C058EE26
4C058JJ16
4C180AA07
4C180CA04
4C180EA14X
4C180EA56Y
4C180EA57X
4C180HH05
4C180KK02
4C180LL20
4D052AA09
4D052CE00
4D052GA01
4D052GA03
4D052GB08
4D052HA03
(57)【要約】
【課題】除染の際に、除染対象となる密閉空間内を充分な低湿度環境に維持して、空間内の腐食を抑止できると共に、安全性に優れ、短時間で除染作業が完了可能な二酸化塩素ガスによる除染方法及び除染装置を提供する。
【解決手段】除染装置Aは、装置本体1と、濃度計測機構2と、除湿回収機構3と、ガス生成機構4を有している。除湿回収機構3は、回収カートリッジ部30と、ラインブロワー31を有している。また、回収カートリッジ部30は、活性炭が充填された上層部300と、結晶性ゼオライトが充填された下層部301の2つの層が形成されている。また、ガス生成機構4は、除湿カートリッジ43を有している。また、除湿カートリッジ43は、曝気槽40で生成した、二酸化塩素ガスと水蒸気から構成された供給用ガスを通過させ、水蒸気を捕捉して除湿し、二酸化塩素ガスのみを密閉空間Sの内部に供給するための部材である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉空間への二酸化塩素の気相付与により、前記密閉空間内の所定の微生物を低減する二酸化塩素ガスによる除染方法であって、
前記密閉空間内の空気を吸引して除湿し、かつ、除湿した後の空気を同密閉空間に戻して、同密閉空間内を相対湿度32%未満、かつ、絶対湿度10g/m未満の環境下にする除湿工程と、
二酸化塩素ガス及び水蒸気を含む供給用ガスを発生させ、前記密閉空間へと供給する前に、前記供給用ガスを除湿して、前記二酸化塩素ガスを前記密閉空間内へと供給する二酸化塩素ガス供給工程と、
前記二酸化塩素ガス供給工程の後、前記二酸化塩素ガスの前記密閉空間への供給を停止し、同密閉空間に二酸化塩素ガスを曝露する曝露工程と、
前記曝露工程の後、前記密閉空間内の空気を吸引して、前記二酸化塩素ガスを回収すると共に、同密閉空間内の前記二酸化塩素ガスの濃度を0.1ppm未満まで低下させる回収工程と、を備える
二酸化塩素ガスによる除染方法。
【請求項2】
前記二酸化塩素ガス供給工程では、分子直径0.3nm未満の物質を吸着可能な結晶性ゼオライトに、前記供給用ガスを通過させて除湿する
請求項1に記載の二酸化塩素ガスによる除染方法。
【請求項3】
前記除湿工程では、前記結晶性ゼオライトに前記密閉空間内の空気を通過させて除湿する
請求項2に記載の二酸化塩素ガスによる除染方法。
【請求項4】
前記二酸化塩素ガス供給工程では、濃度が250ppm~1500ppmの範囲内で、前記二酸化塩素ガスを前記密閉空間へ供給する
請求項1または請求項2に記載の二酸化塩素ガスによる除染方法。
【請求項5】
前記曝露工程では、少なくともCT値1100ppm・時となるまで前記密閉空間に二酸化塩素ガスを曝露する
請求項1または請求項2に記載の二酸化塩素ガスによる除染方法。
【請求項6】
前記曝露工程で前記密閉空間内における前記二酸化塩素ガスのCT値が目標値に達したことを検知して、前記回収工程が自動的に開始される
請求項1または請求項2に記載の二酸化塩素ガスによる除染方法。
【請求項7】
前記二酸化塩素ガス供給工程及び前記曝露工程では、前記密閉空間内を相対湿度32%未満、かつ、絶対湿度10g/m未満の環境下に維持する
請求項1または請求項2に記載の二酸化塩素ガスによる除染方法。
【請求項8】
前記二酸化塩素ガス供給工程では、前記密閉空間内の気体を吸引して、活性炭を通過させた後、前記供給用ガスの発生に利用する
請求項1または請求項2に記載の二酸化塩素ガスによる除染方法。
【請求項9】
前記密閉空間は、安全キャビネットまたは動物飼育用のアイソレーターである
請求項1または請求項2に記載の二酸化塩素ガスによる除染方法。
【請求項10】
密閉空間への二酸化塩素の気相付与により、前記密閉空間内の所定の微生物を低減する除染装置であって、
前記密閉空間側に設けられた気体の供給口及び排気口のそれぞれと、配管経路を介して接続された除染装置本体と、
前記密閉空間内の相対湿度及び絶対湿度を測定する湿度測定部と、
前記密閉空間内の二酸化塩素ガス濃度を測定するガス濃度計測部と、
前記密閉空間内から吸引した空気を除湿し、同密閉空間内を相対湿度32%未満、かつ、絶対湿度10g/m未満の環境下にする第1の除湿部と、
前記二酸化塩素ガスの薬液を混合する曝気槽と、
前記曝気槽に気体を送り込み、前記二酸化塩素ガス及び水蒸気を含む供給用ガスを生成すると共に、前記供給口と接続された前記配管経路を介して、前記供給用ガスを前記密閉空間内に向けて送り出すエアーポンプと、
前記供給口と接続された前記配管経路上に設けられ、前記供給用ガスを除湿する第2の除湿部と、
前記二酸化塩素ガスに一定時間曝露した前記密閉空間内の空気を吸引し、同二酸化塩素ガスを回収して、同密閉空間内の同二酸化塩素ガスの濃度を0.1ppm未満まで低下させる回収部と、を備える
除染装置。
【請求項11】
前記第2の除湿部は、分子直径0.3nm未満の物質を吸着可能な結晶性ゼオライトを有する
請求項10に記載の除染装置。
【請求項12】
前記第1の除湿部は、前記結晶性ゼオライトを有する
請求項10に記載の除染装置。
【請求項13】
前記回収部は、活性炭を有する
請求項10または請求項11に記載の除染装置。
【請求項14】
前記第1の除湿部を有する層と、前記回収部を有する層が設けられた回収カートリッジ部を備える
請求項10または請求項11に記載の除染装置。
【請求項15】
前記湿度測定部が測定した前記密閉空間内の相対湿度及び絶対湿度、または、前記ガス濃度計測部が測定した前記二酸化塩素ガスの濃度に基づき、前記曝気槽、前記エアーポンプ及び前記回収部の駆動を自動制御するシーケンサーを備える
請求項10または請求項11に記載の除染装置。
【請求項16】
前記ガス濃度計測部は、光吸収方式で前記二酸化塩素ガスの濃度を測定し、計測分解能が0.001ppmである
請求項10または請求項11に記載の除染装置。
【請求項17】
前記エアーポンプは、前記排気口と接続され、かつ、活性炭で構成された気体浄化部が設けられた前記配管経路を介して、前記密閉空間内の気体を吸引すると共に、吸引した気体を前記曝気槽に送り込む
請求項10または請求項11に記載の除染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二酸化塩素ガスによる除染方法及び除染装置に関する。詳しくは、除染の際に、除染対象となる密閉空間内を充分な低湿度環境に維持して、空間内の腐食を抑止できると共に、安全性に優れ、短時間で除染作業が完了可能な二酸化塩素ガスによる除染方法及び除染装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、安全キャビネットや動物実験用のアイソレーター等の密閉空間内における防菌、防カビ対策となる除染の手段として、発がん性物質であるホルマリンに代えて、二酸化塩素ガスを用いた除染の検討が進められている。
【0003】
二酸化塩素ガスは、アメリカ環境保護局(Environmental Protection Agency,EPA)において燻蒸の滅菌剤として1988年より認可されている。また、環境消毒や無菌操作が求められるバイオセイフティキャビネット内を二酸化塩素ガスで滅菌する方法は、米国国家規格協会(ANSI)によって規格化されている。
【0004】
また、二酸化塩素ガスを用いて密閉空間内を除染する際には、空間内の内容物、例えば、当該密閉空間を形成する部材が、鉄、アルミニウム、銅、その他金属部材である場合、これらの内容物が腐食することを避けるために、密閉空間内を低湿度環境に維持することが求められる。
【0005】
こうしたなか、除染を必要とする空間内の内容物を腐食することなく、従来に比べ、安全かつ短時間に大空間の除染を可能とすることを試みた除染方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この特許文献1に記載された除染方法では、水蒸気量10g/m以下、かつ相対湿度31%以下の環境下とした密閉空間において、二酸化塩素ガスを発生させる工程と、二酸化塩素ガス濃度230ppm以下、かつCT値50~2000ppm・時で二酸化塩素ガスを密閉空間へ導入する工程とを含む方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献1では、密閉空間内の相対湿度が低い場合であっても、水蒸気量が10g/m3以上となった場合、特に表面処理が施されていない鉄、アルミニウム、銅などは腐食の発生リスクが高くなり、従来から除染時に実施されている相対湿度による室内管理では、内容物の腐食を防止するのに不十分であることが述べられている。
【0008】
また、特許文献1では、密閉空間内の水蒸気量を10g/m3以下とすることにより、二酸化塩素ガスの拡散がより良好となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6637631号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された除染方法では、水蒸気量10g/m以下、かつ相対湿度31%以下の環境下とすることが、密閉空間内の内容物の腐食を防止するために必要な条件とされていながら、密閉空間内における水蒸気量及び相対湿度を低く維持することが実際には困難である。
【0011】
より詳しくは、特許文献1に記載された除染方法では、二酸化塩素ガスを発生させる際に、これに伴って生じる水蒸気を補足することが全く考慮されていない。
【0012】
特許文献1に記載された除染方法では、二酸化塩素水に対してエアレーションを行うことで二酸化塩素ガスを遊離させ、密閉空間に供給するが、この際、溶液中からは、二酸化塩素ガスと共に水蒸気が揮発する。
【0013】
そして、この水蒸気は、二酸化塩素ガスと共に、除染対象となる密閉空間内に供給されてしまうことから、空間内は容易に湿度が上昇してしまう。即ち、密閉空間内では、二酸化塩素ガスの供給が開始されると、目的となる低湿度の条件を維持できなくなってしまう。
【0014】
従って、特許文献1に記載された除染方法では、二酸化塩素ガスを密閉空間内に供給する前の段階では、所定の低湿度の環境下となっていても、二酸化塩素ガスの供給を開始した後は、水蒸気量及び相対湿度が上がってしまい、密閉空間内の内容物の腐食を防止して除染を行うことができなかった。
【0015】
また、特許文献1に記載された除染方法を含め、従前の二酸化塩素ガスを用いた除染方法では、より短時間で二酸化塩素ガスを回収して、密閉空間を使用可能な状況にする点で不充分であり、改良の余地があった。
【0016】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、除染の際に、除染対象となる密閉空間内を充分な低湿度環境に維持して、空間内の腐食を抑止できると共に、安全性に優れ、短時間で除染作業が完了可能な二酸化塩素ガスによる除染方法及び除染装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明の二酸化塩素ガスによる除染方法は、密閉空間への二酸化塩素の気相付与により、前記密閉空間内の所定の微生物を低減する二酸化塩素ガスによる除染方法であって、前記密閉空間内の空気を吸引して除湿し、かつ、除湿した後の空気を同密閉空間に戻して、同密閉空間内を相対湿度32%未満、かつ、絶対湿度10g/m未満の環境下にする除湿工程と、二酸化塩素ガス及び水蒸気を含む供給用ガスを発生させ、前記密閉空間へと供給する前に、前記供給用ガスを除湿して、前記二酸化塩素ガスを前記密閉空間内へと供給する二酸化塩素ガス供給工程と、前記二酸化塩素ガス供給工程の後、前記二酸化塩素ガスの前記密閉空間への供給を停止し、同密閉空間に二酸化塩素ガスを曝露する曝露工程と、前記曝露工程の後、前記密閉空間内の空気を吸引して、前記二酸化塩素ガスを回収すると共に、同密閉空間内の前記二酸化塩素ガスの濃度を0.1ppm未満まで低下させる回収工程と、を備える。
【0018】
ここで、除湿工程で、密閉空間内の空気を吸引して除湿し、かつ、除湿した後の空気を密閉空間に戻して、密閉空間内を相対湿度32%未満、かつ、絶対湿度10g/m未満の環境下にすることによって、除染の対象となる密閉空間を、内容物が腐食しにくい低湿度の環境下にすることができる。即ち、例えば、除染を行う前に、密閉空間の内部が、湿度が高い環境にあった際でも、除染の作業の前に、密閉空間の内部の湿度を低くして、その後の処理を進めることが可能となる。
【0019】
また、二酸化塩素ガス供給工程で、二酸化塩素ガス及び水蒸気を含む供給用ガスを発生させ、密閉空間へと供給する前に、供給用ガスを除湿して、二酸化塩素ガスを密閉空間内へと供給することによって、二酸化塩素ガスを生成する際に、同時に生成する水蒸気が、二酸化塩素ガスと共に密閉空間に導入され、密閉空間内の湿度が上昇することを抑止できる。また、これにより、除湿工程で低湿度の環境下にした状態を、二酸化塩素ガスの導入の際に維持可能となる。
【0020】
また、曝露工程で、二酸化塩素ガス供給工程の後、二酸化塩素ガスの密閉空間への供給を停止し、密閉空間に二酸化塩素ガスを曝露することによって、二酸化塩素ガスで、密閉空間内を除染することができる。即ち、密閉空間に二酸化塩素ガスを作用させ、密閉空間内の所定の微生物を低減することができる。
【0021】
また、回収工程で、曝露工程の後、密閉空間内の空気を吸引して、二酸化塩素ガスを回収すると共に、密閉空間内の二酸化塩素ガスの濃度を0.1ppm未満まで低下させることによって、除染した後の密閉空間における二酸化塩素ガスの濃度を、人体等に安全な濃度まで下げることができる。即ち、除染後の密閉空間を、作業者等が使用可能な安全な環境にすることができる。
なお、二酸化塩素ガスの濃度0.1ppmとは、米国労働安全衛生局(U.S.OSHA)が労働安全衛生の観点から設定した、二酸化塩素の吸入における許容曝露濃度の8時間加重平均値(PEL-TWA)である。
【0022】
また、二酸化塩素ガス供給工程で、分子直径0.3nm未満の物質を吸着可能な結晶性ゼオライトに、供給用ガスを通過させて除湿する場合には、水分子を結晶性ゼオライトに吸着させて除湿可能となる。即ち、二酸化塩素ガスと一緒に生成する水蒸気に対して、水蒸気のみを選択的に結晶性ゼオライトで捕捉し、二酸化塩素ガスのみを効率良く、密閉空間内に供給することが可能となる。
【0023】
また、除湿工程で、結晶性ゼオライトに密閉空間内の空気を通過させて除湿する場合には、密閉空間内にあった空気中に含まれる水分子を結晶性ゼオライトに吸着させて除湿可能となる。即ち、除湿工程においても、密閉空間内の空気中から、水分子のみを選択的に結晶性ゼオライトで捕捉し、密閉空間内を除湿することができる。
【0024】
また、二酸化塩素ガス供給工程で、濃度が250ppm~1500ppmの範囲内で、二酸化塩素ガスを密閉空間へ供給する場合には、密閉空間内を短時間で効率良く除染できると共に、安全性が担保しやすい濃度で、二酸化塩素ガスを取り扱うことが可能となる。
【0025】
ここで、二酸化塩素ガス供給工程で、濃度が250ppm未満で、二酸化塩素ガスを密閉空間へ供給する場合には、密閉空間を二酸化塩素ガスに曝露して除染する際に、二酸化塩素ガスの濃度が低く、除染の効率が下がり、除染が完了するまでの時間が長くなってしまう。また、二酸化塩素ガス供給工程で、濃度が1500ppmを超えて、二酸化塩素ガスを密閉空間へ供給する場合には、爆発の危険性が高まり、安全性が担保しにくくなってしまう。
【0026】
また、曝露工程では、少なくともCT値1100ppm・時となるまで密閉空間に二酸化塩素ガスを曝露する場合には、密閉空間の除染を充分に行うことが可能となる。
【0027】
また、曝露工程で密閉空間内における二酸化塩素ガスのCT値が目標値に達したことを検知して、回収工程が自動的に開始される場合には、密閉空間内に供給した二酸化塩素ガスを、効率良く回収することが可能となる。この結果、除染の準備を開始してから、除染が完了し、密閉空間が使用可能となるまでの時間を短縮することができる。
【0028】
また、二酸化塩素ガス供給工程及び曝露工程では、密閉空間内を相対湿度32%未満、かつ、絶対湿度10g/m未満の環境下に維持する場合には、除染を開始する前の、除湿工程で準備した低湿度の環境下を維持して、内容物が腐食するリスクを、より一層充分に低下させることができる。
【0029】
また、二酸化塩素ガス供給工程で、密閉空間内の気体を吸引して、活性炭を通過させた後、供給用ガスの発生に利用する場合には、密閉空間内が陽圧になることを抑止でき、外部に二酸化塩素ガスが漏れることを防止できる。即ち、密閉空間に供給された二酸化塩素ガスを含む気体を回収し、活性炭を作用させて二酸化塩素ガスを吸着して、新鮮な空気にしたものを、供給用ガスを発生させるエアレーションに利用することとなる。このことによれば、外部から新たに空気を導入することなく、密閉空間内の気体を利用して気体を循環させることが可能となる。そのため、二酸化塩素ガスの生成において外部から新たに空気を導入する場合のように、密閉空間内の空気圧が上昇して、内部が陽圧になり、密閉空間を形成する部材の隙間から二酸化塩素ガスが外部に漏れる現象を回避することができる。また、気体を循環させることになるため、密閉空間内で二酸化塩素ガスの濃度を効率良く高めることができる。さらに、活性炭を介して二酸化塩素ガスを吸着することで、エアーポンプでの錆の発生を抑止できる。
【0030】
また、密閉空間が、安全キャビネットまたは動物飼育用のアイソレーターである場合には、安全キャビネットまたは動物飼育用のアイソレーターに対して、二酸化塩素ガスを介して、短時間で効率良く除染を行い、かつ、内容物が腐食するリスクを低くすることができる。
【0031】
また、上記の目的を達成するために、本発明の除染装置は、密閉空間への二酸化塩素の気相付与により、前記密閉空間内の所定の微生物を低減する除染装置であって、前記密閉空間側に設けられた気体の供給口及び排気口のそれぞれと、配管経路を介して接続された除染装置本体と、前記密閉空間内の相対湿度及び絶対湿度を測定する湿度測定部と、前記密閉空間内の二酸化塩素ガス濃度を測定するガス濃度計測部と、前記密閉空間内から吸引した空気を除湿し、同密閉空間内を相対湿度32%未満、かつ、絶対湿度10g/m未満の環境下にする第1の除湿部と、前記二酸化塩素ガスの薬液を混合する曝気槽と、前記曝気槽に気体を送り込み、前記二酸化塩素ガス及び水蒸気を含む供給用ガスを生成すると共に、前記供給口と接続された前記配管経路を介して、前記供給用ガスを前記密閉空間内に向けて送り出すエアーポンプと、前記供給口と接続された前記配管経路上に設けられ、前記供給用ガスを除湿する第2の除湿部と、前記二酸化塩素ガスに一定時間曝露した前記密閉空間内の空気を吸引し、同二酸化塩素ガスを回収して、同密閉空間内の同二酸化塩素ガスの濃度を0.1ppm未満まで低下させる回収部と、を備える。
【0032】
ここで、除染装置本体が、密閉空間側に設けられた気体の供給口及び排気口のそれぞれと、配管経路を介して接続されたことによって、密閉空間内の空気を直接、除染装置本体側に供給して、密閉空間内の空気を処理することができる。また、このことによれば、密閉空間の内部等に、別途の装置機器を設けることなく、密閉空間の除染が可能となる。
【0033】
また、湿度測定部が、密閉空間内の相対湿度及び絶対湿度を測定することによって、各処理が行われている際の密閉空間内の相対湿度及び絶対湿度を確認することができる。また、測定した密閉空間内の相対湿度及び絶対湿度の値に応じて、各種作業を実行させることが可能となる。
【0034】
また、ガス濃度計測部が、密閉空間内の二酸化塩素ガス濃度を測定することによって、各処理が行われている際の密閉空間内の二酸化炭素ガス濃度を確認することができる。また、測定した密閉空間内の二酸化炭素ガス濃度に応じて、各種作業を実行させることが可能となる。
【0035】
また、第1の除湿部が、密閉空間内から吸引した空気を除湿し、密閉空間内を相対湿度32%未満、かつ、絶対湿度10g/m未満の環境下にすることによって、除染の対象となる密閉空間を、内容物が腐食しにくい低湿度の環境下にすることができる。即ち、例えば、除染を行う前に、密閉空間の内部が、湿度が高い環境にあった際でも、除染の作業の前に、第1の除湿部を介して、密閉空間の内部の湿度を低くして、その後の処理を進めることが可能となる
【0036】
また、曝気槽で、二酸化塩素ガスの薬液を混合し、エアーポンプが、曝気槽に気体を送り込むことによって、密閉空間の除染に用いる二酸化塩素ガスを生成することができる。
【0037】
また、エアーポンプが、曝気槽に気体を送り込み、二酸化塩素ガス及び水蒸気を含む供給用ガスを生成すると共に、供給口と接続された配管経路を介して、供給用ガスを前記密閉空間内に向けて送り出すことによって、曝気槽で生成した二酸化塩素ガスを、密閉空間内に向けて供給することができる。
【0038】
また、第2の除湿部が、供給口と接続された配管経路上に設けられ、供給用ガスを除湿することによって、供給用ガスに含まれる水蒸気のみを除いて、二酸化塩素ガスを密閉空間内に供給することができる。これにより、水蒸気が、二酸化塩素ガスと共に密閉空間に導入され、密閉空間内の湿度が上昇することを抑止できる。また、これにより、第1の除湿部を介して、密閉空間を低湿度の環境下にした状態を、二酸化塩素ガスの導入の際に維持可能となる。
【0039】
また、回収部が、二酸化塩素ガスに一定時間曝露した密閉空間内の空気を吸引し、二酸化塩素ガスを回収して、密閉空間内の二酸化塩素ガスの濃度を0.1ppm未満まで低下させることによって、除染した後の密閉空間における二酸化塩素ガスの濃度を、人体等に安全な濃度まで下げることができる。即ち、除染後の密閉空間を、作業者等が使用可能な安全な環境にすることができる。
【0040】
また、第2の除湿部が、分子直径0.3nm未満の物質を吸着可能な結晶性ゼオライトを有する場合には、水分子を結晶性ゼオライトに吸着させて除湿可能となる。即ち、二酸化塩素ガスと一緒に生成する水蒸気に対して、水蒸気のみを選択的に結晶性ゼオライトで捕捉し、二酸化塩素ガスのみを効率良く、密閉空間内に供給することが可能となる。
【0041】
また、第1の除湿部が、結晶性ゼオライトを有する場合には、密閉空間内にあった空気中に含まれる水分子を結晶性ゼオライトに吸着させて除湿可能となる。即ち、第1の除湿部でも、密閉空間内の空気中から、水分子のみを選択的に結晶性ゼオライトで捕捉し、密閉空間内を除湿することができる。
【0042】
また、回収部が、活性炭を有する場合には、密閉空間の除染に用いた二酸化塩素ガスを、活性炭に吸着させて、密閉空間内の二酸化塩素ガスの濃度を効率良く低下させることが可能となる。
【0043】
また、第1の除湿部を有する層と、回収部を有する層が設けられた回収カートリッジ部を備える場合には、1つの回収カートリッジ部を介して、除染を行う前の密閉空間内の空気の除湿と、二酸化塩素ガスへの曝露が終了した後の密閉空間内の空気からの二酸化塩素ガスの回収の、それぞれの処理が可能となる。このことによれば、各作業に必要な部材を1つにまとめて、除染装置本体をコンパクトなサイズにしやすくなる。また、回収カートリッジを交換するだけで、第1の除湿部及び回収部を同時に交換でき、保守作業を容易にすることができる。
【0044】
また、湿度測定部が測定した密閉空間内の相対湿度及び絶対湿度、または、ガス濃度計測部が測定した二酸化塩素ガスの濃度に基づき、曝気槽、エアーポンプ、給排気システム及び回収部の駆動を自動制御するシーケンサーを備える場合には、密閉空間内の相対湿度及び絶対湿度の測定値、または、密閉空間内の二酸化塩素ガスの濃度に応じて、シーケンサーを介して、曝気槽、エアーポンプ、給排気システム及び回収部の自動制御が可能となる。このことによれば、除染を行う前の密閉空間内の空気の除湿、除染開始前の二酸化塩素ガスの濃度を高める立上、密閉空間に対する二酸化塩素ガスの曝露、除染後の二酸化塩素ガスの回収またその後の洗浄等、一連の作業を自動制御で行うことが可能となる。
【0045】
また、ガス濃度計測部が、光吸収方式で二酸化塩素ガスの濃度を測定し、計測分解能が0.001ppmである場合には、密閉空間内の二酸化塩素ガスの濃度を、高精度で測定することができる。また、例えば、30秒に1回、1分間に1回等、短時間での二酸化塩素ガスの濃度の測定が可能となる。このことによれば、回収部で、密閉空間内の二酸化塩素ガスの濃度を0.1ppm未満にする際に、基準の濃度を下回ったか否かを精度高く、検知することが可能となる。また、密閉空間内に二酸化塩素ガスを供給する際の濃度変化や、除染中の二酸化塩素ガスのCT値の変化を、ほぼリアルタイムで確認することが可能となる。また、従来の方法では、二酸化塩素用のガス検知管を用いて、何度もサンプリングしながら計測するという、煩雑な作業が必要であったが、本発明のガス濃度計測部では自動で吸引し、正確に濃度を計測することが可能となる。
【0046】
また、エアーポンプが、排気口と接続され、かつ、活性炭で構成された気体浄化部が設けられた配管経路を介して、密閉空間内の気体を吸引すると共に、吸引した気体を曝気槽に送り込む場合には、密閉空間内が陽圧になることを抑止でき、外部に二酸化塩素ガスが漏れることを防止できる。即ち、密閉空間に供給された二酸化塩素ガスを含む気体を回収し、活性炭を作用させて二酸化塩素ガスを吸着して、新鮮な空気にしたものを、供給用ガスを発生させるエアレーションに利用することとなる。このことによれば、外部から新たに空気を導入することなく、密閉空間内の気体を利用して気体を循環させることが可能となる。そのため、二酸化塩素ガスの生成において外部から新たに空気を導入する場合のように、密閉空間内の空気圧が上昇して、内部が陽圧になり、密閉空間を形成する部材の隙間から二酸化塩素ガスが外部に漏れる現象を回避することができる。また、気体を循環させることになるため、密閉空間内で二酸化塩素ガスの濃度を効率良く高めることができる。さらに、活性炭を介して二酸化塩素ガスを吸着することで、エアーポンプでの錆の発生を抑止できる。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係る操作装置及び操作方法は、細胞や微生物等の微小な試料を、大規模かつ効率よく培養、操作、及び分析することが可能であり、かつ、微量の試薬等を用いた実験操作も可能なものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の実施の形態である除染装置と、除染の対象となる安全キャビネットを示す概略図である。
図2】本発明を適用した除染方法の流れを示すフロー図である。
図3】(a)は、実施例1における二酸化塩素ガス濃度及び相対湿度の変化を示すグラフであり、(b)は、比較例における二酸化塩素ガス濃度及び相対湿度の変化を示すグラフであり
図4】実施例2における密閉空間Sの経過時間に伴う二酸化塩素ガス濃度及び二酸化塩素ガスCT値の変化を示すグラフである。
図5】実施例2における密閉空間Sの経過時間に伴う温度、絶対湿度及び相対湿度の変化を示すグラフである。
図6】密閉空間への二酸化塩素ガス供給時の陽圧防止についての実施例の装置構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
[本発明の実施の形態]
本発明を適用した除染装置の一例として、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下に示す内容はあくまで、本発明を適用した構造の一例にすぎず、本発明の実施の形態は以下に示す構造に限定されるものではない。
【0050】
図1に示すように、本発明を適用した除染装置の一例である除染装置Aは、密閉空間Sを有する安全キャビネットBに対して、その密閉空間Sの除染を行うための装置である。なお、ここでいう密閉空間Sが、本願請求項における密閉空間に相当する部分である。
【0051】
また、安全キャビネットBは、病原体や遺伝子組み換え生物等のバイオハザードを封じ込め、安全な作業環境を実現する設備であり、例えば、大学、研究所、医療機関の検査室等に設置される。
【0052】
また、安全キャビネットBは、密閉空間Sの内部を陰圧に保ち、密閉空間内の空気は、へパフィルターを通して清浄化され、排気口B1(図1参照)から外部に排出されるものとなっている。また、密閉空間Sは、1m~5m程の広さで設計されている。
【0053】
ここで、除染装置Aは、図1に示すように、装置本体1と、濃度計測機構2と、除湿回収機構3と、ガス生成機構4を有している。
【0054】
また、装置本体1は、除染装置Aの本体を構成する部分であり、濃度計測機構2、除湿回収機構3及びガス生成機構4のそれぞれを収容する収容部材でもある。なお、ここでいう装置本体1が、本願請求項における除染装置本体に相当する部分である。
【0055】
また、濃度計測機構2は、密閉空間Sの内部環境の相対湿度と、絶対湿度を測定するための計測機構である。また、濃度計測機構2では、相対湿度及び絶対湿度の算出のために、密閉空間Sの内部環境の温度も測定している。
【0056】
また、除湿回収機構3は、密閉空間Sに対して除染を行う前に、密閉空間Sの内部の空気を除湿するための機構である。また、除湿回収機構3は、密閉空間Sに対して二酸化塩素ガスを曝露させた後に、内部の空気から二酸化塩素ガスを回収するための機構でもある。
【0057】
また、ガス生成機構4は、二酸化塩素ガスを、反応液から生成して、密閉空間Sに供給するための機構である。
【0058】
ここで、本発明を適用した除染装置及び本発明を適用した除染方法による除染の対象は、安全キャビネットに限定されるものではなく、密閉空間を有し、除染が必要な装置機器が対象である。例えば、動物飼育装置用のアイソレーターも対象となる。動物飼育装置用のアイソレーターは、実験動物等の飼育に用いる設備であり、密閉空間の内部を陽圧または陰圧に保ち、へパフィルターを通して清浄化した空気を吸気および排気する装置である。
【0059】
続いて、より詳細な構成を説明する。
【0060】
[濃度計測機構]
まず、濃度計測機構2は、二酸化塩素ガス濃度計測部20を有している(図1参照)。この二酸化塩素ガス濃度計測部20は、光吸収方式のガス濃度検知装置で、計測分解能0.001ppmである。そのため、密閉空間Sの内部環境の二酸化塩素ガス濃度について、0.1ppm以下の濃度も正確に測定可能に構成されている。
【0061】
この二酸化塩素ガス濃度計測部20は、ガスが分解する前の瞬時に、ガスに光を吸収させて、対象ガスの濃度を計測する特徴を有し、例えば、特許第6886208号に記載されたガス濃度検知装置を採用することができる。
【0062】
この二酸化塩素ガス濃度計測部20は、例えば、被測定空間内の被測定空気(二酸化塩素を含む空気)と、清浄領域内の目標ガス(二酸化塩素)を含まない清浄空気(清浄ガス)とを、ガス容器内に交互に導入し、光源からの光源光を照射することで、被測定空気内の目標ガス(二酸化塩素)の濃度chの値を得る装置である。
【0063】
また、二酸化塩素(目標ガス)は、360nm付近を極大として、概ね270~500nmの範囲に光を吸収する光吸収波長域を有している。このため、二酸化塩素を含む空気に波長360nm程度の紫外光を照射すると、二酸化塩素が紫外光を吸収して分解される。このため、二酸化塩素を含む空気(被測定空気)に紫外光を照射して、その透過光を観察すると、二酸化塩素が吸収した分だけ、即ち、被測定空気中の二酸化塩素の濃度chに比例して、紫外光の光量が減少する。そこで、二酸化塩素ガス濃度計測部20は、この減少量を検知することで、二酸化塩素の濃度chを検知することができる。
【0064】
また、二酸化塩素ガス濃度計測部20は、0.5分に1回の頻度で密閉空間Sの内部環境の二酸化塩素ガス濃度を測定可能に構成されている。また、本発明の実施の形態では、密閉空間Sの内部環境の二酸化塩素ガス濃度の測定頻度は、0.5分~3分に1回の測定が好ましく、1分~2分に1回の測定がより好ましく、1分に1回の測定がさらに一層好ましい。
【0065】
なお、1分に1回の測定であれば、対象となる密閉空間Sの体積が小さく、急激な二酸化塩素ガスの濃度変化が生じても適切に濃度を確認しやすくなる。また、0.5分に1回の頻度で測定する場合と比較して、計測器内部のガス流路及び光照射流路の筒内部に装着したガラス面が、二酸化塩素が紫外線で分解した分解物により汚れにくくなり、計測精度が低下してしまうことが抑止できる。
【0066】
また、濃度計測機構2は、図示しない温湿度計測部を有している。温湿度計測部は、密閉空間Sの内部環境の温度、相対湿度及び絶対湿度を計測する装置である。なお、二酸化塩素ガス濃度計測部20と温湿度計測部は、連続的に作動し、密閉空間Sの内部環境をモニタリングできるように構成されている。
【0067】
また、濃度計測機構2は、濃度計測用の給排気経路21を有している。この給排気経路21は、密閉空間Sの内部と接続され、密閉空間Sの中の空気を二酸化塩素ガス濃度計測部20または温湿度計測部へと供給すると共に、濃度等を計測した気体を、再度、密閉空間Sに戻す経路である。
【0068】
また、濃度計測機構2の箇所には、タッチパネル式のシーケンサー5が設けられている(図1参照)。シーケンサー5は、二酸化塩素ガス濃度の計測及び温湿度の計測に基づき、密閉空間Sの除湿、二酸化塩素ガスの生成、目標ガス濃度にするための二酸化塩素ガスの供給、CT値の算出、CT値に基づくガスの回収・洗浄等の一連の作業工程を自動制御する制御機器である。
【0069】
即ち、シーケンサー5は、除染前の密閉空間Sの除湿、二酸化塩素ガスの供給(立上)、密閉空間Sへの二酸化塩素ガスの曝露、曝露後の二酸化塩素ガスの回収、溶液の供給経路及び曝気槽の洗浄の、全ての工程を自動制御する制御機器(コントローラー)である。
【0070】
なお、ここでいうシーケンサー5が本願請求項におけるシーケンサーに相当する部材である。また、シーケンサー5を介した自動制御の内容は後述する。
【0071】
また、シーケンサー5には、各装置機器を操作するためのタッチパネルがもうけられている。上述したように、除染装置Aはシーケンサー5を介して、除染前の準備段階から二酸化塩素ガスへの曝露が終了した後の洗浄まで、一連の作業を自動制御で行うことが可能であるが、各処理工程の開始、一時停止、終了等を、タッチパネルを操作して、操作することもできる。
【0072】
[除湿回収機構]
また、図1に示すように、除湿回収機構3は、回収カートリッジ部30と、ラインブロワー31を有している。また、除湿回収機構3は、安全キャビネットBの排気口B1から、回収カートリッジ部30及びラインブロワー31を経由して、再度、密閉空間Sの内部へと繋がる回収用給排気経路32を有している。
【0073】
なお、ここでいう回収カートリッジ部30が本願請求項における回収カートリッジ部に相当する部材である。
【0074】
また、回収カートリッジ部30は、活性炭が充填された上層部300と、結晶性ゼオライトが充填された下層部301の2つの層が形成されている。また、上槽部300及び下層部301を上下から挟むように、図示しないプレフィルターが設けられている。
【0075】
なお、ここでいう活性炭が、本願請求項における活性炭に相当する部材である。また、ここでいう結晶性ゼオライトが、本願請求項における結晶ゼオライトに相当する部材である。
【0076】
この活性炭が充填された上層部300は、密閉空間Sに対して二酸化塩素ガスを曝露させた後に、密閉空間Sの空気を通過させ、二酸化塩素ガスを活性炭に吸着させ、回収するための部分である。
【0077】
また、結晶性ゼオライトが充填された下層部301は、密閉空間Sに対して二酸化塩素ガスを曝露する前に、密閉空間Sの空気を通過させ、空気中に含まれる水分子を結晶性ゼオライトに吸着させ、密閉空間Sを除湿するための部分である。
【0078】
また、プレフィルターは、上層部301または下層部300の前後で、微粉末の結晶性ゼオライトが、ラインブロワー31のエアーで移動しないようにするフィルター部材である。
【0079】
このように、回収カートリッジ部30は、密閉空間Sの内部の空気を通過させ、除染を行う前の除湿と、密閉空間Sに二酸化塩素ガスを曝露させた後の、ガスの回収の、2つ処理を担う部材である。
【0080】
また、上層部300に充填された活性炭は、ペレット状の活性炭や不定形な破砕炭からなる粒状活性炭であり、上層部300は、800gの粒状活性炭を、成形枠に充填して構成されている。
【0081】
ここで、上層部300に充填される活性炭は、二酸化塩素ガスを吸着して回収可能であれば、その形状や大きさは特に限定されるものではない。
【0082】
また、上層部300で、成形枠に充填される活性炭の量は、適宜設定しうる。但し、密閉空間Sの容積が1m~5mであり、当該容積の範囲に対して、短時間で効率良く二酸化塩素ガスを曝露させること、及び、1回から3回程度活性炭を使用する回数を考慮すると、上層部300に充填される活性炭の量は、50g~5000gが好ましく、100~2000gがより好ましく、200g~1200gに設定されることが、さらに一層好ましい。
【0083】
また、下層部301に充填された結晶性ゼオライトは、分子直径0.3nm未満の物質を吸着可能な結晶性ゼオライトであり、アルミノケイ酸塩質の結晶材料である。結晶中に微細な細孔を有し、水分子を選択的に吸着可能に構成されている。また、この結晶性ゼオライトは、重量比で20%の水分子(水蒸気)を吸着可能である。また、下層部301には、800gの結晶性ゼオライトが充填されている。
【0084】
また、結晶性ゼオライトは水分子の吸着能が飽和した後も、一旦回収し、洗浄して乾燥させることで、吸着能を再生することができる。
【0085】
ここで、下層部301に充填される結晶性ゼオライトの量は適宜設定しうる。但し、密閉空間Sの容積が1m~5mであり、除染を開始する前に、当該容積の範囲の密閉空間Sの空気を、相対湿度32%未満かつ絶対湿度10g/m未満の低湿度の環境下にする点から、下層部301に充填される結晶性ゼオライトの量は、50g~2000gが好ましく、100~1500gがより好ましく、200g~1000gに設定されることが、さらに一層好ましい。
【0086】
また、ラインブロワー31は、密閉空間Sの内部の空気を吸引して、回収用給排気経路32を介して、回収カートリッジ部30に吸引した空気を通過させるための送風機である。このラインブロワー31は、除染前の密閉空間Sの除湿と、二酸化塩素ガスに曝露した後のガスの回収の際に駆動する。
【0087】
[ガス生成機構]
また、図1に示すように、ガス生成機構4は、曝気槽40と、エアーポンプ41と、ガス供給チューブ42と、除湿カートリッジ43と、ガス回収チューブ410と、活性炭カートリッジ411を有している。
【0088】
また、曝気槽40は、二酸化塩素ガスを生成するための薬液を混合する槽である。曝気槽40の内部で薬液を混ぜて水溶液とし、この水溶液にエアーポンプ41を介したエアレーションを行い、二酸化塩素ガスを遊離させ、水蒸気を含む供給用ガスを生成する部分である。
【0089】
また、エアーポンプ41は、曝気槽40内に空気を送り込み、二酸化塩素ガスの薬液を混合した水溶液にエアレーションを行う部材である。また、エアーポンプ41は、二酸化塩素ガスを生成する際に、ガス回収チューブ410を介して密閉空間S内の気体を吸引し、活性炭カートリッジ411を通過した空気を、曝気槽40内に送り込む部材である。
【0090】
また、エアーポンプ41は、曝気槽40で生成した供給用ガスを、ガス供給チューブ42を介して、安全キャビネットBの供給口B2から、密閉空間Sの内部に送り込む送風機である。
【0091】
また、更に、エアーポンプ41は、後述する立上工程の際に、そのエアー圧により、密閉空間Sの内部を陽圧にする部材である。密閉空間Sの内部を陽圧にすることで、供給した二酸化塩素ガスを、密閉空間Sの内部で循環させ、安全キャビネットBの排気口B1から、内部の空気を装置本体1側に戻すことができる。
【0092】
また、この際のエアーポンプ41、ガス供給チューブ42、密閉空間S、ガス回収チューブ410を介した、二酸化塩素ガスの密閉空間への供給、循環及び装置本体1に戻す構成により、気体を循環させ、二酸化塩素ガス供給工程の際に、密閉空間Sの内部が陽圧になることを抑止できる。
【0093】
また、ガス回収チューブ410は、エアーポンプ41と安全キャビネットBの排出口B4とを繋ぐ気体の供給経路である。また、ガス回収チューブ410は、活性炭カートリッジ411を取り付ける対象となる経路でもある。
【0094】
また、活性炭カートリッジ411は、密閉空間S内に供給され、空間内で二酸化塩素ガスが希釈され、薄い二酸化塩素ガス/空気となった気体を通過させ、活性炭で二酸化塩素ガスを吸着して新鮮な空気にして、エアーポンプ41側に戻すための部材である。
【0095】
また、ガス供給チューブ42は、曝気槽40と安全キャビネットBの供給口B2とを繋ぐ気体の供給経路である。また、ガス供給チューブ42は、除湿カートリッジ43を取り付ける対象となる経路でもある。
【0096】
また、除湿カートリッジ43は、曝気槽40で生成した、二酸化塩素ガスと水蒸気から構成された供給用ガスを通過させ、水蒸気を捕捉して除湿し、二酸化塩素ガスのみを密閉空間Sの内部に供給するための部材である。
【0097】
また、除湿カートリッジ43は、供給側と排出側の2カ所で、ガス供給チューブ42を接続できる円筒形の充填カートリッジである。
【0098】
また、除湿カートリッジ43は、その内部に、分子直径0.3nm未満の物質を吸着可能な結晶性ゼオライトが150g充填されている。この結晶性ゼオライトは、上述した回収カートリッジ部30の下層部301に充填された結晶性ゼオライトと同一の物質である。
【0099】
また、除湿カートリッジ43の結晶性ゼオライトが充填された箇所の前後には、図示しないプレフィルターが設けられている。プレフィルターは、微粉の結晶性ゼオライトが、エアーポンプ41のエアーで移動しないようにするフィルター部材である。
【0100】
また、除湿カートリッジ43は、ガス供給チューブ42に着脱自在に構成されている。これにより、結晶性ゼオライトの水分子に対する吸着能が飽和した後は、除湿カートリッジ43ごと交換することで、除湿性能を担保することができる。
【0101】
ここで、除湿カートリッジ43に充填される結晶性ゼオライトの量は適宜設定しうる。但し、ここで用いる結晶性ゼオライトの量は、水溶液の温度、エアレーション容量(バブリング容量)、曝気時間に合わせて設定されることが好ましい。
【0102】
ここで、例えば、一事例として、容量1Lの曝気槽にて、18L/分のバブリング容量で15分間曝気槽のエアレーションを行い、10mの密閉空間に、生成時の水蒸気を含む二酸化塩素ガスを導入した場合(二酸化塩素ガスを除湿しない場合)、水溶液の温度が25℃の条件では、密閉空間内の相対湿度は、40%RHから50%RHに上昇した。また、絶対湿度は、1mあたり2.31g、即ち、10m換算で約23g上昇した。
【0103】
上記の事例を考慮すると、結晶性ゼオライトは、重量比で20%の水分子(水蒸気)を吸着可能であることから、除湿カートリッ43に充填する結晶性ゼオライトは150gであれば、30gの水蒸気を吸着することができる。つまり、上記の事例のように、15分間のエアレーションで発生する約23gの水蒸気は、除湿カートリッジ43で充分に捕集可能となる。
【0104】
以上のことから、本発明の実施の形態では、曝気槽40で生成する水蒸気を充分に捕集するために、除湿カートリッ43に充填する結晶性ゼオライトの量は、1g~2000gが好ましく、50~200gに設定されることがより好ましい。
【0105】
次に、曝気槽40の容積と、エアレーションを行う際のバブリング容量について説明する。
【0106】
まず、本発明では、後述するように、密閉空間Sに対して、二酸化塩素ガスを曝露させる曝露期において、二酸化塩素ガスの濃度は250ppm~1500ppmとなることが好ましい。
【0107】
そして、例えば、1mの狭い密閉空間内で二酸化塩素ガス濃度を約250ppmにするには、曝気槽の容積は最低130mLが必要となる。また、1mの狭い密閉空間内で二酸化塩素ガス濃度を約1500ppmにするには、曝気槽の容積は最低180mLが必要となる。また、除染装置Aの装置本体1を、除染の際に、都度設置することを考慮すると、装置本体1のサイズも加味して、曝気槽は最大15L(15000mL)程度が上限と考えられる。そして、除染の対象となる安全キャビネット等の大きさを考慮すると、曝気槽の容積は、100mL~15000mLであることが好ましく、200mL~5000mLがより好ましく、500~2000mLに設定されることがさらに一層好ましい。
【0108】
また、エアーポンプ41によりエアレーションを行う際のバブリング容量は、曝気槽の容積に関係して設定される。例えば、曝気槽の容積が120mLのとき、バブリング容量は、最低0.2L/分は必要となる。また、バブリング容量が小さすぎると、曝気槽の水溶液中からの二酸化塩素ガスの遊離が遅くなってしまう。従って、上記の曝気槽の容積の範囲と、効率的な二酸化塩素ガスの生成を考慮した場合、バブリング容量は、0.2L~100L/分であることが好ましく、0.5L~50L/分がより好ましく、1L~30L/分に設定されることがさらに一層好ましい。
【0109】
また、図1に示すように、ガス生成機構4は、薬液タンク44と、薬液タンク45と、水タンク46と、廃液タンク47と、薬液ポンプ48と、廃液ポンプ49を有している。
【0110】
ここで、薬液タンク44には、亜塩素酸ナトリウム(25%以下)が、薬液タンク45には、塩酸(9%以下)が、それぞれ充填されている。また、水タンク46には、希釈または洗浄用の水が充填されている。
【0111】
また、廃液タンク47は、二酸化塩素ガスを生成する際に生じる廃液を貯めるタンクである。また、廃液ポンプ49は、廃液を廃液タンク47に送液するためのポンプである。
【0112】
また、薬液ポンプ48は、曝気層40で二酸化塩素ガスを生成する際に、薬液タンク44の亜塩素酸ナトリウム(25%以下)、薬液タンク45の塩酸(9%以下)、及び、水タンク46の水を送液するポンプである。また、薬液ポンプ48は、各溶液の供給経路を洗浄する際に、水タンク46の水を送液するポンプでもある。
【0113】
より詳細には、薬液ポンプ48が駆動すると、亜塩素酸ナトリウム、塩酸及び水が曝気槽40に送液され、曝気槽40にて混合され、水溶液となると同時に、エアーポンプ41によりエアレーションが行われ、二酸化塩素ガスが発生するものとなっている。
【0114】
続いて、本発明を適用した二酸化塩素ガスによる除染方法の一例である除染方法の流れについて説明する。なお、以下説明する除染方法は、上述した除染装置Aを用いた方法である。
【0115】
図2に除染方法の主な流れを示している。
図2に示すように、本発明を適用した除染方法は、除湿工程(S1)と、立上工程(S2)と、曝露工程(S3)と、回収・洗浄工程(S4)を有している。
【0116】
ここで、除湿工程(S1)は、安全キャビネットBの密閉空間Sに対して、除染を行う前に、密閉空間Sの内部の空気中に含まれる水分子を捕集して、除湿する工程である。
【0117】
本工程では、ラインブロワー31を駆動させ、回収用排気経路32を介して、密閉空間Sの内部の空気を装置本体1側に吸引する。また、吸引した空気は、回収カートリッジ部30を通過する。回収カートリッジ部30の下層部301を通過する際に、吸引した空気中に含まれる水分子が、結晶性ゼオライトに吸着される。これにより、吸引された空気が除湿され、再度、密閉空間Sの内部に戻されていく。
【0118】
また、本工程では、温湿度計測部により、密閉空間Sの内部環境の温度、相対湿度及び絶対湿度が測定され、各測定値がモニタリングされている。除湿工程(S1)では、密閉空間Sの内部の空気において、相対湿度32%未満、かつ、絶対湿度10g/m未満となるまで、除湿が継続的に行われる。
【0119】
また、密閉空間Sの内部の空気において、相対湿度32%未満、かつ、絶対湿度10g/m未満となると、ラインブロワー31の駆動が停止され、次の立上工程(S2)に進む。
【0120】
この除湿工程(S1)により、密閉空間Sの内部を低湿度の環境にすることができる。また、相対湿度と絶対湿度の値の検知と、これに基づく除湿工程(S1)の終了、及び、立上工程(S1)の開始は、シーケンサー5により自動で制御される。
【0121】
次に、二酸化塩素ガスを生成して、密閉空間Sの内部での二酸化塩素ガス濃度を、目標値濃度に到達させるための立上工程(S2)が行われる。
【0122】
この立上工程(S2)では、エアーポンプ41、薬液ポンプ48、廃液ポンプ49が駆動し、曝気槽40の内部で薬液が混合され、その水溶液にエアレーションを行い、二酸化塩素ガスが遊離する。
【0123】
また、曝気槽40で遊離した二酸化塩素ガスには水蒸気が含まれるが、エアーポンプ41によりガス供給チューブ42を通って、密閉空間Sの内部に向けて送られる際に、除湿カートリッジ部43を通過する。
【0124】
この除湿カートリッジ部43を通過する際に、二酸化塩素ガスに含まれる水蒸気が、結晶性ゼオライトに吸着される。これにより、水蒸気が選択的に捕集され、二酸化塩素ガスのみが密閉空間Sの内部に供給される。
【0125】
また、立上工程(S2)では、エアーポンプ41が、ガス回収チューブ410を介して密閉空間S内の気体を吸引し、活性炭カートリッジ411を通過した空気を、曝気槽40へと送り込む。
【0126】
この際、密閉空間S内に供給され、空間内で二酸化塩素ガスが希釈され、薄い二酸化塩素ガス/空気となった気体を、活性炭カートリッジ411に通過させ、活性炭で二酸化塩素ガスを吸着して新鮮な空気にして、エアーポンプ41側に戻す。
【0127】
これにより、エアーポンプ41に錆を発生させずに、除染装置本体と密閉空間Sの閉ざされた空間内の空気を循環させて、二酸化塩素ガスを供給し続けることができる。この結果、エアレーションを行うために、外部空間から新たに空気を導入する必要がなくなり、密閉空間内が陽圧になることを抑止でき、外部に二酸化塩素ガスが漏れることを防止することができる。また、気体を循環させることになるため、密閉空間内で二酸化塩素ガスの濃度を効率良く高めることができる。
【0128】
また、本工程では、二酸化塩素ガス濃度計測部20により、密閉空間Sの内部の二酸化塩素ガス濃度が計測される。この二酸化塩素ガス濃度の計測は、自動で設定インターバル毎に行われる。
【0129】
また、立上工程(S2)では、密閉空間Sの内部の二酸化塩素ガス濃度が上昇し、目標値濃度に到達するまで、二酸化塩素ガスの生成及び供給が継続される。本実施の形態では、目標値濃度は1500ppmに設定されている。
【0130】
この二酸化塩素ガス濃度の目標値濃度の1500ppmとは、後述する曝露工程(S3)において、密閉空間Sの内部で、短時間で二酸化塩素ガスのCT値を1100ppm・時に到達させるための濃度である。また、1500ppmの濃度以下であれば、二酸化塩素ガスの引火性や爆発の危険性を低くすることができ、また、薬液の濃度が劇物の対象未満となり、取り扱い性を容易にすることができる。
【0131】
また、立上工程(S2)では、上述したように、除湿カートリッジ部43により、二酸化塩素ガスを生成する際に生じる、水蒸気を捕集でき、二酸化塩素ガスのみを密閉空間Sの内部に供給することが可能となるため、密閉空間Sを低湿度の環境に維持することができる。
【0132】
また、立上工程(S2)では、エアーポンプ41のエアー圧により、密閉空間Sの内部が陽圧となり、供給した二酸化塩素ガスを、密閉空間Sの内部で循環させ、安全キャビネットBの排気口B1から、内部の空気を装置本体1側に戻すことができる。
【0133】
また、密閉空間Sの内部の空気において、二酸化塩素ガスの濃度が1500ppmとなると、エアーポンプ41や薬液ポンプ48等の駆動が停止され、次の曝露工程(S3)に進む。
【0134】
この際、例えば、二酸化塩素ガス濃度計測部20による計測は、計測周期1分のインターバルで濃度測定するように設定できる。また、1500ppm以上の濃度が、2回測定された結果をもって、立上工程(S2)を終了させることができる。
【0135】
また、二酸化塩素ガス濃度による濃度測定と、これに基づく立上工程(S2)の終了、及び、曝露工程(S3)の開始は、シーケンサー5により自動で制御される。
【0136】
次に、二酸化塩素ガスの供給が停止された状態で、密閉空間Sを二酸化塩素ガスに曝露させる曝露工程(S3)が行われる。曝露工程(S3)では、導入された二酸化塩素ガスが密閉空間Sに充満した状態で、二酸化塩素ガス濃度計測部20の濃度測定に基づき、CT値が継続的に算出される。
【0137】
また、CT値が、1100ppm・時以上の値になったことを検知して、曝露工程(S3)が終了となり、次の回収・洗浄工程(S4)へと進む。
【0138】
この曝露工程(S3)では、密閉空間Sを形成する壁面や床面が二酸化塩素ガスに晒され、これらに付着した微生物の数を低減させることができる。
【0139】
また、本発明の実施の形態における微生物としては、例えば、細菌、真菌、ウイルス等が挙げられる。二酸化塩素は、抗菌スペクトルが幅広く、細菌、真菌、ウイルス等の汚染物質に対し優れた滅菌および殺菌効果を示す。
【0140】
例えば、大腸菌やサルモネラ菌の他、レジオネラ菌、緑膿菌、腸炎ビブリオ、乳酸球菌、乳酸桿菌、セレウス菌、クロストリジウム、カンピロバクター、クラドスポリウム、フザリウム、クモノスカビ、青カビ、白癬菌等に対する殺菌試験でその効果が確認されている。また、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、HIV、B型肝炎ウイルス、ロタウイルス、イヌパルボウイルス等のウイルスに対する不活化も確認されている。
【0141】
この曝露工程(S3)では、密閉空間Sに対して二酸化塩素ガスを作用させることで、微生物を短時間で効果的に除去することができる。
【0142】
また、回収・洗浄工程(S4)では、密閉空間Sの内部の空気を吸引して、空気中に含まれる二酸化塩素ガスを吸着して、密閉空間Sの二酸化塩素ガス濃度を0.1ppm未満にする工程である。また、薬液ポンプ49を駆動し、水タンク46に貯蔵された水を用いて、曝気槽40や薬液ポンプ等の液体供給経路の洗浄を行う。
【0143】
この回収・洗浄工程(S4)では、ラインブロワー31を駆動させ、回収用排気経路32を介して、密閉空間Sの内部の空気を装置本体1側に吸引する。また、吸引した空気は、回収カートリッジ部30を通過する。回収カートリッジ部30の上層部300を通過する際に、吸引した空気中に含まれる二酸化塩素ガスが、活性炭に吸着される。また、活性炭を通過した空気は、再度、密閉空間Sの内部に戻されていく。
【0144】
また、本工程では、二酸化塩素ガス濃度計測部20により、密閉空間Sの内部の二酸化塩素ガス濃度が測定され、測定値がモニタリングされている。回収・洗浄工程(S4)では、密閉空間Sの内部の空気において、二酸化塩素ガス濃度が0.1ppm未満になるまで、二酸化塩素ガスの回収が継続的に行われる。
【0145】
また、回収・洗浄工程(S4)では、回収カートリッジ部30による二酸化塩素ガスの回収と並行して、曝気槽40や薬液ポンプ等の液体供給経路の洗浄が行われる。
【0146】
また、密閉空間Sの内部の空気において、二酸化塩素ガス濃度が0.1ppm未満になると、回収・洗浄工程(S4)が終了となる。また、この状態で、密閉空間Sに対する一連の除染の処理が終了したものとなり、安全キャビネットBを使用可能となる。
【0147】
この際、例えば、二酸化塩素ガス濃度計測部20による計測は、計測周期1分のインターバルで濃度測定するように設定できる。また、0.1ppm未満の濃度が、2回測定された結果をもって、回収・洗浄工程(S4)を終了させることができる。
【0148】
また、二酸化塩素ガス濃度による濃度測定と、これに基づく回収・洗浄工程(S4)の終了は、シーケンサー5により自動で制御される。
【0149】
以上のような流れにより、本発明を適用した除染方法が行われる。
【0150】
また、本実施の形態では、除湿工程(S1)で、密閉空間Sを、相対湿度32%未満、かつ、絶対湿度10g/m未満の低湿度の環境とし、かつ、立上工程(S2)で、水蒸気を捕集して、二酸化塩素ガスのみを密閉空間に供給することで、低湿度の環境を維持することができる。
【0151】
これにより、二酸化塩素ガスを用いた除染を行う際に、対象となる密閉空間Sの内容物が腐食してしまうことを充分に抑止できる。
【0152】
また、本実施の形態では、立上工程(S2)において、二酸化塩素ガスの濃度が1500ppmとなるように、密閉空間Sに二酸化塩素ガスを供給することで、曝露工程(S3)において、短時間で二酸化塩素ガスのCT値を1100ppm・時に到達させることが可能となる。また、CT値を1100ppm・時となることで、密閉空間Sの内部に付着した微生物の数を充分低減させることが可能となる。
【0153】
また、本実施の形態では、回収・洗浄工程(S4)において、回収カートリッジ部30の活性炭を介して、二酸化塩素ガスを吸着することで、密閉空間Sの二酸化塩素ガス濃度を0.1ppm未満になるように、短時間で回収することが可能となる。
【0154】
以上のように、本発明の除染装置は、細胞や微生物等の微小な試料を、大規模かつ効率よく培養、操作、及び分析することが可能であり、かつ、微量の試薬等を用いた実験操作も可能なものとなっている。
また、本発明の二酸化塩素ガスによる除染方法は、細胞や微生物等の微小な試料を、大規模かつ効率よく培養、操作、及び分析することが可能であり、かつ、微量の試薬等を用いた実験操作も可能な方法となっている。
【0155】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【実施例0156】
以下の実施例を説明する。
【0157】
[密閉空間における相対湿度及び絶対湿度について]
上述した除染装置Aの構成に基づき、除湿カートリッジ部43の有無の影響について検討した。除湿カートリッジ部43を設けたものを実施例1とし、ガス供給チューブ42に除湿カートリッジ部43を設けないものを比較例とした。なお、本事例では、除湿カートリッジ部43には、結晶性ゼオライト(製品名:モレキュラーシーブ3A 1/16:関東化学株式会社製)が100g充填されている。また、実施例及び比較例について、二酸化塩素ガスの供給開始前(経過時間0分)、10分間の立上工程の終了時点(経過時間10分)、及び、曝露工程の終了時点(経過時間70分)の各時点での、密閉空間Sにおける、二酸化塩素ガス濃度と、相対湿度を測定した。結果を表1及び表2と、図3(a)及び図3(b)に示す。表1及び図3(a)が実施例1の結果であり、表2及び図3(b)が比較例の結果である。
【0158】
(表1)
【0159】
(表2)
【0160】
表1及び図3(a)に示すように、実施例1では密閉空間Sの内部の相対湿度を32%未満の低湿度に維持することができた。一方、表2及び図3(b)に示すように、比較例では、時間経過と共に、密閉空間Sの内部の相対湿度が上昇し、曝露工程の終了時点では、相対湿度が43%になっていた。
【0161】
次に、上述した本発明を適用した除染方法により、安全キャビネットBに対する一連の処理を行った(実施例2)。また、除染方法は、シーケンサー5による自動制御で行った。安全キャビネットBの密閉空間S中の6カ所に、バイオロジカルインジケーター(BI)を設置して、除染を行い、指標菌であるB.atrophaeusの滅菌の有無を確認した。図4に、密閉空間Sにおける経過時間に伴う二酸化塩素ガス濃度及び二酸化塩素ガスCT値(ppm・h)の変化を示し、図5に、密閉空間Sにおける経過時間に伴う温度、絶対湿度及び相対湿度の変化を示す。
【0162】
実施例2では、バイオロジカルインジケーター(BI)に保持された2.0×106c.f.u.のB.atrophaeusが、除染終了後には、6log低減(2.0c.f.u.以下)していた。
【0163】
また、図4に示すように、実施例2では、60分間の曝露工程で、1200ppm・時に到達した。また、回収工程では、約10分程度で、二酸化塩素ガスの回収が完了した。さらに、図5に示すように、実施例2では、曝露工程において、密閉空間Sの内部を、相対湿度32%未満、かつ、絶対湿度10g/m未満の低湿度の環境に維持していた。
【0164】
[密閉空間への二酸化塩素ガス供給時の陽圧防止について]
上述した除染装置Aを図6に示すように、10mの広さを有する密閉室S1の外に設置した。2種類の薬液を薬液ポンプで曝気槽に送液し反応させて二酸化塩素水を生成した。また、エアーポンプで密閉室S1内からガス回収チューブ410で取り込んだ空気を曝気槽に送り込み、エアレーションで分離した二酸化塩素ガスを密閉室S1にガス供給チューブ42で送り込んだ。また、密閉室S1内の室圧を、経時的に計測すると共に、密閉室S1の外に漏れ出した二酸化塩素ガス濃度を計測した。
【0165】
なお、密閉室S1には、空気圧を計測する圧力計P(ユニバ社製デジタル式UPM60P-F1)及び空気攪拌用のサーキュレーターCを設置し、密閉室S1の外には、二酸化塩素ガス計測器G(ATi社製二酸化塩素ガス濃度計測器B12型)を設置した。密閉室S1の外壁には資機材を出し入れするための開閉板S10があり、予めガス漏れを防ぐために養生テープTを用いて、開閉板S10の周囲を封鎖しておいた。
【0166】
(表3)
【0167】
表3に、経時的な密閉室S1内の圧力変化及び外部へ漏洩した二酸化塩素ガス濃度の変化を示した。その結果、時間経過に伴い、密閉室S1内の空気圧は初期と変化はなく、内圧が上昇していなかった。また、密閉室S1の外部に漏れる二酸化塩素ガスも認められなかった。
【符号の説明】
【0168】
A 除染装置
1 操作本体
2 濃度計測機構
20 二酸化塩素ガス濃度計測部
21 給排気経路
3 除湿回収機構
30 回収カートリッジ部
300 上層部
301 下層部
31 ラインブロワー
32 回収用給排気経路
4 ガス生成機構
40 曝気槽
41 エアーポンプ
410 ガス回収チューブ
411 活性炭カートリッジ
42 ガス供給チューブ
43 除湿カートリッジ
44 薬液タンク
45 薬液タンク
46 水タンク
47 廃液タンク
48 薬液ポンプ
49 廃液ポンプ
5 シーケンサー
B 安全キャビネット
B1 排気口
B2 供給口
B3 供給口
S 密閉空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6