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特開2024-118342プラグミル圧延方法およびプラグミル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118342
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】プラグミル圧延方法およびプラグミル
(51)【国際特許分類】
   B21B 17/08 20060101AFI20240823BHJP
   B21B 25/02 20060101ALI20240823BHJP
   B21B 25/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B21B17/08 B
B21B25/02
B21B25/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024707
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】松本 昌敏
(72)【発明者】
【氏名】吉田 竜也
(72)【発明者】
【氏名】三上 和宏
(72)【発明者】
【氏名】山田 航平
(57)【要約】
【課題】外径が小さいバーであっても座屈の防止を可能とする手法を与えることによって、プラグミルでの圧延圧力を一定以上に保って中空素管内面のピット状欠陥の残存を有利に回避する、プラグミル圧延方法について提供する。
【解決手段】穿孔された中空素管の内側に、前記中空素管の中心軸線上に配した円筒状のバーの一端に装着される、プラグを挿入し、該プラグと前記中空素管の外側に配した、少なくとも1対の圧延ロールとの間で圧下を加えて前記中空素管を延伸させるプラグミル圧延方法であって、前記バーの固定支持される他端から離間する、前記バーの長手方向の中間位置を、前記バー軸方向にかかる圧延荷重に起因してバーに発生するバー半径方向の変位に応じて支える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿孔された中空素管の内側に、前記中空素管の中心軸線上に配した円筒状のバーの一端に装着される、プラグを挿入し、該プラグと前記中空素管の外側に配した、少なくとも1対の圧延ロールとの間で圧下を加えて前記中空素管を延伸させるプラグミル圧延方法であって、
前記バーの固定支持される他端から離間する、前記バーの長手方向の中間位置を、前記バー軸方向にかかる圧延荷重に起因してバーに発生するバー半径方向の変位に応じて支える、プラグミル圧延方法。
【請求項2】
前記中間位置を、前記バーの周方向に120°以下の間隔で相互に離間する少なくとも3接点を介して把持し、前記バーの中心軸を通る水平線の下側域にある少なくとも2接点を前記バーと接触させ、かつ同上側域にある少なくとも1接点は前記バーとの間にクリアランス(隙間)を設けてある、請求項1に記載のプラグミル圧延方法。
【請求項3】
前記クリアランスが20mm以上30mm以下である請求項1または2に記載のプラグミル圧延方法。
【請求項4】
中空素管に延伸圧延を施すプラグミルであって、
前記中空素管のパスライン上に配置されるバーと、前記バーの一端に取り付けられるプラグと、前記プラグとの間で前記中空素管を圧下する一対の圧延ロールと、前記バーの固定支持される他端から離間した中間位置にて当該バー部分を把持する把持装置とを有し、
前記把持装置は、前記バー軸方向にかかる圧延荷重に起因してバーに発生するバー半径方向の変位に応じて支える機能を有するプラグミル。
【請求項5】
前記把持装置は、前記パスラインを通る水平線の下側域で前記バーと接触する、相互に120°以下の間隔で離間する少なくとも2接点を有する下側金物と、同上側域で前記バーと接触し、かつ下側軸受金物の隣接接点と前記バーの周方向に120°以下の間隔で離間する少なくとも1接点を有する上側金物との対の少なくとも1対からなり、前記上側金物は鉛直方向に位置変更する手段を有する請求項4に記載のプラグミル。
【請求項6】
前記把持装置は、前記下側金物と前記上側金物との対の2対以上からなる請求項4または5に記載のプラグミル。
【請求項7】
前記バーは、円筒形状である請求項4または5に記載のプラグミル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管の製造において、円柱状鋼片をマンネスマン穿孔等にて中空素管とした後、この中空素管をプラグミルにて延伸圧延するプラグミル圧延方法およびこの方法に用いるプラグミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
継目無鋼管の製造工程は、まず円柱形の鋼片を加熱炉で高温に加熱して、ピアサーと呼称されるマンネスマン穿孔機によって中空素管とし、この中空素管をエロンゲーターと呼称される第二穿孔機にて拡管および延伸圧延を行う。その後、プラグミルにて延伸圧延を行い、例えばリーラーミルにて拡管および磨管を行う。次に、再加熱炉にて再び高温に加熱された後、サイザー或いはストレッチレデューサーにて成型され、所定寸法を得た継目無鋼管となる。
【0003】
ここで、プラグミルは、図1に示すように、中空素管1のパスラインS上に配置される円筒状の(マンドレル)バー2と、このバー2の一端(先端)に取り付けられるプラグ3と、このプラグ3との間で中空素管1を圧下する一対の圧延ロール4と、圧延後の中空素管1を逆送するための戻しロール5と、を有する。また、バー2の他端(後端)は、後端金具6およびバークランプ7にて保持されるとともに、バー2の軸方向位置を調整可能としている。
【0004】
このプラグミルによる延伸圧延は、中空素管1の外側に位置する圧延ロール4と、中空素管1の内側に挿入されるプラグ3で中空素管1に圧下を加えて中空素管1を延伸させる圧延技術である。ちなみに、図1は、中空素管1の延伸圧延が終了している状態であり、この後、圧延ロール4を開放しかつプラグ3をバー2より外してから、延伸後の中空素管1を戻しロール3によって逆送してプラグミルの入側へ搬送する。
【0005】
さて、プラグミルで延伸圧延される前の中空素管は、ピアサーおよびエロンゲーターでの圧延により、内側が粗度の高い表面性状となっている。そこで、プラグミルによる延伸圧延は、中空素管の表面を滑らかにする役割も担っている。中空素管の表面を滑らかにするためには、一定以上の圧延圧力を中空素管に与える必要がある。この中空素管に与える圧延圧力の増大に比例し、プラグミルにおける圧延ロール4やバー2にかかる圧力も増大する。バー2には、プラグ3を通して軸方向圧力が作用するため、一定以上の圧延圧力が加わると、バー2の断面係数に応じてバー2に座屈が発生する。したがって、座屈応力の小さい、外径8の小さい細いバー2で延伸圧延する必要のある、厚肉の中空素管では、バーの座屈を防止しつつ大きな圧延圧力を与えることが不可能になるケースがある。
【0006】
鋼管製品は、規格毎に管の長さ範囲の規定がある。例えば、継目無で製造する鋼管製品の代表として、API5CTの油井管規格がある。本規格において主となる長さ範囲である、Range2における管長は8m程度であり、同Range3における管長は最大14m程度となる。また、成型工程にサイザーを用いる場合、最終製品長さに対し、プラグミルでの中空素管長さはほぼ等価となることを踏まえると、プラグミルのバー長さは必然的に14m以上であることが求められる。したがって、この種の製品をプラグミル圧延で製造する場合、長尺となるバーの座屈を防止することは極めて難しい。
【0007】
かようにプラグミルで圧延される際に圧下が十分加えられなかった中空素管は、前記粗度の高い内面性状を完全に滑らかにすることができず、鋼管製品内面にピット状の欠陥が発生する可能性が高くなる。
【0008】
ここで、鋼管内面のピット状欠陥の発生メカニズムを図2に示す。すなわち、プラグ圧延前の中空素管1の内面は前記のように粗度の高い表面性状となっている。プラグミルにおいて圧延ロール4とプラグ3との間で中空素管1が圧下および延伸されると、延伸後の中空素管1aのように、管内面の表面性状は改善する。表面性状の改善代は中空素管1の管厚t1と中空素管1aの管厚t2の差が大きい程大きい。この差を大きくするには、より大きな圧延圧力Rが必要となる。換言すると、上記したバー2の座屈を防止するために大きな圧延圧力Rを与えることが難しい場合は、中空素管1aの内面にピット状の欠陥20が残存することになる。
【0009】
この中空素管の内面欠陥について、特許文献1では、中空素管の内面に潤滑剤を噴射してプラグの摩擦を軽減して欠陥の発生を抑制する技術が提案されている。さらに、同文献1には、バーの変形を抑制するために、バーに内蔵する潤滑剤の流路を工夫することが提案されている。しかしながら、同文献1に記載のバー構造は、膨張や撓みを許容する構造であるため、上記したバーの座屈に関わる問題を解消するには別の観点からの検討が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2017-217683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
さて、プラグミルで使用されるプラグは、中空素管の管厚に応じて適正な径のものに交換してプラグ圧延が実施されるのが一般的である。すなわち、バーの外径はプラグの外径より小さくなければならないため、例えば厚肉管をプラグミルにて圧延するには、使用するバーは外径が小さい(対座屈圧力の小さい)ものを使用する必要がある。外径が小さいバーの座屈を免れるためには圧延圧力を小さくする必要があるため、鋼管製品内面にピット状の欠陥が残存する可能性が高くなるのは、上述した通りである。
【0012】
そこで、本発明は、前記バーの座屈を防止すること、特に外径が小さいバーであっても座屈の防止を可能とする手法を与えることによって、プラグミルでの圧延圧力を一定以上に保って中空素管内面のピット状欠陥の残存を有利に回避する、プラグミル圧延方法について提供することを目的とする。さらに、本発明の別の目的は、このプラグミル圧延方法に用いて好適のプラグミルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、前記課題を解決する方途を究明するために、種々の検討を行った。まず、図3に、バーのような筒状の部材に軸方向の外力Pを与えた場合に、この部材が座屈に至る外力Pの大きさを算出する既存理論(オイラーの公式)を示している。この理論によれば、部材の軸方向長さLが短いほど、部材が座屈に至る外力Pは大きくなり、座屈し難くなることを表している。したがって、圧延圧力を一定とした場合、バーの座屈を防止するためには、バーの先端から後端の固定点までの長さ、具体的には図1におけるバーの先端から後端側の金具6までの有効長さLを短くすることが有効である。図1に示すプラグミルでは、バー2の後端金具6および既存のバークランプ7を、バー2のプラグ3の側に近づけることによって、有効長さLを短くすれば、理論的にはバーの座屈を防止できることになる。
【0014】
しかしながら、既存のバークランプ7などは固定された設備であり、これらを移動可能にするには大規模な設備改造が必要となり現実的な解決策とはならない。すなわち、既存の設備制約のまま、厚肉管における内面のピット状欠陥の残存を抑制することはできなかった。
【0015】
そこで、既存設備に大幅な改修をすることなしに、上記した有効長さLを短くする手法を模索した。その結果、圧延後の中空素管と干渉しないバーの先端寄りの位置において、前記バーを把持する把持装置を新たに設けると共に、その把持の仕方を工夫することによって、特に外径が小さいバーであっても座屈の防止が実現できることを新たに知見するに到った。本発明は、以上の知見に基づくものであって、その要旨は次の通りである。
【0016】
1.穿孔された中空素管の内側に、前記中空素管の中心軸線上に配した円筒状のバーの一端に装着される、プラグを挿入し、該プラグと前記中空素管の外側に配した、少なくとも1対の圧延ロールとの間で圧下を加えて前記中空素管を延伸させるプラグミル圧延方法であって、
前記バーの固定支持される他端から離間する、前記バーの長手方向の中間位置を、前記バー軸方向にかかる圧延荷重に起因してバーに発生するバー半径方向の変位に応じて支える、プラグミル圧延方法。
【0017】
2.前記中間位置を、前記バーの周方向に120°以下の間隔で相互に離間する少なくとも3接点を介して把持し、前記バーの中心軸を通る水平線の下側域にある少なくとも2接点を前記バーと接触させ、かつ同上側域にある少なくとも1接点は前記バーとの間にクリアランス(隙間)を設けてある、前記1に記載のプラグミル圧延方法。
【0018】
3.前記クリアランスが20mm以上30mm以下である前記1または2に記載のプラグミル圧延方法。
【0019】
4.中空素管に延伸圧延を施すプラグミルであって、
前記中空素管のパスライン上に配置されるバーと、前記バーの一端に取り付けられるプラグと、前記プラグとの間で前記中空素管を圧下する一対の圧延ロールと、前記バーの固定支持される他端から離間した中間位置にて当該バー部分を把持する把持装置とを有し、
前記把持装置は、前記バー軸方向にかかる圧延荷重に起因してバーに発生するバー半径方向の変位に応じて支える機能を有するプラグミル。
【0020】
5.前記把持装置は、前記パスラインを通る水平線の下側域で前記バーと接触する、相互に120°以下の間隔で離間する少なくとも2接点を有する下側金物と、同上側域で前記バーと接触し、かつ下側軸受金物の隣接接点と前記バーの周方向に120°以下の間隔で離間する少なくとも1接点を有する上側金物との対の少なくとも1対からなり、前記上側金物は鉛直方向に位置変更する手段を有する前記4に記載のプラグミル。
【0021】
6.前記把持装置は、前記下側金物と前記上側金物との対の2対以上からなる前記4または5に記載のプラグミル。
【0022】
7.前記バーは、円筒形状である前記4から6のいずれか1項に記載のプラグミル。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、特に小さい径のバーを使用するプラグ圧延において、バーの座屈を防止してプラグミルでの圧延圧力を一定以上に保つことを可能としたため、中空素管内面のピット状欠陥が残存するのを確実に抑制することができる。また、本発明によれば、バーの座屈防止のために、バーの軸方向中間位置を把持するための装置が大規模になることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】プラグミルの設備概要を示す側面図である。
図2】プラグミルにて中空素管を延伸圧延する様子を示す図である。
図3】筒状の部材に軸方向の外力Pを与えた場合、部材が座屈に至る外力Pの大きさを算出する既存理論を示す図である。
図4】本発明に従うプラグミルの設備概要を示す側面図である。
図5】本発明に従う把持装置の詳細を示す図である。
図6】本発明に従う把持装置における金具とバーとの接点の各態様を示す図である。
図7】把持装置における金具とバーとの接点の各態様を示す図である。
図8図4のプラグミルにおける、バー2の測定位置や作用される力等を模式的に示した図である
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明を詳しく説明する。まず、本発明のプラグミル圧延方法に使用するプラグミルについて、図4および図5を参照して説明する。
図4に示すプラグミルは、図1に示したプラグミルと基本構成を同じくするものであり、同じ構成については符号を共通にして説明を省略する。すなわち、図4に示すプラグミルは、図1に示したプラグミルにおいて、バー2の後端(他端)から離間した中間位置、具体的には圧延後の中空素管と干渉しない領域Aのバー2先端側の中間位置に、把持装置10を設置することを特徴とする。
【0026】
この中間位置は、圧延された中空素管と干渉しない位置である必要があり、さらに図3に示した既存理論によれば、可能な限りバー先端に近づけることが好ましい。より具体的には、圧延ロール4の軸中心から管軸方向に、製造振れ幅最大となる中空素管1の長さ、すなわち、プラグミルで製造する中空素管1の長さに対し、プラグミルで圧延する際に、工具の寸法誤差や素管の温度の差によって生じる長さの振れ幅を付与した長さと同一となる距離の位置に、把持装置10を設置することが好ましい。
なお、鋼管製品は各規格で長さ範囲の要求があり、前記API5CTの油井管規格以外では、ASTM/ASME規格に代表されるボイラー管製品にて、20m長の要求もある。本発明は、製造する各鋼管規格の長さ要求範囲の中で、最大の長さと同一となる距離の位置に、把持装置10を設置してもよい。
【0027】
把持装置10は、例えば図5に示すように、断面V字状の受け面11aを有する下部金物11と、断面逆V字状の受け面12aを有する上部金物12との対になり、上部金物12が下部金物11に対して進退可能(上下動可能)に設けてある。すなわち、把持装置10は、図5(a)に示すように、下部金物11および上部金物12の各受け面11aおよび12aとの接触を介してバー2を固定することができる。しかしながら、本発明法では、図5(b)に示すように、上部金物12を上方に移動させ、バー2を下部金物11の受け面11a上に載置する一方、上部金物12の受け面12aとはクリアランス13を介してバー2の中間地点を把持し、バー2の座屈防止を図ることが肝要である。この点について、以下に詳しく説明する。
【0028】
ここで、上記把持装置10におけるクリアランス(空隙)とは、管軸と垂直断面において、バーを支持する把持装置中の(バーを挟んで対向する)一対の接点のうち、一方の接点がバーと接したとき、他方の接点とバー外周面との最小の距離である。バーが双方の接点に接しない場合には、断面図においてバーを一方の接点に接するように移動し設置した際生じる隙間において、バーと接点との最小距離を指すものとする。なお、図5(b)において、13で示されるクリアランスは、角度14の大きさやバーと金物との相対位置などにより、クリアランスの位置は異なることになる。すなわち、本発明のクリアランスは図5(b)の記載に限られるものではない。
【0029】
さて、小さい径のバーを使用しなければならないのは、中空素管が厚肉である場合であり、プラグ圧延後の中空素管長さは比較的短くなる。これは、中空素管の素材となる円筒型鋼片の体積が限られており、また、プラグミルでの中空素管外径は各ローリングスケジュール(同一寸法の圧延ロールで製造する単位)で同じであることから、厚肉になるほどプラグ圧延時の中空素管長さは短くなることによる。そして、バーが座屈しようとするバー半径方向の圧力を受け止めるためには、把持装置10は大きな反力に耐えうる、高強度の設備とする必要がある。
【0030】
しかしながら、既存のプラグミルに、かような高強度の設備を追加するには設置場所を確保することが難しく、また多大なコストを要することから、現実的な手段ではない。
【0031】
そこで、本発明においては、図5(b)に示すように、特に小さい径のバーを使用する際に、バー2と上部金物12との間にクリアランス13を設定することにより、バーが座屈に至らない領域に抑えながら把持装置10に加わる反力の低減を実現する。なお、前記クリアランス13は、バー2の外周面と上部金物12との最小距離を示す。
【0032】
すなわち、バーが座屈に至らない領域とは、圧延圧力によるバー半径方向の変位量(たわみ)を、バー材料が降伏に至らないまでの量であり、バー座屈防止の観点からは、降伏に至らない変位量までは許容することができ、許容可能な変位量を前記クリアランスとして設定する。
【0033】
ここで、上記したクリアランス13は、20mm以上30mm以下に設定することが好ましい。なぜなら、クリアランスが20mm未満では、把持装置に付与される反力が大きくなり、大規模な高強度の装置構成が必要となる、虞がある。すなわち、20mm以上のクリアランスを確保することによって、圧延圧力によってバー2の座屈に繋がるバー半径方向の変位を抑え、かつバー2が把持装置10に与える反力を抑えることが可能になる。クリアランス13を20mm以上にすれば、例えば図5(a)に示したクリアランス無しの場合に比し、バー半径方向の変位を22%以下の増加に抑えられる。同様に、バー2が把持装置10に与える反力を1/10以下に抑えることが可能になる。
【0034】
なお、上記したバー半径方向の変位およびバー2が把持装置10に与える反力は、実際の圧延条件をセッティングした有限要素法による弾性変形解析により算出した。
【0035】
一方、クリアランスが30mmを超えると、圧延圧力によるバー2の座屈を防止する効果が低下する、虞がある。すなわち、外径の小さいプラグバーにおいては、バー半径方向の変位量が30mm以下でも座屈してしまうために、30mmを超えるクリアランスでは把持装置の把持効果が得られなくなる。
【0036】
本発明に従う把持装置は、クリアランスを介してバーと接触することを想定した少なくとも3点の接点について、その幾何学的関係を規制することによって、把持装置が形成する素管が通る内接円と加工後の素管の直径との差が20mm以上30mm以下となる把持状態を実現する。この把持状態によって、素管圧延時のバーの定常的な変位(バー半径方向)を許容しつつバーが大きく変形する際には把持装置で確実に支持することができる。
【0037】
次に、把持装置10の下部金物11および上部金物12の形状としては、例えば図5に示す断面V字型のものが有利に適合する。すなわち、バー2外周面と上部金物、バー外周面と下部金物それぞれ2点以上の点もしくは面で接触させ、バー2に外力が作用した際、バー2の水平方向への移動を阻止できる形状とすることが好ましい。また、バーを被加工断面中心(パスラインS上)に保持する意味で、各受け面11aおよび12aの断面寸法は左右対象であることが好ましい。
【0038】
以上、把持装置10は、図5に示した断面V字型の金物の対からなる構成を典型例として説明したが、把持装置10が具備すべき構成要件について以下に詳しく説明する。すなわち、把持装置10は前記バー2の中心軸(パスラインS上)を通る水平線の下側域で前記バーと接触する少なくとも2接点を有する下側金物と、同上側域で前記バーと接触し、かつ下側金物の隣接接点と前記バーの周方向に120°以下の間隔で離間する少なくとも1接点を有する上側金物との対の少なくとも1対からなる。まず、把持装置10において必要であるのは、バーと接触する接点が下側金物では少なくとも1および上側金物では少なくとも2の合計3点の接点である。そして、これら少なくとも3接点は、隣接相互間でバーの周方向に120°以下の間隔で離間していることである。
【0039】
ここで、図6および図7に、バー2と各金具における接点との相対位置を模式的に示す。これら図において、下部金物に属する接点(以下、下部接点ともいう)を白抜きの丸(○)および上部金物に属する接点(以下、上部接点ともいう)を黒丸(●)で示している。
【0040】
図6は、本発明に従ってバーの周方向に120°以下の間隔で離間している3事例を示してある。すなわち、同図(a)は下部接点が2および上部接点が1、同図(b)は下部接点が3および上部接点が1、同図(c)は下部接点が2および上部接点が2、である。いずれの事例においても、接点相互の隣接間隔は120°以下であり、下部接点はバーと接触し、かつ上部接点はバーとの間にクリアランス13を有する。少なくとも2の下部接点にてバーを水平方向に支持し、クリアランス13によってバーの座屈に到らない半径方向の変位を吸収し、座屈に到る変位は上部接点で抑止することできる。
【0041】
一方、図7には、本発明の条件を満たしていない3事例を示してある。すなわち、同図(a)は下部接点が1および上部接点が1、同図(b)は下部接点が2および上部接点が2、同図(c)は下部接点が1および上部接点が4、である。図7(a)は下部および上部の接点の相互間隔が120°を超える事例であり、バーを正規のパスライン上に固定維持することができない上にバーの座屈を防止できない。図7(b)も下部および上部の接点の相互間隔が120°を超える事例であり、二点鎖線で示すように、バーの座屈を防止できない。図7(c)は下部接点が1であるため、バーを正規のパスライン上に固定維持することができない。
【0042】
以上で説明した接点配置を実現するには、把持装置10の下部金物11および上部金物12の断面形状を適宜変更すればよい。例えば、図5に示した断面V字状の下部金物11および上部金物12は、V字の開き角度14を調整することによって図6(c)の形態を実現できる。また、図6(a)の形態は、断面V字状の下部金物と断面長方形型の上部金物にて実現できる。同様に、図6(b)の形態は、3つの断面長方形型の下部金物と
1つの断面長方形型の上部金物にて実現できる。
【実施例0043】
図4に示したところに従って、プラグミルのバー2に以下に示す諸元のバーを適用し、該バー2に図5に示した把持装置10を装着して、プラグ圧延を行った。その際の条件は、表1に示す通りである。また、図5に示す角度14は120°を採用し、把持装置のバー軸方向位置としては、図4に示す圧延ロール4の軸中心から水平方向に、製造振幅最大となる中空素管1の長さと同一となる距離の位置として、バー先端から14300mmに設置するケース1から、バー後端方向へ移動し、バー先端から16400mmの位置(ケース2)まで移動させた。ここで、図4におけるバー2に関わる諸条件を図8に模式的に示す。すなわち、バー2へ作用する荷重を21、この荷重21の作用点(圧延ロール4の軸中心)から把持装置10までの距離を22、バー2の変位量を23、把持装置10での反力を24として、これらの測定結果を表1に示す。また、図5に示した把持装置10におけるクリアランス13を表1に併記する。
【0044】
なお、バー2の変位量23および把持装置10での反力24は、実際の圧延条件をセッティングした有限要素法による弾性変形解析により算出した。
【0045】
[プラグミルのバー2諸元]
・寸法:外径φ120.0mm 管厚22.0mm 長さ22000mm
・ヤング率:21000kgf/mm2
・降伏強度:80kgf/mm2
【0046】
【表1】
【0047】
ここで用いたプラグミルは、プラグバー有効長さが22000mmである。まず、把持装置10の位置は、ケース1として、プラグミルで圧延される中空素管と干渉しない範囲、すなわち、前記した継目無で製造する鋼管製品の代表である、API5CTの油井管規格において主となる長さ範囲Range3を製造するために、プラグ圧延に供する中空素管が14mとなるケースを想定し、荷重作用点から14300mm出側位置とした。次に、把持装置10の位置が荷重作用点から16300mm出側位置である場合をケース2とした。なお、荷重作用点とはプラグバー先端位置と同義である。
【0048】
次に、把持装置10の形状は図5に示すV字型、開角度14は140°を採用している。また、従来内面疵を防止するに必要な圧延圧力を与えると座屈が発生するために、圧延圧力を抑える必要のあった、外径φ120.0mm 厚さ22.0mmバーを用いている。把持装置10の上部金物12のクリアランス13は、0mmの条件、および20mmの条件の二つの条件で実施した。
【0049】
以上の4条件は共に、内面疵の発生を防止するために必要となる、最大80tの圧延荷重21を作用させたが、前記サイズのバーでは座屈は確認されなかった。
また、距離22が14300mmのケース1において、上部金物のクリアランス13が20mmの条件は、クリアランス13が0mmの場合と比較し、把持装置の反力24が約1/17に低減された。ちなみに、距離22が14300mm未満の場合は、製造する継目無鋼管の最大長さを満たさないため、実施していない。
【0050】
さらに、距離22が16300mmのケース2において上部金物のクリアランス13が20mmの条件では、クリアランス13が0mmの場合と比較し、把持装置の反力24が約1/14に低減され、把持装置の設備要求を小さくすることに繋がる結果となった。距離22が16300mmを超える場合は、バー座屈の可能性がある。なぜなら、バーの降伏強度に至る変位量となるからである。ただし、クリアランス13が20mmよりも小さい条件では、この限りではない。
【0051】
以上の実施例ではプラグミルバー断面寸法、外径φ120.0×管厚22.0mmの場合の例を示したが、本発明の適用はこれに限るものではない。
【0052】
上記した通り、本発明に従って把持装置を装着することによって、適切な圧延圧力による鋼管の製造が可能となった結果、上記した実施例として挙げたプラグバーを使用する鋼管の製造において、従来は2.5%発生していた内面疵は、発生率1.6%にまで低減された。
【符号の説明】
【0053】
1 中空素管
2 バー
3 プラグ
4 圧延ロール
5 戻しロール
6 後端金具
7 バークランプ
8 外径
10 把持装置
11 下部金物
12 上部金物
13 クリアランス
14 開角度
20 欠陥
S パスライン
R 圧延圧力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8