(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118357
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】撥水加工繊維構造物の製造方法及び繊維構造物の撥水加工薬剤キット
(51)【国際特許分類】
D06M 15/41 20060101AFI20240823BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
D06M15/41
D06M15/564
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024731
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】390029458
【氏名又は名称】ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】細矢 陽子
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 智行
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB04
4L033AC03
4L033CA34
4L033CA50
(57)【要約】
【課題】非フッ素系撥水剤を用いた、高い撥水性を有する撥水加工繊維構造物の製造方法を提供する。
【解決手段】前記目的を達成するために、本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法は、繊維構造物にアニオン系高分子(A)を付着させるアニオン系高分子付着処理工程と、前記アニオン系高分子(A)を付着させた前記繊維構造物を非フッ素系撥水剤(B)で撥水処理する撥水処理工程とを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造物にアニオン系高分子(A)を付着させるアニオン系高分子付着処理工程と、
前記アニオン系高分子(A)を付着させた前記繊維構造物を非フッ素系撥水剤(B)で撥水処理する撥水処理工程と、
を含むことを特徴とする撥水加工繊維構造物の製造方法。
【請求項2】
前記アニオン系高分子(A)が、多価フェノール系縮合物、多価フェノール系縮合物誘導体、フェノールスルホン酸ホルマリン重縮合物、チオフェノールホルマリン重縮合物及びビスフェノールSスルホンホルマリン重縮合物からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1記載の撥水加工繊維構造物の製造方法。
【請求項3】
前記繊維構造物が、ポリエステル系繊維構造物又はナイロン系繊維構造物である請求項1又は2記載の撥水加工繊維構造物の製造方法。
【請求項4】
前記非フッ素撥水剤(B)が、下記成分(b-1)及び(b-2)の付加物(b)を含む請求項1又は2記載の撥水加工繊維構造物の製造方法。
(b-1)水酸基、アミノ基、及びイミノ基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基を有するビニル系ポリマー
(b-2)炭素数が8以上の脂肪族基を有するイソシアネート
【請求項5】
アニオン系高分子(A)と非フッ素系撥水剤(B)とを含む繊維構造物の撥水加工薬剤キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水加工繊維構造物の製造方法及び繊維構造物の撥水加工薬剤キットに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維等に使用する撥水剤として、フッ素元素を含むフッ素系撥水剤を用いた撥水性繊維製品が知られている(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フッ素系撥水剤に含まれるパーフルオロオクタン酸(以下「PFOA」という。)、パーフルオロオクタンスルホン酸(以下「PFOS」という)等のフッ素化合物は、生活環境、生物等に影響を及ぼすおそれがある。そこで、近年は、フッ素元素を含まない非フッ素系撥水剤を使用した繊維製品が要望されている。
【0005】
しかし、非フッ素系撥水剤で処理した撥水繊維製品は、フッ素系撥水剤を用いた撥水性繊維製品に比べ、撥水性が低く、特に、洗濯後の撥水性が低下しやすい傾向がある。このため、非フッ素系撥水剤を用いた、撥水性の高い撥水加工繊維製品の製造方法が必要とされている。
【0006】
そこで、本発明は、非フッ素系撥水剤を用いた、高い撥水性を有する撥水加工繊維構造物の製造方法、及び非フッ素系撥水剤を用いた撥水加工薬剤キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法は、繊維構造物にアニオン系高分子(A)を付着させるアニオン系高分子付着処理工程と、前記アニオン系高分子(A)を付着させた前記繊維構造物を非フッ素系撥水剤(B)で撥水処理する撥水処理工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の繊維構造物の撥水加工薬剤キットは、アニオン系高分子(A)と非フッ素系撥水剤(B)とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非フッ素系撥水剤を用いた、高い撥水性を有する撥水加工繊維構造物の製造方法、及び非フッ素系撥水剤を用いた撥水加工薬剤キットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、例を挙げて説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0011】
本発明において、「繊維構造物」は、繊維によって構成された構造物をいう。
【0012】
本発明において、「繊維製品」は、繊維構造物を用いた製品をいう。
【0013】
本発明において、「撥水剤組成物」は、撥水剤のうち、組成物であるものをいう。
【0014】
本発明において、「イソシアネート」は、分子中にイソシアネート基(イソシアナト基)-N=C=Oを有する化合物をいう。「モノイソシアネート」は、1分子中にイソシアネート基を1つのみ有するイソシアネートをいう。「ポリイソシアネート」は、1分子中にイソシアネート基を複数有するイソシアネートをいう。
【0015】
本発明において、「アルキル」は、例えば、直鎖状又は分枝状のアルキルを含む。本発明において、アルキル基は、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基及びtert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等が挙げられる。
【0016】
本発明において、「アルキレン」は、例えば、直鎖状アルキレン(メチレンもしくはポリメチレン)又は分枝状のアルキレンを含む。本発明において、アルキレン基は、特に限定されないが、例えば、メチレン基、ジメチレン基(エチレン基)、エチリデン基、トリメチレン基、1-メチルエチレン基(プロピレン基)、テトラメチレン基、1-メチルトリメチレン基、2-メチルトリメチレン基、1,1-ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等が挙げられる。
【0017】
以下、本発明の実施形態について、さらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0018】
[1.撥水加工繊維構造物の製造方法]
本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法は、前述のとおり、繊維構造物にアニオン系高分子(A)を付着させるアニオン系高分子付着処理工程と、前記アニオン系高分子(A)を付着させた前記繊維構造物を非フッ素系撥水剤(B)で撥水処理する撥水処理工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
[1-1.アニオン系高分子(A)]
本発明において、「アニオン系高分子」は、アニオンを生じ得る高分子をいい、例えば、水に溶解したときに負電荷、すなわちアニオンを生じ得る高分子をいい、より具体的には、例えば、アニオン性官能基を有する高分子物質をいう。
【0020】
本発明において、前記アニオン系高分子(A)は、特に限定されないが、例えば、多価フェノール系縮合物、多価フェノール系縮合物誘導体、フェノールスルホン酸ホルマリン重縮合物、ビスフェノールSスルホンホルマリン重縮合物、チオフェノールホルマリン重縮合物等が挙げられる。本発明において、「多価フェノール系縮合物」は、例えば、多価フェノール(1分子中に複数のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物)の重合体又は共重合体をいう。本発明において、「多価フェノール系縮合物誘導体」は、多価フェノール系縮合物の構造が変化した化合物をいい、例えば、多価フェノール系縮合物の水素原子の少なくとも1つが置換基で置換された化合物をいう。本発明において、前記アニオン系高分子(A)は、1種類のみ用いてもよいし、複数種類併用してもよい。
【0021】
本発明において、前記アニオン系高分子(A)は、例えば、合成して用いてもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の商品名「ナイロックス1500」が挙げられ、さらに、下記表1に記載されたアニオン系高分子が挙げられる。
【0022】
【0023】
本発明において、前記アニオン系高分子(A)の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、1000~25000、又は2000~20000であってもよい。本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法において、前記アニオン系高分子付着処理工程における前記アニオン系高分子(A)の添加量は、特に限定されないが、繊維構造物に対して、0.2~20%o.w.f.が好ましい。なお、本発明において、「o.w.f.」は、処理対象物である繊維構造物の全質量を100質量%とした場合の、処理剤(例えば、前記アニオン系高分子(A)又は前記非フッ素系撥水剤(B))の全質量(質量%)をいう。
【0024】
本発明において、物質(例えば、前記アニオン系高分子(A)、前記非フッ素系撥水剤(B)等)の重量平均分子量の測定方法は特に限定されないが、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、下記の分析条件で重量平均分子量を測定することができる。
(アニオン系高分子(A)の分析条件)
装置:株式会社東ソー製 HLC-8320GPC
検出器:示差屈折率検出器(RI検出器)、polarity=(+)
カラム:株式会社東ソー製 TSKgel guardcolumn SuperAW-H(4.6mmI.D.×3.5cm)、TSKgelSuperAWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2
溶媒:DMSO(富士フィルム和光純薬製 特級)、60mM-LiBr(富士フィルム和光純薬製)、60mM-リン酸(富士フィルム和光純薬製 特級)
流速:0.4ml/分
温度:40℃
(非フッ素系撥水剤(B)の分析条件)
装置:Waters社製 e2695
検出器:示差屈折率検出器 Waters社製 2414
カラム:Waters社製 HSPgel MB-H、RT2.0、RT4.0の計3本を直列に接続した。
溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.3mL/分
温度:40℃
【0025】
[1-2.非フッ素系撥水剤(B)]
本発明において、「非フッ素系撥水剤」は、元素としてのフッ素を実質的に含まない撥水剤をいう。元素としてのフッ素を「実質的に含まない」は、前記非フッ素系撥水剤(B)の全質量を100質量%として、前記非フッ素系撥水剤(B)中に含まれる元素としてのフッ素の質量が、例えば、1質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.001質量%以下、又は0.0001質量%以下であってもよく、下限値は特に限定されないが、例えば、0質量%又は0質量%を超える数値であってもよい。フッ素が生活環境、生物等に与える影響を低減する観点からは、前記非フッ素系撥水剤(B)中に含まれる元素としてのフッ素の含有率がなるべく低いことが好ましく、前記非フッ素系撥水剤(B)中に含まれる元素としてのフッ素の含有率が0質量%である(すなわち、前記非フッ素系撥水剤(B)が元素としてのフッ素を全く含まない)ことが特に好ましい。
【0026】
本発明において、前記非フッ素系撥水剤(B)は、例えば、下記成分(b-1)及び(b-2)の付加物(b)を含んでいてもよい。付加物(b)は、下記成分(b-2)におけるイソシアネート基(イソシアナト基)の不飽和結合に、下記成分(b-1)が付加した構造の化合物である。下記成分(b-1)が、水酸基を有するビニル系ポリマーである場合、付加物(b)は、例えば、ウレタンである。なお、前記「ウレタン」は、ウレタン結合(-NH-CO-O-)を有する化合物をいう。下記成分(b-2)が、アミノ基及びイミノ基の少なくとも一方を有するビニル系ポリマーである場合、付加物(b)は、例えば、ウレアである。なお、本発明において、前記「ウレア」は、尿素自体ではなく、ウレア結合(-NH-CO-NH-)を有する尿素誘導体化合物をいう。
(b-1)水酸基、アミノ基、及びイミノ基からなる群から選択される少なくとも一種の置換基を有するビニル系ポリマー
(b-2)炭素数が8以上の脂肪族基を有するイソシアネート
【0027】
[1-2-1.付加物(b)]
成分(b-1)は、前述のとおり、ビニル系ポリマーである。前記ビニル系ポリマーは、例えば、末端二重結合(ビニル基CH2=CH-又はビニリデン基CH2=C=)を有するモノマーを重合して得られる構造のポリマーである。前記モノマーとしては、例えば、ビニルアルコール、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられる。また、前記ビニル系ポリマーは、例えば、前記モノマーと他のモノマーとの共重合体の構造を有していてもよい。前記他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ヘキセン等が挙げられる。また、前記ビニル系ポリマーはアクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸及びそのエステル、アミド、無水物、ビニルスルホン酸等のスルホン酸モノマー、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ビニルスクシンイミド等が共重合されていてもよい。
【0028】
成分(b-1)は、前述のとおり、水酸基、アミノ基、及びイミノ基からなる群から選択される少なくとも一種の置換基を有するビニル系ポリマーであり、例えば、水酸基を有するビニル系ポリマーでもよい。前記水酸基を有するビニル系ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。成分(b-1)がエチレン-ビニルアルコール共重合体である場合、ビニルアルコール構造単位の含有率は、特に限定されないが、例えば、10~80モル%、40~80モル%、又は40~70モル%である。前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の平均重合度は、特に限定されないが、例えば、100以上、500以上、又は800以上であり、例えば、3,000以下、2,500以下又は1,500以下である。前記エチレン-ビニルアルコール共重合体の市販品としては、例えば、株式会社クラレ製の商品名エバール:グレードE-171B、E-151B、E-105B、E-171A、E-151A、E-105A、日本合成化学工業株式会社製のソアノール:グレードAT4403、AT4406、A4412等が挙げられる。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体のビニル基に酸化エチレンを付加重合することによって合成される、酸化エチレンを付加したエチレン-ビニルアルコール共重合体も使用できる。市販品としては、例えば、住友化学社製の商品名スミガード グレード300K、スミガード グレード300G等が挙げられる。成分(b-1)がポリビニルアルコールである場合、平均重合度は、特に限定されないが、例えば、100~3,000又は150~2,000である。前記ポリビニルアルコールのケン化度も特に限定されないが、例えば、70%以上、80%以上、又は90~100%である。
【0029】
成分(b-1)は、例えば、アミノ基を有するビニル系ポリマーでもよいし、イミノ基を有するビニル系ポリマーでもよい。成分(b-1)は、例えば、アミノ基及びイミノ基のいずれか一方のみを有するビニル系ポリマーでもよいし、両方を有するビニル系ポリマーでもよい。前記アミノ基及びイミノ基の少なくとも一方を有するビニル系ポリマーとしては、例えば、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。前記ポリアリルアミン、ポリエチレンイミンの分子量は、特に限定されないが、例えば300~100,000である。
【0030】
成分(b-1)は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。成分(b-1)は、例えば、前述のとおり、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合体、ポリアリルアミン、及びポリエチレンイミンからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0031】
成分(b-2)は、前述のとおり、炭素数が8以上の脂肪族基を有するイソシアネートである。成分(b-2)は、モノイソシアネートでもポリイソシアネートでもよいが、例えば、モノイソシアネートである。前記脂肪族基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられ、好ましくはアルキル基である。前記脂肪族基は、分枝鎖状であってもよいが、直鎖状の方が好ましい。前記脂肪族基の炭素数は8以上であり、上限は特に限定されないが、例えば30以下、又は20以下である。成分(b-2)としては、例えば、オクチルイソシアネート、ドデシルイソシアネート(ラウリルイソシアネート)、オクタデシルイソシアネート(ステアリルイソシアネート)等のモノアルキルイソシアネートが挙げられ、特に好ましくはオクタデシルイソシアネート(ステアリルイソシアネート)が挙げられる。なお、オクタデシルイソシアネートは、例えば、アルキル基の炭素の数が12、炭素数14、炭素数16、炭素数17、炭素数18、炭素数20のモノアルキルイソシアネートを含有している混合物が市販されており、それを用いてもよい。前記混合物中の各成分の含有割合としては、好ましくは、アルキル基の炭素数が16のイソシアネートが1~10質量%、アルキル基の炭素数が17のイソシアネートが0.5~4質量%、アルキル基の炭素数が18のアルキル基が80~98質量%の混合物である。また、前記混合物は、例えば、主成分の混合比がアルキル基の炭素数が16のイソシアネートが8~9質量%、アルキル基の炭素数17のイソシアネートが3~4質量%、炭素数18のイソシアネートが85~87質量%の混合物である。そのような混合物の市販品としては、例えば、保土谷化学工業株式会社製、商品名ミリオネートOが挙げられる。本発明において、成分(b-2)は、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0032】
付加物(b)において、成分(b-1)中の水酸基、アミノ基、及びイミノ基の数の合計と、成分(b-2)中のイソシアネート基の数との比は、特に限定されないが、例えば、前述のとおり、4/1~1/1であってもよく、例えば、4/3~1/1又は2/1~1/1であってもよい。
【0033】
付加物(b)の製造方法は、特に限定されず、例えば、一般的な水酸基含有ポリマー又はイミノ基含有ポリマーとイソシアネートとの付加反応と同様又はそれに準じてもよい。付加物(b)の製造方法は、具体的には、例えば、以下のようにして行なうことができる。
【0034】
まず、成分(b-1)(ポリマー)は、必要に応じ脱水してもよいし、しなくてもよい。前記脱水は、特に限定されないが、例えば、粒子状の成分(b-1)をトルエン等の非極性溶媒に分散し、共沸脱水する。それ以外には、例えば、乾燥機等により水分を除く方法が挙げられる。工業的には、効率等の観点から、共沸脱水が好ましい。共沸脱水の操作として、例えば、還流を行いながら還流装置の途中で水分を分離除去する方法等でもよい。また使用する溶剤は水と共沸する溶剤であれば特に限定されないが、本発明の撥水剤との溶解性などからトルエン、キシレンが好ましい。水分除去工程後の成分(b-1)中の水分含有量は、特に限定されないが、150ppm以下とするのが好ましい。
【0035】
つぎに、成分(b-1)に対し、必要に応じて一般的なイソシアネートによるウレタン化反応に使用する触媒を用いて反応させる。例えば、反応触媒として、3級アミン及びその塩、水溶性の高い弱酸性のアルカリ金属塩、有機ジルコニウム化合物、有機チタン化合物、亜鉛塩、ジルコニウム錯体、ビスマス塩、アルミニウム化合物、無機スズ化合物、無機ビスマス化合物等を1種類又は2種類以上添加する。環境負荷低減の観点から、ジブチルススズジラウレートのような有機金属化合物は、なるべく用いないことが好ましい。触媒を用いるとき、必要に応じ、ジメチルスルホキシド等の水溶性の溶媒やトルエン等の非水溶性溶媒を添加してもよい。なお、前記触媒は、例えば、市販の触媒であってもよい。前記市販の触媒は、例えば、下記表2に記載された触媒等であってもよく、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0036】
【0037】
つぎに、成分(b-2)(イソシアネート)を添加し反応させる。なお、触媒添加の時期は、前述のとおり、例えば、反応前に添加するが、反応途中に添加してもよいし、複数回に分けて添加してもよい。反応温度及び反応時間は、特に限定されず、例えば、一般的な水酸基含有ポリマー又はイミノ基含有ポリマーとイソシアネートとの付加反応と同様又はそれに準じてもよい。反応温度は、前述のとおり特に限定されないが、例えば、50~150℃であってもよく、75~140℃であってもよい。また、反応時間は、例えば、100~240分であってもよく、120~200分であってもよい。反応の終点は、例えば、反応混合物中の未反応イソシアネート化合物の残存量を赤外分光光度計により測定して確認することができる。
【0038】
反応終了後、例えば、水を加えて油層と水層を分離し、前記触媒を水層に移行させて除去することができる。なお、例えば、前記触媒の除去が不要である場合は、この操作を省略してもよい。一方、目的生成物の付加物(b)は油層に移行する。この油層を、ろ過機(フィルター)を通してろ過し、副生成物(例えばビスウレア体)を除去してもよい。なお、例えば、前記副生成物の除去が不要である場合は、この操作を省略してもよい。前記ろ過機は特に限定されないが、例えば、トルエン等の有機溶剤に不溶な副生成物の除去が目的であることから、密閉型加圧ろ過機が好ましい。ろ過の方式は、特に限定されず、例えば、溶液を入れた器からフィルターを通し別の受器で溶液を受ける方式、あるいは、溶液を入れた器からフィルターを通し、再び溶液を入れてある器に戻す循環方式のどちらでも使用できる。
【0039】
さらに、あらかじめメタノールを入れておいた器内に、付加物(b)を含む前記油層を入れ、沈殿した付加物(b)をろ過により分離して本発明の撥水剤に使用する。例えば、前記触媒及び前記副生成物の分離操作を省略する場合は、前記反応終了後の混合物を、直接メタノールに入れて付加物(b)を沈殿させてもよい。
【0040】
[1-2-2.非フッ素系撥水剤(B)の製造方法]
本発明において、前記非フッ素系撥水剤(B)は、前記付加物(b)のみからなっていてもよいが、さらに、前記付加物(b)以外の他の成分を含んでいてもよい。前記非フッ素系撥水剤(B)は、例えば、前記付加物(b)に加え、さらに、界面活性剤(b-3)と、水(C)とを含んでいてもよい。また、前記非フッ素系撥水剤(B)は、は、例えば、前記付加物(b)に加え、さらに、有機溶媒(D)を含み、前記付加物(b)が前記有機溶媒(D)に溶解していてもよい。以下において、前者を「水系撥水剤」、後者を「溶剤系撥水剤」ということがある。
【0041】
前記水系撥水剤の製造方法においては、特に制限は無いが、例えば、一般的な機械式乳化方法を用いることができる。前記機械式乳化方法に用いる機械は、特に限定されないが、バッチ方式では、例えば、ナウターミキサー、アンカーミキサー、ホモミキサー、ホモディスパー、プラネタリミキサー等が挙げられ、それらを組み合わせた多軸乳化分散装置、例えばプライミクス株式会社製のコンビミックスシリーズであってもよい。連続式では、例えば、ラインホモミキサー等が挙げられ、又は、それらを組み合わせた装置であってもよい。特に装置内を高圧にすることが出来る高温高圧乳化分散装置が好ましい。
【0042】
前記水系撥水剤において、界面活性剤(b-3)は、特に限定されず、例えば、一般的な界面活性剤でもよい。前記界面活性剤は、例えば、ノニオン(非イオン)性界面活性剤、カチオン(陽イオン)性界面活性剤、アニオン(陰イオン)性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでも良い。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルアミン等が挙げられる。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系界面活性剤としては、例えば、青木油脂工業株式会社製の商品名ブラウノン230、ファインサーフ1502.2等が挙げられる。陽イオン界面活性剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩、3級アミン又はその塩等が挙げられる。前記第4級アンモニウム塩としては、例えば、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の商品名リポカード18-63等が挙げられる。陰イオン界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、脂肪酸塩等が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。界面活性剤(b-3)は、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0043】
前記水系撥水剤において、界面活性剤(b-3)の含有率は、特に限定されないが、付加物(b)の質量に対し、例えば1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であり、例えば200質量%以下、150質量%以下、又は100質量%以下である。
【0044】
前記水系撥水剤は、さらに、炭化水素油、高級アルコール等の有機化合物を含有してもよい。なお、炭化水素油、高級アルコール等の有機化合物は、後述の水系撥水剤において、水(C)と混合する有機溶剤とは異なる成分である。前記炭化水素油の具体例としては、例えば、スクワレン、スクワラン、流動パラフィン、流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、α―オレフィンオリゴマー、シクロパラフィン、ポリブテン、ワセリン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、及びセレシンが挙げられる。前記高級アルコールとしては、炭素数6~30の高級アルコールであり、具体例としては、例えば、ヘキシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、イソデシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、イコシルアルコール、及びベヘニルアルコールが挙げられる。上記、有機化合物の含有率は、特に限定されないが、付加物(b)の質量に対し、例えば1質量%以上、3質量%以上、又は5質量%以上であり、例えば200質量%以下、150質量%以下、又は100質量%以下である。上記の有機化合物は、例えば、水系撥水剤を減粘する作用がある。例えば、本発明の水系撥水剤の製造中において、水系撥水剤を減粘する作用がある有機化合物を添加することにより、粘度が高くなる挙動をコントロールでき、乳化分散が容易に行えるようになる。
【0045】
前記水系撥水剤において、水(C)は特に限定されず、水道水、蒸留水、イオン交換水等が挙げられる。また必要に応じて水(C)と有機溶剤とを混合してもよい。このときの有機溶剤としては、水と混和可能な有機溶剤であれば特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類が挙げられる。なお、水と有機溶剤の比率は特に限定されない。
【0046】
また、前記水系撥水剤において、付加物(b)の含有率は、特に限定されないが、水(C)の質量に対し、例えば0.5質量%以上、1質量%以上、又は3質量%以上であり、例えば90質量%以下、70質量%以下、又は50質量%以下である。
【0047】
前記溶剤系撥水剤において、有機溶媒(D)は、特に限定されないが、付加物(b)を溶解しやすい溶媒が好ましい。有機溶媒(D)は、例えば、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素(ノルマルヘキサン等)等の炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール等)、グリコール系溶媒(エチレングリコール等)、アミド系溶媒(ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド等)、スルホキシド系溶媒(ジメチルスルホキシド等)、ケトン系溶媒(メチルエチルケトン(MEK)等)、芳香族系溶媒(トルエン、キシレン等)、エーテル系溶媒(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル等)等が挙げられる。前記芳香族炭化水素としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン等が挙げられる。有機溶媒(D)は、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0048】
また、前記溶剤系撥水剤において、付加物(b)の含有率は、特に限定されないが、有機溶媒(D)の質量に対し、例えば0.1質量%以上、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上であり、例えば90質量%以下、80質量%以下、又は70質量%以下である。
【0049】
前記非フッ素系撥水剤(B)は、前述のとおり、前記成分(b-1)以外の他の任意成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記任意成分としては、前述の各成分以外に、例えば、アミノ変性シリコーン(E)が挙げられる。すなわち、前記非フッ素系撥水剤(B)である前記水系撥水剤又は溶剤系撥水剤は、さらにアミノ変性シリコーン(E)を含んでいてもよい。アミノ変性シリコーン(E)を含むことで、例えば、撥水処理した繊維又は繊維製品の撥水性がさらに向上し、又は、風合いがさらに柔らかくなる。アミノ変性シリコーン(E)としては、例えば、側鎖型アミノ変性シリコーン、両末端型アミノ変性シリコーン、片末端型アミノ変性シリコーン、側鎖両末端型アミノ変性シリコーン等が挙げられ、同分子内にポリエーテル基等の異なる反応基を有していても良い。前記アミノ変性シリコーンとしては、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名SM-8709SR等が挙げられる。前記アミノ変性シリコーンにおいて、アミノ基の官能基当量は、特に限定されないが、例えば、100~20,000g/mol、200~18,000g/mol、又は500~16,000g/molである。
【0050】
前記水系撥水剤又は溶剤系撥水剤において、アミノ変性シリコーン(E)の含有率は、特に限定されないが、付加物(b)の質量に対し、例えば0.5質量%以上、1質量%以上、又は2質量%以上であり、例えば200質量%以下、150質量%以下、又は100質量%以下である。
【0051】
前記水系撥水剤又は溶剤系撥水剤において、前記任意成分としては、アミノ変性シリコーン(E)以外には、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイル、及び、ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル等の反応性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0052】
前記水系撥水剤又は溶剤系撥水剤の製造方法は、特に限定されず、例えば、全ての成分を混合して溶解又は分散させるのみでもよい。また、各成分を溶解又は分散させやすいように、適宜加熱等をしながら溶解又は分散させてもよい。例えば、水系撥水剤の場合、付加物(b)及び界面活性剤(b-3)を加熱撹拌しながら混合し、その後、加熱撹拌を続けながら水(C)を加えて付加物(b)及び界面活性剤(b-3)を水(C)中に分散させ、水系撥水剤を製造してもよい。この場合の加熱温度は、特に限定されないが、例えば、30℃以上、又は50℃以上であり、例えば、180℃以下、又は160℃以下である。加熱撹拌の時間は特に限定されないが、例えば、全ての成分が均一に混合するまで行なえばよい。
【0053】
[1-3.アニオン系高分子付着処理工程]
本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法は、前述のとおり、繊維構造物にアニオン系高分子(A)を付着させるアニオン系高分子付着処理工程と、前記アニオン系高分子(A)を付着させた前記繊維構造物を非フッ素系撥水剤(B)で撥水処理する撥水処理工程とを含むことを特徴とする。これ以外は、本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法は、特に限定されず、例えば、前記アニオン系高分子付着処理工程及び前記撥水処理工程以外の任意の工程を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法は、具体的には、例えば、以下のようにして行うことができる。
【0054】
まず、繊維構造物にアニオン系高分子(A)を付着させる前記アニオン系高分子付着処理工程を行う。アニオン系高分子(A)を付着させる対象である前記繊維構造物は、特に限定されないが、例えば、ナイロン100%布、ポリエステル100%布、混紡、布帛、編物、糸等が挙げられる。本発明によれば、例えば、非フッ素系撥水剤を用いて、イオン極性を持たない、又はイオン極性が小さい、ポリエステル系繊維構造物、ナイロン系繊維構造物等に対しても、洗濯耐久性の高い撥水性又は撥水撥油性を付与できる。なお、本発明において、「ポリエステル系繊維構造物」とは、ポリエステルを含む繊維構造物のことをいい、「ナイロン系繊維構造物」とは、ナイロンを含む繊維構造物をいう。
【0055】
前記繊維構造物は、先述のとおり、特に限定されないが、例えば、染色された繊維構造物等であってもよい。
【0056】
前記アニオン系高分子付着処理工程によれば、例えば、前述のとおりイオン極性を持たない、又はイオン極性の小さい繊維構造物に対しても、ファンデルワールス力による繊維への親和性、水素結合、分子間結合等により、前記アニオン系高分子(A)を付与することができる。前記アニオン系高分子付着処理工程により、例えば、後加工剤である前記非フッ素系撥水剤(B)で撥水処理した際に、前記非フッ素系撥水剤(B)が繊維構造物に強固に吸着し、被膜強度を向上することができる。本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法によれば、例えば、洗濯耐久性に優れた撥水性繊維製品を提供することができる。
【0057】
つぎに、前記繊維構造物に前記アニオン系高分子(A)を付着させる。この方法は特に限定されないが、例えば、前記アニオン系高分子(A)の水溶液に前記繊維構造物を浸漬させればよい。そのための方法も特に限定されないが、例えば、バッチ法、連続法、スプレー法等が挙げられ、いずれの方法でもよい。前記繊維構造物に対する前記アニオン系高分子(A)の付着(吸着)をより確実に行う観点からは、バッチ法が特に好ましく、また、吸尽法が好ましい。
【0058】
バッチ法における浴比、すなわち繊維構造物に対する処理浴の重量比(セルロース系繊維:処理浴)は、特に限定されないが、例えば、1:10~1:50の範囲で行うことができる。処理温度も特に限定されないが、例えば、50~100℃で行うことができる。また、アニオン系高分子化合物(A)の使用量も特に限定されないが、例えば、前述のとおり、繊維構造物の重量に対して0.2~20%o.w.f.である。使用する処理液(前記アニオン系高分子(A)の水溶液)の濃度も特に限定されず、適宜設定可能であるが、例えば、0.5~15質量%、1~10質量%であってもよい。ピックアップ率も特に限定されないが、例えば、30~100質量%、40~80質量%であってもよい。なお、ピックアップ率とは、繊維構造物を処理液に浸漬した後に、浸漬前の繊維構造物に付着した処理液の重量比率をいう。処理液に対する浸漬時間も特に限定されず適宜設定可能であるが、例えば、10秒以上、30秒以上、1分以上、2分以上、又は5分以上であってもよく、例えば、120分以下、100分以下、80分以下、60分以下、又は40分以下であってもよい。
【0059】
連続法においても、例えば、前述のとおり、前記アニオン系高分子(A)の水溶液に前記繊維構造物を浸漬させて処理することができる。使用する処理液(前記アニオン系高分子(A)の水溶液)の濃度も特に限定されず、適宜設定可能であるが、例えば、0.5~15質量%、1~10質量%であってもよい。ピックアップ率も特に限定されないが、例えば、30~100質量%、40~80質量%であってもよい。なお、ピックアップ率とは、繊維構造物を処理液に浸漬した後に、浸漬前の繊維構造物に付着した処理液の重量比率をいう。処理液に対する浸漬時間も特に限定されず適宜設定可能であるが、例えば、0.1秒以上、1秒以上、5秒以上、10秒以上、又は30秒以上であってもよく、例えば、5分以下、3分以下、又は1分以下であってもよい。
【0060】
以上のようにして、前記繊維構造物に前記アニオン系高分子(A)を付着させる前記アニオン系高分子付着処理工程を行うことができる。前記アニオン系高分子付着処理工程後に、例えば、過剰に付着された前記アニオン系高分子化合物(A)を除去してもよい。除去方法も特に限定されないが、例えば、前記アニオン系高分子化合物(A)が付着された前記繊維構造物を湯洗い又は水洗してもよい。また、例えば、前記アニオン系高分子付着処理工程後に、例えば、前記繊維構造物を乾燥させてもよい。乾燥方法、乾燥温度及び乾燥時間は特に限定されず、適宜設定可能であるが、例えば、風乾で乾燥させるか、又は50~100℃で30秒から1分間乾燥させてもよい。
【0061】
つぎに、前記アニオン系高分子(A)を付着させた前記繊維構造物を非フッ素系撥水剤(B)で撥水処理する前記撥水処理工程を行う。前記撥水処理工程を行う方法は、前記非フッ素系撥水剤(B)で撥水処理すること以外は特に限定されず、例えば、一般的な繊維又は繊維製品の撥水処理方法と同様又はそれに準じてもよい。
【0062】
前記撥水処理工程は、具体的には、例えば、以下のようにして行なうことができる。
【0063】
まず、前記非フッ素系撥水剤(B)を含む処理液を準備する。例えば、前記非フッ素系撥水剤(B)をそのまま前記処理液としてもよいし、水又は有機溶媒で希釈して前記処理液としてもよい。例えば、水系撥水剤の場合、水で希釈して前記処理液としてもよいし、溶剤系撥水剤の場合、有機溶媒(D)と同種又は異種の有機溶媒等で希釈して前記処理液としてもよい。前記処理液の濃度は特に限定されないが、前記成分(b-1)及び(b-2)の付加物(b)の濃度が、前記処理液の分散媒又は溶媒(例えば、前記水又は有機溶媒)に対し、例えば0.1質量%以上、0.3質量%以上、又は0.5質量%以上であり、例えば30質量%以下、20質量%以下、又は10質量%以下となるようにする。
【0064】
前記処理液には、例えば、前記非フッ素系撥水剤(B)以外の任意の添加剤等を加えてもよいし、加えなくてもよい。前記添加剤は、特に限定されないが、例えば、前記非フッ素系撥水剤(B)以外の他の撥水剤、樹脂、界面活性剤、浸透剤、消泡剤、pH調整剤、抗菌剤、着色剤、酸化防止剤、キレート剤、消臭剤、帯電防止剤、触媒、架橋剤、抗菌防臭剤、難燃剤、柔軟剤、防皺剤等が挙げられる。
【0065】
また、前記処理液には、例えば、撥水助剤等を加えてもよい。前記撥水助剤は特に限定されないが、例えば、アミノ変性シリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイル、及び、ポリエーテル変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル等の反応性シリコーンオイル等が挙げられる。前記撥水助剤の添加量も特に限定されないが、前記付加物(b)に対し、例えば0.5質量%以上、1質量%以上、又は2質量%以上であり、例えば200質量%以下、150質量%以下、又は100質量%以下である。
【0066】
つぎに、前記処理液で繊維を撥水処理する前記撥水処理工程を行なう。この撥水処理工程は、例えば、前述のとおり、一般的な繊維又は繊維製品の撥水処理方法と同様又はそれに準じてもよい。具体的には、例えば、前記処理液を、撥水処理しようとする繊維又は繊維製品に染み込ませた後に、前記繊維又は繊維製品を乾燥させればよい。このようにして、本発明の撥水性繊維製品の製造方法を行なうことができる。なお、本発明の撥水性繊維製品の製造方法は、前記撥水処理工程以外の他の工程を含んでいてもよいが、含んでいなくてもよい。前記他の工程としては、例えば、後述する乾熱処理が挙げられる。
【0067】
前記撥水処理工程は、例えば、連続法により行なってもよいし、バッチ法により行なってもよい。
【0068】
前記連続法は、例えば、まず、前記処理液で満たされた含浸装置に、被処理物である繊維又は繊維製品を連続的に送り込み、前記被処理物に前記撥水処理液を含浸させた後、不要な撥水処理液を除去する。前記含浸装置としては特に限定されないが、パッダ式付与装置、キスロール式付与装置、グラビアコーター式付与装置、スプレー式付与装置、フォーム式付与装置、コーティング式付与装置が好ましく、パッダ式が特に好ましい。続いて、乾燥機を用いて前記被処理物に残存する水、有機溶媒等を除去する。前記乾燥機としては、特に限定されないが、ホットフルー、テンター等の拡布乾燥機が好ましい。前記連続法は、例えば、被処理物が織物等の布帛状の場合に用いるのが好ましい。
【0069】
前記バッチ法は、例えば、被処理物である繊維又は繊維製品を前記処理液に浸漬する浸漬工程、及び、前記撥水処理液に浸漬した前記被処理物に残存する水、有機溶媒等を除去する液除去工程からなる。前記バッチ法は、例えば、前記被処理物が連続法による処理に適さない場合に用いるのが好ましい。より具体的には、前記被処理物が布帛状でない場合、例えば、前記被処理物が、バラ毛、トップ、スライバ、かせ、トウ、糸等である場合、又は、前記被処理物が編み物である場合等が挙げられる。前記浸漬工程においては、例えば、ワタ染機、チーズ染色機、液流染色機、工業用洗濯機、ビーム染色機等を用いることができる。前記液除去工程においては、例えば、チーズ乾燥機、ビーム乾燥機、タンブルドライヤー等の温風乾燥機、高周波乾燥機等を用いることができる。
【0070】
また、例えば、前記撥水処理工程において、前記処理液にイソシアネート(F)を含有させ、前記イソシアネート(F)により前記付加物(b)を架橋させてもよい。例えば、前記処理液がアミノ変性シリコーン(E)を含む場合、アミノ変性シリコーン(E)のアミノ基とイソシアネート(F)とを架橋させてもよい。イソシアネート(F)を加えることで、例えば、製造される撥水性繊維製品の、洗濯後の撥水性(洗濯耐久性)がさらに向上する。イソシアネート(F)は、特に限定されないが、例えば、分子中に2個以上のイソシアネート官能基を含む有機化合物を用いることができる。イソシアネート(F)としては、具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルトリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリメチロールプロパントリトリレンジイソシアネートアダクト体、グリセリントリトリレンジイソシアネートアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのウレット体、トリメチロールプロパントリヘキサメチレンジイソシアネートアダクト体、グリセリントリヘキサメチレンジイソシナネートアダクト体等が挙げられる。また、イソシアネート(F)としては、さらに、前記イソシアネート官能基を含む有機化合物等に対し、加熱時に解離して活性なイソシアネート基が再生するフェノール、マロン酸ジエチルエステル、メチルエチルケトオキシム、重亜硫酸ソーダ、ε-カプロラクタム等を反応させてイソシアネート基をブロックした、ブロックドイソシアネート官能基を含む有機化合物等が挙げられる。イソシアネート(F)として、具体的には、例えば、溶剤系としては東ソー株式会社製の商品名コロネートB-45E、コロネートHX、旭化成株式会社製の商品名デュラネートD101、デュラネートD201、水系としては東ソー株式会社製の商品名「アクアネート」シリーズ、旭化成株式会社製の商品名デュラネートWB40-100、デュラネートWT20-100、デュラネートWE50-100、第一工業製薬株式会社製の商品名「エラストロン」シリーズ等が挙げられる。
【0071】
イソシアネート(F)としては、例えば、後述の実施例のように第一工業製薬株式会社製の商品名エラストロンBN-11を用いてもよく、その他、例えば、下記表3に記載のイソシアネート架橋剤が挙げられる。
【0072】
【0073】
イソシアネート(F)の添加量も特に限定されないが、前記付加物(b)に対し、例えば0.5質量%以上、1質量%以上、又は3質量%以上であり、例えば200質量%以下、150質量%以下、又は100質量%以下である。イソシアネート(F)により付加物(A)を架橋させる架橋反応において、反応温度は、特に限定されないが、例えば、100℃以上、又は120℃以上であり、例えば、200℃以下、又は180℃以下である。反応時間は特に限定されないが、例えば、0.1分以上、又は0.3分以上であり、例えば、20分以下、又は15分以下である。
【0074】
以上のようにして、前記アニオン系高分子(A)を付着させた前記繊維構造物を非フッ素系撥水剤(B)で撥水処理する前記撥水処理工程を行い、撥水加工繊維構造物を製造することができる。
【0075】
非フッ素系撥水剤(B)で撥水処理した前記撥水加工繊維構造物には、乾熱処理を行うことが好ましい。前記乾熱処理を行うと、前記繊維構造物を非フッ素系撥水剤(B)の有効成分が、前記撥水加工繊維構造物に、より強固に付着しやすいためである。ただし、本発明は、乾熱処理を行わなくても良い。また、本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法は、例えば、紙製品、木質板(例えば、パーティクルボード、MDFボード等)等の繊維構造物にも用いることができる。
【0076】
[2.撥水加工薬剤キット、撥水加工繊維製品等]
本発明の撥水加工薬剤キットは、前述のとおり、アニオン系高分子(A)と非フッ素系撥水剤(B)とを含む。本発明の撥水加工薬剤キットは、前記アニオン系高分子(A)及び前記非フッ素系撥水剤(B)以外の任意構成要素を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記任意構成要素としては、例えば、前記本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法で説明した各成分等であってもよい。
【0077】
前記本発明の撥水加工薬剤キットは、例えば、前記本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法に用いることができる。
【0078】
前記本発明の撥水加工薬剤キット又は前記本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法によれば、例えば、前述のとおり、撥水性に優れた撥水性繊維製品を製造することができる。また、前記本発明の撥水加工薬剤キット又は前記本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法によれば、例えば、洗濯後の撥水性(洗濯耐久性)に優れた撥水製品を製造することもできる。前記本発明の撥水加工薬剤キット又は前記本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法によれば、例えば、フッ素系撥水剤と同等の撥水性又は洗濯耐久性を発揮することも可能である。
【0079】
また、前記本発明の撥水加工薬剤キット又は前記本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法によれば、例えば、優れた撥油性を得ることができる。これによれば、例えば、撥油性に優れた撥水性繊維製品を製造することができる。また、例えば、前記本発明の撥水加工薬剤キット又は前記本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法によって優れた撥油性を得ることができ、例えば、繊維製品に皮脂汚れが付着しにくくなることが期待できる。一般に、非フッ素系撥水剤は、フッ素系撥水剤と比較して撥油性が劣り、皮脂汚れが付着し易い。しかし、本発明によれば、非フッ素系撥水剤を用いながら撥油性が優れた撥水性繊維製品を得ることも可能である。
【0080】
前記本発明の撥水加工薬剤キット又は前記本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法は、例えば、低コストで効率良く使用可能であり、かつ、撥水性、加工浴の安定性、保存安定性等に優れる。
【0081】
前記本発明の撥水加工薬剤キット又は前記本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法による処理対象物である前記繊維構造物は、特に限定されず任意であり、例えば、繊維製品でもよい。前記本発明の撥水加工薬剤キット又は前記本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法の用途は、特に限定されず、例えば、衣服、雨傘、レインコート、テント地、日用品、インテリア、カーシート等の繊維製品、さらには撥水紙、撥水ボード等の繊維製品に広く適用可能である。さらに、前記本発明の撥水加工薬剤キット又は前記本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法の用途は、前記各用途に限定されず、任意の用途に広く用いることができる。
【実施例0082】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
[合成例1]
以下のようにして、前記成分(b-1)及び(b-2)の付加物(b)を製造し、さらに、その付加物(b)が水中に分散している乳化物(分散液)を得た。
【0084】
まず、反応容器を準備した。この反応容器は、ファウドラー羽根を有する撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを備えるとともに、加熱及び冷却が可能な反応容器であった。つぎに、前記反応容器中に、ステアリルイソシアネート(成分(b-2)、炭素数17以下の脂肪族基の含有率2.0%)を67.1質量部入れた。そこにさらに、原料高分子としてポリビニルアルコール共重合物(成分(b-1)、ケン化度80%、平均共重合度240)を14.9質量部加え、撹拌して分散させた。なお、前記ステアリルイソシアネート(成分(b-2))及び前記ポリビニルアルコール共重合物(成分(b-1))の質量比は、イソシアネートと水酸基のモル比が1/1となるように調整した比である。この溶液をさらに充分に50℃まで加温し、17.7質量部のジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と略記する)を約60分かけて滴下した。その後、0.1質量部の1,8ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン―7を加え、攪拌して溶解させ、さらに充分な攪拌下にて反応を継続させた。反応の進行状況を確認しつつ、約50℃で約60分間攪拌したところ、反応が完結していることを確認できた。反応の進行状況は、適宜反応液をサンプリングして、反応液中のステアリルイソシアネート化合物の量を、赤外分光方法により測定することにより調べた。反応完結後、反応液を80℃まで冷却し、この反応混合物を、反応混合物全量に対して5倍量のメタノール中に注いだところ、白色沈殿物を得た。反応液中のDMSOはメタノールに溶解するので、ろ過により、DMSOを前記白色沈殿物から除去することができる。したがって、ろ過により前記白色沈殿物を分離し、さらに、この白色沈殿物をメタノールで洗浄して乾燥後、粉砕することにより、目的物である高分子ウレタン化物(成分(b-1)及び(b-2)の付加物(b))を得た。
【0085】
このようにして製造した高分子ウレタン化物(付加物(b))10.5質量部、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の商品名レオミックス11(水素化牛脂アルキルアミン酢酸塩、カチオン性界面活性剤)1.3質量部、日油株式会社製の商品名NAA-45(ステアリルアルコール、)2.0質量部、青木油脂工業株式会社製の商品名ブラウノン230(ポリオキシエチレンステアリルエーテル(2E.O.)、ノニオン系界面活性剤)0.5質量部を、アンカーミキサーを有する分散機の容器に入れて密閉した。それを120℃にて溶融し混合したのち、110℃以上を保ち、攪拌を続けながら95℃以上の熱水85.7質量部を混合して、前記付加物(b)が水中に分散した乳化物(分散液)を得た。
【0086】
[実施例1]
以下のようにして、本発明の撥水加工繊維構造物の製造方法により、撥水加工繊維構造物を製造した。
【0087】
まず、繊維構造物にアニオン系高分子(A)を付着させる前記アニオン系高分子付着処理工程を行った。繊維構造物しては、ナイロン100%布帛、又はポリエステル100%布帛を用いた。アニオン系高分子化合物(A)による処理方法としては、バッチ法を用いた。アニオン系高分子(A)としてはライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の商品名ナイロックス1500を使用した。吸尽法による処理浴の重量比は1:20、処理温度は80℃、処理時間(浸漬時間)は20分とした。アニオン系高分子化合物(A)の使用量は8%o.w.f.とした。
【0088】
さらに、前記アニオン系高分子(A)を前記繊維構造物に付着させた後に、過剰に付与された前記アニオン系高分子(A)を水洗にて除去した。その後、前記繊維構造物を自然乾燥させた。
【0089】
つぎに、前記アニオン系高分子(A)を付着させた前記繊維構造物を非フッ素系撥水剤(B)撥水処理する前記撥水処理工程を行った。すなわち、合成例1で得られた乳化物を6質量%、及び、ブロック化イソシアネートとして第一工業製薬株式会社製の商品名エラストロンBN-11を1質量%含む処理液を調整し、ここに前記自然乾燥後の前記繊維構造物を浸漬処理(ピックアップ率60質量%)した。
【0090】
さらに、前記撥水処理工程後の前記繊維構造物を130℃で1分間乾燥し、更に170℃で2分間熱処理して、実施例1の撥水加工繊維構造物を得た。このようにして得られた布帛(撥水加工繊維構造物)の撥水性及び選択耐久撥水を、後述する方法により評価した。評価結果は、後述する表4にまとめて示す。
【0091】
[実施例2]
前記アニオン系高分子付着処理工程において、バッチ法に代えて連続法を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の撥水加工繊維構造物を製造した。前記連続法は、以下のようにして行った。繊維構造物しては、実施例1と同じくナイロン100%布帛、又はポリエステル100%布帛を用いた。アニオン系高分子(A)としては、実施例1と同じくライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の商品名ナイロックス1500を使用した。これを用いて処理液を調製し、浸漬処理(ピックアップ率60質量%)して、連続法による前記アニオン系高分子付着処理工程を行った。その後、100℃で1分間乾燥し、前記アニオン系高分子(A)が付着した繊維構造物を得た。
【0092】
さらに、前記撥水処理工程及びその後の乾燥及び熱処理を実施例1と同条件で行い、実施例2の撥水加工繊維構造物を得た。このようにして得られた布帛(撥水加工繊維構造物)の撥水性及び選択耐久撥水を、後述する方法により評価した。評価結果は、後述する表4にまとめて示す。
【0093】
[比較例1]
前記アニオン系高分子付着処理工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の撥水加工繊維構造物を得た。このようにして得られた布帛(撥水加工繊維構造物)の撥水性及び選択耐久撥水を、後述する方法により評価した。評価結果は、後述する表4にまとめて示す。
【0094】
以上のようにして製造した実施例及び比較例の撥水加工繊維構造物に対し、下記の方法で、未洗濯(洗濯0回)時の撥水性及び選択20回後の撥水性(耐久撥水性)を試験し、評価した。
【0095】
[撥水性評価方法]
実施例1、実施例2及び比較例1のそれぞれの撥水加工繊維構造物(洗濯0回)に対し、JIS L 1092(1998)のスプレー法に準じてシャワー水温を23℃として撥水性試験をした。撥水性は、目視にて下記の0~5の6等級で評価した。結果を下記表4に示す。
撥水性:状態
5:表面に付着湿潤のないもの
4:表面にわずかに付着湿潤を示すもの
3:表面に湿潤を示すもの
2:表面全体に湿潤を示すもの
1:表裏両面が完全に湿潤を示すもの
0:表裏両面が完全に湿潤を示すもの
【0096】
[耐久撥水性評価方法]
実施例1、実施例2及び比較例1のそれぞれの撥水加工繊維構造物をJIS L 1930 C4Mによる洗濯で20回(L-20)選択した。その後の撥水加工繊維構造物に対し、前記「撥水性評価方法」と同じくJIS L 1092(1998)のスプレー法に準じてシャワー水温を23℃として撥水性試験をした。撥水性は、前記「撥水性評価方法」と同じく目視にて前記0~5の6等級で評価した。結果を下記表4に示す。
【0097】
【0098】
前記表4に示すとおり、実施例1及び2の布(撥水性繊維構造物)は、いずれも、洗濯前の撥水性及び洗濯後の撥水性(耐久撥水性、又は洗濯耐久性ともいう)の両方がきわめて優れていた。これに対し、前記アニオン系高分子(A)を付着させなかった比較例1の撥水性繊維構造物は、洗濯前の撥水性は実施例1及び2と同等に高かったものの、洗濯後の撥水性が実施例と比較して劣っていた。
【0099】
<付記>
上記実施形態及び実施例の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載し得るが、以下には限定されない。
(付記1)
繊維構造物にアニオン系高分子(A)を付着させるアニオン系高分子付着処理工程と、
前記アニオン系高分子(A)を付着させた前記繊維構造物を非フッ素系撥水剤(B)で撥水処理する撥水処理工程と、
を含むことを特徴とする撥水加工繊維構造物の製造方法。
(付記2)
前記アニオン系高分子(A)が、多価フェノール系縮合物、多価フェノール系縮合物誘導体、フェノールスルホン酸ホルマリン重縮合物、チオフェノールホルマリン重縮合物及びビスフェノールSスルホンホルマリン重縮合物からなる群から選択される少なくとも一つである付記1記載の撥水加工繊維構造物の製造方法。
(付記3)
前記繊維構造物が、ポリエステル系繊維構造物又はナイロン系繊維構造物である付記1又は2記載の撥水加工繊維構造物の製造方法。
(付記4)
前記非フッ素撥水剤(B)が、下記成分(b-1)及び(b-2)の付加物(b)を含む付記1から3のいずれかに記載の撥水加工繊維構造物の製造方法。
(b-1)水酸基、アミノ基、及びイミノ基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基を有するビニル系ポリマー
(b-2)炭素数が8以上の脂肪族基を有するイソシアネート
(付記5)
前記非フッ素撥水剤(B)の全質量を100質量%として、前記非フッ素撥水剤(B)中に含まれる元素としてのフッ素の質量が1質量%以下である付記1から4のいずれかに記載の撥水加工繊維構造物の製造方法。
(付記6)
アニオン系高分子(A)と非フッ素系撥水剤(B)とを含む繊維構造物の撥水加工薬剤キット。
(付記7)
前記アニオン系高分子(A)が、多価フェノール系縮合物、フェノールスルホン酸ホルマリン重縮合物、チオフェノールホルマリン重縮合物及びビスフェノールSスルホンホルマリン重縮合物からなる群から選択される少なくとも一つである付記6記載の撥水加工薬剤キット。
(付記8)
前記繊維構造物が、ポリエステル系繊維構造物又はナイロン系繊維構造物である付記6又は7記載の撥水加工薬剤キット。
(付記9)
前記非フッ素撥水剤(B)が、下記成分(b-1)及び(b-2)の付加物(b)を含む付記6から8のいずれかに記載の撥水加工薬剤キット。
(b-1)水酸基、アミノ基、及びイミノ基からなる群から選択される少なくとも一つの置換基を有するビニル系ポリマー
(b-2)炭素数が8以上の脂肪族基を有するイソシアネート
(付記10)
前記非フッ素撥水剤(B)の全質量を100質量%として、前記非フッ素撥水剤(B)中に含まれる元素としてのフッ素の質量が1質量%以下である付記6から9のいずれかに記載の撥水加工薬剤キット。