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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118372
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】熱電窒化物膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/06 20060101AFI20240823BHJP
   C01G 37/00 20060101ALI20240823BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20240823BHJP
   H10N 10/855 20230101ALI20240823BHJP
【FI】
C01B21/06 A
C01G37/00
H10N10/01
H10N10/855
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024748
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 厚介
(72)【発明者】
【氏名】村田 龍生
(72)【発明者】
【氏名】三浦 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 康次
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA01
4G048AB02
4G048AC08
4G048AE05
4G048AE07
(57)【要約】
【課題】前駆体を基板上に塗布し、焼成して、熱電特性を有して、均一な薄膜であり、光を透過させることができるほど膜厚を低減した熱電薄膜を提供する
【解決手段】本発明の熱電窒化物膜は、膜厚が500nm以下であり、熱起電力(Seebeck係数)の絶対値が100μV/K以上かつ導電率が1×10-1S/cm以上を有し、非酸素雰囲気下にて、1000℃、24時間以上の熱耐久性を有する。すなわち熱電材料として窒化物膜を用いた熱電窒化物膜であり、膜厚を低減し、優れた熱電特性と、熱耐久性を有する。この結果、熱電発電などに有利に使用することができる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚が500nm以下であり、
熱起電力(Seebeck係数)の絶対値が100μV/K以上かつ導電率が1×10-1S/cm以上を有し、非酸素雰囲気下にて、1000℃、24時間以上の熱耐久性を有する、熱電窒化物膜。
【請求項2】
さらに、光透過率が可視光領域(350~800nm)で透過率15%以上、かつ近赤外領域(800~2500nm)で透過率40%以上である、請求項1に記載の熱電窒化物膜。
【請求項3】
前記熱窒化物は、一般式(1)
(Cr1-x-yM1M2)N (1)
(ただし、M1およびM2は、それぞれ同一ではなく、Ti,Al,Zr,Cu,Zn,Nb,Mo,Hf,Ta,W,およびSiのうち少なくとも1種を示す。0≦x≦0.01,0≦y≦0.01、1-x-y≠1)で示される金属窒化物であり、p型またはn型の熱電特性を有する、請求項1または2に記載の熱電窒化物膜。
【請求項4】
前記熱電窒化物膜が、複数層積層されている、請求項1または2に記載の熱電窒化物膜。
【請求項5】
少なくとも酢酸クロムを含む金属塩と、0~0.1体積%の安定化剤とを溶媒に溶解して前駆体溶液を作製する前駆体溶液作製工程と、
前記前駆体溶液を基板に塗布し、乾燥する前駆体溶液塗布・乾燥工程と、
前記前駆体をアンモニア雰囲気下で焼成して窒化処理する窒化工程とを含む、熱電窒化物膜の製造方法。
【請求項6】
少なくとも酢酸クロムを含む金属塩と、0~0.1体積%の安定化剤とを溶媒に溶解して前駆体溶液を作製する前駆体溶液作製工程と、
前記前駆体溶液を基板に塗布し、乾燥する前駆体溶液塗布・乾燥工程と、
前記前駆体を酸素雰囲気下で焼成して酸化処理する酸化工程と、
前記酸化工程の後に、アンモニア雰囲気下で焼成して窒化処理する窒化工程とを含む、熱電窒化物膜の製造方法。
【請求項7】
前記前駆体溶液は、さらにTi,Al,Zr,Cu,Zn,Nb,Mo,Hf,Ta,W,およびSiのうち少なくとも1種の塩を含む、請求項5または6に記載の熱電窒化物膜の製造方法。
【請求項8】
前駆体溶液塗布・乾燥工程において、前駆体溶液を塗布し乾燥した後、さらに同一または異なる組成の前駆体溶液を1回以上塗布し乾燥する、請求項5または6に記載の熱電窒化物膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電窒化物膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油の産出量は、近年中にピークを迎えるとされている。このため、経済活動を維持しながら、エネルギーの安定供給の問題を解決する必要がある。我が国では、年間に原油換算で数億klの一次供給エネルギーを消費しているが、その70%近くが廃熱として廃棄されている。したがって、廃熱エネルギーを有効に利用する必要がある。このように、廃熱エネルギーは、膨大であるが、個々の廃熱源は小さい(例えば、自動車1台)。
【0003】
廃熱を有効利用するために、様々なエネルギー変換材料が開発されている。エネルギー変換材料の中で、特に熱と電気のエネルギー変換材料である熱電材料が注目されている。熱電材料を有効に使えば、例えば、高温で使用可能な溶鉱炉や自動車の解熱回収、または宇宙産業における自立電源の補助などの様々な分野で使用可能となる。また、将来的に温度域を下げることが可能になれば、身の回りの熱を回収して、エネルギーリサイクルが可能になる。
【0004】
熱電材料の一例として、熱電変換用窒化物薄膜が開発されている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、CrzNを中心として、Crの結晶サイトにM(Ti,Al,Zn,Nb,Mo,Hf,Ta、W,およびSiの少なくとも1種以上)を置換した薄膜が開示されている。この薄膜は、真空系装置を利用したスパッタ法により、製造される。
【0005】
一方、本発明者らは、金属アルコキシドと、溶媒と、安定化剤とからなる前駆体を基板上に塗布し、焼成して、酸窒化物を得る方法を開示している(例えば、特許文献2、非特許文献2)。この方法では、真空系装置を必要とせず、産業上安価に製造できる技術である。また、特異な構造や膜厚を増大させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-184636号公報
【特許文献2】特開2020-125222号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Applied Physics Express,11,051003(2018)
【非特許文献2】塗装工学 第54巻 第11号 404~409号(令和元年9月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法は、スパッタ法などを行うために、真空系装置が必要であり、コストの点で問題がある。また、特許文献1では、柱状のCrNベースの熱導電膜を成膜し、p型、n型の窒化物薄膜が得られている。しかし、Mの種類と添加量に加え、窒素とアルゴンの混合ガスの割合が、熱電特性に重要な影響を与えている。一般的には、添加するMの種類やキャリア種の添加量を制御することにより、キャリア濃度を最適化する。特許文献1の例では、窒素とアルゴンの混合ガスの割合により、p型、n型が決まる。このため、添加するMの添加効果の解釈を難しくする。また、この文献では、熱導電材料として重要な基準の一つある、ゼーベック係数の絶対値が、すべての実施例において100μV/K未満であり、高性能な熱電薄膜が得られないという問題がある。
【0009】
一方、非特許文献1では、例えばスパッタ法にて、p型性能が得られているCr1-xAlでは、ゼーベック係数が100μV/K程度の薄膜が得られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながらスパッタ法による場合、組成の制御が難しく、実用に耐えられないという問題がある。
【0010】
特許文献2の方法では、所定量の安定化剤を入れる。このため、特許文献2の方法を用いると、製法は簡易であるが、特許文献2の方法で得られる酸窒化物は、熱電特性が得られないという問題がある。また、均一な薄膜を得ることができず、光を透過させることができるほど膜厚を低減することは困難という問題がある。
【0011】
本発明は、かかる問題を解決するものであり、前駆体を基板上に塗布し、焼成して、熱電特性を有して、均一な薄膜であり、光を透過させることができるほど膜厚を低減した熱電薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の熱電窒化物膜は、膜厚が500nm以下であり、熱起電力(Seebeck係数)の絶対値が1×10-1s/cm以上を有し、非酸素雰囲気下にて、1000℃、24時間以上の熱耐久性を有する。
【0013】
本発明は、熱電材料として窒化物膜を用いた熱電窒化物膜であり、膜厚を低減し、優れた熱電特性と、熱耐久性を有する。この結果、熱電発電などに有利に使用することができる。
【0014】
上記熱電窒化物膜は、さらに、光透過率が可視光領域(350~800nm)で透過率10%以上、好ましくは15%以上、かつ近赤外領域(800~2500nm)で透過率30%以上、好ましくは40%以上である。
【0015】
本発明に用いる窒化物材料は、通常可視光領域では、ほぼ透過しない材料である。しかし、窒化物膜の膜厚を500nm以下にすることで透過できることがわかった。少なくとも可視光領域では透けて見え、近赤外領域ではふく射を吸収せずに自己発熱を防ぐことが可能になる。
【0016】
上記熱電窒化物膜は、前記熱窒化物は、一般式(1)
(Cr1-x-yM1M2)N (1)
(ただし、M1およびM2は、それぞれ同一ではなく、Ti,Al,Zr,Cu,Zn,Nb,Mo,Hf,Ta,W,およびSiのうち少なくとも1種を示す。0≦x≦0.01,0≦y≦0.01、1-x-y≠1)で示される金属窒化物であり、p型またはn型の熱電特性を有する。
【0017】
前記熱電窒化物膜が、複数層積層されていてもよい。同一または異なる組成の熱電窒化物膜を積層することにより、膜厚が制御された熱電窒化物膜を得ることや、p型とn型の熱電窒化物膜が交互に積層されたものを得ることができる。
【0018】
本発明の熱電窒化物膜の製造方法は、少なくとも酢酸クロムを含む金属塩と、0~0.1体積%の安定化剤とを溶媒に溶解して前駆体溶液を作製する前駆体溶液作製工程と、前駆体溶液を基板に塗布し、乾燥する前駆体溶液塗布・乾燥工程と、前駆体をアンモニア雰囲気下で焼成して窒化処理する窒化工程とを含む。
【0019】
従来、前駆体を基板上に塗布し、焼成して、酸窒化物を得る方法においては、安定化剤が必須のものと考えられてきた。しかし、本発明の熱電窒化物膜の製造方法においては、0~0.1体積%と、安定化剤を使用しない、あるいは使用してもごくわずかであると、熱電特性を有して、均一な薄膜であり、光を透過させることができるほど膜厚を低減した熱電薄膜が製造できることを見出した。
【0020】
また、本発明の熱電窒化物膜の製造方法は、少なくとも酢酸クロムを含む金属塩と、0以上0.1体積%未満の安定化剤とを溶媒に溶解して前駆体溶液を作製する前駆体溶液作製工程と、前駆体溶液を基板に塗布し、乾燥する前駆体溶液塗布・乾燥工程と、前駆体を酸素雰囲気下で焼成して酸化処理する酸化工程と、酸化工程の後に、アンモニア雰囲気下で焼成して窒化処理する窒化工程とを含むものであってもよい。
【0021】
本発明の方法において、有機物が存在すると、直接窒化工程を行うと、炉内にカーボン質の物が付着し、炉内が汚染される。したがって、酸化工程を前駆体溶液塗布・乾燥工程と窒化工程の間に含ませることにより、確実にクリーンな窒化工程を行えるため好ましい。しかし、酸化工程を省略しても、薄膜としては、同一なものが得られる。
【0022】
前記前駆体溶液は、さらにTi,Al,Zr,Cu,Zn,Nb,Mo,Hf,Ta,W,およびSiのうち少なくとも1種の塩を含んでいてもよい。
【0023】
前駆体溶液塗布・乾燥工程において、前駆体溶液塗布・乾燥した後、さらに同一または異なる組成の前駆体溶液を1回以上塗布・乾燥するものであってもよい。これにより、膜厚が制御された熱電窒化物膜を得ることや、p型とn型の熱電窒化物膜が交互に積層された熱電窒化物膜を製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、熱電材料として窒化物膜を用いた熱電窒化物膜であり、膜厚を低減し、優れた熱電特性と、熱耐久性を有する。この結果、熱電発電などに有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は本発明の熱電窒化物膜の概念を示す概念図である。
図2図2は本発明の熱電窒化物膜の一形態を示すフローチャートである。
図3図3は本発明の熱電窒化物膜の別の一形態を示すフローチャートである。
図4(A)】図4(A)は、p型を示す試験例28、38の電気伝導率、ゼーベック係数、パワーファクターを各温度に対して、プロットしたグラフである。
図4(B)】図4(B)はn型を示す試験例42、46、54の電気伝導率、ゼーベック係数、パワーファクターを各温度に対して、プロットしたグラフである。
図5図5は試験例25、35、43、45、55の窒化物膜をそれぞれXRDした結果を示すグラフである。
図6図6は試験例4、25、33において得られた窒化物膜の表面SEM像を示す写真である。
図7図7は試験例4(CrN)、28(p型Cr0.94Al0.06N)、39(n型Cr0.95Ti0.05N)、47(n型Cr0.94Al0.02Zr0.04N)の窒化物膜の光透過率を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の熱電窒化物膜および熱電窒化物膜の製造方法の一実施形態を図1を参照しながら説明する。
【0027】
図1に示すように、本発明の熱電窒化物膜1は通常基板2の上に設けられている。本発明の熱電窒化物膜1は、熱電窒化物膜1自体を基板2から剥離しても使えるが、膜厚が小さいため、基板2と共に使用する方が好ましい。
【0028】
[基板]
基板2は、焼成処理に耐えうるものであれば、特に制限はなく、好ましくは1000℃に耐えうる、石英ガラス基板、SrTiO基板、アルミナ基板などである。基板2の形状は、以下に述べる前駆体を塗布できる形状であれば特に制限はない。また、基板2は、熱電デバイスなどの部材の一部であってもよい。
【0029】
[熱電窒化物膜]
本発明の熱電窒化物膜1は、膜厚が500nm以下であり、熱起電力(Seebeck係数)の絶対値が100μV/K以上かつ導電率が1×10-1S/cm以上を有し、非酸素雰囲気下にて、1000℃、24時間以上の熱耐久性を有する。本明細書において、熱起電力(Seebeck係数)の絶対値としたのは、本発明の熱電窒化物膜1は、p型またはn型のいずれのおいても、高い熱起電力を有するからである。また、非酸素雰囲気下にて、1000℃、24時間以上の熱耐久性を有するため、100~500℃にて使用しても、優れた熱電特性を発揮することができる。
【0030】
本発明が完成するまで、膜厚が500nm以下であり、熱起電力(Seebeck係数)の絶対値が100μV/K以上かつ導電率が1×10-1S/cm以上を有するものは知られていない。すなわち、本発明者らは、きわめて薄い膜厚であり、かつ熱電特性が大きい熱電窒化物膜を見出した。また、非酸素雰囲気下にて、1000℃、24時間以上の熱耐久性を有する。このため、高温下での熱電材料として使用するのに適する。
【0031】
上記熱電窒化物膜1は、光透過率が、可視光領域(350~800nm)で透過率10%以上、好ましくは15%以上、かつ近赤外領域(800~2500nm)で透過率30%以上、好ましくは40%以上である。光透過率に影響を与える金属元素は、例えばアルミニウム(Al),ジルコニウム(Zr)などである。
【0032】
熱電窒化物を構成する熱窒化物は、一般式(1)
(Cr1-x-yM1M2)N (1)
(ただし、M1およびM2は、それぞれ同一ではなく、チタン(Ti),アルミニウム(Al),ジルコニウム(Zr),銅(Cu),亜鉛(Zn),ニオブ(Nb),モリブデン(Mo),ハフニウム(Hf),タンタル(Ta),タングステン(W),およびケイ素(Si)のうち少なくとも1種を示す。0≦x≦0.01,0≦y≦0.01、1-x-y≠1)で示される金属窒化物であり、p型またはn型の熱電特性を有する。
【0033】
本発明に用いる熱窒化物は、窒化クロムをベースとする。窒化クロム単独の場合、通電しない。このため、窒化クロムに、上記する他の金属をドーピングすることにより、熱窒化物をp型またはn型に制御することや、熱起電力の大きさを制御できる。熱起電力を大きくするためには、M1および/またはM2のドーパント金属を含んでいる必要がある。
【0034】
本発明の熱電窒化物膜1は、熱電窒化物膜が1層であってもよく、複数層積層されていてもよい。使用する熱窒化物を選択することで、p型またはn型の熱電特性を有する熱電窒化物膜を交互に積層することもできる。また、本発明の熱電窒化物膜1は、基板と同じ形状であっても、基板2の表面より小さくてもよい。
【0035】
[熱電窒化物膜の製造方法]
本発明の熱電窒化物膜1の製造方法を図2に示す。図2は本発明の熱電窒化物膜の一形態を示すフローチャートである。図2に示すように本発明の熱電窒化物膜の製造方法は、前駆体溶液作製工程S1と、前駆体溶液塗布・乾燥工程S2と、窒化工程S3とを含む。本発明の熱電窒化物膜の製造方法では、安定化剤に関する特徴と、焼成温度に関する特徴とがあり、以下に詳細に述べる。
【0036】
(前駆体溶液作製工程S1)
前駆体溶液作製工程S1において、金属塩を極性溶媒に溶解して前駆体溶液を作製する。金属塩としては、クロム塩、好ましくは酢酸クロムを必須成分とする。前駆体溶液には、クロム塩以外の金属塩を含んでいてもよい。具体的には、Ti,Al,Zr,Cu,Zn,Nb,Mo,Hf,Ta,W,およびSiの塩である。これらの金属塩は、1種以上含んでいてもよい。金属塩は、アルコキシド、塩化物、硝酸化合物、酢酸化合物、酸塩化物のうち少なくとも1種の形態であればよい。これらの金属塩を含むことにより、熱電窒化物膜の熱起電力(Seebeck係数)の絶対値が上昇する。またこれらの金属塩は、金属塩の水和物であってもよい。
【0037】
酢酸クロムと、塩化アルミニウムを組み合わせると、p型性能を有する熱電窒化物膜が得られる。酢酸クロムと、塩化アルミニウムと、酸塩化ジルコニウムを組み合わせると、高いn型性能を有する熱電窒化物膜が得られる。また、塩化チタンを用いると、高い電気的特性を有する。したがって、使用するクロム塩以外の金属塩の選択が重要になる。
【0038】
極性溶媒としては、例えば、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなどが挙げられる。これらの極性溶媒は、単独でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの極性溶媒は、沸点が低い。
【0039】
金属塩は、一般式(1)
(Cr1-x-yM1M2)N (1)
(ただし、0≦x≦0.01,0≦y≦0.01、1-x-y≠1)
になるような比で、前駆体溶液中の金属のモル濃度が0.1~1.0mol/L、好ましくは0.3~0.9mol/L、さらに好ましくは0.4~0.8mol/Lの濃度になるように、極性溶媒に溶解して、前駆体溶液を作製する。特に好ましくは、0.6mol/Lである。
【0040】
前駆体溶液の作成は、金属塩をガラス容器にて極性溶媒に撹拌しながら溶解させる。溶解に際し、極性溶媒を30~70℃に加温してもよい。加温には、公知の加温手段を用いることができ、例えばホットプレートなどを用いる。
【0041】
本発明の熱電窒化物膜の製造方法において、もっとも重要なことは前駆体溶液に安定化剤を添加しない、あるいは添加しても、前駆体溶液中に、0.1体積%以下であることである。安定化剤が含まれると、CrNの中に、他の金属がドープされず、膜の構造や膜厚が変わることにより、得られる熱電窒化物膜に求められる熱電特性、膜厚、熱耐久性、あるいは膜の安定性などが得られない。安定化剤としては、カルボン酸、(ジ)アミン(例えば、エチレンジアミン)、ジケトン、アセチルアセトン、ヒドロキシ酸などの公知の安定化剤が挙げられる。
【0042】
(前駆体溶液塗布・乾燥工程S2)
前駆体溶液塗布・乾燥工程S2では、上記前駆体溶液作製工程S1で得られた前駆体溶液を基板2に塗布する。基板2は、上記した石英ガラス基板、SrTiO基板、アルミナ基板などを用いる。なお必要に応じて、基板2には、プラズマ処理などの公知の表面処理を施してもよい。プラズマ処理は、例えば、公知のプラズマ装置を用いて、所定の時間行う。所定の時間とは、例えば、3~20分である。
【0043】
前駆体溶液の基板2への塗布は、例えば、スピンコート法、ディップコート法、または印刷法に基づいて公知の方法を用いて行えばよい。前駆体溶液の滴下量は、例えば、100μLである。ディップコート法を用いる場合は、基板を前駆体溶液中に浸漬する。乾燥工程は、極性溶媒が除去されるとよい。上記したように、本発明で用いる極性溶媒は、沸点が低い。このため、室温下に静置する、または送風や、室温より少し高い温度(例えば、50℃)下に置くことにより、容易に乾燥する。塗布された前駆体溶液から極性溶媒を除去した前駆体を基板2上に設けることができる。
【0044】
前駆体溶液は、基板の一面上に塗布してもよく、部分的に塗布してもよい。また、前駆体溶液塗布・乾燥工程において、前駆体溶液塗布・乾燥した後、さらに同一または異なる組成の前駆体溶液を1回以上塗布・乾燥するものであってもよい。これにより、膜厚が制御された熱電窒化物膜を得ることや、p型とn型の熱電窒化物膜が交互に積層された熱電窒化物膜を製造することができる。
【0045】
前記前駆体溶液塗布・乾燥工程S2を経た基板は、次の窒化工程S3にすすむ。一方、極性溶媒を除去した前駆体上に前駆体溶液塗布・乾燥工程S2を複数回繰り返してもよい。これにより、同一または異なる組成の前駆体の層が積層した基板を得ることができる。複数層積層する場合は、塗布後に加熱して塗膜を完全に乾燥する方がよい。
【0046】
(窒化工程S3)
窒化工程S3は、電気炉を用いて、前駆体をアンモニア雰囲気下で焼成して窒化することにより行う。窒化処理は、例えば以下のように行う。
【0047】
上記塗布・乾燥工程S2が終了した基板2を電気炉内に配置する。その後、電気炉内にアンモニアガスを導入して、電気炉内の雰囲気をアンモニア雰囲気にする。電気炉内の雰囲気をアンモニア雰囲気にした後、アンモニアガスの流通下において、電気炉を所定の温度に昇温させる。所定の温度は、例えば600~1000℃、好ましくは800~1000℃、さらに好ましくは900~1000℃である。温度が1000℃に近いほど、より確実に窒化される。その後、所定の時間が経過するのを待つ。所定の時間は、例えば、60~90分である。このように高温で焼却することにより、極性溶媒が蒸散し、金属塩を構成するアルコキシド、塩化物、硝酸化合物、酢酸化合物、酸塩化物の金属イオン以外の成分が分解されて蒸散し、金属が窒化される。
【0048】
所定の時間が経過した後、電気炉を常温まで降温させる。電気炉を常温まで降温させて、窒化工程が終了する。本発明の熱電窒化物膜1を得られる。
【0049】
[熱電窒化物膜の他の製造方法]
本発明の熱電窒化物膜の他の製造方法を図3に示す。図3は本発明の熱電窒化物膜の別の一形態を示すフローチャートである。図3に示すように本発明の熱電窒化物膜の製造方法は、前駆体溶液作製工程S1と、前駆体溶液塗布・乾燥工程S2と、酸化工程S3と、窒化工程S4とを含む。上記した熱電窒化物膜の製造方法において、前駆体溶液塗布・乾燥工程と窒化工程との間に、酸化工程を含む以外は、上記した熱電窒化物膜の製造方法と同様である。したがって、以下に酸化工程S3について述べる。
【0050】
(酸化工程S3)
酸素雰囲気下にて酸化処理を行う。具体的には、電気炉を用いて、塗布・乾燥工程の基板を加熱する。具体的には、電気炉内に基板を配置した後、電気炉を所定の温度まで昇温させ、所定の時間維持する。所定の温度は、例えば500~1000℃である。所定の時間は、例えば20~120分である。このように酸化処理することにより、極性溶媒が蒸散し、金属塩が酸化され、酸化金属の薄膜を形成する。
【0051】
その後に、電気炉を常温まで降温させ、酸化工程S3を終了する。酸化工程S3を終了した基板を窒化工程S4に進める。
【0052】
本発明の熱電窒化物膜は、優れた熱電特性を有する。このため、熱電デバイスなどに用いることができる。
【実施例0053】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0054】
[測定方法]
1.導電率測定
熱電窒化物膜に4本の針状の電極(4探針プローブ)を直線上に置き、外側の二探針間に一定電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差および抵抗を抵抗率計(型式:ロレスタ-GP、三菱化学アナリテック株式会社製)を用いて測定し、導電率を求めた。環境温度はホットプレートにて制御し60、80、100℃での導電率を測定した。
【0055】
2.Seebeck係数測定
定常法を用いて測定した。電圧は、6514 システム エレクトロメータ(ケースレー社製)を用いて測定し、温度は、CAOAC2 9221A(江藤電機株式会社製)を用いて測定した。サンプルの両端に温度差をとり、2本の熱電対を高温部、低温部に接触させ、それぞれ電圧と温度を測定することでゼーベック係数を得た。高温部はホットプレートにて制御し60、80、100℃での導電率を測定した。
【0056】
3.XRD測定および格子定数の算出
SmartLab(RIGAKU社製)を用い、試料に対する入射角を微小角(0.5°)、測定速度を3°/minに設定し、薄膜測定法(GIXRD)にて測定を行った。格子定数はXRDで得られた結果から最小二乗法にて算出した。
【0057】
4.結晶子サイズ
XRDで得られた回折ピークから、Williamson-Hall法を用いて結晶子サイズを算出した。
【0058】
5.成膜
簡易型スピンコーター(SC4001/アイデン社製)を用い、回転数は1000~2500rpm、回転時間は30secにし、石英基板上に前駆体溶液を製膜した。
【0059】
6.抵抗
デジタルマルチメータ(DT4252/日置電機株式会社製)により基板の両端20mmの抵抗値を測定した。
【0060】
7.膜厚
触針式表面形状測定器DekTak-150(Veeco社製)を用い、サンプルの塗布部と非塗布部の境界を測定し,非塗布部に対する塗布部の高低差より膜厚を測定した。
【0061】
8.パワーファクター
測定した導電率およびゼーベック係数を用いて、(パワーファクター)=(導電率)×(ゼーベック係数)^2を導出した。
【0062】
9.光透過率
紫外可視近赤外(UV-vis-NIR)分光光度計 V-770(日本分光社製)を用いて、石英ガラス基板のバックグラウンドを差し引き、300~3000nmにおける薄膜の透過スペクトルを測定した。
【0063】
(実施例1)
(前駆体主成分の決定)
基板として、石英基板(20mm×20mm×1mm、実験用合成石英ガラス基板 Labo-USQ(登録商標)、株式会社大興製作所製)を用いた。熱電窒化物膜を設ける面を、小型真空プラズマ装置(NMR-Gts、株式会社魁半導体製)を用いて、15分間プラズマ処理をした。
【0064】
クロム濃度が、それぞれが0.3(mol/L)のクロムイオン濃度の酢酸クロム、硝酸クロム、塩化クロムのエタノール溶液を用意した。それぞれの溶液を基板上に100μL滴下した。その後、簡易型スピンコータ(SC4001、株式会社アイデン製)を用いて、上記石英基板全体に塗布した。酢酸クロム溶液は、1,500rpm、20秒にて基板に塗布し、硝酸クロム溶液、塩化クロム溶液は、2,500rpm、20秒にて基板に塗布した。なお、酢酸クロムは、酢酸クロム水和物を用いた。
【0065】
上記塗布した基板を自然乾燥させ、前駆体が塗布・乾燥された基板を得た。
【0066】
次に、得られた前駆体が塗布・乾燥された基板をセラミック板(SSA-S角板、ニッカトー社製)に乗せ、電気炉(マッフル炉、いすずSTS-13K、いすゞ製作所社製)内に配置し、1000℃まで電気炉を昇温させた。炉内を1000℃にて1時間保持した後、室温まで降温させて、酸化窒化処理を終了した。
【0067】
次に、酸化工程を終了した基板を窒化処理した。具体的には、電気炉(マッフル炉、HWS300-50TX、ヒートテック社製)内に配置し、電気炉内の雰囲気をアンモニア雰囲気にした後、200mL/分の流量でアンモニアガスを流しながら、1000℃まで電気炉を昇温させた。炉内を1000℃にて1時間保持した後、室温まで降温させて、電気炉から取り出し、窒化処理を終了した。それぞれの成膜と導通を調べた。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
表中、成膜について、△は成膜にむらが生じ、〇は成膜が可能であったことを意味する。導通について、×は導通がなかったことを意味する。表1から、酢酸クロムをクロム塩として用いると、窒化物膜が得られることがわかった。
【0069】
(実施例2)
(前駆体主成分濃度の決定)
次に、0.6、0.9(mol/L)のクロムイオン濃度の酢酸クロムのエタノール溶液を用意した。実施例1と同様にして、窒化クロム膜を作製した。それぞれの成膜と導通を調べた。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
表中、成膜について、〇は成膜が可能であったこと、◎については、良好に成膜できたことを意味する。導通について、×は導通がなかったことを意味する。表2から、酢酸クロム濃度0.6(mol/L)近傍に良好に成膜できる濃度があることがわかる。なお、試験例3、4で得られた窒化物膜は、見た目は均一な膜であった。
【0071】
(実施例3)
(ドーパント金属の評価)
次にクロムイオン濃度の酢酸クロムと、ドーパント金属の金属塩として、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、オキシ塩化ジルコニウムをそれぞれ用い、全体で0.3(mol/L)の濃度にしたものを、実施例1と同様にして、窒化物膜を作製した。それぞれの試験例において、金属塩の種類、配合比(仕込み組成比)、成膜、導通、格子定数、結晶子サイズを、以下の表3に示す。格子定数、結晶子サイズは、上記のXRD測定装置を用いてX線回折をしたデータから算出した。
【0072】
【表3】
表3より、ドーパントとなる金属の金属塩を適切に選択すると、酢酸クロムを単独で用いるよりも、成膜の質が向上し、導通も得られることが分かる。また、格子定数から試験例3のCrNと比べるとアルミニウムをドープした試験例18および19では格子定数が減少、ジルコニウムをドープした試験例22、23、24では格子定数が増大し、それぞれがドープされていることがわかった。また、結晶子サイズから、きわめて細い結晶の窒化物膜が得られたことがわかる
【0073】
次にクロムイオン濃度の酢酸クロムと、ドーパント金属の金属塩として、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、オキシ塩化ジルコニウムをそれぞれ用い、全体で0.3(mol/L)の濃度にしたものを、実施例1と同様にして、窒化物膜を作製した。それぞれの試験例において、金属塩の種類、成膜、導通、抵抗、膜厚、電気伝導率、ゼーベック係数、パワーファクターを、以下の表4に示す。
【0074】
【表4】
表4より、全ての試験例で、成膜に優れ膜厚の小さいものが形成されていることがわかる。また、ドーパントとなる金属の金属塩に塩化アルミニウムを含む試験例は、ゼーベック係数およびパワーファクターが優れているものが、多かった(特に、試験例27、試験例48)。
【0075】
特に、酢酸クロムと、塩化アルミニウムを組み合わせである、試験例27は、p型であり、酢酸クロムと、塩化アルミニウムと、酸塩化ジルコニウムを組み合わせである試験例48は、n型であった。これから、ドーパントとなる金属の金属塩の種類と、配合比を選択すれば、よりゼーベック係数およびパワーファクターの値が優れる窒化物膜が得られることが、わかった。
【0076】
また、酸化チタンをドーパントとなる金属の金属塩として用いた、試験例39、41は、極めて高い電気伝導率を示し、高い電気的特性を有することがわかる。
【0077】
(酸化チタンとドーパントとなる金属の金属塩との組み合わせによる電気伝導率およびゼーベック係数の評価)
図4(A)は、p型を示す試験例28、38の電気伝導率、ゼーベック係数、パワーファクターを各温度に対して、プロットしたグラフである。図4(B)は、n型を示す試験例42、46、54の電気伝導率、ゼーベック係数、パワーファクターを各温度に対して、プロットしたグラフである。図4(A)から試験例28の酢酸クロムと、塩化アルミニウムの組合せは、試験例38の酢酸クロムと硝酸アルミニウムの組合せより、ゼーベック係数、およびパワーファクターに優れることがわかる。一方、図4(B)から、試験例54の酢酸クロムと、塩化アルミニウムと、オキシ塩化ジルコニウムの組合せは、試験例42の酢酸クロムと、オキシ塩化ジルコニウムの組合せ、および試験例46の酢酸クロムと、塩化チタンの組合せよりゼーベック係数、およびパワーファクターに優れることがわかる。以上から、ドーパントとなる金属の金属塩を適宜選択することにより、ゼーベック係数、およびパワーファクターに優れる、良好な熱電窒化物膜が得られることがわかった。
【0078】
また、試験例25、35、43、45、55の窒化物膜をそれぞれXRDした結果を示すグラフを図5に示す。図5から、酢酸クロムを単独で用いた試験例25に比べ、酢酸クロムを塩化アルミニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ならびに塩化アルミニウムとオキシ塩化ジルコニウムを併用した場合は、ピークの位置がずれていることがわかる。これから、アルミニウムやジルコニウムがドーピングされていることがわかる。
【0079】
(膜の表面状態からの導通性の評価)
図6は、試験例4、25、33において得られた窒化物膜の表面SEM像を示す写真である。図中、左側が試験例4の窒化物膜を、中央が試験例25の窒化物膜を、右側が試験例33の窒化物膜をそれぞれ表す。なお、表面SEM像は、走査電子顕微鏡(Phenom Pure、ジャスコインタナショナル社製)を用いて撮影した。
【0080】
図6の左側の写真からわかるように、試験例4の窒化物膜は、見た目は均一な膜であったが、微細な粒子が多く析出しており、膜状になっておらず、微粒子が並んだ構造をしており、この微粒子間に隙間が生じて、導通しなかったと考えられた。また、図6の右側の写真からわかるように、試験例33のように、窒化物膜の中に亀裂が発生しているものも、導通しなかった。一方、図6の中央の写真からわかるように、導通する窒化物膜は、均一な膜が形成されていた。
【0081】
(光透過率の評価)
試験例4(CrN)、28(p型Cr0.94Al0.06N)、39(n型Cr0.95Ti0.05N)、47(n型Cr0.94Al0.02Zr0.04N)の窒化物膜を、紫外可視近赤外(UV-vis-NIR)分光光度計 V-770(日本分光社製)を用いて測定した。石英ガラス基板のバックグラウンドを差し引き、300~3000nmにおける薄膜の透過スペクトルを測定した。
【0082】
結果を図7に示す。図7からAlやZrをドープすると650~1650nmの範囲で透過率が上昇することがわかる。一方で、導電率の高いTiドープの場合(試験例39)は透過率が近赤外領域でも35%以下と低いことがわかる。なお、試験例1の窒化物膜は通電しないので、透過率は問題とならない。
【0083】
(実施例4)
(安定化剤の影響の評価)
次にクロムイオン濃度の酢酸クロムと、ドーパント金属の金属塩として、塩化アルミニウムを配合比(95:5)として、全体で0.6(mol/L)の濃度にした前駆体液に、安定化剤としてアセチルアセトンと、エチレンジアミンを、0.5,1.0,5.0体積%添加した前駆体液を作製し、実施例1と同様にして、窒化物膜を作製した。
【0084】
それぞれの試験例において、金属塩の種類、成膜、導通、抵抗、膜厚、電気伝導率、ゼーベック係数、パワーファクターを、以下の表5に示す。
【0085】
【表5】
表5から、安定化剤を使用した場合は、成膜や、導通、膜厚には、大きな影響はなかった。しかし、電気伝導率は、用いる安定化剤により、安定化剤を用いていない試験例に比べ、優れたものも、劣ったものも見いだされた。一方、ゼーベック係数およびパワーファクターに関しては、全ての安定化剤を用いた試験例は、安定化剤を用いていない試験例に比べ劣っている。したがって、全ての安定化剤を用いた試験例は、熱起電力および熱電変換特性が所定の効果を奏さないことから、熱電窒化物膜の製造において安定化剤は、添加しない、あるいは添加しても、0.5mol%未満の方がよいことがわかる。
【符号の説明】
【0086】
1 窒化物膜
2 基板

図1
図2
図3
図4(A)】
図4(B)】
図5
図6
図7