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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118396
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】電動ドアクローザ
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/63 20150101AFI20240823BHJP
   E05F 1/12 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
E05F15/63
E05F1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092301
(22)【出願日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2023024292
(32)【優先日】2023-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006943
【氏名又は名称】リョービ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117204
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 徳哉
(72)【発明者】
【氏名】末次 聡之
【テーマコード(参考)】
2E050
2E052
【Fターム(参考)】
2E050BA04
2E050BA06
2E050CA04
2E050EA02
2E050EB02
2E052AA01
2E052AA02
2E052AA05
2E052CA06
2E052DA01
2E052DB02
2E052EA02
2E052EB06
2E052EC01
2E052KA08
(57)【要約】
【課題】停電時において、開かれた扉を自動的に閉じることができる電動ドアクローザを提供する。
【解決手段】電動で扉を閉じる電動ドアクローザであって、扉の開閉に連動して回転する主軸4と、通電時に主軸4に閉じ力を付与する駆動部10と、駆動部10を制御する制御部11と、停電時に主軸4に閉じ力を付与する停電用の自閉部6と、を備え、自閉部6は、閉じ力を発生させるバネ30と、停電時の開扉動作によってバネ30を蓄勢させ、バネ30の閉じ力を主軸30に付与する蓄勢部と、通電時には扉が開閉するときに蓄勢部とバネ30が連動しないようにバネ30を退避状態とし、停電時には扉が開閉するときに蓄勢部とバネ30が連動するようにバネ30を接続状態とする切り替え部と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動で扉を閉じる電動ドアクローザであって、
扉の開閉に連動して回転する主軸と、
通電時に主軸に閉じ力を付与する駆動部と、
駆動部を制御する制御部と、
停電時に主軸に閉じ力を付与する停電用の自閉部と、を備え、
自閉部は、
閉じ力を発生させるバネと、
停電時の開扉動作によってバネを蓄勢させ、バネの閉じ力を主軸に付与する蓄勢部と、
通電時には扉が開閉するときに蓄勢部とバネが連動しないようにバネを退避状態とし、停電時には扉が開閉するときに蓄勢部とバネが連動するようにバネを接続状態とする切り替え部と、
を備えている、電動ドアクローザ。
【請求項2】
駆動部は、モータと、モータの回転を主軸に伝達する回転伝達部と、を備え、
回転伝達部は、主軸側から逆転可能な構造である、請求項1記載の電動ドアクローザ。
【請求項3】
切り替え部は、通電時にはバネを圧縮状態に維持することによりバネを退避状態とし、停電時にはバネの圧縮状態を解除することによりバネを接続状態とする、請求項1又は2記載の電動ドアクローザ。
【請求項4】
切り替え部は、通電時に電磁力でバネを圧縮状態に維持する、請求項3記載の電動ドアクローザ。
【請求項5】
切り替え部は、
互いに係合可能な第1係合部及び第2係合部と、
第1係合部及び第2係合部を係合維持させる第1位置と、第1係合部及び第2係合部を係合解除させる第2位置との間を移動可能であって、第2位置側に付勢されたストッパと、
通電時にストッパを第1位置に保持すべくストッパに電磁力を付与する電磁部材と、
を備え、
通電時に第1係合部及び第2係合部が係合維持することにより、バネが圧縮状態に維持され、停電時に第1係合部及び第2係合部が係合解除することにより、バネの圧縮状態が解除される、請求項4記載の電動ドアクローザ。
【請求項6】
電池を備え、
切り替え部は、バネを移動させる補助駆動部を備え、
制御部は、停電時に電池の電力によって補助駆動部を作動させて、バネを退避状態の位置から接続状態の位置まで移動させる、請求項1又は2記載の電動ドアクローザ。
【請求項7】
主軸と退避状態のバネとの間の離間距離を調整する位置調整部を備えている、請求項1又は2記載の電動ドアクローザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扉を電動によって閉じる電動ドアクローザに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、既に下記特許文献1のように、商用電源を電源として電動で扉を開閉する装置を提案している。しかしながら、停電の際に扉を自動で開閉できなくなった場合、手動で開かれた扉が開いたままの状態になることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6947681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、停電時において、開かれた扉を自動的に閉じることができる電動ドアクローザを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る電動ドアクローザは、電動で扉を閉じる電動ドアクローザであって、扉の開閉に連動して回転する主軸と、通電時に主軸に閉じ力を付与する駆動部と、駆動部を制御する制御部と、停電時に主軸に閉じ力を付与する停電用の自閉部と、を備え、自閉部は、閉じ力を発生させるバネと、停電時の開扉動作によってバネを蓄勢させ、バネの閉じ力を主軸に付与する蓄勢部と、通電時には扉が開閉するときに蓄勢部とバネが連動しないようにバネを退避状態とし、停電時には扉が開閉するときに蓄勢部とバネが連動するようにバネを接続状態とする切り替え部と、を備えている。
【0006】
この構成によれば、通常の状態である通電時には、商用電源により制御部が駆動部を制御し、駆動部が主軸に閉じ力を付与し、扉を自動的に閉める。尚、制御部は、扉を自動的に閉める他、扉を自動的に開けるようにしてもよい。通電時には、バネと蓄勢部が連動しないので、蓄勢部は主軸に閉じ力を付与しない。そして、停電になると、バネと蓄勢部が連動する。停電時において手動で扉が開かれた場合には、蓄勢部がバネを蓄勢させて閉じ力を発生させる。そのため、手動で開かれた扉をバネの閉じ力によって閉じることができる。
【0007】
特に、駆動部は、モータと、モータの回転を主軸に伝達する回転伝達部と、を備え、回転伝達部は、主軸側から逆転可能な構造であることが好ましい。この構成によれば、回転伝達部がセルフロック性を有していない。そのため、停電時にバネの閉じ力によって扉が閉じる際に、主軸を介して回転伝達部へと回転が伝達し、回転伝達部も主軸と共に回転することになる。従って、回転伝達部における抵抗が回転負荷となって主軸に作用し、扉が閉まる際に緩衝効果が得られる。
【0008】
また、切り替え部は、通電時にはバネを圧縮状態に維持することによりバネを退避状態とし、停電時にはバネの圧縮状態を解除することによりバネを接続状態とすることが好ましい。この構成によれば、バネの力を利用できるので、切り替え部を容易に構成することができる。
【0009】
特に、切り替え部は、通電時に電磁力でバネを圧縮状態に維持することが好ましい。この構成によれば、電磁力を利用することにより、通電時においてバネを容易に圧縮状態に維持することができる。そして、停電になると電磁力が作用しなくなるので、バネの圧縮状態を容易に解除することができる。
【0010】
更に、切り替え部は、互いに係合可能な第1係合部及び第2係合部と、第1係合部及び第2係合部を係合維持させる第1位置と、第1係合部及び第2係合部を係合解除させる第2位置との間を移動可能であって、第2位置側に付勢されたストッパと、通電時にストッパを第1位置に保持すべくストッパに電磁力を付与する電磁部材と、を備え、通電時に第1係合部及び第2係合部が係合維持することにより、バネが圧縮状態に維持され、停電時に第1係合部及び第2係合部が係合解除することにより、バネの圧縮状態が解除されることが好ましい。この構成によれば、通電時には、電磁部材が電磁力をストッパに作用させ、ストッパは第1位置に保持され、第1係合部及び第2係合部が係合状態に維持され、バネが圧縮状態に維持される。そして、停電時には、電磁部材の電磁力がストッパに作用しなくなり、ストッパは第2位置へと移動し、第1係合部及び第2係合部は係合状態を解除し、バネの圧縮状態が解除される。このように、第1係合部及び第2係合部の係合とその解除の機構を用いることことにより、バネの退避状態と接続状態とを容易に切り替えることができる。
【0011】
また、電動ドアクローザは電池を備え、切り替え部は、バネを移動させる補助駆動部を備え、制御部は、停電時に電池の電力によって補助駆動部を作動させて、バネを退避状態の位置から接続状態の位置まで移動させることが好ましい。この構成によれば、補助駆動部によりバネを確実に移動させることができる。
【0012】
また、電動ドアクローザは、主軸と退避状態のバネとの間の離間距離を調整する位置調整部を備えていることが好ましい。扉が全開となる開扉角度は、扉が設置される場所の条件によって異なる。例えば、扉が略100度程度しか開くことができない箇所もあれば、扉を略150度まで開くことができる箇所もある。このように扉の開閉可能角度は設置箇所による。通電時において、扉が最も開くときの開扉角度を通電開扉角度と称すると、扉の開閉可能角度が小さい設置箇所では、通電開扉角度は小さくなる。一方、扉の開閉可能角度が大きい設置箇所では、通電開扉角度は一般的には大きくなる。主軸と退避状態のバネとの間の離間距離を調整する位置調整部を備えていると、通電開扉角度が小さい場合には、主軸と退避状態のバネとの間の離間距離を短くすることができ、また、通電開扉角度が大きい場合には、主軸と退避状態のバネとの間の離間距離を長くすることができる。そのため、電動ドアクローザの汎用性が高まることとなる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、自閉部を備えているので、停電時において扉を自動的に閉じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態における電動ドアクローザであって、通電時の全閉状態を示す概略断面図。
図2図1の要部拡大図。
図3】同電動ドアクローザであって、停電直後の状態を示す概略断面図。
図4】同電動ドアクローザであって、停電直後の状態を示す概略断面図。
図5】同電動ドアクローザであって、停電時において扉が開かれるときの状態を示す概略断面図。
図6】同電動ドアクローザであって、停電時において扉が閉じられるときの状態を示す概略断面図。
図7】同電動ドアクローザであって、通電再開時において扉が開かれるときの状態を示す概略断面図。
図8】本発明の第2の実施形態における電動ドアクローザであって、通電時の全閉状態を示す概略断面図。
図9】同電動ドアクローザであって、停電直後の状態を示す概略断面図。
図10】同電動ドアクローザであって、停電直後の状態を示す概略断面図。
図11】同電動ドアクローザであって、停電時において扉が開かれるときの状態を示す概略断面図。
図12】本発明の第3の実施形態における電動ドアクローザであって、通電時の全閉状態を示す概略断面図。
図13】(a)は図12の要部拡大図、(b)は(a)のA-A断面図。
図14】同電動ドアクローザの構成部品を示す断面図であって、(a)は分離状態を示し、(b)は接合状態を示す。
図15】同電動ドアクローザであって、停電直後の状態を示す概略断面図。
図16】同電動ドアクローザであって、停電直後の状態を示す概略断面図。
図17】同電動ドアクローザであって、停電時において扉が開かれる途中の状態を示す概略断面図。
図18】同電動ドアクローザであって、通電再開時において扉が開かれるときの状態を示す概略断面図。
図19】同電動ドアクローザであって、通電再開時において扉が開かれるときの状態を示す概略断面図。
図20】本発明の第4の実施形態における電動ドアクローザであって、通電時の全閉状態を正面から見た概略断面図。
図21】同電動ドアクローザであって、通電時の全閉状態を平面から見た概略断面図。
図22】同電動ドアクローザの要部を示し、停電直後の状態を正面から見た概略断面図。
図23】同電動ドアクローザの要部を示し、停電中の状態を正面から見た概略断面図。
図24】同電動ドアクローザの要部を示し、通電再開時において扉が開かれるときの状態を正面から見た概略断面図。
図25】同電動ドアクローザの要部を示し、通電再開時において扉が開かれるときの状態を正面から見た概略断面図。
図26】同電動ドアクローザの第1支持部材を示す図であって、(a)は正面図、(b)はB-B断面図。
図27】同電動ドアクローザの第2支持部材を示す図であって、(a)は正面図、(b)はC-C断面図。
図28】同電動ドアクローザの要部を正面から見た概略図。
図29】同電動ドアクローザの要部を正面から見た概略図。
図30】(a)は図28のD-D断面図、(b)は図29のE-E断面図、(c)は図29のF-F断面図。
図31】(a)及び(b)は、同電動ドアクローザの要部を正面から見た概略図。
図32】本発明の第5の実施形態における電動ドアクローザであって、通電時の全閉状態を平面から見た概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1の実施形態にかかる電動ドアクローザについて図1図7を参酌しつつ説明する。本実施形態の電動ドアクローザは、扉を電動で開閉する。尚、左右方向とは、扉の回動軸(ヒンジ)に対して直交する方向であって、扉の回動軸に近い扉尻側と回動軸から遠い扉先側とを結ぶ方向である。扉の回動軸の軸線方向を上下方向とし、扉の面に対して法線方向を前後方向とする。
【0016】
扉は、扉枠にヒンジを介して回動可能に取り付けられる。扉は、上下方向の軸線まわりに水平方向に回動する。図1に電動ドアクローザの全体構成を示している。電動ドアクローザは、扉に取り付けられる本体1と、本体1と扉枠とを連結するリンク機構と、本体1に商用電源の電力を供給する図示しない電力供給装置とを備えている。本体1は、扉の前面の上部であってヒンジ寄りの位置に、図示しない取付板を介して取り付けられる。本体1には、カバー8が被せられている。リンク機構は、アーム2とブラケット3を備えている。扉枠の上枠にブラケット3が取り付けられる。
【0017】
<本体1>
本体1は、扉の回動に伴って上下方向の軸線まわりに回転する主軸4を備えている。本体1は、左右方向に長い直方体形状である。本体1は、通電時用の電動部5と、停電用の自閉部6とを備えている。電動部5と自閉部6は上下に並んで配置されている。即ち、電動部5と自閉部6は、主軸4の軸線方向に並んでいる。電動部5は、自閉部6の上側に位置する。電動部5は、通電時に主軸4を駆動することにより扉を開閉させる駆動部10と、駆動部10を制御する制御部11とを備えている。また、電動部5は、停電時に制御部11に電力を供給する非常用電源としての電池12を備えている。本体1は、フレーム7を備えている。フレーム7に、電動部5と自閉部6が取り付けられている。主軸4は、フレーム7に軸支されている。主軸4の上端部は、フレーム7から上方に突出している。その主軸4の上端部にアーム2の一端部が連結される。主軸4は、電動部5を上下に貫通し、自閉部6まで延びていて、フレーム7の下端部に到達している。主軸4は、電動部5に対応した上部と、自閉部6に対応した下部とを有している。主軸4の上部と下部は一体に形成されていてもよいが、主軸4が上下二分割の構成であってもよい。
【0018】
<駆動部10>
駆動部10は、主軸4を駆動する駆動源であるモータ13と、モータ13の回転を主軸4に伝達する回転伝達部とを備えている。モータ13は、例えばブラシレスDCモータである。モータ13は左右方向の軸線を有している。モータ13は主軸4側を向いて配置されている。回転伝達部は、モータ13の回転を減速すると共に、回転軸線方向を左右方向から上下方向へと変換して主軸4に伝達する。回転伝達部は、モータ13の左側に位置する減速ギア部15と、トルクリミッタ16と、傘歯車列とを備える。尚、左側は主軸4に近い側であり、右側は主軸4から遠い側である。モータ13の回転が減速ギア部15によって減速されて、第1出力軸17に伝達される。モータ13の回転は傘歯車列によって回転軸線方向が左右方向から上下方向へと変換される。傘歯車列は、主軸4と一体に回転する第1傘歯車18と、第1傘歯車18に噛み合い、左右方向の軸線まわりに回転する第2傘歯車19とを有する。第2傘歯車19は、第2出力軸20に取り付けられている。第2出力軸20は、第1出力軸17と同軸上にあり、第2出力軸20と第1出力軸17の間にトルクリミッタ16が配置されている。
【0019】
<制御部11及び電池12>
制御部11は、モータ13を駆動制御する。制御部11は、例えば駆動部10に対して主軸4とは反対側に配置されている。電池12は好ましくは二次電池であり、例えばニッケル水素電池の単三型や単四型である。電池12は、例えば前後に複数本並んで配置される。電池12の本数についても任意である。電池12は、例えば、その軸線方向が上下方向となるように配置される。電池12は、停電ではない通電時(通常時)に充電される。停電時には電池12から制御部11に電力が供給される。
【0020】
<自閉部6>
自閉部6は、停電時に、駆動部10に代わって、主軸4に閉じ力を付与する。自閉部6は、停電時においては、主軸4に接続された状態にあって、手動で扉が開かれるときに閉じ力を蓄勢して、その閉じ力によって扉を閉じる。一方、自閉部6は、通電時においては、主軸4から分離された状態にあって、扉が開かれるときに閉じ力を蓄勢しないように構成されている。具体的には、自閉部6は、バネ30と蓄勢部と切り替え部を備えている。バネ30は、閉じ力を発生させる。蓄勢部は、停電時の開扉動作によってバネ30を蓄勢させ、蓄勢されたバネ30の閉じ力を主軸4に付与する。切り替え部は、通電時にはバネ30と蓄勢部が連動しないようにバネ30を退避状態とし、停電時にはバネ30と蓄勢部が連動するようにバネ30を接続状態とする。
【0021】
本実施形態における切り替え部は、通電時にはバネ30を圧縮状態に維持することによりバネ30を退避状態とし、停電時にはバネ30の圧縮状態を解除することによりバネ30を接続状態とする。切り替え部は、第1係合部及び第2係合部と、ストッパと、電磁部材と、付勢部とを備える。第1係合部及び第2係合部は、互いに係合可能である。ストッパは、第1係合部及び第2係合部を係合維持させる第1位置と、第1係合部及び第2係合部を係合解除させる第2位置との間を移動可能である。付勢部は、ストッパを第2位置側に付勢する。電磁部材は、通電時にストッパを第1位置に保持すべくストッパに電磁力を付与する。そして、通電時には、第1係合部及び第2係合部が係合維持することにより、バネ30が圧縮状態に維持される。停電時には、第1係合部及び第2係合部が係合解除することにより、バネ30の圧縮状態が解除される。以下、詳細に説明する。
【0022】
本実施形態において、後述の蓄勢ロッド51とピニオンギア50が蓄勢部を構成する。後述のソレノイド40、切り替えボックス43、規制ボール44、ストッパピン46、付勢バネ47、係止爪35、及び規制軸33が切り替え部を構成する。規制ボール44が第1係合部であり、ストッパピン46の係止溝46aが第2係合部である。切り替えボックス43がストッパである。ソレノイド40が電磁部材であり、ソレノイド40に内蔵される内蔵バネ(図示省略)が付勢部である。
【0023】
バネ30は、圧縮コイルバネである。バネ30の本数は任意であって、本実施形態では一本であるが、二本以上であってもよい。バネ30の軸線方向は左右方向であって、主軸4に対して直交する方向である。バネ30は、第1バネ受け31と第2バネ受け32の間に配置されている。第1バネ受け31は、主軸4から相対的に遠い位置に配置され、第2バネ受け32は、主軸4に相対的に近い位置に配置されている。第1バネ受け31は右側に配置され、第2バネ受け32は左側に配置されている。第1バネ受け31は、フレーム7に固定されている。第2バネ受け32は、フレーム7に固定されておらずフレーム7に対して移動可能である。第2バネ受け32は、第1バネ受け31に対して接近、離反するように、左右方向に移動する。
【0024】
第2バネ受け32に規制軸33が固定されている。規制軸33は、第2バネ受け32から右側に延びていて、バネ30の径方向内側を挿通している。規制軸33は、第1バネ受け31を貫通して第1バネ受け31よりも右側まで延びている。規制軸33は、第1バネ受け31に対して左右方向に摺動可能である。
【0025】
図2に示すように、規制軸33は、多数の係止歯34を有している。係止歯34は、上側を向いている。係止歯34は、規制軸33における第1バネ受け31よりも右側の部分に形成されている。係止歯34には、係止爪35の爪部36が係止する。係止爪35は、規制軸33よりも上側に配置されている。爪部36は、係止爪35の下部に設けられている。係止爪35は、支軸37に回転可能に設けられている。係止爪35は、規制軸33の左側への移動を阻止すべく係止歯34を係止する係止姿勢と、規制軸33の左側への移動を許容すべく係止歯34を係止しない第1非係止姿勢と、規制軸33の右側への移動を許容すべく係止歯34を係止しない第2非係止姿勢と、をとる。第1非係止姿勢は、係止姿勢に対して係止爪35が図中時計回りに回転した姿勢である。第2非係止姿勢は、係止姿勢に対して係止爪35が図中反時計回りに回転した姿勢である。即ち、第1非係止姿勢と第2非係止姿勢は、係止姿勢に対する係止爪35の回転方向が逆である。支軸37はフレーム7に固定されている。支軸37は、規制軸33よりも上側に配置されている。支軸37は、前後方向の軸線を有している。係止爪35は、図示しない付勢バネを備えていて、その付勢バネによって、図中、時計回りに付勢されている。
【0026】
フレーム7にはソレノイド40が固定されている。ソレノイド40は、ソレノイド本体41と、ソレノイド本体41から右側に延びるプランジャ42(可動鉄心)とを備えている。プランジャ42は、ソレノイド本体41に対して左右方向に出退する。また、ソレノイド40には、プランジャ42をソレノイド本体41に退避させる方向に付勢する内蔵バネ(図示省略)が内蔵されている。ソレノイド40には、制御部11から電力が供給される。ソレノイド40は、通電時には内蔵バネの付勢力に抗してプランジャ42を電磁力により左側に向けて退避させる。ソレノイド40は、停電時に制御部11からの電力供給が停止されると、電磁力が作用しなくなり、内蔵バネの付勢力によってプランジャ42を右側に向けて突出させる。
【0027】
プランジャ42の先端部(右端部)には、切り替えボックス43が取り付けられている。切り替えボックス43の内側には、複数の規制ボール44を収容するボール収容部45が設けられている。ボール収容部45の内壁には、小径部45aと、小径部45aよりも直径が大きい大径部45bとが設けられている。小径部45aは、大径部45bの右側に位置している。
【0028】
切り替えボックス43のボール収容部45をストッパピン46が左右方向に貫通している。ストッパピン46は、左右方向の軸線を有している。ストッパピン46は、付勢バネ47により左側に付勢されている。ストッパピン46の先端部は係止爪35の上部に右側から当接する。付勢バネ47は、ストッパピン46とフレーム7との間に配置されている。ストッパピン46は、切り替えボックス43に対して左右方向に相対的に移動可能である。ストッパピン46の外周面には係止溝46aが形成されている。係止溝46aに規制ボール44が係合可能である。
【0029】
プランジャ42が左側に退避すると、それに伴って切り替えボックス43が左側に移動する。プランジャ42が左側に退避したとき、切り替えボックス43は第1位置となる。切り替えボックス43が第1位置に位置するとき、ボール収容部45の小径部45aに規制ボール44が位置し、規制ボール44はストッパピン46の係止溝46aに係合する。規制ボール44が係止溝46aに係合することにより、ストッパピン46の左右方向の移動が不可となる。このときのストッパピン46の位置をストップ位置と称する。一方、プランジャ42が右側に突出すると、それに伴って切り替えボックス43も右側に移動する。プランジャ42が右側に突出したとき、切り替えボックス43は第2位置となる。切り替えボックス43が第2位置に位置すると、規制ボール44は小径部45aから脱出して大径部45bへと進入でき、規制ボール44はストッパピン46の係止溝46aから径方向外側に離脱する。規制ボール44が係止溝46aから外れることにより、規制ボール44によるストッパピン46の規制状態が解除され、ストッパピン46は左右方向に移動可能となる。
【0030】
通電時には、図1及び図2のように、ソレノイド40はON状態にあって、プランジャ42は左側に退避した状態にあり、切り替えボックス43は左側に移動した状態にある。規制ボール44は、ボール収容部45の小径部45aに位置し、ストッパピン46の係止溝46aに係合している。そのため、ストッパピン46はストップ位置に保持されていて右側には移動できない状態にある。ストッパピン46の先端部が係止爪35に当接しているため、係止爪35は時計回りに回転できず、係止爪35は係止姿勢となっている。一方、バネ30は圧縮状態となっていて、第2バネ受け32を左側に押しており、規制軸33にも左側への付勢力が作用している。規制軸33の係止歯34に係止爪35の爪部36が係止しているため、規制軸33は左側へは移動できない。規制軸33が左側に移動しようとしているため、係止爪35は時計回りに回転しようとするが、その係止爪35の時計回りの回転がストッパピン46によって阻止されている。即ち、第2バネ受け32及び規制軸33の左側への移動が係止爪35とストッパピン46によって阻止された状態にある。
【0031】
停電になると、図3のように、ソレノイド40はOFF状態となり、プランジャ42は右側に突出し、切り替えボックス43も右側に移動する。規制ボール44はボール収容部45の大径部45bに位置し、ストッパピン46の係止溝46aから外れた状態となる。そのため、ストッパピン46は右側に移動可能となり、係止爪35が時計回りに回転して第1非係止姿勢となり、係止爪35に押されてストッパピン46は右側に移動する。係止爪35が時計回りに回転して第1被規制姿勢となることで係止爪35の爪部36が規制軸33の係止歯34から外れ、規制軸33と第2バネ受け32が左側に移動する。図3は、規制軸33と第2バネ受け32が左側に移動している途中の状態を示している。
【0032】
一方、主軸4の下部にはピニオンギア50が設けられている。ピニオンギア50は主軸4と一体に回転する。ピニオンギア50は、主軸4の下部に一体に形成されてもよいし、別体に形成されて主軸4の下部に取り付けられてもよい。ピニオンギア50に蓄勢ロッド51のラック52が噛合している。蓄勢ロッド51は、右側の端部に当接ヘッド53を有する。当接ヘッド53は主軸4の右側に位置している。主軸4が回転すると、蓄勢ロッド51は左右方向に移動する。図1は、閉扉状態を示しており、閉扉状態では蓄勢ロッド51は左側に位置している。開扉動作に伴って主軸4が回転すると蓄勢ロッド51は右側に移動する。
【0033】
通電時(通常動作時)に電動で扉が開かれる際、当接ヘッド53は、図1に二点鎖線で示している位置まで移動する。つまり、通電時において、扉の開閉により、当接ヘッド53は、図1に実線で示している閉扉位置と二点鎖線で示している開扉位置との間を往復する。図1に示す通電時においては、当接ヘッド53は第2バネ受け32には当接しない。第2バネ受け32は、開扉位置に位置する当接ヘッド53には当接しない位置に配置されており、開扉位置の当接ヘッド53と第2バネ受け32との間には隙間が設けられている。
【0034】
停電になると、図3のように、第2バネ受け32が左側に移動し、やがて、図4のように第2バネ受け32は、閉扉位置に位置する当接ヘッド53に当接する。尚、閉扉位置の当接ヘッド53に第2バネ受け32が当接した状態において、バネ30は自由長であってもよいし、圧縮した状態であってもよい。全閉状態における当接ヘッド53に第2バネ受け32が当接した状態から図1に示すような通電時においてバネ30が圧縮されている状態までのバネ30の圧縮量は、扉の開閉動作に伴って当接ヘッド53が左右方向に移動する移動量(閉扉位置と開扉位置の間の左右方向の距離)よりも大きい。
【0035】
図5は、停電時において手動で扉が開かれるときを示している。開扉動作に伴って主軸4が回転すると、ピニオンギア50が主軸4と一体に回転し、蓄勢ロッド51が右側に移動する。蓄勢ロッド51の右側への移動により、バネ30が圧縮され、閉じ力が蓄勢される。蓄勢ロッド51に押されて第2バネ受け32及び規制軸33が右側に移動する。その際、係止爪35は、規制軸33に押されるようにして反時計回りに回転した第2非係止姿勢となる。
【0036】
そして、手動による開扉動作が終了すると、図6に示すように、バネ30の閉じ力によって扉を自動的に閉じることができる。即ち、バネ30が第2バネ受け32を介して蓄勢ロッド51を左側に押して移動させ、主軸4を回転させる。規制軸33も左側に移動するが、係止爪35は、規制軸33に押されるようにして時計回りに回転した第1非係止姿勢となる。
【0037】
停電状態が終了し、通電が再開されると、制御部11からソレノイド40に電力が供給され、図7のように、ソレノイド40のプランジャ42が左側に退避して切り替えボックス43を左側に移動させる。規制ボール44は、ボール収容部45の小径部45aに位置し、ストッパピン46の係止溝46aに係合する。そのため、ストッパピン46は右側へは移動できずストップ位置となる。その状態で、一度、手動で扉を開く。その際、電動で扉を開くときよりも大きな開き角度まで開くようにする。つまり、通電時において扉が最も開くときの開扉角度である通電開扉角度よりも大きな開き角度まで、手動で扉を開く。図7は手動で扉を開いている途中の状態を示している。手動で扉を開くことにより、蓄勢ロッド51が第2バネ受け32を右側に移動させ、規制軸33も右側に移動する。係止爪35は規制軸33に押されるようにして反時計回りに回転した第2非係止姿勢となり、規制軸33の右側への移動を許容する。電動で扉を開くときよりも大きな開き角度まで手動で扉を開くと、図1のように、係止爪35は、爪部36が規制軸33の最も左側の係止歯34に係止した係止姿勢となり、規制軸33はその位置に保持される。図1に二点鎖線で、電動時の開き位置の当接ヘッド53を示しているが、第2バネ受け32は、電動時の開き位置の当接ヘッド53よりも右側に離れた状態に保持される。
【0038】
その後、電動により扉が閉じられる。モータ13が作動して主軸4が回転し、蓄勢ロッド51が左側に移動するが、係止爪35が規制軸33の移動を阻止しているため、第2バネ受け32は左側には移動せず、蓄勢ロッド51は第2バネ受け32から離れるように左側に移動して、図1に示す全閉状態となる。尚、通電再開直後に、手動ではなくモータ13によって、通電時に電動で扉を開閉するときよりも大きな開き角度まで扉を開いてもよい。
【0039】
以上のように、通常の状態である通電時には、自閉部6は、機能せず、主軸4に閉じ力を付与しない。そのため、通電時には、自閉部6は電動部5には影響を及ぼさず、電動部5は、自閉部6の存在に関わらず、扉を電動で開閉させる。そして、停電になると自閉部6が働き出す。停電になるとソレノイド40への通電が停止するので、自動的にソレノイド40がOFF状態となって切り替えボックス43を右側に移動させるので、切り替えボックス43を別途右側に移動させる必要がない。また、停電と共に瞬時に切り替えボックス43を右側に移動させることができる。更には、バネ30の圧縮状態を利用して素早く第2バネ受け32を左側に移動させて当接ヘッド53に当接させることができる。即ち、蓄勢部にバネ30を接続させることができる。
【0040】
また、停電時に扉が手動で開かれる際にバネ30が閉じ力を蓄勢し、その蓄勢した閉じ力を主軸4に付与するが、回転伝達部はセルフロック性を有していない。そのため、扉が閉じていく際に、出力側である主軸4から回転伝達部に回転が伝達される。従って、回転伝達部が回転する際の抵抗が回転負荷となって主軸4に付与されることになる。自閉部6は油圧による緩衝機構を備えていないが、回転伝達部の回転負荷が主軸4に作用するため、扉が急激に閉じるということが防止される。即ち、自閉部6による閉扉動作に緩衝効果を与えることができる。そして、通電が再開されると、ソレノイド40への給電が再開され、自動的にソレノイド40がON状態となる。尚、本実施形態では電動部5が電池12を備えたが、電池12が省略されてもよい。
【0041】
次に、本発明の第2の実施形態に係る電動ドアクローザについて説明する。尚、上記第1の実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。図8から図11に本実施形態の電動ドアクローザを示している。本実施形態の電動ドアクローザは、上記第1の実施形態のものとは主として自閉部6の切り替え部が異なる。
【0042】
自閉部6は、補助モータ60を備える。補助モータ60は、停電になるとバネ30を待機位置(退避状態の位置)から接続位置(接続状態の位置)まで移動させ、通電が再開されるとバネ30を接続位置から待機位置に戻す。補助モータ60は、フレーム7に固定されている。補助モータ60は、左右方向の軸線を有する。補助モータ60は、左側に向けて延びるネジ軸61を有している。ネジ軸61は、第1バネ受け31を左右方向に貫通している。第1バネ受け31は、ネジ軸61に螺合する雌ネジ部62を有する。即ち、本実施形態において、第1バネ受け31はフレーム7に固定されておらず左右方向に移動可能に設けられている。ネジ軸61と第1バネ受け31の雌ネジ部62により、ネジ送り機構が構成されている。本実施形態において、補助モータ60、ネジ軸61、及び第1バネ受け31の雌ネジ部62が、切り替え部を構成すると共に、バネ30を移動させる補助駆動部を構成する。尚、第1バネ受け31の左右方向の位置を検出するセンサを備え、センサの出力により制御部11が補助モータ60を制御することが好ましい。
【0043】
補助モータ60は、第1バネ受け31を移動させることによりバネ30及び第2バネ受け32を移動させる。補助モータ60により、第1バネ受け31は、図8において実線で示すと共に図11において二点鎖線で示す通電位置と、図8において二点鎖線で示すと共に図11において実線で示す停電位置との間を移動する。第1バネ受け31は、通電時には通電位置に位置し、停電時には停電位置に位置する。停電時に第1バネ受け31が通電位置から停電位置まで移動することにより、バネ30は、待機位置から接続位置まで移動する。バネ30が待機位置に位置したときにおいては、第2バネ受け32が当接ヘッド53から右側に離れた状態にある。通電状態で扉が開閉して当接ヘッド53が左右方向に移動しても、当接ヘッド53は第2バネ受け32には当接しない。バネ30が接続位置に位置したとき、第2バネ受け32が当接ヘッド53に当接した状態となる。従って、停電状態で扉が開閉するときには、当接ヘッド53と第2バネ受け32は当接状態を維持したまま左右方向に移動する。
【0044】
図8においてバネ30は自由長の状態にある。但し、バネ30が僅かに圧縮された状態であってもよい。例えば、第1バネ受け31と第2バネ受け32との間の距離が所定距離以上とならないように制限すると共に第2バネ受け32の右側への移動を許容する制限棒を備えて、バネ30が僅かに圧縮された状態としてもよい。本実施形態では図8においてバネ30は自由長とされている。通電時には、第2バネ受け32は当接ヘッド53から右側に離間していて、バネ30と第1バネ受け31と第2バネ受け32は、当接ヘッド53から右側に離れた分離状態にある。扉が全開となっても、当接ヘッド53は第2バネ受け32には当接しない。
【0045】
図9に停電直後の状態を示している。停電になると、制御部11は、通常の電力供給が停止したことをトリガとして、電池12の電力により補助モータ60を第1方向に回転させる。補助モータ60が作動してネジ軸61が第1方向に回転すると、第1バネ受け31が左側に移動し、第1バネ受け31がバネ30を左側に押すことで第2バネ受け32も連動して左側に移動する。そして、図10のように第2バネ受け32が当接ヘッド53に当接し、制御部11は、補助モータ60の作動を停止する。
【0046】
この状態から扉を手動で開いている途中の状態を図11に示している。蓄勢ロッド51の右側への移動により、第2バネ受け32が当接ヘッド53に押されて右側に移動してバネ30を圧縮させる。第1バネ受け31にはバネ30から右方向の力が作用するが、ネジ送り機構のセルフロック性により第1バネ受け31は右側には移動せず、その位置に留まる。従って、停電時においては、手動で開かれた扉を自閉部が自動的に閉じる。
【0047】
尚、通電が再開されると、通常の商用電力によって、制御部11は補助モータ60を第1方向とは逆の第2方向に回転させて、第1バネ受け31を停電位置から通電位置に移動させる。第1バネ受け31が通電位置に復帰することにより、第2バネ受け32が当接ヘッド53から離れ、バネ30は、蓄勢ロッド51から右側に分離して待機位置に復帰する。
【0048】
以上のように、本実施形態においては、停電時用の補助モータ60を備えている。そのため、電動ドアクローザには電池12が必要になるものの、補助モータ60によってバネ30を正確に且つ確実に移動させることができる。
【0049】
尚、制御部11は、バネ30の待機位置を左右方向に調整する位置調整部を備えていてもよい。バネ30の待機位置を左右方向に調整することにより、待機位置のバネ30を主軸4に対して接近、離反させることができ、当接ヘッド53と第2バネ受け32との間の離間距離を調整することができる。これにより、扉の設置箇所に応じてバネ30の待機位置を調整することができ、扉の開閉可能角度が大きい場合や小さい場合に容易に対応することができる。
【0050】
次に、本発明の第3の実施形態に係る電動ドアクローザについて説明する。尚、上記第1の実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。図12から図19に本実施形態の電動ドアクローザを示している。本実施形態の電動ドアクローザは、上記第1の実施形態のものとは主として自閉部6の切り替え部が異なる。本実施形態において、後述の電磁石72、離反バネ73、規制体74、及び、規制ボール44が切り替え部を構成する。規制ボール44が第1係合部であり、規制軸33の係止溝33aが第2係合部である。規制体74がストッパである。電磁石72が電磁部材であり、離反バネ73が付勢部である。
【0051】
第1バネ受け31は、フレーム7に固定されている。第1バネ受け31は、バネ30を受ける受け部31aと、受け部31aから右側に突出するガイド筒部31bとを有している。受け部31aの形状は任意であるが、本実施形態では、図13(b)のように左右方向から見たときに矩形状である。ガイド筒部31bは、円筒状である。ガイド筒部31bは、受け部31aと一体に形成されてもよいし、受け部31aとは別体に形成されて受け部31aにネジ止め等により固定されてもよい。ガイド筒部31bは、規制軸33と同軸である。規制軸33は、第1バネ受け31を挿通している。図13(a)のように、ガイド筒部31bには、径方向に貫通する横孔31cが複数設けられている。横孔31cに、規制ボール44が嵌り込んでいる。規制ボール44は複数設けられている。好ましくは、各横孔31cに規制ボール44が一つずつ配置される。規制ボール44は、横孔31cをガイド筒部31bの径方向に移動可能である。
【0052】
規制軸33の外周面には係止溝33aが形成されている。係止溝33aに規制ボール44が係合可能である。係止溝33aの左右両側面は傾斜面であり、係止溝33aの幅は径方向外側に向けて広がっている。係止溝33aに傾斜面を設けることにより、規制軸33が左右方向に移動する際に、係止溝33aの傾斜面によって規制ボール44を規制軸33の径方向外側に向けて押すことができる。
【0053】
フレーム7には支持ステー70が取り付けられている。支持ステー70は、第1バネ受け31から右側に所定距離離れて配置されている。支持ステー70の中央部には、支持孔71が形成されている。支持孔71は、支持ステー70を左右方向に貫通している。支持孔71には、規制軸33の右端部が挿通する。規制軸33は、支持孔71に案内される。規制軸33は、第1バネ受け31と支持ステー70に摺動可能に支持されている。
【0054】
支持ステー70の左側の面に電磁石72が取り付けられている。電磁石72は、図13(b)のように、複数設けられる。具体的には、電磁石72は、支持孔71の周囲に等間隔で配置される。電磁石72の個数は任意であるが、本実施形態では三個である。電磁石72同士の間には、離反バネ73が配置される。離反バネ73は、左右方向の軸線を有する圧縮コイルバネである。離反バネ73も支持孔71の周囲に等間隔で配置され、本実施形態では三個配置される。
【0055】
電磁石72の左側には規制体74が配置されている。規制体74は、第1バネ受け31の受け部31aと電磁石72の間に配置され、第1バネ受け31の受け部31aと電磁石72との間の区間を左右方向に沿って移動可能である。第1バネ受け31のガイド筒部31bは電磁石72まで延びている。ガイド筒部31bは、規制体74を左右方向に貫通している。規制体74は、ガイド筒部31bの外周面に案内されて左右方向にスライドする。規制体74が移動する際、規制体74はガイド筒部31bの外周面を摺動する。規制体74の外形は任意であるが、本実施形態では図13(b)のように円形である。即ち、規制体74は、円柱状である。
【0056】
規制体74の内周面には、径一定の規制部75と、規制部75よりも大径の逃げ部76が設けられている。逃げ部76は規制部75の右側に設けられる。逃げ部76は、規制部75に対して径方向外側に凹んだ溝である。規制ボール44は逃げ部76に係合可能である。逃げ部76の規制部75側の壁面には、規制部75から右側に離れるほど大径となる傾斜面77が設けられることが好ましい。
【0057】
規制体74は、図14のように、左右二つの部材から構成されることが好ましい。即ち、規制体74は、互いに別体に構成された第1部材78と第2部材79を備えることが好ましい。第1部材78には逃げ部76が設けられ、第2部材79には規制部75が設けられる。本実施形態では、第1部材78に逃げ部76のうち傾斜面77を除く右側の部分が設けられ、第2部材79には規制部75と逃げ部76の傾斜面77とが設けられる。第1部材78と第2部材79は互いに例えばネジ止め固定されて一体化される。このように規制体74を二つの部材から構成することにより、規制部75と逃げ部76の加工が容易になる。
【0058】
規制体74は、強磁性体からなる。離反バネ73は、規制体74と支持ステー70との間に配置され、規制体74を左側に付勢している。電磁石72は、通電時において、離反バネ73の付勢力に抗して規制体74を吸着する。電磁石72に吸着されているときの規制体74の位置が第1位置である。停電時には、電磁石72への電力供給が停止するため、電磁石72は、規制体74の吸着を解除し、規制体74は、離反バネ73の付勢力により電磁石72から左側に離反する。停電時に、規制体74は、離反バネ73に押されて、第1バネ受け31の受け部31aに当接するまで移動する。このときの規制体74の位置が第2位置である。
【0059】
図12及び図13(a)は通電状態を示している。通電時には、電磁石72が規制体74を吸着保持している。規制ボール44は、横孔31cからガイド筒部31bの径方向内側に部分的に突出した状態にあって、規制軸33の係止溝33aに係合している。規制ボール44は、その略半球部分がガイド筒部31bの横孔31cに位置し、残りの略半球部分が係止溝33aに係合している。規制体74の規制部75は、規制ボール44の径方向外側に位置し、規制ボール44の径方向外側への移動を規制する。そのため、規制ボール44と係止溝33aの係合状態が維持され、規制軸33は、左側には移動できず、バネ30は圧縮状態に保持される。
【0060】
通電時(通常動作時)に電動で扉が開かれる際、当接ヘッド53は、図12に二点鎖線で示している位置まで移動する。つまり、通電時において、扉の開閉により、当接ヘッド53は、図12に実線で示している閉扉位置と二点鎖線で示している開扉位置との間を往復する。図12に示す通電時においては、当接ヘッド53は第2バネ受け32には当接しない。第2バネ受け32は、開扉位置に位置する当接ヘッド53には当接しない位置に配置されており、開扉位置の当接ヘッド53と第2バネ受け32との間には隙間が設けられている。
【0061】
停電になると、図15のように、電磁石72が規制体74を離す。規制体74は、離反バネ73に押されて左側に移動し、第1バネ受け31の受け部31aに当接してその位置で停止する。規制ボール44の径方向外側に規制体74の逃げ部76が対峙すると、規制ボール44はガイド筒部31bの径方向外側に移動し、係止溝33aから外れて逃げ部76に嵌り込む。規制ボール44が係止溝33aから外れることにより、規制軸33の規制状態が解除され、規制軸33が移動可能となる。バネ30により、規制軸33は、第2バネ受け32と共に左側に移動する。そして、図16のように第2バネ受け32は、閉扉位置に位置する当接ヘッド53に当接する。規制ボール44は、横孔31cからガイド筒部31bの径方向外側に部分的に突出した状態にあって、規制体74の逃げ部76に係合している。即ち、規制ボール44は、その略半球部分がガイド筒部31bの横孔31cに位置し、残りの略半球部分が逃げ部76に係合する。
【0062】
図17は、停電時において手動で扉が開かれるときを示している。開扉動作により、蓄勢ロッド51が右側に移動する。蓄勢ロッド51に押されて第2バネ受け32及び規制軸33が右側に移動し、バネ30が圧縮されて閉じ力が蓄勢される。規制ボール44が規制体74の逃げ部76に回避した状態にあるため、規制軸33は右側に移動できる。手動で開かれた扉は、その後、バネ30によって自動的に閉じられることになる。
【0063】
通電が再開すると、電磁石72に電力が供給される。図16に示しているような閉扉状態において通電が再開されると、電磁石72は、左側に離反している規制体74を磁力により吸引する。規制体74は、電磁石72の磁力によって右側に移動しようとするが、ガイド筒部31bの横孔31cから径方向外側に部分的に突出している規制ボール44が規制体74の逃げ部76に係合している。規制ボール44は、規制軸33の外周面によって規制軸33の径方向内側への移動が規制されている。そのため、規制ボール44は逃げ部76に係合した状態を維持し、規制体74は右側には移動できず、規制体74は電磁石72から離れた状態を維持する。
【0064】
通電再開後、一度、扉を手動によって大きく開く。図18に示すように、扉は、手動によって、規制軸33の係止溝33aが規制ボール44の位置に到達するまで開かれる。そのとき、当接ヘッド53は、通電時において扉が所定開度まで開かれるときの位置よりも更に右側に位置する。規制軸33の係止溝33aが規制ボール44に対峙する位置まで到達すると、規制ボール44は、径方向内側に移動できる。上述のように、通電再開によって電磁石72への電力供給が再開されており、電磁石72の磁力によって規制体74は右側に移動しようとしている。そのため、逃げ部76に係合している規制ボール44は、規制体74によって押し出されるようにして規制軸33の径方向内側に移動し、逃げ部76から外れる。特に、逃げ部76の左側の壁面が傾斜面77となっていると、傾斜面77が規制ボール44を右側に押すことで規制ボール44に規制軸33の径方向内側への力を付与することができ、規制ボール44をスムーズに規制軸33の径方向内側へと移動させることができる。
【0065】
逃げ部76から規制ボール44が外れることにより、規制体74は右側に移動でき、図19のように電磁石72は、離反バネ73の付勢力に抗して規制体74を吸着する。一方、規制ボール44は規制軸33の係止溝33aに係合し、規制体74の規制部75が規制ボール44に対峙して規制ボール44の規制軸33の径方向外側への移動を阻止する。そのため、規制ボール44と係止溝33aの係合状態が維持され、規制軸33は左側には移動できず、バネ30は圧縮状態に保持される。その後、電動により扉が閉じる。
【0066】
このように、本実施形態では、停電になると電磁石72への通電が自動的に停止する。そのため、バネ30の圧縮状態を瞬時に解除でき、当接ヘッド53に第2バネ受け32を当接させることができる。
【0067】
尚、上記実施形態では蓄勢部がラック52とピニオンギア50を備えたが、これらに代えて、カムを備えてもよい。
【0068】
次に、本発明の第4の実施形態に係る電動ドアクローザについて説明する。尚、上記第1の実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。図20から図31に本実施形態の電動ドアクローザを示している。尚、図22図25においては、電動部5の図示を省略し、自閉部6のみを示している。本実施形態の電動ドアクローザは、上記第1の実施形態のものとは主として自閉部6の切り替え部と蓄勢部が異なる。本実施形態において、蓄勢部は、上述のようなラックアンドピニオン式に代えて、カム80を用いる構成となっている。後述の規制プレート86、係合ローラ88、規制ローラ89、規制ピン100、補助バネ99、吸着プレート102、電磁石72が主として切り替え部を構成する。係合ローラ88が第1係合部であり、規制プレート86の係合凹部87が第2係合部である。規制ローラ89がストッパである。電磁石72が電磁部材である。尚、本実施形態では、バネ30が規制ローラ89を第2位置側に付勢している。
【0069】
図20及び図21に通電時であって全閉の状態を示している。カム80は、主軸4に設けられて、主軸4と一体に回転する。カム80は、主軸4に一体形成された構成であってもよいし別体構成、即ち別部品の構成であってもよい。主軸4の近傍には、スライドプレート81が配置されている。スライドプレート81は、上下方向を板厚方向とする板状である。スライドプレート81は、上下一対設けられている。上下一対のスライドプレート81の間にカム80が配置されている。スライドプレート81は、フレーム7に対して左右方向に移動可能である。スライドプレート81には上下方向に貫通するスライド孔82が形成されている。スライド孔82は、左右方向に長い長孔形状である。スライド孔82を主軸4が貫通している。
【0070】
上下のスライドプレート81には、ガイドローラ83a,83b,83c,83dが回転可能に支持されている。ガイドローラ83a,83b,83c,83dは、フレーム7の内面に当接して回転する。ガイドローラ83a,83b,83c,83dは、前後左右に離れて合計四つ設けられている。ガイドローラ83a,83b,83c,83dは、上下のスライドプレート81の間に配置され、スライドプレート81の四隅近傍に配置されている。ガイドローラ83a,83b,83c,83dは、上下方向の軸線を有している。ガイドローラ83a,83b,83c,83dがフレーム7の内面に当接しながら回転又は摺接することにより、スライドプレート81が左右方向にスライド移動する。四つのガイドローラ83a,83b,83c,83dのうち右側であって且つ前側のガイドローラ83aがカムフォロアであって、カム80に当接している。開扉時に主軸4と共にカム80が回転すると、カムフォロアとしてのガイドローラ83aがカム80によって右側に押されて移動し、スライドプレート81が右側に移動する。但し、カムフォロアとしてのガイドローラ83aがカム80から右側に離れていてもよい。
【0071】
バネ30は、第1バネ受け31と第2バネ受け32との間に配置されている。第1バネ受け31は、第2バネ受け32に対して右側に離れて配置されていて、フレーム7に固定されている。バネ30の径方向内側を規制軸33が挿通している。規制軸33は、左右方向に沿った軸線を有している。規制軸33の左端部には雄ネジ部が形成され、その雄ネジ部に第2バネ受け32が螺合している。第2バネ受け32を規制軸33の軸線回りに回転させることにより、第2バネ受け32を規制軸33に沿って左右に移動させることができる。即ち、第2バネ受け32を第1バネ受け31に対して接近、離反させることができ、これによりバネ30のバネ力を調整することができる。第2バネ受け32は、バネ30のバネ力を調整するためのバネ調整部として機能する。第2バネ受け32の外周面には多数の孔が放射状に形成されており、この孔に工具を差し込んで第2バネ受け32を回転操作できる。
【0072】
規制軸33の左端部には当接ヘッド53が設けられている。当接ヘッド53は、スライドプレート81の右側に離れて対向している。停電時には、当接ヘッド53が左側に移動してスライドプレート81に当接するが、通電時においては、自動で扉が開閉する際にスライドプレート81は当接ヘッド53に当接しない。自動で扉が最も開いたときの開扉角度を通電開扉角度と称することとする。この通電開扉角度において、スライドプレート81と当接ヘッド53との間には所定の隙間が確保される。
【0073】
規制軸33は、第1バネ受け31を左右方向に貫通していて、第1バネ受け31よりも右側に所定長さ突出している。規制軸33の右端部にはホルダ85が固定されている。ホルダ85には、上下一対の規制プレート86の左端部が固定されている。規制プレート86は、上下方向を板厚方向とする板状である。上下一対の規制プレート86は、それぞれホルダ85の上面と下面に固定されている。上下一対の規制プレート86は、互いに上下対称関係にあって同一形状に形成されている。上下一対の規制プレート86の互いの対向面にはそれぞれ係合凹部87が形成されている。尚、図20の上部には、規制プレート86を裏面から見た単体の状態を示している。係合凹部87は、前後方向に沿って延びている。係合凹部87は、上側の規制プレート86の下面と、下側の規制プレート86の上面に、それぞれ対向するように設けられている。尚、規制プレート86の右端部は自由端となっている。
【0074】
バネ30による規制軸33の移動を干渉するためにダンパーが設けられている。ダンパーは、エアダンパーである。第1バネ受け31にはダンパー本体110が取り付けられている。ダンパー本体110は、第1バネ受け31から左側に向けて延びている。ダンパー本体110は、前後一対配置されていて、バネ30の前後に位置している。ダンパー本体110には右側に開口する嵌合孔111が形成されている。この嵌合孔111にピストン軸112が摺動可能に嵌合している。ピストン軸112は、ダンパー本体110に対応して前後一対設けられている。ピストン軸112は第1バネ受け31を左右方向に貫通している。ピストン軸112の右端部はホルダ85に固定されている。ピストン軸112が左側に移動する際、嵌合孔111の空気の流動抵抗が緩衝力となってピストン軸112に作用する。
【0075】
上下一対の規制プレート86の間には、上下一対の係合ローラ88が配置されている。係合ローラ88は、係合凹部87に係合する。係合ローラ88はその軸線方向が前後方向となるように配置されている。上側の係合ローラ88の軸線と下側の係合ローラ88の軸線は、互いに平行であって且つ上下に離間していて、また、左右方向の位置は互いに同じである。上側の係合ローラ88は、上側の規制プレート86の係合凹部87にその上部のみが係合し、下側の係合ローラ88は、下側の規制プレート86の係合凹部87にその下部のみが係合する。係合凹部87は、通電開扉角度を越えて扉が開いたときに係合ローラ88が係合する位置に配置されている。係合凹部87の深さは、係合ローラ88の半径よりも小さい。上下一対の係合ローラ88の組が前後に離れて合計二組配置されている。即ち、係合ローラ88は、合計四つ設けられている。
【0076】
上下一対の係合ローラ88の間には、規制ローラ89が配置されている。規制ローラ89は前後それぞれ配置されており、合計二つ設けられている。規制ローラ89は、上下一対の係合ローラ88に対して若干右側に偏心した位置に配置されている。規制ローラ89の軸線は、係合ローラ88の軸線よりも右側に位置している。本実施形態では、規制ローラ89は、係合ローラ88よりも小径であり、また、係合ローラ88よりも軸線方向(前後方向)の長さが長い。
【0077】
係合ローラ88と規制ローラ89は、その両端部がそれぞれ第1支持部材91と第2支持部材92に支持されている。第1支持部材91と第2支持部材92は、上下の規制プレート86の間に配置されている。第1支持部材91と第2支持部材92は、上下の規制プレート86に対して左右方向に移動可能である。図26に第1支持部材91を示している。第1支持部材91は、ブロック状であって、前後対称形状である。第1支持部材91の前面と後面には、それぞれ係合ローラ88と規制ローラ89を移動可能に支持するための支持溝が形成されている。詳細には、第1支持部材91の前面及び後面の中央部には、左右方向に長い長孔形状の横支持溝93が形成されている。横支持溝93は、規制ローラ89を支持する支持溝である。横支持溝93には規制ローラ89の一端部が規制ローラ89の軸線方向、即ち前後方向に係合する。規制ローラ89は、横支持溝93に案内されて左右方向に移動可能である。
【0078】
横支持溝93の左側部分の上下にはそれぞれ縦支持溝94が形成されている。縦支持溝94は、係合ローラ88を支持するための支持溝である。上下の縦支持溝94は、互いに上下に対称関係に配置されている。縦支持溝94は、上下方向に延びている。上側の縦支持溝94は第1支持部材91の上面まで達していて上面に開口しており、下側の縦支持溝94は第1支持部材91の下面まで達していて下面に開口している。縦支持溝94には係合ローラ88の一端部が前後方向に係合する。係合ローラ88は、縦支持溝94に案内されて上下方向に移動可能である。縦支持溝94は、横支持溝93よりも浅い。
【0079】
図27に第2支持部材92を示している。第2支持部材92は、前後一対設けられて前後対称に配置されている。第2支持部材92の片面にも同様の横支持溝93と縦支持溝94が形成されている。横支持溝93と縦支持溝94は、前側の第2支持部材92においてはその後面に形成され、後側の第2支持部材92においてはその前面に形成されている。第2支持部材92の横支持溝94には規制ローラ89の他端部が係合して支持され、また、第2支持部材92の縦支持溝94には係合ローラ88の他端部が係合して支持される。第1支持部材91は前後方向の中間部に配置され、前後の第2支持部材92はそれぞれ第1支持部材91の前後に所定距離離間して配置されている。第1支持部材91と前側の第2支持部材92との間に一組目の上下一対の係合ローラ88と規制ローラ89が配置され、第1支持部材91と後側の第2支持部材92との間に二組目の上下一対の係合ローラ88と規制ローラ89が配置されている。係合ローラ88と規制ローラ89のそれぞれの前後両端部が第1支持部材91と第2支持部材92によって支持される。係合ローラ88は上下方向に移動可能であり、規制ローラ89は左右方向に移動可能である。
【0080】
尚、図26においては通電時における係合ローラ88と規制ローラ89を二点鎖線で示しており、図27においては停電時における係合ローラ88と規制ローラ89を二点鎖線で示している。通電時には、規制ローラ89は、デッドポイント近くまで移動した状態にあって、横支持溝93の左端部近傍に位置し、上下の係合ローラ88はそれぞれ上側と下側に移動している。このときの規制ローラ89の位置が第1位置である。停電時には、規制ローラ89は右側に移動した状態となり、上下の係合ローラ88はそれぞれ下側と上側に移動した状態となる。このときの規制ローラ89の位置が第2位置である。
【0081】
第1支持部材91と前後の第2支持部材92は、インナーフレーム95に固定されている。インナーフレーム95は、複数の部材から構成されており、複数の部材が骨組みとなって連結された構造である。インナーフレーム95は、フレーム7に対して左右方向に位置調整可能に構成されているが、この位置調整するための機構(位置調整部)については後述する。インナーフレーム95は、左右方向に長い形状であって、その左部に第1支持部材91と第2支持部材92が取り付けられている。
【0082】
図30にも示しているように、第1支持部材91を左右方向に調整軸120が貫通している。調整軸120は左右方向に延びている。調整軸120は、第1支持部材91から左方向と右方向にそれぞれ突出している。調整軸120の左端部には雄ネジ部が形成されており、その雄ネジ部に調整ナット121が螺合している。調整ナット121の外周面にも、上述の第2バネ受け32の外周面と同様に多数の孔が放射状に形成されており、この孔に工具を差し込んで調整ナット121を回転操作することができる。インナーフレーム95は、左端部に左エンドプレート96を備えている。調整ナット121は、左エンドプレート96と第1支持部材91との間に位置している。調整ナット121をねじ込むように第1方向に回転させて右側に移動させると、調整ナット121は第1支持部材91の左端面を摺動しながら第1支持部材91を右側に押す。逆に、調整ナット121を緩めるように第2方向に回転させて左側に移動させると、調整ナット121は左エンドプレート96の右端面を摺動しながら左エンドプレート96を左側に押す。
【0083】
調整軸120の右端部は、ブリッジ122に固定されている。ブリッジ122は、前後方向に長い形状であって、フレーム7に固定されている。従って、調整ナット121を回転させることにより、インナーフレーム95をフレーム7に対して左右方向に位置調整できる。本実施形態において、調整軸120、調整ナット121が位置調整部を構成し、位置調整部は、ネジ送り機構である。この位置調整部については更に後述する。
【0084】
インナーフレーム95は、ブリッジ122を上下に迂回するようにしてブリッジ122よりも右側に延びている。ブリッジ122よりも右側に位置するインナーフレーム95の右部に電磁石72が取り付けられている。電磁石72には、制御部11から電力が供給される。電磁石72の吸着面は右端部に設けられていて、右側を向いている。電磁石72の吸着方向は左向きである。
【0085】
インナーフレーム95は、右端部に右エンドプレート97を備えている。右エンドプレート97は、電磁石72に対して右側に所定距離離間している。右エンドプレート97の左端面は、後述の吸着プレート102に対向している。右エンドプレート97の左端面には、ザグリ孔98が形成されている。ザグリ孔98は、複数箇所設けられいる。ザグリ孔98には補助バネ99の右端部が嵌り込んでいる。
【0086】
一方、規制ローラ89の右側には規制ピン100が配置されている。規制ピン100の左端面は規制ローラ89に当接している。規制ピン100は、左右方向に延びている。規制ピン100の軸線の延長線上に規制ローラ89の中心が位置している。規制ピン100は、規制ローラ89に対応して前後一対設けられている。規制ピン100は、連結部材101に取り付けられている。連結部材101は、ブリッジ122を左右方向に挿通していて、ブリッジ122に対して左右方向に摺動可能である。連結部材101は、電磁石72の前後を迂回するようにして右側に延びている。連結部材101の右端部に吸着プレート102が取り付けられている。吸着プレート102は、強磁性体からなる。電磁石72が通電状態となると、吸着プレート102が電磁石72の吸着面に吸着されて電磁石72に密着する。吸着プレート102は、電磁石72とインナーフレーム95の右エンドプレート97との間に配置されている。吸着プレート102とインナーフレーム95の間に上述した補助バネ99が配置されている。補助バネ99は吸着プレート102を左側に押している。従って、通電時には、吸着プレート102には電磁石72による電磁力と補助バネ99のバネ力の双方が作用していて何れも吸着プレート102に左向きに作用している。停電時には、電磁石72による電磁力は作用しないため、補助バネ99のバネ力のみが吸着プレート102に作用する。
【0087】
通電時には、吸着プレート102に作用する電磁石72の電磁力及び補助バネ99のバネ力によって、規制ピン100には左向きの力が作用しており、規制ピン100は規制ローラ89を左側に押す。規制ローラ89は、上側の係合ローラ88を上側に押し上げると共に下側の係合ローラ88を下側に押し下げる。これにより、上下の係合ローラ88が上下の規制プレート86の係合凹部87にそれぞれ係合することになる。一方、規制プレート86には、圧縮状態のバネ30のバネ力が作用していて、規制プレート86はバネ30によって右側に押されている。このバネ30によるバネ力は係合凹部87を介して上下の係合ローラ88に作用し、上下の係合ローラ88を規制ローラ89側に押す。つまり、バネ30によるバネ力は、上側の係合ローラ88を押し下げる力となって上側の係合ローラ88に作用し、また、下側の係合ローラ88を押し上げる力となって下側の係合ローラ88に作用する。バネ30から上下の係合ローラ88に作用する力は、規制ローラ89を右側に移動させようとする力となって規制ローラ89に作用する。
【0088】
このように、規制ローラ89には、バネ30から係合凹部87及び係合ローラ88を介して右向きの力が作用している一方、電磁石72と補助バネ99から規制ピン100を介して左向きの力が作用している。通電時には、電磁石72と補助バネ99による左向きの力が、バネ30による右向きの力よりも大きい。そのため、図20図21及び図28のように、規制ローラ89は上下の係合ローラ88を上下に押して係合凹部87に係合させている。
【0089】
図22に停電直後の状態を示している。また、図29にも停電時の状態を示している。停電時には、電磁石72による電磁力が作用しなくなるため、左右の力バランスが逆転する。つまり、補助バネ99のみによる左向きの力が、バネ30による右向きの力よりも小さくなる。そのため、規制ローラ89は、上下の係合ローラ88に押されるようにして右側に移動し、係合ローラ88は係合凹部87から外れ、係合ローラ88と係合凹部87との間の係合状態が解除される。
【0090】
係合ローラ88が係合凹部87から係合解除すると、バネ30のバネ力によって規制プレート86が左側に移動する。そして、図23のように、当接ヘッド53が上下のスライドプレート81に当接する。ダンパーが設けられているため、当接ヘッド53がスライドプレート81に当接する際の衝撃が緩和される。
【0091】
停電の間は、手動で扉を開き、バネ30による閉じ力によって扉を閉じることができる。その後、停電が解除されて通電再開となると、一度、手動で扉を大きく開く。図24に手動開扉中の状態を示している。扉が開いていくことで規制プレート86が右側に移動し、係合凹部87が係合ローラ88に接近し、そして、図25に示しているように、待機している係合ローラ88に対向する位置まで係合凹部88が移動する。係合ローラ88に係合凹部87が対向すると、係合ローラ88は係合凹部87に係合することができる。そのため、規制ローラ89は左側に移動することが可能となり、吸着プレート102も左側に移動可能となる。そのため、電磁石72が吸着プレート102を吸着して左側に移動させ、規制ローラ89は図20に示すような通電位置(第1位置)となり、係合ローラ88は係合凹部87に係合した状態に維持される。補助バネ99が吸着プレート102を左側に押しているので、吸着プレート102が電磁石72の吸着面から離れていても、吸着プレート102がスムーズ且つ確実に左側に移動でき、電磁石72が吸着プレートを吸着保持できる。
【0092】
このように、本実施形態においては、係合ローラに作用する左右方向の力のバランスによって通電状態と停電状態とを切り替えるようにしている。そして、その力のバランスを電磁石72のON、OFFで切り替えるようにしている。尚、電磁石72の電磁力を大きくして補助バネ99を省略してもよい。
【0093】
図31に位置調整部による位置調整の詳細を示している。図31(a)の状態から調整ナット121を締め込む方向(第1方向)に回転させて調整ナット121を調整軸120に対して相対的に右側に移動させると、図31(b)のように、インナーフレーム95は、調整軸120、調整ナット121及びブリッジ122に対して右側に移動することになる。つまり、フレーム7に対してインナーフレーム95が右側に移動する。インナーフレーム95は、図31(b)に示しているように右エンドプレート97がフレーム7に当接するまで右側に移動できる。図31(a)の状態における右エンドプレート97とフレーム7との間の離間距離が調整代となる。インナープレート95がフレーム7に対して相対的に右側に移動すると、インナープレート95に固定されている第1支持部材91及び第2支持部材92も共に右側に移動し、係合ローラ88、規制ローラ89、規制ピン100、電磁石72、吸着プレート102等も一体となって右側に移動する。従って、通電時において係合ローラ88と係合する係合凹部87の位置も右側に移動することになる。通電時における規制プレート86の位置が右側に移動し、ホルダ85、規制軸33及び第2バネ受け32も右側に移動する。第2バネ受け32が右側に移動することにより、当接ヘッド53も右側に移動し、スライドプレート81との間の離間距離が延びる。つまり、主軸4からバネ30までの離間距離が大きくなる。
【0094】
逆に、調整ナット121を第2方向に回転させると、図31(a)のようにインナーフレーム95がフレーム7に対して左側に移動し、規制プレート86や当接ヘッド53も左側に移動し、当接ヘッド53とスライドプレート81との間の離間距離が短縮され、主軸4からバネ30までの離間距離が小さくなる。このように、図25に示すような手動扉を開く際において係合凹部87と係合ローラ88が上下に対向して係合可能となる左右方向の位置を、位置調整部によって調整することができる。扉の開閉可能角度は設置箇所によって異なり、開扉可能角度が大きい設置場所もあれば、逆に小さい設置場所もある。開扉可能角度が大きい設置場所では、図31(b)のようにインナーフレーム95を右側に移動させて、係合凹部87と係合ローラ88が係合する位置を右側にシフトさせる。逆に開扉可能角度が小さい設置場所では、図31(a)のようにインナーフレーム95を左側に移動させて、係合凹部87と係合ローラ88が係合する位置を左側にシフトさせる。このように位置調整部を備えることにより、電動ドアクローザの汎用性が高まり、設置場所に応じて多くの種類の電動ドアクローザを準備する必要がなくなる。
【0095】
尚、第2バネ受け32を締め込む方向(第1方向)に回転させることで第2バネ受け32が右側に移動し、主軸4とバネ30との間の離間距離を拡大できる。逆に、第2バネ受け32を緩める方向(第2方向)に回転させることで第2バネ受け32が左側に移動し、主軸4とバネ30との間の離間距離を短縮できる。即ち、第2バネ受け32は、バネ30のバネ力を調整するためのバネ調整部として機能していると共に、位置調整部としても機能する。
【0096】
次に、本発明の第5の実施形態に係る電動ドアクローザについて説明する。上記第4の実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。図32に本実施形態の電動ドアクローザを示している。図32は、図21に対応した図である。本実施形態の電動ドアクローザにおいては、当接ヘッド53とスライドプレート81が一体に構成されている。従って、図32に示すような通電時においては、カムフォロアとしてのガイドローラ83aはカム80から右側に離れている。停電時にバネ30の圧縮状態が解除されるとスライドプレート81が左側に移動してカムフォロアとしてのガイドローラ83aがカム80に当接する。このようにスライドプレート81が第2バネ受け32と一体の構成であってもよい。
【0097】
上記実施形態では、電動ドアクローザが扉を電動で開閉したが、閉扉動作のみを電動で行ってもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 本体
2 アーム
3 ブラケット
4 主軸
5 電動部
6 自閉部
7 フレーム
8 カバー
10 駆動部
11 制御部
12 電池
13 モータ
15 減速ギア部(回転伝達部)
16 トルクリミッタ(回転伝達部)
17 第1出力軸(回転伝達部)
18 第1傘歯車(回転伝達部)
19 第2傘歯車(回転伝達部)
20 第2出力軸(回転伝達部)
30 バネ
31 第1バネ受け
31a 受け部
31b ガイド筒部
31c 横孔
32 第2バネ受け
33 規制軸(切り替え部)
33a 係止溝
34 係止歯
35 係止爪(切り替え部)
36 爪部
37 支軸
40 ソレノイド(切り替え部、電磁部材)
41 ソレノイド本体
42 プランジャ
43 切り替えボックス(切り替え部、ストッパ)
44 規制ボール(切り替え部、第1係合部)
45 ボール収容部
45a 小径部
45b 大径部
46 ストッパピン(切り替え部)
46a 係止溝(第2係合部)
47 付勢バネ(切り替え部)
50 ピニオンギア(蓄勢部)
51 蓄勢ロッド(蓄勢部)
52 ラック
53 当接ヘッド
60 補助モータ(補助駆動部)
61 ネジ軸(補助駆動部)
62 雌ネジ部(補助駆動部)
70 支持ステー
71 支持孔
72 電磁石(切り替え部、電磁部材)
73 離反バネ(切り替え部、付勢部)
74 規制体(切り替え部、ストッパ)
75 規制部
76 逃げ部
77 傾斜面
78 第1部材
79 第2部材
80 カム(蓄勢部)
81 スライドプレート
82 スライド孔
83a ガイドローラ(カムフォロア、蓄勢部)
83b ガイドローラ
83c ガイドローラ
83d ガイドローラ
85 ホルダ
86 規制プレート
87 係合凹部(第2係合部)
88 係合ローラ(第1係合部)
89 規制ローラ(ストッパ)
91 第1支持部材
92 第2支持部材
93 横支持溝
94 縦支持溝
95 インナーフレーム
96 左エンドプレート
97 右エンドプレート
98 ザグリ孔
99 補助バネ
100 規制ピン
101 連結部材
102 吸着プレート
110 ダンパー本体
111 嵌合孔
112 ピストン軸
120 調整軸(位置調整部)
121 調整ナット(位置調整部)
122 ブリッジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32