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  • 特開-組成物及び蓄熱材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118404
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】組成物及び蓄熱材
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
C09K5/06 J ZAB
C09K5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139299
(22)【出願日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2023024043
(32)【優先日】2023-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 優
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた性能を有する組成物を提供する。
【解決手段】本発明のある形態は、水と第1成分と第2成分とを含む組成物であり、前記第1成分は、ギ酸塩であり、前記第2成分は、無機塩を含み、蓄熱材用であることを特徴とする、組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と第1成分と第2成分とを含む組成物であり、
前記第1成分は、ギ酸塩であり、
前記第2成分は、無機塩、尿素及び尿素誘導体から選択される1種以上であり、
前記第2成分は、少なくとも前記無機塩を含み、
蓄熱材用であることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記無機塩が塩化カリウム及び塩化ナトリウムから選択される1種以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記無機塩が塩化アンモニウムである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記第2成分が尿素又は尿素誘導体を含む、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
水と第1成分と第2成分とを含む組成物であり、
前記第1成分は、ギ酸塩であり、
前記第2成分は、塩化カリウム及び塩化ナトリウムから選択される1種以上であり、
前記組成物全量を100.0質量%としたときに、前記水の含有量が50.0質量%以上であり、前記第1成分の含有量Mが5.0~30.0質量%であり、前記第2成分の含有量Mが3.0~25.0質量%であることを特徴とする、組成物。
【請求項6】
水と第1成分と第2成分とを含む組成物であり、
前記第1成分は、ギ酸塩であり、
前記第2成分は、無機塩、尿素及び尿素誘導体から選択される1種以上であり、
前記第2成分は、前記無機塩として少なくとも塩化アンモニウムを含み、
前記組成物全量を100.0質量%としたときに、前記水の含有量が50.0質量%以上であり、前記第1成分の含有量Mが5.0~30.0質量%であり、前記第2成分の含有量Mが3.0~30.0質量%であることを特徴とする、組成物。
【請求項7】
蓄熱材用である、請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
容器と、前記容器内に収納された請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物と、を備える蓄熱材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び蓄熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の温度を保つための蓄熱材の一つに、相変化材料がある。相変化材料は、固相から液相への相変化時の潜熱を利用して温度を一定に保つ機能を有する材料のことを指す。
【0003】
蓄熱材は、生鮮食品、冷凍食品、医療品(医薬品)等の保冷に利用されることがあり、-15~-30℃等の低温の温度帯を保持することが求められる場合がある。
【0004】
このような温度帯に適した蓄熱材として、特許文献1には、-15℃の融点を持つ塩化アンモニウム水溶液を用いた組成物が開示されており、特許文献2には、-15℃の融点を持つギ酸ナトリウムを用いた組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-041242号公報
【特許文献2】特開昭57-145173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された組成物は、蓄熱材に適用された場合の需要を十分に満たすものはなかった。
【0007】
そこで本発明は、蓄熱材を構成するのに適した、優れた性能を有する組成物、及び、蓄熱材の提供を課題とする。
【0008】
本発明者は鋭意検討を行い、特定の成分を含有する組成物によって上記課題を解決可能なことを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の形態は、
水と第1成分と第2成分とを含む組成物であり、
前記第1成分は、ギ酸塩であり、
前記第2成分は、無機塩であり、
蓄熱材用であることを特徴とする、組成物である。
【0010】
本発明の第2の形態は、
水と第1成分と第2成分とを含む組成物であり、
前記第1成分は、ギ酸塩であり、
前記第2成分は、塩化カリウム及び塩化ナトリウムから選択される1種以上であり、
前記組成物全量を100.0質量%としたときに、前記水の含有量が50.0質量%以上であり、前記第1成分の含有量Mが5.0~30.0質量%であり、前記第2成分の含有量Mが3.0~25.0質量%であることを特徴とする、組成物である。
【0011】
前記組成物は、蓄熱材用であってもよい。
【0012】
また、本発明の第3の形態は、
容器と、前記容器内に収納された前記組成物と、を備える蓄熱材である。
【0013】
また、本発明は、以下の形態であってもよい。
【0014】
本発明の第Iの形態は、
水と第1成分と第2成分とを含む組成物であり、
前記第1成分は、ギ酸塩であり、
前記第2成分は、無機塩、尿素及び尿素誘導体から選択される1種以上であり、
前記第2成分は、少なくとも前記無機塩を含み、
蓄熱材用であることを特徴とする、組成物である。
【0015】
前記無機塩が塩化カリウム及び塩化ナトリウムから選択される1種以上であってもよい。
前記無機塩が塩化アンモニウムであってもよい。
前記第2成分が尿素又は尿素誘導体を含んでいてもよい。
【0016】
本発明の第IIの形態は、
水と第1成分と第2成分とを含む組成物であり、
前記第1成分は、ギ酸塩であり、
前記第2成分は、塩化カリウム及び塩化ナトリウムから選択される1種以上であり、
前記組成物全量を100.0質量%としたときに、前記水の含有量が50.0質量%以上であり、前記第1成分の含有量Mが5.0~30.0質量%であり、前記第2成分の含有量Mが3.0~25.0質量%であることを特徴とする、組成物である。
【0017】
本発明の第IIIの形態は、
水と第1成分と第2成分とを含む組成物であり、
前記第1成分は、ギ酸塩であり、
前記第2成分は、無機塩、尿素及び尿素誘導体から選択される1種以上であり、
前記第2成分は、前記無機塩として少なくとも塩化アンモニウムを含み、
前記組成物全量を100.0質量%としたときに、前記水の含有量が50.0質量%以上であり、前記第1成分の含有量Mが5.0~30.0質量%であり、前記第2成分の含有量Mが3.0~30.0質量%であることを特徴とする、組成物である。
【0018】
本発明の第IVの形態は、
蓄熱材用である、第IIの形態又は第IVの形態の組成物である。
【0019】
また、本発明の第Vの形態は、
容器と、前記容器内に収納された、前記したいずれかの組成物と、を備える蓄熱材である。
【0020】
本発明によれば、優れた性能を有し、蓄熱材用にも適した組成物を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例6、実施例17、及び、実施例18の、DSCチャートの一部抜粋である。
図2図2は、実施例1~18の、各成分の配合量比とピーク状態との関係をまとめた三元図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下において、上限値と下限値とが別々に記載されている場合、任意の上限値と任意の下限値とを組み合わせた数値範囲が実質的に開示されているものとする。
【0023】
以下において、ある化合物が記載されている場合、その異性体も同時に記載されているものとする。
【0024】
以下において、特に断らない限り、各種測定は、環境温度を室温(25℃)として実施する。
【0025】
以下、組成物の、成分、物性/性質、用途等について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0026】
<<成分>>
本開示に係る組成物は、水と第1成分と第2成分とを含むことが好ましい。
また、組成物は、その他の成分を含んでいてもよい。
以下、各成分について説明する。
【0027】
<水>
水は、組成物中において、第1成分や第2成分の溶媒或いは分散媒等として機能する。
【0028】
水は、特に限定されず、蒸留水、イオン交換水、RO(逆浸透膜)水等の純水や超純水等であってもよい。
【0029】
組成物中の水の含有量は、別の成分の濃度等を考慮して調整可能である。水の含有量は、例えば、組成物全量を100.0質量%としたときに、20.0質量%以上、30.0質量%以上、40.0質量%以上、50.0質量%以上、又は、75.0質量%以上であることが好ましい。
【0030】
<第1成分>
第1成分は、ギ酸塩であることが好ましい。
【0031】
ギ酸塩は、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩であることが好ましく、アルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩)であることがより好ましく、ナトリウム塩又はカリウム塩であることが更に好ましく、ナトリウム塩であることが特に好ましい。
【0032】
組成物がギ酸塩を含むことで、潜熱量等に優れた、蓄熱材用として好ましい組成物を得やすい。またこのような組成物は、融点(保冷温度)を-20℃以下としやすい。
【0033】
第1成分(例えば、ギ酸塩)の含有量Mは、組成物全量を100.0質量%としたときに、5.0質量%以上、8.0質量%以上、又は、10.0質量%以上であることが好ましく、また、30.0質量%以下、25.0質量%以下、又は、23.0質量%以下であることが好ましい。
【0034】
<第2成分>
第2成分は、無機塩、尿素又は尿素誘導体であることが好ましい。換言すれば、第2成分は、無機塩、尿素及び尿素誘導体から選択される1種以上であることが好ましい。
【0035】
無機塩としては、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物等)、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩等が挙げられる。無機塩は、塩化物であることが好ましい。
【0036】
また、無機塩は、アンモニウム塩、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であることが好ましく、アルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩)であることがより好ましく、カリウム塩又はナトリウム塩であることが特に好ましい。
【0037】
尿素誘導体としては、1-メチル尿素、1,3-ジメチル尿素、2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、1,1’-(4-メチル-m-フェンレン)-ビス-(3,3’-ジメチル)尿素、フェニルジメチルウレア等が挙げられる。
【0038】
第2成分は、水溶性成分(例えば、水溶性無機塩)であることが好ましい。より具体的には、第2成分は、20℃の水に対する溶解度が、1g/100g以上、5g/100g以上、10g/100g以上、20g/100g以上、又は、30g/100g以上のものであることが好ましい。この溶解度の上限値は、特に限定されないが、200g/100g、150g/100g、100g/100g、又は、50g/100g等である。
【0039】
このような第2成分と、第1成分とを組み合わせて用いることで、第1成分由来(或いは、第2成分由来)の組成物の相変化の挙動(潜熱量等)を大きく損なわずに、低融点化された組成物を得やすい。
【0040】
第2成分は、より具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、塩化アンモニウム、臭化カリウム、尿素から選択される1種以上であることが好ましく、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、塩化アンモニウム、尿素から選択される1種以上であることがより好ましく、塩化カリウム及び塩化ナトリウムから選択される1種以上であることが特に好ましい。これらの第2成分は、単一融点或いは単一に近い融点を有する水溶液を形成可能と考えられ、第1成分と併用することで特に優れた熱性能を有する組成物を形成しやすい。
【0041】
別の観点では、無機塩が塩化アンモニウムである(或いは、第2成分が少なくとも塩化アンモニウムを含む)ことが好ましい。第2成分として塩化アンモニウムを含むことで、優れた潜熱量を有しつつも、低温域(例えば、-28~-25℃等)での保冷能力に優れた組成物とし易くなる。
【0042】
また、第2成分は、無機塩と、尿素又は尿素誘導体と、を含むことが好ましく、塩化アンモニウムと、尿素又は尿素誘導体と、を含むことがより好ましい。第2成分としてこのような成分を用いることで、優れた潜熱量を有しつつも、更なる低温域での使用に適した組成物とし易くなる。例えば、第2成分が、塩化アンモニウムと、尿素又は尿素誘導体と、を含む場合、-28℃以下(例えば、-31~-28℃)の温度域での保冷能力に優れた組成物とし易くなる。
【0043】
なお、第2成分として、無機塩(例えば塩化アンモニウム)と、尿素又は尿素誘導体とを含む場合、組成物中の無機塩の含有量に対する、尿素又は尿素誘導体の合計の含有量の比(尿素又は尿素誘導体/無機塩)は、0.1以上、0.2以上、0.3以上、又は、0.5以上であることが好ましく、また、10.0以下、5.0以下、3.0以下、又は、2.0以下であることが好ましい。
【0044】
組成物中の第2成分の含有量Mは、組成物全量を100.0質量%としたときに、1質量%以上、2.0質量%以上、3.0質量%以上、4.0質量%以上、5.0質量%以上、8.0質量%以上、又は、10.0質量%以上であることが好ましく、また、30.0質量%以下、25.0質量%以下、20.0質量%以下、18.0質量%以下、又は、15.0質量%以下であることが好ましい。
【0045】
ここで、第2成分の種類を考慮した上で、組成物の融点が所望範囲となるように、第1成分の含有量及び第2成分の含有量を調整してもよい。
【0046】
一例として、第1成分としてギ酸塩を含み、第2成分として塩化カリウムを含む場合、第1成分(ギ酸塩)の含有量Mは、5.0~30.0質量%、又は、10.0~25.0質量%であることが好ましい。また、第2成分(塩化カリウム)の含有量Mは、3.0~25.0質量%、5.0~20.0質量%、又は、10.0~20.0質量%であることが好ましい。このような含有量とすることで、融点が-23.0~-21.0℃となる組成物を得やすい。
【0047】
また、別の例として、第1成分としてギ酸塩を含み、第2成分として塩化ナトリウムを含む場合、第1成分(ギ酸塩)の含有量Mは、5.0~30.0質量%、又は、10.0~25.0質量%であることが好ましい。また、第2成分(塩化ナトリウム)の含有量Mは、3.0~25.0質量%、5.0~20.0質量%、又は、5.0~15.0質量%であることが好ましい。このような含有量とすることで、融点が-26.0~-24.0℃となる組成物を得やすい。
【0048】
更なる例として、第1成分としてギ酸塩を含み、第2成分として塩化アンモニウムを含む場合、第1成分(ギ酸塩)の含有量Mは、5.0~30.0質量%、又は、10.0~25.0質量%であることが好ましい。また、第2成分(塩化アンモニウム)の含有量Mは、3.0~30.0質量%、3.0~25.0質量%、5.0~20.0質量%、又は、5.0~15.0質量%であることが好ましい。このような含有量とすることで、潜熱量に優れ、融点が-28.0~-26.0℃となる組成物を得やすい。
【0049】
更なる別の例として、第1成分としてギ酸塩を含み、第2成分として塩化アンモニウムと尿素又は尿素誘導体とを含む場合、第1成分(ギ酸塩)の含有量Mは、5.0~30.0質量%、又は、10.0~25.0質量%であることが好ましい。また、第2成分(塩化アンモニウム、尿素、尿素誘導体の合計)の含有量Mは、3.0~30.0質量%、3.0~25.0質量%、5.0~20.0質量%、又は、5.0~15.0質量%であることが好ましい。このような含有量とすることで、潜熱量に優れ、融点が-31.0~-28.0℃となる組成物を得やすい。
【0050】
組成物中の第1成分の含有量Mに対する第2成分の含有量Mの質量比(M/M)は、0.10以上、0.15以上、0.20以上、又は、0.25以上であることが好ましく、また、4.00以下、3.00以下、2.50以下、又は、2.00以下であることが好ましい。
【0051】
<その他の成分>
組成物は、増粘剤(ゲル化剤)、ゲル化補助剤、着色剤(染料、顔料)、抗菌剤、粘度調整剤、過冷却防止剤(例えば、氷核活性細菌、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、硼砂、活性炭、ヨウ化銀、鉱物系等の結晶核剤となりうるもの)、水以外の有機溶媒等の公知の成分を含んでいてもよい。
【0052】
組成物が増粘剤(ゲル化剤)を含む場合、増粘剤としては、従来公知のものを使用することが可能であり、例えば、多糖類、ゼラチン、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0053】
多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース誘導体、アルギン酸、寒天等が挙げられる。また、アルギン酸やカルボキシメチルセルロース等は、ナトリウム塩等の塩類の形態も含む。
【0054】
組成物中の増粘剤の含有量は、組成物が所定の粘度となるように調整可能であり、特に限定されない。組成物中の増粘剤の含有量は、例えば、水と第1成分と第2成分との合計量を100.0質量部とした場合に、0.1質量部以上、0.5質量部以上、又は、1.0質量部以上とすることができ、また、10.0質量部以下、又は、5.0質量部以下とすることができる。
【0055】
<<物性/性質>>
<熱的性質>
本開示の組成物は、その融点を、-17.0℃以下、-18.0℃以下、-20.0℃以下、又は、-21.0℃以下とすることができ、また、-28.0℃以上、-27.0℃以上、又は、-26.0℃以上とすることができる。また、本開示の組成物によれば、前述したように、第2成分の種類等に応じて、組成物の融点を、-26.0~-24.0℃の範囲とすることや-23.0~-21.0℃の範囲とすることが可能である。
【0056】
第1成分及び第2成分を含む組成物の融解挙動は、後述する示差走査熱量測定(DSC)によって得られるDSCチャート(示差走査熱量を縦軸、温度を横軸とするチャート)において、単一の融解ピークを有する形態、複数の融解ピーク(2つの融解ピーク)を有する形態、又は、ブロードな融解ピークを有する形態を取り得る。この中でも、組成物は、DSCチャートにおいて単一ピークを有する形態であることが好ましい。単一ピークを有する形態とは、[条件1]融解ピークを複数有しないこと、及び、[条件2]DSCチャートにおいて、融解ピーク高さの半値幅をA(℃)とし、融解終了温度と融解開始温度との差の絶対値をB(℃)としたときに、B/Aが3.0以下(好ましくは、2.5以下、又は、2.0以下)であること、を満たす形態を示す。
【0057】
ピーク状態は、組成物中の、水の含有量、第1成分の含有量、及び、第2成分の含有量を変更することで調整することができる。換言すれば、組成物中の、水の含有量、第1成分の含有量、第2成分の含有量の三元図に基づき、ピーク状態を推定することができる。
【0058】
例えば、第1成分がギ酸塩(ギ酸ナトリウム)であり、第2成分が塩化ナトリウム又は塩化カリウムである場合、第1成分の含有量及び第2成分の含有量が高いほど単一ピークに近づく傾向にある。
【0059】
より具体的な例として、第1成分がギ酸塩(ギ酸ナトリウム)であり、第2成分が塩化カリウムである場合、組成物中の、水、第1成分及び第2成分の合計の含有量に対する第1成分の含有量を14.0質量%以上、又は、14.2質量%以上(上限値は特に限定されないが、例えば30.0質量%以下、又は、25.0質量%以下)とすること、水、第1成分及び第2成分の合計の含有量に対する第2成分の含有量を11.0質量%以上、又は、12.0質量%以上(上限値は特に限定されないが、例えば30.0質量%以下、又は、25.0質量%以下)とすること、及び、水、第1成分及び第2成分の合計の含有量に対する水の含有量を73.0質量%以下、又は、72.0質量%以下(下限値は特に限定されないが、例えば.60.0質量%以上、又は、65.0質量%以上)とすることで、単一ピークとなる組成物を得やすい。
【0060】
また、第1成分がギ酸塩(ギ酸ナトリウム)であり、第2成分が塩化ナトリウムである場合、組成物中の、水、第1成分及び第2成分の合計の含有量に対する第1成分の含有量を8.0質量%以上、又は、10.0質量%以上(上限値は特に限定されないが、例えば25.0質量%以下、又は、20.0質量%以下)とすること、水、第1成分及び第2成分の合計の含有量に対する第2成分の含有量を14.5質量%以上、又は、15.0質量%以上(上限値は特に限定されないが、例えば25.0質量%以下、又は、20.0質量%以下)とすること、及び、水、第1成分及び第2成分の合計の含有量に対する水の含有量を71.0質量%以下、又は、70.0質量%以下(下限値は特に限定されないが、例えば.60.0質量%以上、又は、65.0質量%以上)とすることで、単一ピークとなる組成物を得やすい。
【0061】
また、第1成分がギ酸塩(ギ酸ナトリウム)であり、第2成分が塩化アンモニウムである場合、組成物中の、水、第1成分及び第2成分の合計の含有量に対する第1成分の含有量を12.0質量%以上、又は、15.0質量%以上(上限値は特に限定されないが、例えば25.0質量%以下、又は、20.0質量%以下)とすること、水、第1成分及び第2成分の合計の含有量に対する第2成分の含有量を12.0質量%以上、又は、15.0質量%以上(上限値は特に限定されないが、例えば25.0質量%以下、又は、20.0質量%以下)とすること、及び、水、第1成分及び第2成分の合計の含有量に対する水の含有量を75.0質量%以下、又は、72.0質量%以下(下限値は特に限定されないが、例えば.60.0質量%以上、又は、65.0質量%以上)とすることで、単一ピークとなる組成物を得やすい。
【0062】
更に、第1成分がギ酸塩(ギ酸ナトリウム)であり、第2成分が塩化アンモニウム及び尿素である場合、組成物中の、水、第1成分及び第2成分の合計の含有量に対する、第1成分の含有量を12.0質量%以上(上限値は特に限定されないが、例えば20.0質量%以下、又は、15.0質量%以下)とし、塩化アンモニウムの含有量を12.0質量%以上(上限値は特に限定されないが、例えば20.0質量%以下、又は、18.0質量%以下)とし、尿素の含有量を7.0質量%以上、又は、8.0質量%以上(上限値は特に限定されないが、例えば15.0質量%以下、又は、10.0質量%以下)とし、水の含有量を55.0質量%以上、又は、60.0質量%以上とすることで、単一ピークとなる組成物を得やすい。
【0063】
本開示の組成物の潜熱量は、100J/g以上、150J/g以上、又は、200J/g以上とすることができる。
【0064】
組成物の融点及び潜熱量は、示差走査熱量測定(DSC)により得られる。具体的には以下の通りである。
組成物をDSC測定用のアルミパンに10mg程度投入し、25℃まで昇温したあとに1℃/分の速度で-50℃まで降温し凝固させた後に、1℃/分の速度で25℃まで昇温する。相変化の際に現れるピークの頂点と面積から融点及び潜熱量を得る。組成物が複数のピーク(融解ピーク)を有する場合、最も低いピーク位置に対応する温度を組成物の融点とする。
【0065】
<粘度>
組成物の粘度は、用途に応じて適宜変更可能であり、特に限定されない。
組成物がゲル成分を含む場合、組成物の粘度を、1.0Pa・s以上、2.0Pa・s以上、5.0Pa・s以上、10Pa・s以上、100Pa・s以上、又は、500Pa・s以上とすることができる。組成物の粘度の上限値は、特に限定されないが、例えば、2000Pa・s以下である。
【0066】
なお、組成物の粘度は、B型回転粘度計を使用して測定された、25℃の粘度である。
【0067】
<<用途>>
本開示に係る組成物は、蓄熱材用として好ましく用いることができる。特に本開示によれば、優れた潜熱量を有しつつも低温(例えば、融点が-17.0℃以下)である組成物を得ることができるので、低温を維持するための蓄熱材用として好ましく用いることができる。また、本開示に係る組成物は、第1成分と第2成分(例えば、無機塩)とを含む組成物とすることで、無機塩のみを含む(或いは無機塩を主体として構成された)蓄熱材と比較して無機塩の含有量を低減し得ることから製造設備を劣化させ難く、大量生産しやすい。従って本開示に係る組成物は種々の蓄熱材に適用することが可能である。より具体的には、本開示に係る組成物は、食品(生鮮食品、冷凍食品)や医療品(ワクチン、血液製剤、赤血球製剤、細胞等)等に用いられる蓄熱材(これらの物品の輸送時や保管時等の保温用の蓄熱材)等として好ましく使用することができ、冷凍食品用の蓄熱材としてより好ましく使用することができる。また、本開示に係る組成物は、-20℃以下の保冷が求められる、アイスクリーム用の蓄熱材としても好ましく使用することができる。
【0068】
<蓄熱材>
以下、本開示に係る組成物の具体的な使用方法の一例として、本開示に係る組成物を備える蓄熱材について説明する。
【0069】
蓄熱材は、容器と、容器内に収納された組成物と、を備える。
【0070】
組成物については前述した通りであるので、詳細な説明を省略する。
【0071】
組成物は、前述した通り、ゲル化されたもの(ゲル成分を含むもの)であってもよい。ゲル化された組成物を用いることで、容器が破損した際の液体材料の漏れ等を抑制することができる。
【0072】
容器の材質は、組成物の相変化(凝固及び融解)に応じて変形可能な程度の可撓性を有することが好ましい。
【0073】
蓄熱材は、樹脂フィルムや金属フィルム等の変形し易い部材により容器が構成された所謂ソフトタイプであってもよいし、厚みのある樹脂材料(例えば、中空成形体)等の変形し難い部材により構成された所謂ハードタイプであってもよい。
【0074】
蓄熱材は、容器内に少なくとも組成物が封止されていればよく、開閉可能な蓋部等を有するなどして容器を破壊せずに組成物を取り出し或いは注入することが可能なように構成してもよいし、容器を破壊する以外は組成物を取り出し困難なように構成してもよい。
【0075】
蓄熱材の大きさや形状は、蓄熱材の用途に応じて適宜変更可能である。
【0076】
蓄熱材は、容器及び組成物以外の構成要素を含んでいてもよい。
【0077】
以下、具体的に組成物を備える具体的な保冷用具として、食品保冷用具及び医薬品保冷用具について述べる。
【0078】
食品保冷用具、及び、医薬品保冷用具は、例えば、容器と、容器内に収納されている本開示に係る組成物と、を備える。
【0079】
組成物については前述した通りであるので、詳細な説明を省略する。
【0080】
容器は、例えば、箱状の物品であり、容器内部に食品等の保冷対象物を収容可能な空間を有する。容器の内側側面、内側底面、内側上面のいずれか1面以上又は全面に、本開示に係る組成物が収容された組成物収納部が配されている。組成物収納部は、容器から取り外し可能に構成されていてもよいし、容器と一体化されていてもよい。容器は、通常、開閉部を有し、開閉部が操作され、密閉状態又は開放状態となる。容器は、断熱性を有する部材によって構成されることが好ましい。組成物が凝固している状態で容器内部の空間に食品や医薬品等の保冷対象物を収容することで、保冷対象物を保冷することができる。
【0081】
食品保冷用具の保冷対象物としては、冷凍食品、アイスクリーム、野菜や果物等の青果品、ハムなどの加工食品等が挙げられる。
【0082】
医薬品保冷用具の保冷対象物としては、一部の低温保管が必要な医薬品、例えば、血液や検体、ワクチンなどが挙げられる。
【実施例0083】
以下、実施例により、組成物(蓄熱材用組成物)を具体的に説明するが、本発明は以下には限定されない。
【0084】
<<<第1の実施例>>>
<<組成物の作製>>
表1~4に示す原料を、表1~4に示す配合量(質量部)にて配合し攪拌することで、実施例1~27及び参考例1に係る組成物を得た。
【0085】
<<測定>>
前述した示差走査熱量測定に基づき、各組成物の、融点、及び、潜熱を測定した。各項目の測定結果を各表に示す。組成物が2つの融点(融解ピーク)を有する組成物については、より低温側の融点を主の融点とし、高温側の融点を第2融点として各表に示す。
【0086】
合わせて、前述した示差走査熱量測定に基づき、実施例1~27に係る組成物のピーク状態を評価した。単一の融解ピークを有するものを「1」とし、複数の融解ピーク(二つの融解ピーク)を有するものを「1d」とし、ブロードな融解ピークを有するものを「1B」とした。評価結果を各表に示す。参考として、単一の融解ピークを有する実施例6、複数の融解ピークを有する実施例17、及び、ブロードな融解ピークを有する実施例18について、各DSCチャート(一部抜粋)を図1に示す。
【0087】
更に、実施例1~18に関して、水と、ギ酸ナトリウムと、塩化カリウムと、の配合量比と、組成物のピーク状態と、の関係をまとめた三元図を図2に示す。図2に示されるように、組成物のピーク状態と各成分の配合量とは相関することが示唆された。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
以上、第1の実施例として、第2成分が塩化ナトリウム又は塩化カリウムを含む例を示した。以下、第2の実施例として、第2成分が塩化アンモニウムを含む例、及び、第2成分が塩化アンモニウムと尿素を含む例を示す。
【0093】
<<<第2の実施例>>>
<<組成物の作製>>
表5~8に示す原料を、表5~8に示す配合量(質量部)にて配合し攪拌することで、実施例28~43及び参考例2、3に係る組成物を得た。
【0094】
<<測定>>
第1の実施例と同様に、各組成物の、融点、及び、潜熱を測定し、あわせて、実施例28~43に係る組成物のピーク状態を評価した。測定結果及び評価結果を表5~8に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
【表7】
【0098】
【表8】

図1
図2