(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118416
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】非水系電解液電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/50 20100101AFI20240823BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240823BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20240823BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240823BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240823BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240823BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240823BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240823BHJP
H01M 50/193 20210101ALI20240823BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20240823BHJP
H01M 6/02 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H01M4/50
H01M10/0567
H01M6/16 A
H01M4/62 Z
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/058
H01M6/16 Z
H01M4/13
H01M50/193
H01M50/119
H01M6/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023186806
(22)【出願日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2023024499
(32)【優先日】2023-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】上野 優里香
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 浩平
(72)【発明者】
【氏名】八木沢 淳
【テーマコード(参考)】
5H011
5H024
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H011CC06
5H011GG02
5H011HH02
5H024AA03
5H024AA12
5H024CC11
5H024CC20
5H024DD02
5H024DD04
5H024EE09
5H024FF14
5H024FF15
5H024FF19
5H024HH00
5H024HH01
5H029AJ02
5H029AL02
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029BJ12
5H029DJ02
5H029DJ03
5H029DJ06
5H029DJ08
5H029DJ12
5H029EJ01
5H029EJ04
5H029EJ12
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ07
5H029HJ13
5H050AA05
5H050BA06
5H050CA05
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA02
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA24
5H050FA02
5H050FA18
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA07
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】高温環境下において耐熱性に優れる扁平型非水系電解液電池を提供する。
【解決手段】二酸化マンガンを含有する正極合剤を含む正極と、リチウム元素を含む負極と、非水系電解液とを備え、
正極合剤のX線光電子分光法(XPS)スペクトルにおいて、Mn2p
3/2のピーク強度比I
2/I
1が以下の数式(1):
【数1】
[数式(1)中、I
1は、642eVの結合エネルギーにおけるピーク強度を示し、I
2は640eVの結合エネルギーにおけるピーク強度を示す]
を満たす、非水系電解液電池。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化マンガンを含有する正極合剤を含む正極と、リチウム元素を含む負極と、非水系電解液とを備え、
前記正極合剤のX線光電子分光法(XPS)スペクトルにおいて、Mn2p
3/2のピーク強度比I
2/I
1が以下の数式(1):
【数1】
[前記数式(1)中、I
1は、642eVの結合エネルギーにおけるピーク強度を示し、I
2は640eVの結合エネルギーにおけるピーク強度を示す]
を満たす、非水系電解液電池。
【請求項2】
前記正極合剤は、X線源としてCuKα線を用いたX線回折測定で得られるX線回折スペクトルにおいて、
回折角2θ=41.3°±0.1°の低角度側にシフトした(200)面の回折ピークを有する、請求項1に記載の非水系電解液電池。
【請求項3】
前記非水系電解液が一般式(1):
【化1】
[前記一般式(1)中、Wは2z個の水素が脱離したベンゼン系芳香族環を示し、zは2以上の整数を示す)
で表される無水ジカルボン酸を含む、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【請求項4】
前記正極合剤は正極結着剤を含み、該正極結着剤はポリフッ化ビニリデンである、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【請求項5】
前記非水系電解液は、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートうちの少なくとも一方の溶媒を含む、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【請求項6】
前記非水系電解液は、ジグライム、トリグライムおよびテトラグライムからなる群より選択される少なくとも1種の溶媒をさらに含む、請求項5に記載の非水系電解液電池。
【請求項7】
前記非水系電解液は、過塩素酸リチウムを含み、
前記過塩素酸リチウムの含有率は、前記非水系電解液100質量%に対して0.5質量%以上12質量%以下である、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【請求項8】
さらに正極リングと、前記正極合剤を収容する正極容器とをさらに備え、
前記正極リングは、断面視でL字の形状を有し、
前記正極リングは、前記正極合剤の側面の一部と底面の一部とを被覆し、
前記正極リングの一部は、前記正極容器の内底面に接合されている、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【請求項9】
前記正極合剤は、さらにカーボンブラックを含み、
前記カーボンブラックの含有率は、前記正極合剤100質量%に対して0.5質量%以上4質量%以下である、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【請求項10】
前記正極合剤と前記負極との間にセパレータと、前記負極と前記セパレータとの間に負極導電層とをさらに備え、
前記負極導電層は、銀、リチウムアルミニウム合金および炭素材料のうちの少なくとも一方を含む、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【請求項11】
さらにガスケットを備え、
前記ガスケットはポリフェニレンサルファイドを含み、
正極合剤に対する非水系電解液の質量比が以下の数式(2):
【数2】
[前記数式(2)中、W
2(g)は正極合剤の質量を示し、W
1(g)は前記非水系電解液の質量を示す]
を満たす、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【請求項12】
前記正極合剤の比表面積が、10.3m2/g以上28.0m2/g以下である、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【請求項13】
前記二酸化マンガンの含有率が、前記正極合剤100質量%に対して80質量%以上94質量%以下である、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【請求項14】
前記正極、前記負極および前記非水系電解液が収容された電池缶を備え、前記電池缶は金属製の正極容器と金属製の負極容器とを含む、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【請求項15】
前記正極合剤は、さらにカーボンブラックを含み、
前記カーボンブラックの含有率は、前記正極合剤100質量%に対して4質量%以上である、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系電解液電池(特に、扁平型非水系電解液電池)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一次電池の高温環境下での用途が拡張し、例えば、車載用センサ(タイヤ内の圧力センサ)は、約100℃で使用されている。
一般に、高温環境下では、主として電解液に含まれる有機溶媒の体積膨張に加え、有機溶媒の酸化により二酸化炭素が発生することで、電池が変形する不具合が生じることがある。上記の用途拡張に伴い、一次電池には、このような不具合の発生を抑制すること(すなわち、耐熱性に優れること)が要求されている。
【0003】
例えば、特開2006-228439号公報(特許文献1)の電池では、アルキルスルホン酸イオンR-SO3
-またはそのイオンを含む化合物で正極表面を被覆して、正極への電解液の接触を防止して、電解液の有機溶媒の分解を抑制している。120℃の環境下での350時間貯蔵しても、電池膨れが0.10mm未満に抑制されることを示している。
【0004】
また、特表2010-262864号公報(特許文献2)の電池では、非水電解液中に、添加剤として含まれるLiBF4が正極表面を被覆して、正極への電解液の接触を防止して、電解液の有機溶媒の分解を抑制している。125℃の環境下での240時間貯蔵しても、電池膨れが0.35mm未満に抑制されることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-228439号公報
【特許文献2】特表2010-262864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者が鋭意検討した結果、先行技術(例えば、特許文献1~2)の電池には、克服すべき課題が依然あることに気づいた。詳しくは、本発明者は、さらなる高温環境下(例えば、150℃以上の温度環境下)において、電池の膨れを十分に抑制できない虞があることを見出した。
【0007】
本開示はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本開示の主たる目的は、高温環境下(例えば、150℃以上の温度環境下)において、耐熱性に優れる扁平型非水系電解液電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態に係る扁平型非水系電解液電池は、
二酸化マンガンを含有する正極合剤を含む正極と、リチウム元素を含む負極と、非水系電解液とを備え、
前記正極合剤のX線光電子分光法(XPS)スペクトルにおいて、Mn2p
3/2のピーク強度比I
2/I
1が以下の数式(1):
【数1】
[前記数式(1)中、I
1は、642eVの結合エネルギーにおけるピーク強度を示し、I
2は640eVの結合エネルギーにおけるピーク強度を示す]
を満たす。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、高温環境下において耐熱性に優れる扁平型非水系電解液電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る扁平型非水系電解液電池を示す断面図である。
【
図2】
図2は、基板に実装された第1実施形態に係る扁平型非水系電解液電池を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、基板に実装された第1実施形態に係る扁平型非水系電解液電池を示す断面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る扁平型非水系電解液電池に含まれる正極合剤を製造するためのスプレードライヤーを示す模式図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る扁平型非水系電解液電池を示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施例1-1の正極合剤のX線回折スペクトルを示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例1-4~1-6の正極合剤のX線回折スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の「扁平型非水系電解液電池」を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本開示の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観および寸法比などは実物と異なり得る。
【0012】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、例えば、「未満」、「より小さい」および「より大きい」といった特段の説明が付されない限り、下限および上限の数値そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、下限値の1を含むと共に、上限値の10をも含むものとして解釈される。
【0013】
また、下限値のみで記載されている複数の数値範囲(例えば、1以上、10以上)から選択される1つの数値範囲(例えば、1以上)と、上限値のみで記載されている複数の数値範囲(例えば、100以下、20以下)から選択される1つの数値範囲(例えば、100以下)とを組み合わせてもよい(例えば、1以上100以下)。
【0014】
本開示において「電池」とは、広義には、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出すことができるデバイスをいい、狭義には、一対の電極および電解質を備え、特にはイオンの移動に伴って放電が為されるデバイスをいう。
【0015】
<第1実施形態:扁平型非水系電解液電池>
第1実施形態に係る電池は、正極として二酸化マンガン(二酸化マンガン電極)と、負極としてリチウム(リチウム電極)と、電解液としてリチウム塩を含む非水系電解液とを備える扁平型二酸化マンガンリチウム一次電池(CR電池)である。扁平型とは、当業者が扁平型(扁平形状)と認識する形状をいい、例えば、扁平な略円柱形状または略多角柱(より具体的には、略四角柱)であり、好ましくは平面視で円の外径(r)が高さ(h)よりも大きい(すなわち、アスペクト比h/rが1より小さい)円柱形状(より具体的には、コイン型)、または多角形の最長対角線(l)が高さ(h)よりも大きい(すなわち、アスペクト比l/rが1より小さい)多角柱形状である。ここで、略円柱は、厳密な円柱(より具体的には、真円柱)に限定されず、実質的なばらつき等を考慮し、実質的な円柱(より具体的には、楕円柱等)も含む。略多角柱は、厳密な多角柱(より具体的には、正多角柱等)に限定されず、現実的なばらつき等を考慮し、実質的な多角柱(より具体的には、面取りした多角柱等)も含む。多角形の最長対角線とは、対角線における複数の対角線のうち、最長の対角線をいう。
【0016】
「二酸化マンガン電極」とは、本明細書において正極活物質(正極活物質)として二酸化マンガンを含む正極をいう。
【0017】
「リチウム電極」とは、本明細書において負極活物質(負極活物質)としてのリチウム元素を含む負極をいう。構成元素としてリチウム電極に含まれるリチウムの態様としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金およびリチウム化合物である。
【0018】
以下、
図1を参照して第1実施形態に係る扁平型非水系電解液電池を説明する。
図1は、第1実施形態に係る扁平型非水系電解液電池を示す断面図である。
【0019】
第1実施形態に係る扁平型非水系電解液電池(以下、単に「電池」とも称する)1は、
二酸化マンガンを含有する(正極合剤31を含む)正極30と、リチウム元素を含む負極40と、非水系電解液(以下、単に「電解液」とも称する)70とを備え、
正極合剤31のX線光電子分光法(XPS)スペクトルにおいて、Mn2p
3/2のピーク強度比I
2/I
1が以下の数式(1):
【数2】
[数式(1)中、I
1は、642eVの結合エネルギーにおけるピーク強度を示し、I
2は640eVの結合エネルギーにおけるピーク強度を示す]
を満たす。
【0020】
(ピーク強度比I2/I1の決定方法)
正極合剤31のXPSスペクトルにおけるMn2p3/2のピーク強度比I2/I1は、以下のように決定することができる。
走査型X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ株式会社製「Quantera-SXM)を用いて、正極合剤31のXPSスペクトルを測定する。得られたXPSスペクトルから結合エネルギー642eVでのピーク強度I1と、結合エネルギー640eVでのピーク強度I2とを測定する。ここで、ピーク強度は(ピークの積算値ではなく)ピーク極大値である。得られたI1およびI2からピーク強度比I2/I1を算出する。詳細は実施例にて説明する。
【0021】
ピーク強度比I2/I1の決定方法の測定対象である正極合剤31は、電池1の製造方法において作製される正極合剤31であってもよいし、または(完成品としての)電池1を分解して取り出した正極合剤31であってもよい。
【0022】
(ピーク強度比I2/I1の技術的意義)
XPSスペクトルにおける結合エネルギー642eVのピークはMn4+に帰属され、結合エネルギー640eVのピークはMn2+に帰属される。Mn4+は、正極合剤31を構成する二酸化マンガンMnO2中のMn4+であり、Mn2+は、正極合剤31を構成するMnO2の還元体(例えば、MnO)のMn2+である。このため、正極合剤31のピーク強度比I2/I1は、正極合剤31(の表面近傍)における組成(すなわち、MnO2に対するMnO2の還元体のモル比率)を示す。ここで、表面近傍とは、本明細書において正極合剤31の最表面から深さ方向10nmまでの範囲(より具体的には、0nm以上10nm以下の範囲)をいう。ここで、深さ方向とは、対象とする正極合剤31の表面に垂直であって、正極合剤31の表面から内部に向かう方向をいう。
【0023】
正極合剤31のピーク強度比I2/I1は、より具体的には正極合剤31の表面近傍におけるMnO2に対するMnOのモル比率を示す。つまり、数式(1)におけるピーク強度比I2/I1の下限値は、MnOが正極合剤31の表面近傍で存在する最小限のモル比率(すなわち、MnO2が正極合剤31の表面近傍で存在する最大限のモル比率)を示す。一方、数式(1)におけるピーク強度比I2/I1の上限値は、MnOが正極合剤31の表面近傍で存在する最大限のモル比率(すなわち、MnO2が正極合剤31の表面近傍で存在する最小限のモル比率)を示す。
【0024】
[作用機序]
第1実施形態に係る電池1は耐熱性に優れる。特定の理論に拘束されるわけではないが、その理由は以下のように推測される。二酸化マンガンは酸化作用を有するため、通常、二酸化マンガンを含有する(正極合剤を含む)正極に電解液が接触すると(より具体的には、正極30に含まれる二酸化マンガン粒子の表面に電解液が接触すると)電解液が酸化され、二酸化炭素が発生して、電池が変形する虞がある。これに対して、第1実施形態に係る電池1ではピーク強度比I2/I1が0.30以上である。この場合、正極合剤31の表面付近においてMnO2還元体(例えば、MnO)が一定の割合で存在する。このため、電解液70に接触する正極30(正極合剤31)の表面(より具体的には、電解液70に接触する正極30中の正極活物質粒子(二酸化マンガン粒子)の表面)において電解液70の酸化が抑制される。よって、第1実施形態に係る非水系電解液電池1は高温環境下(例えば、260℃の温度環境下)であっても、二酸化炭素の発生を抑制し、電池1の変形を抑制する。よって、第1実施形態に係る電池1は耐熱性に優れる。
【0025】
ピーク強度比I2/I1は、電池1の耐熱性を向上させる観点から、0.40以上、0.45以上または0.50以上であることが好ましい。一方、ピーク強度比I2/I1は、電池1の放電容量を向上させる観点から、0.50以下、0.45以下または0.40以下であることが好ましい。
【0026】
(本開示を案出した契機)
本発明者らは、先行技術を検討した結果、高温環境下(例えば、150℃以上の環境下)での電池の膨張が、酸化作用を有する二酸化マンガンを含有する(正極合剤を含む)正極に電解液の溶媒が接触して酸化され、その結果、二酸化炭素が発生することに着目した。このような課題発生のメカニズムに基づいて、二酸化炭素の発生を抑制するために、電解液の接触する頻度が高い正極の表面の酸化作用(より具体的には、正極活物質(二酸化マンガン)粒子の表面の酸化作用)を低減することを着想した。このような着想に基づき、正極30(正極合剤31)の表面における正極活物質(二酸化マンガン)の一部を還元することで(より具体的には、正極30中の正極活物質(二酸化マンガン)粒子の表面の一部を還元することで)、電池1本来の機能を損なわずに、高温環境下での耐熱性を向上させる本開示を想到するに至った。
【0027】
本開示に係る電池1は、高温環境下(例えば、150℃以上での高温環境下)での耐熱性に優れる。例えば、電池1を高温環境下(例えば、温度150℃および加熱時間100時間)において、電池1の膨れを効果的に抑制することができるため、使用することができる。
【0028】
また、電池1は、基板実装におけるリフロー環境(例えば、温度260℃および加熱時間5分)においても、電池1の膨れを効果的に抑制することができる。このため、電池1は、リフローはんだ付けにより基板に実装することができる。第1実施形態の電池1は、リフローはんだ付けによる基板実装の用途において、特に有用である。
図2および
図3を参照して電池1の基板実装を説明する。
図2および
図3は、それぞれ基板に実装された電池1を示す斜視図および断面図である。
図2(A)~(C)は、
図3(A)~(C)にそれぞれ対応している。また、
図2では、便宜上、実装基板およびはんだを割愛している。また、電池1は、車両用タイヤのインナーライナーに直接取り付けられるタイヤマウントセンサ(Tire Mounted Sensor)の電源としての用途において、特に有用である。タイヤバルブに内蔵されたセンサ(Tire Pressure Monitoring System)の電源としての用途よりも厳しい高温環境において、電池1の膨れを効果的に抑制することができるからである。
【0029】
図2(A)および
図3(A)に示すように、電池1は接続端子(正極接続端子110,負極接続端子120)を介して基板130に実装され得る。接続端子110,120は、その一部が基板130のスルーホール150に差し込まれてはんだ140で固定され、基板130の回路に電気的に接続している。また、接続端子110,120はZX断面視でL型であってもよく、
図2(B)および
図3(B)に示すように、ZX断面視で直線状であってもよい。さらに、
図2(C)および
図3(C)に示すように、接続端子110,120の一部を基板130上の回路(不図示)に載置して基板130にはんだ付けすることもできる。このようにして実装基板100A,100B,100Cを作成する。
【0030】
好適な態様では、電池1は以下を満たし、この場合さらに耐熱性に優れる。
正極合剤31は、X線源としてCuKα線を用いたX線回折測定で得られるX線回折スペクトルにおいて、回折角2θ=41.3°±0.1°の低角度側にシフトした(200)面の回折ピークを有する。
【0031】
(X線回折スペクトルにおける回折ピークの確認方法)
X線回折スペクトルにおける回折ピークは、以下のように確認することができる。
X線回折装置(株式会社リガク製「Ultima-IV」)を用いて、正極合剤31のX線回折スペクトルを測定する。得られたX線回折スペクトルから回折角2θ=41.3°±0.1°の低角度側に位置する回折ピークの有無を確認する。詳細は実施例にて説明する。
なお、回折ピークの確認における測定対象である正極合剤31は、電池1の製造方法において作製される正極合剤31(より具体的には、ペレット状に成型された正極合剤31)であってもよいし、または(完成品としての)電池1を分解して取り出した正極合剤31(より具体的には、ペレット状の正極合剤31)であってもよい。
【0032】
(回折ピークシフトの技術的意義)
X線回折スペクトルにおける回折角2θ=41.3°±0.1°に位置するピークはMnO4に帰属され、回折角2θ=41.3°±0.1°の低角度側に位置するピークはMnO4の還元体(例えば、MnO)に帰属される。X線回折スペクトルから回折角2θ=41.3°±0.1°の低角度側に位置する回折ピークの存在(すなわち、回折ピークシフト)は、正極合剤31(の表面近傍)におけるMnO2の還元体の存在を示唆する。ここで、表面近傍とは、ピーク強度比I2/I1で既述した表面近傍と同義である。
【0033】
図1に示すように、第1実施形態に係る電池1は、正極30(正極合剤31)と、セパレータ50を介して正極30に対向して配置された負極40と、正極30、負極40およびセパレータ50を収容する電池缶10と、電池缶10に封入されている電解液70とを備える。電池缶10は、正極30を収容する正極容器11と、正極容器11と電気的に絶縁するガスケット20を介して配置され、負極40を収容する負極容器12とを有する。電池1は、正極容器11と正極30との間に介在する正極導電層60をさらに備える。
【0034】
以下、電池1における部材について説明する。なお、
図1中、正極30および負極40の積層方向をZ方向とし、Z方向に垂直であり紙面に平行な方向をX方向とし、Z方向に垂直であり紙面に垂直な方向をY方向とする。また、紙面上方向を順Z方向とし、紙面下方向を逆Z方向とする。
【0035】
[電池缶]
電池缶10は、正極30、負極40およびセパレータ50などを収納(収容)する収納部材(収容部材)である。電池缶10は、一端部が開放されていると共に他端部が閉塞されている一対の器状の部材(正極容器11および負極容器12)で構成されている。詳しくは、電池缶10は、正極30を収容する正極容器11と、負極40を収容する負極容器12とを有する。正極容器11と負極容器12とは、互いを電気的に絶縁するガスケット20を介して、かつそれらの一端部が対向するようにして係合している。
【0036】
(正極容器)
正極容器11は、正極30(正極合剤31)(より具体的には、ペレット状に成型された正極30(正極合剤31))を収納する正極用収納部材である。正極容器11は、略円筒形状を有し、(XY断面視で)略円形の底面と、底面に対向し(XY断面視で)略円形の正極開口部と、底面および正極開口部の間に接続された側壁面(側面)とを有する。正極容器11は、正極導電層60を介して正極30に間接的に連結されているため、その正極30の集電体としての役割を兼ねていると共に、その正極30の外部接続用の端子(いわゆる正極端子)としての役割も兼ねている。
【0037】
正極容器11は、例えば、金属材料のような導電性材料を含む。金属材料としては、例えば、鉄材料およびステンレス鋼が挙げられる。金属材料は、これらの中でも、耐食性の観点からステンレス鋼が好ましい。ステンレス鋼としては、例えば、SUS316、SUS430およびSUS444が挙げられる。正極容器11は、上記導電性材料のうち1種単独を含んでもよいし、または2種以上(それらの組み合わせ)を含んでもよい。また、正極容器11は、単層でもよいし、または多層でもよい。正極容器11が多層である場合、例えば、各層が異なる導電性材料を含んでもよいし、または正極容器11の表面に鍍金処理が施されていてもよい。
【0038】
(負極容器)
負極容器12は、負極40を収納する負極用収納部材である。負極容器12は、正極容器11と同様に、略円筒形状を有し、(XY断面視で)略円形の底面と、底面に対向し(XY断面視で)略円形の負極開口部と、底面および正極開口部の間に接続された側壁面(側面)とを有する。負極容器12は、負極40に連結されているため、その負極40の集電体としての役割を兼ねていると共に、その負極40の外部接続用の端子(いわゆる負極端子)としての役割も兼ねている。
【0039】
負極容器12は、例えば、金属材料のような導電性材料を含む。金属材料としては、例えば、鉄材料およびステンレス鋼が挙げられる。負極容器12の金属材料は、正極容器11の金属材料と同義である。
【0040】
負極容器12は、正極容器11とガスケット20を介して係合している。負極容器12の負極開口部の外径が正極容器11の正極開口部の内径よりも小さくなっている。これにより、負極開口部が正極開口部に対向するようにして、負極容器12の側壁面が正極容器11の内部に挿入され、この状態で負極容器12が正極容器11に係合している。
図1に示すようにZX断面視で、負極容器12の端部(周縁部)は順Z方向に向かって折り返されている。
【0041】
[ガスケット]
電池1は、さらにガスケット20を備える。ガスケット20は、正極容器11と負極容器12との間の隙間を封止するリング状の封止部材である。ガスケット20は、正極容器11と負極容器12との間に介在し、正極容器11と負極容器12とを互いに電気的に絶縁させる。
【0042】
ガスケット20は、例えば、高分子を含む。高分子としては、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、フッ素樹脂(より具体的には、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)、ならびにポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンエーテル(PEE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)およびポリエーテルイミド(PEI)等)が挙げられる。高分子は、上記樹脂のうちの1種単独を含んでもよく、または2種以上(それらの組み合わせ)を含んでもよい。高分子は、これらの中でも、高温環境下での封止性能およびガスケット20の量産性(成型性)を向上させる観点からPPS、PBTおよびPEIを含むことが好ましく、耐透湿性能を向上させる観点からPPSを含むことがより好ましい。ガスケットを構成する樹脂は、後述する正極結着剤と同様に、フーリエ変換赤外分析(FT-IR分析)により特定することができる。
【0043】
ガスケット20は、電池1の密閉性を向上させる観点から、シーラント(不図示)によってその少なくとも一部を被覆されてもよい。つまり、電池1は、電池1の密閉性を向上させる観点から、ガスケット20の少なくとも一部を被覆するシーラントをさらに備えてもよい。シーラントとしては、例えば、ポリイソブチレンが挙げられる。シーラントは、ポリイソブチレンを主成分(シーラント100質量%に対して95質量%以上、95質量%以上、98質量%以上または100質量%)として含んでもよい。
【0044】
[正極]
(正極合剤)
正極30は、扁平形状の正極合剤31である。正極合剤31は、上述のようにX線光電子分光法(XPS)スペクトルにおいて、Mn2p3/2のピーク強度比I2/I1が数式(1)を満たす。つまり、正極合剤31は扁平形状ペレットの表面近傍において、一部が還元されている。このような一部を還元される正極合剤31の作製方法は後述する。
【0045】
正極合剤31の比表面積は、優れた耐熱性を保持しつつ、良好な開回路電圧(OCV)を電池1付与する観点から、好ましくは10.3m2/g以上28.0m2/g以下である。正極合剤31の比表面積は、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「BELSORP・MINI」)を用いて決定する。詳細は実施例にて説明する。正極合剤31の比表面積は、例えば、原料段階での二酸化マンガンの粒子径と比表面積、還元された二酸化マンガン粒子の粒径、正極合剤31の成型における印加圧力、正極結着剤および正極導電剤の含有率等により調整することができる。
【0046】
(正極活物質)
正極30は、正極活物質を含み、さらに、正極結着剤および正極導電剤等を含んでもよい。
正極活物質は、二酸化マンガン(MnO2)を含む二酸化マンガン電極である。正極活物質として二酸化マンガンを含む正極30を備える電池1は、正極活物質として硫化鉄および酸化銅などを含む正極を備える電池に比べ、作用電圧が高い。また、正極活物質として二酸化マンガンを含有する(正極合剤31を含む)正極30を備える電池1は、正極活物質としてフッ化黒鉛を含む正極を備える電池に比べ、作用電圧の範囲がほぼ同じであるが負荷特性が高い。
【0047】
正極30は、一態様では、複数の正極活物質粒子が凝集した構造(正極活物質粒子の凝集構造)をとり得る。正極30が複数の正極活物質粒子の凝集構造をとる場合、微視的な視点では正極30は空隙を有し得る。かかる場合、電池1内では、電解液70は正極活物質粒子間の空隙内に入り込み充填され得るため、電解液70は正極活物質と比較的大きな接触面積で接触する。このような場合、電解液70は、通常、正極活物質の酸化作用をうけやすいが、本実施形態では、正極活物質(二酸化マンガン)粒子の表面の一部を還元処理して、酸化作用を低減している。よって、正極30が複数の正極活物質粒子の凝集構造をとる場合であっても、電解液70が酸化されにくく耐熱性により優れる。
【0048】
正極活物質は、互いに異なる結晶性を有する2種以上の二酸化マンガンを含んでもよい。二酸化マンガンとしては、例えば、α-MnO2、β-MnO2、γ-MnO2およびε-MnO2が挙げられる。二酸化マンガンは、電池1の理論容量を向上させる観点からβ-MnO2を含むことが好ましい。β-MnO2は、市場流通性などを考慮すると、化学合成されたものではなく、電解二酸化マンガンを350℃~480℃の範囲で焼成したものであることが好ましい。なお、二酸化マンガンは、不純物としてMn2O3およびMn3O4などを含んでもよい。
【0049】
二酸化マンガンの含有率は、好ましくは正極合剤31 100質量%に対して80質量%以上94質量%以下である。二酸化マンガンの含有率が80質量%以上94質量%以下であると、一定の放電容量を維持しつつ正極合剤31の割れ発生を抑制できる。
【0050】
二酸化マンガンの含有率は、以下のように決定することができる。具体的には、電池1を解体し正極合剤31を取り出す。取り出した正極合剤31を純水で洗浄した後、質量(初期正極合剤質量)を測定する。酸洗浄により二酸化マンガンを正極合剤31から除去する。除去後の質量(除去後正極合剤質量)を測定する。二酸化マンガン除去前後の正極合剤の質量から、二酸化マンガンの含有率を算出する。
【0051】
正極活物質は、粒子状であってもよい。この場合、正極30は、粒子状の正極活物質と、必要に応じて他の成分(より具体的には、正極結着剤および正極導電剤等)とを圧縮して(ペレット状に)成型される。また、正極活物質が粒子状である場合、粒子径は、好ましくは10~500μmである。
【0052】
(正極結着剤)
正極結着剤は、正極30を構成する成分を接着させる。正極30は、正極30の成型性をより確保する観点から、正極結着剤を含むことが好ましい。正極結着剤としては、好ましくは高分子を含む。高分子としては、例えば、フッ素樹脂(より具体的には、ポリテトラフルオロエチレンおよびポリフッ化ビニリデン等)が挙げられる。正極結着剤は、これらの高分子のうち1種単独を含んでもよく、または2種以上を含んでもよい。
正極結着剤の含有率は、電池1の放電容量の減少を抑制しつつ、機械的強度などが向上させる観点から、好ましくは正極合剤31 100質量%に対して1.0質量%以上3.0質量%未満である。
【0053】
正極結着剤は、フーリエ変換赤外分析(FT-IR分析)により特定することができる。具体的には、電池1を解体し正極合剤31を取り出す。取り出した正極合剤31を洗浄溶媒(例えば、ジメトキシエタン(DME))で洗浄した後、溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド(DMF))に浸漬させて、溶解させる。得られた溶解液を乾燥させて、固体成分を得る。フーリエ変換赤外分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製「Nicolet6700」)を用いて、固体成分についてFT-IR分析を行う。
【0054】
(正極導電剤)
正極導電剤は、正極30の導電性を向上させる。正極30は、その導電性を向上させる観点から、好ましくは正極導電剤を含む。正極導電剤は、例えば、炭素材料のような導電性材料を含む。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、グラフェンおよび炭素繊維(より具体的には、気相法炭素繊維(VGCF)等)が挙げられる。炭素材料は、正極合剤31のペレット形状の成型性および保液性を両立させる観点から、これらの中でもグラファイトまたはカーボンブラックを含むことが好ましい。正極導電剤は、これらの導電性材料のうちの1種単独を含んでもよく、または2種以上を含んでもよい。
【0055】
正極30が正極導電剤(炭素材料)を含む場合、正極活物質(二酸化マンガン)と正極導電剤との混合比(正極活物質:正極導電剤)(質量比)は、電池容量のような電気的特性を担保しつつ、数十mAオーダーの優れたパルス放電特性を得る観点から、90:10~97:3であることが好ましい。
また、正極30が正極導電剤(炭素材料)を含む場合、正極導電剤の含有率は、正極30 100質量%に対してカーボンブラック(CB)では放電容量を向上させる観点から0.5~4質量%であることが好ましく、正極30の膨れ量を抑制しつつ正極30の吸液量を増加する観点から4質量%以上であることが好ましい。正極導電剤の含有率は、正極30 100質量%に対してグラファイト(黒鉛)では、例えば、1.0~9.0質量%であり、放電容量を向上させる観点から3.0~7.0質量%であることが好ましく、正極導電剤の含有率は、正極30 100質量%に対してグラファイト(黒鉛)では、正極30の割れの発生を抑制する観点から6.0~21.0質量%であることが好ましい。
【0056】
正極導電剤の含有率の算出方法は、以下の通りである。上述の二酸化マンガンの含有率の測定方法において二酸化マンガンを取り出した正極合剤31(すなわち、固形分)を純水で十分に洗浄した後に乾燥させる。得られた乾燥物を熱重量-示差熱同時分析装置(SIINT社製「TG/DTA6300」)を用いて、熱重量・示差熱同時測定(TG-DTA)を行う。この測定では、以下の温度プロファイルを用いる。
-温度プロファイル-
(1)加熱:室温(25℃)→650℃(昇温速度:+10℃/分、窒素雰囲気下:フロー速度300mL/分)
(2)保持:650℃(10分間、窒素雰囲気下:フロー速度300mL/分)
(3)冷却:650℃→200℃(降温速度:-22.5℃/分、窒素雰囲気下:フロー速度300mL/分)
(4)保持:200℃(10分間、アルゴン雰囲気下:フロー速度300mL/分)
(5)加熱:200℃→1000℃(昇温速度:+10℃/分、アルゴン雰囲気下:フロー速度300mL/分)
【0057】
[負極]
負極40は、扁平形状であるリチウム電極である。負極40は、セパレータ50を介して正極30と対向して配置される。
負極40は、負極活物質を含み、さらに負極結着剤を含んでもよい。負極活物質は、リチウム系材料を含む。負極活物質としてリチウム系材料を含む負極40を備える電池1は、リチウム系材料以外の負極活物質を含む負極を備える電池に比べ、質量エネルギー密度が高くなるため、高容量を有する。リチウム系材料は、リチウムを構成元素として含む。
【0058】
換言すると、負極40は、リチウム元素を含む。リチウム元素を含む負極40とは、負極40がリチウム元素を含む化学種で構成されることをいう。負極40は、リチウム元素そのもののみを含む形態(リチウム金属)だけでなく、リチウム元素をその一部として含む形態(リチウム合金およびリチウム化合物)で構成されてもよい。
【0059】
リチウム系材料としては、例えば、金属リチウム(リチウム単体)、リチウム合金(より具体的には、リチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム炭素合金、リチウムケイ素合金およびリチウムニッケル合金等)およびリチウム化合物(より具体的には、LiC6等)が挙げられる。負極活物質は、これらのリチウム系材料のうち1種単独で含んでもよく、または2種以上を含んでもよい。つまり、負極40は金属リチウム、リチウム合金、リチウム化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。負極活物質は、低温環境下(例えば、-40℃環境下)における電池1の大電流特性を向上さえる観点から、2種以上のリチウム系材料を含むことが好ましい。
【0060】
負極活物質がリチウム系材料としてリチウム化合物を含む場合、負極40は扁平形状のペレットであり得る。扁平形状のペレットは、成型された負極合剤であってもよい。この場合、負極40が負極結着剤を含んでもよい。負極結着剤は、負極40を構成する成分を接着させる。負極結着剤の種類は、正極結着剤の種類と同様である。
【0061】
[セパレータ]
電池1は正極合剤31と負極40との間にセパレータ50をさらに備える。セパレータ50は、正極30と負極40と間に介在して、正極30と負極40とを電気的に絶縁させる。
セパレータ50は、例えば、多孔質膜および不織布のうちの少なくとも一方を含む。多孔質膜および不織布は、各々独立に、ポリエチレン、ポリプロピレン、メチルペンテンポリマー、ポリブチレンテレフタラートおよびポリフェニレンサルファイドから成る群より選択される少なくとも1種の高分子を含む。また、セパレータ50は、例えば、ガラス繊維およびセラミックの少なくとも一方の無機材料を含む。
【0062】
好適な態様では、高温環境下(260℃環境下)で使用する電池1の内部ショートを効果的に防止する観点から、セパレータ50は、融点が260℃を超えるポリフェニレンサルファイトを含むことが好ましい。
【0063】
好適な態様では、セパレータ50による電解液70の吸液性を向上させる観点から、セパレータ50は、不織布を含む。より好適な態様では、不織布の坪量は10g/m2~100g/m2であり、かつ不織布の厚さは80μm~500μmである。より好適な態様では、セパレータ50による電解液の吸液性を向上させつつ、高温保存後の一次電池において内部短絡の発生を抑制される。
【0064】
セパレータ50は、単層であってもよいし、または多層であってもよい。また、セパレータ50は、その表面に界面活性剤等で構成される層を有してもよい。
【0065】
[正極導電層]
正極導電層60は、正極容器11と正極30との間に介在する。電池1が正極導電層60を備えると、電池1の内部抵抗が減少し、(一次)電池における様々な条件での放電性能が向上する。正極導電層60は、粉末状の導電性材料(複数の導電性粒子、導電性粉体)を含む。導電性材料としては、銀、リチウムアルミニウム合金および炭素材料が挙げられる。正極導電層60は、これらの導電性材料の1種単独で構成されてもよく、または2種以上で構成されてもよい。
【0066】
[電解液]
電解液70は、非水溶媒を含む非水系電解液である。電解液70は、正極30、負極40およびセパレータ50のそれぞれに含浸している。電解液は、さらに、電池缶10の内部において、正極30、負極40およびセパレータ50などの周辺の空間に存在していてもよい。
【0067】
正極合剤31に対する電解液70の質量比W
1/W
2が以下の数式(2):
【数3】
[数式(2)中、W
2(g)は正極合剤31の質量を示し、W
1(g)は電解液70の質量を示す]
を満たす。
質量比W
1/W
2が数式(2)を満たすと、高温環境下(260℃5分)で一定の放電容量を維持しつつ、(国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission:IEC)基準の放電も達成し得る。質量比W
1/W
2の算出方法は、実施例で詳述する。
【0068】
電解液70は、例えば、無水ジカルボン酸化合物と、電解質塩と、非水溶媒とを含む。電解液70は、アルカリ金属化合物をさらに含んでもよい。以下、電解液の各成分について説明する。
【0069】
電解液70は、電池1内で正極30(正極合剤31)と接触する。例えば、電解液70は、正極30の表面だけでなく、正極30を構成する複数の正極活物質(二酸化マンガン)粒子の(凝集体の)間隙に入り込んで正極30の内部まで浸透し得る。このように、電解液70は、正極30を構成する複数の正極活性物質の表面と接触し得る。
【0070】
(無水カルボン酸化合物)
無水ジカルボン酸化合物は、正極30(正極合剤31)に被膜を形成するとともに正極30(正極合剤31)表面の二酸化マンガン(特に、正極30(正極合剤31)表面の二酸化マンガン)を部分的に還元するため、正極30の表面において(より具体的には、二酸化マンガン粒子の表面において)電解液の分解反応を抑制する。XPS分析により二価のマンガン(Mn2+)が増加するため、二酸化マンガンの還元により酸化マンガン(MnO)が生成すると推測される。
【0071】
電解液70は、一般式(1):
【化1】
[一般式(1)中、Wは2z個の水素が脱離したベンゼン系芳香族環を示し、zは2以上の整数を示す)
で表される無水ジカルボン酸化合物(以下、「無水ジカルボン酸化合物(1)」とも称する)を含むことができる。
【0072】
無水ジカルボン酸化合物(1)は、一般式(1)に示すように、2z個の水素が脱離したベンゼン系芳香族環(W)と、z個の無水ジカルボン酸基(-C(=O)-O-C(=O)-)とを含む化合物である。なお、無水ジカルボン酸化合物の種類は、1種類だけでもよいし、または2種類以上でもよい。
すなわち、無水ジカルボン酸化合物(1)は、2価であるz個の無水ジカルボン酸化合物基がベンゼン系芳香族環に導入された化合物であり、言い換えれば、ベンゼン系芳香族環のうちの2z個の水素がz個の無水ジカルボン酸基により置換された化合物である。
【0073】
一般式(1)中、ベンゼン系芳香族環(W)は、1個以上のベンゼン環を含む芳香環である。1個のベンゼン環を含む芳香環は、ベンゼン環である。2個以上のベンゼン環を含む芳香環は、その2個以上のベンゼン環が縮合した芳香環であって、例えば、ナフタレン環、アントラセン環およびフェナントレン環が挙げられる。
【0074】
一般式(1)中、無水ジカルボン酸基(-C(=O)-O-C(=O)-)は、ベンゼン系芳香環を構成する環員原子(炭素原子)のうち2つの炭素原子に結合する。この2つの炭素原子は、ベンゼン系芳香環において隣接してもよいし、または隣接しなくてもよい。2つの炭素原子がベンゼン系芳香環において隣接しない場合、2つの炭素原子は1個または2個以上の環員原子(炭素原子)を介して離隔される。
【0075】
一般式(1)中、zは2以上の整数を示す。つまり、無水ジカルボン酸基は、ベンゼン系芳香環に2以上置換されている。無水ジカルボン酸基がベンゼン系芳香環に2以上置換されていると(一般式(1)中、zが2以上の整数を示すと)、二酸化マンガンを含む正極30の表面において電解液の分解反応の進行を十分に抑制することができる。
【0076】
無水ジカルボン酸無水物(1)としては、例えば、ピロメリット酸無水物(zは2を示し、ベンゼン系芳香環はベンゼン環を示す)およびメリト酸無水物(zは3を示し、ベンゼン系芳香環はベンゼン環を示す)が挙げられる。無水ジカルボン酸無水物(1)がピロメリット酸無水物およびメリト酸無水物の少なくとも一方であると、正極30の表面において電解液の分解反応を抑制しながら、正極30の電気抵抗の増加を抑制することができる。
【0077】
無水ジカルボン酸化合物の含有率は、還元反応による電解液70の分解反応を抑制し、開回路電圧(OCV)を安定させる観点から、電解液70 100質量%に対して1質量%~5.0質量%であることが好ましい。
【0078】
(電解質塩)
電解液70は、電解質塩としてのリチウム塩を含む。リチウム塩としては、例えば、低級カルボン酸リチウム、リチウムハライド、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ホウフッ化リチウム、クロロボラン酸リチウム、含フッ素アルキルスルホニルイミドリチウム、ヘキサフルオロヒ素酸リチウム、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム、4フェニルホウ酸リチウム、ビスオキサラートホウ酸リチウムおよびLiCnF2n+1SO3(nは1以上の整数を示す)が挙げられる。リチウム塩は、これらの1種単独を含んでもよく、または2種以上を含んでもよい。リチウム塩は、電解液70の導電性および電池1の長期信頼性を向上させ、安価であることから、これらの中でも、過塩素酸リチウムであることが好ましい。
【0079】
質量分析装置を用いて、リチウム塩を特定することができる。アルゴン雰囲気下グローブボックス内で、ニッパーを用いて電池1を解体する。抽出溶媒(例えば、脱水アセトニトリル)により電解液70を抽出する。得られた抽出溶液に含まれるアニオンをイオン化して四重極-飛行時間質量分分析計(ウォーターズ社製「Xevo(登録商標)G2-S QTof MS」)に導入することで分析を行う。
【0080】
リチウム塩の含有率は、電解液100質量%に対して、好ましくは12質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%~12質量%であり、さらに好ましくは1質量%~12質量%である。リチウム塩の含有率が12質量%以下であると、電池容量などの電気的特性が担保されながら、正極30の電気抵抗の増加がより抑制される。
【0081】
リチウム塩の含有率は、高周波誘導結合発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノジー社製「SPS-3520」)を用いて決定することができる。ただし、リチウム塩がフッ素原子で構成されている場合、リチウム塩の含有率は、フッ素19核磁気共鳴装置(日本電子(JEOL)株式会社製「JNM-ECA400W」、内部標準:六フッ化ベンゼン(C6F6:163ppm))を用いて、決定することができる。
【0082】
(非水溶媒)
非水溶媒は、非プロトン性有機溶媒である。非水溶媒は、高温環境下(260℃環境下)においても化学的に安定である観点から、例えば、環状炭酸エステル、または環状炭酸エステルおよびエーテル化合物を含むことが好ましい。ここで、高温環境下で化学的に安定とは、高温環境下で蒸気圧が大きすぎないことおよび溶媒が分解反応を起こしにくいことであり、結果として電池1の電解液70に含まれる場合、高温環境下で電池1が変形しにくい性質を示す。環状炭酸エステルとしては、例えば、アルキレンカーボネート(炭酸アルキレン)(より具体的には、エチレンカーボネート(炭酸エチレン)、プロピレンカーボネート(炭酸プロピレン)およびブチレンカーボネート(炭酸ブチレン)ならびに不飽和結合(炭素-炭素二重結合)を有する環状炭酸エステル(より具体的には、ビニレンカーボネート(炭酸ビニレン)等)が挙げられる。エーテル化合物としては、例えば、鎖状エーテル化合物および環状エーテル化合物が挙げられる。鎖状エーテル化合物としては、例えば、対称鎖状エーテル化合物(例えば、1,2-ジメトキシエタン(モノグライム)、ジグライム、トリグライム、テトラグライムおよびペンタグライムのようなRO(C2H5O)nR(2つのRは互いに同じ炭素原子数1~3のアルキル基を示し、nは1~5の整数を示す)で表されるグリコールエーテル化合物)および非対称鎖状エステル化合物(より具体的には、メトキシエトキシエタン等)が挙げられる。環状エーテル化合物としては、例えば、テトラヒドロフランおよび1,3-ジオキソランが挙げられる。
【0083】
好適な態様では、非水溶媒は、電池1の耐熱性をさらに向上させる観点から、アルキレンカーボネートを含み、好ましくはプロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートのうちの少なくとも一方の溶媒を含む。
また、好適な態様では、非水溶媒は、電池1の耐熱性をさらに向上させる観点から、好ましくは環状炭酸エステルおよび沸点が150℃以上のグライムを含み、より好ましくは炭酸プロピレンおよび炭酸ブチレンのうちの少なくとも一方を含みかつジグライム、トリグライムおよびテトラグライムからなる群より選択される少なくとも1種の溶媒を含む。非水溶媒は、ジグライム、トリグライムおよびテトラグライムのうちの少なくとも1種を含むと、これらのグライムは適度な分子量を有する。このため、高温環境下での蒸気圧が大きくなりすぎず、電池1の変形を抑制する。また、電解液70の粘度を大きくなりすぎないため、電解液70中でのLiイオンの移動性を抑制しない。
【0084】
非水溶媒は、以下のように特定することができる。アルゴン雰囲気下グローブボックス内で、ニッパーを用いて電池1を解体する。抽出溶媒(例えば、脱水アセトニトリル)により電解液70を抽出する。得られた抽出溶液を分析試料とする。ガスクロマトグラフ質量分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製「6890シリーズガスクロマトグラフ」、「5975シリーズ質量選択検出器」)を用いて、分析試料を分析する。
【0085】
(その他の成分:アルカリ金属化合物)
電解液70は、アルカリ金属化合物を含んでもよい。アルカリ金属化合物は、(特に、260℃未満の高温環境下)電解液の分解反応の進行を抑制する。このため、電池1の使用環境で要求される耐熱性の程度に応じて、電解液70へアルカリ金属化合物を添加することができる。アルカリ金属化合物は、例えば、一般式(2):
【化2】
[一般式(2)中、Meはアルカリ金属元素を示し、xおよびyは、各々独立に、0以上の整数を示す]
で表される。
【0086】
[扁平型非水系電解液電池の製造方法]
第1実施形態に係る扁平型非水系電解液の製造方法の一例を説明する。電池1の製造方法は、例えば、還元処理工程と、正極合剤作製工程と、電解液調製工程と、正極導電層形成工程と、収容工程と、係合工程とを含んで成る。
【0087】
(還元処理工程)
還元処理工程では、正極活物質としての二酸化マンガンを還元する。二酸化マンガンの還元処理は、例えば、浸漬法およびスプレードライ法により行うことができる。浸漬法は、正極活物質である二酸化マンガンを還元剤に浸漬させて二酸化マンガンの一部を還元する。スプレードライ法は、熱風により正極活物質である二酸化マンガンの一部を還元する。二酸化マンガンの還元では、スプレードライ法および浸漬法のいずれも行ってもよい。スプレードライ法は、熱を原料(二酸化マンガン)に均一に付与してMnO2を均質に還元する観点から、工業的な還元処理法として好ましい。
【0088】
-浸漬法-
浸漬法は、二酸化マンガンを還元剤溶液に分散させる。還元剤としては、例えば、無水ジカルボン酸化合物が挙げられる。無水ジカルボン酸化合物は、電解液70の成分としての無水ジカルボン酸化合物と同義である。二酸化マンガンの還元度合いは、二酸化マンガンの粒子径、還元剤の種類、還元剤溶液における還元剤濃度、還元反応開始時の温度、ならびに浸漬時間により調整することができる。
【0089】
-スプレードライ法-
図4を参照してスプレードライ法による二酸化マンガンの還元処理を説明する。
図4は、電池1に含まれる正極合剤31を製造するためのスプレードライヤー(噴霧乾燥装置)を示す模式図である。スプレードライヤー200は、本体210と、原料供給口220と、回収口230と、熱風供給口240と、熱風排出口250と、ディスク260とを備える。
【0090】
MnO2分散液の調製
二酸化マンガンの還元処理では、まず、二酸化マンガンおよび正極結着剤を溶媒に分散させてMnO2分散液を調製する。分散液に含まれる溶媒は、二酸化マンガンを分散し還元可能であれば、特に制限されない。このような溶媒としては、例えば、環状炭酸エステル化合物(より具体的には、炭酸エチレン(EC)、炭酸ブチレン(BC)および炭酸フルオロエチレン(FEC)等)、環状アミド化合物およびN-アルキル置換誘導体(より具体的には、2-ピロリドンおよびN-メチルピロリドン(NMP)等)ならびに鎖状炭酸エステル化合物(より具体的には、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、および炭酸ジエチル(DEC))が挙げられる。溶媒は、これらの中でもNMPであることが好ましい。
【0091】
正極結着剤は、MnO2分散液中で十分に分散するものが好ましく、例えば、ポリフッ化ビニリデンであることが好ましい。正極結着剤がMnO2分散液で十分に分散していると、MnO2の還元反応が阻害されにくい。ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量Mwは、3.0×105~7.0×105以下であることが好ましい。ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量Mw3.0×105~7.0×105g/molであると、正極合剤31に含まれる成分を適切に固定(結着)して正極合剤31の形状を保持させつつ、かつ二酸化マンガンの還元反応を阻害しにくい。
【0092】
MnO2分散液の噴霧
MnO2分散液を原料供給口220から本体210に投入する。投入されたMnO2分散液は原料供給口220を介してディスク260に到達する。ディスク260は、原料供給口220が延在する軸に沿って回転している。ディスク260は、複数の穴を有する。このため、ディスク260に到達したMnO2分散液は、ディスク260の回転による遠心力で本体210内に液滴270となって噴霧される。
【0093】
MnO2分散液の熱風との接触
熱風は、熱風供給口240を介して本体210内に供給し、熱風排出口250を介して本体210から排出する。熱風が本体210内で渦を巻くようにして、本体210内に投入したMnO2分散液の液滴270と接触させる。液滴270は熱風に接触し、溶媒が除去されてMnO2の一部が還元されMnO2粒子280が作製される。作製されたMnO2粒子280は、回収口230を介して本体210内から回収する。作製されたMnO2粒子280は、その表面の一部が還元されている。
【0094】
還元処理工程において、二酸化マンガンの還元度合いは、本体210内の温度(例えば、100℃~220℃)、回転数および熱風の速度等の条件によって調整することができる。本体210内の温度は、本体210の原料供給口220から回収口230に向かって変化(増加または減少)する温度勾配を形成してもよい。
【0095】
(正極合剤作製工程)
正極合剤作製工程では、正極合剤31を作製する。具体的には、還元処理を施した正極活物質と、正極結着剤と、正極導電剤と、溶媒とを混合させて正極合剤分散液を調製する。溶媒としては、正極合剤31の成分を混合でき、かつ蒸発できれば、特に制限されない。正極合剤分散液に含まれる溶媒としては、例えば、水のようなプロトン性溶媒および非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0096】
正極合剤分散液に含まれる溶媒としてプトロン性溶媒(より具体的には、水等)を使用する場合、分散性を向上させる観点から、正極結着剤はPTFEであることが好ましい。正極合剤分散液に含まれる溶媒として非プトロン性溶媒を使用する場合、分散性を向上させる観点から、正極合剤はポリフッ化ビニリデンであることが好ましい。
【0097】
次いで、正極合剤分散液中に溶媒を除去して粉体を得る。その後、打錠機を用いて、得られた粉体から加圧成型して扁平状のペレット(成型体)を作製する。このようにして正極合剤31を作製する。
【0098】
(電解液調製工程)
リチウム塩と、非水溶媒と、無水ジカルボン酸化合物とを混合して電解液70を調製する。
【0099】
(正極導電層形成工程)
導電性材料を含むペースト(例えば、銀を含む銀ペースト、リチウムアルミニウム合金を含む合金ペーストおよび炭素材料を含むカーボンペースト等)を正極容器11の内底面に塗布し、塗布膜を乾燥させて正極導電層60を形成する。
【0100】
(収容工程)
収容工程では、正極合剤31を正極容器11に収容し、負極40を負極容器12に収容する。具体的には、正極容器11の正極導電層60上に正極合剤31を配置して収容して、正極導電層60を介して正極容器11に正極合剤31を間接的に連結させる。一方、負極40(例えば、リチウム単体であるリチウム金属箔)を負極容器12に収容する。
【0101】
(係合工程)
係合工程では、まず、負極容器12に負極40を収容し、負極40上にセパレータ50およびガスケット20を積層して、これらに電解液70を含浸させる。正極合剤31および正極導電層60を正極容器11に収容させる。次いで、正極容器11および負極容器12の開口部が互いに対向するようにして、負極容器12に正極容器11を重ねる。ガスケット20を介して負極容器12および正極容器11の周縁部をかしめて、負極容器12と正極容器11とを係合させる。これにより、正極30および負極40等が電池缶10の内部に収容された状態で密閉された電池1が作製される。
なお、セパレータ50の表面に、界面活性剤などが塗布されていてもよい。
【0102】
<第2実施形態>
第2実施形態は、第1実施形態とは、負極導電層80および正極リング90を備え、正極導電層60を備えない点で相違する。この相違する構成を以下で説明する。なお、第2実施形態において、第1実施形態と同一の符号は、第1実施形態を同じ構成であるため、原則としてその説明を省略する。
【0103】
図5を参照して、第2実施形態に係る電池1Aを説明する。
図5は、第2実施形態に係る電池1Aを示す断面図である。
【0104】
[負極導電層]
図5に示すように、電池1Aは、負極40とセパレータ50との間に負極導電層80をさらに備える。負極容器12は、負極導電層80を介して負極40に間接的に連結されている。
【0105】
負極導電層80は、負極容器12と負極40との間に介在する。電池1Aが負極導電層80を備えると、電池1Aの内部抵抗が減少し、(一次)電池1Aにおける様々な条件での放電性能が向上する。負極導電層80は、粉末状の導電性材料(複数の導電性粒子、導電性粉体)を含む。導電性材料としては、銀、リチウムアルミニウム合金および炭素材料のうちの少なくとも一方を含む。負極導電層80は、これらの導電性材料の1種単独で構成されてもよく、または2種以上で構成されてもよい。
【0106】
[正極リング]
電池1Aは、ZX断面視でL字の形状を有する正極リング90をさらに備える。電池1Aは、いわゆるL字型である。詳しくは、電池1Aは、XY平面視でリングの形状を有し、(ZX断面視で)L字形状のX方向に平行な部分がL字形状のZ方向に平行な部分に対して、XY平面視において内周側に位置している。正極リング90は、正極合剤31の側面の一部と底面の一部を被覆する。(例えば、溶接によって)正極リング90の一部は正極容器11の内底面に接合されている。電池1Aが正極リング90を備えると、電池1の内部抵抗の上昇を抑制することができ、電池1Aの放電安定性が向上する。
【0107】
電池1Aの製造方法は、電池1の製造方法に比べ、負極導電層形成工程と、正極リング配置工程とをさらに含んで成り、正極導電層形成工程を含まない。
【0108】
(負極導電層形成工程)
負極導電層形成工程では、セパレータ50上に導電性材料を含むペースト(例えば、銀を含む銀ペースト、リチウムアルミニウム合金を含む合金ペーストおよび炭素材料を含むカーボンペースト等)を塗布して、塗布膜を乾燥させて負極導電層80を形成する。
【0109】
(正極合剤作製工程)
正極合剤作製工程では、正極リング90が正極合剤31の底面の一部および側面の一部を被覆するように、正極リング90と正極合剤31とを一体成型する。
【0110】
(収容工程)
収容工程では、正極リング90の下面が正極容器11の内底面に接触するように、正極リング90と一体成型した正極合剤31を正極容器11に収容する。正極合剤31の正極容器11への収容では、正極リング90と正極容器11の内底面とを溶接で接合してもよい。
【0111】
<その他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。つまり、本開示は上述の実施形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等による様々な態様が考えられる。このような態様としては、例えば、以下に示す「その他の実施形態」が挙げられる。
【0112】
第1実施形態では、電池1の製造方法において正極合剤31の一部の還元処理をスプレードライ法で行ったが、これに限定されない。オーブンを用いて、正極合剤分散液を加熱して乾燥して還元処理を施してもよい。加熱および乾燥の条件は、例えば、減圧下で温度160℃~230℃、および加熱時間20~30時間である。
【0113】
第1実施形態では、ディスク方式(ロータリーアドマイザー方式)により正極合剤分散液をスプレードライヤー200の本体210内に投入していたが、これに限定されない。スプレードライヤー200の本体210内に正極合剤分散液をディスク260により噴霧して投入するディスク方式に代えて、例えば、スプレーノズル方式を採用できる。スプレーノズル方式では、ディスク260に代えて、ノズルによって正極合剤分散液を本体210内に噴霧して投入する。
【0114】
第2実施形態では、正極リング90は正極合剤31の底面の一部および側面の一部を被覆していたが、これに限定されない。例えば、正極リングは正極合剤の側面の一部のみを被覆してもよい。この場合、電池は、いわゆるハット型である。詳しくは、電池は、XY平面視でリングの形状を有し、(ZX断面視で)L字形状のX方向に平行な部分がL字形状のZ方向に平行な部分に対して、XY平面視において外周側に位置している。
【実施例0115】
以下、実施例を用いて本開示をさらに具体的に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。部は質量部である。
【0116】
<実施例1-1>
[1.一次電池の製造]
(1-1.原材料)
以下の原材料を用いた。
-正極-
〔正極活物質〕
・二酸化マンガン(CHORI社製「電解二酸化マンガン」)
〔MnO2分散液用の溶媒〕
・水(純水)
・N-メチルピロリドン(NMP)(三菱ケミカル社製)
〔正極結着剤〕
・ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(ダイキン社製「ルブロンL-2」)
〔正極導電剤〕
・炭素材料としての黒鉛(日本黒鉛社製「ACB-150」)
・ケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製「カーボンECP」)、
【0117】
-負極-
・リチウム系材料(リチウム単体)リチウム金属箔(本城金属社製)、厚み1.0mmを加圧加工して0.88mmに成型したリチウム金属(純度99.99%)
【0118】
-電池缶-
〔正極容器&負極容器〕
・ステンレス(「日立金属製」、ニッケル渡金されたSUS430をプレス成型して作製した正極容器、および負極容器を使用)
【0119】
-電解液-
・電解液(富山薬品工業株式会社製):溶媒と、過塩素酸リチウム(LiClO4)(リチウム塩)と、ピロメリット酸無水物(無水ジカルボン酸:濃度0wt%、1wt%、3wt%または5wt%)とを含む。
溶媒は、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、1,2-ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライムおよびテトラグライムからなる群より選択される1種または2種の溶媒である。
【0120】
-セパレータ-
・不織布(タピルス社製、厚み320μm、秤量70g/m2、ポリフェニレンスルファイド材不織布)
【0121】
-正極導電層-
・カーボンペースト(日本黒鉛社製バニーハイトIV174-D01)
【0122】
(1-2.正極の作製)
二酸化マンガン(γ-MnO2)を温度440℃で3時間焼成し、二酸化マンガン(β-MnO2)にした(β化度90%)。正極活物質としての二酸化マンガン(β-MnO2)92部と、正極結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)1部と、正極導電剤としての天然黒鉛6部およびケッチェンブラック1部とを混合して正極合剤(混合物)100部を得た。固形分比(正極合剤における溶媒以外の成分の質量比)65質量%となるように正極合剤(混合物)100部を水性溶媒としての純水に投入し、攪拌機(浅田鉄工株式会社製「プラネタリデスバ」)を用いて30分攪拌した。これにより正極合剤分散液を調製した。続いて、正極分散液を入れた容器をオーブン内に配置して、加熱温度170℃(表1の乾燥温度欄の数値)および減圧の条件下で24時間正極合剤分散液を加熱および乾燥させた。これにより正極活物質の一部に還元処理を施した正極合剤(乾燥粉体)を得た。ダイパンチ(直径Φ14.00mm)を備えた打錠機を用いて、0.86部の正極合剤(乾燥粉体)を秤量し、100kNで加圧成型した。このようにしてペレット状のコイン型正極合剤31(正極30:外径14.0mm、厚み1.82mm、体積密度2.90g/cm3)を作製した。正極合剤31は、正極活物質としての二酸化マンガン(β-MnO2)と、正極結着剤としてのPTFEと、正極導電剤としての天然黒鉛およびケッチェンブラックとを含む。
【0123】
(1-3.正極導電層の形成)
正極容器11の内底面にカーボンペーストを塗布して、塗布膜を乾燥させた。これにより、正極容器11の内底面に炭素材料を含む正極導電層60を形成した。
【0124】
(1-4.負極の作製)
ニッケル渡金されたSUS430の表面にリチウム金属箔(外径16.5mmおよび厚み0.88mm)をプレス成型して貼り付けた。これにより、内底面に負極40が配置された負極容器12を作製した。
【0125】
(1-5.非水電解液の準備)
リチウム塩としての6質量%過塩素酸リチウム(LiClO4)と、無水ジカルボン酸としての5質量%ピメリット酸無水物(PMDA)と、溶媒としての環状炭酸エステル(炭酸プロピレン(PC))とを含む非水系電解液(富山薬品工業株式会社製:表1の実施例1-1)を準備した。
【0126】
(1-6.一次電池の組み立て)
まず、負極容器12の内底面に配置された負極40上にセパレータ50(厚み320μmおよび秤量70g/m2のポリフェニレンサルファイド製の不織布)を配置した。その後、そのセパレータ50上にガスケット20(厚み0.37mmであるポリフェニレンサルファイド)を配置した。
【0127】
続いて、ガスケット20の上から負極容器12の内部に電解液70を滴下した。その後、ガスケット20上に正極30を配置した。これにより電解液の一部を正極30、負極40およびセパレータ50のそれぞれに含浸させた。
【0128】
最後に、正極30の上に正極容器11を配置した後、クリンパを用いて正極容器11および負極容器12を互いに圧着固定した。これにより、電池缶10が形成されたと共に、その電池缶10の内部に正極30、負極40およびセパレータ50などが封入されたため、一次電池(外径20mmおよび厚み3.2mm)が作製された。
【0129】
[2.測定方法等]
(2-1.ピーク強度比I2/I1の決定方法)
走査型X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ株式会社製「Quantera-SXM」)を用いて正極合剤31のXPSスペクトルを測定した。
測定試料の正極合剤31を以下のように準備した:アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、電池1を解体し、取り出した正極合剤をジメトキシエタン(DME)で二度洗浄した。洗浄後、洗浄液のDMEを乾燥させ、除去した。
【0130】
また、測定条件は、以下の通りであった;
・X線源 :Al-Kα線(1486.6eV mono at 25W)
・ビーム径:Φ100μm
・中和銃 :1.0V 20.0μA
・Analyser Mode:FAI。
【0131】
得られたXPSスペクトルから結合エネルギー642eVでのピーク強度I1と、結合エネルギー640eVでのピーク強度I2とを測定した。ここで、ピーク強度は(ピークの積算値ではなく)最大ピーク強度である。得られたI1およびI2からピーク強度比I2/I1を算出した。
【0132】
(2-2.X線回折スペクトルにおける回折ピークの確認方法)
X線回折装置(株式会社リガク製「Ultima-IV」)を用いて正極合剤31のX線回折スペクトルを測定した。
測定試料の正極合剤31を以下のように準備した:電池1を解体し、取り出した正極合剤をジメトキシエタン(DME)で洗浄した。その後、純水で洗浄した。洗浄後、純水を乾燥させて除去した。洗浄後の正極合剤を乳鉢ですりつぶして、測定試料としての粉体試料を作製した。
【0133】
また、測定条件は、以下の通りであった。
・X線源:Cu-Kα線
・アタッチメント:ASC10_Refelection
・検出器:D/teX Ultra 250(H)
・ゴニオメーター:標準ゴニオメータ
・プライマリビーム:標準
・X線発生装置出力:45kV
・X線発生装置電流:200mA
・スキャン速度 :5°/分
・ステップ幅 :0.01°
・スキャン軸 :2θ/θ
・スキャン範囲 :1~80°
【0134】
得られたX線回折スペクトルから回折角2θ=41.3°±0.1°の低角度側に位置する回折ピークの有無を確認した。
【0135】
(2-3.正極合剤の比表面積の測定方法)
正極合剤を乳鉢で粉砕して、MnO2、正極導電剤および正極結着剤を含む混合粉体を得た。得られた混合粉体を測定試料とした。比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「BELSORP・MINI」)を用いて、温度77℃および窒素雰囲気下との条件下で吸着等温線を測定した。得られた吸着等温線を解析して比表面積(m2/g)を得た。
【0136】
(2-4.W2/W1の決定方法)
最初に、電池の質量WAを測定した。
次いで、電池を解体して電池の構成部材(正極合剤、負極、セパレータ、電池缶(正極容器および負極容器)、ガスケットならびに正極導電層)を回収した。洗浄用有機溶媒(例えば、炭酸ジメチル)を用いて、各構成部材に付着した電解液を洗い流した。電解液を含む洗浄溶液をろ過し、正極導電層をろ別した。その後、各構成部材を乾燥させた。
【0137】
各構成部材の質量を測定した。これにより、正極合剤の質量W2を得た。また、電解液以外の各構成部材の質量の和WBを算出した。得られたWAおよびWBから電解液の質量W1(=WA-WB)を得た。得られたW1およびW2から数式(2)を用いて正極合剤に対する電解液の質量比W2/W1を算出した。
【0138】
[3.評価方法]
(3-1.加熱処理(260℃、5分間)後の電池の膨れ特性の評価方法)
常温環境下(温度23℃)での電池1の中心部の(Z方向の)厚みT1を測定した。ここで、電池1の厚みの測定箇所である中心部は、XY平面視での略円形の中心点であった。次いで、高温環境下(温度260℃)に電池1を5分静置した後、常温環境下に電池1を戻し、自然放冷した。次いで、電流10mAで0.5秒間電池1を放電した。その後、加熱処理後の電池1の中心部の(Z方向の)厚みT2を測定した。
【0139】
得られた電池の厚みT
1,T
2から数式(4):
【数4】
[数式(4)中、T
1は加熱処理(温度260℃および5分)を施していない電池1の厚みを示し、T
2は加熱処理を施した電池1の厚みを示す]
により、膨れ量(mm)を算出した。評価結果を表1にまとめた。
【0140】
(3-2.加熱処理(150℃、100時間)後の電池の膨れ特性の評価方法)
加熱処理を「温度260℃および5分」を「温度100℃および100時間」に変更した以外は、3-1.と同様にして膨れ量(mm)を算出した。本評価は、表2の実施例にて行った。
【0141】
(3-3.開回路電圧(OCV)不良率)
電池1の開回路電圧特性を後述するOCVの測定方法に基づいてOCV評価し、OCV不良率を計測した。不良判定基準は、放電前の電池において、OCVの値が3.05V以下のとき不良と判定した。不良率の計算方法は、総電池作製数1000個に対する発生数をNとして、N÷1000×100(単位:%)を解析することで算定した。
【0142】
(3-4.開回路電圧の測定)
電池1の開回路電圧を測定した。詳しくは、23℃環境下で1MΩの抵抗を接続したときの電圧値をOCVの測定条件とした。本測定は、表2および表7の実施例で行った。
【0143】
(3-5.電気抵抗の測定)
電池1の電気抵抗を測定した。詳しくは、OCVを基準として振幅10mV、周波数1kHzの交流波を発生させることで、交流電圧Vと交流電流Iを計測し、V/Iによって測定されるインピーダンス値を測定することで電気抵抗を算定した。インピーダンスの測定装置には、Admiral社製Squidstat Plusを用いた。
【0144】
(3-5.放電容量の測定)
電池1の放電容量を測定した。詳しくは、23℃環境下で15kΩの定抵抗放電を行い、その時に発生する直流電流を電流計によって計測した。各時間の直流電流(mA)×放電時間(h)を積算することで容量の算定を行った。放電時間は、放電開始から閉回路電圧が2V以下になった瞬間までの時間を放電時間と定めた。本測定は、表4の実施例で行った。
【0145】
(3-6.ペレット吸液量の測定)
電池1のペレット(正極合剤)の吸液量を測定した。詳しくは、以下の要領で測定される(WA-WB)mgをペレットの吸液量とした。初めに、ペレット作成後、300℃2時間で真空乾燥を行った。次に、乾燥後10時間後のペレットの重さをWB(mg)として電子天秤で秤量する。更に、ペレットを電解液(PC:DME=1:2重量比でLiClO4を4.8%溶かしたもの)に6分間浸漬させて6分後のペレットの重さをWA(mg)として測定した。このようにして測定されるWAとWBの差(WA-WB)(mg)をペレットの吸液量と定義した。本測定は、表4の実施例で行った。
【0146】
(3-7.加熱処理(260℃、5分間)後の放電容量の測定)
電池1の加熱処理(260℃、5分間)後の放電容量を測定した。詳しくは、加熱処理(260℃、5分間)後、23℃環境下で24時間放置して自然放冷した。その後、23℃環境下で15kΩの定抵抗放電を行い、直流電流(mA)×放電時間(h)を測定することで容量の算定を行った。放電時間は、放電開始から2V以下になった瞬間までの時間を放電時間と定めた。本測定は、表6の実施例で行った。
【0147】
(3-8.IEC基準における放電評価)
電池1のIEC基準における放電評価を行った。詳しくは、23℃環境下で15kΩの定抵抗放電を行い、直流電流(mA)×放電時間(h)を測定することで容量の算定を行った。放電時間は、放電開始から2V以下になった瞬間までの時間を放電時間と定めた。なお、IECの基準においては、この条件においてCR2032サイズのコイン電池において180mAh以上確保できることが要求される。本測定は、表6の実施例で行った。
【0148】
(3-9.漏洩評価)
電池1の漏洩評価を行った。詳しくは、電池1に加熱処理(260℃、5分間)を施し、その後、23℃環境下で24時間自然放冷(30分間、常温放置)した。常温放置後の電池1の外観を顕微鏡で観察し、ガスケット上に漏洩した電解液の有無を判定した。必要に応じて、さらに電池質量の測定した後、1日、常温放置した。その後、電池質量を測定し、1日間の常温放置前後の電池質量の差(=1日間の常温放置前の電池質量-1日間の常温放置後の電池質量)を算出した。得られた観察結果から以下の評価基準に基づいて、漏洩評価を行った。本測定は、表6の実施例で行った。
(漏洩の評価基準)
○(良い):ガスケット上に漏液した電解液の発生が確認できない、かつ1日間の常温放置後に1mg未満の電池質量の減少が観測できる
×(悪い):ガスケット上に漏液した電解液の発生が確認できるか、または確認できなくても1日間の常温放置後に1mg以上の電池質量の減少が観測できる
【0149】
(3-10.ペレット割れ発生率の測定方法)
電池1のペレット割れの発生調査を行った。詳しくは、ペレット(ペレット状のコイン型正極合剤)の全面を顕微鏡で観察し、亀裂の発生が見られるか目視外観検査を行うことでペレットの割れを判定した。亀裂が一部でも観測できるものはカウントを行い、ペレット100個あたりの発生数が何個あるか計測することでペレット割れ発生率を算定した。本測定は、表8の実施例で行った。
【0150】
<実施例1-2~1-3および比較例1-1,1-3~1-4および1-6:浸漬法による正極合剤の還元処理>
実施例1-2~1-3および比較例1-1,1-3~1-4および1-6について、正極合剤分散液の溶媒の種類、正極合剤分散液の乾燥温度、正極結着剤の種類、および電解液の無水ジカルボン酸の含有率の少なくとも1つを表1に示すように変更した以外は、実施例1-1と同様にして電池1を作製した。
【0151】
実施例1-2~1-3および比較例1-1,1-3~1-4および1-6の電池1について、実施例1-1と同様にして正極合剤31の強度比I2/I1の決定およびXRDピークシフトの確認を行った。さらに、実施例1-1と同様にして評価(膨れ量の測定およびOCV不良率の算出)を行った。測定結果および評価結果を表1にまとめた。
【0152】
<実施例1-4>
実施例1-4では、正極活物質の還元処理方法を変更し、分散液の溶媒の種類、乾燥温度、正極結着剤の種類、および電解液の無水ジカルボン酸の含有率の少なくとも1つを表1に示すように変更した以外は、実施例1-1と同様にして電池1を作製した。
【0153】
実施例1-4では、正極活物質の還元処理をオーブンでの加熱に代えて、スプレードライ法を用いた。具体的には、調製した正極合剤分散液をスプレードライヤー(大川原化工機株式会社製「MOC-16」)に投入し、以下の条件で還元処理を行った。
・本体210に温度勾配を設定した。詳しくは、本体210に供給する熱風の温度(インプット温度)を205℃とし、本体210から排出する熱風の温度(アウトプット温度)を105℃(インプット温度より100℃低い温度)とした。なお、表1の乾燥温度欄の数値は、インプット温度を示す。
・ディスクの回転数は、15,000rpmであった。
・正極合剤分散液の処理量は、14.0kg/時間であった。なお、正極合剤分散液は、高粘度であるため、正極合剤分散液の本体210内への供給には、モーノポンプを用いた。
【0154】
実施例1-1と同様にして正極合剤31の強度比I2/I1の決定およびXRDピークシフトの確認を行った。さらに、実施例1-1と同様にして評価(膨れ量の測定およびOCV不良率の算出)を行った。測定結果および評価結果を表1にまとめた。
【0155】
<実施例1-5~1-6ならびに比較例1-2,1-5および1-7~1-8:スプレードライ法による正極合剤の還元処理>
実施例1-5~1-6ならびに比較例1-2,1-5および1-7~1-8について、正極合剤分散液の溶媒の種類、正極合剤分散液の乾燥温度、正極結着剤の種類、および電解液の無水ジカルボン酸の含有率の少なくとも1つを表1に示すように変更した以外は、実施例1-4と同様にして電池1を作製した。
【0156】
実施例1-5~1-6ならびに比較例1-2,1-5および1-7~1-8の電池1について、実施例1-1と同様にして正極合剤31の強度比I2/I1の決定およびXRDピークシフトの確認を行った。さらに、実施例1-1と同様にして評価(膨れ量の測定およびOCV不良率の算出)を行った。測定結果および評価結果を表1にまとめた。
【0157】
【0158】
<実施例1-1~1-6および比較例1-1~1-8の結果>
図6~8を参照して実施例1-1および1-4~1-6のX線回折スペクトルの低角度側へのシフトについて述べる。
図6は、実施例1-1の正極合剤のX線回折スペクトルを示すグラフである。
図7は、
図6の41.3°付近のA部拡大図である。
図8は、実施例1-4~1-6の正極合剤のX線回折スペクトルを示すグラフである。
【0159】
図6~
図7に示すように、実施例1-1のX線回折スペクトルでは、Mn
4+(MnO
2)に帰属される回折角2θ=41.3°のピークが観測され、Mn
2+(MnO)に帰属される回折角2θ=41.3°の低角度側に位置するピーク(つまり、低角度側へのシフト)は観測されなかった。
図8に示すように、実施例1-4(
図8中、実線で表記)および実施例1-6(
図8中、一点鎖線で表記)では、回折角2θ=41.3°のピーク、およびその低角度側に位置するピークが観察された。実施例1-5(
図8中、破線で表記)では、回折角2θ=41.3°の低角度側に位置するピークが観察された。
【0160】
表1に示すように、実施例1-1~1-6の電池1は、二酸化マンガンを含有する正極合剤を含む正極と、リチウム元素を含む負極と、非水系電解液とを備えていた。また、正極合剤のXPSスペクトルにおいてMn2p3/2のピーク強度比I2/I1は0.31~0.55であった。つまり、実施例1-1~1-6の電池1は、請求項1に係る発明の範囲内に包含される電池であった。
表1に示すように、実施例1-1~1-6の電池1は、膨れ量が0.05~0.70mmであり、OCV不良率が0.0~9.5%であった。
【0161】
これに対して、比較例1-1~1-8の電池は、正極合剤のXPSスペクトルにおいてMn2p3/2のピーク強度比I2/I1は0.20~0.26または0.60であった。つまり、実施例1-1~1-7の電池1は、請求項1に係る発明の範囲内に包含される電池ではなかった。
表1に示すように、比較例1-1~1-7の電池では、膨れ量が1.23~1.80mmであった。また、比較例1-8の電池では、OCV不良率が63.1%であった。
【0162】
よって、請求項1に係る発明の範囲内に包含される実施例1-1~1-6の電池1は、請求項1に係る発明の範囲内に包含されない比較例1-1~1-8の電池に比べ、膨れ量が小さくかつОCV不良率が低減されており、高温環境下での耐熱性が優れていることを示している。
【0163】
<実施例2-1~2-2および実施例3-1~3-4:非水系電解液の溶媒>
実施例2-1~2-2および実施例3-1~3-4について、正極合剤分散液の溶媒の種類を表2に示すように変更した以外は、実施例1-5と同様にして電池1を作製した。実施例2-1~2-2および実施例3-1~3-4の電池1について、実施例1-1と同様にして正極合剤31の強度比I2/I1の決定を行った。また、実施例1-5と同様にして評価(加熱処理(260℃、5分)後の膨れ量の測定)を行った。さらに、別の評価として、加熱処理(260℃、5分)後の膨れ量の測定および開回路電圧(OCV)の測定を行った。測定結果および評価結果を表2にまとめた。
【0164】
【0165】
表2に示すように、実施例2-1~2-2および3-1~3-4の電池1は、二酸化マンガンを含有する正極合剤を含む正極と、リチウム元素を含む負極と、非水系電解液とを備えていた。また、正極合剤のXPSスペクトルにおいてMn2p3/2のピーク強度比I2/I1は0.38~0.43であった。つまり、実施例2-1~2-2および実施例3-1~3-4の電池1は、請求項1に係る発明の範囲内に包含される電池であった。
【0166】
これらのうち、実施例1-5、2-1および3-1~3-4の電池1では、非水電解液がプロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートのうちの少なくとも一方の溶媒を含んでいた。実施例1-5、2-1および3-1~3-4の電池1は、請求項5に係る発明の範囲内に包含される電池であった。
表2に示すように、実施例1-5、2-1および3-1~3-4の電池1は、膨れ量(260℃、5分間での膨れ量)が0.20~0.61mmであった。
【0167】
これに対して、実施例2-2の電池1では、非水電解液がエチレンカーボネートを含み、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートのうちの少なくとも一方の溶媒を含んでいなかった。実施例2-2の電池1は、請求項5に係る発明の範囲内に包含される電池ではなかった。
表2に示すように、実施例2-2の電池1は、膨れ量(150℃、100時間での膨れ量)が0.63mmであった。
【0168】
よって、請求項1に係る発明のうち、請求項5に係る発明の範囲内に包含される実施例1-5、2-1および3-1~3-4の電池1は、請求項5に係る発明の範囲内に包含されない実施例2-2の電池に比べ、膨れ量が小さく高温環境下(260℃、5分間)での耐熱性が優れていることを示していた。
【0169】
また、表2に示すように、実施例3-1~3-3の電池1では、非水電解液がプロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートのうちの少なくとも一方の溶媒を含み、これに加え、ジグライム、トリグライムおよびテトラグライムからなる群より選択される少なくとも1種をさらに含んでいた。つまり、実施例3-1~3-3の電池1は、請求項6に係る発明の範囲内に包含される電池であった。
表3に示すように、実施例3-1~3-3の電池1は、膨れ量が0.12~0.13mmであった。
【0170】
これに対して、表2に示すように、実施例1-5および2-2の電池1では、非水電解液がプロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートのうちの少なくとも一方の溶媒のみを含んでいた。つまり、実施例1-5および2-2の電池1は、請求項6に係る発明の範囲内に包含される電池ではなかった。
表3に示すように、実施例1-5および2-2の電池1は、膨れ量が0.26~0.29mmであった。
【0171】
よって、請求項1に係る発明のうち、請求項6に係る発明の範囲内に包含される実施例3-1~3-3の電池1は、請求項6に係る発明の範囲内に包含されない実施例1-5および2-2の電池に比べ、膨れ量が小さく高温環境下(150℃、100時間)での耐熱性が優れていることを示していた。
【0172】
<実施例4-1~4-4:正極リング>
実施例4-1~4-4は、正極リングを備えること以外は、実施例1-5と同様にして電池を作製した。正極リングの配置および正極リングの正極容器への溶接による固定の有無を表3にまとめた。また、実施例1-5と同様に膨れ量の測定を行った。さらに、260℃5分保存後に23℃15kΩで168mAh放電を行った、すなわちDOD80%の状態にした電気抵抗を測定した。結果を表3にまとめた。
【0173】
【0174】
表3に示すように、実施例4-1~4-4の電池1は正極リングをさらに備えており、これらのうち、実施例4-1~4-2は正極リングを正極容器に溶接で固定していた。請求項1に係る発明の範囲内に包含される実施例4-1~4-4のうち、正極リングが溶接で正極容器に固定された実施例4-1~4-2は、正極リングが溶接で正極容器に固定されていない実施例4-3~4-4に比べ、DOD80%後の電気抵抗が低減していた。
【0175】
<実施例5-1~5-2正極導電剤の含有率>
実施例5-1~5-2は、正極導電剤としてのカーボンブラック(CB)および黒鉛の含有率を変更した以外は実施例1-5と同様にして電池を作製した。また、実施例1-5と同様に膨れ量の測定を行った。また、放電容量およびペレット吸液量を測定した。測定結果を表4にまとめた。
【0176】
【0177】
表4に示すように、正極導電剤としてのカーボンブラック(CB)の含有率が4.0%以下である実施例1-5および実施例5-1は、CBの含有率が4.0%を超える実施例5-2に比べ、膨れ量を保持しつつ、放電容量を高めることができる。
また、正極導電剤としてのカーボンブラック(CB)の含有率が4.0%以上である実施例5-1~5-2は、CBの含有率が4.0%未満である実施例1-5に比べ、膨れ量を保持しつつ、ペレット吸液量を高められる。
【0178】
<実施例6-1~6-2:負極の構成材質>
実施例6-1~6-2では、負極の構成材質を変更した以外は、実施例1-5と同様にして電池を作製した。測定結果を表5にまとめた。表5中の「負極」欄の「Li+Al」はリチウムアルミニウム合金を示し、「Li+カーボン」はカーボンブラックとリチウムとの反応生成物を示す。実施例1-5と同様に膨れ量の測定を行った。
【0179】
【0180】
表5に示すように、請求項1に係る発明の範囲内に包含される実施例1-5および6-1~6-2のうち、リチウム合金で構成される負極を備える実施例6-1~6-2は、金属リチウムで構成される負極を備える実施例1-5に対して、膨れ量が低減され、耐熱性が向上していた。
【0181】
<実施例7-1~7-2:質量比W2/W1>
実施例7-1~7-2では、正極合剤の質量W2に対する電解液の質量W1の比(W2/W1)を変更した以外は、実施例1-5と同様にして電池を作製した。加熱処理(260℃、5分間)後の放電容量、IEC基準における放電評価、および漏洩評価を行った。測定結果および評価結果を表6にまとめた。
【0182】
【0183】
0.20≦W2/W1≦0.23である実施例1-5および実施例7-1~7-2では、IEC基準の放電を満たし、高温環境下での放電も良好であり、保存後の漏洩も起こらなかった。
【0184】
<実施例8-1~8-4>
実施例8-1~8-4では、正極合剤の比表面積を変更した以外は、実施例1-5と同様にして電池を作製した(表7)。
【0185】
【0186】
請求項1に係る発明の範囲内に包含される実施例1-5および8-1~8-4のうち、正極合剤の比表面積が10m2/g以上30m2/g以下である実施例1-5および実施例8-1~8-2では、正極合剤の比表面積が10m2/g未満または30m2/g超である実施例8-3~8-4に比べ膨れ量0.70mm以下でありかつOCVが3.13V以上であった。
【0187】
<実施例9-1~9-4>
実施例9-1~9-4では、正極合剤における正極活物質の含有率および正極導電剤の含有率を変更した以外は、実施例1-5と同様にして電池を作製した。また、放電容量およびペレット割れの発生率を測定した。測定結果を表8にまとめた。
【0188】
【0189】
表8に示すように、請求項1に係る発明の範囲内に包含される実施例1-5および9-1~9-4のうち、正極導電剤としてのグラファイト(黒鉛)の含有率が正極30 100質量%に対して6.5重量%~20.5重量%である実施例1-5、9-1および9-4では、3.5重量%~4.5重量%である実施例9-2~9-3に比べ、ペレット割れ発生率が低かった。
また、請求項1に係る発明の範囲内に包含される実施例1-5および9-1~9-4のうち、正極導電剤としてのグラファイト(黒鉛)の含有率が正極30 100質量%に対して3.5重量%~6.5重量%重量%である実施例1-5、9-2~9-3では、18.5重量%~20.5重量%である実施例9-1および9-4に比べ、放電容量が高かった。
【0190】
本開示に係る非水系電解液電池の態様は、以下の通りである。
<1>
二酸化マンガンを含有する正極合剤を含む正極と、リチウム元素を含む負極と、非水系電解液とを備え、
前記正極合剤のX線光電子分光法(XPS)スペクトルにおいて、Mn2p
3/2のピーク強度比I
2/I
1が以下の数式(1):
【数5】
[前記数式(1)中、I
1は、642eVの結合エネルギーにおけるピーク強度を示し、I
2は640eVの結合エネルギーにおけるピーク強度を示す]
を満たす、非水系電解液電池。
<2>
前記正極合剤は、X線源としてCuKα線を用いたX線回折測定で得られるX線回折スペクトルにおいて、
回折角2θ=41.3°±0.1°の低角度側にシフトした(200)面の回折ピークを有する、<1>に記載の非水系電解液電池。
<3>
前記非水系電解液が一般式(1):
【化3】
[前記一般式(1)中、Wは2z個の水素が脱離したベンゼン系芳香族環を示し、zは2以上の整数を示す)
で表される無水ジカルボン酸を含む、<1>または<2>に記載の非水系電解液電池。
<4>
前記正極合剤は正極結着剤を含み、該正極結着剤はポリフッ化ビニリデンである、<1>~<3>のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
<5>
前記非水系電解液は、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートうちの少なくとも一方の溶媒を含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
<6>
前記非水系電解液は、ジグライム、トリグライムおよびテトラグライムからなる群より選択される少なくとも1種の溶媒をさらに含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
<7>
前記非水系電解液は、過塩素酸リチウムを含み、
前記過塩素酸リチウムの含有率は、前記非水系電解液100質量%に対して0.5質量%以上12質量%以下である、<1>または<2>に記載の非水系電解液電池。
<8>
さらに正極リングと、前記正極合剤を収容する正極容器とをさらに備え、
前記正極リングは、断面視でL字の形状を有し、
前記正極リングは、前記正極合剤の側面の一部と底面の一部とを被覆し、
前記正極リングの一部は、前記正極容器の内底面に接合されている、<1>~<7>のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
<9>
前記正極合剤は、さらにカーボンブラックを含み、
前記カーボンブラックの含有率は、前記正極合剤100質量%に対して0.5質量%以上4質量%以下である、<1>~<8>のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
<10>
前記正極合剤と前記負極との間にセパレータと、前記負極と前記セパレータとの間に負極導電層とをさらに備え、
前記負極導電層は、銀、リチウムアルミニウム合金および炭素材料のうちの少なくとも一方を含む、<1>~<9>のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
<11>
さらにガスケットを備え、
前記ガスケットはポリフェニレンサルファイドを含み、
正極合剤に対する非水系電解液の質量比が以下の数式(2):
【数6】
[前記数式(2)中、W
2(g)は正極合剤の質量を示し、W
1(g)は前記非水系電解液の質量を示す]
を満たす、<1>~<10>のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
<12>
前記正極合剤の比表面積が、10.3m
2/g以上28.0m
2/g以下である、<1>~<11>のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
<13>
前記二酸化マンガンの含有率が、前記正極合剤100質量%に対して80質量%以上94質量%以下である、<1>~<12>のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
<14>
前記正極、前記負極および前記非水系電解液が収容された電池缶を備え、前記電池缶は金属製の正極容器と金属製の負極容器とを含む、<1>~<13>のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
<15>
前記正極合剤は、さらにカーボンブラックを含み、
前記カーボンブラックの含有率は、前記正極合剤100質量%に対して4質量%以上である、<1>~<14>のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
本開示に係る非水系電解液電池は、小型の電子機器に用いられ、例えば、一般電子機器(より具体的には、時計、カメラ、電卓、電子手帳および携帯ゲーム機等)、付属機器(より具体的には、リモコンおよびスマートキー等)、小型産業機器(より具体的には、タグ等)、小型医療機器(より具体的には、電子体温計等)ならびにその他(より具体的には、メモリバックアップ等)に用いることができる。