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特開2024-118468半導体素子の製造方法および半導体デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118468
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】半導体素子の製造方法および半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20240823BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20240823BHJP
   C30B 33/04 20060101ALI20240823BHJP
   B23K 26/57 20140101ALI20240823BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240823BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20240823BHJP
   H01L 33/32 20100101ALN20240823BHJP
   H01L 33/02 20100101ALN20240823BHJP
   H01S 5/02 20060101ALN20240823BHJP
   H01L 31/08 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
H01L21/02 C
C30B29/38 D
C30B33/04
B23K26/57
H01L21/304 601Z
H01L21/20
H01L33/32
H01L33/02
H01S5/02
H01L31/08 K
【審査請求】有
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024062912
(22)【出願日】2024-04-09
(62)【分割の表示】P 2022518083の分割
【原出願日】2021-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2020079547
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020110022
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】西村 剛太
(57)【要約】      (修正有)
【課題】半導体層を下地基板から分離する際の、下地基板及び半導体層の損傷を低減し、高品質の半導体素子を製造することが可能になるとともに、半導体素子の生産効率を向上させる半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体素子において、第1半導体部SL1は、下地基板UKに向けて突出する凸部TSを有する。凸部は、窒化物半導体を含み、凸部と下地基板とが接合する。半導体基板HKは、下地基板及び第1半導体部間に位置する中空部TKを有する。中空部は、凸部の側面に接し、かつ、半導体基板の外部に通じている。半導体素子の製造方法は、第1半導体部を半導体基板から離隔する前に、凸部TSへのレーザ光LZの照射を行い、凸部の側面から内部へと進む異方性エッチングを行う。凸部TSの幅は、第1半導体部の幅よりも小さいため、第1半導体部を下地基板UKから離隔が容易である。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板の第1面に、前記第1面に沿った方向に隣り合う半導体層同士を前記第1面に沿った方向に少なくとも部分的に離隔させるように、結晶成長によって複数の半導体層を準備する工程と、
前記複数の半導体層の各々と前記第1面との接続部にレーザ光を照射する工程と、
前記複数の半導体層を前記下地基板から分離する工程と、を含む半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記下地基板、前記接続部および前記複数の半導体層は、窒化物半導体を含んでいる、請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記下地基板、前記接続部および前記複数の半導体層は、窒化ガリウム半導体を含んでいる、請求項2に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記レーザ光を、前記第1面とは反対側の前記下地基板の第2面から入射させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記接続部にピコ秒パルスレーザ光またはフェムト秒パルスレーザ光を照射する、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記接続部にサブナノ秒パルスレーザ光またはナノ秒パルスレーザ光を照射する、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記下地基板を前記第1面に垂直な軸線の回りに回転させながら、前記レーザ光を前記下地基板の外周部から中央部に向かって走査する、請求項1~6のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記下地基板を加熱または冷却し、前記下地基板の温度を所定の温度範囲内に維持する、請求項1~7のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記レーザ光の焦点を、前記接続部の前記下地基板側の端部に合わせる、請求項1~8のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記レーザ光の焦点を、前記接続部の前記半導体層側の端部に合わせる、請求項1~8のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記レーザ光の焦点を、前記接続部における、前記下地基板側の端部と前記半導体層側の端部との間に位置する中間部に合わせる、請求項1~8のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項12】
前記複数の半導体層を前記下地基板から分離する工程は、
前記下地基板の前記第1面と対向させる第3面を有する支持基板を準備する工程と、
前記支持基板の前記第3面を、前記複数の半導体層の各々における、前記下地基板の前記第1面に対向する面とは反対側の第4面に接合する工程と、
前記下地基板と前記支持基板とを相対的に離隔させ、前記複数の半導体層を前記下地基板から剥離する工程と、を含む請求項1~11のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項13】
下地基板上に、接続部を介して位置する半導体素子を形成する素子形成工程と、
前記接続部を、エッチング溶液に接触させた状態で光を照射する光照射工程と、
前記半導体素子を前記下地基板から分離する分離工程と、
を含む半導体素子の製造方法。
【請求項14】
前記素子形成工程と前記光照射工程とを並行して行う、請求項13に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項15】
前記光照射工程において、前記光としてレーザ光を用い、前記接続部の少なくとも一部に前記レーザ光を照射する、請求項13または14に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項16】
前記光照射工程は、前記下地基板の基板面内における任意方向へ前記レーザ光を走査させる工程を含む、請求項15に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項17】
前記素子形成工程の前または後に、前記下地基板と対向させる対向面を有する支持基板を準備する準備工程と、
前記光照射工程の前に、前記素子形成工程で形成した前記半導体素子の上に、前記支持基板を、前記対向面が前記下地基板に対向するように配置した状態で、前記支持基板側と前記下地基板側との間に圧力がかかるように、前記支持基板および前記下地基板の少なくも一方を押圧しながら加熱または光の照射を行い、前記半導体素子に前記支持基板を接合する接合工程と、をさらに含む請求項13~16のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項18】
前記分離工程は、半導体素子および前記下地基板の少なくとも一方に、複数の結晶面を有する粗面領域を形成する、請求項13~17のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項19】
下地基板と、前記下地基板に一部で接続した第1半導体部とを有する半導体基板を準備する工程と、
前記下地基板から前記第1半導体部を離隔する工程と、を含み、
前記第1半導体部を剥離する以前に、前記第1半導体部の前記一部にレーザ光を照射する、半導体素子の製造方法。
【請求項20】
前記第1半導体部を剥離する前に、前記下地基板および前記第1半導体部との間に、前記半導体基板の外部に通じている中空部を形成する、請求項19に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項21】
前記第1半導体部は、前記下地基板に向けて突出し、前記下地基板に接合した窒化物半導体を含む凸部を有し、
前記中空部は、前記凸部の側面に接しており、
前記第1半導体部を離隔する前に、前記中空部へのエッチング液の注入を行う、請求項20に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項22】
前記下地基板上に位置し、マスク部および開口部を含むマスクの上に、ELO法によって前記第1半導体部を形成し、その後前記マスク部を除去することで前記中空部を形成する、請求項21に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項23】
前記凸部が前記開口部に形成される、請求項22に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項24】
前記凸部は、前記窒化物半導体の<1-100>方向を長手方向とする形状である、請求項21~23のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項25】
前記第1半導体部には、平面視で前記凸部と重ならず、貫通転位密度が前記凸部の1/5以下である低転位部が含まれる、請求項21~24のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項26】
前記半導体基板は第2半導体部を含み、
前記第1および第2半導体部が前記窒化物半導体の<11-20>方向に並ぶ、請求項21~25のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項27】
前記半導体基板は、前記第1半導体部上に形成されたデバイス部を有する、請求項19~26のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項28】
前記半導体基板では、前記第1半導体部および前記デバイス部が複数の半導体素子部に分割されている、請求項27に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項29】
前記半導体基板は、前記下地基板と対向する支持基板を含み、前記下地基板と前記支持基板との間に前記第1半導体部が位置する、請求項19~28のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項30】
前記窒化物半導体はGaN系半導体であり、
前記下地基板は、前記GaN系半導体と格子定数の異なる異種基板と、前記異種基板上に形成され、窒化物半導体を含むシード部とを有する、請求項21~26のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項31】
前記レーザ光の照射によって、前記凸部にレーザアブレーションを生じさせ、
レーザアブレーションによって生じる気体が前記中空部を通って前記半導体基板の外部に放出される、請求項21~26のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項32】
前記凸部の側面に前記エッチング液を接触させながら前記凸部にレーザ光を照射することで、前記凸部の側面から内部へと進む異方性エッチングを行う、請求項21~26のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項33】
前記凸部の窒化物半導体を、光励起で生じた正孔および前記エッチング液のアニオンを用いて酸化物とし、前記酸化物を前記エッチング液に溶解させる、請求項32に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項34】
前記凸部は、優先的にエッチングが進行するターゲット部を含む、請求項32または33に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項35】
前記前記ターゲット部に含まれる窒化物半導体は、上側および下側の隣接部に含まれる窒化物半導体よりもバンドギャップが小さい、請求項34に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項36】
前記レーザ光は、前記ターゲット部に含まれる窒化物半導体のバンドギャップよりも大きなエネルギーを有するUV光である、請求項35に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項37】
前記ターゲット部は、インジウムおよびガリウムを含む、請求項35または36に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項38】
前記ターゲット部は、上側および下側の隣接部よりも空隙率が高い、請求項34に記載の半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造方法において、基板上に形成された半導体層を基板から分離する技術が種々提案されている(例えば、下記の特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特許第4638958号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の半導体素子の製造方法は、下地基板の第1面に、前記第1面に沿った方向に隣り合う半導体層同士を前記第1面に沿った方向に少なくとも部分的に離隔させるように、エピタキシャル成長によって複数の半導体層を形成する形成工程と、前記複数の半導体層の各々と前記第1面との接続部にレーザ光を照射して、前記接続部を脆弱化する脆弱化工程と、前記複数の半導体層を前記下地基板から分離する分離工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】本開示の一実施形態に係る半導体素子の製造方法を説明するための図である。
図2】本開示の一実施形態に係る半導体素子の製造方法における形成工程を説明するための図である。
図3】下地基板上に形成された複数の半導体層のパターン形状を示す平面図である。
図4】本開示の一実施形態に係る半導体素子の製造方法における分離工程の変形例を説明するための図である。
図5】本開示の一実施形態の半導体素子の製造方法の各工程を示すフローチャートである。
図6A】下地基板上にマスク層を介して半導体素子が形成された状態を示す断面図である。
図6B】マスクが除去された状態を示す断面図である。
図6C】接続部を脆弱化する工程を説明するための断面図である。
図7】マスクのパターン形状を示す平面図である。
図8A】分離工程を説明するための断面図である。
図8B】分離工程を説明するための断面図である。
図8C】分離工程を説明するための断面図である。
図9A】接続部のエッチング形状を示す断面図である。
図9B】接続部のエッチング形状を示す断面図である。
図9C】接続部のエッチング形状を示す断面図である。
図10】実施形態3にかかる半導体素子の製造方法の製造方法を示す断面図である。
図11】実施形態3にかかる半導体素子の製造方法の製造方法を示す断面図である。
図12】下地基板の構成例を示す断面図である。
図13】半導体基板の構成例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
〔実施形態1〕
以下、本開示の実施形態1について、図面を参照しつつ説明する。図面は、図解を容易にするために、模式的に示されている。図1から図4を参照しながら説明する。
【0007】
図1において、「工程a」は形成工程を示し、「工程b」は脆弱化工程を示し、「工程c」は分離工程を示す。図2において、「工程a1」はマスク形成工程を示し、工程「a2」は半導体層形成工程を示し、「工程a3」はマスク除去工程を示す。図4において、「工程c1」は準備工程を示し、「工程c2」は接合工程を示し、「工程c3」は剥離工程を示す。
【0008】
本実施形態の半導体素子の製造方法は、形成工程aと、脆弱化工程bと、分離工程cと、を含む。形成工程aは、エピタキシャル気相成長の一つである、例えば選択横方向成長(Epitaxial Lateral Overgrowth;ELO)法によって、下地基板1上に、各々が接続部2によって下地基板1に接続された、複数の半導体層3を形成する工程である。また、脆弱化工程bは、接続部2にレーザ光5を照射して、接続部2を脆弱化する工程である。さらに、分離工程cは、複数の半導体層3を下地基板1から分離する工程である。
【0009】
各半導体層3は、例えば、劈開面が形成され、さらに、電極、配線導体等が配置されて、1つまたは複数の半導体素子Sとなる。半導体素子Sとしては、例えば、発光ダイオード(Light Emitting Diode;LED)、半導体レーザ(Laser Diode;LD)、フォトダイオード(Photodiode;PD)等が挙げられるが、これらに限るものではない。
【0010】
下地基板1は、半導体結晶の成長の起点を含む平坦な一方主面(以下、第1面ともいう)1a、第1面1aとは反対側の平坦な他方主面(以下、第2面ともいう)1b、および第1面1aと第2面1bとを接続する側面(以下、第3面ともいう)1cを有する。下地基板1は、少なくとも第1面1aが、窒化物半導体によって構成されている。下地基板1は、例えば、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)等の窒化物半導体から成る基板でよい。
【0011】
本実施形態で使用する下地基板1は、GaN単結晶インゴットから切り出したGaN基板である。下地基板1は、半導体結晶の成長の起点を含む第1面1aが所定の面方向になるように、単結晶インゴットから切り出されている。下地基板1は、GaNにSiなどの不純物がドープされたn型基板であってもよく、GaNにMgなどの不純物がドープされたp型基板であってもよい。下地基板1における不純物密度は、例えば、1×1019cm-3程度以下である。
【0012】
(a)形成工程
形成工程aは、ELO法によって、下地基板1の第1面1a上に複数の半導体層3を形成する工程である。形成工程aでは、第1面1aに沿った方向に隣り合う半導体層3同士を第1面1aに沿った方向に少なくとも部分的に離隔させるように、複数の半導体層3を形成する。
【0013】
形成工程aは、以下に示す、マスク形成工程a1と、半導体層形成工程a2と、マスク除去工程a3とを含む。
【0014】
(a1)マスク形成工程
マスク形成工程a1は、下地基板1上に、半導体結晶の結晶を抑制する堆積抑制マスク(以下、単に、マスクともいう)6を形成する工程である。マスク形成工程a1では、先ず、下地基板1の第1面1a上にマスク6の材料となる酸化シリコン(例えばSiO等)を、プラズマ化学的気相成長(Plasma Chemical Vapor Deposition;PCVD)法等によって、第1面1a上に例えば100nm程度積層する。続いて、例えば、フォトリソグラフィー法とバッファードフッ酸(Buffered Hydrogen Fluoride;BHF)によるウェットエッチングとを用いて、酸化シリコン層をパターニングする。このようにして、第1面1a上にマスク6を所定のパターンで形成する。
【0015】
マスク6は、例えば、帯状部61を所定の間隔で複数本平行に並べたストライプ状であってもよい。隣り合う2つの帯状部61の間の、マスクウィンドウとも称される開口部62の幅は、例えば2μmから20μm程度である。帯状部61の幅は、例えば50μmから200μm程度である。
【0016】
下地基板1の第1面1aにおける、第3面1c近傍の縁部領域も、マスク6によって覆われていてもよい。これにより、第1面1aの縁部領域に成長する半導体層3を、下地基板1からきれいに確実に分離することが可能になる。さらに、第1面1aの縁部領域に半導体結晶が異常成長することを抑制できる。
【0017】
(a2)半導体層形成工程
半導体層形成工程a2では、下地基板1の第1面1aにおける、マスク6に覆われておらず、開口部62に露出している領域から、GaN結晶を気相成長させる。
【0018】
半導体結晶を成長させるための方法として、例えば、III族原料に塩化物を用いる塩化物輸送法による気相成長(Vapor Phase Epitaxy;VPE)、またはIII族原料に有機金属を用いる有機金属化学蒸着(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;MOCVD)を用いることができる。例えば、GaN結晶の成長中にIII族元素の原料ガスの割合、不純物の原料ガスの割合等を変化させることによって、半導体層3を発光ダイオード(Light Emitting Diode;LED)または半導体レーザ(Laser Diode;LD)等として機能する多層膜として形成することができる。
【0019】
成長した半導体結晶がマスク6の開口部62を超えると、マスク6の上面に沿って横方向にも半導体結晶が成長する。半導体結晶の成長は、第1面1aから成長した半導体結晶が、隣り合う半導体結晶と互いに重なる前に終了させてもよい。このようにして、例えば図1,2に示すように、各々が接続部2によって第1面1aに接続された、複数の半導体層3を得る。接続部2は、半導体層3と同様に、例えばGaN結晶から成る。接続部2は、例えば、幅が2μmから20μm程度であり、高さが100nmから500nm程度である。各半導体層3は、例えば、幅が50μmから200μm程度であり、高さが10μmから50μm程度である。半導体結晶の成長は、マスク6の上面に沿って横方向に成長する半導体結晶が、隣り合う半導体結晶と重なるまで継続してもよい。この場合、複数の接続部2によって第1面1aに接続された半導体層を得る。
【0020】
(a3)マスク除去工程
マスク除去工程a3は、半導体層形成工程a2の完了後、マスク6を除去する工程である。マスク除去工程a3では、半導体層3が形成された下地基板1を気相成長装置(エピタキシャル装置)から取り出し、半導体層3を実質的に侵さないエッチャントを用いて、マスク6を除去する。
【0021】
例えば、マスク6が酸化シリコン膜から成る場合、BHFを用いたウェットエッチングを行って、マスク6を除去する。このようにして、例えば図1に示すように、各々が接続部2によって第1面1aと接続された、複数の半導体層3が得られる。
【0022】
複数の半導体層3の各々は、平面視において、所定の方向に延びていてもよい。また、複数の半導体層3は、平面視において、例えば図3に示すようなパターンを形成してもよい。複数の半導体層3は、例えば図3(a)に示すように、所定の方向に延びるストライプ状のパターンを形成してもよい。複数の半導体層3は、例えば図3(b)に示すように、千鳥状に配列され、所謂、リピート柄パターンを形成してもよい。複数の半導体層3は、例えば図3(c)に示すように、各半導体層3が、その両端部において、隣り合う半導体層3と接続されている格子状のパターンを形成してもよい。
【0023】
(b)脆弱化工程
脆弱化工程bは、接続部2にレーザ光5を照射して、接続部2を脆弱化する工程である。脆弱化工程bでは、レーザ光5の照射によって、例えば、接続部2を熱変性させ、接続部2の結晶構造を変化させることができる。これにより、例えば、接続部2にクラック、割れ等を生じさせ、接続部2の機械的強度を低下させることができる。脆弱化工程bでは、レーザ光5の照射によって、接続部2を完全に、または部分的に切断してもよい。
【0024】
レーザ光5の波長は、例えば、370nm以下であってもよい。レーザ光5を出力する光源としては、例えば、AlGAN系半導体レーザ、KrFエキシマレーザ、ArFエキシマレーザ、YAGレーザ(第三高調波)等を用いることができる。レーザ光5の焦点距離およびスポットサイズは、下地基板1、接続部2および半導体層3の寸法等に応じて、適宜選択することができる。
【0025】
レーザ光5は、下地基板1の第1面1a側から照射されてもよく、下地基板1の第2面1b側から照射されてもよい。レーザ光5は、下地基板1の第3面1c側から照射されてもよい。
【0026】
(c)分離工程
分離工程cは、複数の半導体層3を下地基板1から分離する工程である。分離工程cでは、例えば、半導体層3にブレードを当接させる、または接続部2に超音波を照射する等して、脆弱化された接続部2に力を加える。これにより、接続部2を破断し、半導体層3を下地基板1から分離することができる。
【0027】
脆弱化工程bにおいて、接続部2をレーザ光5の照射によって完全に切断する場合には、分離工程cを省略することができる。
【0028】
本実施形態の半導体素子の製造方法によれば、下地基板1の第1面1a上に形成される複数の半導体層3は、第1面1aに沿った方向に隣り合う半導体層3同士が、第1面1aに沿った方向に少なくとも部分的に離隔している。このため、接続部2へのレーザ光5の照射によって発生し、半導体層3と下地基板1との間の空間に充満する分解生成ガスまたは蒸発ガスなどを外部に放出することができる。ガスの外部への放出は、例えば図1において矢印で示すように、隣り合う半導体層3同士の間の間隙(以下、放出経路ともいう)Gを介して行うことができる。これにより、分解生成ガスまたは蒸発ガスなどの圧力による半導体層3および下地基板1の損傷を低減することができる。その結果、高品質の半導体素子Sを製造することが可能になる。また、下地基板1は、損傷した部位を除去するための研磨を行うことなく、あるいは、少量の研磨だけを行って、再使用することができる。これにより、半導体素子Sの生産効率を向上させることが可能になるとともに、下地基板1の再使用可能回数を増加させ得る半導体素子Sを提供できる。
【0029】
また、本実施形態の半導体素子の製造方法では、レーザ光5を下地基板1全体に照射する必要はなく、各半導体層3と第1面1aとを接続する接続部2だけに照射すればよい。このため、半導体層3および下地基板1が過度に加熱されることを抑制でき、半導体層3および下地基板1の熱的損傷を低減することができる。その結果、高品質の半導体素子Sを製造することが可能になる。また、下地基板1は、損傷した部位を除去するための研磨を行うことなく、あるいは、少量の研磨だけを行って、再使用することができる。これにより、半導体素子Sの生産効率の向上および半導体素子Sの製造コストの低減が可能になる。
【0030】
また、本実施形態の半導体素子の製造方法では、下地基板1、接続部2および半導体層3は、GaN結晶から成るため、それらの屈折率は、実質的に、同一である。これにより、下地基板1と接続部2との界面、および接続部2と半導体層3との界面におけるレーザ光5の屈折および反射を低減することができる。その結果、レーザ光5を高精度かつ高効率に接続部2に照射することができる。ひいては、高品質の半導体素子Sを製造することが可能になる。また、半導体素子Sの生産効率の向上が可能になる。
【0031】
半導体層形成工程a2において、半導体結晶の成長を隣り合う半導体結晶同士が互いに重なるまで継続し、複数の接続部2によって第1面1aに接続された半導体層を形成する場合、脆弱化工程bを行う前に、該半導体層に、その厚み方向に貫通する貫通孔を形成しておいてもよい。これにより、半導体層と下地基板1との間の空間に充満する分解生成ガスまたは蒸発ガスを、貫通孔を介して、外部に放出することができる。その結果、複数の接続部2によって第1面1aに接続された半導体層を形成する場合であっても、高品質の半導体素子Sを製造することが可能になるとともに、半導体素子Sの生産効率の向上が可能になる。
【0032】
脆弱化工程bでは、レーザ光5を、下地基板1の第2面1b側から照射し、第2面1bから下地基板1に入射させてもよい。下地基板1は、サファイア基板、SiC基板等の表面にGaN層を形成して成る異種基板ではなく、概略同一材料から成る基板であるため、下地基板1の屈折率が実質的に一定である。このため、レーザ光5を下地基板1の第2面1bから入射させることによって、レーザ光5を接続部2に高精度に集光することができる。また、レーザ光5を半導体層3が形成されていない第2面1b側から照射することによって、レーザ光5の照射が半導体層3を変性させる虞を低減できる。さらに、下地基板1の屈折率が実質的に一定であるため、レーザ光5を接続部2に集光するための光学系として、簡易な構成のレンズ光学系を使用することができる。これにより、半導体素子Sの生産効率を向上させることができる。なお、本記載は、本開示において、サファイア基板、SiC基板などの異種基板が、下地基板1として採用されることを排除するものではない。
【0033】
脆弱化工程bでは、接続部2にピコ秒パルスレーザ光またはフェムト秒パルスレーザ光を照射してもよい。これにより、レーザ光5の集光点である接続部2において、多光子吸収によるアブレーション現象を誘起することができる。このため、半導体層3および下地基板1における熱的損傷の発生を抑制しつつ、接続部2を高精度に脆弱化することができる。
【0034】
脆弱化工程bでは、接続部2にサブナノ秒パルスレーザ光またはナノ秒パルスレーザ光を照射してもよい。これにより、レーザ光5のパルス幅がピコ秒またはフェムト秒である場合と比較して、材料除去率が高くなるため、脆弱化工程bにおける加工効率を向上させることができる。
【0035】
レーザ光5のパルス幅がサブナノ秒またはナノ秒である場合、レーザ光5のパルス幅がピコ秒またはフェムト秒である場合と比較して、多量の分解生成ガスまたは蒸発ガスが発生することがある。放出経路Gを最適化することによって、レーザ光5のパルス幅がサブナノ秒またはナノ秒である場合であっても、分解生成ガスおよび蒸発ガスを外部に効果的に放出することが可能になる。放出経路Gの最適化は、例えば図1に示すように、各半導体層3を、下面の角部が丸められている断面形状を有するように形成することであってもよい。放出経路Gの最適化は、例えば図3(b)に示すように、千鳥状に配列された複数の半導体層3を形成し、互いに異なる2つの方向において、隣り合う半導体層3同士の間隔を調整することであってもよい。
【0036】
脆弱化工程bにおけるレーザ光5の走査経路は、下地基板1上に形成された複数の半導体層3のパターン形状等に応じて、半導体素子Sの生産効率が向上する走査経路を選択すればよい。脆弱化工程bでは、例えば、下地基板1を第1面1aに垂直な軸線の回りに回転させながら、レーザ光5を下地基板1の外周部から中央部に向かって走査してもよい。これにより、レーザ光5の集光点を複数回往復させる必要がなくなるため、脆弱化工程bに要する時間を短縮することができる。ひいては、半導体素子Sの生産効率を向上させることができる。
【0037】
脆弱化工程bでは、下地基板1を加熱することによって、下地基板1の温度を所定の温度範囲内に維持してもよい。これにより、レーザ光5の照射により析出したGa金属を溶融状態とし、半導体層3に固着しにくくさせる。これにより、半導体層3の品質を維持することができる。所定の温度範囲は、例えば、室温付近(15℃から35℃程度)以上300℃以下であってよい。
【0038】
脆弱化工程bでは、レーザ光5の照射により高温度となる下地基板1の酸化、およびレーザ光5の照射により析出したGa金属の酸化を抑制するために、レーザ加工装置内の雰囲気、圧力等を調整してもよい。これにより、酸化による下地基板1の損傷を低減することができる。その結果、下地基板1は、損傷した部位を除去するための研磨を行うことなく、あるいは、少量の研磨だけを行って、再使用することができる。これにより、半導体素子Sの生産効率の向上および半導体素子Sの製造コストの低減が可能になる。また、酸化したGa金属が半導体層3に付着することを抑制できるため、半導体層3の品質が低下する虞を低減することができる。その結果、高品質の半導体素子Sを製造することが可能になる。
【0039】
脆弱化工程bでは、レーザ光5の焦点を、接続部2の下地基板1側の端部21に合わせてもよい。これにより、レーザ光5の照射による半導体層3の不所望な熱変性を抑制することができる。その結果、半導体層3における熱変性した部位を除去するための研磨を省略することができる、または、半導体層3を研磨する量を低減することができる。ひいては、半導体素子Sの生産効率を向上させることが可能になる。
【0040】
脆弱化工程bでは、レーザ光5の焦点を、接続部2の半導体層3側の端部22に合わせてもよい。これにより、レーザ光5の照射による下地基板1の不所望な熱変性を抑制できる。その結果、下地基板1における熱変性した部位を除去するための研磨を省略することができる、または、下地基板1を研磨する量を低減することができる。ひいては、半導体素子Sの生産効率の向上および半導体素子Sの製造コストの低減が可能になる。
【0041】
脆弱化工程bでは、レーザ光5の焦点を、接続部2の下地基板1側の端部と21半導体層3側の端部22との間に位置する中間部23に合わせてもよい。これにより、これにより、半導体層3および下地基板1の不所望な熱変性を抑制することができる。その結果、高品質の半導体素子Sを製造することが可能とともに、半導体素子Sの生産効率の向上および半導体素子Sの製造コストの低減が可能になる。
【0042】
脆弱化工程bにおいて、接続部2を完全に切断しない場合、分離工程cは、準備工程c1と、接合工程c2と、剥離工程c3とを含んでもよい。
【0043】
準備工程c1は、下地基板1の第1面1aと対向させる対向面10aを有する支持基板10を準備する工程である。支持基板10は、対向面10aに、AuSn等の材料を用いた半田からなる接合層10bを有している。
【0044】
接合工程c2は、複数の半導体層3の上面に支持基板10を接合する工程である。接合工程c2では、先ず、形成工程aで下地基板1上に形成された複数の半導体層3の上に支持基板10を配置する。支持基板10は、対向面10aが下地基板1の第1面1aに対向するように配置される。続いて、支持基板10を下地基板1側に押圧しながら加熱し、複数の半導体層3の上面に支持基板10を接合する。
【0045】
剥離工程c3は、複数の半導体層3を下地基板1から剥離する工程である。剥離工程c3では、下地基板1と支持基板10とを相対的に離隔させる。これにより、レーザ光5の照射によって脆弱化されている接続部2に引張応力が発生し、接続部2が破断するので、複数の半導体層3を下地基板1から剥離することができる。接続部2を脆弱化しておくことによって、複数の半導体層3を、それらを損傷させることなく、下地基板1から剥離することができる。剥離工程c3は、半導体層3に劈開面を形成する工程、および半導体層3に電極、配線導体等を形成する工程を含んでいてもよい。
【0046】
なお、準備工程c1および接合工程c2は、形成工程aと脆弱化工程bとの間に行ってもよい。この場合、レーザ光5の照射によって生じる分解生成ガスまたは蒸発ガスは、半導体層3と下地基板1との間の空間を、第1面1aに沿って、下地基板1の外縁部に向かって流れ、外部に放出される。支持基板10には、分解生成ガスまたは蒸発ガスの外部への放出を促進するためのガス流路(図示せず)が形成されていてもよい。ガス流路は、例えば、支持基板10を厚み方向に貫通する貫通孔であってもよい。ガス流路は、例えば、支持基板10の対向面10aに形成される溝部であってもよい。
【0047】
本開示の半導体素子の製造方法は、下地基板の第1面に、前記第1面に沿った方向に隣り合う半導体層同士を前記第1面に沿った方向に少なくとも部分的に離隔させるように、エピタキシャル成長によって複数の半導体層を形成する形成工程と、
前記複数の半導体層の各々と前記第1面との接続部にレーザ光を照射して、前記接続部を脆弱化する脆弱化工程と、
前記複数の半導体層を前記下地基板から分離する分離工程と、を含む。
【0048】
品質の良好な半導体素子を製造するために、半導体層を基板から分離する方法には改善の余地がある。
【0049】
本開示の半導体素子の製造方法によれば、半導体層を下地基板から分離する際の、下地基板および半導体層の損傷を低減することができる。これにより、高品質の半導体素子を製造することが可能になるとともに、半導体素子の生産効率の向上が可能になる。
【0050】
〔実施形態2〕
以下、本開示に係る他の実施形態について、模式的に示した各図を参照しつつ説明する。
【0051】
本実施形態の半導体素子の製造方法は、図5に示されるように、素子形成工程S1と、光照射工程S2(または脆弱化工程ともいう)と、分離工程S3とを含む。また、図6A図6Bおよび図6Cに示されるように、素子形成工程S1は、下地基板1上に、接続部2によって結合された半導体素子33をELO法によって形成する工程である。光照射工程S2は、接続部2をエッチング溶液4に接触させるとともに、接続部2の少なくとも一部に対してレーザ光5などの光を照射して、接続部2を溶かすかまたは脆弱化する工程である。分離工程S3は、光照射工程S2によって接続部2が脆弱化などされた半導体素子33を、下地基板1から分離する工程である。
【0052】
素子形成工程S1および光照射工程S2は、この順に行わなくてもよく、例えば、素子形成工程S1と光照射工程S2とを並行して行ってもよい。これにより、工程時間を短縮できる。半導体素子33としては、例えば、発光ダイオード(Light Emitting Diode;LED)、半導体レーザ(Laser Diode;LD)、フォトダイオード(Photodiode;PD)などが挙げられるが、これらに限るものではない。
【0053】
下地基板1は、半導体の結晶成長の起点となる平坦な一方主面である第1面1aと、その裏側の平坦な他方主面である第2面1bとを有する。第1面1aは、少なくとも表面が、窒化物半導体である。実施形態で使用する下地基板1は、例えば、成長面である第1面1aが所定の面方向になるように、窒化ガリウム(GaN)の単結晶インゴットから切り出したGaN基板である。GaN基板は、半導体中にSiなどの不純物がドープされたn型基板またはp型基板のいずれであってもよい。GaN基板の不純物密度は、例えば1×1019cm-3程度以下のものを使用することができる。
【0054】
また、下地基板1としては、GaN基板のほか、サファイア基板、SiC基板等のGaN以外の基板の表面にGaN層を形成した基板を使用してもよい。下地基板1の表面は、GaN層に限定されることはなく、GaN系半導体で構成されている基板であれば使用可能である。ここでいう「窒化物半導体」は、AlGaInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、1)によって構成されるものいう。
【0055】
前述の下地基板1上には、マスク6を形成する。マスク6は、例えば、下地基板1上にマスク6の材料となる酸化珪素(例えば、SiOなど)を、PCVD(Plasma Chemical Vapor Deposition)法などによって第1面1a上に100nm程度積層する。続いて、例えば、フォトリソグラフィー法と、バッファードフッ酸(BHF:Buffered Hydrofluoric acid)によるウェットエッチングとによって、SiO層をパターニングして、図6Aに示されるマスク6を形成する。
【0056】
マスク6は、帯状部6aを所定の間隔で複数本平行に並べたストライプ状である。隣り合う2つの帯状部6aの間の、マスクウィンドウとも称される開口部7の幅は、例えば2μmから20μm程度である。帯状部6aの幅は、例えば50μmから200μm程度である。
【0057】
図7はマスクのパターン形状を示す平面図である。マスク6を形成するためのマスク材料としては、SiOのほか、気相成長によって、マスク材料から半導体層が成長しない材料であればよい。マスク材料は、例えば、パターニングが可能なZrO、TiOもしくはAlOなどの酸化物、または、WもしくはCrなどの遷移金属を使用することができる。また、マスク層の積層方法は、蒸着法、スパッタリング、または塗布硬化など、マスク材料に適合した方法を適宜用いることが可能である。具体的な例としては、マスク6として、厚さ100から500nm程度のSiO層を形成する。SiO層の形成は、まず、第1面1a上に、マスク6の材料となる酸化珪素(SiO)を、PCVD(Plasma Chemical Vapor Deposition)法などによって、厚み100から500nm程度積層する。
【0058】
マスク6のマスクパターンとしては、図7の参照符7aで示す帯状またはストライプ状のほか、参照符7bで示す、帯状体が縦横に直交するように複数配置した格子状であってもよい。また、参照符7cで示す、一定の間隔(リピートピッチ)で分断された開口部7が複数回繰り返される、いわゆるリピート柄(パターン)であってもよい。
【0059】
下地基板1の第1面1aにおける、下地基板1の端面(側面)1c近傍の縁部領域も、後述の半導体層3の剥離・分離の容易さを考慮して、前述のマスク6で覆われていてもよい。これによって、下地基板1の端に位置する、縁部近傍の半導体層も、容易に剥離することができる。
【0060】
続いて、図6Bに示されるように、開口部7から露出している第1面1aから半導体の結晶成長層である半導体素子層8を気相成長させる。半導体素子層8は、本実施形態では窒化物半導体層であるが、その他の材料を用いてもよい。
【0061】
結晶成長方法は、III族原料に塩化物を用いる塩化物輸送法による気相成長VPE(Vapor Phase Epitaxy)または、III族原料に有機金属を用いるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を用いることが可能である。成長工程中にIII族元素の原料ガスの割合、不純物の原料ガスの割合などを変化させて、半導体素子層8をLEDまたはLDなどの半導体素子33として機能する多層膜として形成することも可能である。
【0062】
成長した結晶がマスク6の開口部7を超えると、マスク6の上面に沿って横方向にも結晶が成長する。結晶成長は、第1面1aから成長した半導体結晶が、隣り合う半導体結晶と互いに重なる前に終了する。このようにして、窒化物半導体をELO法によって成長させた半導体素子層8を得る。半導体素子層8の幅は、例えば、50μmから200μm程度であり、高さは10μmから50μm程度である。
【0063】
例えば金属層である接着層9を形成後、下地基板1、下地基板1上に形成したマスク6、半導体素子層8および接着層9をBHFに約10分間程度浸漬し、マスク6を除去する。これにより、図6Cに示されるように、下地基板1上に半導体素子33が形成される。半導体素子33と下地基板1とは、マスク6の開口部7に成長した半導体素子層8の一部である、柱状の接続部2を介して下地基板1に繋がっている。接着層9は、半導体素子33の電極として使用することができる。
【0064】
ただし、半導体素子33の構成によっては、接着層9は、必ずしも電極として使用しなくてもよい。半導体素子層8は、上面8aと、その反対側に位置している下面8bとを有する。また、マスク6の除去は、後述する半導体素子33と支持基板10との接続前でも後でもよいが、接着層9は、少なくとも一部をBHFで腐食溶解するとよい。接着層9は支持基板10に対して半導体素子33の上面を接着させてもよい。または、接着層9はその腐食防止を行った上で、これを半導体素子33の電極を兼ねた金属層としてもよい。
【0065】
次に、図6Cに示されるように、光照射工程においては、接続部2をエッチング溶液4に接触させるとともに、接続部2またはその周辺に光化学反応による溶解が生じる波長を含む光(この例ではレーザ光5)を照射することで接続部2を溶かすか脆弱化する。
【0066】
ここで、レーザ光5の代わりに、例えば、LEDまたはハロゲンランプなどから発せられる光を用いてもよい。ただし、光化学反応の波長選択性と高い反応速度とを得るために、微小領域への高強度照射が可能なレーザ光5を用いるとよい。
【0067】
レーザ光5は、接続部2の半導体素子33側または半導体素子33側の一部を含む領域に照射してもよい。この場合には、接続部2の半導体素子33側を下地基板1から分離する際に、半導体素子33側に突起構造などを残さずに分離が可能となり、この分離後の半導体素子33を実装する際の工程上の制約を低減できる。
【0068】
また、レーザ光5は、接続部2の下地基板1側または下地基板1側の一部を含む領域に照射してもよい。このようにレーザ光5の照射領域を限定することで、半導体素子33側への熱衝撃などの影響を少なくすることができて、レーザ光5の焦点位置制御に対して高精度な位置合わせが不要となる。
【0069】
また、レーザ光5は、接続部2の下地基板1側の端部と半導体素子33側の端部との間に位置する中間部に照射することもできる。このようにすることで、エッチング除去される領域を最小限にすることが可能になり、レーザ光5の低出力化ができたり、エッチング時間を短縮することができて、生産性を向上させることができる。
【0070】
さらに、レーザ光5の焦点を上述した位置に合わせて、レーザ光5を下地基板1の基板面内における任意方向に走査(スキャン)してもよい。この場合においても、レーザ光5の代わりに、上述したような他の光源を用いてもよい。
【0071】
接続部2に電解液であるエッチング溶液に接触させた状態でレーザ光5を照射する手法は、光電気化学エッチング((Photo-electrochemical;PEC)エッチングとも称される。)このPECエッチングは、半導体(GaN)にエッチング溶液中でレーザ光を照射すると、以下の式(1)で示されるような「酸化反応」と、式(2)で示されるような「酸化膜溶解反応」とを生じる。式(1)中の「h」は正孔を表す。
【0072】
<酸化反応>
2GaN+6OH+6h → Ga+3HO+N …(1)
【0073】
<溶解反応>
Ga+6OH → 2GaO 3-+3HO …(2)
【0074】
上記の酸化反応および酸化膜溶解反応によって、接続部2にエッチング溶液4中でレーザ光5を照射すると、接続部2の内部から表面に向かって電界を生じ、接続部2が表面から酸またはアルカリに溶解するか脆弱化する。
【0075】
このようなPECエッチングは、光生成キャリアを含んでいる層だけがエッチング可能な光誘導性エッチングであるので、半導体表面で起こる酸化反応によるエッチングの速度を、通過電荷量で制御することによって、低損傷性を担保することができる。
【0076】
GaN層で生成した光キャリア(正孔)はエッチング溶液に流れ込み、上記のとおりエッチング反応に使われる。したがって、GaN層がエッチングによって薄層化すると、キャリアの数が減少し、半導体内の電流供給経路の空乏化によって反応電流経路が完全に遮断され、これによってエッチング反応が自己停止する。この自己停止によって、プロセスマージンが大きくなり、基板内およびロット間のプロセスのばらつきによる歩留まり低下が低減される。
【0077】
図8A図8Bおよび図8Cに示されるように、接続部2にレーザ光5が照射された半導体素子33には、図示しない基板接合装置を用いて支持基板10が接続される。支持基板10を半導体素子33に接続するに際しては、下地基板1の第1面1aと、支持基板10の対向面10aとが平行になるように、下地基板1と支持基板10とを基板接合装置に取付ける。
【0078】
続いて、支持基板10の対向面10aと半導体素子33の上面(接着層9の上面)とを接触させる。支持基板10を加圧して、接着層9を支持基板10に密着加圧させた後、300℃に加熱して、例えばAuSn接合を行う。これにより、図8Aに示されるように、半導体素子33に支持基板10が接合される。この接合は、AuSn接合に限定されず、他の材料を用いた各種の接合方法が可能である。
【0079】
図8Bに示されるように、接続部2に前述のようにレーザ光照射によって接続部2を脆弱化等させる。基板接合装置を冷却した後、基板接合装置から下地基板1を取り出し、支持基板10を下地基板1から離反する方向に移動させる。これにより、レーザ光5の照射によって脆弱化されている接続部2に大きな引張応力が発生して、図8Cに示されるように、接続部2が破断する。この際、接続部2は脆弱化等の状態になっているので、下地基板1を容易に分離することができる。分離は適宜の方法によることができる。接続部2は脆弱化された場所に応じて、下地基板1側、半導体素子33側またはその両方に残存することが考えられる。このため、分離後、半導体素子33に残った接続部2の残片は、研磨などで取り除く。
【0080】
このように、半導体素子33と下地基板1との接続部2は、溶かされるか脆弱化されているので、分離工程に起因するクラックおよび結晶欠陥の生成リスクを低減させ、下地基板1の大口径化を実現し、分離工程の歩留まりを向上させることができる。また、分離工程において、半導体素子33および下地基板1の少なくとも一方に、複数の結晶面を有する粗面領域を形成してもよい。これによって、半導体素子33を下地基板1から分離する際、クラックの発生をしにくくしたり、クラックの進展をしにくくすることができる。
【0081】
図9A図9Cは接続部のエッチング形状を示す図である。接続部2に対してレーザ光5を側方から照射したとき、下地基板1から半導体素子33に向かって矢符E方向の電界が生じ、下地基板1の第1面1aはGa極面、下地基板1に臨む半導体素子33の対向面3aは、N極面として極性を帯びる。これにより、Ga極面である第1面1aの酸化が、N極面である対向面3aの酸化よりも促進され、エッチングが速く進行する。そのため、図9Aに示されるように、接続部2は下地基板1側の幅b1が小さく、半導体素子33側の幅b2が大きく、断面が逆台形状にエッチングされる。
【0082】
電子密度が3×1017cm-3の場合、例えば、pH13のKOHのエッチング溶液にGaNの試験体を浸漬し、波長λ=325nmのHeCdレーザのレーザ光を照射したとき、エッチング速度が525nm/minのエッチング速度を得られることが本件発明者によって確認されている。
【0083】
本実施形態において、エネルギー障壁を生じるバンド構造の材料、例えば、n-GaN/i-GaN/n-GaNによって半導体素子層8を形成する。そして、選択的な領域にレーザ光を照射して、光励起、電流回路、電界歪みによる分極などを生じさせる。これにより、電荷局在部分の化学エッチング反応を促進し得る、KOH、TMAHなどのエッチャントによって、接続部2またはその一部を選択的にエッチングすることができる。
【0084】
また、本実施形態において、接続部2を、VAS(Void-Assisted Separation)法、粗な初期核の形成、陽極化成による多孔質化、Inドロップレット法などによって、空孔を有する構造とする。これにより、表面積が増加して、空孔を有さないELO構造に比べて、剛性を低下させる。また同時に、エッチング速度を増大させることによって、選択的な脆弱化が可能である。例えば、図9Bに示されるように、接続部2の半導体素子33側の幅b2が小さく、下地基板1側の幅b1が大きい、断面が台形状にエッチングすることができる。
【0085】
接続部2の半導体素子33側と下地基板1側の空孔度(空孔密度)の制御を行うことで、エッチング速度の制御ができて、幅b1および幅b2の制御も可能になる。これにより、接続部2のエッチング速度を変えて、幅b1>幅b2にすることができる。また、特に接続部2と下地基板1との界面(ELO構造の初期成長層)の空孔化は、エピタキシャル成長条件、VAS法などによって、容易に実現可能である。
【0086】
また、図9Cに示されるように、接続部2の、下地基板1側の端部と半導体素子33側の端部との間の中間部、さらに詳しくは中央部の幅b3が、接続部2の両端部の幅b1,b2よりも小さくすることもでき、脆弱化する部位の高い操作性を実現することができる。接続部2のエッチング速度を変えて、幅b1,幅b2>幅b3にするには、例えば、接続部2と、接続部2を挟んだ半導体素子33側と、下地基板1側との電子濃度差の制御を行うことによっても達成することができる。または、ヘテロエピタキシャル成長によるバンドギャップの異なる層の挿入をしてもよく、同じく接続部2の半導体素子33側もしくは下地基板1側の界面に歪が生じる応力層を挿入することによっても、エッチング速度の制御が可能である。または、接続部2の内部に上記のような多層構造を持たせてエッチング速度の制御が可能である。
【0087】
前述のように、本実施形態の半導体素子の製造方法によれば、接続部が脆弱化等させることに加え、支持基板を利用する。このため、分離工程起因のクラックおよび結晶欠陥の生成リスクを低減させ、下地基板の大口径化と分離工程の歩留まりを向上することができる。
【0088】
本開示の半導体素子の製造方法は、下地基板上に、接続部を介して位置する半導体素子を形成する素子形成工程と、前記接続部を、エッチング溶液に接触させた状態で光を照射して、溶かすか脆弱化させる光照射工程と、前記半導体素子を前記下地基板から分離する分離工程と、を含む。
【0089】
特許文献1に記載のような従来技術において、半導体素子と下地基板との双方にクラックおよび結晶欠陥が発生する場合には、半導体素子の特性および製造上の歩留まりの低下を生じることが考えられる。このため、半導体素子および下地基板の双方に対し、クラックおよび結晶欠陥の発生を低減できて、半導体素子の特性および製造上の歩留まりの低下が生じにくい半導体素子の製造方法が望まれている。
【0090】
本開示の半導体素子の製造方法によれば、分離工程に起因する、クラックおよび結晶欠陥の発生を低減させ、下地基板の大口径化を可能とする。これにより、分離工程の歩留まりを向上して、生産性を向上することができる。
【0091】
〔実施形態3〕
図10および図11は、実施形態3にかかる半導体素子の製造方法の製造方法を示す断面図である。図10および図11に示すように、実施形態3にかかる半導体素子の製造方法は、下地基板UKと、下地基板UKに接合する層状の第1半導体部SL1とを有する半導体基板HKを形成する工程と、下地基板UKから第1半導体部SL1を離隔する工程とを含む。第1半導体部SL1は、窒化物半導体を含む。第1半導体部SL1は第1半導体層であってもよい。
【0092】
第1半導体部SL1は、下地基板UKに向けて突出する凸部TSを有し、凸部TSは窒化物半導体を含む。凸部TSは、平面視で第1半導体部SL1の中央に位置し、長手形状である。凸部TSと下地基板UKとが接合し、半導体基板HKには、下地基板UKおよび第1半導体部SL1間に位置する中空部TKが形成される。中空部TKは、凸部TSの側面SFに接し、かつ半導体基板HKの外部に通じており、気体、液体の流路となりうる。
【0093】
窒化物半導体の具体例として、GaN系半導体、AlN(窒化アルミニウム)、InAlN(窒化インジウムアルミニウム)、InN(窒化インジウム)を挙げることができる。Z方向は、凸部TSの窒化物半導体のc面である(0001)面の法線方向である。X方向は、凸部TSの窒化物半導体のa面である(11-20)面の法線方向であり、Y方向は、凸部TSの窒化物半導体のm面である(1-100)面の法線方向である。
【0094】
図10では、第1半導体部SL1を下地基板UKから離隔する前に、凸部TSへのレーザ光の照射(レーザアブレーション)を行う。一方、図11では、第1半導体部SL1を離隔する前に、中空部TKへのエッチング液EHの注入と、凸部TSへのレーザ光の照射(光励起)とを行う。
【0095】
実施形態3では、図10図11に示すように、下地基板UK上に位置し、マスク部M1・M2および開口部K1・K2を含むマスクMLの上に、ELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)法によって第1半導体部SL1を形成し、その後マスク部M1・M2をエッチング除去することで中空部TKを形成する。マスクMLはマスク層であってもよい。凸部TSは、開口部K1に形成される。凸部TSは、これに含まれる窒化物半導体の<1-100>方向(Y方向)を長手方向とする形状であってもよい。
【0096】
第1半導体部SL1には、平面視で凸部TSと重ならず、貫通転位密度が凸部TSの1/5以下である低転位部WGが含まれる。半導体基板HKは第2半導体部SL2を含み、第1および第2半導体部SL1・SL2が窒化物半導体の<11-20>方向(X方向)に並ぶ。第2半導体部SL2は第2半導体層であってもよい。半導体基板HKは、第1半導体部SL1上に形成されたデバイス部DLを有する。デバイス部DLは、図示しないが、例えば、p型半導体部と、n型半導体部と、発光領域を含む活性部と、電極部とを有する。p型半導体部、n型半導体部、活性部および電極部は、それぞれ層状に形成されており、積層されることによってデバイス部DLを形成している。すなわち、デバイス部DLはデバイス層であってもよい。発光領域については、平面視で低転位部WGと重なるように形成することができる。
【0097】
図10および図11に示すように、半導体基板HKは、下地基板UKと対向する支持基板SKを含み、下地基板UKと支持基板SKとの間に第1半導体部SL1が位置する構成でもよい。デバイス部DLの電極部と支持基板SKとが接合する構成でもよい。
【0098】
図12は、下地基板の構成例を示す断面図である。図12に示すように、凸部TSに含まれる窒化物半導体がGaN系半導体であり、下地基板UKが、凸部TSのGaN系半導体と格子定数の異なる異種基板MKと、異種基板MK上に形成され、窒化物半導体を含むシード部SDとを有する構成でもよい。この場合、下地基板UKを、シリコン基板である主基板MKと、シード部SD(例えば、AlN部)とで構成してもよいし、炭化シリコン基板である主基板MKと、シード部SD(例えば、GaN系半導体部)とで構成してもよい。また、下地基板UKを、シリコン基板である主基板MKと、主基板上のバッファ部BF(例えば、AlN部、SiC部の少なくとも一方を含む)と、バッファ部上のシード部SD(例えば、GaN系半導体部)とで構成してもよい。なお、これらの構成に限定されず、下地基板UKが、バルク型のGaN基板あるいはバルク型のSiC基板(六方晶系)であってもよい。シード部SDがシード層であってもよく、バッファ部BFがバッファ層であってもよい。
【0099】
図13は、半導体基板の構成例を示す平面図である。図13に示すように、半導体基板HKでは、第1半導体部SL1およびデバイス部DLが複数の半導体素子部HBに分割されていてもよい。半導体素子部HBは、例えば、LED(発光ダイオード)、半導体レーザとして機能する。
【0100】
図10では、半導体基板HKの形成後に、レーザ光LZの照射によって、窒化物半導体を含む凸部TSにレーザアブレーションを生じさせ、これによって、凸部TSの脆弱化あるいは横切り(c面平行の切断)を行う。凸部TSの幅(X方向のサイズ)は、第1半導体部SL1の幅よりも小さいため、第1半導体部SL1を下地基板UKから離隔する際の工程(脆弱化あるいは切断)が容易である。レーザアブレーションによって生じる気体(分解生成物)は中空部TKを通って半導体基板HKの外部に放出される。レーザ光としては、例えばナノ秒パルスのレーザ光を利用することができる。
【0101】
図11では、半導体基板HKの形成後に、凸部TSの側面にエッチング液EHを接触させながら凸部TSにレーザ光LZを照射することで、凸部TSの側面から内部へと進む異方性エッチングを行う。具体的には凸部TSの窒化物半導体(例えばGaN系半導体)を、光励起で生じた正孔およびエッチング溶液EHのアニオン(例えば、水酸化物イオン)を用いて酸化物(例えば、Ga)とし、この酸化物をイオン化してエッチング溶液EHに溶解させることで、凸部TSの脆弱化あるいは横切り(c面平行の切断)を行う。凸部TSの幅は、第1半導体部SL1の幅よりも小さいため、第1半導体部SL1を下地基板UKから離隔する際の工程(脆弱化あるいは切断)が容易である。
レーザ光LZの照射によって凸部TSに電子正孔対が生じるが、正孔は窒化物半導体の酸化に用いられ、電子はエッチング溶液EH内の反応で消費される(エッチング溶液EH内に電極を設けてもよいが、これに限定されない)。図11のように異方性ウェットエッチングを行うことで、Z方向へのエッチング進行(低転位部WGへのダメージ)を抑えながら、凸部TSをエッチングすることができる。
【0102】
図11では、凸部TSは、優先的にエッチングが進行するターゲット部TLを含んでいてもよい。ターゲット部TLはターゲット層であってもよい。ターゲット部TLに含まれる窒化物半導体(例えば、GaN系半導体)は、上側および下側に隣接する部分に含まれる窒化物半導体よりもバンドギャップを小さくすることができる。この場合、レーザ光LZは、ターゲット部TLに含まれる窒化物半導体のバンドギャップよりも大きなエネルギーを有するUV光とすることができる。このようなUVレーザとして、例えば、波長325nmのHeCdレーザが利用可能である。
【0103】
ターゲット部TLは、インジウムおよびガリウムを含んでいてもよい(一例として、InGaN層)。ターゲット部TLは、上側および下側に隣接する部分よりも空隙率が高く、剛性が低くてもよい。ターゲット部TLは、凸部TSの中部に設ける必要はなく、凸部TSの付け根部分を含むように設けてもよいし、先端の部分(下地基板UKと結合する部分)を含むように設けてもよい。
【0104】
実施形態3において、下地基板UKから第1半導体部SL1を離隔する工程は、凸部TSの脆弱化の後に行う工程でもよいし、凸部TSの横切りの工程であってもよい。レーザ光LZについては、下地基板UK側からの照射でも、支持基板SK側からの照射でもよいが、下地基板UKが遮光性である場合(例えば、シリコン基板を含む場合)には後者を選択する。
【0105】
実施形態3では、下地基板UKと、下地基板UKに接合する第1半導体部(半導体層)SL1とを有する半導体基板HKを形成する工程と、下地基板UKから第1半導体部(半導体層)SL1を離隔する工程とを行うことができる。ここで、第1半導体部(半導体層)SL1は、下地基板UKに向けて突出する凸部TSを有し、凸部TSは窒化物半導体を含み、凸部TSと下地基板UKとが接合し、半導体基板HKには、下地基板UKおよび第1半導体部(半導体層)SL1間に位置する中空部TKが形成され、中空部TKは、凸部TSの側面に接し、かつ半導体基板HKの外部に通じている構成とすることできる。そして、第1半導体部(半導体層)SL1を離隔する前に、凸部TSへのレーザ光の照射と、中空部TKへのエッチング液の注入との少なくとも一方を行うことができる。
【0106】
〔附記事項〕
以上、本開示に係る半導体素子の製造方法について詳細に説明したが、本開示は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更、改良等が可能である。
例えば、実施形態1においては、下地基板としてGaN基板を採用した例を記載したが、実施形態2、3に示すように、半導体層3に含まれる半導体材料とは異なる材料を有する下地基板を採用してもよい。この場合、例えば、下地基板は、サファイア(Al)、炭化珪素(SiC)、シリコン(Si)などで形成されてもよい。また、この場合、下地基板上には、バッファ部、シード部が配されていてもよい。
また、例えば、上記の例では、マスクを除去した後に、レーザを照射する例を記載しているが、レーザを照射した後に、半導体層3を剥離する前に、マスクを除去してもよい。
【符号の説明】
【0107】
1 下地基板
1a 一方主面(第1面)
1b 他方主面(第2面)
1c 側面(第3面)、端面
2 接続部
21,22 端部
23 中間部
3 半導体層
4 エッチング溶液
5 レーザ光
6 堆積抑制マスク(マスク)
6a 帯状部
7 開口部
8 半導体素子層
8a 上面
8b 下面
9 接着層
10 支持基板
10a 対向面
10b 接合層
33 半導体素子
61 帯状部
62 開口部
G 間隙(放出経路)
S 半導体素子
a 形成工程
a1 マスク形成工程
a2 半導体層形成工程
a3 マスク除去工程
b 脆弱化工程
c 分離工程
c1 準備工程
c2 接合工程
c3 剥離工程
S1 素子形成工程
S2 光照射工程
S3 分離工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2024-05-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地基板と、窒化物半導体を含む、第1半導体部および第2半導体部とを備え、前記第1半導体部および前記第2半導体部それぞれが、前記下地基板に接続する下向きの凸部と前記凸部よりも幅広かつ低転位密度である低転位部とを含む半導体基板を準備する工程と、
前記凸部に光を照射する工程と、
前記光を照射した前記凸部を脆弱化あるいは切断する工程とを含み、
前記凸部は、前記窒化物半導体の<1-100>方向を長手方向とし、
前記第1半導体部および第2半導体部は、前記窒化物半導体の<11-20>方向に離れて並び、
前記第1半導体部および前記第2半導体部それぞれは、前記窒化物半導体の<1-100>方向の断面を見たときに、前記窒化物半導体のc面に沿う下面の角部が丸められている断面形状を有する、半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1半導体部および前記第2半導体部それぞれは、前記窒化物半導体の<1-100>方向の断面を見たときに、前記下面の角部が逆テーパ状である、請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記光は、前記第1半導体部の上面から入射して前記凸部に至る、請求項1または2に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記凸部を、前記窒化物半導体の<11-20>方向に切断する、請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記光の焦点を、前記下向きの凸部の上端部に合わせる、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記光の焦点を、前記下向きの凸部の下端部に合わせる、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記光の焦点を、前記下向きの凸部の上端部および下端部の間の部位に合わせる、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記半導体基板は、前記下地基板および前記低転位部の間にマスク部を含み、
前記マスク部を除去することで前記下地基板および前記低転位部の間に中空部を形成する工程を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記半導体基板は、前記第1半導体部上に位置するデバイス部を有する、請求項のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記半導体基板では、前記第1半導体部および前記デバイス部が複数の半導体素子部に分割されている、請求項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記下地基板から前記第1半導体部を離隔する工程を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項12】
支持基板を準備する準備工程と、
前記支持基板および前記下地基板を接触させながら、前記支持基板および前記下地基板の少なくとも一方を加熱することで、前記支持基板に前記デバイス部を接合する接合工程とをさらに含む、請求項9または10に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項13】
前記窒化物半導体はGaN系半導体であり、
前記下地基板は、前記GaN系半導体と格子定数の異なる異種基板と、前記異種基板上に形成され、窒化物半導体を含むシード部とを有する、請求項12のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項14】
前記光はレーザ光であって、前記レーザ光の照射によって、前記凸部にレーザアブレーションを生じさせ、
レーザアブレーションによって生じる気体が前記中空部を通って前記半導体基板の外部に放出される、請求項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項15】
前記光はレーザ光であり、
前記凸部は、優先的にエッチングが進行するターゲット部を含み、
前記凸部の側面にエッチング液を接触させながら前記凸部にレーザ光を照射することで、前記凸部の側面から内部へと進む異方性エッチングを行う、請求項13のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項16】
前記ターゲット部に含まれる窒化物半導体は、上側および下側の隣接部に含まれる窒化物半導体よりもバンドギャップが小さい、請求項15に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項17】
前記レーザ光は、前記ターゲット部に含まれる窒化物半導体のバンドギャップよりも大きなエネルギーを有するUV光である、請求項15または16に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項18】
前記ターゲット部は、インジウムおよびガリウムを含む、請求項16または17に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項19】
前記ターゲット部は、上側および下側の隣接部よりも空隙率が高い、請求項15に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項20】
前記レーザ光を、前記下地基板の基板面に沿う任意方向に走査させる、請求項14~19のいずれか1項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項21】
窒化物半導体を含む第1半導体部と、前記第1半導体部よりも上側に位置し、前記第1半導体部を保持する支持基板とを備え、
前記第1半導体部は、前記窒化物半導体の<1-100>方向を長手方向とする下向きの凸部と、前記凸部よりも幅広かつ低転位密度である低転位部とを含み、
前記第1半導体部は、前記窒化物半導体の<1-100>方向の断面を見たときに、前記窒化物半導体のc面に沿う下面の角部が丸められている断面形状を有する、半導体デバイス。
【請求項22】
前記凸部の下端部は、前記低転位部と比較して脆弱化されている、請求項21に記載の半導体デバイス。
【請求項23】
前記窒化物半導体を含む第2半導体部を備え、
前記第1半導体部および前記第2半導体部は、前記窒化物半導体の<11-20>方向に離れて並ぶ、請求項21または22に記載の半導体デバイス。
【請求項24】
前記凸部は、前記<1-100>方向に垂直な断面を見たときに、下方に向けて先細りする形状である、請求項21~23のいずれか1項に記載の半導体デバイス。
【請求項25】
前記凸部は、前記<1-100>方向に垂直な断面を見たときに、上方に向けて先細りする形状である、請求項21~23のいずれか1項に記載の半導体デバイス。
【請求項26】
前記凸部は、前記<1-100>方向に垂直な断面を見たときに、上端部および下端部の間に、前記上端部および前記下端部よりも細い部位を有する括れ形状である、請求項21~23のいずれか1項に記載の半導体デバイス。