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  • 特開-非水系アルカリ金属蓄電素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011848
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】非水系アルカリ金属蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/62 20130101AFI20240118BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20240118BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240118BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20240118BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240118BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20240118BHJP
【FI】
H01G11/62
H01G11/32
H01G11/86
H01G11/60
H01G11/06
H01G11/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114131
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】梅津 和照
【テーマコード(参考)】
5E078
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA02
5E078AA03
5E078AA09
5E078AB02
5E078AB06
5E078AB12
5E078AB13
5E078BA13
5E078BA14
5E078BA15
5E078BA16
5E078BA17
5E078BA18
5E078BA19
5E078BA20
5E078BA21
5E078BA22
5E078BA26
5E078BA29
5E078BA30
5E078BA44
5E078BA47
5E078BA52
5E078BA53
5E078BA55
5E078BA58
5E078BB02
5E078BB04
5E078BB05
5E078BB07
5E078BB24
5E078BB28
5E078BB33
5E078BB35
5E078BB40
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA07
5E078CA08
5E078CA10
5E078DA03
5E078FA02
5E078FA04
5E078FA05
5E078FA06
5E078FA13
5E078HA02
5E078HA03
5E078HA05
5E078HA12
5E078HA13
5E078LA01
5E078LA02
5E078LA03
5E078LA06
5E078LA07
5E078ZA06
(57)【要約】
【課題】本発明は、負極電位1.6V以下での負極上での非水系電解液の還元分解を抑制し、負極の下限電位を下げることでセルの最大電圧を高め、電圧1.0V以下の充放電効率が高く低電圧領域まで使用可能であり、かつ高容量な非水系アルカリ金属蓄電素子を提供することを目的とする。
【解決手段】非水系アルカリ金属蓄電素子は、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンを含む非水系電解液、正極、負極、並びにセパレータを含み、正極活物質層および負極活物質層は、活物質として活性炭を含み、正極活物質層および負極活物質層はさらにNaFまたはKFを含み、非水系アルカリ金属蓄電素子の0V時の正極および負極の短絡電位が、それぞれリチウム金属を参照極として2.05V以上2.85V以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオンまたはカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンを含む非水系電解液、正極活物質層を含む正極、負極活物質層を含む負極、並びにセパレータを備える非水系アルカリ金属蓄電素子であって、
前記正極活物質層は、正極活物質として活性炭を含み、前記負極活物質層は、負極活物質として活性炭を含み、
前記正極活物質層、および前記負極活物質層は、さらにNaFまたはKFを含み、
非水系アルカリ金属蓄電素子の0V時の前記正極および前記負極の短絡電位が、それぞれ、リチウム金属を参照極として2.05V以上2.85V以下である、非水系アルカリ金属蓄電素子。
【請求項2】
前記正極の活物質層目付が、前記負極の活物質層目付よりも大きい、請求項1に記載の非水系アルカリ金属蓄電素子。
【請求項3】
前記正極が、式MCO{式中、Mは、NaまたはKを表す}で示されるアルカリ金属炭酸塩を含有する、請求項1または2に記載の非水系アルカリ金属蓄電素子。
【請求項4】
前記非水系電解液が、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンを含む、請求項1または2に記載の非水系アルカリ金属蓄電素子。
【請求項5】
集電体と前記集電体上に配置された正極活物質層とを有する正極前駆体であって、
前記正極活物質層は、正極活物質として活性炭を含み、さらに前記正極活物質以外のアルカリ金属化合物として式MCO{式中、Mは、NaまたはKを表す}で示されるアルカリ金属炭酸塩、および式MHCO{式中、Mは、NaまたはKを表す}で示されるアルカリ金属炭酸水素塩を合計5質量%以上25質量%以下の割合で含む、正極前駆体。
【請求項6】
請求項5に記載の正極前駆体、負極活物質として活性炭を含む負極、セパレータ、並びにナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含む非水系電解液から成る電極体に対し、前記正極前駆体と前記負極との間に3.1V以上3.6V以下の電圧を定電圧印加して前記アルカリ金属化合物を分解する工程を含む非水系アルカリ金属蓄電素子の製造方法。
【請求項7】
前記正極前駆体と前記負極との間に定電圧印加して前記アルカリ金属化合物を分解した後、下限電圧を0.0V以上0.3V以下、上限電圧を3.0V以上3.6V以下とする充放電サイクルを2回以上行う、請求項6に記載の非水系アルカリ金属蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系アルカリ金属蓄電素子、非水系アルカリ金属蓄電素子用正極前駆体、および非水系アルカリ金属蓄電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全および省資源を目指すエネルギーの有効利用の観点から、風力発電の電力平滑化システムまたは深夜電力貯蔵システム、太陽光発電技術に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車用の蓄電システム等が注目を集めている。これらの蓄電システムに用いられる電池の第一の要求事項は、エネルギー密度が高いことである。このような要求に対応可能な高エネルギー密度電池の有力候補として、リチウムイオン電池の開発が精力的に進められている。第二の要求事項は、出力特性が高いことである。例えば、高効率エンジンと蓄電システムとの組み合わせ(例えば、ハイブリッド電気自動車)または燃料電池と蓄電システムとの組み合わせ(例えば、燃料電池電気自動車)において、加速時に高い出力放電特性を発揮する蓄電システムが要求されている。現在、高出力蓄電デバイスとしては、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等が開発されている。
【0003】
電気二重層キャパシタのうち、電極に活性炭を用いたものは、0.5~1kW/L程度の出力特性を有する。この電気二重層キャパシタは、出力特性が高いだけでなく、耐久性(サイクル特性および高温保存特性)もまた高く、上記の高出力が要求される分野で最適のデバイスであると考えられてきた。しかしながら、そのエネルギー密度は1~5Wh/L程度に過ぎないため、更なるエネルギー密度の向上が必要である。
【0004】
リチウムイオンキャパシタは、リチウム塩等の電解質を含む非水系電解液を使用する蓄電素子(以下、「非水系アルカリ金属蓄電素子」ともいう。)の一種であって、正極においては約3V以上で電気二重層キャパシタと同様の陰イオンの吸着および脱着による非ファラデー反応、負極においてはリチウムイオン電池と同様のリチウムイオンの吸蔵および放出によるファラデー反応によって、充放電を行う蓄電素子である。
【0005】
リチウムイオンキャパシタは、正極に活性炭、負極に炭素材料を用い、正極では非ファラデー反応、負極ではファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、したがって、電気二重層キャパシタおよびリチウムイオン二次電池の特徴を兼ね備えた非対称キャパシタである。リチウムイオンキャパシタは高出力かつ高耐久性でありながら、高エネルギー密度を有し、リチウムイオン二次電池のように放電深度を制限する必要がないことが特徴である。しかしながら、肝心のリチウムは地殻中の濃度が平均20ppm程度しかなく、しかも産出地が偏在しているという問題がある。これからは、より多く普遍的に存在する元素でリチウムを代替していく必要があり、ナトリウム、及びカリウム等のアルカリ金属元素を蓄電デバイスに用いる研究が精力的に進められている。例えば、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、ナトリウムイオンキャパシタ、及びカリウムイオンキャパシタ等の開発が進められている。
【0006】
上記ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、ナトリウムイオンキャパシタ、及びカリウムイオンキャパシタ等の特性向上や低コスト化については、様々な検討が行われている(特許文献1~3)。
【0007】
特許文献1には、低コスト化、環境負荷低減、充放電サイクル特性向上の観点から、水系結着剤を用いて作製した正極を備える、ナトリウムイオン二次電池が開示されている。
【0008】
特許文献2には、キャパシタ中の電解液の溶媒分解によるガス発生量を低減するために、炭酸カリウム等の制酸剤含む正極を備える、電気二重層キャパシタが開示されている。
【0009】
特許文献3には、非水系溶剤であるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を含む正極塗工液を用いて作製された正極前駆体を備える、ナトリウムイオンキャパシタ、及びカリウムイオンキャパシタが開示され、そして、該正極前駆体に含まれる炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムを分解し、負極にナトリウムイオン又はカリウムイオンをプレドープする技術が開示されている。
【0010】
本開示において、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出される。BJH法は非特許文献1に記載されており、かつMP法は、「t-プロット法」(非特許文献2)を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、およびマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、非特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2018-026411号公報
【特許文献2】特開2006-261516号公報
【特許文献3】特開2018-026411号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】E.P.Barrett, L.G.Joyner and P.Halenda, J.Am.Chem.Soc., (1951), 73, 373-380
【非特許文献2】B.C.Lippens, J.H.de Boer, J.Catalysis, (1965), 4, 319-323
【非特許文献3】R.S.Mikhail, S.Brunauer, E.E.Bodor, J.Colloid, Interface Sci., (1968), 26, 45-53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非水系アルカリ金属蓄電素子の負極においては、リチウム金属を参照極として約1.6V以下の電位領域(以下、リチウム金属を基準とする負極の電位を「負極電位」、正極の電位を「正極電位」と呼ぶ)から非水系電解液溶媒の還元分解が進行し、負極活物質表面でSEI(固体電解質界面)被膜の形成がなされる。さらに電位を下げて、0.8V以下の電位領域では、アルカリ金属イオンが黒鉛や難黒鉛化性炭素材料等の負極活物質層内にインターカレーション(挿入)し、この反応がファラデー反応として大きな容量を発現する。リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタ等の非水系リチウム蓄電素子においては、イオン半径の小さなリチウムイオンが負極活物質内へインターカレーションする際の負極活物質の体積変化は小さいため、非水系リチウム蓄電素子の電荷移動抵抗に与える影響は小さい。しかしながら、イオン半径の大きなナトリウムイオンやカリウムイオンを用いるナトリウムイオンキャパシタ、カリウムイオンキャパシタ等の非水系アルカリ金属蓄電素子においては、これらのイオンが負極活物質層内にインターカレーションする際の負極活物質の体積変化が大きく、非水系アルカリ金属蓄電素子の電荷移動抵抗は大きくなってしまう。さらに、低温環境下では、インターカレーション反応が進行し難くなり、大きな抵抗上昇の要因となる。例えば特許文献1や特許文献3に記載の従来の非水系アルカリ金属蓄電素子では、これらの点が全く考慮されておらず、本発明者らは更なる改善の余地があることを見いだした。
【0014】
一方、特許文献2に記載の従来の電気二重層キャパシタの場合、一般に、セル電圧0Vの時の正極電位と負極電位は、それぞれ約3.0V(したがって、正極電位3.0V-負極電位3.0V=セル電圧0.0V)である。実際の電気二重層キャパシタの正極においては、非水系電解液の酸化分解が進行し難い4.35Vを上限電位とし、負極においては非水系電解液の還元分解が進行し難い1.65Vを下限電位とし、これらの組み合わせからセル電圧は最大2.7V(正極電位4.35V-負極電位1.65V=セル電圧2.7V)となる。本発明者らは、負極の更なる低電位領域の使用、つまり最大セル電圧の上昇について更なる改善の余地があることを見いだし、そして、負極電位1.6V以下の電位領域を使用することによって生じるセル電圧1.0V以下の充放電効率の低下について、更なる改善の余地があることを見いだした。
【0015】
本開示は、負極電位1.6V以下での負極上での非水系電解液の還元分解を抑制し、負極の下限電位を下げることでセルの最大電圧を高めることができ、電圧1.0V以下の充放電効率が高く低電圧領域まで使用可能であり、かつ容量が高い非水系アルカリ金属蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は以下の技術的手段により解決される。本開示の実施形態の例を以下の項目[1]~[8]に列記する。
[1]
ナトリウムイオンまたはカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンを含む非水系電解液、正極活物質層を含む正極、負極活物質層を含む負極、並びにセパレータを備える非水系アルカリ金属蓄電素子であって、
前記正極活物質層は、正極活物質として活性炭を含み、前記負極活物質層は、負極活物質として活性炭を含み、
前記正極活物質層、および前記負極活物質層は、さらにNaFまたはKFを含み、
非水系アルカリ金属蓄電素子の0V時の前記正極および前記負極の短絡電位が、それぞれ、リチウム金属を参照極として2.05V以上2.85V以下である、非水系アルカリ金属蓄電素子。
[2]
前記正極の活物質層目付が、前記負極の活物質層目付よりも大きい項目1に記載の非水系アルカリ金属蓄電素子。
[3]
前記正極が、式MCO{式中、Mは、NaまたはKを表す}で示されるアルカリ金属炭酸塩を含有する項目1または2に記載の非水系アルカリ金属蓄電素子。
[4]
前記非水系電解液が、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンを含む、項目1~3のいずれか一項に記載の非水系アルカリ金属蓄電素子。
[5]
集電体と前記集電体上に配置された正極活物質層とを有する正極前駆体であって、
前記正極活物質層は、正極活物質として活性炭を含み、さらに前記正極活物質以外のアルカリ金属化合物として式MCO{式中、Mは、NaまたはKを表す}で示されるアルカリ金属炭酸塩、および式MHCO{式中、Mは、NaまたはKを表す}で示されるアルカリ金属炭酸水素塩を合計5質量%以上25質量%以下の割合で含む、正極前駆体。
[6]
項目5に記載の正極前駆体、負極活物質として活性炭を含む負極、セパレータ、並びにナトリウムイオンまたはカリウムイオンを含む非水系電解液からなる電極体に対し、前記正極前駆体と前記負極との間に3.1V以上3.6V以下の電圧を定電圧印加して前記アルカリ金属化合物を分解する工程を含む非水系アルカリ金属蓄電素子の製造方法。
[7]
前記正極前駆体と前記負極との間に定電圧印加して前記アルカリ金属化合物を分解した後、下限電圧を0.0V以上0.3V以下、上限電圧を3.0V以上3.6V以下とする充放電サイクルを2回以上行う、項目6に記載の非水系アルカリ金属蓄電素子の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、負極の電位を低くすることができるために蓄電素子として高電圧であり、負極の電荷移動抵抗が低くなるために高出力であり、低温環境下での抵抗上昇が抑制され、電圧1.0V以下の電圧領域での充放電効率が高い非水系アルカリ金属蓄電素子、および正極前駆体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例18における正極前駆体の表面を倍率10,000倍で観察した走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態を詳細に説明するが、本開示はこれらの実施形態に限定されるものではない。本開示に記載の各数値範囲における上限値および下限値は任意に組み合わせて任意の数値範囲を構成することができる。
【0020】
《非水系アルカリ金属蓄電素子》
一般に、非水系アルカリ金属蓄電素子は、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを主な構成要素として有する。電解液としては、有機溶媒中にアルカリ金属イオンを溶解した溶液(以下、「非水系電解液」ともいう。)を用いる。後述のように、蓄電素子の製造過程で、負極にアルカリ金属イオンをプレドープすること(以下、「アルカリ金属ドープ工程」ともいう。)が好ましく、本開示では、アルカリ金属ドープ工程前における正極を「正極前駆体」、アルカリ金属ドープ工程後における正極を「正極」と定義する。
【0021】
〈正極前駆体〉
本開示の正極前駆体は、正極集電体と、その上に配置された、より詳細には、その片面または両面上に配置された正極活物質層とを有する。
【0022】
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質としての活性炭を含み、さらにNaFまたはKFを含む。正極活物質層は、これら以外に、必要に応じて、後述の任意成分を含んでいてもよい。
【0023】
(正極活物質)
正極活物質は、活性炭を含み、活性炭の他に、導電性高分子等をさらに含んでいてもよい。活性炭の種類およびその原料は、特に制限はないが、高い入出力特性と、高いエネルギー密度とを両立させるために、活性炭の細孔を最適に制御することが好ましい。具体的には、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量をV(cm/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をV(cm/g)とするとき、
(1)高い入出力特性のためには、0.3<V≦0.8、および0.5≦V≦1.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が1,500m/g以上3,000m/g以下である活性炭(以下、「活性炭1」ともいう。)が好ましく、また、
(2)高いエネルギー密度を得るためには、0.8<V≦2.5、および0.8<V≦3.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が2,300m/g以上4,000m/g以下である活性炭(以下、「活性炭2」ともいう。)が好ましい。
【0024】
本開示における活物質のBET比表面積およびメソ孔量、マイクロ孔量、平均細孔径は、それぞれ以下の方法によって求められる値である。すなわち、試料を200℃で一昼夜真空乾燥し、窒素を吸着質として吸脱着の等温線の測定を行ない、ここで得られる吸着側の等温線を用いて、BET比表面積はBET多点法またはBET1点法により、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出される。BJH法とは、一般的にメソ孔の解析に用いられる計算方法で、Barrett,Joyner, Halendaらにより提唱されたものである(非特許文献1)。また、MP法とは、「t-プロット法」(非特許文献2)を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、およびマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、R.S.Mikhail, Brunauer,Bodorにより考案された方法である(非特許文献3)。また、平均細孔径とは、液体窒素温度下で、各相対圧力下における窒素ガスの各平衡吸着量を測定して得られる、試料の質量当たりの全細孔容積を上記BET比表面積で除して求めたものを指す。
【0025】
(活性炭1)
活性炭1のメソ孔量Vは、正極材料を蓄電素子に組み込んだときの入出力特性を大きくする点で、0.3cm/gより大きい値であることが好ましい。Vは、正極の嵩密度の低下を抑える点から、0.8cm/g以下であることが好ましい。Vは、より好ましくは0.35cm/g以上0.7cm/g以下、さらに好ましくは0.4cm/g以上0.6cm/g以下である。
【0026】
活性炭1のマイクロ孔量Vは、活性炭の比表面積を大きくし、容量を増加させるために、0.5cm/g以上であることが好ましい。Vは、活性炭の嵩を抑え、電極としての密度を増加させ、単位体積当たりの容量を増加させるという点から、1.0cm/g以下であることが好ましい。Vは、より好ましくは0.6cm/g以上1.0cc/g以下、さらに好ましくは0.8cm/g以上1.0cm/g以下である。
【0027】
マイクロ孔量Vに対するメソ孔量Vの比(V/V)は、0.3≦V/V≦0.9の範囲内であることが好ましい。すなわち、高容量を維持しながら出力特性の低下を抑えることができる程度に、マイクロ孔量に対するメソ孔量の割合を大きくするという観点から、V/Vが0.3以上であることが好ましい。一方で、高出力特性を維持しながら容量の低下を抑えることができる程度に、メソ孔量に対するマイクロ孔量の割合を大きくするという観点から、V/Vは0.9以下であることが好ましい。より好ましいV/Vの範囲は0.4≦V/V≦0.7であり、さらに好ましいV/Vの範囲は0.55≦V/V≦0.7である。
【0028】
活性炭1の平均細孔径は、得られる蓄電素子の出力を最大にする観点から、17Å以上(すなわち、17×10-10m以上)であることが好ましく、18Å以上であることがより好ましく、20Å以上であることが最も好ましい。また容量を最大にする観点から、活性炭1の平均細孔径は25Å以下であることが好ましい。
【0029】
活性炭1のBET比表面積は、1,500m/g以上3,000m/g以下であることが好ましく、1,500m/g以上2,500m/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が1,500m/g以上の場合には、良好なエネルギー密度が得られ易く、他方、BET比表面積が3,000m/g以下の場合には、電極の強度を保つために結着剤を多量に入れる必要がないので、電極体積当たりの性能が高くなる。
【0030】
上記のような特徴を有する活性炭1は、例えば、次に説明する原料および処理方法を用いて得ることができる。
【0031】
本開示では、活性炭1の原料として用いられる炭素源は、特に限定されるものではないが、例えば、木材、木粉、ヤシ殻、パルプ製造時の副産物、バガス、廃糖蜜等の植物系原料;泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、石油蒸留残渣成分、石油ピッチ、コークス、コールタール等の化石系原料;フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂、セルロイド、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の各種合成樹脂;ポリブチレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン等の合成ゴム;その他の合成木材、合成パルプ等、およびこれらの炭化物が挙げられる。これらの原料の中でも、量産対応およびコストの観点から、ヤシ殻、木粉等の植物系原料、およびそれらの炭化物が好ましく、ヤシ殻炭化物が特に好ましい。
【0032】
これらの原料を上記活性炭1とするための炭化および賦活の方式としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の既知の方式を採用できる。
【0033】
これらの原料の炭化方法としては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、ネオン、一酸化炭素、燃焼排ガス等の不活性ガス、またはこれらの不活性ガスを主成分とした他のガスとの混合ガスを使用して、400℃~700℃(好ましくは450℃~600℃)程度において、30分~10時間程度に亘って焼成する方法が挙げられる。
【0034】
上記で説明された炭化方法により得られた炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法が好ましく用いられる。これらのうち、賦活ガスとして、水蒸気または二酸化炭素を使用する方法が好ましい。この賦活方法では、賦活ガスを0.5kg/h~3.0kg/h(好ましくは0.7kg/h~2.0kg/h)の割合で供給しながら、得られた炭化物を3時間~12時間(好ましくは5時間~11時間、より好ましくは6時間~10時間)掛けて800℃~1,000℃まで昇温して賦活するのが好ましい。
【0035】
さらに、上記で説明された炭化物の賦活処理に先立ち、予め炭化物を1次賦活してもよい。この1次賦活では、通常、炭素材料を水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて、900℃未満の温度で焼成してガス賦活する方法が、好ましく採用できる。
【0036】
上記で説明された炭化方法における焼成温度および焼成時間と、賦活方法における賦活ガス供給量、昇温速度および最高賦活温度とを適宜組み合わせることにより、本開示において使用できる活性炭1を製造することができる。
【0037】
活性炭1の平均粒子径は、2μm~20μmであることが好ましい。平均粒子径が2μm以上であると、活物質層の密度が高いために電極体積当たりの容量が高くなる傾向がある。なお、平均粒子径が小さいと耐久性が低いという欠点を招来する場合があるが、平均粒子径が2μm以上であればそのような欠点が生じ難い。一方で、平均粒子径が20μm以下であると、高速充放電には適合し易くなる傾向がある。活性炭1の平均粒子径は、より好ましくは2μm~15μmであり、さらに好ましくは3μm~10μmである。
【0038】
(活性炭2)
活性炭2のメソ孔量Vは、正極材料を蓄電素子に組み込んだときの出力特性を大きくする観点から、0.8cm/gより大きい値であることが好ましい。Vは、蓄電素子の容量の低下を抑える観点から、2.5cm/g以下であることが好ましい。Vは、より好ましくは1.00cm/g以上2.0cm/g以下、さらに好ましくは、1.2cm/g以上1.8cm/g以下である。
【0039】
活性炭2のマイクロ孔量Vは、活性炭の比表面積を大きくし、容量を増加させるために、0.8cm/gより大きい値であることが好ましい。Vは、活性炭の電極としての密度を増加させ、単位体積当たりの容量を増加させるという観点から、3.0cm/g以下であることが好ましい。Vは、より好ましくは1.0cm/gより大きく2.5cm/g以下、さらに好ましくは1.5cm/g以上2.5cm/g以下である。
【0040】
上述したメソ孔量およびマイクロ孔量を有する活性炭2は、従来の電気二重層キャパシタまたはリチウムイオンキャパシタ用として使用されていた活性炭よりもBET比表面積が高いものである。活性炭2のBET比表面積の具体的な値は、2,300m/g以上4,000m/g以下であることが好ましく、3,000m/g以上4,000m/g以下であることがより好ましく、3,200m/g以上3,800m/g以下であることがさらに好ましい。BET比表面積が2,300m/g以上の場合には、良好なエネルギー密度が得られ易く、BET比表面積が4,000m/g以下の場合には、電極の強度を保つために結着剤を多量に入れる必要がないので、電極体積当たりの性能が高くなる。
【0041】
上記のような特徴を有する活性炭2は、例えば次に説明するような原料および処理方法を用いて得ることができる。
【0042】
活性炭2の原料として用いられる炭素質材料としては、通常活性炭原料として用いられる炭素源であれば特に限定されるものではなく、例えば、木材、木粉、ヤシ殻等の植物系原料;石油ピッチ、コークス等の化石系原料;フェノール樹脂、フラン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂等の各種合成樹脂等が挙げられる。これらの原料の中でも、フェノール樹脂、およびフラン樹脂は、高比表面積の活性炭を作製するのに適しており特に好ましい。
【0043】
これらの原料を炭化する方式、或いは賦活処理時の加熱方法としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の公知の方式が挙げられる。加熱時の雰囲気は窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス、またはこれらの不活性ガスを主成分として他のガスとの混合したガスが用いられる。炭化温度は400℃~700℃程度で、焼成時間は0.5時間~10時間程度で、焼成する方法が一般的である。
【0044】
炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法、およびアルカリ金属化合物と混合した後に加熱処理を行うアルカリ金属賦活法があるが、高比表面積の活性炭を作製するにはアルカリ金属賦活法が好ましい。この賦活方法では、炭化物とKOH、NaOH等のアルカリ金属化合物との質量比が1:1以上(アルカリ金属化合物の量が、炭化物の量と同じかこれよりも多い量)となるように混合した後に、不活性ガス雰囲気下で600℃~900℃の範囲において、0.5時間~5時間加熱を行い、その後アルカリ金属化合物を酸および水により洗浄除去し、さらに乾燥を行ってもよい。
【0045】
マイクロ孔量を大きくし、メソ孔量を大きくしないためには、賦活する際に炭化物の量を多めにしてKOHと混合するとよい。マイクロ孔量およびメソ孔量の双方を大きくするためには、KOHの量を多めに使用するとよい。また、主としてメソ孔量を大きくするためには、アルカリ賦活処理を行った後に水蒸気賦活を行うことが好ましい。
【0046】
活性炭2の平均粒子径は、2μm以上20μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上10μm以下である。
【0047】
(活性炭の使用態様)
活性炭1および2は、それぞれ、1種の活性炭であってもよいし、2種以上の活性炭の混合物であって前記した各々の特性値を混合物全体として示すものであってもよい。上記の活性炭1および2は、これらのうちのいずれか一方を選択して使用してもよいし、両者を混合して使用してもよい。
【0048】
正極活物質は、活性炭1および2以外の材料(例えば、上記で説明された特定のVおよび/若しくはVを有さない活性炭、または活性炭以外の材料(例えば、導電性高分子等))を含んでもよい。例示の態様において、活性炭1および2の合計含有量は、40.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは45.0質量%以上80.0質量%以下である。活性炭1および2の合計含有量が40.0質量%以上であれば、エネルギー密度を高めることができ、90.0質量%以下であれば、高温耐久性と高電圧耐久性を向上させることができる。
【0049】
(アルカリ金属化合物)
正極前駆体の正極活物質層は、上記正極活物質以外のアルカリ金属化合物として、式MCO{式中、Mは、NaまたはKを表す}で示されるアルカリ金属炭酸塩、および式MHCO{式中、Mは、NaまたはKを表す}で示されるアルカリ金属炭酸水素塩を含む。これらのアルカリ金属炭酸塩、およびアルカリ金属炭酸水素塩は正極前駆体中で分解して陽イオンを放出し、負極で還元されることにより、負極にプレドープすることが可能である。
炭酸ナトリウムや炭酸カリウムは水への溶解度が高く、例えば、25℃での水100gへの溶解度は、炭酸リチウムが1gであるのに対し、炭酸ナトリウムは30g、炭酸カリウムは112gである。したがって、アルカリ金属炭酸塩を溶解させた正極塗工液を正極集電体上に塗布及び乾燥することで正極活物質表面にアルカリ金属炭酸塩を析出させることができるが、一方で、正極塗工液は高い塩基性を示す。そこで、MHCO{式中、Mは、NaまたはKを表す}で示されるアルカリ金属炭酸水素塩を同時に用いることにより、正極塗工液の塩基性を抑えることができ、塗工液中の粒子の分散性を向上させることができる。
【0050】
本開示に係る正極前駆体としては、アルカリ金属化合物として少なくとも1種のアルカリ金属炭酸塩、および少なくとも1種のアルカリ金属炭酸水素塩を含んでいればよい。本開示に係る正極前駆体は、上記のアルカリ金属化合物とともに、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等をアルカリ金属イオンとして含む、酸化物、水酸化物、およびカルボン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属化合物を含んでいてもよい。
【0051】
アルカリ金属化合物は、正極活物質の表面を被覆していることが好ましい。正極活物質の表面をアルカリ金属化合物が被覆することにより、正極活物質からアルカリ金属化合物への電子伝導性が高まり、アルカリ金属化合物の分解反応を効率よく進行させることができる。
【0052】
正極前駆体の正極活物質層に含まれるアルカリ金属化合物の量(アルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属炭酸水素塩の合計量)は、正極活物質層の全質量を100質量%としたときに、5質量%以上25質量%以下、または5.0質量%以上25.0質量%以下であることが好ましく、6.5質量%以上22.0質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以上19.0質量%以下であることがさらに好ましい。アルカリ金属化合物の量が5質量%以上または5.0質量%以上であれば、負極に十分な量のアルカリ金属イオンをプレドープすることができ、負極活物質表面に安定なSEIを形成することができる。その結果、負極における非水系電解液の還元分解反応を抑制することができ、負極を低電位化することで非水系アルカリ金属蓄電素子を高電圧化できる。この値が25質量%以下または25.0質量%以下であれば、負極への過剰なアルカリ金属イオンのプレドープを抑制でき、負極活物質中へのインターカレーション反応を抑制することで負極の電荷移動抵抗を低減できる。
【0053】
正極前駆体の正極活物質層に含まれるアルカリ金属炭酸塩の質量比率をX1とし、アルカリ金属炭酸水素塩の質量比率をX2とするとき、X1/(X1+X2)は0.05以上0.95以下であることが好ましく、より好ましくは0.10以上0.90以下、さらに好ましくは0.20以上0.80以下である。X1/(X1+X2)が0.05以上であれば負極活物質表面へ安定なSEIを形成することができ、負極を低電位化することで非水系アルカリ金属蓄電素子を高電圧化できる。X1/(X1+X2)が0.95以下であれば、正極塗工液のpH上昇を抑制することで粒子の分散性が向上し、正極活物質層内の電子伝導性が高まることでアルカリ金属化合物の分解反応を温和な条件で進行させることができる。
【0054】
上記で説明された正極塗工液の塩基性の抑制および粒子の分散性、ならびにアルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩の質量比率の観点から、アルカリ金属ドープ工程後における正極は、上記式MCOで示されるアルカリ金属炭酸塩を含有することが好ましい。
【0055】
上記アルカリ金属化合物又はアルカリ金属化合物に由来するアルカリ金属元素の定量は、誘導結合プラズマ-発光分光分析法(ICP-AES)、原子吸光分析法、蛍光X線分析法、中性子放射化分析法、誘導結合プラズマ-質量分析法(ICP-MS)等により行うことができる。
【0056】
(分散剤)
正極活物質層は、分散剤として、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びポリビニルアセタールから成る群から選択される少なくとも一つを用いることができる。
【0057】
分散剤の総使用量は、正極活物質層中の固形分100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上10.0質量%以下である。分散剤の量が10.0質量%以下であれば、活物質へのイオンの出入りおよび拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0058】
(その他の成分)
本開示における正極前駆体の正極活物質層には、活性炭を含む正極活物質、アルカリ金属化合物、及び分散剤の他に、必要に応じて、例えば、導電性フィラー、結着剤、及びpH調整剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0059】
結着剤としては、例えば、ラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル共重合体等を使用することができる。正極活物質層における結着剤の使用量は、正極活物質100質量%に対して、0質量%~20質量%が好ましく、0.1質量%~15質量%の範囲がさらに好ましい。
【0060】
導電性フィラーは、正極活物質よりも導電性の高い導電性炭素質材料を含むことが好ましい。このような導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ等、およびこれらの混合物等から選択される1種以上が好ましい。カーボンブラックは、例えば、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等を包含する。黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛等を包含する。導電性フィラーとしては、特にカーボンブラック、またはカーボンナノチューブが好適に用いられる。
【0061】
正極前駆体の正極活物質層における導電性フィラーの含有割合は、正極活物質100質量%に対して、0質量%~20質量%が好ましく、1質量%~15質量%の範囲がより好ましい。導電性フィラーは、高入力の観点からは、できるだけ多く配合する方が好ましい。しかしながら、配合量が20質量%よりも多くなると、正極活物質層における正極活物質の含有割合が少なくなるために、正極活物質層体積当たりのエネルギー密度が低下するので、20質量%以下に調整されることが好ましい。
【0062】
アルカリ金属化合物を加えることによって塗工液がアルカリ性になるため、正極活物質層形成用の塗工液には、必要に応じてpH調整剤を塗工液に添加してもよい。pH調整剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、フッ化水素、塩化水素、臭化水素等のハロゲン化水素;次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸等のハロゲンオキソ酸;蟻酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸;硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、二酸化炭素等の酸等を用いることができる。
【0063】
[正極集電体]
正極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出および電解質またはイオンとの反応等による劣化が起こらない材料であれば特に制限はないが、金属箔が好ましい。本開示に係る非水系アルカリ金属蓄電素子又はその前駆体における正極集電体としては、アルミニウムを含むことが好ましく、アルミニウム箔がより好ましい。
【0064】
金属箔は凹凸または貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
【0065】
後述されるアルカリ金属ドープ工程の観点からは、無孔状のアルミニウム箔がさらに好ましく、アルミニウム箔の表面が粗面化されていることが特に好ましい。
【0066】
正極集電体の厚みは、正極の形状および強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1μm~100μmであることが好ましい。
【0067】
上記金属箔の表面に、例えば黒鉛、鱗片状黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維等の導電性材料を含むアンカー層を設けることが好ましい。アンカー層を設けることで正極集電体と正極活物質層間の電気伝導が向上し、低抵抗化できる。アンカー層の厚みは、正極集電体の片面当たり0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0068】
[正極前駆体の製造]
本開示において、非水系アルカリ金属蓄電素子の正極となる正極前駆体は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術に準じて製造することが可能である。例えば、正極活物質およびアルカリ金属化合物、ならびに必要に応じて使用されるその他の任意成分を水または有機溶剤中に分散または溶解してスラリー状の塗工液を調製し、この塗工液を正極集電体上の片面または両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより正極前駆体を得ることができる。さらに、得られた正極前駆体にプレスを施して、正極活物質層の膜厚または嵩密度を調整してもよい。
【0069】
正極活物質層形成用塗工液の調製方法は、特に制限されるものではないが、好適にはホモディスパー、多軸分散機、プラネタリーミキサー、薄膜旋回型高速ミキサー等の分散機を用いて行うことができる。良好な分散状態の塗工液を得るためには、塗工液を、周速1m/s以上50m/s以下で分散することが好ましい。周速1m/s以上であれば、各種材料が良好に溶解または分散するため好ましい。周速50m/s以下であれば、分散による熱またはせん断力により各種材料が破壊されることなく、再凝集が抑制されるため、好ましい。
【0070】
塗工液の分散度は、粒ゲージで測定した粒度が0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。分散度の上限としては、粒ゲージで測定した粒度として、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。この範囲の粒度であれば、塗工液の調製時に、材料を破砕することなく、塗工時のノズルの詰まり、塗膜のスジ発生等が抑制され、安定な塗工ができることとなる。
【0071】
塗工液の粘度(ηb)は、100mPa・s以上10,000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは300mPa・s以上5,000mPa・s以下、さらに好ましくは500mPa・s以上3,000mPa・s以下である。粘度(ηb)が100mPa・s以上であれば、塗膜形成時の液ダレが抑制され、塗膜幅および厚みが良好に制御できる。また、粘度が10,000mPa・s以下であれば、塗工機を用いた際の塗工液の流路における圧力損失が少なく、安定に塗工でき、塗膜厚みの制御が容易となる。
【0072】
塗工液のTI値(チクソトロピーインデックス値)は、1.1以上5.0以下が好ましく、より好ましくは1.2以上4.5以下、さらに好ましくは1.5以上4.0以下である。TI値が1.1以上であれば、塗膜幅および厚みが良好に制御できる。TI値が5.0以下であれば、正極前駆体中の活物質層嵩密度を高め、活物質粒子間の電子伝導性を高めることができる。
【0073】
正極活物質層の塗膜の形成には、特に制限されるものではないが、好適にはダイコーターまたはコンマコーター、ナイフコーター、グラビア塗工機等の塗工機を用いることができる。塗膜は単層塗工で形成してもよいし、多層塗工して形成してもよい。多層塗工の場合には、塗膜各層内の成分の含有量が異なるように塗工液組成を調整してもよい。
【0074】
正極集電体上に塗膜を塗工する際、多条塗工してもよいし、間欠塗工してもよいし、多条間欠塗工してもよい。
【0075】
正極集電体の両面に正極活物質層を形成する場合、正極集電体の片面に塗工、乾燥し、その後もう一方の面に塗工、乾燥する逐次塗工を行ってもよいし、正極集電体の両面に同時に塗工液を塗工、乾燥する両面同時塗工を行ってもよい。また、この場合、正極集電体の表面および裏面の正極活物質層の厚みの差は、両者の平均厚みの10%以下であることが好ましい。表面および裏面における正極活物質層の質量比、および膜厚比が1.0に近いほど、一方の面に充放電の負荷が集中することがないため、高負荷充放電サイクル特性が向上する。
【0076】
正極集電体上に正極活物質層の塗膜を形成した後、その塗膜の乾燥を行う。正極前駆体の塗膜の乾燥は、好ましくは熱風乾燥、赤外線(IR)乾燥等の適宜の乾燥方法により、好ましくは遠赤外線、近赤外線、または熱風で行なわれる。塗膜の乾燥は、単一の温度で乾燥させてもよいし、多段的に温度を変えて乾燥させてもよい。複数の乾燥方法を組み合わせて乾燥させてもよい。
【0077】
乾燥温度は、25℃以上200℃以下であることが好ましく、より好ましくは40℃以上180℃以下、さらに好ましくは50℃以上160℃以下である。乾燥温度が25℃以上であれば、塗膜中の溶媒を十分に揮発させることが出来る。他方、200℃以下であれば、急激な溶媒の揮発による塗膜のヒビ割れまたはマイグレーションによる結着剤の偏在、正極集電体または正極活物質層の酸化を抑制できる。
【0078】
乾燥後の正極活物質層に含まれる水分は、正極活物質層の全質量を100質量%としたときに、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。水分量が0.1質量%以上であれば、過剰な乾燥による結着剤の劣化を抑え、低抵抗化できる。水分量が10質量%以下であれば、アルカリ金属イオンの失活を抑え、高容量化できる。
【0079】
正極活物質層に含まれる水分量は、例えばカールフィッシャー滴定法(JIS 0068(2001)「化学製品の水分測定方法」)により測定することができる。
【0080】
正極活物質層のプレスには、好適には、油圧プレス機、真空プレス機、ロールプレス機等の適宜のプレス機を用いることができる。正極活物質層の膜厚、嵩密度および電極強度は、後述するプレス圧力、プレスロール間の隙間、プレス部の表面温度により調整できる。プレス圧力は、0.5kN/cm以上20kN/cm以下であることが好ましく、より好ましくは1kN/cm以上10kN/cm以下、さらに好ましくは2kN/cm以上7kN/cm以下である。プレス圧力が0.5kN/cm以上であれば、電極強度を十分に高くできる。他方、プレス圧力が20kN/cm以下であれば、正極に撓みおよびシワが生じることがなく、正極活物質層を所望の膜厚または嵩密度に調整できる。
【0081】
プレスにロールプレス機を使用する場合、プレスロール間の隙間としては、正極活物質層が所望の厚みおよび嵩密度となるように、適宜の値を設定できる。プレス速度は、正極に撓みおよびシワが生じない適宜の速度に設定できる。
【0082】
プレス部の表面温度は室温でもよいし、必要によりプレス部を加熱してもよい。加熱する場合のプレス部の表面温度の下限は、使用する結着剤の融点マイナス60℃以上が好ましく、より好ましくは結着剤の融点マイナス45℃以上、さらに好ましくは結着剤の融点マイナス30℃以上である。他方、加熱する場合のプレス部の表面温度の上限は、使用する結着剤の融点プラス50℃以下が好ましく、より好ましくは結着剤融点プラス30℃以下、さらに好ましくは結着剤の融点プラス20℃以下である。例えば、結着剤にスチレン-ブタジエン共重合体(融点100℃)を用いた場合、プレス部を、40℃以上150℃以下に加温することが好ましく、より好ましくは55℃以上130℃以下、さらに好ましくは70℃以上120℃以下に加温することである。
【0083】
結着剤の融点は、DSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)の吸熱ピーク位置で求めることができる。例えば、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC7」を用いて、試料樹脂10mgを測定セルにセットし、窒素ガス雰囲気中で、温度30℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温したときに、昇温過程における吸熱ピーク温度が融点となる。
【0084】
プレス圧力、隙間、速度、プレス部の表面温度の条件を変えながら複数回プレスを実施してもよい。
【0085】
正極活物質層を多条塗工した場合には、プレスの前にスリットすることが好ましい。多条塗工された正極活物質層をスリットせずに正極のプレスを行うと、正極活物質層が塗工されていない正極集電体部分に過剰の応力が掛かり、皺ができる場合がある。プレス後に、正極活物質層を再度スリットしてもよい。
【0086】
正極活物質層の厚みは、正極集電体の片面当たり10μm以上200μm以下であることが好ましい。正極活物質層の厚みは、より好ましくは片面当たり20μm以上150μm以下であり、さらに好ましくは30μm以上100μm以下である。この厚みが10μm以上であれば、十分な充放電容量を発現することができる。他方、この厚みが200μm以下であれば、電極内のイオン拡散抵抗を低く維持することができる。そのため、十分な出力特性が得られるとともに、セル体積を縮小することができ、従ってエネルギー密度を高めることができる。なお、正極集電体が貫通孔または凹凸を有する場合における正極活物質層の厚みとは、正極集電体の貫通孔または凹凸を有していない部分の片面当たりの厚みの平均値をいう。
【0087】
〈負極〉
負極は、負極集電体と、その片面または両面上に存在する負極活物質層とを有する。
【0088】
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質として活性炭を含み、さらにNaF又はKFを含み、これら以外に、必要に応じて、分散剤、導電性フィラー、結着剤等の任意成分を含んでよい。
【0089】
(負極活物質)
本願発明における負極活物質は活性炭であり、上述の活性炭1または活性炭2を好適に用いることができる。
従来の非水系アルカリ金属蓄電素子においては、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な炭素材料として難黒鉛化性炭素材料、易黒鉛化性炭素材料、カーボンナノ粒子、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン小球体等が好適に用いられる。これらの炭素材料は負極電位が0.8V以下の領域ではインターカレーション反応によりアルカリ金属イオンを吸蔵することができ、高い充放電容量を発現することができる。さらに、これらの材料は比表面積が小さいために負極活物質表面での過剰なSEI形成をすることがなく、負極を容易に低電位化することができる。しかしながら、イオン半径の大きなナトリウムイオンやカリウムイオンを用いた場合、これらの炭素材料へのインターカレーションでは急激な体積変化を伴い、負極の電荷移動抵抗の増大を招いてしまう。また、これらの炭素材料は比表面積が低いため、負極電位が0.8V以上のアルカリ金属イオンの吸着、脱離に伴う充放電容量はほとんど発現することができない。
【0090】
負極活物質は活性炭を含み、好ましくは負極活物質の総量に対する活性炭の含有率が50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。炭素材料の含有率は、100質量%であることができるが、他の材料の併用による効果を良好に得る観点から、例えば、97質量%以下であることが好ましく、95質量%以下でもよい。炭素材料の含有率の範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0091】
(負極活物質層中のその他の成分)
負極活物質層中の分散剤、導電性フィラー、および結着剤は、それぞれ、正極活物質層中の分散剤、導電性フィラー、および結着剤として上記に例示したものから適宜選択して使用してよい。
【0092】
負極活物質層中の分散剤、および結着剤の含有割合は、それぞれ、正極活物質中の分散剤、および結着剤の含有割合として上記した範囲内であってよい。
【0093】
[負極集電体]
負極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出、電解質またはイオンとの反応による劣化等が起こらない材料であることが好ましく、例えば金属箔であってよい。このような金属箔としては、特に制限はなく、例えば、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔等が挙げられる。本開示に係る非水系アルカリ金属蓄電素子における負極集電体としては、アルミニウムを含むものが好ましく、アルミニウム箔がより好適に用いられる。
【0094】
負極集電体としての金属箔は、凹凸または貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
【0095】
負極集電体の厚みは、負極の形状および強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1μm~100μmである。
【0096】
[負極の製造]
負極は、負極集電体の片面上または両面上に負極活物質層を有する。典型的な態様において、負極活物質層は負極集電体に固着している。
【0097】
負極は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術によって製造することが可能である。例えば、負極活物質を含む各種材料を水または有機溶剤中に分散または溶解してスラリー状の塗工液を調製し、この塗工液を負極集電体上の片面または両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより、負極を得ることができる。さらに得られた負極にプレスを施して、負極活物質層の膜厚または嵩密度を調整してもよい。
【0098】
負極活物質層形成用塗工液の調製、負極集電体上への塗工液の塗工、塗膜の乾燥、およびプレスは、それぞれ、正極前駆体の製造について上述した方法に準じて行うことができる。
【0099】
負極活物質層の厚みは、好ましくは、負極集電体の片面当たり10μm以上100μm以下であり、より好ましくは15μm以上90μm以下である。この厚みが10μm以上であれば、良好な充放電容量を発現することができる。他方、この厚みが100μm以下であれば、セル体積を縮小することができるから、エネルギー密度を高めることができる。なお、負極集電体に孔がある場合の負極活物質層の厚みとは、それぞれ、負極集電体の孔を有していない部分の片面当たりの厚みの平均値をいう。
【0100】
〈セパレータ〉
正極前駆体および負極は、セパレータを介して積層され、または積層および捲回され、正極前駆体、負極およびセパレータを有する電極積層体または電極捲回体が形成される。
【0101】
セパレータとしては、リチウムイオン二次電池に用いられるポリエチレン製の微多孔膜若しくはポリプロピレン製の微多孔膜、または電気二重層キャパシタで用いられるセルロース製の不織紙、ガラス繊維等から形成される織布又は不織布セパレータ、ガラス粒子又はシリカ粒子含有層が基材に積層されたセパレータ等を用いることができる。これらのセパレータの片面または両面に、有機または無機の微粒子からなる膜が積層されていてもよい。また、セパレータの内部に有機または無機の微粒子が含まれていてもよい。
【0102】
セパレータの厚みは5μm以上35μm以下が好ましい。5μm以上のセパレータ厚みとすることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため好ましい。他方、35μm以下のセパレータ厚みとすることにより、蓄電素子の出力特性が高くなる傾向があるため好ましい。
【0103】
有機または無機の微粒子からなる膜の厚みは、1μm以上10μm以下が好ましい。この膜を1μm以上の厚みとすることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため好ましい。他方、この膜を10μm以下の厚みとすることにより、蓄電素子の出力特性が高くなる傾向があるため好ましい。
【0104】
〈外装体〉
外装体としては、金属缶、ラミネートフィルム等を使用できる。金属缶としては、アルミニウム製のものが好ましい。金属缶は、例えば、角形、丸型、円筒型等の形態でよい。ラミネートフィルムとしては、金属箔と樹脂フィルムとを積層したフィルムが好ましく、外層樹脂フィルム/金属箔/内装樹脂フィルムから成る3層構成のものが例示される。外層樹脂フィルムは、接触等により金属箔が損傷を受けることを防止するためのものであり、ナイロンまたはポリエステル等の樹脂が好適に使用できる。金属箔は水分およびガスの透過を防ぐためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。また、内装樹脂フィルムは、内部に収納する電解液から金属箔を保護するとともに、外装体のヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン等が好適に使用できる。
【0105】
〈電解液〉
本開示における電解液は、非水系電解液である。すなわち、この電解液は、非水溶媒を含む。非水系電解液は、非水系電解液の総量を基準として、0.5mol/L以上の電解質塩を含有する。すなわち、非水系電解液は、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンを含有できるように、アルカリ金属塩を電解質として含む。中でも、非水系電解液は、本開示に係る非水系アルカリ金属蓄電素子の作用効果の観点から、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンを含むことが好ましい。非水系電解液に含まれる非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等に代表される環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等に代表される鎖状カーボネート、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルに代表される非環状エーテル、テトラヒドロフランに代表される環状エーテルが挙げられる。
【0106】
上記のような非水溶媒に溶解するアルカリ金属イオンを含む電解質塩としては、例えば、MFSI、MTFSI、MBF、MPF、及びMClO{それぞれの式中、Mは、NaまたはKである。}等を用いることができる。
【0107】
電解液における電解質塩濃度は、0.5mol/L~2.0mol/Lの範囲内にあることが好ましい。0.5mol/L以上の電解質塩濃度では、アニオンが十分に存在し、非水系アルカリ金属蓄電素子の容量が維持される。一方で、2.0mol/L以下の電解質塩濃度では、塩が電解液中で十分に溶解し、電解液の適切な粘度および伝導度が保たれる。
【0108】
《非水系アルカリ金属蓄電素子の製造方法》
本開示に係る非水系アルカリ金属蓄電素子の製造方法の一例は、以下の工程:
(1)活性炭を含む正極活物質、上記正極活物質以外のアルカリ金属化合物を含む正極前駆体と、負極とを、セパレータを介して積層させた電極体を、外装体に収納する工程、
(2)アルカリ金属イオンを含有する電解質を含む非水系電解液を外装体内に注入して、非水系アルカリ金属蓄電素子を作製する工程、並びに
(3)正極前駆体と負極との間に電圧を印加して、アルカリ金属化合物を分解する工程
を、工程(1)、(2)、(3)の順で含んでよい。
【0109】
工程(1)~(3)を含む非水系アルカリ金属蓄電素子の製造方法は、非水系アルカリ金属蓄電素子について上述された部材、材料、条件などを用いて行うことができる。工程(1)は、電極体を作製するための組立工程、及び電極体を外装体に収納する収納工程を含んでよい。工程(2)は、所望により、外装体内への電解液の注液工程に加えて、電極体を非水系電解液に含浸する含浸工程、外装体の封止工程などを含んでよい。工程(3)は、負極活物質層にアルカリ金属イオンをプレドープするアルカリ金属ドープ工程、ガス抜き工程などを含んでよい。所望により、工程(3)後に、エージング工程、更なるガス抜き工程などを行なってよい。
【0110】
[組立工程、電極体の作製]
電極体は、電極積層体又は電極捲回体であってよい。一実施形態の組立工程では、例えば、枚葉の形状にカットした正極前駆体および負極を、セパレータを介して積層して積層体を作製し、積層体に正極端子および負極端子を接続して、電極積層体を作製する。別の実施形態では、正極前駆体および負極を、セパレータを介して積層および捲回して捲回体を作製し、捲回体に正極端子および負極端子を接続して、電極捲回体を作製してもよい。電極捲回体の形状は円筒型であっても、扁平型であってもよい。正極端子および負極端子の接続の方法は特に限定されないが、抵抗溶接、超音波溶接等の方法を用いることができる。
【0111】
端子を接続した電極体(電極積層体、または電極捲回体)を乾燥して、残存溶媒を除去することが好ましい。乾燥方法は限定されないが、真空乾燥等により乾燥することができる。残存溶媒は、正極活物質層または負極活物質層の合計質量当たり、1.5質量%以下であることが好ましい。残存溶媒が1.5質量%より多いと、系内に溶媒が残存し、自己放電特性を悪化させるため好ましくない。
【0112】
乾燥した電極体は、好ましくは露点-40℃以下のドライ環境下にて、金属缶またはラミネートフィルムに代表される外装体の中に収納し、非水系電解液を注液するための開口部を1方だけ残して封止することが好ましい。露点が-40℃より高いと、電極体に水分が付着してしまい、系内に水が残存し、自己放電特性を悪化させるため好ましくない。外装体の封止方法は特に限定されないが、ヒートシール、インパルスシール等の方法を用いることができる。
【0113】
[注液、含浸、封止工程]
組立工程後に、外装体の中に収納された電極体に、非水系電解液を注液する。注液後に、さらに含浸を行い、正極又はその前駆体、負極、およびセパレータを非水系電解液で十分に浸すことが好ましい。正極又はその前駆体、負極、およびセパレータのうちの少なくとも一部に電解液が浸っていない状態では、後述するアルカリ金属ドープ工程において、アルカリ金属ドープが不均一に進むため、得られる非水系アルカリ金属蓄電素子の抵抗が上昇したり、耐久性が低下したりする。含浸の方法としては、特に制限されないが、例えば、注液後の電極体を、外装体が開口した状態で、減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にし、再度大気圧に戻す方法等を用いることができる。含浸後に、外装体が開口した状態の電極体を減圧しながら封止することで密閉することができる。
【0114】
[アルカリ金属ドープ工程]
アルカリ金属ドープ工程では、正極前駆体と負極との間に電圧を印加して、正極前駆体中に好ましく含まれるアルカリ金属化合物を分解して、アルカリ金属イオンを放出し、負極でアルカリ金属イオンを還元することにより、負極活物質層にアルカリ金属イオンをプレドープすることが好ましい。この時、非水系電解液中の電解質塩と、正極前駆体より放出されたアルカリ金属イオンが反応し、正極活物質である正極活性炭表面、および負極活物質である負極活性炭表面にNaFまたはKFを含む安定なSEIが形成される。これにより、負極電位が1.6V以下の低電位領域においても非水系電解液の還元分解反応を抑制できるようになる。一方で、負極電位が0.8V以下になるように負極へ過剰にアルカリ金属イオンをプレドープしてしまうと、活性炭内部へのアルカリ金属イオンのインターカレーションが進行し、負極の電荷移動抵抗が増大してしまう。正極においては、非水系電解液の酸化分解反応を抑制することにより、非水系アルカリ金属蓄電素子を高電圧化できる。
【0115】
NaFまたはKFは、正極活物質および負極活物質の表面に被覆していることが好ましい。正極活物質および負極活物質表面にNaFまたはKFを被覆することで、非水系電解液の過剰な酸化分解および還元分解を抑制することができる。活物質表面の被覆量の目安については、後述するSEM/EDXにおけるNaFまたはKFの被覆率が30%以上90%以下であることが好ましく、さらに好ましくは35%以上80%以下である。被覆率が30%以上であれば非水系電解液の酸化分解反応や還元分解反応を抑制することができ、被覆率が90%以下であれば活物質粒子間の電子伝導性が高まる。
【0116】
一般的に、活性炭の自然電位はリチウム金属を基準として約3.0Vにあり、従来の電気二重層キャパシタでは電圧0V時の正極および負極の電位(以下、短絡電位という)は約3.0Vである。本発明では負極へのプレドープにより負極電位を下げることができ、その結果として非水系アルカリ金属蓄電素子の短絡電位を低下させることができる。つまり、正極では短絡電位から非水系電解液の酸化分解電位までのマージンが広くなり、負極ではプレドープにより非水系電解液の還元分解電位までのマージンが広くなることで、非水系アルカリ金属蓄電素子を高電圧化することができる。
【0117】
得られる非水系アルカリ金属蓄電素子の0V時の短絡電位としては2.05V以上2.85V以下になるように、プレドープを行うことが好ましく、そして非水系アルカリ金属蓄電素子の0V時の短絡電位は、2.10V以上2.80V以下であることがより好ましく、更に好ましくは2.15V以上2.75V以下である。短絡電位の調整の方法は、特に制限されないが、正極前駆体中のアルカリ金属化合物の混合量で調整する方法、正極活物質層または負極活物質層の目付量を調整すること、アルカリ金属ドープ工程の温度や電圧を調整する方法が挙げられる。
【0118】
アルカリ金属ドープ工程において、正極前駆体と負極との間に印加する電圧は3.1V以上3.6V以下であることが好ましく、該電圧を定電圧で印加してアルカリ金属化合物を分解する工程が好ましい。印加する電圧が3.1V以上であればアルカリ金属化合物の分解反応を促進することができ、電圧が3.6V以下であれば正極上での非水系電解液の過剰な酸化分解反応と、負極活物質内へのアルカリ金属イオンのインターカレーションを抑制することができる。
【0119】
アルカリ金属ドープ工程において、正極前駆体中のアルカリ金属化合物の酸化分解に伴い、CO等のガスが発生する。そのため、電圧を印加する際には、発生したガスを外装体の外部に放出する手段を講ずることが好ましい。この手段としては、例えば、外装体の一部を開口させた状態で電圧を印加する方法;外装体の一部に予めガス抜き弁、ガス透過フィルム等の適宜のガス放出手段を設置した状態で電圧を印加する方法;等を挙げることができる。
【0120】
[エージング工程]
アルカリ金属ドープ工程後に、電極体にエージングを行うことが好ましい。エージング工程では、下限電圧を0.0V以上0.3V以下、上限電圧を3.0V以上3.6V以下とする充放電サイクルを2回以上行うことが好ましく、このような充放電サイクルを3回以上行うことがより好ましく、4回以上行うことが更に好ましい。正極前駆体に含まれるアルカリ金属化合物を分解してアルカリ金属イオンを非水系電解液中にするが、充放電サイクルを繰り返すことにより非水系アルカリ金属蓄電素子内のイオンの偏在を解消することができる。この時の充放電サイクル時の下限電圧を0.0V以上0.3V以下とすることで、負極活物質表面に安定なSEIを形成することができ、非水系リチウム蓄電素子の電圧1.0V以下の充放電効率を向上させることができる。また上限電圧を3.0V以上3.6V以下とすることで、正極中に残存するアルカリ金属化合物を低減することにより非水系アルカリ金属蓄電素子を高出力化できる。
さらに続けて、高温環境下で電解液中の溶媒を反応させる方法等のエージングを実施してもよい。
【0121】
[ガス抜き工程]
エージング工程後に、さらにガス抜きを行い、電解液、正極、および負極中に残存しているガスを確実に除去することが好ましい。電解液、正極、および負極の少なくとも一部にガスが残存している状態では、イオン伝導が阻害されるため、得られる非水系アルカリ金属蓄電素子の抵抗が上昇してしまう。ガス抜きの方法としては、特に制限されないが、例えば、外装体を開口した状態で電極体を減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にする方法等を用いることができる。ガス抜き後、外装体をシールすることにより外装体を密閉し、非水系アルカリ金属蓄電素子を作製することができる。
【0122】
[正極、負極の目付設計]
正極の活物質層目付が、負極の活物質層目付よりも大きいことが好ましい。上述のアルカリ金属ドープ工程において負極活物質表面に安定なSEIが形成されるが、一方でこのSEIは抵抗の要因にもなる。そのため、正極の活物質層の目付に対して負極の活物質層の目付を小さくすることで負極を相対的に薄膜化することができ、負極活物質層内のイオンの拡散抵抗を低減することができる。その結果、正極と負極の抵抗のバランスが取れ、非水系アルカリ金属蓄電素子を高出力化することができる。
【0123】
[正極および負極の活物質層目付、アルカリ金属化合物の定量方法]
正極活物質層の目付と正極活物質層中に含まれるアルカリ金属化合物の定量方法を以下に記載する。アルゴンボックス中で、電圧を0.0Vに調整した非水系アルカリ金属蓄電素子を解体して電極体を取り出し、電極体から正極および負極を切り出して有機溶媒で洗浄する。有機溶媒としては、正極および負極表面に堆積した電解液分解物を除去できればよく、特に限定されないが、アルカリ金属化合物の溶解度が2%以下である有機溶媒を用いることでアルカリ金属化合物の溶出が抑制される。そのような有機溶媒としては、例えばエタノール、アセトン、酢酸メチル等の極性溶媒が好適に用いられる。測定する正極および負極の面積は特に制限されないが、測定のばらつきを軽減するという観点から5cm以上200cm以下であることが好ましく、より好ましくは25cm以上150cm以下である。面積が5cm以上あれば測定の再現性が確保される。面積が200cm以下であればサンプルの取扱い性に優れる。
【0124】
正極および負極の洗浄方法は、電極(正極または負極)の重量に対し50~100倍のエタノール溶液に電極を3日間以上浸漬させる。浸漬の間、エタノールが揮発しないよう、例えば容器に蓋をすることが好ましい。3日間以上浸漬させた後、電極をエタノールから取り出し、真空乾燥する。真空乾燥の条件は、温度:100~200℃、圧力:0~10kPa、時間:5~20時間の範囲で正極中のエタノールの残存が1質量%以下になる条件とする。エタノールの残存量については、後述する蒸留水洗浄後の水のGC/MSを測定し、予め作成した検量線に基づいて定量することができる。得られた電極の面積をS(m)とする。スパチュラ、ブラシ、刷毛等を用いて電極の活物質層を取り除き、電極の重量をM(g)とする。続いて、電極の重量の100~150倍の蒸留水に3日間以上浸漬させる。浸漬の間、蒸留水が揮発しないよう容器に蓋をして、アルカリ金属化合物の溶出を促進させるために時折水溶液を撹拌させることが好ましい。3日間以上浸漬させた後、蒸留水から電極を取り出し、上記のエタノール洗浄と同様に真空乾燥する。真空乾燥後の電極の重量をM(g)とする。続いて、得られた電極の集電体の重量を測定するため、スパチュラ、ブラシ、刷毛等を用いて電極に残った活物質層を取り除く。得られた集電体の重量をM(g)とすると、電極の活物質層の目付C(g/m)は下記(1)式にて算出できる。
=(M-M)/S ・・・(1)
また、電極の面積当たりアルカリ金属化合物量C(g/m)は、下記(2)式にて算出できる。
=(M-M)/S ・・・(2)
【0125】
<電極中のアルカリ金属化合物の同定方法>
正極前駆体、または正極中に含まれるアルカリ金属化合物の同定方法は特に限定されないが、例えば下記の方法により同定することができる。アルカリ金属化合物の同定には、以下に記載する複数の解析手法を組み合わせて同定することが好ましい。
後述するイオンクロマトグラフィーについては、正極を蒸留水で洗浄した後の水を解析することにより陰イオンを同定することができる。
【0126】
[X線光電分光法(XPS)]
正極前駆体、正極、および負極の電子状態をXPSで解析することにより、活物質層中に含まれる化合物の結合状態を判別することができる。例えば、以下の条件でXPSを測定できる。
・測定装置:アルバック・ファイ製 VersaProbeII
・X線源:単色化AlKα(20kV×5mA)
・分析サイズ:100μm×1.4mm
(データ取り込み時、100μmφのX線ビームを1.4mm幅で走査)
・光電子取出角:45°
・取込領域
Survey scan:0~1100eV Narrow scan:Na(1s)、Na(KLL)、K(1s)、K(KLL)、C(1s)、P(2p)、F(1s)、O(1s)、Ca(2p)
・Pass Energy:117.4eV(Survey scan)、23.5eV(Narrow scan)
測定したXPSスペクトルについて、C(1s)C-C,C-H=286.4eVとして帯電補正を行う。各元素の定量について、OについてはO(1s)にNaKL23オージェのピークが重なるため、O(1s)+NaKL23スペクトルを3 成分(O(1s):2成分、NaKL23:1成分)でピーク分離することによりOの濃度
を算出する。P(2p)についてはPOとMPF(MはNaまたはK)とし、各成分に制約は加えない。F(1s)についてはMF(MはNaまたはK)とMPF(MはNaまたはK)とし、各成分に制約は加えない。
Na,Kの1s光電子結合エネルギーは化学状態による変化(化学シフト)量が小さいため、状態分析にはオージェパラメータα’を用いる。α’は以下の式で表される。
α’=オージェ電子の運動エネルギー(K.E.)+光電子の結合エネルギー(B.E.)
なお、α’は帯電補正の方法に依存しない値である。励起源にAlKα線を用いる場合、K.E.=1486.6-B.E.である。
本実施形態に係る条件において、F(1s)スペクトルの結合エネルギー684eVのピークをMF(MはNaまたはK)、687eVのピークをMPF(MはNaまたはK)として同定できる。また、C(1s)スペクトルの結合エネルギー289eVのピーク、およびO(1s)の531eVのピークより、MCO、およびMHCOを同定できる。
【0127】
[X線回折(XRD)]
正極前駆体、正極、および負極をXRDで解析することにより、活物質層中に含まれる化合物を判別することができる。例えば、以下の条件でXRDを測定できる。
・測定装置:リガク製 Ultima-IV
・X線源:Cu-Kα
・励起電圧:電圧40kV、電流40mA
・光学系:集中光学系
・Cu-Kβ線フィルタ:Ni箔
・アブソーバー:なし
・検出器:Dtex(高感度検出器)
・測定方式:θ/2θ法
・スリット:DS=1°、SS=解放、縦スリット=10mm
・2θ/θスキャン:2θ=5°~90°(0.02°/ステップ、10°/分)
正極前駆体のXRD解析において、予め作成した検量線を基にMCO、およびMHCOの存在比率を算出することが可能である。
【0128】
[イオンクロマトグラフィー]
正極の蒸留水洗浄液をイオンクロマトグラフィーで解析することにより、水中に溶出したアニオン種を同定することができる。使用するカラムとしては、イオン交換型、イオン排除型、逆相イオン対型を使用することができる。検出器としては、電気伝導度検出器、紫外可視吸光光度検出器、電気化学検出器等を使用することができ、検出器の前にサプレッサーを設置するサプレッサー方式、またはサプレッサーを配置せずに電気伝導度の低い溶液を溶離液に用いるノンサプレッサー方式を用いることができる。また、質量分析計や荷電化粒子検出を検出器と組み合わせて測定することもできる。
サンプルの保持時間は、使用するカラムや溶離液等の条件が決まれば、イオン種成分毎に一定であり、またピークのレスポンスの大きさはイオン種毎に異なるが濃度に比例する。トレーサビリティーが確保された既知濃度の標準液を予め測定しておくことでイオン種成分の定性と定量が可能となる。
【0129】
[蓄電素子の特性評価]
(静電容量)
本開示において、静電容量F(F)とは、以下の方法によって得られる値である:
先ず、非水系アルカリ金属蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、2Cの電流値で3.2Vに到達するまで定電流充電を行い、続いて3.2Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行う。その後、0.0Vまで2Cの電流値で定電流放電を施した際の容量をQ(C)とする。ここで得られたQ及び電圧変化△E(V)を用いて、静電容量F=Q/△E=Q/(3.2-0.0)により算出される値をいう。ここで電流の放電レート(「Cレート」とも呼ばれる)とは、放電容量に対する放電時の電流の相対的な比率であり、一般に、上限電圧から下限電圧まで定電流放電を行う際、1時間で放電が完了する電流値のことを1Cという。本開示において、上限電圧3.2Vから下限電圧0.0Vまで定電流放電を行う際に1時間で放電が完了する電流値のことを1Cとする。
【0130】
(内部抵抗)
本開示において、内部抵抗R(Ω)とは、それぞれ、以下の方法によって得られる値である:
先ず、非水系アルカリ金属蓄電素子を25℃に設定した恒温槽内で、2Cの電流値で3.2Vに到達するまで定電流充電し、続いて3.2Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行う。続いて、サンプリング間隔を0.1秒とし、20Cの電流値で0.0Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間-電圧)を得る。この放電カーブにおいて、放電時間1秒及び2秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとしたときに、降下電圧△E=3.2-EoからR=△E/(20Cの電流値)として算出される値である。
【実施例0131】
以下、実施例および比較例を示して本開示の実施形態を具体的に説明する。しかしながら、本開示は、以下の実施例および比較例により、何ら限定されるものではない。
【0132】
《実施例1》
<正極活物質の調製>
破砕されたヤシ殻炭化物を小型炭化炉内へ入れ、窒素雰囲気下、500℃で3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、予熱炉で加温した水蒸気を1kg/hで賦活炉内へ導入し、900℃まで8時間掛けて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却して、賦活された活性炭を得た。得られた賦活された活性炭を10時間通水洗浄した後に水切りし、115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した。その後に、乾燥された活性炭に対してボールミルで1時間粉砕を行うことにより、活性炭1を得た。
【0133】
島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2000J)を用いて、活性炭1の平均粒子径を測定した結果、5.5μmであった。また、ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB-1 AS-1-MP)を用いて、活性炭1の細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が2360m/g、メソ孔量(V)が0.52cm/g、マイクロ孔量(V)が0.88cm/g、V/V=0.59であった。
【0134】
<正極前駆体の製造例1>
活性炭1を72.0質量%、炭酸カリウム(KCO)を16.0質量%、炭酸水素カリウム(KHCO)を2.0質量%、カーボンブラック(CB)を3.0質量%、結着剤としてアクリルラテックス(LTX)を4.0質量%、分散剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を1.5質量%、およびPVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、ならびに正極塗工液中の固形分重量が合計37.5wt%となるように分散溶媒として水を混合し、自転公転式ミキサーを用いて2000rpmで5分間撹拌して正極塗工液1を得た。ドクターブレードを用いて、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に正極塗工液1を塗工し、150℃で12時間真空乾燥することにより、正極前駆体1を得た。正極前駆体1の目付は24.0g/mであった。
【0135】
得られた正極前駆体1の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値からアルミニウム箔の膜厚を減じて正極活物質層の膜厚を測定した。
【0136】
<負極の製造例1>
活性炭1を90.0質量%、カルボキシメチルセルロース(CMC)を3.0質量%、アクリルラテックス5.0質量%、カーボンブラック2.0質量%ならびに蒸留水を混合して負極塗工液を得た。厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に、ドクターブレードを用いて負極塗工液を塗工し、ホットプレートを用いて乾燥して、負極1を作製した。負極1の目付は16.0g/mであった。
【0137】
<非水系電解液の調整>
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、全電解液に対してKN(SOF)の濃度が1.2mol/Lとなるように電解質塩を溶解して非水系電解液1を得た。
【0138】
<非水系アルカリ金属蓄電素子の作製>
正極前駆体1を正極活物質層が4.4cm×9.4cmの大きさになるように1枚切り出し、温度150℃で12時間真空乾燥した。負極1を4.6cm×9.6cmの大きさになるように1枚切り出し、温度150℃で12時間真空乾燥した。セパレータとして4.8cm×9.8cmのポリプロピレン製のセパレータ(旭化成株式会社製、厚み20μm)を用い、正極前駆体1および負極1を対向させて電極積層体を組み立てて、外装体に入れた。非水系電解液1を電極積層体に2.0cm注液して、外装体をシールし、非水系アルカリ金属蓄電素子1を3個作製した。
【0139】
<アルカリ金属ドープ、エージング>
非水系アルカリ金属蓄電素子1について、温度25℃、電流値10mAで電圧3.3Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて3.3V定電圧充電を合計10時間継続する手法により、負極1にアルカリ金属ドープを行った後、温度60℃、下限電圧を0.0V、上限電圧を3.2V、電流値を10mAとする定電流充放電サイクルを5回実施した。その後、非水系アルカリ金属蓄電素子1を3.5Vに充電し、80℃の恒温槽で16時間保存するエージングを行った。続いて、アルゴン雰囲気下で非水系アルカリ金属蓄電素子の外装体を開封して減圧チャンバーに入れ、真空ポンプでチャンバー内を減圧状態にする方法でガス抜きを行った。ガス抜き後、外装体をシールすることで密閉した。
【0140】
<非水系アルカリ金属蓄電素子の評価>
得られた非水系アルカリ金属蓄電素子1の1個について、上述の方法により静電容量および内部抵抗を測定した。
続いて、温度25℃、電流値10mAで電圧0.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、続けて0.0V定電圧放電を30分間継続した。その後、電流値10mAで電圧1.0Vに到達するまで定電流充電を行い、続けて1.0V定電圧充電を30分間継続し、定電流定電圧充電時の総充電容量QCG(mAh)を得た。続いて、電流値10mAで電圧0.0Vに到達するまで定電流放電を行い、この時の放電容量QDG(mAh)を得た。QDG/QCGより、電圧1.0V以下の充放電効率を算出した。
続いて、温度を-30℃とし、上述の方法により内部抵抗を測定して低温内部抵抗R(Ω)を得た。温度25℃の内部抵抗Rより、低温での抵抗上昇率R/Rを得た。
【0141】
<正極活物質層、負極活物質層に含まれる化合物の解析>
得られた非水系アルカリ金属蓄電素子1の1個について、上述の方法により非水系アルカリ金属蓄電素子を解体し、正極および負極を取り出した。続いて、正極および負極について、それぞれ、リチウム金属を参照極とし、上述のポリプロピレン製のセパレータを用い、非水系電解液1を電解液として短絡電位を測定した。短絡電位の測定について、厚み50μmのリチウム箔を2.0cm×2.0cmの大きさに切断し、厚みが100μmであり5.0cm×0.5cmの大きさのSUS箔の先端に該リチウム箔を巻き付け、圧着することで参照極を作製した。続いて、正極または負極の任意の点において上記セパレータを介して参照極を対向させ、セパレータが浸る量の非水系電解液1を滴下した。その後、正極または負極と参照極との電圧(電位差)をテスターで測定した。この測定を正極および負極の任意の10箇所で行い、その平均値を短絡電位として表3に示した。その後、上述の方法のとおり正極および負極をエタノール洗浄し、洗浄後の正極および負極を得た。上述のXPSおよびXRDの解析方法に従い正極および負極を解析することにより、正極活物質層および負極活物質層中にKFが含まれていることを確認した。また、正極活物質層中にKCOが含まれていることを確認した。
【0142】
<正極活物質層、負極活物質層の目付の測定>
上記非水系アルカリ金属蓄電素子1の1個について、上述の方法により正極活物質層目付、負極活物質層目付を算出した。
【0143】
<活物質表面のKFの被覆率の算出>
[正極および負極表面のSEM及びEDX測定]
上記の非水系アルカリ金属蓄電素子を解体し、エタノール洗浄後に得られた正極および負極について、0.5cm×0.5cmの小片を切り出し、10Paの真空中にて金をスパッタリングにより表面にコーティングした。続いて以下に示す条件にて、大気暴露下で正極および負極表面のSEM、及びEDXを測定した。
(SEM-EDX測定条件)
・測定装置:日立ハイテクノロジー製、電解放出型走査型電子顕微鏡 FE-SEM S-4800
・加速電圧:10kV
・エミッション電流:10μA
・測定倍率:5000倍
・電子線入射角度:90°
・X線取出角度:30°
・デッドタイム:15%
・マッピング元素:C,F
・測定画素数:256×256ピクセル
・測定時間:60sec.
・積算回数:50回
・マッピング像において最大輝度に達する画素がなく、輝度値の平均値が最大輝度値の40%~60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整した。
【0144】
(SEM-EDXの解析)
得られた炭素マッピング及びフッ素マッピングに対し、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて輝度値の平均値を基準に二値化した。この時の炭素マッピングの面積に対し、炭素マッピングとフッ素マッピングの重複する面積より、KFの被覆率(%)を100×(炭素マッピングとフッ素マッピングの重複する面積)/(炭素マッピングの面積)として算出した。
【0145】
《実施例2~18、比較例1~26》
各成分の使用量を表1、非水系アルカリ金属蓄電素子の製造条件を表2に記載のとおりになるように調整した他は、実施例1と同様にして非水系アルカリ金属蓄電素子を製造した。なお、実施例18においては、非水系電解液として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒にNaPFの濃度が1.2mol/Lとなるように電解質塩を溶解した非水系電解液2を使用し、比較例24~28においては、非水系電解液として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒にLiPFの濃度が1.2mol/Lとなるように電解質塩を溶解した非水系電解液3を使用した。非水系アルカリ金属蓄電素子の評価結果を表3に示した。実施例18における正極前駆体の表面を倍率10,000倍で観察したSEM像を図1に示す。
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【0148】
【表3】
【0149】
理論に限定されないが、実施例1~11では短絡電位が2.05V以上2.85Vの範囲であり、負極での電荷移動抵抗を低減することにより高出力化でき、低温での抵抗上昇率を低減することができた。
【0150】
比較例1~3、8~10、15~17では負極活性炭へ過剰にアルカリ金属イオンがプレドープされたことにより、短絡電位が2.00V以下となり、負極に過剰なSEIが形成されたこと、および負極活性炭でのインターカレーション反応により電荷移動抵抗が増大したと考えられる。
【0151】
また、比較例19~21において、一般的なナトリウムイオンキャパシタやカリウムイオンキャパシタで負極活物質として用いられる黒鉛や難黒鉛化性炭素を使用した場合、イオン半径の大きなナトリウムイオンやカリウムイオンの負極活物質でのインターカレーション反応により抵抗が増大したと考えられる。
【0152】
比較例25~26でリチウムイオンを含む非水系アルカリ金属蓄電素子を評価したところ、負極でのプレドープが収束せず、負極活物質表面での非水系電解液の分解とSEI形成とが続いたと考えられる。これは、理論に限定されないが、イオン半径の小さなリチウムイオンは、エチレンカーボネート等の電解液溶媒と強く溶媒和することができ、電解液溶媒のLUMO(最低空軌道)が低下することで還元分解を受け易いためと推測される。一方で、イオン半径の大きなナトリウムイオンやカリウムイオンは、電解液溶媒との溶媒和が相対的に弱く、負極上での還元分解反応が進行し難いと推測される。
【0153】
また、実施例1~11において、アルカリ金属ドープ後に下限電圧を0.0V以上0.3V以下とした充放電サイクルを実施することにより、電圧1.0V以下の副反応を低減することができ、充放電効率を向上させることができたと考えられる。
【0154】
実施例1~11と比較例1~11の対比より、アルカリ金属化合物としてアルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属炭酸水素塩を混合して使用することにより、高容量化と高出力化を達成できた。
【0155】
実施例18の正極前駆体(図1)では、直径が1μm未満の炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムの針状結晶を析出させることができた。針状であるために結晶の表面積が増えてアルカリ金属ドープ反応が進行し易くなるだけでなく、正極前駆体中でのアルカリ金属炭酸塩粒子およびアルカリ金属炭酸水素塩粒子の欠落を抑制できるため好ましい。また、活性炭粒子を完全に被覆することなく、活性炭と電解液との接触面積が増えることで過電圧が低下し、アルカリ金属ドープ反応が進行し易くなると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本開示の非水系アルカリ金属蓄電素子は、自動車のハイブリット駆動システムの電力回生システム、太陽光発電や風力発電等の自然発電やマイクログリッド等における電力負荷平準化システム、工場の生産設備等における無停電電源システム、マイクロ波送電や電解共鳴等の電圧変動の平準化及びエネルギーの蓄電を目的とした非接触給電システム、振動発電等で発電した電力の利用を目的としたエナジーハーベストシステムに用いられる非水系アルカリ金属蓄電素子として好適に利用できる。該非水系アルカリ金属蓄電素子は、例えば、複数個の非水系アルカリ金属蓄電素子を直列、又は並列に接続して蓄電モジュールを作ることができる。本開示の非水系アルカリ金属蓄電素子は、カリウムイオンキャパシタまたはナトリウムイオンキャパシタとして適用したときに、本開示の効果が最大限に発揮されるため、好ましい。
図1