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特開2024-118509水硬性組成物及びそれを用いたセメント質硬化体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118509
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】水硬性組成物及びそれを用いたセメント質硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240826BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20240826BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240826BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/14 B
C04B24/26 E
C04B40/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024822
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】多田 真人
(72)【発明者】
【氏名】久我 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 彦次
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB23
4G112MD01
4G112PB11
4G112PB31
4G112PC01
4G112PC11
4G112PE05
4G112RA05
(57)【要約】
【課題】セメント及びポリカルボン酸系セメント分散剤を含む水硬性組成物であって、蒸気養生を必要とせず、低温等の環境下であっても、優れた早期強度発現性を有する水硬性組成物を提供する。
【解決手段】セメントクリンカ粉砕物、二水石膏、半水石膏及びポリカルボン酸系セメント分散剤を含む水硬性組成物であって、セメントクリンカ粉砕物は、ボーグ式で算出される値として、エーライト(CS)の割合が50~68質量%、ビーライト(CS)の割合が10~25質量%、アルミネート相(CA)の割合が12~18質量%、及びフェライト相(CAF)の割合が0.5~7質量%である鉱物組成を有し、二水石膏及び半水石膏は、半水化率が20~60%である質量比を有し、二水石膏及び半水石膏の合計量は、SO換算の値として、セメントクリンカ粉砕物、二水石膏及び半水石膏の合計量100質量部に対して3.0~4.0質量部である、水硬性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカ粉砕物、二水石膏、半水石膏、及び、ポリカルボン酸系セメント分散剤を含む水硬性組成物であって、
上記セメントクリンカ粉砕物は、ボーグ式で算出される値として、エーライト(CS)の割合が50~68質量%、ビーライト(CS)の割合が10~25質量%、アルミネート相(CA)の割合が12~18質量%、及び、フェライト相(CAF)の割合が0.5~7質量%である鉱物組成を有し、
上記二水石膏及び上記半水石膏は、半水化率が20~60%である質量比を有し、
上記二水石膏及び上記半水石膏の合計量は、SO換算の値として、上記セメントクリンカ粉砕物、上記二水石膏及び上記半水石膏の合計量100質量部に対して3.0~4.0質量部であることを特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
上記セメントクリンカ粉砕物中の遊離石灰(f.CaO)の割合が、0.5~3.0質量%である請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
上記セメントクリンカ粉砕物のブレーン比表面積が、4,800~6,000cm/gである請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
上記ポリカルボン酸系セメント分散剤が、高性能AE減水剤または高性能減水剤であり、かつ、上記ポリカルボン酸系セメント分散剤の量が、上記セメントクリンカ粉砕物、上記二水石膏及び上記半水石膏の合計量100質量部に対して0.5~1.8質量部である請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水硬性組成物を用いた、セメント質硬化体の製造方法であって、
上記水硬性組成物及び水を用いて、未硬化の混練物を得る混練物調製工程と、
上記未硬化の混練物を、25℃以下の温度下で養生して、上記セメント質硬化体を得る養生工程、
を含むセメント質硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物及びそれを用いたセメント質硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低温の環境下であっても強度発現性に優れるセメントまたはセメント含有組成物が、従来、提案されている。
例えば、特許文献1に、セメントクリンカ粉砕物、または、セメントクリンカ粉砕物と生石灰粉末の混合物である、セメントクリンカ粉砕物含有粉末であって、ボーグ式(ただし、エーライトの算出において用いられるCaOの割合の数値は、セメントクリンカ粉砕物含有粉末に含まれる全CaOの割合から、遊離石灰の割合を減じたものとする。)で算出される値として、エーライトの割合が42~65質量%、ビーライトの割合が12~40質量%、アルミネート相の割合が12~18質量%、および、フェライト相の割合が0.5~12質量%であり、かつ、遊離石灰の割合が0.7~3.0質量%であるセメントクリンカ粉砕物含有粉末が、記載されている。
また、特許文献1に、前記セメントクリンカ粉砕物含有粉末、及び、石膏を含むセメントであって、硫黄の割合がSO換算で3.0~3.5質量%であり、かつ、ブレーン比表面積が4,800~6,000cm/gであるセメントが、記載されている。
特許文献2に、ポルトランドセメントおよび石灰石細骨材を少なくとも含む、低温環境用セメント組成物が、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-131065号公報
【特許文献2】特開2015-193517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献1に記載されたセメントと各種のセメント分散剤の組み合わせについて試験を重ねる中で、セメントとポリカルボン酸系セメント分散剤の組み合わせを採用した場合に、低温の環境下において、セメント質硬化体の早期強度(初期の圧縮強度)が、ポリカルボン酸系セメント分散剤を用いない場合に比べて、小さくなることがあるという課題を見つけた。
このような初期の圧縮強度の低下を改善するための方法として、セメント質硬化体の硬化前の養生方法として、蒸気養生を用いる方法が挙げられる。しかし、蒸気養生は、気中養生や封緘養生に比べて、蒸気を発生させる設備が必要であるなどの点で、セメント質硬化体の製造コストを上昇させる。
本発明の目的は、セメント及びポリカルボン酸系セメント分散剤を含む水硬性組成物であって、蒸気養生を必要とせず、さらには、常温(例えば、20℃)~低温(例えば、10℃)の環境下であっても、優れた早期強度発現性を有する水硬性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメントクリンカ粉砕物、二水石膏、半水石膏、及び、ポリカルボン酸系セメント分散剤を含む水硬性組成物であって、上記セメントクリンカ粉砕物が特定の鉱物組成を有し、上記二水石膏及び上記半水石膏が特定の半水化率を有し、上記二水石膏及び上記半水石膏の合計量が特定のSO換算の値となる量であるように構成された水硬性組成物によれば、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、以下の[1]~[5]を提供するものである。
[1] セメントクリンカ粉砕物、二水石膏、半水石膏、及び、ポリカルボン酸系セメント分散剤を含む水硬性組成物であって、上記セメントクリンカ粉砕物は、ボーグ式で算出される値として、エーライト(CS)の割合が50~68質量%、ビーライト(CS)の割合が10~25質量%、アルミネート相(CA)の割合が12~18質量%、及び、フェライト相(CAF)の割合が0.5~7質量%である鉱物組成を有し、上記二水石膏及び上記半水石膏は、半水化率が20~60%である質量比を有し、上記二水石膏及び上記半水石膏の合計量は、SO換算の値として、上記セメントクリンカ粉砕物、上記二水石膏及び上記半水石膏の合計量100質量部に対して3.0~4.0質量部であることを特徴とする水硬性組成物。
[2] 上記セメントクリンカ粉砕物中の遊離石灰(f.CaO)の割合が、0.5~3.0質量%である、前記[1]に記載の水硬性組成物。
[3] 上記セメントクリンカ粉砕物のブレーン比表面積が、4,800~6,000cm/gである、前記[1]又は[2]に記載の水硬性組成物。
[4] 上記ポリカルボン酸系セメント分散剤が、高性能AE減水剤または高性能減水剤であり、かつ、上記ポリカルボン酸系セメント分散剤の量が、上記セメントクリンカ粉砕物、上記二水石膏及び上記半水石膏の合計量100質量部に対して0.5~1.8質量部である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の水硬性組成物。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の水硬性組成物を用いた、セメント質硬化体の製造方法であって、上記水硬性組成物及び水を用いて、未硬化の混練物を得る混練物調製工程と、上記未硬化の混練物を、25℃以下の温度下で養生して、上記セメント質硬化体を得る養生工程、を含むセメント質硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水硬性組成物は、水及び骨材を含むコンクリート等として用いた場合、蒸気養生を必要とせず、さらには、常温(例えば、15~25℃)~低温(例えば、0~15℃)の環境下であっても、優れた早期強度発現性を有する。
また、低温の環境下であっても優れた早期強度発現性を得ることができるので、例えば、本発明の水硬性組成物を用いてなるコンクリート等について、低温の環境下に型枠内で気中養生または封緘養生を行った場合に、早期の脱型が可能である。
なお、本明細書中、「強度発現性」、「流動性」、「水和熱」等の物性を表す語は、特に断らない限り、本発明の水硬性組成物を用いてなるコンクリート等の物性である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水硬性組成物は、セメントクリンカ粉砕物、二水石膏、半水石膏、及び、ポリカルボン酸系セメント分散剤を含む。
本発明において、セメントクリンカ粉砕物は、ボーグ式で算出される値として、エーライト(CS;3CaO・SiO)の割合が50~68質量%、ビーライト(CS;2CaO・SiO)の割合が10~25質量%、アルミネート相(CA;3CaO・Al)の割合が12~18質量%、及び、フェライト相(CAF;4CaO・Al・Fe)の割合が0.5~7質量%である鉱物組成を有する。
本明細書中、エーライト(CS)等の割合は、ボーグ式である以下の式(1)~(4)を用いて算出される値を意味する。式(1)~(4)中の単位は、質量%である。式(1)中、「CaO」は、セメントクリンカ粉砕物中の全CaOの割合から、遊離石灰(f.CaO)の割合を減じて得られる値を意味する。
(1) エーライト(CS)=(4.07×CaO)-(7.60×SiO)-(6.72×Al)-(1.43×Fe
(2) ビーライト(CS)=(2.87×SiO)-(0.754×CS)
(3) アルミネート相(CA)=(2.65×Al)-(1.69×Fe
(4) フェライト相(CAF)=3.04×Fe
【0009】
エーライト(CS)の割合は、50~68質量%、好ましくは55~67質量%、より好ましくは60~66質量%である。該割合が50質量%未満であると、早期強度発現性が低下する。該割合が68質量%を超えると、流動性が低下することがある。
ビーライト(CS)の割合は、10~25質量%、好ましくは11~20質量%、より好ましくは12~15質量%である。該割合が10質量%未満であると、長期強度発現性が低下することがある。該割合が25質量%を超えると、早期強度発現性が低下する。
アルミネート相(CA)の割合は、12~18質量%、好ましくは13~17質量%、より好ましくは14~16質量%である。該割合が12質量%未満であると、早期強度発現性が低下する。該割合が18質量%を超えると、水和熱が過大となる。
フェライト相(CAF)の割合は、0.5~7質量%、好ましくは1~6質量%、より好ましくは2~5質量%である。該割合が0.5質量%未満であると、このようなセメントクリンカ粉砕物の製造が困難である。該割合が7質量%を超えると、早期強度発現性が低下する。
【0010】
本発明において、セメントクリンカ粉砕物中の遊離石灰(f.CaO)の割合は、好ましくは0.5~3.0質量%、より好ましくは0.6~2.4質量%、特に好ましくは0.7~1.8質量%である。該割合が0.5~3.0質量%であると、早期強度発現性が、より向上する。
本発明のセメントクリンカ粉砕物のブレーン比表面積は、好ましくは4,800~6,000cm/g、より好ましくは4,900~5,800cm/g、さらに好ましくは5,000~5,600cm/g、さらに好ましくは5,100~5,500cm/g、特に好ましくは5,200~5,400cm/gである。該値が4,800cm/g以上であると、早期強度発現性が、より向上する。該値が6,000cm/g以下であると、流動性が、より向上する。
【0011】
セメントクリンカ粉砕物の原料としては、石灰石、生石灰、消石灰等のカルシウム含有原料(CaO源)や、珪石、粘土等の珪素含有原料(SiO源)や、粘土等のアルミニウム含有原料(Al源)や、鉄滓、鉄ケーキ等の鉄含有原料(Fe源)等の、セメントクリンカの製造に用いられる一般的な原料を使用することができる。
これらの原料を混合して、混合物を得た後、該混合物を好ましくは1,350~1,550℃(より好ましくは1,400~1,500℃)で加熱することによって、焼成物であるセメントクリンカを得ることができる。このセメントクリンカを、ボールミル等の慣用の粉砕装置を用いて粉砕することによって、セメントクリンカ粉砕物を得ることができる。
【0012】
本発明で用いられる二水石膏及び半水石膏の各量は、半水化率が20~60%(好ましくは22~57%、より好ましくは23~53%)の範囲内となるように定められる。半水化率が20%未満または60%を超えると、早期強度発現性が低下する。
半水化率は、以下の式(5)を用いて算出される値である。式(5)中の単位は、質量%である。
(5) (半水化率)=(半水石膏のSO換算の質量)×100÷[(半水石膏のSO換算の質量)+(二水石膏のSO換算の質量)]
【0013】
本発明において、二水石膏及び半水石膏の合計量は、SO換算の値として、セメントクリンカ粉砕物、二水石膏及び半水石膏の合計量100質量部(該合計量中、二水石膏及び半水石膏の各量も、SO換算の値である。)に対して、3.0~4.0質量部、好ましくは3.1~3.5質量部、より好ましくは3.2~3.3質量部である。該量が3.0質量部未満であると、本発明の水硬性組成物を用いて調製されたコンクリート等の硬化前の可使時間(使用可能時間)が短くなり、作業性が低下する。該量が4.0質量部を超えると、早期強度発現性が低下する。
本発明で用いられる二水石膏及び半水石膏は、セメントクリンカと二水石膏を同時に粉砕して得られるものであってもよい。この場合、半水化率は、粉砕条件を変えることによって調整することができる。
半水化率は、粉砕時の温度が高いほど、大きくなる傾向がある。粉砕時の温度の調整方法の例としては、(a)仕上げミル(粉砕機)に投入されるセメントクリンカの温度の調整(具体的には、ロータリーキルンの焼成温度の調整や、クリンカクーラー内の温度または冷却時間の調整など)、(b)仕上げミルへの散水量の調整、(c)仕上げミルへの送風量の調整、(d)仕上げミル内でのセメントクリンカ及び二水石膏の各量の調整(単位時間当たりの各粉砕量の調整)等が挙げられる。
半水化率は、例えば、「熱重量分析法によるセメント中の半水セッコウと二水セッコウの定量」(廣瀬哲、高橋真理、松里広昭、浅海順治、山崎之典、浅賀喜与志;無機マテリアル=Inorganic materials,Vol.2,No.254,pp.12~17;1995年;無機マテリアル学会編)に記載されている熱重量分析法に準拠して、セメント中の半水石膏及び二水石膏の各量を測定し、前記の式(5)を用いることによって算出することができる。
【0014】
本発明において、セメント分散剤としては、ポリカルボン酸系セメント分散剤が用いられる。
ポリカルボン酸系セメント分散剤は、通常、液状である。
ポリカルボン酸系セメント分散剤は、固体である場合、セメントクリンカ及び二水石膏と同時に混合して粉砕してもよい。
ポリカルボン酸系セメント分散剤の中でも、減水効果が大きい点で、高性能AE減水剤または高性能減水剤を用いることが好ましく、高性能AE減水剤を用いることが、より好ましい。
ポリカルボン酸系セメント分散剤の量は、セメントクリンカ粉砕物、二水石膏及び半水石膏の合計量100質量部に対して、好ましくは0.5~1.8質量部、より好ましくは0.6~1.7質量部、さらに好ましくは0.7~1.6質量部、特に好ましくは0.8~1.5質量部である。該量が0.5~1.8質量部であると、早期強度発現性が、より向上する。
【0015】
次に、本発明の水硬性組成物を用いた、セメント質硬化体の製造方法について、説明する。
セメント質硬化体の製造方法は、本発明の水硬性組成物、及び、水を用いて、未硬化の混練物を得る混練物調製工程と、得られた未硬化の混練物を、25℃以下の温度下で養生して、セメント質硬化体を得る養生工程、を含む。
混練物調製工程で用いられる他の材料としては、細骨材、粗骨材、セメント混和材(例えば、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム等)等が挙げられる。
混練物を得るための手順としては、例えば、以下のものが挙げられる。
まず、セメントクリンカ粉砕物、二水石膏、半水石膏(以上、本発明の水硬性組成物を構成する粉状の材料)、及び、必要に応じて用いられるセメント混和材を混合して、粉体混合物を得る。
次いで、得られた粉体混合物に、水、及び、ポリカルボン酸系セメント分散剤(本発明の水硬性組成物を構成する液状の材料)を加えて混練し、混練物を得る。
【0016】
養生工程における養生方法は、好ましくは、気中養生または封緘養生である。
本発明においては、蒸気養生を行わなくても、上述の混練物について、優れた早期強度発現性を得ることができる。
本発明における養生の温度は、常温~低温であっても優れた早期強度発現性を得ることができるという本発明の効果を得る観点から、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、特に好ましくは10℃以下である。
該温度の下限は、特に限定されないが、例えば、0℃である。
養生方法として気中養生または封緘養生を用いた場合、養生時間(型枠への混練物の投入から、セメント質硬化体の脱型までの時間)は、例えば、0.5~5日である。
【実施例0017】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメントクリンカ粉砕物
(a)セメントクリンカAの粉砕物
セメントクリンカA(表1に示す化学組成、及び、表2に示す鉱物組成を有するもの)を粉砕して、表3に示すブレーン比表面積を有する粉砕物(実施例1~3、比較例1~5)を得た。
(b)セメントクリンカBの粉砕物
セメントクリンカB(表1に示す化学組成、及び、表2に示す鉱物組成を有するもの)を粉砕して、表3に示すブレーン比表面積を有する粉砕物(比較例6~9)を得た。
なお、表1に示す化学組成は、「JIS R 5204:2019」(セメントの蛍光X線分析方法)に準拠して測定されたものである。
(2)二水石膏
三田尻化学工業社製の二水石膏粉末「POP-2」(製品名)を用いた。
(3)半水石膏
三田尻化学工業社製の半水石膏粉末「POP」(製品名)を用いた。
(4)ポリカルボン酸系セメント分散剤
ポリカルボン酸系高性能減水剤(液状;製品名:マスターグレニウム8000S;製造元:ポゾリスソリューションズ社)を用いた。
(5)細骨材
「JIS R 5201:2015」(セメントの物理試験方法)に記載されている標準砂を用いた。
(6)水
上水道水を用いた。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
[実施例1]
セメントクリンカAの粉砕物(表3にブレーン比表面積を示す。)100質量部と、該粉砕物と石膏の合計100質量部に対して3.2質量部(二水石膏と半水石膏の合計量であって、SO換算の量;表3に半水化率を示す。)の量の石膏と、該粉砕物と石膏の合計100質量部に対して1.0質量部の量のポリカルボン酸系セメント分散剤を用いて、「JIS R 5201:2015」(セメントの物理試験方法)に記載されている方法に準拠して、10℃の温度下における材齢16時間の圧縮強さを測定した。
[実施例2~3、比較例1~5]
表3に示すように各種の条件を変えた以外は実施例1と同様にして、圧縮強さを測定した。
[比較例6~9]
セメントクリンカAに代えて、セメントクリンカBを用い、石膏の量を3.2質量部から3.0質量部に変更し、表3に示すように各種の条件を変えた以外は実施例1と同様にして、圧縮強さを測定した。
なお、セメントクリンカA~Bの粉砕は、ブレーン比表面積が概ね5,200~5,400cm/gの範囲内となるように行った。
以上の結果を表3に示す。
【0021】
【表3】
【0022】
表3から、本発明の水硬性組成物を用いた実施例1~3では、本発明に該当しない水硬性組成物を用いた比較例1~5に比べて、非常に大きな圧縮強さを得ていることがわかる。
例えば、実施例1~2と比較例1~3(以上、セメント分散剤を1.0質量部の量で使用した実験例)を比較すると、実施例1~2(半水化率:25~50%)では、圧縮強さが13.2~13.6MPaであり、半水化率が本発明の範囲外である比較例1~3(圧縮強さ:6.1~9.3MPa)に比べて、非常に大きな圧縮強さを得ていることがわかる。
また、実施例2~3と比較例4(以上、半水化率が50%の実験例)を比較すると、実施例2~3(セメント分散剤を使用)では、圧縮強さが12.9~13.2MPaであり、セメント分散剤を使用していない比較例4(圧縮強さ:9.1MPa)に比べて、非常に大きな圧縮強さを得ていることがわかる。
一方、本発明に該当しないセメントクリンカBを用いた場合(比較例6~9)、例えば、比較例7(セメント分散剤を使用せず)と比較例9(セメント分散剤を使用)を比較すると、圧縮強さの差が0.2MPaと小さく、セメント分散剤の効果が十分に得られていないことがわかる。