(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118512
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20240826BHJP
H03K 17/16 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/16 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024826
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】町田 尊
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
【テーマコード(参考)】
5H740
5J055
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BC01
5H740BC02
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5J055GX01
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(57)【要約】
【課題】スイッチング素子におけるスイッチングノイズとスイッチング損失の双方を効果的に改善することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置1は、電力変換用のスイッチング素子SWと、このスイッチング素子SWのゲート31への電圧供給により、当該スイッチング素子SWをスイッチングする制御装置Contを備えたものであって、制御装置Contのターンオフ出力端子36とスイッチング素子SWのゲート31間に接続された抵抗切換回路37を備え、スイッチング素子SWのゲート31の電圧である入力電圧Vinに応じて、抵抗切換回路37の抵抗値を切り換える。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換用のスイッチング素子と、該スイッチング素子の制御電極への電圧供給により、当該スイッチング素子をスイッチングする制御装置を備えた電力変換装置において、
前記制御装置のターンオフ出力端子と前記スイッチング素子の制御電極間に接続された抵抗切換回路を備え、
前記スイッチング素子の制御電極の電圧である入力電圧に応じて、前記抵抗切換回路の抵抗値を切り換えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記スイッチング素子のターンオフから当該スイッチング素子の入力電圧が所定値に低下するまでは前記抵抗切換回路の抵抗値を所定の小さい値とし、前記所定値以下となった場合、前記抵抗切換回路の抵抗値を所定の大きい値に切り換えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記スイッチング素子のターンオフの開始後、前記スイッチング素子の入力電圧は低下していくと共に、
前記所定値は、前記スイッチング素子の出力電圧が電源電圧に到達するタイミングにおける前記入力電圧の値P1より高く、前記スイッチング素子の入力電圧の低下度合いが急峻となる方向に変化するタイミングにおける当該入力電圧の値P2の手前に所定の余裕度αを考慮した値P2+α以下の範囲で設定されることを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記所定値は、前記スイッチング素子の入力電圧の値P2に設定されることを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記抵抗切換回路は、
第1の抵抗及び第2の抵抗から成る第1の直列回路と、
半導体スイッチと第3の抵抗から成る第2の直列回路を備え、
前記第1の直列回路と前記第2の直列回路が並列に接続され、前記第1の抵抗と前記第2の抵抗の接続点が前記半導体スイッチの制御電極に接続されており、
前記スイッチング素子の入力電圧が前記所定値より高い場合、前記半導体スイッチ素子はオンし、前記所定値以下となった場合に、前記半導体スイッチがオフすることを特徴とする請求項2乃至請求項4のうちの何れかに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記抵抗切換回路は、
ターンオン用抵抗及び第1の逆流防止ダイオードから成る第3の直列回路と、
前記第1の直列回路と前記第2の直列回路の並列回路に直列接続された第2の逆流防止ダイオードを更に備え、
前記第1の直列回路と前記第2の直列回路の並列回路と前記第2の逆流防止ダイオードの直列回路に対して、前記第3の直列回路が並列に接続されていることを特徴とする請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記スイッチング素子の入力電圧には前記所定値が複数設定されており、
前記スイッチング素子のターンオフから多段階で前記抵抗切換回路の抵抗値を大きくしていくことを特徴とする請求項2に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子をスイッチングして電力を変換する電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバータやコンバータ等の電力変換装置は、IGBTやMOSFET等の自己消弧型のスイッチング素子をスイッチング(オン/オフ)することで電極を変換している。この場合、スイッチング素子のスイッチングは当該スイッチング素子の制御電極に供給する電圧を制御装置(ゲートドライバ)により制御することで行われる。以下に、インバータとコンバータの回路例を示しながら、従来のスイッチング素子の制御について説明する。
【0003】
図1は電力変換装置の一例としてのインバータIVの電気回路の一例を示している。インバータ装置IVは、三相のインバータ回路2と、制御装置3を備えている。インバータ回路2は、直流電源4の直流電圧を三相交流電圧に変換してモータ6に印加する回路である。このインバータ回路2は、U相ハーフブリッジ回路7U、V相ハーフブリッジ回路7V、W相ハーフブリッジ回路7Wを有しており、各相のハーフブリッジ回路7U~7Wは、それぞれ上アームスイッチング素子8A~8Cと、下アームスイッチング素子8D~8Fを個別に有している。更に、各スイッチング素子8A~8Fには、それぞれフライホイールダイオード9が逆並列に接続されている。
【0004】
尚、各上下アームスイッチング素子8A~8Fは、この例ではIGBT(MOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)から構成されている。
【0005】
そして、インバータ回路2の上アームスイッチング素子8A~8Cのコレクタは、直流電源4及び平滑コンデンサ11の上アーム電源ライン12に接続されている。一方、インバータ回路2の下アームスイッチング素子8D~8Fのエミッタは、直流電源4及び平滑コンデンサ11の下アーム電源ライン13に接続され、平滑コンデンサ11で平滑された電源電圧Vdc(直流リンク電圧)がインバータ回路2に印加される構成とされている。
【0006】
この場合、U相ハーフブリッジ回路7Uの上アームスイッチング素子8Aと下アームスイッチング素子8Dが直列に接続され、上アームスイッチング素子8Aのエミッタに下アームスイッチング素子8Dのコレクタが接続されている。また、V相ハーフブリッジ回路7Vの上アームスイッチング素子8Bと下アームスイッチング素子8Eが直列に接続され、上アームスイッチング素子8Bのエミッタと下アームスイッチング素子8Eのコレクタが接続されている。更に、W相ハーフブリッジ回路7Wの上アームスイッチング素子8Cと下アームスイッチング素子8Fが直列に接続され、上アームスイッチング素子8Cのエミッタと下アームスイッチング素子8Fのコレクタが接続されている。
【0007】
そして、U相ハーフブリッジ回路7Uの上アームスイッチング素子8Aと下アームスイッチング素子8Dの接続点が、モータ6のU相の電機子コイルに接続され、V相ハーフブリッジ回路7Vの上アームスイッチング素子8Bと下アームスイッチング素子8Eの接続点は、モータ6のV相の電機子コイルに接続され、W相ハーフブリッジ回路7Wの上アームスイッチング素子8Cと下アームスイッチング素子8Fの接続点は、モータ6のW相の電機子コイルに接続されている。
【0008】
制御装置3はプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、外部から回転数指令値を入力し、モータ6から相電流(モータ電流)を入力して、これらに基づき、インバータ回路2の各上下アームスイッチング素子8A~8Fのオン/オフ状態(スイッチング)を制御する。具体的には、各上下アームスイッチング素子8A~8Fのゲート(本出願における制御電極)に印加する入力電圧(この例ではゲート電圧)を制御する。
【0009】
インバータIVの一般的な制御装置3は、相電圧指令演算部16と、PWM信号生成部17と、ゲートドライバ18等を有しており、相電圧指令演算部16が生成する相電圧指令値をPWM新語凹生成部17がPWM信号に変換し、このPWM信号に基づいてゲートドライバ18がスイッチング素子8A~8Fのゲートにターンオン出力とターンオフ出力を出力することにより、スイッチング素子8A~8Fをオン/オフしてモータ6に三相交流電圧を印加するものである。
【0010】
次に、
図2は電力変換装置の他の例としてのコンバータCVの電気回路の一例を示している。この例のコンバータCVは直流電源(DC12V等の電源電圧Vdc。図示せず)をスイッチングして所定の直流電圧を生成するDC-DCコンバータである。
【0011】
コンバータCVは、一次巻線21と、この一次巻線21とは絶縁された二次巻線22から成る絶縁トランス(カップリングトランス)にて構成されたスイッチングトランス23と、一次巻線21に接続されたスイッチング素子24と、制御装置26を有している。
【0012】
尚、スイッチング素子24は、この例ではMOSFETから構成されている。制御装置26もプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、スイッチング素子24のオン/オフ状態(スイッチング)を制御する。具体的には、スイッチング素子24のゲート(本出願における制御電極)に印加する入力電圧(この例でもゲート電圧)を制御する。
【0013】
この場合、コンバータCVの制御装置26はゲートドライバ27等を有しており、このゲートドライバ27がスイッチング素子24のゲートにターンオン出力とターンオフ出力を出力することにより、スイッチング素子24をオン/オフして、スイッチングトランス23の巻数比に応じて直流電圧(例えば、DC15VやDC5V)を出力するものである。
【0014】
次に、
図3~
図7を参照しながら上述したスイッチング素子8A~8Fやスイッチング素子24のターンオフ時の動作について詳しく説明する。尚、
図3においてスイッチング素子SWは、前述した
図1では上下アームスイッチング素子8A~8F(IGBT)、
図2ではスイッチング素子24(MOSFET)を意味する。また、制御装置Contは、
図1では制御装置3、
図2では制御装置26を意味し、この制御装置Contも
図1のゲートドライバ18や
図2のゲートドライバ27と同様のゲートドライバGDを有しているものとする。
【0015】
また、スイッチング素子SWにおいて、31は本出願における制御電極としてのゲート(電極)であり、電極32はスイッチング素子SWがIGBT(
図1の上下アームスイッチング8A~8F)の場合にはコレクタ、電極33はエミッタである。また、
図2のスイッチング素子SWがMOSFET(
図2のスイッチング素子24)の場合には、電極32はドレイン、電極33はソースとなる。
【0016】
ここで、本出願においてはスイッチング素子SWの各部の電圧、電流を
図4の如く定義する。即ち、スイッチング素子SWの電極32と電極33間の電圧(
図1のスイッチング素子8A~8FのようなIGBTの場合はコレクタ-エミッタ間電圧、
図2のスイッチング素子24のようなMOSFETの場合はドレイン-ソース間電圧)を出力電圧Vout、スイッチング素子SWの電極32に流れる電流(同じく
図1のIGBTの場合はコレクタ電流、
図2のMOSFETの場合はドレイン電流)を出力電流Iout、スイッチング素子SWのゲート31と電極33間の電圧(同じく
図1のIGBTの場合はゲート-エミッタ間電圧、
図2のMOSFETの場合はゲート-ソース間電圧)を入力電圧Vin、スイッチング素子SWのゲート31に流れる電流(ゲート電流)を入力電流Iinとする。上記入力電圧Vinはゲート31(制御電極)の電圧(ゲート電圧)である。
【0017】
そして、係るスイッチング素子SWのゲート31は、従来では
図3に示すような固定抵抗100(入力抵抗)を介して制御装置Cont(ゲートドライバGD)のターンオフ出力端子36に接続されている。即ち、制御装置Contとスイッチング素子SWのゲート31の間に固定抵抗100が接続される。尚、
図3の例ではゲートドライバGDは制御装置Contの内部で接地されたスイッチGDSW1を有している。また、
図3の制御装置Contにはターンオフ出力端子36とは別個にターンオン出力端子(図示せず)が設けられ、スイッチング素子SWのゲート31に接続されているものとする。このターンオン出力端子は、後述するように制御装置Contの内部で直流電源に接続されたスイッチから構成される。
【0018】
このような構成で、スイッチング素子SWをターンオフ(オンの状態からオフ)する場合には、制御装置ContのゲートドライバGDのスイッチGDSW1が閉じ、ターンオフ出力端子36の出力が接地されて「L」(Low)になる。
図5はスイッチング素子SWの出力電圧Voutの変化を示している。スイッチング素子SWがターンオフされるとき、急峻なオフによって出力電圧Voutは
図5中破線枠X1で示す如く大きく変動し(サージ電圧)、このときの急峻な上昇によってスイッチングノイズが発生する。
【0019】
このノイズの解決策としては、固定抵抗100として抵抗値が大きいものを接続し、スイッチング素子SWのゲート31部分の浮遊容量の充放電電流(入力電流Iin)を小さくすることで、緩やかにオフさせる方法があるが、緩やかにし過ぎると、今度はスイッチング損失が大きくなる。この様子を
図6に示す。
図6は時刻t1で制御装置Contのターンオフ出力端子36の出力が「L」になった場合である。
図6でX2はスイッチング損失、X3は導通損失である。スイッチング損失X2は出力電圧Vout×出力電流Ioutであるため、オンからオフに切り替わる時間が長くなると、スイッチング損失X2が大きくなる(ターンオン時も同様)。
【0020】
図7は、異なる抵抗値の固定抵抗100を取り替えて接続した場合のスイッチングノイズとスイッチング損失の変化を示している。抵抗値が大きい固定抵抗100を使用する程、スイッチング損失が大きくなり、抵抗値が小さい固定抵抗100を使用する程、スイッチングノイズが大きくなる。即ち、スイッチングノイズとスイッチング損失はトレードオフの関係にある。
【0021】
そこで、負荷電流の大小や、スイッチング周波数の大小、素子の温度の高低、或いは、時間に応じてスイッチング素子SWのゲート31と制御装置Contのターンオフ出力端子36間の抵抗の抵抗値を切り換える方策が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2002-199700号公報
【特許文献2】特開2010-206889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、係る従来の方策では抵抗の抵抗値を的確に切り換えてスイッチングノイズとスイッチング損失の双方を効果的に改善することは困難であった。
【0024】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するためになされたものであり、スイッチング素子におけるスイッチングノイズとスイッチング損失の双方を効果的に改善することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の電力変換装置は、電力変換用のスイッチング素子と、このスイッチング素子の制御電極への電圧供給により、当該スイッチング素子をスイッチングする制御装置を備えたものであって、制御装置のターンオフ出力端子とスイッチング素子の制御電極間に接続された抵抗切換回路を備え、スイッチング素子の制御電極の電圧である入力電圧に応じて、抵抗切換回路の抵抗値を切り換えることを特徴とする。
【0026】
請求項2の発明の電力変換装置は、上記発明においてスイッチング素子のターンオフから当該スイッチング素子の入力電圧が所定値に低下するまでは抵抗切換回路の抵抗値を所定の小さい値とし、前記所定値以下となった場合、抵抗切換回路の抵抗値を所定の大きい値に切り換えることを特徴とする。
【0027】
請求項3の発明の電力変換装置は、上記発明においてスイッチング素子のターンオフの開始後、スイッチング素子の入力電圧は低下していくと共に、前記所定値は、スイッチング素子の出力電圧が電源電圧に到達するタイミングにおける入力電圧の値P1より高く、スイッチング素子の入力電圧の低下度合いが急峻となる方向に変化するタイミングにおける当該入力電圧の値P2の手前に所定の余裕度αを考慮した値P2+α以下の範囲で設定されることを特徴とする。
【0028】
請求項4の発明の電力変換装置は、上記発明において前記所定値は、スイッチング素子の入力電圧の値P2に設定されることを特徴とする。
【0029】
請求項5の発明の電力変換装置は、請求項2乃至請求項4の発明において抵抗切換回路は、第1の抵抗及び第2の抵抗から成る第1の直列回路と、半導体スイッチと第3の抵抗から成る第2の直列回路を備え、第1の直列回路と第2の直列回路が並列に接続され、第1の抵抗と第2の抵抗の接続点が半導体スイッチの制御電極に接続されており、スイッチング素子の入力電圧が前記所定値より高い場合、半導体スイッチ素子はオンし、前記所定値以下となった場合に、半導体スイッチがオフすることを特徴とする。
【0030】
請求項6の発明の電力変換装置は、上記発明において抵抗切換回路は、ターンオン用抵抗及び第1の逆流防止ダイオードから成る第3の直列回路と、第1の直列回路と第2の直列回路の並列回路に直列接続された第2の逆流防止ダイオードを更に備え、第1の直列回路と第2の直列回路の並列回路と第2の逆流防止ダイオードの直列回路に対して、第3の直列回路が並列に接続されていることを特徴とする。
【0031】
請求項7の発明の電力変換装置は、請求項2の発明においてスイッチング素子の入力電圧には前記所定値が複数設定されており、スイッチング素子のターンオフから多段階で抵抗切換回路の抵抗値を大きくしていくことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
ここで、
図8は
図3の場合(固定抵抗100の場合)のスイッチング素子SWのターンオフ開始後の出力電圧Vout、出力電流Iout、入力電圧Vinの変化を示している。尚、図中Vthはスイッチング素子SWのターンオフ閾値電圧である。
【0033】
図8の時刻t1で制御装置ContのゲートドライバGDのスイッチGDSW1が閉じ、ターンオフ出力端子36が接地されて出力が「L」になると(ターンオフ開始)、時刻t1から時刻t2までは入力電圧Vinが比較的早くに低下するが、出力電流Ioutと出力電圧Voutは殆ど変化がない。
【0034】
時刻t2以後の期間(1)では、入力電圧Vinの低下度合いが緩慢となるが、出力電流Ioutは徐々に低下し始め、出力電圧Voutは0から徐々に上昇し始める。従って、ここからスイッチング損失(出力電圧Vout×出力電流Iout)が発生し始める。その後、時刻t3になると出力電圧Vout及び出力電流Ioutは急激に変化し、やがて出力電圧Voutは電源電圧Vdcを超える(このタイミングの入力電圧Vinの値をP1とする)と共に、出力電流Iinは急激に低下するようになる。このときの出力電流のIoutの変化が急峻になる程、スイッチングノイズが発生するものであるが、この時刻t3のタイミングで入力電圧Vinは値P2に低下し、値P2以後(時刻t3以後)の期間(2)では、入力電圧Vinの低下度合いが急峻となる方向に変化するようになる。そして、時刻t4でスイッチング素子SWのターンオフ閾値電圧Vthまで入力電圧Vinが低下すると、スイッチング素子SWがターンオフ完了することになる。出力電圧Voutは一旦電源電圧Vdcを超えて時刻t4でピークとなった後、電源電圧Vdcまで低下する(
図8)。
【0035】
上記のようにスイッチング素子SWのターンオフ開始後、各電圧・電流が変化するので、
図8の期間(1)が長い程、スイッチング損失が大きくなる。一方、期間(1)では出力電圧Voutの変化は緩慢であるので、期間(1)の長短によるスイッチングノイズへの影響はない。また、期間(2)では出力電流Ioutが急激に変化するため、期間(2)が短いほど、出力電流Ioutの下降度合いが急峻となり、スイッチングノイズが増加してしまう。
【0036】
他方、上記期間(1)と期間(2)で、スイッチング素子SWの入力電圧Vinの低下度合いが大きく変化するので、上記値P2に基づいて期間(1)と期間(2)をすみ分けることが可能である。
【0037】
そこで、本発明では電力変換用のスイッチング素子と、このスイッチング素子の制御電極への電圧供給により、当該スイッチング素子をスイッチングする制御装置を備えた電力変換装置において、制御装置のターンオフ出力端子とスイッチング素子の制御電極間に抵抗切換回路を接続し、スイッチング素子の制御電極の電圧である入力電圧(上記Vin)に応じて、抵抗切換回路の抵抗値を切り換える。
【0038】
例えば、請求項2の発明の如く、スイッチング素子のターンオフから当該スイッチング素子の入力電圧Vinが所定値Vin1に低下するまでは抵抗切換回路の抵抗値を所定の小さい値とし、所定値Vin1以下となった場合、抵抗切換回路の抵抗値を所定の大きい値に切り換える。
【0039】
そして、請求項3の発明の如く前記所定値Vin1を、スイッチング素子の出力電圧Voutが電源電圧に到達するタイミングにおける入力電圧Vinの値P1より高く、スイッチング素子の入力電圧Vinの低下度合いが急峻となる方向に変化するタイミングにおける当該入力電圧Vinの値P2の手前に所定の余裕度αを考慮した値P2+α以下の範囲で設定する。より好ましくは、請求項4の発明の如く前記所定値Vin1を、スイッチング素子の入力電圧Vinの値P2に設定する。
【0040】
このようにすれば、
図8の期間(1)では前述したスイッチング素子の入力電流Iinが大きくなって期間(1)が短くなり(早く入力電圧Vinが所定値Vin1まで低下する)、それによりスイッチング損失(=Vout×Iout)が小さくなり、期間(2)では入力電流Iinが小さくなって期間(2)が長くなり、出力電圧Voutと出力電流Ioutの急峻な変化が抑制されて、スイッチングノイズが小さくなる。
【0041】
これにより、スイッチング素子におけるスイッチングノイズとスイッチング損失の双方を効果的に改善することができるようになる。また、期間(1)と期間(2)を全体として短くすることも可能となるので、スイッチング素子のターンオフ遅延時間も改善することが可能となる。
【0042】
この場合、請求項5の発明の如く抵抗切換回路を、第1の抵抗及び第2の抵抗から成る第1の直列回路と、半導体スイッチと第3の抵抗から成る第2の直列回路から構成し、第1の直列回路と第2の直列回路を並列に接続し、第1の抵抗と第2の抵抗の接続点を半導体スイッチの制御電極に接続すると共に、スイッチング素子の入力電圧Vinが所定値Vin1より高い場合、半導体スイッチ素子がオンし、所定値Vin1以下となった場合は、半導体スイッチがオフするようにすれば、第1の抵抗と第2の抵抗から成る第1の直列回路でスイッチング素子の入力電圧Vinを検出し、この検出した入力電圧Vinに応じて半導体スイッチをオン/オフすることができるようになる。
【0043】
そして、検出した入力電圧Vinが所定値Vin1より高い場合、半導体スイッチがオンして第3の抵抗が第1の直列回路に並列に接続され、それにより抵抗切換回路の抵抗値が小さくなり、所定値Vin1以下となった場合は、半導体スイッチがオフして第1の抵抗と第2の抵抗のみがスイッチング素子の制御電極と制御装置のターンオフ出力端子間に接続され、抵抗切換回路の抵抗値が大きくなる。
【0044】
即ち、請求項5の発明によれば、制御装置の構成やソフトウエアを変更すること無く、抵抗切換回路自体により、入力電圧Vinに応じて抵抗値を的確に切り換えることができるようになるので、構成の簡素化とコスト高騰の抑制の双方を実現することができるようになる。
【0045】
ここで、制御装置のターンオフ出力端子からターンオン出力も出力される場合、即ち、
図3の場合とは異なり、ターンオン出力端子が別途設けられず、オン・オフの回路が分離されていない(ターンオフ出力端子がターンオン出力端子も兼ねる)制御装置の場合は、請求項5の発明の如く抵抗切換回路に、ターンオン用抵抗及び第1の逆流防止ダイオードから成る第3の直列回路と、第1の直列回路と第2の直列回路の並列回路に直列接続された第2の逆流防止ダイオードを更に設け、第1の直列回路と第2の直列回路の並列回路と第2の逆流防止ダイオードの直列回路に対して、第3の直列回路が並列に接続することで、スイッチング素子のターンオンも支障無く行うことが可能となる。
【0046】
また、請求項7の発明の如く、スイッチング素子の入力電圧に前記所定値を複数設定し、スイッチング素子のターンオフから多段階で抵抗切換回路の抵抗値を大きくしていくようにすれば、入力電圧Vinの変化に応じて更に細かく抵抗切換回路の抵抗値を大きくしていくことが可能となり、スイッチング素子におけるスイッチングノイズとスイッチング損失をより的確且つ効果的に改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明を適用する電力変換装置の一例であるインバータの電気回路図である。
【
図2】本発明を適用する電力変換装置の他の例であるコンバータの電気回路図である。
【
図3】スイッチング素子のターンオフ時の従来の動作を説明するための電気回路図である。
【
図4】
図3のスイッチング素子の各部の電圧・電流を説明する図である。
【
図5】スイッチング素子のターンオフ時の出力電圧Voutの変化を説明する図である。
【
図6】スイッチング素子のスイッチング損失を説明する図である。
【
図7】スイッチング素子の制御電極に接続する固定抵抗を変更していった場合のスイッチングノイズとスイッチング損失の関係を説明する図である。
【
図8】
図3のスイッチング素子のターンオフ開始後の各部の電圧・電流の変化を説明する図である。
【
図9】本発明を説明するための電力変換装置のスイッチング素子と制御装置、及び、抵抗切換回路の電気回路図である(実施例1)。
【
図10】
図9と
図3の場合のスイッチングノイズとスイッチング損失の関係を説明する図である。
【
図12】スイッチング素子のターンオフ遅延時間を説明する図である。
【
図13】
図9と
図3の場合のスイッチングノイズとターンオフ遅延時間の関係を説明する図である。
【
図14】
図9と
図3の場合のスイッチング損失とターンオフ遅延時間の関係を説明する図である。
【
図15】本発明の他の実施例のスイッチング素子と制御装置、及び、抵抗切換回路の電気回路図である(実施例2)。
【
図16】本発明のもう一つの他の実施例のスイッチング素子と制御装置、及び、抵抗切換回路の電気回路図である(実施例3)。
【
図17】本発明の更にもう一つの他の実施例のスイッチング素子と制御装置、及び、抵抗切換回路の電気回路図である(実施例4)。
【
図18】本発明の更にもう一つの他の実施例のスイッチング素子と制御装置、及び、抵抗切換回路の電気回路図である(実施例5)。
【
図19】本発明の更にもう一つの他の実施例のスイッチング素子と制御装置、及び、抵抗切換回路の電気回路図である(実施例6)。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0049】
図9は本発明を適用した一実施例の電力変換装置1のスイッチング素子SWと制御装置Cont、及び、抵抗切換回路37の電気回路図である。尚、以下の図面において、
図3と同一符号で示すものは同一若しくは同様の機能を奏するものとする。即ち、制御装置Contは
図3の場合と同一である。そして、本発明においても適用される電力変換装置1は、
図1のインバータIVや
図2のコンバータCVであるものとする。
【0050】
本発明では、制御装置Contのターンオフ出力端子36スイッチング素子SWのゲート31との間に抵抗切換回路37が接続されている。実施例の抵抗切換回路37は、第1の抵抗38及び第2の抵抗39から成る第1の直列回路41と、半導体スイッチ42(実施例ではMOSFET)と第3の抵抗43から成る第2の直列回路44を有している。
【0051】
第1の直列回路41と第2の直列回路42は並列に接続されており、この並列回路の第1の抵抗38と第3の抵抗43との接続点がスイッチング素子SWのゲート31に接続され、第2の抵抗39と半導体スイッチ42のソースとの接続点が制御装置Contのターンオフ出力端子36に接続されている。また、第1の抵抗38と第2の抵抗39の接続点が半導体スイッチ42の制御電極であるゲートに接続されている。
【0052】
そして、第1の抵抗38と第2の抵抗39の抵抗値、及び、半導体スイッチ42は、スイッチング素子SWの入力電圧Vinが前述した所定値Vin1より高い場合に半導体スイッチ42はオンし、所定値Vin1以下となった場合に半導体スイッチ42がオフするように設定されている。
【0053】
ここで、上記所定値Vin1を、スイッチング素子SWの出力電圧Voutが電源電圧Vdcに到達するタイミングにおける入力電圧Vinの値P1より高く、スイッチング素子SWの入力電圧Vinの低下度合いが急峻となる方向に変化するタイミングにおける当該入力電圧Vinの値P2の手前に所定の余裕度αを考慮した値P2+α以下の範囲で設定する。尚、実施例では前記所定値Vin1を、スイッチング素子SWの入力電圧Vinの値P2に設定するものとする。
【0054】
次に、同じく
図8を参照しながら
図9の抵抗切換回路37の動作を説明する。先ず、第1の抵抗38と第2の抵抗39から成る第1の直列回路41は、スイッチング素子SWの入力電圧Vinの分圧回路となるので、第1の抵抗38と第2の抵抗39の接続点には入力電圧Vinに比例した電圧が現れる。即ち、第1の直列回路41がスイッチング素子SWの入力電圧Vinの検出器になり、この検出した入力電圧Vin(分圧した値)により、半導体スイッチ42がオン/オフすることになる。
【0055】
同様に
図8の時刻t1で制御装置ContのゲートドライバGDのスイッチGDSW1が閉じ、ターンオフ出力端子36が接地されて出力が「L」になったものとすると(ターンオフ開始)、時刻t2以後の期間(1)ではスイッチング素子SWの入力電圧Vinは所定値Vin1より高いので、抵抗切換回路37の半導体スイッチ42はオンしている。
【0056】
半導体スイッチ42がオンしている状態では、第3の抵抗43が第1の直列回路41に並列に接続されたかたちとなるので、抵抗切換回路37の抵抗値は小さくなる。抵抗切換回路37の抵抗値が小さくなると、スイッチング素子SWの入力電流Iinが大きくなるので、
図8の期間(1)は短くなる(早く入力電圧Vinが所定値Vin1まで低下する)。期間(1)が短くなると、スイッチング素子SWのスイッチング損失(=Vout×Iout)は小さくなる。この場合、期間(1)では出力電圧Vout及び出力電流Ioutの変化は緩慢であるので、期間(1)短くなってもスイッチングノイズへの影響はない。
【0057】
その後、時刻t3でスイッチング素子SWの入力電圧Vinが所定値Vin1以下になると、抵抗切換回路37の半導体スイッチ42がオフする。これにより、第1の抵抗38と第2の抵抗39から成る第1の直列回路41のみがスイッチング素子SWのゲート31と制御装置Contのターンオフ出力端子36間に接続されるかたちとなるので、抵抗切換回路37の抵抗値は大きくなる。
【0058】
抵抗切換回路37の抵抗値が大きくなると、スイッチング素子SWの入力電流Iinが小さくなるので
図8の期間(2)が長くなり、出力電圧Vout及び出力電流Ioutの急峻な変化が抑制され、スイッチングノイズが小さくなる。これにより、スイッチング素子SWにおけるスイッチングノイズとスイッチング損失の双方を効果的に改善することができるようになる。但し、期間(2)が長くなり過ぎると、ここでのスイッチング損失が増えるため、ノイズと損失のバランスで各抵抗38、39の抵抗値を決定するものとする。
【0059】
図10中のY1は、
図9の抵抗切換回路37の各抵抗38、39、43の抵抗値を取り替えて接続した場合のスイッチングノイズとスイッチング損失の変化を示し、Y2は
図7に示した異なる抵抗値の固定抵抗100(
図3)を取り替えて接続した場合のスイッチングノイズとスイッチング損失の変化を示している。また、
図11は
図10中の破線枠X4部分を拡大して示している。
【0060】
図10、
図11から明らかな如く、
図9の実施例における抵抗切換回路37を用いた場合、
図3の場合に比してスイッチングノイズ、スイッチング損失共に低下していることが分かる。即ち、
図11において、
図3の固定抵抗100の場合のスイッチングノイズ、スイッチング損失の値Y2に着目すると、
図9の実施例の抵抗切換回路37によれば、同じスイッチング損失でもスイッチングノイズを小さくし(Y11)、同じスイッチングノイズでもスイッチング損失を小さくすることができている(Y12)。
【0061】
また、
図9の実施例における抵抗切換回路37を用いた場合、
図3の固定抵抗100に比してスイッチング素子SWのターンオフ遅延時間も改善することができる。ここで、ターンオフ遅延時間とは、
図12に示すようなスイッチング素子SWのターンオフの開始から完了までに要する時間であり、この遅延時間が長くなると故障する可能性が大きくなる。
【0062】
図13中のY3は、
図9の抵抗切換回路37の各抵抗38、39、43の抵抗値を取り替えて接続した場合のスイッチングノイズとターンオフ遅延時間の変化を示し、Y4は
図3の固定抵抗100を異なる抵抗値のものに取り替えて接続した場合のスイッチングノイズとターンオフ遅延時間の変化を示している。この
図13から明らかな如く、Y3の方がスイッチングノイズとターンオフ遅延時間の双方を、Y4よりも0、0に近づけることができるので、
図9の抵抗切換回路37を用いた方が、スイッチングノイズとターンオフ遅延時間の双方を改善することができることが分かる。
【0063】
また、
図14中のY5は、
図9の抵抗切換回路37の各抵抗38、39、43の抵抗値を取り替えて接続した場合のスイッチング損失とターンオフ遅延時間の変化を示し、Y6は
図3の固定抵抗100を異なる抵抗値のものに取り替えて接続した場合のスイッチング損失とターンオフ遅延時間の変化を示している。この
図14から明らかな如く、同じスイッチング損失で比較すると、Y5の方がターンオフ遅延時間が短くなることが分かる。
【0064】
これは、
図8の期間(2)を長くするものの、期間(1)はそれ以上に短くできるので、期間(1)と期間(2)を全体としては短くすることが可能となるからである。また、
図14からターンオフ遅延時間とスイッチング損失は相関が高いことが分かる。よって、スイッチングノイズを抑制しながら、スイッチング損失と共にターンオフ遅延時間も抑制できる。
【0065】
特に、制御装置Contのターンオフ出力端子36とスイッチング素子SWのゲート31の間に実施例のような抵抗切換回路37を接続する構成とすることで、制御装置Contの構成やソフトウエアを変更すること無く、抵抗切換回路37自体で入力電圧Vinに応じ、抵抗値を的確に切り換えることができるようになるので、構成の簡素化とコスト高騰の抑制の双方を実現することができるようになる。
これにより、スイッチング素子SWのターンオフの開始時には、ターンオフ出力端子36とゲート31の間に二つの抵抗切換回路37A、37Bの第1の抵抗38、第2の抵抗39、第3の抵抗43が全て並列に接続され、入力電圧Vinが低下して所定値Vin11以下になると、先ず、抵抗切換回路37Aの第3の抵抗43が切り離され、次に、所定値Vin1以下になると、抵抗切換回路37Bの第3の抵抗43が切り離されることになるので、ターンオフ出力端子36とゲート31間の抵抗値は段階的に大きくなる。そして、入力電流Iinを、より大きい値から段階的に減少させることが可能となるので、期間(1)の長さをより短くすることができるようになる。
このように、スイッチング素子SWの入力電圧Vinに複数の所定値Vin11、Vin1を設定し、スイッチング素子SWのターンオフから多段階で抵抗切換回路37A、37Bの抵抗値を大きくしていくようにすれば、入力電圧Vinの変化に応じて更に細かく抵抗切換回路37A、37Bの抵抗値を大きくしていくことが可能となり、スイッチング素子SWにおけるスイッチングノイズとスイッチング損失をより的確且つ効果的に改善することが可能となる。