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特開2024-118532ポリエステル基材用離型コート剤、離型シート及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118532
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】ポリエステル基材用離型コート剤、離型シート及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20240826BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024861
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 文弥
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA011
4J038DG001
4J038DG111
4J038GA03
4J038KA03
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA10
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】離型シートとしての剥離性に優れるとともにポリエステル基材に対する接着性に優れるポリエステル基材用離型コート剤を提供する。
【解決手段】実施形態に係るポリエステル基材用離型コート剤は、水系分散媒にポリウレタン樹脂が分散してなる水系分散体を含む。前記水系分散体は、ショ糖に炭素数8以上25以下の脂肪酸及び酢酸がエステル化された水酸基価30mgKOH/g以下のショ糖エステルを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系分散媒にポリウレタン樹脂が分散してなる水系分散体を含む、ポリエステル基材用離型コート剤であって、
前記水系分散体は、ショ糖に炭素数8以上25以下の脂肪酸及び酢酸がエステル化された水酸基価30mgKOH/g以下のショ糖エステルを含む、ポリエステル基材用離型コート剤。
【請求項2】
前記ショ糖エステルにおける前記脂肪酸と前記酢酸のモル比が3:5~7:1である、請求項1に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂100質量部に対する前記ショ糖エステルの含有量が5~80質量部である、請求項1に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂を構成するポリオールがポリエステルポリオールを含む、請求項1に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂を構成するポリオールがアニオン性基含有ポリオールを含む、請求項1に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
【請求項6】
ポリエステル基材と、前記ポリエステル基材上に設けられた請求項1~5のいずれか1項に記載の離型コート剤からなる離型層と、を含む離型シート。
【請求項7】
請求項6に記載の離型シートと、前記離型シートの前記離型層上に剥離可能に設けられた樹脂層と、を含む積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ポリエステル基材に塗布して用いられる離型コート剤、並びに、該離型コート剤を用いて得られる離型シート及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム等のポリエステル基材に離型コート剤を塗布してなる離型層を設けた離型シート(剥離シートとも称される。)が知られている。例えば、特許文献1には、離型ベース基材の表面に塗布されて離型層を形成する離型コート剤として、シリコーン樹脂とアルコキシ基含有シラン変性ポリウレタン樹脂と溶媒を含有する離型剤組成物が開示されている。このような離型コート剤としては、シリコーン系の他、シリコーン移行を回避することを可能にする非シリコーン系の離型コート剤もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-099095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリエステル基材に塗布して用いられる離型コート剤においては、離型シートとして保護すべき粘着剤皮膜や離型シート上に成膜した樹脂皮膜などの樹脂層から剥離しやすいこと、即ち剥離性が求められるとともに、ポリエステル基材に対する接着性が求められる。
【0005】
本発明の実施形態は、剥離性に優れるとともにポリエステル基材に対する接着性に優れるポリエステル基材用離型コート剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 水系分散媒にポリウレタン樹脂が分散してなる水系分散体を含む、ポリエステル基材用離型コート剤であって、前記水系分散体は、ショ糖に炭素数8以上25以下の脂肪酸及び酢酸がエステル化された水酸基価30mgKOH/g以下のショ糖エステルを含む、ポリエステル基材用離型コート剤。
[2] 前記ショ糖エステルにおける前記脂肪酸と前記酢酸のモル比が3:5~7:1である、[1]に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
[3] 前記ポリウレタン樹脂100質量部に対する前記ショ糖エステルの含有量が5~80質量部である、[1]又は[2]に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
[4] 前記ポリウレタン樹脂を構成するポリオールがポリエステルポリオールを含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
[5] 前記ポリウレタン樹脂を構成するポリオールがアニオン性基含有ポリオールを含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載のポリエステル基材用離型コート剤。
[6] ポリエステル基材と、前記ポリエステル基材上に設けられた[1]~[5]のいずれか1項に記載の離型コート剤からなる離型層と、を含む離型シート。
[7] [6]に記載の離型シートと、前記離型シートの前記離型層上に剥離可能に設けられた樹脂層と、を含む積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、剥離性に優れるとともに、ポリエステル基材に対する接着性に優れるポリエステル基材用離型コート剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態に係るポリエステル基材用離型コート剤(以下、単に離型コート剤ともいう。)は、ポリウレタン樹脂の水系分散体を含む離型コート剤であって、該水系分散体が特定のショ糖エステルを含むものである。そのため、該離型コート剤は、水系分散媒と、該水系分散媒に分散したポリウレタン樹脂と、ショ糖エステルと、を含む。
【0009】
[水系分散媒]
水系分散媒は、水を含む分散媒であり、水、又は、水と親水性有機溶媒との混合媒体が挙げられる。水系分散体の分散安定性の観点から、水系分散媒は水が好ましく、有機溶媒は含まれてもよいが少量であることが好ましい。一実施形態において、水系分散媒は水を70質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは水を80質量%以上含むことであり、より好ましくは水を90質量%以上含むことであり、水が100質量%でもよい。すなわち、水系分散媒において、水/親水性有機溶媒は、質量比で、70/30~100/0であることが好ましく、より好ましくは80/20~100/0であり、更に好ましくは90/10~100/0である。
【0010】
親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級1価アルコール、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキサイド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
【0011】
[ポリウレタン樹脂]
ポリウレタン樹脂は、ポリオールとポリイソシアネートを反応させて得られるものであり、分子内にウレタン結合を有する重合体である。ポリウレタン樹脂としては、アニオン性ポリウレタン樹脂、カチオン性ポリウレタン樹脂、及びノニオン性ポリウレタン樹脂等の各種水系ポリウレタン樹脂を用いることができる。
【0012】
アニオン性ポリウレタン樹脂は、アニオン性基を有する水系ポリウレタン樹脂である。アニオン性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩が挙げられる。
【0013】
カチオン性ポリウレタン樹脂は、カチオン性基を有する水系ポリウレタン樹脂である。カチオン性基としては、例えば第四級アンモニウム基等が挙げられる。
【0014】
ノニオン性ポリウレタン樹脂は、アニオン性基及びカチオン性基を有しない、非電荷の水系ポリウレタン樹脂である。ノニオン性ポリウレタン樹脂としては、例えばポリオキシエチレン基等の親水性セグメントを持つポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0015】
ポリウレタン樹脂を構成するポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール(例えば、脂肪族ポリエステルポリオール、芳香族ポリエステルポリオール)、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール(例えば、ポリテトラメチレングリコール)、ポリブタジエンポリオール等の重合体ポリオールが挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合体ポリオールは、離型層の耐水性の観点からは、ポリブタジエンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールの順に好ましい。
【0016】
重合体ポリオールの分子量は、特に限定されず、例えば、数平均分子量(Mn)が500~5000でもよく、800~4000でもよく、1000~3000でもよい。
【0017】
本明細書において、数平均分子量(Mn)は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)により測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出した値である。詳細には、GPCの条件として、カラム:東ソー(株)製「TSKgel G4000HXL+TSKgel G3000HXL+TSKgel G2000HXL+TSKgel G1000HXL+TSKgel G1000HXL」、移動相:THF(テトラヒドロフラン)、移動相流量:1.0mL/min、カラム温度:40℃、試料注入量:50μL、試料濃度:0.2質量%として測定することができる。
【0018】
ポリウレタン樹脂を構成するポリオールとしては、上記の重合体ポリオールとともに、又はこれとは別に、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の低分子の多価アルコール(好ましくは、二価アルコール、三価アルコール)を用いてもよい。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂を構成するポリオールは、ポリエステル基材に対する接着性の向上効果を高めるため、ポリエステルポリオールを含むことが好ましい。ポリオール中におけるポリエステルポリオールの量は特に限定されないが、例えば、ポリオール100質量%に対して60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70~99質量%であり、更に好ましくは75~97質量%であり、80~95質量%でもよい。
【0020】
本明細書において、ポリオールを構成する各成分の量について、その基準とするポリオール100質量%は、ポリオールが後述するアニオン性親水基を含む場合、当該アニオン性親水基を酸型として計算される。アニオン性基含有ポリオールの量についても同様に、アニオン性基を酸型として計算される。
【0021】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂を構成するポリオールは、官能基数が3以上のポリオールを含むことが好ましい。これによりポリウレタン樹脂に架橋構造が導入され、離型層の耐水性を向上することができる。官能基数が3以上のポリオールとしては、例えばトリメチロールプロパン等のヒドロキシ基を3つ以上持つ多価アルコールが挙げられ、あるいはまた、上記の重合体ポリオールのうち分子内にヒドロキシ基を3つ以上有するものが挙げられる。
【0022】
ポリウレタン樹脂を構成するポリイソシアネートとしては、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0023】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0024】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、水添キシリレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0025】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0026】
また、これらのポリイソシアネートのイソシアヌレート体、アダクト体、ビュレット体、アロフェネート体、カルボジイミド体などを用いてもよい。また、これらのポリイソシアネートは、いずれか1種用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0027】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂(A)としては、アニオン性基非含有ポリオール及びアニオン性基含有ポリオールを含むポリオールと、ポリイソシアネートと、を反応させることにより得られるアニオン性ポリウレタン樹脂が好ましく用いられる。かかるアニオン性ポリウレタン樹脂としては、例えば、下記(A1)及び(A2)が挙げられる。
【0028】
(A1)アニオン性基非含有ポリオール、アニオン性基含有ポリオール、及び、ポリイソシアネートからイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該ウレタンプレポリマーを鎖伸長剤により鎖伸長してなるアニオン性ポリウレタン樹脂。
【0029】
(A2)アニオン性基非含有ポリオール、アニオン性基含有ポリオール、及び、ポリイソシアネートを反応させて得られるヒドロキシ基含有アニオン性ポリウレタン樹脂。
【0030】
上記(A1)の鎖伸長タイプであると離型層の耐水性に優れる。一方、(A2)のヒドロキシ基含有アニオン性ポリウレタン樹脂は耐水性には劣るものの、離型シートとしての剥離性向上には有利である。
【0031】
アニオン性ポリウレタン樹脂を合成するために用いられるアニオン性基非含有ポリオールとしては、上記列挙の各種ポリオールを用いることができる。
【0032】
アニオン性基含有ポリオールとしては、分子内にカルボキシ基を有するカルボキシ基含有ポリオールが好ましく、例えば、ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、ジオキシマレイン酸、2,6-ジオキシ安息香酸、3,4-ジアミノ安息香酸等のカルボン酸含有化合物及びこれらの誘導体並びにそれらの塩が挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
ここで、アニオン性基は、酸型(カルボキシ基の場合:-COOH)だけでなく、塩型(カルボキシ基の場合:-COOXで表されるカルボン酸塩基。但し、Xはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。該アニオン性基は中和して塩にすることにより、最終的に得られるポリウレタン樹脂を水分散性にすることができる。そのため、ポリウレタン樹脂の水系分散体において、アニオン性基は塩型として存在してもよい。一方、該水系分散体を乾燥させて得られた塗膜の状態においては、中和剤として不揮発性塩基を用いた場合は塩型として存在し、揮発性塩基を用いた場合は酸型として存在してもよい。
【0034】
イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを鎖伸長させる鎖伸長剤としては、特に限定されず、例えば、水が挙げられ、また、脂肪族ポリアミン化合物(例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン)、芳香族ポリアミン化合物(例えば、メタキシレンジアミン、トリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン)、脂環式ポリアミン化合物(例えば、ピペラジン、イソホロンジアミン)、ポリヒドラジド化合物(例えば、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド)等の多価アミン化合物が挙げられる。
【0035】
アニオン性ポリウレタン樹脂において、ポリオール中におけるアニオン性基非含有ポリオールの量は、特に限定されず、例えば、ポリオール100質量%に対して80~99質量%でもよく、85~97質量%でもよく、90~95質量%でもよい。この場合において、上記重合体ポリオール(好ましくはポリエステルポリオール)の量は特に限定されず、例えば、ポリオール100質量%に対して80~99質量%でもよく、85~97質量%でもよく、88~95質量%でもよい。
【0036】
アニオン性ポリウレタン樹脂において、ポリオール中におけるアニオン性基含有ポリオールの量は、特に限定されず、例えば、ポリオール100質量%に対して1~20質量%でもよく、3~15質量%でもよく、5~10質量%でもよい。
【0037】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂としては、親水性セグメント含有ポリオール及び親水性セグメント非含有ポリオールを含むポリオールと、ポリイソシアネートと、を反応させることにより得られるノニオン性ポリウレタン樹脂を用いてもよい。かかるノニオン性ポリウレタン樹脂として、例えば下記(A3)が挙げられる。
【0038】
(A3)親水性セグメント含有ポリオール、親水性セグメント非含有ポリオール、及び、ポリイソシアネートからイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成し、該ウレタンプレポリマーを鎖伸長剤により鎖伸長してなるノニオン性ポリウレタン樹脂。
【0039】
親水性セグメント含有ポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレン基のようなノニオン性の親水性セグメントを持つポリオールが挙げられる。親水性セグメント非含有ポリオールとしては、上記列挙の各種ポリオールのうち、アニオン性基やカチオン性基、親水性セグメントを有しないポリオールが挙げられる。
【0040】
ノニオン性ポリウレタン樹脂において、ポリオール中における親水性セグメント含有ポリオールの量は、特に限定されず、例えば、ポリオール100質量%に対して5~50質量%でもよく、10~30質量%でもよい。親水性セグメント非含有ポリオールの量も特に限定されず、例えば、ポリオール100質量%に対して50~95質量%でもよく、70~90質量%でもよい。
【0041】
[ショ糖エステル]
ショ糖エステルとしては、ショ糖に炭素数8以上25以下の脂肪酸及び酢酸がエステル化された水酸基価30mgKOH/g以下のエステル化合物が用いられる。
【0042】
該ショ糖エステルは、ショ糖と脂肪酸及び酢酸とのエステルである。ショ糖1分子には8個のヒドロキシ基があるが、本実施形態で用いるショ糖エステルは、水酸基価が30mgKOH/g以下であるため、8個のヒドロキシ基の実質上全てに脂肪酸及び酢酸がエステル結合しているといえる。ショ糖エステルの水酸基価は20mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは15mgKOH/g以下である。ショ糖エステルの水酸基価は低いほど好ましいため、下限は特に限定されず、0mgKOH/gでもよい。
【0043】
本明細書において、ショ糖エステルの水酸基価は医薬部外品原料規格2021に準拠して測定される。
【0044】
ショ糖エステルを構成する脂肪酸は、炭素数が8以上25以下である中鎖又は長鎖の脂肪酸であり、ショ糖エステルに疎水性を付与してポリウレタン樹脂との親和性を向上することができる。該脂肪酸は飽和脂肪酸でもよく、不飽和脂肪酸でもよいが、好ましくは飽和脂肪酸である。該脂肪酸としては、炭素数8~25の飽和及び/又は不飽和の脂肪酸をいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。該脂肪酸の炭素数は、10~22であることが好ましく、より好ましくは12~20であり、更に好ましくは14~18である。
【0045】
ショ糖エステルを構成する脂肪酸と酢酸とのモル比は、脂肪酸:酢酸=3:5~7:1であることが好ましい。脂肪酸/酢酸(モル比)が3/5以上であることにより、離型シートとしての剥離性の向上効果を更に高めることができる。脂肪酸:酢酸(モル比)は、より好ましくは3.5:4.5~6:2であり、更に好ましくは4:4~5:3である。
【0046】
[ポリウレタン樹脂の水系分散体]
ポリウレタン樹脂の水系分散体は、水系分散媒にポリウレタン樹脂が分散してなる水系分散体であって、上記ショ糖エステルを含む。このようにポリウレタン樹脂の水系分散体に上記ショ糖エステルを配合したことにより、ポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤において、当該離型コート剤を用いて得られた離型シートでの剥離性を向上することができるとともに、ポリエステル基材への接着性に優れる。
【0047】
上記ショ糖エステルは疎水性であることから、ポリウレタン樹脂の水系分散体において、該ショ糖エステルは、水には溶解せず、ポリウレタン樹脂の粒子に含まれていることが好ましい。ここで、粒子に含まれるとは、粒子内部に存在すること、及び/又は、粒子表面に存在することを包含する概念である。好ましくは、該ショ糖エステルは、その少なくとも一部がポリウレタン樹脂の粒子内部に存在することであり、粒子中に混在することが好ましい。該ショ糖エステルは、上記のように水酸基価が30mgKOH/g以下であり、ヒドロキシ基を実質上持たないため、ポリウレタン樹脂を水系分散媒に乳化分散させる際にポリウレタン樹脂粒子中に取り込まれやすい。
【0048】
水系分散体におけるポリウレタン樹脂の含有量は、特に限定されず、水系分散体の全質量に対して、例えば10~50質量%でもよく、15~45質量%でもよく、20~40質量%でもよい。
【0049】
上記ショ糖エステルの含有量は、ポリウレタン樹脂100質量部に対して5~80質量部であることが好ましく、より好ましくは7~50質量部であり、更に好ましくは8~40質量部であり、更に好ましくは10~30質量部であり、15~25質量部でもよい。
【0050】
水系分散体におけるポリウレタン樹脂の粒子(詳細には、ショ糖エステルを含む樹脂粒子)の大きさは、特に限定されず、例えば平均粒子径が0.001~0.5μmでもよい。ここで、平均粒子径は、日機装(株)製「Microtrac UPA-UZ152」を用いて測定される50%累積の粒子径(d50)である。
【0051】
ポリウレタン樹脂の水系分散体には、その効果が損なわれない限り、他の成分を含んでもよい。例えば、ポリウレタン樹脂を架橋するための架橋剤が含まれてもよい。
【0052】
架橋剤としては、ポリウレタン樹脂が有するヒドロキシ基、第1級アミノ基、第2級アミノ基及びチオール基からなる群から選ばれる少なくとも1種の活性水素含有基と反応し得る反応性基を分子内に2個以上有する化合物が挙げられる。これにより離型コート剤により形成される離型層の耐水性を向上することができる。架橋剤は、ポリウレタン樹脂がカルボキシ基を有する場合、そのカルボキシ基と架橋反応させることもできる。
【0053】
架橋剤としては、例えば、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ化合物等が挙げられ、これらはいずれか1種を用いても2種以上を併用してもよい。
【0054】
他の成分として、例えば、ポリウレタン樹脂を水系分散媒に分散させるための界面活性剤が含まれてもよい。該界面活性剤としては、非イオン界面活性剤が好ましく用いられる。非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
【0055】
[水系分散体の製造方法]
ポリウレタン樹脂の水系分散体を製造する方法は特に限定されず、例えば下記工程(1)~(3)を含む方法により製造してもよい。
【0056】
工程(1):ポリオールとポリイソシアネートを反応させる工程。
工程(2):工程(1)により得られたポリウレタン樹脂とショ糖エステルを混合する工程。
工程(3):工程(2)により得られた混合物と水系分散媒を用いてポリウレタン樹脂を水系分散媒に分散させる工程。
【0057】
このようにポリウレタン樹脂とショ糖エステルを混合してから水系分散媒に分散させることにより、ショ糖エステルをポリウレタン樹脂の粒子に効率良く取り込ませることができる。
【0058】
上記工程(1)において、ポリオールとポリイソシアネートとの反応は、有機溶媒なしで実施してもよく、メチルエチルケトンやアセトン等の活性水素基を有しない有機溶媒中で実施してもよい。工程(1)の反応により得られるポリウレタン樹脂は、鎖伸長等する前のウレタンプレポリマーも包含する概念である。そのため、工程(2)では、かかるウレタンプレポリマーとショ糖エステルを混合してもよい。
【0059】
また、ポリウレタン樹脂がアニオン性基を有する場合、工程(2)においてポリウレタン樹脂とショ糖エステルとを混合する前又は混合した後に、中和剤により当該アニオン性基を中和してもよい。
【0060】
中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の不揮発性塩基、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類、アンモニア等の揮発性塩基等が挙げられる。
【0061】
工程(3)においてポリウレタン樹脂を水系分散媒中に分散させる方法は特に限定されず、例えば、(i)水系分散媒をホモジナイザーやホモミキサー等によって攪拌しながら、ポリウレタン樹脂又はその樹脂溶液を添加する方法、(ii)ポリウレタン樹脂又はその樹脂溶液をホモジナイザーやホモミキサー等によって攪拌しながら、水系分散媒を添加する方法等が挙げられる。なお、ポリウレタン樹脂が自己乳化できないものである場合、ポリウレタン樹脂を水系分散媒に乳化分散させるために界面活性剤を添加してもよい。
【0062】
工程(1)においてウレタンプレポリマーを合成した場合、工程(3)でウレタンプレポリマーを水系分散媒に分散させた後に、鎖伸長剤により鎖伸長させてもよい。また、工程(1)においてポリオールとポリイソシアネートとの反応を有機溶媒中で行った場合、工程(3)でポリウレタン樹脂を水系分散媒に分散させた後に、当該有機溶媒を除去してもよい。
【0063】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂として上記(A1)のアニオン性ポリウレタン樹脂を用いる場合、下記工程(a1)~(a5)により製造してもよい。
工程(a1):アニオン性基非含有ポリオール、アニオン性基含有ポリオール、及び、ポリイソシアネートを反応させて、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成する工程。
工程(a2):前記イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのアニオン性基を中和する工程。
工程(a3):前記イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーとショ糖エステルを混合する工程。
工程(a4):工程(a3)により得られた混合物と水系分散媒を用いて、前記イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水系分散媒に分散させる工程。
工程(a5):水系分散媒に分散させたイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを鎖伸長剤により鎖伸長する工程。
【0064】
工程(a1)が上記工程(1)に相当し、工程(a3)が上記工程(2)に相当し、工程(a4)が上記工程(3)に相当し、工程(a2)及び(a5)は追加の工程である。
【0065】
工程(a1)において、ポリイソシアネートは、ポリオールに含まれるヒドロキシ基の量よりも、イソシアネート基が化学量論的に過剰、例えばヒドロキシ基とイソシアネート基との当量比(NCO/OH)が1.05~1.70(より好ましくは1.10~1.60)となるように用いられる。
【0066】
工程(a2)と工程(a3)の順番は問わず、アニオン性基を中和剤で中和してからショ糖エステルを加えてもよく、ショ糖エステルを加えてからアニオン性基を中和してもよい。
【0067】
工程(a5)において、鎖伸長剤の添加は、工程(a4)におけるポリウレタンプレポリマーの水系分散媒への分散後でもよく、分散中でもよい。鎖伸長剤については、上述したとおりであり、水も鎖伸長剤となる。水を鎖伸長剤とする場合、水系分散媒としての水が鎖伸長剤を兼ねる。
【0068】
工程(a1)の反応を有機溶媒中で行った場合、工程(a5)で鎖伸長した後に当該有機溶媒を除去してもよい。
【0069】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂(A)として上記(A2)のアニオン性ポリウレタン樹脂を用いる場合、下記工程(b1)~(b4)により製造してもよい。
工程(b1):アニオン性基非含有ポリオール、アニオン性基含有ポリオール、及び、ポリイソシアネートを反応させて、ヒドロキシ基含有ポリウレタン樹脂を合成する工程。
工程(b2):ヒドロキシ基含有ポリウレタン樹脂のアニオン性基を中和する工程。
工程(b3):前記ヒドロキシ基含有ポリウレタン樹脂とショ糖エステルを混合する工程。
工程(b4):工程(b3)により得られた混合物と水系分散媒を用いて、前記ヒドロキシ基含有ポリウレタン樹脂を水系分散媒に分散させる工程。
【0070】
工程(b1)が上記工程(1)に相当し、工程(b3)が上記工程(2)に相当し、工程(b4)が上記工程(3)に相当し、工程(b2)は追加の工程である。
【0071】
工程(b1)において、ポリオールは、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基の量よりも、ヒドロキシ基が化学量論的に過剰、例えばヒドロキシ基とイソシアネート基との当量比(NCO/OH)が0.70~0.95(より好ましくは0.80~0.90)となるように用いられる。
【0072】
工程(b2)及び(b3)の順番は問わず、アニオン性基を中和剤で中和してからショ糖エステルを加えてもよく、ショ糖エステルを加えてからアニオン性基を中和してもよい。
【0073】
工程(b1)の反応を有機溶媒中で行った場合、工程(b4)でポリウレタン樹脂を水系分散媒に分散させた後に、当該有機溶媒を除去してもよい。
【0074】
一実施形態において、ポリウレタン樹脂(A)として上記(A3)のノニオン性ポリウレタン樹脂を用いる場合、下記工程(c1)~(c4)により製造してもよい。
工程(c1):親水性セグメント含有ポリオール、親水性セグメント非含有ポリオール、及び、ポリイソシアネートを反応させて、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを合成する工程。
工程(c2):前記イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーとショ糖エステルを混合する工程。
工程(c3):工程(c2)により得られた混合物と水系分散媒を用いて、前記イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを水系分散媒に分散させる工程。
工程(c4):水系分散媒に分散させたイソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを鎖伸長剤により鎖伸長する工程。
【0075】
工程(c1)が上記工程(1)に相当し、工程(c2)が上記工程(2)に相当し、工程(c3)が上記工程(3)に相当し、工程(c4)は追加の工程である。工程(c1)におけるヒドロキシ基とイソシアネート基との当量比、工程(c4)における鎖伸長剤の添加時機及び水を鎖伸長剤とする場合、並びに有機溶媒の除去については、上記工程(a1)及び(a5)と同じである。
【0076】
[ポリエステル基材用離型コート剤]
本実施形態に係るポリエステル基材用離型コート剤は、上記ポリウレタン樹脂の水系分散体を含むものであり、従って、水系分散媒と、該水系分散媒中に分散したポリウレタン樹脂と、ショ糖エステルを含む。該離型コート剤は、上記ポリウレタン樹脂の水系分散体のみからなるものでもよく、上記ポリウレタン樹脂の水系分散体とともに、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤、消泡剤、表面調整剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0077】
離型コート剤におけるポリウレタン樹脂の含有量は特に限定されず、離型コート剤の全質量に対して、例えば10~50質量%でもよく、15~45質量%でもよく、20~40質量%でもよい。
【0078】
[離型シート]
一実施形態に係る離型シートは、ポリエステル基材と、該ポリエステル基材上に設けられた離型層とを含み、該離型層が上記離型コート剤により形成される。
【0079】
ポリエステル基材としては、ジカルボン酸とジオールとを構成成分(モノマー)とする各種ポリエステルにより形成されたものを用いることができる。ポリエステル基材の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)基材、ポリエチレンナフタレート(PEN)基材、ポリエチレンフラノエート(PEF)基材、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)基材、ポリブチレンテレフタレート(PBT)基材、ポリブチレンナフタレート(PBN)基材等が挙げられる。これらの中でも、芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールとを構成成分とするポリエステルにより形成されたポリエステル基材、具体的にはPET基材、PEN基材、PEF基材等が、より好ましく用いられる。
【0080】
ポリエステル基材は、フィルム状でもよく、板状でもよく、厚みは特に限定されない。また、ポリエステル基材としては、コロナ表面処理等の表面処理が施されたものであってもよい。
【0081】
離型層は、ポリエステル基材の表裏少なくとも一方の面に積層された樹脂層であり、ポリエステル基材に離型コート剤を塗布し、乾燥することにより形成することができる。なお、離型コート剤が上記架橋剤を含む場合、離型コート剤を塗布後、乾燥等の熱処理を行うことで、ポリウレタン樹脂は架橋される。
【0082】
離型層の厚み(乾燥膜厚)は特に限定されず、例えば0.01~50μmでもよく、0.05~10μmでもよい。
【0083】
[積層体]
一実施形態に係る積層体は、上記離型シートと、その離型層上に剥離可能に設けられた樹脂層とを含む。離型シートは、例えば、(1)粘着剤皮膜を保護するための保護シートとして、あるいはまた、(2)樹脂皮膜を成膜するための支持シートとして用いられる。
【0084】
上記(1)の保護シートの場合、表面に粘着剤皮膜が形成された製品に対して該粘着剤皮膜を保護するために上記離型シートが用いられ、該製品の粘着剤皮膜が設けられた粘着面に離型シートが貼り付けられる。そのため、該粘着剤皮膜が上記樹脂層に相当し、該製品とその粘着面に貼り付けられた離型シートとにより上記積層体が構成される。離型シートは、上記製品の使用時に粘着面から剥がされる。上記製品としては、例えば、液晶の偏光板等が挙げられる。
【0085】
上記(2)の支持シートの場合、上記離型シートの離型層上に、樹脂液を塗布ないし流し込んで乾燥等により硬化させて樹脂皮膜を形成する。そのため、該樹脂皮膜が上記樹脂層に相当し、該樹脂皮膜が設けられた離型シートが上記積層体に相当する。離型シートは、樹脂皮膜を使用する際に該樹脂皮膜から剥がされる。
【実施例0086】
以下、実施例及び比較例に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0087】
実施例で使用した各成分の詳細は以下のとおりである。
【0088】
[ポリオール]
・ポリオール(1):芳香族ポリエステルジオール(官能基数:2、数平均分子量:2000)。合成方法は以下の通り。
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、イソフタル酸52.41質量部、アジピン酸8.77質量部、1,6-ヘキサンジオール26.58質量部、及びエチレングリコール12.24質量部を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら250℃まで昇温した。酸価が5mgKOH/g以下になるまで反応し、芳香族ポリエステルジオールを得た。
【0089】
・ポリオール(2):ポリブタジエンポリオール(官能基数:2.4、数平均分子量:2700)、エボニック社製「POLYVEST HT」
・ポリオール(3):ポリテトラメチレングリコール(PTMG)(官能基数:2、数平均分子量:2000)、三菱ケミカル(株)製「PolyTHF(登録商標)2000」
・ポリオール(4):ポリオキシエチレン基含有ノニオン性ポリオール(官能基数:2、数平均分子量:600)、Perstorp社製「Ymer N180」
・ポリオール(5):ポリカーボネートジオール(官能基数:2、数平均分子量:2000)、三菱ケミカル(株)製「BENEBiOL(登録商標)NL2030DB」
・トリメチロールプロパン:三菱ガス化学(株)製(官能基数:3、分子量:134.2)
・ジメチロールプロピオン酸:Perstorp社製「Bis-MPA(登録商標)」(官能基数:2、分子量:134.1)
【0090】
[ポリイソシアネート]
・IPDI:イソホロンジイソシアネート(官能基数:2、分子量:222.3)、Evonik社製「VESTANAT(登録商標)IPDI」
・MDI:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(官能基数:2、分子量:250.3)、東ソー(株)製「ミリオネートMT-F」
・HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート(官能基数:2、分子量:168.2)、旭化成(株)製「デュラネート(登録商標)50M-HDI」
【0091】
[ショ糖エステル]
・ショ糖エステル(1):下記合成例1により得られた、ショ糖と炭素数18の脂肪酸及び酢酸とのエステル化合物(脂肪酸:酢酸=5:3(モル比)、水酸基価:10mgKOH/g)
【0092】
(合成例1)
<ショ糖脂肪酸エステルの合成>
反応器にジメチルスルホキシド(DMSO)345.7質量部を仕込み、90℃、3.7kPaの条件下で、DMSOの水分含有量が0.06質量%となるまで全還流を行った。ここに、炭酸カリウム0.26質量部、ショ糖67.2質量部およびステアリン酸メチル292.53質量部を加え、95℃、3.7kPaの条件下で、DMSOを留出させながら反応を行い、DMSOの留出量が42.9質量部に到達して以降は、DMSOを留出させずに全還流の下反応を行った。合計8時間反応させた後、pHが6.0になるように90質量%乳酸水溶液を加えて、反応を停止した。
攪拌槽を用いて、上記反応混合物の固形分が84.0質量%となるまで、DMSOを減圧留去し、濃縮した。
得られた濃縮物に0.1質量%硫酸カリウム水溶液240質量部およびイソブチルアルコール(IBA)240質量部を添加し、30分間撹拌した。この混合液を静置して2層に分離させ、上層(IBA相)を分取した。続いて、IBAを減圧下で留去し、ショ糖脂肪酸エステルを得た。
<ショ糖脂肪酸エステルのアセチル化反応>
反応器に上記ショ糖脂肪酸エステル250質量部、無水酢酸60質量部を仕込み、窒素ガスを50mL/分の流量でバブリングさせながら90~100℃で5~6時間反応させ、未反応の無水酢酸および副生する酢酸を減圧下で留去した。次に、トルエンを1500質量部、0.5質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液2250質量部を添加し、50℃で30分間攪拌後、静置してトルエンを分取した。続いて、トルエンを減圧下で留去し、ショ糖エステル(1)を得た。
【0093】
・ショ糖エステル(2):下記合成例2により得られた、ショ糖と炭素数18の脂肪酸及び酢酸とのエステル化合物(脂肪酸:酢酸=4:4(モル比)、水酸基価:7mgKOH/g)
【0094】
(合成例2)
上記合成例1において、ステアリン酸メチルの量を234.4質量部とし、無水酢酸の量を90.6質量部とし、その他は合成例1と同様にして、ショ糖エステル(2)を得た。
【0095】
・ショ糖エステル(3)(比較材料):下記合成例3により得られた、ショ糖安息香酸エステル(水酸基価:35mgKOH/g)
【0096】
(合成例3)
撹拌棒、温度計、冷却コンデンサー、滴下漏斗、及びpHメーターに接続したpH電極を備えた1L五つ口フラスコに、ショ糖34.2質量部と水70.0質量部を仕込み溶解させた後、水浴で10℃以下に冷却しながら、シクロヘキサノン100質量部に塩化ベンゾイル106.7質量部を溶解させた溶液を徐々に加えた。その後、20℃以下の温度に保ちながら、48質量%苛性ソーダ水溶液69.0質量部を滴下漏斗よりpHが10~11に保たれるような速度で加えた。水浴を取り去り20~30℃の室温で1時間撹拌を続け熟成して反応を完結させた後、若干量の炭酸ソーダを加え加熱して、微量に残っている塩化ベンゾイルを安息香酸ソーダに変換した。その後、約30分間静置させて、水相を分離させ、除去した。新たに水70質量部を加え、湯浴で40~50℃に昇温させ、30分撹拌した後、約30分間静置させて、水相を分離させ、除去した。同操作をさらに3回繰り返した後(合計の水洗回数:4回)、120℃に昇温し、減圧下溶媒を留去し、ショ糖エステル(3)を得た。
【0097】
・ショ糖エステル(4)(比較材料):上記合成例1の<ショ糖脂肪酸エステルの合成>により得られた、ショ糖脂肪酸エステル(水酸基価:120mgKOH/g)
【0098】
[界面活性剤]
・界面活性剤(1):非イオン界面活性剤、第一工業製薬(株)製「ノイゲン(登録商標)EA-157」
【0099】
[架橋剤]
・架橋剤(1):カルボジイミド化合物、日清紡ケミカル(株)製「V02-L02」(不揮発分40質量%、NCN当量385)
【0100】
離型コート剤の評価方法は以下のとおりである。
【0101】
[接着性]
離型コート剤の塗膜とPET基材との接着性を以下の方法で評価した。PETフィルム(「ルミラーT-60」、東レ(株)製)をイソプロピルアルコールにより脱脂し、次いで、該PETフィルム上に離型コート剤をバーコーターで乾燥膜厚10μmになるように塗布し、80℃で10分間乾燥し、さらに120℃で10分間乾燥して、離型コート剤の塗膜が形成された試験片を得た。この試験片をサンプルとして、JIS K5400-8.5:1990に準拠した2mm碁盤目試験を実施し、塗膜とPET基材との接着性を、下記式により算出した。
接着性(%)=100-(剥がれたマス目の数)
【0102】
[剥離性1(粘着テープからの剥離性)]
PET基材としてコロナ放電処理されたPET基材(「ルミラーT-60」、東レ(株)製)を用いた。該PET基材に離型コート剤をバーコーターで乾燥膜厚1μmになるように塗布し、80℃で10分間乾燥し、さらに120℃で10分間乾燥して、離型コート剤の塗膜が形成された試験片(コーティングフィルム)を得た。該試験片の塗膜に日東電工(株)製粘着テープ「No.31B」を、2kgローラーを用いて貼付し、3時間後の剥離強度(単位:mN/25mm)を測定した。剥離強度の測定は、JIS Z0237:2009に準拠した180°剥離試験(300mm/分)とした。剥離強度が小さいほど剥離性に優れる。剥離強度は500mN/25mm未満が好ましく、より好ましくは300mN/25mm未満である。
【0103】
[剥離性2(樹脂皮膜からの剥離性)]
剥離性1と同様にして離型コート剤の塗膜が形成された試験片を得た。該試験片の塗膜上にのり付きバッカ―で5cm×10cmの矩形の枠を作り、乾燥膜厚が250μmになるように水系ウレタン樹脂(第一工業製薬(株)製「スーパーフレックス460」(不揮発分38質量%))を流し込んだ。次いで、20℃で15時間、80℃で6時間、更に120℃で30分間乾燥して、該水系ウレタン樹脂からなる樹脂皮膜を上記試験片上に作製した。得られた樹脂皮膜を手で剥がせるか否かを評価し、樹脂皮膜を剥離できたものを「○」、樹脂皮膜を剥離できなかったものを「×」で評価した。
【0104】
[耐水性]
フッ素樹脂コーティングされたフライパン上に離型コート剤を乾燥膜厚が500μmとなるように注ぎ、次いで40℃で15時間、80℃で6時間、更に120℃で20分間乾燥して、離型コート剤からなる皮膜を作製した。該皮膜を試験片とし、40℃の温水に該試験片を24時間浸漬し、浸漬後の皮膜の質量を測定した。浸漬前の初期質量に対する浸漬後の質量の増加率(%)を求めた。増加率が小さいほど、水による膨潤が小さく、耐水性に優れる。
【0105】
[実施例1]
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリオール(1)68.53質量部、トリメチロールプロパン1.45質量部、ジメチロールプロピオン酸5.50質量部、メチルエチルケトン100質量部を加え十分に攪拌溶解し、次いでIPDIを24.52質量部加え、固形分に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.88質量%になるまで75℃で反応させて、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。このプレポリマー溶液を45℃まで冷却し、中和剤としてトリエチルアミン4.15質量部を加えることにより中和した後、ショ糖エステル(1)20質量部をメチルエチルケトン20質量部で溶解させた液(40℃に加温)を添加し攪拌した。ホモジナイザーを用いて攪拌しながら、分散媒として蒸留水308質量部を添加して乳化分散させた。その後、乳化体を40℃で1時間攪拌し、水による鎖伸長反応を完了させた。これを加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去して、固形分30質量%のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0106】
[実施例2,3,5~12,比較例2,3]
ポリオール、ポリイソシアネート、及びショ糖エステルの種類及び仕込み量を、下記表1に示す通りに変更し、その他は実施例1と同様にして、実施例2,3,5~12,比較例2,3のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。但し、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーを得る際のウレタン反応終了時の遊離イソシアネート基の量を、実施例2では1.61質量%、実施例5では1.65質量%、実施例6では1.86質量%、実施例7では1.93質量%、実施例11では4.04質量%、実施例12では1.33質量%とした。また、分散媒としての蒸留水の添加量は、水系分散体の固形分濃度が30質量%になるように調整した。
【0107】
[実施例4]
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリオール(1)61.32質量部、トリメチロールプロパン1.45質量部、ポリオール(4)17.00質量部、メチルエチルケトン100質量部を加え十分に攪拌溶解し、次いでIPDIを20.23質量部加え、固形分に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.64質量%になるまで75℃で反応させて、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。このプレポリマー溶液を45℃まで冷却した後、ショ糖エステル(1)20質量部をメチルエチルケトン20質量部で溶解させた液を添加し攪拌した。ホモジナイザーを用いて攪拌しながら、分散媒として蒸留水308質量部を添加して乳化分散させた。その後、乳化体を40℃で1時間攪拌し、水による鎖伸長反応を完了させた。これを加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去して、固形分30質量%のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0108】
[実施例13]
乳化分散後の乳化体に鎖伸長剤としてのエチレンジアミン1.21質量部を添加してから40℃で1時間攪拌して鎖伸長反応を完了させ、その他は実施例1と同様にして、実施例13のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0109】
[実施例14]
分散媒としての蒸留水308質量部に代えて、蒸留水277質量部とN-メチルピロリドン(NMP)31質量部(蒸留水/NMP=90/10)を添加し、その他は実施例1と同様にして、実施例14のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0110】
[実施例15]
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリオール(1)80.25質量部、トリメチロールプロパン1.45質量部、ジメチロールプロピオン酸1.05質量部、メチルエチルケトン100質量部を加え十分に攪拌溶解し、次いでIPDIを17.25質量部加え、固形分に対する遊離イソシアネート基の含有量が1.43質量%になるまで75℃で反応させて、イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。このプレポリマー溶液を45℃まで冷却し、トリエチルアミン0.79質量部を加えることにより中和した後、界面活性剤(1)5質量部をメチルエチルケトン5質量部に溶解した液、及び、ショ糖エステル(1)20質量部をメチルエチルケトン20質量部で溶解させた液を添加し、攪拌した。ホモジナイザーを用いて攪拌しながら、分散媒として蒸留水308質量部を添加して乳化分散させた。その後、乳化体を40℃で1時間攪拌し、水による鎖伸長反応を完了させた。これを加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去して、固形分30質量%のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0111】
[実施例16]
乳化分散時に添加する分散媒としての蒸留水の量を308質量部とし、水による鎖伸長反応及びメチルエチルケトンの留去後に、架橋剤(1)39.5質量部を添加し、その他は実施例1と同様にして、実施例16の離型コート剤を得た。
【0112】
[比較例1]
ショ糖エステル(1)を添加せず、その他は実施例1と同様にして、比較例1のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0113】
実施例1~16及び比較例1~3の離型コート剤について、接着性、剥離性1、剥離性2、及び、耐水性を評価した。結果を表1に示す。なお、表1中において、「ショ糖エステルの含有量(質量部)」は、離型コート剤における、ポリウレタン樹脂100質量部に対するショ糖エステルの質量部である(表2において同じ)。また、インデックス(NCO/OH)は、ウレタンプレポリマーにおけるヒドロキシ基とイソシアネート基との当量比である(表2において同じ)。
【0114】
表1に示されるように、比較例1では、ショ糖エステルを配合していないため、剥離性に劣っていた。また、ショ糖エステルとしてショ糖安息香酸エステルを配合した比較例2では、接着性は改善されたものの剥離性に劣っていた。ショ糖エステルとしてショ糖脂肪酸エステルを配合した比較例3では、ショ糖脂肪酸エステルが析出し、乳化できなかった。
【0115】
これに対し、ショ糖の実質上全てのヒドロキシ基を脂肪酸と酢酸でエステル化させたショ糖エステルを配合した実施例1~16であると、接着性と剥離性に優れていた。また、ノニオン性ポリウレタン樹脂を含む実施例4や架橋構造を持たない実施例5では耐水性に劣っていたが、架橋構造を持つアニオン性ポリウレタン樹脂を含む実施例1~3及び6~16では離型コート剤からなる皮膜の耐水性に優れていた。
【0116】
【表1】
【0117】
[実施例17]
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリオール(1)79.50質量部、ジメチロールプロピオン酸5.50質量部、メチルエチルケトン100質量部を加え十分に攪拌溶解し、次いでIPDIを15.00質量部加え、固形分に対する遊離イソシアネート基の含有量が0.05質量%以下になるまで75℃で反応させて、ヒドロキシ基含有ポリウレタン樹脂のメチルエチルケトン溶液を得た。このポリウレタン樹脂溶液を45℃まで冷却し、中和剤としてトリエチルアミン4.15質量部を加えることにより中和した後、ショ糖エステル(1)20質量部をメチルエチルケトン20質量部で溶解させた液を添加し攪拌した。ホモジナイザーを用いて攪拌しながら、分散媒として蒸留水308質量部を添加して乳化分散させた。その後、乳化体を40℃で1時間攪拌した。これを加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去して、固形分30質量%のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0118】
[実施例18,19]
ポリオール及びポリイソシアネートの種類及び仕込み量を、下記表2に示す通りに変更し、その他は実施例17と同様にして、実施例18,19のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0119】
[比較例4]
ショ糖エステル(1)を添加せず、その他は実施例17と同様にして、比較例4のポリウレタン樹脂の水系分散体からなる離型コート剤を得た。
【0120】
実施例17~19及び比較例4の離型コート剤について、接着性、剥離性1、剥離性2、及び、耐水性を評価した。結果を表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0123】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。