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特開2024-118540ステータ、及び、ステータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118540
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】ステータ、及び、ステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/44 20060101AFI20240826BHJP
   H02K 15/12 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
H02K3/44 B
H02K15/12 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024870
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼村 剛
(72)【発明者】
【氏名】福井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】西井 文哉
(72)【発明者】
【氏名】上田 拓
【テーマコード(参考)】
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H604BB01
5H604BB03
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC14
5H604DB01
5H604PE06
5H615BB01
5H615BB02
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP01
5H615QQ03
5H615QQ06
5H615SS44
5H615TT26
(57)【要約】
【課題】ステータコアのスロットに臨む壁に可及的均一にモールド樹脂層を被着させることができ、延いてはエネルギーの効率化に寄与することができるステータ、及び、ステータの製造方法を提供する。
【解決手段】ステータは、ステータコア2と、複数のコイル3と、モールド樹脂層8と、を備える。ステータコア2は、周方向に並ぶ複数のティース5、及び周方向で隣り合うティース5の間に夫々形成される複数のスロット7を有する。コイル3は、スロット7に挿通されるスロット挿通部を有しティース5に巻回される。モールド樹脂層8は、ステータコア2のスロット7に臨む壁に被着されて、スロット挿通部とステータコア2の間を絶縁する。ステータコア2の壁には、軸方向の一端部から軸方向に沿って延び、モールド樹脂層8の一部を受容する樹脂誘導溝20が設けられる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に並ぶ複数のティース、及び周方向で隣り合う前記ティースの間に夫々形成される複数のスロットを有するステータコアと、
前記スロットに挿通されるスロット挿通部を有し前記ティースに巻回される複数のコイルと、
前記ステータコアの前記スロットに臨む壁に被着されて、前記スロット挿通部と前記ステータコアの間を絶縁するモールド樹脂層と、を備え、
前記ステータコアの前記壁には、軸方向の一端部から軸方向に沿って延び、前記モールド樹脂層の一部を受容する樹脂誘導溝が設けられていることを特徴とするステータ。
【請求項2】
前記樹脂誘導溝は、少なくとも前記ステータコアの前記壁のうちの、隣り合う前記ティースの相互に対向する側壁上の任意の位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のステータ。
【請求項3】
前記スロットは、前記コイルを冷却する冷却液が流れる流路の一部として用いられ、
前記モールド樹脂層は、前記冷却液が前記スロットから径方向に漏出するのを抑制する密閉層を兼ねることを特徴とする請求項1または2に記載のステータ。
【請求項4】
周方向に並ぶ複数のティース、及び周方向で隣り合う前記ティースの間に夫々形成される複数のスロットを有するステータコアと、
前記スロットに挿通されるスロット挿通部を有し前記ティースに巻回される複数のコイルと、
前記ステータコアの前記スロットに臨む壁に被着されて、前記スロット挿通部と前記ステータコアの間を絶縁するモールド樹脂層と、を備えたステータの製造方法であって、
前記ステータコアの前記壁に、軸方向の一端部から軸方向に沿って延びる樹脂誘導溝を形成する工程と、
各前記スロット内に中子を配置する工程と、
前記樹脂誘導溝を通して前記中子と前記ステータコアの間の隙間にモールド樹脂を充填する工程と、含むことを特徴とするステータの製造方法。
【請求項5】
前記モールド樹脂が固化した後に前記中子を取り出す工程と、
前記モールド樹脂が固化して形成された前記モールド樹脂層の内側空間に複数の前記コイルの前記スロット挿通部を挿入する工程と、を含むことを特徴とする請求項4に記載のステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ、及び、ステータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動モータや発電機等の回転電機は、ステータと、ステータに対して相対回転するロータと、を備えている。ステータは、ステータコアと、ステータコアに巻回されるコイルと、を備えている。ステータコアは、例えば円筒状のバックヨーク(ヨーク)と、バックヨークから径方向の内側に突出する複数のティースが一体に形成されている。周方向で隣り合う複数のティースの間には、それぞれスロットが形成されている。コイルは、ステータコアのスロットに挿通されるスロット挿通部(例えば、セグメント導体)を有し、そのスロット挿通部がスロットに挿通された状態でステータコアに巻回されている。
【0003】
また、この種の回転電機のステータでは、各スロットを形成するステータコアの壁に絶縁紙や絶縁樹脂等が取り付けられ、コイルのスロット挿入部とステータコアの間の電気的な絶縁が図られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ステータコアのスロットに臨む壁に絶縁樹脂を取り付ける場合には、モールド成形によってステータコア側の壁に絶縁性のモールド樹脂層を被着することがある。この場合、モールド成形時に、ステータコアのスロット内に中子を挿入配置し、その状態でステータコアと中子の間にできる隙間に溶融したモールド樹脂を充填する。そして、モールド樹脂が固化してモールド樹脂層が形成された後に、スロット内から中子を取り出す。コイルのスロット挿入部(例えば、セグメント導体)は、この後にモールド樹脂層の内側に軸方向に沿って挿通される。
なお、ステータコアと中子の間の隙間にモールド樹脂を充填するための金型のゲートは、ステータコアと中子の間の隙間の軸方向の一端部側に連通するように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-23739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したステータの製造方法では、ステータコアと中子の間の隙間に対して軸方向の一端部側からモールド樹脂が充填される。このとき、中子は治具によって金型内に位置決めされる。しかし、治具によって中子を正確に位置決めするのには限界があり、モールド樹脂層を安定して肉薄化することは難しかった。
つまり、モールド樹脂層を薄肉化しようとすると、モールド樹脂の充填時に中子の一部がステータコアの壁に部分的に接触、若しくは近接し、完成したモード樹脂層の一部に破断箇所や強度的に弱い部分ができ易い。そして、完成したモード樹脂層の一部に破断箇所や強度的に弱い部分ができると、使用時に充分な絶縁性能を確保できなくなる。
なお、モールド樹脂層の肉厚を厚くすれば安定した絶縁性能は得られる。しかし、この場合、スロット内に占めるモールド樹脂層の容積が大きくなり、その分コイルの占積率が低下してしまう。
【0007】
そこで本発明は、ステータコアのスロットに臨む壁に可及的均一にモールド樹脂層を被着させることができ、延いてはエネルギーの効率化に寄与することができるステータ、及び、ステータの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るステータ、及び、ステータの製造方法は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
即ち、本発明に係るステータは、周方向に並ぶ複数のティース(例えば、実施形態のティース5)、及び周方向で隣り合う前記ティースの間に夫々形成される複数のスロット(例えば、実施形態のスロット7)を有するステータコア(例えば、実施形態のステータコア2)と、前記スロットに挿通されるスロット挿通部(例えば、実施形態のセグメント導体12)を有し前記ティースに巻回される複数のコイル(例えば、実施形態のコイル3)と、前記ステータコアの前記スロットに臨む壁(例えば、実施形態のティース5の側壁5s、バックヨーク4の内周壁4a)に被着されて、前記スロット挿通部と前記ステータコアの間を絶縁するモールド樹脂層(例えば、実施形態のモールド樹脂層8)と、を備え、前記ステータコアの前記壁には、軸方向の一端部から軸方向に沿って延び、前記モールド樹脂層の一部を受容する樹脂誘導溝(例えば、実施形態の樹脂誘導溝20)が設けられていることを特徴とする。
【0009】
上記の構成により、モールド樹脂層の一部はステータコアの壁に設けられた樹脂導入溝内に受容される。これにより、モールド樹脂層がステータコアの壁に強固に固定されるとともに、ステータコアの壁により密着し易くなる。
また、ステータの製造時には、溶融したモールド樹脂が、軸方向に沿う樹脂誘導溝を通してステータコアの壁と中子の間を安定して流動する。このため、こうしてステータコアの壁と中子の間に充填されるモールド樹脂は軸方向に均一厚みとなり易い。したがって、モールド樹脂層には、破断や強度的に弱い部分ができにくくなる。
【0010】
前記樹脂誘導溝は、少なくとも前記ステータコアの前記壁のうちの、隣り合う前記ティースの相互に対向する側壁(例えば、実施形態の側壁5s)上の任意の位置に設けられることが望ましい。
【0011】
この場合、隣り合うティースの対向する側壁に設けられた各樹脂誘導溝にモールド樹脂層の一部が受容される。このため、モールド樹脂層が各ティースの側壁に強固に固定されるとともに、その側壁により密着し易くなる。
また、ステータの製造時には、モールド樹脂が隣り合うティースの側壁の樹脂誘導溝を通して、各ティースの側壁と中子の間を安定して流動する。このとき、充填されるモールド樹脂は中子の両側方を軸方向に沿って同様に流れるため、中子が片側のティースの側壁に偏って近接する事象が生じにくくなる。したがって、こうしてステータが製造されると、ティースの側壁に均一にモールド樹脂層が被着され易くなる。
【0012】
前記スロットは、前記コイルを冷却する冷却液が流れる流路の一部として用いられ、前記モールド樹脂層は、前記冷却液が前記スロットから径方向に漏出するのを抑制する密閉層を兼ねることが望ましい。
【0013】
この場合、上述のように製造時にモールド樹脂層に破断箇所や強度的に弱い部分ができにくいため、各スロット内のスロット挿通部の周域を流れる冷却液が、ロータの配置される径方向に漏出するのを抑制することができる。したがって、ステータとロータの間のエアギャップに冷却液が流入することによってロータの回転が妨げられるのを防止することができる。
【0014】
本発明に係るステータの製造方法は、周方向に並ぶ複数のティース(例えば、実施形態のティース5)、及び周方向で隣り合う前記ティースの間に夫々形成される複数のスロット(例えば、実施形態のスロット7)を有するステータコア(例えば、実施形態のステータコア2)と、前記スロットに挿通されるスロット挿通部(例えば、実施形態のセグメント導体12)を有し前記ティースに巻回される複数のコイル(例えば、実施形態のコイル3)と、前記ステータコアの前記スロットに臨む壁(例えば、実施形態のティース5の側壁5s、バックヨーク4の内周壁4a)に被着されて、前記スロット挿通部と前記ステータコアの間を絶縁するモールド樹脂層(例えば、実施形態のモールド樹脂層8)と、を備えたステータの製造方法であって、前記ステータコアの前記壁に、軸方向の一端部から軸方向に沿って延びる樹脂誘導溝(例えば、実施形態の樹脂誘導溝20)を形成する工程と、各前記スロット内に中子(例えば、実施形態の中子50)を配置する工程と、前記樹脂誘導溝を通して前記中子と前記ステータコアの間の隙間にモールド樹脂を充填する工程と、含むことを特徴とする。
【0015】
上記の工程により、溶融したモールド樹脂が樹脂誘導溝を通してステータコアの壁と中子の間を安定して流動するようになる。このため、ステータコアの壁と中子の間に充填されるモールド樹脂は軸方向に均一厚みとなり易い。したがって、上記の工程によって製造されたモールド樹脂層には、破断や強度的に弱い部分ができにくくなる。
【0016】
上記のステータの製造方法は、さらに、前記モールド樹脂が固化した後に前記中子を取り出す工程と、前記モールド樹脂が固化して形成された前記モールド樹脂層の内側空間に複数の前記コイルの前記スロット挿通部を挿入する工程と、を含むようにしても良い。
【0017】
この場合、ステータコアの各ティースに複数のコイルを巻回したステータを容易に製造することが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ステータコアのスロットに臨む壁に可及的均一にモールド樹脂層を被着させることができ、延いてはエネルギーの効率化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態のステータを縦断面にして示した回転電機の概略構成図。
図2】実施形態の回転電機の一部を破断した斜視図。
図3】実施形態のステータの図2のII部に対応する断面図。
図4】実施形態のコイルの詳細な斜視図。
図5】実施形態のステータの製造方法を(a),(b),(c)に分けて示した断面図。
図6】他の実施形態1のステータの図2のII部に対応する断面図。
図7】他の実施形態2のステータの図2のII部に対応する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下で示す各実施形態では、共通部分に同一符号を付し、重複する説明を一部省略するものとする。
【0021】
<回転電機>
図1は、本実施形態のステータ1を備えた回転電機100の概略構成図である。図1では、ステータ1を含む回転電機100の一部が縦断面にして示されている。図2は、一部を破断して示した回転電機100の斜視図である。
回転電機100は、図2に示すように、ステータ1が回転電機ケース101の内部に収容されている。ステータ1は、円筒状のステータコア2と、ステータコア2に巻回される複数のコイル3と、を備えている。ステータコア2の径方向内側には、図示しないロータが回転可能に配置されている。ロータはステータ1とともに回転電機100の主要部を構成している。ロータには、永久磁石が設けられている。
以下の説明では、ロータの回転軸線Cと平行な方向を軸方向と称し、ロータの回転方向を周方向と称し、軸方向及び周方向に直交するロータの径方向を径方向と称する。
【0022】
図1に示すように、ステータコア2の軸方向の一端側と他端側には、円環状の第1カバー部90と第2カバー部91が配置されている。図1では、詳細な図示は省略されているが、第1カバー部90と第2カバー部91の一部は、回転電機ケース101によって形成されている。第1カバー部90は、ステータコア2の軸方向の一方の端面と、その端面から突出したコイル3の露出部分を外側から覆っている。第1カバー部90は、ステータコア2との間に円環状の上流側液室92を形成している。第1カバー部90には、上流側液室92に冷却液70を導入するための導入ポート93が形成されている。導入ポート93は、冷却液70の循環回路71に接続されている。上流側液室92に導入された冷却液70は、ステータコア2の一方の端面から突出したコイル3の露出部分を冷却した後に、ステータコア2の内部を通過してステータコア2の軸方向の他端側に流れ込む。
【0023】
第2カバー部91は、ステータコア2の軸方向の他方の端面と、その端面から突出したコイル3の露出部分を外側から覆っている。第2カバー部91は、ステータコア2との間に円環状の下流側液室94を形成している。下流側液室94には、上流側液室92の冷却液70がステータコア2の内部を通って流入する。下流側液室94に導入された冷却液70は、ステータコア2の他方の端面から突出したコイル3の露出部分を冷却する。第2カバー部91には、下流側液室94内の冷却液70を外部に排出するための排出ポート95が形成されている。排出ポート95は、冷却液70の循環回路71に接続されている。下流側液室94内でコイル3を冷却した冷却液70は、排出ポート95から循環回路71に戻される。
【0024】
循環回路71は、回路途中に送給ポンプPが接続されている。循環回路71のうちの送給ポンプPの上流側には、外気との熱交換によって冷却液70を冷却する熱交換器OCが接続されている。送給ポンプPの下流側は導入ポート93に接続されている。また、循環回路71のうちの熱交換器OCの上流側は排出ポート95に接続されている。
なお、熱交換器OCは、空冷によって冷却液70を冷却するものに限定されるものではなく、他の冷却回路中の冷媒(冷却液等)との間で熱交換を行うことによって冷却液70を冷却するものであっても良い。また、図1では、導入ポート93が第1カバー部90(上流側液室92)の上部側領域に配置され、排出ポート95が第2カバー部91(下流側液室94)の下部側領域に配置されている。しかし、導入ポート93を第1カバー部90(上流側液室92)の下部側領域に配置し、排出ポート95を第2カバー部91(下流側液室94)の上部側領域に配置するようにしても良い。この場合、回転電機ケース101の内部に流入し、若しくは内部で発生したエアを排出ポート95から良好に外部に排出することが可能になり、エアの排出性の観点からは望ましい。
【0025】
<ステータコア>
ステータコア2は、例えば複数の電磁鋼板を軸方向に積層することにより形成されている。ステータコア2は、図2に示すように、円筒状のバックヨーク4と、バックヨーク4の内周部から径方向内側に突出する複数のティース5と、が一体成形されている。バックヨーク4は、円筒中心が回転軸線Cと合致するように形成されている。バックヨーク4の外周面には、複数の取付座6が径方向外側に突出している。取付座6は、回転電機ケース101にボルト締結されている。ステータコア2は、これによって回転電機ケース101に固定されている。
【0026】
図3は、図2のIII部の拡大図である。なお、図3では、理解を容易にするため円弧状のステータコア2の内周縁部を直線状に延ばして記載している。
図3に示すように、ティース5は、周方向に間隔(例えば、等間隔)を空けて配置されている。ティース5は、軸方向からみてT字状に形成されている。即ち、ティース5は、バックヨーク4の内周部から径方向内側に突出するティース本体15と、ティース本体15における径方向の内側端から周方向両側に張り出す鍔部16と、が一体成形されている。
【0027】
周方向で隣り合うティース5の間には、径方向内側が開口したスロット7が形成されている。スロット7は、隣り合うティース5の相互に対向する側壁5sと、バックヨーク4の内周壁4aとに囲まれて形成されている。各ティース5の側壁5sは、ティース本体15の側部と鍔部16の側部によって形成されている。スロット7のうちの、左右のティース本体15の側部によって形成される部分は略一定幅とされている。また、スロット7のうちの、左右の鍔部16の側部によって形成される部分の幅は、左右のティース本体15の側部によって形成される部分の幅よりも狭まっている。
【0028】
ステータコア2の各スロット7に臨む部分の壁には、絶縁性の樹脂材から成るモールド樹脂層8が被着されている。モールド樹脂層8は、スロット7に臨む各ティース5の側壁5sと、バックヨーク4の内周壁4aとに被着されている。モールド樹脂層8は、ステータコア2を樹脂モールドすることによって形成されている。モールド樹脂層8は、各スロット7に挿通されるコイル3(後述するセグメント導体12)とステータコア2との間を電気的に絶縁する。
【0029】
本実施形態の場合、ステータコア2のスロット7に臨む壁は、ティース5の側壁5sとバックヨーク4の内周壁4aによって構成されている。また、本実施形態ではモールド樹脂層8の一部は、隣り合うティース5の鍔部16間を閉塞している。したがって、各スロット7の内側からステータコア2の径方向内側への冷却液70の漏出は、モールド樹脂層8によって規制されている。以下、モールド樹脂層8のうちのティース5の鍔部16間を閉塞する部分を「漏出規制部8a」と称する。
本実施形態のモールド樹脂層8は、スロット7内からの冷却液70の漏出を抑制する密閉層を兼ねている。
【0030】
<コイル>
図4は、コイル3の詳細な斜視図である。
コイル3は、例えばU相、V相、W相の3相構造である。コイル3は、例えば複数のセグメントコイル10が互いに連結されて構成されている。セグメントコイル10は、芯線が絶縁被膜によって覆われている。セグメントコイル10は、例えば平角線である。即ち、各セグメントコイル10における径方向に沿う断面形状は、長方形状に形成されている。
【0031】
各セグメントコイル10は、2つのセグメント導体12と、2つのセグメント導体12における軸方向の第1端部12a同士に跨る第1コイルエンド部13と、2つのセグメント導体12における第1端部12aとは軸方向で反対側の第2端部12bからそれぞれ延出する2つの第2コイルエンド部14と、を有する。2つのセグメント導体12は、軸方向に互いに平行に延びている。これらのセグメント導体12は、モールド樹脂層8の上から所定のスロット7に挿通される。
本実施形態では、コイル3の各セグメント導体12が、ステータコア2のスロット7に挿通されるスロット挿通部を構成している。
【0032】
第1コイルエンド部13は、ステータコア2における軸方向の第1端部12a上に配置されている。第2コイルエンド部14は、ステータコア2における第1端部12aとは軸方向で反対側の第2端部12bから軸方向外側に引き出されている。第2コイルエンド部14の端部は、芯線が露出している。各第2コイルエンド部14のうち、一方の第2コイルエンド部14は、別のセグメントコイル10の第2コイルエンド部14に例えばTIG溶接やレーザ溶接等により接合される。他方の第2コイルエンド部14は、さらに別のセグメントコイル10の第2コイルエンド部14に接合される。これにより、複数のセグメントコイル10が順次連結されている。
【0033】
図3に示すように、同一のスロット7に挿通される複数のセグメント導体12は、径方向に沿って一列に配列されている。本実施形態では、同一のスロット7に、例えば5本のセグメント導体12が挿通される。しかしながら、同一のスロット7に挿通されるセグメント導体12の本数はこれに限定されるものではなく、任意に設定することができる。
【0034】
同一のスロット7に配列された複数のセグメント導体12の周域は、モールド樹脂層8によって囲まれている。ここで、複数のセグメント導体12が配列された各スロット7の内部には、ステータコア2の軸方向の一端側と他端側に連通する隙間dが確保されている。隙間dは、例えば、モールド樹脂層8の内周面と、複数のセグメント導体12の間に形成される。この隙間dは、図1に示す上流側液室92と下流側液室94を導通させる隙間であり、上流側液室92内に導入された冷却液70を下流側液室94側に流すように機能する。また、冷却液70は、各スロット7内の隙間dを通過する際に、各コイル3のセグメント導体12の熱を吸熱する。
【0035】
<樹脂誘導溝>
ステータコア2の複数のティース5は、図3に示すように、隣り合うティース5の相互に対向する側壁5sに樹脂誘導溝20が形成されている。樹脂誘導溝20は、各ティース5の側壁5sの軸方向の一端部から他端部に向かって軸方向に沿って直線状に延出している。樹脂誘導溝20は、各側壁5sの延出方向(径方向)の略中央部に形成されている。本実施形態では、樹脂誘導溝20は、半円状の断面形状に形成されている。ただし、樹脂誘導溝20の断面形状はこれに限定されるものではなく、矩形形状等の他の形状であっても良い。
【0036】
各ティース5の側壁5sに形成された樹脂誘導溝20には、モールド樹脂層8の一部が受容されている。モールド樹脂層8は、モールド成形時に、溶融したモールド樹脂が軸方向の一端部側から流入する。モールド成形を行うための図示しない金型は、各ティース5の樹脂誘導溝20に対し、溶融したモールド樹脂が軸方向の一端部側から流入するようにゲートが設定されている。
【0037】
<ステータの製造方法>
図5は、ステータ1の製造方法を示す図3とほぼ同部位の断面図である。図5では、ステータ1の製造方法を(a),(b),(c)の順で示している。
ステータ1は、以下のようにして製造することができる。
【0038】
[溝形成工程]
ステータコア2の各ティース5の側壁5sには、軸方向の一端部から他端部に向かって軸方向に沿って延びる樹脂誘導溝20を形成しておく。
【0039】
[中子セット工程]
ステータコア2をモールド成形用の金型にセットし、図5(a)に示すように、ステータコア2の各スロット7内に中子50を配置する。中子50は、スロット7よりも一回り小さい正面視が略長方形状のブロックによって形成されている。中子50は、ティース5の側壁5sやバックヨーク4の内周壁4aとの間にほぼ均等な隙間40ができるように各スロット7内に配置される。
【0040】
[樹脂充填工程]
この後、中子50の周域の隙間40に対し、各ティース5の樹脂誘導溝20を通してモールド樹脂を充填する。このとき、隙間40に充填されるモールド樹脂の少なくとも一部は、各ティース5の側壁5sに軸方向に沿って形成された樹脂誘導溝20の内部を流動する。このため、隣り合うティース5の各側壁5sと中子50の間には一定以上の隙間40が確保される。この結果、図5(b)に示すように、隣り合うティース5の各側壁5sには安定した厚みのモールド樹脂層8が確実に被着される。
【0041】
[中子の取り出し工程]
隙間40に充填されたモールド樹脂が固化してモールド樹脂層8が形成された後、モールド成形用の金型を開き、モールド樹脂層8から中子50を取り出す。
【0042】
[コイル挿通工程]
この後、図5(c)中に仮想線で示すように、モールド樹脂層8の内側空間に複数のコイル3のセグメント導体12(スロット挿通部)を軸方向から挿通する。
【0043】
[結線工程]
この後、隣接するセグメントコイル10の端部をステータコア2の軸方向の一端側で相互に結線する。
【0044】
<実施形態の効果>
以上のように本実施形態のステータ1は、スロット7に臨むステータコア2の壁(側壁5s)に、軸方向の一端部から軸方向に沿って延び、モールド樹脂層8の一部を受容する樹脂誘導溝20が形成されている。このため、モールド樹脂層8の一部が樹脂誘導溝20内に受容されることにより、モールド樹脂層8がステータコア2の壁(側壁5s)に強固に固定され、かつ、ステータコア2の壁(側壁5s)により密着し易くなる。
【0045】
さらに、本実施形態のステータ1は、上記の構成であることから、以下の工程を含む製造方法を採用することができる。
(1)ステータコア2の壁(側壁5s)に、軸方向の端部から軸方向に沿って延びる樹脂誘導溝20を形成する工程。
(2)各スロット7内に中子50を配置する工程。
(3)樹脂誘導溝20を通して中子50とステータコア2の間の隙間40にモールド樹脂を充填する工程。
このため、ステータ1の製造時には、溶融したモールド樹脂が、軸方向に沿う樹脂誘導溝20を通してステータコア2の壁(側壁5s)と中子50の間を安定して流動する。このようにしてステータコア2の壁(側壁5s)と中子50の間に充填されるモールド樹脂は軸方向に均一厚みとなり易いため、モールド樹脂層8には、破断や強度的に弱い部分ができにくくなる。
したがって、本実施形態のステータ1を採用した場合には、ステータコア2のスロット7に臨む壁(側壁5s)に可及的均一にモールド樹脂層8を被着させることができ、延いてはエネルギーの効率化に寄与することができる。
【0046】
また、本実施形態のステータ1は、スロット7に臨むステータコア2の壁のうちの、隣り合うティース5の相互に対向する側壁5sに、軸方向に沿う樹脂誘導溝20が形成されている。このため、隣り合うティース5の対向する側壁5sに設けられた各樹脂誘導溝20にモールド樹脂層8が強固に固定されるとともに、その各側壁5sにモールド樹脂層8がより密着するようになる。
【0047】
さらに、本実施形態のステータ1は、上記の構成を採用したことにより、ステータコア2のモールド成形時に、モールド樹脂が隣り合うティース5の側壁5sの樹脂誘導溝20を通して、各ティース5の側壁5sと中子50の間を安定して流動する。このとき、充填されるモールド樹脂は中子50の両側方を軸方向に沿って同様に流れるため、中子50が片側のティース5の側壁5sに偏って近接する事象が生じにくくなる。したがって、本構成を採用した場合には、ティース5の側壁5sに均一にモールド樹脂層8が被着され易くなり、モールド樹脂層8に破断や強度的に弱い部分がより生じにくくなる。
【0048】
また、本実施形態のステータ1は、樹脂誘導溝20がステータコア2の相互に対向する側壁5sのうちの、延出方向(径方向)の略中央部に形成されている。このため、ステータコア2のモールド成形時には、相互に対向する側壁5sの樹脂誘導溝20を通して、モールド樹脂が中子50の両側方の重心位置近くを流動することになる。このため、中子50が片側のティース5の側壁5sに偏って近接する事象の発生をより有効に防止することができる。
【0049】
また、本実施形態のステータ1は、ステータコア2のスロット7を冷却液の流路の一部として用いる回転電機100に用いられ、モールド樹脂層8は、冷却液70がスロット7から径方向内側に漏れるのを抑制する密閉層を兼ねている。上述のようにモールド樹脂層8は、製造時に破断箇所や強度的に弱い部分ができにくいため、各スロット7内のセグメント導体12(スロット挿通部)の周域を流れる冷却液が、ロータの配置される径方向内側に漏出するのを確実に抑制することができる。したがって、本実施形態のステータ1を採用した場合には、ステータ1とロータの間のエアギャップに冷却液が流入することによってロータの回転が妨げられるのを防止することができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、ステータ1の製造に際して、上述の(1),(2),(3)の工程の後に、以下の(4),(5)の工程を行う。
(4)モールド樹脂が固化した後に中子50を取り出す工程。
(5)モールド樹脂が固化して形成されたモールド樹脂層8の内側空間に複数のコイル3のセグメント導体12(スロット挿通部)を挿入する工程。
このため、上述のようにステータコア2のスロット7に臨む壁(側壁5s)に可及的均一にモールド樹脂層8を被着させることができるうえ、ステータコア2の各ティース5に複数のコイル3を巻回したステータ1を容易に製造することができる。
【0051】
<他の実施形態1>
図6は、他の実施形態1のステータ101の図2のII部に対応する断面図である。
本実施形態のステータ101は、基本的な構成は上記の実施形態とほぼ同様であるが、隣り合うティース5の相互に対向する側壁5sに形成される樹脂誘導溝20の位置が上記の実施形態と異なっている。
すなわち、上記の実施形態では、隣り合うティース5の相互に対向する側壁5sのうちの、延出方向(径方向)の略中央部に樹脂誘導溝20が形成されているが、本実施形態のステータ101では、樹脂誘導溝20が側壁5sの径方向の中央位置cdよりも径方向外側の端部近傍位置に形成されている。
【0052】
各ティース5に形成される樹脂誘導溝20は、軸方向視でティース5の幅を部分的に狭めることになる。そして、軸方向視でのティース5の幅が狭められると、ティース5を軸方向に沿って流れる磁束の通路の断面(磁路断面)が減少する。このため、樹脂誘導溝20が、相互に対向する側壁5sの径方向内側に近接した位置に配置されると、ティース5上における樹脂誘導溝20の形成される部分が磁束飽和の原因箇所となり易くなる。これに対し、本実施形態のステータ101では、樹脂誘導溝20がティース5の径方向の中央位置cdよりも径方向外側の端部近傍位置に配置されているため、樹脂誘導溝20の形成される部分は磁束飽和の原因箇所とはならない。
【0053】
つまり、各ティース5(ティース本体15)は、図6に示すように、軸方向から見たときの幅が径方向外側に向かって漸増している。このため、樹脂誘導溝20をより径方向外側に配置した方が、樹脂誘導溝20がティース5上の磁束通路(磁路断面)を狭めにくくなる。なお、図6中のd0は、樹脂誘導溝20をティース5の径方向の中央位置cdに配置したときの磁路幅であり、d1は、樹脂誘導溝20をティース5の径方向の外側端の近傍に配置したときの磁路幅である。
したがって、本構成を採用した場合には、回転電機の磁気特性をより高めることができる。
【0054】
<他の実施形態2>
図7は、他の実施形態2のステータ201の図2のII部に対応する断面図である。
本実施形態のステータ201は、基本的な構成は上記の各実施形態とほぼ同様であるが、相互に対向する側壁5sに形成される樹脂誘導溝20の配置の仕方が上記の各実施形態と異なっている。
すなわち、上記の実施形態では、対向する二つの側壁5sの径方向の同位置に樹脂誘導溝20が形成されているが、本実施形態のステータ201では、図7に示すように一方の側壁5sに形成する樹脂誘導溝20の位置と他方の側壁5sに形成する樹脂誘導溝20の位置を径方向にずらしている。このため、各ティース5における二つの樹脂誘導溝20間の磁路幅d2が充分に大きく確保され、樹脂誘導溝20の形成される部分は磁束飽和の原因箇所とはならない。なお、本実施形態の場合、一方の側壁5sに形成される樹脂誘導溝20は、ティース5の径方向の中央位置に形成され、他方の側壁5sに形成される樹脂誘導溝20は、ティース5の径方向の中央位置よりも外側に形成されている。
したがって、本構成を採用した場合にも、回転電機の磁気特性をより高めることができる。
【0055】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、セグメントコイル10として平角線を採用しているが、セグメントコイル10は平角線に限定されない。セグメントコイル10は丸線であっても良い。
【0056】
また、上記の実施形態では、樹脂誘導溝20が隣り合うティース5の相互に対向する側壁5sに形成されている。しかし、樹脂誘導溝20を設ける部位はこれに限定されない。樹脂誘導溝20を設ける部位は、ステータコア2上のスロット7に臨む壁であれば良く、例えば、バックヨーク4の内周壁4aに設けることも可能である。
【0057】
また、上記の実施形態では、ステータコア2のスロット7を冷却液の流路の一部として用いているが、本発明に係るステータは、スロット7を冷却液の流路として用いない電動機にも採用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1,101,201…ステータ
2…ステータコア
3…コイル
4a…内周壁(壁)
5…ティース
5s…側壁(壁)
7…スロット
8…モールド樹脂層
12…セグメント導体(スロット挿通部)
20…樹脂誘導溝
50…中子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7