(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118541
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】放射線検出器、放射線測定装置および放射線検出器の設定方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/17 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
G01T1/17 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024871
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110004107
【氏名又は名称】弁理士法人Kighs
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】柳原 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】井上 朋直
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 保孝
(72)【発明者】
【氏名】中江 保一
(72)【発明者】
【氏名】作村 拓人
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA27
2G188BB02
2G188BB04
2G188BB05
2G188BB06
2G188BB09
2G188CC28
2G188DD04
2G188DD05
2G188EE12
2G188EE17
(57)【要約】
【課題】カウンタの切り換え時に単一のパルスを複数のカウンタで重複して検出するダブルカウントを抑制し、高確度なデータを取得できる放射線検出器、放射線測定装置および放射線検出器の設定方法を提供する。
【解決手段】連続露光で放射線を検出できる放射線検出器100であって、放射線の粒子が検出されたときにパルスを発生させるセンサ110と、パルスを計数可能に設けられた複数のカウンタ140a、140bと、複数のカウンタ140a、140bのいずれもオフにするオフ時間の設定を保持する設定保持回路150と、トリガ信号に対し、設定されたオフ時間後にパルスを計数するカウンタを切り換える制御回路160と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続露光で放射線を検出できる放射線検出器であって、
放射線の粒子が検出されたときにパルスを発生させるセンサと、
パルスを計数可能に設けられた複数のカウンタと、
複数のカウンタのいずれもオフにするオフ時間の設定を保持する設定保持回路と、
トリガ信号に対し、設定されたオフ時間後にパルスを計数するカウンタを切り換える制御回路と、を備えることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
前記オフ時間は、時定数であることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器。
【請求項3】
連続露光で放射線を検出できる放射線検出器であって、
放射線の粒子が検出されたときにパルスを発生させるセンサと、
パルスを計数可能に設けられた複数のカウンタと、
トリガ信号に対し、パルスを計数するカウンタを切り換える制御回路と、を備え、
入射光子数に対する検出光子数が、放射線源に基づいて特定される理論曲線に乗ることを特徴とする放射線検出器。
【請求項4】
1次元または2次元検出器であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の放射線検出器。
【請求項5】
連続露光で放射線を測定できる放射線測定装置であって、
連続して放射線を照射する放射線源と、
試料を保持する試料保持部と、
請求項1または請求項2記載の放射線検出器と、を備えることを特徴とする放射線測定装置。
【請求項6】
連続露光で放射線を検出する放射線検出器の設定方法であって、
放射線検出器が有する複数のカウンタのいずれもオフにするオフ時間を設定する入力を受け付けるステップと、
前記入力された設定を前記放射線検出器に保持させるステップと、を含むことを特徴とする放射線検出器の設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続露光で放射線を検出できる放射線検出器、放射線測定装置および放射線検出器の設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のカウンタの切り換えによる連続露光を可能にする放射線検出器が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の放射線検出器は、トリガ信号を受けたときにカウンタを切り換えることで、検出データの読み込みで生じていたデッドタイムを解消し、連続露光を実現している。
【0003】
しかしながら、ゼロデッドモードの連続露光で測定をした際には、単一のパルスが閾値を超える時間(時定数)に一定の幅があり、その時間にカウンタの切り換えが生じると放射線検出器に入ってきた一個の光子を二個分でカウントする(例えば、非特許文献1参照)。このダブルカウントの現象によって、実際の入射X線光子数よりも多い数がカウントされて誤差が生じる。
【0004】
非特許文献1では、連続露光時に検出された光子数が入射光子に対する検出光子を示す理想的な曲線から外れ、特に、露光時間を短くした場合にダブルカウントによる誤差が顕著になるという現象が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Johannes Moller, Mario Reiser et al., “Implications of disturbed photon-counting statistics of Eiger detectors for X-ray speckle visibility experiments”, Journal of synchrotron radiation, Accepted 4 May 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、ゼロデッドモードではデジタル回路のカウンタを切り替えるタイミングにおいて、ダブルカウントが生じる。
図10は、ダブルカウントの発生例を示すタイミングチャートである。
図10では、カウンタ回路に入ったパルスの波高、そのパルスを計数する各カウンタのオン/オフ、およびカウンタでの計数を表している。
【0008】
図10に示すように、従来の放射線検出器において、パルスP01がカウンタC01のみに入った場合には、カウンタC01は1を計数する。しかし、カウンタ切換えのタイミングで、パルスP02がカウンタC01、C02に入った場合には、カウンタC01、C02のそれぞれが1を計数し、合計で2を計数する。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、カウンタの切り換え時に単一のパルスを複数のカウンタで重複して検出するダブルカウントを抑制し、高確度なデータを取得できる放射線検出器、放射線測定装置および放射線検出器の設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の放射線検出器は、連続露光で放射線を検出できる放射線検出器であって、放射線の粒子が検出されたときにパルスを発生させるセンサと、パルスを計数可能に設けられた複数のカウンタと、複数のカウンタのいずれもオフにするオフ時間の設定を保持する設定保持回路と、トリガ信号に対し、設定されたオフ時間後にパルスを計数するカウンタを切り換える制御回路と、を備えることを特徴としている。
【0011】
(2)また、上記(1)記載の放射線検出器において、前記オフ時間は、時定数であることを特徴としている。
【0012】
(3)また、本発明の放射線検出器は、連続露光で放射線を検出できる放射線検出器であって、放射線の粒子が検出されたときにパルスを発生させるセンサと、パルスを計数可能に設けられた複数のカウンタと、トリガ信号に対し、パルスを計数するカウンタを切り換える制御回路と、を備え、入射光子数に対する検出光子数が、放射線源に基づいて特定される理論曲線に乗ることを特徴としている。
【0013】
(4)また、上記(1)から(3)のいずれかに記載の放射線検出器において、1次元または2次元検出器であることを特徴としている。
【0014】
(5)また、本発明の放射線測定装置は、連続露光で放射線を測定できる放射線測定装置であって、連続して放射線を照射する放射線源と、試料を保持する試料保持部と、上記(1)から(3)のいずれかに記載の放射線検出器と、を備えることを特徴としている。
【0015】
(6)また、本発明の放射線検出器の設定方法は、連続露光で放射線を検出する放射線検出器の設定方法であって、放射線検出器が有する複数のカウンタのいずれもオフにするオフ時間を設定する入力を受け付けるステップと、前記入力された設定を前記放射線検出器に保持させるステップと、を含むことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】放射線検出器の動作を示すフローチャートである。
【
図3】ダブルカウントの抑制例を示すタイミングチャートである。
【
図4】数え落しの抑制例を示すタイミングチャートである。
【
図9】放射線検出器の設定時の構成を示す概略図である。
【
図10】ダブルカウントの発生例を示すタイミングチャートである。
【
図11】(a)、(b)いずれも比較例のXPCS測定結果を示すグラフである(それぞれバーストモードおよびゼロデッドモード使用)。
【
図12】(a)、(b)いずれも実施例のXPCS測定結果を示すグラフである(それぞれバーストモードおよびゼロデッドモード使用)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
[放射線検出器の構成]
図1は、放射線検出器100の構成を示す概略図である。放射線検出器100は、トリガ信号に同期させてカウンタを切り換え、連続露光で放射線を検出できる検出器である。放射線検出器100は、0次元~2次元のデータバッファ機能を持つ半導体検出器であるが、1次元または2次元検出器であることが好ましい。検出対象となる放射線は、X線である場合に機能を発揮しやすいが、これに限定されずα線、β線、γ線、中性子線等であってもよい。
【0019】
放射線検出器100は、センサ110、ゲート115、検出回路120、切換え回路130、第1のカウンタ140a、第2のカウンタ140b、設定保持回路150、制御回路160および読み出し回路170を備えている。
【0020】
センサ110は、放射線の粒子が検出されたときにパルスを発生させる。センサ110は、放射線の粒子が検出されたときにパルスを発生させる。センサ110は、受光面に入射するX線束の強度を、面情報として検出できる。
【0021】
ゲート115は、パルスの伝達に対し、電子シャッタにより開閉される。ゼロデッドモードでは、ゲート115は常に開放され、露光時間が連続する。アナログ回路を遮断すると安定するまで復帰時間が必要になるため、ゲート115の開閉は利用しない。なお、アナログ回路はゲート115より前段にあり、デジタル回路は後段にある。
【0022】
検出回路120は、パルスが基準値より高いか否かを判定し、高い場合には電圧信号として複数のカウンタ140a、140bのうち計数中のカウンタへ送出する。切換え回路130は、制御回路160のカウンタ切換え信号を受けたときには電圧信号を計数するカウンタを切り換える。
【0023】
カウンタ140a(第1のカウンタ)およびカウンタ140b(第2のカウンタ)は、それぞれ同等の機能を有し、パルスを計数可能に設けられている。
図1に示す例では、2つカウンタが設けられているが、3以上設けられていてもよい。カウンタの切り換えにより、デッドタイムなしで露光を維持できる。
【0024】
設定保持回路150は、複数のカウンタのいずれもオフにするオフ時間の設定を保持する。オフ時間は、放射線検出器100が有する複数のカウンタのいずれもオフにする時間である。オフ時間は、時定数であることが好ましい。これにより、複数のカウンタにおいてパルスが閾値を超える時間が重複しないため、ダブルカウントを抑制しつつ数え落しも抑制できる。このようにして、高速で高確度なデータを取得できる。なお、閾値は、放射線検出器100の提供者によって予め設定される。
【0025】
時定数とは、パルスの波高が閾値を超える時間である。時定数は、厳密にはピクセルごとに決まる。ここでいう時定数には、ピクセルごとの時定数だけでなく、グローバルな時定数(全検出面にわたる平均値等の統計値)も含む。時定数は、上記の定義で決まる一点の数値ではなく、統計値を中心とし、全ピクセルに対する標準偏差またはダブルカウントの誤差が統計誤差内に収まる程度の幅を有していることが好ましい。
【0026】
制御回路160は、外部機器から受けた信号または内部で発生させたトリガ信号に同期させて、設定されたオフ時間後に複数のカウンタの中でパルスを計数するカウンタを切り換える。具体的には、トリガ信号に応じて、計数を行っている側の一方のカウンタの計数を終了させ、設定保持回路150で設定が保持されたオフ時間を開始させる。そして、オフ時間の終了後、他方のカウンタの計数を開始させる。
【0027】
これにより、連続的に放射線が入射する露光状態を維持しデッドタイムを生じさせずに放射線を検出できる。そして、カウンタの切り換え時に単一のパルスを複数のカウンタで重複して検出するダブルカウントを抑制できる。なお、外部機器から受ける信号としては、例えば、アームの位置または試料の位置の変更の際における時間または位置を特定する信号が挙げられる。なお、試料とは解析対象の意味であり、試料には製品も含まれる。
【0028】
読み出し回路170は、トリガ信号の発生タイミング間において、直前に計数を終えたカウンタから計数値を読み出す。カウンタが計数を終えオフ時間に入るタイミングでそのカウンタから計数値を読み出すのが好ましい。一方のカウンタのオフ時間中および稼働中に他方のカウンタから計数を読み出し、他方のカウンタは、次の切換えに向けて計数の開始を準備できる。カウンタの計数値を早期に読み終えることで、早い段階でカウンタを計数可能な状態に戻すことができる。
【0029】
放射線検出器100は、1次元または2次元検出器であることが好ましい。0次元検出器では、隣接するピクセルが存在せずチャージシェアリングが生じない。このような場合には、ダブルカウント抑制の方法として閾値を上げて時定数を小さくするという選択肢もありうる。これに対し、1次元または2次元検出器では、閾値を上げてしまうとチャージシェアリング分を計数できず不感領域を作ってしまう。本発明では、1次元または2次元検出器でもカウンタ切換え時にオフ時間を設けることで、不感領域を作ることなくダブルカウントを抑制できる。
【0030】
[放射線検出器の動作]
上記のように構成された放射線検出器100の動作を説明する。
図2は、放射線検出器の動作を示すフローチャートである。まず、ゼロデッドモードで試料に対して放射線を照射する(ステップS1)。検出面に入った放射線の粒子がセンサ110により検出されるとパルスが発生する。最初に、一方のカウンタで放射線の計測を開始する(ステップS2)。パルスは、一方のカウンタで計数される。
【0031】
そして、外部または内部のトリガ信号を受信した際には、制御回路160により一方のカウンタにパルスの計数を終了させ、読み出し回路170は、計数を終了したカウンタから計数データの読み出しを開始する(ステップS3)。そして、同時にオフ時間を開始する(ステップS4)。オフ時間においてはいずれのカウンタも計数しない。
【0032】
オフ時間の終了後、他方のカウンタでパルスの計数を開始する(ステップS5)。他方のカウンタは計数を維持している間に、先に計数を終了した一方のカウンタからの計数データの読み出しが完了する(ステップS6)。
【0033】
その後、放射線検出器100を用いている放射線測定装置は、測定が終了したか否かを判定し(ステップS7)、測定が終了していない場合には、ステップS3に戻り、トリガ信号を待ってカウンタを切り換える。このように、測定が終わるまでステップS3~ステップS7までを繰り返す。一方、ステップ7で測定が終了したと判断された場合には、計数を終了し、測定を終える。
【0034】
このような放射線検出器100の動作により、ダブルカウントが抑制され、単一のカウンタで1枚露光したときのカウント数I1と複数のカウンタの切り換えによる連続露光のカウント数INが一致する。これにより短い露光時間での連続露光において顕著に誤差を抑制できる。
【0035】
放射線がランダムなタイミングで入射し、かつパルスの重なりによる数え落としが無視できる場合を考える。単一のカウンタで1枚露光したときのカウント数I
1は露光時間T
1(s)と平均入射強度I
0(cps)をもちいて式(1)のように表せる。
【数1】
【0036】
次に複数のカウンタを切り替えて露光する場合を考える。T
expは1フレームの露光時間とすると、N枚撮影したときのカウント数I
Nは式(2)で表せる。
【数2】
【0037】
ここでT
1およびT
expを以下の関係式が成り立つように設定すると、合計の露光時間がどちらも同じとなるため、I
1とI
Nは一致するはずである。
【数3】
【0038】
しかしながら、カウンタ切り替え時にダブルカウントが生じるため、実際にはI
Nは式(4)のようになる。
【数4】
【0039】
τは検出器の時定数である。また、式(1)、(3)および(4)からI
1とI
N の比率が求まる。
【数5】
【0040】
この式から、ダブルカウントによる強度の増加分はτ/T
expだとわかる。T
expがτに比べて十分に長ければダブルカウントは少なく誤差は小さいが、T
expを短く設定するとダブルカウントする確率が増すため誤差が大きくなる。これを解決するために、本特許のようにカウンタの切り替え時にオフ時間T
offを設定した場合は、式(4)は以下のように書き換えることができる。
【数6】
【0041】
T
off=τとなるようにオフ時間を設定したとすると、式(6)は式(7)のようになる。
【数7】
【0042】
式(1)、(3)および(7)より式(8)が導出され、I
NとI
1は一致することが示された。
【数8】
【0043】
このように、オフ時間を入れることによりダブルカウントが抑制され、短時間露光の連続露光でも誤差の少ない測定が期待できる。入射光子数に対する検出光子数が、放射線源に基づいて特定される理論曲線に乗る。これにより、高強度の放射線源を用いた場合短時間露光の測定において特に顕著に誤差を抑制できる。
【0044】
理論曲線は、1ピクセルあたりで入射光子を計数する確率(X線強度)に対する、2カウントする確率の分布で表される。非特許文献1の
図3の最右図では、理論曲線がポアソン-ガンマ(PG)分布として実線で表されている。従来の放射線検出器では、高強度の放射線源を用いた場合短時間露光のときに理論曲線で与えられる数値よりもダブルカウントの確率が高くなることがあるが、本発明ではこのような事象を低減できる。特にピクセル当たりの検出される光子数が1×10
-4以上1×10
-2の範囲で、ダブルカウントを防止し、入射光子数に対する検出光子数が放射線源に基づいて特定される理論曲線に乗る。
【0045】
例えば、パルスの時定数τを100ns、1フレームの露光時間Texpを50μsと仮定し、X線がランダムなタイミングで入射すると仮定すると、ダブルカウントが生じる確率は以下の通り計算できる。
【数9】
【0046】
入射X線の平均強度Iを2Mcps、撮影枚数Nを10,000と仮定すると、真のカウント数は以下の通り計算できる。
【数10】
【0047】
一方、本手法を適用させない場合の推定カウント数は以下の通り計算できる。
【数11】
【0048】
この条件では、真のカウント数の平方根で計算される統計的な誤差(±1000counts)よりもダブルカウントによる誤差(+2000counts)が大きい。本発明はこのようなダブルカウントによる誤差が大きい場合に有効である。
【0049】
[ダブルカウントの抑制]
図3は、ダブルカウントの抑制例を示すタイミングチャートである。
図3では、カウンタ回路に入ったパルスの波高、そのパルスを計数する各カウンタのオン/オフ、およびカウンタでの計数を表している(
図4でも同様)。
【0050】
図3に示すように、放射線検出器100では、計数するカウンタがカウンタ140aとカウンタ140bとの間で切り換えられる結果、各フレームの露光時間(Exp time)が途切れることなく連続する。入射光子のパルス信号の時定数は、100ns程度であり、特に1フレームあたりの露光時間Exp timeを100μs以下に設定して測定する場合にダブルカウント抑制の効果が高い。
【0051】
カウンタ140aおよび140bでは、一方のカウンタの計数の終了後、オフ時間Taの間待った後、他方のカウンタで計数時間Tbが開始する。計数時間Tbでは、カウンタがオンになり、計数を行う。オフ時間Taと計数時間Tbとを足した時間は、従来の計数時間に相当する。オフ時間Taを設けることで、入射光子のパルス幅によりその分の時間も感度をもつことを防止する。
【0052】
このような動作をする放射線検出器100において、
図10の例と同様にパルスP11およびP12がカウンタに到達したとすると、パルスP12がオフになる直前のカウンタ140aに入り、カウンタ140aでのみ計数される。カウンタ140bがオンになるタイミングではパルスP12は閾値以下になるため、パルスP12はカウンタ140bでは計数されない。
【0053】
言い換えると、パルスP12が閾値を超える時間は、カウンタ140aの計数時間Tbと重複するため、カウンタ140aではパルスP12を計数する。しかし、オフ時間Taの存在により、パルスP12が閾値を超える時間は、カウンタ140bの計数時間Tbとは重複せず、カウンタ140bではパルスP12を計数しない。したがって、この場合、ダブルカウントは生じない。
【0054】
[数え落しの抑制]
図4は、数え落しの抑制例を示すタイミングチャートである。
図4に示すように、カウンタ140aおよび140bでは、一方のカウンタの計数の終了後、オフ時間Taの間待った後、他方のカウンタで計数時間Tbが開始する。オフ時間Taは、パルスの時定数に相当する。パルスの時定数は、例えば100ns程度である。
【0055】
このような動作をする放射線検出器100において、パルスP22がカウンタ回路に到達したとすると、パルスP22は、カウンタ140aがオフになってからカウンタ140bがオンになるまでにカウンタ回路に入る。この場合、時定数分の待ち時間の後カウンタ140bがオンになった際にパルスP22の波高はまだ閾値を超えているためカウンタ140bで計数される。
【0056】
言い換えると、パルスP22が閾値を超える時間は、カウンタ140aの計数時間Tbと重複しないため、カウンタ140aではパルスP22を計数しない。しかし、オフ時間Taがパルスの時定数で設定されているため、パルスP22が閾値を超える時間が、カウンタ140bの計数時間Tbと重複し、カウンタ140bではパルスP22を計数する。したがって、この場合、数え落しは生じない。このように、計数時間に隙間があるにもかかわらず、その隙間をパルスの時定数と等しく設定することで、数え落としのない測定を実現している。
【0057】
[応用例]
放射線検出器100は、特に短い露光時間を必要とするXPCS測定や超ファインスライスの単結晶構造解析などに好適である。高速測定が行われない場合には、ダブルカウントによる誤差は統計誤差に埋もれる。しかし、ゼロデッドモードでの高速測定が可能になると、この誤差が無視できないものになる。特に、ゼロデッドモードで露光時間を短くした場合にダブルカウントによる誤差が顕著になるため、ダブルカウントの抑制が重要になる。
【0058】
放射線検出器100は、放射線測定装置に搭載されることで、連続露光での放射線測定に利用できる。
図5は、放射線測定装置200の構成を示す概略図である。放射線測定装置200は、放射線源210、試料保持部220および放射線検出器100を備える。
【0059】
放射線源210は、連続して放射線を照射する。試料保持部220は、試料Sを保持する。放射線検出器100は、カウンタの切り換えによるダブルカウントや数え落しを抑制した測定を可能にする。これにより、単結晶構造解析やXPCSなどで高確度なデータを取得できる。
【0060】
図6は、複数フレームの撮像を示す概略図である。単結晶構造解析ではゴニオメータを動かしながら何枚も画像を撮影し、それを足し合わせることで解析を行う。1フレームのみの画像で解析をする場合にはダブルカウントは生じないが、これらを足し合わせて強度を計算するときに、従来法ではカウンタ切換えによるダブルカウントの影響により誤差が生じる。単結晶構造解析では強度が極めて大きな意味を持ち、誤差が大きくなると構造解析の精度が悪くなってしまう。本発明では、パイルアップした放射線強度がフレーム1枚の強度をN倍したものと等しくなるため、露光時間やパイルアップ枚数に応じた誤差を気にすることなく自由な設定で測定できるようになる。
【0061】
XPCS(X-ray Photon Correlation Spectroscopy)測定では、コーヒレントなX線を運動している粒子に入射させ散乱強度の時間変化(ゆらぎ)を測定する。速い粒子の運動をみるためには、露光時間を粒子のゆらぎの時間よりも短くする必要があるため、各フレームの散乱強度は必然的に小さくなる。また、コーヒレントなX線を用いる都合上、散乱強度はさらに小さくなる。したがって、XPCS測定ではフレーム1枚あたりの散乱強度が非常に小さくなる。
【0062】
そのため、XPCS測定では短時間露光で強度の低い条件でも誤差が小さいことが求められる。ダブルカウントが生じ、フレーム1枚の散乱強度が高くなると、その前後の画像とのコントラストが大きくなる(または小さくなる)。それに伴って、短い時間領域において誤差が顕著になり、粒子の速い運動を正確に測定することができなくなる。このような場合には、ダブルカウントや数え落しの誤差を抑制する本発明が特に有効になる。
【0063】
(単結晶結晶解析装置)
具体例として、放射線検出器100がX線分析装置に組み込まれた例を説明する。
図7は、放射線測定装置の一例としてX線分析装置300を示す平面図である。X線分析装置300は、回折X線像を撮影するための単結晶構造解析装置であり、X線源310、試料台320、アーム330、制御部および放射線検出器100を備えている。X線源310は、連続してX線を試料S0に照射している。
【0064】
放射線検出器100は露光状態のまま、ゴニオメータからの信号によって、測定すべき分量を制御し、そのゴニオメータ信号の同期ごとに測定データを出力することが可能である。連続露光により測定時間のスループットを改善するとともに、ダブルカウントや数え落しの誤差を抑制することができる。
【0065】
試料台320およびアーム330は、連動しており、制御部の制御により一定の速度で試料S0回りを回転させることができる。放射線検出器100は、アーム330の端部に設けられており、アーム330とともに試料S0回りの移動が制御されている。
【0066】
X線分析装置300は、上記のような放射線検出器100を有することで、例えば制御部からのアーム移動の制御信号をトリガ信号として、カウンタを切り換え、デッドタイムの無い連続露光でX線を計数することが可能である。
【0067】
(製造ライン)
図8は、放射線測定装置の一例としてX線分析装置400を示す側面図である。X線分析装置400は、X線による検査が可能な製造ラインであり、X線源410、ローラ420、ベルト425、制御部440および放射線検出器100を備えている。X線源410は、連続してX線を製品S1に照射している。
【0068】
ローラ420の回転によりベルト425が動き、図中矢印の方向に製品S1を移動させている、制御部440の制御によりベルト425は一定の速度で移動している。放射線検出器100は、ベルト425および製品S1を挟んでX線源410の反対側に設けられており、ベルト425とともに製品S1の移動が制御されている。
【0069】
X線分析装置400は、上記のような放射線検出器100を有することで、例えば制御部440からのベルト制御信号をトリガ信号として、カウンタを切り換え、デッドタイムの無い連続露光でX線を計数することが可能である。そして、その際には、ダブルカウントや数え落しの誤差を抑制することができる。
【0070】
[放射線検出器の設定]
放射線検出器100が機能するためには、カウンタの切り換え機構を有するだけでなく、オフ時間の設定が必要になる。オフ時間の設定には専門知識を有する作業者による設定が必要である。
【0071】
図9は、放射線検出器100の設定時の構成を示す概略図である。オフ時間を設定されずにユーザにより放射線検出器100が使用されている場合、提供者側の作業員が設定する。オフ時間の設定には、コンピュータ500を放射線検出器100に接続する必要がある。作業員は、コンピュータ500を操作することで放射線検出器100の回路内の設定を行う。
【0072】
まず、コンピュータ500は、放射線検出器100の設定画面を表示し、作業員からオフ時間を設定する入力を受け付ける。そして、コンピュータ500は、入力された設定を放射線検出器に保持させる。これにより、カウンタの切り換えにより連続露光が可能な放射線検出器にオフ時間を設定するアップデートを施し、ダブルカウントの抑制により高確度なデータの取得を可能にできる。
【0073】
[実施例]
従来の放射線検出器および本発明の放射線検出器100をそれぞれ用いて特定の試料に対してXPCS測定を行った。それぞれ比較例および実施例として測定結果が得られた。
図11(a)、(b)は、いずれも比較例のXPCS測定結果を示すグラフである(それぞれバーストモードおよびゼロデッドモード使用)。
図12(a)、(b)は、いずれも実施例のXPCS測定結果を示すグラフである(それぞれバーストモードおよびゼロデッドモード使用)。
【0074】
横軸は時間、縦軸はX線強度の時間変化から計算される相関関数を表している。
図11(a)、(b)に示す測定結果では、一番左側の点(丸で囲われた点)が大きく外れていることが分かる。この一番左側の点(最小時間)において値が外れる現象は、1つの入射光子がダブルカウントによって隣接する2フレームにまたがってパルスを計数することで生じる。
【0075】
XPCS測定では、X線強度の時間的な変化を正確に測定することが極めて重要である。カウンタ切り替え時にダブルカウントが生じたときには、常に隣接する2フレームにまたがってパルスを計数する。それによって、隣接するフレームの強度変化から計算される最小時間の点(≒Exp time)が真の値から大きく外れる。
【0076】
一方、本発明を適用した場合には、カウンタ切り替え時にX線が入射してもダブルカウントが生じないため、X線強度の時間的変化を正確にとらえることができる。そのため、
図12(a)、(b)に示すように、最小時間の点であっても値が外れることなく、正確な相関関数を求めることができる。すなわち相関関数のプロットが連続的になる。このように、本発明は極めて短い時間のX線強度変化を正確に測定したい場合にも非常に有効であることを実証できた。
【符号の説明】
【0077】
100 放射線検出器
110 センサ
115 ゲート
120 検出回路
130 切換え回路
140a 第1のカウンタ
140b 第2のカウンタ
150 設定保持回路
160 制御回路
170 読み出し回路
200 放射線測定装置
210 放射線源
220 試料保持部
300 X線分析装置
310 X線源
320 試料台
330 アーム
400 X線分析装置
410 X線源
420 ローラ
425 ベルト
440 制御部
500 コンピュータ
S、S0 試料
S1 製品
P01、P02、P11、P12、P21、P22 パルス
Ta オフ時間
Tb 計数時間