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特開2024-118543固体電解質二次電池用電極および固体電解質二次電池
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  • 特開-固体電解質二次電池用電極および固体電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118543
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】固体電解質二次電池用電極および固体電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240826BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240826BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240826BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240826BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024873
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 長
(72)【発明者】
【氏名】下羽 淳平
(72)【発明者】
【氏名】堀川 太輔
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA09
5H050HA01
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】初期充放電効率および放電レート特性の良好な固体電解質二次電池を形成できる固体電解質二次電池用電極、およびこれを含む固体電解質二次電池を提供する。
【解決手段】活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含み、前記導電助剤が、黒鉛化カーボンブラックを含む、固体電解質二次電池用電極とする。黒鉛化カーボンブラックが、ラマン分光スペクトル測定における1350cm-1~1370cm-1の範囲の非結晶質乱層構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(ID)と、1570cm-1~1620cm-1の範囲の黒鉛結晶質構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(IG)との比である黒鉛化度R値(ID/IG)が、0.2以上1.0以下であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含み、
前記導電助剤が、黒鉛化カーボンブラックを含む、固体電解質二次電池用電極。
【請求項2】
前記黒鉛化カーボンブラックが、ラマン分光スペクトル測定における1350cm-1~1370cm-1の範囲の非結晶質乱層構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(ID)と、1570cm-1~1620cm-1の範囲の黒鉛結晶質構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(IG)との比である黒鉛化度R値(ID/IG)が、0.2以上1.0以下である、請求項1に記載の固体電解質二次電池用電極。
【請求項3】
前記黒鉛化カーボンブラックが、X線回折法による(002)面のC軸方向の結晶子厚み寸法(Lc)が15nm未満である、請求項1に記載の固体電解質二次電池用電極。
【請求項4】
前記黒鉛化カーボンブラックを、0.5質量%~10質量%含有する、請求項1に記載の固体電解質二次電池用電極。
【請求項5】
前記固体電解質が、下記式(1)で表されるハライド系固体電解質を含む、請求項1に記載の固体電解質二次電池用電極。
・・・(1)
(式(1)において、Aは、Li、Cs、Naからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。Eは、Sc、Y、Zr、Sn、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。Gは、O、OH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOB、(COO)、N、AlCl、CFSO、CHCOO、CFCOO、OOC-(CH-COO、OOC-CH-COO、OOC-CH(OH)-CH(OH)-COO、OOC-CH(OH)-CH-COO、CSO、OOC-CH=CH-COO、OOC-CH=CH-COO、C(OH)(CHCOOH)COO、AsO、BiO、CrO、MnO、PtF、PtCl、PtBr、PtI、SbO、SeO、TeO、HCOO、CN、SCN、NOからなる群から選択される少なくとも1つの基である。Xは、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1を満たす。)
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の固体電解質二次電池用電極を備える、固体電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質二次電池用電極、およびこれを備える固体電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対し、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれており、電解質として固体電解質を用いる固体電解質二次電池が注目されている。従来、固体電解質二次電池の固体電解質として、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質、ハライド系固体電解質が知られている。
【0003】
特許文献1には、炭素材料と、固体電解質と、を混合してなるリチウム電池用負極合材が開示されている。さらに、特許文献1には、このリチウム電池用負極合材を含む、リチウム電池用負極、全固体リチウム電池が記載されている。特許文献1には、負極活物質として好ましい炭素材料として、ラマン分光スペクトルで測定される1350~1370cm-1の範囲の非結晶質乱層構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(I)と1570~1620cm-1の範囲の黒鉛結晶質構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(I)との比から求められる黒鉛化度R値(I/I)が、0.05以上0.30以下であり、かつ、X線回折法による(002)面のC軸方向の結晶子厚み寸法(Lc)が、150Å以上2000Å以下であるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-283344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の固体電解質二次電池では、初期充放電効率および放電レート特性をより一層向上させることが要求されている。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、初期充放電効率および放電レート特性の良好な固体電解質二次電池を形成できる固体電解質二次電池用電極、およびこれを含む固体電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
本発明の一態様に係る固体電解質二次電池用電極は、活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含み、前記導電助剤が、黒鉛化カーボンブラックを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の固体電解質二次電池用電極は、活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含み、前記導電助剤が、黒鉛化カーボンブラックを含む。このため、本発明の固体電解質二次電池用電極を備える固体電解質二次電池は、初期充放電効率および放電レート特性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の固体電解質二次電池の一例を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決し、固体電解質二次電池の初期充放電効率および放電レート特性を向上させるべく、固体電解質二次電池用電極に含まれる導電助剤の材料に着目し、鋭意検討を重ねた。
その結果、導電助剤として黒鉛化カーボンブラックを用いて、固体電解質二次電池用の正極および/または負極を形成すればよいことを見出した。
【0010】
このような固体電解質二次電池用電極を備える固体電解質二次電池では、メカニズムの詳細は不明であるが、以下に示す理由により、初期充放電効率および放電レート特性が良好なものになると推定される。
【0011】
固体電解質二次電池では、充放電に伴う副反応によって、固体電解質二次電池用電極中の固体電解質が劣化し、初期充放電効率および放電レート特性が劣化する。
しかし、固体電解質二次電池用電極中に、導電助剤として黒鉛化カーボンブラックを含有させると、充放電に伴う副反応による固体電解質の劣化が生じにくくなる。これは、黒鉛化カーボンブラックが、結晶構造の表面を有し、層状の多面体粒子が数珠状に融着してなるストラクチャー構造を有しており、しかも酸素原子を含有する官能基がほとんど存在しない表面性状を有することによるものであると推定される。
【0012】
これに対し、例えば、固体電解質二次電池用電極中に、導電助剤としてアセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの一般的なカーボンブラックが含まれている場合、カーボンブラックが触媒として機能し、固体電解質二次電池用電極中の固体電解質が分解し、劣化が促進されるものと推定される。具体的には、一般的なカーボンブラックが含まれている正極では、固体電解質の酸化が促進される。また、一般的なカーボンブラックが含まれている負極では、固体電解質の還元が促進される。これは、一般的なカーボンブラックが、非晶質構造の表面を有する球状の粒子が融着してなるストラクチャー構造を有し、かつ酸素原子を含有する官能基が多数存在している表面性状を有するためであると推定される。
【0013】
また、黒鉛化カーボンブラックは、層状の多面体粒子が数珠状に融着してなるストラクチャー構造を有しているため、固体電解質二次電池用電極中で網目状に分布する。その結果、例えば、固体電解質二次電池用電極中に、導電助剤としてカーボンナノチューブである気相炭素繊維(VGCF)が含まれている場合と比較して、電極中の電子伝導度が高くなり、良好な放電レート特性が得られるものと推定される。
これらのことから、固体電解質二次電池用電極中に、導電助剤として黒鉛化カーボンブラックが含まれている場合、初期充放電効率および放電レート特性が良好な固体電解質二次電池が得られるものと推定される。
【0014】
さらに本発明者は、導電助剤として黒鉛化カーボンブラックを使用して、種々の固体電解質二次電池用の正極および負極を形成し、これを備える固体電解質二次電池の初期充放電効率および放電レート特性が良好になることを確認し、本発明を想到した。
【0015】
本発明は以下の態様を含む。
[1] 活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含み、
前記導電助剤が、黒鉛化カーボンブラックを含む、固体電解質二次電池用電極。
【0016】
[2] 前記黒鉛化カーボンブラックが、ラマン分光スペクトル測定における1350cm-1~1370cm-1の範囲の非結晶質乱層構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(ID)と、1570cm-1~1620cm-1の範囲の黒鉛結晶質構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(IG)との比である黒鉛化度R値(ID/IG)が、0.2以上1.0以下である、[1]に記載の固体電解質二次電池用電極。
【0017】
[3] 前記黒鉛化カーボンブラックが、X線回折法による(002)面のC軸方向の結晶子厚み寸法(Lc)が15nm未満である、[1]または[2]に記載の固体電解質二次電池用電極。
[4] 前記黒鉛化カーボンブラックを、0.5質量%~10質量%含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の固体電解質二次電池用電極。
【0018】
[5] 前記固体電解質が、下記式(1)で表されるハライド系固体電解質を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の固体電解質二次電池用電極。
・・・(1)
(式(1)において、Aは、Li、Cs、Naからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。Eは、Sc、Y、Zr、Sn、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。Gは、O、OH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOB、(COO)、N、AlCl、CFSO、CHCOO、CFCOO、OOC-(CH-COO、OOC-CH-COO、OOC-CH(OH)-CH(OH)-COO、OOC-CH(OH)-CH-COO、CSO、OOC-CH=CH-COO、OOC-CH=CH-COO、C(OH)(CHCOOH)COO、AsO、BiO、CrO、MnO、PtF、PtCl、PtBr、PtI、SbO、SeO、TeO、HCOO、CN、SCN、NOからなる群から選択される少なくとも1つの基である。Xは、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1を満たす。)
【0019】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の固体電解質二次電池用電極を備える、固体電解質二次電池。
【0020】
以下、本実施形態の固体電解質二次電池用電極および固体電解質二次電池について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。したがって、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であり、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
[固体電解質二次電池]
図1は、本発明の固体電解質二次電池の一例を説明するための断面模式図である。図1に示す固体電解質二次電池100は、積層型の電池である。本実施形態では、固体電解質電池100が、積層型の電池である場合を例に挙げて説明するが、巻回型の電池であってもよい。本実施形態の固体電解質電池の形態としては、例えば、ラミネート電池、角型電池、円筒型電池、コイン型電池、ボタン型電池などが挙げられる。
【0022】
図1に示す固体電解質二次電池100は、発電素子40と外装体50とを備える。外装体50は、発電素子40の周囲を被覆する。発電素子40は、発電素子40に接続された一対の端子60、62によって外部と接続される。
【0023】
<発電素子>
発電素子40は、固体電解質層10と正極20と負極30とを備える。発電素子40は、正極20と負極30の間で、固体電解質層10を介したイオンの授受及び外部回路を介した電子の授受により充電または放電する。本実施形態では、発電素子40として、正極20と負極30の間をリチウムイオンが移動するものを例に挙げて説明する。
【0024】
「正極」
図1に示すように、正極20(固体電解質二次電池用電極)は、板状の正極集電体22と正極合剤層24とを有する。正極合剤層24は、正極集電体22の少なくとも一面に接する。
【0025】
(正極集電体)
正極集電体22は、充電時の酸化に耐えられ、腐食しにくい電子伝導性の材料であれば良い。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、チタンなどの金属、または、電子伝導性樹脂等である。正極集電体22は、粉体、箔、パンチング、エクスパンドの各形態であっても良い。
【0026】
(正極合剤層)
正極合剤層24は、正極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含む。正極合剤層24は、必要に応じてバインダーを含んでいてもよい。
【0027】
(正極活物質)
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵・放出、挿入・脱離(インターカレーション・デインターカレーション)を可逆的に進行させることが可能であれば特に限定されず、公知のリチウムイオン2次電池に用いられている正極活物質などを使用できる。正極活物質としては、例えば、リチウム含有金属酸化物、リチウム含有金属リン酸化物などが挙げられる。
【0028】
リチウム含有金属酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMn(x+y+z=1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiVOPO、Li(PO)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Feから選択される少なくとも1種を示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)等が挙げられる。
【0029】
正極活物質は、リチウムを含有していなくてもよい。このような正極活物質としては、MnO、Vなどのリチウム非含有金属酸化物、MoSなどのリチウム非含有金属硫化物、FeF、VFなどのリチウム非含有フッ化物などが挙げられる。
リチウムを含有していない正極活物質を用いる場合には、あらかじめ負極にリチウムイオンをドープしておく、またはリチウムイオンを含有する負極を用いる。
【0030】
(固体電解質)
正極合剤層24に含まれる固体電解質は、正極合剤層24内のイオン伝導度を良好にする。固体電解質としては、公知のものを1種または2種以上混合して用いることができる。固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質、ハライド系固体電解質などが挙げられ、硫化物系固体電解質および/またはハライド系固体電解質であることが好ましい。
【0031】
硫化物系固体電解質としては、例えば、LiPSCl、LiPSBr、LiPSI、xLiS-(1-x)P、xLiS-(1-x)GeS、xLiS-yGeS-(1-x-y)P、xLiGeS-(1-x)LiPS、Li9.54Si1.741.4411.7l0.3、LiSnS、LiPS、xLiS-(1-x)P、xLiS-yP-(1-x-y)LiN、Li13、LiBS、Liなどが挙げられる。
【0032】
正極合剤層24に含まれる固体電解質がハライド系固体電解質を含む場合、サイクル特性に優れ、放電容量のより大きい固体電解質二次電池100を形成できる正極20となるため好ましい。正極合剤層24に含まれる固体電解質は、下記式(1)で表されるハライド系固体電解質を含むことが好ましい。初期充放電効率および放電レート特性のより良好な固体電解質二次電池100を形成できる正極20となるためである。
【0033】
・・・(1)
(式(1)において、Aは、Li、Cs、Naからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。Eは、Sc、Y、Zr、Sn、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。Gは、O、OH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOB、(COO)、N、AlCl、CFSO、CHCOO、CFCOO、OOC-(CH-COO、OOC-CH-COO、OOC-CH(OH)-CH(OH)-COO、OOC-CH(OH)-CH-COO、CSO、OOC-CH=CH-COO、OOC-CH=CH-COO、C(OH)(CHCOOH)COO、AsO、BiO、CrO、MnO、PtF、PtCl、PtBr、PtI、SbO、SeO、TeO、HCOO、CN、SCN、NOからなる群から選択される少なくとも1つの基である。Xは、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1を満たす。)
【0034】
式(1)におけるAは、Li、Cs、Naからなる群から選択される少なくとも1つの元素であり、Li、またはLiとCsの両方であることが好ましく、Liであることがより好ましい。
【0035】
式(1)におけるaは、0.5≦a<6を満たし、好ましくは2.0≦a≦4を満たす。aが0.5≦a<6であると、式(1)で表されるハライド系固体電解質中に含まれるAの含有量が適正となり、固体電解質のイオン伝導度が十分に高いものとなる。
【0036】
式(1)におけるEは、固体電解質のイオン電導度を向上させる必須の成分である。式(1)におけるEは、Sc、Y、Zr、Sn、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。Eは、Sc、Y、Zr、Hfからなる群から選択される少なくとも1つの元素であることが好ましく、Yおよび/またはZrを含むことがより好ましく、Zrであることが最も好ましい。
【0037】
式(1)におけるbは0<b<2である。bは、Eを含むことによる固体電解質のイオン電導度を向上させる効果がより顕著となるため、0.6≦b≦1であることが好ましい。
【0038】
式(1)におけるGは、O、OH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOB、(COO)、N、AlCl、CFSO、CHCOO、CFCOO、OOC-(CH-COO、OOC-CH-COO、OOC-CH(OH)-CH(OH)-COO、OOC-CH(OH)-CH-COO、CSO、OOC-CH=CH-COO、OOC-CH=CH-COO、C(OH)(CHCOOH)COO、AsO、BiO、CrO、MnO、PtF、PtCl、PtBr、PtI、SbO、SeO、TeO、HCOO、CN、SCN、NOからなる群から選択される少なくとも1つの基である。Gは、O、SO、SO、SOからなる群から選択される少なくとも1つの基であることが好ましく、特に、Oおよび/またはSOであることが好ましい。
【0039】
式(1)におけるcは0≦c≦6を満たす。式(1)で表されるハライド系固体電解質がGを含む(0<c)場合、Gを含むことによる効果がより顕著となるため、0.5≦cであることが好ましい。cは、Gの含有量が多すぎることに起因する固体電解質のイオン伝導度の低下が生じないように、c≦3であることが好ましい。
【0040】
式(1)におけるXは、固体電解質のイオン電導度を向上させる必須の成分である。式(1)におけるXは、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。正極合剤層24が式(1)で表されるハライド系固体電解質を含むことによる効果が顕著となるため、Xが、Brおよび/またはClを含むことが好ましく、Clであることが最も好ましい。
【0041】
式(1)におけるdは、0<d≦6.1を満たす。dは1≦dであることが好ましい。dが1≦dであると、固体電解質のイオン伝導度がより高くなる。また、dは、Xの含有量が多すぎることによって、固体電解質の電位窓が狭くならないように、d≦5であることが好ましい。
【0042】
式(1)で表されるハライド系固体電解質は、具体的には例えば、LiZrSOCl(LZSOC)、LiZrOCl(LZOC)、LiZrCl(LZC)、LiZrBr(LZBr)、LiZrBOCl、LiZrBFCl、LiYSOCl、LiYCOCl、LiYBOCl、LiYBFClなどが挙げられる。これらのハライド系固体電解質の中でも、LiZrSOCl(LZSOC)、LiZrOCl(LZOC)、LiZrCl(LZC)、LiZrBr(LZBr)から選ばれるいずれかであることが好ましい。ハライド系固体電解質が、LiZrSOCl(LZSOC)、LiZrOCl(LZOC)、LiZrCl(LZC)、LiZrBr(LZBr)から選ばれるいずれかであると、放電容量のより大きい固体電解質二次電池100を形成できる正極合剤層24となる。
【0043】
本実施形態の正極合剤層24に含まれる固体電解質は、1種のみであってもよいし、組成の異なる2種以上の固体電解質を含んでいてもよい。固体電解質が組成の異なる2種以上の固体電解質を含む場合、全て式(1)で表されるハライド系固体電解質であってもよいし、式(1)で表されるハライド系固体電解質とともに、公知の全固体二次電池に用いられている固体電解質を含んでいてもよい。
本実施形態の固体電解質二次電池100において、正極合剤層24に含まれる固体電解質は、後述する固体電解質層10に含まれる固体電解質および/または負極30の負極合剤層34に含まれる固体電解質と同じものであってもよいし、異なっていてもよい。
【0044】
正極合剤層24に含まれる固体電解質の含有率は、特に限定されないが、1質量%~50質量%であることが好ましく、5質量%~30質量%であることがより好ましい。固体電解質の含有率が1質量%以上であると、正極合剤層24内のイオン伝導度がより良好となるためである。固体電解質の含有率が50質量%以下であると、正極活物質および導電助剤を十分に含む正極合剤層24が得られるためである。
【0045】
(導電助剤)
導電助剤は、正極合剤層24の電子伝導性を良好にする。導電助剤は、黒鉛化カーボンブラックを含む。本発明における黒鉛化カーボンブラックは、カーボンブラックを不活性雰囲気中で2000℃~3000℃で熱処理して黒鉛化したものである。本発明における黒鉛化カーボンブラックは、上記の熱処理によって、結晶構造の表面を有し、層状の多面体粒子が数珠状に融着してなるストラクチャー構造を有するものとされており、しかも酸素原子を含有する官能基がほとんど存在しない表面性状を有する。
【0046】
これに対し、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの一般的なカーボンブラックである熱処理前のカーボンブラックは、酸素原子を含有する官能基が存在する表面性状を有している。酸素原子を含有する官能基としては、例えば、カルボキシル基(-COOH)、フェノール性水酸基(-OH)、キノン基(>C=O)、ラクトン基(-C(=O)―O))などが挙げられる。黒鉛化カーボンブラックでは、上記熱処理によって、表面に存在していた酸素原子を含有する官能基のほとんどが除去されている。
【0047】
また、熱処理前の一般的なカーボンブラックは、非晶質構造の表面を有し、直径数十nmの球状の粒子が数珠状に融着してなるストラクチャー構造を有する。このようなカーボンブラックに対して、上記熱処理を所定の時間行うと、球状の粒子内および表面において、結晶の成長が促進され、表面の非晶質構造が結晶構造とされる。その結果、黒鉛化カーボンブラックは、結晶構造の表面を有し、層状の多面体粒子が数珠状に融着してなるストラクチャー構造を有するものとされている。
【0048】
導電助剤に含まれる黒鉛化カーボンブラックは、ラマン分光スペクトル測定における1350cm-1~1370cm-1の範囲の非結晶質乱層構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(ID)と、1570cm-1~1620cm-1の範囲の黒鉛結晶質構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(IG)との比である黒鉛化度R値(ID/IG)が、0.2以上1.0以下であることが好ましい。
【0049】
ラマン分光スペクトル測定では、ラマン分光スペクトルに反映される散乱光の発生する試料表面からの深さ位置は、光源からのレーザー光およびラマン散乱光の試料による吸収の大きさに支配される。ダイヤモンドを除く炭素材料は、可視光領域における光の吸収が極めて大きい。このことから、ラマン分光スペクトル測定を行うことにより、ラマン分光スペクトルに反映される黒鉛化カーボンブラックの表面からの深さ位置は、数10nm程度と浅い。よって、黒鉛化カーボンブラックのラマン分光スペクトル測定は、実質的に黒鉛化カーボンブラックの表面分析手法であるといえる。
【0050】
したがって、黒鉛化カーボンブラックの黒鉛化度R値(ID/IG)は、黒鉛化カーボンブラックの表面が、結晶質構造であるか否かを示す指標として用いることができる。例えば、黒鉛化カーボンブラックの材料として用いることができるアセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの一般的なカーボンブラックは、非晶質構造の表面を有している。このため、黒鉛化度R値(ID/IG)は、1.1以上である。
【0051】
これに対し、黒鉛化度R値(ID/IG)が1.0以下である黒鉛化カーボンブラックは、上記の熱処理によって結晶の成長が十分に促進されているものであり、結晶構造の表面を有する層状の多面体粒子を含む。したがって、これを含む正極合剤層24は、固体電解質二次電池100の充放電に伴う副反応による固体電解質の分解がより生じにくいものとなる。その結果、初期充放電効率および放電レート特性のより良好な固体電解質二次電池100が得られる正極20を形成できる。黒鉛化カーボンブラックの黒鉛化度R値(ID/IG)は、0.8以下であることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましい。
【0052】
また、黒鉛化度R値(ID/IG)が0.2以上である黒鉛化カーボンブラックは、上記の熱処理によって容易に製造でき、生産性に優れる。また、黒鉛化度R値(ID/IG)が0.2以上である黒鉛化カーボンブラックは、上記の熱処理による結晶の成長が過剰ではなく、層状の多面体粒子が数珠状に融着してなるストラクチャー構造を十分に含む。このため、これを含む正極合剤層24は、電子伝導度が高く、内部抵抗が低いものとなり、初期充放電効率および放電レート特性のより良好な固体電解質二次電池100が得られる正極20を形成できる。黒鉛化カーボンブラックの黒鉛化度R値(ID/IG)は、0.3超であることがより好ましく、0.35以上であることがさらに好ましい。
【0053】
導電助剤に含まれる黒鉛化カーボンブラックは、X線回折(XRD)法による(002)面のC軸方向の結晶子厚み寸法(Lc)が15nm未満であることが好ましい。上記の結晶子厚み寸法(Lc)は、黒鉛化カーボンブラックが、層状の多面体粒子が数珠状に融着してなるストラクチャー構造を有するものであるか否かを示す指標として用いることができる。
【0054】
(002)面のC軸方向の結晶子厚み寸法(Lc)が15nm未満である黒鉛化カーボンブラックは、上記の熱処理による結晶の成長が過剰ではなく、層状の多面体粒子が数珠状に融着してなるストラクチャー構造を十分に含む。このため、これを含む正極合剤層24は、電子伝導度が高く、内部抵抗が低いものとなり、初期充放電効率および放電レート特性のより良好な固体電解質二次電池100が得られる正極20を形成できる。上記の結晶子厚み寸法(Lc)は、12nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。
【0055】
また、黒鉛化カーボンブラックの(002)面のC軸方向の結晶子厚み寸法(Lc)は、5nm以上であることが好ましい。結晶子厚み寸法(Lc)が、5nm以上である黒鉛化カーボンブラックは、上記の熱処理による結晶成長によって形成された、結晶構造の表面を有する層状の多面体粒子を十分に含む。このため、固体電解質二次電池100の充放電に伴う副反応による固体電解質の分解がより生じにくい正極合剤層24となる。黒鉛化カーボンブラックの結晶子厚み寸法(Lc)は、8nm以上であることがより好ましい。
【0056】
正極合剤層24に含まれる黒鉛化カーボンブラックの含有量は、0.5質量%~10質量%であることが好ましい。正極合剤層24に含まれる黒鉛化カーボンブラックの含有量が0.5質量%以上であると、電子伝導度が良好であり、しかも導電助剤として黒鉛化カーボンブラックを含むことによる効果が顕著となる。その結果、初期充放電効率および放電レート特性のより良好な固体電解質二次電池100となる。正極合剤層24に含まれる黒鉛化カーボンブラックの含有量は、3質量%以上であることがより好ましい。
【0057】
また、正極合剤層24に含まれる黒鉛化カーボンブラックの含有量が10質量%以下であると、正極活物質および固体電解質を十分に含む正極合剤層24が得られやすくなる。その結果、初期充放電効率および放電レート特性のより良好な固体電解質二次電池100となる。正極合剤層24に含まれる黒鉛化カーボンブラックの含有量は、7質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
導電助剤は、黒鉛化カーボンブラックのみであってもよいし、黒鉛化カーボンブラックとともに、公知の導電助剤を1種または2種以上混合して用いてもよい。公知の導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの炭素材料、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス、鉄、アモルファス金属などの金属、ITOなどの伝導性酸化物、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0059】
正極合剤層24中に黒鉛化カーボンブラックとともに公知の導電助剤が含まれる場合、黒鉛化カーボンブラックと公知の導電助剤との合計の含有量は、20質量%以下であることが好ましい。正極活物質および固体電解質を十分に含む正極合剤層24が得られやすいためである。黒鉛化カーボンブラックと公知の導電助剤との合計の含有量は、10質量%以下であることがより好ましい。
【0060】
(バインダー)
正極合剤層24は、必要に応じて、バインダーを含むことができる。正極合剤層24は、バインダーを含むことが好ましい。バインダーは、正極合剤層24内において正極活物質と固体電解質と導電助剤とを相互に結合するとともに、正極合剤層24と正極集電体22とを、強固に接着する。バインダーとしては、公知のものを1種または2種以上混合して用いることができる。バインダーとしては、耐酸化性に優れ、接着性の良好なものを用いることが好ましい。
【0061】
正極合剤層24に用いられるバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはそのコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリル酸(PA)及びその共重合体、ポリアクリル酸(PA)及びその共重合体の金属イオン架橋体、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレン(PP)、無水マレイン酸をグラフト化したポリエチレン(PE)、または、これらの混合物などが挙げられる。これらの中でも、バインダーとしては、特にPTFEを用いることが好ましい。
【0062】
正極合剤層24におけるバインダーの含有率は、特に限定されないが、1質量%~15質量%であることが好ましく、3質量%~5質量%であることがより好ましい。バインダーの含有率が1質量%以上であると、正極活物質と固体電解質と導電助剤とが十分な強度で接着されるとともに、正極合剤層24と正極集電体22とが十分な強度で接着された正極20が得られる。また、一般的なバインダーは、電気化学的に不活性であるので、放電容量に寄与しない。正極合剤層24におけるバインダーの含有率が15質量以下であると、良好な体積または質量エネルギー密度を有する固体電解質二次電池100が得られる。
【0063】
「負極」
図1に示すように、負極30(固体電解質二次電池用電極)は、負極集電体32と負極合剤層34とを有する。負極合剤層34は、負極集電体32に接する。
【0064】
(負極集電体)
負極集電体32は、電子伝導性を有すれば良い。負極集電体32は、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、鉄などの金属、または、電子伝導性樹脂等である。負極集電体32は、粉体、箔、パンチング、エクスパンドの各形態であっても良い。
【0065】
(負極合剤層)
負極合剤層34は、負極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含む。負極合剤層34は、必要に応じてバインダーを含んでいてもよい。
【0066】
(負極活物質)
負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの挿入及び脱離を可逆的に進行させることができればよく、特に限定されない。負極活物質は、正極活物質より卑な電位を示す化合物である。負極活物質としては、公知のリチウムイオン2次電池に用いられているものを用いることができ、正極活物質と同様の材料を用いてもよい。負極活物質の電位と正極活物質の電位とを考慮して、固体電解質二次電池100に用いる負極活物質及び正極活物質が決定される。
【0067】
負極活物質は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、メソカーボンファイバー(MCF)、コークス類、ガラス状炭素、有機化合物焼成体などの炭素材料、Si、Sn、アルミニウムなどのリチウムと化合できる金属、これらの合金、上記金属と炭素材料との複合材料、SiO、チタン酸リチウム(LiTi12)、SnOなどの酸化物、金属リチウム等である。
【0068】
(固体電解質)
負極合剤層34に含まれる固体電解質は、負極合剤層34内のイオン伝導度を良好にする。負極合剤層34に含まれる固体電解質としては、公知のものを1種または2種以上混合して用いることができる。負極合剤層34に含まれる固体電解質としては、上述した正極合剤層24の固体電解質として使用できるものと同様のものを用いることができる。負極合剤層34に含まれる固体電解質は、正極合剤層24に含まれる固体電解質と同じものであってもよいし、一部または全部が正極合剤層24の固体電解質と異なるものであってもよい。
【0069】
負極合剤層34に含まれる固体電解質は、硫化物系固体電解質および/またはハライド系固体電解質であることが好ましい。
負極合剤層34に含まれる固体電解質が硫化物系固体電解質を含む場合、初期充放電効率のより高い固体電解質二次電池100を形成できる負極30となるため好ましい。
また、負極合剤層34に含まれる固体電解質がハライド系固体電解質を含む場合、良好な放電レート特性が得られる固体電解質二次電池100を形成できる負極30となるため好ましい。
【0070】
負極合剤層34に含まれる固体電解質がハライド系固体電解質を含む場合、例えば、固体電解質が硫化物系固体電解質である場合と比較して、充放電に伴う副反応によって負極活物質と固体電解質との副反応が生じやすく、初期充放電効率が低くなりやすい傾向がある。このため、負極合剤層34に含まれる固体電解質がハライド系固体電解質を含む場合、導電助剤として黒鉛化カーボンブラックを含むことにより、充放電に伴う副反応による固体電解質の分解を生じにくくする効果が顕著となる。
【0071】
負極合剤層34に含まれる固体電解質は、式(1)で表されるハライド系固体電解質を含むことが好ましい。初期充放電効率および放電レート特性のより良好な固体電解質二次電池100を形成できる負極30となるためである。
【0072】
負極合剤層34に含まれる固体電解質の含有率は、特に限定されないが、1質量%~50質量%であることが好ましく、5質量%~30質量%であることがより好ましい。固体電解質の含有率が1質量%以上であると、負極合剤層34内のイオン伝導度がより良好となるためである。固体電解質の含有率が50質量%以下であると、負極活物質および導電助剤を十分に含む負極合剤層34が得られるためである。
【0073】
(導電助剤)
導電助剤は、負極合剤層34の電子伝導性を良好にする。導電助剤は、黒鉛化カーボンブラックを含む。負極合剤層34に含まれる導電助剤としては、上述した正極合剤層24の導電助剤として使用できるものと同様のものを用いることができる。負極合剤層34に含まれる黒鉛化カーボンブラックは、正極合剤層24に含まれる黒鉛化カーボンブラックと同様に、黒鉛化度R値(ID/IG)が、0.2以上1.0以下であることが好ましい。また、負極合剤層34に含まれる黒鉛化カーボンブラックは、正極合剤層24に含まれる黒鉛化カーボンブラックと同様に、(002)面のC軸方向の結晶子厚み寸法(Lc)が15nm未満であることが好ましい。
【0074】
負極合剤層34に含まれる導電助剤は、正極合剤層24に含まれる導電助剤と同じものであってもよいし、一部または全部が正極合剤層24の導電助剤と異なるものであってもよい。
負極合剤層34に含まれる黒鉛化カーボンブラックの含有量は、正極合剤層24に含まれる黒鉛化カーボンブラックと同様に、0.5質量%~10質量%であることが好ましい。
【0075】
(バインダー)
負極合剤層34は、必要に応じて、バインダーを含むことができる。負極合剤層34は、バインダーを含むことが好ましい。負極合剤層34に含まれてもよいバインダーとしては、公知のものを1種または2種以上混合して用いることができる。負極合剤層34に含まれるバインダーとしては、上述した正極合剤層24のバインダーとして使用できるものと同じものを用いることができる。
【0076】
負極合剤層34に含まれるバインダーは、正極合剤層24に含まれるバインダーと同じものであってもよいし、一部または全部が正極合剤層24のバインダーと異なるものであってもよい。
負極合剤層34に含まれるバインダーの含有量は、正極合剤層24に含まれるバインダーと同様に、1質量%~15質量%であることが好ましい。
【0077】
「固体電解質層」
固体電解質層10は、正極20と負極30とに挟まれる。固体電解質層10は、外部から印加された電圧によって生じた電位差によりイオンを移動させることができる固体電解質を含む。固体電解質層10は、1層のみであってもよいし、固体電解質の異なる複数の層が積層されたものであってもよい。
【0078】
固体電解質層10に含まれる固体電解質は、例えば、リチウムイオンを伝導し、電子の移動を阻害する。固体電解質は、粉末(粒子)の状態であってもよいし、粉末を焼結した焼結体の状態でもよい。また、固体電解質は、粉末を圧縮して成形した成形体、粉末とバインダーとの混合物を成形した成形体、粉末とバインダーと溶媒とを含む塗料を塗布した後、塗布した塗料を加熱して溶媒を除去することにより形成した塗膜等でもよい。
【0079】
固体電解質層10に含まれる固体電解質としては、公知のものを1種または2種以上混合して用いることができる。固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質、ハライド系固体電解質などが挙げられる。固体電解質は、イオン伝導度の良好な固体電解質層10となるため、式(1)で表されるハライド系固体電解質を含むことが好ましい。
【0080】
また、固体電解質層10は、負極30側に配置された第1固体電解質層と、正極20側に配置された第2固体電解質層の2層からなるものであってもよい。この場合、第1固体電解質層に含まれる第1固体電解質としては、LiPSClなどの硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。硫化物系固体電解質は、Liと反応しにくいからである。また、第2固体電解質層に含まれる第2固体電解質としては、LiZrOClなどのハライド系固体電解質を用いることが好ましい。ハライド系固体電解質は、耐酸化性に優れているからである。
【0081】
<外装体>
外装体50は、その内部に発電素子40を収納する。外装体50は、外部から内部への水分などの侵入を防ぐ。外装体50は、例えば、図1に示すように、金属箔52と、金属箔52の両面に接して配置された樹脂層54とを有する。外装体50は、金属箔52を樹脂層54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムからなる。
【0082】
金属箔52は、例えば、アルミ箔、ステンレス箔である。
樹脂層54としては、例えば、ポリプロピレン等の樹脂膜を利用できる。樹脂層54を構成する材料は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の材料として融点の高い樹脂を用い、内側の材料として外側の材料よりも融点の低い樹脂を用いることができる。融点の高い樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用いることができる。外側の材料が、ポリエチレンテレフタレート(PET)および/またはポリアミド(PA)である場合、内側の材料としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等を用いることができる。
【0083】
<端子>
端子62、60は、図1に示すように、正極20の正極集電体22と、負極30の負極集電体32とにそれぞれ接続されている。正極20に接続された端子62は、正極端子である。負極30に接続された端子60は、負極端子である。端子60、62は、外部との電気的接続を担う。端子60、62は、アルミニウム、ニッケル、銅等の導電材料から形成されている。端子60、62と、正極20の正極集電体22または負極30の負極集電体32と電気的に接続する方法は、溶接であってもよいし、ネジ止めでもよい。端子60、62は、短絡を防ぐために、絶縁テープで保護することが好ましい。
【0084】
[固体電解質二次電池の製造方法]
次に、本実施形態にかかる固体電解質二次電池100の製造方法について説明する。
まず、固体電解質を準備する。固体電解質は、例えば、所定のモル比で所定の元素を含む原料粉末を混合し、メカノケミカル反応をさせる方法により製造できる。また、所定のモル比で所定の元素を含む原料粉末を混合、成形し、真空中または不活性ガス雰囲気中で焼結することにより、焼結体からなる固体電解質を形成してもよい。
【0085】
発電素子40は、例えば、粉末成型法を用いて作製できる。
正極20は、例えば、正極集電体22上に、正極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含むペーストを塗布し、乾燥させて正極合剤層24を形成する方法により製造できる。
負極30は、例えば、負極集電体32上に、負極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含むペーストを塗布し、乾燥させて負極合剤層34を形成する方法により製造できる。
【0086】
次いで、例えば、正極20の上に、穴部を有するガイドを設置し、ガイド内に固体電解質を充填する。その後、固体電解質の表面をならし、固体電解質の上に負極30を重ねる。このことにより、正極20と負極30との間に固体電解質が挟まれる。その後、正極20および負極30に圧力を加えることで、固体電解質を加圧成形する。加圧成形されることにより、正極20と固体電解質層10と負極30が、この順に積層された積層体が得られる。
【0087】
次に、積層体を形成している正極20の正極集電体22および負極30の負極集電体32に、それぞれ公知の方法により端子60、62を溶接し、正極集電体22または負極集電体32と端子60、62とを電気的に接続する。その後、端子60、62と接続された積層体を外装体50に収納し、外装体50の開口部をヒートシールすることにより密封する。
以上の工程により、本実施形態の固体電解質二次電池100が得られる。
【0088】
本実施形態の固体電解質二次電池100では、正極20の正極合剤層24が、正極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含み、導電助剤が、黒鉛化カーボンブラックを含む。また、負極30の負極合剤層34が、負極活物質と、固体電解質と、導電助剤とを含み、導電助剤が、黒鉛化カーボンブラックを含む。すなわち、本実施形態の固体電解質二次電池100では、正極20の正極合剤層24と負極30の負極合剤層34の両方が、導電助剤として黒鉛化カーボンブラックを含む。このため、本実施形態の固体電解質二次電池100は、正極20および負極30の電子伝導度が高く、しかも、充放電に伴う副反応に起因する正極合剤層24および負極合剤層34中の固体電解質の分解が生じにくい。よって、本実施形態の固体電解質二次電池100は、初期充放電効率および放電レート特性が良好である。
【0089】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
例えば、上述した実施形態の固体電解質二次電池100では、正極20の正極合剤層24と負極30の負極合剤層34の両方が、導電助剤として黒鉛化カーボンブラックを含む場合を例に挙げて説明したが、本発明の固体電解質二次電池は、正極と負極のうち一方のみが、活物質と固体電解質と導電助剤である黒鉛化カーボンブラックとを含むものであってもよい。
【実施例0090】
(実施例1)
(正極合剤の作製)
正極合剤を露点約-70℃のグローブボックス内で作製した。正極活物質、固体電解質、導電助剤としては、表1および以下に示すものを用いた。そして、正極活物質、固体電解質及び導電助剤を、質量比で65:32:3(正極活物質:固体電解質:導電助剤)となるように秤量し、めのう製の乳棒と乳鉢を用いて15分間混合して正極合剤を得た。
【0091】
[正極活物質]コバルト酸リチウム(LiCoO)、平均粒子径11μm、公称容量160mAhg-1
[固体電解質]LiZrOCl(ハライド系固体電解質)
[導電助剤]黒鉛化カーボンブラック(#3845;東海カーボン株式会社製)
【0092】
実施例1において使用した導電助剤について、ラマン分光スペクトル測定における1350cm-1~1370cm-1の範囲の非結晶質乱層構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(ID)と、1570cm-1~1620cm-1の範囲の黒鉛結晶質構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(IG)とを測定し、黒鉛化度R値(ID/IG)を算出した。その結果を表1に示す。
【0093】
ラマン分光スペクトル測定は、以下に示す方法により行った。
ラマン分光スペクトル測定装置として、mIRage(商品名;日本サーマルコンサルティング社製)を用いた。
【0094】
また、実施例1において使用した導電助剤について、X線回折(XRD)法による(002)面のC軸方向の結晶子厚み寸法(Lc)を求めた。その結果を表1に示す。
X線回折(XRD)法による(002)面のC軸方向の結晶子厚み寸法(Lc)の測定は、以下に示す方法により行った。
【0095】
X線測定装置として、X´PertPro(商品名;パナリティカル社製)を用いた。X線源としてCu-Kα線を用いた。測定は、走査角度(2θ)10~65度、管電圧45KV、管電流40mAで行った。002回折線(2θ::26.4度近傍に検出されるメインピーク)を用い、以下に示すScherrerの式を用いてLcを算出した。以下に示すScherrerの式では、K=1及びλ=0.15418とした。
Lc=Kλ/Bcosθ
Lc:結晶子サイズ(厚み寸法)(nm)
K:形状因子
λ:X線の波長(nm)
B:回折線幅の広がり(rad)
θ:ブラッグ角(rad)
【0096】
(正極ハーフセルの作製)
正極ハーフセルを露点約-70℃~-85℃のグローブボックス内で作製した。正極ハーフセルは、治具を用いて作製した。治具は、内径10mmのPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)製のダイスと、直径9.99mmの上パンチおよび下パンチとを有する。上パンチ及び下パンチの材質は、ダイス鋼(SKD11材)である。
【0097】
ダイスに下パンチを挿入し、下パンチ上に第1固体電解質として、表1に示すLiPSClを40mg投入した。次いで、ダイスを振動させて第1固体電解質の表面を均した。そして、ダイスに上パンチを挿入し、プレス機を用いて4KNの加重でプレスした。
その後、上パンチを抜き、第1固体電解質上に第2固体電解質として、表1に示すLiZrOClを55mg投入した。次いで、ダイスを振動させて第2固体電解質の表面を均した。そして、ダイスに上パンチを挿入し、プレス機を用いて4KNの加重でプレスした。
【0098】
その後、上パンチを抜き、第2固体電解質上に正極合剤を20mg投入した。次いで、ダイスを振動させて正極合剤の表面を均した。そして、ダイスに上パンチを挿入し、プレス機を用いて30KNの加重でプレスした。
その後、下パンチが上になるようにダイスを反転させ、下パンチを外し、第1固体電解質の上に直径8mmのLi箔を投入し、下パンチを挿入した。
このようにして、ダイス内にLi箔、第1固体電解質(LiPSCl)と第2固体電解質(LiZrOCl)とからなる固体電解質、正極合剤がこの順に積層され、上下に上パンチ及び下パンチが挿入された正極ハーフセルを作成した。
【0099】
また、直径50mm、厚み5mmのステンレス鋼板2枚と、直径50mm、厚み2mmのベークライト(登録商標)板2枚とを準備した。次いで、2枚のステンレス鋼板および2枚のベークライト(登録商標)板に、ネジを通す穴をそれぞれ4つずつ設けた。ネジを通す穴は、正極ハーフセルと、2枚のステンレス鋼板および2枚のベークライト(登録商標)板とを積層したときに、2枚のステンレス鋼板と2枚のベークライト(登録商標)板とが平面視で重なり、これらと正極ハーフセルとが平面視で重ならない位置に設けた。
【0100】
その後、ステンレス鋼板、ベークライト(登録商標)板、正極ハーフセル、ベークライト(登録商標)板及びステンレス鋼板をこの順に積層し、上記のネジ穴にネジを入れて1N・mのトルクで締めた。以上の工程を行うことにより、上パンチ及び下パンチがベークライト(登録商標)板によって絶縁された実施例1の正極試験体を作製した。
【0101】
【表1】
【0102】
次に、以下に示す方法により、実施例1の正極試験体の充放電試験を行った。そして、その結果を用いて初期充放電効率を算出するとともに、第8サイクルにおける1C放電容量を評価した。
第1サイクルの正極活物質1グラム当たりの充電容量(初期充電容量)、第1サイクルの正極活物質1グラム当たりの放電容量(初期放電容量)、初期充放電効率、第8サイクルにおける放電レート1Cにおける正極活物質1グラム当たりの放電容量を表2に示す。なお、充放電電流の表記には、C(シー)レートを用いた。nC(mA)とは、公称容量(mAh)を1/n(h)時間で充放電できる電流である。
【0103】
(充放電試験)
充放電試験は、25℃の恒温槽に正極試験体を静置して行った。
実施例1の正極試験体の正極活物質であるLiCoOの公称放電容量は、160mAhg-1である。よって、実施例1の正極試験体の公称容量は、以下に示す式により求められる。
【0104】
公称容量(mAh)={(正極合剤質量(mg))/1000}×{(正極合剤中のLiCoOの質量%)/100}×(LiCoOの公称容量(mAhg-1))
={20/1000}×{65/100}×160=2.08
したがって、例えば、実施例1の正極試験体における0.05Cの電流は、2.08mA×0.05×1000=104μAである。
【0105】
充放電試験における充放電、充電容量および放電容量の測定は、充放電装置BCS805(商品名;Biologic社製)を用いて行った。
充放電試験における充電は、4.3V(vs.Li/Li)まで行い、放電は、3.0V(vs.Li/Li)まで行った。充電レートは、第1サイクルだけ0.05Cとし、第2サイクル以降は0.1Cとした。放電レートは、第1サイクルは0.05C、第2サイクルおよび第3サイクルは0.1C、第4サイクルおよび第5サイクルは0.2C、第6サイクルおよび第7サイクルは0.5C、第8サイクルおよび第9サイクルは1Cとした。
【0106】
初期充放電効率は、第1サイクルの充電容量(初期充電容量)と、第1サイクルの放電容量(初期放電容量)とを用いて、以下に示す式により算出した。
初期充放電効率(%)=(第1サイクルの放電容量(mAh)/第1サイクルの充電容量(mAh))×100
【0107】
次に、以下に示す方法により、実施例1の正極試験体の内部抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
電気化学インピーダンス測定法により、周波数応答アナライザを搭載したポテンシオスタットVersaSTAT3(商品名;プリンストンアプライドリサーチ社製)を用いて測定した。測定は、周波数範囲を1MHz~0.1Hzとし、振幅10mVの条件で行った。周波数1KHzにおける抵抗を電池の内部抵抗とした。測定は、正極試験体を25℃の恒温槽に入れて、20分以上静置してから行った。
【0108】
【表2】
【0109】
(実施例2、比較例1、比較例2)
表1に示す固体電解質および導電助剤を用いて正極合剤を作製したこと以外は、実施例1と同様にして正極試験体を作製した。
表1に示すVGCFは、レゾナック・ホールディングス社製の気相炭素繊維の商品名である。
【0110】
導電助剤として使用したVGCFについて、実施例1において使用した導電助剤と同様にして、ラマン分光スペクトル測定における1350cm-1~1370cm-1の範囲の非結晶質乱層構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(ID)と、1570cm-1~1620cm-1の範囲の黒鉛結晶質構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(IG)とを測定し、黒鉛化度R値(ID/IG)を算出した。その結果を表1に示す。
【0111】
また、導電助剤として使用したVGCFについて、実施例1において使用した導電助剤と同様にして、X線回折(XRD)法による(002)面のC軸方向の結晶子厚み寸法(Lc)を求めた。その結果を表1に示す。
【0112】
また、実施例1の正極試験体と同様にして、実施例2、比較例1、比較例2の正極試験体それぞれについて充放電試験を行った。そして、その結果を用いて初期充放電効率を算出するとともに、第8サイクルにおける放電レート1Cの正極活物質1グラム当たりの放電容量を評価した。第1サイクルにおける正極活物質1グラム当たりの充電容量(初期充電容量)、第1サイクルにおける正極活物質1グラム当たりの放電容量(初期放電容量)、初期充放電効率、第8サイクルにおける放電レート1Cの正極活物質1グラム当たりの放電容量を表2に示す。
また、実施例1の正極試験体と同様にして、実施例2、比較例1、比較例2の正極試験体それぞれについて内部抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
【0113】
表2に示すように、導電助剤として黒鉛化カーボンブラックを用いた実施例1の正極試験体は、正極合剤中の正極活物質および固体電解質が同じであり、導電助剤としてVGCF(気相炭素繊維)を用いた比較例1の正極試験体と比較して、初期充放電効率が高く、第8サイクルにおける放電レート1Cの正極活物質1グラム当たりの放電容量が大きく、放電レート特性が良好であった。
また、表2に示すように、実施例1の正極試験体は、比較例1の正極試験体と比較して、内部抵抗が低いものであった。
【0114】
また、導電助剤として黒鉛化カーボンブラックを用いた実施例2の正極試験体は、正極合剤中の正極活物質および固体電解質が同じであり、導電助剤としてVGCF(気相炭素繊維)を用いた比較例2の正極試験体と比較して、初期充放電効率が高く、第8サイクルにおける放電レート1Cの正極活物質1グラム当たりの放電容量が大きく、放電レート特性が良好であった。
また、表2に示すように、実施例2の正極試験体は、比較例2の正極試験体と比較して、内部抵抗が低いものであった。
【0115】
(実施例3)
(負極合剤の作製)
負極合剤を露点約-70℃~-85℃のグローブボックス内で作製した。負極活物質、固体電解質、導電助剤としては、表1および以下に示すものを用いた。そして、負極活物質、固体電解質及び導電助剤を、質量比で55:40:5(負極活物質:固体電解質:導電助剤)となるように秤量し、めのう製の乳棒と乳鉢を用いて15分間混合して負極合剤を得た。
【0116】
[負極活物質]チタン酸リチウム(LiTi12)、平均粒子径6μm、公称容量161mAhg-1
[固体電解質]LiZrCl(ハライド系固体電解質)
[導電助剤]黒鉛化カーボンブラック(#3845;東海カーボン株式会社製)
【0117】
(負極ハーフセルの作製)
負極ハーフセルを露点約-70℃~-85℃のグローブボックス内で作製した。負極ハーフセルは、実施例1の正極ハーフセルを作成する際に使用したものと同じ治具を用いて作製した。
ダイスに下パンチを挿入し、下パンチ上に第1固体電解質として、表1に示すLiPSClを40mg投入した。次いで、ダイスを振動させて第1固体電解質の表面を均した。そして、ダイスに上パンチを挿入し、プレス機を用いて4KNの加重でプレスした。
【0118】
その後、上パンチを抜き、第1固体電解質上に負極合剤を10mg投入した。次いで、ダイスを振動させて負極合剤の表面を均した。そして、ダイスに上パンチを挿入し、プレス機を用いて30KNの加重でプレスした。
その後、下パンチが上になるようにダイスを反転させ、下パンチを外し、第1固体電解質の上に直径8mmのLi箔を投入し、下パンチを挿入した。
このようにして、ダイス内にLi箔、第1固体電解質(LiPSCl)からなる固体電解質、負極合剤がこの順に積層され、上下に上パンチ及び下パンチが挿入された負極ハーフセルを作成した。
【0119】
その後、実施例1における正極ハーフセルに代えて、負極ハーフセルを用いて、ステンレス鋼板、ベークライト(登録商標)板、負極ハーフセル、ベークライト(登録商標)板及びステンレス鋼板をこの順に積層し、上記のネジ穴にネジを入れて1N・mのトルクで締めた。以上の工程を行うことにより、上パンチ及び下パンチがベークライト(登録商標)板によって絶縁された実施例3の負極試験体を作製した。
【0120】
次に、以下に示す方法により、実施例3の負極試験体の充放電試験を行った。そして、その結果を用いて実施例1と同様にして初期充放電効率を算出するとともに、第8サイクルにおける放電レート1Cの正極活物質1グラム当たりの放電容量を評価した。第1サイクルにおける正極活物質1グラム当たりの充電容量(初期充電容量)、第1サイクルにおける正極活物質1グラム当たりの放電容量(初期放電容量)、初期充放電効率、第8サイクルにおける放電レート1Cの正極活物質1グラム当たりの放電容量を表2に示す。
【0121】
(充放電試験)
充放電試験は、25℃の恒温槽に正極試験体を静置して行った。充放電電流の表記には、C(シー)レートを用いた。nC(mA)とは、公称容量(mAh)を1/n(h)時間で充放電できる電流である。
実施例3の負極活物質であるLiTi12の公称放電容量は、161mAhg-1である。よって、実施例3の負極試験体の公称容量は、以下に示す式により求められる。
【0122】
公称容量(mAh)={(負極合剤質量(mg))/1000}×{(負極合剤中のLiTi12の質量%)/100}×(LiTi12の公称容量(mAhg-1))
={10/1000}×{55/100}×161=0.89
したがって、例えば、実施例3の負極試験体における0.05Cの電流は、0.89mA×0.05×1000=45μAである。
【0123】
充放電試験における充放電、充電容量および放電容量の測定は、充放電装置BCS805(商品名;Biologic社製)を用いて行った。
充放電試験における充電は、1.0V(vs.Li/Li)まで行い、放電は、3.0V(vs.Li/Li)まで行った。各サイクルにおける充電レートおよび放電レートは、実施例1と同じとした。
【0124】
(実施例4~実施例8、比較例3~比較例7)
表1に示す固体電解質および導電助剤を用いて負極合剤を作製したこと以外は、実施例3と同様にして負極試験体を作製した。
表1に示す導電助剤における商品名「#3855」、「#3800」、「FX35」、「ECP600JD」、「N002-PDR」、「699640」及び「699624」は、以下に示す炭素材料である。
【0125】
「#3855」黒鉛化カーボンブラック:東海カーボン株式会社製
「#3800」黒鉛化カーボンブラック:東海カーボン株式会社製
「699640」黒鉛化カーボンブラック:Sigma Aldrich社製
「699624」黒鉛化カーボンブラック:Sigma Aldrich社製
「FX35」アセチレンブラック:デンカ社製
「ECP600JD」ケッチェンブラック:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製
「N002-PDR」単層グラフェン:Angstron Materials社製
【0126】
実施例4~実施例7、比較例4~比較例6において導電助剤として使用した炭素材料それぞれについて、実施例1において使用した導電助剤と同様にして、ラマン分光スペクトル測定における1350cm-1~1370cm-1の範囲の非結晶質乱層構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(ID)と、1570cm-1~1620cm-1の範囲の黒鉛結晶質構造に由来する振動モードを示すピークの高さ(IG)とを測定し、黒鉛化度R値(ID/IG)を算出した。その結果を表1に示す。
【0127】
また、実施例4~実施例7、比較例4~比較例6において導電助剤として使用した炭素材料それぞれについて、実施例1において使用した導電助剤と同様にして、X線回折(XRD)法による(002)面のC軸方向の結晶子厚み寸法(Lc)を求めた。その結果を表1に示す。比較例6において使用した炭素材料であるN002-PDRは、単層グラフェンであるため、(002)面のC軸方向の結晶子厚み寸法(Lc)を算出することはできなかった。
【0128】
また、実施例3の負極試験体と同様にして、実施例4~実施例8、比較例3~比較例7の負極試験体それぞれについて充放電試験を行った。そして、その結果を用いて初期充放電効率を算出するとともに、第8サイクルにおける放電レート1Cの正極活物質1グラム当たりの放電容量を評価した。第1サイクルにおける正極活物質1グラム当たりの充電容量(初期充電容量)、第1サイクルにおける正極活物質1グラム当たりの放電容量(初期放電容量)、初期充放電効率、第8サイクルにおける放電レート1Cの正極活物質1グラム当たりの放電容量を表2に示す。
また、実施例3の負極試験体と同様にして、実施例4~実施例8、比較例3~比較例7の負極試験体それぞれについて内部抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
【0129】
表2に示すように、実施例3~実施例7、比較例3~比較例6の負極試験体では、初期放電容量が、負極活物質であるLiTi12の公称放電容量である161mAhg-1を超えている。これは、負極合剤中のハライド系固体電解質であるLiZrClが電気化学的に活性であり、放電容量に寄与しているためであると推定される。
【0130】
表2に示すように、導電助剤として黒鉛化カーボンブラックを用いた実施例3~実施例7の負極試験体は、負極合剤中の負極活物質および固体電解質が同じであり、導電助剤が黒鉛化カーボンブラックでない比較例3~比較例6の負極試験体と比較して、初期充放電効率が高く、第8サイクルにおける放電レート1Cの正極活物質1グラム当たりの放電容量が大きく、放電レート特性が良好であった。
また、表2に示すように、実施例3~実施例7の負極試験体は、比較例3~比較例6の負極試験体と比較して、内部抵抗が低いものであった。
【0131】
また、導電助剤として黒鉛化カーボンブラックを用いた実施例8の負極試験体は、負極合剤中の負極活物質および固体電解質が同じであり、導電助剤としてVGCF(気相炭素繊維)を用いた比較例7の負極試験体と比較して、初期充放電効率が高く、第8サイクルにおける放電レート1Cの正極活物質1グラム当たりの放電容量が大きく、放電レート特性が良好であった。
また、表2に示すように、実施例8の負極試験体は、比較例7の負極試験体と比較して、内部抵抗が低いものであった。
【符号の説明】
【0132】
10…固体電解質層、20…正極、22…正極集電体、24…正極合剤層、30…負極、32…負極集電体、34…負極合剤層、40…発電素子、50…外装体、52…金属箔、54…樹脂層、60,62…端子、100…固体電解質二次電池。
図1