(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118549
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】水位検出システム及び水位検出方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/12 20060101AFI20240826BHJP
【FI】
E02D29/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024890
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】熊本 和夫
(72)【発明者】
【氏名】川上 雅士
(72)【発明者】
【氏名】宮田 祈
【テーマコード(参考)】
2D147
【Fターム(参考)】
2D147BA00
(57)【要約】
【課題】容易に且つ安価に設置することができる水位検出システムを提供する。
【解決手段】水位検出システム2は、マンホール4の内周壁に支持され且つ上下方向に沿って間隔を置いて配置された複数のタラップ12a~12jのうち、特定のタラップ12bからマンホール4内に電波が放射されるように、特定のタラップ12bに高周波信号を供給する信号供給部28と、マンホール4内に配置された受信アンテナ30であって、特定のタラップ12bから放射され且つマンホール4内の水面で反射された電波を含む合成波を受信する受信アンテナ30と、受信アンテナ30で受信された合成波の受信電力に基づいて、マンホール4内の水位を検出する検出部32とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延在するマンホール内の水位を検出するための水位検出システムであって、
前記マンホールの内周壁に支持され且つ前記上下方向に沿って間隔を置いて配置された複数のタラップのうち、特定のタラップから前記マンホール内に電波が放射されるように、前記特定のタラップに高周波信号を供給する信号供給部と、
前記マンホール内に配置された受信アンテナであって、前記特定のタラップから放射され且つ前記マンホール内の水面で反射された電波を含む合成波を受信する受信アンテナと、
前記受信アンテナで受信された前記合成波の受信電力に基づいて、前記マンホール内の水位を検出する検出部と、を備える
水位検出システム。
【請求項2】
前記特定のタラップは、前記複数のタラップのうち最上段から2段目のタラップである
請求項1に記載の水位検出システム。
【請求項3】
前記受信アンテナは、前記マンホールの上端における開口部を覆う蓋の下面に配置されている
請求項1又は2に記載の水位検出システム。
【請求項4】
前記高周波信号の周波数は、2.4GHzである
請求項1又は2に記載の水位検出システム。
【請求項5】
前記検出部は、前記受信電力の変化量に基づいて、前記マンホール内の水位を検出する
請求項1又は2に記載の水位検出システム。
【請求項6】
上下方向に延在するマンホール内の水位を検出するための水位検出方法であって、
前記マンホールの内周壁には、前記上下方向に沿って間隔を置いて配置された複数のタラップが支持されており、
前記水位検出方法は、
前記複数のタラップのうち特定のタラップから前記マンホール内に電波が放射されるように、前記特定のタラップに高周波信号を供給するステップと、
前記マンホール内に配置された受信アンテナにより、前記特定のタラップから放射され且つ前記マンホール内の水面で反射された電波を含む合成波を受信するステップと、
前記受信アンテナで受信された前記合成波の受信電力に基づいて、前記マンホール内の水位を検出するステップと、を含む
水位検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンホール内の水位を検出するための水位検出システム及び水位検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、気候変動の影響により、下水道施設の能力を超える局地的な大雨が頻発し、マンホール内から大量の雨水が地上に流出する内水氾濫の発生リスクが高まっている。このような状況を鑑み、マンホール内の水位を検出するための水位検出システムが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
従来の水位検出システムでは、マンホール内の所定位置(例えば、マンホール内の底部近傍)に設置された水位センサからの検出信号を、ネットワークを介してクラウドサーバで収集することにより、マンホール内の水位を監視する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】齋藤千穂、中島満浩、川口隆太郎、「マンホールアンテナによる都市型水害監視サービス」、明電時報 通巻359号 2018 No.2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の水位検出システムでは、水位センサは比較的高価であるため設置コストが上昇するとともに、水位センサをマンホール内の所定位置に設置するのに手間が掛かるという課題が生じる。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決しようとするものであり、その目的は、容易に且つ安価に設置することができる水位検出システム及び水位検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る水位検出システムは、上下方向に延在するマンホール内の水位を検出するための水位検出システムであって、前記マンホールの内周壁に支持され且つ前記上下方向に沿って間隔を置いて配置された複数のタラップのうち、特定のタラップから前記マンホール内に電波が放射されるように、前記特定のタラップに高周波信号を供給する信号供給部と、前記マンホール内に配置された受信アンテナであって、前記特定のタラップから放射され且つ前記マンホール内の水面で反射された電波を含む合成波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信された前記合成波の受信電力に基づいて、前記マンホール内の水位を検出する検出部と、を備える。
【0008】
本態様によれば、既存のマンホールの複数のタラップを、放射器エレメント及び導波器エレメントで構成される八木アンテナ(送信アンテナ)として利用することにより、マンホール内の水位を検出することができる。その結果、送信アンテナの設置コストを削減することができ、水位検出システムを安価に設置することができる。また、水位検出システムを設置する際には、作業員等は、信号供給部をマンホール内の特定のタラップ(例えば最上段近くのタラップ)に電気的に接続すればよい。その結果、作業員等は、必ずしもマンホール内の底部まで降りて作業しなくてもよく、水位検出システムを容易に設置することができる。
【0009】
例えば、本発明の第2の態様に係る水位検出システムでは、第1の態様において、前記特定のタラップは、前記複数のタラップのうち最上段から2段目のタラップであるように構成してもよい。
【0010】
本態様によれば、最上段から2段目のタラップ(特定のタラップ)を八木アンテナの放射器エレメント、3段目から最下段までの複数のタラップを八木アンテナの導波器エレメントとして機能させることができる。これにより、特定のタラップから放射される電波は、マンホール内の水面に向かう方向に強い指向性を有するようになる。その結果、マンホール内の水位を精度良く検出することができる。
【0011】
例えば、本発明の第3の態様に係る水位検出システムでは、第1の態様又は第2の態様において、前記受信アンテナは、前記マンホールの上端における開口部を覆う蓋の下面に配置されているように構成してもよい。
【0012】
本態様によれば、受信アンテナを蓋の下面に配置することにより、水位検出システムをより一層容易に設置することができる。また、マンホール内の水面で反射された電波を含む合成波を、受信アンテナで効率良く受信することができる。
【0013】
例えば、本発明の第4の態様に係る水位検出システムでは、第1の態様~第3の態様のいずれか一態様において、前記高周波信号の周波数は、2.4GHzであるように構成してもよい。
【0014】
本態様によれば、電波法による規制を受けることなく、水位検出システムを容易に設置することができる。
【0015】
例えば、本発明の第5の態様に係る水位検出システムでは、第1の態様~第4の態様のいずれか一態様において、前記検出部は、前記受信電力の変化量に基づいて、前記マンホール内の水位を検出するように構成してもよい。
【0016】
本態様によれば、マンホール毎に検出部を個別に校正すること無く、マンホール内の水位を検出することができる。
【0017】
また、本発明の第6の態様に係る水位検出方法は、上下方向に延在するマンホール内の水位を検出するための水位検出方法であって、前記マンホールの内周壁には、前記上下方向に沿って間隔を置いて配置された複数のタラップが支持されており、前記水位検出方法は、前記複数のタラップのうち特定のタラップから前記マンホール内に電波が放射されるように、前記特定のタラップに高周波信号を供給するステップと、前記マンホール内に配置された受信アンテナにより、前記特定のタラップから放射され且つ前記マンホール内の水面で反射された電波を含む合成波を受信するステップと、前記受信アンテナで受信された前記合成波の受信電力に基づいて、前記マンホール内の水位を検出するステップと、を含む。
【0018】
本態様によれば、上述と同様に、水位検出システムを容易に且つ安価に設置することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様に係る水位検出システム等によれば、容易に且つ安価に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施の形態に係る水位検出システムが設置されるマンホールの一部を切り欠いて示す斜視図である。
【
図2】実施の形態に係る水位検出システムが設置されるマンホールの断面図である。
【
図3】
図2の状態よりも水位が上昇した状態での、実施の形態に係る水位検出システムが設置されるマンホールの断面図である。
【
図4】実施の形態に係る水位検出システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図5】実施の形態に係る水位検出システムの動作の流れを示すフローチャートである。
【
図6】実験1で用いた実験装置を示す斜視図である。
【
図7】実験1による受信電力の実験結果及びシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図8】実験1による電界強度分布のシミュレーション結果を示す図である。
【
図9】実験2による受信電力の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0022】
(実施の形態)
[1.マンホールの構成]
まず、
図1を参照しながら、実施の形態に係る水位検出システム2が設置されるマンホール4の構成について説明する。
図1は、実施の形態に係る水位検出システム2が設置されるマンホール4の一部を切り欠いて示す斜視図である。
【0023】
なお、
図1において、マンホール4の径方向において互いに直交する2方向をそれぞれX軸及びY軸、マンホール4の上下方向をZ軸とする。また、Z軸のプラス側を「上」、Z軸のマイナス側を「下」とする。
【0024】
実施の形態に係る水位検出システム2は、例えば
図1に示すような既存のマンホール4に設置される。
図1に示すように、マンホール4は、地下に敷設された下水道管6を管理するために、作業員等が地上から地下に出入りするための縦穴である。マンホール4は、蓋8と、管部10と、複数(例えば、10個)のタラップ12(12a,12b,12c,12d,12e,12f,12g,12h,12i,12j)を備えている。
【0025】
蓋8は、管部10の蓋受け部14(後述する)の上端における開口部、すなわちマンホール4の上端における開口部を着脱可能に覆うためのものである。蓋8は、鋳鉄等の金属で形成され、例えば円板状に形成されている。
【0026】
管部10は、例えばコンクリートで形成されており、地上から地下に向けて上下方向(Z軸方向)に延在している。管部10は、蓋受け部14と、斜壁部16と、直壁部18と、底壁部20とを有している。なお、後述する
図2に示すように、管部10内の底部は、下水道管6を流れる水の流路として機能する。
【0027】
蓋受け部14は、蓋8を下方から支持するためのものであり、円筒状に形成されている。蓋受け部14の上端における開口部は、蓋8により着脱可能に覆われている。斜壁部16は、蓋受け部14の下端から拡径しながら下方に延在している。直壁部18は、斜壁部16の下端から真っ直ぐ下方に延在している。また、直壁部18の下端よりもやや上側には、地下に敷設された下水道管6が接続されている。底壁部20は、直壁部18の下端を閉塞している。
【0028】
複数のタラップ12a~12jは、作業員等がマンホール4内を昇降する際に把持するための手すりである。複数のタラップ12a~12jは、管部10の内周壁(すなわち、蓋受け部14、斜壁部16及び直壁部18の各内周壁)に支持され、上下方向に間隔を置いて(例えば、30cm間隔で)配置されている。複数のタラップ12a~12jは、この順に上から並んで配置されている。最上段のタラップ12aは、蓋受け部14の上端の近傍に配置されている。また、最下段のタラップ12jは、直壁部18の下端の近傍に配置されている。
【0029】
複数のタラップ12a~12jの各々は、ステンレス等の金属で形成され、例えば略コの字状に形成されている。具体的には、複数のタラップ12a~12jの各々は、把持部22と、一対の支持部24,26とを有している。把持部22は、第1の方向(X軸方向)に延在しており、作業員等により把持される。一対の支持部24,26は、把持部22の長手方向における両端部からそれぞれ上記第1の方向に略垂直な第2の方向(Y軸方向)に延在し、管部10の内周壁に支持されている。なお、複数のタラップ12a~12jの各把持部22は、長手方向において略同一の長さを有し、且つ、互いに略平行に配置されている。また、複数のタラップ12a~12jは、互いに電気的に絶縁されている。
【0030】
[2.水位検出システムの構成]
次に、
図2~
図4を参照しながら、実施の形態に係る水位検出システム2の構成について説明する。
図2は、実施の形態に係る水位検出システム2が設置されるマンホール4の断面図である。
図3は、
図2の状態よりも水位が上昇した状態での、実施の形態に係る水位検出システム2が設置されるマンホール4の断面図である。
図4は、実施の形態に係る水位検出システム2の機能構成を示すブロック図である。
【0031】
水位検出システム2は、既存のマンホール4の複数のタラップ12a~12jを八木アンテナ(送信アンテナ)として利用することにより、マンホール4内の水位を検出するためのシステムである。
図2~
図4に示すように、水位検出システム2は、信号供給部28と、受信アンテナ30と、検出部32(
図4にのみ図示)とを備えている。なお、水位検出システム2は、複数のタラップ12a~12jを構成要件として備えていてもよい。
【0032】
信号供給部28は、例えばマンホール4の管部10の内周壁に配置されている。信号供給部28は、複数のタラップ12a~12jのうち最上段から2段目のタラップ12b(特定のタラップの一例)に電線34を介して電気的に接続されており、電線34を介してタラップ12bに高周波信号を供給する。これにより、
図2に示すように、タラップ12bからマンホール4内に電波が放射される。なお、高周波信号の周波数は、例えば2.4GHzである。
【0033】
この時、複数のタラップ12a~12jの各々は、送信アンテナとして機能する。より具体的には、複数のタラップ12a~12jの各々は、八木アンテナのエレメントとして機能する。すなわち、最上段のタラップ12aは八木アンテナの反射器エレメント(又は導波器エレメント)として機能し、2段目のタラップ12bは八木アンテナの放射器エレメントとして機能し、3段目から最下段までの複数のタラップ12c~12jの各々は八木アンテナの導波器エレメントとして機能する。これにより、放射器エレメントとしてのタラップ12bから放射された電波は、導波器エレメントとしての複数のタラップ12c~12jに沿って、マンホール4内の水面に向かう方向に強い指向性を有するようになる。その結果、タラップ12bから放射された電波は、主に、
図2及び
図3における実線の矢印R1で示すように、複数のタラップ12c~12jに沿って導かれながら、マンホール4内を下方に向けて進むようになる。その後、この電波は、
図2及び
図3における実線の矢印R1で示すように、マンホール4内の水面で反射して、マンホール4内を受信アンテナ30に向けて上方に進むようになる。
【0034】
なお、タラップ12bから放射された電波の一部は、
図2及び
図3における実線の矢印R2で示すように、管部10の内周壁で反射した後に、マンホール4内を受信アンテナ30に向けて進むようになる。また、タラップ12bから放射された電波の他の一部は、
図2及び
図3における実線の矢印R3で示すように、蓋8の下面(管部10内に対向する側の面)に向けて進み、蓋8の下面で反射した後に、受信アンテナ30に向けて進むようになる。また、タラップ12bから放射された電波の更に他の一部は、
図2及び
図3における実線の矢印R4で示すように、直接受信アンテナ30に向けて進むようになる。
【0035】
受信アンテナ30は、例えばダイポールアンテナで構成され、マンホール4の蓋8の下面に配置されている。受信アンテナ30は、タラップ12bから放射され且つマンホール4内の水面で反射された電波を含む合成波を受信する。なお、受信アンテナ30で受信される合成波は、(a)
図2及び
図3における実線の矢印R1で示すように、タラップ12bから放射され且つマンホール4内の水面で反射された電波と、(b)
図2及び
図3における実線の矢印R2で示すように、タラップ12bから放射され且つ管部10の内周壁で反射された電波と、(c)
図2及び
図3における実線の矢印R3で示すように、タラップ12bから放射され且つ蓋8の下面で反射された電波と、(d)
図2及び
図3における実線の矢印R4で示すように、タラップ12bから直接受信アンテナ30に向けて放射された電波とを合成したものである。以下の説明では、受信アンテナ30で受信される電波の合成波を、単に「電波」と呼ぶ。
【0036】
検出部32は、例えばマンホール4の内部に配置されており、電線(図示せず)を介して受信アンテナ30に電気的に接続されている。検出部32は、受信アンテナ30で受信された電波の受信電力に基づいて、マンホール4内の水位を検出する。より具体的には、検出部32は、受信アンテナ30で受信された電波の受信電力の変化量に基づいて、マンホール4内の水位を検出する。
【0037】
ここで、タラップ12bから放射される電波の指向性は、複数のタラップ12c~12jのうち導波器エレメントとして機能するタラップの数に比例して高くなる。また、受信アンテナ30で受信される電波の受信電力は、タラップ12bから放射される電波の指向性に比例して増大する。
【0038】
図2に示すように、マンホール4内の水面が比較的低い場合、例えば複数のタラップ12c~12jの全てが水面よりも上側にある(すなわち、複数のタラップ12c~12jの全てが水没していない)場合には、複数のタラップ12c~12jの全てが導波器エレメントとして機能する。この場合には、タラップ12bから放射される電波の指向性及び利得は最も高くなり、受信アンテナ30で受信される電波の受信電力は最も高くなる。
【0039】
一方、
図3に示すように、マンホール4内の水面が比較的高い場合、例えば複数のタラップ12c~12eが水面よりも上側にある(すなわち、複数のタラップ12f~12jが水没している)場合には、複数のタラップ12c~12eが導波器エレメントとして機能する。一方、複数のタラップ12f~12jは、水没することによって電波が著しく減衰することにより、導波器エレメントとして機能しない。この場合には、タラップ12bから放射される電波の指向性及び利得は、
図2に示す場合と比べて低くなる。なお、このことを、
図3における下向きの実線の矢印R1の太さを、
図2における下向きの実線の矢印R1よりも細くすることで表現している。また、受信アンテナ30で受信される電波の受信電力は、
図2に示す場合と比べて低くなる。
【0040】
したがって、受信アンテナ30で受信される電波の受信電力は、複数のタラップ12c~12jのうち水面よりも上側にあるタラップの数に比例して高くなる。すなわち、受信アンテナ30で受信される電波の受信電力は、マンホール4内の水位が低いほど高くなる。これにより、検出部32は、受信アンテナ30で受信された電波の受信電力の変化量を算出することにより、マンホール4内の水位を検出することができる。
【0041】
例えば、水位検出システム2により検出を開始した時点のマンホール4内の水位を初期水位としたとき、検出部32は、受信アンテナ30で受信された電波の受信電力の変化量(横軸を時間、縦軸を受信電力としたグラフの傾き)に基づいて、初期水位からの水位が低下又は上昇したことを検出することができる。
【0042】
[3.水位検出システムの動作]
次に、
図5を参照しながら、実施の形態に係る水位検出システム2の動作について説明する。
図5は、実施の形態に係る水位検出システム2の動作の流れを示すフローチャートである。
【0043】
図5に示すように、まず、信号供給部28は、タラップ12bに高周波信号を供給する(S101)。これにより、タラップ12bからマンホール4内に向けて電波が放射される(S102)。
【0044】
タラップ12bから放射された電波は、マンホール4内を下方に向けて進む。そして、この電波は、マンホール4内の水面で反射してマンホール4内を上方に向けて進み、受信アンテナ30で受信される(S103)。
【0045】
検出部32は、受信アンテナ30で受信された電波の受信電力に基づいて、マンホール4内の水位を検出する(S104)。なお、検出部32により検出された水位を示すデータは、例えばネットワークを介して地上の監視サーバ(図示せず)に送信される。これにより、監視サーバにおいて、マンホール4内の水位をリアルタイムに監視することができる。
【0046】
[4.効果]
上述したように、実施の形態に係る水位検出システム2では、既存のマンホール4の複数のタラップ12a~12jを八木アンテナ(送信アンテナ)として利用することにより、マンホール4内の水位を検出することができる。その結果、複数のタラップ12a~12jの耐腐食性を考慮する必要が無く、また送信アンテナの設置コストを削減することができ、水位検出システム2を安価に設置することができる。
【0047】
また、水位検出システム2を設置する際には、作業員等は、信号供給部28を例えば電線34を介して最上段から2段目のタラップ12bに電気的に接続し、且つ、受信アンテナ30を蓋8の下面に取り付ければよい。その結果、作業員等は、マンホール4内の底部まで降りて作業する必要が無く、水位検出システム2を容易に設置することができる。
【0048】
[5.実験1]
上述した通り、実施の形態に係る水位検出システム2では、受信アンテナ30で受信される電波の受信電力は、複数のタラップ12c~12jのうち水面よりも上側にあるタラップの数に比例して高くなる。このことを確認するために、以下の実験1を行った。以下、
図6~
図8を参照しながら、実験1について説明する。
【0049】
図6は、実験1で用いた実験装置を示す斜視図である。
図7は、実験1による受信電力の実験結果及びシミュレーション結果を示すグラフである。
図8は、実験1による電界強度分布のシミュレーション結果を示す図である。
【0050】
実験1では、
図6に示すような実験装置36を用いた。この実験装置36では、有底円筒状の容器(図示せず)の内部に手すり38を収容したものを用いた。容器は、ポリエチレンで形成されたバケツを用いた。手すり38は、一対の支柱40と、一対の支柱40の間に支持された10個のタラップ42とを有していた。一対の支柱40の各々は、ポリ塩化ビニルで形成された直線状のパイプであり、直径20mmであった。10個のタラップ42の各々は、ポリ塩化ビニルで形成された略コの字状のパイプの表面にアルミニウムテープを貼り付けたものであり、直径20mmであった。10個のタラップ42は、上下方向に間隔を置いて配置され、上下方向に隣り合う一対のタラップ42の配置間隔Wは、70mmであった。また、各タラップ42の把持部44の長さL1は310mm、各タラップ42の支持部46の長さL2は130mmであった。支柱40の上端と最上段のタラップ42との間の距離D1は、25mmであった。最上段のタラップ42と最下段のタラップ42との間の距離D2は、630mmであった。
【0051】
この実験装置において、最上段から2段目のタラップ42に周波数2.4GHz、送信電力0dBmの高周波信号を供給した状態で、容器内に水を注いで容器内の水位を徐々に上昇させることにより、最下段のタラップ42から順に水没させた。そして、手すり38の上方に配置した受信アンテナ(図示せず)で受信された電波の受信電力を計測した。
【0052】
上述した実験装置36を用いた実験1による受信電力の実験結果は、
図7の(a)に示す通りであった。
図7の(a)において、横軸は、容器内の水面よりも上側にあるタラップ42(八木アンテナのエレメント)の数(段)であり、縦軸は、受信アンテナで受信された電波の受信電力(dBm)である。
図7の(a)に示すように、容器内の水面よりも上側にあるタラップ42の数が増加するのに従い、受信アンテナで受信される電波の受信電力が高くなることが確認された。
【0053】
なお、上述した実験装置36を用いた実験1による受信電力のシミュレーション結果は、
図7の(b)に示す通りであった。
図7の(b)に示すシミュレーション結果においても、全体として、容器内の水面よりも上側にあるタラップの数が増加するのに従い、受信アンテナで受信される電波の受信電力が高くなることが確認された。
【0054】
また、上述した実験装置36を用いた実験1による電界強度分布のシミュレーション結果は、
図8の(a)~(i)に示す通りであった。
図8の(a)~(i)は、向かって右側に手すり38が配置されるように実験装置36を側方から見た状態での、容器内の電界強度分布を示している。
図8の(a)~(i)に示すように、容器内の水面よりも上側にあるタラップ42の数が増加するのに従い、容器内の電磁界強度が増大することが確認された。
【0055】
[6.実験2]
次に、以下の実験2を行った。実験2では、上述した実験装置36を用いて、最上段のタラップ42に周波数2.4GHz、送信電力0dBmの高周波信号を供給した状態で、容器内に水を注いで容器内の水位を徐々に上昇させることにより、最下段のタラップ42から順に水没させた。そして、手すり38の上方に配置した受信アンテナで受信された電波の受信電力の50回平均値を計測した。
【0056】
実験2による受信電力の実験結果は、
図9に示す通りであった。
図9は、実験2による受信電力の実験結果を示すグラフである。
図9において、横軸は、容器内で水没したタラップ42(八木アンテナのエレメント)の数(段)であり、縦軸は、受信アンテナで受信された電波の受信電力(dBm)である。
図9に示すように、実験1の実験結果と同様に、容器内の水面よりも上側にあるタラップ42の数が増加するのに従い、受信アンテナで受信される電波の受信電力が高くなることが確認された。
【0057】
(他の変形例等)
以上、本発明の実施の形態に係る水位検出システムについて説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態をそれぞれ組み合わせてもよい。
【0058】
上記実施の形態では、信号供給部28は、最上段から2段目のタラップ12bに高周波信号を供給したが、これに限定されず、タラップ12b以外の任意のタラップ12に高周波信号を供給してもよい。例えば、信号供給部28は、最上段のタラップ12aに高周波信号を供給してもよいし、最上段から3段目のタラップ12cに高周波信号を供給してもよい。
【0059】
また、上記実施の形態では、受信アンテナ30を蓋8の下面に配置したが、これに限定されず、例えば蓋受け部14の内周壁等、マンホール4内の任意の箇所に配置してもよい。
【0060】
また、上記実施の形態では、検出部32をマンホール4内に配置したが、これに限定されず、マンホール4外に配置してもよい。
【0061】
また、上記実施の形態では、信号供給部28をマンホール4内に配置したが、地上にいる作業者等が信号供給部28を遠隔で操作することにより、タラップ12bからの電波の放射のオン・オフを遠隔で切り替えるようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施の形態では、水位検出システム2をマンホール4内の水位を検出するのに適用したが、これに限定されず、例えば上水道設備や用水路等、任意の水関連設備内の水位を検出するのに適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、例えばマンホール内の水位を検出するための水位検出システム等として適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
2 水位検出システム
4 マンホール
6 下水道管
8 蓋
10 管部
12,12a,12b,12c,12d,12e,12f,12g,12h,12i,12j,42 タラップ
14 蓋受け部
16 斜壁部
18 直壁部
20 底壁部
22,44 把持部
24,26,46 支持部
28 信号供給部
30 受信アンテナ
32 検出部
34 電線
36 実験装置
38 手すり
40 支柱