(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118566
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】風車用ダイバータストリップ
(51)【国際特許分類】
F03D 80/30 20160101AFI20240826BHJP
H02G 13/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
F03D80/30
H02G13/00 040
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024914
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】591282205
【氏名又は名称】島根県
(71)【出願人】
【識別番号】391016509
【氏名又は名称】株式会社守谷刃物研究所
(71)【出願人】
【識別番号】597096161
【氏名又は名称】株式会社朝日ラバー
(71)【出願人】
【識別番号】518375672
【氏名又は名称】株式会社北拓
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 生吾
(72)【発明者】
【氏名】上野 敏之
(72)【発明者】
【氏名】守谷 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 延由
(72)【発明者】
【氏名】尾立 志弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 和男
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB35
3H178BB43
3H178BB62
3H178CC02
3H178CC04
3H178DD70X
(57)【要約】
【課題】 風車用ダイバータストリップの耐久性を向上させる。
【解決手段】 この発明の風車用ダイバータストリップは、ブレード4の先端に受雷用のレセプタ6を設置し、該レセプタ6の周辺に落雷時の電流をレセプタ6に導くダイバータストリップ9を配置し、該ダイバータストリップ9が弾力性を備えブレード4表面に接着される帯状で絶縁性素材からなる基材11と該基材11の表面に帯方向に近接して接着固定される多数の金属製のチップ12を列設して配置した風車用ダイバータストリップであって、上記チップ12の接着面側を含む表面を基材との接着性を保持させる表面処理を施している。
上記チップ12の素材は融点が2500℃以上の金属である。
また基材11はシリコーンゴム又はシリコーン樹脂からなり、チップ12としてモリブデンを主材とする金属を用い、その表面処理はニッケルメッキである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレード(4)の先端に受雷用のレセプタ(6)を設置し、該レセプタ(6)の周辺に落雷時の電流をレセプタ(6)に導くダイバータストリップ(9)を配置し、該ダイバータストリップ(9)が弾力性を備えブレード(4)表面に接着される帯状で絶縁性素材からなる基材(11)と該基材(11)の表面に帯方向に近接して接着固定される多数の金属製のチップ(12)を列設して配置した風車用ダイバータストリップであって、上記チップ(12)の接着面側を含む表面を基材との接着性を保持させる表面処理を施した風車用ダイバータストリップ。
【請求項2】
チップ(12)の素材が融点が2500℃以上の金属である請求項1に記載の風車用ダイバータストリップ。
【請求項3】
基材(11)がシリコーンゴム又はシリコーン樹脂からなり、チップ(12)としてモリブデンを主材とする金属を用い、その表面処理がニッケルメッキである請求項1に記載の風車用ダイバータストリップ。
【請求項4】
チップ(12)の列方向の長さを15mm以下、望ましくは10mm以下とし、隣接するチップ間の間隔を2mm以下に設定した請求項1に記載の風車用ダイバータストリップ。
【請求項5】
基材(11)の断面内にチップ(12)をインサートさせて一体成形するとともに、基材(11)の左右両側面とブレード表面との間に谷形のコーナー面からなるコーナースペース(16)を形成し、該コーナースペース(16)内にコーナー面に対して接着機能を備えたコーキング剤を充填してコーキング層(17)を形成した請求項1に記載の風車用ダイバータストリップ。
【請求項6】
コーキング層(17)又はコーキング層(17)と基材(11)両側端の上面を外側に向って傾斜する傾斜面に形成した請求項5に記載の風車用ダイバータストリップ。
【請求項7】
基材として予め外側に向かって山形に湾曲した形状に形成したものを接着固定した請求項1~5のいずれかに記載の風車用ダイバータストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は風車用ダイバータストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来風車のFRP製ブレードの先端に設置した受雷用レセプタに避雷回路を設置する技術として特許文献1,同2が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-117446号公報
【特許文献2】特開2021-107698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の発明は、風車のFRP製の各ブレードに多数のレセプタを分散配置し、各レセプタで受雷した雷電流をダウンコンダクタ(避雷導線)で地中に導くものであり、レセプタやダウンコンダクタを多数配設しなくてはならないという問題がある。
【0005】
これに対し特許文献2の発明は、ブレード表面に接着された帯状の絶縁部材に多数のプレート状の導電性チップを所定の間隔(チップ間隔)を介して接着して線状に列配したダイバータストリップにより、いずれかのチップで受雷した電流をチップ間に発生するプラズマを介して、ブレード片面あたり単一のレセプタに捕捉させ、ダウンコンダクタを介してアースさせるものである。
【0006】
ダイバータストリップは、元来航空機のレドームのような絶縁性外装の落雷被害防止に用いられるデバイスであり、絶縁部への落雷を導電性のボディーに導くものであるが、これを風車のブレードに適用するには耐久性が不足するという課題がある。
【0007】
その理由は航空機は飛行毎に点検整備を行い、必要があればその都度交換や修理が行われるが、風車ブレードの点検修理は高所作業となる他、設置場所が丘陵地や洋上であるため、半年から1年に1回程度のスパンでしか行われず、長期間の耐久性が求められるためである。この耐久性には落雷時に対する耐久性の他、耐候性(耐水性,耐塩害性,耐紫外線性等)も含まれる。
【0008】
さらに日本列島の日本海沿岸等では、世界的にも珍しい冬季雷と称される一般的な雷より10~100倍超の高エネルギーの雷が発生することが知られており、好風況のため風車設置量も多く、落雷損傷の可能性も高く且つ事故数も多いという問題がある。
【0009】
特に近時のダイバータストリップは、特許文献2に示すように柔軟性に富んだ樹脂テープからなる基材に厚さ数ミリの金属板の小片からなるチップを不連続的に接着配置したもので受雷し、チップ間で放電させて避雷電流を導くものである。このため風車用ダイバータストリップには、耐候性や強い風圧と雨雷の吹き付け等への物理的・機械的耐久性が長期間に亘って求められる。
【0010】
他方、上記のようなダイバータストリップが受雷した際の大気中の絶縁破壊においては、大気が電離したチップ間のプラズマがチップ上で連続形成されて電流の通り道(プラズマチャンネル)を形成することにより、雷電流を低い電気抵抗のチップより、さらに低抵抗のプラズマチャンネルに導くことが可能であれば、チップの溶損防止を図る上でも望ましいとされている。
【0011】
但し、ダイバータストリップ上の連続プラズマチャンネルは落雷時に必ず発生するわけではなく、すべての雷電流がチップ間毎の放電を経ながら通る場合もあり、その場合には金属チップが放電の熱に曝される。このような伝導様式となる場合には、金属チップの耐熱性がダイバータストリップの耐久性に大きな効果を持つこととなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の風車用ダイバータストリップは、第1にブレード4の先端に受雷用のレセプタ6を設置し、該レセプタ6の周辺に落雷時の電流をレセプタ6に導くダイバータストリップ9を配置し、該ダイバータストリップ9が弾力性を備えブレード4表面に接着される帯状で絶縁性素材からなる基材11と該基材11の表面に帯方向に近接して接着固定される多数の金属製のチップ12を列設して配置した風車用ダイバータストリップであって、上記チップ12の接着面側を含む表面を基材との接着性を保持させる表面処理を施したことを特徴としている。
【0013】
第2に、チップ12の素材が融点が2500℃以上の金属であることを特徴としている。
【0014】
第3に、基材11がシリコーンゴム又はシリコーン樹脂からなり、チップ12としてモリブデンを主材とする金属を用い、その表面処理がニッケルメッキであることを特徴としている。
【0015】
第4に、チップ12の列方向の長さを15mm以下、望ましくは10mm以下とし、隣接するチップ間の間隔を2mm以下に設定したことを特徴としている。
【0016】
第5に、基材11の断面内にチップ12をインサートさせて一体成形するとともに、基材11の左右両側面とブレード表面との間に谷形のコーナー面からなるコーナースペース16を形成し、該コーナースペース16内にコーナー面に対して接着機能を備えたコーキング剤を充填してコーキング層17を形成したことを特徴としている。この形態はダイバータストリップ全高が2mm以上となる場合に有効であるが、ダイバータストリップ全高が低い場合は、軟質の基材11の広がり部が出来るため、16,17を省いても基材11をめくりながらコーキング材を充填できる。
【0017】
第6に、コーキング層17又はコーキング層17と基材11両側端の上面を外側に向って傾斜する傾斜面に形成したことを特徴としている。
【0018】
第7に、基材として予め外側に向かって山形に湾曲した形状に形成したものを接着固定したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
上記のように構成される本発明によれば、基材に対するチップの架橋接着による接合性と耐候性を高め、多数列設したチップ上での落雷時のプラズマチャンネルの形成を容易にして雷電流のアースを容易にし且つ隣接チップ間の放電ダメージを減少させて長期に亙る避雷性能の維持ができる。また基材として予め外向きに湾曲形成したものを使用することにより、強い風圧や雨雪の吹き付け等による稼働中のダイバータストリップのブレード面からの剥離や変形防止ができる。
【0020】
また基材の両側面とブレード表面とのコーナー面にコーキング材を充填することにより、ダイバータストリップのブレードに対する接着力が増大して耐久性に優れる他、その上面を外側に向う緩傾斜面とすることにより、ダイバータストリップの風圧抵抗を抑制し、耐久性の向上とともに騒音発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】風車とダイバータストリップの基本構成を示す全体正面図である。
【
図2】風車ブレードの先端部におけるレセプタとダイバータストリップの基本構成を示す拡大正面図である。
【
図3】(A)は本発明のダイバータストリップの1形態を示す平面図、(B)は同じくその一部断面斜視図である。(C)は本発明のダイバータストリップの別の実施形態を示す平面図、(E)は同じくその横部断面図である。(D)は本発明のダイバータストリップの更に別の実施形態を示す平面図である。
【
図4】(A)はダイバータストリップを構成する異なる形状に成形された基材の平面図、(B)は(A)に示すブレード表面に取付けたレセプタと基材の1例を示す平面図である。
【
図5】本発明の試作品の雷電圧印加実験に使用した雷インパルス電流発生装置(10/350μs)の回路図である。
【
図6】(a)~(k)は本発明の雷電圧印加実験に使用された異なる形状のダイバータストリップの試作品の平面構造を示す写真である。
【
図7】全体として
図6におけるダイバータストリップ(試作品)(a)の雷電圧印加実験の結果を示し、(A),(B)は実験前後の変化を示すダイバータストリップの平面図(写真)、(C)は実験後のチップの溶損状態を示す(B)の要部拡大写真、(D)は当該実験時の入力電流波形を示すグラフである。
【
図8】(A)は
図6に示したダイバータストリップ(a)~(k)の50kV放電時の実験条件とそれぞれの溶損領域長を示す表である。(注:各チップの表記順は前記ダイバータストリップ(a)~(k)の表記順と対応する。)(B)は上記(A)の実験結果の放電ギャップ間隔(=整列方向のチップ長)と溶損領域長の関係をプロットしたグラフである。
【
図9】(A),(B)は異なるチップ長のダイバータストリップの初期放電とその後の放電継続時のプラズマ発生(CPC形成)情況の変化の違いを示す正面模視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1~2は本発明を適用する風車におけるダイバータストリップの基本構成を示し、地上の基礎部1上に立設されたタワー2の上端には発電から送電に至るまでの必要な諸装置を備えたナセル3が水平方向に取付けられ、該ナセル3の正面側には複数のブレード4が放射状に且つ回転可能に軸支されて取付けられ、ローターを構成している。
【0023】
ブレード4は通常絶縁部材であるFRPにより中空に成形されており、そのブレード4の先端(外周端)の表面にはレセプタ6がブレード4に固着された取付ブロック8を介して露出するように取付けられている。
【0024】
ブレード4の空洞内には上記レセプタ6に導かれた雷電流をアースするダウンコンダクタ(引下げ導線)7がレセプタ6に接続されて配線され、さらにブレード4のレセプタ6の近傍には、ブレード4の先端側表面で広範囲に受雷を捕捉するための帯状のダイバータストリップ9が配置され、受雷時の雷電流をレセプタ6に導く構成となっている。
【0025】
尚、
図2に示すダイバータストリップ9はブレード4の先端中心部(レセプタ6の取付位置)からブレード4の基端部方向に直線状に延設されているが、後述する
図4に示すように複数方向に分岐させ、その一部を湾曲させる場合もある。
【0026】
上記ダイバータストリップ9の基本構成は多くの点で前記特許文献2のもの(ガイド部9)と共通するが、以下図面に基づき各種雷電圧の印加実験の結果を含めて詳細に説明する。
【0027】
図3(A),(B)は本発明のダイバータストリップ9の実施形態を示す平面図とブレードへの取付状態の断面斜視図で、ブレード4の表面に貼り付け固定する帯状のダイバータストリップ9は、帯状のシリコーンゴムからなる基材11と、その基材11の表面に上面(表面)が露出するようにインサートされた導電性材料からなるプレート状のチップ12と、基材11の底面に貼着された両面テープ等からなる接着層13を備え、ブレード4への取付時に上記基材11の両側面とブレード表面とのコーナー面に充填されるコーキング層14とにより構成されている。
【0028】
図示する例では、チップ12は耐候性,耐熱性及び製造コストを考慮して高純度のモリブデン又はタングステン,レニウム,タンタル,オスミウム等の高融点金属が使用され、左右幅W=5~7mm,前後長(チップ長)L=2~50m/m,板厚t=1~2mm程度を想定しており、後述する雷電圧印加実験では、各列毎にそれぞれのチップ形状と共にチップ長L,左右幅Wを示す。基材11としては、耐候性,弾力性,成形性,チップ12との接合性,成形性,耐ソリュージョン性等に配慮しシリコーンゴムが使用される。
【0029】
チップ12として上記のような高融点の金属を使用するのは、受雷時の放電による溶損のダメージを低減するためであり、発明者の知見によれば、2500℃以上が望ましい。また上記に示したチップ素材の例はいずれも高融点であるが、実用的にはコスト面からモリブデン又はモリブデンを主材とした金属が現実的である。但し、モリブデンはチップとして連続プラズマチャンネルの生成能は銅やステンレススチールと同等であるものの、後述するように単体では架橋接着性に乏しく、耐候性も乏しいので、これらの課題を解決するため、ニッケルメッキ等による表面処理を施すことが望ましく、上記のようにチップ間隔の選択等も併せて対応することが望まれる。
【0030】
ダイバータストリップ9は、チップ12がその表面を露出させた状態で基材11内にインサートされるように、全体が受雷電流の誘導路を形成させる方向に帯状に且つ一体的にモールド成形される。チップ12は、このモールド成形時に基材11との架橋接着による整合性と耐候性を高めるための、例えば厚さ5~30μm程度のニッケルメッキ等の表面処理が施してある。基材11としてシリコーンゴムを使用することにより、自由な形状付与(成型性),耐候性(特に耐紫外線性),弾力性,耐エロ―ジョン性に富んだものにできる。
【0031】
基材11上面に埋設される多数のチップ12間の隣接間隔(チップ間隔)Sは、雷電流捕捉時のチップ間の放電を確実にするため5mm以下、望ましくは2mm以下にする。またチップ12に対する落雷時における電流値や発熱量を考慮すると、チップ12の電流方向の断面積3mm2以上、さらに好ましくは10mm2以上にすることが望ましい。
【0032】
上記のようにチップ12と共に成型された基材11の底面(貼着面)には、剥離シート付の両面テープからなる接着層13が貼着されており、施工時にはブレード表面に対してこの接着層13を貼着することにより所定の配置形状に位置決め固定される。
【0033】
また本例における基材11は、
図3(B)に示すようにテープ状断面の左右両側面が横(外側)向きのV字形の山形断面を形成して、全体として横長の六角形断面に成型されている。その結果、基材11の両側とブレード4の表面との間には内向きのV字形で谷形のコーナー面からなるコーナースペース16が形成される。
【0034】
ダイバータストリップ9をブレード表面に取付ける際には、上記コーナースペース16を含む基材11の両側に両者との接着機能を備えたペースト状の変性シリコーン等からなる充填剤をコーキング層17としてコーキング処理を施し、ダイバータストリップ9をブレード4の表面に接着固定する。
【0035】
この時、基材11のV字形突出部11aの上側の傾斜面に沿ってコーキング層17の上面を緩傾斜面に形成することにより、風車回転時の全体の接着力を高めるとともに、風圧抵抗を減少させて強度(耐久性)を保持し且つ騒音発生を抑制する構造にする。上記コーキング層17は硬化後も柔軟性や弾力性を保ち、ブレード表面のダイバータストリップ9の耐エロ―ジョン性その他の耐久性の保持にも有効である。
【0036】
図3(C)~(E)は本発明の他の実施形態を示し、同図(C),(E)は平面形状と寸法及び配置方法が異なる例の平面図で、同図(D)に示す断面形状は(C),(E)のいずれの場合も共通である。
【0037】
図3(C)に示す例では、チップ形状は(A)に示す場合と同様に長方形のものを長手方向に帯状に配置しており、
図3(C)では平面視概ね正方形のものを対角線方向に並列させて配置した例を示している。
【0038】
この例では
図3(D)に示すように基材11に対してチップ12をインサート成形する点は同図(A),(B)の場合と共通するが、コーキング層17を設けることなく基材11自体の両側端を円弧状の緩やかな下降傾斜面として全体を一体成形している。基材11の裏面中央に両面テープ等からなる接着層13を貼着形成している点も上記の例と共通する。
【0039】
図4はダイバータストリップ9の形状と取付け施工の例を示す平面図で、(A)は直線(又はI形)状に成型されたものとC型(又は円弧状)に成形されたものの平面図で、(B)はこれを二次加工(カット)してブレード4の表面に接着して取付けた状態の平面図である。
【0040】
図4(B)に示すようにレセプタ6を起点として放射状に配置することにより、落雷時の雷電流の捕捉範囲を広げるとともに、一部を外向きに円弧状に湾曲させることにより、風車回転時の風圧抵抗と騒音発生を抑制するとともに基材11のブレード表面からの剥離を防止するものである。
【0041】
後述するようにダイバータストリップ9を湾曲させて取付ける場合は、従来直線状のテープをその弾力性を利用して貼付時に湾曲させながら貼り付けたものでは、その弾力性で長期間の使用により、特に風上側のダイバータストリップ9の剥離が生じる問題があり、本例はこれを防止するものである。
【0042】
[基本実験]
図5は
図6以下に示すダイバータストリップの雷電圧印加実験(雷電流通電実験)に使用する株式会社昭電テクノセンター製の雷インパルス電流発生装置(10/350μs)の回路図を示し、この例では夏季雷模擬実験として約10C以下で人口雷を印加した。
【0043】
図6(a)~(k)は上記電流発生装置による実験に用いたチップ12の形状やサイズ等が異なるダイバータストリップの種類を示す写真であり、チップ素材としてはいずれもモリブデンを使用している。尚、同図(a)~(k)の写真は、目視確認を容易にするために小サイズのチップは拡大表示しているので、縮尺は異なる。
【0044】
図7(A)~(C)は、
図6(a)のダイバータストリップの雷電圧印加実験の結果を示す実験前後の状態変化と入力電流波形を示し、同図(C)は同図(B)の部分拡大図で、隣接チップ間の溶融ダメージの状態と溶融部の寸法計測(評価)方法を示しており、他の(b)~(k)の評価も同様な方法で行ったため、
図6(b)~(k)に対応する実験結果を示す写真及び入力電流波形の図面は表示を省略している。
【0045】
次に
図6(a)~(k)に示す各ダイバータストリップの実験条件と実験結果について説明する。尚、各実験例に付した(a)~(k)の符号は、
図6中の(a)~(k)の各ダイバータストリップを使用したことを表しているが、このうち(a)~(h)は本発明者等によって製造されたチップであるのに対し、(i)~(k)は海外製の購入品(いずれもモリブデン使用)で、
図8(A),(B)ではメーカー別にWGS(小型サイズ),WGL(大型サイズ),LMと表示されており、いずれもニッケルメッキを施している。また特にモールド成型又は製品と明示したケース以外の基材は長さ100mmの両面テープを使用している。
【0046】
さらに上記(i)~(k)のダイバータストリップの放電実験では、チップ間の放電が正確に行われているか否かを確認できなかったことの他、各種データが不足している部分があるため、以下の説明では実験後に確認できたデータのみを示した。
【0047】
(a)実施例1:チップ素材モリブデン,チップ形状30×7×1mmの長方形,長辺に沿って間隔約1mm両面テープ上に整列させ全長100mm以上となるように配置した。ストリップ両端に人工雷を印加した結果,金属チップのギャップ部に端部から約5mmの溶融痕が認められた。中央部15mmほどには熱影響が認められなかった(波高値:59.1kA,電荷量:10.2C)。
【0048】
(b)チップ素材モリブデン,チップ形状20×7×1mm,長辺に沿って間隔約1mmで両面テープ上に整列させ全長100mm以上となるように配置した。ストリップ両端に人工雷を印加した結果,金属チップのギャップ部に端部から約5mmの溶融痕が認められた。しかし中央部5mmほどには熱影響が認められなかった(波高値:63.5kA,電荷量:10.8C)。
【0049】
(c)チップ素材モリブデン,チップ形状10×7×1mm,長辺に沿って間隔約1mmで両面テープ上に整列させ全長100mm以上となるように配置した。ストリップ両端に人工雷を印加した結果,金属チップのギャップ部に端部から約2mmの溶融痕が認められた。しかし中央部5mmほどには熱影響が認められなかった(波高値:54.2kA,電荷量:11.3C)。
【0050】
(d)チップ素材モリブデン,チップ形状5×5×1mmの正方形,長辺に沿って間隔約1mmで両面テープ上に整列させ全長100mm以上となるように配置した。ストリップ両端に人工雷を印加した結果,金属チップのギャップ部に端部から約0.5mmの溶融痕が認められた。しかし中央部5mmほどには熱影響が認められなかった(波高値:57.4kA,電荷量:11.5C)。
【0051】
(e)チップ素材モリブデン,チップ形状φ10×1mmの円形,長辺に沿って間隔約1mmで両面テープ上に整列させ全長100mm以上となるように配置した。ストリップ両端に人工雷を印加した結果,金属チップのギャップ部に端部から約3mmの溶融痕が認められた(波高値:56.7kA,電荷量:11.1C)。
【0052】
(f)チップ素材モリブデン,チップ形状φ5×1mmの円形,長辺に沿って間隔約1mmで両面テープ上に整列させ全長100mm以上となるように配置した。ストリップ両端に人工雷を印加した結果,金属チップのギャップ部に端部から約1mmの溶融痕が認められた(波高値:53.3kA,電荷量:11.4C)。
【0053】
(g)チップ素材モリブデン,チップ形状短軸2mm,長軸7mmのひし形,厚さ1mm,短軸に沿って間隔約1mmで両面テープ上に整列させ全長100mm以上となるように配置した。ストリップ両端に人工雷を印加した結果,ほとんど溶融痕が認められなかった(波高値:59.1kA,電荷量:11.1C)。
【0054】
(h)チップ素材モリブデンに厚さ2ミクロンのニッケルメッキを施したもの,チップ形状10×10×1.5mmの正方形,間隔約1mmでシリコーンゴムによるインサート成型を行って製品化されたものを,全長100mm以上となるように配置した。金属チップ面はシリコーンゴムで覆われていない。チップ側面と底面は厚さ1mm以上のシリコーンに包埋されている。ストリップ両端に人工雷を印加した結果,金属チップのギャップ部に端部から約2mmの溶融痕が認められた。シリコーンと金属の間には架橋接合による接着が行われているが,ギャップ部近傍以外の底部,側部の接着部に接着力低下は認められなかった(波高値:49.6kA,電荷量:9.6C)。
【0055】
(i)チップ形状直径10mmの円形,波高値:61.1,-53.1kA,電荷量:-6.6C
【0056】
(j)チップ形状30mmの円形,波高値:51.1kA,電荷量:10.9C
【0057】
(k)チップ形状十字形,チップ長5.0mm,幅6.5mmの十字形,波高値:44.2kA,電荷量:8.1C
【0058】
[補充実験]
上記(h)に示す実験を補うものとして、充電電圧100kVの条件で実験を行った結果(波高値:97.5kA,電荷量:25.0C)、50kV充電時の試験結果と大きな差は見られなかった。
【0059】
また基材11をモールド成型した製品タイプのダイバータストリップに50kVの放電を3回行う実験も行ったが、チップの溶損量は増えるものの、ダイバータストリップとしての形状は保たれており、冬季雷に多い電荷量10C程度の落雷に対する耐久性は十分にあることが明らかになった。
【0060】
[基本実験に対する評価]
以上示した基本実験の写真データやチップの溶損部の計測結果によれば、同じような形状でも各ダイバータストリップのチップサイズ小さいほど、ダイバータストリップの溶損は少ないことが明らかとなった。今回製作したダイバータストリップの中で、最も面積の小さいひし形のダイバータストリップ(g)には目立った溶損はなかった。
【0061】
試験後の金属チップの光学顕微鏡による観察結果によれば、溶融ダメージが表面の変形として観察できる。各チップ形状について放電ダメージを示す溶融領域長を測定し、まとめたものを
図8(A)に示し、この結果を電流方向のチップ長,すなわちチップ間ギャップを隔てる間隔との関係をプロットしたものを同図(B)に示している。
【0062】
この結果よりチップ長が20mm以上では溶融領域長は3.3mm程度で飽和するが、20mmより短いチップ長では徐々に小さくなっていることがわかる(
図9(A)参照)。
【0063】
チップ間のギャップ部で絶縁破壊が生じると、放電により大気が電離しており、プラズマ状態となっている。雷放電が通過するプラズマ領域はプラズマチャンネルと称され、電気抵抗が非常に低く、電流が流れやすいとされている。チップ長を短くすることでチップ間に生じる微小なプラズマチャンネル同士が接続し、連続プラズマチャンネル(CPC)を生じさせることでダイバータストリップのダメージを低減し得ると考えられ、今回の結果もこれを裏付けるものと解される。
【0064】
ただし、放電ダメージ低減にCPC生成が効果的であるとしても、CPCが生成するチップ長を閾値として一気にダメージが減るわけではなく、
図9(B)に示すようにチップ長10mm以下ではチップ長が短くなるに従っての比例的な関係となっている。この理由として、第1にCPCがつながるまでの過渡的なダメージがチップ長に比例して生じる、第2に、CPC生成後もCPCとチップに電流が分流しており、チップ長によりその分流が変化する、との二つが考えられる。
【0065】
[チップ表面の被覆実験]
発明者等は、ダイバータストリップの金属チップの耐候性の向上に、チップ表面を耐水剤で被覆することの有効性につき実験したので、以下その内容につき説明する。
本実験では、チップ素材をモリブデンとし、中心にチップ形状10×10×1.5mmの正方形のものを1個,両端に10×1.5mm断面の帯状電極を配置し、間隔約1mmでシリコーンゴムによるインサート成型を行った。金属チップは全面シリコーンによって覆われており、上面は最も薄く、0.2mmの厚さとした。チップ側面と底面は厚さ1mm以上のシリコーンに包埋されている。ストリップ両端に基本実験と同様な条件で人工雷を印加した結果、金属チップがはじけ飛び、ギャップ部で直径5mmの半円状に金属が溶融,消失する大きな損傷が認められた。
【0066】
[塩水噴霧実験]
洋上に設置する風車は勿論であるが、山腹や丘陵地でも沿岸近傍に設置されることが多いため、塩水に対する耐久試験として塩水噴霧実験も行ったので、その内容につき説明する。
【0067】
(1)ニッケルメッキ製品(表面露出)
本例では、チップ素材をモリブデンとし、厚さ2ミクロンのニッケルメッキを施したものを用い、チップ形状10×10×1.5mmの正方形,間隔約1mmでシリコーンゴムによるインサート成型を行い、全長50mm以上となるように配置した。金属チップ面はシリコーンゴムで覆われていない。チップ側面と底面は厚さ1mm以上のシリコーンに包埋されている。このストリップにJIS Z 2371:2000に準拠した塩水噴霧試験を14日間実施した。その結果劣化はほとんど認められず、シリコーンと金属部の架橋接着は健全なままであった。
【0068】
(2)シリコーンゴム被覆
チップ素材はモリブデン単体とし、チップ形状10×10×1.5mmの正方形,間隔約1mmでシリコーンゴムによるインサート成型を行い、全長50mm以上となるように配置した。金属チップは全面シリコーンによって覆われており、上面は最も薄く、0.2mmの厚さとした。チップ側面と底面は厚さ1mm以上のシリコーンに包埋されている。このストリップにJIS Z 2371:2000に準拠した塩水噴霧試験を14日間実施した。その結果モリブデンはシリコーンにより完全に包埋されているにもかかわらず表面が酸化により黒化しており、架橋接着面が容易に剥離した。シリコーンの透湿により酸化が進行したものと考えられる。
【0069】
[テープ状のダイバータストリップを湾曲貼着した場合の耐久実験]
従来広く採用されているストレートのテープ状基材のものを湾曲変形させて貼付設置した場合に経時変化で剥離するトラブルの確認のため、実際の風車ブレードに貼着してフィールド試験したので、その内容につき説明する。
【0070】
チップ素材はモリブデン単体とし、チップ形状10×10×1.5mmの正方形,間隔約1mmでシリコーンゴムによるインサート成型を行い、全長500mm以上となるように配置した。金属チップは全面シリコーンによって覆われており、上面は最も薄く、0.2mmの厚さとした。チップ側面と底面は厚さ1mm以上のシリコーンに包埋されている。このストリップを1.5MW級の風力発電機ブレード(翼長約40m)の先端部レセプタ周辺に敷設した。敷設は両面テープで仮止めしたのち変性シリコーン剤でストリップ周辺を接着,成形し塗装を行った。敷設にはほぼ直線の部分と、曲率500mm程度で曲線状に湾曲変形させて施工した部分があったが、直線部は敷設後1年であっても接着は健全であったのに対し、曲線部の特に風圧を受ける風上側がより大きく剥離を生じていた。
【符号の説明】
【0071】
4 ブレード
6 レセプタ
8 ダイバータストリップ
11 基材
12 チップ
16 コーナースペース
17 コーキング層