(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118587
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化装置および内燃機関の排気浄化方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20240826BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20240826BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
F01N3/08 B
F01N3/24 L ZAB
B01D53/94 400
B01D53/94 222
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024947
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚哉
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
【Fターム(参考)】
3G091AA18
3G091AB02
3G091AB05
3G091AB13
3G091BA14
3G091CA05
3G091CA17
3G091CA27
3G091EA01
3G091EA05
3G091EA18
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3G091GB09W
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3G091HA36
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3G091HA42
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4D148DA10
4D148DA13
4D148DA20
(57)【要約】
【課題】分散板や電熱体の温度を用いることなく、SCR触媒に流入するアンモニア量を制御する。
【解決手段】尿素水添加量算出部103は、尿素添加弁80からSCR触媒へ供給する尿素水の添加量を算出する。尿素添加弁から供給された尿素水の一部は、通電によって発熱する分散板によって加熱され、アンモニアを生成してSCR触媒に流入する。NH3センサ115は、SCR触媒に流入するアンモニアを検出する。NH3割合算出部105は、NH3センサ115の検出値と尿素水の添加量から、尿素水のアンモニア生成割合を算出する。通電量制御部106は、SCR触媒の温度から目標アンモニア生成割合を算出し、アンモニア生成割合が目標アンモニア生成割合より大きいとき、分散板の印加電圧が低くなるよう、電圧調整回路90を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に設けられた選択還元触媒と、
前記選択還元触媒の上流に設けられ、前記排気通路に尿素水を供給する尿素供給手段と、
前記尿素供給手段と前記選択還元触媒との間の前記排気通路に設けられた電気式加熱部材と、
前記選択還元触媒に流入するアンモニアを検出するNH3検出手段と、
前記電気式加熱部材を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記NH3検出手段で検出したアンモニアに基づいて、前記尿素供給手段から供給された尿素水のアンモニア生成割合を算出する算出部と、
前記アンモニア生成割合に基づいて、前記電気式加熱部材の通電量を制御する制御部と、を含む、内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記選択還元触媒の温度であるSCR温度を取得する温度取得手段を、さらに備え、
前記制御装置は、
前記SCR温度に基づいて、目標アンモニア生成割合を求め、
前記制御部は、前記アンモニア生成割合が前記目標アンモニア生成割合より大きいとき、前記通電量を小さくする、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記NH3検出手段は、排気中のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサである、請求項1または請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記NH3検出手段は、前記尿素供給手段の上流の前記排気通路に設けた第1NOxセンサの検出値と、前記電気式加熱部材と前記選択還元触媒との間の前記排気通路に設けた第2NOxセンサの検出値とから、前記選択還元触媒に流入するアンモニアを検出するよう構成されている、請求項1または請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記NH3検出手段は、前記尿素供給手段によって供給された尿素水の分解反応で生成された、アンモニア以外の物質を検出することにより、前記選択還元触媒に流入するアンモニアを検出する、請求項1または請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
排気通路に設けられた選択還元触媒と、前記選択還元触媒の上流に設けられ前記排気通路に尿素水を供給する尿素供給手段と、前記尿素供給手段と前記選択還元触媒との間の前記排気通路に設けられた電気式加熱部材と、を備えた内燃機関の排気浄化方法であって、
前記選択還元触媒に流入するアンモニア量に基づいて、前記尿素水のアンモニア生成割合を算出することと、
前記アンモニア生成割合に基づいて、前記電気式加熱部材の通電量を制御することと、を含む、内燃機関の排気浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関の排気浄化装置、および内燃機関の排気浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-172912号公報(特許文献1)には、内燃機関の排気通路に尿素添加弁から尿素水を供給し、尿素水が分解されて生成されたアンモニア(NH3)を還元剤として利用し、選択還元触媒によって排気中のNOxを還元浄化することが記載されている。この特許文献1では、尿素添加弁と選択還元触媒との間に、電熱体で加熱可能な分散板を設け、分散板の温度が所定の下限温度より高い温度になるよう、電熱体の通電量を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、分散板の温度を、排気温度、尿素水添加量、等に基づいて推定し、分散板の温度が所定の下限温度より高い温度になるよう制御している。これにより、尿素添加弁から供給された尿素水をより確実にアンモニアに分解(変換)して、選択還元触媒に供給している。
【0005】
分散板や電熱体に尿素水が付着すると、局所的に温度が低下する。このため、分散板や電熱体の温度の推定精度が低下する懸念がある。また、温度センサを用いて分散板や電熱体の温度を検出する場合であっても、分散板や電熱体の全体に渡って温度を検出することは困難を伴う。
【0006】
本開示の目的は、分散板や電熱体の温度を用いることなく、選択還元触媒に流入するアンモニア量を制御することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の内燃機関の排気浄化装置は、排気通路に設けられた選択還元触媒と、選択還元触媒の上流に設けられ排気通路に尿素水を供給する尿素供給手段と、尿素供給手段と選択還元触媒との間の排気通路に設けられた電気式加熱部材と、選択還元触媒に流入するアンモニアを検出するNH3検出手段と、電気式加熱部材を制御する制御装置と、を備える。制御装置は、NH3検出手段で検出したアンモニアに基づいて、尿素供給手段から供給された尿素水のアンモニア生成割合を算出する算出部と、アンモニア生成割合に基づいて電気式加熱部材の通電量を制御する制御部と、を含む。
【0008】
この構成によれば、電気式加熱部材が、尿素供給手段と選択還元触媒との間の排気通路に設けられている。電気式加熱部材によって、尿素供給手段から供給された尿素水の分解が促進されて、アンモニアが生成され、選択還元触媒に流入する。制御装置の算出部は、NH3検出手段で検出したアンモニアに基づいて、尿素供給手段から供給された尿素水のアンモニア生成割合を算出する。制御部は、アンモニア生成割合に基づいて電気式加熱部材の通電量を制御する。尿素水のアンモニア生成割合を用いて電気式加熱部材の通電量を制御するので、分散板や電熱体の温度を用いることなく、選択還元触媒に流入するアンモニア量を制御することができる。
【0009】
内燃機関の排気浄化装置は、さらに、選択還元触媒の温度であるSCR温度を取得する温度取得手段を、備えてもよい。制御装置は、SCR温度に基づいて目標アンモニア生成割合を求め、制御部は、アンモニア生成割合が目標アンモニア生成割合より大きいとき、通電量を小さくするように制御してもよい。
【0010】
尿素供給手段から供給された尿素水の多くは、選択還元触媒の内部で分解され、アンモニアが生成される。尿素水の一部は、選択還元触媒に流入する前に、分解されてアンモニアを生成する。電気式加熱部材の温度が高いほど、尿素水の熱分解が促進するので、選択還元触媒に流入するアンモニア量が多くなる。このため、電気式加熱部材の温度が高いほど、尿素供給手段から供給された尿素水のアンモニア生成割合が大きくなる。選択還元触媒に流入する尿素水のアンモニア生成割合が大きいほど、NOxの浄化率が向上する。ところで、選択還元触媒の温度が高くなると、NOx浄化率が向上し、選択還元触媒に流入する尿素水のアンモニア生成割合が小さくても、十分なNOx浄化率を得ることができる。
【0011】
この構成によれば、選択還元触媒の温度であるSCR温度に基づいて目標アンモニア生成割合を求め、アンモニア生成割合が目標アンモニア生成割合より大きいとき、電気式加熱部材の通電量を小さくする。これにより、十分なNOx浄化率を維持しつつ、電気式加熱部材の消費電力の増加を抑制できる。
【0012】
本開示において、NH3検出手段は、排気中のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサであってよい。
【0013】
NH3検出手段は、尿素供給手段の上流の排気通路に設けた第1NOxセンサの検出値と、電気式加熱部材と選択還元触媒との間の排気通路に設けた第2NOxセンサの検出値とから、選択還元触媒に流入するアンモニアを検出するものであってもよい。
【0014】
NOxセンサは、排気中のNOxを窒素(N2)と酸素(O2)に分解して、酸素(O2)分圧を検出することにより、NOxを検出している。排気中にアンモニア(NH3)が存在すると、NH3がNOxセンサの電極で酸化されNOが生成する。NOxセンサは、NH3から生成されたNOも検出するため、NOxを含む排気中にアンモニア(NH3)が存在すると、NOxセンサの検出値は、アンモニア量に相当する分だけ大きくなる。
【0015】
この構成によれば、第2NOxセンサは、排気中のNOxに加えて、尿素水から生成されたアンモニア(NH3)も検出するので、第1NOxセンサと第2NOxセンサの検出値から、選択還元触媒に流入するアンモニアを検出できる。
【0016】
NH3検出手段は、尿素供給手段によって供給された尿素水の分解反応で生成された、アンモニア以外の物質を検出することにより、選択還元触媒に流入するアンモニアを検出するようにしてもよい。
【0017】
尿素水がアンモニアに分解される際、イソシアン酸(HNCO)や二酸化炭素(CO2)が生成される。したがって、尿素水がアンモニアに分解される際に生成された、イソシアン酸や二酸化炭素を検出することにより、アンモニアの生成を検出することが可能である。
【0018】
この構成によれば、尿素供給手段によって供給された尿素水の分解反応で生成された、アンモニア以外の物質を検出しても、選択還元触媒に流入するアンモニアを検出することができる。
【0019】
本開示の内燃機関の排気浄化方法は、排気通路に設けられた選択還元触媒と、選択還元触媒の上流に設けられ排気通路に尿素水を供給する尿素供給手段と、尿素供給手段と選択還元触媒との間の排気通路に設けられた電気式加熱部材と、を備えた内燃機関の排気浄化方法である。排気浄化方法は、選択還元触媒に流入するアンモニア量に基づいて、尿素水のアンモニア生成割合を算出することと、アンモニア生成割合に基づいて、電気式加熱部材の通電量を制御することと、を含む。
【0020】
この方法によれば、電気式加熱部材によって、尿素供給手段から供給された尿素水の分解が促進されて、アンモニアが生成され、選択還元触媒に流入する。選択還元触媒に流入するアンモニア量に基づいて尿素水のアンモニア生成割合を算出し、アンモニア生成割合に基づいて電気式加熱部材の通電量を制御する。尿素水のアンモニア生成割合を用いて電気式加熱部材の通電量を制御するので、分散板や電熱体の温度を用いることなく、選択還元触媒に流入するアンモニア量を制御することができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、分散板や電熱体の温度を用いることなく、選択還元触媒に流入するアンモニア量を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施の形態に係る内燃機関の排気浄化装置の全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】本実施の形態において、ECUに構成された機能ブロックを示す図である。
【
図3】本実施の形態における目標アンモニア生成割合算出マップを示す図である。
【
図4】ECUで実行される通電量制御の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】変形例における内燃機関の排気浄化装置の一部を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る内燃機関の排気浄化装置の全体構成を概略的に示す図である。
図1を参照して、エンジン(内燃機関)1は、排気浄化装置70を備えた圧縮着火式内燃機関(ディーゼルエンジン)である。エンジン1は、たとえば、車両の駆動源として用いられる。エンジン1は、エンジン本体10のシリンダ(気筒)12に形成された燃焼室に、燃料噴射弁(インジェクター)14から燃料を噴射し、圧縮自着火を行う内燃機関である。本実施の形態において、エンジン1は4気筒である。エンジン1の吸気通路20には、エアクリーナ22、インタークーラ24、および絞り弁(ディーゼルスロットル弁)26が設けられており、エアクリーナ22で異物が除去された新気(空気)は、ターボ過給器30のコンプレッサ32で過給(圧縮)され、インタークーラ24で冷却されて、吸気マニホールド28に供給され、吸気ポートから各燃焼室に供給される。
【0025】
燃料タンク40には、燃料が貯留されている。燃料タンク40内の燃料は、フィードポンプ41によって高圧燃料ポンプ42へ供給され、高圧燃料ポンプ42から吐出された高圧の燃料が燃料通路43を介してコモンレール44に圧送される。コモンレール44に蓄えられた高圧の燃料が、インジェクター14から燃焼室(筒内)に噴射される。
【0026】
燃焼室から排出される排気(排ガス)は、排気マニホールド50に集められ、排気通路52を介して、外気に放出される。また、排気の一部は、EGR(Exhaust Gas Recirculation)通路60を介して、吸気マニホールド28に還流される。EGR通路60には、EGRクーラ62とEGR弁64が設けられる。
【0027】
排気通路52には、ターボ過給器30のタービン34が設けられ、タービン34の下流に、排気浄化装置70として、酸化触媒71、DPF(Diesel Particulate Filter)72、選択還元触媒(以下、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒とも称する)73、および酸化触媒74が設けられている。酸化触媒71は、排ガスに含まれるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、SOF(Soluble Organic Fraction:可溶性有機成分)を酸化して、浄化する。また、酸化触媒71は、DPF72に捕集したパティキュレート・マター(PM)を燃焼除去する際に、供給されたHCを燃焼(酸化)して排ガス温度を上昇させる。
【0028】
DPF72の下流の排気通路52には、SCR触媒73が配置されている。SCR触媒73は、たとえば、セラミック担体に銅(Cu)イオン交換ゼオライトを触媒として担持したものであり、アンモニア(NH3)を還元剤として用いることにより、高いNOx浄化率を示すものである。還元剤として利用するアンモニアは、SCR触媒73の上流の排気通路52に供給した尿素水を加水分解および熱分解することにより生成する。SCR触媒73の上流の排気通路には、尿素添加弁(尿素水噴射インジェクター)80が設けられ、尿素水タンク81からポンプ82によって圧送される尿素水を、尿素添加弁80から、SCR触媒73の上流の排気通路52に噴射する。なお、尿素添加弁80が、本開示の「尿素供給手段」の一例に相当する。
【0029】
SCR触媒73の下流の排気通路52には、酸化触媒74が設けられており、SCR触媒73から排出された(スリップした)アンモニアを酸化して浄化する。
【0030】
尿素添加弁80とSCR触媒73との間の排気通路52には、分散板200が配置されている。分散板200は、通電を行うことにより発熱する電熱体と一体に構成されている。分散板200には、電圧調整回路90およびバッテリ(直流電源)91からなる電源回路が接続される。電圧調整回路90は、たとえば、スイッチと可変抵抗から構成され、分散板200への印加電圧を制御可能である。電圧調整回路90は、DCDCコンバータから構成されてもよい。分散板200は、本開示の「電気式加熱部材」の一例に相当する。
【0031】
ECU(Electronic Control Unit)100は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)からなるメモリ102、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)等を含み、メモリ102に記憶された情報、各種センサからの情報に基づいて所定の演算処理を実行し、インジェクター14、絞り弁26、尿素添加弁80、電圧調整回路90、等を制御する。ECU100は、本開示の「制御装置」の一例に相当する。
【0032】
ECU100に入力される各種センサとしては、たとえば、エンジン回転速度センサ111、アクセルペダルセンサ112、エアフローメータ113、SCR温度センサ114、NH3センサ115、等である。エンジン回転速度センサ111は、エンジン1の回転速度NEを検出する。アクセルペダルセンサ112は、ユーザによるアクセルペダル操作量(以下「アクセル開度」ともいう)APを検出する。エアフローメータ113は、吸気通路20に設けられ、エンジン1の吸気量(吸入空気量)Gaを検出する。SCR温度センサ114は、SCR触媒73の温度(たとえば、触媒床温)Tcを検出する。
【0033】
NH3センサ115は、分散板200とSCR触媒73との間の排気通路に設けられ、SCR触媒73に流入するアンモニア(NH3)濃度Caiを検出する。NH3センサ115は、たとえば、隔膜電極式センサであってよい。
【0034】
ECU100は、たとえば、アクセル開度APとエンジン回転速度NEとから燃料噴射量Fpを算出し、燃料噴射量Fpの燃料が燃焼室に噴射されるよう、インジェクター14を制御する。ECU100は、燃料噴射量Fp(あるいは、アクセル開度AP)とエンジン回転速度NEから、エンジン1から排出されるNOx量を推定し、NOx量に応じて添加量Fuを算出し、添加量Fuの尿素水が排気通路52に供給されるよう、尿素添加弁80を制御する。なお、エンジン1から排出されるNOx濃度を検出し、NOx濃度に基づいて、添加量Fuを算出するようにしてもよい。
【0035】
尿素添加弁80から供給された尿素水は、分散板200によって分散されるとともに微粒化される。また、尿素水は、分散板200(および排気熱)によって加熱される。これにより、尿素添加弁80から供給された尿素水の一部が加熱分解および加水分解され、アンモニア(NH3)が生成する。そして、生成されたアンモニアは、SCR触媒73へ流入する。また、分解されなかった尿素水は、SCR触媒73に流入し、SCR触媒73内部で熱分解および加水分解されアンモニアを生成する。
【0036】
SCR触媒73に流入するアンモニアが多いほど、SCR触媒73のNOx浄化率が向上する。このため、尿素水の熱分解および加水分解が促進するよう、たとえば、特許文献1に開示されたように、分散板200の温度を下限温度より高い温度になるよう通電することが好ましい。この場合、排気温度等のパラメータを用いて分散板200の温度を推定すると、分散板200に付着した尿素水によって局所的に温度が低下する。また、温度センサを用いて分散板200の温度を検出する場合であっても、分散板の全体に渡って温度を検出することは難しく、精度よく分散板200の温度の検出することができない懸念がある。
【0037】
本実施の形態では、分散板200の温度を用いることなく、SCR触媒73に流入するアンモニアが適切な量になるよう制御する。
【0038】
図2は、本実施の形態において、ECU100に構成された機能ブロックを示す図である。尿素水添加量算出部103は、尿素添加弁80から供給される尿素水の添加量Fuを算出する。添加量Fuは、上述のように、燃料噴射量Fp(あるいは、アクセル開度AP)とエンジン回転速度NEから、エンジン1から排出されるNOx量を推定し、NOx量に基づいて添加量Fuをする。
【0039】
NH3割合算出部104は、NH3センサ115で検出したアンモニア濃度Cai(SCR触媒73に流入するアンモニア濃度Cai)と添加量Fuから、尿素添加弁80から供給した尿素水のアンモニア生成割合Arを算出する。たとえば、吸入空気量Gaから排気流量Egを求め(Eg=Gaとして算出してよい)、排気流量Egとアンモニア濃度Caiから、SCR触媒73に流入するアンモニア量Aqiを求める。添加量Fuの尿素水から生成されるアンモニア量Aqfを算出する。そして、アンモニア生成割合Ar[%]を「Ar=(Aqi/Aqf)×100」として算出する。
【0040】
SCR温度取得部105は、SCR触媒73の温度Tcを取得する。温度Tcは、SCR温度センサ114の検出値であってよく、エンジン1の運転状態から推定したものであってよい。
【0041】
通電量制御部106は、分散板200の印加電圧Vh(電圧調整回路90の出力電圧)を制御する。通電量制御部106は、NH3割合算出部104で算出したアンモニア生成割合Arと目標アンモニア生成割合Artとを比較することにより、分散板200の印加電圧を制御する。
【0042】
SCR触媒73のNOx浄化率は、SCR触媒73に流入する尿素水のアンモニア生成割合Arが高いほど高くなる傾向を示し、アンモニア生成割合Arは、分散板200の温度が高いほど多くなる。また、アンモニア生成割合Arが同じ値であっても、SCR触媒73の温度Tcが高いほど、NOx浄化率が高くなる。このため、SCR触媒73に要求されるNOx浄化率を達成するには、SCR触媒73の温度Tcに応じた適切なアンモニア生成割合Arが存在する。
【0043】
図3は、本実施の形態における、目標アンモニア生成割合Art算出マップを示す図である。
図3において、縦軸は、SCR触媒73のNOx浄化率(%)であり、横軸は、温度Tc(℃)であり、SCR触媒73の活性化温度以上の温度を示している。このマップは、予め実験等によって作成され、メモリ102に格納されている。通電量制御部106は、SCR温度取得部105で取得した温度Tcを用いて、この目標アンモニア生成割合Art算出マップから、目標アンモニア生成割合Artを算出する。本実施の形態では、SCR触媒73に要求されるNOx浄化率は90(%)以上であればよく、NOx浄化率が90(%)の目標アンモニア生成割合Art(
図3において、太枠の欄)を、温度Tcに基づいてマップ検索により算出する。そして、通電量制御部106は、アンモニア生成割合Arが目標アンモニア生成割合Artより大きいときには、分散板200の印加電圧Vhが低下するよう、電圧調整回路90を制御する。また、通電量制御部106は、アンモニア生成割合Arが目標アンモニア生成割合Artより小さいときには、分散板200の印加電圧Vhが上昇するよう、電圧調整回路90を制御する。
【0044】
図4は、ECU100で実行される通電量制御の処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジン1の作動中、所定期間毎に繰り返し実行される。ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10では、尿素添加弁80から尿素水を供給しているか否かを判定する。エンジン1の始動後SCR触媒73が暖機され、温度Tcが活性化温度を超えると、尿素添加弁80から尿素水が排気通路52へ供給される。温度Tcが活性化温度未満のときには、尿素添加弁80から尿素水が供給されないので、否定判定され、今回のルーチンを終了する。なお、この場合、分散板200には、通電が行われない(電圧が印加されない)。温度Tcが活性化温度を超え、尿素添加弁80から尿素水が供給されているときには、肯定判定されS11へ進む。
【0045】
S11では、尿素添加弁80から供給される尿素水の添加量Fuを算出する。添加量Fuは、上述のように、エンジン1から排出されるNOx量に基づいて算出する。
【0046】
続くS12では、尿素添加弁80から供給した尿素水のアンモニア生成割合Arを算出する。NH3センサ115で検出したアンモニア濃度Cai(SCR触媒73に流入するアンモニア濃度Cai)と排気流量Egとから、SCR触媒73に流入するアンモニア量Aqiを求める。S141で算出した添加量Fuの尿素水から生成されるアンモニア量Aqfを算出する。そして、アンモニア生成割合Ar(=(Aqi/Aqf)×100)を算出し、S13へ進む。
【0047】
S13では、SCR触媒73の温度Tcをパラメータとして、目標アンモニア生成割合Art算出マップ(
図3)から、目標アンモニア生成割合Artを算出する。本実施の形態では、目標アンモニア生成割合Art算出マップにおいて、NOx浄化率90(%)の値が採用される。
【0048】
続くS14では、アンモニア生成割合Arが、「目標アンモニア生成割合Art+d1」より大きいか否かを判定する。なお、d1は、通電量制御のハンチングを抑制する不感帯を設定するための値である。アンモニア生成割合Arが、「目標アンモニア生成割合Art+d1」よりも大きい場合(Ar>Art+d1)、肯定判定されS15へ進む。アンモニア生成割合Arが、「目標アンモニア生成割合Art+d1」以下の場合(Ar≦Art+d1)、否定判定されS16へ進む。
【0049】
S15では、分散板200の印加電圧VhがΔvだけ低くなるよう(電圧調整回路90の出力電圧がΔvだけ低くなるよう)、電圧調整回路90を制御する。たとえば、現在の印加電圧Vhであるとき、「Vh-Δv」を新たな印加電圧Vhに設定し、電圧調整回路の出力電圧が新たな印加電圧Vhになるよう、電圧調整回路90を制御し、今回のルーチンを終了する。
【0050】
S16では、アンモニア生成割合Arが、「目標アンモニア生成割合Art-d2」より小さいか否かを判定する。なお、d2は、通電量制御のハンチングを抑制する不感帯を設定するための値である。アンモニア生成割合Arが、「目標アンモニア生成割合Art+d1」よりも小さい場合(Ar<Art-d2)、肯定判定されS17へ進む。アンモニア生成割合Arが、「目標アンモニア生成割合Art-d2」以上の場合(Ar≧Art-d2)、否定判定されS18へ進む。
【0051】
S17では、分散板200の印加電圧VhがΔvだけ高くなるよう(電圧調整回路90の出力電圧がΔvだけ高くなるよう)、電圧調整回路90を制御する。たとえば、現在の印加電圧Vhであるとき、「Vh+Δv」を新たな印加電圧Vhに設定し、電圧調整回路の出力電圧が新たな印加電圧Vhになるよう、電圧調整回路90を制御し、今回のルーチンを終了する。
【0052】
S18では、現在の印加電圧Vhを維持するよう、電圧調整回路90を制御し、今回のルーチンを終了する。なお、不感帯を設定するための値d1およびd2は、同じ値であってもよい。また、不感帯を設けることなく、通電制御を行ってもよい。
【0053】
本実施の形態によれば、通電を行うことにより発熱する電熱体と一体に構成された分散板200が、尿素添加弁80とSCR触媒73との間の排気通路52に設けられている。分散板200によって、尿素添加弁80から供給された尿素水の分解が促進されて、アンモニアが生成され、SCR触媒73に流入する。ECU100のNH3割合算出部104は、NH3センサ115で検出したアンモニアに基づいて、尿素添加弁80から供給された尿素水のアンモニア生成割合Arを算出する。通電量制御部106は、アンモニア生成割合Arに基づいて分散板200の通電量を制御する。尿素水のアンモニア生成割合Arを用いて分散板200の通電量を制御するので、分散板や電熱体の温度を用いることなく、SCR触媒73に流入するアンモニア量を制御することができる。
【0054】
本実施の形態によれば、SCR触媒73の温度Tcに基づいて目標アンモニア生成割合Artを求め、アンモニア生成割合Arが目標アンモニア生成割合Artより大きいとき、分散板200の通電量を小さくしている。これにより、十分なNOx浄化率を維持しつつ、分散板200の消費電力の増加を抑制できる。
【0055】
上記実施の形態では、NOx浄化率が90(%)の目標アンモニア生成割合Art(
図3において、太枠の欄)を、温度Tcに基づいてマップ検索により算出していた。排気浄化装置70に求められるNOx浄化率に応じて、適宜、目標アンモニア生成割合Artをマップ検索してよい。
【0056】
(変形例)
図5は、変形例における内燃機関の排気浄化装置の一部を概略的に示す図である。
図5は、DPF72とSCR触媒73との間の排気通路52を示している。その他の構成は、
図1の内燃機関の排気浄化装置と同様である。
【0057】
変形例では、分散板201の上流に電熱体202が設けられている。電熱体202は、電圧調整回路90から供給される電力によって発熱する。電熱体202は、たとえば、ハニカム構造のセラミック発熱体であってよい。分散板201は、電熱体202によって加熱されてもよい。尿素添加弁80から供給された尿素水は、電熱体202によって加熱され、分散板201によって分散される。これにより、尿素添加弁80から供給された尿素水の一部が加熱分解および加水分解され、アンモニア(NH3)が生成する。なお、分散板201が電熱体202によって加熱される場合には、尿素水は、分散板201によっても加熱される。
【0058】
第1NOxセンサ116が、尿素添加弁80の上流の排気通路52に設けられており、第2NOxセンサ117が、分散板201および電熱体202とSCR触媒73との間の排気通路52に設けられている。
【0059】
NOxセンサは、排気中のNOx(主に、NO)を窒素(N2)と酸素(O2)に分解して、酸素(O2)分圧を検出することにより、NOxを検出している。排気中にアンモニア(NH3)が存在すると、NH3がNOxセンサの電極で酸化されNOが生成する。NOxセンサは、NH3から生成されたNOも検出するため、NOxを含む排気中にアンモニア(NH3)が存在すると、NOxセンサの検出値は、アンモニア量に相当する分だけ大きくなる。
【0060】
第2NOxセンサ117は、排気中のNOxに加えて、尿素水から生成されたアンモニア(NH3)も検出する。第2NOxセンサ117の検出値から第1NOxセンサ116の検出値を減算した値に基づいて、SCR触媒73に流入するアンモニア濃度を求めることができる。
【0061】
この変形例では、S12(
図4)において、第1NOxセンサ116と第2NOxセンサ117の検出値から求めたアンモニア濃度Cai(SCR触媒73に流入するアンモニア濃度Cai)に基づいて、SCR触媒73に流入するアンモニア量Aqiを算出し、尿素添加弁80から供給した尿素水のアンモニア生成割合Arを算出する。通電量制御(
図4)における他の処理は、上記実施の形態と同様である。
【0062】
この変形例によれば、第1NOxセンサ116と第2NOxセンサ117の検出値から、SCR触媒73に流入するアンモニアを検出し、電熱体202の通電量を制御することが可能になる。なお、変形例において、電熱体202は、分散板201の下流に配置されていてもよい。
【0063】
上記実施形態におけるNH3センサ115、変形例における第1NOxセンサ116および第2NOxセンサ117に代えて、尿素添加弁80によって供給された尿素水の分解反応で生成された、アンモニア以外の物質を検出することにより、SCR触媒73に流入するアンモニアを検出するようにしてもよい。
【0064】
尿素添加弁80から供給された尿素水に含まれる尿素((NH2)2CO)は、熱分解により、アンモニア(NH3)とイソシアン酸(HNCO)を生成する。
【0065】
(NH2)2CO→NH3+HNCO
また、尿素水に含まれる尿素、および、熱分解で生成されたイソシアン酸は、加水分解により、アンモニアおよび二酸化炭素(CO2)を生成する。
【0066】
(NH2)2CO+H2O→2NH3+CO2
HNCO+H2O→NH3+CO2
なお、加水分解は、熱分解より高温で開始される。
【0067】
たとえば、エンジン1の運転領域毎に、SCR触媒73に流入するイソシアン酸(HNCO)の濃度とSCR触媒73に流入するアンモニア(NH3)の濃度との関係を、予め実験等により求めておき、マップ化する。そして、SCR触媒73に流入するイソシアン酸を検出することにより、マップ検索によって、SCR触媒73に流入するアンモニアを検出するようにしてもよい。
【0068】
分散板200とSCR触媒73の間の排気通路52に二酸化炭素(CO2)センサを設ける。吸入空気量Gaと燃料噴射量Fpとに基づいて、排気中のCO2濃度を算出する。そして、CO2センサで検出したCO2濃度から排気中のCO2濃度を減算することにより、加水分解により尿素から生成したCO2濃度を算出する。エンジン1の運転領域毎に、加水分解により尿素から生成したCO2濃度とSCR触媒73に流入するアンモニア(NH3)の濃度との関係を、予め実験等により求めておき、マップ化する。そして、加水分解により尿素から生成したCO2濃度を用いて、マップ検索によって、SCR触媒73に流入するアンモニアを検出するようにしてもよい。
【0069】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
1 エンジン、10 エンジン本体、12 シリンダ、14 インジェクター、20 吸気通路、22 エアクリーナ、24 インタークーラ、26 絞り弁、28 吸気マニホールド、30 ターボ過給器、32 コンプレッサ、34 タービン、40 燃料タンク、41 フィードポンプ、 42 高圧燃料ポンプ、43 燃料通路、44 コモンレール、45 燃料通路、50 排気マニホールド、52 排気通路、60 EGR通路、62 EGRクーラ、64 EGR弁、70 排気浄化装置、71 酸化触媒、72 DPF、73 選択還元触媒(SCR触媒)、74 酸化触媒、80 尿素添加弁、81 尿素タンク、82 ポンプ、90 電圧調整回路、91 バッテリ、100 ECU、101 CPU、102 メモリ、103 尿素水添加量算出部、104 NH3割合算出部、105 SCR温度取得部、106 通電量制御部、111 エンジン回転速度センサ、112 アクセルペダルセンサ、113 エアフローメータ、114 SCR温度センサ、115 NH3センサ、116 第1NOxセンサ、117 第2NOxセンサ、200,201 分散板、202 電熱体。