(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118597
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】接着剤組成物、プリプレグ及び繊維強化プラスチック
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20240826BHJP
C09J 125/04 20060101ALI20240826BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20240826BHJP
C09J 167/00 20060101ALI20240826BHJP
C09J 7/21 20180101ALI20240826BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20240826BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J125/04
C09J175/04
C09J167/00
C09J7/21
C09J7/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024964
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】591225545
【氏名又は名称】ニッカン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】須永 敏行
(72)【発明者】
【氏名】並木 莉奈子
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA07
4J004AA13
4J004AA14
4J004AA15
4J004AA17
4J004AB04
4J004CA01
4J004CA07
4J004CB01
4J004CE01
4J004FA08
4J040DB021
4J040EC041
4J040EC061
4J040ED001
4J040EF001
4J040HB22
4J040MA11
4J040MB03
(57)【要約】
【課題】被着体を構成する素材に関係なく該被着体に密着可能な接着剤層を形成することができる接着剤組成物又は接着剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂と酸無水物と熱硬化性樹脂とを含有する接着剤組成物であって、前記接着剤組成物の固形分100質量%に対して熱可塑性樹脂を40質量%以上含有し、前記酸無水物と前記熱硬化性樹脂との合計含有量100質量部に対して、酸無水物の含有量が10質量部以上45質量部以下含有することを特徴とする接着剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と酸無水物及び熱硬化性樹脂を含有する接着剤組成物であって、前記接着剤組成物の固形分100質量%に対して、前記熱可塑性樹脂の含有量が40質量%以上、かつ、前記酸無水物と前記熱硬化性樹脂との合計含有量100質量部に対して、酸無水物の含有量が10質量部以上45質量部以下であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
前記酸無水物と前記熱硬化性樹脂との合計含有量100質量部に対して、酸無水物の含有量が15質量%以上45質量%以下である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
80℃以上130℃未満の温度で被着体に接着することが可能である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
80℃以上130℃以下における溶融粘度が2000Pa・s以上100000Pa・s以下である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、低極性熱可塑性樹脂である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
接着剤組成物を完全に硬化させた完全硬化物の比重が1.2以下である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
23℃におけるタックが100gf以上である請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
10GHz帯において比誘電率が5以下であり、誘電正接が0.050以下である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項11】
未処理の被着体に対して接着可能な請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の接着剤組成物と繊維とを含有するプリプレグ。
【請求項13】
前記繊維が、炭素繊維、ガラス繊維及び有機繊維からなる群より選ばれる1種以上である、請求項12に記載のプリプレグ。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか一項に記載の接着剤組成物の完全硬化物と繊維とを含有する繊維強化プラスチック。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか一項に記載の接着剤組成物からなる層と、繊維強化プラスチックからなる繊維強化プラスチック層とを備えた接着剤層付き繊維強化プラスチック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、該接着性組成物を用いて形成されたプリプレグ、及び該プリプレグを用いて形成された繊維強化プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、繊維強化プラスチックを構造物の表面等の被着体に対して接着させる接着剤組成物としては、特許文献1のようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、繊維強化プラスチックの用途拡大に伴って、繊維強化プラスチックを様々な素材からなる被着体に対して接着することが求められており、特に、水酸基などの極性のある官能基を有しない又はほとんど有しない低極性樹脂等からなる被着体に対して繊維強化プラスチックを十分に接着することができる接着剤組成物はいまだ実現されておらず、低極性樹脂等からなる被着体への接着は、被着体表面にプラズマ処理やコロナ処理などの物理的表面処理、もしくは、プライマーなどの化学的表面処理などを施してから行われることが一般的である。
【0005】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、被着体の種類に関らず(あらゆる被着体の中でも特に接着が困難とされているポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)に対しても)十分に接着可能であり、また、表面処理などの該被着体の前処理なしに該被着体に高強度で接着可能な接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]熱可塑性樹脂と酸無水物及び熱硬化性樹脂を含有する接着剤組成物であって、前記接着剤組成物が溶媒を含有する場合には該溶媒を除いた固形分100質量%に対して、前記接着剤組成物が溶媒を含有しない場合には前記接着剤組成物100質量%に対して、前記熱可塑性樹脂の含有量が40質量%以上、かつ、前記酸無水物と前記熱硬化性樹脂との合計含有量100質量部に対して、酸無水物の含有量が10質量部以上45質量部以下であることを特徴とする接着剤組成物。
[2]前記接着剤組成物の固形分100質量%に対して前記酸無水物の含有量が5質量%以上30質量%以下である、[1]に記載の接着剤組成物。
[3]80℃以上130℃未満の温度で被着体に接着することが可能である、[1]又は[2]に記載の接着剤組成物。
[4]80℃以上130℃以下における溶融粘度が2000Pa・s以上100000Pa・s以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の接着剤組成物。
[5]前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、[1]~[4]のいずれかに記載の接着剤組成物。
[6]前記熱可塑性樹脂が、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂である、[1]~[5]のいずれかに記載の接着剤組成物。
[7]前記熱可塑性樹脂が、低極性熱可塑性樹脂である、[1]~[6]の何れかに記載の接着剤組成物。
[8]接着剤組成物を完全に硬化させた完全硬化物の比重が1.2以下である、[1]~[7]の何れかに記載の接着剤組成物。
[9]23℃におけるタックが100gf以上である[1]~[8]の何れかに記載の接着剤組成物。
[10]10GHz帯における接着剤組成物を完全に硬化させた完全硬化物の比誘電率が5.0以下であり、誘電正接0.050以下である、[1]~[9]の何れかに記載の接着剤組成物。
[11]未処理の被着体に対して接着可能な[1]~[10]のいずれかに記載の接着剤組成物。
[12][1]~[11]のいずれかに記載の接着剤組成物と繊維とを含有するプリプレグ、または、接着剤付き繊維強化プラスチック、または、繊維強化プラスチック。
[13][12]に記載の複合材に含まれる繊維が、炭素繊維、ガラス繊維及び有機繊維からなる群より選ばれる1種以上である、繊維強化プラスチック。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被着体の素材に関係なく、特に接着が困難とされているポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)に対して高い接着性を有する接着剤組成物を提供できる。
より具体的に説明すると、本願発明に係る接着剤組成物は、比較的その性質をコントロールしやすい熱可塑性樹脂の含有量を前記接着剤組成物の固形分100質量%に対して40質量%以上としているので、この熱可塑性樹脂として被着体の性質とをできるだけ近いものを使用することによって接着剤組成物の被着体への接着性を従来よりも大幅に向上させることができる。特に、PEやPPなどの低極性の被着体に対して、低極性の熱可塑性樹脂を使用することによって、接着剤組成物の活性エネルギー(自由エネルギー)を被着体の界面での活性エネルギーにできるだけ近づけて分子間のバランスを取り、被着体に対する接着剤組成物の濡れ性を向上させることができる。その結果、接着剤組成物と被着体との接触界面における分子間力を向上させて、従来技術では接着剤層を貼り付けることが難しかった低極性のポリオレフィン樹脂等からなる被着体等に対しても、十分な接着性を発揮する接着剤組成物を提供することが可能となる等、従来は接着が難しいと考えられている被着体にも十分な接着力を発揮する接着剤組成物を提供することができる点で本願発明は非常に画期的なものである。
また、熱可塑性樹脂と酸無水物及び熱硬化性樹脂を含有する接着剤組成物であって、前記酸無水物と前記熱硬化性樹脂との合計含有量を100質量部とした場合の、酸無水物の含有量が10質量部以上45質量部以下であるものとしているので、接着剤組成物の接着性をさらに向上させるだけでなく、タック性、溶融粘度を好適な範囲とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について、実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0009】
本実施形態に係る接着剤組成物は、例えば、繊維強化プラスチックを構造物などの被着体に対して接着するための接着剤層を形成するために用いられるものであり、熱可塑性樹脂と、酸無水物と、熱硬化性樹脂を含有するものである。この明細書において接着剤組成物とは、これら成分を適切な有機溶媒などに溶解した溶液(ワニス)やスラリー、さらにこれらワニスやスラリーから有機溶媒をある程度揮発させたゲル状のものや溶媒ほとんど含有しない又は全く含有しない固体状の組成物をも含む概念である。この接着剤組成物は、そのまま単独で被着体に塗布したり貼付けたりして使用することもできるが、用途に応じて任意の形態に加工してから使用することもできる。加工例としては、例えば、接着剤組成物からなる層と離型紙等の支持材とを備えた接着剤シートや、接着剤組成物を繊維シート等に含浸させたプリプレグや繊維強化プラスチック等を挙げることができる。また、接着剤組成物を用いて作成した接着剤層と繊維強化プラスチック層とを有する接着剤層付き繊維強化プラスチックの製造にも好適に使用することができる。
以下、接着剤組成物を構成する各成分について説明する。
【0010】
<熱可塑性樹脂>
本実施形態に係る熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン骨格を有するスチレン系熱可塑性樹脂、ウレタン骨格を有するウレタン系熱可塑性樹脂、アクリル骨格を有するアクリル系熱可塑性樹脂、ポリエステル骨格を有するポリエステル系熱可塑性樹脂及びオレフィン骨格を有するオレフィン系熱可塑性樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂は単独で用いることとしても良いし、2種類以上を組み合わせて併用するものとしても良い。
【0011】
スチレン系熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系単量体からなる重合体と、共役ジエン合物からなる重合体とをブロック単位とするブロック共重合体を挙げることができる。
【0012】
前記ブロック共重合体において、スチレン系単量体からなる重合体であるブロック単位を構成するスチレン系単量体としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられる。
前記ブロック共重合体において、共役ジエン系単量体からなる重合体であるブロック単位を構成する共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等を挙げることができる。
【0013】
前記ブロック共重合体の具体例としては、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン(スチレン制御分布)-スチレン共重合体、スチレン-イソブチレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ピリジン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-エチレン共重合体、スチレン-エチレン-スチレン共重合体、スチレン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、ポリ(α-メチルスチレン)-ポリブタジエン-ポリ(α-メチルスチレン)共重合体、ポリ(α-メチルスチレン)-ポリイソプレン-ポリ(α-メチルスチレン)共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、スチレン-クロロプレン共重合体等を挙げることができる。中でも原料調整や作業性の観点から、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン-ブチレン(スチレン制御分布)-スチレンブロック共重合体(SEB(S)S)及びスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
前記ブロック共重合体は、水素添加されて水素添加ブロック共重合体となっていることが好ましく、水素添加はブロック共重合体全体にわたって施されていても良いし、一部のみに施されているものとしても良い。
水素添加することにより不飽和結合が減少し、耐熱性、耐候性及び機械的特性が得られる。この観点から、水素添加率は80%以上100%以下であることが好ましく、90%以上100%以下であることがより好ましい。
【0015】
ブロック共重合体の水素添加物はさらに酸変性されていても良く、該酸変性は、特に限定されるものではないが、例えば水素添加物にカルボキシル基又は酸無水基を導入することによって行うことができる。上記のカルボキシル基又は酸無水基の導入は、それ自体公知の方法に従って行うことができる。具体的には、例えば、水素添加物と、アクリル酸、メタクリル酸等で例示される不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマール酸、ハイミック酸、イタコン酸等で例示される不飽和ジカルボン酸;あるいは無水マレイン酸、無水ハイミック酸、無水イタコン酸等で例示される不飽和ジカルボン酸の無水物とを、有機過酸化物及び溶媒の存在下又は非存在下で加熱して、グラフト反応させることにより得ることができる。また、このような処理を施したブロック共重合体は商業的に入手することもできる。
【0016】
オレフィン系熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレンープロピレン共重合樹脂、エチレン-ブテン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合樹脂等のオレフィン系エラストマー等を挙げることができる。
ウレタン系熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル系又はポリエーテル系のもの等を挙げることができる。
アクリル系熱可塑性樹脂としては、アクリル酸エステル重合体、メタクリル酸メチル重合体、アクリル酸ブチル重合体及び/又はそれらのブロック共重合体を挙げることができる。
ポリエステル系熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル-ポリエステル型又はポリエステル-ポリエーテル型のものを挙げることができる。
【0017】
前述した熱可塑性樹脂の中でも、電波透過性に優れ、比重が低いことで知られているスチレン系熱可塑性樹脂、もしくは、オレフィン系熱可塑性樹脂を使用することが好ましく、スチレン系熱可塑性樹脂を使用することがより好ましい。
また、官能基として水酸基等の極性を有する極性官能基を含まないか又はその含有量が比較的低い低極性熱可塑性樹脂を用いるものとしても良い。例えば、このような低極性熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、酸変性等による極性基の添加がなされていないスチレン系熱可塑性樹脂やオレフィン系熱可塑性樹脂等を挙げることができる。
【0018】
前述したような電波透過性に優れ、比重が小さく、低極性である熱可塑性樹脂の市販品としては、旭化成株式会社製のタフテックHシリーズ、タフテックMシリーズ、タフテックPシリーズや、クラレ製のセプトンシリーズ、東洋紡製のバイロンシリーズ、バイロンURシリーズ等を挙げることができる。
【0019】
本実施形態に係る接着剤組成物における熱可塑性樹脂の含有量は、接着剤組成物から溶媒を完全に揮発させた場合に残留する固形物(接着剤組成物の固形分)100質量%に対して、40質量%以上であり、好ましくは40質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは40質量%以上55質量%以下である。
熱可塑性樹脂の含有量を前述した範囲とすることによって、接着剤組成物の十分な接着力と成型加工性を両立することができる。
また、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂と比較して比重の小さい熱可塑性樹脂の含有量を40質量%以上とすることにより、接着剤組成物全体の比重を小さく調整することができる。接着剤組成物が使用される電子機器などの用途では小型軽量化の傾向にある為、比重は1.2以下とすることが良く、より好ましくは1.1以下、更に好ましくは1.0以下である。
また、溶融粘度が低い程被着体への濡れ性が向上するため、比較的溶融粘度が低い熱可塑性樹脂の含有量を前述した範囲にすることによって、成型加工性を向上させることができる。溶融粘度は後述するように、2000Pa・s以上100000Pa・s以下であることが好ましく、10000Pa・s以下であることがより好ましい。溶融粘度は分子量が小さいほど低くなるため、他の成分に比べて高分子量である熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂に比べて分子量が比較的小さい熱硬化性樹脂や酸無水物を混合して接着剤組成物を調整する際に熱可塑性樹脂の含有量を65質量%以下とすれば、80~130℃における溶融粘度が高くなりすぎることを抑えることができるので好ましい。なお、高分子量の熱可塑性樹脂の分子量とは、例えば、およそ10000以上のもののことを指す。また、熱硬化樹脂の分子量は一般的におよそ1000以下であり、酸無水物の分子量は一般的にはおよそ500以下である。
【0020】
<酸無水物>
本実施形態に係る酸無水物としては、例えば、脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物、芳香族骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は前記酸無水物の変性物等を使用することができる。
【0021】
上記芳香族骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物としては、例えば、スチレン/無水マレイン酸コポリマー、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ピロメリット酸無水物、トリメリット酸無水物、4,4‘-オキシジフタル酸無水物、フェニルエチニルフタル酸無水物、グリセロールビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、及びトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸等を挙げることができる。
【0022】
上記脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物としては、例えば、多脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物、又はテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られる脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物等を挙げることができる。これら酸無水物の使用により、硬化物の柔軟性、並びに硬化物の耐湿性及び接着性がより一層高くなる。
【0023】
上記脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物としては、メチルナジック酸無水物、ジシクロペンタジエン骨格を有する酸無水物又は該酸無水物の変性物等も挙げられる。
【0024】
酸無水物は、メチルナジック酸無水物又はトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸であることも好ましい。メチルナジック酸無水物又はトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸の使用により、硬化物の耐水性が高くなる。
【0025】
耐熱性をより一層高める観点からは、酸無水物は、芳香族骨格又は脂環式骨格を有することが好ましい。上記酸無水物は、芳香族骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物を含むか、又は、脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物を含むものであることが好ましい。
【0026】
また、溶融粘度を低減するという観点から、酸無水物は分子量が小さいほど良く、低分子の酸無水物を用いることが好ましい。さらに、温度20℃で液状のものがより好ましい。
【0027】
前述したような酸無水物の市販品としては、新日本理化製のリカシッドMH-700、リカシッドMH-700G、リカシッドMH、リカシッドMH-T、リカシッドHNA-100、リカシッドMTA-15、リカシッドOSA、リカシッドDDSAや、昭和電工マテリアルズ製のHN-2200、HN-2000、HN-5500、MHAC-P、DIC製のEPICLON B-570等を挙げることができる。
【0028】
本実施形態に係る接着剤組成物における酸無水物の含有量は、接着剤組成物中における酸無水物と熱硬化性樹脂との合計含有量100質量に対して10質量部以上45質量部以下であり、15質量部以上45質量部以下であることがより好ましく、15質量部以上40質量部以下であることが特に好ましい。酸無水物の含有量を、前述した範囲とすることによって、接着剤組成物の接着性やタック性、溶融粘度を好適な範囲とすることができる。
さらに酸無水物の接着剤組成物の固形分100質量%に対しての含有量は、5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。酸無水物の含有量を5質量%以上30質量%以下の範囲とすることによって、接着剤組成物及び該接着剤組成物を用いて作成した接着剤シートやプリプレグ等の表面にタック性を持たせることができるため好ましい。加えて、酸無水物の接着剤組成物の固形分100質量%に対する含有量を30質量%以下とすることによって、加熱処理を行っても未反応で残留する酸無水物を低減することができるので好ましい。
【0029】
<熱硬化性樹脂>
本実施形態に係る熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂は単独で用いることとしても良いし、2種類以上を組み合わせて併用するものとしても良い。これらの中でも、硬化剤の選択肢が豊富で反応性制御や物性制御が行いやすく、接着性や耐熱性に優れるエポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0030】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、tert-ブチル-カテコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、シクロヘキサン型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、トリメチロール型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらエポキシ樹脂は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いるものとしてもよい。
【0031】
エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を含むことが好ましい。エポキシ樹脂の不揮発成分100質量%に対して、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上100質量%以下、特に好ましくは70質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0032】
エポキシ樹脂には、温度20℃で液状のエポキシ樹脂(以下「液状エポキシ樹脂」ということがある。)と、温度20℃で固体状のエポキシ樹脂(以下「固体状エポキシ樹脂」ということがある。)とがある。本実施形態に係る接着剤組成物又は接着剤シートに含有されるエポキシ樹脂としては、液状エポキシ樹脂を含んでいてもよいし、固体状エポキシ樹脂を含んでいてもよく、液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂とを組み合わせて含むものとしてもよい。
【0033】
液状エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂、シクロヘキサン型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂及び/又はブタジエン構造を有するエポキシ樹脂等が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0034】
液状エポキシ樹脂の市販品としては、DIC社製の、「HP4032」、「HP4032D」、「HP4032SS」(ナフタレン型エポキシ樹脂)、;三菱ケミカル社製の「828US」、「jER828EL」、「825」、「エピコート828EL」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「jER807」、「1750」(ビスフェノールF型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「jER152」(フェノールノボラック型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「630」、「630LSD」(グリシジルアミン型エポキシ樹脂);新日鉄住金化学社製の「ZX1059」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合品);ナガセケムテックス社製の「EX-721」(グリシジルエステル型エポキシ樹脂);ダイセル社製の「セロキサイド2021P」(エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂);ダイセル社製の「PB-3600」(ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂);新日鉄住金化学社製の「ZX1658」、「ZX1658GS」(シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂)等を挙げることができる。
【0035】
固体状エポキシ樹脂としては、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂等を用いることが好ましく、ビキシレノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0036】
固体状エポキシ樹脂の市販品としては、DIC社製の「HP-4700」、「HP-4710」(ナフタレン型4官能エポキシ樹脂)、「N-690」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、「N-695」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、「HP-7200」(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂)、「HP-7200HH」、「HP-7200H」、「EXA-7311」、「EXA-7311-G3」、「EXA-7311-G4」、「EXA-7311-G4S」、「HP6000」(ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂)、EPLICON 1051;日本化薬社製の「EPPN-502H」(トリスフェノール型エポキシ樹脂)、「NC7000L」(ナフトールノボラック型エポキシ樹脂)、「NC3000H」、「NC3000」、「NC3000L」、「NC3100」(ビフェニル型エポキシ樹脂);新日鉄住金化学社製の「ESN475V」(ナフトール型エポキシ樹脂)、「ESN485」(ナフトールノボラック型エポキシ樹脂);三菱ケミカル社製の「YX4000H」、「YX4000」、「YL6121」(ビフェニル型エポキシ樹脂)、「YX4000HK」(ビキシレノール型エポキシ樹脂)、「YX8800」(アントラセン型エポキシ樹脂)、「YL7760」(ビスフェノールAF型エポキシ樹脂)、「YL7800」(フルオレン型エポキシ樹脂)、「jER1010」(固体状ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、「jER1031S」(テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂);大阪ガスケミカル社製の「PG-100」、「CG-500」等を挙げることができる。
【0037】
本実施形態に係る接着剤組成物における熱硬化性樹脂の含有量は、好ましくは前記接着剤組成物の固形分100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、45質量部以下であることがさらに好ましい。熱硬化性樹脂の含有量を、上記範囲内とすることで、一般的な電気通信機器に用いられているガラス繊維強化プラスチック(GFRP)やアラミド繊維強化プラスチック(ArFPR)の比誘電率や誘電正接に比べて、より低い特性を発現することができる。比誘電率と誘電正接は電気通信機器の電波透過性に寄与し、比誘電率と誘電正接が低いほど電波透過性が向上することから、本実施形態の接着剤組成物を用いることにより、優れた電波透過性を有する電気通信機器を提供することができる。測定周波数が10GHzにおける完全硬化させた接着剤組成物の比誘電率は、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることが特に好ましい。また、測定周波数が10GHzにおける完全硬化させた接着剤組成物の誘電正接は、0.050以下であることが好ましく、0.030以下であることがより好ましく、0.015以下であることが特に好ましい。
【0038】
本実施形態に係る接着剤組成物は、前述した各成分を混合して調整する際にすでに溶媒を含有するものとなっている場合もあるが、接着剤組成物の加工性・作業性向上のため、必要に応じて溶媒をさらに添加してもよい。前記溶媒は有機溶媒が好ましく、樹脂成分を良好に溶解、もしくは、均一に分散できるものであればその種類は特に限定されず、アルコール系、エーテル系、ケトン系、アミド系、芳香族炭化水素系、エステル系、ニトリル系などを使用することができ、これらは単独または2種以上併用した混合溶剤を用いることもできる。
【0039】
本実施形態に係る接着剤組成物は、前述した熱可塑性樹脂、酸無水物及び熱硬化性樹脂以の他にも目的に応じて適宜他の成分を含有するものとしても良いが、これら他の成分は必須ではない。
他の成分としては、例えば、硬化促進剤、粘着付与剤、難燃剤、酸無水物を除く硬化剤、カップリング剤、老化防止剤、充填剤、有機溶媒等を挙げることができる。
【0040】
<接着剤組成物の製造(調整)方法>
本実施形態に係る接着剤組成物は、例えば、前述したような熱可塑性樹脂と酸無水物と熱硬化性樹脂とを、有機溶剤等の適切な溶媒に添加し攪拌することによって、各成分を溶媒に均一に溶解させた溶液(ワニス)又は分散させたスラリーとして製造(調整)することができる。接着剤組成物の溶液又はスラリーは、接着剤シート、プリプレグ、接着剤付き繊維強化プラスチックの製造に好適に用いることができる。また、接着剤組成物の溶液又はスラリーを被着体に直接塗布し、接着剤やプライマーとしてそのまま用いることもできる。
【0041】
<接着剤組成物を用いた接着方法>
本実施形態に係る接着剤組成物を用いて2つの被着体を互いに接着させる場合には、一方又は両方の被着体の表面に接着剤組成物を塗布し、塗布した接着剤組成物が2つの被着体の間に挟まれるようにして被着体同士を互いに押し付け合った状態で、接着剤組成物を完全に硬化させる方法を挙げることができる。
【0042】
本実施形態に係る接着剤組成物は、加熱することによって硬化させることができる。
本実施形態に係る接着剤組成物の熱硬化には、以下の2段階の状態が含まれる。
本実施形態に係る接着剤組成物を加熱すると、まず接着剤組成物中の成分が2次元架橋(分子鎖伸長)を形成する共有結合が起こり、半硬化状態の半硬化物(Bステージ)となる。
この半硬化物をさらに加熱すると、樹脂同士の間において3次元架橋(分子鎖間架橋)を形成する共有結合がさらに起こり、架橋構造が形成されて完全に硬化した状態(Cステージ)の完全硬化物が得られる。
これらBステージとCステージとは、例えば、有機溶媒に浸漬した場合の溶解度や赤外分光光度計における赤外光吸収スペクトルの変化、示差走査熱量測定(DSC)における発熱量等によって見分けることができる。
【0043】
接着性組成物を硬化させるための加熱は、未加熱(未反応)の状態から完全硬化の状態までの架橋反応が一度に起きるようにしても良いし、半硬化に至るまでの状態又は半硬化状態の状態になるまで加熱した後に一度冷却し、その後完全硬化するまで再度加熱を行うものとしても良い。
接着剤組成物を硬化させるための温度や加熱時間等の条件は、これら接着剤組成物又は接着剤シートの組成によって適宜最適なものを選択することができるが、本実施形態に係る接着剤組成物又は接着剤シートを、例えば、130℃で1時間加熱すれば、完全に硬化したCステージの硬化物を得ることができる。
【0044】
<本実施形態の効果>
本実施形態に係る接着剤組成物によれば以下のような効果を奏することができる。
接着剤組成物の固形分に対する熱可塑性樹脂の含有量が接着剤組成物の固形分100質量%に対して40質量%以上であり、酸無水物の含有量が接着剤組成物中における酸無水物と熱硬化性樹脂との合計含有量100質量に対して10質量部以上45質量部以下であり、かつ接着剤組成物の固形分100質量%に対する熱硬化性樹脂の含有量が50質量%以下であることによって、この接着剤組成物は、従来接着が難しいとされている、未処理のポリエチレンなどの低極性樹脂からなる被着体に対しても、十分な接着性を発揮させることができる。未処理の被着体とは、被着体表面にプラズマ処理やコロナ処理などの物理的表面処理、もしくは、プライマーなどの化学的表面処理などを施していない被着体のことを意味する。
また、接着剤組成物に使用する熱可塑性樹脂含有量を前記固形分の65質量%以下、より好ましくは55質量%以下にすることによって、接着剤組成物を半硬化させる際の加熱温度である80℃以上130℃以下の温度範囲における接着剤組成物の溶融粘度を、接着剤組成物をプリプレグに含浸させながらも外部に流れ出してしまわない最適な範囲である2000Pa・s以上100000Pa・s以下とし、さらに接着剤組成物に80℃以上130℃未満の温度範囲で被着体への接着性を発揮させることができるため好ましい。その結果、例えば、接着剤組成物を用いてプリプレグ等を製造する場合に、130℃未満という比較的低い温度で接着剤組成物を溶融させて不織布などに含浸させやすくなり、接着剤組成物を構成する樹脂成分や、繊維シート等のプリプレグを構成する素材に対する熱の影響をできるだけ小さく抑えることができる。
なお、本発明は、本発明者が接着剤組成物の組成と接着剤組成物の性質についての相関関係を鋭意検討した結果、接着剤組成物の接着性は、熱可塑性樹脂の含有量を増やすにしたがって向上することが分かったが、酸無水物や熱硬化性樹脂を含有させ、かつ熱可塑性樹脂の含有量を前述した範囲のものとすることによって、溶融粘度を最適な範囲のものとすることができることを本発明者が見出したことにより初めて達成されたものである。
また、熱可塑性樹脂の含有量が前記固形分に対して40質量%以上であるので、被着体が低極性のものである場合であっても、該熱可塑性樹脂として低極性のものを使用すれば、接着剤組成物の極性と被着体の極性とをできるだけ同じものとすることができる。すなわち、接着剤組成物の活性エネルギー(自由エネルギー)を被着体の界面での活性エネルギーにできるだけ近づけて分子間のバランスを取り、被着体に対する接着剤組成物の濡れ性を向上させることができる。その結果、接着剤組成物と被着体との接触界面における分子間力を向上させて、従来技術では接着剤層を貼り付けることが難しかった低極性のポリオレフィン樹脂等からなる被着体に対しても、十分な接着性を発揮させることが可能である。
【0045】
酸無水物を使用し、かつその含有量を前述した範囲のものとしているので、接着剤組成物に常温(例えば25℃付近)でタック性(粘着性)を持たせることができる。その結果、接着剤組成物を、例えば、接着剤シート等の形態としてから被着体と積層させる際に、接着剤シートを被着体にそのまま添付することができるので、被着体と接着剤シートとを重ねた状態で押さえる部材や手間が不要である。このような効果を好適に奏することができるタック性の範囲としては、例えば、タッキング試験機(レスカ製「TAC1000」)を用いて、23℃において接着剤シートの接着剤層側の表面が上向きになるようにステージ上に設置し、直径5mmφのプローブを押し付け速度1.0mm/秒、押し付け荷重200gfでサンプルに押し付け、200gfの荷重を5秒保持し、引き上げ速度5.0mm/秒でプローブを引き上げることによって測定したタック性が100gf以上350gf以下であることが好ましい。
【0046】
本実施形態に係る接着剤組成物によれば、その比重を1.2以下とすることができるので、この接着剤組成物を使用して製造するプリプレグや繊維強化プラスチック等を十分に軽量化することができる。
また、本実施形態に係る接着剤組成物は、10GHz帯において比誘電率が5.0以下であり、誘電正接0.050以下とすることができる。
【0047】
<本発明に係るその他の実施形態>
本発明に係る接着剤組成物は前述したように溶媒を含まない固体状のもの(固形分のみのもの)をも含む。接着剤組成物が溶媒を含まないものである場合には、前記実施形態で述べた接着剤組成物の固形分に対する各成分の含有量の好適範囲は、そのまま溶媒を含まない接着剤組成物そのものに対する含有量として適用することができる。
本発明に係る接着剤組成物は、そのまま接着剤として塗布等して使用するだけでなく、接着剤シートやプリプレグ、繊維強化プラスチック等を製造するために用いることもできる。以下に本発明に係る接着剤組成物を使用した各応用例について説明する。
【0048】
<接着剤シートの製造方法>
本実施形態に係る接着剤組成物を用いて接着剤シートを製造する場合には、例えば、前述したようにして調整した溶液(ワニス)またはスラリーを離型フィルムや離型紙等の支持材上に均一に塗布して接着剤層を形成することによって製造することができる。接着剤層の形状を安定化させるために、必要に応じて、加熱等による乾燥により溶媒を除去するものとしても良い。このように、乾燥のため等に加熱をする場合には、接着剤組成物の一部に架橋反応が起こり、接着剤組成物が半硬化状態(Bステージ)に至っているものとすることが好ましい。
【0049】
この接着剤シートを用いて被着体を接着させる場合には、例えば、2つの被着体のうちの片方に、接着剤シートの接着剤層を添着させた後に、接着剤層から支持材を剥離し、他方の被着体を前記接着剤層の支持材を剥離することによって現れた表面に接触するように配置する。このように接着剤層を挟んだ状態で被着体同士を互いに押し付け合った状態で加熱して、接着剤層を完全に硬化させる。
【0050】
<プリプレグの作製方法>
本実施形態に係る接着剤組成物を用いてプリプレグを作製する場合には、例えば、クロス(織物)やUD(一方向)材、不織布のような繊維シートに接着剤組成物を含侵させてプリプレグを作製することができる。前述の接着剤シートと同様に、接着剤層の形状を安定化させるために、必要に応じて、加熱等による乾燥により溶媒を除去するものとしても良い。プリプレグの製造工程において接着剤組成物を加熱する場合には、接着剤層を形成している接着剤組成物に一部架橋反応が起こっているものの接着剤組成物がCステージには至っていないものとすることが好ましい。
【0051】
<繊維強化プラスチックの製造方法>
繊維強化プラスチックは、一般に知られている繊維強化プラスチックの製造方法により作成することができる。例えば、前述したプリプレグを加熱硬化する方法や、ロービングされた繊維をマンドレルなどの芯型に巻き付けながら接着剤組成物を含侵し、加熱硬化する方法、接着剤組成物に短繊維を混合し、金型などに押し込み加熱硬化する方法等が挙げられる。接着剤組成物を加熱硬化させる際に、被着体と組み合わせた状態で硬化させることにより、被着体と複合化・一体化した繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0052】
<接着剤付き繊維強化プラスチックの作製方法>
接着剤付き繊維強化プラスチックとは、既に完成した繊維強化プラスチックの表面の一部分もしくは全体に本発明に係る接着剤組成物からなる接着剤層が形成されたものを指す。
繊維強化プラスチックは、前述したように本発明に係る接着剤組成物を用いて製造したものであっても、それ以外の樹脂組成物を用いて製造されたものでも良く、一般に市販されているもの等を用いることができる。
この接着剤付き繊維強化プラスチックを作成する方法としては、例えば、繊維強化プラスチックに接着剤シートを重ねた状態で熱圧着させる方法や、強化繊維プラスチックに接着剤組成物を塗布する方法で製造することができる。
このように本発明に係る接着剤組成物からなる接着剤層と繊維強化プラスチックとを備えた接着剤付き繊維強化プラスチックとすることにより、難接着材料に対して優れた接着性を有し、かつ繊維強化プラスチックを別の被着体に接着する場合にユーザが接着剤組成物を塗布等する手間を省いて使い勝手の良い製品とすることができる。
【0053】
前記プリプレグや繊維強化プラスチック、接着剤付き繊維強化プラスチックを構成する繊維は、一般に繊維強化プラスチックに用いられる繊維であれば何でも用いることができるが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維からなる群より選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。有機繊維としては、例えば、アラミド繊維及びポリエチレン繊維などを挙げることができる。
【0054】
ここでは、本発明に係る接着剤組成物を、接着剤シート、プリプレグや繊維強化プラスチックの製造に応用する例について説明したが、本発明に係る接着剤組成物は、これら以外にも応用することができることは言うまでもない。
【実施例0055】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<溶融粘度評価>
熱可塑性樹脂、酸無水物、熱硬化性樹脂をそれぞれ表1に記載されている数値の通り含有する接着剤組成物からなる層を有する接着剤シートを作製し、その溶融粘度を測定した。なお、各接着剤シートは、表1に記載された各成分を溶媒に溶解させて接着剤組成物を調製し、これを離型処理されたPET基材上にバーコーターで塗布し、120℃で2分間加熱乾燥して溶媒を揮発させることによって接着剤組成物からなる層を形成し作製した。作製した接着剤組成物からなる層(以下、単に接着剤組成物又は接着剤層という)を幅1.0~2.0cmに裁断し、接着剤組成物を巻いていき、接着剤組成物からなる直径1.0cm、高さ1.0~2.0cmの円柱を成型した。溶融粘度は高化式フローテスター(島津製作所社製「CFT-500EX」)を用いて測定した。円柱状の接着剤組成物を、40℃に設定されたフローテスター内のサンプル挿入部分へ設置させ、10秒予熱をかけた。その後、昇温速度5℃/分で加熱しながら、プランジャーに0.49~98.1MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから接着剤組成物を押し出した。この際、プランジャー降下量―温度曲線を作成し、曲線からせん断応力及びせん断速度を計算し、溶融粘度を算出した。結果を表1に示す。なお、表1における測定下限値とは、測定対象物が液状化してしまうことによって溶融粘度を測定不可能になったことを示しており、上述の測定条件において測定下限値は2000Pa・s未満であることが分かっている。
評価基準は以下の通りである。
◎:80℃以上130℃以下の範囲で最低溶融粘度が10000Pa・s以下
〇:80℃以上130℃以下の範囲で最低溶融粘度が100000Pa・s以下
×:80℃以上130℃以下の範囲で最低溶融粘度が100000Pa・s以上
【0056】
<比重の評価>
溶融粘度評価で作製したものと同様の手順で、表1に記載されている組成の接着剤シートを作製し比重を測定した。
比重はJIS 7112 A法に基づき測定した。結果を表1に示す。
【0057】
<タック性評価>
溶融粘度評価で作成したものと同様の手順で、表1に記載されている組成の接着剤層を有する接着剤シートを作成し、タッキング試験機(レスカ製「TAC1000」)を用いて評価した。評価は常温雰囲気下(23℃)で行った。該接着剤シートの接着剤層側の表面が上向きになるようにステージ上に設置し、直径5mmφのプローブを押し付け速度1.0mm/秒、押し付け荷重200gfでサンプルに押し付け、200gfの荷重を5秒保持し、引き上げ速度5.0mm/秒でプローブを引き上げた。引き上げたときのピーク値(gf)をタック値とした。
結果を表1に示す。
タック値は100gf以上であれば粘着性を有し、金属やプラスチックへの貼り付きが十分であるといえることから、タックについて以下の評価基準を定めた。
◎:150gf以上のタックを有する。
〇:100gf以上のタックを有する。
×:タック性が100gf未満である。
【0058】
<接着性評価>
溶融粘度評価で作成したものと同様の手順で、表1に記載されている組成の接着剤層を有する接着剤シートを作成し、該接着剤シートの接着剤層を被着体に接着させた場合の接着性を評価した。接着性評価は2種類の構成で評価を行った。1つ目は接着剤シートの接着層の片面にPEフィルム、もう片面にPE板を貼り合わせた構成、2つ目が片面にPIフィルム、もう一方にPPフィルムを用いた構成とした。接着強度の評価はストログラフ(株式会社東洋精機製作所製「VES05D」)を用いて測定を行った。15mm幅に切断したサンプルの被着体(PE板、PPフィルム)を測定装置の支持金具に固定し、それぞれPEフィルム、PIフィルム側を引張速度50mm/分で90°方向に引張り、剥離強度を測定した。有効試験距離25mmにおける剥離強度の中央値を接着力とした。結果を表1に示す。
接着性は、0.7N/15mm以上であれば十分に実用に耐えるもの、すなわち接着可能なものであるといえることから、接着性についての評価基準は以下のように定めた。
◎:全ての種類の被着体に対して0.7N/15mm以上の接着性を有する。
〇:いずれかの被着体に対する接着性が0.7N/15mm以上である。
×:両方の被着体に対する接着性が0.7N/15mm未満である。
【0059】
<誘電特性評価>
表1に記載されている組成の接着剤層を有する接着剤シートを作成し、該接着剤シートの接着剤組成物からなる層について23℃雰囲気化で10GHzにおける比誘電率及び誘電正接を評価した。
実施例8で作製した接着剤組成物からなる層の比誘電率は2.4、誘電正接は0.0117と十分に小さい値であることが確認できた。この結果から、実施例8とよく似た組成の接着剤組成物からなる層である実施例1~12においても非常に優れた誘電特性を有することが推測される。
【0060】
【表1】
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
熱硬化性樹脂Aとしては、固形状のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を使用した。
熱硬化性樹脂Bとしては、固形状のビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用した。
酸無水物としては、室温20℃にて液状の酸無水物を使用した。
熱可塑性樹脂Cとしては、スチレン系熱可塑性樹脂を使用した。
熱可塑性樹脂Dとしては、ポリウレタン系熱可塑性樹脂を使用した。
熱可塑性樹脂Eとしては、ポリエステル系熱可塑性樹脂を使用した。
【0061】
<結果の考察>
被着体の素材に関らず接着可能な接着剤組成物であることを確かめるため、被着体の中でも特にほとんど極性を持たず最も接着することが難しいとされる素材であるポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)を評価対象とした。
表1の結果から、熱可塑性樹脂と酸無水物と熱硬化性樹脂とを含有し、接着剤シートの接着剤組成物の固形分に対する熱可塑性樹脂の含有量が40質量%以上であり、前記接着剤層における前記酸無水物と前記熱硬化性樹脂の合計含有量を100質量部とした場合の水物含有量が10質量部以上45質量部以下である実施例1~12の接着剤シートは、ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)の少なくとも一方に対して0.7N/15mm以上という十分に高い接着性を発揮させることができることが確かめられた。特に熱可塑性樹脂としてスチレン系樹脂を用いた配合は、該スチレン系熱可塑性樹脂が低極性熱可塑性樹脂であるが故、他の熱可塑性樹脂と比べ低極性被着体のポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)との接着性が良好となっている。
一方で、比較例1は配合後に樹脂組成物がゲル化してしまったため、PET基材上に塗布することができず、接着剤シートを作製することができなかった。これは固形分100質量%に対し熱可塑性樹脂が40%未満であるため、相対的に組成の大部分を占める熱硬化樹脂と酸無水物それぞれの有する官能基の架橋(硬化)反応速度が促進され、ゲル化に至ってしまったことが一因であると考えられる。また、比較例2及び3の接着剤シートの接着剤層は、ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)の両方に対して接着性が低くなってしまうという結果となった。比較例2の結果は、酸無水物が熱硬化性樹脂との硬化に対して過剰に添加され、未反応性分が多くなったためであると推察する。比較例3の結果は熱可塑性樹脂とフェノール系硬化剤の相溶性が悪く、硬化反応が促進されなかったためと考える。
また、熱可塑性樹脂の前記固形分に対する含有量が65質量%以下の場合、適切な範囲の溶融粘度が得られる結果となった。分子量が熱硬化性樹脂や酸無水物に比べて大きい傾向にある熱可塑性樹脂の含有量が溶融粘度に支配的であることが考えられる。
さらに、酸無水物の前記固形分に対する含有量を増加させるとタック性が向上する傾向にあることを確認できた。
この実験結果から、本発明に係る接着剤組成物によれば、様々な難接着性の被着体に対して高い接着性を発揮することができることが分かった。