(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118611
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】信号処理方法および信号処理装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/02 20060101AFI20240826BHJP
G01N 29/32 20060101ALI20240826BHJP
G01N 29/44 20060101ALI20240826BHJP
G01P 5/24 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
G01N29/02
G01N29/32
G01N29/44
G01P5/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024989
(22)【出願日】2023-02-21
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103872
【弁理士】
【氏名又は名称】粕川 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149456
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 喜幹
(74)【代理人】
【識別番号】100194238
【弁理士】
【氏名又は名称】狩生 咲
(74)【代理人】
【識別番号】100205648
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 真一
(72)【発明者】
【氏名】木倉 宏成
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀治
(72)【発明者】
【氏名】荘司 成熙
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 晟豪
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA01
2G047AB01
2G047BA03
2G047BC18
2G047CA01
2G047EA10
2G047GB02
2G047GF06
2G047GF08
2G047GG09
2G047GG12
(57)【要約】
【課題】工程数を抑えつつエコー信号から配管エコーを効果的に除去すること。
【解決手段】超音波センサは、配管内に超音波パルスを入射する。超音波センサは、超音波パルスに対する配管からのエコー信号を受信する。制御ユニットは、エコー信号から配管の壁内を伝搬する配管エコーを抽出する。制御ユニットは、エコー信号から配管エコーを除去する。制御ユニットは、配管エコーを除去したエコー信号に基づき、配管内の流体の速度分布を取得する。制御ユニットは、速度分布に基づき配管内における流体の水位を計測する。超音波入射工程およびエコー信号受信工程は、繰り返し実行される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波センサが、配管内に超音波パルスを入射する超音波入射工程と、
前記超音波センサが、前記超音波パルスに対する前記配管からのエコー信号を受信するエコー信号受信工程と、
制御ユニットが、前記エコー信号から前記配管の壁内を伝搬する配管エコーを抽出する配管エコー抽出工程と、
前記制御ユニットが、前記エコー信号から前記配管エコーを除去する配管エコー除去工程と、
前記制御ユニットが、前記配管エコーを除去したエコー信号に基づき、前記配管内の前記流体の速度分布を取得する速度分布取得工程と、
前記制御ユニットが、前記速度分布に基づき前記配管内における前記流体の水位を計測する流体水位計測工程と、
を備え、
前記超音波入射工程および前記エコー信号受信工程は、繰り返し実行される、
信号処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理方法において、
前記配管エコー抽出工程では、
前記制御ユニットは、複数の前記エコー信号を平均化することにより前記配管エコーを抽出する、
信号処理方法。
【請求項3】
請求項1に記載の信号処理方法において、
前記配管エコー抽出工程の前に、
前記制御ユニットが、前記エコー信号から各回の超音波パルスの入射タイミングのずれに基づく位相ノイズを除去する位相ノイズ除去工程、
を備えている、
信号処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載の信号処理方法において、
位相ノイズ除去工程は、
前記制御ユニットが、各回の前記エコー信号に対してフーリエ変換を行い、フーリエ変換された前記エコー信号から超音波パルスの位相をそれぞれ抽出する工程と、
前記制御ユニットが、各回の前記エコー信号に対応する超音波パルスの位相に基づき、各回の超音波パルスの位相と基準の超音波パルスの位相である基準位相との差分を位相差として抽出する工程と、
前記制御ユニットが、フーリエ変換された各回の前記エコー信号に対して、対応する超音波パルスの前記位相差を加算する工程と、
前記制御ユニットが、前記位相差を加算したフーリエ変換された前記エコー信号に対して逆フーリエ変換を行う工程と、
を備えている、
信号処理方法。
【請求項5】
超音波センサと、
制御ユニットと、
を備え、
前記超音波センサは、配管内に超音波パルスを入射し、
前記超音波センサは、前記超音波パルスに対する前記配管からのエコー信号を受信し、
前記制御ユニットは、前記エコー信号から前記配管の壁内を伝搬する配管エコーを抽出し、
前記制御ユニットは、前記エコー信号から前記配管エコーを除去し、
前記制御ユニットは、前記配管エコーを除去したエコー信号に基づき、前記配管内の前記流体の速度分布を取得し、
前記制御ユニットは、前記速度分布に基づき前記配管内における前記流体の水位を計測し、
前記超音波パルスの入射および前記エコー信号の受信は、繰り返し実行される、
信号処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の信号処理装置において、
前記制御ユニットは、複数の前記エコー信号を平均化することにより前記配管エコーを抽出する、
信号処理装置。
【請求項7】
請求項5に記載の信号処理装置において、
前記制御ユニットは、前記配管エコーを抽出する前に、前記エコー信号から各回の超音波パルスの入射タイミングのずれに基づく位相ノイズを除去する、
信号処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の信号処理装置において、
前記制御ユニットは、各回の前記エコー信号に対してフーリエ変換を行い、フーリエ変換された前記エコー信号から超音波パルスの位相をそれぞれ抽出し、各回の前記エコー信号に対応する超音波パルスの位相に基づき、各回の超音波パルスの位相と基準の超音波パルスの位相である基準位相との差分を位相差として抽出し、フーリエ変換された各回の前記エコー信号に対して、対応する超音波パルスの前記位相差を加算し、前記位相差を加算したフーリエ変換された前記エコー信号に対して逆フーリエ変換を行うことにより、前記位相ノイズを除去する、
信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理方法および信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不透明な固体壁を介して配管内へ超音波を入射し、超音波に対するエコー信号を受信することで配管内部における流体の速度分布や水位を流体情報として取得することができる。このような超音波を用いた流体計測は、配管による流体輸送を行う火力発電所、水力発電所、および原子力発電所、石油や海底資源等の天然資源回収プラント等における流体流量の管理等に用いられている。また、超音波を用いた水位計測は、差圧式水位計に代わる非接触型水位計としてもニーズがある。
【0003】
一方、流体計測において受信するエコー信号には、流体中の粒子からのエコー信号(粒子エコー)だけでなく、例えば配管の壁内を伝搬するエコー信号(配管エコー)等のノイズも含まれる。配管エコーは、超音波が配管内で多重反射することで発生するノイズであり、リンギングノイズとも呼ばれる。
【0004】
このような配管エコーを抑制する方法として、例えば、超音波の入射角度の調整や、配管へのノイズ吸収用ダンピング材の設置等が挙げられる。ただし、これらの方法では、配管エコーを効果的に除去することが困難である。
【0005】
特許文献1には、超音波を用いて被検体の欠陥や構造を計測する場合における残響ノイズ除去方法が開示されている。特許文献1によれば、超音波に起因する残響ノイズ信号に対応した参照ノイズ信号を取得し、被検体からのエコー信号を含む計測信号の一部と参照ノイズ信号の一部とを比較し、超音波プローブによる計測信号の受信状態での計測信号内の残響ノイズ信号を生成するための、参照ノイズ信号の変調パラメータを決定し、決定した変調パラメータを用いて計測信号内の残響ノイズ信号に対応する適応参照ノイズ信号を生成し、計測信号から適応参照ノイズ信号を除去する旨記載されている。これにより、残響ノイズが低減されたエコー信号が得られる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、ノイズ除去において、計測信号(エコー信号)の取得とは別途で、参照ノイズ信号の取得、変調パラメータの決定、および適応ノイズ信号の生成といった多くの工程が必要である。
【0008】
そこで、本発明は、工程数を抑えてエコー信号から配管エコーを効果的に除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の代表的な実施の形態による信号処理方法は、超音波センサが、配管内に超音波パルスを入射する超音波入射工程と、超音波センサが、超音波パルスに対する配管からのエコー信号を受信するエコー信号受信工程と、制御ユニットが、エコー信号から配管の壁内を伝搬する配管エコーを抽出する配管エコー抽出工程と、制御ユニットが、エコー信号から配管エコーを除去する配管エコー除去工程と、制御ユニットが、配管エコーを除去したエコー信号に基づき、配管内の流体の速度分布を取得する速度分布取得工程と、制御ユニットが、速度分布に基づき配管内における流体の水位を計測する流体水位計測工程と、を備えている。超音波入射工程およびエコー信号受信工程は、繰り返し実行される。
【0010】
本発明の代表的な実施の形態による信号処理装置は、超音波センサと、制御ユニットと、を備えている。超音波センサは、配管内に超音波パルスを入射する。超音波センサは、超音波パルスに対する配管からのエコー信号を受信する。制御ユニットは、エコー信号から配管の壁内を伝搬する配管エコーを抽出する。制御ユニットは、エコー信号から配管エコーを除去する。制御ユニットは、配管エコーを除去したエコー信号に基づき、配管内の流体の速度分布を取得する。制御ユニットは、速度分布に基づき配管内における流体の水位を計測する。超音波パルスの入射およびエコー信号の受信は、繰り返し実行される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、工程数を抑えつつエコー信号から配管エコーを効果的に除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る信号処理装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る制御ユニットの構成を例示する図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る配管内の流体の水位計測方法を例示するフロー図である。
【
図6】取得した配管内の速度分布を例示する図である。
【
図8】本発明の実施の形態2に係る流体の水位計測方法を例示するフロー図である。
【
図9】位相ノイズ除去工程の詳細を例示するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態1)
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は適宜省略する。
【0014】
<信号処理装置>
図1は、本発明の実施の形態1に係る信号処理装置の構成の一例を示す図である。本実施の形態に係る信号処理装置は、外部から配管90内へ超音波パルスを入射し、入射した超音波パルスに対するエコー信号を受信することで配管90内における流体の速度分布を取得し、速度分布に基づいて配管90内における流体の水位を計測する装置である。
【0015】
本実施の形態に係る信号処理装置1は、横方向に配置された配管90に対して好適に使用される。ただし、配管90の局所的な水位計測を目的する場合には、縦方向や斜め方向に配置された配管90に対しても、本実施の形態に係る信号処理装置1を好適に使用可能である。
【0016】
図1に示すように、信号処理装置1は、超音波センサ10、超音波センサ制御ユニット20、A/D変換器30、制御ユニット40、表示ユニット50を備えている。超音波センサ10は、超音波センサ制御ユニット20と接続されている。超音波センサ制御ユニット20は、超音波センサ10、A/D変換器30、および制御ユニット40と接続されている。A/D変換器30は、超音波センサ制御ユニット20、および制御ユニット40と接続されている。制御ユニット40は、超音波センサ制御ユニット20、A/D変換器30、および表示ユニット50と接続されている。
【0017】
超音波センサ10は、配管90内へ超音波パルスを入射し、配管90からのエコー信号を受信する装置である。超音波センサ10は、複数の圧電素子がアレイ状に配置されたセンサアレイを備えている。
【0018】
図1に示すように、超音波センサ10は、配管90の下側に、配管90の管壁91の外周面91aに垂直な基準線RLに対して所定角度α(0<α<90°)でセンサホルダ12により固定される。これにより、センサアレイは、基準線RLに対して所定角度αの方向を向くように配置される。
【0019】
各圧電素子は、超音波センサ制御ユニット20から出力される超音波センサ駆動信号に基づき振動して超音波パルスを発生し、発生した超音波パルスを配管90内へ入射する。一方、各圧電素子は、超音波パルスを入射後、配管90からエコー信号を受信すると振動し、受信したエコー信号を電気信号に変換する。そして、各圧電素子は、変換後の電気信号をエコー信号として超音波送受信ユニット20へ出力する。
【0020】
超音波センサ制御ユニット20は、超音波センサ10に関わる各種制御を行う。具体的には、超音波センサ制御ユニット20は、制御ユニット40から出力される超音波制御信号に基づき超音波センサ10から超音波パルスを発生させる制御、および音波センサ10から出力されたエコー信号(電気信号)をA/D変換器30へ出力する制御等を行う。
【0021】
より具体的には、超音波センサ制御ユニット20は、個別に位相が調整された超音波センサ駆動信号を各圧電素子へ供給する。これにより、超音波センサ10は、所定の方向(例えば所定角度αに沿った方向)へ指向性の高い超音波パルスを配管90内へ入射する。なお、各圧電素子から発生する超音波パルスの位相を調整することにより、配管90への超音波パルスの入射方向を自在に変更することができる。
【0022】
A/D変換器30は、アナログのエコー信号をデジタルのエコー信号に変換する装置である。A/D変換器30は、デジタル変換したエコー信号を制御ユニット40へ出力する。
【0023】
制御ユニット40は、例えば、超音波パルスの入射、エコー信号のノイズ処理、配管90内における流体の速度分布の取得、および流体の水位の取得等、信号処理装置1における主要な処理を行うユニットである。
【0024】
制御ユニット40は、各種機能ブロックをコンピュータ上で実現する情報処理装置(例えばパーソナルコンピュータ等)で構成される。
図2は、本発明の実施の形態1に係る制御ユニットの構成を例示する図である。
図2には、情報処理装置を例にした制御ユニットの構成が示されている。
図2に示すように、制御ユニット40は、プロセッサ41、メインメモリ43、ストレージ45、通信インタフェース47備えている。
【0025】
通信インタフェース47は、超音波センサ制御ユニット20、A/D変換器30、および表示ユニット50との間で各種情報の送受信を行う通信装置である。
【0026】
ストレージ45は、プログラム記憶領域45a、およびデータ記憶領域45b等の記憶領域を備えている。プログラム記憶領域45aは、制御ユニット40を動作させる基本プログラム、超音波パルスを用いた水位計測を実行するために必要となる機能ブロックをプロセッサ41上に実現する信号処理装置用アプリケーション等の各種プログラム、および各プログラムのパラメータ等を記憶する。このように、ストレージ45は、プログラムの記録媒体としての機能を備えている。
【0027】
メインメモリ43は、プログラム記憶領域45aから読み出したプログラムやパラメータ等を展開して保持する。また、メインメモリ53は、超音波センサ制御ユニット20へ出力する超音波制御信号、A/D変換器30から出力されたデジタル変換されたエコー信号、および表示ユニット50へ出力する画面表示用データ等の各種情報も一時的に保持する。
【0028】
プロセッサ41は、メインメモリ43に保持されたプログラムを読み出し実行することにより、例えば、超音波パルスの入射に関わる処理を行う超音波制御ブロック41a、エコー信号に対する処理を行うエコー信号処理ブロック41b、表示ユニット50へのコンテンツの表示に関わる処理を行う表示制御ブロック41c等の機能ブロックをソフトウェアで実現する。なお、一部の機能は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)、PLD(Programmable Logic Device)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアのみで実現されてもよいし、これらのハードウェアとソフトウェアとを組み合わせて実現されてもよい。
【0029】
表示ユニット50は、信号処理装置1に係る各種情報を表示する。表示ユニット50は、制御ユニット40から出力される情報に基づき、例えば、入射する超音波パルスのパラメータ設定画面、エコー信号、配管エコー、粒子エコー等を表示する。信号処理装置1の利用者は、表示ユニット50に表示された情報を参照し、図示しないキーボードやマウス等の入力装置を操作してパラメータの変更等の入力操作を行うことができる。なお、表示ユニット50は、制御ユニット40と一体で構成されてもよい。なお、表示ユニット50は、タッチ入力機能を備えてもよい。
【0030】
なお、表示ユニット50は、信号処理装置1に含まれなくてもよい。必要に応じて、信号処理装置1に外部ディスプレイとして表示ユニット50を接続することで、信号処理装置1に関わる各種情報を表示ユニット50に表示させることが可能となる。
【0031】
<配管内の流体の水位計測方法>
次に、配管内の流体の水位計測方法(信号処理方法)について説明する。
図3は、本発明の実施の形態1に係る配管内の流体の水位計測方法を例示するフロー図である。ステップS10-S30において、短時間の超音波パルスを入射しエコー信号を取得する処理が所定回数繰り返し行われる。
【0032】
ステップS10は、配管90内に超音波パルスを入射する超音波入射工程である。ステップS10において、制御ユニット40は、超音波制御信号を出力することで、超音波センサ制御ユニット20に対し超音波パルスを入射するよう指示する。超音波制御信号が入力されると、超音波センサ制御ユニット20は、超音波センサ10の各圧電素子に対し超音波センサ駆動信号を供給する。具体的には、超音波送受信ユニット20は、所定の周波数(例えば2MHz)のバースト波をパルス状にした超音波センサ駆動信号を繰返周期T(例えば10ms)で繰り返し出力する。これにより、超音波センサ10から配管90内へ超音波パルスが繰り返し入射される。
【0033】
ステップS20は、超音波パルスに対する配管90内からのエコー信号を受信するエコー信号受信工程である。ステップS20において、超音波センサ10の各圧電素子は、超音波パルスを入射後、配管90からエコー信号を受信し、エコー信号を電気信号に変換する。そして、超音波センサ10の各圧電素子は、電気信号をエコー信号として超音波センサ制御ユニット20へ出力する。超音波センサ制御ユニット20は、超音波センサ10から入力されたエコー信号(電気信号)をA/D変換器30へ出力する。A/D変換器30は、入力されたエコー信号をデジタル変換し、デジタル変換したエコー信号を制御ユニット40へ出力する。
【0034】
制御ユニット40は、入力されたエコー信号をメインメモリ43に保持した後、ストレージ45のデータ記憶領域45bに記憶させる。このとき、制御ユニット40は、エコー信号を、例えば超音波パルスの繰り返し回数や超音波パルスの入射時刻等のような、入射された超音波パルスを特定することができる情報と関連付けてデータ記憶領域45bに記憶させる。取得したエコー信号は、以下の式(1)のように表される。
【0035】
【0036】
ステップS30では、超音波パルスを入射しエコー信号を取得する処理(ステップS10-S20)が所定回数繰り返し実行されたどうかが判定される。これら処理が所定回数繰り返し実行されていないと制御ユニット40が判定した場合(NO)、所定回数に達するまでステップS10-S20の処理が再度実行される。一方、この処理が所定回数実行されたと制御ユニット40が判定した場合(YES)、ステップS40の処理が実行される。
【0037】
図4は、エコー信号を例示する図である。
図4に示すように、エコー信号には配管ノイズが含まれる。このため、
図4において円で囲まれた領域では、配管エコーの影響により、エコー信号の振幅がそれ以外の領域より大きくなっている。
【0038】
そこで、ステップS40-S50により、エコー信号から配管エコーを除去するための処理が行われる。
図5は、配管エコーを模式的に示す図である。
図5に示すように、管壁91内を伝搬する配管エコーは、時間的な移動を伴わない不変のノイズである。このため、配管エコーを抽出することができれば、配管エコーをエコー信号から容易に除去することができる。
【0039】
ステップS40は、エコー信号から配管90の管壁91内を伝搬する配管エコーを抽出する配管エコー抽出工程である。ステップS40において、制御ユニット40は、取得したエコー信号から配管エコーを抽出する。具体的には、制御ユニット40は、超音波パルスを繰り返し入射させて取得した各回のエコー信号(式(1)を参照)を時間平均化することで、配管90内の流体の流動に影響されず時間的に不変な配管エコーを抽出する。より具体的には、制御ユニット40は、以下の式(2)に従って演算を行うことで配管エコーを抽出する。
【0040】
【0041】
ステップS50は、エコー信号から配管エコーを除去する配管エコー除去工程である。ステップS50において、制御ユニット40は、以下の式(3)に従って、エコー信号とステップS40で抽出した配管エコーとの差分を計算することにより、エコー信号から配管エコーを除去し、配管エコーが除去されたエコー信号を取得する。なお、このエコー信号には、粒子エコーおよびその他ノイズが含まれるが、その他ノイズは、粒子エコーに比べて非常に小さい。このため、後述する流体の速度分布に、その他ノイズが影響を与えることはほとんどなく、配管エコーが除去されたエコー信号を粒子エコーとみなしてこの後の処理を行うことができる。
【0042】
【0043】
ステップS60は、配管エコーを除去したエコー信号に基づき、前記配管内の前記流体の速度分布を取得する速度分布取得工程である。ステップS60において、制御ユニット40は、配管エコーを除去して取得した粒子エコーに基づき、配管90内における流体の速度分布を取得する。
図6は、取得した配管内の速度分布を例示する図である。
図6の上側の図は、配管エコーを除去する前のエコー信号を用いた場合の速度分布であり、
図6の下側の図は、配管エコーを除去した後のエコー信号を用いた場合の速度分布である。また、
図6の各図の横軸は配管の中心からの距離を示し、縦軸は流体の速度を示している。横軸の左端は超音波センサ10に最も近い場所を示し、横軸の右端は超音波センサ10から最も離れた場所を示している。
【0044】
図6の上側の図において、円で囲まれた領域では、配管エコーにより、取得した流体の速度分布にバラつきが発生じている。これに対し、
図6の下側の図では、配管エコーの影響を受けることなく、取得した流体の速度分布にバラつきは発生していない。
【0045】
ステップS70は、速度分布に基づき配管90内における流体の水位を計測する流体水位計測工程である。ステップS70において、制御ユニット40は、ステップS60で取得した流体の速度分布に基づき配管90内の流体の水位を計測する。
図7は、流体の水位計測方法を説明する図である。
図7の上側の図は、配管90内が満水時の状態を示し、
図7の下側の図は、配管90内が非満水時の状態を示している。
【0046】
配管90内が満水時には、超音波センサ10から最も遠い配管90の端部まで流体の速度が計測されている。これにより、制御ユニット40は、配管90内が満水であり、水位は最大、すなわち配管90の内径と同一であると判定する。
【0047】
これに対し、配管90内が非満水時には、流体が存在する高さまで流体の速度が計測されるが、流体が存在しないそれ以上の高さでは流体の速度は計測されない。制御ユニット40は、このような流体の速度分布を参照し、流体の速度が計測された高さまで流体が存在すると判定し、流体の速度が計測された限界の高さhが配管90内の流体の水位であると判定する。
【0048】
<本実施の形態による主な効果>
本実施の形態によれば、配管90内への超音波パルスの入射とエコー信号の受信とが繰り返し実行され、エコー信号を時間平均化することで配管エコーが抽出される。そして、エコー信号から配管エコーを除去することで、粒子エコーが抽出される。この方法によれば、工程数を抑えてエコー信号から配管エコーを効果的に除去することが可能となる。これにより、エコー信号による配管90内の流体の速度分布の計測精度が向上し、ひいては配管90内の流体の水位の計測精度を向上させることが可能となる。
【0049】
また、本実施の形態に係る信号処理装置1は、計測前のキャリブレーション作業が不要である。これにより、計測開始前の工程が短縮され、短時間で水位計測を行うことが可能となる。
【0050】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。前述の実施の形態1では、配管エコーを除去する方法について説明した。一方、繰り返しパルス法ではパルス繰り返し周期ごとに配管90内へ超音波パルスが繰り返し入射されるが、信号処理装置1においてランダムに発生する電気的ノイズにより、各回の超音波パルスの入射タイミングにずれが発生する場合がある。このような入射タイミングのずれは、エコー信号に位相ノイズとして残るため、エコー信号から配管エコーを十分に除去できない場合がある。そこで、本実施の形態では、各回の超音波パルスの入射タイミングのずれに起因する位相ノイズを考慮したノイズ除去方法について説明する。
【0051】
図8は、本発明の実施の形態2に係る流体の水位計測方法を例示するフロー図である。
図8に示すように、本実施の形態では、配管エコー抽出工程(ステップS40)の前に、エコー信号から位相ノイズを除去する位相ノイズ除去工程(ステップS180)が行われる。なお、ステップS180は、
図8に示すように、ステップS40の直前に行われてもよいし、ステップS20とステップS30との間に行われてもよい。
【0052】
本実施の形態では、ステップS20で取得したエコー信号は、位相ノイズを考慮して以下の式(4)のように表される。
【0053】
【0054】
図9は、位相ノイズ除去工程の詳細を例示するフロー図である。
図9に示すように、ステップS180では、ステップS181-S184の処理が実行される。まず、ステップS181において、制御ユニット40は、各回の超音波パルスに対するエコー信号(式(4))に対してフーリエ変換を行い、フーリエ変換されたエコー信号から超音波パルスの位相をそれぞれ抽出する。
【0055】
次に、ステップS182において、制御ユニット40は、ステップS181で抽出した各回のエコー信号に対応する超音波パルスの位相に基づき、各回の超音波パルスの位相と基準の超音波パルスの位相である基準位相との差分を位相差として抽出する。例えば、制御ユニット40は、1回目の超音波パルスを基準の超音波パルスに設定し、1回目の超音波パルスの位相を基準位相に設定する。すなわち、1回目の超音波パルスの位相と基準位相との差分はゼロである。そして、制御ユニット40は、2回目およびそれ以降の超音波パルスの位相と基準位相との差分を位相差としてそれぞれ算出する。
【0056】
なお、ここでは、1回目の超音波パルスを基準の超音波パルスに設定し、1回目の超音波パルスの位相を基準位相に設定した場合を例に挙げたが、任意の超音波パルスを基準の超音波パルスとし、この超音波パルスの位相を基準位相としても構わない。
【0057】
次に、ステップS183において、制御ユニット40は、フーリエ変換された各回のエコー信号に対して、超音波パルスの位相にステップS182で抽出した対応する位相差を加算することで、超音波パルスの位相を調整する。これにより、制御ユニット40は、フーリエ変換された各回のエコー信号において、超音波パルスの位相を一致させることができる。
【0058】
そして、ステップS184において、制御ユニット40は、ステップS183で超音波パルスの位相を調整した各回のフーリエ変換されたエコー信号に対して逆フーリエ変換を行う。これにより、制御ユニット40は、位相ノイズを除去した(φnoise→0)エコー信号を取得する。
【0059】
そして、制御ユニット40は、位相ノイズを除去したエコー信号に基づき、配管エコーを抽出する処理(ステップS40)、エコー信号から配管エコーを除去する処理(ステップS50)、流体の速度分布を取得する処理(ステップS60)、および配管90内の流体の水位を計測する処理(ステップS70)をそれぞれ実行する。
【0060】
本実施の形態によれば、制御ユニット40は、配管エコーの抽出に先立ち、各回の超音波パルスの位相を調整し、超音波パルス間の位相差に起因する位相ノイズを除去したエコー信号を取得する。この構成によれば、配管エコーの抽出精度が向上し、より効果的にエコー信号から配管エコーを除去することが可能となる。また、これにより、配管90内の流体の流速分布の精度の向上、ひいては配管90内の流体の水位の計測精度が向上する。
【0061】
なお、本発明はこれらに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、超音波センサ10は、高温流体と接触するバッファロッドを介して超音波パルスを入射し、エコー信号を受信してもよい。前述した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するため詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えなくてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…信号処理装置、10…超音波センサ、20…超音波センサ制御ユニット、30…A/D変換器、40…制御ユニット、50…表示ユニット、90…配管、91…管壁。