(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118614
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】顔料分散剤、顔料分散液、及びコーティング剤
(51)【国際特許分類】
C09B 67/20 20060101AFI20240826BHJP
C09B 67/46 20060101ALI20240826BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20240826BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240826BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20240826BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240826BHJP
C09D 7/41 20180101ALI20240826BHJP
C09K 23/32 20220101ALI20240826BHJP
C09B 57/12 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
C09B67/20 L
C09B67/46 A
C09D17/00
C09D201/00
C09D11/037
C09D11/322
C09D7/41
C09K23/32
C09B57/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024993
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】尾迫 秀和
(72)【発明者】
【氏名】村上 亮
(72)【発明者】
【氏名】柳本 宏光
(72)【発明者】
【氏名】荒井 一孝
【テーマコード(参考)】
4D077
4J037
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
4D077AB03
4D077AB05
4D077AB06
4D077AC05
4D077DC04X
4D077DC04Y
4D077DC39X
4D077DC39Y
4D077DC59X
4D077DC59Y
4J037CB16
4J037CB19
4J037CB26
4J037CC16
4J037DD23
4J037FF06
4J037FF23
4J038EA011
4J038FA111
4J038JB31
4J038KA06
4J038KA08
4J038NA01
4J038NA26
4J038PB01
4J038PB05
4J038PB09
4J039AC01
4J039BC33
4J039BC51
4J039BC59
4J039BE01
4J039BE12
4J039EA44
4J039GA03
4J039GA24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】より簡便に、C.I.ピグメントオレンジ43の凝集を抑制することが可能であるとともに長期間の保存安定性が良好な顔料分散液を調製し得る顔料分散剤を提供する。
【解決手段】例えば、下式(1)で表される化合物、並びにその金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の顔料分散剤を提供する。
(式(1)中のR
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、又はハロゲン原子を表し、nは、0.5~3の数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C.I.ピグメントオレンジ43用の顔料分散剤であって、
下記一般式(1)で表される化合物、及び下記一般式(2)で表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のC.I.ピグメントオレンジ43誘導体である顔料分散剤。
(前記一般式(1)中のR
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、又はハロゲン原子を表し、前記一般式(1)及び(2)中のnは、互いに独立に、0.5~3の数を表す。)
【請求項2】
前記C.I.ピグメントオレンジ43誘導体は、下記構造式(1-1)、(1-2)、及び(2-1)のそれぞれで表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の顔料分散剤。
【請求項3】
液媒体と、C.I.ピグメントオレンジ43と、顔料分散剤と、を含有する顔料分散液であって、
前記顔料分散剤は、下記一般式(1)で表される化合物、及び下記一般式(2)で表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のC.I.ピグメントオレンジ43誘導体を含む、顔料分散液。
(前記一般式(1)中のR
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、又はハロゲン原子を表し、前記一般式(1)及び(2)中のnは、互いに独立に、0.5~3の数を表す。)
【請求項4】
前記C.I.ピグメントオレンジ43誘導体は、下記構造式(1-1)、(1-2)、及び(2-1)のそれぞれで表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の顔料分散液。
【請求項5】
前記顔料分散液中の前記C.I.ピグメントオレンジ43の含有量は、前記顔料分散液の全質量に対して、1質量%以上90質量%以下である請求項3に記載の顔料分散液。
【請求項6】
前記顔料分散液中の前記C.I.ピグメントオレンジ43誘導体の含有量は、前記顔料分散液中の前記C.I.ピグメントオレンジ43の含有量に対して、0.05質量%以上40質量%以下である請求項3に記載の顔料分散液。
【請求項7】
前記液媒体は、有機溶剤及び重合性化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項3に記載の顔料分散液。
【請求項8】
活性エネルギー線硬化性インクジェットインキ用着色剤、グラビアインキ用着色剤、塗料用着色剤、又はカラーフィルター用着色剤である請求項3に記載の顔料分散液。
【請求項9】
請求項3~8のいずれか1項に記載の顔料分散液を含有するコーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散剤、顔料分散液、及びコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に顔料を塗料、グラビアインキ、オフセットインキ、筆記具用インキ、及びインクジェットインキ等のビヒクルに混合分散させる際には、顔料を安定してビヒクル中に分散させることが難しく、分散させた微細な顔料粒子はビヒクル中で凝集する傾向がある。その結果、粘度の上昇や、着色力及びグロスの低下等の問題が生じることがある。
【0003】
近年、インクジェット画像形成方法においてその簡易かつ安価な特徴から、商業用印刷機器や産業用印刷機器の開発が行われるようになってきている。例えば、屋外の看板等のいわゆるサイン用途がこれにあたる。この場合、屋外での高い耐候性と広い色再現性が求められる。これらを実現するために、イエロー、マゼンタ、シアン、及びブラックの各色のインクに加え、特色として比較的高い耐候性を有するC.I.ピグメントオレンジ43(以下、「ピグメントオレンジ43」と記載することがある。)を含有するインクを用いたインクセットが提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-173853号公報
【特許文献2】特開2004-70048号公報
【特許文献3】特開2020-2365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ピグメントオレンジ43についてもビヒクル中での凝集傾向が確認されている。そのため、ピグメントオレンジ43を含有する分散液は保存安定性が低く、その分散液を長期間にわたって保管すると、分散液の増粘や異物発生等が確認される。これらは、上記分散液を含有するインク等のコーティング剤を吐出するノズルの目詰まりを引き起こし、ノズル抜け等の不具合を誘発する。この解決手段として、特許文献3には、引火点が70℃以下のグリコールエーテルをインクに含有させることが提案されている。特許文献3の記載によれば、上記グリコールエーテルは、インクの長期保管中の水分上昇を抑制できるために、ピグメントオレンジ43の凝集が抑制されると推測されている。しかし、この手法では、予め溶剤等を脱水しなければならず、また、インクを製造する工程においても吸湿に注意する必要があった。
【0006】
本発明は、上述のような従来技術に鑑み、脱水工程を経ずにより簡便に、ピグメントオレンジ43の凝集を抑制することが可能であるとともに長期間の保存安定性が良好な顔料分散液を調製し得る顔料分散剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、C.I.ピグメントオレンジ43用の顔料分散剤であって、下記一般式(1)で表される化合物、及び下記一般式(2)で表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のC.I.ピグメントオレンジ43誘導体である顔料分散剤が提供される。
【0008】
(前記一般式(1)中のR
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、又はハロゲン原子を表し、前記一般式(1)及び(2)中のnは、互いに独立に、0.5~3の数を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ピグメントオレンジ43の凝集を抑制することが可能であるとともに長期間の保存安定性が良好な顔料分散液を調製し得る顔料分散剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
<顔料分散剤>
本発明の一実施形態の顔料分散剤(以下、単に「顔料分散剤」と記載することがある。)は、C.I.ピグメントオレンジ43用の顔料分散剤である。すなわち、この顔料分散剤は、ピグメントオレンジ43を分散させるために用いられるものである。この顔料分散剤は、下記一般式(1)で表される化合物、及び下記一般式(2)で表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のC.I.ピグメントオレンジ43誘導体(以下、「ピグメントオレンジ43誘導体」と記載することがある。)である。
【0012】
<顔料分散液>
また、本発明の一実施形態の顔料分散液(以下、単に「顔料分散液」と記載することがある。)は、液媒体と、C.I.ピグメントオレンジ43と、顔料分散剤と、を含有する。この顔料分散液には、上記の顔料分散剤を用いることができる。すなわち、顔料分散液中の顔料分散剤は、下記一般式(1)で表される化合物、及び下記一般式(2)で表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のC.I.ピグメントオレンジ43誘導体を含む。
【0013】
【0014】
【0015】
上記一般式(1)中のR1~R4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、又はハロゲン原子を表し、上記一般式(1)及び(2)中のnは、互いに独立に、0.5~3の数を表す。
【0016】
本実施形態の顔料分散液は、上記特定のピグメントオレンジ43誘導体である顔料分散剤を含有するため、ピグメントオレンジ43の凝集を抑制することが可能であり、かつ、長期間の保存安定性が良好である。したがって、上記特定のピグメントオレンジ43誘導体である本実施形態の顔料分散剤を用いれば、ピグメントオレンジ43の凝集を抑制することが可能であるとともに長期間の保存安定性が良好な顔料分散液を調製することができる。以下、顔料分散液の各成分、及び特性等について、詳細に説明する。
【0017】
(ピグメントオレンジ43)
顔料分散液は、ピグメントオレンジ43を含有する。顔料分散液において、ピグメントオレンジ43は、本実施形態の顔料分散剤により、液媒体に分散している形態をとり得る。
【0018】
ピグメントオレンジ43は、CAS登録番号4424-06-0の顔料である。ピグメントオレンジ43の化学名は、ビスベンゾイミダゾ[2,1-b:2’,1’-i]ベンゾ[lmn][3,8]フェナントロリン-8,17-ジオン、又は、1,8-(1H-ベンゾイミダゾール-2,1-ジイルカルボニル)-5,4-(1H-ベンゾイミダゾール-2,1-ジイルカルボニル)ナフタレンである。ピグメントオレンジ43はペノリン構造を有し、色相としては鮮やかな赤味のオレンジである。
【0019】
顔料分散液に含有されるピグメントオレンジ43の体積平均粒子径は、80nm以上400nm以下であることが好ましく、90nm以上350nm以下であることがより好ましく、100nm以上300nm以下であることがさらに好ましい。体積平均粒子径の異なるピグメントオレンジ43を混合して使用する場合においても、各ピグメントオレンジ43の体積平均粒子径は上記範囲内であることが好ましい。ピグメントオレンジ43の体積平均粒子径が上記範囲内であることにより、分散安定性が良好であり、また、顔料分散液をインキ等のコーティング剤に含有させた場合の吐出性や塗膜の耐候性がより良好となりやすい。保存安定性の観点から、ピグメントオレンジ43の体積平均粒子径は80nm以上であることが好ましく、90nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましい。一方、ノズルの目詰まり等を抑制する観点、すなわち、吐出性の観点から、ピグメントオレンジ43の体積平均粒子径は400nm以下であることが好ましく、350nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましい。
【0020】
本明細書において、ピグメントオレンジ43の体積平均粒子径は、動的光散乱法により測定される体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(メジアン径;D50)を意味する。ピグメントオレンジ43の体積平均粒子径の測定には、動的光散乱法を利用した粒度分布測定装置(例えば、大塚電子株式会社製の商品名「FPAR-1000」)を用いることができる。
【0021】
顔料分散液中のピグメントオレンジ43の含有量は、顔料分散液の全質量に対して、1質量%以上90質量%以下であることが好ましい。ピグメントオレンジ43の含有量が上記範囲内であることにより、十分な発色性が得られやすく、また、分散安定性が高まりやすい。発色性の観点から、ピグメントオレンジ43の上記含有量は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることがよりさらに好ましい。一方、分散安定性の観点から、ピグメントオレンジ43の上記含有量は、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、30質量%以下であることがよりさらに好ましい。
【0022】
顔料分散液は、ピグメントオレンジ43以外の顔料等の着色剤を含有してもよいが、着色剤の合計質量に対するピグメントオレンジ43の割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。このようにピグメントオレンジ43を着色剤の主成分として用い、顔料分散液をオレンジ色顔料分散液として用いることが好ましい。
【0023】
(ピグメントオレンジ43誘導体)
顔料分散液は、顔料分散剤として、下記一般式(1)で表される化合物、及び一般式(2)で表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩(以下、各種塩をまとめて単に「塩類」と記載することがある。)からなる群より選ばれる少なくとも1種のピグメントオレンジ43誘導体を含有する。顔料分散液において、ピグメントオレンジ43誘導体は、液媒体にピグメントオレンジ43を分散させる分散剤としての役割を有する。
【0024】
【0025】
【0026】
一般式(1)中のR1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、又はハロゲン原子を表す。一般式(1)及び(2)中のnは、互いに独立に、0.5~3の数を表す。
【0027】
一般式(1)中のR1~R4がとりうるアルキル基及びアルコキシ基は、直鎖及び分岐鎖のいずれでもよい。アルキル基及びアルコキシ基の炭素原子数は1~6であることが好ましく、1~4であることがより好ましく、1~3であることがさらに好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はイソプロピル基がさらに好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、又はイソプロポキシ基がさらに好ましい。一般式(1)中のR1~R4がとりうるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子等を挙げることができる。
【0028】
一般式(1)中の左側の構造式(1A)は、ピグメントオレンジ43の構造に対応する。一般式(1)で表される化合物は、ピグメントオレンジ43に対応する構造に、一般式(1)中の右側の構造式(1B)で表される、スルホン基(SO3H)を置換基として少なくとも有する置換ベンジル基が平均でn個導入された化合物である。つまり、一般式(1)中のnは、ピグメントオレンジ43に対応する構造への構造式(1B)で表される基の平均導入個数を表す。一般式(1)で表される化合物における構造式(1B)で表される基の結合位置は、ピグメントオレンジ43に対応する構造中の芳香環である。したがって、一般式(1)で表される化合物は、ピグメントオレンジ43の構造中の12個の水素原子のうち、平均でn個が置換基としての上記構造式(1B)で表される基に置き換えられたピグメントオレンジ43誘導体である。
【0029】
また、一般式(2)中の左側の構造式(2A)も、ピグメントオレンジ43の構造に対応する。一般式(2)で表される化合物は、ピグメントオレンジ43に対応する構造に、一般式(2)中の右側の構造式(2B)で表される、スルホフェニル-ピラゾロン環を有する基が平均でn個導入された化合物である。つまり、一般式(2)中のnは、ピグメントオレンジ43に対応する構造への構造式(2B)で表される基の平均導入個数を表す。一般式(2)で表される化合物における構造式(2B)で表される基の結合位置は、ピグメントオレンジ43に対応する構造中の芳香環である。したがって、一般式(2)で表される化合物は、ピグメントオレンジ43の構造中の12個の水素原子のうち、平均でn個が置換基としての上記構造式(2B)で表される基に置き換えられたピグメントオレンジ43誘導体である。
【0030】
一般式(1)又は(2)で表される化合物(ピグメントオレンジ43誘導体)は、例えば、次のような方法により、合成することができる。まず、ピグメントオレンジ43を濃硫酸に30℃以下で添加し、パラホルムアルデヒドを加え、40~70℃、好ましくは50~60℃で反応させる。その後、ベンゼンスルホン酸誘導体又はスルホフェニル-2-ピラゾリン-5-オン誘導体を加え、60℃~100℃、好ましくは70℃~80℃で反応させることによって、一般式(1)又は(2)で表される化合物(ピグメントオレンジ43誘導体)を得ることができる。また、例えば、得られた一般式(1)又は(2)で表される化合物を単離及び精製する際に、上述の塩類を構成する塩を用いた塩析法により、一般式(1)又は(2)で表される化合物の塩類を得ることもできる。
【0031】
ピグメントオレンジ43誘導体は、上述した一般式(1)又は(2)で表される化合物の金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、又は有機第4級アンモニウム化合物の塩であってもよい。金属塩を構成する金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、及びカリウム等のアルカリ金属;並びにカルシウム、バリウム、アルミニウム、マンガン、ストロンチウム、マグネシウム及びニッケル等の多価金属;等を挙げることができる。有機アミン塩を構成する有機アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、及びトリエタノールアミン等を挙げることができる。有機第4級アンモニウム化合物の塩を構成する第4級アンモニウムとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、及びジメチルジオクタデシルアンモニウム等を挙げることができる。
【0032】
一般式(1)で表される化合物としては、例えば、下記構造式(1-1)~(1-6)のそれぞれで表される化合物等を挙げることができる。また、一般式(2)で表される化合物としては、例えば、下記構造式(2-1)及び(2-2)のそれぞれで表される化合物等を挙げることができる。下記構造式(1-1)~(1-6)、(2-1)及び(2-2)のそれぞれで表される化合物、並びにそれらの塩類からなる群より選ばれる少なくとも1種のC.I.ピグメントオレンジ43誘導体が好ましい。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
本発明者らの検討の結果、ピグメントオレンジ43誘導体のなかでも、上記構造式(1-1)、(1-2)、及び(2-1)のそれぞれで表される化合物、並びにそれらの塩類からなる群より選ばれる少なくとも1種のC.I.ピグメントオレンジ43誘導体が、ピグメントオレンジ43の分散安定化にさらに効果的であることがわかった。そのため、顔料分散液は、顔料分散剤として、上記構造式(1-1)、(1-2)、及び(2-1)のそれぞれで表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のC.I.ピグメントオレンジ43誘導体を含有することがさらに好ましい。
【0042】
顔料分散液中のピグメントオレンジ43誘導体の含有量は、顔料分散液中のピグメントオレンジ43の含有量に対して、0.05質量%以上40質量%以下であることが好ましい。ピグメントオレンジ43の含有量に対するピグメントオレンジ43誘導体の含有量が上記範囲内にあることにより、耐候性が良好であり、かつ、保存安定性がさらに良好な顔料分散液を得やすくなる。これらの観点から、ピグメントオレンジ43の含有量に対するピグメントオレンジ43誘導体の含有量は、0.1質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがよりさらに好ましい。ピグメントオレンジ43の含有量に対するピグメントオレンジ43誘導体の含有量は、顔料分散液中のピグメントオレンジ43の含有量P及びピグメントオレンジ43誘導体の含有量Bから、[B/P]×100(質量%)で求めることができる。
【0043】
ピグメントオレンジ43の含有量に対するピグメントオレンジ43誘導体の含有量が上記範囲内であれば、顔料分散液の全質量に対するピグメントオレンジ43誘導体の含有量は、特に限定されない。ピグメントオレンジ43誘導体の含有量は、顔料分散液の全質量に対して、0.0005質量%以上36質量%以下であることが好ましい。顔料分散液の全質量に対するピグメントオレンジ43誘導体の含有量は、0.0025質量%以上であることがより好ましく、0.005質量%以上であることがさらに好ましく、0.0075質量%以上であることがよりさらに好ましい。一方、顔料分散液の全質量に対するピグメントオレンジ43誘導体の含有量は、28質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、12質量%以下であることがよりさらに好ましい。
【0044】
(液媒体)
顔料分散液は、液媒体を含有する。顔料分散液において、液媒体は、ピグメントオレンジ43の分散媒としての役割を有する。液媒体には、常温(20℃±15℃)において、液体の形態をとるものを用いることができる。
【0045】
液媒体は特に限定されず、顔料分散液が用いられる用途に応じて適当な液媒体を選択して用いうる。例えば、顔料分散液が、グラビアインキ用着色剤、塗料用着色剤、及びカラーフィルター用着色剤等として、溶剤型インキ(油性インキ)に用いられる場合、液媒体として有機溶剤を好適に用いることができる。また、顔料分散液が、活性エネルギー線硬化性インクジェットインキ用着色剤等として、紫外線硬化性インキ及び電子線硬化性インキ等の活性エネルギー線硬化性インキに用いられる場合、液媒体として重合性化合物を好適に用いることができる。液媒体は、有機溶剤及び重合性化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。液媒体を有機溶剤及び/又は重合性化合物とすることで、非水系である油性顔料分散液を得ることができる。
【0046】
有機溶剤には、例えば油性インキに従来から用いられているものを用いることができる。有機溶剤としては、例えば、ケトン系溶剤、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、及びアルコール系溶剤等を挙げることができ、それらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、及びジアセトンアルコール等を挙げることができる。炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;n-ヘキサン、n-ヘプタン、及びn-オクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;並びにシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、及びシクロオクタン等の脂環族炭化水素系溶剤等を挙げることができる。エステル系溶剤としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、及び酢酸イソブチル等を挙げることができる。エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、及びメチルエチルエーテル等を挙げることができる。グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることができる。アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、及びn-ブタノール等の1価アルコール;並びにエチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリン等の多価アルコール等を挙げることができる。
【0048】
重合性化合物には、例えば活性エネルギー線硬化性インキに従来から用いられているものを用いることができる。重合性化合物としては、例えば、単官能モノマー、多官能モノマー、光硬化性オリゴマー、及び光硬化性ポリマー等を挙げることができ、それらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」との文言には、「アクリル」及び「メタクリル」の両方の文言が含まれることを意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との文言には、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方の文言が含まれることを意味する。
【0049】
単官能モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、アダマンチルメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ビニロキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、無水フタル酸と2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの付加物、アクリロイルモルホリン、及びN-ビニルカプロラクタム等を挙げることができる。
【0050】
多官能モノマー及び光硬化性オリゴマーとしては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(n=2以上)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2以上)ジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール(n=2以上)ジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパンジアクリレート、ビス(2-(メタ)アクリロキシエチル)-ヒドロキシエチル-イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型ジエポキシと(メタ)アクリル酸とを反応させたエポキシジ(メタ)アクリレート等のエポキシポリ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体に2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを反応させたウレタントリ(メタ)アクリレート、イソホロンジイソシアネートと2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート、イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンヘキサ(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルジイソシアネートと2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルジイソシアネートとポリ(n=6~15)テトラメチレングリコールとのウレタン化反応物に2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート等のウレタンポリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンとコハク酸及び(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンとコハク酸、エチレングリコール、及び(メタ)アクリル酸を反応させたポリエステル(メタ)アクリレート等のポリエステルポリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0051】
光硬化性ポリマーとしては、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエポキシ樹脂等のポリマーの末端や側鎖に、ラジカル重合性を示す複数の(メタ)アクリロイルオキシ基が導入されたポリマー等を挙げることができる。さらに、カルボキシ基等を有する、アルカリ現像性の光硬化性ポリマーを用いることもできる。
【0052】
顔料分散液中の液媒体の含有量は、顔料分散液の全質量に対して、9質量%以上98質量%以下であることが好ましい。液媒体の上記含有量は、29質量%以上であることがより好ましく、49質量%以上であることがさらに好ましい。また、液媒体の上記含有量は、94質量%以下であることがより好ましく、89質量%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
(その他の成分)
顔料分散液には、ピグメントオレンジ43、ピグメントオレンジ43誘導体、及び液媒体のほかに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分としては、例えば、ピグメントオレンジ43以外の着色剤、ピグメントオレンジ43誘導体以外の分散剤(例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体、ポリエステルポリアミド樹脂等)、界面活性剤、光安定剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、及び消泡剤等を挙げることができ、それらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0054】
(顔料分散液の製造方法)
顔料分散液の製造方法には特に制限はなく、ピグメントオレンジ43、ピグメントオレンジ43誘導体、及び液媒体、並びに必要に応じてその他の成分を混合して分散することによって、顔料分散液を製造することができる。
【0055】
分散安定性を高める観点から、ピグメントオレンジ43誘導体を含む分散剤をピグメントオレンジ43に吸着させることが好ましい。その吸着方法としては、例えば、ソルトミリング工程や乾式粉砕工程等の顔料(ピグメントオレンジ43)微細化中に行う方法や、それぞれの粉末同士を混合する方法、スラリー同士を混合する方法、又は分散剤を使用しての顔料等の分散工程中に行う方法等が挙げられる。これらのなかでも、顔料(ピグメントオレンジ43)の粒子表面にピグメントオレンジ43誘導体を含む分散剤の均一な吸着処理を行うためには、分散工程中に行うことが好ましい。
【0056】
顔料分散液を製造する際に、ピグメントオレンジ43誘導体を含む分散剤、ピグメントオレンジ43、及び液媒体、並びに必要に応じてその他の成分を混合撹拌し、分散機を用いて、ピグメントオレンジ43を分散させることが好ましい。
【0057】
分散機としては、例えば、ニーダー、二本ロール、三本ロール、SS5(商品名、エムテクニック株式会社)、ミラクルKCK(商品名、浅田鉄鋼株式会社)といった混練機や超音波分散機、高圧ホモジナイザーである、マイクロフルイダイザー(商品名、みずほ工業株式会社)、ナノマイザー(商品名、吉田機械興業株式会社)、スターバースト(商品名、スギノマシン株式会社)、G-スマッシャー(商品名、リックス株式会社)、ペイントシェイカー、ボールミル、アトライター、及びサンドミル等が挙げられる。また、ガラス、ジルコン、及びジルコニア等のビーズメディアを使用したものでは、ペイントシェイカー、ボールミル、アトライター、サンドミル、横型メディアミル分散機、及びコロイドミル等を使用することができる。ビーズメディアとしては、例えば、直径0.5mm以上1mm以下程度のビーズメディアを用いるのがよい。カラーフィルター用着色剤の分散においては、ビーズ径を変えて2回分散を行うのが好ましく、2回目の分散においては1回目の分散に用いたビーズの直径よりも小さい直径のビーズを使用することで、顔料(ピグメントオレンジ43)をより微細化させることができる。また、得られた顔料分散液はそのままでもよいが、遠心分離機、超遠心分離機、又はろ過機を用いて、僅かに存在する可能性のある粗大粒子を除去することが好ましい。
【0058】
以上詳述した本実施形態の顔料分散液は、液媒体、ピグメントオレンジ43、及び前述の特定のピグメントオレンジ43誘導体を含有するため、より簡便に、ピグメントオレンジ43の凝集を抑制することが可能であり、かつ、長期間の保存安定性が良好である。そのため、この顔料分散液を用いることで、長期間の保存安定性が良好であり、かつ、ピグメントオレンジ43が凝集し難いコーティング剤を提供することが可能である。したがって、顔料分散液は、活性エネルギー線硬化性インクジェットインキ用着色剤、グラビアインキ用着色剤、又は塗料用着色剤等として、好適に用いることができる。また、本実施形態の顔料分散液は、耐候性が良好であるため、サインディスプレイ等の屋外用途や、カラーフィルター用着色剤等として好適である。次に、コーティング剤について説明する。
【0059】
<コーティング剤>
本発明の一実施形態のコーティング剤(以下、単に「コーティング剤」と記載することがある。)は、前述の顔料分散液を含有する。顔料分散液は、前述の通り、好ましくは非水系である油性顔料分散液であることから、コーティング剤についても、非水系である油性コーティング剤が好ましい。
【0060】
コーティング剤は、物品等の表面に定着し、物品等の表面の少なくとも一部を被覆する作用を示す剤である。このため、コーティング剤は、このような作用を示す様々な用途に適用することができる。具体的には、塗料、文具、電子材料、グラビアインキ、オフセットインキ、インクジェットインキ、活性エネルギー線硬化性インキ、カラーフィルター、トナー、化粧品、捺染、接着剤、粘着剤、フォトレジスト材料、及び医療用材料等を挙げることができる。これらのなかでも、コーティング剤は、塗料、グラビアインキ、インクジェットインキ、又は活性エネルギー線硬化性インキであることが好ましく、グラビアインキ、又は活性エネルギー線硬化性インクジェットインキであることがより好ましい。
【0061】
コーティング剤中のピグメントオレンジ43の含有量は、コーティング剤の全質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0062】
コーティング剤は、前述の顔料分散液のほか、顔料分散液に含有されている液媒体の説明で述べた有機溶剤及び重合性化合物、顔料分散液の説明で述べたその他の成分、並びにその他の添加剤等を含有することができる。これらの任意成分と前述の顔料分散液とを混合することにより、コーティング剤を得ることができる。その他の添加剤としては、例えば、バインダー樹脂、光重合開始剤、光重合禁止剤、スリップ剤、及び酸化防止剤等を挙げることができる。これらは、顔料分散液を調製する際の分散時に加えてもよいが、インク化工程の際に添加することが好ましい。
【0063】
コーティング剤を様々な物品である基材に塗布し、コーティング剤の乾燥及び/又は反応により、塗膜を形成することができる。コーティング剤を塗布する方法は、特に限定されない。例えば、スピンコート法、グラビアコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、バーコート法、ドクターブレード法、ロールコート法、ディップ法、スプレー法、フレキソ印刷法、及びリバースロールコーター法等により、コーティング剤を基材に塗布することができる。
【0064】
コーティング剤が塗布される基材としては、特に限定されず、例えば、光学材料分野、電気材料分野、建築材料分野、記録材料分野、表示材料分野、及び医療材料分野等に使用される基材を挙げることができる。それらの分野における物品の表面コーティング剤や表面処理剤として、コーティング剤を好適に使用することができる。基材の材質としては、特に制限されず、例えば、ステンレス及び銅等の金属、ガラス、セラミック、無機酸化物、シリコン、木材、紙、プラスチック材料等が挙げられる。
【0065】
以上の通り、本実施形態では、以下の構成を採りうる。
[1]C.I.ピグメントオレンジ43用の顔料分散剤であって、
上記一般式(1)で表される化合物、及び上記一般式(2)で表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のC.I.ピグメントオレンジ43誘導体である顔料分散剤。
[2]前記C.I.ピグメントオレンジ43誘導体は、上記構造式(1-1)、(1-2)、及び(2-1)のそれぞれで表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記[1]に記載の顔料分散剤。
[3]液媒体と、C.I.ピグメントオレンジ43と、顔料分散剤と、を含有する顔料分散液であって、
前記顔料分散剤は、上記一般式(1)で表される化合物、及び上記一般式(2)で表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種のC.I.ピグメントオレンジ43誘導体を含む、顔料分散液。
[4]前記C.I.ピグメントオレンジ43誘導体は、上記構造式(1-1)、(1-2)、及び(2-1)のそれぞれで表される化合物、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、及び有機第4級アンモニウム化合物の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である上記[3]に記載の顔料分散液。
[5]前記顔料分散液中の前記C.I.ピグメントオレンジ43の含有量は、前記顔料分散液の全質量に対して、1質量%以上90質量%以下である上記[3]又は[4]に記載の顔料分散液。
[6]前記顔料分散液中の前記C.I.ピグメントオレンジ43誘導体の含有量は、前記顔料分散液中の前記C.I.ピグメントオレンジ43の含有量に対して、0.05質量%以上40質量%以下である上記[3]~[5]のいずれかに記載の顔料分散液。
[7]前記液媒体は、有機溶剤及び重合性化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[3]~[6]のいずれかに記載の顔料分散液。
[8]活性エネルギー線硬化性インクジェットインキ用着色剤、グラビアインキ用着色剤、塗料用着色剤、又はカラーフィルター用着色剤である上記[3]~[7]のいずれかに記載の顔料分散液。
[9]上記[3]~[8]のいずれかに記載の顔料分散液を含有するコーティング剤。
【実施例0066】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0067】
<材料の用意>
以下に示す顔料、分散剤、重合性化合物、光重合開始剤、光重合禁止剤、及びスリップ剤を用意した。
【0068】
(顔料)
・ピグメントオレンジ43(商品名「PV Gast Orange GRL」、クラリアント社製)
【0069】
(分散剤)
・ソルスパース 37500(ルーブリゾール社製の商品名;ポリエステルポリアミド樹脂)
【0070】
(重合性化合物〉
・アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(日本触媒社製;以下、「VEEA」と記す場合がある。)
・イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業社製;以下、「IBXA」と記す場合がある。)
・N-ビニルカプロラクタム(ISPジャパン社製;以下、「V-CAP」と記す場合がある。)
・フェノキシエチルアクリレート(Sartomer社製の商品名「SR339A」;以下、「PEA」と記す場合がある。)
【0071】
(光重合開始剤)
・IRGACURE 819(BASF社製のビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイドの商品名)
・DAROCURE TPO(BASF社製の2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドの商品名)
【0072】
(光重合禁止剤)
・p-メトキシフェノール(関東化学社製)
【0073】
(スリップ剤)
・BYK-UV3500(BYK社製の商品名;ポリエーテル変性アクリル基を有するポリジメチルシロキサン)
【0074】
<ピグメントオレンジ43誘導体の製造>
以下に示す手順にしたがってピグメントオレンジ43誘導体(1-1)、(1-2)、及び(2-1)を製造した。分子量の測定及び構造の同定には、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析計(MALDI-TOF MS(以下、単に「MALDI」と記載する。;商品名「autoflex maX」、BRUKER社製)を用いた。
【0075】
(合成例1)ピグメントオレンジ43誘導体(1-1)の製造
ピグメントオレンジ43の16.5部を98%硫酸200部に30℃以下で添加し、さらにパラホルムアルデヒド1.8部を添加し、その後、50℃で30分反応させた。p-トルエンスルホン酸・一水和物12.0部を加え、80℃で3時間反応させた。冷却後、反応混合物を1,000部の氷水中に析出させ、ろ過及び水洗を繰り返した。乾燥し、硫黄の元素分析の結果より1分子あたり平均1.0個のスルホン基が導入されている、前掲の構造式(1-1)で表されるピグメントオレンジ43誘導体(これを「ピグメントオレンジ43誘導体(1-1)」と記す。)19.7部を得た。MALDIによる質量分析を行ったところ、分子量596のピークが検出された。
【0076】
(合成例2)ピグメントオレンジ43誘導体(1-2)の製造
合成例1で使用したp-トルエンスルホン酸・一水和物12.0部に代えて、o-クレゾール-4-スルホン酸12.0部を用いて合成したこと以外は、合成例1と同様の手順を行った。このようにして、硫黄の元素分析の結果より1分子あたり平均1.0個のスルホン基が導入されている、前掲の構造式(1-2)で表されるピグメントオレンジ43誘導体(これを「ピグメントオレンジ43誘導体(1-2)」と記す。)19.8部を得た。MALDIによる質量分析を行ったところ、分子量612のピークが検出された。
【0077】
(合成例3)ピグメントオレンジ43誘導体(2-1)の製造
合成例1で使用したp-トルエンスルホン酸・一水和物12.0部に代えて、3-メチル-1-(4-スルホフェニル)-2-ピラゾリン-5-オン10.2部を用いて合成したこと以外は、合成例1と同様の手順を行った。このようにして、硫黄の元素分析の結果より1分子あたり平均1.0個のスルホン基が導入されている、前掲の構造式(2-1)で表されるピグメントオレンジ43誘導体(これを「ピグメントオレンジ43誘導体(2-1)」と記す。)24.1部を得た。MALDIによる質量分析を行ったところ、分子量678のピークが検出された。
【0078】
<顔料分散液の調製>
(実施例1)オレンジ色顔料分散液(1-1)の調製
PEA73.0部に、分散剤(ソルスパース 37500)を12.0部溶解させ、ピグメントオレンジ43を14.5部、合成例1で得たピグメントオレンジ43誘導体(1-1)を0.5部加え、混合物を得た。この混合物をペイントシェイカーで、直径1mmのジルコニアビーズを用いて、ピグメントオレンジ43の体積平均粒子径(メジアン径;D50)が200nm以下となるように分散し、実施例1のオレンジ色顔料分散液(1-1)を調製した。
【0079】
(実施例2)オレンジ色顔料分散液(1-2)の調製
実施例1で使用したピグメントオレンジ43誘導体(1-1)0.5部の代わりに、ピグメントオレンジ43誘導体(1-2)を0.5部使用したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のオレンジ色顔料分散液(1-2)を調製した。
【0080】
(実施例3)オレンジ色顔料分散液(2-1)の調製
実施例1で使用したピグメントオレンジ43誘導体(1-1)0.5部の代わりに、ピグメントオレンジ43誘導体(2-1)を0.5部使用したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のオレンジ色顔料分散液(2-1)を調製した。
【0081】
(実施例4)オレンジ色顔料分散液(1-3)の調製
実施例1におけるピグメントオレンジ43の使用量14.5部及びピグメントオレンジ43誘導体(1-1)の使用量0.5部を、それぞれ、14.95部及び0.05部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のオレンジ色顔料分散液(1-3)を調製した。
【0082】
(実施例5)オレンジ色顔料分散液(1-4)の調製
実施例1におけるピグメントオレンジ43の使用量14.5部及びピグメントオレンジ43誘導体(1-1)の使用量0.5部を、それぞれ、11.0部及び4.0部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5のオレンジ色顔料分散液(1-4)を調製した。
【0083】
(比較例1)オレンジ色顔料分散液(3)の調製
実施例1で使用したピグメントオレンジ43誘導体(1-1)の代わりに、ダイレクトイエロー8を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のオレンジ色顔料分散液(3)を調製した。
【0084】
(比較例2)オレンジ色顔料分散液(4)の調製
実施例1において、ピグメントオレンジ43誘導体(1-1)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のオレンジ色顔料分散液(4)を調製した。
【0085】
<顔料分散液の評価>
(体積平均粒子径)
調製した各オレンジ色顔料分散液について、動的光散乱法を利用した粒度分布測定装置(商品名「FPAR-1000」、大塚電子株式会社製)を用いて、顔料分散液中のピグメントオレンジ43の体積平均粒子径(D50)を測定した。
【0086】
(保存安定性)
各実施例及び比較例で調製した直後のオレンジ色顔料分散液をガラス瓶に収容後、ガラス瓶を密封し、60℃で2週間保存した。保存前後のオレンジ色顔料分散液の25℃での粘度を、E型粘度計(製品名「TV33-L」、東機産業株式会社製)で測定した。そして、保存前のオレンジ色顔料分散液の粘度に対して保存後のオレンジ色顔料分散液の粘度が何%上昇したか、すなわち何%増粘したかを算出した。その結果に基づいて、下記の評価基準にしたがって、顔料分散液の保存安定性を評価した。増粘が小さいほど、オレンジ色顔料分散液の保存安定性が良好であったことを表す。下記の評価基準の「A」及び「B」は許容できるレベル、「C」は許容できないレベルである。
A:増粘が5%未満である。
B:増粘が5%以上10%未満である。
C:増粘が10%以上である。
【0087】
(顔料凝集)
各実施例及び比較例で調製した直後のオレンジ色顔料分散液を、濾紙(アドバンテック社製、No.5A)を用いて濾過した後に、濾紙上に残存した異物を目視にて観察した。観察結果に基づいて、下記の評価基準にしたがって、顔料分散液中の顔料(ピグメントオレンジ43)の凝集の程度を評価した。異物が確認されないか少ないほど、オレンジ色顔料分散液中のピグメントオレンジ43が凝集し難かったことを表す。下記の評価基準の「A」及び「B」は許容できるレベル、「C」は許容できないレベルである。
A:異物が認められない。
B:若干の異物が認められる。
C:多くの異物が認められる。
【0088】
実施例1~5、並びに比較例1及び2のオレンジ色顔料分散液の組成(単位:部)と評価結果を表1(表1-1及び表1-2)に示す。
【0089】
【0090】
【0091】
<インクジェットインキの調製>
(実施例6~8、並びに比較例3及び4)
実施例1~3、並びに比較例1及び2で得られた各オレンジ色顔料分散液に、重合性化合物、光重合開始剤、光重合禁止剤、及びスリップ剤を、下記表2の上段(単位:%)に示す組成となるようにそれぞれ配合した。このようにして、それぞれ、非水系のオレンジ色インキであって、活性エネルギー線硬化性のインクジェットインキ(以下、単に「インキ」と記載することがある。)を調製した。
【0092】
<インクジェットインキの評価>
(保存安定性)
各実施例及び比較例で調製した直後のインキをガラス瓶に収容後、ガラス瓶を密封し、60℃で2週間保存した。保存前後のインキの25℃での粘度を、E型粘度計(製品名「TV33-L」、東機産業株式会社製)にて測定し、保存前のインキの粘度に対して保存後のインキの粘度が何%上昇したか、すなわち何%増粘したかを算出した。その結果に基づいて、下記の評価基準にしたがって、インキの保存安定性を評価した。増粘が小さいほど、インキの保存安定性が良好であったことを表す。下記の評価基準の「A」及び「B」は許容できるレベル、「C」は許容できないレベルである。
A:増粘が5%未満である。
B:増粘が5%以上10%未満である。
C:増粘が10%以上である。
【0093】
(顔料凝集)
各実施例及び比較例で調製した直後のインキを、濾紙(アドバンテック社製、No.5A)を用いて濾過した後に、濾紙上に残存した異物を目視にて観察した。観察結果に基づいて、下記の評価基準にしたがって、インキ中の顔料(ピグメントオレンジ43)の凝集の程度を評価した。異物が確認されないか少ないほど、インキ中のピグメントオレンジ43が凝集し難かったことを表す。下記の評価基準の「A」及び「B」は許容できるレベル、「C」は許容できないレベルである。
A:異物が認められない。
B:若干の異物が認められる。
C:多くの異物が認められる。
【0094】
実施例6~8、並びに比較例3及び4のインクジェットインキの評価結果を表2の下段に示す。
【0095】