(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118628
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】商品販売支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 30/0202 20230101AFI20240826BHJP
G06Q 30/06 20230101ALI20240826BHJP
【FI】
G06Q30/0202
G06Q30/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025014
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000155469
【氏名又は名称】株式会社野村総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100216677
【弁理士】
【氏名又は名称】坂次 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小林 大祐
(72)【発明者】
【氏名】笛田 桃
(72)【発明者】
【氏名】山本 聡
(72)【発明者】
【氏名】岡安 顕太朗
【テーマコード(参考)】
5L030
5L049
【Fターム(参考)】
5L030BB01
5L030BB72
5L049BB01
5L049BB72
(57)【要約】
【課題】類似商品間のカニバリゼーションを考慮した需要予測を行う。
【解決手段】商品の需要予測数を出力する商品販売支援システム1であって、商品ごとの過去の販売実績32に基づいて機械学習により予め生成された学習モデルに基づいて、対象の商品について特定の販売期間における需要予測数を算出し、対象の商品と他の商品との間に、他の商品との関連で対象の商品の販売数が低下するカニバリゼーションの関係があるか否かを判断し、カニバリゼーションの関係がある場合に、当該他の商品との関係で対象の商品に対して設定された下方修正倍率を取得し、算出した需要予測数に対して下方修正倍率を乗算して、対象の商品に係る販売期間における需要予測数として出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
商品の需要予測数を出力する商品販売支援システムであって、
商品ごとの過去の販売実績に基づいて機械学習により生成された学習モデルに基づいて、第1の商品について特定の販売期間における第1の需要予測数を算出し、
前記第1の商品と他の第2の商品との間に、前記第2の商品との関連で前記第1の商品の販売数が低下する第1の関係があるか否かを判断し、前記第1の関係がある場合に、前記第2の商品との関係で前記第1の商品に対して設定された下方修正倍率を取得し、前記第1の需要予測数に対して前記下方修正倍率を乗算して、前記第1の商品に係る前記販売期間における需要予測数として出力する、商品販売支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の商品販売支援システムにおいて、
前記第2の商品が対象となった販促企画が実施された第1の回数に対する、前記各販促企画の実施日における前記第1の商品の販売数が前記各販促企画実施前の所定の期間における前記第1の商品の販売数より低下した第2の回数の割合を算出し、前記割合が所定の閾値以上である場合に、前記第1の商品と前記第2の商品との間に前記第1の関係がある旨の情報を記録する、商品販売支援システム。
【請求項3】
請求項1に記載の商品販売支援システムにおいて、
前記第1の商品の直近の所定の期間における販売数に対する、前記第2の商品が対象となった販促企画の前記第1の商品の販売数の割合を算出し、前記割合が所定の閾値未満である場合に、前記割合を前記第2の商品との関係における前記第1の商品の前記下方修正倍率として記録する、商品販売支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売店における商品販売を支援する技術に関し、特に、商品の需要予測をより適切に行う商品販売支援システムに適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スーパーマーケットやコンビニエンスストアなど多数の商品(特に、生鮮食品など販売期間が制限される商品を含むが、これに限られない)を販売する小売店(以下、単に「小売店」という)では、店頭での商品の品揃えを充実させつつ、一方で販売期限切れによる商品の廃棄ロスや捨て値での販売などの損失を可能な限りなくすため、商品ごとの在庫数や発注数を適正に管理することが求められる。在庫数や発注数を適正に管理するためには、各商品についての精度の高い需要予測(販売数の予測)が重要となるが、近年ではAI(Artificial Intelligence:人工知能)によって需要予測が行われる例も多い。
【0003】
例えば、特開2022-108172号公報(特許文献1)には、AIにより算出された商品ごとの需要予測数と、商品の特性(例えば、販売可能日数が短い売り切り商品であるかや、販売頻度が低い商品であるかなど)により振り分けられたカテゴリに応じて設定された所定の計算式に基づいて、各商品に最適な必要納品数を算出して発注提案数として出力することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたような従来技術も含め、在庫数や発注数の管理においては、各商品の需要予測数の精度の高さが重要となる。この点、従来は、例えば販促イベントなどの企画が実施された場合、企画の対象となった商品の需要数(販売数)についてはAIにより予測することができても、他の商品に対する売行きへの影響については考慮されていない。例えば、ある商品について販促イベントなどを実施すると、同じ店舗内の他の類似商品の売行きが落ちる場合があること(カニバリゼーション)は知られているが、カニバリゼーションまで考慮して需要数(販売数)を予測することはできていない。
【0006】
そこで本発明の目的は、類似商品間のカニバリゼーションを考慮した需要予測を行う商品販売支援システムを提供することにある。
【0007】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記載および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0009】
本発明の代表的な実施の形態である商品販売支援システムは、店舗における商品の需要予測数を出力する商品販売支援システムであって、商品ごとの過去の販売実績に基づいて機械学習により生成された学習モデルに基づいて、第1の商品について特定の販売期間における第1の需要予測数を算出し、前記第1の商品と他の第2の商品との間に、前記第2の商品との関連で前記第1の商品の販売数が低下する第1の関係があるか否かを判断し、前記第1の関係がある場合に、前記第2の商品との関係で前記第1の商品に対して設定された下方修正倍率を取得し、前記第1の需要予測数に対して前記下方修正倍率を乗算して、前記第1の商品に係る前記販売期間における需要予測数として出力するものである。
【発明の効果】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0011】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、類似商品間のカニバリゼーションを考慮した需要予測を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態である商品販売支援システムの構成例について概要を示した図である。
【
図2】本発明の一実施の形態における売上関係表および下方修正倍率関係表の更新処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施の形態における好適な発注数の提案処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施の形態における値引処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施の形態における2回目以降の再値引処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施の形態における売上関係表の例について概要を示した図である。
【
図7】本発明の一実施の形態における下方修正倍率関係表の例について概要を示した図である。
【
図8】本発明の一実施の形態におけるフィードバックマスタの例について概要を示した図である。
【
図9】本発明の一実施の形態における値引率マスタの例について概要を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。一方で、ある図において符号を付して説明した部位について、他の図の説明の際に再度の図示はしないが同一の符号を付して言及する場合がある。
【0014】
<概要>
店頭での商品の品揃えを充実させつつ、一方で販売期限切れによる商品の廃棄ロスや捨て値での販売などの損失を可能な限りなくすため、商品ごとの在庫数や発注数を適正に管理することが求められる。在庫数や発注数を適正に管理するためには、各商品についての精度の高い需要予測が重要となる。例えば、ある商品について販促イベントなどを実施すると、同じ店舗内の他の類似商品の売行きが落ちる場合がある(カニバリゼーション)が、本発明の一実施の形態である商品販売支援システムは、カニバリゼーションまで考慮して需要数(販売数)を予測することで、需要予測の精度を高めるとともに、需要予測数に基づいた好適な在庫数や発注数の提案を可能とするものである。
【0015】
また、販売期限切れによる商品の廃棄ロスや捨て値での販売などの損失を可能な限りなくすための手法として、店頭で販売している商品を販売期限内に売り切ることができるよう、夕方以降などに値引販売することもよく行われる。1回目の値引きをした後、売行きが芳しくないために再度値引きをすることも行われるが、本発明の一実施の形態である商品販売支援システムは、1回目の値引きはもちろん、当該値引きの結果の状況を踏まえた再値引きについても、好適な値引率の提案を可能とするものである。
【0016】
<システム構成>
図1は、本発明の一実施の形態である商品販売支援システムの構成例について概要を示した図である。本実施の形態では、サーバシステム等として構成された中央の商品販売支援システム1に対して、図示しないネットワークを介して、フランチャイズチェーンの加盟店などの複数の小売店にそれぞれ設置等された店舗端末2が接続される構成を有している。店舗端末2は、例えば、PC(Personal Computer)等の情報処理端末や、タブレット端末、スマートフォンなどの携帯端末などにより構成することができる。なお、このような構成に限られず、単独の小売店で商品販売支援システム1と店舗端末2を運用する構成としてもよい。
【0017】
商品販売支援システム1は、例えば、1つ以上のサーバ機器もしくはクラウドコンピューティングサービス上に構築された1つ以上の仮想サーバ等により実装され、図示しないCPUCentral Processing Unit)により、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の記録装置からメモリ上に展開したOS(Operating System)やDBMS(DataBase Management System)、Webサーバプログラム等のミドルウェアや、その上で稼働するソフトウェアを実行することで、上述した商品の需要予測や発注数等の提案、値引率の提案などを含む各種機能を実現する。
【0018】
この商品販売支援システム1は、例えば、ソフトウェアとして実装された需要予測部11、発注提案部12、および値引処理部13などの各部を有する。また、データベースやファイルテーブルなどにより実装される各種マスタ類31、販売実績32、需要予測データ33、売上関係表34、下方修正倍率関係表35、フィードバックマスタ36、および値引率マスタ37などの各データストアを有する。
【0019】
需要予測部11は、例えば、店舗端末2を介してユーザ(対象の小売店の担当者等)により指定された当該小売店で販売する商品について、指定された販売期間における需要数(販売数)を予測して、需要予測データ33として出力する機能を有する。各小売店や商品に係る情報は、各種マスタ類31に登録されているものとする。ユーザが指定する販売期間は、例えば、対象の商品をこの日までに売り切りたいという売切販売期間であり、例えば、現時点から当該日の閉店時までをデフォルト値として設定しつつ、ユーザが変更できるようにしてもよい。また、期間の始期・終期とも当日中である必要はなく、例えば、当日から6日後などの一定期間までの日時を適宜設定できるようにしてもよい。
【0020】
需要数の予測に際しては、従来技術と同様に、機械学習等の公知のAI技術を利用することができる。本実施の形態においても、例えば、販売実績32に蓄積された各小売店における商品ごとの過去の販売実績情報(販売日時、販売数、販売価格、企画(販促イベント)の有無等)を教師データとして、図示しないAIエンジンによる機械学習によって予め生成した学習モデルに基づいて、指定された条件に対する需要数を予測する。
【0021】
本実施の形態では、需要予測部11により求められた対象商品の需要予測数に基づいて、後述する発注提案部12における好適な発注数の提案や、値引処理部13における好適な値引率の提案に係る処理を行う。なお、本実施の形態では、後述する発注提案部12において需要予測数の補正・修正に係る処理を行うものとしているが、当該処理を需要予測部11で行うようにしてもよい。
【0022】
発注提案部12は、需要予測データ33における各商品の需要予測数と、各種マスタ類31に登録されている各商品の特性の情報に基づいて、対象の小売店において商品ごとに好適な発注数21を算出して店舗端末2に対して出力し提案する機能を有する。例えば、特許文献1に記載されている「商品カテゴリ別発注数算出部30」に相当するような機能を有し、商品のカテゴリに応じて設定された所定の計算式に基づいて、各商品に最適な必要納品数を算出して発注数21として出力するようにしてもよい。
【0023】
上述したように、各商品について好適な発注数を求めるには、その前提として精度の高い需要予測が重要となる。本実施の形態では、需要予測部11により出力された需要予測数に対して、発注提案部12において、類似商品間のカニバリゼーションを考慮して補正・修正を行う。これにより、需要予測数の精度を向上させるとともに、需要予測数に基づいた好適な発注数21の提案を可能とする。
【0024】
具体的には、同一の品揃えの分類に属する商品間での売行きの関係に係る情報を保持する売上関係表34に基づいて、ある商品が企画(販促イベント)の対象となった場合に売行きに影響が生じる(販売数が一定程度以上低下する)商品を特定する。そして、当該商品の需要予測数に適用する下方修正倍率の情報を下方修正倍率関係表35から取得して、当該下方修正倍率により需要予測数を補正・修正する。カニバリゼーションを考慮した需要予測数の補正・修正に係る処理内容については後述する。
【0025】
値引処理部13は、需要予測データ33における各商品の需要予測数に基づいて、対象の小売店において商品ごとに売切販売の際の好適な値引率22を算出して店舗端末2に対して出力し提案する機能を有する。需要予測数は、上述したカニバリゼーションを考慮した補正・修正がされたものを用いるようにしてもよい。
【0026】
上述したように、店頭で販売している商品を販売期限内に売り切るために値引販売を行う際、1回目の値引きをした後、売行きが芳しくないために再度値引きをすることも行われるが、本実施の形態では、1回目の値引きはもちろん、当該値引きの結果の状況を踏まえた再値引きについても、好適な値引率22の提案を可能とする。
【0027】
具体的には、対象の商品についていつまでに何個売りたいかの目標販売数の情報と、売切販売期間における需要予測数とを比較し、比較結果に基づいて値引率マスタ37から値引率22を取得する。その際、過去に値引販売した際の販売実績(いくらに値引きしていくつ売れたか等)に基づいて設定されている補正情報をフィードバックマスタ36から取得してこれを考慮して値引率22を取得する。好適な値引率22の提案に係る処理内容についても後述する。
【0028】
<処理内容(需要予測数の修正)>
図2は、本発明の一実施の形態における売上関係表34および下方修正倍率関係表35の更新処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。ここでは、カニバリゼーションを考慮した需要予測数の修正を行うために参照される売上関係表34および下方修正倍率関係表35について、販売実績32等に基づいて予め更新を行う。この処理は、例えば、週次や月次など定期的に行うことができる。
【0029】
商品販売支援システム1の図示しないメンテナンス機能等により、まず、販売実績32のデータから、企画(販促イベント)ごとに、その対象となった商品の情報を取得する(S01)。そして、企画対象の各商品について、同一品揃えの分類に属する他の商品ごとに(各商品の分類に係る情報は、例えば、各種マスタ類31の商品マスタに予め登録されている)、取引実績32のデータに基づいて各企画実施前の一定期間(例えば1週間等)における1日の販売数の移動平均を算出する(S02)。さらに、企画実施日の1日の販売数がステップS02で求めた移動平均よりも低下した商品を特定し、その商品ごとに、販売数が低下した回数を取得する(S03)。
【0030】
そして、企画が実施された総回数に対する、ステップS03で取得した販売数が低下した回数の割合として低下率を算出する(S04)。例えば、「商品A」を対象に含む企画が10回実施された際に、「商品B」の販売数の低下が8回あった場合、低下率は8/10=80%となる。なお、1回だけ実施された企画で販売数の低下があったというような場合、低下率は1/1=100%となってしまうため、例えば、企画実施回数の下限に閾値(例えば5回)を設け、企画実施回数が閾値に満たない商品との組み合わせは除外するようにしてもよい。
【0031】
その後、ステップS04で算出した低下率について、所定の閾値(例えば75%)以上であるか否かを判定し(S05)、所定の閾値以上である場合は、対象の商品間においてカニバリゼーションがあるとして売上関係表34に登録もしくは更新する(S06)。一方、低下率が所定の閾値未満である場合には、カニバリゼーションはないとして他の商品について処理を継続する。
【0032】
図6は、本発明の一実施の形態における売上関係表34の例について概要を示した図である。売上関係表34は、企画実施の際の商品間のカニバリゼーションの有無の情報を保持するテーブルであり、例えば、小売店ごとに、企画商品、影響商品、低下率、カニバリ有無などの各項目を有する。企画商品の項目には、企画の対象の商品を特定する商品ID等の情報を保持し、影響商品の項目には、企画により影響を受ける他の商品を特定する商品ID等の情報を保持する。低下率の項目には、対象の企画商品に係る企画が実施されたときの対象の影響商品の低下率の情報を保持し、カニバリ有無の項目には、対象の企画商品と影響商品との間のカニバリゼーションの有無の情報を保持する。なお、このようなデータ構成に限られず、他の項目を有していてもよいことは言うまでもない(以降で示す他のデータストアについても同様)。
【0033】
図2に戻り、次に、対象の商品間における企画の実施により影響を受ける側の商品につき、取引実績32のデータに基づいて直近一定期間(例えば28日間)の販売数の移動平均を算出するとともに、各企画日における当該商品の販売数の平均を算出する(S07)。そして、直近一定期間の販売数の移動平均に対する、各企画日における販売数の平均の割合として下方修正倍率を算出する(S08)。例えば、「商品B」は通常1日平均100個販売されるが、「商品A」を対象に含む企画が実施された場合は1日平均60個に販売が落ち込むという場合、下方修正倍率は60/100=60%となる。
【0034】
ステップS08で算出した下方修正倍率について、値が1未満であるかをチェックし(S09)、1以上の場合(すなわち企画日の販売数が増加する場合)は除外して他の商品について処理を継続する一方、1未満である場合は、下方修正倍率関係表35に登録もしくは更新する(S10)。対象となる商品の組み合わせすべてについて一連の処理が終了した場合は処理を終了する。
【0035】
図7は、本発明の一実施の形態における下方修正倍率関係表35の例について概要を示した図である。下方修正倍率関係表35は、カニバリゼーションの関係がある商品間において、企画の対象の商品に対して、影響を受ける商品の販売数が通常の何倍(<1倍)になるかという下方修正倍率の情報を保持するテーブルであり、例えば、小売店ごとに、企画商品、影響商品、下方修正倍率などの各項目を有する。企画商品、影響商品の各項目は、上述の
図6におけるものと同様である。下方修正倍率の項目は、対象の企画商品を含む企画が実施された場合の影響商品の販売数(需要予測数)に対する下方修正倍率の情報を保持する。
【0036】
図3は、本発明の一実施の形態における好適な発注数の提案処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。ここでは、店舗端末2を介してユーザにより指定された当該小売店で販売する商品について、需要予測データ33に基づいて、カニバリゼーションを考慮した上で好適な発注数21を算出して出力する。
【0037】
まず、ユーザにより指定された商品について、需要予測部11により、所定の期間(例えば、当該商品を発注した場合の予想納品時期としてユーザに指定された日までの期間)における対象の小売店での需要予測数を算出する(S21)。そして、発注提案部12により、当該期間内に実施される企画(販促イベント)につき、対象商品と同一の品揃えの分類の商品で企画の対象となっているもの(企画商品)を特定する(S22)。
【0038】
そして、売上関係表34を参照して、各企画商品と対象商品との間におけるカニバリゼーションの有無(企画商品を対象とした企画の実施により対象商品の販売数が一定以上低下する関係にあるか)を判定する(S23)。カニバリゼーションがある場合は、下方修正倍率関係表35から、企画商品と影響を受ける対象商品との組み合わせに係る下方修正倍率を取得する(S24)。このとき、対象商品が複数の異なる企画商品から影響を受ける(カニバリゼーションがある)場合は、各企画商品との関係でそれぞれ取得した下方修正倍率のうち最小のものを採用する。
【0039】
その後、ステップS21で取得した需要予測数に対して、ステップS24で取得した下方修正倍率を乗算することで、カニバリゼーションを考慮した修正後の需要予測数を算出する(S25)。そして、修正後の需要予測数(ステップS23でカニバリゼーションがない場合はステップS21で取得した需要予測数)に基づいて、提案する発注数21を所定の演算により算出して出力し(S26)、処理を終了する。なお、ここでの所定の演算には、例えば、特許文献1に記載されている「商品カテゴリ別発注数算出部30」において商品のカテゴリに応じて設定された所定の計算式などを適宜用いることができる。
【0040】
以上の
図2、
図3の例に示したような処理により、カニバリゼーションを考慮した需要予測数を行うことが可能となり、当該需要予測数に基づいた好適な在庫数や発注数の提案が可能となる。
【0041】
<処理内容(値引率の提案)>
図4は、本発明の一実施の形態における値引処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。ここでは、小売店において対象の商品を売切販売期間内に売り切るために値引きを行う際の好適な値引率22を決定して提案する。ここで得られた値引率22と、対象の商品の通常の販売価格とに基づいて、さらに値引額を算出して提案してもよいが、本実施の形態では、最終的な値引額の決定権は小売店側にあるものとし、提案された値引率22に基づいて小売店が値引額を決定するものとする。そして、本実施の形態では、この値引額による値引販売の実績情報のフィードバックを受けて、以降の値引率22の決定の際に反映させる構成をとる。
【0042】
まず、小売店のユーザが、店舗端末2を介して値引きの対象の商品の売切販売期間(始期・終期)と、当該期間に売り切りたい在庫数(目標販売数)を入力する(S31)。小売店で販売するある商品について、全ての在庫が同じタイミングで製造・納入されているとは限らず、同一商品内でも販売期間が異なるものが存在し得る。本実施の形態では、対象の商品の在庫について販売期限が間近なものを優先的に値引きの対象として目標販売数を決定するものとする。販売期限が間近な在庫の数は、例えば、小売店のユーザが実際に数えるなどして把握し、店舗端末2を介して入力してもよいし、在庫マスタや販売実績などのデータから在庫の商品ごとに販売期限を把握することができる場合にはシステム的に算出するようにしてもよい。
【0043】
商品販売支援システム1の需要予測部11では、対象の商品についてユーザから指定された売切販売期間における需要予測数をAIにより算出し、需要予測データ33として出力する(S32)。そして、値引処理部13では、ステップS31でユーザから入力された目標販売数とステップS32で算出した需要予測数とを比較(目標販売数/需要予測数)して目標販売率を算出し(S33)、目標販売率の値が予め定めたどのレンジに属するかにより、値引きの程度を決定する指標となる値引ランク(例えばランク「1」~「5」など)を決定する(S34)。
【0044】
この値引きランクに基づいて値引率22を決定するが、上述したように、本実施の形態では、最終的な値引額の決定権は小売店側にあるものとしている。そこで、値引きするか否か、値引きするとした場合に値引額をいくらにするかという小売店側の意思に係るフィードバック情報を値引率22の決定の際に反映させるため、フィードバックマスタ36から対象の商品に係るフィードバックランクを取得し、フィードバックランクに基づいてステップS34で決定した値引きランクを補正する(S35)。例えば、対象の小売店における対象の商品の値引ランクが「2」と決定され、当該商品のフィードバックランクが「1」であった場合、値引ランクを1つ引き上げて「1」にするなどの補正を行う。これにより、AIによる判断と人による判断とを融合させて提案の精度をより向上させることができる。
【0045】
図8は、本発明の一実施の形態におけるフィードバックマスタ36の例について概要を示した図である。フィードバックマスタ36は、例えば、小売店ごとに、商品、およびフィードバックランクなどの各項目を有する。商品の項目には、対象の商品を特定する商品ID等の情報を保持する。フィードバックランクの項目には、対象の商品に対応するフィードバックランクの情報を保持する。なお、フィードバックランクの値は、例えば、対象の小売店において値引販売をしたときの実績情報(例えば、最終的に売れずに「廃棄」したり「捨て値」で販売したり「過度な値引き」で販売したりした数量)である値引実績23を商品販売支援システム1にフィードバックし、値引処理部13において値引実績23に基づいて予め所定の基準により対象の小売店の商品ごとにフィードバックランクを設定してフィードバックマスタ36に登録・更新する。
【0046】
図4に戻り、その後、対象の小売店および商品に係る(補正後の)値引ランクに基づいて値引率マスタ37から値引率22を取得して、店舗端末2に対して出力して提案する(S36)。なお、本実施の形態では、値引ランクに基づいて対応する値引率22を取得しているが、ステップS33で得られた目標販売率に基づいて所定の計算により値引率22を直接求めるようにしてもよい。
【0047】
図9は、本発明の一実施の形態における値引率マスタ37の例について概要を示した図である。値引率マスタ37は、各商品について決定された値引ランクごとの値引率22の情報を保持するテーブルであり、例えば、小売店ごとに、商品、値引ランク、値引率、再値引ランク、加算値引率などの各項目を有する。
【0048】
商品の項目には、対象の商品を特定する商品ID等の情報を保持する。値引ランクおよび値引率の各項目には、それぞれ、対象の商品に設定される値引ランクの情報(例えばランク「1」~「5」など)と、対象の値引ランクに対応する値引率22の情報を保持する。再値引ランクおよび加算値引率の各項目は、後述する2回目以降の再値引きの処理において使用される項目であり、それぞれ、対象の商品について再値引きを行う際の再値引ランクと、対象の再値引ランクに対応する加算値引率の情報を保持する。
【0049】
図4に戻り、店舗端末2を介して提案された値引率22を参照した小売店のユーザは、値引販売を実施するか否かを決定し(S37)、値引販売を実施する場合は、対象の商品の値引額を決定し、店舗端末2を介して図示しないシール出力装置に指示して、商品に貼付する値引シールを出力し(S38)、処理を終了する。上述したように、本実施の形態では、最終的に値引額を決定する権限は小売店にあるとしていることから、値引額の決定に際しては、例えば、対象の商品の通常の販売価格に対して提案された値引率22を乗算して得られた値引額を店舗端末2を介してユーザに提示し、この値引額を参考にユーザが最終的な値引額を決定するようにしてもよい。
【0050】
図5は、本発明の一実施の形態における2回目以降の再値引処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。ここでは、上述した
図4の例に示した処理により値引販売を実施したが売行きが芳しくないなどのために再値引きを行う際に、1回目の値引きの結果の状況を踏まえて好適な値引率22を決定して提案する。
【0051】
まず、小売店のユーザが、店舗端末2を介して、値引きの対象の商品について、現時点から、
図4のステップS31で指定された売切販売期間の終期までの期間に売り切りたい新目標販売数を入力する(S41)。そして、商品販売支援システム1の需要予測部11により、当該売切販売期間における需要予測数を再度算出する(S42)。そして、
図4のステップS33と同様に、値引処理部13により、ステップS41でユーザから入力された新目標販売数とステップS42で算出した再需要予測数とを比較(新目標販売数/再需要予測数)して再値引時目標販売率を算出する(S43)。
【0052】
この再値引時目標販売率と、1回目(もしくは前回)の値引時に
図4のステップS33で算出した目標販売率とを比較(再値引時目標販売率/前回目標販売率)して値引販売の進捗率を算出し(S44)、算出した進捗率の値が予め定めたどのレンジに属するかにより、再値引きの程度を決定する指標となる再値引ランク(例えばランク「1」~「5」など)を決定する(S45)。
【0053】
その後、対象の小売店および商品に係る再値引ランクに基づいて値引率マスタ37から加算値引率を取得して(S46)、1回目(もしくは前回)の値引時の値引率22に加算値引率を加えて再値引率を算出して(S47)、店舗端末2に対して出力して提案する。提案された再値引率(値引率22)を参照した小売店のユーザは、
図4のステップS37、S38と同様に、再値引販売を実施するか否かを決定し(S48)、再値引販売を実施する場合は、対象の商品の再値引額を決定し、店舗端末2を介して図示しないシール出力装置に指示して、商品に貼付する値引シールを出力し(S49)、処理を終了する。
【0054】
以上の
図4、
図5に示したような処理により、値引販売の際の好適な値引率22(値引額)を提案することが可能になるとともに、2回目以降の再値引販売を実施する際、1回目(前回)の値引販売の結果の状況を踏まえた好適な再値引率を提案することができ、2回目以降の再値引販売であることを考慮せずに1回目(前回)と同じ値引率22(値引額)が提案されてしまうのを回避することが可能となる。
【0055】
以上に説明したように、本発明の一実施の形態である商品販売支援システム1によれば、カニバリゼーションまで考慮して需要数(販売数)を予測することで、需要予測の精度を高めるとともに、需要予測数に基づいた好適な在庫数や発注数21の提案が可能となる。また、値引販売をするに際して、1回目の値引きはもちろん、当該値引きの結果の状況を踏まえた再値引きについても、好適な値引率22の提案が可能となる。
【0056】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、上記の実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記の実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0057】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば、集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD等の記録装置、またはICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0058】
また、上記の各図において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、必ずしも実装上の全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、商品の需要予測をより適切に行う商品販売支援システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…商品販売支援システム、2…店舗端末、
11…需要予測部、12…発注提案部、13…値引処理部、
21…発注数、22…値引率、23…値引実績、
31…各種マスタ類、32…販売実績、33…需要予測データ、34…売上関係表、35…下方修正倍率関係表、36…フィードバックマスタ、37…値引率マスタ