(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011863
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】空気バネ用ダイアフラム及び空気バネ用ダイアフラムの取付方法
(51)【国際特許分類】
F16F 9/05 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
F16F9/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114153
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】517413605
【氏名又は名称】ニッタ化工品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 直紀
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA28
3J069DD39
(57)【要約】
【課題】シワの発生を抑制でき、見栄えを良くすることができるとともに、材料費と作製工数の増加や重量増を抑えることができる空気バネ用ダイアフラム及び空気バネ用ダイアフラムの取付方法を提供する。
【解決手段】車体側に固定される上面板20に嵌着可能な環状の上ビード部35と、台車側に固定される積層ゴム上板21に嵌着可能な環状の下ビード部36と、上ビード部35と下ビード部36との間に介在する筒状の本体部39とを有する弾性材でなる空気バネ用ダイアフラム23において、本体部39は、可撓性を有する材料からなる主材層と、本体部39の周方向に沿って延びる状態で主材層に埋設される補強層とからなり、補強層の本体部39の周方向の端部同士を所定長さで重ねたコードジョイント54が、上面板20が積層ゴム上板21に対して進行方向の前後(左右)方向に変位した際に生じ易いシワ発生位置55に交差する位置に設けられている。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に固定される上面板に嵌着可能な環状の上ビード部と、台車側に固定される下面板に嵌着可能な環状の下ビード部と、前記上ビード部と前記下ビード部との間に介在する筒状の本体部とを有する弾性材でなる空気バネ用ダイアフラムにおいて、
前記本体部は、可撓性を有する材料からなる主材層と、前記本体部周方向に沿って延びる状態で前記主材層に埋設される補強層とからなり、
前記補強層のうちの前記本体部周方向の端部であるコードジョイントが、前記上面板が前記下面板に対して進行方向の前又は後に変位した際に発生するシワ発生位置に対して交差する位置に設けられている空気バネ用ダイアフラム。
【請求項2】
前記シワ発生位置は、
前記上面板が前記下面板に対して進行方向前側に変位した場合に、前記ダイアフラムを側面から視て、左上から右下に向けて直線的に発生する第1シワ発生位置と、
前記上面板が前記下面板に対して進行方向後側に変位した場合に、前記ダイアフラムを側面から視て、右上から左下に向けて直線的に発生する第2シワ発生位置とを含む請求項1に記載の空気バネ用ダイアフラム。
【請求項3】
前記コードジョイントは、前記シワ発生位置に対して90度になるように交差して設けられている請求項2に記載の空気バネ用ダイアフラム。
【請求項4】
前記第1シワ発生位置は、前記ダイアフラムを側面から視て前記本体部の左側に現れ、
前記第2シワ発生位置は、前記ダイアフラムを側面から視て前記本体部の右側に現れる請求項2に記載の空気バネ用ダイアフラム。
【請求項5】
前記補強層は、第1補強層と、前記第1補強層の径外側に配置される第2補強層とを有し、
前記コードジョイントは、前記第1補強層のうちの前記本体部周方向の端部である1プライジョイントと、前記第2補強層のうちの前記本体部周方向の端部である2プライジョイントとを含み、
前記1プライジョイントと前記2プライジョイントとが交差されたクロスプライジョイントが、前記シワ発生位置に対して交差する位置に設けられている請求項1に記載の空気バネ用ダイアフラム。
【請求項6】
前記クロスプライジョイントは、前記シワ発生位置に対して一部が交差している請求項5に記載の空気バネ用ダイアフラム。
【請求項7】
車体の下に設けられた台車に空気バネ用ダイアフラムを取り付ける取付方法であって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の前記空気バネ用ダイアフラムは、前記コードジョイントの位置を示すマークが、前記上面板が前記下面板に対して進行方向の前又は後に変位した際にシワが発生するおそれがある特定位置に合うように、前記台車に取り付ける取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気バネ用ダイアフラム及び空気バネ用ダイアフラムの取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄道車両用空気バネは、特許文献1~3において開示されるように、車体側の上面板と、台車側の下面板と、上面板と下面板とに亘って配備される環状のダイアフラムとを有して構成されている。多くの場合、積層ゴム等の弾性体をダイアフラムの下側に伴った構成とされている。
【0003】
現在新造される鉄道車両台車は、主にボルスタレス構造である。このため、鉄道車両用空気バネは、ボルスタレス台車用が主に求められる。ボルスタ付き台車用空気バネは、上下方向・左右方向の変位を負担(吸収)する。これに対し、ボルスタレス台車用空気バネは、前記変位の負担に加えて台車回転に伴う前後変位を負担する。従って、ボルスタレス台車用ダイアフラムには、より高強度、及び高剛性が要求されてきているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-172769号公報
【特許文献2】特開2001-163219号公報
【特許文献3】特開2009-127714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダイアフラムには、上下方向の荷重だけでなく、台車回転に伴う前後変位が作用するので、場合によってはシワが生じることがある。曲線走行等によるボルスタレス台車と鉄道車両との相対回動は、ダイアフラムの捩じり変形やズレ変位によって吸収させているので、使用に伴ってダイアフラム表面に折れ込みが発生する。そして、それが繰り返されることによって折れ込みの跡が、即ち、シワが残る現象が生じる。繰り返し折れ込むシワが発生すると、クラックへ進展したり、材料間で剥離が発生する。
【0006】
シワ発生の対策としては、ダイアフラムの剛性を上げることが効果的であり、その手段としては、補強層の数、即ちプライ数(積層数)を増すことが挙げられる。しかしながら、プライ数を増加させると、材料費と作製工数が増加するとともに、重量増が難点になる。
【0007】
本発明の目的は、シワの発生を抑制でき、見栄えを良くすることができるとともに、材料費と作製工数の増加や重量増を抑えることができる空気バネ用ダイアフラム及び空気バネ用ダイアフラムの取付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る空気バネ用ダイアフラムは、車体側に固定される上面板に嵌着可能な環状の上ビード部と、台車側に固定される下面板に嵌着可能な環状の下ビード部と、前記上ビード部と前記下ビード部との間に介在する筒状の本体部とを有する弾性材でなる空気バネ用ダイアフラムにおいて、前記本体部は、可撓性を有する材料からなる主材層と、前記本体部周方向に沿って延びる状態で前記主材層に埋設される補強層とからなり、前記補強層のうちの前記本体部周方向の端部であるコードジョイントが、前記上面板が前記下面板に対して進行方向の前又は後に変位した際に発生するシワ発生位置に対して交差する位置に設けられている。
【0009】
本発明に係る取付方法は、車体の下に設けられた台車に空気バネ用ダイアフラムを取り付ける取付方法であって、上記の空気バネ用ダイアフラムは、前記コードジョイントの位置を示すマークが、前記上面板が前記下面板に対して進行方向の前又は後に変位した際にシワが発生するおそれがある特定位置に合うように、前記台車に取り付ける。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、補強層の本体部周方向の端部同士を所定長さで重ねたジョイントが、上面板が下面板に対して進行方向の前又は後に変位した際に発生するシワ発生位置に対して交差する位置に設けられているため、シワの発生を抑制でき、ダイアフラムの見栄えを良くすることができるとともに、ダイアフラムの材料費と作製工数の増加、及び重量増を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の一実施形態である鉄道車両用空気バネを使用した台車を示す斜視図である。
【
図3】空気バネに使用されるダイアフラムを示す側面図であり、中心線から右側を断面図で示している。
【
図4】ダイアフラムの上ビード部を示す断面図である。
【
図5】ダイアフラムの下ビード部を示す断面図である。
【
図6】ダイアフラムの一部を破断して示す要部断面図である。
【
図7】1層目の1プライコードと2層目の2プライコードとの交差で作られる格子の隙間が小さくなる角度で示した要部拡大図である。
【
図8】1層目の1プライコードと2層目の2プライコードとの交差で作られる格子の隙間が大きくなる角度で示した要部拡大図である。
【
図9】内層ゴムジョイント、外層ゴムジョイント、2プライジョイント、及び1プライジョイントの位置を示す一例であり、ダイアフラムを上方から見た平面図である。
【
図10】内層ゴムジョイント、外層ゴムジョイント、2プライジョイント、及び1プライジョイントの位置を示す他の例であり、ダイアフラムを上方から見た平面図である。
【
図11】内層ゴムジョイント、外層ゴムジョイント、3/4プライジョイント、及び1/2プライジョイントの位置を示すその他の例であり、ダイアフラムを上方から見た平面図である。
【
図12】シワ発生位置に対してプライジョイントを交差して設けたダイアフラムを示す側面図である。
【
図13】シワ発生位置に対してクロスプライジョイントを交差して設けたダイアフラムを示す側面図である。
【
図14】鉄道車両用空気バネの製造工程を示す工程図である。
【
図15】カーブを走行中の車両であり、第1車台に設けられた第1及び第2ダイアフラムと、第2車体に設けられた第3及び第4ダイアフラムとに発生するシワ発生位置をそれぞれ示す参考図である。
【
図16】上面板が下面板に対して進行方向前に変位した際にシワが発生するシワ発生位置を示す空気バネの側面図である。
【
図17】上面板が下面板に対して進行方向後に変位した際にシワが発生するシワ発生位置を示す空気バネの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、この発明の一実施形態である空気バネ用ダイアフラムを、図面を参照しながら説明する。以下において、基本的には、空気バネ用ダイアフラムは「ダイアフラム」、鉄道車両用空気バネは「空気バネ」とそれぞれ略称する。なお、この発明の空気バネ用ダイアフラムは、鉄道車両用に限らず、例えば自動車等に使用されるものでもよい。
【0013】
鉄道車両を構成する台車10の模式図を
図1に示す。台車10は、例えばボルスタレス台車であり、台車10の上には、車体が設置される。台車10と車体との間には、空気バネ11,12が設置される。なお、
図1では、図面の煩雑化を防ぐために、車体を省略している。
【0014】
台車10は、輪軸(車輪と車軸)、軸受、軸箱、駆動装置、基礎ブレーキ装置等を一体的に収め、車体の下に取り付けられる走行装置である。台車10を構成する部品には、輪軸、台車枠(台車で最も大きい構造部材)13、サスペンションとしての1次バネ(輪軸と台車枠13とを結合するコイルバネ等)、2次バネ(台車枠13と車体とを結合し、主として空気バネ11,12等)、走行装置としての主電動機、歯車装置、ブレーキ装置等がある。
【0015】
台車枠13は、主強度部材である側梁14,15と横梁16,17で構成されている。台車枠13は、進行方向の両側に側梁14,15が配置され、それらを横梁16,17で溶接により結合した構造であり、上方から視て略H字をしている。横梁16,17は、左右の側梁14,15からはみ出している。空気バネ11,12は、横梁16,17のうちのはみ出した部分にそれぞれ設置されている。つまり、空気バネ11,12は、左右の側梁14,15の略中央にそれぞれ配置されている。
【0016】
なお、台車10には、1つの車体を2つの台車10で支えるタイプのボギー台車と、車体と車体の間に台車を配置する連接台車とがある。以下では、ボギー台車に取り付けられる空気バネ11,12について説明する。なお、この発明の空気バネは、連接台車に取り付けられるものであってもよい。また、空気バネ11と空気バネ12は、どちらも同じ構成である。
【0017】
空気バネ11は、
図2に示すように、上面板20と、下面板(以下、積層ゴム上板と称する)21と、上面板20と積層ゴム上板21との間に挟持されたダイアフラム23と、積層ゴム上板21の下面に取り付けられた積層ゴム24とを備える。
【0018】
上面板20は、車体側に取り付けられる。積層ゴム上板21は台車側に取り付けられる。ダイアフラム23は、上下に開口がそれぞれ設けられ、かつ中心軸25方向における中央部が両端部よりも半径方向外向きに膨出する筒状をしている。
【0019】
上面板20の中心部は、ダイアフラム23の内部空間に連通する第1給気管26が上方へ突出している。第1給気管26は、車体の高さを調整するための、図示していない車体高さ調整弁に繋がる。上面板20の下面側には、その周縁部にゴム製の弾性部材27が固定され、弾性部材27の内側に、上面板20と同心状の上側連結部材28が固定されている。上側連結部材28の下面には、上側摺動板29が積層されている。ダイアフラム23の上開口は、上面板20、上側連結部材28等で塞がれている。
【0020】
積層ゴム上板21は、上面板20と同心状で剛性の高い環状品であって、ステンレス鋼等の鋼板で構成される。積層ゴム上板21の上面側には、積層ゴム上板21と同心状で上側連結部材28と対向する下側連結部材(以下、ビードシートと称する)31が、ボルト32によって固定されている。ビードシート31の中央部には、ダイアフラム23の内部空間に連通する空気絞り33が形成されている。また、ビードシート31の上面には、下側摺動板34が積層されている。
【0021】
ダイアフラム23は、タイヤ状に形成されたゴム製の弾性膜であって、上側の開口縁である上ビード部35が上面板20、及び上側連結部材28によって押さえられ、また、下側の開口縁である下ビード部36が積層ゴム上板21、及びビードシート31によって押さえられている。これにより、ダイアフラム23は、上面板20と積層ゴム上板21との間で挟持された状態で内部空間の空気が漏出しないようになっている。
【0022】
ダイアフラム23は、
図3に示すように、上ビード部35と、下ビード部36と、上ビード部35と下ビード部36との間に介在する本体部39とを有する弾性材でなるもので、環状(筒状)の膜体である。本体部39は、可撓性を有する材料からなる主材層43(
図4及び
図5参照)と、本体部39の周方向(本体部周方向)に沿って延びる状態で主材層43(
図4及び
図5参照)に埋設される補強層46とからなる。なお、
図3は、空気バネ11として組付けられる前の状態であって、部品としての製品状態にあるダイアフラム23の形態を示している。
【0023】
上ビード部35は、
図4に示すように、リング状金具である上ビードワイヤー37に嵌め込まれる。つまり上ビード部35は、車体側に固定される上面板20(
図2参照)に嵌着可能な環状の開口形態に保持されている。
【0024】
下ビード部36は、
図5に示すように、リング状金具である下ビードワイヤー38に嵌め込まれる。つまり下ビード部36は、台車側に固定される積層ゴム上板21(
図2参照)に嵌着可能な環状の開口形態に保持されている。
【0025】
ダイアフラム23は、
図6に示すように、内層ゴム40と外層ゴム41と中間層の補強層46との三層構造で製造されている。内層ゴム40、及び外層ゴム41は、主材層43を構成するもので、屈曲性、耐候性、耐老化性、及び気密性等にすぐれたゴム層である。
【0026】
補強層46は、第1補強層44と、第1補強層44の径外側に配置される第2補強層45とで構成されており、ダイアフラム23を補強するための強力な補強材である。第1補強層44に第2補強層45が被せられた2層構造とした場合を2プライと呼ぶこともある。プライは、補強層46の積層枚数を示す。ただし、ダイアフラム23を生成するプライの構成は、奇数層ではダイアフラム23として成り立たないため、偶数層での構成になる。補強層46は4層以上の積層構造でもよい。第1補強層44及び第2補強層45は、例えば、ナイロンコードなどの繊維状の心材(タイヤコードと称する)の編込みにより形成されたシートが、ゴムなどの弾性材で被覆されたものからなる。第1補強層44のタイヤコードと第2補強層45のタイヤコードとは、例えば互いに斜交するように配置される。第1補強層44及び第2補強層45は、本体部39の周方向に沿って延びるように設けられている。第1補強層44のうちの本体部39の周方向の端部同士が重ねられることで、第1補強層44のコードジョイント(繋ぎ目)が形成される。第1補強層44に形成されるコードジョイントは1プライジョイントと称する。第2補強層45のうちの本体部39の周方向の端部同士が重ねられることで、第2補強層45のコードジョイントが形成される。第2補強層45に形成されるコードジョイントは2プライジョイントと称する。補強層46のうちの本体部39の周方向の端部であるコードジョイントは、外層ゴム41及び内層ゴム40よりも剛性が高いことはもちろんのこと、ジョイント部以外の主材層43よりも剛性が高い。ジョイント部は、コードジョイント(繋ぎ目)を示す。
【0027】
補強層46の上端は、上ビードワイヤー37に巻き付けられる。また、
図6では、補強層46の上端について説明しているが、補強層46の下端は、下ビードワイヤー38(
図5参照)に巻き付けられる。補強層46としては、ナイロン製に限らず、例えばポリエステル、アラミド、レーヨン等の材料で作ったものを使用することができる。
【0028】
空気バネ11には、乗り心地に関わる重要な特性として、空気バネ11を上下方向、前後方向、及び左右方向に変位させるために必要な荷重を表した「バネ定数」がある。空気バネ11を構成する部品のうち、積層ゴム24とダイアフラム23との複合によりバネ定数を担っている。ここで、上下方向は、空気バネを横から視て、垂直方向のことである。前後方向は、空気バネを上から視て、レールと並行方向のことである。左右方向は、空気バネを上から視て、レールと直角方向のことである。
【0029】
ダイアフラム23は、第1補強層44と第2補強層45とが成形時の配列角を持った補強層46が曲面上の主材層43に埋め込まれた複合材である。補強層46は、内・外層ゴム40,41となるゴム(主材層43)と比較して100倍以上も剛性が高く、空気バネ11のバネ定数に大きな影響を与える。
【0030】
所定のバネ定数に設定するために、2層目の第2補強層45は、1層目の第1補強層44に対して成形時の配列角が特定の配列角に設定されている。第1補強層44と第2補強層45とは、
図7及び
図8に示すように、第2補強層45と第1補強層44との2層を周方向から透視して視た際に、垂直方向に対してコード角度θ1或いはコード角度θ2の角度をつけて互い違いに重ねてある。
【0031】
例えば
図7に示すように、角度θ1が角度θ2よりも小さい場合には、第1補強層44と第2補強層45との交差により生成される格子の面積が
図8に示す格子よりも大きくなり、バネが柔らかくなる。
【0032】
逆に
図8に示すように、角度θ2が角度θ1よりも大きい場合には、格子の面積が
図7に示す格子よりも小さくなり、転がり抵抗が大きくなるため、バネが硬くなる。なお、角度θ1,θ2は、垂直線と第2補強層45との間の角度であり、第2補強層45と第1補強層44とを周方向から透視して視た際のコード角の1/2の角度である。ダイアフラム23は、バネ定数(反発力の強さ)が小さいほど柔らかく、バネ定数が大きいほど硬くなる。
【0033】
補強層46は、製造時にドラムに巻き付けて成型される。このため、ダイアフラム23の外周のうちの少なくとも1カ所にジョイント(繋ぎ目)が生じてしまう。ジョイントは、内層ゴム40や外層ゴム41にも生じる。つまり、補強層46を2プライにすると、内層ゴムジョイント、外層ゴムジョイント、1プライジョイント、及び2プライジョイントの4つのジョイントが生じることになる。内層ゴムジョイントは、内層ゴム40のうちの本体部39の周方向の端部同士が重ねられることで形成される。外層ゴムジョイントは、外層ゴム41のうちの本体部39の周方向の端部同士が重ねられることで形成される。
【0034】
ジョイントは、例えば、
図9に示すようにダイアフラム23を上方向から視て、ダイアフラム23の中心軸25から左方向(0度)位置に内層ゴムジョイント47を、中心軸25から右方向(180度)位置に外層ゴムジョイント48を、中心軸25から上方向(90度)位置に2プライジョイント49を、そして、中心軸25から下方向(270度)位置に1プライジョイント50をそれぞれ配置することができる。つまり、ダイアフラム23の中心軸25からの全方位の4分割位置にそれぞれジョイントを設ける。内層ゴムジョイント47及び外層ゴムジョイント48は、中心軸25に対して対向する位置に設けられている。なお、
図9では、ダイアフラム23の中心軸25から左方向(0度)が進行方向になる。
【0035】
また、例えば、
図10に示すようにダイアフラム23を上方向から視て、ダイアフラム23の中心軸25から左方向(0度)位置に内層ゴムジョイント47を、中心軸25から右斜め上方向(135度)位置に外層ゴムジョイント48を、中心軸25から右斜め下方向(225度)位置に1プライジョイント50と2プライジョイント49とを重ねたコードジョイントをそれぞれ配置することができる。なお、
図10では、ダイアフラム23の中心軸25から左方向(0度)が進行方向になる。
【0036】
さらに、補強層46を4プライで構成する場合、例えば、
図11に示すようにダイアフラム23を上方向から視て、ダイアフラム23の中心軸25から左方向(0度)位置に内層ゴムジョイント47を、中心軸25から右方向(180度)位置に外層ゴムジョイント48を、中心軸25から上方向(90度)位置に3プライジョイントと4プライジョイントとを重ねた第1コードジョイント(3/4プライジョイント)51を、そして、中心軸25から下方向(270度)位置に1プライジョイントと2プライジョイントとを重ねた第2コードジョイント(1/2プライジョイント)52をそれぞれ配置することができる。なお、
図11では、ダイアフラム23の中心軸25から左方向(0度)が進行方向になる。
【0037】
図12に示すように、コードジョイント54は、ダイアフラム23を側面から視て左右方向の水平方向以外の斜め方向に沿って配置することができる。例えば、ダイアフラム23の側面のうちの左上から右下方向に略直線的に向かうようにコードジョイント54を配置することができる。なお、図示していないが、逆に右上から左下方向に略直線的に向かうようにコードジョイント54を配置することもできる。コードジョイント54は、シワが発生するおそれがあるシワ発生位置55に対して交差するように配置されている。コードジョイント54は、1プライジョイント50と2プライジョイント49とを少なくとも含む。
【0038】
また、例えば
図13に示すように、2つのコードジョイント54を交差させて重ねて配置させてもよい。一方のコードジョイント54は、ダイアフラム23の側面のうちの左上から右下方向に略直線的に向かうように配置する。他方のコードジョイント54は、ダイアフラム23の側面のうちの右上から左下方向に略直線的に向かうように配置する。この場合には、2つのコードジョイント54を交差させたクロスプライジョイント56をシワ発生位置55に対して交差する位置に設けるのが望ましい。ここで、クロスプライジョイント56は、シワ発生位置55に対して一部が交差していればよい。
【0039】
ダイアフラム23の製造工程は、
図14に示すように、裁断工程58、成型工程59、加硫工程60、及び組立工程61を有する。裁断工程58で裁断された内層ゴム40、外層ゴム41、第1補強層44、及び第2補強層45等の補強繊維ゴムが成型工程59に供給される。成型工程59では、補強繊維ゴムを金型に嵌め込み、高温高圧ガスで補強繊維ゴムを加圧しながら成型加工をする。成型加工をしたダイアフラム23が加硫工程60に供給される。
【0040】
詳しくは成型工程59では、円筒状のドラムを用いて、その外周面に補強繊維ゴム(タイヤコードの2層あるいは4層)、そして、内・外層ゴム40,41を円筒状に巻き付けて積層し未加硫ゴム成形体を成形する。また、未加硫ゴム成形体の両端では、巻き付けた内・外層ゴム40,41を上ビードワイヤー37及び下ビードワイヤー38で折り返して未加硫ゴム成形体を完成する。
【0041】
このとき、巻き付けた円筒状の成形体は、上下(高さ)方向の両端が中心部よりも縮径しているため、成形終了後に円筒状のドラムを解体して成形体を取り出す。そして、取り出した未加硫ゴム成形体は、加硫工程60にて、製品金型内に挿入され、内部にエアバッグを入れ、エアバッグに高圧空気等を供給して内側から加圧して加硫してダイアフラム23が造られる。出来上がったダイアフラム23は、組立工程61に送られ、ここで空気バネに組み立てられる。
【0042】
鉄道車両が曲線走行中にダイアフラム23には、左右(進行)方向に荷重がかかり、側面にシワが発生するおそれがある。
図15に示すように、車体63の下には、車輪を備えた台車10が進行方向の前後にひとつずつある。進行方向前側に位置するのは第1台車10aであり、進行方向後側に位置するのは第2台車10bである。各台車10a,10bには、ダイアフラム23が2つずつ設けられているため、全部で4つのダイアフラム(第1~第4ダイアフラム23a,23b,23c,23d)がある。各ダイアフラム23a~23dは、上方から視た周方向の所定位置に、コードジョイント54の位置を示すマークが記されており、マークが周方向の特定位置に合うように台車10に取り付ける。つまり、マークの位置からジョイント部の位置が特定可能となる。特定位置は、上面板20aが積層ゴム上板21aに対して進行方向の前又は後に変位した際にシワが発生するおそれがある位置である。
【0043】
車体63が曲線にさしかかると、台車10は曲線に従って自動的に向きを変え、曲線軌道を通過していく。車体63が曲線を走行中に、第1台車10aが車体63に対して角度プラスθ3だけ回転し、また第2台車10bが角度マイナスθ4だけ回転する。このとき、第1~第4ダイアフラム23a~23dには、左右方向に変位させる荷重がかかる。
【0044】
例えば、第1台車10aのうちの進行方向に向かって左側に設けられた第1ダイアフラム23aでは、上面板20aが積層ゴム上板21aに対して進行方向前側(左側)に変位する。このとき、第1ダイアフラム23aを上方から視て第1ダイアフラム23aの輪郭円状のうちの符号65で示す特定位置(第1位置と称する)にシワが発生するおそれがある。第1位置65は、内軌レール66の内側67から視られる。
【0045】
また、第1台車10aのうちの進行方向に向かって右側に設けられた第2ダイアフラム23bでは、上面板20bが積層ゴム上板21bに対して進行方向後側(右側)に変位する。このとき、第2ダイアフラム23bの輪郭円状のうちの符号68で示す特定位置(第2位置と称する)にシワが発生するおそれがある。第2位置68は、外軌レール69の外側70から視られる。
【0046】
第2台車10bのうちの進行方向に向かって左側に設けられた第3ダイアフラム23cでは、上面板20cが積層ゴム上板21cに対して進行方向後側(右側)に変位する。このとき、符号71で示す特定位置(第3位置と称する)にシワが発生するおそれがある。第3位置71は、内軌レール66の内側67から視られる。
【0047】
そして、第2台車10bのうちの進行方向に向かって右側に設けられた第4ダイアフラム23dでは、上面板20dが積層ゴム上板21dに対して進行方向前側(左側)に変位する。このとき、符号73で示す特定位置(第4位置と称する)にシワが発生するおそれがある。第4位置73は外軌レール69の外側70から視られる。
【0048】
上述したように、特定位置は、上面板20が積層ゴム上板21に対して進行方向の前又は後に変位した際にシワが発生するおそれがある位置である。このため、ダイアフラム23を、車体63の下に設けられた台車10に取り付ける場合は、コードジョイント54の位置を示すマークを特定位置に合わせることで、コードジョイント54をシワ発生位置に対して交差する位置に設けることができる。
【0049】
シワは、上面板20が積層ゴム上板21に対して進行方向前側(左側)に変位した場合、
図16に示すように、左上から右下に向けて略直線的に発生するおそれがある。
図16では、シワが発生した時のシワ発生位置を第1シワ発生位置75として示す。第1シワ発生位置75は、ダイアフラム23を側面から視て本体部39の左側に現れる。
図16に示した第1シワ発生位置75は、
図15に示した内軌レール66の内側67から視た第1ダイアフラム23aの側面と、外軌レール69の外側70から視た第4ダイアフラム23dの側面とに生じ易い。
【0050】
また、シワは、上面板20が積層ゴム上板21に対して進行方向後側(右側)に変位した場合、
図17に示すように、右上から左下に向けて略直線的に発生するおそれがある。
図17では、シワが発生した時のシワ発生位置を第2シワ発生位置76として示す。第2シワ発生位置76は、ダイアフラム23を側面から視て本体部39の右側に現れる。
図17に示した第2シワ発生位置76は、
図15に示した外軌レール69の外側70から視た第2ダイアフラム23bの側面と、内軌レール66の内側67から視た第3ダイアフラム23cの側面とに生じ易い。
【0051】
よって、ダイアフラム23の側面のうちのいずれかのシワ発生位置75,76に対して交差するようにコードジョイント54を設けるのが好適である。さらに、コードジョイント54は、いずれかのシワ発生位置75,76に対して交差する角度範囲のうち、ダイアフラム23の側面から視た際の垂直線になる角度から水平線直前になる角度までの範囲に設けるのが好適である。そして、コードジョイント54は、いずれかのシワ発生位置75,76に対して略90度で交差するように設けるのが最も剛性が高くなり効果が高い。さらに、ダイアフラム23の周方向のうちの一側面に、シワ発生位置75,76に示した2カ所にシワが発生するおそれがある場合には、シワ発生位置75,76がダイアフラム23の中心軸25の上方を要とするV字状に表れるおそれがある。このため、ダイアフラム23の中心軸25の下方を要とする略V字状に2個のコードジョイント54を、シワ発生位置75,76のそれぞれの一部に交差して設けるのが好適である。
【0052】
また、シワ発生位置75,76に対して交差する位置に、クロスプライジョイント56を設けるのも好適である。クロスプライジョイント56は、シワ発生位置75,76に対して一部が交差しているのが好適である。
【0053】
上記で説明したダイアフラム23を用いた空気バネ11は、
図1で説明したボルスタレス台車10に設けられたものとして説明しているが、この発明ではこれに限らず、例えばボルスタを有するダイレクトマウント台車に設けられるものでもよい。
【0054】
また、上記で説明した空気バネ11としては、
図2で説明したものとして説明しているが、この発明ではこれに限らず、例えば鉄道車両用懸架装置とは主に積層ゴム24が異なる構造の鉄道車両用懸架装置に適用された空気バネやその空気バネに用いられるダイアフラムでもよい。即ち、空気バネが、コニカルストッパー構造の積層ゴムが搭載された構成のものでもよい。
【符号の説明】
【0055】
10…台車
11,12…空気バネ
13…台車枠
20…上面板
21…下面板(積層ゴム上板)
23…ダイアフラム
24…積層ゴム
25…中心軸
35…上ビード部
36…下ビード部
37…上ビードワイヤー
38…下ビードワイヤー
39…本体部
40…内層ゴム
41…外層ゴム
43…主材層
44…第1補強層
45…第2補強層
46…補強層
47…内層ゴムジョイント
48…外層ゴムジョイント
49…2プライジョイント
50…1プライジョイント
54…コードジョイント
55…シワ発生位置
56…クロスプライジョイント
65…第1位置(シワ発生位置)
66…内軌レール
67…内軌レールの内側
68…第2位置(シワ発生位置)
69…外軌レール
70…外軌レールの外側
71…第3位値(シワ発生位置)
73…第4位置(シワ発生位置)
75…第1シワ発生位置
76…第2シワ発生位置