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特開2024-118650反射型マスクブランク、及び反射型マスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118650
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク、及び反射型マスク
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20240826BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
G03F1/24
C23C14/06 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025043
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】市川 顯二郎
(72)【発明者】
【氏名】米丸 直人
【テーマコード(参考)】
2H195
4K029
【Fターム(参考)】
2H195BA10
2H195CA01
2H195CA07
2H195CA12
2H195CA15
2H195CA16
2H195CA17
2H195CA22
2H195CA23
4K029AA08
4K029AA24
4K029BA05
4K029BA07
4K029BA11
4K029BA13
4K029BA17
4K029BA33
4K029BA34
4K029BA35
4K029BA43
4K029BA47
4K029BB02
4K029BD01
4K029CA05
4K029DC16
4K029EA01
(57)【要約】
【課題】反射型マスクを製造する際にキャッピング膜の膜厚が多少変動した場合でも、所望のEUV反射率が安定的に得られる反射型マスクブランク、及びその反射型マスクブランクを用いて製造した反射型マスクを提供する。
【解決手段】本実施形態に係る反射型マスクブランク10は、基板1と、多層膜2と、キャッピング膜3と、吸収膜4とを少なくとも備え、キャッピング膜3の極端紫外光反射率が62%以上であって、キャッピング膜3の膜厚に対する前記反射率の変動が1%以下であり、キャッピング膜3は、極端紫外光における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、下記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成されている。
(0.875≦n≦0.99のとき)k≦n×A+B(-0.667≦A≦-0.657、0.650≦B≦0.660) ・・・(1)
(0.875>nのとき)k≦0.07 ・・・(2)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型マスクの製造に用いられる反射型マスクブランクであって、
基板と、前記基板上に形成された多層膜と、前記多層膜上に形成され、前記多層膜を保護するキャッピング膜と、前記キャッピング膜上に形成された吸収膜とを少なくとも備え、
前記吸収膜形成前の前記キャッピング膜の極端紫外光反射率が62%以上であって、前記キャッピング膜の膜厚に対する前記反射率の変動が1%以下であり、
前記キャッピング膜は、極端紫外光における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、下記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成されており、
前記キャッピング膜は、その膜厚が1nm以上4.5nm以下の範囲内であることを特徴とする反射型マスクブランク。
(0.875≦n≦0.99のとき) k≦n×A+B
(ここで、Aは-0.667以上-0.657以下の定数、Bは0.650以上0.660以下の定数)
・・・(1)
(0.875>nのとき) k≦0.07 ・・・(2)
【請求項2】
前記キャッピング膜は、その膜厚が1.5nm以上4.0nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記キャッピング膜は、Rh、Pd、Ru、Pt、Au、Ir、Os、Re、Tc、Mo、Nb、W、V、Ti、Zr、C、B、Cr、及びYからなる元素群から選択される少なくとも1種類以上の元素を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型マスクであって、
基板と、前記基板上に形成された多層膜と、前記多層膜上に形成され、前記多層膜を保護するキャッピング膜と、前記キャッピング膜上にパターン形成された吸収膜とを少なくとも備え、
前記多層膜上の前記キャッピング膜の極端紫外光反射率が62%以上であって、前記キャッピング膜の膜厚に対する前記反射率の変動が1%以下であり、
前記キャッピング膜は、極端紫外光における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、下記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成されており、
前記キャッピング膜は、その膜厚が1nm以上4.5nm以下の範囲内であることを特徴とする反射型マスク。
(0.875≦n≦0.99のとき) k≦n×A+B
(ここで、Aは-0.667以上-0.657以下の定数、Bは0.650以上0.660以下の定数)
・・・(1)
(0.875>nのとき) k≦0.07 ・・・(2)
【請求項5】
前記キャッピング膜は、その膜厚が1.5nm以上4.0nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の反射型マスク。
【請求項6】
前記キャッピング膜は、Rh、Pd、Ru、Pt、Au、Ir、Os、Re、Tc、Mo、Nb、W、V、Ti、Zr、C、B、Cr、及びYからなる元素群から選択される少なくとも1種類以上の元素を含むことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の反射型マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型マスクブランク、その反射型マスクブランクを用いて製造された反射型マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体の微細化に伴い、フォトリソグラフィ技術の微細化に対する要求が高まっている。フォトリソグラフィにおける転写パターンの最小解像寸法は、露光光源の波長に大きく依存し、波長が短いほど最小解像寸法を小さくできる。このため、露光光源は、従来の波長193nmのArFエキシマレーザー光から、波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)領域の光に置き換わってきている。
【0003】
EUV領域の光は、ほとんどの物質で高い割合で吸収されるため、EUV露光用のフォトマスク(EUVマスク)としては、反射型のフォトマスクが使用される(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、ガラス基板上にモリブデン(Mo)層及びシリコン(Si)層を交互に積層した多層膜からなる反射層を形成し、その上にタンタル(Ta)を主成分とする光吸収層を形成し、この光吸収層にパターンを形成することで得られたEUVフォトマスクが開示されている。
【0004】
また、EUVリソグラフィは、前記のように、光の透過を利用する屈折光学系が使用できないことから、露光機の光学系部材もレンズではなく、反射型(ミラー)となる。このため、反射型フォトマスク(EUVマスク)への入射光と、反射型フォトマスクで反射した反射光とが同軸上に設計できない問題がある。そこで、通常、EUVリソグラフィでは、光軸をEUVマスクの垂直方向から6度傾けて入射し、マイナス6度の角度で反射する反射光を半導体基板に導く手法が採用されている。
【0005】
このように、EUVリソグラフィではミラーを介し光軸を傾斜することから、EUVマスクに入射するEUV光がEUVマスクのマスクパターン(パターン化された光吸収層)の影をつくる、いわゆる「射影効果」と呼ばれる問題が発生することがある。
現在のEUVマスクブランクでは、光吸収層として膜厚60~90nmのタンタル(Ta)を主成分とした膜が用いられている。このマスクブランクを用いて作製したEUVマスクでパターン転写の露光を行った場合、EUV光の入射方向とマスクパターンの向きとの関係によっては、マスクパターンの影となるエッジ部分で、コントラストの低下を引き起こす恐れがある。これに伴い、半導体基板上の転写パターンのラインエッジラフネスの増加や、線幅が狙った寸法に形成できないなどの問題が生じ、転写性能が悪化することがある。
【0006】
そこで、光吸収層をタンタル(Ta)からEUV光に対する吸収性(消衰係数)が高い材料への変更や、タンタル(Ta)に吸収性の高い材料を加えた反射型フォトマスクブランクが検討されている。例えば、特許文献2には、光吸収層を、Taを主成分として50原子%(at%)以上含み、さらにTe、Sb、Pt、I、Bi、Ir、Os、W、Re、Sn、In、Po、Fe、Au、Hg、Ga及びAlから選ばれた少なくとも一種の元素を含む材料で構成した反射型フォトマスクブランクが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、多層膜からなる反射層上に、その多層膜(反射層)を保護する目的としてキャッピング膜を設けた形態が記載されている。また、特許文献3で示されているように、キャッピング膜によりEUV反射率を低下させないため、キャッピング膜はEUV光に対して透明である必要があり、キャッピング膜には一般に薄いRu膜が使用されている。
このように、キャッピング膜はEUV反射率を低下させないために、EUV光に対して透明である必要があるが、安定したEUV露光を行うには、マスク面内及び各マスク間でキャッピング膜のEUV反射率が変動しないことが重要である。
【0008】
EUV反射率は、キャッピング膜の膜厚のばらつきによって敏感に変動することがある。キャッピング膜の膜厚にばらつきを生む原因は、例えば、キャッピング膜成膜時のばらつきや、キャッピング膜の直上にある膜をエッチング等で剥離するときのばらつき、あるいは、EUVマスク作成時の洗浄などによるキャッピング膜の膜厚増減によるばらつきなどが考えられる。
上述した吸収性の高い材料(高消衰係数材料)を用いた反射型フォトマスクブランクは、吸収膜材料のエッチングレートが遅い場合が多いため、キャッピング膜との選択比(エッチングレート比)が十分にとれず、吸収膜のエッチングによってキャッピング膜の膜厚のばらつきが大きくなる場合がある。そのため、このようなキャッピング膜の膜厚のばらつきによるEUV反射率の変動を抑えるには、仮にキャッピング膜の膜厚が変化してもEUV反射率の変動が小さいキャッピング膜材料を使用する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4397496号
【特許文献2】特開2007-273678号公報
【特許文献3】特許第5803919号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされ、反射型マスクを製造する際にキャッピング膜の膜厚が多少変動した場合でも、所望のEUV反射率が安定的に得られる反射型マスクブランク、及びその反射型マスクブランクを用いて製造した反射型マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであって、本発明の一態様に係る反射型マスクブランクは、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型マスクの製造に用いられる反射型マスクブランクであって、基板と、前記基板上に形成された多層膜と、前記多層膜上に形成され、前記多層膜を保護するキャッピング膜と、前記キャッピング膜上に形成された吸収膜とを少なくとも備え、前記吸収膜形成前の前記キャッピング膜の極端紫外光反射率が62%以上であって、前記キャッピング膜の膜厚に対する前記反射率の変動が1%以下であり、前記キャッピング膜は、極端紫外光における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、下記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成されている。
(0.875≦n≦0.99のとき) k≦n×A+B
(ここで、Aは-0.667以上-0.657以下の定数、Bは0.650以上0.660以下の定数)
・・・(1)
(0.875>nのとき) k≦0.07 ・・・(2)
【0012】
また、本発明の一態様に係る反射型マスクブランクにおいて、前記キャッピング膜は、その膜厚が1nm以上4.5nm以下の範囲内であってもよい。
【0013】
また、本発明の一態様に係る反射型マスクブランクにおいて、前記キャッピング膜は、その膜厚が1.5nm以上4.0nm以下の範囲内であってもよい。
【0014】
また、本発明の一態様に係る反射型マスクブランクにおいて、前記キャッピング膜は、Rh、Pd、Ru、Pt、Au、Ir、Os、Re、Tc、Mo、Nb、W、V、Ti、Zr、C、B、Cr、及びYからなる元素群から選択される少なくとも1種類以上の元素を含んでいてもよい。
【0015】
また、本発明の一態様に係る反射型マスクは、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型マスクであって、基板と、前記基板上に形成された多層膜と、前記多層膜上に形成され、前記多層膜を保護するキャッピング膜と、前記キャッピング膜上にパターン形成された吸収膜とを少なくとも備え、前記多層膜上の前記キャッピング膜の極端紫外光反射率が62%以上であって、前記キャッピング膜の膜厚に対する前記反射率の変動が1%以下であり、前記キャッピング膜は、極端紫外光における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、下記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成されている。
(0.875≦n≦0.99のとき) k≦n×A+B
(ここで、Aは-0.667以上-0.657以下の定数、Bは0.650以上0.660以下の定数)
・・・(1)
(0.875>nのとき) k≦0.07 ・・・(2)
【0016】
また、本発明の一態様に係る反射型マスクにおいて、前記キャッピング膜は、その膜厚が1nm以上4.5nm以下の範囲内であってもよい。
【0017】
また、本発明の一態様に係る反射型マスクにおいて、前記キャッピング膜は、その膜厚が1.5nm以上4.0nm以下の範囲内であってもよい。
【0018】
また、本発明の一態様に係る反射型マスクにおいて、前記キャッピング膜は、Rh、Pd、Ru、Pt、Au、Ir、Os、Re、Tc、Mo、Nb、W、V、Ti、Zr、C、B、Cr、及びYからなる元素群から選択される少なくとも1種類以上の元素を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様であれば、反射型マスクを製造する際にキャッピング膜の膜厚が多少変動した場合でも、所望のEUV反射率が安定的に得られる反射型マスクブランク、及びその反射型マスクブランクを用いて製造した反射型マスクを提供することができる。より詳しくは、反射型マスクを製造する際にキャッピング膜の膜厚が±0.5nmの範囲内で変動した場合であっても、キャッピング膜におけるEUV反射率を62%以上に維持することができ、且つ、キャッピング膜におけるEUV反射率変動を1%以下に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る反射型マスクブランクの構造を示す断面概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る反射型マスクの構造を示す断面概略図である。
図3】本発明の実施形態におけるn-kマップである。
図4】本発明の実施形態に係るキャッピング膜の最大膜厚領域を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係るキャッピング膜の最小膜厚領域を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係るキャッピング膜の膜厚レンジを示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る反射型マスクブランクを用いた反射型マスクの製造工程を順に示す断面概略図である。
図8】本発明の実施例におけるn-kマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
ここで、図面に示す構成は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率などは現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明を具体化するための構成を例示するものであって、本発明は、構成部品の材質、形状、構造などが下記のものに限定されるものでない。また、本発明は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0022】
(反射型マスクブランク及び反射型マスクの構成)
図1は、本発明の実施形態に係る反射型マスクブランク10の構造を示す断面概略図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る反射型マスクブランク10は、基板1と、基板1上に形成された多層膜2と、多層膜2上に形成され、多層膜2を保護するキャッピング膜3と、キャッピング膜3上に形成された吸収膜4と、を少なくとも備えている。
【0023】
また、吸収膜4を形成する前の状態、または吸収膜4をエッチングによりパターニングした後の状態におけるキャッピング膜3と多層膜2とを含めた反射部の極端紫外光反射率は、62%以上である。また、キャッピング膜3の膜厚に対する極端紫外光反射率の変動は、1%以下である。さらに、キャッピング膜3は、極端紫外光における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、下記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成されている。
(0.875≦n≦0.99のとき) k≦n×A+B
(ここで、Aは-0.667以上-0.657以下の定数、Bは0.650以上0.660以下の定数)
・・・(1)
(0.875>nのとき) k≦0.07 ・・・(2)
【0024】
図2は、本発明の実施形態に係る反射型マスク20の構造を示す断面概略図である。図2に示す本発明の実施形態に係る反射型マスク20は、図1に示す本発明の実施形態に係る反射型マスクブランク10の吸収膜4をパターニングして形成されている。
以下、各層について詳細に説明する。
【0025】
(基板)
本発明の実施形態に係る基板1には、例えば、平坦なSi基板や合成石英基板等を用いることができる。また、基板1には、チタンを添加した低熱膨張ガラスを用いることができるが、熱膨張率の小さい材料であれば、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
なお、基板1の多層膜2を形成していない面には、裏面導電膜(6)を形成することができる。裏面導電膜は、反射型マスク20を露光機に設置するときに静電チャックの原理を利用して固定するための膜である。
【0026】
(多層膜)
多層膜2は、基板1とキャッピング膜3との間に位置する多層構造を有する膜であり、且つ波長13.5nmの光を反射する膜である。そのため、多層膜2は、例えば「(光)反射膜」、あるいは「(光)反射層」とも呼ばれる膜である。
多層膜2は、露光光であって、波長13.5nmの光のようなEUV光(極端紫外光)を反射するものであり、例えば、EUV光に対する屈折率の大きく異なる材料の組み合わせによって構成されている。多層膜2は、例えば、モリブデンとケイ素、またはモリブデンとベリリウムといった組み合わせの層を40周期程度繰り返し積層することにより形成することができる。
なお、多層膜2は、例えば、波長13.5nmの光を50%以上反射することが可能な薄膜であり、その光を60%以上反射することが可能な薄膜であれば好ましい。
【0027】
(キャッピング膜)
キャッピング膜3は、多層膜2と吸収膜4との間に位置する層であり、吸収パターン膜4aを吸収膜4のエッチングにより形成する際に、多層膜2へのダメージを防ぐエッチングストッパとして機能する層である。
吸収膜4の形成前におけるキャッピング膜3の極端紫外光反射率(EUV反射率)は、62%以上である。また、例えば、吸収膜4をエッチングによりパターニングした後におけるキャッピング膜3と多層膜2とを含めた反射部の極端紫外光反射率(EUV反射率)も62%以上である。吸収膜4の形成前や吸収膜4のエッチング後におけるキャッピング膜3と多層膜2とを含めた反射部の極端紫外光反射率が62%以上であれば、十分なスループットが得られ、反射型マスクブランク(反射型マスク)を使用する上で問題がない。
【0028】
また、吸収膜4のエッチング等に起因する、キャッピング膜3の膜厚に対する極端紫外光反射率の変動(所謂、反射率ばらつき)は、1%以下である。キャッピング膜3の膜厚に対する極端紫外光反射率の変動が1%以下であれば、EUVマスク製造時のマスクごとのEUV反射率や、1枚のEUVマスク面内のEUV反射率が安定しており、EUVマスク製造の収率を上げることができる。
【0029】
なお、吸収膜4の形成前におけるキャッピング膜3の極端紫外光反射率(EUV反射率)は、例えば、EUV反射率計を用いて、マスク面内5箇所の測定値の平均で測定する方法を用いて測定することができる。
【0030】
また、キャッピング膜3の膜厚に対する極端紫外光反射率の変動(反射率ばらつき)は、例えば、EUV反射率計を用いて、マスク面内縦横5箇所の測定値の平均し、膜厚変動前後の差分を取ることで測定することができる。
【0031】
キャッピング膜3は、極端紫外光における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、下記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成されている。
(0.875≦n≦0.99のとき) k≦n×A+B
(ここで、Aは-0.667以上-0.657以下の定数、Bは0.650以上0.660以下の定数)
・・・(1)
(0.875>nのとき) k≦0.07 ・・・(2)
キャッピング膜3が上記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成されていれば、キャッピング膜3の膜厚が±0.5nmの範囲内で変動したとしても十分なEUV反射率(62%以上)を備え、且つ反射率ばらつきが1%以内となる。
以下、この点について詳しく説明する。
【0032】
本願発明者らは、反射型マスクブランク(反射型マスク)を製造する際にキャッピング膜3の膜厚が変動(±0.5nm)したとしても、十分なEUV反射率を備え、且つ反射率ばらつきが1%以内となる最適条件を見出した。具体的には、反射型マスクブランク10を構成するキャッピング膜3について、その構成材料の屈折率nと消衰係数kに着目し、その構成材料が一定の関係性を有する範囲に収まっていれば(すなわち、上記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成されていれば)、上記効果を得ることができることを見出した。
換言すると、本願発明者らは、反射型マスクブランク10を構成するキャッピング膜3の材料選定をする際、上記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料を選定すれば、反射型マスクブランク(反射型マスク)を製造する際にキャッピング膜3の膜厚が±0.5nmの範囲内で変動した場合であっても、十分なEUV反射率(62%以上)を得ることができ、且つ反射率ばらつきを1%以内に収めることができることを見出した。
【0033】
図3は、本発明の実施形態におけるn-kマップである。図3において、その横軸は元素の屈折率nを示し、その縦軸は元素の消衰係数kを示している。また、図3中の破線は、k=n×A+B(ここで、Aは-0.667以上-0.657以下の定数、Bは0.650以上0.660以下の定数)を示している。より詳しくは、図3中の斜線のエリアは上記式(1)及び上記式(2)を満たす範囲を示している。
【0034】
上述の式(1)及び式(2)は、元素の屈折率nを0.85~1.00の範囲内に設定し、元素の消衰係数kを0.000~0.08の範囲内に設定し、且つ、キャッピング膜3の膜厚を1.0nm~10nmの範囲内に設定した各条件におけるEUV反射率をシミュレーションして得られる、EUV反射率が62%以上であり、且つ、膜厚変動(±0.5nm)させたときの反射率変動が1%以内のn値及びk値のうち、各n値における最大のk値のプロットし、そのプロットに対して近似直線をとることで求めることができる。なお、最大のk値が一定になる領域においては近似直線を求める範囲外としている。
【0035】
このように、キャッピング膜3が上記式(1)または上記式(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料(即ち、図3の斜線で示した領域内に収まる材料)で形成されていれば、キャッピング膜3の膜厚が±0.5nmの範囲内で変動したとしても十分なEUV反射率(62%以上)を備え、且つ反射率ばらつきを1%以内に収めることができる。
【0036】
キャッピング膜3は、その膜厚が1nm以上4.5nm以下の範囲内であれば好ましい。キャッピング膜3の膜厚が1nm以上であれば、多層膜2を保護する保護層として機能し得る。また、キャッピング膜3の膜厚が4.5nm以下であれば、EUV反射率を高めることができる。
また、キャッピング膜3は、その膜厚が1.5nm以上4.0nm以下の範囲内であればより好ましい。キャッピング膜3の膜厚が1.5nm以上であれば、多層膜2を保護する保護層として十分に機能し得る。また、キャッピング膜3の膜厚が4.0nm以下であれば、EUV反射率を十分に高めることができる。
【0037】
また、EUV反射率が62%以上であり、且つ、膜厚が変動(±0.5nm)したときのEUV反射率変動が1%以下になるキャッピング膜3の膜厚は、キャッピング膜3を構成する材料の各n、kにおいて異なる。具体的には、図4に示すように、k値が小さいほど取り得るキャッピング膜3の最大膜厚は大きくなる。なお、図4は本発明の実施形態に係るキャッピング膜の最大膜厚領域を示す図であり、その横軸は元素の屈折率nを示し、その縦軸は元素の消衰係数kを示している。
【0038】
また、図5に示すように、キャッピング膜3の取り得る最小膜厚は、多くのn、kで1nm以上であり、図5の左下に位置するn、kがともに小さい領域では必要とされる膜厚がより厚くなることが分かる。なお、図5は本発明の実施形態に係るキャッピング膜の最小膜厚領域を示す図であり、その横軸は元素の屈折率nを示し、その縦軸は元素の消衰係数kを示している。
【0039】
また、図4図5から算出した各n、kにおける、キャッピング膜3の取り得る膜厚レンジを図6に示す。キャッピング膜3の膜厚レンジとしては、膜厚レンジが広いn、kの組み合わせであればあるほど、プロセス中の膜厚変動による許容範囲が広くなるため、より好ましい。具体的には、キャッピング膜3の膜厚レンジが2nm~3nm以上となるn、kの組み合わせが望ましい。
【0040】
キャッピング膜3は、吸収膜4のパターン形成の際に行われるドライエッチングに対して耐性を有する材質で形成されていればよい。そのため、キャッピング膜3を構成する材料は、例えば、Rh、Pd、Ru、Pt、Au、Ir、Os、Re、Tc、Mo、Nb、W、V、Ti、Zr、C、B、Cr、及びYからなる元素群から選択される少なくとも1種類以上の元素を含む単体または化合物であることが望ましい。また、キャッピング膜3は合金で構成されていてもよく、上述した式(1)または式(2)の範囲内であれば、酸素、窒素、水素のような非金属材料を含んでいてもよい。さらに、前述のように膜厚レンジが2~3nm以上となるn、kの組み合わせが望ましいため、キャッピング膜3を構成する材料は、例えば、Ru、Tc、Mo,Nb,Ti、Zr、C、B、及びYからなる元素群から選択される少なくとも1種類以上の元素を含む単体または化合物であることがより望ましい。
【0041】
(吸収膜及び吸収パターン膜)
本発明の実施形態に係る吸収膜4は、キャッピング膜3の上に形成される層であり、露光光であるEUV光を吸収する層である。また、吸収膜4は、転写するための微細パターンである吸収パターン膜(転写パターン)4aを形成する層である。つまり、反射型マスクブランク10の吸収膜4の一部を除去することにより、即ち吸収膜4をパターニングすることにより、図7に示す反射型マスク20の吸収パターン(吸収パターン膜4a)が形成される。
より詳しくは、吸収膜4は、波長13.5nmの光の反射率が多層膜2よりも低い薄膜である。吸収膜4は、例えば、波長13.5nmの光の反射率が0%以上6.5%未満、また好ましくは0%以上2%未満の範囲にある層である。吸収膜4の反射率が上記数値範囲内であれば、多層膜2に対するEUV光の反射率(反射比率)が十分に低くなり、吸収膜4を備えた反射型マスク20に高い転写性能を付与することができる。
【0042】
吸収膜4の構成材料は、射影効果の低減のためにEUV吸収率の高い材料であることが望ましく、消衰係数kが0.040以上の材料を少なくとも1種類以上含む単体または化合物であることが望ましい。吸収膜4の構成材料は、例えば、Te、Sb、Pt、I、Bi、Ir、Os、W、Re、Sn、In、Po、Fe、Au、Hg、Ta、Ga、及びAlから選ばれる1種類以上含む単体または化合物であることが望ましく、酸素、窒素、水素などの非金属材料を含んでいてもよい。
【0043】
吸収膜4の膜厚は、EUV光に対する反射率が6.5%未満になるように調整する。吸収膜4の膜厚は、例えば、17nm以上90nm以下の範囲内、特に25nm以上75nm以下の範囲内が好ましい。吸収膜4の膜厚が上記数値範囲内であれば、EUV光に対する反射率が十分に低くなり、吸収膜4(吸収パターン膜4a)を備えた反射型マスク20に高い転写性能を付与することができる。
【0044】
また、吸収膜4のパターン解像性向上などを目的として、吸収膜4の上にハードマスク(図示せず)を1層以上設けていてもよい。ハードマスクの材料としては、例えば、Cr、Si、Taなどの元素を少なくとも1種類以上含む材料であることが望ましい。
【0045】
(反射型マスクブランクを用いた反射型マスクの製造方法)
以下に、本実施形態の反射型マスクブランク10を用いた反射型マスク20の製造方法の好適な実施形態を挙げる。
図7は、図1に示す反射型マスクブランク10を用いた反射型マスク20の製造工程を順に示す断面概略図である。図7(a)は、反射型マスクブランク10上にレジスト膜を塗布し、描画を施し、その後に現像処理を行い、レジストパターン5を形成する工程を示す。図7(b)は、レジストパターン5に沿って吸収膜4をパターニングする工程を示す。図7(c)は、残存したレジストパターン5を剥離除去した後、洗浄する工程を示す。こうして、本実施形態に係る反射型マスク20を製造する。
【0046】
[実施例]
以下、実施例により、本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0047】
[実施例1]
低熱膨張性を有する合成石英の基板の上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)とを一対とする積層膜が40枚積層されて形成された多層膜を形成した。多層膜の膜厚は280nmとした。
次に、多層膜上に、Nbとで形成されたキャッピング膜を、膜厚が1.5nmになるように成膜した。キャッピング膜におけるNbと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
次に、キャッピング膜の上に、酸化錫(SnO)を含む吸収膜を膜厚が42nmになるよう成膜した。
基板上へのそれぞれの膜の成膜は、多元スパッタリング装置を用いた。各々の膜の膜厚は、スパッタリング時間で制御した。
【0048】
次に、吸収膜上にポジ型化学増幅型レジスト(SEBP9012:信越化学社製)を120nmの膜厚にスピンコートで成膜し、110度で10分間ベークし、レジスト膜を形成した。
次いで、電子線描画機(JBX3030:日本電子社製)によってポジ型化学増幅型レジストに所定のパターンを描画した。
その後、110度、10分間ベーク処理を施し、次いでスプレー現像(SFG3000:シグマメルテック社製)した。これにより、レジストパターンを形成した。
【0049】
次に、レジストパターンをエッチングマスクとして、塩素系ガスを主体としたドライエッチングにより吸収膜のパターニングを行い、吸収パターン膜を形成した。
次に、残ったレジストパターンの剥離を行った。
こうして、実施例1の反射型マスクを得た。
実施例1の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.29%であった。また、実施例1の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.29%であった。こうして得られた測定結果を表1に示す。
なお、本実施例では、EUV反射率が62%以上であれば、使用上問題がないとして「合格」とした。また、反射率変動が1%以内であれば、使用上問題がないとして「合格」とした。
以下、本実施例で用いたEUV反射率及び反射率変動の各測定方法について、説明する。
【0050】
<EUV反射率の決定方法>
EUV反射率計を用いて、マスク面内5箇所を測定し、その平均値をEUV反射率とした。
【0051】
<反射率変動の決定方法>
EUV反射率は前記の方法と同様に測定した。ある膜厚のEUV反射率と、±0.5nm膜厚が変わった時のEUV反射率との差分を平均し、算出した値を反射率変動とした。
【0052】
(実施例2)
キャッピング膜をTiOで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例2の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるTiOと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
実施例2の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.20%であった。また、実施例2の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.12%であった。
【0053】
(実施例3)
キャッピング膜をZrOで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例3の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるZrOと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
実施例3の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.21%であった。また、実施例3の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.17%であった。
【0054】
(実施例4)
キャッピング膜をYで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例4の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるYと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
実施例4の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.17%であった。また、実施例4の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.16%であった。
【0055】
(実施例5)
キャッピング膜をRhで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例5の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるRhと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
実施例5の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.66%であった。また、実施例5の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.52%であった。
【0056】
(実施例6)
キャッピング膜をRuOで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例6の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるRuOと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
実施例6の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.74%であった。また、実施例6の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.57%であった。
【0057】
(実施例7)
キャッピング膜をReで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例7の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるReと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
実施例7の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.12%であった。また、実施例7の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.26%であった。
【0058】
(実施例8)
キャッピング膜をMoOで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例8の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるMoOと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
実施例8の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.21%であった。また、実施例8の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.17%であった。
【0059】
(実施例9)
キャッピング膜をTiとSiとで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例9の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるTiとSiとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、50:50であった。
実施例9の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.08%であった。また、実施例9の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.07%であった。
【0060】
(実施例10)
キャッピング膜をCrNで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例10の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるCrNと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
実施例10の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.11%であった。また、実施例10の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.22%であった。
【0061】
(実施例11)
キャッピング膜をRuで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例11の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるRuと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
実施例11の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.78%であった。また、実施例11の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.73%であった。
【0062】
(実施例12)
キャッピング膜をTaとMoとで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例12の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるTaとMoとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、20:80であった。
実施例12の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.43%であった。また、実施例12の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.40%であった。
【0063】
(実施例13)
キャッピング膜をHfOとPtとで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例13の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるHfOとPtとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、40:60であった。
実施例13の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.07%であった。また、実施例13の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.33%であった。
【0064】
(実施例14)
キャッピング膜をPtで形成した以外は実施例1と同様にして、実施例14の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるPtと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
実施例14の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.12%であった。また、実施例14の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.37%であった。
【0065】
(実施例15)
キャッピング膜をRuとNbとで形成し、キャッピング膜の膜厚を2nmとした以外は実施例1と同様にして、実施例15の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるRuとNbとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、50:50であった。
実施例15の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は63.43%であった。また、実施例15の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.65%であった。
【0066】
(実施例16)
キャッピング膜をRuとNbとで形成し、キャッピング膜の膜厚を3nmとした以外は実施例1と同様にして、実施例16の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるRuとNbとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、50:50であった。
実施例16の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は64.23%であった。また、実施例16の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.22%であった。
【0067】
(実施例17)
キャッピング膜をRuとNbとで形成し、キャッピング膜の膜厚を4nmとした以外は実施例1と同様にして、実施例17の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるRuとNbとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、50:50であった。
実施例17の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は63.30%であった。また、実施例17の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.92%であった。
【0068】
(実施例18)
キャッピング膜をZrとYとで形成し、キャッピング膜の膜厚を4nmとした以外は実施例1と同様にして、実施例18の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるZrとYとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、50:50であった。
実施例18の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.40%であった。また、実施例18の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.36%であった。
【0069】
(実施例19)
キャッピング膜をMoとNbとで形成し、キャッピング膜の膜厚を4.5nmとした以外は実施例1と同様にして、実施例19の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるMoとNbとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、50:50であった。
実施例19の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.81%であった。また、実施例19の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.93%であった。
【0070】
(実施例20)
キャッピング膜をNbとYとで形成し、キャッピング膜の膜厚を4.5nmとした以外は実施例1と同様にして、実施例20の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるNbとYとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、70:30であった。
実施例20の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は62.60%であった。また、実施例20の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.68%であった。
【0071】
(比較例1)
キャッピング膜をAgとPtとで形成した以外は実施例1と同様にして、比較例1の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるAgとPtとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、50:50であった。
比較例1の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は61.98%であった。また、比較例1の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.45%であった。
【0072】
(比較例2)
キャッピング膜をTeとIrとで形成した以外は実施例1と同様にして、比較例2の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるTeとIrとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、30:70であった。
比較例2の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は61.97%であった。また、比較例2の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.35%であった。
【0073】
(比較例3)
キャッピング膜をHfOで形成した以外は実施例1と同様にして、比較例3の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるHfOと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
比較例3の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は61.90%であった。また、比較例3の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.29%であった。
【0074】
(比較例4)
キャッピング膜をSiNで形成した以外は実施例1と同様にして、比較例4の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるSiNと他の元素との原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、100:0であった。
比較例4の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は61.88%であった。また、比較例4の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.12%であった。
【0075】
(比較例5)
キャッピング膜をRuとNbとで形成し、キャッピング膜の膜厚を5nmとした以外は実施例1と同様にして、比較例5の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるRuとNbとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、50:50であった。
比較例5の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は60.64%であった。また、比較例5の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は1.64%であった。
【0076】
(比較例6)
キャッピング膜をZrとYとで形成し、キャッピング膜の膜厚を5nmとした以外は実施例1と同様にして、比較例6の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるZrとYとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、50:50であった。
比較例6の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は61.39%であった。また、比較例6の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は0.59%であった。
【0077】
(比較例7)
キャッピング膜をMoとNbとで形成し、キャッピング膜の膜厚を5nmとした以外は実施例1と同様にして、比較例7の反射型マスクを得た。なお、キャッピング膜におけるMoとNbとの原子数比率をXPS(X線光電子分光法)で測定したところ、50:50であった。
比較例7の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対してEUV反射率を測定したところ、その値は61.73%であった。また、比較例7の反射型マスクに備わるキャッピング膜に対して反射率変動を測定したところ、その値は1.18%であった。
【0078】
【表1】
【0079】
なお、各実施例及び各比較例で用いたキャッピング膜の構成材料が有する屈折率n、及び消衰係数kの関係(n-kマップ)については、図8に示している。
【0080】
実施例1から実施例20の評価結果より、本実施例の反射型マスクブランクは、従来の反射型マスクブランクである比較例1から比較例7の反射型マスクブランクと比較して、反射型マスクを製造する際にキャッピング膜の膜厚が±0.5nmの範囲内で変動した場合であっても、キャッピング膜におけるEUV反射率を62%以上に維持することができ、且つ、キャッピング膜におけるEUV反射率変動を1%以下に維持することができる。
【0081】
以上、本実施例により本発明の反射型マスクブランク、及び本発明の反射型マスクについて説明したが、上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。また、これらの実施例や上述した各実施形態を変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
【0082】
また、例えば、本発明は以下のような構成を取ることができる。
(1)
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型マスクの製造に用いられる反射型マスクブランクであって、
基板と、前記基板上に形成された多層膜と、前記多層膜上に形成され、前記多層膜を保護するキャッピング膜と、前記キャッピング膜上に形成された吸収膜とを少なくとも備え、
前記吸収膜形成前の前記キャッピング膜の極端紫外光反射率が62%以上であって、前記キャッピング膜の膜厚に対する前記反射率の変動が1%以下であり、
前記キャッピング膜は、極端紫外光における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、下記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成されていることを特徴とする反射型マスクブランク。
(0.875≦n≦0.99のとき) k≦n×A+B
(ここで、Aは-0.667以上-0.657以下の定数、Bは0.650以上0.660以下の定数)
・・・(1)
(0.875>nのとき) k≦0.07 ・・・(2)
(2)
前記キャッピング膜は、その膜厚が1nm以上4.5nm以下の範囲内であることを特徴とする上記(1)に記載の反射型マスクブランク。
(3)
前記キャッピング膜は、その膜厚が1.5nm以上4.0nm以下の範囲内であることを特徴とする上記(1)に記載の反射型マスクブランク。
(4)
前記キャッピング膜は、Rh、Pd、Ru、Pt、Au、Ir、Os、Re、Tc、Mo、Nb、W、V、Ti、Zr、C、B、Cr、及びYからなる元素群から選択される少なくとも1種類以上の元素を含むことを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
(5)
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型マスクであって、
基板と、前記基板上に形成された多層膜と、前記多層膜上に形成され、前記多層膜を保護するキャッピング膜と、前記キャッピング膜上にパターン形成された吸収膜とを少なくとも備え、
前記多層膜上の前記キャッピング膜の極端紫外光反射率が62%以上であって、前記キャッピング膜の膜厚に対する前記反射率の変動が1%以下であり、
前記キャッピング膜は、極端紫外光における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、下記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成されていることを特徴とする反射型マスク。
(0.875≦n≦0.99のとき) k≦n×A+B
(ここで、Aは-0.667以上-0.657以下の定数、Bは0.650以上0.660以下の定数)
・・・(1)
(0.875>nのとき) k≦0.07 ・・・(2)
(6)
前記キャッピング膜は、その膜厚が1nm以上4.5nm以下の範囲内であることを特徴とする上記(5)に記載の反射型マスク。
(7)
前記キャッピング膜は、その膜厚が1.5nm以上4.0nm以下の範囲内であることを特徴とする上記(5)に記載の反射型マスク。
(8)
前記キャッピング膜は、Rh、Pd、Ru、Pt、Au、Ir、Os、Re、Tc、Mo、Nb、W、V、Ti、Zr、C、B、Cr、及びYからなる元素群から選択される少なくとも1種類以上の元素を含むことを特徴とする上記(5)から(7)のいずれか1項に記載の反射型マスク。
(9)
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型マスクの製造に用いられる反射型マスクブランクを構成するキャッピング膜の製造方法であって、
前記反射型マスクブランクは、基板と、前記基板上に形成された多層膜と、前記多層膜上に形成され、前記多層膜を保護するキャッピング膜と、前記キャッピング膜上に形成された吸収膜とを少なくとも備え、
前記吸収膜形成前の前記キャッピング膜の極端紫外光反射率が62%以上となるように、且つ前記キャッピング膜の膜厚に対する前記反射率の変動が1%以下となるように、前記キャッピング膜を、極端紫外光における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、下記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成することを特徴とする反射型マスクブランクを構成するキャッピング膜の製造方法。
(0.875≦n≦0.99のとき) k≦n×A+B
(ここで、Aは-0.667以上-0.657以下の定数、Bは0.650以上0.660以下の定数)
・・・(1)
(0.875>nのとき) k≦0.07 ・・・(2)
(10)
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型マスクの製造に用いられる反射型マスクブランクを構成するキャッピング膜の材料を選択する選択方法であって、
前記反射型マスクブランクは、基板と、前記基板上に形成された多層膜と、前記多層膜上に形成され、前記多層膜を保護するキャッピング膜と、前記キャッピング膜上に形成された吸収膜とを少なくとも備え、
前記吸収膜形成前の前記キャッピング膜の極端紫外光反射率が62%以上となるように、且つ前記キャッピング膜の膜厚に対する前記反射率の変動が1%以下となるように、前記キャッピング膜を、極端紫外光における屈折率をn、消衰係数をkとしたとき、下記式(1)または(2)を満たす元素からなる1種類以上の材料で形成することを特徴とする反射型マスクブランクを構成するキャッピング膜の材料選択方法。
(0.875≦n≦0.99のとき) k≦n×A+B
(ここで、Aは-0.667以上-0.657以下の定数、Bは0.650以上0.660以下の定数)
・・・(1)
(0.875>nのとき) k≦0.07 ・・・(2)
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明では、反射型マスクブランクの各組成、各膜厚、及び各層構造と、これを用いた反射型マスクの各製造工程、及び各条件とを適切な範囲で選択した。そのため、28nm以下のロジック系デバイス、又は30nm以下のメモリ系デバイス製造に対応した、微細なパターンを高精度で形成した透過型マスク、及び反射型マスクを提供することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 基板
2 多層膜
3 キャッピング膜
4 吸収膜
4a 吸収パターン膜
5 レジストパターン
6 裏面導電膜
10 反射型マスクブランク
20 反射型マスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8