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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118660
(43)【公開日】2024-09-02
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/38 20060101AFI20240826BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
F16C33/38
F16C19/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025058
(22)【出願日】2023-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國廣 賢治
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA44
3J701DA14
3J701EA31
3J701FA01
3J701GA31
(57)【要約】
【課題】高速性に優れ、かつ、低回転数域で異音が発生しにくい玉軸受を提供する。
【解決手段】玉軸受10は、内輪20と、外輪30と、内輪20及び外輪30の間に設けられる複数の玉40と、軸方向一方側に設けられる第1環状体51と、軸方向他方側に設けられる第2環状体52と、第1環状体51と第2環状体52とを繋ぐ複数の柱53と、第1環状体51、第2環状体52、及び柱53によって囲まれ玉40を収容する複数のポケット54と、を有する保持器50と、を備え、保持器50が、内輪20又は外輪30の回転数が第1回転数R1以下である場合に、玉40によって案内される第1の形態K1となり、内輪20又は外輪30の回転数が第1回転数R1に比べて高回転の第2回転数R2以上である場合に、外輪30によって案内される第2の形態K2となる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、
外輪と、
前記内輪及び前記外輪の間に設けられる複数の玉と、
軸方向一方側に設けられる第1環状体と、軸方向他方側に設けられる第2環状体と、前記第1環状体と前記第2環状体とを繋ぐ複数の柱と、前記第1環状体、前記第2環状体、及び前記柱によって囲まれ前記玉を収容する複数のポケットと、を有する保持器と、を備え、
前記保持器が、
前記内輪又は前記外輪の回転数が所定の第1回転数以下である場合に、前記玉によって案内される第1の形態となり、かつ、前記内輪又は前記外輪の回転数が前記所定の第1回転数に比べて高回転の第2回転数以上である場合に、前記外輪によって案内される第2の形態となる、玉軸受。
【請求項2】
前記第2環状体の外径が、前記第1環状体の外径に比べて大きい、請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記第2環状体が、
径方向外側から前記玉に接触可能な玉案内部と、
径方向内側から前記外輪に接触可能な外輪案内部と、を備える、請求項2に記載の玉軸受。
【請求項4】
前記保持器が、
前記第2環状体の外周面において、軸方向に延びて前記第2環状体の軸方向他端部と前記ポケットとを連通する溝部を備える、請求項2又は請求項3に記載の玉軸受。
【請求項5】
前記第1環状体の外径及び前記第2環状体の外径が同じであり、
前記第1環状体及び前記第2環状体が、径方向外側から前記玉に接触可能な玉案内部を備え、
前記第1環状体及び前記第2環状体の少なくとも何れか一方が、径方向内側から前記外輪に接触可能な外輪案内部を備える、請求項1に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
玉軸受は、工作機械の主軸支持用など、種々の用途に用いられる。例えば、玉軸受としては、内輪、外輪、玉、及び保持器等を備えたアンギュラ玉軸受がある(例えば、特許文献1参照)。従来の玉軸受に用いられる保持器は、玉又は外輪によって案内される。
【0003】
図8Aには、第1の形態に係る従来の玉軸受100(以下、第1玉軸受101とも称する)を示している。第1玉軸受101は、アンギュラ玉軸受であり、内輪110と、外輪120と、内輪110と外輪120との間に転動可能に配置された玉130と、玉130を保持する保持器140とを備える。保持器140は、第1環状体141及び第2環状体142と、第1環状体141及び第2環状体142を繋ぐ複数の柱143とを備える。第1環状体141及び第2環状体142と、複数の柱143との間には、玉130を収容するためのポケット144が形成されている。第1玉軸受101は、ポケット144の内周面(案内部145,146)が玉130に接触し、玉130によって保持器140の回転が案内される玉案内タイプの玉軸受である。
【0004】
図8Bには、第2の形態に係る従来の玉軸受100(以下、第2玉軸受102とも称する)を示している。第2玉軸受102は、アンギュラ玉軸受であり、内輪110と、外輪120と、内輪110と外輪120との間に転動可能に配置された玉130と、玉130を保持する保持器150とを備える。保持器150は、第1環状体151及び第2環状体152と、第1環状体151及び第2環状体152を繋ぐ複数の柱153とを備える。第1環状体151及び第2環状体152と、複数の柱153との間には、玉130を収容するためのポケット154が形成されている。第2玉軸受102は、保持器150の外周面(案内部155)が外輪120の内周面に接触し、外輪120によって保持器150の回転が案内される外輪案内タイプの玉軸受である。
【0005】
玉案内タイプの玉軸受(前記第1玉軸受101)は、軸の回転数の大小に関わらず(つまり、全回転数域において)異音が発生しにくいが、軸が高回転になるほど昇温及び損傷が生じやすくなるという性質がある。一方、外輪案内タイプの玉軸受(前記第2玉軸受102)は、軸が低回転である場合に異音が発生しやすいが、軸の回転数の大小に関わらず(つまり、高回転数域においても)昇温及び損傷が生じにくい(以下、「高速性に優れる」ともいう)という性質がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-176685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の玉軸受は、異音発生の抑制と、高回転数域における昇温及び損傷の抑制とを両立させることが困難であった。
【0008】
本発明は、高速性に優れ、かつ、低回転数域で異音が発生しにくい玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本開示の玉軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に設けられる複数の玉と、軸方向一方側に設けられる第1環状体と、軸方向他方側に設けられる第2環状体と、前記第1環状体と前記第2環状体とを繋ぐ複数の柱と、前記第1環状体、前記第2環状体、及び前記柱によって囲まれ前記玉を収容する複数のポケットと、を有する保持器と、を備え、前記保持器が、前記内輪又は前記外輪の回転数が所定の第1回転数以下である場合に、前記玉によって案内される第1の形態となり、かつ、前記内輪又は前記外輪の回転数が前記所定の第1回転数に比べて高回転の第2回転数以上である場合に、前記外輪によって案内される第2の形態となる。
【0010】
前記玉軸受によれば、内輪又は外輪の回転数が所定の第1回転数以下である場合には、玉案内タイプの軸受として機能し、かつ、内輪又は外輪の回転数が所定の第2回転数以上である場合には、外輪案内タイプの軸受として機能する。このため、本開示の玉軸受は、低回転数域において異音の発生を抑制しつつ、高回転数域において昇温及び損傷を抑制することができる。このため、本開示の玉軸受によれば、高速性に優れ、かつ、低回転数域で異音が発生しにくい玉軸受を提供することができる。
【0011】
(2)本開示の玉軸受は、前記(1)の構成において、前記第2環状体の外径が、前記第1環状体の外径に比べて大きいと好ましい。
本開示の玉軸受は、保持器を椀型保持器とすることによって、大径側の第2環状体のみが外輪に接触することとなり、当該玉軸受によって支持する軸のトルク変動を抑制することができる。
【0012】
(3)本開示の玉軸受は、前記(2)の構成において、前記第2環状体が、径方向外側から前記玉に接触可能な玉案内部と、径方向内側から前記外輪に接触可能な外輪案内部と、を備えると好ましい。
この構成によれば、内輪又は外輪の回転数に応じて、低回転数域では玉案内タイプの軸受として機能させ、高回転数域では外輪案内タイプの軸受として機能させることができる。
【0013】
(4)本開示の玉軸受は、前記(2)又は(3)の構成において、前記保持器が、前記第2環状体の外周面において、軸方向に延びて前記第2環状体の軸方向他端部と前記ポケットとを連通する溝部を備えると好ましい。
この構成によれば、保持器及び玉に対して、潤滑油をより安定して供給することが可能となる。
【0014】
(5)本開示の玉軸受は、前記(1)の構成において、前記第1環状体の外径及び前記第2環状体の外径が同じであり、前記第1環状体及び前記第2環状体が、径方向外側から前記玉に接触可能な玉案内部を備え、前記第1環状体及び前記第2環状体の少なくとも何れか一方が、径方向内側から前記外輪に接触可能な外輪案内部を備えると好ましい。
この構成によれば、内輪又は外輪の回転数に応じて、低回転数域では玉案内タイプの軸受として機能させ、高回転数域では外輪案内タイプの軸受として機能させることができる。
【0015】
本開示によれば、高速性に優れ、かつ、低回転数域で異音が発生しにくい玉軸受を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の一実施形態に係る玉軸受の中心軸を含む位置における断面図である。
図2】保持器と玉の関係の説明図である。
図3】中心軸を含む位置における玉軸受の部分断面図である。
図4】保持器を示す斜視図である。
図5】保持器が第1の形態である場合の玉軸受の部分断面図である。
図6】保持器が第2の形態である場合の玉軸受の部分断面図である。
図7】本開示の玉軸受の変形例を示す断面図である。
図8A】第1の形態に係る従来の玉軸受を示す断面図である。
図8B】第2の形態に係る従来の玉軸受を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[玉軸受の全体構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る玉軸受の中心軸を含む位置における断面図である。図1に示す本実施形態の玉軸受10は、例えば、マシニングセンター、NC旋盤等の工作機械の主軸支持用として用いられるアンギュラ玉軸受である。図1に示すように、玉軸受10は、内輪20、外輪30、複数の玉40、及び保持器50を備えている。なお、本明細書においては、玉軸受10の中心軸を、中心軸Cと規定する。本明細書において、単に「軸方向」、「径方向」、又は「周方向」というときは、玉軸受10(内輪20、外輪30、又は保持器50)の軸方向、径方向、又は周方向を意味する。
【0018】
内輪20は、工作機械の主軸等に外嵌固定される円環状の部材である。内輪20の外周には、円弧状の軌道(軌道溝)21が形成されている。
【0019】
外輪30は、ハウジング等に内嵌固定される部材である。外輪30の内周には、軌道31が形成されている。軌道31の軸方向一方側には、カウンタボア32が隣接して形成されている。軌道31の軸方向他方側には、肩部33が隣接して形成されている。カウンタボア32は、肩部33よりも内径が大きい。
【0020】
複数の玉40は、内輪20の軌道21と外輪30の軌道31との間に周方向に間隔をあけて配置され、両軌道21,31上を転動する。また、玉40は、各軌道21,31に対して接触角を有して接触し、アキシアル荷重及びラジアル荷重の双方を受けることができる。
【0021】
図2は、保持器と玉の関係の説明図である。図3は、中心軸を含む位置における玉軸受の部分断面図である。図4は、保持器を示す斜視図である。図1図4に示すように、保持器50は、円環状に形成され、複数の玉40の周方向の間隔を保持する。保持器50は、樹脂材料により形成されている。保持器50は、軸方向一方側の第1環状体51と、軸方向他方側の第2環状体52と、柱53とを有する。保持器50は、例えば、射出成形により製造される。
【0022】
第1環状体51及び第2環状体52は、軸方向に間隔をあけて設けられる。柱53は、第1環状体51及び第2環状体52の間に架け渡されている。柱53は、周方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0023】
第1環状体51及び第2環状体52と、複数の柱53との間には、玉40を収容するためのポケット54が形成されている。図4に示すように、ポケット54は、周方向に間隔をあけて複数形成されている。保持器50を径方向外側からみたとき、ポケット54は、円形状に形成されている。なお、図2は、玉40が、ポケット54の基準位置に位置する基準状態を示している。前記基準状態において、玉40の中心P1は、ポケット54の中心P2に一致する。
【0024】
図1に示すように、保持器50は、第1環状体51の外径φA1に比べて第2環状体52の外径φB1が大きい。本実施形態の保持器50は、いわゆる椀形保持器である。
【0025】
図3及び図4に示すように、保持器50は、第2環状体52の軸方向内側に玉案内部56が形成されている。玉案内部56は、玉40の表面41の曲率と略同一の曲率を有する曲面を有する。本説明では、玉案内部56の曲面の中心を、ポケット54の中心P2と規定する。保持器50は、玉案内部56が、玉40の表面41と摺接可能となっている。これにより、保持器50は玉40によって径方向について位置決めされ、径方向の振れが抑制される。つまり、本実施形態の玉軸受10は、保持器50の回転が玉40により案内されるタイプ(玉案内タイプ)の玉軸受の特徴を備える。なお、保持器50は、第1環状体51の軸方向内側に内周面57が形成されている。内周面57は、径方向に平行な軸を中心とした一定の曲率を有する曲面である。
【0026】
保持器50は、第2環状体52の径方向外側の外周面(以下、外輪案内部55という)が、外輪30の肩部33の内周面と摺接可能となっている。これにより、保持器50は外輪30によって径方向について位置決めされ、径方向の振れが抑制される。つまり、本実施形態の玉軸受10は、保持器50の回転が外輪30により案内されるタイプ(外輪案内タイプ)の軸受の特徴を備える。
【0027】
以上説明したように、本開示の玉軸受10は、保持器50を備えることによって、外輪案内タイプの玉軸受の特徴と、玉案内タイプの玉軸受の特徴とを併せ持っている。
【0028】
保持器50は、さらに、第2環状体52の外輪案内部55に形成された溝部58を備える。溝部58は、第2環状体52の軸方向他方側の端面からポケット54まで軸方向に延びて形成されており、第2環状体52の軸方向端部とポケット54とを連通する。溝部58は、グリース溜まりとして機能する。溝部58は、ポケット54ごとに(即ち、ポケット54の個数と同数)設けると好ましく、周方向におけるポケット54の位相に併せて等配に設けるとより好ましい。玉軸受10は、溝部58を備えることによって、外輪案内部55にグリースを保持するとともに、玉40に対して潤滑油をより安定して供給することが可能となり、その結果、外輪案内部55及び玉40の潤滑性を向上させることができる。なお、本開示の玉軸受10は、溝部58を省略してもよい。
【0029】
[玉軸受における第1隙間及び第2隙間]
図3に示すように、本開示の玉軸受10は、外輪3の肩部33と、第2環状体52の外輪案内部55との間の径方向の隙間を、第1隙間D1として規定する。本開示の玉軸受10は、玉40の表面41と、第2環状体52の玉案内部56における基準位置59との間の径方向の隙間を、第2隙間D2として規定する。
【0030】
基準位置59は、ポケット54の中心P2に玉40の中心P1が一致している基準状態(図2参照)から保持器50が径方向内側に変位した場合に、表面41と最初に接触する玉案内部56上の位置である。なお、図3(及び後で説明する図5及び図6)では、軸方向における玉案内部56の最も一方側の位置を基準位置59としているが、基準位置59は玉案内部56上の位置であればよく、本実施形態で例示する位置に限定されない。
【0031】
[保持器の第1の形態及び第2の形態について]
図5は、保持器が第1の形態である場合の玉軸受の部分断面図である。図6は、保持器が第2の形態である場合の玉軸受の部分断面図である。図5及び図6に示すように、本開示の玉軸受10において、保持器50は、内輪20に嵌合する軸(図示せず)の回転数に応じて変形する。つまり、保持器50は、前記軸の回転数が大きくなるほど遠心力の作用によって変形(拡径)され、前記軸の回転数が所定の回転数以下であれば、所定の形状(拡径されていない形状)となる。本開示の玉軸受10は、保持器50の形態について、第1の形態K1(図5参照)及び第2の形態K2(図6参照)を規定する。
【0032】
図5に示す第1の形態K1は、内輪20に嵌合する軸(図示せず)の回転数が0から所定の第1回転数R1以下の範囲(以下、低回転数域ともいう)にある場合の保持器50の形態である。図6に示す第2の形態K2は、内輪20に嵌合する軸(図示せず)の回転数が所定の第2回転数R2以上(以下、高回転数域ともいう)である場合の保持器50の形態である。
【0033】
図5に示すように、本開示の玉軸受10は、内輪20に嵌合する軸(図示せず)の回転数が0から第1回転数R1以下の低回転数域にある場合、第1隙間D1が第2隙間D2に比べて大きくなる。換言すると、第1隙間D1が第2隙間D2に比べて大きくなる場合の保持器50の形態が、第1の形態K1である。
【0034】
図6に示すように、本開示の玉軸受10は、内輪20に嵌合する軸(図示せず)の回転数が第2回転数R2以上の高回転数域にある場合、第2隙間D2が第1隙間D1に比べて大きくなる。換言すると、第2隙間D2が第1隙間D1に比べて大きくなる場合の保持器50の形態が、第2の形態K2である。
【0035】
なお、本開示の玉軸受10は、内輪20に嵌合する軸(図示せず)の回転数が第1回転数R1を超え、かつ、第2回転数R2未満の回転数域(以下、中回転数域ともいう)にある場合、第1隙間D1及び第2隙間D2の大小関係が不定となる。このため、本開示の玉軸受10は、前記軸(図示せず)の回転数が中回転数域にある場合、保持器50の形態は、第1の形態K1、第2の形態K2、及び第1隙間D1及び第2隙間D2が等しい第3の形態(図示せず)の何れかとなる。なお、本開示の玉軸受10は、内輪20に嵌合する軸(図示せず)の回転数が中回転数域にある場合、異音の発生、及び、昇温及び損傷の発生という問題が生じる可能性が低い。
【0036】
図5に示すように、第1の形態K1である場合、保持器50は、玉案内部56が玉40(表面41)によって案内される。換言すると、保持器50は、第1の形態K1において、玉40により案内されるタイプ(玉案内タイプ)の保持器として機能する。このため、本開示の玉軸受10は、前記軸の回転数が0から第1回転数R1以下の低回転数域にある場合、玉案内タイプの玉軸受として機能する。
【0037】
図6に示すように、第2の形態K2である場合、保持器50は、外輪案内部55が外輪30の肩部33によって案内される。換言すると、保持器50は、第2の形態K2において、外輪30により案内されるタイプ(外輪案内タイプ)の保持器として機能する。このため、本開示の玉軸受10は、前記軸の回転数が第2回転数R2以上の高回転数域にある場合、外輪案内タイプの玉軸受として機能する。
【0038】
本開示の玉軸受10は、内輪20に嵌合する軸(図示せず)の回転数が低回転数域(0から第1回転数R1以下の範囲)にある場合には、玉案内タイプの玉軸受10として機能するため、異音の発生を抑制することができ、かつ、前記軸(図示せず)の回転数が高回転数域(第2回転数R2以上)にある場合には、外輪案内タイプの玉軸受10として機能するため、高回転数域における昇温及び損傷の発生を抑制することができる。以上に説明した通り、本開示の玉軸受10は、外輪案内タイプの玉軸受の特徴と、玉案内タイプの玉軸受の特徴とを併せ持っており、軸の回転数に応じて各特徴を有する形態に切り替えることができる。このため、本開示の玉軸受10は、高速性に優れ、かつ、低回転数域で異音が発生しにくい。なお、本実施形態では、アンギュラ玉軸受である玉軸受10を例示したが、本開示の玉軸受10は、アンギュラ玉軸受に限定されず、例えば、深溝玉軸受等であってもよい。
【0039】
[玉軸受の変形例]
図7は、本開示の玉軸受の変形例を示す断面図である。本実施形態の玉軸受10は、例えば、図7に示すように、保持器60を備える構成であってもよい。なお、図7に示す玉軸受10は、保持器60以外の構成については、図1に示す玉軸受10と共通しており、共通する部位には同じ符号を付している。
【0040】
図7に示すように、保持器60は、円環状に形成され、複数の玉40の周方向の間隔を保持する。保持器60は、樹脂材料により形成されている。保持器60は、軸方向一方側の第1環状体61と、軸方向他方側の第2環状体62と、柱63とを有する。保持器60は、第1環状体61の外径φA2と第2環状体62の外径φB2とが同一である。つまり、保持器60は、略円筒状の形態を有する。
【0041】
第1環状体61及び第2環状体62は、軸方向に間隔をあけて設けられる。柱63は、第1環状体61及び第2環状体62の間に架け渡されている。柱63は、周方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0042】
第1環状体61及び第2環状体62と、複数の柱63との間には、玉40を収容するためのポケット64が形成されている。ポケット64は、周方向に間隔をあけて複数形成されている。保持器60を径方向外側からみたとき、ポケット64は、円形状に形成されている。
【0043】
保持器60は、第1環状体61の軸方向内側に第1の玉案内部66が形成され、第2環状体62の軸方向内側に第2の玉案内部67が形成されている。保持器60は、各玉案内部66,67が、玉40の表面41と摺接可能となっている。これにより、保持器60は玉40によって径方向について位置決めされ、径方向の振れが抑制される。つまり、本実施形態の玉軸受10は、保持器60の回転が玉40により案内されるタイプ(玉案内タイプ)の軸受の特徴を備える。
【0044】
保持器60は、第2環状体62の外周面が外輪案内部65となっており、外輪30の内周面(肩部33)と摺接可能となっている。これにより、保持器60は外輪30によって径方向について位置決めされ、径方向の振れが抑制される。つまり、本実施形態の玉軸受10は、保持器60の回転が外輪30により案内されるタイプ(外輪案内タイプ)の軸受の特徴を備える。なお、本実施形態では、第2環状体62のみが外輪案内部65を備える構成を例示しているが、外輪30が軌道31を挟んだ軸方向両側に肩部を有する形状である場合には、第1環状体61の外周面を外輪案内部として利用してもよい。
【0045】
保持器60は、内輪20に嵌合する軸(図示せず)の回転数が0から第1回転数R1以下の低回転数域にある場合、各玉案内部66,67が玉40によって案内される第1の形態となり、かつ、内輪20に嵌合する軸(図示せず)の回転数が第2回転数R2以上の高回転数域にある場合、外輪案内部65が外輪30(肩部33)によって案内される第2の形態となる。保持器60を有する玉軸受10は、前記軸の回転数が0から第1回転数R1以下の低回転数域にある場合、玉案内タイプの玉軸受として機能し、かつ、前記軸の回転数が第2回転数R2以上の高回転数域にある場合、外輪案内タイプの玉軸受として機能する。
【0046】
以上に説明した通り、図7に示す玉軸受10の変形例は、外輪案内タイプの玉軸受の特徴と、玉案内タイプの玉軸受の特徴とを併せ持っており、軸の回転数に応じて各特徴を有する形態に切り替えることができる。このように、本開示の玉軸受10は、椀形保持器(保持器50、図1参照)を備える構成には限定されず、例えば、円筒形の保持器60を備える構成であってもよい。
【0047】
[本実施形態の作用及び効果]
(1)本実施形態の玉軸受10は、内輪20と、外輪30と、内輪20及び外輪30の間に設けられる複数の玉40と、軸方向一方側に設けられる第1環状体51と、軸方向他方側に設けられる第2環状体52と、第1環状体51と第2環状体52とを繋ぐ複数の柱53と、第1環状体51、第2環状体52、及び柱53によって囲まれ玉40を収容する複数のポケット54と、を有する保持器50と、を備える。玉軸受10は、保持器50が、内輪20又は外輪30の回転数が所定の第1回転数R1以下である場合に、玉40によって案内される第1の形態K1となり、内輪20又は外輪30の回転数が第1回転数R1に比べて高回転の第2回転数R2以上である場合に、外輪30によって案内される第2の形態K2となる。
【0048】
このような構成の玉軸受10によれば、内輪20又は外輪30の回転数が第1回転数R1以下である場合には、玉案内タイプの軸受として機能して、異音の発生を抑制し、内輪20又は外輪30の回転数が所定の第2回転数R2以上である場合には、外輪案内タイプの軸受として機能して、異音の発生を抑制しつつ、昇温及び損傷を抑制することができる。これにより、高速性に優れ、かつ、低回転数域で異音が発生しにくい玉軸受10を提供することができる。
【0049】
(2)本実施形態の玉軸受10は、第2環状体52の外径φB1が、第1環状体51の外径φA1に比べて大きい。
この場合の保持器50は、椀形保持器と称される。玉軸受10は、保持器50を椀形保持器とすることによって、大径側の第2環状体52のみが外輪30に接触することとなり、玉軸受10によって支持する軸(図示せず)のトルク変動を抑制することができる。
【0050】
(3)本実施形態の玉軸受10(図1参照)は、第2環状体52が、径方向外側から玉40に接触可能な玉案内部56と、径方向内側から外輪30に接触可能な外輪案内部55と、を備える。
この構成によれば、内輪20又は外輪30の回転数に応じて、低回転数域では玉案内タイプの軸受として機能させ、高回転数域では外輪案内タイプの軸受として、玉軸受10を機能させることが可能となる。
【0051】
(4)本実施形態の玉軸受10は、保持器50が、第2環状体52の外輪案内部55(外周面)において、軸方向に延びて第2環状体52の軸方向他端部とポケット54とを連通する溝部58を備える。
この構成によれば、外輪案内部55及び玉40に対して、潤滑油をより安定して供給することが可能となる。
【0052】
(5)本実施形態の玉軸受10(図7参照)は、第1環状体61の外径φA2及び第2環状体62の外径φB2が同じであり、第1環状体61及び第2環状体62が、径方向外側から玉40に接触可能な玉案内部66,67を備え、第2環状体62が、径方向内側から外輪30に接触可能な外輪案内部65を備える。
この構成によれば、内輪20又は外輪30の回転数に応じて、低回転数域では玉案内タイプの軸受として機能させ、高回転数域では外輪案内タイプの軸受として、玉軸受10を機能させることが可能となる。
【0053】
今回開示した形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0054】
10 玉軸受
20 内輪
30 外輪
33 肩部
40 玉
41 表面
50 保持器
51 第1環状体
52 第2環状体
53 柱
54 ポケット
55 外輪案内部
56 玉案内部
58 溝部
60 保持器
61 第1環状体
62 第2環状体
63 柱
64 ポケット
65 外輪案内部
66 玉案内部
67 玉案内部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B